「泉こなたを自殺させる方法」を考える35at CSALOON
「泉こなたを自殺させる方法」を考える35 - 暇つぶし2ch2:マロン名無しさん
10/11/13 09:50:40
>>1
おつ

3:マロン名無しさん
10/11/13 16:28:01 BKf7jXpv
代行ありがとー!!
JEDIさんここだー! ここにきてくれー!!

4:マロン名無しさん
10/11/13 17:12:49 /a9DcsxF
>>1

5:マロン名無しさん
10/11/13 18:35:04 vSgtz3yq
>>1

6:JEDI_tkms1984
10/11/13 21:16:46
 皆さん、こんばんは。
昨日は失礼しました。
スレを立てて下さったお陰で続きを投下することができます。
ハトプリ映画観賞の興奮も冷めやらぬうちに本日分の投下参ります。

7:巡らされた籌37
10/11/13 21:19:26
 今日は1週間に一度は必ず来る休み―つまり日曜日である。
父そうじろうが所用で朝から出かけているため、泉家にはこなたとゆたかしかいない。
かがみと終日デートを予定していた彼女も病弱なゆたかのために、できるお姉さんとして振る舞うことになった。
この小早川ゆたかという少女は見た目に反して賢しい。
ぼんやりと2人、テレビを観ながら、
「ねえ、お姉ちゃん」
不意に声をかける?」
「ん?」
「違ってたらごめんね……その…………」
「うん」
「かがみ先輩と付き合ってたりするの?」
「うぇっ!?」
まるで予想していなかった問いに、こなたは大仰に反応してしまう。
しまった、と思ってももう遅い。
彼女のリアクションこそがその問いに対する明確な回答となってしまった。
「やっぱりそうだったんだ」
「え、いや……ゆーちゃん、なんでそう思ったの?」
イエスと答えない代わりに質問に質問を被せる。
周囲には知らせたくないというかがみの考えに追従している以上、襤褸(ぼろ)を出してゆたかに悟られるわけにはいかない。
「だってお姉ちゃん、よく先輩と電話で話してるし、帰りが遅いのも、その……デートなんでしょ?」
「………………」
「お姉ちゃん、雰囲気変わったもん。なんていうか、前よりずっと綺麗になったよ」
「綺麗…………?」
小学生の体格からほとんど変わらずの彼女は、”可愛い”と評されることはあっても、”綺麗”という言葉をかけられたことはなかった。
それだけに近しい存在―ゆたかから飛び出した思わぬキーワードにこなた自身、どう反応していいか分からなかった。
「うん、なんか”お姉ちゃん”っていうより、”お姉さん”って感じかな……」
「………………」
こなたの立ち居振る舞いは内密にしたい2人の間柄について、それを知られたくない相手に十分すぎるほどの手掛かりを与えていたようだ。
「ゆーちゃん、お願いがあるんだけど」
「…………?」
「このコト、内緒にしといてくれる?」
こなたにしては珍しく卑屈なほど真摯な様子で静かに言う。

8:巡らされた籌38
10/11/13 21:22:37
もし拒めば口止めの取引でも持ちかけてきそうな鬼気迫る口調である。
「誰にも言うつもりないよ。おじさんにも黙ってたほうがいいんでしょ?」
ゆたかは儚げに、しかしどこか芯の通った力強さを秘めた笑みを浮かべた。
彼女にすれば、わざわざこれを口外する理由はない。
「そういう気持ち、よく分かるから」
「…………?」
ゆたかの頬が紅潮する。
こなたには何となくその理由が掴めていたが、敢えて訊くような無粋な真似はしない。
「私もみなみちゃんのコト―」
しなくともこうして自分から打ち明けてくるのだ。
律義な彼女は相手の秘密だけ知っているのが卑怯だと思ったのであろう。
自分も同様の秘密を持っている事を暴露することで不公平感を無くし、対等の立場に立つつもりだ。
「私もね、みなみちゃんのコト好きなんだ。最初は友だちとしてだったけど……いつの間にか……」
「うん」
「優しくしてもらってるうちにだんだん……。もしかしたらみなみちゃんも私のことが? って思ったこともあったけど……。
でもそれって思い上がりだよね? みなみちゃんは友だちとして私を支えてくれてるんだよね?」
彼女にしては珍しく饒舌だった。
が、紡がれる言葉は前向きなものではなく、自身を卑下するばかりである。
「そんなことないと思うよ」
ゆたかが言ったように、”そういう気持ちがよく分かる”こなたは微笑みながら言う。
「好きでもない人と一緒にいたがるわけないじゃん? ましてやその人のこと何度も助けたりなんて、普通はしないと思うよ。
口には出さないだろうけど、みなみちゃんもゆーちゃんと同じ風に考えてるんじゃないかな」
この台詞はただゆたかを慰めるように見えて、こなたが自身を励ます意味も持つ。
「そう、かな…………?」
「そうだよ。ゆーちゃんさ、みなみちゃんとひよりんとよく3人でいるんだよね?」
「う、うん……」
「じゃあさ、みなみちゃんがひよりんに接する時と、ゆーちゃんに接する時って同じかな?」
「………………?」
「たぶん違うと思うんだよね」
こなたは岩崎みなみと柊かがみをダブらせながら言った。
2人には共通点がある。
賢しいことと、面倒見がよい点だ。

9:巡らされた籌39
10/11/13 21:25:35
そしてどちらもなかなか本心を語りたがらないところがある。
「みなみちゃん、口数が少ない分、普段の態度でゆーちゃんへの”好き”を表してるんだよ、きっと」
当て推量ではない。
遡って入学試験。
この時既に、岩崎みなみのゆたかに対する優しさは表れていた。
その後もゆたかから語られる学校生活の話題には、必ずと言っていいほどみなみが出てくる。
彼女自身の欲目もいくらかは含まれているのだろうが、語られる岩崎みなみは常に好人物である。
人間はその場にいない者を悪く言う癖があるが、逆に褒めちぎるのは難しい。
この点からもゆたかがみなみに対して抱いている感情を、こなたはずっと前から察してはいたのである。
「で、ゆーちゃんはそれをちゃんと感じてる、と」
「お姉ちゃん…………」
ゆたかの瞳がじわりと潤んだ。
「なんちゃって……私のキャラじゃないよね!」
言っていて自分も恥ずかしくなったこなたは、赤面を隠そうと立ち上がった。
「お茶淹れてくるよ。ゆーちゃんも飲む?」
「あ、う、うん!」
こなたよりもさらに顔を真っ赤にしたゆたかは、俯き加減に肯う。
「じゃあちょっと待っててね」
足早に居間を立ち去るこなたは、左手にしっかりと携帯電話を握っていた。





運の悪いことにポットは洗浄中だったため、鍋で直接お湯を沸かすことになった。
その間、こなたはかがみに短いメールを送る。




10:巡らされた籌40
10/11/13 21:28:11
送信先:かがみん
 件名:
 本文:

『私たちのこと、みさきちに話したの?』


愛を深め合った2人に言葉の飾りは不要だ。
利発なかがみはたったこれだけの文章で、こなたが知りたいこと全てを把握できるだろう。
送信してからわずか5分。


発信者:かがみん
 件名:Re
 本文:

『それとなくはね。でも日下部の奴、イマイチ分かってないみたいだったわ。
ハッキリ言うのもなんだから今はぼかしてるけど。でもその時が来たらちゃんと言うつもり。
あいつ意外と独占欲強いみたいだから、さっさと教えておいたほうがいいと思ってるんだけどね』


返ってきた内容は、こなたもある程度は予想していたものだった。
かがみは絵文字や顔文字を使いたがらない。
素っ気ない言葉の連続で事実を伝えるのみだった。
「まあ、相手がみさきちじゃあね―」
それも仕方がない、と彼女は思った。
つかさやみゆきとは違って、日下部みさおという少女は他者の心情を察しそうにない。
遠回しな説明は効き目がなく、直截簡明に打ち明けたほうがいいのだろう。
しかし明言するにはまだ些かの躊躇いがある。

11:巡らされた籌41
10/11/13 21:30:36

”その時が来たら~”

という一文は今のかがみの逡巡を如実に表しているのだろうと。
「ま、いっか」
こなたが呟いた時、沸点に達した水が早く火を止めろと急かした。





 もう何度目か分からない甘美な時間である。
つかさやみゆきを蔑ろにしないようにと、ほどほどにいつもの4人グループで行動する。
だが放課後になると一転、昼間我慢していた分を取り戻すように2人は街に繰り出す。
デートと言ってもやる事といえば買い物か食事か、その程度しかない。
2人きりでカラオケに行くという雰囲気にもなかなかならず、度重ねてきたデートもマンネリ気味になってきた。
そこでどちらからともなく駅のはずれの公園に行くことになった。
愛しい人と時を過ごすにはその時々の、互いの心情にあった場所を選ばなくてはならない。
「たまにはこういう所もいいよね」
とはこなたの弁だ。
日々の大半を虚像に費やしてきた彼女には、ちょっとした公園も新鮮に映るものらしい。
2人はごく自然に手を繋ぎ合っている。
昼間からこういう場所に来る人は少なく、同性同士であっても人目を気にせずに接することができる。
特になにかするわけではない。
強いて言えばこれはちょっとした休憩だ。
敢えて喧騒から離れ、別の種類の刺激を受けるための。
息抜きである。
「そう、ね…………」
ベンチに腰をおろし、前髪をかき上げるかがみの仕草は美しい。
「………………」
こなたはその様にまたひとつ、彼女の魅力を発見した。
恋慕は人を盲目にする。

12:巡らされた籌42
10/11/13 21:34:04
二次元の世界で何組もの男女が結ばれていくのを観てきたこなたは今、自分がまさにそれらギャルゲーの男主人公さながらに
ひとりの少女に恋をしていることを改めて認識する。
沈黙ですら2人を祝福するBGMに成り得る。
言葉に依らなくても互いの意思の疎通は図れるし、むしろ言葉にしないほうがより伝わる想いもある。
しばらく他愛もない会話を交えた2人は、妙にそわそわして視線を逸らす。
時間はたっぷりある。
こなたにはゆたかという心強い味方がいる。
彼女が味方なら、みなみも間違いなく頼りになる人物となる。
そうじろうには打ち明けていないが、娘を溺愛する彼が娘の想いを無惨に踏み躙るハズがない。
彼氏ができたというなら反発もしようが、相手は彼も多少は興味を持っている柊かがみである。
この状況はむしろ、父親が歓迎するだろう。
溺れてもよい甘美は望むと望まざるとに関係なく向こうからやって来るのだ。
「ねえ、かがみ…………」
恋心は人を積極的にさせる。
丸っこい唇で、精一杯の艶っぽい声を出して。
「な、なによ……?」
いつもと明らかに雰囲気の違うこなたに、かがみは少し身構えた。
こういう時の泉こなたは表情からは読みとれないようなことを考えている。
警戒する必要などないというのに、かがみはつい彼女に対して防備を敷きたくなる。
「……キス、しよっか?」
「え―?」
唐突で不自然だが、彼女たちの関係を考えればごく自然な流れであったかもしれない。
互いの気持ちが同じであることを確認した後は、2人だけの時間を作る。
2人だけの時間ができれば手を繋いで愛を深める。
それをクリアできれば今度は口づけ―。
情愛の表現に段階があるのは当然であり、この順序を間違えると待ち受けるのはたいてい悲劇的な結末である。
こなたは順序を守った。
本心では独占欲の強さからかがみを束縛したい想いに駆られたものの、彼女の意思を尊重して強引な手段は控えてきた。
自分をそう冷静に見たからこそ、彼女はこの口づけが決して逸ったものではなく、頃合いだと判断できた。
そして彼女の知る柊かがみはこのテの表現に奥手であることも考慮して……。
「私たち、付き合ってるワケじゃん。もうそろそろキスくらいしてもいいよね?」

13:巡らされた籌43
10/11/13 21:37:12
これは正しい行いだ、当然の行為だと正当化するようにこなたは呟く。
誰かに対する問いかけではない。
答えを聞く前にこなたは身を乗り出していた。
すぐ隣に座る勝ち気な少女の唇に、自分のそれを重ねてさらなる愛を育もうと。
やや背伸び気味に、こなたは求めた。
「ちょっと待って!」
だが―それは叶わなかった。
かがみは反射的に身を退いて顔を背けた。
彼女はそのまま立ち上がり、こなたから些か距離を置いた。
それが拒絶であると気付くのに数瞬。
泉こなたそのものではなく、あくまでキスに対しての拒絶であると気付くのにさらに数秒を要した。
「かがみ…………?」
齟齬だった。
親密な間柄であっても、個人対個人である以上、あらゆる考え方が同一であるハズがない。
こなたはそれを勘違いしていたようだ。
自分が相手を好きなのだから、相手も自分を好きに違いないと。
自分がキスを求めているのだから、相手もそれを求めているに違いないと。
相思相愛になったことで罹る思いこみの病である。
「かがみ…………」
「ごめん、私、今日はもう帰るわ……」
乱暴に鞄を掴んだ彼女は足早にその場を離れていく。
「あ、え……? ちょ、かがみ…………!?」
去り際、こなたがちらりと見たかがみの横顔は悔しそうだった。
”何かに負けた”ような悲しみの色も僅かに浮かんでいる。
「待ってよッ!!」
呼びかけも虚しく、少女は走り去ってしまった。
こなたの脚力ならすぐに追いつくが、彼女の足は凍りついたように動かない。
(選択肢、間違えたかな…………)
こんな時でさえ恋愛ゲームを思い浮かべてしまう自分が、こなたは嫌になった。




14:JEDI_tkms1984
10/11/13 21:43:02
 このまま昨日分と併せて本日分の投下をする予定でしたが、急遽修正したい箇所を見つけました。
ここで中断し、続きは2時間ほどしてから投稿いたします。
それでは暫らく。


