10/06/25 13:16:59 UAfEAr/40
あふれんばかりの光の乱れ散るどこまでもすみ切った気層のなか、まばゆいばかりの陽だまりのなかを、
一人の男が、歩いていた。
その身にはマントと腰布を備えた、濃紺の厚い鎧をまとい、両手には剣と盾が握られている。
青年―と言うには大人びすぎ、かといって中年、と言うには若すぎる。雰囲気は壮年のそれであり、男はその外見の
若々しさからは計り知れないほどの歴戦の重みを、見るもの全てに直観させそんないかなる者の目
からもそれ、と知られるような―
戦士、だった。
そこは平原を臨む林野と湖畔の接する街道で、戦士はいずこからかやって来た旅人らしきことは窺い知れた。
しかし、どこから?
その身にまとう鎧はいずこかの国の戦士団、騎士団のものにしてはあまりにも意匠が凝りすぎている。集団戦の命題として必要な
意思の統一を測るために簡略化され規格化されることが常である軍装(ユニフォーム)とはあまりにも趣を異にして、かけ離れすぎていた。
まず目を引くその兜から雄牛のそれのごとく天に突き出た角は、戦場の指揮官がときおり示威のために用いる装飾にしては長すぎた。
むしろ、頭頂に突き出た突起とそこから出る飾り毛がそうした装飾の意匠につうじるものとは思えたが、そのなかば冗談のような二本角と
合わさることで、戦士が全体として醸し出す非現実的な雰囲気に奇妙な現実感をも、わずかな彩りとして添えていた。
身を覆う兜と同じく濃紺の鎧は、パーツのひとつひとつが戦士の細身ながらもたくましい肉体にフィットし、重厚でありながらも武骨さ
を一切感じさせず、兜とともに統一感をもって、戦士の引き締まった身体を際立たせていた。
おそらく、それなりの身分と財力をもつ騎士がその道の一流の職人にオーダー・メイドし、採寸に慎重に慎重を期したとて、これほどの
一体感は出しえなかっただろう。戦士とその武装の一体感は、まるで両者が両者の意志でもって両者を求めているがごときものだった。
―蛮族の鎧(バーバリアン・メイル)―
ある限られた領域を城壁で仕切り、その内部に自分たちの秩序を布(し)く文明人ならば戦士の鎧を、あるいは、そう呼んだかもしれない。
己の領域の外で造られ、戦士同様、未知の領域から現れたものとしてみなすならば、その呼称も正しいと言えたかもしれない。