10/10/07 22:11:05 0
*まとめサイト
用語・登場キャラクター等の詳細はこちらで確認できます。
参加を考えている方はまず【FAQ】に目を通しておきましょう。
URLリンク(www35.atwiki.jp)
*避難所(前身スレの避難所を引き続き使用しております)
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携帯:URLリンク(jbbs.livedoor.jp)
*過去スレ
【邪気眼】二つ名を持つ異能者達
スレリンク(charaneta2板)
3:不知哉川 霊仙
10/10/08 06:56:07 0
虹色兄弟と合流したその場所は、市内東の海岸近くにある空き地であった。
元々、開発予定地区で、工事関係者以外の立ち入りは禁止されているということもあり、人気はない。
聞こえてくるのは波の音。見えるのは遠くの夜景とぽつんと置かれた作業員用の自販機だけである。
つまり、野宿にはうってつけの場所なのだ。
不知哉川は虹色達にこれまでの事情を明かすと、
夜が明けてからカノッサの本拠地に乗り込む意思を皆に伝えた。
皆が驚くことはなかった。特に口にせずとも、誰もがもはや解っていたことなのだろう。
「─ま、そういうわけやから、明日は宜しく頼むで、皆」
不知哉川は、ここから1kmほど離れたコンビニで、先程アリスが買ってきた……
というよりも、上手く口車に乗せ、買わせ(パシらせ)てきたオニギリやサンドイッチを頬張りながら、全員を見渡した。
「敵も数はそうおらんはずや。実質、敵は四天王とその他一人、あるいは二人くらいと考えてええやろ。
数としてはほぼ互角になったちゅーわけや。後はそれぞれがやることをやれば、そう悲観した結果にはならんやろ。
何せこっちには偉大な『ザ・ファースト』様がおられるんやからなぁ、ハハハハ」
などと、薄々自分が口車に乗せられたことに気付きつつあるアリスに、
要所要所で少々大げさに機嫌をとっておくことも忘れない。
「ふー……食った食った。
後は寝るだけやな。今日一日闘い続きで疲れたわ。俺は先に休ませてもらうで」
空のビール缶をポイっと投げ捨て、一方的に会話を打ち切った不知哉川はゴロンと横になった。
釈然としないアリスからの追及を防ぐ為でもあったが、文字通り疲労していたのも確かであった。
それでも彼は寝付くまで、明日についてを考えざるを得なかった。
食事中は一人で楽観論をべらべらと繰り広げていた彼であったが、
口で言うほどの楽観主義者であったら、どれだけ幸せであっただろう。
(あぁは言ったものの……さて、何人生き残れることやら……。
全員で生きて勝利を分かち合う……漫画のようには、いかんやろな……)
【不知哉川 霊仙:一日目終了】
4:アリス・フェルナンテ
10/10/08 18:31:39 0
不知哉川達を乗せ、更に走ること数分。
海岸付近の空き地にて優達と合流した。
不知哉川は優達に事情を話している間に1km程先にあるコンビニで食料を調達してくれ、と頼んできた。
皆疲弊しているので、まだ動けそうな自分に頼む、との事だった。
「ふむ、そういうことなら仕方あるまい。事情の説明は任せたぞ」
へらへらと手を振る不知哉川を尻目に、手近な建物の屋根へと飛び乗った。
屋根から屋根へ移動していく。
街は驚くほど静かだ。昼間の抗争が夢であるかのごとく。
コンビニで買い物を済ませ、不知哉川達の元へ戻る。
事情の説明は終わっているようで、皆思い思いの場所に腰を下ろしていた。
「─ま、そういうわけやから、明日は宜しく頼むで、皆」
食事の最中、不意に不知哉川が口を開いた。
「敵も数はそうおらんはずや。実質、敵は四天王とその他一人、あるいは二人くらいと考えてええやろ。
数としてはほぼ互角になったちゅーわけや。後はそれぞれがやることをやれば、そう悲観した結果にはならんやろ。
何せこっちには偉大な『ザ・ファースト』様がおられるんやからなぁ、ハハハハ」
いやにこちらを持ち上げる発言をする。
あからさま過ぎて逆に怪しい。
(一体何故―あの男、我を小間使いの如く扱ったな…。
いい機会だ、一度制裁でも加えて…時間と体力の無駄だな)
不知哉川の褒め殺しの意図を見抜き、仕返しをしようと思ったが、今後のことを考えて自重する。
決戦を前に無駄に消耗していいものなどないのだ。
「ふー……食った食った。
後は寝るだけやな。今日一日闘い続きで疲れたわ。俺は先に休ませてもらうで」
飲んでいた酒の缶を投げ捨て、誰の返事を聞くでもなく不知哉川は横になった。
どうやら疲れが限界に来たらしい。
それは周りの人間を見ても同じようだった。皆一様に疲れが顔に滲み出ている。
(明日は決戦か…。母様はここにはいないが、降魔の剣の所在は判明した。
それだけでもこの街にきた甲斐があったというものだ。
さて、果たして何人生き残れることやら…。
余裕があれば守ってやることも出来るが…難しいかも知れんな。
最悪の事態も想定しておくか)
5:アリス・フェルナンテ
10/10/08 18:33:07 0
―御月よ。我らが元に戻る日も近い。明日は総力戦。お前の力も必要になるだろう。
力を、貸してくれるか?―
頭の中で御月に問いかける。
―何年振り、かな…。あの頃の姿に戻るのは…。
最近まで本当にお前と言う、アリスという存在がキライだった…。
我が物顔で体を乗っ取って、破壊と殺戮だけを繰り返して…。
でも、今考えるとそれも意味があってのことだった…。
力を貸せ…?言われなくたってそうする。
優達、いや、みんなを守れるなら…―
―その意気だ。なに、案ずる事はない。我らが一つになれば筆頭だろうが頭領だろうが関係ない。
その為には降魔の剣を手に入れなくてはならん。その戦いは厳しいものになるだろう。
お前ももう休んでおけ―
御月に言い渡し、会話を遮断する。
明日は自分だけの力では乗り切れないだろう。
何しろ相手は自分が創り出した、自分にしか通用しない武器を持っている。
使用してくると見て間違いないだろう。
どんなに高く見積もっても、このメンバーの中では自分が一番強い。
敵は間違いなくこちらを押さえに来るだろう。
決して自画自賛ではなく単純な答えだ。
子供が親に勝てるわけがない。
直接的な子供、と言うわけではないが、どんなに遠くとも血縁であることに変わりはない。
言うなれば能力者、延いては異能者は全て自分の子供のようなものなのだ。
(子を守るのは親の務め、か…)
そんな事を考えていると、ふとあの少女の顔が頭を過った。
海部ヶ崎が連れていた少女。記憶喪失と言う話だったが…。
(どうにも引っかかる。何故あの少女はあんな場所で一人生き残っていたのだ?
あの付近は激戦区だったはず。子供一人で生き残れるわけは…まさか)
頭の中で何かが繋がった。
ずっと感じていた違和感の正体が分かったのだ。
(そういうことだったか。ならば得心が行く。
しかし、もう会うこともあるまい…。今更だったな)
思考を中断し、一度辺りを見回す。黒部以外は既に就寝しているようだ。
黒部は一人、腕組みをして考え事しているようだった。
「貴様も早く休め。貴様は病み上がりのようなものだ。
明日の戦い、全力が出せませんでした、ではすまない。
その時点で死んでいるからな」
黒部に言い渡し、自分も目を閉じる。
久しぶりにゆっくり寝られそうだ―
【アリス・フェルナンテ:一日目終了】
6:虹色優 ◆K3JAnH1PQg
10/10/09 13:10:18 0
「「「なるほど、そんなことが…」」」
不知哉川の話を聞いて呟く三人
「「「………」」」
アリスの買ってきたおにぎり(梅)を黙ってかじる三人
「不知哉川さん…。缶はしっかり潰して捨てて下さいよ…」
不知哉川の捨てた缶を回収する優。意外にきちょうめんのようだ
自販機で買ったミネラルウォーターと優が描いた歯ブラシで三兄弟が歯を磨く
「それじゃあ、僕たちも寝ようかな…。」
そう呟き三人は床に就く
「大丈夫かな、勝てるかな、もしかしたら寝てる間に襲われる、なんてことも…」
ぶつぶつとこれからの事を悲観する優だが、やはり眠気には勝てず…静かに目を閉じた
【虹色兄弟:一日目終了】
7:不知哉川 霊仙
10/10/10 00:06:54 0
「へっきし!」
不知哉川は自分のくしゃみで目が覚めた。
目を開けると、既に視界は明るく、東の海面を照らす太陽が昇っていた。
時計に目をやり時間を確認する。時刻は午前八時を過ぎたところだった。
「やれやれ、早いなぁ……もう朝かい。ふぁ~あ」
大きな欠伸をし、眠い目をこすりながらも、不知哉川は起き上がる。
他の皆はまだ眠りこけていたし、タイムリミットまではまだ余裕がある。
体調を万全にする意味でも、もう少し日が高く昇るまで二度寝していても良かったかもしれない。
だが、季節は春とはいえ、冬の名残がある朝の潮風がそれを許さなかった。
「うー、寒ッ……。こんなとこでいつまでも眠りこけてたら風邪引いて余計体調が悪くなるがな。
はよ起きて準備せや言うことやな」
不知哉川は、ペットボトルのミネラルウォーターでうがいを済ませると、
昨晩の夕食の残りであるおにぎりを二つ程手に取って、朝食を摂り始めた。
正直、彼に食欲はなかったが、それでも無理矢理胃袋に詰め込むしかない。
腹が減っては戦はできないのだから。
そうして彼が食事を終える頃になると、寝ていた他の面々も次々と起き出し、
彼と入れ替わりで朝食の席につき始めた。
初めに軽い挨拶を交わした程度でそこに会話はない。
それは彼らが緊張の為に気落ちしていたというよりは、
それぞれが談笑すら無駄なエネルギーの消費と思っていたからかもしれない。
いずれにせよ、この沈黙を重苦しい雰囲気というと、語弊があるのは確かであろう。
「さて、と……」
それぞれが食事を済ませ、準備を整え終えたのを見た不知哉川は、腕時計の針を確認した。
時間は午前九時。
「そろそろ行こか?」
振り返ると、既にアリスは獅子の形態へとその姿を変えていた。
「言われるまでもない、ってか? 流石、頼りになるお方やで」
たまに皮肉めいたことを漏らす不知哉川でも、これは本心であっただろう。
不知哉川、海部ヶ崎、黒部、そして虹色達六人は、彼女の背に乗って、
カノッサの本拠地がある角鵜野湖へ向けて移動を開始した。
【不知哉川 霊仙:カノッサアジトへ向かう。現時刻:二日目AM9:00】
8:アリス・フェルナンテ
10/10/10 07:23:33 0
「へっきし!」
目覚ましは間の抜けたくしゃみだった。
そっと目を開けると、朝日と共に奇天烈な模様の半纏の背中が目に入った。
くしゃみは不知哉川のものだったらしい。寒そうに体を震わせている。
(人間は不便だな。この程度の気温で寒さを感じるとは)
そんな下らない事を考えつつ、目を閉じる。
そうしてもう暫く寝ようと試みたが、成功することはなかった。
仕方がないので起き出してきた他の面々と共に食事を摂る。
挨拶もそこそこに、皆黙々と食事を摂っている。
「そうだ、出発の前にお前達に渡しておくものがある」
食事中の海部ヶ崎と黒部に向かって告げる。
そして空中に手をかざすと、二つの光る宝玉が現れた。
「これは昨日優達に渡したものと同じものだ。これを持っていれば相互に通信が可能になる。
持っていて損はないだろう」
海部ヶ崎と黒部にそれぞれ放り投げる。
二人はそれを受け取り、しげしげと眺めている。
不知哉川には昨日注入した力が残っているので、敢えて渡す必要はない。
「あ、ありがとうございます」
「役に立ちそうだ。有難く頂戴する」
二人の返答を聞き、軽く頷く。
「さて、と……」
不知哉川が時計を見ながら呟いた。そろそろ出発のようだ。
『楽園の守護者』に変身する。時間は無駄にしたくない。
「そろそろ行こか?」
不知哉川がこちらを見る。
「言われるまでもない、ってか?流石、頼りになるお方やで」
―下らん戯言はいい。さっさと乗れ―
不知哉川の皮肉を一蹴する。
―初めて乗せる者もいるな。しっかり掴まっている事だ。落ちても拾ってやらんぞ―
そして六人を乗せ、角鵜野湖へ向かって全力で走り出した。
【アリス・フェルナンテ:カノッサ本拠地へ移動開始】
9:名無しになりきれ
10/10/11 16:48:32 0
きも
10:名無しになりきれ
10/10/11 16:48:48 0
い
11:不知哉川 霊仙
10/10/11 19:30:45 0
角鵜野湖。本来ならその周辺は緑と生き物が溢れる自然が広がっている。
だが、辿り着いた不知哉川が目にしたのは、それとは真逆の不毛の荒野であった。
「なんや、このクレーターは……」
大地を直径数百メートルに渡って深く削り取った巨大なクレーターの真ん中で、
不知哉川は唖然としたように呟いた。
周囲の木々は墨と化し、土に埋もれた岩石の表面が溶けていることから、
つい最近、ここで相当な爆発が起こったことは確かであるようだった。
「昨日のあの光……」
不知哉川の脳裏を、昨晩、轟音と共に西の空が赤く光った時のことがかすめる。
「やっぱりここだったんや。……チッ、化物ぶりを見せ付けてくれるやないか……」
彼は引きつった顔をしながら思わず地面の砂を蹴り上げた。
そこに海部ヶ崎が声をかける。
「霊仙さん、それよりもアジトへはどうやって入るんです? まさか湖の中を潜るのですか?」
「水深は400mもあるんやで? いくら異能者でも、生身の体で潜るのは自殺行為やろ」
「それでは……」
「大丈夫。ちゃんと地上から入れるルートがあるんや。この近くの洞窟がアジトへの隠し通路になっとるらしい」
「洞窟……ですか」
海部ヶ崎が辺りを見回すも、視界には焼け焦げた大地が広がるのみ。
「ディートハルトの記憶からだとこの辺にあるはずなんや。
けど、もしかしたら、周りの大地と一緒に吹っ飛んでしまったのかもしれへんな」
顎に指を当てて「うーん」と呻る不知哉川。
そんな彼に、遠くの丘から呼びかける者がいた。それは黒部。
「おい、こっちへ来てみろ!」
と、手招きする黒部に、不知哉川達は互いに顔を見合わせて彼の元へと駆け寄った。
「なんや? 徳川埋蔵金でもあったんかいな?」
「価値としてはそれに匹敵するかもな。とにかく見ろ」
黒部がすっと指を指した場所には、地下に通じる人工的な通路が地表から顔を出していた。
それが、正しくカノッサのアジトへ通じる通路であることは、誰の目にも明らかであった。
「入口のある洞窟が吹っ飛んで、通路だけが地表に露になったんや。
ある意味じゃ侵入し易くなって好都合だったかもしれへんな」
「あんな剥き出しの状態になっても、見張りを置いている気配はありませんね。
誰でも来いと言っているのか、それとも中には罠が仕掛けられているのか……」
チラッと、海部ヶ崎の視線が不知哉川に向けられる。
確かに罠の可能性もある。敢えて慎重論を口にするのも彼女らしいといえばらしい。
しかし、慎重になるあまり、時間ばかりを取られるわけにもいかないのだ。
改めて皆に問うまでも無く、不知哉川の答えは決まっていた。
「いずれにせよここまで来たら慎重も大胆もないやろ。進むだけや」
その言葉に、全員が頷いた。
そして剥き出しになった通路の中へと、その足を進めていった。
12:不知哉川 霊仙
10/10/11 19:34:43 0
どれだけ暗い通路の中を歩いた時だろうか。
ふと、視界の先に、白い光が広がっていることに不知哉川達は気がついた。
その光が通路の終わりを意味するであろうことは、
もはや誰が口にするまでもなく、全員が理解するところであった。
光に近付くにつれて自然、彼らは足早となり、終いには駆け出す。
そして足音を立ててその光へ一気に飛び込んでいった。
「─これは─」
飛び込んだ先で不知哉川が見たのは、近未来的な内装が施された広い空間であった。
いくつも個室があるのか、左右の壁にはスライド式の自動ドアがあしらわれている。
「まるでシェルターのような造りやな。秘密基地とはよくいったもんやで」
「感心もしていられませんよ、霊仙さん。どこに敵が潜んでいるかわからないんですから」
「わーっとるよキサちゃん。けど、前も言ったように、敵も数が少ない。
最深部にいる雲水のもとに辿り着くまではあまり障害はないはずやで。
……お? あんなところに階段があるやないか」
不知哉川の視線の先には更に地下へと通じる階段が伸びていた。
その横の壁に「1F」の文字が記されていることから、どうやらここがアジトの1階なのだろう。
「雲水は地下25階のフロアにおるらしいからな。まずは一気に降りて─」
と、不知哉川が言いかけたところで、これまで黙っていた黒部の声がそれを遮った。
「障害が少ない? それはどうかな?