15:マロン名無しさん
10/11/13 23:42:01
続きwktk

16:マロン名無しさん
10/11/14 00:09:35
2ちゃん終了のおしらせ

17:巡らされた籌44
10/11/14 01:05:13
 ここ最近とは打って変わり、少女は憔悴した顔で帰宅した。
元気のない娘にそうじろうは何事かと訝ったが、まさか同性愛に興じているとは思わない彼は、
友だちとケンカしたのか程度にしか考えない。
そうだとすれば深刻な問題ではなく、彼は何があったのかと問うような無粋な真似はしない。
親心を見せるべき局面と黙って見守る局面を、彼はきちんと心得ているのである。
「先輩と何かあったの?」
秘密事を知っているゆたかは、その原因をずばりと言い当ててくる。
疑問調ではあるものの、みなみとの些細なすれ違いを経験している彼女には分かるのである。
「ううん、別に―」
と言いかけてこなたは、
「や、やっぱり分かっちゃうか……」
恥ずかしそうに頭を掻いた。
こなたが落ち込むのは深夜アニメの録画に失敗したか、特番や野球中継の延長で観たい番組を潰された時くらいだ。
そのどちらでもないとすれば当座、彼女が思い悩む理由は柊かがみ以外に考えられない。
「ケンカしたの?」
これもまた確信があっての問いだ。
「ケンカってわけじゃないないけどね、うん。私が悪いんだよ……その、焦ってたからさ」
ゆたかにウソを吐きたくないこなたは事実を暈かして答えた。
先走ってしまった、という自覚はある。
互いの距離を縮めるにも互いのペースがあることを、彼女はなおざりにしてしまったのだ。
(かがみって強そうに見えるけど、そういうところナイーブなんだよね)
それにもう少しだけ。
ほんの少し早く気付いているだけで防ぐことができた小さな亀裂である。
「元気出して…………」
今のゆたかにはこの程度しか言えない。
”焦った”というこなたが何をしたのか、彼女にもおおよその見当はついている。
だがそれは当事者間の問題であって、いくら心配しているといってもそこまで踏み込んではいけない、ともゆたかは思っている。
愛し合っている限り、多少の亀裂は必ず修復される。
彼女はこう思っているようだ。
「大丈夫だよ。私とかがみんの仲だからね」
力なく笑うこなたは不安を隠すよう努めた。
ゆたかの良き姉でありたいと願う彼女は、こんなところで弱い自分を見せられないのである。

18:巡らされた籌45
10/11/14 01:08:21
「だから心配しな―」
突然、ポケットに入れていた携帯電話が振動した。
公園での一件で放心していたせいでマナーモードを解除していなかったらしい。
(かがみからだっ!!)
直感したこなたは部屋に戻るとゆたかに言い置き、急いで居間を出た。
振動は2回。これはメールを着信した合図だ。
落ち着きなく視線を彷徨わせ自室のドアを閉めたこなたは、汗ばむ手で携帯電話を開く。


発信者:かがみん
 件名:
 本文:

『今日はゴメン。やっぱり怒ってるわよね? いきなりだったからビックリしたのよ。
だからついあんな態度とっちゃったけど、あんたのこと嫌いになったわけじゃないから。
むしろ嬉しかった。考えてみれば私たち付き合ってるんだからキスくらいしても当然なのよね』


メールは便利だ、とこなたは思った。
言いにくいこともこうして文字にできる。
ディスプレイに表示された無機質な文字列からは分からないが、かがみはこれを打つのに相当な時間を要しただろう。
仮にこれが顔を合わせての会話だったなら、きっとこれだけのメッセージを伝えるのに5分はかかったに違いない。
迷いながら―赤面しながら―メールするかがみを想像し、こなたは知らず頬を紅潮させていた。
ただ、メールという便利な通信手段は、最も肝心な部分を全く伝えてはくれない。
つまり送り手の心情面だ。
これがかがみの本心であることは間違いなさそうだが、怒りながら打ったのか、後悔しながら綴ったのかまでは分からない。
せめて電話なら声調や間の取り方、言葉の端々から相手の心理を察することができるのに。
「………………」
彼女の不安は拭えない。
文字により意思の伝達は、送る側に十分な時間を与えている。
この文面は突発的に思った事の羅列である可能性があると同時に、数時間の深慮の末に紡がれた可能性もあるのだ。
しかし彼女の不安は間もなく届いたもう1通のメールで霧消した。

19:巡らされた籌46
10/11/14 01:11:40


発信者:かがみん
 件名:
 本文:


『だから明日の放課後、ちゃんとあんたとしたいと思う。許してくれるなら明日の放課後、屋上に来て』


しっかり者に見えるかがみは、時たまこうして些細なミスをすることがある。
1通目は間違って途中で送信してしまったのだろう。
そういう迂闊なところも含めて、こなたはかがみが好きなのだ。
しかもこの文面。
かがみにはこなたの愛の一表現を受け容れる準備ができているということである。
「かがみ…………」
あの艶やかな唇。
勝ち気そうなツリ目。
凛々しい佇まい。
聞く者の脳を痺れさせるような声。
それら全てが欲目というフィルターを通して、恋する少女の五感を悉く支配する。
「かがみぃ…………!」
甘ったるい声で愛しい相手の名を呼びながら、こなたは無意識のうちに秘部に指を当てがっていた。
罪の意識はある。恥ずかしいという想いもある。
しかし彼女には勝手に動く指を止めることはできなかった。
ここしばらくはそうじろうやゆたかよりも、かがみの横顔を見ている時間のほうが遥かに永かった。
そのお陰で彼女はこうして目を閉じるだけで、デジタル写真の如くに柊かがみという少女の姿を鮮明に瞼の裏に思い描くことができるのだ。
しかもデジタルデータ同様にこの記憶の中の少女を、好きなように加工することもできる。
時に少年のそれを思わせる口調。
揺るぎない信念を宿す瞳。
風にさらさらと揺れるツインテール。
手を繋いだ時に感じる温もりさえ。

20:巡らされた籌47
10/11/14 01:14:47
いまこなたが見ているのはかがみだが、暗闇の中に浮かぶ彼女は衣服を纏っていない。
最も性的な興奮を催す恰好で、空想の柊かがみはこなたに全裸の自分を惜しげもなく披露している。
「かが……み…………」
控えめな指の動きは小さなふくらみの上下に合わせるようにペースを上げていく。
シーツが汚れることも厭わないでこなたは敏感な部分を優しく強く撫でまわす。
「ふぅ…………」
想像の中のかがみは頬を赤らめた。
だが現実のこなたは耳まで真っ赤にしながら、肩で息をしている。
「………………」
なだらかな2つの丘は輪郭こそ胸の体を成していないが、性的刺激を伝達する役目は十分に果たしているようだ。
片手は秘部を弄びながら、もう片方の手は豆粒ほどの突起を絶妙な力加減で摘む。
毎日のように繰り返す一人遊び。
終わった後に押し寄せる罪悪感。
想像とはいえかがみを性欲を満たすための道具として扱っているようで、快感を得る度にそれと同じかそれ以上の苦痛を伴う夜の遊び。
それでも止められないのは一途にかがみを愛しているからだと彼女は自らの行為を正当化する。
「………………っ!」
この全身を閃電が駆け抜けるような悦楽は何度味わっても飽きることがない。
こなたは人形のように四肢をだらしなく伸ばし、その余韻に溺れた。
おそらく明日、放課後に交わされる口づけはこの夜の遊びよりもずっと淡白だろう。
文字通り唇を合わせるだけの何ということのない動作だからだ。
だがそれによって得られる享楽は自慰によって得られるそれの比ではないハズだ。
瞼の裏のかがみとは違う、現実のかがみとの接近。
(かがみ…………)
彼女の指はまたしても小さなふくらみに伸びていた。





21:巡らされた籌48
10/11/14 01:19:28
 徹夜とは文字どおり”夜を徹すること”であるが、それによって翌朝に感じる疲労は人それぞれに異なる。
一種の爽快感を味わうこともあれば、耐えがたい苦痛を伴うこともある。
今日のこなたはその両方を同時に感じている。
かがみを想いながら自らを慰め続け、気がつくと朝日が昇っていた。
それを忌むべき―あるいは恥ずかしい―行為だと認識しながら、彼女は何度も何度も絶頂に辿り着いた。
ピークを迎える度にまたひとつ、かがみを愛することができたと思い込めるのだ。
「泉さん、顔色が悪いようですが…………?」
みゆきが不安げに訊ねる。
「ちょっと寝不足でさ。でも大丈夫だよ」
もちろんウソではない。
みゆきは体調が優れないのではないかという意味で問うたが、今のこなたはむしろ逆。
今も舞い上がりそうなのを必死に抑えているのだ。
次の授業をこなせば本日のカリキュラムは終了。
生徒は軛(くびき)から解放され、部活にあるいは寄り道にと思い思いの自由な時間を過ごす。
「そうですか? あまり無理はなさらないほうが―」
「平気だって」
「何か悩み事がおありなのではありませんか?」
「えっ…………?」
こなたが驚いたのは疑念を持った言葉に対してではない。
あの温厚篤実なみゆきが妙に鋭い視線を向けてきたからだ。
「いえ、何もなければよいのですが……泉さんのことですから何かお隠しになっているのではと……」
「そ、そんなことないよ! 大丈夫だって!」
「……本当に?」
疑いの眼差しを向ける厳しい表情すら、彼女の場合は優雅に映る。
「何か言い難いことがあるのではありませんか?」
この詮索の仕方は稚拙だ。
人間、誰しもそうした秘密のひとつやふたつは持っている。
こう問いかけるみゆきにも、口にするのが憚られる隠し事はあるハズだ。
それをこのたった一言で吐露させようとするのは、彼女が見せた才媛に似つかわしくない軽率さだった。
「本当だって。みゆきさん心配しすぎだよ」
みゆきが心底から気遣うような視線を向けた時、チャイムが鳴って担当の教師がやって来た。
いよいよ最後の授業である。

22:巡らされた籌49
10/11/14 01:22:48
チャイムに救われた、とこなたは思った。
(言い難いこと……か。私たちの関係のこと言ってるんだよね、やっぱり……。
みゆきさんだって当然、気付いてるんだよね)
2人の付き合いは暗黙の了解、という形で進展してきた。
かがみの希望に従い、こなたは自分が彼女と付き合っている事実はゆたかを除いて誰にも伝えていない。
だが平素の振る舞いを考えれば、いくら秘匿したところでいつも近くにいるつかさやみゆきは勘付くだろう。
彼女たちは既にこの秘密の関係について確信を持っているに違いない。
確信であって確証でないのは、当人からの告白がないからだ。
知られている事実であっても、かがみが了承するまでは黙っていようと思っているこなたにとって、
先ほどのみゆきの追及には肝を冷やすものがあった。
(かがみが言いたくないって言ってるんだから、私が勝手に打ち明けちゃ駄目だよね)
こなたは小さく息を吐いた。
彼女の意識は黙秘を貫いたことよりも、間もなく訪れる素晴らしい瞬間の連続に向いていた。
このやる気の全く起きない英語の授業が終わった時、こなたとかがみ、2人の新たな密事が始まるのだ。
カタカナで発音していると思われる初老教師のぎこちない音読も、今の彼女の耳には届かない。
テストに出る単語や文法など何の意味も成さないのだ。
最高のシチュエーションでの再度の愛の告白。
重なり合う口吻。
互いの距離をゼロ以下にする秘密の儀式。
それを想像しただけでこなたの口元は自然と緩んでしまう。





長い長い最後の授業は、彼女が妄想に耽っている間に終わった。
開いたノートにはアルファベットの一文字すら書き加えられていない。
ホームルームでも彼女は上の空だった。
「お~い、泉~~。聞いとんかー?」
ぼんやりとしているところに、ななこがジト目で問う。
「あ、はい、聞いてます!」

23:巡らされた籌50
10/11/14 01:25:33
もちろん聞いてなどいない。
ホームルームとは授業と放課後との区別をつけるための単なる仕切りで、意味などないことをこなたは知っているのだ。
だから彼女はこの仕切りが早く取り払われることを願った。
おそらく5分以内。
簡単に伝達事項を知らせればホームルームは終わる。
「―よし! ウチからは以上! ほな号令頼むで」
エセ関西弁は一日の終わりの時のみ弾んだ声に変わる。
ただしその余韻は直後に40人が椅子を引きずる音で無惨にかき消されてしまうのである。
俄かにざわめく教室の中、こなたは真っ赤になった顔を隠すように俯いた。
血液が異常な速さで全身を駆け巡る。
「こなちゃん。本当に大丈夫なの?」
寝不足気味だった表情は一転、今度は朱に染まった顔をつかさが覗きこんだ。
傍からは発熱しているようにも見える。
「平気平気」
と笑って答えるこなたは、これから行われる秘密の儀式が誰にも気付かれないように気を配る。
かがみと唇を重ねることはもちろん、屋上に上がる後ろ姿さえ目撃されてはならない。
「だといいけど……」
どこか不安そうなつかさを見て、こなたは首を傾げた。
「……そういえばみゆきさんは?」
先ほどあれだけ心配そうに質問を重ねてきたみゆきの姿がない。
「ゆきちゃんならホームルームが終わった後すぐに帰ったよ」
つかさはみゆきの机を示した。
掛けられていた鞄は確かに無くなっている。
「ほんとだ。委員会の仕事でもあるのかな?」
律儀なみゆきが付き合いの長い友人に別れの挨拶を告げずに教室を出るのは珍しいが、
こなたにとっては好都合だった。
常に真摯に構える彼女の追及を前に、こなたは真実を隠し続ける自信が持てなかった。
かがみとの関係を隠すのは、問いかけに対して虚偽の回答になる。
令嬢みゆきへの誣告は彼女の性質もあって、それをする者に後ろめたさを抱かせる。
早々と同性愛を打ち明けてしまえば、もうこうした悩みを抱える必要も無くなるのだが、
かがみと足並みを揃えたいこなたにはできない。

24:巡らされた籌51
10/11/14 01:29:00
「じゃあ、また明日ね」
「うん。バイバイこなちゃん」
できるだけ自然な風を装って鞄を手にし、できるだけ自然な風を装って教室を出る。
放課後といえばたいてい、こなたとかがみの2人で秘密のデートに興じているため、つかさがそれを妨げることはない。
(黒井先生、こんな日に限ってホームルーム長いんだから……)
小走りに屋上に向かうこなたは、”廊下を走るな”という貼り紙を3度ほど素通りした。
1秒だって待たせるわけにはいかない。
普段の遊びの待ち合わせとはワケが違うのだ。
(かがみ…………)
階段を駆け上がり、たどり着いた鉄扉。
施錠されていないのは生徒に開放しているためだ。
実際、屋上で昼食をとる生徒もおり、この学園では貴重な憩いの場となっている。
「………………」
深呼吸をひとつして、ゆっくりと扉を開く。
瞬間、差し込む陽光にこなたは思わず目を瞑った。
拓けた屋上には―。
西日を遮るものはひとつだけ。
凛々しく、しなやかで、艶めかしく、優雅で、したがって美しいシルエット。
逆光で明らかにはならないが、こなたにはハッキリと見えていた。
「かがみ…………」
そのあまりの美しさに彼女は呼吸するのも忘れて見惚れてしまう。
背を向けて立つかがみは振り向かない。

