11/09/15 21:52:50.30 Z5kS6Wt50
「あー、疲れたの～！」
もう９時を回っちゃってる夜おそく。
お家に帰ってバッグをテキトーに投げ出すと、ミキは居間のソファに倒れ込んだ。
ホントは部屋に帰ってすぐ寝ちゃいたいくらいなんだけど、お風呂にも入りたいし、
とりあえずソファでゴロゴロするだけで我慢するの。
「お帰りー。一応、美希の分のお夕飯とっておいてあるけど、どうする？」
ママがそう聞いてきたけど、今は動きたくないし、さっきちょっと食べたから、
「んー、食べたいけど、まだいい…」
って答えた。うつ伏せから仰向けに寝返りして、足をソファのはじっこの高い所にのっける。
なんかふくらはぎがパンパンになってる気がして、自分の足じゃないみたい。
「お腹すいてないの？」
「えっと、プロデューサーさんが…そうだ、聞いてよママ、プロデューサーさん酷いんだよ！」
顔だけママの方に向けて、さっきから不満だったことをママにぶつける。
「今日、新曲のダンスのレッスンだったんだけど、ミキはわりとすぐにできたの。
それで今日はもうオシマイだーって喜んでたのに、『この分なら美希はもっとできるから』って、
急にもっと難しいのに変更したんだよ？ それで今度はこんな遅くまで練習させられたの！」
思い出したら腹が立ってきたの。
ほんとは、すぐにレッスン終わりになってのんびりできて、こんなに疲れることもなかったはずなのに。
これなら、最初のダンスをもっとできないフリした方が得だったかもしれない。
「へー。そういうこともあるのね。それで、難しい方のダンスはできたの？」
「できたよ！ プロデューサーさんがイジワルするから、こっちのダンスもすぐ踊ってやるって
頑張ったもん。それでも夜遅くまでかかっちゃったんだから、やんなっちゃう。
やっとできた時にはヘトヘトだったの。プロデューサーさん褒めてくれたけど、なんか納得できないの……」
疲れた足をバタバタさせる。ちょっと間違えたりごまかすだけですぐチェックが入るんだから、
きっとミキをいじめて楽しんでたんだ。インシツなの。
でも、難しい方のダンスの方がカッコよかったし、本番で踊るのが楽しみだとは思う。
次にはプロデューサーさんも驚くくらいバシッと決めちゃうんだから。
「そんなに疲れたのに、ご飯いらないの？」
「そう、それを言うつもりだったの。プロデューサーさんがおにぎり持ってきてくれてたから、
レッスンの途中に食べたよ。栄養補給が大事なんだって」
プロデューサーさんの手作りのおにぎりだったらしいんだけど、レッスンでお腹ペコペコだったし
すっごく美味しかった。形もちゃんとしてたし、シャケのもあったし、ママより上手だったの。
「また作ってきてくれるかなぁ……。あっ、でもおにぎりじゃ騙されないよ！
明日、せっかく日曜日なのに、朝からお仕事入ってるんだって。
今日、レッスンでこんなに疲れたのに信じらんないの。明日早起きしなくちゃ」
おにぎりの事を思い出してちょっと良い気分になりかけたけど、明日の予定を思い出して
またやな気分になっちゃった。ちゃんとお布団で、早く寝ないといけないの。
「あらそう。何だか最近、ママよりも美希の方がお仕事してるみたいな感じねぇ。
でも、そんなに大変ならお休みをもらえたりしないの？」
「お休み？」
「ええ、無理なことまでやらせるような人じゃないでしょ、プロデューサーさん」
「ん～……ムリ、ってほどじゃないかもしれないの……」
言われてから気付いたの。今日のレッスンも大変だったし、明日のお仕事もめんどくさいけど、
やりたくないから休もうとは思わなかった。どうしてだろ？
「美希がアイドルなんて、長続きするわけないって思ってたけど、意外な感じね」
「むー、バカにしてるの？」
「違うわよ。なんだか嬉しいの」
ママは小さく笑って、台所の方へ行ってしまった。
ママが言ってた事、ちょっとだけ気になる。レッスンとかお仕事、めんどくさいって思うけど、
それをお休みする方がもっとヤな感じがする。なんでそんな風に思うようになったのかな？
……考えてもわかんないから、プロデューサーさんが持ってくるおにぎりが楽しみって事にするの。