私の耳には、さっきからいくつもの呼吸音が聞こえるんだが─」
その言葉が合図となったか、突然、周りの自動ドアが一斉に開いた。
そしてわらわらと黒い特殊な戦闘服に身を包んだ男達がライフルを手にフロアに出てくる。
その数は二十や三十は下らない。
「げっ! まだこんなに残ってたんかい! 異能者やないようやけど、また面倒な……」
「霊仙さん」
「なんや、キサちゃん」
「この場は誰かに任せて、他は階下へ向かった方がいいのでは?
ここで全員が時間と体力を少なからず削られるのは得策ではないと思いますが」
海部ヶ崎の提案に、真っ先に賛同したのは黒部だった。
「賛成だ。ここはあの三人に任せた方がいいだろう」
と、黒部が顎をしゃくって指し示すのは、虹色兄弟であった。
「私は彼らの力量の全てを知っているわけではないが、恐らく四天王の相手をできるほどの力はない。
しかし、戦闘員如きに遅れを取るほど実力不足ではないのも恐らく確かだ。
彼らほどの適任者は他にいないだろう」
「……せやな。ここは彼ら兄弟に任せよ。よし、行くで!」
この場を虹色兄弟に託し、不知哉川ら残りの四人は、階段を駆け下りて行った。
【不知哉川 霊仙:アジト到着。1Fフロアに現れた下級戦闘員守備隊×30を虹色兄弟に任せ、階下へ向かう】
13:虹色優 ◆K3JAnH1PQg
10/10/11 21:32:03 0
>>12
「……せやな。ここは彼ら兄弟に任せよ。よし、行くで!」
みんなに下級戦闘員の相手を任された虹色兄弟
「了解しました」
「倒し次第追いかけますからね!」
「結構多い…」
それぞれ筆と画用紙とパレット、マイクとキーボード、本を構える
「一人につき10人を相手にするでいいよね!?」
「「OK!」」
「行かせない」
階段を降りる不知哉川たちを追いかけようとする戦闘員に
「貴方の相手は僕ですよ?」
優が鷹を描いてぶつける
「今日はこんなに集まってくれてありがとう! それじゃあいきます! 1曲目、海!」
海を歌い始める詞音
「いばら姫。昔々、あるところに…」
いばら姫を読む御伽
【虹色兄弟:戦闘開始】
14:アリス・フェルナンテ
10/10/12 15:52:15 0
角鵜野湖に到着した後、黒部がアジトへの入り口を発見。
中へ侵入したのは良かったが、最初の階で守備隊につかまる。
無駄な消耗は避けると言うことで優達にこの場を託し、階下へ向かう。
―そして今に至る。
「1階であれだけいたのだから、まだいるのではと思っていたが…。
予想が外れたな」
現在地下5階。
1階であれだけの数、しかも使ったのは下級戦闘員だ。
中級以上の異能者が残っていても不思議ではない。
しかし今に至るまで誰とも出会っていない。
これは充分おかしいと言えるレベルだ。
(罠?…いや違うな。先程から気配探知をしているが今のところ反応はない。…遥か下の3つ以外は。
オーラを遮断する材質でも使っているなら話は別だがな。
人員を温存している?…それならあの1階での戦闘員の使い方はおかしい。
筆頭とやらは一体何を考えているんだ?…ん?3つ…?)
奇妙な違和感を感じる。残っているのは"四"天王だ。
しかし遥か下から感じる巨大なオーラは"3"つ。
明らかに不自然だ。それに態とこちらに探知させているような感じがある。
まるで自分達が気を逸らし、他の何かに気付かせないかのように。
「…不知哉川。四天王の気配が一つ足りない。
四天王の中に奇襲を得意とする人間はいるか?
生憎我は四天王はあの盲目の女―沙鈴しか会ったことがないのだ」
【アリス・フェルナンテ:不知哉川に四天王について尋ねる】
15:不知哉川 霊仙
10/10/13 03:00:11 0
地下二階─地下三階─地下四階─
階段を駆け下り、フロアを駆け抜け、また階段を駆け下りていく。ただそれを繰り返す。
不知哉川達は一階のフロア以来、敵と遭遇していない。
それは不知哉川が予想した通りの状況であったが、
実際に敵の基地でそういう状況下に置かれると、かえって不気味に感じられた。
(ただでさえ薄暗く不気味やっちゅーのに……しかもここは敵の居城やで。
いらんこと考えてもうて、妙に疑心暗鬼になってまうな)
思いながら、人気のない地下四階のフロア一気に抜け、また階段を駆け下りる。
地下五階のフロアはこれまでと同じように静まり返っていた。
(あるいはこれこそが奴らの仕掛けた心理的な揺さぶりなのかもしれへんな。
とするなら、あれこれ考えるのは奴らの思う壺や。今は無心で進んだ方がええ)
五階フロアの中央部まで進んだところで、また視界に階段が現れる。
地下六階に繋がる階段だ。それを視線の先に捉えて、不知哉川は一気に加速する。
とそこで、これまでの沈黙を破るアリスの声が、不知哉川の耳に届いた。
「…不知哉川。四天王の気配が一つ足りない。
四天王の中に奇襲を得意とする人間はいるか?
生憎我は四天王はあの盲目の女―沙鈴しか会ったことがないのだ」
「?」
不知哉川は怪訝な顔をしながら、思わず立ち止まってしまった。
先頭を走る彼が止まったため、後ろを走っていた全員も一斉に止まる。
「奴らの誰かが奇襲してくる、そう言いたいんか?」
アリスは答えなかったが、確かにいささか愚問であったかもしれない。
そもそもそれ以外に聞こえようがないのだから。
「……奴ら全員の技量がどの程度のものか、そこまでは俺も知らへんからな。何とも言えん」
情報不足を理由に、不知哉川はそう答えるに留まった。
奇襲とは、まず自分の存在を周囲に隠蔽できるかどうか、
つまり気配を完全に消し去ることができるかどうかが鍵になる戦法である。
気配というものは、異能者にとってはオーラそのものと言い換えることができるものだ。
視認させないことは勿論、感覚でもオーラを感知させないことができるかどうか。
この技術の習得は一朝一夕で身につくものではない。
実際、不知哉川を含めたこのメンバーの中で、オーラを完全に隠蔽する技術を持った者がいるだろうか?
いたとしてもそれは精々ザ・ファーストとして生き続けて来たアリス一人くらいだろう。
他は視覚でオーラの存在を認識するのが精一杯な程度なのである。
圧倒的な実力を誇る四天王といえどそれはどうなのだろうか?
彼らがスキャナーという機械に頼っていたところを見ると、
どうにも感覚的な技術には疎いきらいがあるような気がしてならないが、断言もできない。
事実、アリスは気配が一つ足りないと、技術習得者の存在を暗に示しているのだから。
16:不知哉川 霊仙
10/10/13 03:04:18 0
「とにかく、不意打ちには注意して進む。できることはそれしかないやろ」
不知哉川はそう結論付けるしかなかった。
気配を消した者の動向を掴める術がない限りはそうするしかないと解っているから、
黒部も海部ヶ崎も素直に頷いてみせた。
「あんたもそれでええな? アリ─」
と、不知哉川がアリスに向き直って、瞬間、顔色を変えた。
いや、それよりも早く、不知哉川は高く跳んでいた。
他の面々も、彼の咄嗟の行動を見て異常を察知し、ジャンプする。
“白い光”が彼らの足の裏を横薙ぎにかすめたのは、その直後であった。
(これは─)
不知哉川はその光に見覚えがあった。
故にこれが攻撃であることも、そして誰の攻撃なのかも、同時に理解していた。
恐らくアリスもそうであっただろう。
「四天王の一人─やっとお出ましかい」
着地しながら白い光が飛んできた方向を見据える不知哉川。
すると、やがてそこから無機質な笑い声を発して、一人の人物がその姿を露にした。
それはやはりあの槍使い─切谷 沙鈴であった。
「フフフフ……私が近くに居ることを察知するとはな。
もう少し泳がせてやろうかと思ったが、気が変わった。
貴様ら全員、ここで始末させてもらう─といいたいところだが」
手にした槍を肩に乗せ、彼女は一人ひとりを一瞥すると、最後にアリスで視線を止めた。
「私の相手は貴様一人にしておこう。『俺達の分も残しておけ』─と言われているのでな」
「私達は眼中にないか。おのれ、舐めるのも大概に─」
いきり立って腰に差した刀に手をかけようとする海部ヶ崎を、
不知哉川は手を差し出して制止する。
「感情的になったらあかんよ。なに、こちらにとっては好都合や。
行かせてくれる言うならそうさせてもらおうやないか」
「しかし……我々が背を向けた瞬間、後ろからということも……」
「相手はアリスやで。いくら四天王でも、そんな余裕があるかいな」
「……確かに」
「なら、ここは任そ」
不知哉川はアリスに「フッ」と微笑みかけて、背を向けた。
そして黒部と海部ヶ崎を引きつれ、直ぐに五階フロアを去っていった。
「─アジトで決着を着ける─私はそう言った。
貴様もその気があるから敢えて一人で受けて立ったのだろう?
なぁ、『ザ・ファースト』よ……!」
切谷の声が、フロアに不気味に響き渡った。
【不知哉川 霊仙:五階フロアを離れ、更に階下へ降りていく】
17:不知哉川 霊仙
10/10/13 05:33:03 0
アリスと別れてからおよそ10分─不知哉川達三人は、地下15階まで達していた。
この階は、これまでのように階段を下りたら直ぐにフロアに直結しているという構造ではなく、
降りた階段の先がまず巨大な扉で閉ざされているというものであった。
そして扉には大きなプレートが張られ、それには『修練の間』と記されていた。
「修練の間……? なんや、ここ」
言いながら、不知哉川が扉に触れて、体重をかける。
……ギィィィ。
その重そうな見た目とは裏腹に、扉は意外にも軽い感触を残して開いていった。
「ここは……」
中に足を踏み入れて、不知哉川は部屋を隅々まで染める赤い液体に、まず目を奪われた。
その液体は壁や床は愚か、高い天井にまで及んでいたのだ。
「気味のわる─うっ」
思わず手で口や鼻を覆う不知哉川、そして黒部と海部ヶ崎。
部屋の中は異臭で充満していたのだ。
それが血のニオイであるということは闘いを知る彼らには直ぐに気づくところとなった。
部屋全体に飛び散った赤い液体の正体は、正に血だったのだ。
「修練の間……トレーニングルームか何かと思っていたがな……。
これではまるで“屠殺場”だ……」
と、吐き捨てるように言ったのは黒部。
そんな彼の顔が、更なる不快さに滲んだのは、その直後だった。
「─いかにも、ここはトレーニングルームだ─。
といっても、我々(カノッサ)のは、マシーンやダンベルを並べる一般のそれとは違うがな」
良く澄んではいるが、どこか冷徹さを感じさせる男の声が、響き渡ったのだ。
その声の主の正体に真っ先に気がついたのは他でもない黒部であった。
「ディートハルト・アイエン……お前が二番手か……!」
彼の言葉に応えるように、部屋の奥の暗闇から正に死臭を漂わせた不気味な漆黒の戦闘狂が、
あのディートハルト・アイエンが颯爽と現れる。
「ここは別名『死の闘技場』。カノッサの構成員達が自らの生死をかけて腕を磨くところよ。
これらの血は闘いに敗れたそいつらが流したものだ。そう、哀れな弱者のなァ、ククククク」
「貴様……自分の部下の命さえも弄んでいたというのか……!?」
不気味に笑うディートハルトに、敵意を露にしたのは海部ヶ崎。
「ん……? なんだ、この小娘は。フン、キャスの奴め、こんなゴミを俺に残してやったというのか。
ゴミ処理は俺の性に合わん。そんなのは俺の後に控えてる奴らに任す」
「なっ……!!」
刀を抜きかける海部ヶ崎を、今度は黒部が止める。
「やめろ。お前達は先に進め」
「黒部……さん?」
「奴と私とは多少因縁があってな。その時の借りを返すためにも、ここは私が相手をする」
海部ヶ崎の前に出てディートハルトと視線を合わせる黒部。
そこでディートハルトが初めて顔色を変えた。
「ん? 貴様、どこかで見たな」
「つい先日世話になったばかりだ。ご丁寧にも脳に糸を埋め込まれてな」
「そうか……あの時の負け犬か。なるほど、どうやったかは知らんが洗脳を解いたらしいな」
「本当の負け犬はどっちか、試してみるんだな……」
18:不知哉川 霊仙
10/10/13 05:38:17 0
足を軽く広げて、黒部が戦闘態勢をとる。
そんな黒部のもとに不知哉川が駆け寄り、小さな声で耳打ちする。
「奴のオーラの絶対量を超えない限り、『四肢掌握糸』は破れんへんで?」
黒部は驚いた。ディートハルトの技を知っているばかりか、破る方法すら既に知っていたのだから。
黒部も小さな声で問いただす。
「何故、お前がそれを……?」
「なに、そういう能力やからな。そしてもう一つ教えとくで。奴のオーラ量は四天王でも随一らしい。
つまり、一時的にせよ四天王を圧倒するオーラを持たんと、奴は倒せんちゅーことや」
「……」
「今のあんたにはそれだけのオーラを練れる力量はないやろ?」
「……私に、闘うなというのか?」
「そうは言ってへん。少し力を貸してやろ思うてな。けど、どうせ二対一はあんたの望むところやないんやろ?
