10/10/22 04:25:29 cYAxu7Aw0
■カラオケボックス（ランクＳ）
俺は、カラオケボックスで働くしがない大学生アルバイト。
今日も今日とて、店内を掃除し、飲み物を用意し、終了時間を管理し、レジを打つ。
そんなルーチンワークの毎日を送っていたんだが、あるアイドルがやって来た事で、日常は変わった。
「いらっしゃいま…………あ、ど、どうもこんにちは」
「こんにちは、いつものお部屋空いてますか？」
「ど、どうぞどうぞ！！あ、お飲み物はいつものを、いつもの時間で宜しいですか？」
「ええ。よろしくお願いします」
いつもどおりの受け答え。俺は極めて真面目で冷静な店員を装ってはいたが、心臓はバクバク言ってる。
だって、変装しちゃいるけど……今の客、明らかに国民名誉賞を取ったアイドル、如月千早なんだぜ！！
なんでも、俺がバイトに入る前は、アイドル・天海春香に連れられてやってきたとバイトの先輩から聞いた。
しかも、カラオケ超・初心者だったらしく、飲み物持って来たらそのまま凍ったように停止したとか、
リモコンの使い方がサッパリだったとからしいが……今はそんな事嘘みたいだ。
カランカラン……
「あ、いらっしゃいませ」
「どうもこんにちはー♪五人部屋、空いてます？３時間飲み放題の野菜スティックパックで！」
「は、はい！天海春香様ですね。いつもお世話になっております……ところで、五人部屋？待ち合わせでなくて？」
「………え？」
実は、この人もちょくちょくうちに来てくださる常連さんなんだよね。
軽く変装しちゃいるが、帽子の下にはトレードマークのリボンがふたつ。
如月千早よりランクはちょっと劣るが、存在感はそれ以上。なのに不思議と個性が無いという良く分からないアイドル、
天海春香とは彼女の事だ。ちなみに彼女、お菓子を制限しているのか、異様に野菜スティックを食ってる。
「……そうですか、失礼しました。えーと……その、如月様が先にいらしてるので、てっきり待ち合わせかと思いまして」
「えええぇぇっ！！千早ちゃん、来てるの？本当に？」
「はい。シングル三時間・初回サービスドリンクセットでよくいらしておりますが……」
「うぅう……なんてこと千早ちゃん！一人カラオケなんて、寂しい真似を……お母さん、悲しいわ！！
このままじゃ【友達いない→一人カラオケに引きこもる→やがては便所飯までエスカレート→孤独なアイドル生活→死】
という最悪のコンボに！！死んじゃう、わたるが……じゃなくて千早ちゃんが死んじゃう！！」
「あ、いえ……多分、練習に来てるだけなんじゃ……」
「練習ならうちの事務所に専門のスタジオあるもん！！本人に事情を聞くよ、店員さん、何号室？」
「Aー072号室ですが……少々お待ちください。曲のタイミングを見て入りましょう」
実は何度も彼女の部屋に飲み物を運んだおかげで色々分かった事だが……やはり曲の途中にお邪魔してしまうのは
ばつが悪いらしく、基本的にタイミングを見計らって入る事にしている。
そりゃ、団体で来てる他の客にそんな事はしない。タイミングが取りづらいし向こうも気にしないし。
でも、如月さんの場合は色々、接客上の細かいルールがあるんだよ。主に俺が作ったんだけど。
まず、歌いに来てるんだから喉の粘膜を落とす系の飲み物（烏龍茶など）は絶対にダメ。
……その割には、天海さんとか平気でお茶系の飲み物頼んでる気がするけど。
次に、基本的に歌ってる途中で固形物は取らない。液体やゼリーなどはいいが、ゴロゴロしたものを
腹に入れるのは、それだけで喉から胃にかけての反射が変わる気がするからこれもダメだとか……
（それなら天海さんの野菜スティック食べまくりもどうなんだと思うけど）
科学的根拠には乏しいが、要は本人がそこまで喉と声に気を遣っていると言う事だ。
あ、そろそろ一曲、終わるな。フェードアウトするタイプの曲だしもういいだろう。
「失礼します。お連れのお客様らしき人が……」
「千早ちゃん！！寂しいならどうして私を誘ってくれないの！？」
「は、春香！？」
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