袁紹の1日 1日目at GAMEHIS
袁紹の1日 1日目 - 暇つぶし2ch158:名無し曰く、
08/09/10 22:26:12 BLY67wz6
しばらく書き込みがないんで、袁紹様への妄想ぶちまけていいですか?

あいまいな眠りの中で 夢見るのはあの町 洛陽
いつか二人で取り戻そうと言っておきながら おまえは私を裏切った
私は一人で北にいる
凍てつく冀州の地で おまえを待っている

董卓討伐連合軍での曹操の単独追撃を未だ根にもつ袁紹様。
放っておくと801に走るかも(袁紹総受)

159:名無し曰く、
08/09/10 23:33:29 M1YguYK4
>>158
スレチですまんが、董卓の単独追撃についでは、袁紹閣下は何とも思ってないはず
むしろ、曹操側が積極的に動かなかった袁紹を恨んでいる感じだと思われ

160:名無し曰く、
08/09/13 23:49:01 Ig+GmmHt
みんなの前で槍ダンスをする袁紹様
文官s「いやあ、勇ましくてお見事です。」
武官s「優雅ですばらしい!」
袁術「さすが妾腹、娼の血筋でポールダンスは大得意ってか。
   いっそのこと脱いで踊ったらもっと人気出るかもYO!」

袁紹「殺す!!」
再び兄弟戦争勃発。

161:名無し曰く、
08/09/14 13:51:44 oeEvCRyg
袁術「本~初・本初・本初 妾の子~♪
         汝南郡汝陽県にや~ってきた~♪」

162:名無し曰く、
08/09/15 18:34:24 CnyJ2bbs
袁紹「おのれ袁術
   私が勝ったら虫歯にタバスコをつめてくれる・・・」

紀霊「わわわ、袁術様の虫歯は何本あるか数えきれぬ!!」
袁術「おーい、はちみつが足らんぞー」

163:名無し曰く、
08/09/16 05:57:31 eWm2vX7F
偽帝ワロタ

164:名無し曰く、
08/09/17 21:18:31 +2HQnN36
逢紀「袁術様、蜂蜜をご所望とのこと。
こちら我が主よりの贈り物、高級蜂蜜でございます。」
つ『蜂蜜(タバスコわさび入り)』

165:名無し曰く、
08/09/17 22:50:59 /I2AdMIb
沮授「とりあえず袁術領の蜜蜂を壊滅させるか。
   何かいい殺虫剤でもないかな?」
審配「えげつない毒系ならいい奴知ってるよ。」

董卓軍を訪ねる二人
李儒「殺虫剤ですと、生ぬるい!!
   そんなものは天敵のスズメバチを放てばよいのです!
   人も含めて被害甚大ですよ・・・くくく!」
沮授・審配(悪魔だこいつ)
そうして袁術領にスズメバチが大量に放たれた。

166:名無し曰く、
08/09/17 23:21:56 tkvgujlw
止めろよw

167:名無し曰く、
08/09/18 00:50:10 b0nEd6dQ
しかし蜂は蜂蜜製造機、領民は税金製造機と
全て一括りの認識である袁術はスズメバチを大きめの蜜蜂と勘違いし
沢山の蜂が来たことを大層喜んだという。
袁術「見よ張勲!朕のために蜂さんがいっぱい来てくれたぞー!」
張勲「はいはいそれはようございましたなぁ。」

168:名無し曰く、
08/09/19 03:32:12 M2PHTWd2
プーさんも喜ぶお(´・ω・`)

169:名無し曰く、
08/09/19 22:04:56 N3oo2rYi
紀霊の養蜂箱はあっという間にスズメバチの巣になった。
「何か巣の形が違うような・・・」

170:名無し曰く、
08/09/21 16:41:50 mPcCGbtm
「なんじゃこりゃ~!!」
袁術も声が裏返った。

171:名無し曰く、
08/09/21 19:42:36 0w0bbLcs
袁紹「ときに逢紀、例のタバスコ蜂蜜は成功したのか?」
逢紀「袁術はあれを大事にしまってございました・・・
   今回のスズメバチ作戦で蜂蜜が枯渇すれば食べるものと思われます。」

そして、そのふたが今開かれようとしていた・・・

172:名無し曰く、
08/09/21 22:46:54 2fhzYkA0
なんと中身はいなり寿司二個分の巨大スズメバチだった!

173:名無し曰く、
08/09/22 19:34:18 HK0E0hWk
紀霊「ははは逢紀め!詰めが甘かったな!
あんな色の蜂蜜がこの世にあるものか!
この紀霊が袁術様に害が及ぶ前に中身を変えさせてもらったぞ!」

袁術「ぎゃああああああ」

張勲「あぁっ!袁術様がぁーっ!!」

174:名無し曰く、
08/09/25 10:19:54 eD07gyMA
いなり寿司スズメバチは仲間を呼んだ
なんと!
いなり寿司スズメバチBが現れた
いなり寿司スズメバチCが現れた
いなり寿司スズメバチDが現れた
いなり寿司スズメバチEが現れた



ダイナマイト四国が現れた!

175:名無し曰く、
08/09/26 00:28:27 LLpTqwPz
    ∧_∧
    (゚∀゚  )ー┐ しっこくしっこく!
    しヽ   し′
    彡 >  彡)
      /  / /
     (_(__)
    ∧_∧
 ┌ー(  ゚∀゚)しっこくしっこく!
  丶J   /J
   ( ミ   < ミ
   丶 丶 丶
   (__)_)

176:名無し曰く、
08/09/28 16:23:51 K4rq3G6B
袁術は宮中を逃げ惑った!
「きゃあああ!!」側室Aが刺された
「いやあああ!!」側室Bが刺された
「ああーん!!」侍女Cが刺された

袁術「なぜ蜂はわしを追ってくるのじゃ~?」
答:蜂蜜のにおいが体にしみついてるから。

177:名無し曰く、
08/09/28 17:01:36 LwQvV94G
前には李濡の放ったスズメバチ
後ろからは寿司スズメバチが迫る
袁術、まさに絶体絶命

178:名無し曰く、
08/10/08 22:10:26 9BOn1Tzo
袁術「ぎゃああああーーー!!!」

袁術の尻は無残に腫れ上がってしまった。
雷薄「桃っぽいし、河にでも流すか・・・。
   おれも袁紹様に寝返ろうかな。ここよりは金くれそうだし。」

179:名無し曰く、
08/10/11 20:01:03 +CkYJs6a
袁紹軍に袁術軍の3流武将が大量に投降してきた。
張勲「とりあえず金くれ。」
雷薄「うっひょー豊かで略奪し放題だぜ!」

袁紹「こ、こいつら・・・いらぬにも程がある。
   そうだ、劉備にでも押し付けて追い出そう!」

180:名無し曰く、
08/10/11 20:09:30 p3ogBLuV
雷薄「ふぅ……無能を装うのも楽じゃないぜ」

181:名無し曰く、
08/10/11 23:16:11 2A8UxR/E
劉備(袁紹殿は俺に役立たずを押し付けて追い出すつもりらしい。
だが今の雑用するだけの、3食昼寝付き楽々生活を失いたくない!)

182:名無し曰く、
08/10/12 10:03:40 8e56ft3/
sage

183:名無し曰く、
08/10/25 10:16:31 OzJWomtD
楊奉「何だよここ、文官ばっかでウゼェんだよ!」
文官ズ(こいつら・・・総力結集して追い出す!だめなら殺す!!)

袁紹軍の雰囲気が悪くなった。
文官の内部抗争が一時停戦した。

184:名無し曰く、
08/11/06 13:01:17 GhECQ6Od
想いの丈を夕焼けに向かって叫ぶ袁紹。
袁紹「本当はP子より御杉が好きなんだ。」

185:名無し曰く、
08/11/06 15:15:20 u6kW1blc
顔良「やらないか?」

186:名無し曰く、
08/11/17 20:39:38 62dsSlGo
関羽「そんな、こ・ま・り・ま・すッ♪」

187:名無し曰く、
08/11/21 06:53:59 v2TzHxDE
袁紹「げぇ、関羽!!」

188:名無し曰く、
09/01/09 20:46:16 Tt1z96nN
田豊「過疎化したこのスレに手をさしのべてくれる者はいませんか?」

189:名無し曰く、
09/01/09 21:13:56 bpbPu3q7
馬岱「ここにいr…………い、いやゴホン!ゴホン!…何でもないよ!
   じゃあ帰るね!」

馬岱は帰っていった

190:名無し曰く、
09/01/12 19:54:53 XypOxP+j
そのころ袁術は、過疎をいいことに蜂蜜をなめていた
袁術「蜂蜜(゚д゚)ウマー」

191:名無し曰く、
09/01/17 21:53:57 EIGup7v6
袁譚「はっぴぃバレンタイン!
   父上には高級チョコを、元袁術軍のウザいやつらには失敗作を送るぞ~!」

192:名無し曰く、
09/01/18 15:45:01 uUGXxcbp
袁尚「早すぎるだろアホ兄貴。だが袁術の馬鹿叔父に糞チョコを贈るのは賛成。
失敗作なんてしょぼい事言わずにどうせなら毒混ぜて暗殺しちゃおうぜ。父上もきっと喜んでくれる!」

193:名無し曰く、
09/01/19 20:48:18 RTHx8EI5
袁熙「そーいえば、毎年この時期になるとシンキがいなくなって良かったって思うなあ。
   彼女の失敗チョコは毎回すさまじいから・・・
   曹丕はあれ、食べるんだろうか?」

194:名無し曰く、
09/01/22 07:47:33 HMZMVvWa
曹丕「ふ、そんなだから簡単に女に見限られるのだ。
お前と違って私は甄が作った物ならなんだって食べ…うぐっうぼげぇぇっ…!」
もうすでに甄姫が作った何かの失敗作を食べてしまったようだ。

195:名無し曰く、
09/01/22 10:49:45 N40pV7j+
曹丕「ちょっ…この肉何!?」
甄姫「ほら、レバーの臭みをとるには牛乳に漬けるっていいますでしょう」
曹丕「……どれだけ漬けたんだ?」
甄姫「1ヶ月(はあと)」

196:名無し曰く、
09/01/22 11:38:25 YZ7OhRHr
魏国文帝曹子桓之墓一一一一一一
……チーン……
南無阿弥陀仏一一一一一一一一一一

197:名無し曰く、
09/01/24 02:59:08 P70LlUBy
袁煕「めでたく嫁泥棒も消えたって事で。
またよりを戻そうか甄姫。」

198:名無し曰く、
09/01/29 21:55:51 sE5XErtb
甄姫「まあ、わたくしのチョコを食べてくださるなら・・・。」
袁煕「きっと食べてくれる人はいるよ。
私には君が必要なんだ。」

食べてくれる人・・・袁術とか、元袁術配下とか、劉備とか。

199:名無し曰く、
09/01/30 20:59:59 u9hLqWkQ
甄姫「結局チョコは食べてくださらないのね…。
万一と思って、袁煕様のために作って参りましたのに…。(しゅん)」
袁煕「え゛、い、いやいやチョコなんて気持ちだけで充分さ。
私は甄姫がこうして無事帰ってきてくれただけで嬉しいのだから。
さぁチョコはその辺に置いて今日は宴にしよう。甄が帰ってきたお祝いだ。」(デレデレ)
甄姫「ふふふ、相変わらず可愛いらしいお方。私まだ帰るとは申し上げておりませんわよ?」(イチャイチャ)

袁術「お、うまそうなチョコが置いてあるぞ。食べてよいか張勲?」
張勲「どうぞご勝手に。」

200:名無し曰く、
09/01/31 02:16:33 yNBzwKJm
袁術「げゃああぁあぁああぁあぁあああぁああアッーポォぬぅんっなぁんっジュプジュプブゲロビジャビジャ」

袁術「ギャアムぬわウボうごごごごいよいぶるあああああ!!」

雷薄「う、うわあああああああ!!殿が化け物に変化したあああああああああ」

陳蘭「やばい、逃げるぞ雷薄!」

楊弘「この世の終わりか……」

201:名無し曰く、
09/02/01 22:23:23 cgE6xqMo
劉備「やべええ!!これだけは!!
で、でも蜀に戻っても月英のやばいチョコが待ってるし・・・!」

劉備は思案の末、シンキがいなくなったむさ苦しい魏に走った。

202:名無し曰く、
09/02/02 22:14:59 LDS2CCrW
袁紹「何、弟が怪物になって城を破壊しておるだと!?
あんのバカ息子どもめ、私の城を壊す気か!!」

こうしてついに名族の妾腹、袁本初が剣をとった。

203:名無し曰く、
09/02/03 02:09:18 POyGnzmV
袁術「ぐべっwwwぐべっwww」
袁紹「ぐっ……!従弟よ、なんて醜い姿に……!名族の誇りを忘れたか!」
袁術「ちんぽっぽwwwwww」

袁紹「!?」

袁術は口から光線を放った
まっすぐに伸びた光線が袁紹へと迫る

顔良「袁紹様危ない!」
ちゅどーん

袁紹「がっ、顔良おぉぉぉっ!!!!」

204:名無し曰く、
09/02/03 04:08:44 uPrBOulf
もうもうと立ち込める砂煙。袁紹は目を凝らして顔良の姿を必死に探した。

やがて砂煙はうすらぎはじめ仁王立ちの姿のまま浮かび上がった顔良は…。

顔良「はぁー?ちょっとマジMMCー。
本気でこいつパネェウィッシュ!」

ギャル男になっていた。

袁紹「顔黒ーーーーっ?!!!」

205:名無し曰く、
09/02/03 09:50:18 f0+U3nSB
顔良「いいえ、文醜です」

206:名無し曰く、
09/02/06 22:22:58 7XLFteaJ
もはやバイオハザードだ。

207:名無し曰く、
09/02/09 21:51:06 F4KWzEYu
話は少し遡る…

ムスコ共「そろそろチョコレートを作り始めるか。この世に二つとない最悪最凶のチョコレートを…ククッ」

208:名無し曰く、
09/02/11 07:54:24 ypeBeksG
甄姫とエプロンスレから召喚した呂布により、最凶最悪のチョコレートは完成した。

209:名無し曰く、
09/02/11 15:37:42 j6t2F7n+
袁譚「ぶごぉっ・・・こ、これは臭いだけで危険だ。
つーかこんな臭いもんだれも食べねーよ!!」

郭図「ならば、消臭剤をかければようございます。」
ふあっさ~(一見粉砂糖に見える)

