11/08/25 02:12:57.26 d5JrskLr0
あの世界は「らせん構造」なんだよ
1年目より先の時代なんか無い、その後にあるのは記憶も経験も立場も綺麗に消えて1週目、プロデューサーが探しに来る日だ
プロデューサーも経験や技術は蓄積するけど、1年間自分が何をしていたかは恐ろしくおぼろげになるし
そのことを自覚することもない
ところが小鳥さんのインカムを付けてると、そのらせん構造から脱する事が出来る
『音無 小鳥』以外が付けていると姿形は変わるし、「代わりの新しい自分」が出現するけれど
記憶を受け継いで、１年を超えて765プロに居る事が出来るんだ
誰がそんなものを『音無 小鳥』に授けたのかは不明だけど
最初の意図としてはプロデューサーや社長以外の「保護観察者」を用意する目的があったんだろう
強制的に『小鳥さん』にされるのはフェイルセーフ機能で、おかしな矛盾をアイドルが次のらせんに持ち込まないためのもの
「この世界はループしているの！！」って言及してもハイハイまた妄想漏れてますよ、で済まされるからさ
元の『音無 小鳥』は消えてしまうけど、そんな重大な問題さえ無視出来るくらいに
恐ろしく長いスパンで実行される、されている、する予定のらせん構造なんだろう
ところが、何時か、何処かの『音無 小鳥』が、『天海 春香』にそれを貸し与えたんだな
目的は判らない ひょっとしたら、最初は長く何処までも続くらせんから消えてしまいたかったのかもしれない
とにかく、その魔法のアイテムは所有者を『音無 小鳥』から『天海 春香』移してしまった訳だ
1年間が終わったその日の夜、事務所で泣いている『天海 春香』があまりにも、あまりにも可哀想で
夜明け前の一番暗い夜の中で、今まで語らなかった、語っても無視されていた、あの時聞かされた「世界の秘密」に言及するんだ
「このインカムを付けたままここで朝を迎えると、ね そうすると春香ちゃん、貴方はまた去年のあの時に戻れるのよ
プロデューサーさんとお別れしなくてもいいの 春香ちゃんは記憶を失わずに、またプロデューサーさんに逢えるの
でも、 貴方は私になってしまう 天海春香は音無小鳥になってしまう
トップアイドルでも、天海春香でさえなくなってしまう 貴方をプロデューサーさんも『天海 春香』だとは思わない
『天海 春香』は、１年前の春香ちゃんはまた別に現れる
でも、プロデューサーさんとお別れしなくてもいいの 記憶を失わずに、またプロデューサーさんに逢えるの。
…どうする？ それでもいいなら、これを渡すわ」
春香さんに選択肢なんか無い
小鳥さんは『自分』がどうなるか言わない
ビル街の向こうが薄い紫になりはじめた頃、インカムを受け取って、頭に付けて、あちこちサイズの合わない事務服を着て、小鳥さんの席に座った『天海 春香』と
事務服から私服に着替えて、まるでこれから昼食でも食べに行くかのような身軽な『音無 小鳥』
じゃあ、私は帰るから、と、事務所のドアを通って表に出た『音無 小鳥』を見送った後、今更になって担がれたんじゃないかと不安になるついでに
じゃあ、『あの人』はこの後どうなんだろう？ってのに思い当たるのと同時刻
事務所の前で東の空を見ながら、少しずつ自分のすべてが薄く、軽く、透き通るのを自覚する
聊か履き潰したローヒールも、つい最近買ったばかりのブラウスも、すべてまとめて
自分がやった事は正しいのか これは『彼女』にとって慰めになるのか
…そもそも、自分はどうなのだ
この1年はどうだったのか
「私は幸せだったよ… ねえ、『小鳥さん』…」
そこまで思う間もなく、1年目がまた始まる
と、いう事なので
音 無 小 鳥 は 名 実 共 に 1 8 歳 な ん で す よ ？
い つ ま で も ！ ！