それに俺もキサちゃんと離れたくないねん。あの娘は俺が守ったらなあかんからな。そこで、や……」
ゴニョゴニョとした、小声の会話が続く。
だが、ディートハルトが痺れを切らすよりも早く、その会話は終わった。
「いやぁー、待たせてもうてえろうすんまへんなー」
「作戦会議は終わったのか? ならば、貴様ら二人を今すぐまとめて─」
ディートハルトが両手を二人に向けようとするが、不知哉川はそこに口を差し挟んだ。
「おや? あんたが俺と闘うの?
そらないでー、ゴミ呼ばわりしたこの娘の方が、俺より強いんやからなー」
ピタリと、ディートハルトの手の動きが止まる。
「この娘を先に行かすんやったら、俺も先に行かさんと筋が違うやろ?」
「フッ……フフフフフッ……。中々愉快な男だ。いいだろう、貴様も進むがいい。
ここを抜けたところで、どうせ筆頭の下には辿り着けんのだからな」
不知哉川が海部ヶ崎を振り返りコクリと頷く。
そしてニカッとディートハルトに会釈すると、海部ヶ崎と共に彼の横を通り抜けていった。
「ゴミの相手をするよりは負け犬の方がまだマシか。
……さぁ、今度は生かしてはおかんぞ。五体をバラバラに引きちぎり、新たな血をこの部屋に吸わせてやる」
殺気を滾らせて、ディートハルトの顔が黒くくすんでゆく。
「私はこれまで、貴様ほどの反吐が出そうな残忍な悪党は見たことがない。覚悟してもらうぞ……!」
拳をグッと握り締めて、黒部が床を蹴った─。
地下16階に続く階段を駆け下りながら、海部ヶ崎は先程の黒部との会話の内容を訊ねた。
「彼には何て言ったんです?」
「なに、力を貸してやっただけや」
「はぁ……」
どこか曖昧な答えを聞き、海部ヶ崎はただ相槌を打つしかなかったが、不思議と不安はなかった。
不知哉川という男はみすみす仲間を見殺しにするようなことはしない。
自信を持って彼にあの場を託したということは、そこに任せられるという根拠があったのだろう。
彼女は自然とそう納得していた。
「兄弟にアリス、そして黒部……連中はともかく、問題はこの先に居る奴や」
「残る四天王は二人。雲水 凶介に氷室 霞美……」
「恐らく次は氷室やろな。キサちゃん、リベンジに自信ある?」
「正直言ってわかりません……けど、何としても勝たなければならないことは解っています!」
「─自信はないが闘志はある─。変に強がってないところがええで、キサちゃん」
【不知哉川 霊仙:『修練の間』を抜け、更に階下へ向かう】
19:アリス・フェルナンテ
10/10/13 16:15:08 0
「奴らの誰かが奇襲してくる、そう言いたいんか?」
不知哉川は問いに答えたが、その答えはその答えは予想と違っていた。
これまでこのアジトを含め様々な情報を披露してきた不知哉川だったので、四天王の情報もある程度持っていると思っていた。
「……奴ら全員の技量がどの程度のものか、そこまでは俺も知らへんからな。何とも言えん」
しかし奴らに関しては情報不足だという。
それ程までに秘匿されてきた、と言うことだろう。
ないものねだりをしても仕方がない。
「とにかく、不意打ちには注意して進む。できることはそれしかないやろ」
結論としてはそれしかないようだ。
海部ヶ崎、黒部と言った他の面々も頷いている。
今はそれが最善の策だろう。
「あんたもそれでええな? アリ─」
そう言って不知哉川がこちらに向き直った瞬間、顔色を変えた。
そして地面から跳び上がったのを見て、こちらも跳ぶ。
何も言わなくても異常事態なのは明白だ。
直後に、足元を白い光が薙ぎ払って行った。
(この光―奴か)
不知哉川も襲撃者が誰なのか理解した様だ。
ならば―
「四天王の一人─やっとお出ましかい」
こちらが口を開くよりも早く、不知哉川が口を開いた。
そして声を向けた先、即ち光が飛んできた方向から、一人の女が出てきた。
それは予想通り盲目の女―沙鈴であった。
「フフフフ……私が近くに居ることを察知するとはな。
もう少し泳がせてやろうかと思ったが、気が変わった。
貴様ら全員、ここで始末させてもらう─といいたいところだが」
全員を一瞥した後、最後にこちらを見て視線を止めた。
「私の相手は貴様一人にしておこう。『俺達の分も残しておけ』─と言われているのでな」
どうやら沙鈴は端から自分一人を相手にするつもりらしかった。
(こちらとしても好都合だな。悪いが足手纏いがいない方が戦いやすい)
不知哉川達も話が終わったようで、不知哉川がこちらに向けて微笑みかけてきた。
口では言わなかったが、この場は任せる、と言う意味だろう。
そうして不知哉川は海部ヶ崎と黒部を引きつれ、階下へと向かっていった。
20:アリス・フェルナンテ
10/10/13 16:19:26 0
「─アジトで決着を着ける─私はそう言った。
貴様もその気があるから敢えて一人で受けて立ったのだろう?
なぁ、『ザ・ファースト』よ……!」
沙鈴が少し興奮気味に話しかけてくる。
最初に出会ったときとは随分印象が違う。こちらが本性なのだろうか?
「フッ、光栄だな。かの四天王様からご指名を受けるとは。
これは相応のもてなしをしなくてはならないな。
半端なものでは失礼だろう?『キャス』よ」
冗談交じりに沙鈴に言葉を返す。
しかし沙鈴はそんなものを気にも留めず、戦闘態勢をとった。
「少しは場を和ませようと思ったのだが…要らぬ世話だったようだな。
ならば話は早い。早々に貴様を片付けて皆の後を追うとしよう」
力を解放する。
湖に到着するまで『楽園の守護者』のために解放していたので、さして集中する必要もなかった。
それ以前にこれから始まる戦いに気分が高揚していたのもあった。
(人の事は言えぬ、か)
「さぁ始めようか、『盲目の魔槍使い』(ブラインドランサー)よ。
まずは先程の礼だ、受け取れ」
周囲に無数のナイフ生成し、更にオーラでコーティングしたものを沙鈴に向かって高速で飛ばした。
【アリス・フェルナンテ:切谷 沙鈴と戦闘開始】
21:切谷 沙鈴 ◆ICEMANvW8c
10/10/13 22:06:06 0
>>19>>20
「フッ、光栄だな。かの四天王様からご指名を受けるとは。
これは相応のもてなしをしなくてはならないな。
半端なものでは失礼だろう?『キャス』よ」
「……フッ」
アリスの言葉に切谷は鼻で笑い返すに留まった。
そして肩に乗せていた槍を下ろすと、切っ先のないその槍先をすっとアリスに向けた。
もはや問答無用、というわけだ。
「少しは場を和ませようと思ったのだが…要らぬ世話だったようだな。
ならば話は早い。早々に貴様を片付けて皆の後を追うとしよう」
それを察したアリスも戦闘態勢に入る。
オーラが解放され、彼女が体表に纏うオーラの濃さがグンっと増す。
「さぁ始めようか、『盲目の魔槍使い』(ブラインドランサー)よ。
まずは先程の礼だ、受け取れ」
瞬時に彼女の周囲に無数のナイフが出現する。
そしてそれが、間髪入れずに撃ち放たれる。
─速い。しかし、これはあくまで「先程の礼」という、小手調べに過ぎない。
他の異能者ならいざ知らず、四天王である切谷にとっては避けるまでもないものなのだ。
「─『百刃槍』─」
彼女がそう呟くと共に、向けた槍先から白い輝きが漏れる。
そしてその輝きは一瞬の内に増幅され、まるで無数の触手のように放射状に広がった。
切谷に向かっていたナイフの群れはさながら網にかかった魚群の如く、
次々に白き閃光に行く手を阻まれ砕け散っていく。
光が治まる頃には、空中を翔けたあの無数のナイフは一つ残らず地に沈んでいた。
「お遊びはここまでだ。次からは全力でかかってくるんだな。
でないと、次で貴様は死ぬことになる─」
ゆらりとした槍を背中に回す切谷。
その瞬間、彼女のオーラも一段と充実し、それが魔幻槍全体を包み込む。
「伝説にもなった『ザ・ファースト』─その実力を、見せてみろ─」
魔幻槍が黄金色に眩しく発光する。これは何が起こる前兆なのか、恐らくアリスは覚えている。
「─くらえ─」
横薙ぎに振り払われた槍先から、プラズマを帯びた変幻自在の光刃が飛び出した。
これこそ、『雷刃槍』(ライトニング・ランス)。
かつて“手加減”をしながらもアリスを傷付けたあの技が、今度は“全力”を持って放たれたのだ。
【切谷 沙鈴:アリスに『雷刃槍』を繰り出す】
22:アリス・フェルナンテ
10/10/14 01:06:08 0
「─『百刃槍』─」
放ったナイフは悉く地に落ちた。
相手の体には一本たりとも到達していない。
(やはりこの程度では小手調べにもならなかったか。少々失礼だったな)
「お遊びはここまでだ。次からは全力でかかってくるんだな。
でないと、次で貴様は死ぬことになる─」
手にした槍―魔幻槍を背に回す沙鈴。
次の瞬間、彼女のオーラが爆発的に上昇し、魔幻槍を包み込む。
「伝説にもなった『ザ・ファースト』─その実力を、見せてみろ─」
魔幻槍がいよいよ輝きを増す。それは以前にも見たことのある光景だった。
(『雷刃槍』―以前喰らったあの技か。変幻自在なだけに完全にかわす事は不可能だろう。
ならば―)
「─くらえ─」
魔幻槍が横薙ぎに一閃する。
その先端から、白光を帯びた光刃が繰り出される。
以前に見た電撃とは明らかに色が違う。
(あれは―プラズマか!厄介な代物を…全力、と言ったところか。
だが、これを凌げんようでは話にならん)
一度見た技であれば、如何に威力が上がっていようとも根本的な性質は変わらない。
それ故に対策が立てられるのだ。逆にこれが初見の技であれば、前回と同じ結果になったかもしれない。
(さて、まずは目の前の攻撃を凌いでからだ)
『楽園の守護者』に変身する。
光刃は既に眼前に迫っている。まるでこの身を喰らい尽くさんとばかりに。
目を閉じてオーラを集中させる。
すると周囲に自らの体と同じ白銀に光る半円状の壁が展開した。
("守護者"の名、伊達ではないところを見せてやろう)
―『祝福の銀影』(プライウェン)―
その直後、『雷刃槍』が直撃し、プラズマがスパークして小規模の爆発が連続して起こる。
いくつか喰らったものの、プラズマはある程度壁で防げたが、光刃の方はそうはいかなかった。
壁を抜けて中へと侵入して来る。
しかしこれは予測の範囲内だったので、身を捻って直撃は避ける。
致命傷には至らなかったものの、脇腹を切り裂かれ血が吹き出る。
切り裂かれた痛みとスパークの衝撃で頭がふらついた。
23:アリス・フェルナンテ
10/10/14 01:08:18 0
(グッ…流石にやるな…。だがこれでいい…!こちらの狙い通りだ!)
予想以上のダメージだったが、相手の一撃を凌ぎ反撃に移る。
(今度はこちらの番だな)
口を大きく開き、オーラを集束し始める。その輝きは徐々に大きくなっていく。
沙鈴は正面で槍を構えて佇んでいる。
(防げるものなら防いで見ろ。…無傷で済まされたら沽券に関わるがな)
チャージが完了し、発射体制に移る。
沙鈴もこちらの行動に気付いたようで、構えを取る。
だが遅い。このタイミングでは最早回避行動は間に合わない。
従って受け止めるしかないのだ。
爆煙が身を隠してくれたお陰で、うまいことチャージが出来た。
こちらも以前のように力を抑えたりはしない。紛れもない全力の一撃だ。
『原初の力、望み通り見せてやる。その身に刻みつけろ!』
念話を応用して、外部スピーカの要領で喋る。
この場に不知哉川達がいたら驚いたことだろう。
しかしそんな事は沙鈴には関係ない。彼女がこの姿を見たのは初めてなのだから。
即ち先程の理論が当てはまる。
この姿すら見たことのない彼女が、この姿でのみ使える技を知るはずがない―!
