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日本経済新聞 2008年1月17日 朝刊
「大磯小磯」 ドルの地政学リスク
米国は、1995年から貿易収支の赤字を手放しで拡大すると同時に、強いドル政策をとった。
いわば「いいとこどり」をしてきた。こうした米国の行動を可能にしたのは、黒字国であるアジア
諸国や産油国が米国債を取得し、外貨準備として運用しているからである。
この分野の専門家の説によると、外貨準備として黒字国に所有される米国債の券面は
ニューヨーク連銀が預っており、事実上米政府の管理下にある。そのため、米国はほとんど
もらったも同然のお金と考えているそうだ。その見方に立ってこそ、米国は赤字の拡大を心配
せずに、海外から積極的に買い物ができるというわけだ。
一方、黒字国は輸出して品物を提供したうえに、自動的に米国の赤字ファイナンスを担うこと
になる。黒字国にとって一生懸命働いて稼いだお金が米国に戻るのでは、何ら得るものがない
ようにみえる。
しかし、黒字国が米国の圧倒的な軍事力の庇護(ひご)を求め、その見返りとして米国債を
保有している、という目で見ると合点がいく。中国を除くアジア諸国や中近東の産油国は、
それぞれ小国であることなどから自国の防衛を米国に頼らざるをえない。
(中略)
ところが一昨年あたりから、さすがに米国の赤字拡大に歯止めがかかってきたようだ。その
理由として考えられるのは、中国とロシアの二国の黒字が急増していることである。二国の
黒字合計額は、米国の赤字の半分近くに達している。
二国とも軍事大国であり、基本的に自国の安全を米国の防衛に依拠していない。すなわち
対米外交交渉の一環として、政治判断でドル資金を引き揚げうる立場にある。言ってみれば、
もっとも望ましくない相手に、米国は赤字ファイナンスを大きく依存してしまったようだ。
(中略)
新しい年を迎えてドルの行方から目を離せない状況がしばらく続きそうだ。(剣が峰)