FFの恋する小説スレPart10at FF
FFの恋する小説スレPart10 - 暇つぶし2ch100:ラストダンジョン (366)   ◆Lv.1/MrrYw
10/05/04 02:07:59 O6HUDhoT0
「……私達の行為やあの都市も、過ちとして後世に伝えられるのかしら」
 ぽつりと零したダナの言葉に、ナナキが振り返って問い直す。
「どうしたの?」
「ごめんなさい。ちょっと昔の事を思……」そうだ、とダナは足を止める。本来モンスターは群れを成さな
い。しかし、今日ほど大きな規模ではないにしろ、過去にもモンスターの群れに足止めされソルジャー
部隊の派遣を要請した事があった「……そう、ミッドガル建造中!」
 思考過程の断片だけを拾った言葉を聞いていたナナキには、ダナが何のことを言っているのか分から
なかった。少し先を歩いていたナナキも足を止めて振り返ると、もの凄い勢いでダナが駆け寄って来た。
「ねえあなた、ガードハウンドの群れを追っていたと言ったわね?」
「う、うん」ダナの勢いに圧倒され仰け反るような格好でナナキは答える。
「群れが向かった方角、教えてくれるかしら?」
 それからダナはポケットをまさぐった。いつもあるはずの携帯電話が手元にないことに気付くと、あの
とき落としたままだった携帯電話も自分と一緒に車から放り出されてしまったのだと知る。
 仕方なくダナは転がっていた石を使って地面に略地図を書いた。エッジを出た後、シャドウ・フォックス
が取っていた進路を矢印で書き込むと、さらにナナキが合流した地点を憶測し×印も加えた。
「ガードハウンドはどっちに向かっていたのかしら?」
「ええと、……こんな感じかな」
 ナナキは前脚を使ってガードハウンドの群れが進んでいた方角を書き足した。
「南南西? 本当にこれで間違いない?」
 確認の問いに頷くナナキを見て、ダナは期待が外れたという口ぶりで言った。「そう。……てっきりコン
ドルフォートに向かったと思ったのだけど、違ったのね」ここからコンドルフォートへ向かうには大陸を
南東方向へ進む必要があったが、ナナキが指した方角は違っていた。
「どうして?」
 ナナキが尋ねると、ダナは先ほど思い出した「昔の話」を聞かせた。
 それはミッドガル建造中のある日、神羅が手配した資材運搬車両が次々とモンスターに襲われた。
それ自体は珍しいことではなかったが、その遭遇数が異常に多かったために運搬が捗らず、後日
ソルジャー部隊に大規模な掃討依頼を出したという出来事だった。
「それが、ちょうどミッドガル魔晄炉の試験稼働の時期と前後するの。それだけじゃないわ、地方の
魔晄炉勤務者が集団で失踪するという事件も、最終的にはモンスターの仕業だったと言う話も聞いたわ。
それで、魔晄炉とモンスターには何か関連性があるものと思ったのだけど……」
 そもそもコンドルフォート魔晄炉も、6年前から稼働していない事をすっかり忘れていた。ダナは自分の
早とちりに気がついて、照れ隠しの笑顔を浮かべた。
 ところが、話を聞いたナナキは意外な反応を示した。
「……そうか、ニオイだ!」
「え?」
「たぶんニオイのせいだと思う。ええと……魔晄炉の、って言えばいいのかな?」

101:ラストダンジョン (367)   ◆Lv.1/MrrYw
10/05/04 02:15:48 O6HUDhoT0
「魔晄炉の……におい?」そんな物があっただろうかと、ダナは首を傾げた。
 ナナキは言葉を選びながら、人間であるダナにも理解してもらえるように説明を試みた。
「オイラ達はみんなよりも嗅覚が発達している……と思う。それで、魔晄炉のニオイ……みたいな物が
分かる」正確にはニオイとは異なるもので、草花や動物の発する匂いの様に嗅覚で感じるのではなく、
もっと体感的な物なのだとナナキ自身は考えていたが、敢えてニオイと表現したのは、それがもっとも
近い言葉だと思ったからだ。
「だからモンスターの群れはニオイに引き寄せられているんじゃないかな? 団体行動は苦手だけど、
それぞれが魔晄のニオイを目指した結果なんだと思う。オイラ自身も群れを追っていたと言うよりは、
ニオイに引かれていたようなものだから」
「じゃあ、昔この魔晄炉の上に陣取った母鳥もそのニオイに?」
 ダナの言う母鳥の件は、かつてこの魔晄炉の頂に卵を産んだコンドルの事を指している。それは母鳥
と卵を守ろうとした村人と、彼らもろとも排除しようと攻め入った神羅軍との戦いでもあり、ジェノバ戦役の
陰に隠れ世間ではあまり知られていない出来事だった。
「分からない。でも、あのコンドルもオイラ達と同じようにそれを感じていたと思うよ」
 どちらにせよ今のコンドルフォートには何もないし、群れの行き先でもない。つまり、これ以上この話を
続けても得られる物はなかった。
 ナナキは改めて地面に描かれた地図を見つめる。コンドルフォートとは反対側―ガードハウンドの
向かっていった方角に、さらに前脚を乗せて到達地点を予測する。
「でもこの先は海だ……」
 いくら大群とはいえ、ガードハウンドでは海を越えられない。ナナキは項垂れると足踏みをした。確かに
ガードハウンドの向かった先も、ニオイの方角にも間違いはない。だとしたら、この海の向こうに何か―
これまでの話の流れからすると魔晄炉という事になるが―がある。
「仮に海を越えたとしても、この先には何も無いはずよ」
 ダナがさらに海より南側の大陸を書き足す。6年前、ライフストリームが多少地形を変えている事は
あっても、略地図としては充分だ。
「ここからジュノンに向かっているのだとしたらまるで見当違いだし」大陸南西部には入り組んだ海岸線が
作り出す海峡と、そこに浮かぶいくつかの小さな島々があり、海峡を越えたさらに南西には大森林を抱え
る無人島があった。
「それに、あの島には村どころか人も住んでいないはずよ」
 ダナの説明に違和感を覚えながら、けれどもそれが何と指摘する事ができずにナナキは地面に書か
れた地図を注視している。
(そう、この島には大きな森があったんだ。だけどここって……)
 ちょうどその時、ナナキが見つめる地面の上にぽつりと雨粒が落ちて来た。
「ここもとうとう降ってきたわね」
 曇天を仰ぎながらダナが呟く。ナナキも顔を上げてダナを見ると、決心したように頷いてから声を掛け
た「ねえ、君?」。
「ごめんなさい、まだ名乗ってなかったわね。私はダナ」そう言ってナナキに笑顔を向ける。

102:ラストダンジョン (368)   ◆Lv.1/MrrYw
10/05/04 02:21:41 O6HUDhoT0
 ナナキは頷くと、何の躊躇いもなくダナに尋ねた「ダナって重さどのぐらい?」。
「…………」
 まったく予想外の質問に、目を丸くしたまましばらく固まっていたダナを見て、ナナキが首を傾げる。
「あれ、聞こえなかった?」
「聞こえてるわよ」明らかな怒気を吹くんだ声に、ナナキはさらに首を傾げる。
「どうしたの?」
「……『どうしたの?』じゃなくてね」両膝に手をついて、ナナキに視線を合わせると、ダナは引き攣った
笑みを浮かべて先を続けた「女性に聞いちゃいけない事が2つあるの。それが、年齢と体重」
「どうして?」
「どうして? って……」こうして面と向かって聞かれると、根拠として述べる言葉がとっさに思い浮かば
ず声を詰まらせた「……マナーよ。そうね、覚えておいて損はないわ」。
 ふーんと呟くナナキだったが、どうも納得している様子は無かった。
「言いたくないならいいや。多分ダナぐらいだったら運べそうだから、オイラの背中に乗って」
「ちょ、ちょっと! 荷物扱い?!」
「違うよ」首だけを後ろに向けてナナキが続ける「オイラの方が走るの速いから、本降りになる前にみんな
の所に戻れるって事。そしたらオイラも安心して群を追える」。
 ナナキの提案は合理的だった。しかしその方法がよろしくなかった。
「いくらあなたが世界を救った英雄の一人だって言ったって、もう少しデリカシーってものを持ってても
良いんじゃないかしら?」
「なんだよデリカシーって」ナナキにしてみれば、ダナはよく分からないことで真剣に怒っている。でもそれは
自分が知らないだけで、やっぱり世界にはまだまだ分からない事が沢山あるんだと、ダナの意図しないと
ころで前向きな気持ちになっていた。
「もう、乗らないならオイラ先に行くよ?」
「あ、ちょっと待ちなさいってば!」
 なんやかんやと悶着の末、ナナキはダナを背に乗せて走り出した。走っている間もあーだこーだと騒ぐ
ダナの声を背中で聞きながら。
(でもこの人、ケット・シーよりはまだ大人しいかな?)
 と、前向きではあるのだけれどちょっと愚痴っぽい感想を持つのだった。



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・ここでの魔晄エネルギーは、あくまでも都市開発部門視点での認識です。
 (魔晄を実験に使う科学部門とはちょっと見方が違います。この辺はまた後ほど)
・コンドルフォートのイベント関連にこじつけたかったけど、ちょっと無理があった。
・3年で1歳(人間換算)で加齢するって事で、ナナキも体格良くなったんだと都合解釈。

103:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/05/05 14:36:38 DNhBNGdw0
乙!

104:『Trois Grimoire Episode0』 ◆NNtQXWJ.56
10/05/08 12:33:38 rDE8UMpQ0
どうも、ちょこっとぶりです。今回からは
『トリア・グリモアエピソード0』、即ち
『FFTA2本編』に限りなく近い、というかほぼなぞる流れで
暫しお付き合い頂けると嬉しいです。
ではでは。
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――もうすぐ夏休みだ。

先生の長~いあいさつが終われば、
いよいよ待ちに待った夏休み。

夏休みの宿題は、日記をつけること。
さっき、クラス全員にノートが配られた。

日記なんてすごくめんどうくさいけど、
宿題だから仕方がない。

とりあえず『おばさんにお説教された』と
書かずにすむよう努力しようと思う。

おふさげはほどほどに、そこそこに…。
努力だけは、ね。

先生から配られたものがもうひとつ。
『夏休みのアンケート』。

夏休みの予定や目標を書いて、
帰るまでに提出しなくちゃいけない。

よし、さっさとかたづけちゃおう。

オレは夏休みの目標、予定、新学期の目標を書き終えた。

夏休みの目標…100m泳げるようになる!
夏休みの予定…友達と楽しく遊ぶ
新学期の目標…先生に注意されないように…

これでバッチリ。
ステキな夏休み計画のできあがり!

…ステキな夏休み? 本当にそうかなぁ。

なにも決まってないからこそ、
ワクワクすることだってあると思うんだ。

今年の夏休みは、
いったいなにが起きるかなってさ!

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105:『Trois Grimoire Episode0』 ◆NNtQXWJ.56
10/05/08 12:35:23 rDE8UMpQ0
ある学校の、放課後。
終業のベルが、けたたましく鳴る。
ジリリリリ!
級長の声が凛と響き、終わりを告げる。

『起立ー!』

ガタガタ!

『礼ー!』
『さようなら』

皆が口々に別れを告げる。
オレも、友達と夏休み前のワクワクした気持ちを抱えながら
最後の別れを…

と。
そこへ、青天の霹靂とも言える、ショックな出来事が待ち受けているとは
その時のオレには想像も付かなかったんだ。

…うん。想像も、付かなかったさ。

「ルッソ・クレメンズ!」

先生の声がオレの名を呼ぶ。
なんだろう?

普段から先生に呼ばれ慣れているオレだが、
まさか夏休み前というこのタイミングで呼ばれるなんて。
――少し、イヤな予感がした。

「残念だがきみの夏休みは少しおあずけだ。
 教室を出たら、昇降口ではなく図書室に行きなさい」

その予感、当たらないで欲しかったな…
オレは、しらばっくれるように尋ねる。

「どうしてですか、先生」

先生は、表情一つ変えずに淡々とオレに質問し返した。

「どうしてだと思う?」

オレは再び、しらばっくれるように答えた。
先生に合わせるように、淡々と。

「まったく心当たりがありません、先生」


106:『Trois Grimoire Episode0』 ◆NNtQXWJ.56
10/05/08 12:36:42 rDE8UMpQ0
すると先生は予想していたとばかりの質問をオレに投げかける。

「きみは冬の休暇明けから今日まで、
 いったい何回のイタズラと遅刻をしたかわかるかな?」

「わかりません」

オレは正直な答えを返した。
だが、先生は動じない。
ちょっとは呆れて、オレを解放してくれないかなと思ったけど、甘かった。

「そう、わからないほどたくさんだったということだ」

先生はきっぱりと断言する。
これから先、先生が紡ぐ言葉も大体予想できる。

「きみは決して悪い生徒ではないが、
 多少痛い目を見なくては物事を学習しない傾向がある」

先生はオレの事を本気で嫌ってるのではない、と前置きした上で
オレに対する冷静な評価を下す。
苦手だなぁ、こういう先生。
言ってることは正しいんだけどさ。

「と、いうわけで、日頃の反省をうながすために―、
 今日これから、きみに図書室の片づけを言いつけることにする」

そらきた。
…冗談じゃない。
オレは一応、抵抗を試みる。

「先生、いくらなんでもこれからっていうのはひどいです。
今から夏休みなのに――」


107:『Trois Grimoire Episode0』 ◆NNtQXWJ.56
10/05/08 12:37:30 rDE8UMpQ0
その言葉に、オレの友達もうんうん、と頷く。
だが、そんな支援など意に介さない、とばかりに
先生は冷静に続けた。