―『裁きの閃光』(ジャジメント・ストリーム)!!―
凄まじい轟音と共に、恐ろしく巨大な光の奔流が放たれる。
その速度は正しく光速。目にも留まらぬ速さで沙鈴に向かって行き、
建物が壊れるのではないか、とも思える規模の爆発を引き起こした。
【アリスフェルナンテ:『雷刃槍』を凌ぎ、『裁きの閃光』で反撃する】
24:切谷 沙鈴 ◆ICEMANvW8c
10/10/14 03:44:24 0
>>22>>23
『雷刃槍』の切っ先がアリスに直撃する瞬間─
瞬き程の間もないほどの、文字通りほんの僅かな刹那の時に、切谷は確かに見ていた。
突如としてアリスの周囲に白銀色のバリアーが出現したことを。
プラズマの威力に反応して爆発が連続して起こる。
手応えの方はあった。そう、あったことはあったのだ。
だが、完全にヒットしたわけではないことを、切谷はその手の感触から気付いていた。
(バリアーで威力を殺いだか。私の『雷刃槍』を防ぐとは、大した防御能力だ)
と、感心しているの束の間、切谷は直ぐに新たな違和感に気がついた。
アイマスクに仕込まれたスキャナーが急激な異能の上昇を告げたのだ。
視界は爆発の煙によって塞がれ、何が起こっているのかは視認できない。
しかし、アリスが反撃態勢を整えたのであろうことは、疑う余地がなかった。
切谷は咄嗟に槍先を彼女の方向へと向ける。
だが、轟音と共に、突然視界が閃光に包まれたのは、その時であった。
その光は煙を消し飛ばし、フロア全体を飲み込んでいく─
それはアリスが放った巨大なオーラの波動─破壊光線であった。
切谷の体はそれにいとも容易く飲み込まれ、
そしてやがて、止めといわんばかりのとてつもない大爆発に曝されるのだった。
爆発の煙がおさまった時、地下五階のフロアには巨大なクレーターが広がっていた。
基地の床や壁は鉄を何層にも重ねた頑丈な構造(つく)りをしている。
そこに巨大な穴をあけたアリスの光線の威力がどれ程のものか、
どんな人間でも窺い知ることができるだろう。
普通の人間であればとっくの昔に消し炭になっているはずである。
─だが、それをくらった当の切谷は、残念ながら“普通”の人間ではないのだ─。
深いクレーターの真ん中に、一部分だけ削り取られていない無傷の足場があった。
そこに彼女は─切谷は立っていた。その周りに黄金色で半円状をしたシールドを広げて。
─『雷盾槍』(サンダー・シールド)─。
変幻自在の切っ先を半円状に広げ、自らの体を覆った防御の技である。
彼女はあのすさまじい光と爆発の威力を、この技によって殺していたのだ。
だが、流石にその全ての威力を殺しきることはできなかったようで、
シールドを解いた時、彼女は衣服のあらゆるところが焼け焦げていた。
そして視覚を補っていたあのアイマスクも、真っ二つに割れて地面に落ちていた……。
25:切谷 沙鈴 ◆ICEMANvW8c
10/10/14 03:47:56 0
カ オ
「……これを見た者は、他の四天王を除けば貴様が初めてになるだろう……」
切谷は無機質な声を響かせた。
彼女がマスクで隠していた部分は、火花を散らして剥き出しになった機械が見られ、
いつどこで負った傷跡なのか、凄まじい裂傷の痕が残っていた。
端整な下半分の顔とは真逆な、“醜い”といえるほどの顔の上半分。
そのアンバランスさにアリスがどのような顔をしているか切谷は知りたかったが、
生憎、完全に視覚を失った彼女にはそれを知る術はなかった。
「それにしても、私の『雷盾槍』をもってしても完全に威力を殺しきることができなかったとはな。
流石に伝説になるだけのことはある。だが─」
軽くジャンプし、クレーターの及んでいないところに降り立つ。
そしてアリスのいる方角を目の無い目で見据える。
「あれだけの威力。そう何度も撃てるものではあるまい。
“先にカードを切りながら”仕留められなかったのは誤算だったな」
口をニヤリと歪めると、再び槍先が黄金色に輝き始める。
それを見たアリスは、今度は攻撃が繰り出されるよりも先に、高くジャンプした。
切谷は視覚で彼女の存在を視認できない。
故に一箇所に留まるより、動き回って気配の在りかを気取られないようにと考えたのだろう。
確かに目でその存在を認識できない相手にとっては妥当な作戦である。
だが─アリスは正確に、彼女が跳んだ方向に顔を向けていた。
「残念だったな。私は目を失って以来、視覚に頼った生き方はしていない。
どんなに速く動こうが、貴様の居場所など“音”と“オーラ”が導いてくれるのだ!」
槍先が眩しく発光し、再び『雷刃槍』がアリスに放たれる。
切っ先は上下左右、極めて不規則な軌道を描いて瞬時に彼女との間を詰める。
その動きを見切ることはどんな異能者であろうと不可能。よって不可避でもあるのだ。
……先程と同じくプラズマによる爆発が生じ、その感触が手に伝わってくる。
「─っ!」
彼女は先程と同じ違和感を感じ取り、思わず呻った。
それはあの白銀色のバリアーによって直撃を防がれたことを意味していたが、
彼女が唸ったのは、違和感が完全に同じでなかったことだった。
つまり、バリアーを貫通したであろう刃すら、手応えがなかったのだ。
(まさか─紙一重で避けた? ─それも空中で?
……たった三度で『雷刃槍』を無力化してみせるとは、流石だ……その一言に尽きる……!)
「だが─」
切谷は即座に槍を両手に持ち替え、更なるオーラを魔幻槍へと送り込んだ。
またしてもその槍先が眩しく発光する。だが、それは先程までの比ではない。
「私にはまだ“カードが残っている”のでな─! くらえ─『百雷槍』─!!」
叫びと共に、槍先から新たに数十とも数百とも思える無数の黄金色の軌跡が放たれた。
光と爆発─それに飲み込まれるのは、今度はアリスの方であった。
【切谷 沙鈴:ダメージをくらうも、その力は未だ健在。『百雷槍』を放つ】
26:黒部 夕護
10/10/14 19:52:09 0
「おおおお──ッ!!」
黒部の力任せの拳打をディートハルトは軽くステップして横にかわす。
だが、黒部もそれを読んでいたか、着地したその場所から間髪入れずに蹴りを放ち、
ディートハルトの動きを逆用して逃げ道を塞いだ。
「フッ、筋肉バカが」
それでも慌てる様子無く、ディートハルトはその脚部に掌を向けた。
次の瞬間、黒部の脚から血しぶきがあがる。
彼の手から放たれた無数の『糸』が脚の肉を切り裂いたのだ。
「ぐっ!」
黒部が態勢を崩す間にディートハルトはひらりとジャンプし、
またおよそ数メートルの間合いを保った。
「貴様がそのパワーを活かせる接近戦に持ち込むことは前の闘いで判っている。
だから俺はこうして近付かずに闘っていればいい。
それだけで勝てる相手と判っているからなァ、ククククク」
「……それはどうかな……?」
再び黒部が勢い良く地を蹴ってディートハルトに接近する。
「フッ、バカの一つ覚えとはこのことだな」
繰り出された拳を今度はジャンプで避け、そのまま黒部の無防備な背後に回る。
そしてまた糸を繰り出す。
「なに─?」
だが、命中を確信した糸は、黒部の背中の前の空間で弾かれていた。
弾いたのは黒部が作り出していた『障壁』。
それも360度のあらゆる方角からの攻撃を防ぐ『固方』であった。
驚きで一瞬動きを固めたディートハルトの隙を、黒部は見逃すほど甘くは無い。
「─破ァッ!」
彼は体を左回転させながら背後に振り向き、
その勢いのままに加速させた左拳を、容赦なくディートハルトの右頬に叩き込んだ。
「ぐふぉっ!?」
ディートハルトが数メートル先にまで吹っ飛び後方の壁に叩きつけられる。
「チッ……」
それを見ても黒部は悔しそうに舌打ちをして見せた。
彼としてはクリーンヒットではなかったのだ。
何故なら、彼が叩き込んだ拳は『衝打』である。
本来であればディートハルトは首ごと捻じ切れるか、それとも顔を貫通させられていたはずだが、
彼は叩き込まれた瞬間、自ら後方に跳んで威力を軽減させていたのだ。
「……ペッ。……そうだった、貴様は妙な壁を使う異能者だったな。
近付かなければ貴様の攻撃を受けないが、俺の攻撃も無力化されてしまうのか。
これでは埒が……いや、身体能力で上回る分、貴様の方が俺より有利なわけだ」
壁からむくりと体を起こし、血まじりの唾と共にそう吐き出すディートハルト。
ダメージを受けたにも拘わらず彼の顔には余裕が滲んでいた。
黒部にはその理由が解っていた。ディートハルトには奥の手、『四肢掌握糸』があるからだ。
(いい判断はするが、身体能力自体は大したことはない。恐らく四天王でも最弱だろう。
だが、あの技は厄介だ。ある意味ではこの男ぐらい、考えて能力を開発した奴はいないだろう)
27:黒部 夕護
10/10/14 20:09:20 0
「いいだろう、同じ相手に二度も見せることは俺も初めてだが、もう一度使ってやる。
『四肢掌握糸』をなァッ!!」
すっと右手を黒部に向ける。だが、黒部は動かない。
彼は『四肢掌握糸』を一度見て、どれほどのスピードで向かってくるかを記憶していたのだ。
(咄嗟に避けてしまえばその方向に放たれないとも限らない。
慌てなくとも来る方向さえ判れば避けられる。紙一重でな……! だからギリギリまで引き付ける!)
「くらえッ!」
ディートハルトの右手から五本の透明な糸が放たれる。
(─見える!)
黒部は糸が眼前にまで迫ったところで、左に体を反らせつつステップしてギリギリでかわした。
そして直後に右の足首を捻って床を駆けた。向かうはディートハルト。
(奴は右手が使えない! 今が好機! 次の『衝打』で勝負を決める!)
黒部の右拳が青みがかってゆく。
「おおおおおおおおおお─!!」
精神が高揚し、自然、無意識の内に叫んでいた。
だがその叫びが木霊する中で、彼は確かに聞いていた。
鼻で笑みを零したディートハルトの声を─。
「─フッ、バカが。『四肢掌握糸』が両手で同時に放てないとでも思ったか─?」
気付けば、ディートハルトはフリーであった左手、向かってくる黒部に向けていた。
そしてその手からは、既に新たな糸が放たれていた。
(─しまっ─!)
このタイミングではもう避けられない。
(─くそおおおおおお─!!)
心の中で叫びながら、黒部は自分への怒りを露にするようにして、振り上げていた右拳を放った。
ディートハルトまでの距離はまだ数メートル残っている。これでは当然届かない。
半ばヤケクソ気味の行動だから黒部自身もそれは解っていた─しかし─。
「─なっ─ごほあぁっ!?」
突然、ディートハルトが下顎を見せて空中に舞った。
一体、何が起こったのか。
それは黒部よりも、吹っ飛ばされた当人であるディートハルトの方が理解していたことだった。
「こ、こいつ─! オーラを─飛ばしやがった─!!」
黒部は右拳に目を向けた。青みが掛かったオーラは消えていた。
いや、本来飛ばすことのできない『衝打』を、拳圧のようにして飛ばしたのだ。
それは彼が追い詰められたことによって成長した証であった。
「……『衝圧拳』……」
拳による攻撃射程が短いことが長いこと彼の弱点であった。
だが、それを克服する新たな技を土壇場で手に入れた。
それが齎す精神的な効果は、両者にとって全く対照的であった。
【黒部 夕護:『衝圧拳』を体得】
28:アリス・フェルナンテ
10/10/14 23:25:26 0
>>24>>25
『裁きの閃光』が直撃し、凄まじい爆発が起こり、辺りを爆煙が包んだ。
やがてその爆煙がおさまってくると、目の前には巨大なクレーターが出現していた。
(手ごたえはあった…。この技で倒せるとは思っていないが、さすがに無傷ということは―)
しかし次の瞬間にはその考えを改めなくてはならなかった。
爆煙が晴れて姿を現したのは、クレータの中心に出来た無傷の足場と、そこに立つ沙鈴だった。
その姿は、完全に無傷とはいかないまでも、せいぜい服が焦げて顔を覆っていたマスクが壊れた程度だ。
(最大チャージにも関わらず、致命傷どころかさしたる傷も与えられてはいないようだな…。
しかしあの槍、何とまぁ使い勝手のいいことよ)
沙鈴の持つ魔幻槍からは、半円状に広げられた切っ先が広がっていた。
おそらくはあれで威力を殺したのだろう。
カ オ
「……これを見た者は、他の四天王を除けば貴様が初めてになるだろう……」
無機質な声が響く。
マスクが壊れ、そこから現れた素顔は普通の人間の顔ではなかった。
端正な下部とは異なり、上部には激しい裂傷があり、壊れかけの機械のような物まで見える。
いったい何があったのか―いや、自分には関係ない。
今は生死をかけた戦いの最中なのだ。余計なことを気にしている暇はない。
「それにしても、私の『雷盾槍』をもってしても完全に威力を殺しきることができなかったとはな。
流石に伝説になるだけのことはある。だが─」
クレーターの外までジャンプしながら沙鈴が呟き、光を宿さない目でこちらを見る。
「あれだけの威力。そう何度も撃てるものではあるまい。
“先にカードを切りながら”仕留められなかったのは誤算だったな」
ニヤリ、と初めて感情を露にして口元を歪める。
そして再び魔幻槍が光り輝く。
(そう何度も同じ手は喰らわん。こちらから先に動くべきか)
そう思い、高く跳び上がる。
マスクが壊れた沙鈴は視界がないはず。それならば動き続けて的を絞らせないのが定石だろう。
しかし沙鈴は正確にこちらを捉えていた。
「残念だったな。私は目を失って以来、視覚に頼った生き方はしていない。
どんなに速く動こうが、貴様の居場所など“音”と“オーラ”が導いてくれるのだ!」
再び雷刃槍が放たれる。
『祝福の銀影』を展開してそれを迎え撃つ。
(一度目は初見だったが故に直撃、二度目でタイミングは計れた。ならば三度目で避けられぬ道理はない)
プラズマを防ぎ、壁を貫通してきた光刃も避ける。
(最早見切った。後は―)
反撃をしようと沙鈴がいるであろう方向に目を向ける。
先程と同様に爆煙が広がっているが、オーラを探知できるのはこちらも同じだ。
だが次の瞬間、沙鈴のオーラがまたしても跳ね上がった。先程とは比較にならない程に。
「私にはまだ“カードが残っている”のでな─! くらえ─『百雷槍』─!!」
29:アリス・フェルナンテ
10/10/14 23:27:47 0
その叫びと共に、数え切れないほどの雷撃が周囲から襲ってきた。
そして今度はこちらが光と爆発に飲み込まれる番だった。
(クッ…さすがにあれで終わりというわけにはいかなったか。避け切れん―!)