25:巡らされた籌52
10/11/14 01:30:26
ただ、
「こなた…………」
と、艶っぽい声が返ってくるのみである。
「ごめん、遅くなって……」
言いながら一歩踏み出したこなたは違和感を持った。
(………………?)
何かがおかしかった。
おかしなハズはない。
かがみに呼ばれた屋上。
そこに彼女がいるのは当然だし、呼ばれたこなたがここにいるのもまた当然だ。
「ほんと待ちくたびれたわよ」
かがみの口調はいつもより少しだけ甘えた感じである。
これからの出来事に緊張しているのかもしれない。
こなたはそう思ったが、すぐにその考えを振り払った。
(かが……み…………?)
歩みかけたこなたの足がぴたりと止まった。
違和感の正体に気付いてしまったのだ。
こなたの目線からはハッキリとは見えなかったが、かがみの後ろ―つまりは彼女の前―に誰かがいる。
かがみよりもほんの少しだけ背の高い少女が―。








26:JEDI_tkms1984
10/11/14 01:33:37
 今回はここまでです。
性描写は苦手なので、その辺りの稚拙さはご海容ください。
それではまた。

27:マロン名無しさん
10/11/14 01:39:15
乙でした!続き楽しみにしてます

28:マロン名無しさん
10/11/14 02:06:06
プロになり損ねた奴が未練たらたら
素人相手に文士気取りはみっともないぞ

29:マロン名無しさん
10/11/14 04:02:40 LXg2fLXw
誰かって
誰かしかいねえじゃねえかああああああああああ
ちくしょおおおおおおおお明日も待ってりゃいいんだろおらああああああああ

30:マロン名無しさん
10/11/14 04:06:58
きっとみさきちがNOTセクシャルマイノリティをカサにして立ちはだかるんだろうな……

31:JEDI_tkms1984
10/11/14 21:23:14
 皆さん、こんばんは。
本日分の投下参ります。
少し多めなので途中で規制かかると思いますが、よろしくお願いします。

32:巡らされた籌53
10/11/14 21:24:40
「………………ッ!?」
さらに衝撃的な事実に気付いた彼女は、その場から逃げだしたくなった。
柊かがみとその何者かは―。
互いの唇を重ねていたのだ。
唇だけではない。
四肢にいたるまでが完全にかがみの陰に隠れていた。
こなたがもう少し長身だったらすぐに分かっただろう。
少しクセのあるショートカット。
日に焼けた小麦色の肌はかがみとはまた違った美しさを際立たせる。
「ビックリしたでしょ?」
何者かから離れたかがみは、極めて緩慢な動作で振り返った。
その際、体を少し右へずらし、もう一人の少女と横に並ぶ。
「みさきち…………!!」
名前を呼ばれた少女は満足げな笑みを浮かべている。
「おう、チビッ子。恋人を待たせるのは良くないぜ?」
無邪気なその笑顔の奥底に、こなたはハッキリと邪気を感じ取った。
「どういう……こと…………?」
状況がまるで呑みこめないこなただが、少なくとも思わしくないことが起こっているのはすぐに分かった。
いるハズのないみさおがいて、しかもかがみと唇を重ねていたというだけで彼女の心は引き裂かれそうになる。
「私たちね、賭けをしてたのよ」
「賭け……?」
「そう。簡単なことよ。今日、”あんたがここに来るかどうか”、それだけ」
「………………」
「最初はそうじゃなかったんだけどな」
みさおが付け足す。
「本当はね、”あんたが私とキスするか”で賭けてたのよ。でもそれだと勝負着けるために本当にキスしなくちゃならないじゃない?
私はそんなの絶対イヤだからね。日下部以外の人と唇重ねるなんてありえないし」
さらりと彼女は恐ろしいことを言った。
「そうなんだよな。キス寸前で止めりゃいいんだけど、それだと”しない”に賭けた方が勝つみたいになるだろ?
だから途中でルール変えたんだよ。柊が誘ってチビッ子が乗ったら私の勝ち。乗らなかったら柊の勝ちってことで」
「賭け…………?」
こなたはもう一度呟いた。

33:巡らされた籌54
10/11/14 21:26:08
言葉の意味は分かるが、それを本当に理解するのに今の彼女では時間がかかる。
「だから言ってるじゃない。賭けの対象はあんたで、あんたがここに来るかどうかで賭けてたんだって」
「そうだぜ。ま、今回は私の勝ちだけどな」
みさおが子供っぽい笑みを浮かべた。
「…………それじゃあ、かがみは私がキスしないほうに賭けてたってこと…………?」
2人の言い分を聞いているうちに、こなたにも漸く状況が見えてくる。
悪質なギャンブルに巻き込まれたこと。
自分がそれに利用されたということ。
さらにはかがみが、先ほど問うたように”キスに応じない側”にベットしたことも。
そこを訊ねられると彼女は憮然として、
「まあ、ね」
短く答える。
「でもさ、柊。昨日、チビッ子からキス迫られたんだろ? ってことはそのまま行けばしてたってことだよな?
ならその時点で私の勝ちだったじゃんか」
今日、この今日。
勝敗が決まったも同然だというのに、その判定を今日に持ち越したことにみさおは口を尖らせた。
「なによ、じゃああのままキスしてもよかったのか? あんたが見てないところで」
「いや、それは駄目だ。柊が私以外の奴とするなんて許せるわけないだろ」
「ほら、みなさい。そう言うと思って勝負の日を今日にしたのよ」
「なんか納得いかね~。昨日、柊が拒んだことでチビッ子をガッカリさせる目的があったんじゃねーの?
それでもし今日来なかったらまんまと柊の勝ちだしさ」
「ほお~、まるで私がこなたとキスして欲しかったみたいな言い方ね?」
「そりゃ一応、そっちに賭けてたし……」
悄然とするこなたをよそに、2人は妙に弾んだ声で盛り上がっている。
まるで悪びれる様子もなく。
ちょっとした遊びの気分で。
ここにいる泉こなたという少女が、どれほど心に深い傷を負っているかも考えずに。
深い悲しみはこれ以上ないほどに心を抉る。
信じていた者からの裏切りが、細くなった精神を打ち砕く。
真実を知った泉こなたは絶望の淵に立っている自分を見つめていた。
悔しさ、憤り、悲しみ……。
それらが綯い交ぜになってこなたを襲う。

34:巡らされた籌55
10/11/14 21:29:32
様々な感情がぐるぐると駆け巡る。
最後に残ったのは負の感情の集大成とも言うべき憎悪だった。
「かがみッ!!」
女性の感覚とは不思議なものだ。
こういう時、陰で想い人と結託し、嘲弄してきた日下部みさおに対してまず憤りを露にするべきだが、
こなたは自分を裏切った本人―柊かがみを憎んだ。
気がつくとこなたはかがみに飛びかかっていた。
恋心を利用して弄び、剰(あまつさ)え賭けの対象にまでした彼女への強い憤り。
あの艶やかな長髪を掴んで引き倒し、厭らしい笑みを浮かべる彼女の顔を殴りつけなければ気が済まない。
そう考え至る前にこなたの体は動いていた。
しかし格闘技経験者も既に鍛錬から離れて数年が経っている上に、負の感情に支配されている今では、
自慢の電光石火の体捌きも精彩さに欠ける。
しかも彼女には柊かがみしか見えていない。
そのことが大きな仇となった。
「うっ…………!!」
脇腹に走る鈍い痛みにこなたは蹲った。
みさおが振り上げた足をゆっくりと地につけた。
陸上部で鍛え上げた脚は走る以外にも、こうして愛しい人を守る時にも役に立つ。
こなたと違って今も鍛えられているみさおの脚力は他に抽(ぬき)んでている。
良く言えば無駄のない、悪く言えば成長が見られない幼い体躯は、閃電の如く繰り出された膝をまともに受け、
その衝撃をダイレクトに髄に伝える。
「う……けほっ…………」
鈍痛が間もなく激痛に変わるとこなたは嘔吐(えず)いた。
「おいおい、柊に手上げるつもりかよ?」
みさおが勝ち誇った顔で見下ろす。
「みさきち…………!!」
怨みがましい目でこなたが見上げる。
「そんな顔すんなよ。チビッ子だって”途中までは”私と同じだったろ?」
みさおはそう言ってちらりとかがみを見やる。
「いいじゃない、こなた。1ヶ月弱だったけど恋愛ごっこができて。ゲームばっかりじゃ飽きるでしょ?」
このギャンブルには30日間という期限が設けられていた。

35:巡らされた籌56
10/11/14 21:34:29
つまりみさおが勝利するためには、かがみが真剣を装ってこなたと逢瀬を重ねる必要があったのだ。
「なんで、こんなこと……ヒドイよ…………」
激しい怒りの後に、ほんの少しだけ悲しみが追ってくる。
涙は見せまいとこなたは強がったが、その意思に反して目元はじわりと濡れていた。
かがみが”キスをする方”に賭けていたなら、彼女の壊れていく精神はもう少し延命を図れただろう。
そうしていれば例えギャンブルだったとはいえ、かがみはキスを望んだハズなのだ。
だが実際に泉こなたの恋心と、彼女の性質を見抜いていたのは今や恋敵となったみさおだった。
常に先手を打ち、自分よりも遥かに先を行くみさおに、こなたの心は無残に食い破られていく。
「ああ、チビッ子がなんか勘違いしてたみたいだからな。ちょっと思い知らせてやろうと思ってさ」
企てが見事成功に終わり、みさおは心底から嬉しそうに言う。
「勘違い…………?」
「前から柊のこと好きだったんだろ? いつも一緒にいるから柊も同じ気持ちだとか思ってたんじゃねーの?」
「………………ッ!!」
「”オレの嫁”とか言ってたよな。あん時は笑いを堪えるのが大変だったぜ」
堪えるのが大変だった分、彼女はここぞとばかりに大笑した。
「ま、仲良くする分には問題ねーけどさ。私だってそこまで柊を束縛する気ねえし。でも勝手に自惚れて柊の周りウロチョロされちゃたまんねーからな。
ちょっと揶揄ってやろうと思ったわけよ。柊の口から直接断られりゃさすがにチビッ子も諦めつくだろ?」
言いながらみさおはかがみの肩に手を回す。
「なあ、チビッ子。柊を独り占めしたかったんだろ? こうやってほいほい来るところ見りゃ分かるぜ」
先ほどまでの快活そうな笑みから一転、みさおはハッキリと敵愾心をもってこなたを睥睨した。
「でも柊はどうだったんだろうな。一回でも考えたことあるか? 柊は自分のことどう思ってるのかって―」
「………………」
こなたは唇を噛んだ。
「―って分かるわけねえよな。チビッ子は自分のことしか考えてなかったみたいだし」
意味ありげにみさおが鼻を鳴らす。
「どういう……こと……?」
「だから―」
彼女は肩に回した手を自分に寄せ、かがみと頬を密着させた。
「柊はチビッ子のことなんて何とも思ってなかったってことだよ」

36:巡らされた籌57
10/11/14 21:38:57
「…………!!」
「私なら分かるぜ? いま柊が何考えてるか、どう思ってるか、何をしたいか、どうして欲しいか、ってな」
「それなら私もよ」
と、かがみが同調する。
「それが好き合ってる者同士なんだよ。チビッ子みたいに自分の欲求ばっか押しつけるような奴が柊と釣り合うかよ。そう思わねえか?」
こなたは何も答えられなかった。
「さっきだってちょっと頭に来たからって柊に手上げようとしただろ? 本当に好きなんだったらそんな事しねえぜ?
分かるよな、チビッ子―結局……」
みさおにしては実に巧みな言葉の切り方をし、数秒の間を空けた後、
「お前の柊に対する愛なんてその程度ってことなんだよ。いや、愛なんかじゃない。単なる独り善がりだぜ」
こなたの脳に直接叩きこむようにねちっこくトドメを刺した。
「ハッキリ言っとく。柊に手出したら私が許さないからな!」
そう言い放つ少女は、普段の言動も相まって逞しい少年のように見えた。
「日下部…………」
惚れなおしたか、かがみは何か言いたそうに唇を動かした。
が、声にはならない。
「さっきのこと考えたら逆上して何やらかすか分かんねえからな。心配すんなって。こいつが何かしてきても私が守ってやるよ」
かがみほどの深謀遠慮は期待できない彼女だが、真実を知ったこなたがどのような手に出るかは賭けをする前から分かっていた。
だからこそ先ほど、こなたが飛びかかって来た時も冷静に対処することができたのだ。
みさおにとって意外だったのは、その狙いが自分ではなくかがみに向けられていたことくらいである。
「嬉しいけど気をつけたほうがいいわよ。前に言ったけどこいつ、格闘技習ってたらしいから」
能天気に構えないかがみは警戒心を解こうとはしない。
「大したことねえよ。どうせ合気道だかの護身術の類だろ?」
みさおにはもちろん格闘技の心得はないが、圧倒的な体格差、筋力差で容易くひっくり返せると確信している彼女は、
敵の間合いにいてもまるで動じない。
「………………ッ!!」
どこまでも嘲弄されるこなたの精神はぐちゃぐちゃになっている。
彼女は戦意を喪失した。
そう考えたかがみは、
「こういう事には結構ドライだと思ってたけど、あんたも意外と一途よね」
馬鹿にしたように言い、みさおに向きなおる。

37:巡らされた籌58
10/11/14 21:42:46
「いつから…………」
こなたは中空を眺めて呟いた。
「いつからなのさ……2人が……そんな……」
虚脱しているこなたを見下ろすかがみは実に幸せそうだった。
「さあ、いつからかしらね。去年だっけ? 一昨年だっけ?」
「おいおい、まさか忘れたわけじゃないだろ。中二ん時だよ」
「ウソよ。忘れるわけないじゃない。日下部との思い出はちゃんと覚えてるわよ」
みさおがさらりと口にした、時期を特定する言葉にこなたは愕然とした。
いつか所有権争いを繰り広げた際に、この少女はこう言ったハズだ。

”柊とは5年連続同じクラスなんだぞ”

