10/11/03 00:19:13 0
>>106-108
二次元世界から現実世界に戻った私は、自分に似た姿をした化身アイリスの存在に諦めを感じた。
「…ハッピーエンドで終わらせようとしてるところに水を差すようで悪いけど、もうこの世界にも未来はないよ」
それまでの大団円な雰囲気を打ち壊す一言は、その場にいる皆の視線を向けるには充分だった。
「化身アイリス…昔と違って、今の世界は一瞬でもあなたが存在する事を許しはしないの。
今この街には殺された異能者達の怨念のオーラで溢れている。
そんな中で化身であるあなたの無限のオーラは、存在するだけで彼等の怨念のオーラを誘爆していき…」
角鵜野市を中心に世界中が地響きに見舞われる。
「世界を崩壊させるエネルギーを生み出します」
「…っ!いきなり出てきて何言ってるんですか?
どうしてこの流れで世界崩壊になるんですか!?」
その場にいた海部ヶ崎綺咲の突っ込みが入った。その言葉遣いに違和感を感じる。
…ああ、この世界で面識があったのは虹色君だけだったね。
「言ったじゃないですか。この街で殺された異能者の怨念が、化身の力を使って引き起こしてるんです。
あなた達はこの戦いで生き残りました。でも彼等も生き残りたかったんですよ。
彼等は歴史をやり直して貰いたがってるんです」
私の視線の先には異空間…もとい時空間が開いていた。
この街で最後に死んだ雲水凶介の怨念が作り出した、過去に繋がる時空間。
「みんなの奇跡で世界の崩壊を食い止める…なんて事もできるのかもしれない。
でもそれは彼等の気持ちを踏みにじる事に他ならない。
そんな世界が一時的に助かってもいい未来なんてやってこないと思うの。
歴史を変えようとすれば今度死ぬのは自分かもしれない。
でも私は、誰もが納得できる幸せな歴史がある事にこの命を賭けてるの。
幸せな歴史になるか、私が死ぬまでこれからも何度でもやり直すよ」
私は渦巻く時空間に向けて歩を進めていった。
【世界崩壊の兆し、時空間の出現】
【清浦藍:過去に繋がる時空間に向かう】
110:海部ヶ崎 綺咲
10/11/03 16:23:41 0
>>107>>108
海部ヶ崎、氷室に続き、虹色らが今後の動向を明らかにする。
彼ら三人は普通の高校生として生活を送るつもりらしい。
自分と違い、学業に身を置く者ならそれは無難な選択であろう─
海部ヶ崎そう思い、うっすらと微笑した。
そんな中、最後に残ったアリシアが口を開く。
「私は今日この日を最後に俗世から姿を隠そうと思います。
私と言う存在はこの世界にとって危険すぎますから…。
始祖や化身という存在がいるだけで、それを巡って様々な争いが起きます。
今回のような事件が再び起きないとも限りません。
降魔の剣がなくなった以上、後は私が消えればそれで暫くは安泰になるはずです。
しかし時が経てばやがて化身という存在は再びこの世に現れる。
その時は、私が必ず見つけ出してその子を保護します。約束しましょう。
しかし私一人の力では無理な場合もあるかも知れません。
その時は貴方方のお力を借りることになるでしょう。その時の連絡は以前お渡しした玉でお願いしますね」
……不思議と一同に驚きはなかった。
特に海部ヶ崎は、心の底で薄々と感じ取っていたものがあり、
内心で「あぁ、やはりな」と思ったのが正直な心情であった。
「極端な力は極端な危険性をも秘めている……そういうことだな」
先程の海部ヶ崎の言葉を、今度は氷室が呟く。
海部ヶ崎は敢えて何も言わなかったが、
正にそれこそが肯定を意味したものであったかもしれない。
(父上が無間刀を封じたように、彼女もまた自分自身を封じる……。
最強……それ故の悲しい宿命とでも言うべきなのかもしれない……)
「貴女とは…またどこかでお会い出来そうな気が致します。…ふふっ、その時はお話しましょうね?」
最後に、氷室にニッコリとした笑顔を向けて告げるアリシア。
そんな彼女に、氷室は「フッ」と鼻を鳴らす。
「化身は数百年に一度現れる。次にお前がこの世に現れる時、私はとっくに墓の下さ」
そう言い、氷室は大木から背を離して海部ヶ崎らに背を向ける。
そして立ち去ろうとし掛けたその時、
これまでこの場になかった全く別の第三者の声が彼女の脚を止めた。
「…ハッピーエンドで終わらせようとしてるところに水を差すようで悪いけど、もうこの世界にも未来はないよ」
氷室のみならず全員が一斉にその声の方向を向く。
そこには、全く見慣れぬ少女が一人、氷室ら全員を見据えて立っていた。
「世界を崩壊させるエネルギーを生み出します」
少女が言った途端、大地が揺れる。
「…っ!いきなり出てきて何言ってるんですか?