「きみにはちょうどいいクスリだと先生は考えます。
 さ、行きなさい。図書室にランデル先生がいるから」

ランデル先生、というのはメガネをかけた温厚でちょっと優男風の
うちの学校の司書の先生だ。

「……」

オレが納得行かないような顔で黙っていると、先生は追い討ちをかけてきた。
留めの一撃、とも言う。

「もし、すっぽかしたり逃げ出したりしたら、
 休み中、家まで先生が話をしにいくから、そのつもりで」

完全に逃げ場を封じられた。
仕方が無い。
オレは腹を括って、図書室に向かう決意をした。

「…はい、わかりました。
 さようなら、先生。いい夏休みを!」

オレは吐き捨てる様にそう言い残すと、気の毒そうに
オレに同情の目を向ける友達と別れを告げ、図書室へと向かった…

************************************************************

図書室。
オレは静寂が支配する、本に囲まれた教室へと立ち入った。
いつも通りの光景。
オレには、殆ど縁の無い場所。
紙とインクの匂いがオレを出迎える。

だが、いるはずの先生は…何処にも見当たらない。

「あれ? ランデル先生、いないじゃないか」

オレは図書室を見て周り、閲覧用テーブルに置かれている
二つの物体に目を惹かれた。


108:『Trois Grimoire Episode0』 ◆NNtQXWJ.56
10/05/08 12:40:12 rDE8UMpQ0
…オルゴールと、古い本だ。

オレはオルゴールを開け、机においてある本を眺めた。
牧歌的な、それでいて少し勇壮な曲が流れ始める。
耳に心地よい音楽。
その曲を聞きながら、オレはイスに座り、本を開けた。

「ずいぶん古そうな本だなぁ」

装丁を吟味し、中身に思いを巡らせる。
片付けなんていうつまらない仕事を任された今、
普段読みもしない本に興味を持つのも、致し方ない事なのだ。

「なんの本だろう?挿し絵は剣とか魔法使いとか、そんなのだけど…」

オレは絵本なのかな、と期待を込めてページをめくった。
だが、そこにあったのはただ、真っ白な紙。紙。紙。

「ん…?この本、冒頭にはなんか書いてあったけど、
 途中からなんにも書かれてないや」

オレは更に、ページをめくる。

「えっと、最後のページは…。
 なになに?
 『空白を、埋める、者…、その名を…告げよ』」

…実にイタズラ心をくすぐる内容だ。
本来、図書室の備品である本に書き込むなんて許される事じゃない。

うん、許される事じゃ、ないんだけど。

「空白を埋める、かぁ…。
 へへっ、これはもう、書き込むしかないよな」

オレはこんな内容を書いた本の筆者が悪い、と心の中で言い訳し…

「『空白を埋める者』の名前は…、
 ルッソ・クレメンズ!」

と、デカデカとオレの名前を書き込んだ。

すると…

オレは何もしていないし、風も吹いていない。

なのに、突然ページがめくられ…
本が飛び回り…

――オレは、何処とも知れない世界へ、旅立った。

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というわけで今回は以上です。
基本的にゲーム内の台詞を忠実になぞるようにしてみました。
行間を自分の言葉で埋めていく感じで、TA2の説明をざっくりとしつつ
魅力が伝えられればなぁと思います。プレイ済みの人は今更ですが
「ああ、そんな話だったなぁ」と思い出す感じで楽しんで頂ければ幸いですw

109:月水
10/05/09 20:40:00 d4ZLiEAh0
舞台と設定:FF7。BCエンディング後。カームの事件を絡ませた大大大捏造話。(またやらかしました)
全5回の構成です。
―――――――
『Start For Home.』(1-5)

そびえ立つ山脈。その麓に小さな村がある。ひっそりとした所だった。
「ここがニブルヘイムか。静かすぎるな」
手にした刀を握り、気を引き締める。
「新羅屋敷ならあっちだぜ」
「そうか」
声に反射的に答えた。人がいた事に、一瞬遅れて気が付く。
「お前は、ロッド。何故ここに」
「たまたま、かな」
何とも曖昧な返事が返ってくる。
「まあ、いい。ところで、お前はあの建物に詳しいのか」
「詳しいというか、入った事はある」
「では、あの建物で何が起きていたのかも知っているのか」
私の言葉に活発な奴の顔色が少し変わった。
「あそこに行くのは危険だぜ。何たって変な幻覚が襲い掛かって来るし」
若干柔らかい口調だが、警告といったところか。
「危険なのは承知だ。どれだけ悍ましいかもよく解っている」
「何で今更あの場所に行くんだよ」
わざわざ首を突っ込むこともないだろう、と続ける。
「夢を見る。あの暗い部屋の夢を。何かを暗示しているのかと思えるくらい頻繁にな。だから、確かめに来た」
人が聞けば、理由というには抽象的で、納得しかねる内容だと思う。
だが、何かに呼ばれているような気がしたのだ。
「主に、じゃなくてヴェルドさんには」
「言っていない」
ここに行くと言うと引き止められそうだったから。
「だよなぁ」
ロッドが一人で納得している間に、倒れかけた門に向かって歩き出す。
「て、おい待てって」
「ついて来る気か」
こいつに引き止められるとは。自然と溜息をついてしまった。
「一人じゃ何かと厄介だろうからな」
「保護者気取りは必要ない」
何故かついて来ようとしているロッドを振り切ろうとした。
「資料」
呟いた言葉が気になって足を止める。
「何の事だ」
「前、俺ある資料を燃やしちまってさ。仕事だったと言えば言い訳に聞こえるかもしれねぇけど」
「はっきり言え」
「中身見たんだ。マテリアの融合実験に関する書類だった」
融合という言葉が引っ掛かった。
「まさか」
思い当たる事は一つしかない。
「多分、お前とそれからヴェルドさんの」
一瞬の沈黙。
「燃やした、か。なら、もう残っていないのだな」
「ああ」
ロッドが静かに肯定する。
「残っていないのならば仕方ない。が、だからと言ってそれと今は関係ない。責任をどうこう追求する気もない」
もし遺っていたとしても、収穫があったかどうかは解らない。資料の事を動機として同行されたくなかった。
「どうしてもついて行く、と言うなら一つ条件をつける。手を出すな。何が起きても、絶対に」
これは、自分の問題だから。他人を巻き込みたくない。
「な、何だよそれ」
「出来ないなら帰ってくれ」
抗議するロッドにきつく言って、屋敷に足を向けた。

110:月水
10/05/09 20:43:15 d4ZLiEAh0
※途中、食事中の方に申し訳ない表現があります。(2~4回分まで)

『Start For Home.』(2-5)

さっさと行ってしまったフェリシアを追って行こうとしたら、上着に突っ込んである携帯の振動が伝わった。
「誰だよ、こんな時に」
サブディスプレイの画面に相手の番号が表示されている。それを確認すると自然と背筋がシャキッと伸びた。
「もしもし」
報告をした後、要請を受ける。
「了解です」
無理をしないように、と言われ通話が切られた。俺じゃなくて、あいつに言ってくれよ。
携帯を閉じてポケットに捩込む。愛用の武器を持ち直して気合いを入れた。
「さて、仕事すっか」
かつて訪れた屋敷の扉を蹴り飛ばした。

―――――――

澱んだ空気が立ち込めている。薄暗い部屋。あちこちに積み上げられた本の山。
朽ちかけた机の上には、毒々しい色をした液体が入った瓶。実験体を保管する為の装置。
その一つ一つを見る度に、嫌な記憶が浮かび上がってくる。
奥から物音がした。注意がそちらに向く。刀を抜いて様子を窺った。
何かに腕を掴まれ、そのまま奥に引っ張られそうになる。絡まったそれを切り落とした。
暗闇から引きずったような音が聞こえる。
幾つもの触手が姿を現した。続いて、膨れ上がった巨体が現れる。
蜘蛛に脚が余計に付いているような格好だ。
青紫に変色した皮膚によく見知った顔があった。
間違いない。間違いであってほしかった。
「母さん」
異形のものに姿を変えていた。顔だけが、思い出の中にいる母のものだった。
無防備になった身体に容赦なく触手を打ち付けられる。
吹き飛ばされ、辺りに散らばった硝子片を巻き込んでいく。
途中で身体を反転させ、体勢を整えた。背中が鋭く痛む。
「大丈夫か」
後ろから、ロッドが合流する。
「条件は覚えているな」
「今そんな事言ってる場合かよ」
「“手を出すな”」
ロッドを突き返すと、床に刀を突き立てた。そこから淡い緑色の光る糸が紡がれていく。氷塊が出来上がっていった。
徐々に氷壁が下から上に盛り上がっていく。
「な。ま、魔法」
「上手くいったらしい」
少しふらつく。体力を消耗するのは承知していたが、予想以上だった。だが、ここでもたついている時間はない。
「何があったんだよ」
ロッドの問いに答えずに走り出した。

―――――――

分厚い氷の壁が立ちはだかっている。
いくら打ち掛かっても、小さなひびが入るだけで、崩れる気配がなかった。
大体、マテリアなしで何で魔法が使えるんだよ。
「くそったれが」
力任せに振り下ろした武器が弾き返された。
全てを拒絶するような壁が憎たらしく見下ろしている。
奥で響く派手な物音を黙って聞くしかないのか。
苛立ちだけが募っていく。

111:月水
10/05/09 20:45:30 d4ZLiEAh0
『Start For Home.』(3-5)

床に叩きつけられ、息が詰まった。直ぐに身体を起こして、繰り出された触手を斬りつけていく。
対処しきれなかった数本が刺さった。
肩を突かれ、左腕が使い物にならなくなる。肺に溜まった血が口から溢れた。
床ごと大腿部を貫かれている。
それらが身体から抜けると同時に壁際まで跳ね飛ばされた。
立ち上がれない。視界が霞む。赤く染まっていく。呼吸するのも辛い。
防御の為に振り上げた右腕があっさり弾かれた。
手から離れた刀が遠くに落ちたのが見えた。力が入らない。
「ごめんなさい」
助けられなくて。帰られなくて。
目の前に迫る変わり果てた母と、家にいるであろう父に向けた。
迫り来るものに対して、眼を閉じる事だけはしたくない。
触手が伸びてくる。
銃声と、氷の割れる音が響いた。
「謝るのは後にしてもらおうか」
「父さん」
牽制するように相手の足元を狙って銃弾を撃ち込みながら、私を抱えて後退する。
地下室の入り口まで来て降ろされた。差し出された回復薬の効果で、傷口がなんとか塞がる。
「“俺が”手を出さなきゃいいんだよな」
ロッドが階段を降りてきた。
「最後まで違えるなよ」
所々痛む身体を起こして、奥に戻ろうとした。
「無理するな。あとは俺がやるから」
進路の先に父さんがいる。
こんな状況は以前にもあった。でも、前と同じにしたくない。
「私が。私も行く、行かせて」
「駄目だ、とは言わせてくれないか」
私を心配そうに見ていた眼が、決心した眼に変わる。
「ロッド、ここは頼んだぞ」
「いつでも退く準備しておきます」
父さんが頷く。そして、私に振り返った。
「行こう。母さんを一緒に家に連れて帰ろうな」
「うん」

112:月水
10/05/09 20:47:56 d4ZLiEAh0
『Start For Home.』(4-5)

久々の獲物を探し回っている姿が不憫に映る。咆哮が虚しく聞こえた。
「待たせたな。ずっと一人にさせて、悪かった」
銃に弾を詰め、スライドを引く。
どんなに辛かっただろう。理不尽な事故に遭って、非人道的な扱いを受けて。
「いくぞ」
物陰から飛び出したフェリシアの周りを守るように銃で撃ち出す。
彼女が床に投げ出されていた刀に飛び付いて、そこから触手を斬り上げた。
勢いを保ったまま、隙間から覗いた本体に向かって振り下ろす。
反撃を避ける為にバックステップで距離を取った所で、今度は俺が連続的に鉛弾を相手に撃った。
どす黒い液体が方々に飛び散る。動きが明らかに鈍りだした。
トリガーに掛けた自分の指が緩むのを自覚する。そこに手が添えられた。
「躊躇したら、母さんが苦しむよ」
娘の手が微かに震えている。こんな状況で動揺しないわけがない。上から軽く握って気持ちを落ち着けた。
「そうだな。早く終わらせてやらなくてはな」
フェリシアが動き始めると同時に、俺は目標に向かって構えた。
引き金を引く。
「しまった」
ジャムだ。途中で弾が詰まって役に立たなくなってしまった銃を棄てる。
なんの因縁か。もうこれしか残っていない。
義手を外して、中に仕込まれた機銃を目標に向けて照準を合わせた。
「退け」
フェリシアが斬り込んでいく直前で身を翻したのを確認して、弾を放った。
相手がまともに受け、弾ける。それでも、動きは止まらなかった。
悶絶寸前の状態で這ってこちらに向かって来る。崩れ落ちていく身体を抱き留めた。
「すまん。迎えに来るのが遅れてしまった」
「お仕事大変なんでしょう。しょうがないんだから」
形が妻のものへと変わっていく。
「今度の休暇は久々に三人で出掛けたいな」
「そうだな。そうしよう」
「あの子とても喜ぶわ」
いつも見ていた無邪気な笑顔が向けられた。
「母さん」
「フェリシア。どうしたの、どこか痛いの」
娘が泣きながら母親にそっと抱かれ、何度も何度も言葉を詰まらせながら謝っている。
「貴方の謝り癖が移っちゃったんじゃないの」
娘の頭を撫で、宥めながら俺を咎める。
「す、すまん」
「ほら、また」
笑いつつ、もうと口を尖らせた。
彼女の身体が光に包まれていく。
「もっと傍にいたいけど、そろそろ時間みたい」
「想いは消えないから、大丈夫だよ」
「ああ、やっと笑った」
消え行く手を掴む。
私、幸せ者ね。
そう残して星に還っていった。
俺の方こそ幸せ者だ、と心の中で呟いた。

113:月水
10/05/09 20:50:18 d4ZLiEAh0
『Start For Home.』(5-5)

二人が並んで無事な姿を見せた時、俺は心の底からほっとした。
柄にもなく眼からしょっぱいものが出てきた程だ。
慌てて黒スーツの袖で拭った。
「お、お帰りなさい」
「仕事はまだ終わってないぞ」
そうだ。俺は仕事中だった。
元上司から頼まれた、ある人の帰宅までのサポート。
「じゃ、仕事に戻ります」
依頼人と対象者から距離をとって走り出した。

―――――

私は家路につく。
温かい家族に囲まれながら。

〈了〉

*****************
お粗末様でした。
今回は主任の奥さんの存在が気になって仕方がなかったので、
こんな感じかなと思いながら書いてみました。
こんなのもありかも、と思って頂けると幸いです。

114:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/05/11 01:51:32 UnRHBCOxP
乙!

115:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/05/14 02:18:43 dSu944A00
お、繁盛してるね!僭越ながら感想をば。

>>104-108
ルッソの心中描写は、彼の世代らしい言葉でつづられていて上手い表現だと思いました。
…ただ全体的にちょっと物足りなさというか、淡々としすぎているというか。
(ゲーム中の台詞を忠実になぞるだけだと、単なるテキストになっちゃうので読み手の飽きは早いです。
グラフィック、BGMといった重要な表現が欠けるので、補うべき「行間」はもっと多いはず。それらを補う
方法をもう少し模索してみてほしいところです。それがノベライズって事になるのかな?と。勝手解釈ですが)
それと、ルッソ一人称で進む本文のこの段階で「オレは、どことも知れない世界へ~」は認識が早すぎるんじゃ?w
という疑問が。(せめて飛ばされた先で誰かと出会ったり、風景を見た後にその認識になるはず。三人称
視点だったらまだ不自然ではないものの、こういった細かい描写にも気を遣った方が雰囲気作りの助けに
なると思います)。次回に繋げるにしても、ここは彼(ルッソ)の視認できる範囲の現象を書くのがベストだった様な。
…とりあえずこれ読んで四神天地書を即座に連想しちゃった事は謝るw

>>109-113
投稿日が母の日という演出にもGJ! 間違ってたら申し訳ないけど、もしかして正体不明になってたって事かな…?
カーム誤爆事件の後、奥さんの消息についてって語られた記憶が無かったので、ゲーム本編の良い
補完話だと思います。しかし家族の誰にとっても悲しすぎるよなぁ…。家族ネタにめっぽう弱い自分には
もうね・゜・(つД`)・゜・。

しまった…母の日忘れてた事をこれ書いて気付いたorz

116:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/05/14 23:14:30 V/7ZXJ290
>>115
感想乙。良いところと悪いところを上手くまとめられてるのがいいなあ。
個人的に感想はSS書くのより難しいと思ってます。

117:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/05/17 13:47:52 iOJ+veSTP
乙でござる

118:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/05/19 07:33:25 nTXppFNX0


119:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/05/22 23:35:57 IZhEHloP0
FFの二次創作スレのプロット考えたのではじめて覗きに来たんだけど職人さんで賑わってるなぁ……
自分なんか恥ずかしくなってきました

120:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/05/24 16:40:57 dAjASvP2P
>>119
テカテカと正座しながらSSお待ちしております

121:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/06/01 16:02:21 tEhVpFM+O
>>109
乙です

122:月水
10/06/01 19:33:51 5qUfioYz0
感想や反応を頂けて、とても嬉しいです。
ありがとうございます!

123:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/06/02 18:13:03 lLcq/fgQ0


124:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/06/04 18:19:30 Fw1yPwoN0


125:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/06/07 18:21:44 eowJTVll0


126:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/06/11 00:20:09 3DqZNILt0


127:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/06/11 08:28:46 4K0F8mbg0


128:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/06/13 19:21:22 r8MsRBCW0


129:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/06/15 07:06:18 s9hkW/p90


130:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/06/18 02:47:01 Mw8Dwwnv0



131:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/06/21 01:24:58 vghcOMW10


132:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/06/24 05:45:13 x64WQd070


133:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/06/24 13:16:18 NXnTwda40
住民の皆さん、ちょっとDFFのWOLスレから失礼します。

DFFでそのキャラクターが飛躍的に掘り下げられ、その言動のブレなさで一定の好評を博した
初代FF1の主人公、通称「WoLさん」のあのキャラクターを核にFF1をノベライズアップでき
ないものかと無謀きわまりないことを思い立ち、
とりあえずその一歩としてDFFとFF1をつなぐ「あのシーン」をノベルチックにまとめてみたん
ですけど、明日にでもここに投下していいですか?

134:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/06/24 14:49:36 EVuOCHf80
DFFって手を出してない奴多そうだな

135:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/06/24 22:09:13 D3ClasBm0
いんじゃね?俺読みたいわ

136:133
10/06/25 12:24:53 UAfEAr/40
それでは以下に投下してみます

キャラクターの性質上、ネタ要素や萌え要素に欠ける、どシリアスタッチになるかと
思いますがどうかご容赦ください

137:The Worrior of Light プロローグ1
10/06/25 13:16:59 UAfEAr/40
 あふれんばかりの光の乱れ散るどこまでもすみ切った気層のなか、まばゆいばかりの陽だまりのなかを、
一人の男が、歩いていた。

その身にはマントと腰布を備えた、濃紺の厚い鎧をまとい、両手には剣と盾が握られている。
青年―と言うには大人びすぎ、かといって中年、と言うには若すぎる。雰囲気は壮年のそれであり、男はその外見の
若々しさからは計り知れないほどの歴戦の重みを、見るもの全てに直観させそんないかなる者の目
からもそれ、と知られるような―

 戦士、だった。

 そこは平原を臨む林野と湖畔の接する街道で、戦士はいずこからかやって来た旅人らしきことは窺い知れた。
 しかし、どこから?
 その身にまとう鎧はいずこかの国の戦士団、騎士団のものにしてはあまりにも意匠が凝りすぎている。集団戦の命題として必要な
意思の統一を測るために簡略化され規格化されることが常である軍装(ユニフォーム)とはあまりにも趣を異にして、かけ離れすぎていた。

 まず目を引くその兜から雄牛のそれのごとく天に突き出た角は、戦場の指揮官がときおり示威のために用いる装飾にしては長すぎた。
むしろ、頭頂に突き出た突起とそこから出る飾り毛がそうした装飾の意匠につうじるものとは思えたが、そのなかば冗談のような二本角と
合わさることで、戦士が全体として醸し出す非現実的な雰囲気に奇妙な現実感をも、わずかな彩りとして添えていた。
 身を覆う兜と同じく濃紺の鎧は、パーツのひとつひとつが戦士の細身ながらもたくましい肉体にフィットし、重厚でありながらも武骨さ
を一切感じさせず、兜とともに統一感をもって、戦士の引き締まった身体を際立たせていた。

 おそらく、それなりの身分と財力をもつ騎士がその道の一流の職人にオーダー・メイドし、採寸に慎重に慎重を期したとて、これほどの
一体感は出しえなかっただろう。戦士とその武装の一体感は、まるで両者が両者の意志でもって両者を求めているがごときものだった。

―蛮族の鎧(バーバリアン・メイル)―

 ある限られた領域を城壁で仕切り、その内部に自分たちの秩序を布(し)く文明人ならば戦士の鎧を、あるいは、そう呼んだかもしれない。
己の領域の外で造られ、戦士同様、未知の領域から現れたものとしてみなすならば、その呼称も正しいと言えたかもしれない。

138:The Worrior of Light プロローグ2
10/06/25 13:55:56 UAfEAr/40
戦士の手に目を向ければ、その手に握られている剣もまた、

―蛮族の剣(バーバリアン・ソード)―

そう呼ぶよりほかがなさそうな形状の代物であり、いま一方の手に握られる小振りの盾も
形式の上では丸みを帯びた五角形のカイト・シールドと言えたがそこに刻まれた紋様が
いずこのものとも知れなかった。
 蛮族は文明人とは違い、理論ではなく直観をもってものを造る。
 なるほど、戦士の武装はいずれもそうした精神によって造り上げられたものと思えば、
とりあえずの納得ができないこともなかった。理論は精巧なるものは造り得ても直観とは
違い、神秘なるものを決して造り得ないのだから。

 ただ苦しいといえば苦しいことは、戦士のたたずまいには蛮族に特有な粗野さが微塵も
なく、それでいて、文明人の指導者たる貴族の洗練さが備わっている・・・
そんなこの世のものならざる二律背反が認められたことだっただろうか。


 ふと、戦士がその歩みを止めた。


 それに伴い、周囲の時が止まったかのようにすら感じられた刹那―

―オレは、ここにいるから…―
 風もないのに湖畔が、さざめいた・・・

―…帰るんだ。約束の場所に…―
 雲もないのに太陽が、翳った・・・

―…また、ともに任務を果たすのもいいかもな…―
 どこからともなく、白い綿毛がそよぎ、舞った・・・

―…ふ…興味ないね…―
 光のそそぐ一面の花畑が、揺れた・・・

―…私…これからもがんばれるよ、だから…さよなら…―
 陽気のなか、雪が一粒、溶け消えた・・・

―…楽しいときって、なんであっという間なんだろな…―
 林のほうで、小枝の落ちる音がした・・・

―…繋いでみせる…みんなにもらった強さを…―
 昼下がりの三日月が、一瞬満ちたように思われた・・・

―…みんな!ありがとう!…―
 大気いっぱいに、幼い声が響いた気がした・・・

―…終わらないさ…新しい夢が…始まるんだ…―
 路傍の野ばらが、たしかに、笑った・・・

139:The Worrior of Light プロローグ2
10/06/25 14:26:31 UAfEAr/40
 陽だまりの中、戦士はふたたび歩みかけ・・・そしてまたふたたび、足を止めた。
 そして、わずかにその己の歩んできた背後を、振り返りかけたようにも、見えた。

 戦士は、確かに、逡巡していた。

 はるけき過去の追憶か、白昼の刹那の幻想か、それは知る由もなかったが、たしかに戦士の心は過
ぎ去った何かを追っていた。
 戦士が立ち止まっていた時間はほんのわずかな時間に過ぎなかった。ほんのわずかな時間に過ぎな
かった、ではあるが、戦士には永遠に等しかったかもしれない。

 しかし、戦士は振り返らなかった。心はどうあれ、その身でそれをすることは戦士には許されない
ことだということは戦士にとって、あまりにも明らかに知悉(ちしつ)されたことだったのだ。


―…ここに来る前の物語だけが思い出ってわけじゃないだろ?…―

 止まった時の中で、最初に自らの胸を指差し、湖畔へと還っていった「思い」の言霊(ことだま)
が戦士の胸のうちに木霊(こだま)する。

―…もしオレたちが別々の世界に帰って別々の道を歩むんだとしてもさ…一緒に戦ったこと…たまに
 は思い出してくれよな!…―

 それは太陽のように明るく溌剌とした、それでもどこかに深いかげりを背負った青年が戦士に向け
て口にした願いだった。


―忘れはしない…―


 それは、
 それこそは、
 そこまでずっと沈黙していた・・・ほかならぬ戦士自身の思いだった。


(忘れるものか・・・)


 それは、戦士とひと時たしかに寄り添い、ともに歩み、そして、いつとも知れずに別れ、
いずくへとも知れず帰っていった九つの「思い」たちへの、戦士の確かな誓い。



140:The Worrior of Light プロローグ3
10/06/25 15:01:12 UAfEAr/40
 戦士は振り返らない。
 振り返ってももうそこには「思い」たちの影すらもないことは判っていたのだから。
 しかし、戦士は口を開き、ひとこと、言った。そう言わずには、おれなかった。

 それは「彼ら」への別離のことば。「彼ら」に届かずともそれはそれでいっこうに構わない。
「彼ら」ならば自分が別れにそのことばを選ぶだろうことなど言葉に依らずとも知れたろう。
自分たちの絆はそれほどまでに強かったのだから。



「光は、我らとともにある。」



 みたび、歩み出されたその足が止まることがもはやないだろうことは、その語気と歩みの確かさ
から容易に測り知れた。

 戦士がどこから来たのか?そして何に別れを告げたのか?この世界のものに知るすべはない。
 戦士には判っていた。己にはただ使命のみがあることを。だれかに呼ばれるべき名も追想すべき
記憶がなくとも、それは己が受け入れるべき痛みであるということを。
 そしてそれを永劫の果てとも思われるはるか彼方の過去の己のはじまりにおいて、他ならぬ己自身
で選択したということを。


 戦士は振り返らない。
 振り返らずとも、そして、その記憶を失おうとも彼らは己のうちに在り、己自身もまた、彼らのうち
に共に在ることを知っているから。

 戦士の目の前では林野と湖面が終わりを告げ、今まさに大平野が地平のはるか彼方へと戦士をいざなう
かとも思われたが、戦士はその手前に人の営みの領域を認めた。

 それは湖面にその影を落とす荘厳なる都城だった。

 白亜の壮麗な城壁を備え、その周囲の大自然から趣において孤立し、その人為に成る大方形の上部
からは物見の大櫓と塔が頭を出し、その主の鎮座するであろう中央のひときわ高い塔を際立たせていた。


 戦士は振り返らない。
 そこに己の使命が待っていることは判っていた。


 戦士は振り返らない。
 闇に沈みつつあるこの世界にあって、誰よりも光を渇望するものがそこに待っていることが判って
いたから。



 戦士・・・・・・否、光の戦士の歩みにはもはや一片の迷いもなかった。




141:133
10/06/25 15:07:53 UAfEAr/40
とりあえずは以上です。
ナンバリングを間違えてしまいましたが平にご容赦を;


今回はDFFからテキストをかなり拝借しましたが、次回からはコーネリアでのエピソード
ということで独自性を若干出さざるを得なくなってくるかと思います。
よければ感想とご意見をください。

142:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/06/25 17:17:08 yyCycHS60
誰も突っ込まないから教えるが、レス乞食やマルチと言って嫌われる行為

143:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/06/25 18:39:40 ULj5yE7t0
>137-140


144:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/06/26 02:52:01 USXpefL+O
投下時間が妙に空いてるが、まさかリアルタイムで話書いてるのか?
メモか何かに予め書いておいて、まとめて書き込んだ方がいい


145:133
10/06/28 12:45:35 BWNbvGlV0
>>144
一応、そうしてはいるんですが、タイプが遅いのと叩き込む時点で最後の推敲も
ついやってしまうせいで遅くなってしまいました。修行します。

146:133
10/06/28 12:47:06 BWNbvGlV0
>>142
以後気をつけます

>>143
ありがとうございます!!

147:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/07/01 03:56:18 5FiLMrWA0
ガンガレ

148:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/07/03 22:14:36 RK95kAkp0


149:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/07/07 00:38:54 ZbWwzGuu0


150:名無しさん@そうだ選挙に行こう
10/07/10 21:00:38 Sav21tG00


151:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/07/12 11:05:28 XxQGZs+s0


152:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/07/15 05:41:17 7N5ODRnf0


153:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/07/16 19:44:11 yHkEEmDZ0


154:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/07/19 04:18:02 Uj6Uu+Ss0


155:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/07/20 00:21:24 F7nO2FMa0


156:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/07/22 03:21:40 KHs5s2oT0


157:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/07/23 20:49:41 407Rert50


158:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/07/27 00:23:05 DROR6R3G0


159:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/07/29 05:52:07 g2xJ+qRY0


160:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/07/31 05:10:55 84pNaNrx0


161:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/08/02 02:37:54 B7G2ISTM0


162:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/08/04 04:02:37 A1BXoHS90


163:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/08/04 18:24:14 eWbuk0zp0


164:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/08/06 03:07:32 SZWADp8l0


165:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/08/06 15:24:47 hV0FIMbb0


166:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/08/09 04:23:11 /K8P2kPt0


167:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/08/10 07:25:24 wvZkJ+VI0


168:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/08/10 11:38:10 Tb7AamBw0


169:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/08/10 22:20:31 Tb7AamBw0
流れぶった切って非っ常~に申し訳ないのですが……
ここってまだ書ききっていない中編、長編のFF二次創作モノもおkでしょうか


170:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/08/11 08:23:09 6KKbB/HQ0
テカテカと正座しながら、連載お待ちしています。
連載しながら書き上げる、完成させる事は、もしかしたら経験値になるかもしれません。
基本的な書き方はテンプレのどこか(>>3の記述の一般的な決まり)にある気がするので、
よろしければ参考にしてみてください。

171:169
10/08/11 14:47:03 R09dB2jP0
>>170
ありがとうございます。ガイドライン熟読します。
あまりテカテカ期待されるのも恥ずかしいのですけど。
男は度胸、なんでも見せて(ry的な精神で発表できたらいいなと思っております。

172:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/08/13 01:46:52 e81ey5Xh0
僭越+遅レスもいいとこですが…。

>>137-140
遅ればせながら乙です。これが巷で噂のひこn(ry
ちょっと装飾過多な印象を受けたのですが、それを除けば全体的に硬派な戦士のイメージが
うまく演出されている様に感じました。FF1(DFF内のFF1主人公含め)は未プレイ・未クリアですが、
個人的にシリアス物好きです。
遅まきながら次回投稿時の参考にいちど>>3-4をご覧下さい、有益な情報があると思います。

>>169
・ここで投下はじめたら、なるべくここで完結。(ここ以外に載せてる物ならそこで完結。)
・1回の投下は適度な区切りが大切(だと思う、これも掲示板特有かも?)。
・投下の前に>>1-4
書き手として最低限それは心得てもらいたいかな、という希望。
読み手側からすると、読んでる最中に放置されると非常に切なくなるモンです。
とは言え、書くのも読むのも自由だし、未完投下の場合は書いてる途中でレス読んで軌道修正
できるのも掲示板投稿の醍醐味(というか利点)だったりするんですよね。
他の人の解釈とか(書き手読み手を問わず)知ると、自分の理解も変わりますし、より一層原作が好きになるという。
ただ、長編はモチベーションと環境を保つのが大変だとは思いますが…投下楽しみにしてます。



…あれ、おかしいな。書いているウチに耳が痛くなって来たぞ?

173:ラストダンジョン (369)   ◆Lv.1/MrrYw
10/08/13 01:52:55 e81ey5Xh0
前話:>>98-102
※Part8 542-546から続く場面です
----------


 無惨に積み上げられた残骸だけを映し出していたモニタを、これ以上眺めていても仕方がない。
けれどユフィの視線は動かなかった。
 こうして1階での遣り取りの一部始終を見届けたユフィは、次にどうすればいいのか分からずに、
無言のままでその場に立ち尽くしていた。
 頭の中で考えている事はたくさんあるのに、いつものように言葉が出てこなかった。自分の行動を
「過去から逃げるために前を向いている」と言ったリーブが正しいとはどうしても思えなかったし、反論
だってしたかった。実際そうしようと何度も口を開きかけたが、結局なにも浮かばずに口を閉ざした。
知っているありったけの言葉を使って抗弁したところで、自分の正しさを証明することはできないと
思った。かといって行動で示そうにも、どうしたらいいのかが分からなかった。だから黙って立っていた、
そうすることしかできなかった。
 あるいは、そうすることしかできないと無意識のうちに思い込もうとしていたのかも知れない。
 こんな風に黙っている事しかできないユフィを、リーブは否定も肯定もしないでいてくれた。その事に
ユフィは心のどこかで安堵しているのにも気がついていた。そんな自分が余計に腹立たしかった。
 どうすることもできないまま、モニタに向かうリーブの背中を見つめているだけの時間が過ぎていった。
 長い長い沈黙は、リーブが手元のパネルを操作する音で呆気なく終わりを迎えた。
 それまで目の前に並んでいたモニタには、建物の内外を問わず様々な場所が映し出されていたが、
パネル操作によって全てのモニタの映像が建物外の風景に切り替わった。並んだモニタが全体で1つの
大きな窓を作り上げ、そこから森の彼方に沈みゆく太陽が作り出した美しい夕景を望むことができた。
 画面右下の隅には現在時刻を示す数字が並び、休むことなく時を刻んでいる。
 映し出される景色も、表示される時刻も、この地に訪れる日没まで間がないことを知らせている。
「少し……」言いながら振り返ると、リーブは柔らかな口調で告げる「意地悪をしてしまいましたね」。
「え?」
「人が前を向けば、必然的に背は後ろに来ますからね。どこにも間違いはないんです」
 ちょうど今みたいに。

174:ラストダンジョン (370)   ◆Lv.1/MrrYw
10/08/13 01:56:36 e81ey5Xh0
「ちょっ……」
「誰がどの場所から見るかによって、物事の捉え方というのは大きく変わるものです。ところが、どれも
間違いではありません。間違いではない以上、誰にも否定はできません」
 抗議の声を上げようとしたユフィを制して、リーブが画面の一角を指さした「ご覧ください」。
 画面が中央寄りにズームしたかと思えば映像が瞬時に切り替わり、今度はうっそうとした森の中を
映し出した。
「なんだよ?」
 完全にリーブのペースに乗せられていると思いながらも、ユフィは示された画面上を注視した。生い
茂る木々が夕陽を遮っているせいで森の中は既に薄暗く、風にそよぐ枝葉の影はさらに色を濃くして
いた。映し出されているのは何の変哲もない森の様子で、大した異変を見つけることはできなかった。
「これは森の中に設置した観測機からの映像です」
 リーブが言い終わるよりも早く画面内の森の景色が歪み、さらに視界が大きく回転したことで夕焼け
色に染まる空が覗いた。枝葉の作り出した影の上にオレンジ色の光の帯が幾重にも走り、不規則な
軌跡をモニタに焼き付けていった。しかしモニタが光の帯に満たされるよりも前に映像は乱れノイズが
走り、やがて何も映し出さなくなった。
 画像が途切れる直前、ノイズの向こうに枝葉とは明らかに異なる影を見出した。見覚えのある四つ足
の影に、ユフィは思わず声を上げる。
「ちょっと待って、今のって?!」
 我が意を得たりと頷いたリーブは話を続ける。「残念ながら可視画像ではこれが限界なんですが……」
そう言ってパネルに向き直っていくつかの操作をすると、モニタ全体の映像が先ほどの夕景に切り替わり、
さらに画面下の一部の表示が替わった。黒っぽい画面の端の方に沢山の光点が点滅している、レーダー
みたいな物だろうとユフィは思った。
「どうやらモンスターの群れがこちらに向かっている様です」先ほどの映像も、モンスターの群れによって
観測機の設置してあった木がなぎ倒された為に起きたのだろうと説明する。
「まっ、まさかこれ全部?!」本当だとしたらとんでもない数だ。これだけ大量のモンスターがしかも大挙
して押し寄せてくるなんて、どうしても考えられない「冗談、だよね?」。
 リーブは首を横に振り、それを否定した。
「残念ながらモンスターの群れはここを目指しています」
「なんで?!」言っては何だが、こんな何もない場所へモンスターの群れが向かってくるのかがユフィには
理解できなかった「どうしておっちゃんがそう言い切れるのさ?!」。

175:ラストダンジョン (371)   ◆Lv.1/MrrYw
10/08/13 02:04:54 e81ey5Xh0
 顔を上げて視線をユフィに向けたリーブは、簡潔に答えを口にした。

「先ほどご説明した『インスパイアが星にとって害をなす存在』というのは、こういう意味だからです」

「え……?」
 関連性がよく分からないと頭を振るユフィの疑問には答えずに、リーブは話の先を続けた。
「ユフィさん、これは私からの最後の依頼になります。モンスターからここを守ってください」
「ちょっと待っておっちゃん! アタシは……」
「先ほどの飛空艇師団への空爆要請は、収拾が付かなくなった際の最終手段です」上空にいる彼らも、
間もなくこの事態に気づくでしょう。考えられる最悪の状況に陥ったとき彼らが判断を躊躇う要素を取り
除くために先手を打ったのだと意図を明かした上で、ユフィに告げる「そうならない為に、ユフィさんの
力を貸してください」。
 そう言ってリーブはマテリアを差し出した。マテリアを目にしたユフィは反射的に手を伸ばす、見た
ところ攻撃や回復に用いるマテリアでは無さそうだ。
「これは?」
 ユフィに見上げられたリーブは慌てて言葉を付け加える「残念ながら差し上げる事はできませんよ? 
もともと私の物ではありませんから」。
「ちょっと! アタシをなんだと思ってるのさ!」
「やや詰めの甘いマテリアハンター」
 リーブに即答されて、ユフィはがっくりと肩を落とした。
「あー、あのさおっちゃん? 今さり気な~くアタシの事バカにした?」
「いいえ、とんでもない!」慌てた口調で言いながら、顔の前で手を振る「マテリアの扱いに長けている、
と言う意味ですよ」。詰めの甘い、という部分については言及しなかった。その事を指摘される前に
ユフィにマテリアを手渡すと、ついでに話もすり替える。
「実はそのマテリア、忘れ物なんですよ。この一件が落ち着いたら、それを本来の持ち主に返して
頂けませんか?」
 リーブの話によれば2年前、治療を終えて本部施設を出たシェルクが置き忘れていった物だと言う。
「……自分で返せばいいじゃん」
 気まずそうに視線を逸らしたユフィに、諭すようにリーブが告げる。
「シェルクさんは表現が不器用なだけで、本当はとても素直な良い子ですよ」
 だから仲良くしてあげてくださいねと言われたものだから、ユフィは「別に仲が悪いってわけじゃない」と
抗議したものの、そう言えば3年前のオメガ戦役以来シェルクと顔を合わせていない事に気がついた。
それどころか連絡すら取っていない気がする。だけど連絡を取り合って特別なにか話すこともないしと
考え直すが、結論は変わらなかった。
(あれ? それってもしかして仲悪いって事なのかな?)
 嫌ったりとかそう言うことはないけれど、確かに起伏の少ないシェルクのような性格は、どちらかと
言えば苦手かも知れないと考えて、ようやくリーブの指摘が的を射たものだった事を理解する。
「なーんかさ、物言いがすっかり保護者だよね」
 はぐらかすようにしてユフィが言う。
「そう言うつもりはありませんが、少なからず私にも」そこまで言うと、今度はリーブが視線を逸らした
「責任の一端はありますからね」。
 それからモニタに映し出された夕景を見つめ、言葉の先を続けた。
「それに、私から直接シェルクさんにお返しする機会は無さそうですので」

176:ラストダンジョン (372)   ◆Lv.1/MrrYw
10/08/13 02:17:22 e81ey5Xh0
 その言葉を聞いたユフィは目を見開くと勢い良く顔を上げた。その先には表情の失われたリーブの
横顔と、モニタに映る夕景があった。
 淡々と語られた言葉に含まれた意味がどれほど残酷な内容であるかを、ユフィは一瞬のうちに理解
した。込み上げる怒りにまかせて言葉を吐き出す。
「いい加減にしてよおっちゃん! どんな事情があるのかは分かんないけど、そーいう話聞かされる
アタシ達が気分良いとでも思ってるの? 勝手すぎるよ! これもアンタが返せばいいだろ!?」
 言い捨ててから、先ほど手渡されたマテリアを投げて返した。
 マテリアが腕に当たってから、鈍い音を立てて床に落ちる音を聞くとリーブは視線を落とす。足下に
転がったマテリアを見つめながら、気のない相づちを返した。
「……おっしゃる通り、勝手かも知れませんね」
 尚も淡々と返ってくる言葉に、両手に拳を作ったユフィが食ってかかった。
「そうやって『自分は平気』ってカオしてるけどさ、聞かされる方の気持ちはなんも考えてないわけ!?」
句を繋ぐうちに、ユフィは自分が苛立っている本当の理由に気づき始めた「澄ましたカオしてそんな
こと言われると腹立つよ! だって……」。
 いつしか苛立ちは歯がゆさに変わり、全身から力が抜けていく。

「だってアタシ達……仲間、じゃん?」
 そう思っているのは自分だけなのだろうか? 歯がゆさの正体に思い至って言葉が及んだ時、彼女の
口調はすっかり勢いを失っていた。
「なんで? なんでおっちゃんはそんな事を平気で言えるのさ」 