袁尚「それは食用なのか?」
郭図「この物体がそもそも食用と思えませぬゆえ・・・もしかして、食用でした?」

210:名無し曰く、
09/02/11 18:50:07 NmjDuPIx
甄姫「食用でしたわ…。袁煕様にとチョコを作っていましたのに
皆様よってたかって変な物をお入れになったり袁術様用のチョコと
私のチョコを混ぜてしまったりするんですもの…ご無体にございますっ。」
袁尚「義姉上大丈夫。義姉上の作った物なら
袁煕兄さんはどんな物体でも喜んで食べますよ。」
甄姫「まぁ、そうかしら…。ならこのまま包んでお渡し致しましょうv」(コロッ)
袁譚「はっはっは、らぶいずおーけー!全ては愛の力だな!」
郭図(他人事だと思って無責任な…。)

211:名無し曰く、
09/02/20 23:35:36 8obZR4Ok
甄姫「さあ、袁煕様!」
袁煕「ひいいぃー!!た、たすけ・・・むぐっ!?う、うぼえぇああrr」

袁煕はあまりのまずさにゾンビ化した。
袁煕「あにうえ~・・・尚~・・・く、口直しに肉~」

212:名無し曰く、
09/02/22 15:32:15 HNtvt5hf
袁譚「実験は成功だ!
一欠けらでこうなんだから、たくさん食わせればきっと最強の生物兵器が・・・
そして父上を葬っておれが君主になるんだ!!」

これが袁術の目の前に置かれたチョコの由来である。

郭図「ま、まずい・・・殿にお知らせせねば。」

213:名無し曰く、
09/03/01 18:32:33 GtyLpt8C
袁紹は文醜を連れて易京楼の跡地に避難した。

214:名無し曰く、
09/03/04 22:39:12 uTMq52X4
郭図「チョコでああなったものを治すには・・・
はっそうか!ホワイトデーのマシュマロを食わせるのだ!!」

215:名無し曰く、
09/03/05 17:34:15 oHRdWzH9
袁譚「よしわかった!俺が作ってやる!」

こねこねこねこねこね…

白いふわふわのマシュマロに
馬糞、虫各種、激辛スパイス等々を混ぜてこね始める袁譚。
白い幸せはみるみるうちにグロテスク且つ赤茶黒く変色していく。

袁譚「完成!これで怪物袁術は元に戻るはずだ。郭図、早く食わせてやれ!」
およそ人間には戻れなさそうな代物が出来上がった。

216:名無し曰く、
09/03/06 23:10:30 jAEI1Zbo
袁尚「旨いよ、コレ。」

217:名無し曰く、
09/04/06 22:15:50 p+MkXAmN
郭図はようやく規制の牢獄から舞い戻って来た。

「はぁ、はぁ、やっとこの身の鎖がほどけました・・・。
殿、遅くなり申し訳ありませぬ。
とりあえず例の物体Xは、子供の日も近いですし、笹にでもくるんで袁煕様で試してみましょう。」

218:名無し曰く、
09/04/07 00:23:19 PQzngeuz
袁譚「あぁ郭図おかえり!でももう笹だけじゃ間に合わねーよー。
俺の作った幸せましまろ袁譚スペシャルは
馬鹿弟が全部食っちゃったぜ。なんかまた他の具を作んないと。
…ちまきって材料ドリアン使うっけ?」
袁尚「う…美味い美味い…まるで天にも昇る心地が…ガフッ!」
袁煕「うわー尚ー!だからお前不味すぎてラリってるだけだって言ったのにー!」

袁尚、袁譚の作った物体Xにより敗走。

219:名無し曰く、
09/04/10 22:29:16 H0zrA57A
逢紀「具が入っているのは柏餅ですぞ。
フツーは小豆のあんを入れるらしいですが。」

辛評「笹は健康に良いのだぞ、わしは毎日熊笹茶を飲んでおる。
そういえば殿、袁術殿にも熊笹茶を飲ませてみてはいかがですかな?
なんと、熊笹茶を売れば売るほど会員が増えて儲かるのです!!」

袁紹「・・・辛評よ、まさかマルチ商法ではあるまいな?」

220:名無し曰く、
09/04/10 23:20:59 JcWuTnCE
万湖「うぃ~、今日も大量大量www」

221:名無し曰く、
09/04/10 23:52:31 vIAS1/KP
袁招「図・に・乗・る・でなーい!!」


222:名無し曰く、
09/04/13 22:10:27 k3Ig1GTK
袁術にかまっているうちに、いつの間にか部下の3割がマルチにからめとられていた!
袁紹軍は経済的に大打撃を受けた!

223:名無し曰く、
09/04/14 21:34:55 dSLh3QSu
袁紹「誰だ軍資金まで使い込みおったのはー?!」ドタバタ

袁尚「うーん。でもこのお茶おいしいなー。
これを混ぜて柏餅を作ればきっと叔父上の良からぬものもジョビジョバなはず…。」
袁煕「よし!じゃあまず餅が必要だな!
煕、兄ちゃんが餅を突くから
煕は熊笹茶を混ぜながら捏ねる役な!」
袁尚「煕兄上の手まで突きたてになるフラグですねわかります。」
袁煕「またそういう役回り…。orz」

そんなこんなで袁家主催・大餅つき大会が始まった。

224:名無し曰く、
09/04/14 21:42:46 dSLh3QSu
失礼、書き込みミス。
袁煕「よし!じゃあまず~
になってるところは
袁譚の台詞に変えてください。orz

225:名無し曰く、
09/04/15 21:54:01 xOVAoWK0
審配「軍資金を使ったのは私ですが、マルチじゃありませんよ。
袁術殿を足止めするために、金の粒と宝石をばらまいたんですよ!
一粒ずつ拾ってるんで、しばらく大丈夫だと思います。」
辛評「命には替えられんからな・・・。」

張勲「袁術様・・・そんな姿になってまで金を欲しがるのですね(泣)」

226:名無し曰く、
09/05/12 21:12:15 lIy+ZnVE
郭図「ああ、規制に耐え切れずモリタポを買ってしまいました。
私、実はゾンビ小説の創作スレでゾンビ・オブ・ザ・官渡を連載し始めまして、
小説がとぎれるのが嫌で金を払ってしまったのですよ。

ゾンビが怖くない御仁はぜひ、読んでみてくだされ。」

227:名無し曰く、
09/05/13 07:28:38 K7UX/dYI
袁譚「ゾンビと俺の出番まだー?(AA略)」
袁煕「率先してゾンビになりたいんですか兄上。
(あれ、そういえば私ゾンビになってたような…。)」
袁尚「俺は全く構わないけどな。にしても郭図のペンネームワロスww」
袁紹「コラお前達!餅つき大会はどうなったのだ!
審配の策が効いているうちに早く…、
…………おぉ、案外面白いな。続きはまだなのか…?」

郭図の小説により餅つき大会延期!袁術接近中!

沮授(終わったなこの国。)

228:名無し曰く、
09/05/13 20:14:41 AzUou124
辛評「規制で子供の日も過ぎてしまいましたが・・・
まあ、とりあえず健康になれそうなものを餅に混ぜてはいかがですかな。」

甄姫:ローヤルゼリー、プロポリス
田豊:アガリクス茸
審配:クロレラ(もちろん吸収しやすいように膜破壊済)
荀シン:ビール酵母

文官は健康食品のオンパレードだ。
武官はいかに!?

229:名無し曰く、
09/05/19 22:08:54 u4ZUzunE
顔良:粉末プロテイン
文醜:まむしドリンク
高覧:イモリの黒焼き

郭図「皆様、都合のいいマルチの在庫処理ですね。
まあでも、これで袁術殿が元に戻れば、有効に使えたことになりましょう。
では、私も大麦若葉を。」

230:名無し曰く、
09/05/26 20:54:58 mt7RswNw
そしてできた餅はドブのように深い緑色をしていた。

231:名無し曰く、
09/05/28 01:00:51 f08Q6fQz
↑の餅を食った袁紹は…

名族の威厳とカリスマに加え、迅速かつ的確な判断力が備わった。
官渡で曹操を破り献帝から皇位を奪い取り、呉も劉備も蹴散らしてしまった。


232:名無し曰く、
09/05/28 06:22:03 1mMbDWr1
審配「私の心配も取り越し苦労のようでした」
袁紹「ププッ!おいみんな審配が心配だってよ」
田豊「・・・・」
沮授「今のスルーで」

233:名無し曰く、
09/06/03 20:34:36 r6qQ05sw
袁紹「朕は国家なり!」

234:名無し曰く、
09/06/07 15:51:35 2M5YAWlm
袁術から取り戻した財宝で、袁家の威光をしめす宮殿を建て始めた。

田豊「もはや我々もブルジョワではない。
我々は貴族になったのだ!」

235:名無し曰く、
09/06/20 12:24:36 Md2OhyF/
曹操「革命!革命!」

236:名無し曰く、
09/07/03 22:28:45 ml1ysvmy
気がついたら、城は霧に没していた。
寒々しく、先の見えぬ霧に・・・

私は、どこかでこの感覚を知っている・・・?

彼は、ぼんやりとそう思った。

237:名無し曰く、
09/07/03 22:33:35 ml1ysvmy
毎日毎日、怯えて過ごしていた。
本当の母と引き離され、継母に邪険にされて育った。

 なるほど、娼婦の腹から生まれたから、紹というのねえ。

明日、何をされるか分からなかった。どんな恐ろしいものが出てくるか、何も見えなかった。

 それでも初めに生まれたから本初だって?
 ふざけるんじゃないわよ!!

頭に響く、ぼんやりとした罵声。
悪夢が、霧の中にこぼれ出る。

238:名無し曰く、
09/07/05 11:05:33 0xewqjsw
袁術「wktkwktk。」

239:名無し曰く、
09/07/05 11:37:35 9bQbBhbd
「私を助けて!」

袁紹は叫んだ、しかし助けてくれる者はいなかった。
みんな、継母の持つ名家の意向を恐れて手を出さなかった。

 継母とはいえ、孝行すれば必ず分かってくれます。
 割り切って、捨扶持だけでももらっとけばいいでしょう。
 こんな家の子に生まれて何が不満なんだ、おまえは外を知らないからそんなわがままを言うんだよ。

きれいごとばかり言って、私の体に刻まれた傷には目もくれずに。

でも、今は私がその名家の威光を着る者になってしまった。

240:名無し曰く、
09/07/05 22:21:58 9bQbBhbd
今こうして怪物に襲われているのは、その罰なんだろうか?

血のような体液を撒き散らすミミズかイモムシの化け物。
貪欲に肉を貪る犬の化け物。
顔面に板を貼り付け、ハリセンボンのように釘を打たれたエプロン姿の化け物。

皆、私が憎いのだ。
疎ましくて、殺したいのだ。

そうすれば、彼らは楽になれるかもしれないから。

241:名無し曰く、
09/07/07 21:08:19 GYlwjPPO
噛まれた瞬間に、彼らの意思が感じられた。

「楽になりたい、楽になっていい、楽になればいい。」

あれ?
体を引き裂かれる、痛み・・・しかし、違和感はほとんどない。
ああ、そうか・・・私はとっくに、引き裂かれていたんだから。

袁紹は白い石畳を赤く染めて、その場に崩れ落ちた。

242:セイレーン
09/07/07 21:15:51 GYlwjPPO
袁紹的悪夢行 第1話 公孫瓚伯珪について

「はぁ、はぁ、何とか助かったか。
しかし、ここはどこだ?」

公孫瓚は一人、霧に包まれた城の中を歩いていた。
部下はおろか、人が一人も見当たらない。


243:セイレーン
09/07/09 19:27:41 ylx51EfT
確か、自分は袁紹軍に攻められて、この易京楼で籠城していたはず。
それからどうなったのか・・・考えようとしても記憶がはっきりしない。
この濃厚な霧のように、肝心なところが思い出せない。

(うーむ分からん、袁紹軍は引き上げたのか?
それにしても、静か過ぎる。)

244:セイレーン
09/07/11 10:58:44 cn6KZkfV
とにかく誰か人を見つけなければ・・・公孫瓚は市街地に向かって歩いた。
しかし、行けども行けども人の姿はない。

「だ、誰かおらぬのかぁ!」

公孫瓚は不安にかられて叫んだ。
その時、霧の向こうにちらりと人影が見えた気がした。

245:セイレーン
09/07/11 22:54:34 cn6KZkfV
「あっおい待て!」

公孫瓚が呼びかけると、その人は立ち止まって振り向いた。
まだ小さな男の子だ。年は、10歳くらいだろうか。

(子供か・・・事情は聞けぬが、放置する訳にもいくまい。)

公孫瓚は少し落胆しながらも、少年を招き寄せた。
それが悪夢の使者であるとも知らずに・・・。

246:セイレーン
09/07/11 23:01:00 cn6KZkfV
袁紹は血と錆と膿にまみれた世界から、それを見ていた。

 ほう、公孫瓚は”私”を見つけたか。

とりあえず、第一段階はクリアした。
子供を放置したり攻撃したりするようでは話しにならない。

 しかし、だからといって望む結果が出るとは限らぬぞ。
 人はたいてい、裏切るものだから。

少年はかすかに憂いを帯びた笑みを浮かべて、公孫瓚に歩み寄った。

247:セイレーン
09/07/12 16:57:04 +vKJ0ySL
「君、何が起こったか分かるかい?」

公孫瓚はありきたりな質問を子供に投げかけた。
少年はこくりと首をかしげる。

「気がついたら、真っ白で・・・。
ねえお侍さん、助けて。犬が追ってくるの。」


248:セイレーン
09/07/14 11:17:59 T6U/bWPy
「犬?」

公孫瓚が耳を澄ますと、確かにどこかで遠吠えのような声が聞こえる。

(おかしいな、籠城のために犬を飼うのは禁止したはずだが・・・?)