どうしてこの流れで世界崩壊になるんですか!?」
狼狽する海部ヶ崎。
「言ったじゃないですか。この街で殺された異能者の怨念が、化身の力を使って引き起こしてるんです。
あなた達はこの戦いで生き残りました。でも彼等も生き残りたかったんですよ。
彼等は歴史をやり直して貰いたがってるんです」
そう言う少女の横には現実空間とは別の異なる空間の入口と思えるものが大きく口を開けていた。
少女は全員を一睨みすると静かに空間の中へ足を踏み入れていった。
「な、なんなんだ……」
突然の思いもよらぬ展開に海部ヶ崎は戸惑いを隠せない。
そんな海部ヶ崎に、今まで押し黙って事の成り行きを見守っていた氷室が、
「やれやれ」と呆れるように言い放った。
「お前、まだ解らないのか? それでよく雲水が倒せたな」
「……どういうことだ?」
「あの女の言ったことは事実じゃないということさ」
111:海部ヶ崎 綺咲
10/11/03 16:30:32 0
今度は海部ヶ崎が押し黙る。氷室は一つの溜息の後に、言葉を続ける。
「ただの地震だよ、今のは。
あの女が起こしたものでも、ましてや世界を崩壊させるエネルギーが起こしたものでもない」
「……あ」
その言葉で海部ヶ崎は気がついた。……もう地面が揺れていないことに。
「歴史がどうたらとか怨念がどうたらとか、そんなのはこじつけに過ぎない」
「しかし、それではあの空間は?」
「雲水同様、空間を操る異能者なんだろ。別に似たような能力を持つ奴がいても何ら不思議はない」
「……」
「私にはあいつを意に介す理由があるとは思えないね。
気になるならついて行ったらどうだ? どうせ碌なことになりゃしないだろうけど」
一瞬、チラっと口を開ける空間を見て、氷室はまた海部ヶ崎に目を戻す。
「お前、力なき弱き人々を救ける、そんな仕事がしたいんだろ?
だったら覚えときな。“力無き正義”は無意味であるばかりか、偽善でしかないってことを」
「─!」
氷室の言葉が剣となってグサリと胸に突き刺さったのを、海部ヶ崎は感じていた。
「じゃあね」
氷室が視線を前に戻して、この場を立ち去っていく。
海部ヶ崎は立ち尽くしたまま何も言い返せなかった。
できたことと言えば、ただ目を見開いたまま、己の未熟さを痛感するだけ……。
(目に見えることだけに惑わされること無く、ただ本質だけを冷静に見透かす……
これがカノッサ四天王……いや、一流の異能者なのか……。
……力だけじゃない、まだまだ多くの点で私は氷室に劣っている……。
けど……だけど……!)
それでもやがて、海部ヶ崎は拳をぐっと握り締めて、力強く前を向いた。
そして、既に米粒くらいまで小さくなっていた氷室の背中を、
まるで突き刺すようにジッと見据えた彼女は、心の中で高らかに吠えるのだった。
(いつか必ず、人々を護れるくらいの力を得てみせる! そして必ず、超えてみせる!
霊仙さんを! 父上を! そして─氷室 霞美を!!)