 自分を見上げるユフィの視線から、今度は目を逸らさずにリーブが答える。
「そう見えるように振る舞っているだけで、なにも平気と言うわけではありません」
 そこまで言い終えると、屈んで足下に転がったマテリアを拾い上げてからユフィの正面に立った。
それからユフィの右手を取ってその上にマテリアを載せると、続く言葉を口にする。
「こちらも本音を言えば心苦しいです。ですが皆さんでなければ―」言いかけて、ひとつ首を振る
「信頼している皆さんだからこそ、なんです」
 身勝手は承知の上での我が儘ですが、どうか聞いてやって下さい。そんな風に依然として柔らかな
口調で話し続けるリーブの表情からは、感情を読み取ることはできなかった。
「どうかこの建物と、中にいる皆さんを守ってください。……お願いします」


177:ラストダンジョン (373)   ◆Lv.1/MrrYw
10/08/13 02:20:10 e81ey5Xh0
 あなたにならそれができると、そう言ってリーブは頷いた。それでも躊躇うユフィを諭すように続ける
「私にできなかった事も、あなたにならできますよ」。
「何が言いたいのか分かんないよ」
 ふてくされた口調でユフィが返す。時折―この日は特に―リーブは回りくどい表現をする事が
あった。そうする意図がどうであれ、ハッキリしない物言いをされるのは好きではない。からかわれて
いる気がして気分は良くなかった。
 そんなユフィの心中を察したのか、リーブは断言した。
「あなたは私と同じ轍は踏まない。と言う意味ですよ」
「!!」
 予想外の言葉にこわばった表情のユフィを前にして、リーブはさらりと言葉の先を続ける「さあユフィさん、
これでやるべき事は分かった筈です」。やがてリーブは添えていた手を離した。
「やるべき事がある以上、その間は決して後ろを向いてはいけません」そう言って背を押し、ユフィを
部屋の外まで送り出す。
 名残惜しそうに向けられたユフィの視線にも動じることなく、リーブは彼女の背中を見えなくなるまで
見送った。




----------
・すっかり忘れた頃にやって来るラストダンジョンです。ご無沙汰してます。
 諸般の事情(九分九厘ロクでもない内容w)から、ちょっと遠ざかっておりました。
 お待たせして(る人がいたらの話ですがw)すみません。そりゃ耳も痛くなる。
・久々にDCFF7起動してみたら、初プレイ時より狙撃が輪を掛けてヘタになってた感じで、文章も(ry
・作者にとって、ユフィとシェルクの間柄についてはDCビンタイベントが尾を引いているのは間違いありません。
・以前このスレでも書かれてましたが、ユフィとシェルクって性質としては斥候だし、年齢も同じだしで
 シチュエーションさえあれば色々面白そうなんですけどね。

178:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/08/14 03:15:46 xxYdTR9VO
GJ!

179:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/08/17 06:49:43 hKvBkSDrP
乙!

180:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/08/20 02:29:33 0XDtDUrd0
乙です!

181:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/08/22 09:24:13 19Yw4Dn80


182:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/08/24 18:34:31 TzszV8ZX0


183:みかづき ◆bkg5P8jr0A
10/08/24 23:44:07 C085NKwZ0
こないだの>>169です。
ただでさえ遅筆なうえに私生活で諸々あってなかなか進められなかったのですが、私的なタイミングとしても頃合いなので、少しずつ投下させて頂こうとおもいます。
原作を気にしすぎるせいか、本来二次創作が苦手なのですが、原作を気にしすぎてもいけないというアドバイスを貰い、自分なりにやりたいようにやってみました。
内容的にはよくある話なのですが、その中で自分なりの面白さを表現できればいいなと思っております。
挨拶が長く&堅苦しくなってしまいましたが、読んでいただければ幸いです。

Final Fantasy Different Destiny

序章 ~邂逅~

 十一月も半ばを過ぎると、外では早くも聖夜を意識した装いになってくる。
 イルミネートされていく街路樹や商店、どこからともなく流れてくるクリスマスソング、そして強がりと共に血の涙を垂れ流す独り身族。
 いや、最後のは置いといて。
 人々はたった一夜のイベントを、イコール冬と捕らえているようで、作り物の非現実を目一杯楽しもうとしていることは確かだ。
 かく言う俺、柿崎透も、そんな冬のイベントを少なからず楽しみにしていたわけですが。
 ……目の前で恐々とお茶を啜っている女の存在が、そんな非現実を、より強い非現実で塗りつぶしてしまったわけである。
「あ、おいしい─」
 口にした日本茶が気に入ったのか、女は二口目をためらいなく啜りに行く。
 背中まで伸びたブロンドの髪、意思の強そうな少し冷ややかな蒼い目、使い込まれていそうな白いマント、そして何よりも破廉恥な……もとい動きやすそうな緑色のレオタードに身を包んだ女性。傍らには本物の剣が置かれている。
 年は俺とそう変わらないと思うのだが、顔つきが大人びているので断言はできない。
 さて、なぜ俺がこんなコスプレ紛いの女の人と並んでお茶を啜っているのか。
 話は本日、十一月二十六日の朝に遡るわけだが……。


 喧しい目覚ましをKOして居間に降りると、姉貴が来ていた。
「ああ、おはよう透」
「おはよう。今日来る日だったっけ?」
「今日からまた父さん達出張でしょ。あんたの面倒見るように頼まれてんのよ」
「うわ何そのガキ扱い。そんなのいらないって」
「はいはい、自分からそう言ってるウチはまだガキなんだって事を自覚しなさい」
 この柿崎真澄は俺の姉貴で、現在一人暮らし。……の筈なんだけど、近所に住んでいるうえに頻繁に帰ってくるから、一人暮らしと言えるのかは少々疑問だ。
 ウチの父親は貿易関係の仕事をしているために出張が多く、今回は少し長い間外国に滞在するそうだから、母もついていくらしい。
 ……後になって思ったわけだけど、これって本当にご都合主義というか、お約束なんだよな。
 
 この街は住宅街を少し離れると、途端に装いが変わる。
 街を縦に割るように鎮座している大道に沿う様に商店が立ち並び、近くを通る国道に入れば、小さなビル等が立ち並ぶオフィス街になる。
 一ヶ月前に迫ったクリスマスの準備で忙しいのか、道行く人たちは多く、朝っぱらからせかせかと歩いている。あと数日で師走だ。
 そんなわけで、冴えない顔のサラリーマン風の男が、緑色の妙な服を纏った少女と共にすれ違った事など、視界の隅の景色の一欠けでしかなく、コンマ五秒後には綺麗さっぱり忘れていた。
 学校にたどり着いて教室へと向かう。
 クラスメイトに挨拶をしながら自分の席に向かうと、必ず目にするのが一人の女生徒だ。

184:みかづき ◆bkg5P8jr0A
10/08/24 23:48:07 C085NKwZ0
「おはよう」
 声をかけるとぴくりと反応して、少し小さめの声で「お、おはよう」と返してくる。いつものことだ。
 名前は高橋美奈都。大人しい性格で、別に虐められている訳ではないが、クラスでは少し浮いた存在。人見知りなのか友達がいる様子もない。
 彼女について知っているのはこれくらいのもので、教室の扉から自分の席までの道のりに彼女の席がなければ、こうやって挨拶を交わす事もなかったかもしれない。
 今朝のホームルームが済み、午前中の授業をいつも通り消化して、いつも通りの昼休みを過ごして、また午後の授業を消化して。
 そうやって何事もなく一日の学生生活が終わる。
「なあ柿崎、今日暇か?」
 清掃の時間に、友人の一人が話しかけてきた。
「急なんだけどよ、今日これから飛び入りでバイトやらねえ?」
「これから?……また随分急だな?」
「いやー俺がバイトしてる所で、年に一回倉庫整理するんだけどさ。今回あんまり人が集まらなかったらしくて、ヘルプ来れるやつ連れて来いって店長から電話が」
 バイト代はちゃんと出るから、けっこうおいしいから、と彼は拝み倒してくる。バイト先での体裁もあるんだろうが、人数が少ないとキツい仕事なんだろう。月末で俺も小遣いが心許ないし、日給でもらえるのならやりがいもある。
 
 そんなわけで、思いがけずにバイトをする事になり、キツい作業を終えて帰る時間になると、もうすっかり暗くなっていた。
「つかれたー……」
 どこか物寂しい道を歩きながら、そんな言葉を吐き出す。
 この街は割と都会のくせに、夜になるとめっきり人の気配が激減する。気の早いイルミネーションがきらきらとしていて、街灯も多く点灯しているはずなのに、人間が少ないというだけで嫌にに不気味だ。
 もちろん駅やスーパー、商店街の方までいけばそんな事はないのだが、道一本を隔てただけのこの小さなビルが立ち並ぶオフィス街は、人々から忘れられたようにしんとしている。
 そんな中を歩いていると、近くのビルの屋上で、何かがちかちかとしているのが眼に止まった。
 クリスマスのイルミネーションかと思ったが、それにしては不自然な光方をしている。
「─何だろ」
 よせばいいのに、ふと気になってしまった俺は、そのビルまで近寄ってみる。
 間違いなく、何かがちかちかとしている。
 ビルに入ってエレベーターで最上階まで昇る。八階建てのちょっと古いビル。
 何かのイベントでもやってるのだろうか。いや、ここは単なる個人や中小企業向けのオフィスビルだ。
 階段を上って屋上へと続く扉に近づく。
 気のせいだろうか。何か重いものが激しくぶつかり合うような、擦れ合う様な音が、不規則に、しかし絶え間なく聞こえてくる。
 何かの工事でもしているのかと思いながら、音を立てないようにゆっくりと屋上への扉を開けてみる。

185:みかづき ◆bkg5P8jr0A
10/08/24 23:49:56 C085NKwZ0
 そこで、全身が凍りついた。
 がらんとした屋上、寒空の下。そんな中で、手に凶器を持った二人の人間が殺し合っていた。
「あ─」
 信じられない光景が広がっている。あまりの出来事に口の隙間から間の抜けた声が漏れた。
 衝突しあう鉄と鉄、刃物と刃物、凶器と凶器。
 漫画やゲームの中以外ではそうそうお目にかかれない、文字通りの『武器』を振るっている二人がそこにいた。
 片方はブロンドの長髪の女、もう片方は黒ずくめの男。
 男が握っているそれは人の丈ほどもある大剣であり、それを棒切れでも振るかのように軽々と扱っている。対する女は、そんな獲物を持った男の猛攻を、小さな剣で凌いでいた。
 コスプレや演劇の練習といった言葉が脳裏を過ぎるが、目の前の光景はそんなものではない。わずかな隙間から伝わってくる刃物のような殺気が、眼球を通り、全身を通って脳に到達する。脳や神経は刃物に引き裂かれてズタズタになり、思考することも動く事もできなくなった。
 逃げろ。
 心ではなく、先に体のほうが本能で絶叫している。
 心臓はけたたましく鳴り響き、脚は信じられないほどに震えていた。
 逃げろ。
 しかし体は動かない。脳や神経が本当に切り刻まれたのか、自分の意思では指一本動かすことも許されない。
 動いてはいけない。今動けば絶対に見つかってしまうと、どこかで理解していた。
「っ─!?」
 一際大きな音が鳴り響くと、状況が変わっていた。
 切りあっていた男女は大きく距離を離し、女は片膝をついている。
 女はこちらに背を向ける形で、肩で息をしているのが見て取れた。
 対して男の様子はこちらからは遠くてよく伺えない。
「はは─あはっ、あはははははっ!どうだ女! これが実力の差ってヤツさ!!」
 屋上に響く若い男の声。しかし女と向き合う男の口は動いていない。
 声の発生源は丁度自分の真上、階段室の搭屋の扉の上からだった。
「ほらほらどうしたんだ、もう立って動けねえのか? 情けないね、せっかくこっちに来たってのにもうリタイヤなんて。さあザックス、止めをさしてやれ」
 その声はどこかで聞いたことがあるような気がする。しかしそんなことを考える前に、ザックスと呼ばれた男は、その巨大な剣を下ろして構えを解いた。
「ん?どうしたんだザックス」
「……今は倒さない」

186:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/08/24 23:50:49 C085NKwZ0
 そう言ってザックスは剣を背中に背負った。
「ああ、そうだな。せっかくの女なんだ。どうせなら楽しんでから始末するのがいいよね。何だ、涼しげな顔してちゃんと分かってるじゃないか」
「そうじゃねぇよ、引き上げるのさ」
「はぁ?」
 若い男は塔屋から飛び降りると、ザックスの下へ走りよる。
「どういうことだよ、せっかくのチャンスじゃないか。さっさと殺して次に」
「ギャラリーがいる。人目についちゃいけないのなら、これ以上はルール違反だ」
「おまえ……!」
 背を向けて去ろうとするザックスの前に立ちはだかる若い男は、俺と同じ学校の制服を着ていた。
「ふざけんなよザックス! それなら覗き見してるヤツも一緒に始末すればいいだけだろう! さあ早くしろ! このオレが命令してるんだから従うのが当たり前だってのがわかんないのかテメェ!!」
「リュウジ、無関係の人間を手にかけるのもルール違反だし、俺は頼まれたってそんなことはしない。第一俺たちは別に主従関係を結んでるワケじゃないんだから、あんたに"命令"される筋合いもない。何なら今ここで関係を切ったっていいんだぜ」
「ぐ─っ!」
 激昂する若い男に向けられた声は飄々としていて、つい先ほどまで殺し合いをしていた人間のものとは思えない。ザックスはこちらとは反対側の出入り口に向かって歩き出した。
「命拾いしたな。次会う時までに、そのケガ治しとけよ」
「……」
 最後に女に声をかけて、ザックスと男は屋上を立ち去っていった。
 
 屋上に取り残された女は、剣を杖代わりに立ち上がろうとするが、力がほとんど入っていない。
 気がつけば、心も体ももう悲鳴をあげてはいない、頭の中も別に切り裂かれてはいなかった。
 扉を開けて屋上に出ると、おそるおそる女に声をかける。
「お、おい、大丈夫か……?」
 振り返った女を見て俺は思わず息を飲んだ。
 大きな傷ではないが全身に切り傷が散見される。表情は見るからに疲弊していて、今にも倒れそうな顔をしていた。しかし、それ以上に目を奪われたのは、彼女の容姿だ。
 愛らしさを残した丹精な顔立ちは、その現実離れした出で立ちと相まって、銀幕(ファンタジー)の向こう側からでてきたようである。
「─見たの?」
 搾り出すように出した声に、首を立てに振った。見た所、日本人ではないようだが、流暢な日本語だった。
「そう……」
 ぐらりと傾く女の体。咄嗟に受け止めようと走るも、間に合わずに地面に倒れてしまう。
「おい、しっかりしろ!」
 目を閉じて荒い息を繰り返す女。