公孫瓚は首をかしげた。
家を一軒一軒訪ねさせたのだから、犬は一匹もいないはずなのだが。

249:セイレーン
09/07/17 22:13:32 s+hCYXi9
しかし、いるものは駆除しなければならない。
公孫瓚は未だに日常の考えに囚われていた。

(それに、子供を襲う犬を放ってはおけぬ。)

公孫瓚はちらりとすがってきた少年を見た。
ふしぎな事に、その顔をどこかで知っているような気がした。

250:セイレーン
09/07/18 22:07:08 5o/9g7tf
「おぬし、どこかでわしに会ったことはないか?」

公孫瓚は少年に聞いた。
すると、少年はおかしそうに笑って答えた。

「当たり前だよ、お侍さんはこの城のお殿様だもの。」

民の一人として、どこかで顔を合わせたのかもしれない。
少年が言ったのはそういう意味だろう。

251:セイレーン
09/07/20 22:35:12 v21+VzmU
しかし、公孫瓚はどうも釈然としなかった。
もう少し訊ねてみようと思ったが、その時間は与えられなかった。
すぐ近くで、犬の唸り声が聞こえたのだ。

「む、こっちか!?」

公孫瓚が振り返ると、霧の向こうからのっそりと何かが近寄ってきた。

252:セイレーン
09/07/22 23:22:24 COP/0IZc
霧の向こうに現れた影は、大型犬のものだった。
しかし、その姿は犬とはとても思えなかった。

 皮がびりびりに破れて醜くはげ、赤黒い血肉が露出している。
 しかも体に有刺鉄線が巻きつけられ、根元はなんと目から出ている。
 さらに、普通の犬ではあり得ないような大きな歯をぎらぎらさせている。

明らかに、公孫瓚が思い浮かべた犬ではなかった。

253:セイレーン
09/07/24 21:06:42 X++ewq+e
「助けてぇ!!」

少年が青くなって公孫瓚にしがみつく。
公孫瓚は剣を抜いて、目の前の怪物と対峙した。

(な、何なのだこれは・・・!
このような恐ろしい生き物は、生まれてこのかた見たことがないぞ!!)

254:セイレーン
09/07/26 19:38:01 sI9mVw5o
犬の怪物は不気味な唸り声をたてて公孫瓚に飛び掛った。

「グァオ!!」
「せええい!!」

公孫瓚の振り下ろした剣が怪物の頭を切り裂く。
キャインと情けない声をあげて、怪物は地面に倒れ伏した。

255:セイレーン
09/08/01 14:40:37 sjMlPBsf
体をざっくり切られても、怪物はまだ唸り声を立て、びくびくと蠢いていた。
公孫瓚は怪物を踏みつけ、急いでとどめを刺した。

「な、何なのだこの生き物は・・・!」

公孫瓚は思わずつぶやいた。

自分の城の中に、こんなものがいるのが信じられなかった。
いや、この世にこんなものがいるのが信じられなかった。

256:セイレーン
09/08/05 21:45:16 tzfkVG3W
公孫瓚はなぜこんなものがいるのか必死で考えようとした。
しかし、答が見つかる訳がない。
公孫瓚はこれまでの記憶すらはっきりしないのだ。

確かなのは、袁紹軍に攻められて籠城していたことだけ・・・
それを思い出したとたんに、公孫瓚は一つの答を思いついた。

「そうか、袁紹のしわざか・・・!」

257:セイレーン
09/08/06 19:43:45 QLsU8Fw8
思えば、袁紹は悪辣な男だ。
あの男なら、身の毛がよだつような生き物を放つような暴挙に出てもおかしくない。

(つまり、袁紹はこいつを何らかの方法で城内に放ち、
住民はそれを恐れて避難したか袁紹に降ってしまったと。
・・・なんとひどい男だ!!)

公孫瓚は一瞬でそう決め付けて、憤怒にかられた。

258:セイレーン
09/08/08 11:33:42 4zizK2XC
袁紹は血と膿と錆にまみれた世界で、少し顔をしかめた。
全部が正解ではないが、あまり間違ってはいないことが腹立たしかった。

 ふん、まさかあのような愚かな男に気付かれるとはな。
 偶然とはいえ、気分が悪い。

自分がこの世界に何をしたか、袁紹にもそれは分かっていた。

259:セイレーン
09/08/13 21:21:05 gpsWKIjg
袁紹の感情の揺れに反応したのか、公孫瓚のそばで少年が泣き出した。

「うっうっええーん!!
やだよぉ、こんなのに殺されたくないよおぉ!」

公孫瓚はビクリとした。
こんな状況で泣かれたら、あの怪物の仲間が集まってくるかもしれない。

260:セイレーン
09/08/15 14:53:14 RQ4QDnpM
「こ、こら黙れ!
わしを殺す気か!?」

公孫瓚は慌てて少年を黙らせようとした。
しかしその間にも、近くの路地からまたあの化け犬が出てくる。
公孫瓚は苛立った。

「黙れ、黙らぬか!!
ええい、こんな足手まといはもう知らぬわ!!」

261:セイレーン
09/08/16 11:38:30 AtLV6osT
少年を突き放して転がしたとたん、公孫瓚は妙な既視感に襲われた。
自分は以前にも、こんな風に味方を拒んだことがある・・・?

 助けに行ってはならぬ!
 500の兵を救うために、1000の兵を失うことになるぞ!!

そうだ、城の外で袁紹軍と乱戦になって引き揚げた時に、袁紹軍を入れぬために兵の一部を閉め出したんだった。
損害が増えると分かっていながら、私情に流されて助けに行きたいとすがった部下の顔が脳裏に浮かぶ。
記憶が戻ったのはうれしいが、これは不快な思い出だった。

262:セイレーン
09/08/18 21:06:43 xa1Hc7ix
公孫瓚は腹立ち紛れに少年を犬の方に蹴飛ばした。

(こういう奴がいるから、事態が悪い方にいってしまうのだ!!)

助けてと叫ぶ少年に背を向けて、公孫瓚はその場を後にした。
背後から、悲痛な悲鳴が聞こえた。
だが公孫瓚にとっては、それすら腹が立つだけだった。


263:セイレーン
09/08/22 22:01:38 ILXVvgOu
おぞましい犬の鋭い牙が、少年の体を引き裂く。

 ああ、痛い、苦しい・・・
 だけど、違和感はない・・・

楽になれと急かす怪物を見上げながら、少年は悲しげに笑った。

 やっぱり、あの人では私を助けられないね
 ちょっと期待したのに・・・まあ、助けてくれる人の方が珍しいことくらい、もうずっと前から知っていたけど

264:セイレーン
09/08/23 21:44:00 gylzGV8A
少年の体から流れ出した血が、地面をつたのように這う。
少し広がるとそれは煙のように消えてしまい、少年の体も消えてしまった。

 あのような男は、さっさと地獄に落としてしまおう

血と膿と錆に埋もれた世界で、袁紹は決意した。



265:セイレーン
09/08/30 19:53:14 vbV32euq
公孫瓚は、突然悪寒のようなものを感じた。
 
 逃げなければ!

本能が叫ぶ。
さっきより空気が重く、体にのしかかってくるようだ。
武人として磨き上げられた勘が、良くないことが起きると言っている。

266:セイレーン
09/09/05 21:43:33 LQ9KvLey
突然、周りの空気が変わった。
気がつけば、さっきは静かだった霧の向こうから不気味な呻き声が聞こえる。

(な、何が起こった!?
とにかく、城から脱出した方がよい!)

恐怖に急かされるように、公孫瓚は城の門に向かって走った。

267:セイレーン
09/09/09 22:35:01 aOmuVIFg
突然、目の前に人影が現れた。
先ほどはあんなに呼んでも返事すらなかったのに。

(人、いや、これは・・・!!)

霧の向こうから現れたその姿に、公孫瓚は立ちすくんだ。
それは明らかに、禍々しき闇から這い出したものに違いなかった。

268:セイレーン
09/09/13 18:52:40 muKlEMq2
そいつは人の形だけはしていた。

 しかし肌は腐ったようにぶよぶよとたるんで、明らかに生きている色ではない。
 しかも顔面に血みどろの板が貼り付けられ、釘が打ち付けられている。
 服装は召使のようで、妙に上品なのが生々しい。

手には、その上品な衣裳に不釣合いな棍棒が握られていた。

269:セイレーン
09/09/20 20:47:49 EVof0zrt
(これは・・・!)

公孫瓚は背筋に気味の悪いなにかが這い上がる思いだった。
さっきの犬はまだ、怪物だと割り切れる。
しかしこの人形はどうだ。

 幸い顔は板を打ちつけられて見えないが、かすかに息遣いのようなものが聞こえる
 まるで自らも疲れきったように、足を引きずって近寄ってくる

270:セイレーン
09/09/22 22:46:37 POBlNC3i
気が付けば、人形の怪物は前と横から二体迫っていた。

(やるしかないか!)

公孫瓚はすらりと剣を抜き、まず横の一体に斬りかかった。
肩から胸を両断して、一撃で致命傷を負わせる。
人を斬る罪悪感など、公孫瓚は持ち合わせていない。
気に食わないものは全て、こうして切り捨ててきたのだから。

271:セイレーン
09/09/30 21:53:49 JT73/O3Z
(よし、いい調子だ!)

横の一体を始末すると、すぐ前の一体に斬りかかる。
頭から斬り下ろしてから竹割りにし、公孫瓚はあっという間に二体を片付けた。
しかし、歩き出そうとした瞬間、足に鋭い痛みが走った。

「な、何だと!?」

倒したと思った横の一体が、足に錐を突き立てていたのだ。

272:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
09/10/03 22:49:54 vVrdqRAb
「くそが!!」

公孫瓚は慌てて剣を振り下ろし、怪物にとどめを刺した。
しかし・・・これはひどくやばい気がする。
もしこれ以上強力なものが出たら、対処できる自信はない。

(早く城から出た方がいい!!)

公孫瓚は恐怖にかられて、一目散に城門へと走った。

273:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
09/10/04 21:39:11 pDExotOu
城門にたどり着いて、公孫瓚は愕然とした。
門がどうしても開かないのだ。
門のつかえ棒が、錆で塗りこめられたように固まって、いくら力をこめても動かない。

(な、なぜ開かぬ!?)

剣で壊そうとしても、傷一つつかない。
むしろ剣の刃が少し刃こぼれしてしまった。

274:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
09/10/12 20:20:45 5gNKde5X
背後から、また唸り声とも呻き声ともつかない嫌な響きが聞こえる。
またも怪物が現れたのか。

(こ、これでは殺される!!)

公孫瓚はじわりと恐怖にかられていった。
霧の向こうで正体が見えない事が、余計に恐怖をあおった。

275:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
09/10/17 22:13:52 0WdrLJpu
(な、何とかして城から出なければ!)

公孫瓚は城壁に沿ってがむしゃらに走り出した。
すると、いくらも行かないうちに、穴があった。
地面にぽっかりと、真っ暗な口を開けている。


276:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
09/10/18 17:15:36 6N046/8u
 入るべきか止めておくべきか・・・。

公孫瓚は迷った。
まず頭に浮かんだのは、これが袁紹の罠ではないかということ。
それに、自分はこのような穴を見たような気がする。

 穴から、袁紹軍の兵士が止めどなくあふれてくる。
 彼らが火を放ち、城は炎に包まれ、追い詰められた自分は・・・。

突然頭に浮かんだイメージに、公孫瓚は思わずよろめいた。

277:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
09/10/23 19:38:08 NTtupvMW
それは、まぎれもなく敗北の記憶だった。
いや、記憶のようにリアルなイメージだった。
この内容は、素直に記憶と認める訳にはいかない。

(もしこれが事実なら、わしはどうして今生きているのだ!?)

公孫瓚は必死で頭の中の悪夢を否定した。
何が何でも否定しなければ、生きていられなかった。

278:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
09/10/24 19:19:07 aHxGELzv
 とにかく、今は逃げる事だ・・・。

公孫瓚は眼前の穴に視線を落とした。
もし今の記憶が正しければ、この穴は城外に通じているはずだ。
ここにいても事態が好転するとは思えないし、だめならまた戻ってくればいい。

「ええい、ままよ!」

公孫瓚は意を決して、穴に飛び込んだ。

279:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
09/10/24 19:23:03 aHxGELzv
血と膿と錆に埋もれた世界で、袁紹はほくそ笑んだ。

 かかったな、公孫瓚め!

もうすぐ、あの愚かな男が穴を通ってこちらにやって来る。
悪夢で満たされた、こちら側に・・・。

 だいぶ痛い思いをさせてもらった。
 たっぷりお返しせねば。

べとべとに血糊がついた剣を片手に、袁紹は歩き出した。

280:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
09/10/26 21:23:31 2eKDgW97
公孫瓚は穴の中をひた走った。
飛び込んだ穴は、思った通り地下道のようだった。
暗い地下道の先に、光が差し込んでいる。

(おお、出られるぞ!)

公孫瓚は喜んで穴の出口から這い上がった。

そここそが、二度と出られぬ悪夢の罠だとも知らずに・・・。

281:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
09/10/26 21:28:45 2eKDgW97
穴から出て体についた土を払って、公孫瓚はぐるりと周りを見回した。

「な、何だこれは!?」

外に広がる景色は、先ほどの場所とそっくりだった。
霧にかすむ市街地、背後には城壁・・・霧のせいで、完全に同じかどうかは分からないが。

しかし、これは有り得ないと公孫瓚には分かった。
自分はこの城を幾重もの城壁で覆ったが、市街地があるのは一番中だけのはずだった。

282:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
09/10/27 20:18:19 uAzro4wU
有り得ないのはそれだけでは無かった。

 空が暗く、夕闇のように赤く染まっている
 霧が重苦しく、ねっとりと粘りつくように感じる
 それに・・・一歩踏み出すと、市街地が骨組みを露にした廃墟のようになっていた

似ているようで、明らかにさっきの場所とは違う。

283:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
09/10/28 20:20:30 W02WcJtW
(こ、これはいかん・・・!!)

公孫瓚の背中を冷や汗が流れた。
ここの気味の悪さは先ほどの比ではない。
まるで、世界そのものが呪われているようだ。

(これはだめじゃ、早く逃げなければ!)

出てきた穴に入ろうとして、公孫瓚は思わず悲鳴をあげた。

284:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
09/10/28 20:24:45 W02WcJtW
「げえっ!?」

驚いたのも無理はない、つい今しがた出てきた穴に土がつまり、埋まっていたのだ。
自分が出てからまだ一分も経っていないのに、音もなく穴が埋まってしまった。

(しまった、退路を断たれたか!)

後悔したがもう遅い、公孫瓚はこの恐ろしい世界に閉じ込められてしまったのだ。

285:名無し曰く、
09/10/30 19:53:07 vH815Crz
人物解釈は違うと思うが、同じ袁紹好きとして書き込まずにいられなかった。
むこうもこっちも最近見つけて一気に読んだ。GJ。
向こうは色々言われてるみたいだが楽しみにしてるんでぜひ続けてくれ。
こっちも楽しみにしてる。

286:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
09/11/01 19:44:15 t/iqdWlb
公孫瓚は剣を抜いたまま、とりあえず歩き出した。
帰れぬものは仕方がないし、ここに留まっても事態は解決しない。
それに、先程の場所と違うならば、出口がどこかにあるかもしれない。

 公孫瓚の体をなめるように、霧が流れていく

少し歩いて、公孫瓚はふと立ち止まった。
目の前に、見たこともない屋敷が立っていた。

287:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
09/11/08 19:43:20 ExQG6V8l
(どこだ、ここは・・・?)

