10/12/24 22:45:17 fKqrecyK0
※BCFF7でクリスマスネタな捏造SS。
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『Happy Christmas for you.』
暗闇の中を、音を立てないようにして進む。慣れた場所で、しかも前職柄(?)、この様な事は造作ない。
ただ、目的が目的なだけに内心穏やかでいられなかった。
袖と裾に毛のついた紅い衣装を着、昼間梱包した物を片手に部屋の前に立つ。
いつもなら、ここでノックする所だが、今夜は出来ない。
ノブにゆっくり手をかけ、そっと引いて開く。室内に薄明かりが出来た。
足場がゆったりとある床に爪先から踵へと慎重に体重を移動させ、前進する。
ふと、首元がひやりと感じた。
振り向かなくても、何が起こったのかが想像ついてしまった。
「こんな夜中に他人の部屋に入るとは」
何が悲しくて娘に刃物を突き付けられるのだろう。しかも、本人は寝ぼけているらしく、誰に刀を向けているのか
分かっていないようだった。俺は思わず、両手を挙げる。
「父さん」
何とも情けない状況だった。しかし、ここでばれるわけにはいかない。
「“父さん”じゃない、サンタさんだ」
取り繕う。
「では、その“さんたさん”とやらが、私に何の用だ」
振り向くと、彼女の眼が、すわっていた。
怖。
「いや、その、プレゼントを届けに」
観念するしかなさそうだ。
「何故?」
詰問されるなんて。
「今日、く、クリス、マス」
「くりすます」
手元が、漸く緩んで刀が離れた。そして、彼女は朧げな思考回路を回転させているようだった。
頭の中にある自分の辞書から該当する単語を懸命に引こうとしているが、中々見つからないらしい。
「め、メリークリスマス」
動きが止まった、今が好機。
裏返ったような声で言った後、プレゼントを渡し、逃げるようにして娘の部屋を出る。これ以上、奇妙な重圧に耐えられそうになかった。
「おはよう、父さん」
「あ、ああ。おはよう、フェリシア」
あれから、寝るに寝られず、結局リビングで一夜明かした。
娘は、昨夜の事は覚えていないようだ。
「これ、何かな」
朝起きたら持っていたという、夜俺が渡した包みだった。
「開けてみたらどうだ」
「開けていいのかな」
自分のものか疑わしくて開けられないと言った。
大丈夫だ。そう言って開くように促す。
黄色のリボンを解き、柊の模様が入った季節感ある包装紙を丁寧に広げていく。
数時間前の一騒動で、端が少し凹んでしまった細い箱を取り出した。
「これは」
不慣れな宝飾店で偶然見つけた、娘と同じ名を持つ花をモチーフにしたネックレス。小さめだが、花弁の部分にはブルーダイヤが使われている。
娘に対する、初めての贈り物だった。
ふわり、と身体が包まれる。
「ありがとう、父さん」
腕をそっと回した。
サンタには、なりきれなかった。でも、これで良かったのだ。
幸せな時が過ごせるのだから。
<fin>
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・親馬鹿スキルがありそうに見えて仕方がない、そんなヴェルド氏に頑張ってもらいました。