10/06/25 14:26:31 UAfEAr/40
陽だまりの中、戦士はふたたび歩みかけ・・・そしてまたふたたび、足を止めた。
そして、わずかにその己の歩んできた背後を、振り返りかけたようにも、見えた。
戦士は、確かに、逡巡していた。
はるけき過去の追憶か、白昼の刹那の幻想か、それは知る由もなかったが、たしかに戦士の心は過
ぎ去った何かを追っていた。
戦士が立ち止まっていた時間はほんのわずかな時間に過ぎなかった。ほんのわずかな時間に過ぎな
かった、ではあるが、戦士には永遠に等しかったかもしれない。
しかし、戦士は振り返らなかった。心はどうあれ、その身でそれをすることは戦士には許されない
ことだということは戦士にとって、あまりにも明らかに知悉(ちしつ)されたことだったのだ。
―…ここに来る前の物語だけが思い出ってわけじゃないだろ?…―
止まった時の中で、最初に自らの胸を指差し、湖畔へと還っていった「思い」の言霊(ことだま)
が戦士の胸のうちに木霊(こだま)する。
―…もしオレたちが別々の世界に帰って別々の道を歩むんだとしてもさ…一緒に戦ったこと…たまに
は思い出してくれよな!…―
それは太陽のように明るく溌剌とした、それでもどこかに深いかげりを背負った青年が戦士に向け
て口にした願いだった。
―忘れはしない…―
それは、
それこそは、
そこまでずっと沈黙していた・・・ほかならぬ戦士自身の思いだった。
(忘れるものか・・・)
それは、戦士とひと時たしかに寄り添い、ともに歩み、そして、いつとも知れずに別れ、
いずくへとも知れず帰っていった九つの「思い」たちへの、戦士の確かな誓い。