公孫瓚は困惑した。
こんな建物は城の中になかったはずだ。
ここはまだ、城の中のはずなのに。

(不思議じゃ、まさに奇怪じゃ。)

さすがの公孫瓚も気味が悪くなってきた。
これは本当に現実なのだろうか。

288:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
09/11/15 20:39:22 Juxl8Sh3
公孫瓚は恐る恐る、屋敷の壁に手を触れてみた。
感触は・・・本物だ。

 ただ、触ったとたんに毛虫が背を這うような不快感が走ったが・・・

公孫瓚は頭を振って思い直した。

「ええい、考えても仕方がない!
これが妖魔の仕業であれば、元を断てば治まるであろう。」

289:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
09/11/21 21:15:40 FKwku0d+
理解できない事に遭遇したとき、深く考えることを止めてしまうのが公孫瓚の愚かなところだ。
公孫瓚はあえて妖魔の巣くうおぞましい館に侵入する方を選んだのだ。

 来たよ、袁紹

おっかなびっくり門をくぐる公孫瓚の姿を、さっき殺されたはずの少年が建物の陰から見ていた。
公孫瓚の背後で、門が大げさな音を立てて閉まった。

290:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
09/11/22 15:03:45 0PFTFF4v
(また閉じ込められたか・・・。)

公孫瓚は苦々しく思いながら、屋敷の中に歩を進めた。
屋敷は外から見たよりも荒んでいなくて、むしろ人が生活していた気配さえ見受けられる。
庭木はきちんと手入れされていたし、扉はさび付いているにも関わらずすんなり開いた。

(もう、どうにでもなれ!)

そう思って中に入ったとたん、口ばかりの顔に出くわした。

291:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
09/11/29 11:36:02 R1tyK66t
初めは、それが何なのか分からなかった。
次の瞬間、その赤黒い穴から吐き出された臭い息で、それが怪物だと分かった。

「このっ!!」

公孫瓚は怪物に蹴りを入れつつ、剣を抜いて後ずさった。
怪物はちょうど人ほどの背丈で、血が抜けたような妙に白い肌をしていた。
舌もない口で、何かもごもごとつぶやいている。

292:郭図
09/11/29 13:01:26 R1tyK66t
悪夢行中断

「田豊を出すまでゾンビ続けられなくて、申し訳ありませんでした。
しょせん私は負け軍師です、孔明のような軍略は持ち合わせていないんです。

でも、悲しまないで。
これからは悪夢行をスピード上げて進めて、公孫瓚編が終わったらここでゾンビ続きを書いてもいいですから。
もちろん、殿が望めば、ですが。」

293:袁紹
09/11/29 16:36:03 eDLDWZIM
うむ、良きに計らえ。孔明など儂は知らぬ。其奴の軍略がどうであれ、お主は儂の大切な軍師ぞ。

それから雪滑りに行くようであるが、あまり羽目を外し過ぎて
政務に支障を来たさぬように。
骨を折ったり風邪を引いたりされれば、儂の中原進出の計画が遅れるでな。

294:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
09/12/02 22:52:16 pcnjzDNd
悪夢行再開

「…ノクセニ…」

怪物がつぶやく声が、一瞬言葉に聞こえた。
公孫瓚は斬りつけるのをひとまずやめ、怪物の声に耳をすました。

「…ショウノ、クセニ…。
キタナラ…イ…ゲセン…クセニ…。」

怪物は確かにしゃべっていた。
しかもその声には、あからさまな悪意がにじみ出ていた。

295:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
09/12/05 13:16:14 xjh7Apz0
(ショウのくせに?汚らしい?ゲセン?)

怪物が振りかぶる虫の足のような指をかわしながら、公孫瓚は怪物の言葉を頭の中で訳した。

(将のくせに汚らしい?
下賤だと…わしのことを言っているのか!)

言葉の意味を理解したとたん、公孫瓚は頭に血が上った。
この怪物は不遜にも、誇り高い武人を汚らわしく下賤だと言っているのだ。

296:郭図
09/12/05 13:23:35 xjh7Apz0
悪夢行中断

「しかし気になるのは、ゾンビ小説スレにいた田豊好きの人です。
彼はここの住人ではないのでしょうか?

だとしたら、もし私がここでゾンビ三国志の続きを書くことになった時に、
彼はそれを読むことができないかもしれません。
どうにか、ここに誘導する術はないのでしょうか?

ただ、誘導には荒らしを誘導してしまう危険が伴います。
このスレで袁家滅亡の再現だけはしたくないですから…。
いっそ別名で短いゾンビ小説を書いて信用させた後に、また元のスレで再開という策もございますが、
正直これは成功率の低い作戦であると思われます。

殿はどう思われますか?」

297:袁紹
09/12/05 17:24:29 /cd+g1KK
大秦では「求めよ、さらば与えられん」という言葉があるそうじゃ。
その者が真に田豊を欲するならば、儂のように袁家の名の付くスレッドを
片っ端から調べ上げるくらいのことはしようぞ。既に見つけておってもおかしくはない。
そなたの読み通り、誘導はここに無用の諍いを持ち込むだけである。
何もせぬのが最上の策であろう。
いつか我らに信服する者がまとめサイトを作ってくれるやもしれんしな。

しかし、元皓好きとはな。正論とはいえ頭ごなしに怒鳴られる儂の立場になってもみよ。
上としての面目が立たんではないか。せめて処世の術としての物言いが出来んのかあ奴は。
…む、愚痴になってしもうたな。公則、そなたのことではないから安心するように。

298:郭図
09/12/05 19:15:48 xjh7Apz0
御意。
しばらくあちらには顔を出さず、こちらで時を待つことといたします。

生前は積極的すぎた結果があんなんですから…さすがに私でも学習しますよ。
死んで地上を振り返って愕然としましたし…
思い出したくはないですけど、忘れたら同じことをやりそうで怖いですから。

299:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
09/12/05 19:21:12 xjh7Apz0
悪夢行再開

公孫瓚は猛然と怪物に斬りかかった。
怪物は決して弱くはない、だが公孫瓚は人の中で抜きん出た武人である。

「はやぁ!」

鋭い爪をかがんで避け、怪物の体躯に剣を突き刺す。
怪物が苦痛に身をよじり、嫌がるように身を引いた。

300:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
09/12/06 10:48:45 a5lwEPmg
その時、怪物の顔が…いや口元が歪んだように見えた。
何か生理的に毛嫌いするものを退治しようとする時のような表情。
早く始末したいのに思わぬ反撃をくらって、触りたくもない嫌悪に必死で避けようとする動きだ。

「ギョ、ギャ、グエ…!」

嫌がるように頭を振りながら、泡を食ったように汚い唾を撒き散らす。
公孫瓚は鎧でそれを防ぎながら、怪物の無駄にふくよかな体を切り裂いた。

301:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
09/12/08 19:19:32 qL3qIXO+
怪物は相変わらず、倒しても倒しても現れた。
しかも外にはいなかった、汚い液を吐くイモムシのようなものまでいた。
絶え間ない緊張にさすがの公孫瓚も疲労を覚えて、怪物のいない部屋で扉を閉めて腰を下ろした。

「ふう…一体いつまで続くんだ?」

つい、弱音が口をついて出た。
状況は悪くなるばかりだ。
早くこの怪異の元を見つけて倒さなければ、こちらが疲れ果ててしまう。

302:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
09/12/08 19:25:53 qL3qIXO+
(何か怪異の手がかりのようなものはないものか…。)

公孫瓚は部屋の中を見回した。
外にいるとどうしても怪物を気にして探索がおろそかになってしまうが、こうして密室にしてあればその余裕が生まれる。

 そこは、高貴な夫人の部屋のようだった
 外はあんなに荒れ果てているのに、ここだけが生活感を残している
 宝石をちりばめた化粧箱、よく磨かれた鏡、きれいに整えられた寝台

いかにも、上流階級の贅沢な女が暮らしていた感じだ。

303:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
09/12/09 21:20:27 h6/oIKJ4
(袁紹に関係のある女か?)

公孫瓚は直感的にそう思った。
袁紹は名門の嫡子、奴の女ならこんな贅沢をしていてもふしぎではない。

 鏡台の上に、一冊の書物が置かれていた

「これは…?」

公孫瓚はそれを手に取って、読み始めた。

304:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
09/12/09 21:26:32 h6/oIKJ4
血と膿と錆にまみれた冷たい石の床に座って、袁紹は剣を磨いていた。
刺すように冷たい水が、剣についた血糊を洗い流していく。

「公孫瓚はあの女の部屋に入ったよ。」

いつの間にか、少年がすぐ側に来ていた。
少年は袁紹の顔をのぞきこんでささやく。

「本当に君が相手にするのかい?
あいつはきっと、何も分からないよ。
そんな奴と顔を合わせたって、君が傷つくだけだって。」

305:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
09/12/10 20:38:06 xqsPmf/f
しばらく、沈黙が続いた。

「もし、少しでも…。」

袁紹がつぶやく。

「少しでも私のことを分かってもらえたなら、その可能性が針の先ほどでもあるのなら…
ここは私が出よう。
もし本当に私を分かろうとしないなら、その時はこの手でけりをつける。」

306:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
09/12/12 22:58:15 6WJROoLd
袁紹は、希望を捨てきれない痛ましい顔をしていた。
少年はあきれたようにふっと息を漏らし、袁紹の前からどいた。

「仕方ないなあ…言っておくけど、だめでもこいつで諦めたら承知しないからね。」
「うむ、分かっておる。
恩に着るぞ。」

袁紹は立ち上がり、きれいに磨き上げた剣の素振りをして見せた。
もうすぐあの男がここにやって来る。
生前の宿敵として、一応礼は尽くすつもりでいた。

307:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
09/12/13 15:32:25 nXlMyWeJ
公孫瓚は鏡台の上に置かれていた本を途中まで読み、投げ捨てるように鏡台に戻した。

 それは、この漢帝国ができたばかりの頃の歴史書
 しかし、その内容は胸が悪くなるばかりの残酷な物語だった

そこに記されていたのは、高祖劉邦の妻、呂后の話だった。
皇帝になり、他の女にうつつを抜かす劉邦を恨み、劉邦が死んだとたんに復讐の鬼と化した呂后。
夫が寵愛した女の手足を切り、目鼻をつぶし、人豚と呼ばせた目をおおうばかりの蛮行。

308:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
09/12/13 15:36:55 nXlMyWeJ
その章を読み終えたとたん、公孫瓚の耳元で怒りに狂った声が聞こえた。

「殺してやる!
あの女に渡すものか!!」

公孫瓚は大慌てで振り向いたが、そこには誰もいなかった。
静まり返った部屋の中で、公孫瓚の心臓だけが早鐘のように打っていた。

309:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
09/12/17 22:41:03 FtELLlfY
公孫瓚は部屋の中に本当に誰もいないのを確かめると、鏡台をあさって何かないかと探した。
そして、金色に輝く豪奢なデザインの鍵を見つけ出した。

「おお、これで道が開けるやもしれぬ!」

鍵を見つめて喜ぶ公孫瓚の背後で、一瞬鏡に袁紹の姿が映った。
しかし鍵に気をとられていた公孫瓚がそれに気付くことはなかった。

310:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
09/12/18 22:30:08 4coZF1Db
公孫瓚は鍵を手にして一度大きく息をすると、用心深く部屋の扉を開いた。
すぐ側に怪物はいないようだったが、公孫瓚は思わず息をのんだ。
屋内の様子が、激変していたのである。

 床や壁に、血のような汚れがはびこっている
 そのうえ、粘つく膿のようなものがそこらじゅうに落ちている
 さっきまできれいだった屋敷は、外と同じような地獄に変じていた

そして廊下には、公孫瓚を導くように血痕が長い筋をなしていた。

311:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
09/12/20 20:34:07 6HxWhgO0
(これは…来いという事か?)

さすがの公孫瓚も退き帰そうかと思ったが、出口がないであろうことは想像がついた。
公孫瓚は剣を抜き放ったまま、用心深く血濡れの廊下に踏み出した。

 あちこちから、怪物の呻き声が聞こえる。

公孫瓚は怪物を先手必勝で倒し、時にはやりすごしつつ血痕を辿った。

312:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
09/12/23 15:16:36 tqLTf40L
血痕は、大きな扉の向こうに続いていた。
きらびやかな装飾が、錆の間からのぞいている。
先は見えないが、それでも入るのをためらわせる威圧感が漏れていた。

「ここが、妖魔の巣か…。」

公孫瓚は腹をくくって、金色の鍵穴に鍵を差し込んだ。
カチリと乾いた音がして、扉の鍵が開いた。

313:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
09/12/23 15:29:36 tqLTf40L
公孫瓚が扉を押すと、扉は重い音を立てて開いた。
中は暗いが、高い窓から赤茶けた光が差し込んでいる。
その光が、部屋中に散らばる血痕をますます際立たせる。

 暗闇の奥で、何かが動いた。

「誰かいるのか!?」

公孫瓚が声をかけると、そいつはのそりと振り向いた。
着物はきているが、口ばかりが大きくて、玉に見えるほど肥満した巨体だった。

314:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
09/12/25 19:23:44 yY6K9x9j
 おあああぁー

そいつが吼えた。
ちょっと聞くと獣のようだが、かろうじて人間の女の痕跡を残している。
おしろいを塗り固めたような白い肌に、血のような紅い口紅が映える。…本当に血かもしれないが。

 コ・ロ・ス コ・ロ・ス コ・ロ・ス

女の化け物は硬そうな鉄鞭を手にしていた。
恨めしそうな声と共に、公孫瓚に向かってそれを振り上げた。

315:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
09/12/25 19:30:13 yY6K9x9j
「わあっ!?」

公孫瓚は慌てて横に飛びのいた。
思ったとおり、入ってきた扉は閉まっている。

 鉄鞭が、ガアンと床の石に当たって火花がとんだ

動きは遅いが、当たればすさまじい威力だ。
女は少しの間動きを止めたが、また重たそうに鉄鞭を持ち上げた。

「コロスコロスあの女をコロス…」

女は公孫瓚の方を見向きもせずにぶつぶつとつぶやいた。

316:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
09/12/27 15:41:38 9cLvsaZm
そのセリフに、公孫瓚は聞き覚えがあった。
先程、豪華な女の部屋で聞いた声だ。

(そうか、あの部屋はこいつの住処だったか!)

