10/08/13 01:52:55 e81ey5Xh0
前話:>>98-102
※Part8 542-546から続く場面です
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無惨に積み上げられた残骸だけを映し出していたモニタを、これ以上眺めていても仕方がない。
けれどユフィの視線は動かなかった。
こうして1階での遣り取りの一部始終を見届けたユフィは、次にどうすればいいのか分からずに、
無言のままでその場に立ち尽くしていた。
頭の中で考えている事はたくさんあるのに、いつものように言葉が出てこなかった。自分の行動を
「過去から逃げるために前を向いている」と言ったリーブが正しいとはどうしても思えなかったし、反論
だってしたかった。実際そうしようと何度も口を開きかけたが、結局なにも浮かばずに口を閉ざした。
知っているありったけの言葉を使って抗弁したところで、自分の正しさを証明することはできないと
思った。かといって行動で示そうにも、どうしたらいいのかが分からなかった。だから黙って立っていた、
そうすることしかできなかった。
あるいは、そうすることしかできないと無意識のうちに思い込もうとしていたのかも知れない。
こんな風に黙っている事しかできないユフィを、リーブは否定も肯定もしないでいてくれた。その事に
ユフィは心のどこかで安堵しているのにも気がついていた。そんな自分が余計に腹立たしかった。
どうすることもできないまま、モニタに向かうリーブの背中を見つめているだけの時間が過ぎていった。
長い長い沈黙は、リーブが手元のパネルを操作する音で呆気なく終わりを迎えた。
それまで目の前に並んでいたモニタには、建物の内外を問わず様々な場所が映し出されていたが、
パネル操作によって全てのモニタの映像が建物外の風景に切り替わった。並んだモニタが全体で1つの
大きな窓を作り上げ、そこから森の彼方に沈みゆく太陽が作り出した美しい夕景を望むことができた。
画面右下の隅には現在時刻を示す数字が並び、休むことなく時を刻んでいる。
映し出される景色も、表示される時刻も、この地に訪れる日没まで間がないことを知らせている。
「少し……」言いながら振り返ると、リーブは柔らかな口調で告げる「意地悪をしてしまいましたね」。
「え?」
「人が前を向けば、必然的に背は後ろに来ますからね。どこにも間違いはないんです」
ちょうど今みたいに。