防御も間に合わず、今度は直撃した。
『グハッ!』
凄まじい雷撃と共に床に叩きつけられた。
かなりのダメージだ。『楽園の守護者』でなかったら少々危なかったかもしれない。
『流石は四天王。予想を遥かに超える実力には舌を巻くばかりだ。
だが"カードが残っている"のが自分だけと思うなよ?我を誰だと思っている。
貴様ら異能者の祖にして、始祖の力を受け継ぎし者よ。
原初の力、その真髄を見せてやろう』
アリスの体を光が包み込む。
常人なら目を開けていられない程の光だが、視覚を失った沙鈴には関係なかった様だ。
事の成り行きを静観している。むしろ何が出てくるのか楽しみ、と言った感じですらあった。
しかし期待は悪い方向に裏切られることになる。
光がおさまると、そこから現れたのは人間の姿をしたアリスだった。
しかしその体には変化が起こっている。
頭からは狼の如く耳が生え、口には牙、手足には鋭い爪、更には尻尾まで生えている。
長い髪は一つに束ねられ、瞳の色も鮮やかな金色に変化している。
服装も今までの動きにくい重そうな物(アリスには関係なかった)から、動きやすさを追求した無駄のない服装になっている。
上は臍が出るくらいのノースリーブジャケット、下は腿上くらいまでのホットパンツ。
常人から見れば唯の可愛らしい変化だが、見た目通りではない事が沙鈴にはわかっているようだった。
その証拠に、今まで冷静だった沙鈴がわずかに汗をかいている。
スッ、と目を開いて沙鈴を見る。
「恐れ入ったぞ、貴様の実力は賞賛に値する。我をこの姿にさせたのだからな。
四天王の他の者達も皆この様な強者なのか?
…何にせよ"子供"にこの姿、『楽園の狩人』(エデンズキニゴス)を見せたのは貴様が始めてだ。
その意味でも貴様は今まで出会った"子供達"の中でも最強クラスだ。
だが悪戯が過ぎる子供には仕置きをせんとな―」
先程の沙鈴の様に口元を歪め、ニヤリと嗤う。
そしてアリスの姿がぶれる。恐らく沙鈴の感じるオーラもぶれて感じているだろう。
感情に乏しいので定かではないが、戸惑いの表情をしているように見える。
「―何処を見ている?その方向には誰もいないぞ?」
直後、沙鈴のすぐ背後から声がした。
姿やオーラがぶれていたのは、超高速で動いた為に出来た副産物―残像だったからである。
沙鈴が反応するよりも早く拳を叩き込む。
それでも幾多の戦闘経験から来る勘が働いたのか、直前で前方に跳びながら槍を背に回し、先程のあの防御技を繰り出した。
しかしそれでも威力は殺せずに壁に叩きつけられ、更にはその壁を突き抜けて隣の部屋まで吹き飛んだ。
30:アリス・フェルナンテ
10/10/14 23:28:28 0
「どうした?仕置きはこれからだぞ?」
沙鈴の吹き飛んだ方向を見向きもせず、喋りかける。
「この程度、驚くには値しないぞ。
貴様程察しがよければ簡単に気がつくはずだ。
注目すべきは名前―そう、"守護者"と"狩人"の違いだ。
"守護者"とはその名が示す通り、守りの要だ。故に"守り"に特化している。
ただ、守るだけではどうしようもないので一応の攻撃も出来る。…隙の多い技ばかりだがな。
では"狩人"はどうか?―聞くまでもない。
"狩人"とは狩る者。音もなく獲物に忍び寄り、一瞬の内にその命を奪い去る。
つまり"速度"と"攻撃"のスペシャリストだ。故にこの程度の攻撃など造作もないと言うことだ」
言い終えるのとほぼ同時に、瓦礫の山から沙鈴が姿を現した。
先程よりも服の破れは多くなり、ところどころ出血はしているが、致命傷ではないようだ。
(やはりな。あの防御技とて万能ではないようだ。
攻撃を防ぎきれていない)
鍵になるのは―タイミング。
向こうが技を発動させる前にこちらの攻撃を叩き込めばいい。
タイミングは一瞬―攻撃の瞬間だ。
如何に奴とて攻撃と防御を同時に行うことは容易ではない筈。
そこに一瞬のタイムラグが生じる筈だ。そこに全力で叩き込めばいい。
(そうと分かれば、まずは攻撃をしてもらわねば困るな)
オーラを充実させる。
するとアリスの体が僅かに発光する。
これは能力の類ではない、純粋なオーラである。
(少しヒントを与えすぎたな…。こちらの弱点に気付いたかも知れん)
弱点―それは防御面である。
速度と攻撃を重視したため、防御能力がかなりダウンしたのだ。
並の異能者なら問題はないが、四天王ともなるとそうもいかない。
全力で防御したとしても、かなりのダメージは覚悟した方が良いだろう。
だがそれも、"攻撃が当たった場合"の話だ。
(要は当たらなければいいだけの話。この姿を持ってすれば雷撃も刃も無傷でかわせる。
無論、上手く見極めればの話だが。
一つ間違えればこちらも唯ではすまない。敗北は必死だろう。
チッ、降魔の剣さえあれば…)
遥か地下にあるであろう降魔の剣を頭に浮かべ、すぐに掻き消す。
今は手元にないのだ。考えても仕方ない。
「―行くぞ。死にたくなければ凌いでみろ」
そして、再び残像を残してアリスの姿が消えた―
【アリス・フェルナンテ:『楽園の狩人』に変身。切谷に仕掛ける】
31:黒部 夕護
10/10/15 21:04:44 0
空中でくるりと一回転してディートハルトは着地する。
口から流れ出た血を拭いながら黒部を見据えるその顔に、先程までの余裕は感じられなかった。
「チッ、まさか遠隔戦に対応できるようになっていたとは……それもたった一日で」
黒部が構える。
ディートハルトとは対照的に、その顔はどこか冷静さと自信に満ちていた。
「……これでお前に近付かなくとも闘える……射程は互角だ」
「互角……? フッ、笑わせるな。たった一発の拳圧如き、次は弾き返してやるまでだ」
「─そうか、ならば─」
黒部は構えの態勢から素早く腕を真正面に繰り出す。
青みがかった拳圧が放たれ、ディートハルトに向かう。
しかし、それは一発だけではなかった。その数は何と十を数える。
彼は一瞬の内に連続して十もの拳撃を繰り出していたのだ。
「なにっ─!? ぐおおおおおおおお─っ!!」
十もの『衝圧』を一気に体に受け、またしてもディートハルトが吹っ飛ぶ。
黒部は冷静な顔を崩さずも、技としてのしっかりとした手応えをその手に感じ取っていた。
『衝圧拳』は自分の拳撃のスピードに比例してその威力と射程が伸びるのだ。
では、もしも、自分が“全力”で拳を、それも連続して繰り出したらどれだけの威力になるのだろうか?
それを思うと身震いする思いがした。
「調子に乗るなよ! この蛆虫がァァーッ!!」
ディートハルトの手から透明な糸が放たれる。『四肢掌握糸』だ。
(……)
それを先程よりもギリギリのタイミングでかわす黒部。
それは精神的な遅れによって動きが鈍ったからではない。
むしろ余裕をもって紙一重でかわす精神力を、彼が身につけたからに他ならない。
「チィッ!」
ディートハルトはもう片方の手で避けた方向に『四肢掌握糸』を放つが、
それも紙一重でありながら余裕を持った回避行動でかわされてしまう。
「貴様の技は見切った。……悪いが当たる気がしない……」
「なんだと……!?」
黒部の精神的な成長は彼の身体能力をも最大限に引き出していた。
避けながら、また黒部は素早い拳撃を繰り出す。
青みがかった拳圧がまた空間を駆けるが、その数は先程よりも更に増えていた。
「ぐはぁぁぁぁぁぁぁあっ!!」
およそ二十もの『衝圧拳』が連続してヒットする。
内臓にまで至る重いダメージがディートハルトの口から更に流血を促す。
「ぐほっ! ……ま、まさか、ここまでの短期間にこれだけ成長するとは……」
「今のでおよそ二十か。今の俺なら、もっと増やせそうだ」
もはや余裕の表情は黒部の独占物になっていた。
32:黒部 夕護
10/10/15 21:12:13 0
それでも、黒部は得たいの知れない不安感を抱き始めていた。
もはや攻撃の流れは完全に黒部に傾いている。それは疑いようがない。
にも拘らず、吐血しダメージが蓄積されているはずのディートハルトの目は、未だ狩人のそれであったのだ。
(なんだ……この不気味な目は……? まだ何か企んでいるのか……?)
「─確かに」
「?」
「貴様のパワーアップは俺の想定外だ。だが……俺の技全てを無力化できたと思うのは間違いだぞ?」
ディートハルトの右の人差し指がピクリと動く。
瞬間─小さな光がその指先から走った。
いや、それだけではない。気がつけば、光は黒部の周囲、上下左右あらゆるところで走っていた。
「─っ!?」
「やっと気がついたか。俺が何度、『四肢掌握糸』を放ったと思ってる。
あれはわざわざバカ正直に敵の真正面に放たなければならない技とでも思ったか?」
「これは!」
黒部は目を見開いた。光は小さな『糸』に照り返されたもの。
まるで蜘蛛の巣のようになった糸が、いつの間にか黒部の周囲を取り囲んでいたのだ。
「─『操糸結界陣』─! 触れればその瞬間、体の自由を奪われる……!
既に糸は貴様を取り囲んでいる。身動き一つ取れまい」
(これまでかわした『四肢掌握糸』の糸か……! いつの間に……!)
「さぁ、再び形勢逆転だな。後は貴様を結界に追い込むだけだ、ククククク」
ディートハルトの右手が淡いオーラの輝きに包まれる。
糸の攻撃がくるのだ。しかし、これでは回避できる方向が無い。
(奴の糸は俺の壁を透過して直接肉体を支配する……防御はできない。
結界は前後左右上下、全ての逃げ道を塞いでいる! 少しでも動けばアウトだ!)
「最後くらい選ばせてやる。俺の手で直接操られるか、それとも結界にかかるか」
じり、じりとディートハルトが間を詰めてくる。
形成が逆転した事によって徐々に黒部に焦りが募り初める。
(チッ……ここまで来て……!)
だが、冷静さを失いかけたその時─不知哉川の言葉が、彼を正気の淵に留まらせた。
『ええか、“右腕”の力は相手に勝利を確信させまで温存しとくんや。
油断してた時の方が効果はある。そしてその時が、あんたが勝てる唯一の機会や』
(─右腕─そうか─)
「うおおおおおおおおおおお!!」
黒部は雄叫びをあげ、そして目の前の結界に自ら飛び込んでいた。
右腕が糸に振れ、その瞬間、体の自由がきかなくなる。
「うあああああ!!」
「フッ、自暴自棄になったか。まぁ無理もない。ククク、後は貴様を料理するだけだ」
ディートハルトの顔が勝利を確信した笑みに歪む。
黒部が待っていたのは、正にその瞬間であった─。
【黒部 夕護:『操糸結界陣』に体の自由を奪われるが、勝機を見る】
33:切谷 沙鈴 ◆ICEMANvW8c
10/10/16 02:57:54 0
>>28>>29>>30
手応え、今度はあった。それも当然である。
全ての稲妻が高速不規則であらゆる方角からその牙を向けるのだから、避けきれるわけがない。
それでも尚、切谷は手応えに不満を感じていた。
(『百雷槍』をもってしても尚、仕留めきれなかったか。 タフだな)
切谷は感じられるオーラの微量な変化から相手の状態がどのようなものか窺い知ることができる。
それによると、敵はダメージ大ながらも、まだ戦闘意欲を失ってはいないというものだった。
(……なに?)
敵の状態を推察しながら、その途中で切谷は眉を顰めた。
……おかしい。敵の異能値が上がっているのだ。
アリスに与えたダメージは間違いなく大きかったはず。
それによって弱体化するならまだしも、パワーが上がるのはどう考えても妙である。
「恐れ入ったぞ、貴様の実力は賞賛に値する。我をこの姿にさせたのだからな。
四天王の他の者達も皆この様な強者なのか?