だとすれば、あの部屋にここの鍵があったのもうなずける。
そしておそらく机の上にあった書物…その残酷な内容も、こいつに関係しているのだろう。
言動からして、この女も呂后と同じように別の女を憎んでいるのかもしれない。

317:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
09/12/29 16:00:10 vZXkTC11
少しその場でまごついて、女は思い出したように公孫瓚の方を向いた。
しかし、公孫瓚は振り向いた女の目の前まで来ていた。
公孫瓚が先制攻撃をしかけたのだ。

「くらえっ!!」

上等な絹の帯に、刃がめりこむ。
太い腹から腐ったような体液を撒き散らして、怪物はのけぞった。

318:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
09/12/29 16:03:51 vZXkTC11
「ぎゃあああ!!!」

獣のような悲鳴を上げて、女はでたらめに鉄鞭を振り回した。
近くにあった金細工の燭台が宝石を散らして吹っ飛ぶ。

「ああ、もったいない!」

思わず公孫瓚が叫ぶと、女はぎろりとにらんで低い声を発した。

319:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
09/12/30 19:26:52 cJtKBnIq
 マタ、買えバイイじゃナイ
 クダラなイ…

それを聞いたとたん、公孫瓚はピンときた。

(こいつは、元は人間だったな!)

それにこの贅沢さ…公孫瓚には覚えがあった。
こんな贅沢を平気でできる奴は、知っている中ではあいつが一番疑わしい。
名門袁家の嫡子にして、河北の富を全て手中に収めつつあったあの気にくわない男だ。

「そうか、こいつは袁紹の妻か!!」

320:袁紹
09/12/31 18:35:19 BqpRIIAp
郭図よ、今年のそなたの働きは賞賛に値する。大儀であった。
このスレの趨勢はそなたの筆にかかっておる。来年も期待しておるぞ。

世間では曹操の墓が見つかったとかで騒いでおるようだが、
鄴は我が領地であったというのに。
敗者の愚痴と言われるだろうが、改めて話題に出ると些か悔しいものよ。
だが、我らが生きた時代の研究が進むのは喜ばしいことだ。
墓を暴かれた曹操は嫌がるだろうが…
いや、奴のことだ、死後にもこれだけの騒ぎを起こせたと笑っておるのだろうな。

では最後に、毎年願っているような気がするが、来年も袁家及び家臣一同が正当に評価されんことを。


321:郭図
10/01/01 15:27:54 WppQpUnE
殿並びに袁家の皆様、明けましておめでとうございます。
それから、お褒めの言葉ありがとうございます。

以前ならば、私などに政略を任せると必ず負けるなどと言われてもおりましたが、
今殿にこれほどの信頼をいただいて感謝するばかりです。
そのお言葉を胸に、本年も殿に忠誠を尽くして参ります。

ちなみに悪夢行の公孫瓚編はそろそろ終盤で、
次は袁家の一族の方が登場しますよ~ww

322:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/01/02 19:34:55 inrndbCN
悪夢行再開

公孫瓚は怪物の正体をそう判断して、一人心の中で納得した。
人型の大口の怪物が言った言葉も、それを裏付ける証拠だ。

(将のくせに、か…。
そういえば袁紹の家は三公の家柄、奴はその嫡子だ。
ここの怪物たちは、生みの親によく似たようだな!)

公孫瓚は剣を構え直し、猛然と女の怪物に立ち向かった。
妖魔の正体が分かった以上、ためらう事など何もない。
特に相手が袁紹の妻ならば…望む所だ、奴を苦痛のどん底に叩き落してやれる。

323:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/01/02 19:38:42 inrndbCN
そこまで考えたとたん、公孫瓚は妙な記憶の再生に襲われた。

 燃え上がる城
 穴から湧き出した袁紹の兵に追い詰められ
 自分は、愛した妻子に自ら刃を向けて…

「!?ちょっと待て!!」

公孫瓚は思わず驚愕に目を見開いた。
自分も最近、妻と子をそうして失った…?

324:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/01/03 18:45:41 y2tS4gdT
しかし、それならばなぜ自分はこうして生きているのか?
どうにも納得がいかない。

(わしは、妻子を…だから袁紹からも妻を奪おうと?)

自分の考えに疑問を抱いて、公孫瓚の刃が鈍った。
そのスキを突いて、女が鉄鞭を振り上げた。

325:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/01/07 21:41:19 8g7KKz6f
ぶんっと風を切る音に、公孫瓚は本能的に身を引いた。
しかし、左の肩から腕にかけて、容赦なく振り下ろされた鉄鞭が襲い掛かった。

「ぐあっ!?」

公孫瓚ははっと我に返り、痛みにきしむ体を無理矢理動かして飛びのいた。
今は考えにひたっている場合ではない、この怪物を倒さなければ。

326:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/01/12 18:47:52 bRopJiHE
公孫瓚は一度後ずさって距離をとると、右腕一本で剣を構え直した。
左腕は衝撃でしばらく使えそうに無い。
ならば、走って勢いをつけて片腕の突きで勝負を決めるのだ。

「ハヤア!!」

女が鉄鞭を再び持ち上げるまでに、公孫瓚は剣を上段に構えて走りこんだ。
白銀の刃が、女の胸元に吸い込まれた。

327:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/01/16 14:35:56 JZ2qf62W
 ぎゃあああ

女が悲鳴を上げた。
手足をばたつかせて暴れる女から、公孫瓚は素早く剣を抜いて離れた。

 女の胸から、どす黒い血が吹き出す
 痛みに悶えながら、巨体を支えきれずに後ろに倒れこんだ
 しかし、胸を貫かれているにも関わらず暴れる生命力は人間のものではない

今のうちにとどめを刺すべきだ…
公孫瓚はそう判断して、再び女の側にかけ寄った。

328:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/01/16 14:43:36 JZ2qf62W
「くたばれっ!!」

公孫瓚は転げまわる女の体に、がむしゃらに剣を突き立てた。
激しく暴れて動き回るため、一撃で首を狙うのは難しい。
それに、一撃で楽にしてやる理由もない。

(この女は袁紹の妻…ならば、我が妻子の仇だ!)

公孫瓚は鬼のような顔で、女の怪物を斬りまくった。
暗い部屋を震わせて、女の断末魔が響いた。

329:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/01/17 19:05:06 z5hHM582
「はあ…はあ…。」

薄暗い部屋に、公孫瓚の吐息だけが聞こえる。

 いつの間にか、床にはびこっていた血の汚れは消えていた
 ちょっと目を離したすきに、女の怪物も消えていた
 部屋の窓から差し込む光は、黄ばみが抜けて白っぽくなっていた

公孫瓚は放心したように、周りを見回した。

330:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/01/17 19:09:38 z5hHM582
「これは…戻ってこられたのか?」

事態を確認するように、公孫瓚はつぶやいた。
さっきまでの禍々しい空気はもう感じない。
現世かどうかはまだ不明だが、少なくとも現世に近付いてはいる気がした。

「ふう、全くえらい目に遭ったわい。」

今更ながらそうつぶやいた時、公孫瓚の耳がかすかな物音を捉えた。
背後から、そっと撫でるような視線が這い上がった。

331:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/01/22 22:38:07 W9Sn2m18
公孫瓚は恐る恐る、後ろを振り返った。
そこに佇む一人の男、その名は…

「袁紹…!!」

よもや見間違えたりするものか。
あの根暗なくせに、どこか人を蔑むような目つき。
下々の者との付き合いを面倒くさがるような、けだるい眼差し。

 忘れるものか!!

332:名無し曰く、
10/01/23 00:17:23 WICRxSK1
文醜「長編読むのは疲れるお」
顔良「将たる者、それくらいで・・zzz」

333:袁紹
10/01/23 01:49:39 KlHy8Big
2人ともよくぞ戻ってきた。
それとも今までずっと覗いておったのに儂が気付かなんだだけか?
まあよい。武辺者のそなたらに郭図の物語はちと長いかもしれぬが付き合ってやって欲しい。
ただし、関羽を討ち取るための鍛錬をすることは大いに許す。存分に励むが良い。

334:郭図
10/01/23 14:58:53 4l4MRxJk
「ああ、戻っていらしたんですね!
誰も何も書く気配がなかったので人工無能保守のつもりでホラー書いてました。

全く、武将がいないとか、守ってるこっちは気が気じゃありませんでしたよ。
私のことは気にせず、殿を守って差し上げてくださいね。
…でも、関羽には下手に手を出すと下ネタに引き込まれる恐れがあるので、
攻撃は十分慎重にお願いします。」

335:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/01/23 15:03:55 4l4MRxJk
悪夢行再開

袁紹は、まだ迷いを振り切れぬまま、公孫瓚と向き合っていた。
思えばこの男とも長い付き合いだったが、こうして間近で顔を合わせたのはいつ以来だろう。

「公孫瓚、私は…。」

袁紹は不安と期待半々で、声をかけた。
全部を分かってもらえる訳がない、だが、少しでも救いが得られれば…。

336:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/01/23 15:08:42 4l4MRxJk
公孫瓚は怒りを浮かべた顔で、慎重に歩み寄ってくる。

「君をこのような所に招いたのは、謝ろう。
しかし、私にはどうしても誰かの力が必要…」

 ぐさっ

できるだけ感情を荒立てぬよう訴えていた袁紹の声は、とぎれて嗚咽に変わった。
目を閉じて次の言葉を考えていたスキに、公孫瓚が走りこんで胸に剣を突き立てていた。

337:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/01/24 12:46:57 70aTns6p
「ぐっふっ…!!」

あっけに取られたまま咳き込む袁紹に、公孫瓚は義憤に駆られて怒鳴りつけた。

「貴様、自分の妻をあんなにしておいてよくも涼しい顔でいられるな。
地獄に落ちて、己が苦しめた者どもに泣いて謝ってこい!」

338:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/01/24 12:53:26 70aTns6p
(妻だと、何を言って…あれは私の…
そうか、そのようにとったのか。)

痛みに縛られて動けぬまま、袁紹は公孫瓚が責め立てるのを聞いていた。

「袁紹、貴様に人の痛みが分からぬことは以前から分かっておった。
貴様は名門袁家の嫡男、権力に虐げられる者の気持ちなど、知ろうともしなかったのだろう!
そして名門の威光をかさに着て、とどまる事を知らぬ野望と欲望の果てに妖術にまで手を出したのだ!」

339:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/01/26 11:27:13 z6L4Zb6Q
袁紹は痛みに顔を歪めたまま、黙って公孫瓚の言うことを聞いていた。

「そしておまえは醜くなった妻を捨て、他の女に溺れた!
妻をここに閉じ込め、下賤な人間は生きる価値がないとばかりに餌としてここに連れ込んだのだ!
わしはおまえを断じて許さん、天に代わって貴様の傲慢に罰を下してやろう!!」

袁紹は、血反吐と一緒にため息をついた。

 こいつは、私を救えない
 知ろうとする気もない
 ならば、さっさと地獄に落とすとしよう…

袁紹の顔に、暗い笑みが浮かんだ。

340:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/01/30 10:58:17 3nCjQNbx
「くっくっく…」

場違いな笑い声に、公孫瓚はぎくりとしてしゃべるのをやめた。
袁紹の胸に突き刺した剣から、それに合わせて震えが伝わってくる。

「袁紹、貴様…!?」

公孫瓚は大慌てで剣を引き抜き、後ずさって距離をとった。

341:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/01/30 11:02:17 3nCjQNbx
公孫瓚は驚愕に目を見開いて袁紹を見ていた。
確かに急所を突いたはずなのに、袁紹は倒れることもなく立ったまま笑っている。
時折ふらつくところを見ると、痛みは感じているようだが…。

「な、なぜ死なない!?」

公孫瓚の問に、袁紹は物憂げな顔で答えた。

「いい加減に気付け。
私もおまえも、もうとっくに死んでいるのだ。」

342:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/01/31 14:00:58 mmWHgyRj
袁紹の言葉に、公孫瓚は思わず目を見開いた。
自分は確かに、今ここに生きているのに。
生きて…?

 燃え上がる易京楼
 自ら手にかけた妻子の亡骸に囲まれて、公孫瓚は兜を脱ぎ捨て…
 抜き放った剣を、自らの首に…

袁紹の言葉に触発されたように、公孫瓚の頭の中で失われた記憶が蘇った。
公孫瓚の体が感覚を失い、ぐらりとよろめく。

 そうだ、自分はすでに…あの時、自害したんだ…

343:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/01/31 14:07:40 mmWHgyRj
袁紹はそんな公孫瓚をあきれたような目で見つめた。

「無念の死を遂げた地縛霊は己が死んだことに気付かぬと聞いたが…本当だったとはな。
わしはおまえより数年長く生きたが、もしやと思って来てみればこの様だ。
未だにこの野望の墓場でさまよっておったとは。」

公孫瓚はただ、唇を噛むしかなかった。
自分では潔く死ぬと思っていたくせに、仇が指摘するまで気付かぬ自分が悔しくてならなかった。

344:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/02/03 20:27:34 6lRxZ3/8
しかし、この憎たらしい男に言われっぱなしでは男として面目が立たない。
公孫瓚は意地になって言い返した。

「何を、どうせ貴様も同じようなものだろう!?
結局冥府に行けずにさまよっているではないか!」

それを聞くと、袁紹は妙に神妙な顔になった。

「むう…確かに結果は同じ事だ。
だがな、わしは未練のあまりさまよっている訳ではない。
…理由があるのだ。」

345:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/02/06 21:57:10 aJJU4TH5
「理由?」

公孫瓚は一応いぶかしげな顔を作って、聞く素振りを見せた。
しかし、心の中では、言葉の中からあら捜しをする気ばかりだった。
それを読んだのか、袁紹はうんざりしたように口を開きかけ…

「うむ、だがおまえに話す価値はないようだな。
うぐっ…ゴホゴホゲボォッ!!!」

突然、胸を押さえて激しく咳き込み、体を震わせた。

346:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/02/06 22:01:58 aJJU4TH5
袁紹の指の間から、真紅の鮮血がぼたぼたとこぼれた。
吐血したのだ。

 それは床に落ちると、まるでそれ自体が意思を持つように広がり出した
 公孫瓚の足元を飲み込んで、あっという間に血の汚れが部屋中に広がった
 そしてその血に侵食されるように、医師の石の床は金網に変じていた