どうやら5年連続だったのは”クラス”だけではなかったようだ。
陵桜に入る前から―こなたがかがみと出会うずっと前から、この2人はこういう関係だったという事になる。
こなたが望んでいた関係を遥か以前からいとも容易く成立させていたという事になる。
しかもその相手が―。
(みさきち…………!!)
日下部みさおである。
これがつかさなら諦めもついた。
双子という他人よりもずっとずっと深い関係性ゆえに、こなたはそれを理由に無理やりにでも自分を納得させられたに違いない。
だが現実はいつも辛辣で、よりによって一番”そうであって欲しくない人物”がかがみのパートナーとなってしまっている。
「それにしても柊がここまで演技できるとは思わなかったな」
そのまま抱き合うのかと思えば、みさおは焦らすように腕を組む。
「柊ってすぐ顔に出るじゃん? こういうの苦手かと思ってさ」
彼女はそう言うが、顔に出るからこそこなたを本気にさせたのだと分かっていた。
かがみのような性質の人間はウソを吐くと、それがあからさまになる。
顔が赤くなる、語気が荒くなる、そっぽを向く。
よほど鈍い者でない限り、彼女がウソや誤魔化しに終始しているとすぐに分かる。
この反応が”恥じらう少女”を演出し、ツンデレを形成する。
かくして向き合ったこなたはいちいち恥ずかしがるかがみを見て、本当に恋をしているのだと思い込む。
それは決して間違いではない。
ただし真実ではない。

38:巡らされた籌59
10/11/14 21:45:57
厳密には彼女はこなたではなく、みさおに恋をしているからだ。
「まあ一応賭けは賭けだしね。命令権も懸かってるし、私もちゃんとやらないとあんたに怒られそうだし」
かがみは憮然として言った。
「仕方ないわね。こいつ、そっち系の趣味はないと思ってたのに」
「ははは、”うちのかがみが~”とか言ってた時のこいつはマジで恋する乙女の目だったぜ? それで確信したんだよ。
柊が迫れば絶対に乗ってくるってさ。私の目に狂いはなかったぜ」
「卑怯よ。はじめから勝敗分かっててこんな話持ち出すなんて」
「それだけ柊が魅力的ってことだろ? 怒ることないじゃんか。むしろ喜べって」
勝ちに気を良くしているのか、みさおはニヤニヤと笑みを浮かべている。
「あ~あ、こんな事なら真剣に演技するんじゃなかったわよ。こなたに嫌われるように振る舞えばよかったわ」
「おいおい、それじゃ賭けにならねーじゃん」
憮然とするかがみを宥めるみさお。
宥め役はあやの直伝だ。
「途中からヤキモキしてたくせに」
「するかよ」
「ふーん、どうだか……」
軽口を叩き合う2人は、誰の目から見てもお似合いのカップルだ。
我の強い者同士だが、率先して引っ張っていくのはみさお。
かがみは渋々ながらもそれに従い、気がつけば二人三脚で事を為していく。
(………………!!)
こなたは生まれて初めて嫉妬を覚えた。
自分だけのかがみと親しげに喋っているみさおを。
本当なら自分がいるべきポジションに居座るみさおを。
かがみと濃厚なキスをしていたみさおを。
こなたは嫉(そね)んだ。
「なんで!? なんでみさきちなのっ!? ねえ、かがみ……なんで私じゃないの!?」
こなたは既に恋する少女だった。
「なんでなの!! なんでみさきちなんかに……!!」
この構図は恋愛物にありがちな修羅場。
ゲームなら選択肢次第でハッピーエンドに辿り着けるが、これは現実だ。
こなたが主人公でかがみがヒロインの空想の世界ではない。
「あんたもいい加減モノ分かりが悪いわね」

39:巡らされた籌60
10/11/14 21:49:28
呆れる、というよりもはや蔑みに近い厭らしい笑みを浮かべるかがみ。
「―って言うか……謝れ、こなた。今のは日下部に失礼だ」
その笑みが瞬時に消え、彼女は殆んど唇を動かさずに言った。
自身は冗談でみさおをバカにした発言をするが、それを自分以外―ましてやこなたのように知に劣る愚者―が
吐くことを彼女は決して赦さない。
「分かんないよ……なんで……ねえ、かが―」
「謝れって言ってんのよッ!」
かがみが怒気を露にする。
泉こなたの前には、もはや彼女のよく知る柊かがみは存在していない。
子ども同然の、あるいは空気を読まない言動にも、彼女は呆れながらも決して突き放すことはなかった。
母性を擽られたように、最後には腕白な我が子にするように微苦笑しては庇ってくれた。
しかし、それはもうない。
一切のフォローを断つどころか、今やこなたの敵として眼前にはだかっている。
「あんたなんかには一生分からないわよ」
鋭い目つきをさらに鋭くしてこなたを睥睨する。
「日下部の格好いいところも可愛いところも―ゲームやアニメばっかりのあんたに分かるわけないわ」
柊かがみはこなたの全てを批判し、否定した。
たったこれだけの言葉が、状況も合わせてこなたのアイデンティティを悉く崩壊させていく。
(分かるわけないじゃん……私が好きなのはかがみだけなのに……!!)
なぜ想い人はここまで自分を苦しめるのか。
何かの試練なのか。
こうやって試しているのか。
これだけ深く傷つけられても、なおかがみを愛せるかどうかをテストしているのか。
真実の愛を示せというのか。
(分かりたくもないよ……みさきちのいいところなんて…………)
こなたの心はぐちゃぐちゃに掻き乱された。
かがみの惜しみない愛情を一身に受けるみさおが許せなかった。
愛されるのは私だ!
(……………………)
こなたは厭らしく嗤うみさおを窺った。
精神的に甚大な苦痛を受け、烈しい怒りに思考を支配されたこなたは一瞬、
この悪女みさおがかがみを言葉巧みに唆したのだと思い込んだ。

40:巡らされた籌61
10/11/14 21:52:42
ここで元凶を叩き伏せれば、きっと目を醒ましてくれるに違いない!
恋愛対象である柊かがみはこなたの中では美化され、理想どおりの女性に仕上がっている。
現実を直視できない彼女はこう思い込むことで痛みからの逃避を図る。
妄想を抜きにしても、かがみと結託して自分を弄んだ事実は変わらない。
怒りと憎しみを日下部みさおに叩きつけることは何も間違ってはいない。
(思い知らせてやる……!!)
敵愾心を剥き出しにするも、どこかに冷静さが残っていたらしい。
こなたはみさおを油断させるため、憎悪を滲ませた瞳でかがみを睥睨する。
視線は動かさず、視野で間合いを測る。
勝利に酔いしれ慢心しているみさおの注意が逸れた。
(今だっ!!)
こなたは素早く地を蹴った。
気合は十分。最高の踏み込みだ。
このままタックルの要領でみさおを突き飛ばし、体勢が崩れたところで関節を極めるハズだった。
殺意はあっても本当に殺したりなどしない。
無傷のまま激痛を与え、二度とかがみに近づかないようにするつもりだった。
だがみさおにあと半歩というところで、こなたの体はぐいっと持ち上げられた。
「………………ッッ!?」
頭部に痛みを感じた一瞬後、髪を掴み上げられたのだと分かった。
みさおは姿勢を低くして突進してきたこなたの髪を引っ掴むと、その勢いを利用して手前に引っ張り上げた。
こなたの足が宙を蹴り、引きずられるようにして前のめりになる。
「そう来ると―」
その隙を逃さず繰り出されたみさおの膝が、ガラ空きになった腹に突き刺さる。
「くっ…………!!」
呻く間もなく1発、
「―思ってたぜっ!」
さらに2発の膝蹴りをまともに受け、こなたの視界がぐらりと揺らぐ。
みさおが掴んでいた髪を放し、両手で胸倉を掴んで締め上げた。
「このチビ―!!」
みさおは転落防止用のフェンスにこなたを押しつける。
「うぅ…………」

41:巡らされた籌62
10/11/14 22:01:04
そのまま持ち上げられたこなたは喉を押さえられた息苦しさから、手足をばたつかせる。
「………………」
窒息から逃れるためにみさおの手を引き離そうとするが、こなたの力では敵わない。
ぼやけた視界の中に敵意をむき出しにした日下部みさおと―。
その後ろで腕を組み、愉快そうにその様を見つめる柊かがみがいた。
「日下部ぇ、そろそろ離してやらないと死んじゃうかもよ」
かがみが厭らしく哂う。
みさおはこなたを憎々しげに睨みつけると、幼躯を乱暴に放り投げた。
反射的に受け身はとれたものの、背中を強打したこなたは一瞬呼吸が止まった。
「危ねえ、もうちょっとで殺しちまうとこだったぜ」
本気なのか気圧しのためか、みさおは恐ろしく冷たい口調で言い放つ。
「頭に血が昇って暴力かよ? 見苦しい奴だな」
吐き捨てるよう言い、みさおはこなたの脇腹を踏みつけた。
「くぅっ…………!!」
痛みと苦しみと惨めさを味わいながら、こなたはそれでも負けまいと睨みを利かせる。
しかし両者の体勢を見れば必死の抵抗も蟻が象に噛みつく程度でしかない。
(なんでこんな奴に…………ッ!)
なまじ武術の心得がある彼女にとってはあり得ない状況だった。
いくら相手が体を鍛えているといっても、それは陸上競技という狭い範囲での鍛錬であり、
反射や素早い体捌き、さらには高い技術を要する格闘では負けるハズがなかった。
……彼女は気付いていない。
敵愾心に支配されて動きが鈍くなったのは間違いないが、彼女が以前に学んでいたという格闘技は、
自分に挑みかかってくる相手の動きを先読んで受け流し、反撃に転じることを前提とする武術だった。
今のように憎悪から敵を叩きのめすための流派ではない。
烈しい感情の波に呑まれた彼女は、攻撃ではなく防衛を礎とする流儀であることを忘れていたのだ。
こなたの動きを鈍らせているのは感情の揺れだけではない。
彼女が夜を徹して耽っていた遊びは、何にも代え難い快楽を齎す一方で、
僅かな思考力の低下と体力の大きな消耗を副作用に持つ。
そして何より―。
人は憎い誰かを攻撃するより、愛しい誰かを守る時のほうが遥かに強くなれる。
これが両者の決定的な違いであり、勝敗を分けた最も大きな要因である。
「………………」

42:巡らされた籌63
10/11/14 22:03:45
こなたは自らの敗因に気付かない。
みさおは自らの勝因が分からない。
しかし彼女にはどうでもよい事である。
なぜならこの快活な少女はずっと前から勝っていたのだから。
遡ればこの戦いが始まる前から―。
勝負はついていたのである。
「あっけないものよね」
みさおの足下で屈辱に塗れる少女を見下ろし、かがみが口の端を歪めた。
接近し、剰え余裕の表情を浮かべられるのは、もはやこなたに抗う気力がないと分かるからだ。
圧倒的な勝者と敗者との格の違いを見せつけられた今、人並みのプライドを持つ少女がこの先、
足掻けば足掻くほどに惨めさを味わわされることに気付かないハズがない。
「柊の買い被りだったみたいだな。大したことねえじゃん」
この体勢からでは不意を衝こうにも起き上がりの動作などで数秒を要する。
もしまたこなたが実力行使に出てもすぐに対応できるだろう。
(相当痛めつけてやったからな。動きもかなり鈍くなってるだろ)
愛するかがみを守るためには、気の短い虫の羽をもいでおく必要がある。
「あ…………ッッ!!」
みさおは止めにとこなたの肩を乱暴に踏みつけると、かがみの手を引いて数歩下がった。
「これで分かったでしょ、こなた? あんたの入り込む隙なんてないのよ」
「………………」
「今度また私の日下部に手出ししようとしたら、私だって何をするか分からないわよ」
しっかりと釘を刺しておいてから、かがみはみさおと熱い熱い抱擁を交わす。
上体を起こしたこなたはドス黒い感情を沸き立たせたが、今となってはこうして鈍痛の走る腹部を押さえ、
かつての愛しい少女と恋敵を睨むことでしかそれを表現できない。
嫉妬と憎悪の混じった視線に気付いたみさおは、
「それにしてもオタクって根暗でひきこもりのイメージあったけど、結構大胆だよな」
視線はかがみに、しかし口調は間違いなくこなたに向けて悪辣な言葉を放つ。
「なんだっけ? ”かがみのこと、好きになってもいいですか”だったか?」
「な、なんでそれ…………!?」
こなたは気を失いそうになった。
ひどい酸欠状態に陥ったように激しい眩暈と嘔吐感に苛まれる。
かろうじて意識は保っているものの、目の前は真夜中のように暗い。

43:巡らされた籌64
10/11/14 22:07:56
「チビッ子から来るメールは逐一チェックしてたからな」
「あんた、私が送ったメール、全部私が打ったと思ってただろ?」
みさおが言い、畳みかけるようにかがみが付け足す。
「実はそうじゃないんだよな。昨日のとかは私が考えたんだぜ」
信じられない、という思いはもはやこなたにはない。
この2人が結託していると判明した時点で分かることだ。
こなたへの恋情を募らせ、活発だが奥手な恋人を演じてきた柊かがみが綴ってきたメールの数々。
キャラじゃないと思いながらも彼女同様、含羞の色を浮かべながらこなたが綴ってきたメールの数々。
そのどちらもを、みさおは見ていたのだ。
こなたをますますその気にさせるための文面を、みさおとかがみは一緒になって考え、送信したのだ。
「日下部は勉強嫌いなわりにそういうとこ、結構面白い文句思いつくわよね」
「これも柊への愛だよ、愛」
「ちょっと、こなたみたいな言い方しないでよ」
かがみが苦笑交じりに言う。
「ははは……ぜんぶ……全部ウソだったんだ…………」
こなたは笑っていた。
笑うことで既に寸襤褸(ずたぼろ)になっている精神が完全に崩壊するのを防ぐ。
この防衛反応は人間が生まれ持って備えているもので、こなたにはそうした意図はなかった。
「まあ負けは負けだしね。ほら、さっさと命令しなさいよ」
敗者であるハズのかがみは、なぜか勝者よりも強気に振る舞う。
腰に手を当て、口を尖らせ、拗ねたような口調で。
だが頬はうっすら赤く、一度は逸らした目を再びみさおに向けた時の表情は―。
勝敗など関係ないと言わんばかりに幸せそうだった。
(私にだってそんな顔したことないのに…………!!)
こなたは歯噛みした。
演技とはいえ彼女に対しても、柊かがみは適度に恥じらう”恋する少女”としての反応をいくつも見せてきた。
しかしそれらは全て”ツンデレ”として表現できる程度のものだった。
アニメで喩えれば借金執事を擁するお嬢様や、人間を使い魔にする魔法使いなどが見せるリアクションとなにひとつ変わらない。
かがみが”こなただけに見せる側面”は無かったのだ。
(………………ッッ!!)
とにかく嬉しそうなのだ。
たいていの人間は勝負事にはまず勝ちたいと思う。