…何にせよ"子供"にこの姿、『楽園の狩人』(エデンズキニゴス)を見せたのは貴様が始めてだ。
その意味でも貴様は今まで出会った"子供達"の中でも最強クラスだ。
だが悪戯が過ぎる子供には仕置きをせんとな―」
「『楽園の狩人』(エデンズキニゴス)……?」
アリスの言葉で、切谷はやっと一つのことを理解した。
『楽園の狩人』とやらがどのような姿かは知らない。
しかし、彼女が変身をしたということは確かであり、
そしてパワーが上がったように感じたのは、恐らくそれ故であろうということを。
(要はこれからが真の本気ということか……フッ、フフフフッ……化物にも、上がいたか……)
「―何処を見ている?その方向には誰もいないぞ?」
「─!?」
切谷は自分の耳を疑った。
オーラの存在は確かに自分の前方、およそ数メートルの距離に在ったはずなのだ。
それを認識しながら、いつの間にか彼女が自分の背後に回っている。
(そうか、残像のようにオーラを残して高速移動─目が見えないのを利用したか─)
今から振り向き、反撃態勢に入っても遅い。
そう判断した彼女は槍をそのままあらぬ方向へ向けたまま、シールドを展開した。
『雷盾槍』─。電気のシールドは一瞬の内に自らの背面にまで広がる。
もっとも、敵がシールド以上の威力を持って攻撃してくれば、ダメージは防げない。
いや、間違いなくそうなる。だが、それでもやらないよりはマシなのだ。
衝撃に強いボディスーツを難なく通して、背中に衝撃が走る。
切谷はその衝撃に抗う術もなく、そのまま勢い良く壁に衝突─
強固なその壁すら割れやすいベニヤのように貫通し、隣の部屋まで吹き飛ばされた。
「ぐはっ!」
口から血が飛び出る。『雷盾槍』で威力を軽減しながらも、壁を貫通させ、
ボディスーツと屈強な肉体を通して内臓にまでダメージを与えるのだから、
アリスの攻撃力がどれほど異能者の枠をはみ出しているか知れるというものだ。
「どうした?仕置きはこれからだぞ?」
突き抜けたフロアから彼女の声が聞こえてくる。
(……フッ……フフフフッ……)
心の中で不気味に笑いながら、切谷は壁に埋まった体を起こした。
34:切谷 沙鈴 ◆ICEMANvW8c
10/10/16 03:02:02 0
「この程度、驚くには値しないぞ。
貴様程察しがよければ簡単に気がつくはずだ。
注目すべきは名前―そう、"守護者"と"狩人"の違いだ。
"守護者"とはその名が示す通り、守りの要だ。故に"守り"に特化している。
ただ、守るだけではどうしようもないので一応の攻撃も出来る。…隙の多い技ばかりだがな。
では"狩人"はどうか?―聞くまでもない。
"狩人"とは狩る者。音もなく獲物に忍び寄り、一瞬の内にその命を奪い去る。
つまり"速度"と"攻撃"のスペシャリストだ。故にこの程度の攻撃など造作もないと言うことだ」
アリスが言い終えると同時に突き抜けた穴から切谷が姿を現す。
顔はダメージを感じさせないほど表情がない。
元々、表情があまり豊かではない彼女だが、今回はどこか異様な雰囲気が漂っていた。
「仕置きだと? ……ここにきて母親面は止めてもらおうか。
母親とは、時に身を挺して我が子の安全を守る存在のことを指して言うのだ。
……わかるまい。貴様がその圧倒的パワーを盾にのうのうと自らの生を貪っていた頃、
我々がどのような目に遭っていたかをな」
体全体からこれまで以上のオーラを放ちながら、彼女は槍を両手で構えた。
そして目の無い目から、視線を彼女へと突き刺した。
「速度と攻撃……なるほど、自らそう言うからにはこちらが先に攻撃を仕掛けても、
私を仕留めてみせる自信があると見える。だが、そう上手くいくかな……?」
槍にオーラが吸い込まれ、輝きが増していく。
世には諸刃の剣という言葉がある。
極端な長所は同時に短所になりえるという大きな皮肉の例だ。
(あれは何かを犠牲にしなければ手に入れられない力……スピードはあっても防御力はない。ならば……)
切谷は気付いていた。アリスの弱点に。
だからこそ、彼女が賭けに出たことも解っていた。
「―行くぞ。死にたくなければ凌いでみろ」
ふっとその場からアリスの気配が消える。
いや、正しくはオーラの残像を残して消えたのだが、切谷が二度もそれに惑わされることはない。
今、彼女が感じているのはオーラの所在ではない。“音”なのだ。
関節の音、筋肉の膨張と縮小音、血液の流れ、そして心臓の鼓動─。
アリスがそれを消せない限り完全に切谷を誤魔化すことはできないのだ。
「凌ぐ? ─それは─」
故に切谷はまたしても正確に彼女の移動方向を把握していた。
そして、自らの認識と思考力に即応できるほどに鍛え上げられた肉体は、素早く正確に行動した。
移動先に槍先を正確に向け、そして照準を合わせたその瞬間に、槍の輝きを最高潮に持っていったのだ。
「─貴様の方だ─。くらえ──『雷光乱咲槍』──!!」
黄金色の光と、白い光が、まるで咲き乱れるかのようにその場を包んだ。
その軌跡の数はあの『百雷槍』すら比ではない。
アリスはいわば黄金光と白光の二つの軌跡のいわば二重網を突破しなくてはならないのだ。
これこそ、攻撃と防御を同時にこなす、攻防一体の戦陣─。
しかし、これは切谷の最大最強の技であると同時に、これまで封印してきた技でもあるのだ。
何故なら、凄まじい数の軌跡を繰り出すこの技は、その見た目通りにオーラの消費量が桁違いで、
しかも、媒体である魔幻槍の限界出力を軽くオーバーしてしまう欠点がある。
もし数秒以内に決着がつかなければ、そのままオーラが尽きるか、それとも魔幻槍が砕け散るか、
いずれにしても致命的な隙を生むことになるのである。
切谷 沙鈴……彼女も、自らが持つ諸刃の剣に、全てを賭けたのだ。
【切谷 沙鈴:正真正銘の全力で最大技『雷光乱咲槍』を放つ】
35:アリス・フェルナンテ
10/10/16 07:59:10 0
>>33>>34
「凌ぐ? ─それは─」
沙鈴の顔がこちらに向く。
沙鈴はこちらの動きを正確に捉えていた。まぐれや勘ではない。
その証拠に、槍の先端は常にこちらを向いている。
そして魔幻槍はかつてない輝きを見せている。
(先程よりも察知が正確だ。これは―音か。
呆れた聴覚だな。まるでレーダーだ。
人間は五感の内一つが使えなくなると他の感覚が鋭くなると言うが…。
視覚を失った事により手に入れた"武器"と言うわけか)
盲目の沙鈴がこちらの動きを正確に掴める理由を推察する。
しかし捉えられている事を承知の上で動き続ける。そうしなければ一瞬でやられるだろう。
(来る。今までで最大の攻撃が…!)
「─貴様の方だ─。くらえ──『雷光乱咲槍』──!!」
沙鈴の咆哮と共に黄金色の光と白色の光がその場を支配した。
まるで花が咲き乱れるようなその光景は、驚きを通り越して美しいとすら言える。
(既に人間の域を超えているな…。これ程簡単に攻防一体の攻撃を繰り出すとは。
しかしこれだけの出力、そう長くは持つまい。もって数秒程度…。
明らかに人間の出せるオーラの量ではない。体も武器も壊れるだろう。
だがその数秒で勝負は決まる。さて、賽は投げられた。
後はこちらの思惑通りいくかだ)
多少の誤算はあったが、狙っていた瞬間でもある。
襲い掛かる光の嵐を紙一重で交わしつつ、徐々に沙鈴に接近する。
だがそれすら容易ではない。一歩間違えれば忽ち雷撃の餌食になるだろう。
回避は慎重に、かつ大胆に行わなければならない。
しかしそれにも限界が訪れる。
沙鈴本体の周辺は、外周上とは比にならない程の雷撃が迸っている。
何発かは体を掠めた。体のあちこちから肉の焼ける嫌な臭いがする。
36:アリス・フェルナンテ
10/10/16 07:59:52 0
(流石に限界か…かすっただけでこの威力…。
直撃すればまず耐えられんな。運が悪ければ即消し炭だ)
沙鈴の体まで後2m。たったそれだけの距離が今は遠い。
(クッ…これまでか…!しかし、我は降魔の剣と母をこの手に納めるまでは死ねんのだ―!)
玉砕覚悟で最後の突撃を仕掛けようとした瞬間、場に異変が起こった。
雷撃の威力が減少し始めたのだ。恐らく沙鈴のオーラが限界に達したのだろう。
魔幻槍にもひびが生じている。
(向こうも限界のようだな…。とは言えこちらも既に限界。
最早直撃を避けることすら難しい。ならば―!)
「互いに限界が近いようだな…。最後の勝負と行こうじゃないか」
敢えて迫り来る雷撃に向かって走りながら、オーラを極限まで高める。
普通なら視認出来ない筈のオーラだが、アリスのそれははっきりと見て取れるほど光り輝いていた。
それを自分の身に纏い、突きのポーズをとる。
得物は持っていない。否、必要ない。
何故なら―自分の体だからだ。
「この距離ならば互いに必中。後は互いの精神力が勝敗を左右するな。
行くぞ…受けろ、我が最高の技を。『神殺しの槍』(ミストルテイン)!!」
足に込めたオーラを爆発させて更に加速し、ロケットの如く突撃する。
加速の瞬間、引き絞った腕を前に突き出し、その反動で更に加速する。
その姿は正に神をも穿つ槍の如し。
雷撃をその身に受けながらも、一直線に沙鈴の体へと迫る。
しかし沙鈴も黙って喰らうようなことはしない。
まるで命を燃やすように―実際に燃やしているかもしれない―最後の一撃と言わんばかりにオーラを振り絞る。
徐々に弱まっていた雷撃も、技を放った当初と同じ―あるいはそれ以上の―輝きを取り戻している。
沙鈴の体に槍先―に見立てた指の先端―が触れると同時に、無数の雷撃がアリスを包み込んだ―
【アリス・フェルナンテ:『雷光乱咲槍』に対し『神殺しの槍』で反撃。互いに技が直撃する】
37:黒部 夕護
10/10/16 23:32:42 0
「……待ってたぜ、貴様が油断するのをな」
苦悶の表情から、一転して神妙な顔付きとなる黒部。
「ハハハハハ……は?」
その突然の変わりように、ディートハルトは高笑いを止めた。
「貴様の敗因を教えてやろう。それは、不知哉川の能力を知らなかったことだ!」
言い放つ黒部の体全体をこれまで以上のオーラが包む。
中でも、右腕を取り巻くオーラの輝きは抜きん出ていた。
(今こそ使わせてもらうぞ不知哉川─! お前が貸してくれたパワーを!)
『あんたに俺のオーラを貸したる』
戦闘前の会話で、不知哉川は確かにそう言った。
『オーラを……貸す?』
『そうや。俺の能力は他人のオーラを吸収し、そのオーラから情報を読み取るっちゅーもんやねんけど、
実はもう一つおまけの力があんねん。それはな、吸収したオーラを自分や他人にプラスできるんや』
『……』
『つまり、パワーアップさせることができんねん』
そう言って、不知哉川は黒部の右腕を掴んだ。
『けどな、これはドーピングみたいなもんなんや。なんせ本来自分が持っていないパワーなわけやからな。
長時間オーラをプラスし続けると全身の肉体は悲鳴をあげ、下手をすると死んでまう。
だからあんたには右腕だけにその力を貸したるわ。一時的にディートハルトを凌ぐくらいに限定してな。
……それでも多少の反動があるやろうけどな。
……この力はあんたがオーラを全力にした時にのみ発動するようにしといたる。
さっきも言ったがパワーアップはほんの一瞬や。せやから使うタイミングを間違えたらアカンで」
─使うタイミング……それは今この時を置いて他にない。
「あああああああああああああ─ッ!!」
不知哉川のオーラと、自らの右腕が纏うオーラがプラスされたその量は、
一時的にせよ、ディートハルトが練り出したオーラの絶対量を超えていた。
それはつまり、『操糸結界陣』が破られることを意味しているのだ。
「─破ァァァアッ!!!!」
黒部の叫びが轟くと共に、彼を覆っていた結界の糸が四散する。
「─ば、バカな!! こいつ、俺のオーラ量を超え─」
愕然とするディートハルト。
結界にかかり窮地に追い込まれたのは黒部ではなかった。
追い込まれていたのは初めからディートハルト・アイエン、彼の方であったのだ。
「貴様だけは許さん─“俺自身の手”で、直接カタをつける─」
「はっ!」
ディートハルトは我に返り、そして気がついた。
既に黒部が至近距離まで迫り青みがかったオーラを纏った拳を振り上げていることを。
「─おおおおおおおおおおおおおお─ッ!!」
これまでにない力強さをもって放たれた拳が、ディートハルトの無防備な腹部に叩き込まれた─。
38:黒部 夕護
10/10/16 23:36:43 0
「─『衝圧』ッ─『拳』ェェェェエン─ッ!!!!」
『衝圧』の貫通力はディートハルトの腹部を貫き、
そして更に、拳から勢い良く放たれた拳圧は彼の背中に大きな穴を空けて、
文字通り彼を地獄へと吹き飛ばした。
「げぼぉぉおっ!?」
口から盛大に血を吐き出し、苦悶の表情というよりは愕然とした表情を浮かべたまま
ディートハルトは空に舞い上がり、そしてやがて地に沈んだ。
「ば……バカな……! この俺が、この俺がこんな……こんなゴミにッ……!」
「貴様は強かった。だが、“それだけ”だった……。
……地獄で、閻魔にも同じことを言われるだろうよ」
「……がっ、ふ……」
再度の吐血の後、ディートハルトは動かなくなった。
そして彼はもう二度と、言葉を喋ることはなかった。
「この部屋に、新たな血を吸わせたのは貴様の方だったな」
瞳孔を開ききって倒れ伏すディートハルトの亡骸にそう言い捨てて、
黒部は階段へ向かって歩き始めた。
いや、彼にしてみれば走っているつもりなのである。
だが、戦闘後の疲労に、負傷した足を抱えていては、そう思うとおり体が動かないのだ。
しかも結界を破った右腕は、これまで感じたことが無いほどの疲労感が残り、
加えて少しでも動くたびに激痛が走るという、深刻な状態にもなりつつあった。
黒部の頭に不知哉川の言葉が蘇る。
『それでも多少の反動があるやろうけどな』
「その反動がこれか……」
息を切らし、右腕の痛みに絶えず耐えながらも、黒部は最下層を目指して前進を続けた。
【黒部 夕護:戦闘終了。地下15階から階下へ向かう。】
【ディートハルト・アイエン:死亡】
39:切谷 沙鈴 ◆ICEMANvW8c
10/10/17 04:33:20 0
>>35>>36
アリスは無数の攻撃的軌跡をかいくぐって接近してくる。
恐るべきは、彼女がまだ一発も直撃を許してはいないということだったが、
それでも彼女が限界に近付いているということは、切谷の知るところでもあった。
それが証拠に、驚異的な瞬発力で間合いを詰めたアリスが、先程から二メートルの地点で止まっている。
つまり、体力が尽きようとしており、回避しながらの接近が困難になりつつあるのだ。
もっとも、限界が近付いているのは切谷とて同じである。
体を包むオーラの膜がうっすらと消えかかってきたのだ。
それはオーラが尽きる前兆。そのことは他ならぬ彼女自身が最も理解していることであった。
「互いに限界が近いようだな…。最後の勝負と行こうじゃないか」
故に、アリスの言葉は切谷の望むところでもあった。
切谷は「来い」といわんばかりにニヤリと笑って見せる。
その瞬間、彼女はアリスの異能値が跳ね上がったことを感じ取った。
(文字通り、これが最後となるか……よかろう、是非に及ばず)
「この距離ならば互いに必中。後は互いの精神力が勝敗を左右するな。
行くぞ…受けろ、我が最高の技を。『神殺しの槍』(ミストルテイン)!!」
アリスが加速して再接近してくるのを感じた切谷は、その“音”に全神経を傾けた。
それは、一体どの位置からどうやって、どれほどのスピードで何を放ってくるのか、
彼女の一挙一動が奏でる体の音を聞き、1ミリの誤りなく正確に彼女の位置と行動を看破する為である。
(─見えた!)