「な、何だと…!?」

驚いている公孫瓚の足元で、がんっと嫌な音がした。

347:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/02/06 22:03:36 aJJU4TH5
誤植:医師の石の床→「医師の」を削除、変換ミスのうえ重ね入力のため

348:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/02/07 21:28:47 zRGNrleC
公孫瓚は一瞬、体が宙に浮いたように感じた。
だが、体はすぐさま重力に従って落下を始めた。
足元の金網が、外れたのだ。

「うわあああ貴様あぁ!!!」

袁紹の冷めた視線の先で、公孫瓚は深淵の闇に飲み込まれていった。

349:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/02/07 21:33:15 zRGNrleC
公孫瓚の姿が見えなくなると、袁紹は思い出したように別れの言葉を口にした。

「さらばだ、宿敵よ。
わしを救えぬおまえにもう用はない。
地獄で悪魔の胃袋にでも引きこもっておれ!」

それだけ言うと、袁紹は胸の傷を押さえてその場に座り込んだ。

350:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/02/09 20:28:00 OisnPqVL
(痛い…これは、かなりかかるな…)

袁紹は唇の血を拭いながら思った。
自分はもう死んでいるから、どんな傷を負っても死ぬことはない。
ただ、生前と同じ苦しみだけは残っている。

(ああ、そうか…生きていれば、これほど苦しむ前に死ねるのだな)

死人である自分は、苦しみを味わいながら傷が治るのを待つしかない。
死ぬことはなくても刺されるべきではなかったと、袁紹は後悔した。

351:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/02/09 20:32:28 OisnPqVL
気がつくと、頭から角を生やした小さな鬼が側に来ていた。
小鬼は袁紹の顔を見上げて、驚いたように言った。

「いやあ、見事に落としてくれたなあ。
旦那さん、なかなかやるねえ。」

袁紹は、答えなかった。

352:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/02/11 16:19:39 59aUol4L
袁紹が黙っていると、小鬼はおどけたように続ける。

「あんた、表の旦那さんやろ?
裏ならともかく、表の旦那さんができるなんて…意外やったなあ。」

そう、自分はあくまで自分の表層にすぎない。
心の奥の感情は…裏の自分は、今も自分の背後から自分を見ている。

353:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/02/11 16:27:35 59aUol4L
袁紹の後ろで、少年が笑みを浮かべてつぶやいた。

「当然だよ、この人とぼくは元々一人なんだもの。
それに、あんな奴は…地獄に落ちて当然、だろう?」

途中から、声が大人のように低くなった。
少年はいつの間にか、袁紹とそっくりの姿になっていた。
袁紹は背後にたたずむもう一人の自分に目をやり、ふっとため息をついた。

354:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/02/15 22:50:55 9Cz2AT7o
 これは自分が壊れないために切り離してしまった自分
 少しでも楽になるために、心の深淵に閉じ込めてしまった自分
 心の底で、いつも苦痛にまみれていてくれた自分

もう一人の袁紹は、体中血に濡れた姿をしていた。
彼は表の自分に向かって、言い聞かせるように告げた。

「まあ、あやつの事はもう気にするな。
やり方が分かったなら、次を試さねば。」

355:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/02/15 22:58:53 9Cz2AT7o
 そう、次は救ってもらえる事を祈って

「そうだな、いずれにせよこの魂は直さねばならぬ。」

袁紹は振り返り、うなずいた。

 魂が完全な形でないと、人は冥界に行けない
 袁紹の割れてしまった魂では、冥界への道が見えない
 だから誰かが自分の全てを許して…抱きしめてくれないと…

救ってくれる誰かを探して、袁紹は易京楼を後にした。

公孫瓚編 完

356:袁紹
10/02/17 21:36:12 dGy51Ugj
おお、物語が一段落ついたようだな。郭図よ、よくぞ書き上げた。
今はその労に報いる金品を持ち合わせておらぬが、最大の賛辞を贈るとしよう。
市井で手に入る本に書かれている儂は、大抵型に嵌まっておるゆえ
そなたの物語は大変に興味深く、また面白く思う。
この続き、楽しみにしておるぞ。

それにしても、そなたがこれほどに猟奇的描写に長けているとは思わなんだ。
そなたに徐州虐殺の有様を書かせれば曹操の人望を更に削ぐことができたであろう、
惜しいことをしたものだ。

357:郭図 ◆B/kjYNqf0w
10/02/19 21:40:15 SeM+OuI9
お褒めの言葉、ありがとうございます。
私は悪趣味ながら、人の心の暗い部分を書くのが好きなのです。
恐怖や疑心暗鬼を用いた讒言こそ、私の得意でありますから。
こんな負の才能でも、このような形で殿のお役に立てられるのは光栄です。

それでは、続きを始めたいと存じます。
今度は一族の方ですよ。

358:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/02/19 21:55:12 SeM+OuI9
 我が子を腕に抱き、私は光を見た
 この子が私を見て微笑む顔に、私は救いを見た
 子は無条件に親を愛してくれるのだと、愚かにも信じて…

だから、私はあまり愛を知らないけれど、一生懸命愛して育てた。

 よもや、それすら悪夢に変じる日が来ようとは…

光を見た後の暗闇は、今までより何倍も暗く、深く、恐ろしかった。
だから私はこの闇を、あの子にも分けてあげようと思う。

359:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/02/19 22:01:18 SeM+OuI9
袁紹的悪夢行 第二話 袁譚顕思について

「道が…見えない…」

白く冷たい霧の中で、袁譚は途方に暮れていた。

(どうしよう、さっきまで見えていたのに…。
これじゃ、下手すると成仏できないかも…)

袁譚はおろおろと何度も向きを変えて、周りを見回した。

360:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/02/20 17:40:29 ogMWcspk
(ただでさえ散々な死に方だったのに、死んでからもこんな目に遭うなんて…)

袁譚は頭を抱えた。

 そう、袁譚は死んだ
 敵に攻められ、討死した
 …そして、目の前に見えた光の道を辿って冥界に行こうとしていた

問題は、その道を見失ってしまったことだ。

361:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/02/20 17:44:08 ogMWcspk
霧に巻かれたのは、あっという間だった。
袁譚の背後から包み込むように霧が流れてきて、気がついたら何も見えなくなっていた。

 まるで、悪意ある何かが彼を捕らえたように

白く冷たい霧が、袁譚の体をなぞるように流れる。
その向こうから何かに見られているような気がして、袁譚は思わず首をすくめた。

362:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/02/21 22:40:56 J+jrENBu
「ふふ…懐かしいな、私も初めはあのように戸惑ったものだ。」

血と膿と錆にまみれた世界で、袁紹はほほえましげにほおを緩めた。
道を見失って戸惑う袁譚の姿に、袁紹は自分が死んだ時のことを思い出していた。

 しかし、全く同じではありえない
 なぜなら袁紹には、初めから道が見えていなかったのだから

363:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/02/23 20:36:07 7Ba7+1US
袁紹が死んだ事に気づいたとき、周りに見えたのは生前と同じ風景だった。
袁紹は自分がどこへ行けばいいのか、何をすればいいのかも分からなかった。

 自分の姿は生きている者には見えない
 声も届かない
 袁紹に与えられたのは、ひどい孤独の時間だった

袁紹は寂しくなって、自分と同じように死んだ者を探し始めた。
しかしそれは、さらなる孤独へとつながる道だった。

364:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/02/27 19:14:48 j5gFWODu
人口の多い冀州の城下町で、死人はそれなりに見つかった。
ただ、彼らの行動は袁紹のそれと全く異なっていた。
 
 皆、何かに導かれるように一方向に歩いていく
 まるで、袁紹には見えない何かが見えているように

袁紹は必死で後を追った。
しかし、それは徒労に終わった。

 歩いていくうちに彼らの姿は薄くなり、やがて消えてしまうのだ。

365:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/02/27 19:18:04 j5gFWODu
何人目かの死人が目の前で消えた時、袁紹は絶望に泣き崩れた。

 自分はきっと、冥界に行けないのだ
 重い罪を犯したせいで…いや、生まれてきたこと自体が罪だったのかもしれない
 だからきっと、もうすぐ地獄から迎えが来るのだ

かくして、袁紹の足元に地獄の住人はやってきた。

366:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/02/28 19:27:08 jG6io4fv
それは三歳児ほどの大きさの、頭に一本角を生やした小鬼だった。
それでも袁紹は震え上がり、上ずった声で小鬼に問うた。

「そなた…わしを地獄に連れてゆくのか?」

意外にも、子鬼は首を横に振った。

「ちゃいますわ、ボクみたいな小鬼にそんな力ありませんもん。
取って食ったりしませんから、安心しなはれ。」

367:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/02/28 19:30:22 jG6io4fv
袁紹はとりあえずほっと胸を撫で下ろした。
しかし、状況が変わった訳ではない。
それならばと、袁紹は小鬼に尋ねた。

「そなた、わしがなぜ冥界に行けぬのか分かるか?」

それを聞くと、子鬼はおかしそうに笑って答えた。

「もしかして、自分で気付いてへんのかいな?
旦那さん、魂割れてまっせ~!」

368:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/03/04 22:20:52 AsmN+OUX
「は?」

袁紹は一瞬、言われた意味が分からなかった。
魂が割れていると言われても、自分の体が割れている訳ではないし…。
袁紹が戸惑っていると、小鬼があきれたように言った。

「旦那さん、後ろ後ろ!」

369:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/03/04 22:24:19 AsmN+OUX
言われるままに振り返って、袁紹は息が止まるほど驚いた。
いや、生きていない以上息をする必要はないのだが。

 すぐ後ろに、自分とそっくりなものがいた

袁紹は思わず身を引いて後ずさった。
しかもそのもう一人の自分はひどく疲れ、望みを失ったような顔で、そのうえ体中が血にまみれていたのだから。

370:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/03/06 19:15:51 F6MZz2N9
固まってしまった袁紹の袖をつかんで、小鬼がはしゃいだように言う。

「ほら、あれが旦那さんの魂の片割れや。
最近現世の妖怪たちが狡猾やよってに、人間さんは魂が完全な形でないと冥界への道が見えへんようなってしもてん。
魂がこないになってしもたら、そりゃー道は見えへんはずや。」

袁紹は小鬼の言うことを頭半分で聞きながら、目の前に立つもう一人の自分を見ていた。

371:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/03/06 19:20:13 F6MZz2N9
ふいに、もう一人の袁紹が口を開いた。

「無理もない、忘れたかったのだろう?
魂を割って、己の一部を心の底に閉じ込めても…」

もう一人の袁紹が、袁紹に向かって手を伸ばす。
その手が指先に触れた瞬間、袁紹は悲鳴を上げてその場に崩れ落ちた。

 その手から伝わってきたものに
 長いこと忘れていた、恐怖と苦痛に耐えかねて

372:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/03/07 16:31:36 NgVQ3Gfg
 毎日毎日、怯えて過ごしていた。
 本当の母と引き離され、継母に邪険にされて育った。
 明日、何が起こるか分からなかった。何が出てくるか、全く見えなかった。

「そうだ、私は…!!」

三人目の母が楽になる道を示してくれた時、袁紹は迷わずその偽りの道にとびついた。
自分を追い詰めた名家の威光を、自分がまとって生きる道に。

 卑しい生まれを恨み、悪夢に染まった己の一部を捨てることと引き換えに。

373:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/03/07 16:38:53 NgVQ3Gfg
 よもや、それが死後冥界への道を閉ざしてしまうなど夢にも思わぬことだった。

「旦那さん、辛かったんやろなあ。
でも、このままやとほんまにずっとさまよう事になりまっせ~。
そうならんためには、魂を直さんとあきまへん。」

「直せるのか!?」

二人の袁紹の声が重なった。
偽りに逃げていようと、悪夢に埋もれていようと、今の袁紹が願うのはただ一つ。
冥界に行って安らぎを得ることだった。

374:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/03/10 20:42:54 L/HRB8n1
「どうすればよい!?」

二人の袁紹が、小鬼に詰め寄る。
子鬼は二人を見比べて、ちょっとひるんだような声で漏らした。

「ああ…こうして見るとやっぱ一人の人間や。
でもなあ、この魂を一つにするには、誰か他の人の力が要るんですわ。
誰かが旦那さんの全てを認めて、許して、生きてていいよって言ってくれたらええねん」

375:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/03/10 20:45:52 L/HRB8n1
「ほ、他の人だと…!」

主人格の方の、表の袁紹は肩を落とした。
姿も見えず声も届かない誰かが、自分を助けられる訳がない。

「何か、手があるのか?」

血塗られた、裏の袁紹はいぶかしげに目を細めた。

376:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/03/11 22:26:17 77zu57aA
「ま、心配しなさんな!
そないな人には、地獄の力を貸しますわ。
そしたら、現世の妖怪と似た感じで他の人に見えるようになりますよってに。」

小鬼は楽しそうにそう言った。

 そう、地獄の力を借りて…

かくして袁紹はその力で己の悪夢を顕在化させ、他人を引き込む力を得た。

377:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/03/11 22:30:32 77zu57aA
「さて、どうしてやろうか…。」

裏の袁紹は境目の向こう側から、霧に囚われた哀れな息子を見つめていた。
体中にまとわりついている血が、うずくように微動した。

「やめろ、本初!
今回は私が行く!」

後ろから声をかけてきたのは、表の袁紹だ。

378:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/03/15 19:19:34 giOVKwfS
表の袁紹は裏の袁紹を、字で本初と呼んでいた。
裏の袁紹もそれは承諾している。
裏の袁紹が心の深淵に閉じ込められたのは、まだ多くの人が袁紹を字で呼んでいたような年だった。

 袁譚が生まれたのはそれからずっと後のこと
 だから袁譚は、表の袁紹がずっと相手をしてきた

「あの子に寄りそうなら、おまえではなく私だ!
最後に親として、もう一度あやつの真意を問うてみたい!」

379:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/03/15 19:24:11 giOVKwfS
その言葉を聞くと、本初は憎らしげに笑った。

「ふん、あのような男に情けをかける気か?
それとも、まさかあやつが私を救えるなどという希望を持っているのではあるまいな?」

「うっ…」

図星を突かれて、袁紹は黙ってしまった。
目の前にいるのは自分なのだと、改めて思い知らされた。

380:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/03/19 22:43:11 UZ5wuCQv
本初は戸惑う袁紹を横目に、うんざりしたようにぼやいた。

「つくづく甘い男だな、貴様は。
あやつの本心がどのようなものかは、あの夜しかと聞いただろう?
…ああ、分かった、もう勝手にすれば良い!」

袁紹の表情が沈むにつれ、本初も眉間にしわを寄せて頭を抱えた。
やはり袁紹の味わう辛さも、本初にはもろに伝わってしまうらしい。

381:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/03/19 22:47:34 UZ5wuCQv
「ならば行くぞ。
どちらにせよ、あやつはここに連れてくるつもりだ。」

本初の許しを得て、袁紹はすぐさま剣を置いて立ち上がった。

 久方ぶりに、あの子に会える
 生前ですら、遠ざけてろくに会わなかったあの子に

袁紹は一瞬、親としての愛情に顔をほころばせた。

382:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/03/20 11:00:45 oi0JSGs4
渦巻く白い霧の中で、袁譚はしばらくまごついていた。
霧が晴れるまでは動かない方が良いと思ったのだが、しばらく待っても霧は晴れない。

(いっそ元来た道を戻ろうか…
あっでも、もうどっちから来たか分からねえ!)