44:巡らされた籌65
10/11/14 22:10:50
どんなに小さな諍いでも進んで負けを狙おうとする者はまずいないだろう。
勝てば嬉しいし、負ければ悔しい。
それが人間のハズだ。
しかし今、柊かがみはそうではなかった。
みさおに命令されることを望んでいるような節さえあった。
「ふふん、覚悟しろよ柊!」
悪戯っぽく笑うみさお。
だが根が単純な彼女は勝負に勝つことを念頭に置いていたせいか、勝った後に何を命令するかまでは考えていなかったようだ。
「早くしなさいよ。あと60秒経っても何もなかったらチャラだからね」
主導権はかがみが握っている。
「ちょっと待てってヴぁ! いま考えてんだから」
「そういう事は先に決めておきなさいよね」
手のかかる子供を見守る母親のように、かがみは苦笑交じりにみさおを見つめる。
「う~ん…………」
腕を組み、目を閉じてしばし考察する。
こなたは再び躍りかかるタイミングを窺った。
散々に弄ばれ、挙句に隙があったとはいえ膝蹴りまで食らわされたこなたの屈辱は計り知れない。
組み伏せて痛めつけてやりたかったのだ。
自分を裏切ったかがみと、隠れてその様を楽しんでいたみさおを。
「あと30秒!」
と、かがみが言った途端、みさおがパッと目を開いた。
「………………」
その所為で飛びかかるタイミングを逸してしまい、こなたは拳を握りしめた。
「決めたぜ!」
不敵に笑うみさおは、かがみではなくこなたを見下ろしている。
「ここでさ、チビッ子の見てる前でいつもみたいにやるってのはどうだ?」
「はぁっ!?」
かがみが頓狂な声をあげる。
口を開けたままの彼女は呆れを遥かに通り越しているようだ。
だがこの提案はかがみをただ辟易させるためのものではない。
2人の意思疎通がとれているからこそ出された提案であり、命令であり、誘いである。
「ふふ…………」

45:巡らされた籌66
10/11/14 22:14:15
その意図を理解したかがみは小さく噴き出した。
「な、なんだよ? ヘンなこと言ったか?」
みさおが口を尖らせる。
「そうじゃないわよ。ただ、やっぱりあんたとは相性がいいんだなって思っただけ」
「ん?」
「私もね、勝ったら同じこと言うつもりだったのよ。ここで、日下部と……」
「なんだよ、それじゃ罰ゲームでも何でもないじゃん。場所が違うだけで」
「だって他に思いつかないし」
「………………」
「………………」
「ま、うちらの愛の深さなんて最初から分かってたことだけどな」
見せつけるように、知らしめるように、みさおはこなたを見やった。
(みさきち…………!!)
心の中で呪詛の念を叩きつけるこなたは、それでも彼女をそう呼んでいる自分が理解できなかった。
この渾名は半分は親しみを込めて付けたが、もう半分は嘲りの意味があったハズだった。
つまり本人に分からないようさり気なく”男性っぽい名前”をチョイスし、遠回しにボーイッシュな面を愚弄していたのだ。
女の子なのに女の子らしくない、むしろ男の子に近い言動や性格。
こなたはかがみを通して互いに自己紹介をした時から勘付いていたのかもしれない。
日下部みさおとは仲良くはなれない。
かがみを中心に置いた時、みさおとこなたの立ち位置は似通っている。
それが分かっているからこそ、競争相手になるに違いないと。
実際、こなたはそれよりずっと前からかがみに好意を寄せていた。
ストレートに告白したことはなかったが、恋慕の情は日増しに強くなる。
そんな中、みさおの存在は明らかに邪魔だった。
同じ中学で5年間同じクラスで―。
所有権を巡っての小競り合いでは、彼女はいつもそうして”付き合いの長さ”を語りたがった。
だからこなたは”付き合いの深さ”で対抗した。
どうせ同じクラスなだけの癖に。
陵桜では自分といる時間のほうが遥かに長いんだ。
それに名字で余所余所しく呼び合っている仲が深いハズがない。
本当に親しいのは―昵懇の間柄なのは互いに名前で呼び合っている自分たちだと。
おバカでボーイッシュの体育会系は柊かがみとは決して釣り合わない存在なのだと。

46:巡らされた籌67
10/11/14 22:17:33
こなたは内心ではずっと思っていた。
「チビッ子が見てるけど、いつもどおりにいくからな」
”いつもどおり”という部分を強調したみさおは、かがみのスカートの中に手を入れた。
「ちょ、いきなりかよっ!?」
口調は荒いが抵抗はしない。
陰部に心地よい刺激が与えられ、かがみは内股になってくすぐったさから身を捩る。
これは前戯ですらない。
みさおはそのままもう片方の手で張りのあるかがみの胸を包みこんだ。
生身よりも衣服を通したほうがその刺激が強いこともある。
「日下部ぇ……いつもどおりって言ったじゃない…………」
上と下から突き上げてくる快感に、かがみは自然と甘い声を出している。
「ちょっとペース早いんじゃないの?」
「そう言うなよ。柊が演技に集中できるようにって1週間我慢してた私の身にもなれって」
「そんなのあんたの勝手―んッ!」
赤い顔で反駁しようとしたかがみの唇が塞がれた。
みさおは見た目からは想像もつかないほどに時に激しく、時にねちっこく、口腔内で行われるもうひとつのキスで
戦術的なテクニックを駆使して主導権を握っている。
舌端同士の絡み合いでは明らかにみさおに分があった。
受身がちなかがみの感度を知り尽くしている彼女は、精神を崩壊させるほどの快感を与えたかと思えば、次の瞬間には敢えて口吻を離す。
(やるなら最後までやりなさいよ……いつも……いいところで止めるんだから…………)
緩急をつけた責めに興奮と快感を味わうかがみは、まだ快楽の絶顛には辿り着かない。
みさおは彼女の敏感なところも鈍いところも知っているし、快感への耐性も得心している。
どこまで責めれば落ちるか熟知している彼女は、かがみが絶頂に至るギリギリのところで手を止めるのだ。
「いい具合に濡れてきたな」
みさおも恍惚の表情になって甘い声で囁く。
「……焦らすの……やめなさいよね…………」
指先が僅かに動くたびに、かがみの体はピクンと小さく跳ねる。
「簡単にイッたらつまんねえじゃん。こういうのはじっくり楽しむもんだぜ?」
「だったらあんたにもやってあげるわよ!」
「うひゃうっ!?」

47:巡らされた籌68
10/11/14 22:21:15
痺れを切らしたかがみは反撃に出た。
防備を疎かにしていたみさおは、内股を走る刺激に頓狂な声をあげた。
「や、急にやめろよなっ! ヘンな声出しちまったじゃんか!」
「毎日鍛えてるくせに、あんたもここは弱いのね」
今度はかがみが主導権を握り、攻勢一辺倒のみさおを落としにかかる。
「私だってあんたの弱点くらい知ってるのよ?」
「へへん、返り討ちにしてやるぜ」
2人は互いの四肢の全てを使って快楽の境地を目指した。
エスカレートしていく行為は淫靡で悖徳的な儀式の一部分だ。
「ちょっと痛いわね」
仰向けになったかがみはみさおに覆い被さられたことで、冷たく固い床面に背を押しあてられた。
「すぐに気持ち良くなるって。それより制服汚れてもいいのか?」
「平気よ。あんたの練習に付き合ったってことにするわ」
「本番だぜ、これ」
「バカ。部活の練習のこと言ってるのよ」
「分かってるって。いちいちマジになって可愛い奴だよな、ひいらぎは」
「………………!!」
「ほら、もうちょっと力抜けって……そうそう、そんな感じで―」
夕陽を浴びて今、ひとつになる2人の少女のシルエットは艶めかしい。
倫理や道徳を遥かに超越した美がそこにある。
互い衣服を纏ってはいるが、その行為の円滑さは生まれたままの姿で行うそれとなにも変わらない。
分かり合っているからこそ。
愛し合っているからこそできる、生物の取り得る行動の中で最も尊貴で最も卑俗な愛の営み。
決して子孫を残すことができず種の存続になんら貢献しない彼女たちの睦みは、快楽のみを求めた無意味で自堕落な遊びだ。
「くさかべ……」
「ひいらぎぃ……」
組み重なった2人はもう既に一体となっているのに、それでも我慢できずに名を呼び合っては互いを求め合う。
融合と置き換えてもよいくらいに肌を密着させた2人は、その触れ合う部分の全てが性感帯となる。
露出している部分は彼女たちの”いつも”よりずっと少ないハズなのに、得られる刺激はその数倍だ。
かがみよりも背が高く体格も良いみさおがリードをとる。
この構図はそのまま2人の性格を表しているようで、攻めるみさおと受けるかがみという関係性はなかなか崩れない。

48:巡らされた籌69
10/11/14 22:23:10
「お、前よりちょっと痩せたんじゃね?」
ひどく場違いな科白が快活な少女の口から飛び出す。
悪戯っぽく笑う彼女はかがみの肋(あばら)から下腹部にかけてをゆっくりと撫でている。
「え、そ、そう……?」
”痩身”というキーワードは年頃の女性に対する最上級の褒め言葉だ。
しかもそれを恋焦がれる相手から聞いたかがみは、仰向けに寝そべったまま舞い上がった。
「柊は努力家だよな……」
「あ、あんたこそ毎日部活がんばってるじゃない」
頬を朱に染めて讃え合う。
小麦色に日焼けしたみさおを仰ぎ、かがみは彼女の二の腕あたりに指をあてがう。
筋肉の歪さは全く感じない。
むしろ健康的でシャープな流線型は、たとえ同性であっても見る者に憧憬の想いを抱かせる。
「………………」
もはや暴力に訴える気すら萎えてしまったこなたは、全身から力が抜けてしまったようにその場に崩れ落ち、
光の宿らない瞳で少女たちの営みを眺めていた。
負の感情にのみ支配されている彼女だが、絶望の中にもまだ”泉こなた”としての意識が僅かばかり残っている。

49:巡らされた籌70
10/11/14 22:25:06
(かがみ…………)
震える手はいつしか下着の内側をまさぐっていた。
怒りのために上がっていた体温は、今となっては性的な興奮によってさらに上昇している。
殆ど起伏のない胸をさすり、もう片方の手で秘部を刺激する。
惨めだった。
この上なく惨めだった。
恋心を弄び、ずっと自分を騙していた柊かがみへの強い憤りの念は消えない。
だが一方でそんな彼女をまだ愛している自分がいる。
(かがみぃぃ…………!!)
みさおを自分に置き換え、愛しい少女と睦む自分を想像しながら。
こなたの手は遅く早く動き、快楽の高みへと己を押し上げる。
毎夜のように繰り返してきた自慰とはまるで味が違う。
身も心もかがみと一体となり―こなたはそう思い込んでいる―あらゆる興奮、感動、快感を共有しようとする。
「はふ…………」
火照った体は限界が近い。
細い指先は愛液に濡れ、それを潤滑油にさらに激しく刺激を与えているのは妄想の中の柊かがみだ。
ドン! と体の奥から凄まじいエネルギーが溢れ出す。
これが瞬く間に全身を駆け抜け、血管の隅から隅まで恐ろしいスピードで蛇行する感覚。
「ひいらぎいぃぃッッ!!」
「くさかべえぇぇっっ!!
3人が同時に絶頂を迎えた。
屋上に響き渡る彼女たちの艶めかしい声に、こなたは永く短い夢から現実に引き戻された。

50:JEDI_tkms1984
10/11/14 22:30:37
 今日はここまでです。
長くなりましたが次々回あたりに完結します。
それではまた。

51:マロン名無しさん
10/11/14 22:44:03 LXg2fLXw
何だこれもう……

52:マロン名無しさん
10/11/14 22:46:13
ご都合主義の自慰駄文

53:マロン名無しさん
10/11/15 03:40:31
こういう文章書ける奴ってきっと誰かを殺してるんじゃね

54:JEDI_tkms1984
10/11/16 21:16:17
 皆さん、こんばんは。
本日分の投下参ります。

55:巡らされた籌71
10/11/16 21:18:02





肩で息をしながらみさおがゆっくり立ち上がる。
スタミナのある彼女は短距離を走り終えた程度の心地よい疲労感に酔いしれたが、
かがみは全身から力が抜けきってしまったように横たわったままだ。
「………………」
「………………」
みさおと目が合ったこなたは、自分が”していたこと”にようやく気付いた。
文字通り、死にたくなるほどの羞恥心が彼女を襲う。
日頃、饒舌なみさおはこの時ばかりは何も言わず、嘲るように口の端を歪める。
「………………ッ!!」
そして見せつけるようにたった今、起き上がったばかりのかがみの唇を塞ぐのだ。
意識の半分は快感の波に溺れていた彼女は、その小さな責めに抗し得ない。
今までの濃厚な重なり合いから一転、このあまりに素っ気ないキスは食後のデザートのようなものだ。
ゆらり、とこなたは立ち上がった。
足が小刻みに震えているのは快楽の頂上から下降しているためだ。
「見てたわよ、こなた? あんたさ、私とこういうコトがしたかったんでしょ?」
かがみが厭らしく嗤った。
この成績優秀な少女は知っている。
こなたがキスを迫った時から、彼女がそれ以上の関係―行為―を求めていたこと。
”同性愛”というある種の禁忌を犯せた者が、浅い口づけだけで満足できるとは思えない。
「あんたのことだから、私のコト想像しながら毎晩オナニーしてたんだろ?」
年頃の娘なら憚りたくなるような単語をさらりと吐く。
射竦めるような眼光に、こなたはビクリと体を震わせた。
「図星みたいだぜ」
「ふん……やっぱりね」

