10/12/21 19:32:12
夕陽が照らす屋上のフェンスの向こう側、そこに彼女は居た。
長い髪を風が吹くままに靡かせ、遠くを見つめて座り込んでいる。
風で飛んでいってしまいそうな程に儚く小さい背中に、
つかさは話しかける。
「こなちゃん」
こなたは振り向かなかったが、返事だけは返してきた。
「何?」
「帰ろ?」
「ヤダよ」
素っ気無い態度だが、つかさはもう一度問いかけた。
「帰ろ?」
「もう帰る場所なんて無いよ」
吐き捨てるような言葉だが、つかさはめげない。
「あるよ。私が待ってるから」
「待ってて欲しいのは、つかさじゃない」
「分かってる。此処に来て欲しいのも、私じゃなかったんだよね?」
「そうだよ。どうしてつかさが居るの?私は」
「お姉ちゃんの携帯にメールしたんでしょ?
つまりそういう事なんだ」
こなたの溜息が聞こえた。
「勝手にかがみの携帯見たんだ」
「携帯だけじゃなく、部屋もね。
流石だよね、お姉ちゃん。携帯電話にはそのテの証拠は一切残して無かったよ。
こなちゃんと日下部さんとお姉ちゃんの間でだけ通用しそうな
隠語っぽいのは散見したけど。
お姉ちゃんから、携帯で直接的な表現や
有名なスラングは使うなって言われてたんでしょ?」
「つかさには関係無いよ。私はかがみを待ってるの。
帰ってくれる?」
要求には従わず、つかさはこなたに背を向けて腰掛ける。
フェンス越しに背中合わせの二人の間を、一陣の風が舞った。
こなたの髪の毛がまた靡いただろうか、それを見れない姿勢を歯痒く思った。