10/09/20 23:23:12 OMWIH1QP0
<グッドとノーマルの間> ランクA
ドラムの連打が止まり、乱舞していたスポットライトが集束する。
「優勝は……日高舞さんです!」
アイドルアルティメイト決勝戦。そのコールを聴いた途端、舞台袖で見守っていた俺は自分の中で、なにかが壊れる音を聞いた。
「それでは、舞さんに唄っていただきましょう……『ALIVE』、どうぞっ!」
大歓声に包まれる会場を背に、俺は顔を伏せ、駆け足で控え室へと逃げていった。
涙は、見られたくなかった。
「畜生、畜生、ちっくしょう……」
あずささんの控え室。
俺はひとり、拳で壁を殴りつけながら泣いていた。
10対9、いや、100対99の差もなかった。歌もダンスも、もう少し、本当にもう少しだったのに。
とうとう俺は、勝てなかった。
(まかせてください! あずささんはこの俺が、必ず、トップアイドルにしてみせます!)
(まあ、うふふ……。頼りにしていますよ、プロデューサーさん。一緒に頑張りましょうね)
あずささんとの約束を、守れなかった……。
何分、何十分そうしていただろうか?
「……プロデューサーさん……」
背中から呼びかけるためらいがちな声に、俺は壁を殴る拳を止めた。
「……あずささん。……俺……俺」
合わせる顔が無かった。俺は歯を食いしばって嗚咽を堪え、皮膚が裂けた拳で涙を拭おうとした。
その俺の腕を、すっと暖かい手が握った。
「……あらあら。こんなにしちゃって、仕方ありませんねえ」
何気ないその口調に、俺は思わず振り向いた。
「ほら、手を出して。ばい菌でも入ったらどうするんですか、プロデューサーさん?」
あずささんはいつもと変わらず、その柔らかな美貌に、聖母のような微笑を湛えていた。
ステージ衣装の懐から白いハンカチを取り出し、血塗れになった俺の右拳を包んでくれる。
「はい、これでよし」
にっこりと微笑むあずささんの前で、俺はうな垂れた。
「あずささん……ゴメン」
「まあ? 何を謝るんですか、プロデューサーさん?」
「俺……約束を……」