10/12/23 20:18:31
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「死ねなかったな……」
つかさは呟く。
屋上から落下した時、
こなたの身体が緩衝材の役割を果たしたお陰でつかさは一命を取り留めたらしい。
こなたはつかさを抱きしめるような姿勢で逝ったという話だった。
それは偶然だろうと周囲の人間は話していたが、つかさには分かった。
こなたに助けられたのだと。守られたのだと。
(あの声、幻聴じゃなくって本当にこなちゃんの声だったのかな?)
その答えを知る人間は居ない。
こなただけではなく、かがみも帰らぬ人となった。
そして、こなたの覚醒剤使用もかがみの譲渡・製造行為も警察の知る所となった。
結局それはニュースを賑わす事も無く、よくある話の一つとして処理されていくのだろう。
つかさとて助かりはしたものの、
怪我は酷く今日まで入院生活を続けざるを得なかった。
退院すると父や母や姉達の何処か翳のある笑顔に迎えられた。
その翳の意味を、つかさは知っている。
決して身内から犯罪者が出た事に対する憤りでは無い。
(あんな人でも……犯罪犯した今でも、
この人達にとってはかけがえの無い娘であり妹だったんだな)
つかさにはかがみを許す事などできないが、
それでも家族の痛みが分からぬ程鈍感でも無かった。
だから、つかさも出来るだけかがみの死を悼むように振舞った。
(どうしようかな……)
つかさは折角退院したのだから散歩したいと言い置いて、家を出た。
姉のいのりやまつりが付き添いを申し出たが、つかさは頑なに拒んだ。
恐らく彼女たちはつかさが死への衝動に再び駆られないか心配なのだろう。
そしてその心配は決して杞憂などでは無い。
(実際、こなちゃんが居ないんじゃ生きている意味無いよね)
つかさは当ても無く彷徨う。