10/12/27 21:14:16 OvaN/+I70
年末なので よろしければどうぞ
「もう今年も終わりますね」
「ああ、そうだな……」
宿の一室の明かりは、夜更けになっても消えなかった。
ぶどう酒の瓶とグラス、それにランプを挟んで、テーブルにはふたりの男女……
ラムザとアグリアスの影が揺れていた。
暖炉には火が入っていたが、やけに冷え込んでいる。明日は雪になるかもしれない。
「飲まないのか?」
「……もう十分頂いてますよ」
少し頬を赤く染めたラムザが微笑む。もともとあまり強くない。
「……結局、今年も奴等に振り回されて終わってしまったな」
アグリアスはグラスのぶどう酒をぐっと飲み干した。その言葉に多少の悔しさが滲んでいる。
獅子戦争は一旦の終結を見た。畏国民の生活も元に戻りつつある。
しかし、ラムザの戦いはまだ終わらない。この戦争を裏で操っていた黒幕、そして、
さらわれたアルマを追い続けていた。
畏国全土をめぐり、それでもなかなか辿り着かない。
「……すみません」
「貴公の責任ではない。相手は狡猾だ。そんな相手に我々のできることは、真正面から正々堂々、
包囲を狭めて追い詰めてゆくことだ。違うか?」
空になったグラスになみなみとぶどう酒を注いで、アグリアスは言った。
「いえ、その通りだと思います。僕たちまで相手の調子に合わせる必要はないでしょうから」
「その通りだ。我々は我々のやり方がある。貴公もそれを貫けばよい」
アグリアスの考えは明確である。正々堂々、相手と対峙して戦うこと。細々とした策は不要であった。
この人らしい、真っ直ぐな考えであった。
話しながら、アグリアスのグラスのぶどう酒はもう空になっていた。もう相当飲んだはずだった。
「ん?……もう空か」
アグリアスはぶどう酒の瓶を振って言った。
「もうこの辺にしておきましょう。明日に響きますよ」
「ああ……そうだな。飲んだな……」
天を仰いで、ふうっと息を吐くと、アグリアスは椅子から立ち上がった。
と、アグリアスの足元が少しふらついた。
「あっ!」
咄嗟にラムザが立ち上がって、アグリアスの体を抱きかかえて支えた。
「あ……す、すまない……」
「もう……少し飲みすぎですよ」
ラムザの手を振りほどく事もないまま、アグリアスはラムザの腕に体を預けていた。
自分よりも細くて頼りないくせに、誰よりも強く逞しいその腕。
「……私は……」
その腕に抱かれるたびに、私は騎士から女に変われる。
「この先も……貴公と共にゆきたい……いいだろうか」
潤んだ目で、アグリアスはラムザの瞳を見つめた。
「もちろんです……これからも、ずっと」
ふたりの影が一瞬交錯して、離れた。
「ふふっ。今年も、僕のそばにいてくれて、ありがとう。来年も、どうか僕のそばで、共に戦ってほしい。いいだろうか」
「う……うん。もちろん……だ」
ランプの火がジジ……と音を立てる。そろそろ油が切れる。だけど、放っておけばいい。
ラムザはアグリアスを抱いて、ベッドへと誘った。
ふっと、部屋の明かりが消えた。
差し込む冬の月の冴え冴えとした光が、青白くふたりを照らしていた。
終わり