56:巡らされた籌72
10/11/16 21:19:38
拗ねたような、怒ったような顔でこなたを睨みつけたかがみはやや身を乗り出すようにして、
「気持ち悪い」
精一杯の悪意を叩きつける。
「………………!!」
そのたった一言に、こなたの精神は今度こそ粉砕された。
「私でオナニーしていいのは日下部だけよ」
「ああ、逆に私をオカズにしていいのも柊だけだぜ?」
「おまっ、オカズって……もうちょっと表現考えなさいよね」
「ほ~ぉ? じゃ”オナニー”はいいのかよ?」
「うっ…………」
あれほど恥ずかしい姿を晒しても赤面しなかったかがみは、みさおのちょっとした言葉狩りに口ごもる。
こんな小さな言い合いすらも、もはやこなたの感情を動かすことはない。
かがみに、そしてみさおに全てを否定された彼女は虚ろな瞳で中空を見つめている。
「ふふ…………」
こなたの口が勝手に動き、侮蔑の笑みを漏らす。
様子の妙にみさおはかがみを庇うように半歩進み出た。
また手を上げるかもしれない。
力のある者はたいていその力を使いたがるものだ。
(まだ動けるのか……しぶとい奴だな)
姫を守る騎士さながらに、みさおは鋭い目でこなたを睥睨する。
だが彼女はその視線に臆することなく一歩、一歩とゆっくり距離を詰めてくる。
「2人して私を騙して……バカにして……いい気分だっただろうね」
あの甘ったるい声は呪詛の念を含んだ邪悪なものに変わっていた。
「いい気分なワケないじゃない」
かがみが弾んだ声で反応する。
「考えてもみなさいよ。私が勝つにはあんたとキス寸前までいかなきゃならない。でも日下部以外となんて絶対イヤ。
でもそうしなきゃ負ける―好きでもないオタクと形だけでも恋人のフリするのがどれだけ辛かったか……」
「………………」
柊かがみは残酷だった。どこまでも卑劣だった。

57:巡らされた籌73
10/11/16 21:21:58
「ハッキリ言ってあんたと手を繋ぐのも……ううん、並んで歩くだけでも吐き気がしてたっていうのに」
その悪辣さに便乗するように、
「私だってそうさ。一時的とはいえチビッ子に譲らなきゃなんねえもんな。学校にいる時はわざと私をぞんざいに扱えって柊に言ったけど、
実際やられると演技だと分かってても結構ヘコむもんだぜ?」
みさおが陽気に笑って言う。
「いいよ…………」
こなたは殆ど聞き取れない声で呟く。
「お似合いだよ……2人とも……」
「言われなくてもそうよ」
「あったり前だろ」
”お似合い”という言葉を祝福の意味に捉えない2人は、しかしその一言を盾に堂々と絆を強くする。
「そんな2人に私からプレゼントだよ。最初で最期のプレゼントだからしっかり受け取ってよね」
抑揚のない、古い機械から発せられたような音声が風に乗って聞かせたい相手の耳にだけ届く。
みさおはさらに注意深く身構えた。
(…………ッ!?)
突然、こなたが走り出した。
「柊っ!」
かがみに離れるように言うと、みさおは足に力を入れてこなたを正面に見据えた。
陸上部顔負けの走力を見せる彼女がまっすぐに向かってくる。
だが2人のアテは外れた。
逆上したこなたがなりふり構わず暴力に訴えるつもりだと思っていたみさおは、彼女の奇行に目を白黒させた。
風を切って走る彼女は2人の脇を通り過ぎ、そのまま速度を落とさず反対側のフェンスに飛びつく。
「あっ――!」
そこでかがみは初めてこなたの思考を読みとった。
転落防止用に四辺に設置されたフェンスの一部分。
老朽化が進んだまま取り替えられていなかったのか、小学生程度なら通り抜けられる穴が開いている。
「一生無くなることのない宝物をあげるよっ!」
身軽なこなたはその隙間にするりと体をくぐらせ、フェンスの向こう側に立った。
肩越しに振り返った少女は、些か狼狽した様子のツインテールの少女を一瞥すると、
「好きだよ、かがみ―」
本心の半分を吐露した。
複雑な表情のまま、こなたは屋上の縁に爪先を当てる。

58:巡らされた籌74
10/11/16 21:25:00
微風が彼女の背中を押し―。
幼躯はそのまま地面に吸い込まれるように落ちていった。
(かがみ……)
宙を舞いながらこなたは愛しい彼女の姿を思い浮かべた。
柊かがみを心底から愛していたのは間違いなかった。
裏切られ、弄ばれた今でもその感情は変わっていない。
だがそれと同じくらいに憎悪の念も深かった。
(かがみ…………!)
愛情の深さは憎しみの深さに等しい。
そのジレンマに苦しむこなたが短い時間の中で下した決断がこの結末に結び付く。
文字どおり、”殺したいほど愛して”しまった柊かがみへの―。
贐(はなむけ)であり、復讐である。
泉こなたにとっての永遠はここで終わり、そして間もなく始まる。
ぐしゃり、と頭蓋が砕け散る音が脳内に響き渡る瞬間。
彼女は嗤った。
かがみには愛憎を抱いているが、みさおに対しては殺意に近い憎悪しかない。
しかし敢えて殺さず自ら死を選ぶ。
これが憎い相手を直接殺すよりも遥かに残酷で効果的な仕返しの方法だと、こなたは身を躍らせる前から確信していた。
目の前で人が落ち、全身の骨が砕ける音を聞き、そのまま死を迎える様を見た人間が平静を保てるハズがない。
この出来事は日下部みさおにとって忘れられない大事となるだろう。
忘れたくても忘れられない、いつまでも脳裏に膠着(こびりつ)く音と映像となって残り続けるのだ。
重要なのは自殺の瞬間をただ見せるのではなく、”かがみとみさお”が同時にその場に居合わせること。
(………………)
この凄惨な光景は必ず2人にとってトラウマとなる。
そして封印してしまいたい記憶はいずれある条件が整った時、フラッシュバックという形で2人の心に鋭い爪を突き立てる。
発作はトラウマとして刻み込まれた状況が再現された時、本人の意思に関係なく起こる。
状況の再現―すなわち、かがみとみさおが顔を合わせた時、だ。
「ふふ…………」
その様がこなたには容易に想像できた。
この2人は互いに傷を舐め合うように寄り添うだろう。
しかしそれも束の間だ。

59:巡らされた籌75
10/11/16 21:26:58
程なくしてフラッシュバックに苛まれる彼女たちは、それが引き起こされる原因となる対象―つまり互いを遠ざけることになる。
かがみがみさおと、みさおがかがみと甘美の世界を生きる時、こなたの最期の瞬間を思い出さずにはいられなくなる。
愛する者同士がその距離を縮めれば縮めるほど、忌まわしき記憶が蘇って却って互いを遠ざける結果となる。
これ以上の皮肉はない。
(スクイズやってて良かったよ……まさか私がこんな役するとは思わなかったけど……)
豪猪(やまあらし)のジレンマにも似たこの効果こそ、こなたの最初で最期の祝福となるのである。
(苦しめ……苦しめばいいんだ!)
呪詛の念をたっぷり注ぎこんだこなたは、痛みを感じる間もなく折れた肋骨に肺腑を突き刺されて意識を失った。





 縁からそっと顔を覘かせ、真下でうつ伏せに倒れたまま動かないこなたを認めたかがみはようやく一息ついた。
「ふん……あれなら即死ね」
”即死”という揺るぎない事実は柊かがみにこの上ない安堵を齎(もたら)してくれる。
運良く―あるいは運悪く―こなたが一命をとりとめたなら、駆けつけた生徒や教師たちに秘密を吐露してしまうかもしれない。
真実を知ってから彼女が投身するまで40分程度。
遺書を書く暇もなければ誰かに口外する機会もなかった。
(ということは…………)
秘密は秘密のまま、この事実は誰にも、どこにも露見しない。
泉こなたの自殺は”単なる自殺”で片づけられるのだ。
(ま、泣くフリくらいはしてやらねーとな)
日下部みさおと柊かがみの相性は抜群だ。
発声によらずとも、互いの考えは常に一致していると分かる。
例えば恋に一途な少女が裏切りを苦に自殺しても、罪悪感に駆られるどころか、その死をむしろ喜んでいることだ。
(チビッ子、これを私たちに見せつけることで後味を悪くさせるつもりだったんだろ?
フラッシュバックだっけ? 確かに効果的な方法だよなァ―でも……)
みさおは目を細めた。
(相手を選ぶべきだったな。柊との仲がこんな”くだらない”事で引き裂かれると思ってたのかよ?
お前は最後の最期まで柊のコトが何ひとつ分からなかったんだな。独り善がりもいいとこだぜ)
生暖かい風が吹いた。

60:巡らされた籌76
10/11/16 21:28:39
「安心したわ、これで報復とか気にしなくて済むし」
振り返ったかがみはため息をついた。
「あいつ、オタクのくせにケンカ強いみたいだし割と積極的な方だから何かやってくると思ってたのよね」
「ケンカなら私だって負けないぜ? 毎日鍛えてるからな」
みさおは拳を握りしめて言った。
「それより早く降りようぜ」
「なんでよ? もう私たちの邪魔する奴はいないのよ? どうせならこのままさっきの続き―」
「バカ、そうじゃねーよ! うちらが屋上にいることが誰かにバレたらまずいって言ってんだよ」
「あ…………」
言われて初めて彼女はそれに気付いた。
熱く深い情愛は時に人を愚かにするらしい。
「普段しっかりしてっけど、たまにそうやって抜けたところ見せるのが可愛いんだよな~」
「う、うっさいっ!」
2人は急いで校舎に戻る。
駆け足気味に階下に降りた後、すぐに歩調を遅くしたのは屋上から駆け下りてきたと周囲に思わせないためだ。
荒くなる呼吸を抑えながらのちょっとした工夫だったが、幸い校舎内には生徒や教師の姿はなかった。
「西館から出ようぜ」
とみさおが提案した理由は、それが校舎を出てから校門まで直進した場合に唯一こなたの遺体を見ずに済むコースだからだ。
「お、あんたにしちゃ名案じゃない」
先ほどの仕返しとばかりにかがみが苦笑交じりに言った。
中庭は俄かにざわめき立ち、部活に勤しんでいた生徒たちが一様に本館の方へ走っていく。
2人はその波に逆らうようにして敷地を出た。
ただしその際、不自然にならないよう時おり後ろを振り返るという演技も付け加えておく。
騒ぎを尻目に平然と下校する姿が誰かの目に留まり、そのまま記憶されていると他日、厄介なことになりかねない。
「ウチに来ねえ?」
「え、今から?」
「当たり前だろ。今日さ、兄貴も親も用事でいないんだよ」

61:巡らされた籌77
10/11/16 21:30:14
かがみがハッとなってみさおを見た。
「―ってことは?」
「そ、ウチには私ひとりってわけだ」
「行くわ」
誰もいないとなれば断る理由はない。
家族の目を気にすることなく、好きなだけ好きなことができる。
かがみは素早く携帯電話を開くとみきとつかさにメールを送った。
こなたの死が直ちに生徒たちに伝わるようであれば、その知らせは同じクラスのつかさにも必ず届く。
その後ではみさおの家に泊まる―とは言いにくい。
この場合は……。
”お泊まり”という甘美のイベントを成立させてからこなたの死を知る、という順序が望ましい。
「大胆だな~柊は。今夜は寝かさないつもりだろ?」
自分から誘っておいて、彼女は官能的な声をかがみの耳に吹き込む。
「さっきの続きがしたいだけよ」
素っ気なく答えるその顔は真っ赤に染まっている。
「じゃ決まりだな。コンビニ寄ろうぜ。ポッキー買い込まねーとな」
みさおは無邪気に笑ってそう言うと、横を歩く少女の肩に手を回した。








62:JEDI_tkms1984
10/11/16 21:34:33
 今日はここまでです。
次回で完結しますので、もう暫らくお付き合いくださいませ。
それではまた。

63:マロン名無しさん
10/11/16 21:58:07 QS6E58Ye
これなんてスクイズって思ってたら話内にそのネタ出ててワロタw

64:JEDI_tkms1984
10/11/17 21:17:58
 皆さん、こんばんは。
最後の投下参ります。

65:巡らされた籌78
10/11/17 21:19:17
 翌日。
ホームルームで担任が知らせた事実は教室を大いに震撼させた。
「―そういうことや。しばらくの間、休校になる。部活動も当面は中止や」
黒井ななこが淡々と伝達事項を述べるのは、そうしなければ押し寄せる感情の波に逆らえず落涙してしまいそうだったからだ。
動揺が広がるB組の前で涙を見せれば不安がる生徒たちの統率がとれなくなる。
ここは敢えて気丈に振る舞い、教え子たちを落ち着かせなければならない。
深い悲しみが室内を覆う。
彼女とはさほど仲の良くなかったクラスメートも、同じ教室で過ごした同級生の自殺という事実に沈痛な面持ちになる。
「………………!!」
声こそあげなかったが、つかさもみゆきも涙を零していた。
明るく社交的で周囲を和ませていた泉こなたはもういない。
しかも事故や病気が原因ではなく、屋上からの投身自殺という結末には泣いても泣いても足りなかった。
「こなちゃん……こなちゃんが……」
動機に全く心当たりのない2人はこの現実を受け容れられなかった。
ストレスとはおよそ無縁と思えた少女の自殺。
進学や家族に関する悩みもなければ、いじめに遭っていたわけでもない。
(なぜこんなことを…………!)
つかさよりもずっと思慮深いみゆきは、その理由をあれこれと想像してみる。
が、あくまで他人の想像で真実には決してたどり着けない。
英邁な彼女が推測したのは、その動機が学校に関係しているのであろう、ということくらいだ。





C組では桜庭ひかるがこの事態を伝えていた。
もともと感情の起伏が見えにくい彼女は、意識しなくても事務的に生徒たちにあらましを説明することができる。
こちらも動揺が広がっているが、隣のクラスほど陰鬱なムードにはならない。
泉こなたと接点があった生徒が殆どいないためだ。
従って自殺という大事件を淡白に語るひかると、それをどこか―ある意味では必然的に―他人事のように聞いている生徒たち、という構図が出来上がる。
俯き小刻みに体を震わせるかがみとみさおは、こなたの死を悼んで泣いているのではない。
深い悲しみによって引き起こされる嗚咽は、その状況を知らない者からすれば笑いを我慢しているようにも見える。

66:巡らされた籌79
10/11/17 21:22:45
この2人がまさにそれだった。
声をあげて笑い出しそうになるのを必死に堪えるその様は、場の雰囲気と相まって嗚咽を漏らしているとしか思われない。
邪魔者は消えた。自ら命を絶った。そして真相を知る者は誰もいない。
これほど愉快なことはない。
かがみもみさおも、ひかるの話など全く聞いていない。
誰よりも早くこの事実を知っていたから耳を傾けたところで新鮮味はないし、流れからして当面は休校になることも分かっている。
差し当たり彼女たちが考えなければならないのはその休みの間、どのようなシチュエーションで逢瀬を重ねるかに尽きる。
課題も何も出ない、完全なる自由な時間。
日が昇り、沈んでもなお甘い一時を堪能できるまたとないチャンスなのである。
(お…………?)
ポケットの中の携帯電話が振動した。
みさおはひかるに気付かれないように机の下でディスプレイを開く。

