10/09/02 17:55:35 EhVNT5Me0
最近の伊織は、俺に文句を言わない。
なんでだろう、と考えた。思い当たることが一つある。
仕事が忙しいのだ。伊織のプロデュース、山のような事務処理、
電話やら来客やらとの交渉ごと、取引先へのプレゼンテーション。
うまくこなしていると思ったけれど、ひとつだけ犠牲になっていた。
伊織をからかうヒマが、なくなっていた。
伊織は順調に営業もレッスンもこなしているし、不平のひとつも
言わずに俺についてきてくれている。けれど、それは俺を
気遣っているのだと思い当たった。もっと早い段階だったら
ケンカもしたろうし、なにより彼女がとっくにキレていただろう。
俺を信頼してくれている伊織に、俺が乗っかってしまった。
心配している素振りを見せられないくらい、俺を心配しているのに
気づけなかった。
オフがとれたよ、伊織。
これからお前をからかいに行くから、思いっきり罵倒してくれよ。
お前に赤面もののジョークを仕掛けるから、力いっぱい蹴ってくれよ。
おでこに塗る墨と、スカートをひらめかせる巨大扇風機と、
マヨネーズとふっとい長ネギとハケ水車を用意したから、
今から思いっきり遊ぼうな、伊織。