霧は太陽の光すら覆い隠し、一面を薄い灰色に沈めてしまった。
方向感覚が狂い、あまりの白さに気分が悪くなってくる。

383:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/03/20 11:03:43 oi0JSGs4
そのうち、袁譚の耳をかすかな物音がかすめた。

(人がいるのか!?)

袁譚は飛び上がるほど喜んで、音の聞こえた方を向いた。
大方、自分と同じように青州城で戦死した死者だろう。
しかし、迷うにしても一人よりは誰かいたほうがいいに決まっている。

384:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/03/21 16:44:20 N5Y7f0sQ
「おーい、おーい!」

大声で呼びかけながら、袁譚は音のした方に走った。
霧の中で、かすかに動く影が見える。

 しかし、それは人間の影ではなかった
 地に伏せ、這い蹲るような…獣の影だ

(なんだ、人じゃないのか。)

385:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/03/21 16:49:00 N5Y7f0sQ
落胆とともに、袁譚は足を止めて肩を落とした。

(獣かあ…でも、鼻が利く動物の方がこんな状況だと便利かも。
臭いを辿って町とかに連れて行ってくれないかな。)

袁譚がそう思う間にも、獣は近付いてくる。
シルエットは、犬のようだ。
しかし、手を差し出そうとした袁譚の表情は一瞬で凍りついた。

386:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/03/21 16:57:08 N5Y7f0sQ
「ちょ、ちょっと待て、冗談だろ…!?」

袁譚は現れたモノのあまりのおぞましさに、震えながら後ずさった。

 それは、普通の犬ではない
 腐ったように肉が露出して、目から有刺鉄線が生えて体中に巻きついて
 恐怖と狂気だけを人に与えるような、そんな怪物だった

犬の怪物は、袁譚を見ると恨めしそうに唸り声をあげた。

387:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/03/22 09:58:42 YfXe2pNv
袁譚は思わず剣に手をかけ、抜き放った。
しかし、その手はがくがくと震え、まともに振れそうにない。

 感じるのだ。
 相手は初対面の、しかも犬の怪物なのに、
 まるで積年の恨みを晴らそうとするかのような深い怨念を。

怪物は袁譚に見せ付けるように、凶悪な牙の並んだ口をかあっと開いた。

388:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/03/22 10:02:19 YfXe2pNv
その顔が、歓喜に笑ったように見えた。

「う、うわあ!!」

袁譚は恐怖に耐え切れず、怪物に背を向けて一目散に逃げ出した。
後ろから、獰猛な咆哮が追いかけてくる。
ごうっと風を切る音と共に、袁譚の肩に鋭い痛みが走った。

389:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/03/28 21:43:24 PTaRDHi1
「つうっ…!」

袁譚は思わず肩を押さえて足を止めた。
押さえた手に、冷たい血がまとわりつく。

 怪物は、袁譚の前に軽やかに着地した。
 口には、袁譚の着物の破片をくわえている。

390:郭図
10/03/28 21:50:30 PTaRDHi1
もうすぐ年度が変わりますが、何と私、病院で働くことになりました!
なので、おそらく投下のスピードがこれまでより落ちるかと思われます。
殿もご病気になりましたら、ぜひいらしてくださいね。

ゾンビの方も、今は信用を得るために名を変えて別の作品を投下しておりますが、
2、3本書いてこの者ならOKと言われるくらいになってから三国志を再開したいと思っております。
いつになるかは分かりませぬが、殿を愛する限り、私は書き続けます。
これは私から殿に捧げる、想いの結晶でございますから。

391:袁紹
10/03/29 00:04:03 gv0N94Ov
ふむ、そなたは医療を生業とするのか。
公則ほどの者に言うのは釈迦に説法であろうが、
患者はそなたらに命を預けるも同じなのだ。仕事には全力を傾けよ。
儂はのんびり待っておるので、投下はそなたの余力あるを見極めて行うがよい。
そなたの儂に対する忠心はかつてより……ときに怖いほどよく分かっておる。
が、今は今の生活を第一に考えるように。それだけが儂の望みじゃ。

儂はといえば、相変わらず精神的に緊迫すると直ぐ体に出るでな。
もう少し頑丈であればあの時もあれほど間の悪い死を迎えずに済んだのであろうに。
ただ、病院はちと苦手なのだ。出来ればそなたと病院で鉢合わせるのは遠慮したいところである。

392:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/04/03 23:19:30 eMOcnVhc
袁譚は驚愕した。
袁譚の左肩の鎧は、討ち取られる時に外れてしまっている。

(こいつ、おれの弱点を狙って…!?)

こんな敵をまともに相手にはしていられない。
しかし、背を向けて逃げたとて同じ目に遭うだけだ。

393:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/04/05 19:51:31 Gg2loBpO
袁譚は焦燥に顔を歪め、チッと舌打ちして剣を抜いた。

(もういい、どうせおれは死んでるんだ!
逃げながら殺されるよりはマシだ!!)

死んでから殺されるという表現もおかしいが…袁譚は自分で思っておいて苦笑した。
白銀の刃を怪物に向けて、袁譚は意識して呼吸を整えた。

394:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/04/05 19:54:59 Gg2loBpO
怪物は、とびかかるタイミングを計るように地面を蹴っている。
袁譚は注意深く、剣を正面に構えて怪物に歩み寄った。
怪物が低い唸り声を立て、身を低くする。

「グゥアオ!!」

突如、怪物が再び袁譚の左肩を狙って飛び掛った。
袁譚は、思わず身を引いてしまいながら、それでも素早く剣を左に傾けた。

395:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/04/09 22:58:10 6lUiebez
ガツン…と、重い衝撃が剣に伝わる。
怪物の頭が、剣の刃に激突して割れる。

「よし!」

やはり、所詮は獣だ。
袁譚はほっとして、剣を納めようとしたが…できなかった。

 犬の怪物は、割れた頭をもたげてまだ唸り声を上げていたのだ。

396:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/04/09 23:00:43 6lUiebez
(な、何だこいつ!?)

袁譚は改めて身震いした。
頭が割れても生きていられる獣なんて、聞いたことがない。

「う、うわあああ早く死ねよお!!」

袁譚は恐怖に駆られて、怪物を滅多切りにしていた。

397:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/04/12 15:40:16 yAkn3t9L
ようやく怪物が動かなくなった時、袁譚は汗びっしょりになっていた。

(何なんだろう、こいつは…?)

袁譚はやっと、それが何であるかを考える余裕ができた。
しかし、考えたとて答が出るような代物ではない。
分かっているのは、自分は生きている間はこんなものを見たことがないということだ。

398:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/04/12 15:45:27 yAkn3t9L
だが、そいつの袁譚を見る目は、以前から袁譚のことを知っていたようだった。

(…もしかして、生きている人には見えないのかもしれない。
生きている間に、気付かずに怒らせるようなことをしたのかも。)

袁譚の頭で思いつくのは、そのくらいだ。
だが、本当は何を怒らせていたのか、袁譚は全く分かっていなかったのだ。

399:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/04/13 20:03:32 BSRtG//K
それから、袁譚は何度となく同じような怪物に出会った。
皆、袁譚を見つけると嬉しそうに尻尾を振りながら襲い掛かってくる。

(こ、ここは危険だ!
とにかく、ここから離れた方がよさそうだ!)

袁譚は霧の中から響く唸り声から逃げて、できるだけ一直線に走った。

400:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/04/13 20:05:42 BSRtG//K
どのくらい走っただろう。
袁譚はへとへとになって、とぼとぼと歩いていた。

「グルルル…」

また、近くで唸り声が聞こえる。
見れば、すぐ横に犬のシルエットが浮かび上がっている。

「う、うわあ!?」

401:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/04/17 21:12:44 wmciDXo9
震え上がった袁譚の手を、つかむものがあった。
驚いて振り向いた袁譚の前に、袁譚の腰くらいの背丈しかない子供がいた。

「お兄ちゃん、こっち!」

子供の背後には、建物と思しき影があった。
袁譚は子供に手を引かれて、転がり込むように廃屋に逃げ込んだ。

402:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/04/17 21:16:00 wmciDXo9
慌てて廃屋の扉を閉めて、袁譚ははあはあと荒い息をついた。

「危なかったね、お兄ちゃん。」

子供が、袁譚の顔をのぞきこむ。
その瞬間、袁譚はその子供の顔に懐かしいような感覚を覚えた。

(この子、誰かに似ている…?)

403:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/04/18 12:36:40 QWpgT/SX
袁譚は思わず、その子供の顔をまじまじと見つめた。
子供の顔には、確実に自分の知っている面影がある。
確か、自分は以前に、この子によく似た同じ年くらいの子供を見たような気がする。

 それは、古い記憶だった。
 まだ自分も成人する前、汝南の実家で…

(そうだ、こいつ袁尚に似てるんだ!!)

404:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/04/18 12:40:18 QWpgT/SX
その子供の顔には、袁譚の兄弟たちと同じ面影があった。
それに気づいたとたん、袁譚はその子供に親近感を覚えた。
もしかしたら、親戚の子かもしれない。

「君、名前は?」

袁譚が聞くと、子供は怯えたように目を伏せた。

405:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/04/21 20:29:24 u+SLKpqV
「言わないと、だめ?」

子供は消え入りそうな声で聞き返した。
その目には、深い憂いがある。

「言わないと、ぶつ?」

そこまで言われて、袁譚はしょうがないなあというように首を横に振った。

406:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/04/21 20:32:31 u+SLKpqV
「言いたくないなら、別にいいよ。
じゃあ、質問を変えようか。
君の姓は、袁だね?」

それを聞くと、子供は少しためらって、かすかにうなずいた。
袁譚の予想通りだ。

(この子はやっぱり、袁家の血を引いてる…。
でも、今生き残っている袁家となると…もしかして、父上の隠し子?)

407:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/04/25 11:01:59 p4ar7dxE
袁譚は知っている。
父である袁紹の死後、正妻の劉氏が妾とその子供たちを皆殺しにしたことを。

(きっとこの子も、そうやって殺されたか…。
それを逃れて青州に隠れていて、戦に巻き込まれたのかも。)

自分は確かに袁紹の長男である。
しかし、袁紹の子供を全て把握している訳ではない。
だいたい、青州の太守にされて遠ざけられてからは把握しようがないではないか。

408:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/04/25 11:06:29 p4ar7dxE
(ったく、おれを後継者にしてくれたら、ここまでひどい事はさせなかったのに。)

そう考えると、腹が立ってきた。
そもそも自分たちがこうなった原因は、父が三男を溺愛して自分を邪険にしたからではないか。

 だって、自分は今まで父に孝行してきたし
 何も悪いことなんてした覚えがないし

なぜ自分が邪険にされねばならなかったのか、袁譚には全く分からなかった。

409:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/04/26 14:10:25 Ic5vPXEM
「お兄ちゃん、怒ってるの?」

子供が少しだけ距離をとって、袁譚の顔色を伺うようにつぶやいた。
いつの間にか、怖い顔になっていたらしい。

「いや、おまえの事じゃないんだ。
ちょっと兄弟のことを考えててさ。」

袁譚は慌てて愛想笑いを浮かべ、子供を安心させるように組んでいた腕をほどいた。

410:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/04/26 14:15:25 Ic5vPXEM
それでも近寄ってこない子供の顔を、袁譚は改めて見つめた。
やっぱり、自分の兄弟たちに似ている。

(やれやれ、こいつも父上の偏愛と劉氏のせいでひどい目に遭ったのかな。)

もしかしたら、そのせいで怯えているのかもしれない。
袁譚は少し試してみるつもりで、子供に話しかけた。

411:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/04/27 20:06:13 wpvKY1qm
「なあ、おまえは正妻の子?
それとも妾の子?」

とたんに、子供はびくりと肩をすくめた。
驚いて見開いた目に、恐怖の色が浮かぶ。
袁譚は、子供の警戒を解くように語り掛けた。

「正直に言っていいんだよ、おれは妾の子供だからって殺したりしないから。」

412:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/04/27 20:08:49 wpvKY1qm
それを聞くと、子供はうつむいて、ためらいがちに答えた。

「ぼくは…妾の子…」

(やっぱりか!)