そして、時間にして僅か1秒にも満たないであろう瞬き程の間に、
切谷の驚異的な聴覚は、それら全てを明らかにしてみせた。
(─位置は私の真正面。腕を差し出している。加速した勢いままに私の体を貫く気か。だが─)
元々、槍先は真正面に近い場所に向けられていた。
それもあって、彼女には体内に残った全てのオーラを振り絞り、
尚且つ光の軌跡の範囲を絞り、全ての攻撃を真正面へと向ける時間的余裕が生まれていたのだ。
それはつまり、切谷の方が若干ながら有利ということである。
実力が拮抗した異能者同士の闘いでは、その“若干”が大きなアドバンテージとなる。
それは、すぐに結果として現れた。
ほとんど全ての攻撃的軌跡がアリスに叩きつけられる一方で、
切谷はその胸に槍か刀の切っ先に見立てた指の先端が軽く触れられたに過ぎない。
「賭けに勝ったのは私だ! さらばだ! ザ・ファーストよ─」
勝利を確信した甲高い声がフロア中に響き渡る。
だが、その直後だった─独特な金属の破裂音が、無情にも彼女の確信を打ち消したのは。
40:切谷 沙鈴 ◆ICEMANvW8c
10/10/17 04:40:42 0
アリスを攻撃の渦に飲み込んでいた光がピタリと止み、
そして細かな破片と共に、竜の口に模された槍先がその柄から真っ二つになって地に落ちる。
(─これ─は─)
それは、切谷に勝利が砂上のもので、同時に敗北を認識させるものであった。
砕け散ったものは、ついに限界を超えた魔幻槍の変わり果てた姿だったのだ。
障害を失ったアリスの指先が容赦なく胸を貫く─。
串刺しになった切谷の姿は、もはや誰が見ても助からない、死に逝く者の姿そのものであった。
「ご……ぶっ!」
口から真っ赤な血が流れ出し、アリスの腕を染める。
もはや自力で腕を引き抜く力もない切谷は、
アリスが自らの意思で腕を引き抜いた後は、ただ力なく地に倒れるだけであった。
「目前の勝利を、自らの武器にフイにされるとは……な……」
言いながらも、切谷は気がついていた。自分の敗因を。
それは魔幻槍に亀裂が入っていたことに、アリスに神経を注ぐあまり気がつけなかったこと。
気がついていればもう少しやりようもあったかもしれない。
いや、諸刃の剣に賭けてしまったこと事態が、そもそもの過ちではないのだろうか。
それは翻って言えば、アリスという異能者との闘いを選んだ自分自身の過ち、つまり─
(私自身が……敗因、か……)
「フッ……フフフフフ……」
血を吐き出しながら、切谷は皮肉な現実に笑みを浮かべた。
そして、彼女を見下ろし立ち尽くすアリスに、擦れかかった無機質な声で言った。
「さ……らばだ……原初の……存在、よ……。
地獄……で……ま…………た…………………………」
彼女はそれ以上はもう何も言わなかった。
地下五階フロアの戦闘─決着がついたのは、午前11時。
不知哉川らがアジトへ向かってより、調度二時間後のことであった。
【切谷 沙鈴:死亡】
41:アリス・フェルナンテ
10/10/17 07:44:33 0
>>39>>40
互いの技が直撃する瞬間、アリスは自身の敗北を悟っていた。
(駄目か…!こちらの方があたりが弱い…!)
『神殺しの槍』の先端は沙鈴の胸に僅かに刺さる程度。
一方こちらは、聴覚に全神経を集中させ、こちらの攻撃の体勢を見極めた沙鈴の攻撃を一身に浴びる事となる。
結果は火を見るより明らかだ。
『楽園の守護者』に変身して全力で防御すれば耐えられるかもしれない。
しかしそんな時間はあろう筈もない。
瞬きした次の瞬間にはこの身は消し炭となり、一片の欠片も残らないのだから。
(口惜しいが、ここまでのようだな―)
諦観の念が頭を過ぎった直後、こちらを消し炭にする筈の雷撃が止んだ。
目の前の魔幻槍が音を立てて砕け散る。
沙鈴の体より武器が先に限界に達したのだ。
遮るものがなくなった『神殺しの槍』は、勢いをそのままに沙鈴の胸を貫通する。
「ご……ぶっ!」
沙鈴の吐血と貫通した胸から流れる血で、アリスの腕が鮮血に染められて行く。
沙鈴から腕を引き抜くと、その体は力なく床に倒れ伏した。
「目前の勝利を、自らの武器にフイにされるとは……な……」
沙鈴が呟く。どうやら自身の敗北の原因を悟ったようだ。
「まさかこの様な形で幕を引くとは…少々意外だったな。
しかし我は言ったであろう?"子供"だ、と。
己の武器の状態も把握しないで大技を連発するからああなるのだ」
砕け散った魔幻槍を一瞥し、視線を戻す。
そして地に伏せる沙鈴を見下ろしながら呟きかけた。
「だが、今回の戦いは運に左右されるものが大きかった。
言ってしまえば、降魔の剣が手元にあったならばお前など分と保たずにこうなっていた。
お前が武器の状態を把握していれば、この場に立っていたのはお前だ。
互いに運の良し悪しがあったのだ。
結果としてこうなったが、お前とは良い勝負が出来たと思っている」
「フッ……フフフフフ……」
沙鈴が血を吐きながら笑う。その笑みの真意は分からなかった。
一頻り笑った後、こちらに顔を向け、擦れた声で呟いた。
「さ……らばだ……原初の……存在、よ……。
地獄……で……ま…………た…………………………」
その言葉を最後に、沙鈴の体は生命活動を停止する。
「そうだな。我とて混血、悠久の命を持つわけではない。
どんな形にせよ、いつかは死が訪れるだろう。
地獄で再び相見えたその時こそ、完全な形で決着を付けようではないか。
先に行って腕を磨いていろ。我も現実世界で精進するとしよう」
42:アリス・フェルナンテ
10/10/17 07:45:50 0
動かぬ沙鈴に最後の言葉を投げかけ、遺体に背を向ける。
これで自身の障害は突破した。後は皆に追いつくだけ。
上階の優達も気がかりだが、己の意思も含め、皆であの場を任せたのだ。
今更助太刀に行くような愚かな真似はしない。
他の皆に失礼であるし、何よりも優達の力を疑うことにもなる。
優達を信頼する証として自分に出来ることは、今は前に進み一刻も早く他の面々と合流することだった。
「さて、行くとしよう」
最後にちらりと沙鈴を一瞥して、階下へ向かって走り出す。
姿は元の状態に戻っている。あの形態でいるのは先頭時だけで充分だ。
―更に下の階へと下りていくが、やはり誰とも会わない。
ここまで来ると、最早雑兵など意味もないことは向こうも分かっていると言うことだろうか?
それともただ単に手駒が切れただけなのか―?
どちらにせよ、今敵に会わないのは好都合だ。体力とオーラの回復に集中できる。
そして沙鈴と戦ったフロアから十程下ったあたりで視界が開けた。
階段を下りてすぐ目の前に広い空間が広がっていたのだ。
しかしその光景は異様だった。
壁や床、天井に至るまであらゆる場所に大量の血液が付着していたのだ。
(一体ここは何の部屋だ?拷問部屋にしては広すぎるが―!?)
そんな事を考えていると、視界の隅に人影が映った。
この位置からでは顔が良く見えないが、その人物が倒れていることは分かった。
不吉な予感を抱えながらその人物に近付く。
だんだんと姿がはっきりしてきて、自分の仲間ではないことが分かった。
更にその人物は既に絶命しているようだ。ピクリとも動かず、周囲には真新しい血が流れている。
(この男は…?見知らぬ顔だな。
しかしこの階層にいたことを考えると四天王の一人、だろうな)
遺体を検証する。すると腹部から背中にかけて、拳大の何かが貫通した跡があった。
(恐らく誰かが戦って倒したのだろう。この傷跡を見るに、不知哉川ではないな。
あの男は肉弾戦向きではない。仲間の女は刀を持っていた。
とするとあの大男、確か黒部とか言ったな…あの男がやったのか。
自分以外の仲間に四天王クラスが倒せる者がいたとはな…)
そこまで推察して、ふと考え直す。
あまりに自然で気がつかなかったが、いつの間にか不知哉川達を仲間として認識している。
(フッ、仲間、か…)
今までは仲間などいなくとも、全て自分一人でこなしてきた。
故に仲間と言う存在は、アリスにとって無用の長物、邪魔なだけの存在だった。
(しかし今は…不思議と嫌悪感はない。むしろ好ましく思っている自分がいる…)
初めて生じた気持ちに戸惑い、暫くその場に立ち尽くしていた。
【アリス・フェルナンテ:戦闘終了。現在位置:地下15階、ディーハルトと黒部の戦っていた部屋】
43:虹色優 ◆K3JAnH1PQg
10/10/17 17:57:34 0
虹色優は戦闘員10人、A~Jとの戦闘を担当している
「さあ、行くよ…。“烏合の衆”!」
優が大量の烏を描き、戦闘員に襲い掛からせる。…ただし、烏合の衆なだけに統率力は無いが
「! 烏!?」
「くそっ! なんて数だ! 」
「数で攻めるとは卑怯な!」
「いや、私達も人の事言えないから…」
「だが所詮烏は烏…。我々が手古摺る程の相手ではない」
大量の烏は一瞬戦闘員たちを怯ませるものの、簡単にやられてしまう
44:不知哉川 霊仙
10/10/18 05:15:20 0
さしたる障害も無く、順調に最深部に近付いていた不知哉川と海部ヶ崎の二人の前に、
再び大きな扉が立ちはだかったのは、黒部と別れてよりおよそ20分後の地下22階でのことであった。
「地下22階『冷獄の間』……か。いよいよやな、キサちゃん」
不知哉川の声に頷く海部ヶ崎。
雲水は最下層の地下25階に自らのフロアを持っている。
事前に得た情報によれば、幹部に近い人間であるほど雲水に近い階層でフロアが与えられるという。
つまり、この先で待ち構えているのは、十中八九雲水を除くもう一人の四天王だけなのである。
「えぇ……。三人目の四天王、氷室 霞美……」
グッと力を入れて、腰に差した刀を握り締める海部ヶ崎。
その手は、微かに震えているようであった。
(武者震いか、それとも……。
……いずれにしても、もう後には引けへんのや。……行くで、キサちゃん」
扉に手をかけ、再度海部ヶ崎の顔を窺う。
海部ヶ崎は「準備の時間はいらない」と言わんばかりにコクリと頷くだけだった。
……ギィィィィイイ。
鈍い音を発して扉が開かれる。
それと同時に部屋から流れ出た冷たい空気が二人の肌を撫でた。
「なんや、寒ッ!」
「霊仙さん、中を見てください」
扉を閉め部屋の中へと足を踏み入れる二人。
そこで二人が見た者は、思わず別の世界へ迷い込んだかと錯覚するくらいの一面の銀世界であった。
吐いた息が白くなって見えるほどの極端に低温な空気、
天井からいくつも連なる巨大な氷柱、踏みしめると雪の足跡ができる床……。
「まるでここだけ冬の景色を切り取ってきたみたいやな。
まだ春先やってのに、一体どういう趣味しとんねん」
「なるほど、冷獄か……。冷気を使うあの女らしい趣向だ」
「褒め言葉と受け取っておこうか」
「「─ッ!」」
突然の声に、二人は咄嗟にその方向を視線で突き刺した。
白く霞んだ視界の先から、黒い人影が足音を立てて迫ってくる。
そして姿が露になった時、「やはり」と呟いたのは海部ヶ崎であった。
「やはり貴女……いや、貴様か……氷室 霞美!」
【不知哉川 霊仙:地下22階『冷獄の間』に到着】
45:氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c
10/10/18 05:20:02 0
二人組の侵入者が到着する五分前、氷室は司令室からの報告を受け、一瞬その顔色を変えた。
「切谷とディートハルトが殺られた? ……間違いないのか?」
『は、はい……異能反応が完全に消滅しましたので……信じられないことですが』
オペレーターの声は動揺を隠せないといったものだった。
それも致し方がない。何せ、四天王が二人も倒されたというのだ。
カノッサにとっては前代未聞の異例の事態である。
「……しょうがないね。私が奴ら全員を始末するよ。それでいいだろ?」
だが、氷室は直ぐに顔色を戻すと、特にこれといったリアクションもせず、
やけにあっさりとその現実を受け止めた。
それにはオペレーターの方が戸惑ったくらいである。
『は、はい……。お、お願い致します、氷室様……それでは』
スキャナーの通信が切れると同時に、氷室は溜息をついた。
「やれやれ、生き残りが『原初の異能者』だけというならともかく……
まさかご丁寧にも全員私に押し付けて逝っちまうとはね。
……あるいは他の手だれも、それだけ強い、ただの不届きな侵入者ではないということなのか……。
いずれにしても、奴らも『冷獄の間』(ここ)で終わりだけどね─」
─それから五分。
扉が開いた音と複数の声を聞いた氷室は、その不届きな侵入者の前へと足を進めた。
「まるでここだけ冬の景色を切り取ってきたみたいやな。
まだ春先やってのに、一体どういう趣味しとんねん」
「なるほど、冷獄か……。冷気を使うあの女らしい趣向だ」
近付くにつれて声がはっきりと聞き取れてくる。
声は男と女の二人。その内の一つ、女の声の方は、氷室にはどこかで聞いた覚えがある気がした。
実際、その女の方は顔見知りであるような発言をしている。
(……何者だ? まぁ、いい。直ぐにわかる……)
「褒め言葉と受け取っておこうか」
と、敢えて口を差し挟み、自分の存在を気付かせる。
思った通りその二人は直ぐに彼女を見た。
それによって明らかになった二人の正体は、一人は半纏姿の中年男。見覚えはない。
そしてもう一人の女は、刀を腰に差した若い女。彼女の方はやはり見覚えがあった。
「やはり貴女……いや、貴様か……氷室 霞美!」
その彼女もやはり氷室と面識があるのか、名前までも知っていた。
氷室は懸命に脳の引き出しに仕舞われた記憶を探っていく。
そして意外と新しい記憶の中で、彼女の情報を見つけ出すのだった。
「確か……あぁ、そうだ。確か公園で人工化身の女と一緒にいた奴だな?」
「そうだ。貴様に殺されかけた。その節では世話になった」
「礼には及ばないさ。……それより、どういうマジックで復活したんだ? 瀕死だったはずだろ?」
「それは……」
彼女は初めて答え難そうに視線を泳がした。
氷室が怪訝な顔をしていると、そこに自分を親指で指した半纏姿の男が、
まるで自分をアピールするかのようにずいっと身を乗り出した。
「それはなぁ、この俺の力のお陰やで? この不知哉川 霊仙のなぁ!」
46:氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c
10/10/18 05:23:51 0
不知哉川と名乗った奇妙な関西弁の男に訝るような視線を送る氷室。
だが、視線を送っていたのは彼女だけではなかった。
「霊仙さん……」
驚いたように、不思議そうにそう問いかけるのは刀を下げた女。
