10/09/11 03:00:54 ksaVMNVe0
■ボーカルレッスン(ランクE)
全国一万人前後のファンの皆さんこんにちは!天海春香です!!
一応、マイナーで駆け出しとはいえ、アイドルというお仕事をしてる以上歌はお仕事なのです。
そして、その歌に関しては大好きですし、大抵の苦労ならへっちゃらだと思っていたんだけど……
「んー……それじゃダメだな。声に伸びがない。しょうがないから今日はこれまで」
「えー!?そんなぁ……もう3日もおんなじとこで失敗してるなんて……」
「多少もどかしくは感じるだろうけど、人にはペースと言うものがある。今の春香なら
これくらいでもいいさ……リミットとか会社の経営とかは気にするな」
今日も、プロデューサーさんからのOKは出ませんでした。
大好きなこととはいえ、こうまで結果が出ないとけっこう凹むんだけど……
うちのプロデューサーさんは、人のお尻を叩いて結果を出させると言う方針が嫌いなようです。
そのかわり『最後まで面倒見るし、責任持つよ』という、大変懐が深くて素晴らしい人だと思います。
……ただ、同じくらいにデビューした千早ちゃんはもう、ひとつ上のランクになってるんですよね……
千早ちゃんは『歌が好き』というより『歌こそ全て』みたいなオーラをしょってる人ですが、
わたしだって真剣にレッスンに取り組んでるんだけど、こうも結果が違うと落ち込んじゃいます。
ここはお友達として、ちょっとだけその才能の秘密を聞いちゃおう!!
「ねぇねぇ千早ちゃん!昨日のレッスン、凄かったよね……どうやって考えたの?あんな歌い方」
「あ、春香。そうね……この辺は、燃えるような感情を込めて、でも激しい炎ではなく、
閃光のようなイメージで歌うと、良い曲になると思うの」
「???」
「あ。ごめんなさい……分かりにくかった?つまり、このサビに向けて少しづつ溜めがいるとするでしょ?
この時、歌の中にいる女の子はどんな感情でいたかを考えたらいいと思うの。
悩んで、考えて……もうどうにかなりそうな時に、稲妻のような希望が降り注ぐイメージね」
な……なんかよくわからない……しかも千早ちゃん、歌のことだったらけっこうテンション高く喋るから、
聞くだけで精一杯で、とてもイメージを膨らませるとかのレベルじゃない!?
「え、えーとね、千早ちゃん……それ、自分で考え出したの?歌の表現としてはちょっと特殊かなーなんて」
「確かにそうかもしれないわね。昨日の朝方に、8キロくらい走った最中に閃いたから、まだ人に
具体的に伝えられてないかも。ごめんなさい。わたし、歌以外で説明するって下手で……」
「朝方!?しかも8キロ!?」
「ええ……恥ずかしい話だけど、わたしって友達とかあんまりいなくて、休日に遊びに行ったりも
出来ないから、寝るとき以外はだいたい、歌のイメージばかりしてるの。
よくプロデューサーに、食事中に上の空だったりで注意されるわ」
「寝るとき以外って……もしかして、お風呂も、トイレも?」
「そうね。寝ているときも歌のイメージを探って彷徨い歩いている夢をよく見たりするわ。
お風呂やトイレは、開放的な気分になるからか……サビの部分がよくイメージできたりするの。
先週ランクアップは果たしたけど、まだまだ次のランクへ行っても恥ずかしく無いような歌に仕上げるには
遠くてね……わたしの未熟さを、歌に対して申し訳ないと思うわ……作曲家の先生達の血が篭ったものをお預かり
しているのだから、100%その魂を表現してこその、プロの歌い手だと思うから」
前言撤回……才能がどうとか言ったわたしの馬鹿!!
千早ちゃんこそが努力の化身みたいな人だったんだ。
だってわたし、765プロへ通う電車の中とか、友達と遊んでる時とか、家族でご飯食べてる時とか……
そこまで歌ってないもん。勿論、何もかも犠牲にして歌に突っ込めと言われてるわけじゃないのは分かるけど、
安易に才能とかいって、血の滲むような訓練を見過ごすような人間にはなりたくない。
わたしは、まだまだ練習もなにもかも足りなかった。それだけなんだ!!