袁譚は心の中で手をたたいた。
やっぱり、この子は父袁紹の妾の子なんだ。

413:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/04/29 13:05:26 +2vBpP0m
ならば、この子をひどい目にあわせたのは誰か、すぐに想像はつく。
間違いない、劉氏にやられたんだ。

「そっか、それじゃあ、おまえも小さいのに苦労したんだな。
大丈夫だよ、おれは逆らわない奴には優しいんだ。」

そう言って子供の顔をのぞきこんだとたん、袁譚は思わずびくりと身を引きかけた。
子供は、心の中まで見透かすような暗い瞳で袁譚を見ていた。

414:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/04/29 13:09:29 +2vBpP0m
 子供が、ゆっくりと小さな口を開いた

「じゃあ、お兄ちゃんは、ぼくたちをどうするの?」

間延びしたような、心に引っかかる声で、子供は袁譚に問いかける。

「殺さないで、どうするの?
兄弟として、大切にしてくれるの?」

415:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/05/01 21:15:47 iW0/JFnW
袁譚の背中に、冷たい何かが流れた。
自分がこんな風に質問されるのは、全くもって想定外だ。

 子供は、蛇が這うように気味の悪い声で、言葉を続ける

「ぼくを撫でてくれる?
ぼくのお母さんとも仲良くしてくれる?
好きな時に、お父さんとお母さんに会わせてくれるの?」

416:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/05/01 21:21:26 iW0/JFnW
妙に具体的な例えに、袁譚はようやく答を考え付いた。
この子供が望んでいる生活が、どんなものか分かった気がした。

 だが、素直にうんとは言えない
 この子は妾の子
 名門袁家を継げる子ではないのだから

(かわいそうに、まだ小さいから世の中のことがよく分かってないんだ…。
ま、こういうことは小さいうちに教えてあげないとね。
それが、嫡流の兄の務めだし。)

一度ごくりと唾を飲み込んで、袁譚は自分が思ったとおりの答を口にした。

417:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/05/02 11:21:43 szUM4kWS
「殺さないで、生きていけるようにはしてあげる。
でも、君のお母さんと仲良くするとか、いつでも両親に会わせてあげるってのは無理だな。」

その瞬間、子供の目に涙が浮かんだ。
それでも、袁譚は諭すように平然と続ける。

「だって、君のお母さんはおれのお母さんから父上を奪ったのと同じだろ。
それに、君は、表に出られないってことは、平民の子だろ。」

418:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/05/02 11:26:33 szUM4kWS
血と膿と錆にまみれた世界で、裏の袁紹…本初は煮えたぎる怒りに頭を抱えた。
さらに表の袁紹から伝わってくる痛みが、千の針のように心を刺しぬく。

 このセリフは、かつて自分も言われたことがある
 そして、今のように何度も絶望のどん底に突き落とされた

(おのれ、袁譚め…!!
迷うことはない、こやつもどうせわしを救うことなどできぬわ!
わしが壊れる前に、さっさと地獄に落とせ、袁紹!!)

419:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/05/03 17:53:57 M7p3O0Q8
袁譚は、突然ひどい眩暈を覚えた。
周りの景色がぐにゃりと歪み、平衡感覚がおかしくなる。
ただ、目の前で泣く子供の声だけがいやにはっきりと聞こえる。

 うええーん 会わせて お父さん お母さん

その声も、耳を貫くような耳鳴りにかき消されていく。
意識を失う寸前に、すぐ近くで父の声が聞こえた気がした。

 袁譚…

それは、深い悲しみと、憎しみのこもった声だった。

420:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/05/03 17:55:41 M7p3O0Q8
どれくらい時間が経っただろう。
袁譚は同じ廃屋の中で、目を覚ました。
さっきの子供が、心配そうにのぞきこんでいる。

「お兄ちゃん、寝ちゃったの…?」

さっきの会話が嘘のように、あどけない表情だ。

421:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/05/04 20:35:47 IZLFZNtr
「ん、ん…?」

袁譚は、起き上がって子供の顔を見つめた。
さっきあんなに泣き喚いていたはずなのに、子供の顔にそんな気配はない。

(夢…だったのか?)

どうも頭がぼんやりしている。
子供は、そんな袁譚を気遣うように告げた。

422:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/05/04 20:40:37 IZLFZNtr
「あのね、お兄ちゃんが寝てる間にね、霧がちょっとましになったの。
でも、まだ変なのが時々いるから、僕一人じゃ怖くて…。」

その言葉につられて、袁譚は窓から外をのぞいた。
確かに、霧は薄くなっている。
白いカーテンの向こうに、別の建物の影が見えた。

 しかし、その霧はさっきより、ずっと冷たく感じられた
 霧がほおを撫でたとたん、袁譚はひどい悪寒を覚えてぶるぶると震えた

423:郭図
10/05/04 20:45:59 IZLFZNtr
「そういえば殿、お聞きになりましたか。
曹操殿の一日スレが滅亡したそうでございます。
墓が見つかってまた盛り上がるかと思いきや、
意外にあっけなかったですね。

敵が倒れるのは嬉しいですが、少し寂しいような気もいたします。
ちなみに、現時点で一番続いているのは、あの下ネタ地獄の劉備スレです。
何と言いますか…ああはなりたくありませんね。」

424:名無し曰く、
10/05/05 00:28:26 FPnbQUt0
言われてみれば見当たらぬな。Datの海に沈んでしもうたか。
奴にしてはしぶとさが足らぬことだ。
また奴の臣下が新しいスレッドを建てることを期待しておる。
墓はどうやら春になって調査が再開されるらしいな。
容姿の復元も目論んでおるとか。後世の人間があの顔をどう評価するか楽しみなことよ。

劉備のスレはあの程度だからこそ気軽に人が書き込み、続くのであろう。
彼奴のことだ、長続きしていることに喜んでおるだろうよ…。

我がスレはそなたが書き込んでおる限りそのような嘆かわしい事態にはならぬだろうが
そなたが去れば風前の灯となる可能性が大きそうじゃ。
無事完走出来ることを願っておる。頼むぞ、公則よ。

425:袁紹
10/05/05 00:29:11 FPnbQUt0
む、儂の名前を書くのを忘れておった。まあ大して問題なかろう。

426:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/05/05 11:51:08 g+51tI0x
悪夢行再開

(出ていきたくないなあ…。)

袁譚は本能的にそう思った。
しかし、ずっとこんな所にいてもらちが明かないことは分かっている。
霧がましになったなら、とりあえず外の様子だけでも見に行くべきだろう。

「しょうがないなあ、あんまり足手まといになるんじゃないぞ。」

427:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/05/05 11:54:40 g+51tI0x
着物のすそをぎゅっと握っている子供に、袁譚は語りかけた。
平民の子でも一応兄弟なんだから、さすがに放り出す訳にはいかない。

 扉を開けたとたん、霧が流れて袁譚の体を撫でる
 視界は多少きくようになったが、まだどこからか不気味な声が響いている

小さな弟を後ろにくっつけたまま、袁譚は白い世界に踏み出した。

428:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/05/06 19:02:27 Kui3kHSA
廃屋を出ると、そとは建物に囲まれた道の入り口であることが分かった。
袁譚自身、どこをどう走ってきたのか分からないが、とにかくここは市街地のようだった。

「離れるなよ、見失ったらもう面倒見きれないぞ。」

部下に命令でもするように言って、袁譚はすたすたと歩き出した。
子供は袁譚の速さに、小走りでついて来た。
それでも、袁譚が歩く速さを変えることはなかった。

 だって、なんで名族の自分が平民の子に気を遣わなきゃいけないんだ
 面倒見てやるだけで、十分慈悲深い兄じゃないか

429:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/05/06 19:07:52 Kui3kHSA
しばらく行って、袁譚はあることに気づいた。
これだけ歩いているのに、誰一人すれちがう人間がいない。
街は、まさにゴーストタウンといえるほど静かだった。

(家の中にいるのか…?
でも、大声で呼んだらあの変な犬が集まってくるかも。)

しーんとした空気の中、袁譚の足音と子供の荒い息遣いだけが響く。
子供はちょっと前から疲れてはあはあ言っているが、袁譚にはどうでも良かった。

430:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/05/08 21:36:30 cgDNwErd
突然、子供の足音が止んだ。

「ん?」

ふしぎに思った袁譚が振り向くと、子供は青ざめた顔で立ち止まっていた。
袁譚は少しいらついて、子供を急かした。

431:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/05/08 21:39:35 cgDNwErd
しかし、子供は立ち止まったまま袁譚のななめ前を指差した。
子供の足は、がくがくと震えている。

「お、お兄ちゃん…それ…」

袁譚が気付いて振り返ると、視界の隅に着物のすそが映った。

(なんだ、人がいたのか。)

432:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/05/09 19:58:31 VKJlojHd
袁譚は単純にそう思って、声をかけようと向き直った。
しかし、事はそう単純ではなかった。
霧の中から現れたのは、人間のようで人間ではなかった。

 顔に、無数の釘で板が打ち付けられている
 明らかに釘が頭から突き出しているのに、それでも息遣いが聞こえてくる
 それにこの召使のような上品な着衣…袁譚には見覚えがあった

(馬鹿な、有り得ない…どうして化け物がこの服を着てるんだよ!?)

433:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/05/09 20:04:16 VKJlojHd
袁譚の脳裏に、汝南の実家での記憶が蘇る。

 名門袁家に仕える、誇り高き召使たち
 ちょうどこんな服を身にまとって、家のために献身的に働いていた
 そして、さすが名門のお坊ちゃまですと袁譚に頭を下げて…

 その感触すら覚えているのに!

袁譚の背中を、嫌な汗が流れ落ちた。
さっきの犬の方がまだましだった。
訳の分からない怪物の中に見知った部分を見つけるのがこんなに怖いことだったなんて、袁譚は初めて気付いた。

434:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/05/10 22:19:53 KhcLxAOL
怪物は足を引きずりながら、近付いてきた。
手には、血のしたたる包丁を持っている。

(こ、殺される前に殺してやる!)

袁譚は素早く剣を抜き放ち、怪物に斬りかかった。
迷うことなく走りこんで胸に突きたて、そのまま横に振りぬく。

435:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/05/10 22:25:22 KhcLxAOL
どす黒い返り血が、袁譚のほおにかかる。
きれいな刺繍のスカートをひらつかせて、怪物が倒れた。

(ふん、化け物の分際で!)

袁譚の心に、罪悪感など生まれようはずがない。

 だってこいつらは、尊いこのおれの体に傷をつけようとしたんだぞ
 その罪は、当然のごとく死刑に値する
 それにもし人間だったとしても、こんな下賤な奴らの命など塵みたいなもんだ

436:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/05/13 21:40:27 AFZMH4Pl
だが、塵も積もれば山となるという言葉を袁譚は知っていただろうか。
子供が、突然震えながら袁譚にしがみついた。

「お、お兄ちゃん…後ろ、横も!」

はっと気がついて周りを見回せば、霧の向こうから同じような化け物が次々と歩いてくる。
幸い動きはのろいようだが、この数には恐怖を覚えた。

437:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/05/13 21:46:27 AFZMH4Pl
子供を突き放したのは、ほぼ反射的な行動だった。

「自分の命ぐらい自分で面倒みろ!」

そう言い放つや否や、袁譚は子供を置いて走り出した。
こんな子供を連れていたら、怪物に捕まって殺されてしまう。

 おれは名門袁家の当主なんだぞ
 こんな下賤の血が入った袁家の恥に付き合って落とすような安い命は持ち合わせていないんだよ

背後で、かん高い子供の悲鳴が響く。
普通の人なら後ろ髪を引かれるこの声にも、袁譚の心が揺れることはなかった。

438:郭図
10/05/13 21:59:30 AFZMH4Pl
「今気づいたのですが、劉備のスレもなくなってしまったようです。
これで残るはここと孫権のスレのみ…短い間にずいぶん寂しくなりました。
ゾンビの方も名を変えてせっかくうまくいっていると思ったら…
あそこは私がいてもいなくても、周期的に誰かをたたいて荒れるようですね。

ちなみに、以前袁譚様が率先してゾンビになりたいようなことを言ってらっしゃいましたね?
この悪夢行もそうですけど、恐ろしい体験ならいくらでもプレゼントして差し上げますよ!

ただ、殿が不快になられるとよろしくありませんので、
お望みであれば、今からならば悪夢行のこの章を多少救いのあるエンディングに書き換えることもできます。
いかがいたしますか? A:息子に救いを B:お任せ」

439:袁紹
10/05/13 23:45:47 3T9HZlLW
劉備のスレッドまで落ちたか。こうなれば孫権の一日スレより長続きさせたいのう。
ゾンビの方は、そなたが何と名乗っておるのか密かに知りたいところなのじゃが、無粋であろう。
そなたも含め、あそこの書き手の執筆への熱意には頭が下がる。良いスレッドじゃ。

譚は少し向こう見ずなところがあるから、多少肝を冷やす体験をしたほうが良いであろうがなぁ。
親の立場で言うなら、譚の地位をはっきりさせなんだのは儂の落ち度ゆえ
儂が代償を払うとも、譚の死後には救いを持たせてやって欲しい。
ただそれ以上に、儂の言葉でそなたの筆を曲げることは望まぬ。
故にそなたの問いにはBと答えよう。

440:郭図
10/05/15 20:53:13 SLuSuJzk
「御意、それでは私の筆のおもむくまま書かせていただきます。
ちなみに、これは殿が後継者として袁譚様を選ばなかったことに対して、
私なりに想像をふくらませた結果生まれた一つの答えとなっております。

真偽のほどはともかく、一つの物語としてお楽しみください。
では、悪夢行を再開いたします。」


441:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/05/15 20:57:38 SLuSuJzk
子供は、去っていく袁譚の後姿を呆然と眺めていた。
期待はあまりしていないつもりだった。
しかし、こうして衝撃を受けてみると、やっぱり自分は息子への期待を捨てきれていなかったのだろう。

 怪物たちが寄ってきて、次々と刃物や鈍器を振り下ろす

「楽になりたい、楽になっていい、楽になればいい」

違和感のない痛みの中、子供の意識が薄れていく。

442:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/05/15 21:03:56 SLuSuJzk
生きていたころは、死ねば永久に意識を失うのだから、楽になれると信じていた。
だから、自分を殺せば自分は楽になれるのだと…。

 この怪物たちは、そういう負の感情から生まれた
 結局は、自分を終わらせたがる自分の一部だ
 死んでもなお自分を殺そうとやってくる辺り、やっぱり自分と同じようにあきらめが悪いようだ

(でもね、僕は今ので分かったよ。
あきらめないと、どうしようもないことだってあるんだ…
それをあきらめることが、どんなに辛くても…ね。)

子供の体から流れた血が、霧に溶けるように消えていった。

443:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/05/16 16:30:38 p2w/2hj9
どのくらい逃げ回っただろうか。
袁譚は霧に包まれた市街地をとぼとぼと歩いていた。

 怪物は、倒しても倒してもきりがない
 街から出ようと思っても、逃げるのに精一杯で方向など把握するひまもない
 そのうえ、さっき子供を見殺しにしてから、なんだか空気が重くて余計疲れが増してきた

「はあ…はあ…一体いつまで続くんだよ?」

444:セイレーン ◆B/kjYNqf0w
10/05/16 16:34:51 p2w/2hj9
聞く人も無いのに無意味にぼやいて、袁譚はふと足を止めた。
袁譚はいつの間にか、大通りに面した角に立っていた。

 その大通りの風景に、袁譚は懐かしいものを感じた

(あれ、おれはこんな通りを前歩いたことがある…?)

霧に包まれてはっきりとは見えないが、確かに袁譚の記憶と重なる部分があった。
もっとも、その記憶自体もかなり昔のことなので、薄い霧がかかっているようなものだが。


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