「えぇんやキサちゃん。どうせ俺の能力も直ぐにバレるんやからな」
それでも不知哉川は割り切っているというように軽い口調で言い返す。
「そうか、あんたが……余計なことをしてくれたもんだね」
「強いモンに嫌がらせするのが三度の飯よりも楽しいタチなもんでな。えろうすんまへんなぁ」
「違う、私はその娘の気持ちを代弁しただけさ。
二度も死の恐怖を味わいたくないのに、余計なことをしてくれたってね」
不知哉川の嫌味に嫌味を持って返す氷室。
挑発や毒舌は、彼女も不知哉川に引けを取らない技能の持ち主なのだ。
「……えらい口が上手いやないか……」
不知哉川はそれ以上の応酬は避けた。
恐らく、彼女には挑発の一切が通用しないと感じてのことなのだろう。
「なんだと……!」
その点、直情的なのは彼のパートナーの方である。
刀に手をかけ、今にも飛び掛らんとする彼女を、不知哉川が宥めている。
そのタイミングを利用して、氷室は一つのことを訊ねた。
「ところでお前、名前は?」
またも答え難そうにする彼女に、今度は不知哉川が耳打ちする。
すると彼女は前を向き直ってはっきりとした声で答えた。
「海部ヶ崎 綺咲。……ここまで来たら、隠してもしょうがないのでな」
海部ヶ崎……その響きは、氷室にとってどこか懐かしさを覚えるものだった。
(……どこかで)
再び記憶の引き出しを開け始める氷室。
しかし、それだけはどうしても思い出せず、やがて「まぁいい」と頭から振り払った。
「さて、不知哉川に海部ヶ崎だっけ? そろそろ始めようか。こっちは暇じゃないんでね」
「魔水晶の完成を待つばかりのあんたらに暇がないとはおかしな話やな」
「私はお前ら二人の他に、もう四~五人と闘わなきゃいけないのさ」
それは切谷、ディートハルトが敗北したことを、二人に暗に伝えたことを意味していた。
不知哉川がグッと拳を握り締め、海部ヶ崎はどこか安堵したような表情を浮かべている。
「……そういうことかい。二人の方は決着がついたってわけやな」
「後は、私たちだけ……!」
俄然、やる気が出たというように、二人はオーラをその身に纏い始める。
しかし、それこそ氷室の望むところであった。
「そう、初めから本気で来てくれた方が物事が単純でいい。
どんな鈍感な奴でも、直ぐに実力差を思い知ってくれるからね」
氷室の両手に、鋭利な爪が形成された。
【氷室 霞美:地下22階『冷獄の間』にて戦闘開始】
47:アリス・フェルナンテ@代理
10/10/19 20:18:10 0
暫くの間、時間にして10分程アリスはその場に立ち尽くしていた。
"仲間"と言う言葉について考えた結果、自分なりの結論を出した。
(仲間と言うものは単に邪魔なだけではない。時には必要な場合もある、と言う事か)
その結論に至った後、階下のオーラの反応を調べる。
2つほど下の階に1つ、更に下の階に3つの反応、その更に下に1つ。
(この反応、2つ固まっているな。不知哉川達か。
もう1つあると言うことは、残る四天王の内筆頭ではない方と接触したか)
不知哉川達と氷室の接触を確認し、行動を考える。
(あの二人の実力を考えると、四天王に勝てる確率はあまり高くない。
ここで助けに入ることは簡単だ。
しかし、彼らも理由があったために今までの戦闘に参加しなかったのだろう。
敢えて水を差す様な真似はするまい。それよりも近い方の反応、黒部と合流しておいた方がいいだろう)
不知哉川達の意思を尊重し、助けに行くことを止める。
そして再び、今度はゆっくりと階段を下りていった。
下り始めて5分と経たない内に、目的の人物を発見する。
その人物、黒部は体を引き摺るようにして歩いていた。
「随分と派手にやられたようだな?」
背後から黒部に語りかける。
黒部は弾かれたように振り返った。その表情は若干の驚きを表している。
「まさか、もうここまで追いついてきたのか…」
「貴様よりは優秀なつもりだからな。それに貴様の今の歩く速度を考えれば、追いつくのは容易い。
そんな事より貴様、その体で何処へ向かうつもりだ?」
「愚問だな。階下に向かい仲間を助けに行くだけだ…!」
「その満身創痍の体で、か?行くだけ無駄だな。
今行ったところで確実に足手纏いになるだけだ。盾にすらならん。
貴様が今出来ることは、今後の戦いに備えて少しでも体を休めることだ。
付き合ってやるからここで休んで行け」
黒部も納得したようで、頷くと壁に背を預けて座り込んだ。
少し離れた場所で自分も腰を降ろす。
(さて、後はあの二人に頑張ってもらうだけだな。死なないことを期待するしかないか…)
【アリス・フェルナンテ:黒部 夕護と合流。地下17階にて療養のため進行停止】
48:不知哉川&海部ヶ崎
10/10/20 03:17:30 0
「実力差? そう自信を持っていながら、あんたのお友達は悉く倒されてきたんや。
俺らを甘く見てるとあんたもそうなるで?」
「友達……? フッ……」
「何がおかしいんや?」
「何も知らないとはいいものだと思ってね。
カノッサ(私達)が“友”などという甘ったるい関係で結ばれてるとでも思ったのか?
彼らは同志であって、友ではない。私達を結んでいるのは共通の復讐心だけさ」
「復讐……?」
訝しく訊ねる不知哉川に、氷室はこう切り出した。
「……少し話してやろうか、カノッサのことを」
そして、これまで謎のベールに包まれたカノッサの過去を語り始めた─。
「“カノッサ機関”というのは、元々はこの国の国家機関のことなのさ。
もっとも、非公開組織だったから、今でもその存在を知っているのは当時の当事者達だけだけど」
まず、その一言だけで、不知哉川達を驚かせるには十分だった。氷室は続ける。
「カノッサ機関は超能力者─つまり、私達のような異能者を集め、
その超常的な力を研究・解明し、軍事利用するのが目的の研究機関だった。
大勢の異能者、特に子供が秘密裏に集められ、
私自身も10年前に孤児院からカノッサに連れてこられた。
いや、私だけじゃない、他の四天王もそうだ。
日夜、白衣を着た連中に体の隅々まで調べられ、訳のわからない実験をやらされたものだ。
そして……そう、あれは私がカノッサに来てから三ヶ月が経とうとしたある日のことだった─
突如としてカノッサ機関の廃止が決定したのさ。
財政難に苦しむ政府が成果の上がらない機関を予算面を理由に廃止に踏み切ったという話だったが、
それは表向きに過ぎなかった。彼らは恐れていたのさ。
いつか、自分達の政府を転覆させるだけの力を持った存在が現れるのではないか、とね。
その為に、奴らは軍隊までをも動員して、徹底して私達の処理にかかった。
250名あまりの異能者が施設ごと生きながら焼かれ、銃砲の餌食になった。
切谷というアイマスクをした女がいただろ? あいつは目が見えない、何故だかわかるか?
その時、銃弾を両目に受けて、失明したからさ。
ディートハルトという男も、胸に数発の弾丸を受けて死に掛けた。
かくいう私も施設の火災に巻き込まれ、危うく焼け死ぬところだったが……
皮肉にも炎から身を護ろうとする本能が冷気の能力を呼び覚まし、そのお陰で助かった。
結局、250名の内、生き残ったのは私、切谷、ディートハルト、そして雲水の四人だけ。
あの時、私達は雲水の復讐計画に乗ったのさ。
奴らが排除しようとしたカノッサの名で、今度は逆に奴ら無能者共を排除してやろうとね」
氷室の冷たい視線が二人に突き刺さる。
不知哉川は胸に何かモヤモヤしたものを感じながらも、それでもはっきりと言い切った。
「……動機はよぉわかったわ。
けどな、あんたらの復讐の為に、どれだけ罪のない人々が犠牲になったと思ってるんや?
あんたらに、250人の仲間を殺した政府を憎む資格はあらへん!」
「別に死んだ奴らの仇を討とうと思ってるわけじゃない。
言っただろ? 私達は、個人的な復讐心で繋がっているだけさ。
誰が死のうが、そんなことは初めからどうだっていいのさ」
平然と切り捨てる氷室の冷徹な声に不知哉川はギリッと歯軋りをした。
「これまで苦楽を共にした仲間の生死さえも、あんたらには眼中にないってわけや……。
……なるほど、アリスや黒部が勝ったのも頷けるで。
ただ非情なだけの連中に、護るべきものがある奴に勝てるはずあらへんからな」
すっと氷室の両の指が二人に向けられる。
「だったら試してみようじゃないか。お前らと私、果たしてどっちが勝つか」
49:不知哉川&海部ヶ崎
10/10/20 03:22:29 0
「望むところや……!」
と、身を低く構えた不知哉川は、その視線をそっと彼女の脚に定めた。
海部ヶ崎から事前に氷室のスピードを聞いていた彼は、自然と接近戦を警戒していたのだ。
しかし、一方の海部ヶ崎は、両指を向けるという不自然な構えに別の狙いを感じていた。
「……これは……。……は!」
そして、公園での闘いを思い出した彼女は気がついた。
あの爪は、何も接近戦のみに威力を発揮するだけのものではないということを。
「霊仙さん! 避け─」
海部ヶ崎の声に、一瞬不知哉川の視線が氷室から外される。
氷室はその隙を逃さなかった。
「─『アークティッククロー』─」
両指から冷気の爪が撃ち放たれ、その一つ一つが散弾のようになって空間を駆ける。
事前に予測していた海部ヶ崎だけはジャンプしてそれをかわすが、
完全に虚を突かれた不知哉川は回避行動が遅れた。
二つ、三つ─鋭い爪が彼の身に突き刺さっていく。
「ぐあっ!」
「霊仙さん!」
「な、なぁに、これくらい……」
不知哉川は右の肩と左の脇腹、そして右胸に裂傷と凍傷を負いながらも、
特に気にする風も無く言ってのけた。これは別に彼が痩せ我慢しているわけではない。
実際、一発一発の『アークティッククロー』の威力自体はそれほど大したものではないのだ。
だが、それは当の氷室も、無論承知していることである。
故に彼女の目的は、初めからダメージを与えることにはなかった。
「─何のこれしきって? 知ってるよ─」
「─霊仙さん!」
海部ヶ崎が必死に呼びかけるが、不知哉川とて、いちいち指摘されずともわかっていた。
何せ自分の真後ろから殺気の篭った声がしたのだ。嫌でも気がつくというものである。
氷室の『アークティッククロー』は初めから布石であったのだと。
「くっ!!」
咄嗟に床を強く蹴る不知哉川。
しかし、氷室の殺気が炸裂するのは、それよりも速かった。
鈍い音が周囲に鳴り響く共に、不知哉川の口から、真っ赤な液体がゴボッと溢れ出る。
爪によって強化された氷室の手刀が、彼の背中から腹部までを瞬時に貫いたのだ。
これは、爪による負傷など問題にならないくらいの重傷であることは、誰の目にも明らかであった。
「意気込んだ割には呆気なかったね」
ズッ……と腕を引き抜き、既に死体を見るかのような目をして、
氷室は倒れ伏す不知哉川を見据えた。
「霊仙さん……!! おのれ……!!」
着地するより早く、海部ヶ崎が空中で壁を蹴り、氷室の右側背に向かって加速する。
今度は逆に氷室の死角を突こうというのだ。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーッ!!」
腰に捻りを加えた抜刀の態勢から氷室の首目掛けて勢い良く刀を放つ。
もっとも、海部ヶ崎は四天王相手にこの一刀で決まるとは思っていなかった。
故に彼女は、既にかわされることを想定……いや、既に前提と捉え、
氷室のかわす方向を様々にシミュレートし、第二撃の攻撃パターンを組み立てていた。
しかし、それは氷室の実力を、いささか見誤った思考であった。
「なっ……!?」
海部ヶ崎は愕然とした。
氷室は避けなかったのだ。いや、避ける価値すらないと考えていたのか。
彼女は、放たれた刀身を、親指と人差し指だけで掴んで止めたのだ。
しかも、まるで背中に目があるかのように、少しも振り返らずに。
50:不知哉川&海部ヶ崎
10/10/20 03:27:23 0
「私以上のスピードで掛かってくるか、完全に気配を消さない限り、いくら死角を突いたって無駄だよ。
お前程度なら位置さえわかれば直ぐに対応できる」
海部ヶ崎の刀を封じたまま氷室が素早く振り返り、その際に彼女の右脇腹に左脚を叩き込む。
「ぐうっ!」
吹っ飛び、壁に叩きつけられ、苦悶の表情を浮かべる海部ヶ崎。
彼女の頭には誤算の二文字が浮かんでいた。
かわすことを前提にしたことすら過小評価でしかなかった氷室の実力─
それでも、海部ヶ崎は一縷の望みをかけて、再び立ち上がった。
(いくら強いといっても、奴のスピードには私も食らいついていける……公園の時がそうだった)
彼女は、粘り強く闘っていくことに勝機を見出そうとしていた。
不知哉川は確かに致命的ダメージを負っている。
しかし、彼の能力はその傷すら治す。彼が復活すれば再び二対一、形勢が逆転する可能性はある。
それまで時間を稼ぐつもりなのだ。
「根性あるじゃないか。嫌いじゃないよ、そういうの。
だけど、まだ自分の認識が甘いということに気付かないのかい?」
─氷室の全身の輪郭がピントの合っていない写真のようになってブレる。
そしてその姿は、やがて完全に海部ヶ崎の視界から消えた。
(─消え─)
「消えた」─。一瞬そう思った海部ヶ崎だったが、直ぐにその認識を改めた。
今のは消えたのではない。見えなかったのだと。
「フッ……」
氷室の吐息が彼女の首筋をくすぐる。
氷室は、公園の時見せたスピードとは次元の違う速さをもって、彼女の後ろに回っていたのだ。
「あの時のスピードが全力だとでも思ってた? 私がいちいち全力で闘うわけないだろ?」
「あ……う……」
海部ヶ崎は顔から汗を噴き出しながら、その場から微動だにできなかった。
背中にはあの冷気の爪が突きつけられている感触があったが、
彼女の動きを止めていた要因は別にあった。
それは、彼女の全身を覆い尽くすような、背後からの凄まじい殺気。
まるで蛇に睨まれた蛙の如く、自分の体が縮こまっていくのを海部ヶ崎は感じていた。
「カノッサを舐めんじゃないよ。
私を倒せる可能性があるのは、雲水を除けば精々、噂のザ・ファーストくらいさ。
こちとら雑魚(お前ら)なんかに容易く負けるほどヤワな人生送ってないんだよ」
氷室が一言発するごとに、肌に無数の針が突き刺したかのような痛みが走る。
ここに至って、海部ヶ崎は静かに悟った。自らの敗北を。
(ダメだ……どう足掻いても、今の私では……)
「そういわけだから、バイバイ─」
「─ッ!」
背後の殺気がまるで一本の槍に変形したかのような感覚を受けた時、海部ヶ崎は思わず目を瞑った。
そして死を覚悟した。だが、調度その時、フロアに木霊した声が彼女の命を救った。