『1件の新着メールがあります』

の表示に彼女の頬は思わず緩む。
だがここで返信文を打てばさすがにその挙動がひかるの目に留まるだろう。
みさおはそのままの姿勢で受信メールを開いた。




 雲ひとつない青空。
下校していく生徒たちの波。
名前も知らない小鳥が宙を舞う。
それらを順番に眺めていると、ここから数十メートル離れた場所で少女が死んだとは思えなくなる。
こなたが飛び降りた事で屋上は完全閉鎖。
真下の現場もぐるりと囲いで覆われ、誰も立ち入ることはできなくなった。
だがそれ以外の場所―ここ体育館裏も―は全く手をつけられず、平時のそれと変わらない。
だから現場にさえ近付かなければ惨劇の匂いすら感じられない。
「悪りぃ、遅くなって」
人目を憚るように小走りにやって来たみさおは全く息が上がっていない。

67:巡らされた籌80
10/11/17 21:25:39
「どうしたんだよ? 改まってこんなメール送ってさ。教室じゃ話せないことでもあんのか?」
みさおはこなたの死に触れて悲しむフリを続けている。
だが時たまにその意識が薄れ、いつもの快活な口調に戻ってしまうのだ。
「ごめんね」
謝った相手は口元に手を当てて困惑しているようにも見えた。
大和撫子と表現してもよい佇まいのこの少女は、いつでも控えめだった。
わざわざホームルームを狙ってみさおにメールを送り、体育館裏に呼び出すという行為も彼女にとってはなかなかに勇気の要る作業だった。
「いや、別に謝らなくていいって。それよりホントにどうしたんだよ? なんかあやのらしくないぜ?」

―峰岸あやの。

もともと儚さの漂う彼女がみさおにはいつにも増して大人しく見えたが、それはこなたの死を知ったからだと思った。
かがみを通して知り合った相手だ。
さして付き合いは長くはないが、一度でも言葉を交わした人間の自殺という結末に塞ぎこんでいるのだろう。
みさおの知る幼馴染みはそういう人物だ。
「ごめんね、みさちゃん。急に呼び出して」
と前置きしたうえで、
「ちょっと見て欲しいものがあったから」
鞄から茶封筒を取り出し、みさおに手渡す。
「ん…………?」
無地の封筒の口は開いている。
訝しみながら彼女は中身を取り出した。
「………………ッッ!?」
瞬間、健康的な小麦色の顔が比喩ではなく蒼白に彩られていく。
「な、なんで……あやの…………?」
震える手からそれらが零れ落ち、みさおは慌てて拾い集めようとする。
その様をあやのはぼんやりと眺めていた。

68:巡らされた籌81
10/11/17 21:28:06
「なんでだよ……これ……どうなって―?」
定まらない視線があやのを捉え、手許のそれらを捉えた。
封筒に入っていたのは数枚の写真だった。
屋上の校舎に続く通路からシャッターを切られたそれらには、みさおとかがみの姿が写っている。
問題はその状況。
1枚は2人が睦んでいる場面。
1枚はこなたがそれを見ながら自慰に耽っている場面。
1枚はこなたがフェンスに向かって走っている場面。
そしてもう1枚には―フェンスの向こうで飛び降りる瞬間のこなたがしっかりと記録されていた。
「あ、あやの…………?」
彼女が最初に呟いた、

”ごめんね”

の意味が分かったみさおは危うく気を失いそうになった。
相当に優位に立ったあやのはしかし強気に出るどころか寧ろ卑屈になって、
「他にもあるの」
と言って今度はむき出しの写真を束で取り出す。
新たに差し出されたそれらは最初の4枚を繋ぐ重要な役割を果たしていた。
どれもアングルは同じだが、みさおとかがみの営みの経過が十数枚に及ぶ。
こなたの痴態に関してもよくよく見れば、左手を股間にあてがっているシーンもあれば無い胸を自ら揉みしだく一面もある。
彼女が走っているところも、落ちていくところもストロボ写真のように時の流れと対象の動きが生々しく刻まれていた。
これは動画の切り抜きだ―みさおが気付いたのは数秒が経ってからだった。
「…………いたのか?」
短すぎる問いにあやのは頷く。
「柊ちゃんと何かやってるのは分かってたの。泉ちゃんもいたから彼女に絡んでる事だっていうのもすぐに気がついたわ」
「………………」
「こういうやり方、本当は嫌だけど……でもこうでもしなきゃみさちゃん、きっと動いてくれないと思ったから」
その穏やかな口調が悪魔の囁きに聞こえ、みさおは後ずさった。
「きょ、きょう……脅迫するとかじゃないよな?」
たったこれだけの疑問を述べるだけでも、カラカラに乾いた喉はまともな発音を許してくれない。

69:巡らされた籌82
10/11/17 21:29:56
みさおはあやのをよく知っている。
秘密を知ったとはいえ、それをネタに強請る峰岸あやのの姿が想像できない。
だから彼女が金品を脅し取るハズはない、とみさおは願った。
しかしもしそうなら、そもそもこんな場所に呼び出して写真を見せるという行動の理由が説明できない。
「みさちゃん、お願い……」
やはり脅迫ではなかった。
高圧的な態度に出ることも、秘密の漏洩を匂わせる強気の発言も彼女はしなかった。
ただ、すまなそうに、
「この事……バラされたくなかったら柊ちゃんと別れて」
極めて意外な条件を出してきた。
「…………は?」
真摯な様にみさおは別の種類の恐怖を味わう。
結局、脅したことには変わりない。
金品の要求をしなかっただけで、あやのは情報の秘匿と引き換えにみさおにとって金品よりも大切なものを失わせようとしているのだ。
「私……ずっとみさちゃんが好きだったの……」
頬を赤くしてあやのが言う。
みさおはすぐにはその言葉の意味が理解できなかった。
あり得ない科白があり得ない状況で吐かれたのだ。
しかもウソでも冗談でもない。
「お兄さんと仲良くしてたのも、本当は……ごめんね、みさちゃんの気を引きたかったから―」
「ちょっと待てよ。あやのは兄貴と…………」
「私とお兄さんが仲良くしてたら、みさちゃんがヤキモチ焼いてくれるんじゃないかって思ってたの。
でも全然振り向いてくれなくて……それで、成り行きで付き合うみたいになっちゃったけど……」
別に好きで付き合っているのではない、自分が好きなのはずっと前からみさおだ、と彼女は続けた。
「あや……の……?」
「みさちゃん、口を開けば柊ちゃんのコトばっかり……すごく苦しかった。柊ちゃんの話する度に胸が苦しかったのよ?」
「………………」
「どうして? 中学に入るまでは私たち、いつも一緒にいたのに。柊ちゃんと知り合ってからみさちゃん、変わったわ。
なんで私じゃないの? なんであの娘なの? 私のほうがみさちゃんのコトたくさん知ってるのにっ!!」
「あやの…………」
「みさちゃんが背景だって言った時は―不名誉だけど私は嬉しかったの。だって”私たち”って言ってくれたから。
私にはみさちゃんしかいないの。みさちゃんだってそうでしょ?」

70:巡らされた籌83
10/11/17 21:33:05
くしゃり、という音にみさおは視線を下げた。
あやのが持っていた写真を握りつぶしている。
「あんな娘のどこがいいの? 頭はいいかも知れないけど、私だって負けてない。料理だって私のほうがずっとできるの!
みさちゃんが好きなもの、毎日作ってあげるわ。ミートボールにハンバーグに―嫌いな野菜は出さないって約束するから!」
「お、落ち着けって…………!」
「宿題だって全部見せてあげる! 趣味だって合わせる! みさちゃんが言うならお気に入りのぬいぐるみだって全部捨てるから」
「………………」
みさおはだんだん怖くなってきた。
行き過ぎた恋は人を盲目にするが、みさおもかがみも互いを深く好き合ってはいてもここまで苛烈ではない。
燃えるような情愛の中にも引くべき一線というものがあって、2人はそれを暗黙のルールとして遵守していた。
だがあやのにはそれがない。
偏愛が狂愛に転じた時、峰岸あやのは自分の欲求を抑えられなくなってしまったのだ。
「あやの…………」
幼馴染みにここまで愛されていると分かっても、みさおはそれを嬉しいとは感じられなかった。
彼女にとってあやのは昵懇の間柄であっても、恋愛対象ではない。
物心ついた頃から一緒にいたために、友人という感覚が抜け切らなかったのかも知れない。
「こんな事したくないのっ! みさちゃんを困らせたくないの! だからお願い……柊ちゃんと早く別れてよ…………!」
口ではそう言いながらも、あやのは皺くちゃになった”証拠”をみさおに突きつけている。
「さあ…………」





71:巡らされた籌84
10/11/17 21:37:14
あやのは笑んでいた。

みさおが本当にかがみを愛しているのなら、彼女が窮地に立たされないようにこの要求を受け入れるに違いない。

彼女はとても優しいから。

それが峰岸あやのの知る、”日下部みさお”だから。

愛するがゆえに愛する人と離別する。

あやのはその隙間を待っているのだ。

その時は間もなくやって来る。

それが分かっている彼女は無理にそうしようとしなくても次から次へと笑みを零す。

澄んでいて濁っている双眸に全身を掴まれたみさおは―。

とうとう一言も返すことができなくなり、彼女の狂った笑顔の虜となる。

冷たい風が吹き荒れた。

その中に―。

みさおはこなたの嘲笑う声を聞いた気がした―。






   終

72:JEDI_tkms1984
10/11/17 21:43:05
 以上で終了です。
スレを跨ぐ長文になってしまい申し訳ありません。
お読み下さりありがとうございました。
また来年お会いしましょう。

73:マロン名無しさん
10/11/17 21:57:24
何かしら天誅下ると思ってたけどそうきたかw
色々予想外の展開ばっかで興味深かった

74:マロン名無しさん
10/11/17 22:26:52
てっきりゆたかが絡んでくるかと思ってた
あやのは予想外だったわ

75:マロン名無しさん
10/11/17 22:40:09
最後の最後でどんでん返しやなあw

76:マロン名無しさん
10/11/18 09:13:38
なるほどの……
かがみの演技ってのは予想してたけど、オチは予想できなかったわ

77:マロン名無しさん
10/11/18 17:12:58
必然性のない結末に尾ひれをつっただけの駄文
チラ裏にでも書いてろボケ死ね

78:マロン名無しさん
10/11/18 17:25:31
JEDI氏はこなた嫌いなの?

79:マロン名無しさん
10/11/18 17:36:20
JEDIは読んだ人間に不快感を与えるのがうれしいだけの精神障害
関係ないスレにも欝や理屈っぽいSS投下して荒らす最低の屑
らき☆すたには全く愛着はない
単に作りやすく読者を得やすいから食いものにして自己満足しているだけ

80:マロン名無しさん
10/11/18 17:43:31
自殺スレでそれを言うとはびっくりですわ

81:マロン名無しさん
10/11/18 17:56:02
まあまあまあまあ

82:マロン名無しさん
10/11/18 18:16:30
他のスレにも手を出すからな
ここは隔離スレで
ここでしか受け入れら得ないことを理解汁

83:JEDI_tkms1984
10/11/18 21:56:38
 改めてお読みくださってありがとうございます。

>>73
>>74
>>75
>>76

僕は恒に読み手の予想を裏切るよう書いているので、
このような感想を戴けるのは允に感慨無量です。

>>78

みさおが好きなのでどうしてもこなたが嫌いになってしまいます。
ガイドブック2の両者のパラメータには未だに納得がいきません。

84:マロン名無しさん
10/11/18 22:59:33
みさおは本物の池沼だからな

85:マロン名無しさん
10/11/19 00:46:56
書いてる奴も同じだろ

86:ethtrh
10/11/22 22:46:22 0ijjkg7R
こなたんかわえええええ

87:マロン名無しさん
10/11/24 06:28:54
こなたは自殺可愛い

88:マロン名無しさん
10/11/30 19:34:24
うむ

89:マロン名無しさん
10/11/30 22:52:43
わかる

90:マロン名無しさん
10/12/02 13:25:39
泉こなたの優れた運動神経に目を付けた組織が「これはただのアニオタ少女で終わらすのは惜しい」と考え拉致、
一切の有無を言わせる事無くその五体を刻み、骨は超合金、筋肉は強化人工筋肉、臓器は各種メカニックに
改造されてしまうのだった。

後は脳改造を加える事でこなたは組織の為に戦う怪人の一人に~と思われたが、自分が自分で無くなる事を恐れた
こなたは何とか組織を脱出、以後は自分の身体を弄り人で無くした組織への復讐の為に仮面を被って組織と戦う事に…

組織の送り込む怪人を撃退して行くこなたであったが、何も知らない一般の人達から見ればこなた自身もまた
組織の怪人と同じ怪物に過ぎなかった。

さらにこなた自身も改造された事によって身に付いた超人的な力をコントロールしきれず、
力の加減を間違えてしまった為にゆたかの身体を捻り潰して一生寝たきりになる大怪我を負わせてしまう

そのせいでこなたを憎むようになったみなみが自分から組織に志願し、原形を留めぬまでに異形の改造人間となって
こなたに挑みこなたを動揺させるが、最終的にはこなたの手で息の根を止められる

みなみの件で組織はこなたの周辺の人間を改造・洗脳して送り込む作戦を考え付き、つかさ・かがみ・みゆき等
こなたの身近の人間が次々に組織によって拉致され異形の改造人間とされてこなたに送り込まれる。

親友が敵となった事にこなたも動揺・葛藤するが、こなた自身に彼女達を元に戻す力は無く
結局自分の手で息の根を止めるしか無かった。

最終的に組織を壊滅させる事に成功するこなたであったが、後に残ったのは怪物最後の一人として
一般の人々から恐れられるこなたと言う現実だった。

自分の戦いは何だったのだろうとこなたは葛藤しながら、数多の怪人を倒してきた己の超人的な腕力で
自身の身体を砕き、息を引き取る

って言う仮面ライダー的電波スマソ

91:マロン名無しさん
10/12/02 15:52:54
イイジャン

92:マロン名無しさん
10/12/03 17:41:21
前スレ麾く煉獄をお勧めしていたのがいるけど。たしか、つかさが
そうじろうにレイプされてブチ切れた伸恵が銀行強盗したり、
ヤクザ皆殺しにしたり、ファミレスで強盗殺人したりするやつだっけ?

93:マロン名無しさん
10/12/03 17:44:01
みたことないわそのSS

94:マロン名無しさん
10/12/11 11:49:44
ああ

95:マロン名無しさん
10/12/14 10:30:51
神奈川版じゃね?

