11/07/29 19:12:22.73 HvCPRf+3
消えたナイフ
吾輩は殺人鬼である。
だが、ただの殺人鬼ではない。
吾輩は自身が使用した凶器を、現場から消し去る事が出来る。
例えば―。
今回のターゲットは、屋敷二階の一室に引きこもっている足の不自由な少女である。
まずは屋敷のチェックを行う。―うむ、なるほど。
現場を探偵が見れば、解へと辿り着くのは容易であるかもしれぬな。
因みに、吾輩は現在三階のトイレに潜伏している。
あらゆる殺人を実行する前は、吾輩とて緊張してしまうのだ……。
それにしても豪邸のトイレというのはやけに広いのだな。これでは落ち着かぬではないか……。
さて、気を取り直して。
吾輩は三階廊下に出て、移動開始。U字階段を踊り場まで下りると、ターゲットの部屋が見えてきた。
階下にはターゲットの少女の部屋への扉、そして扉の前にガードが一名いるな。
【吾輩が今回使う凶器は果物ナイフである。】
だが、【少女の部屋に入るには、ガードが持っている金属探知機で身体チェックが行われる。】
【果物ナイフは金属探知機に引っ掛かるな。】
少なくとも、【果物ナイフを持ったまま、部屋に入る事は不可能だ。】
吾輩は急ぎ階段を駆け下り、ガードと対話する。
部屋に入るには金属探知機でのチェックが行われる。
【吾輩は金属探知機による身体チェックを実施され、異常無しと判定された。】
……。
吾輩は少女の部屋に侵入し、扉を閉めた。
勿論施錠したぞ。つまりこの瞬間、【少女の部屋は密室状態だった。】
ほう、これは中々どうして。吾輩の為にあるような部屋だな。
【吾輩は果物ナイフで少女を殺害した。】
彼女の為である。楽勝であったな。
そして吾輩は少女の部屋を出る。
ここで少し驚いたのだが、少女部屋を出る時にも金属探知機によるチェックが行われるらしい。
【しかし当然、吾輩は金属探知機によるチェックをクリア。異常無しである。】
吾輩はそのまま屋敷を出て、外に落ちている果物ナイフを確保。
少女に黙祷を捧げ、次の仕事場へと向かうのだった。
さて、吾輩は無事に少女を殺害出来たわけだ。
だがおかしな点があるな、そうであろう？
―どうやって果物ナイフを少女の部屋に移動させ、どうやって果物ナイフを屋敷の外に移動させたのか？
まるでパッと現れ、パッと消え、パッと少女の部屋や屋敷の外に移動したようではないか。
尚、特筆が無い限り、果物ナイフはナイフと省略、少女の部屋を部屋と省略する事とする。