 冬に差し掛かった夜。
 これが彼女、セリス・シェールとの出会いであり、これからはじまる一連の不可思議な事件の幕開けだったのである。

187:みかづき ◆bkg5P8jr0A
10/08/25 00:01:24 sOBfMFId0
とりあえず本日はここまでです。

188:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/08/26 18:21:32 qrJ1frF30
節子それ二次創作やない、俺×キャラや
文章上手いのに惜しいな…本来批判をするスレではないが、これは海外で発表したとしても歓迎されない
セリスを助けた透もまずいが、リュウジはザックスと対等で将軍を倒してしまっているのでもっとまずい
現代が舞台だったり、オリジナルキャラクターが出ること自体はいいんだ
だけどそれが最強のキャラになったり、ゲームキャラに賞賛されたり恋愛になるのはアウト
オリキャラ全員ここでチェックしてみて、該当してしまうようだったら出せないと思った方がいい
URLリンク(iwatam-server.sakura.ne.jp)
オリジナルキャラクターのみ登場する架空のゲームを創作するか、ごく普通の人としてゲーム世界に迷い込むか、
モブとしてゲームキャラに助けられるか、通りすがりにゲームキャラに倒されるなら問題ない

189:みかづき ◆bkg5P8jr0A
10/08/26 18:49:20 MsRnSUT40
>>188
レスありがとうございます。
今後の創作の参考にさせていただきます。
今回はすでにプロットをある程度組み上げて書いているので、ラストまでは書かせて頂こうと思っております。
厳しいご意見も文章の賞賛も有難く頂戴しました。
出来れば今後もここで発表させて頂こうと思っておりますので、よろしければまたご感想のほど、よろしくお願いします。


190:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/08/27 05:26:53 OWujS7qi0
メアリースーはだめでしょ

191:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/08/28 09:48:49 zXGVClIK0
詳細な一次設定ありそうだし、一次創作として仕切り直して欲しいな
ここだとスレ違いだけど、オリジナルSSとしてならどこかで読みたい

192:みかづき ◆bkg5P8jr0A
10/08/28 20:01:09 KicuwV740
ありがとうございます。
個人的に一度書き始めたものは最後まで書きたいので、今後は自分のところのみで載せようと思います。
真摯なご意見ありがとうございました。
お騒がせしてしまった事を深くお詫びいたします。

193:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/09/02 07:48:21 3rCk2t0F0
乙でした

194:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/09/02 19:08:17 oCwWH2f30
終わった事をとやかく言うのはアレだけど
>>リュウジはザックスと対等で将軍を倒してしまっているのでもっとまずい
読む限りじゃリュウジは何にもしてないのでは?
メアリー・スーと決めるのはいささか早計な気も
まあでも本人がもうここには来ないと言っている以上言ってもしかたないよな

みかづき氏見てたら続き読みたいのでアドレス教えてくれ

195:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/09/03 01:46:53 ARgOXT4C0
>>183-186
ザックスとリュウジはどういう契約(…か、どうかは分かりませんが)で一緒にいるのか?
彼らの言う「ルール」とは何か?(ここまで読んで連想したのは、たとえばゲームの世界から
キャラクターを召喚した、とかそんな感じで)その「ルール」が及ぼす影響がこのお話の軸っぽい?
そう言った意味では面白そうな展開だと思います。
とは言え、主観になりますが(そもそもここがFF・DQ好きな人が集う場所なので)この板・スレで書く
となると、少しでも原作軽視の傾向があるネタは分が悪い気はします。
(軽視というのは、作者が意図していなくても取り扱いに偏りがあった場合、読み手に与える印象が
相対的に変化する事を含みます。そもそもキャラクター自体が架空世界に成り立つ存在なので、
その外に出て個性を維持するのは難しいと。その辺が混作の難しさだと感じますが)
ただ、それを逆手にとって思いがけない展開が繰り広げられたら読み手は一気に引き込まれます。

>>194
横合いからすみません。意図は定かじゃないですが>>188
「リュウジはザックスと対等」の部分と、「将軍を倒してしまっている」の部分について触れてるのかな?
(なので、この関係性の根拠になる物が必要=その根拠が話の軸。つまりこの根拠の示し方によって
この先どうにでも転ぶ。この部分を不安と取るか、機体と取るかは読み手次第だと思いますが)。
あくまで読んだ時点での感想なので、188も間違ってはいないと思います。
(それに恐らく書き手はそれを踏まえて書くでしょうから、そこは気にしないで良いと思いますよ。敢えて
ミスリードさせるという手もあるでしょうし。なにせ掲示板、書き手も読み手もそれが醍醐味ですw)


長レス失礼しました。

196:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/09/08 08:56:00 c+c4QqnH0


197:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/09/10 06:36:11 8i/R4Dt40


198:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/09/12 17:54:22 yzNwt0CM0


199:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/09/14 15:18:12 lG+2Opr50


200:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/09/16 17:54:19 Yvh4ADmX0


201:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/09/18 02:01:16 1zbX+i+Y0


202:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/09/20 12:39:24 XWDbit+X0


203:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/09/23 10:40:05 d5IPjTNe0


204:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/09/25 19:42:03 1isI6bfz0


205:ラストダンジョン (374)   ◆Lv.1/MrrYw
10/09/27 02:14:30 nqYGLRPF0
前話:>>173-177
----------

 あの場からユフィが動けずにいた時間は、彼女の体力回復という点において無駄にはならな
かった。部屋を出たユフィはいつもの軽快な身のこなしで亀裂だらけのフロアを駆け抜け、強固な
隔壁の下の僅かな隙間をくぐり抜けてエレベーターホールへと向かった。
 1枚目の隔壁を抜けたユフィは立ち上がると、しまっておいた小瓶を取り出してそれを見つめた。
(この調子なら、さっきおっちゃんにもらった回復薬も使わずに済みそうだ)
 リーブがここへ戻ってきたユフィに渡したのはエリクサーだった。エリクサーは今でも稀少品
だったが、だからといって重宝する時代ではなくなった。使うとしても場面はごく限られるし、もともと
店に売ったところで儲けを期待できるような代物でもない。昔も今もちょうだいと寄ってくるのは
せいぜいマジックポットぐらいだ。それでも6年前のユフィなら魅力的な対価を目当てに、今なら
半ば不要品処分といった感覚で、マジックポットの要求に快く応じたことだろう。
 けれどこの時のユフィにとって、いま手元にあるエリクサーだけは誰に頼まれたとしても譲る
気にはなれなかった。
 無意識のうちに、エリクサーを持つ手に力がこもった。
(これ以上おっちゃんの思い通りにはさせない。……こんな物、アタシには必要ないんだから)
 ここまでの経緯を思い返すと、どう考えてもリーブの計略にまんまと振り回されている気がした。
そしてユフィの認識と現実は残念ながら一致している。渡されたエリクサーを使わずにいたのは、
まるで事態を見透かしたようなリーブに対する小さな反抗意識からだったが、今やこの状況を打破
するための切り札のような存在にも思えたのだ。
 ユフィにとって手放したくないほどの価値はエリクサーその物ではなく、それを手元に残しておく
ことにあった。
 確認するようにして手にした小瓶を見つめて頷くと、再びエリクサーをしまってエレベーターホール
を目指し走り出した。
 2枚目の隔壁下から這い出たユフィは立ち上がって後ろを振り返った。ここからでは壁に阻まれ、
先程までいた部屋はもう見えない。
(……モンスターからここを守って)
 それからまた前に向き直って3枚目の隔壁の下をくぐり抜ける。
(ここにいるみんなを守って)
 同じ要領で4枚目。
(もちろん、空爆なんて絶対させない)
 そして、最後の隔壁に向かう。
(見てろよ~)
 こうして文字通りに自分が切り開いた道を戻りきったユフィはエレベーターホールまで辿り着くと、
扉横のボタンを押した。

206:ラストダンジョン (375)   ◆Lv.1/MrrYw
10/09/27 02:18:07 nqYGLRPF0
 ところが、ドアが開くまでにかなりの間があった。物音ひとつしない薄暗いフロアに一人でいると、
ついつい考えだけが先走ってしまう。
(……だけどさ、やっぱり意味分かんないよ)

 ―「ここはインスパイア能力そのものを安置しています。我々は、それを守るために配備された
    人形なのです。」

 あそこにいたリーブは自らのことを人形だと言い、存在している理由をそう語った。
(おっちゃんは自分のことを『星に害をなす』って言ったけど、じゃあどうやって?)
 具体的にリーブがどんな方法で星に害を与えるのだろう? ユフィは思いつく限りの状況を想定
してみた。
(街中にケット・シーがうじゃうじゃいる、とか?)これは喧しい。が、いくら数に物を言わせたところで、
相手がケット・シーならそれを惑星規模の危機だと嘆くのは大げさ過ぎる。
(じゃあ、デブモーグリが道を塞いじゃう、とか?)主要な幹線道路上にデブモーグリがいたら確かに
邪魔だし、戦闘能力と言う面でもケット・シーより深刻になる必要はあるかも知れない。とは言え
モンスター相手に戦えるWROが各地にいるなら問題ない。
(ん~、『星に害をなす』って言うには、どれもいまいちインパクトに欠けるよなぁ)
 星にとっての脅威と言われて真っ先に思い浮かぶのは、6年前の空に禍々しく輝いていたメテオと、
北の大空洞で見たセフィロスの姿だった。自分ひとりの力では打倒どころか、抗う事すらできない
存在―この星に危害を加えようとするなら、あれぐらいの規模と力量差がなければ説得力がない。
 逆に、自分ひとりで打倒できる相手が“星にとっての脅威”となるなら、つまり“ユフィ自身”も星に
害を与えられる事になってしまう。
 そんなことできるわけがない。
(どう考えたって、おっちゃんには無理そうなんだよね。……なら、どうして?)
 リーブの言葉を思い出そうと、ユフィは意識を集中させる。

 ―「先ほどご説明した『インスパイアが星にとって害をなす存在』というのは、
    こういう意味だからです。」

 モニタを見つめていたリーブの横顔と共に、その言葉が浮かんだ。
(おっちゃんは、モンスターを召喚するマテリアかなんか持ってるって事なのかな? だいたい
『インスパイア』って何なのさ?)
 『あやつる』のマテリアならともかく、インスパイアなんてマテリアは聞いたことがない。そもそも
マテリアじゃないのかも知れない、それにしたって耳慣れない言葉だった。モンスターが大挙して
押し寄せてくるのは何故なのか、結局分からず終いだ。

207:ラストダンジョン (376)   ◆Lv.1/MrrYw
10/09/27 02:25:18 nqYGLRPF0
(……アタシは)
 放っておくと迷走する思考を追い出そうと、ユフィは一度おおきく頭を振った。
(アタシには、みんなを守れる。おっちゃんはそう言ってくれた。アタシだってそうしたい)
 みんなを守りたい。その「みんな」の中には当然リーブも含まれている。
(だけど欲張ったって結局なにもできない。さっきみたいに、どうやって動けばいいか分からなくなる)
 今だってそうだ。いくら考えたって分からない。
(変に考えたって立ち止まっちゃうだけってんなら、そんなの意味ないよね)
 その時ポン、と軽妙 な機械音と共にエレベーターの扉が開いた。考えることに集中していたユフィ
は、この時ようやくここに来た本来の目的を思い出した。
(アタシのできることをやるんだ)
 決意して顔を上げたユフィは次の瞬間、驚きに目を見開いた。
「……って、クラウド!?」
 エレベーターの扉が開くと同時に現れたのはクラウドの背中だった。混乱する頭の中とは裏腹に、
とっさに差し出した両手で倒れるクラウドの背中を支える。この様子だと本人の足で立っていたので
はなく、エレベーターの扉に凭り掛かってようやく立てていたのだろう。しかしそうなる状況がユフィに
は想像できなかった。
 ひとまずその場に横たえさせると、ユフィはクラウドの横合いに回った。これならエレベーターの扉
も勝手に閉まることはない。
 クラウド自身に目立った外傷はなく、右手にしっかりと握られていた大剣にも戦闘の痕跡は見られ
なかった。ただ、ここへ来る直前のクラウドが大剣を振るう状況にいた事は間違いなさそうだ。しかも
一時的にでも意識を失うほど、気力体力ともに激しく消耗するほどの事態―それがクラウドにとって
あまり良くない状況だったであろう事は、ユフィにも容易に想像できた。
 頬を叩きながら呼びかける「ねえちょっと、大丈夫?!」。
 その声にようやく反応したクラウドに、ユフィは迷わずエリクサーを取り出した。
「起きれる?」
 かすかに頷くクラウドに肩を貸し、エレベーターの扉に背を凭れさせる格好で上半身を起こしてから
取り出した回復薬を施した。それから平静を取り戻すまでにそう時間は掛からなかった。
「……大丈夫?」クラウドの顔を覗き込んでユフィが尋ねると、クラウドは小さく頷いて答える。
 日頃から口数が多い方ではないから、この反応も自然と言えば自然だった。けれど普段とは異なり
表情が硬かった。そこに加えて、ユフィにはどうしても不思議に思える事があった。
「っていうかクラウド、どうしてここに? 他のみんなは?」
 ティファ、ヴィンセントと一緒に3人で地下に向かったはずだった。なのにクラウドだけが何故ここに
いるのだろう?
「……分からない」
 クラウドの視線は動かない。僅かに動いた唇から頼りなげな言葉が零れた。
「クラウド、ホントに大丈夫?」
 もう一度小さく頷く。それでも尚、ユフィと視線を合わせようとはしなかった。ここへ来てどうやら
クラウドが混乱しているらしいと見当が付いた。

208:ラストダンジョン (377)   ◆Lv.1/MrrYw
10/09/27 02:30:33 nqYGLRPF0
「下で……なんかあった?」
 ユフィの問いにクラウドは無言で首を振った。
「もしかして……覚えてない、とか?」
 可能性として口に出された言葉に答えようと、クラウドは顔を上げ硬い表情をユフィに向けた。
「覚えてない、わけじゃない。……」
 どうにも歯切れの悪いクラウドの様子を、ユフィはもどかしい思いで見つめていた。
「ただ……」
 何も言わず、ユフィは辛抱強く言葉の先を待った。
「理由は分からない、でも……ここは……」
 歯切れが悪いだけではなく、声が小さく震えていた。クラウドが混乱だけではなく、緊張している
のだとユフィは知った。
 その理由を、クラウドは短く告げる。
「ここにいるリーブは、人間じゃない」
 そう言ってクラウドは再び俯いてしまう。
 それを聞いて安心したようにユフィは相づちを打つ「アタシも見たよ。確かに自分のことを『人形』
だって言ってるし、ひとりは本当に人形だった」。
「……そうじゃ、ない」小さな声で、だがはっきりと否定したクラウドは、首を横に振った。
「なにが違うってのさ? ここにいるおっちゃんが、人形でも、人間でもないって言うなら、
一体なんだってのよ?」
 僅かな苛立ちを含んだ声でユフィが問うと、俯いていたクラウドは手元の一点だけを見つめたまま
で答えた。

「……あいつは、モンスターだ」


----------
・マジックポットには大変お世話になりました。
・「街中に溢れるケット・シー? 最高じゃないか!」…と言ってみる(個人的に)。

209:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/09/28 11:32:06 qnqp182W0
GJ!

210:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/09/30 20:25:54 Xf3Jn6iL0
GJ!

211:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/10/02 18:27:02 WdDhY0z70
乙!

212:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/10/05 11:27:41 yJevKiKu0
乙です

213:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/10/08 11:54:34 mJZ/9UZB0


214:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/10/12 00:57:20 mcVZxZUC0


215:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/10/13 08:19:41 dSG72oIN0


216:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/10/15 10:45:49 OlAPrO/00


217:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/10/18 20:52:58 TwGS7XYf0


218:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/10/20 23:08:26 mWOVI50W0


219:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/10/22 18:11:11 rbyuy72S0


220:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/10/24 20:56:05 qUeRirwH0


221:ラストダンジョン (378)   ◆Lv.1/MrrYw
10/10/25 23:33:28 Z3E9w06r0
前話:>>205-208
----------

 その言葉を聞いてから、ユフィが反応するまでにはかなりの間があった。
「クラウド……? なに、言って……」
 とても冗談を言っている顔には見えないし、冗談を言ってられる様な状況でない事も分かって
いる。けれど、この時はクラウドの言葉を冗談だと思いたかった。
「おっちゃんがモンスターなワケないじゃん! 下で何があったか知らないけどさ、そんな言い方
あんまりだよ!」
 亡霊の次はモンスター、しかもそれを口にしたのはクラウドだった。冗談はおろか揶揄などする
ような性格ではない彼が、なぜそんな物言いをしたのか? 事情を考えるよりも感情が先に立った
結果、ユフィの言葉は非難めいたものになった。
 ユフィにしてみても、今日ここで出会ったリーブと彼らに聞かされた話はどれも理解しがたい
ものだった。だからといって、敵と割り切れるような存在ではないと―6年前の困難な旅路を
共にした“仲間”だと―その思いだけは揺るがない。仮にリーブの方が割り切っていたのだと
しても関係ない。自分に向けて「平気と言うわけではない」と言ったリーブを最後まで信じたかった。
信じようと決めたばかりだった。
 なのに。
「ケット・シーは仲間だったよね? 確かにあの時おっちゃんは遠くで操作してただけかも知れない
けどさ、仲間に違いないじゃんか!」
 クラウドの言葉を聞いて不安になった。これ以上迷いたくないし信じたい、だけど晴れることの
ない疑いは、まだ確かに心の片隅にあった。だから不安に駆られる。その事をユフィは理解して
いた。
 だからこそ不安を吹き飛ばそうと勢い任せに声を張り上げた。そんなユフィを見上げ、クラウドは
頷いた。
「……分かってる。いつも見えないところから、俺たちを助けてくれた」今度はユフィをしっかりと
見据えて言った「大切な、仲間だ」。
「じゃあ!」尚も問い質そうとしたユフィは、改めて見たクラウドの表情に言葉を失う。ソルジャーの
証たる魔晄色の瞳が、深い悲哀を帯びながら僅かに揺れていた。
「……ごめん」

222:ラストダンジョン (379)   ◆Lv.1/MrrYw
10/10/25 23:36:23 Z3E9w06r0
 先程までの発言が軽率だったとユフィは心の底から後悔した。言葉には出なくともその目を
見れば、クラウドが自分以上に憤り戸惑っているのだと言うことが分かったからだ。
「これじゃ押しつけだよね」



 ―いっつも自分の事ばっか、昔からユフィはちっとも変わってないね。

 6年前に旅を終えてウータイに戻った時、幼馴染みにそう言われた事を思い出した。星を救った
英雄どころか、謎の病気の媒介者という濡れ衣を着せられた挙げ句に隔離までされた当時の
ユフィにとって、どうしても自分の無実を主張したかったのは仕方がないと思っていた。誰だって
そう思うだろう。現に、そう指摘した幼馴染みだって同じだったのだから。
 けれど時間が経つにつれてこの言葉の重みが増していった。
 不思議と、6年前は顔を思い出すのにも苦労していたはずなのに、今では彼の言葉と後悔とが
ない交ぜになって心に引っ掛かっている。いなくなってから思い出に残り続けるなんて、皮肉な
ものだと思った。



「アタシいっつも自分の事ばっかしゃべって、自分の感情を押しつけてる……って、ホントそうだ
よね。ごめんねクラウド」
 人差し指で頬の辺りを掻く仕草をしながら、気まずそうに視線を逸らすユフィを見ていた
クラウドは、首を横に振った。
「気にしてない。それと、そう言う方がユフィらしくて良いじゃないか」そこまで言ってから、堪え
きれずに小さく笑う「だいたい、変にしおらしくされても気味が悪い」。
「ちょっと、気味悪いってなにさ!」
 もうちょっと言い方があるじゃないか、と勢い良く振り向いたユフィの口から猛烈な抗議が始まる
のを遮るにはちょうど良いタイミングで、クラウドが言葉の先を続ける。
「それに、どんな形であっても自分の感情を優先するのは人として自然な事だと、俺は思う。
少なくとも、それを間違いだと責めることはできないよ」
「……えっ?」
 視線の先のクラウドから笑みは消えている。
「俺たちは、良くも悪くも自分の感情に従って生きている」そう言って、いちど傍に置かれた大剣に
視線を落とす「怒りや悲しみ、憎しみ……それは時として、信じられない力を生み出す」
 ふだんは箍として機能する理性が、内在する“力”を抑制している。何らかの形でその箍が外れ、
感情がある種の臨界点を超えたときに発生する現象を『限界突破(リミットブレイク)』と呼んでいた。
それは各人で異なる性質を示すが、共通しているのはマテリアを介さずにそれと同等の威力や
効果を得られるという点だった。未だに発生原理の全容は解明されていない。ただその“力”は、
これまでに幾度となく彼ら自身を救ってくれた。
 クラウドの言う事は、ユフィにもよく分かる。そうやって道を切り開き、あるいは目の前の敵を
倒して生き延びてこられたのだ。

223:ラストダンジョン (380)   ◆Lv.1/MrrYw
10/10/25 23:40:46 Z3E9w06r0
「でも……」クラウドは再び顔を上げる「その力に呑み込まれてしまうのも、逆にそれを捨てようと
するのも、どちらにしても“人ではない存在”になってしまう気がするんだ」形は人でも中身が人
ではない存在、それがモンスターだとクラウドは言う。
 表情こそ変わらないが、心なしか声を落とすとこう続けた「……俺たちが知るリーブは、恐らく
ここにはいない」。
「クラウド?」
 その変化が何を意味しているのかを計りかねてユフィが問うが、クラウドは答えずに話を進める。
「あいつは俺に『リーブを殺せ』と言った。でも、俺たちの知るリーブはとっくにいないんだ。少なく
とも……ここには、もういない」
 そう言って目を伏せたクラウドは、ここへ来るまでの経緯を手短に説明した。1階エレベーター
ホールでユフィ達と別れた後、3人の乗ったエレベーターは途中の階で停まった。半ば強制的に
降ろされたフロアで彼らを出迎えたのは、無数の射撃装置とそれを従えたリーブだった。自らを
人形だと告げた以外にはたいした説明も無いまま銃口は3人に向けられ、成り行きで交戦。この
混乱に乗じてティファ、ヴィンセントとはぐれたクラウドは、さらにその先でもう一体の「リーブ」と
対峙することになった。
 そこでどんな遣り取りがあったのか、具体的な話をしようとはしなかった。だからユフィもそれ
以上聞こうとはしなかった。クラウドの言う「あいつ」が、そこで対峙したリーブの事を指していた
のだと分かれば、それで充分だったからだ。
「仲間を守る力……俺はそう思って剣を振るってきた。だけど、今となっては破壊でしか役に立た
ない」そこでいったん言葉を切ると、首を小さく横に振った。「いいや、都合良く『守る』と、そんな
ものは言い訳なんだ。今も昔も、結局やってることは同じだった」
 言い終えた後、俯いたクラウドの肩が小さく震えた。笑っているらしい。その様子が恐ろしくなっ
て、ユフィは窘めるように声を掛ける。
「ちょっとクラウド、さっきからどうしたん……」
 ユフィの心配をよそに、クラウドは話を続ける。
「否定できないなら、ありのままを受け容れるしかないよな」そう言って無理やりに作った笑顔を
向ける「外見がどうだろうが、あいつはリーブなんかじゃないんだ。でなきゃ『これを壊せ』なんて
俺たちに平然と言える訳がない」なんの躊躇もなく、そこに仲間などと言う感情も遠慮もない。
だからあんな物がリーブである筈がない。
「ちょっと待って、それは違う! おっちゃんは……おっちゃんは……!!」
 クラウドの身に何が起きたのかは分からない。ただ、今のユフィには彼の心情が理解できた。
少し前までの自分と同じだったからだ。だからこそ反論した。

 ―「そう見えるように振る舞っているだけで、なにも平気と言うわけではありません」

「おっちゃんだって平気でそんなことを言ってるんじゃない!」勢いでクラウドの両肩を掴む
「……理由は……よく分かんない。けど! そうしなくちゃならない理由がある。おっちゃんは
自分の感情よりも……」
 そこまで言ったユフィの言葉を遮って、溜息混じりにクラウドは相づちを打つ「そう、ユフィの
言う通りなんだ」。まるで呆れたとでも言わんばかりに肩を落とす。
 その様子を見て、言っていることと態度に食い違いがあるとユフィは思った。
「クラウド、分かってるなら何……」

224:ラストダンジョン (381)   ◆Lv.1/MrrYw
10/10/25 23:43:52 Z3E9w06r0
 伏し目がちだったクラウドは、そのままユフィから顔を逸らして先を続ける。
「つまり俺たちがここへ来る前、既にリーブは自分の“感情”を殺している。だから、もうここには、
“俺たちの知っているリーブ”はいない」
 目的のために自分の感情を殺す―つまり自身を放棄するのと同じ―事ができると言うな
ら、それはもはや人ではない。
 クラウドにとってそれは、過去の記憶に重なって嫌悪感を呼び起こす。
「利用できる物は何でも利用する。自分だろうが他人だろうが、そいつにとっては道具なんだ……」

 ―お前は、人形だ。

 自分がかつてそう呼ばれたのを思い出す。
「人形には感情なんて無い……」そう言って首を振る「操り主にとっては、感情なんて無い方が
都合が良いんだ」
 だからああも簡単に「壊せ」と言えたのだろう。
「同じだ。アイツと同じなんだ……」
 耳鳴りがして反射的に顔をしかめる。6年前の忘らるる都―あの時の記憶が、まさかこんな
形で再燃するとは思ってもいなかった。額に手を当て、押し寄せる苦痛に耐えるようにして目を
閉じ俯いた。
 けれど逆効果だった。瞼の裏に蘇るのは、消すことのできない忌まわしい記憶。

 ―悲しむふりはやめろ。怒りにふるえる演技も必要ない。
    なぜなら、お前は……

 そこまで思い出してクラウドははっと目を見開いた。
 あれが言っていた通り、あの時の自分は演技をしていたのだろうか?
「違う!」
 考えるまでもない、答えは明白だ。
 耳鳴りが遠ざかっていく中で、別の声が聞こえた様な気がした。それは4年前にミッドガルで
対峙した少年だった。

 ―「どうせ僕は操り人形。昔のアンタと……同じだ!」

 握りしめた拳と、怒りに打ち震える少年の姿。当時はそれと知らず、感情を利用して行動を
操作されていたのだ。昔の自分と同じだと言った少年が、まさにそうだった。だとしたら。
「……どうして、どうして気付かなかった……!」
 叫ぶようにして言うとクラウドは立ち上がる。
「感情がなければ人形は操れない。……だから操り主にとってみたら、感情は必要不可欠な
ものなんだ」
 突然の出来事にクラウドを見上げていたユフィは、今し方リーブから聞いた言葉を口にする。
「おっちゃんも似たようなこと言ってたよ。『今バレットの前にいるのは、ミッドガルの都市開発
責任者としての思いをもっとも強く受け継いでいる』とかなんとか。だから同じ人形でも、みんな
ちょっとずつ違うんだ。……とかなんとか」
 それを耳にしたクラウドは驚いた様子でユフィに向き直る。

225:ラストダンジョン (382)   ◆Lv.1/MrrYw
10/10/25 23:47:41 Z3E9w06r0
「……それを、リーブが?」
「うん。もうちょっと難しい事も言ってたけど、アタシじゃ理解できな……」言っている間にも、
クラウドの顔から血の気が引いていくのが分かった「どうした?」。
 クラウドは呆然と立ち尽くし、自身の右手を見つめながらぽつりと呟いた。
「だとしたら、俺が……」
 そこで声は途切れてしまう。
 首を傾げてクラウドを見上げていたユフィには、その先にどんな言葉が続いたのかを知ること
はできなかった。しかし唖然としたその表情を見れば、彼がどんな事を考えていたのか、ある
程度の想像がついた。

(俺が壊した物は、まさか)
 下で会った「人形」が、実は人形でなかったとしたら―想像するだけでもおぞましい、最悪の
事態が脳裏を過ぎる。

「……あのさ、クラウド」
 殊更明るい声で名を呼ばれ、我に返ってクラウドは顔を向ける。視線の先には、満面に笑みを
浮かべるユフィがいた。
「おっちゃんに会ってみない?」
 立てた親指が指す方向に目をやると、亀裂どころかボロボロになったフロアタイルが目に入った。
「アタシにはよく分かんないけど。今、クラウドが想像してる事って間違ってると思うんだ」跳ねる
ようにして立ち上がると、クラウドの前に進み出た。
「この先にいるおっちゃんなら、きっと教えてくれると思うから」




----------
・小説ユフィ編を誤解していたら申し訳ない。
・リユニオンの解釈自体を誤解(ry
・リミット技の解釈を誤(ry
・色々とすまない。

226:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/10/26 20:55:55 g+RgT92Q0
GJ!

227:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/10/28 20:57:38 gCbGFHjQ0
>>223
おもしろくなってきた

228:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/10/29 16:57:07 N4iCR+4I0
乙!

229:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/11/01 21:59:46 c9BfxzR00


230:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/11/03 09:06:32 Qk0qYdxz0


231:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/11/05 16:18:23 b/pnVv1g0


232:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/11/07 12:12:43 XpGZoR1x0


233:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/11/09 17:26:14 mqD9FuNG0


234:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/11/12 06:19:44 QhNn0/Vu0


235:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/11/15 00:32:27 FephlOJa0


236:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/11/17 11:17:31 Vx3Nm/PG0


237:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/11/19 00:59:10 mX0rzRoj0


238:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/11/21 20:44:51 FSOBD5gQ0


239:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/11/24 00:44:43 6C+hGeiW0


240:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/11/27 20:24:03 71gzfcWP0


241:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/11/29 21:49:36 eJdn1VR80


242:名前が無い@ただの名無しのようだ
10/12/02 02:50:30 gkzCfSfA0


243:ラストダンジョン (383)   ◆Lv.1/MrrYw
10/12/03 01:40:58 YH+jCqWP0
前話:>>221-225
----------


 そう言ってクラウドに背を向けると、ユフィは躊躇わずに一歩を踏み出そうとした。きっとこの先に
いるリーブに会うのが、今のクラウドにとっては最良の選択だろうと思ったからだ。
 しかしそれを全力で否定したのはクラウド本人だった。彼は無言でユフィの腕を掴むと、彼女の
前進を妨げた。
「ちょっと! いきなり何……」言いながら振り向くのと同時に、今度は腕を思い切り引っ張られた
ものだから、ユフィの体は放り投げられる形でエレベーターに押し戻された。頭部に走る衝撃に
思わず瞼を閉じれば、耳鳴りと共にきらきらと小さな光の粒が視界を横切った。
 それから数秒も経たないうちに、エレベーター内の側壁にぶつけた後頭部を押さえながらユフィ
が薄く瞼を開く。視界の中央には、伸ばした手で操作パネルのボタンを押しながら宙を舞うクラウド
の姿と、扉の向こうに走る閃光が見えた。その光景を目の当たりにしたユフィは一瞬だけ、まるで
良くできた映画みたいだと、どこか他人事のように考えていた。
 間一髪のところでエレベーターにクラウドが飛び込むと、扉は閉まった。それから息を吐く間も
なく、轟音と共にエレベーター内は激しく振動した。
「なっ、なんだってのさ!」尻餅をついた格好で踏ん張りながらユフィが叫ぶ。突然の出来事に、
状況が呑み込めずにいた。
「あのまま行ってたら、爆発に巻き込まれてた」
 前につんのめる形で体勢を崩してはいたものの、クラウドの声は冷静だった。
「爆……?!」
「どうも、あそこから先には進ませたくなかったみたいだ」
 言いながら、揺れが小さくなったのを確認したクラウドは大剣を支えにしながらゆっくりと立ち
上がり、パネルの前に立つと操作をはじめた。しかしどこを押しても扉は反応しなかった。どう
やら自分達は爆発の衝撃で傾いたままのエレベーター内に閉じこめられたのだろう、と言う状況を
把握した。
「面倒な事になったな……」
「ねえクラウド、『アタシ達を先に進ませたくなかった』ってどういう事?」
 操作パネルと向き合うクラウドの背にユフィが問う。意識せずに立ち上がった勢いでエレベーター
内が大きく揺れ、再びユフィは側壁に後頭部をぶつけた。深刻な内容の会話にあって、その鈍い
音はいっそう際立った。

244:ラストダンジョン (384)   ◆Lv.1/MrrYw
10/12/03 01:50:23 YH+jCqWP0
 しかしクラウドは意に介した様子もなく、ユフィの問いに答えた。
「爆発のタイミングから見て、俺たちがあの先に進むのを妨害する為の仕掛けだと思えたんだ」
見方によっては罠という言い様もあったが、クラウドは意識的にそうすることを避けていた。
 言い終えたところで、パネル操作を諦めたクラウドは天井を見上げた。換気口があれば、そこ
から外に出られるだろうと考えた。
「って事は、おっちゃんが?」
「そこまでは分からない。時限式かセンサーかそれとも遠隔操作か、やり方は色々ある。だけど
装置を作動させるための仕組みによっては、ユフィの予想が正しい事になるな」
「なんで……?」気の抜けた声でユフィがつぶやいた、どうしてこんな状況になったのかが分か
らなかったのだ。
「ところでユフィ」支えにしていた大剣を右手に持ち替え、両足を開いて態勢を整えると視線を
真上の換気口に向けながら問いかける「ここへ来る前にリーブと会った、って言ったよな?」。
「うん」
「なにか言われなかったか?」
「えっ?」
 どうやら質問するクラウドには心当たりがある様子だったが、聞かれているユフィ当人には思い
当たるところがない「ええっと、色々聞いた気がするけど……」。急転を繰り返す事態について
行けず、思うように考えがまとまらなかった。
 その間もクラウドが大剣で天井の換気口を壊そうとする度に、エレベーター内が大きく揺れた。
神羅ビルのそれとは違い、ここはずいぶん頑丈に作られているみたいだと、妙なところに感心する。
 マテリアを携行しなくなって久しい今では、魔法は使えない。つまり脱出のための選択肢は
限られていた。しかもクラウドの剣技は狭い空間、とりわけ密室となったエレベーター内で使用
するには向いていない。それというのも扱う剣その物の大きさもあって、大型の敵や広域攻撃を
担う技が多かった為だ。仮にここで発動すれば乗っているエレベーターを壊せたとしても、ユフィや
自分自身も巻き込んでしまう危険があった。
 さらに問題なのは、先程の爆発の影響でバランスを失い非常に不安定なエレベーター内では、
動く度に籠が大きく揺れる事だった。乗り物酔いという弱点を持つふたりにとっては、もっとも危惧
すべき事態だった。
「……ち、ちょっと待ってクラウド。……なんか……気持ち悪くなってきた」こんなに揺れるんなら
飛空艇の方がよっぽどマシだと、口元に手を当てながらユフィは思う。
 閉塞された空間では、風景などで気を紛らわす事もできない。その上ひどく揺れるものだから
三半規管は半ば混乱状態だ。クラウド自身、この状況下に長時間いるのは避けたかった。一刻も
早く打開策を見出したかったが、焦れば焦るほど状況は悪くなる一方で、まさにジレンマだった。
(確かにユフィの言うとおりだ。これじゃあ潜水艦の方がまだ……)

245:ラストダンジョン (385)   ◆Lv.1/MrrYw
10/12/03 01:55:35 YH+jCqWP0
 考えたくないという意識はむしろ忘れかけていた記憶を呼び起こすカギになる。次々といやな
要素が脳裏に浮かんで、クラウドは思わず眉間にしわを寄せた。これ以上ここにいると、それだけ
で心身共に参ってしまいそうだ。となれば多少の無理をしてでも、ここは強行突破しかない。
「……踏ん張れユフィ!」
「えつ!?」
 覚悟を決めたクラウドは大剣を構えて腰を落とすと、狙いを換気口に定めた。未だ不安定に
揺れる床と跳躍のタイミングを合わせると、全身を使って跳躍し勢い良く大剣を突き上げた。
金属が擦れ合う耳障りな音と共に、クラウドは大剣をねじ込むようにして持ち手を変えた。換気口
を覆っていた金網はさらに不快な音を立てると、抉れて形を変えた。
 もう少しで壊せると手応えを感じたクラウドだったが、直後にエレベーター内がひときわ大きく
振動すると、がくんと小さく落下する様な衝撃が走った。バランスが崩れ、大剣はクラウドの手に
押し戻される。
「く、クラウド!?」
 ぎいと軋んだ音を立てながら、エレベーターは傾斜したままでゆらゆらと揺れている。先程よりも
明らかに不安定になっているのが分かった。
「これってさ……もしかして」
「支えになるワイヤーの片方が切れたんだろうな」
 応じるクラウドの声は、自分でも驚くほど冷静だった。
「ねえ、エレベーターを支えてるワイヤーって、そんなに簡単に切れちゃったりするモンなのかな?」
「いくらなんでもそれは無いんじゃないか? それなりの強度はある」と信じたかった。
「……だよ、ね? 簡単に切れちゃったりするハズ……無いよね?」
 まさかねー、とユフィは乾いた声で笑ったが、すぐに笑顔は引っ込んでしまう。
「…………」
「…………」
 それから互いに顔を見合わせるが、なにも言葉が出てこなかった。
 なぜだかは分からない。ただこの時点でふたりは、このエレベーターを支えるワイヤーが、「あと
数十秒ほどしたら簡単に切れてしまうのではないか?」と言う、とてつもなく現実味を帯びた
予感を抱いていた。
 その直後に、ふたりの予感を確信に変えさらに実現してしまった事を告げたのは、けたたましく
響いた金属の摩擦音だった。同時にエレベーター内は照明と安定を完全に失い、ふたりを乗せた
まま落下をはじめた。
 そんなほんの一瞬の間に、クラウドの脳裏ではまるで走馬灯のように記憶が再生され、ここへ
来る直前に対峙したリーブの言葉がよみがえった。

                    ***

「神羅カンパニーの支配体制をいっそう盤石な物とするために、当時は裏で様々な能力開発を
行っていた様です。その中のひとつに『未来予知』なんてものもあったそうです」
 またしても自らを人形だと名乗っていたものの、クラウドの前に現れたのは姿形や声のなにも
かもがリーブだった。
「もちろん、私にそんな能力はありません。ですが予知能力が無くても確実に未来を知る方法が
あるんです。何だかお分かりになりますか?」
 目の前に立ったリーブは淡々と話を続ける。クラウドが分からないと首を振ると、こう続けた。
「自分の描いたシナリオ通りに事を運ぶんです。そうすれば、予知などする必要はありません。
予めレールを敷設してその上に列車を走らせるのと同じです」

246:ラストダンジョン (386)   ◆Lv.1/MrrYw
10/12/03 02:03:10 YH+jCqWP0
「『敷かれたレールには逆らえない』、そう言いたいのか?」
 静かに問い返すクラウドの声には僅かばかりの嫌気がこもる。
 それを受けてリーブは口元を綻ばせると「少し違います」と答えた。
「正確には、その上を走ることを嫌い彼らがレールから外れる事まで想定に含めるんです」
「……あんたのシナリオでは、それが俺達だと?」
 うんざりした表情でクラウドが言うと、またもリーブは同じ反応を返す「少し違います」。
「あなたは本来とても強い人です。しかしその反面で脆くもある。ですから、こうご説明した上で
『本体の破壊』を依頼したとしても、それを快諾して頂けない事は分かっています。ですから、私は
あなたを利用しようと考えました」
 話し方こそ事務的だが、内容はどこか挑戦的にも聞こえた。
「俺達は盤面に置かれた駒じゃない、あんたの思い通りに動かせるとは限らない」
 明らかな嫌気を含んだ声で、クラウドが反発する。それがリーブの思惑通りだったとしても、
言わずにはいられなかった。
「動きますよ」リーブは断言した「直に分かります。そして我々は駒ではなく、“人形”なのですから」

                    ***

 なぜあの時、リーブはあんな事をわざわざ話したのだろう? 心のどこかで何かが引っ掛かって
いた。けれどそれも、今なら納得がいく。
(こうなるまで俺が真意に気付けない、と言うのも見通されてたって事か)
 俺はあそこで、あんたに打ちのめされた。その直後に、都合良く回復薬を差し出すユフィが現れ
た。なるほど、それもすべて用意してあった“シナリオ”通りというわけだ。
 クラウドは思わず笑みを浮かべた。

(……『何もできなかった自分の弱さに腹が立った』……あんたもそうだったんだろう? リーブ)

 俺は正直、あんたを少しだけ苦手だと思ってる。口が達者で柔和な裏に知略を巡らす切れ者。
こう言ってはなんだが、その意味ではルーファウスよりもタチが悪い。
 6年前までは神羅という巨大企業に属し、ミッドガルと魔晄文明を築き上げ支配の側に身を置い
た一人。それでも最後は俺達に手を貸した。考えてみればあの時ケット・シーを操っていたあんた
自身、自分がレールの上を走らされていたと思っていたんじゃないのか?
 自分をスパイだと明かせば俺達に疎まれる事は目に見えていたのに、図々しくも堂々と同行する
と宣言されて、当時は状況が状況だけに好感なんて持てそうになかった。だけど、今なら何となく
分かる様な気がするよ。


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