96:マロン名無しさん
10/12/15 15:46:16 H46+c1WU
てか面白いな

97:マロン名無しさん
10/12/15 18:42:17
神奈川版とオリジナルとは雲泥の差

98:マロン名無しさん
10/12/15 20:05:06
でも、神奈川版とオリジナルの麾く煉獄はストーリー自体同じじゃないの?

いったいどこが違うのかね?

99:マロン名無しさん
10/12/16 18:03:19
同じに見えるのか?

100:マロン名無しさん
10/12/16 18:42:01
神奈川の駄作がこのスレをダメにした

101:マロン名無しさん
10/12/16 21:32:40
厳密に言うと神奈川もどきな
本家のはもっと洗練されてる
最近やたら出てきてる神奈川版は頻度は大したものだが中身がまるでない
何となく文体真似てるだけで本家に失礼だ

102:マロン名無しさん
10/12/17 08:29:50 wKAwrIUu
たしかに、私のお父さんの時点でおかしかった、実際ギャグ
呼ばわりされていたな。
吉野家にコカインが置かれてあったり、かがみが鉈を振り回したり
家に危険物が置かれてあったり、特に酷かったのはつかさが覚醒剤やっている
事なんだよな、そんな設定どこから持ってきたんだよ。小早川家の目的は
そうじろうに復讐っていうのは後付けくさい、というかあれは遺産目当てと
書かれていた。後はりゅうじとか竜崎とか大石とか空気キャラが多かったことだな。

103:マロン名無しさん
10/12/17 15:08:04
巡らされた籌最初から読みたい

104:マロン名無しさん
10/12/17 17:31:40
そうじろうがかがみと再婚して、当初はこなたが「かがみんが義母さんになったー」
って喜んでたけど、子供が一人二人と生まれるにつれてこなたが邪魔者扱いされて行き
最終的にはこなた自殺…と言う展開を…

105:マロン名無しさん
10/12/19 00:39:06
すごく久々にきた、1つ質問したい。前ここでやっていた「つかさのアルバイト」って完結したの?
つかさがかがみを家から追い出し、正体を知ったまつりを電話越しで言いくるめるまでは知っているんだけど・・・


106:マロン名無しさん
10/12/19 20:26:59 tJl84FsT
うーんと

107:マロン名無しさん
10/12/21 19:31:07
今晩は。SS落とします。今日含めて三日ほどで完了する予定。
恐らく24日か25日に向けて投下準備をなさってるであろうグレゴリー氏の
前座となれば幸い。

『Living on the hell』

108:Living on the hell
10/12/21 19:32:12
 夕陽が照らす屋上のフェンスの向こう側、そこに彼女は居た。
長い髪を風が吹くままに靡かせ、遠くを見つめて座り込んでいる。
風で飛んでいってしまいそうな程に儚く小さい背中に、
つかさは話しかける。
「こなちゃん」
こなたは振り向かなかったが、返事だけは返してきた。
「何?」
「帰ろ?」
「ヤダよ」
 素っ気無い態度だが、つかさはもう一度問いかけた。
「帰ろ?」
「もう帰る場所なんて無いよ」
 吐き捨てるような言葉だが、つかさはめげない。
「あるよ。私が待ってるから」
「待ってて欲しいのは、つかさじゃない」
「分かってる。此処に来て欲しいのも、私じゃなかったんだよね?」
「そうだよ。どうしてつかさが居るの?私は」
「お姉ちゃんの携帯にメールしたんでしょ?
つまりそういう事なんだ」
 こなたの溜息が聞こえた。
「勝手にかがみの携帯見たんだ」
「携帯だけじゃなく、部屋もね。
流石だよね、お姉ちゃん。携帯電話にはそのテの証拠は一切残して無かったよ。
こなちゃんと日下部さんとお姉ちゃんの間でだけ通用しそうな
隠語っぽいのは散見したけど。
お姉ちゃんから、携帯で直接的な表現や
有名なスラングは使うなって言われてたんでしょ?」
「つかさには関係無いよ。私はかがみを待ってるの。
帰ってくれる?」
 要求には従わず、つかさはこなたに背を向けて腰掛ける。
フェンス越しに背中合わせの二人の間を、一陣の風が舞った。
こなたの髪の毛がまた靡いただろうか、それを見れない姿勢を歯痒く思った。

109:Living on the hell
10/12/21 19:33:21
「帰るとしたら、こなちゃんと一緒だよ」
「帰る場所なんて無いんだよ。どうせ私はもう、終わってるから」
「それでお姉ちゃんを道連れにしようとして呼んだの?」
「かがみには、最後の挨拶がしたかっただけ。対面でね。
今じゃもう、家に行っても会ってくれないし。人目に付く場所で私とは会いたくないだろうから」
「ねぇ、こなちゃん。死ぬ心算なんだよね?
まだ、やり直せるんじゃないかな?」
─日下部さんと違って
その言葉は喉下まで出かかったが、結局言わなかった。
口に出してしまえば、絶望が確定していまいそうだったから。
「無理だよ。身体も心もボロボロ。偶に幻覚や幻聴まで現れるんだから。
それに、私が捕まれば……出所が問題になる。
迷惑、かけたくないよ。
今の弱った精神状態で、警察の尋問に沈黙貫き通せる自信が無いし」
「出所、お姉ちゃんだよね?」
「それ知ってるから、携帯盗み見たり部屋探索したりしたんでしょ?」
「そうだけど……あんなの庇う必要無いよ」
 つかさは吐き捨てた。
「ねぇ、知ってる?
お姉ちゃんが日下部さんやこなちゃんにスピード売りつけた理由」
 覚醒剤、という語を使う気になれなかった。
ハードドラッグをこなた達が使用していた、それを改めて突きつけられるから。
スラングがドラッグへの抵抗を下げる効果を、つかさは実感した。
「私やみさきちを元気にする為、それが理由だったかな」
「それはどうせお姉ちゃんが言った事でしょ?見え透いた大義名分だよ」
「別に本心は何でもいいよ。私もみさきちも、かがみんが好きだった。
だから遊ぶ金欲しさとかでも許せるよ。
好きな人への貢物の為……とかでもきっと許せる」
「じゃあ、これはどう?スピードよりは安全だけど高価なドラッグを買う為。
お姉ちゃんはリタラーなんだよ」
 こなたに動じる気配は無かった。
返答も落ち着いたものだ。

110:Living on the hell
10/12/21 19:34:34
「かがみがリタリン使ってたのは初耳だね。どうして知ってるの?」
「部屋探索した時に見つけたよ。ラベルは剥がされてたけど、
薬剤に刻まれているCG202の文字は削ってなかったから」
「そっか」
「感想はそれだけ?お姉ちゃんは、自分は比較的安全なドラッグを使って、
友達のこなちゃんや日下部さんには最も危険なドラッグの一つ、
スピ……メタンフェタミンを売りつけてたんだよ?」
 今度はスラングを抑えて正式名称を口にした。
かがみの悪辣さを際立たせる為に。
「リタリンだって安全とは言い難いと思うけどね。
そりゃ、覚醒剤よりはマシだけど」
「お姉ちゃんがR買うお金を手に入れる為に、
こなちゃんや日下部さんは何をさせられたの?
お金は絞りつくされて、それで足りなくなると身体売らされて金作らされて……。
挙句、日下部さんは……。
それでも許せるの?それでも庇いたいって思うの?」
 つかさは話しているうちに、自身の感情が昂ぶってゆくのを感じた。
言葉にする事でかがみの怒りが再確認されているのだろう。
対するこなたの言葉は落ち着いたものだった。
かがみへの怒りなど微塵も感じられない。
「いいよ、それでも。私はそれでもかがみが好きだから。
みさきちも同じ思いだったんじゃないのかな。
今はもう、意思がどれほどあるのか不明瞭だけど。
でももし意思が戻ってくるような事があれば、
入手経路なんて吐ける状態じゃなくなってたって事を有難く思うんじゃないかな。
かがみを売らずに済んだって事だから。
それくらい、私もみさきちもかがみに惚れてたんだよ」

111:Living on the hell
10/12/21 19:35:34
 みさおもまた、かがみから覚醒剤を買っていた人間の一人だった。
彼女は遡る事二日前から入院していた。
覚醒剤中毒によって人格は破壊され、廃人同然だ。
警察も彼女から入手経路を聞き取る事を諦めざるを得ないだろうが、
みさおの周辺に対する操作は行うだろう。
それはこなたにも捜査の手が伸びる事を意味する。
こなたも既に、挙動を見れば薬物乱用が一目瞭然と言える程までに深く蝕まれている。
それで観念したのだろう。
「でもね、こなちゃん。どうせお姉ちゃんは捕まるよ。
お姉ちゃんだって日下部さんとは結構会ってた。お姉ちゃんにだって捜査の手は伸びる。
私が部屋を見た時と違って、今はもう証拠品は捨ててるだろうけど」
「なら、私が死ねば大丈夫じゃん。」
「んーん。ドラッグストアや薬局で何を買っていたのか、
そのレベルで捜査されたらすぐに陥落すると思うよ」
「薬局?」
「そ、こなちゃんはお姉ちゃんのスピード入手経路は聞いてない?」
「クラブの知り合いから、純物の冷たいの回されてるって訊いてるけど」
「違う。私がお姉ちゃんの部屋を見た時に何を見つけたか。
麻黄やメチルエフェドリン塩酸塩を多く含有する漢方薬や鎮咳薬……
麻黄湯やアストフィリンだね。
他にも、エタノールや希塩酸、濾紙。
ご丁寧にヨウ素やマッチまであったよ。赤リンの代替にマッチだなんて酷いよね。
自家製造してたんだよ。混じりっ気無しなんて大嘘。
色々混ざってる上に素人調合だよ。
混ざり物の素人調合っていう点も、
日下部さんが壊れたりこなちゃんがボロボロになった一因かもしれない。
混ざり物がクリアな物よりバッドな方向に作用する、よく聴く話だよ」
 背中合わせなので表情までは伺えないが、こなたから動じた様子は伝わらない。
少なくとも声に動じた様子は無い。
「そっか。私やみさきちはかがみんの手作りを頂いてたってワケか。
これが愛情たっぷりのお弁当だったのなら、もっと嬉しかっただろうね」
「値段、釣り上げられてたんでしょ?」

112:Living on the hell
10/12/21 19:36:41
「まーね。警察の手入れが厳しくなって先方の供給体制が悪化した、
ってのが理由だったけど」
「それもR手に入れる為の方便だったって、もう分かったでしょ?
ドラッグストアや薬局で揃うようなものに、原価変動なんてあるワケ無いんだから。
Rは高いからね。たかが1錠が1000円近辺から酷ければ2000円を越える。
それを手に入れる為には、収入源をしっかりと持つしかない。
こなちゃんや日下部さんをスピードで漬けて止められない状態にして、売価を釣り上げる。
お金が無くなっても相手が女なんだから、身体を売らせて無限に絞る事ができる。
実際には無限とはいかなかったけど。日下部さんの精神が壊れちゃったから。
それでも許すの?」
「許すよ。何処までも許すよ、かがみなら。
きっとみさきちだって、同じ思いだったはずだよ。
同じ思いで、男どもの玩具になってた」
「その玩具のされ方も酷かったらしいね。
あれじゃ性欲満たす玩具にされたというより、
何処まで人体が耐久力を持つかの人体実験の玩具だよ。
ねぇ、尿道っておしっこする穴だよね?そこに何を入れられたの?
あんなものでピストン運動なんて、人間のする事じゃない。
血塗れだったらしいね。
そして肛門はうんちする穴だよね?そこはどうされた?
アナルセックスには決して使われないえげつない道具でグチャグチャにされて、
大変だったらしいね。
乳首に穴は幾つ空いたの?ピアス幾つ通された?何回電流流された?」
 つかさは話している内に、視界が滲むのを感じた。
哀しみと怒りが綯い交ぜになって、語調を激しくしてゆく。
「お臍の穴、何考えてあんな事したんだろうね。入るとでも思ったのかな?
それとね、カテーテルから膀胱へとあんなもの注入するなんて酷いと思うな。
水も注入されて膀胱パンパンになって、悶絶して転げまわったんでしょ?
でも詰まっちゃって中々排出できない、地獄だったろうね。
まだまだあるよ。鞭とか蝋とか鎖とか縄とか針とかマスクとかはまだ理解できる。
でも有刺鉄線とか電球とか剣山とか瞬間接着剤とかは理解できない。
どう考えても使っていい道具じゃない」

113:Living on the hell
10/12/21 19:37:38
 つかさの双眸から、抑え切れなかった涙が溢れていた。
それでもどうにか、嗚咽は堪えた。
「詳しいね、つかさ」
「そのマッドなご趣味を持ってる男の人たち、お姉ちゃんの斡旋でしょ?
PCのデータに色々やり取りがあったよ。
背筋が凍ったよ。そして殺意抑えるのに、苦労したよ」
「かがみの為になるならそれで良かったし、薬買うお金も欲しかったしね。
それに、気持ちよくなかったワケじゃないよ?
きっとあの逸脱したプレイの日々の何処かで、私達の性感帯はズレちゃったんだ。
私達が堪えきれない痛みを感じたとしたらきっと一つ。
それは、かがみが好きなのに、他の男たちのいいようにされてたって事。
それもかがみの斡旋によってね」
 こなたやみさおのかがみに対する愛情は、思っていた以上に深いらしかった。
なのに自分は残酷な宣言をしようとしている、それがつかさには躊躇われた。
だが結局、言った。
それがかがみへの思いを断たせて死を思いとどまらせる一打になると信じて。
「でもお姉ちゃん─」
(ゴメンね、こなちゃん。残酷だけどこれは本当の事なんだ)
「─私の事が好きなんだよ?」
 それまで感情の動きを見せなかったこなたが、
初めて昂ぶりを見せた。
「知ってるよっ」
 耳元でフェンスの揺れる音が響いた。
こなたが力任せに拳を叩きつけたのだろう。
「だからお姉ちゃんは、こなちゃんの事も日下部さんの事も好きじゃない。
なのに庇うの?」
「それでも好きだし……かがみがつかさの事が好きなのなんて、
分かってた事だよ。見てれば一目瞭然の明々白々だったよ。
それは私もみさきちも理解してた。だからこそ、みさきちとは仲良くなれた。
同じ叶わぬ想いに身を焦がす同志だったから」
「叶わぬ想いって言うのなら、お姉ちゃんだってそうだけどね。
お姉ちゃんが好きな相手は……こなちゃんの事が好きだから」


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