「私も、もう行くよ。アリシア、虹色兄弟─これまで世話になった。礼を言う。
近い将来もし会うことがあれば、その時は改めて礼をさせてもらう」
アリシア、虹色兄弟を一瞥して、最後に彼女はニコッと微笑んだ。
「それまで、どうか元気で─!」
別れの挨拶なのにそこに哀しみはない。
あったのは、どこか爽快ささえ感じられる、晴れ晴れとした空気であった。
それを残して海部ヶ崎は一人走り去って行った。
遥か遠くまで進んでいた氷室に、追いつけ追い越せというように─。
だがこの時、海部ヶ崎もそして氷室も、まだ知る由はなかった。
先程の大地を揺るがした地震─それが自然に偶発的に起こったものではないということを。
─湖を北へ進むことおよそ1km。
そこに位置する市内のとある薄暗い山岳地帯の一角に、長い白ひげを蓄えた老人はいた。
「雲水の奴め、失敗しおったか。わしの助力があってもこの様とは噂ほどの男ではなかったわ。
しかし……ふぉっふぉっふぉ、わしもちぃーとばかし甘くてみていたかのう。
カノッサを壊滅させるだけの力を持つ者がこのような地方都市におったとは、よもや思わなんだ。
名も知れぬ異能者というのもやるものよのぉ……ふぉっふぉっふぉっふぉっふぉ」
しわがれた声を絞り出すその老人が、不意に手を前方の空間に差し出す。
その手は、どういうわけか黄金色に輝いている。
いや、そうではない。輝いているのは、その手におさめられた“モノ”であった。
「まぁ……別によいわ。わしが長年求め続けていた“これ”が手に入ったのじゃからなぁ。
わしが少し念じただけであれだけの地震を起こせるとは、古文書に記された通りの力よ。
これさえあればわしの宿願ももうじき果たされる……。そう、500年の夢がのぅ……
フッフフフフフ……ふぁっふぁっふぁっふぁっふぁっふぁ!!」
老人の高笑いに呼応するように黄金色の輝きが増して一角を昼間のように照らす。
その輝きに照らし出された老人の顔は、この世のものとは思えないほど不気味に歪んでいた。
【二つ名を持つ異能者達Part1 海部ヶ崎&氷室編:完】
112:アリシア
10/11/03 18:03:29 0
>>109->>111
「化身は数百年に一度現れる。次にお前がこの世に現れる時、私はとっくに墓の下さ」
氷室が皮肉を込めて返事してくる。
そしてこちらに背を向けて立ち去ろうとした時、今まで聞こえなかった声が聞こえてきた。
「…ハッピーエンドで終わらせようとしてるところに水を差すようで悪いけど、もうこの世界にも未来はないよ」
皆一斉に声のした方向を向く。
そこにはこれまで一度も見たことがない少女が立っていた。
「世界を崩壊させるエネルギーを生み出します」
少女がそう口にした瞬間、地面が揺れる。
「…っ!いきなり出てきて何言ってるんですか?
どうしてこの流れで世界崩壊になるんですか!?」
海部ヶ崎が狼狽している。
無理もないだろう。いきなり現れた見ず知らずの少女に世界が崩壊するなどと言われたのだから。
「言ったじゃないですか。この街で殺された異能者の怨念が、化身の力を使って引き起こしてるんです。
あなた達はこの戦いで生き残りました。でも彼等も生き残りたかったんですよ。
彼等は歴史をやり直して貰いたがってるんです」
少女の言葉と共に、少女の横に空間の歪の様な穴が出現する。
少女は全員を一瞥すると、何も言わずにその空間へ入っていった。
「な、なんなんだ……」
未だ狼狽している海部ヶ崎。
その海部ヶ崎に声をかけたのは、事の成り行きを静観していた氷室だった。
「お前、まだ解らないのか? それでよく雲水が倒せたな」
「……どういうことだ?」
「あの女の言ったことは事実じゃないということさ」
その言葉に、海部ヶ崎は口を噤んだ。
「ただの地震だよ、今のは。
あの女が起こしたものでも、ましてや世界を崩壊させるエネルギーが起こしたものでもない」
「……あ」
海部ヶ崎は、もう地面が揺れていないことに気付いたようだった。
しかしアリシアはその言葉を素直に受け入れられなかった。
(今の地震、本当に自然現象だったのでしょうか?地震発生の直前に微かに力を感じたのですが…
…そう、ここから北の方角、正確な距離までは分かりませんでしたが、凡そ1km程)
「じゃあね」
アリシアが考え事をしている内に、氷室と海部ヶ崎の会話は終わっていた。
氷室が立ち去り、後に残ったのは立ち尽くす海部ヶ崎だった。
その横顔は何か思い詰めている様にも見えた。
113:アリシア
10/11/03 18:05:35 0
「私も、もう行くよ。アリシア、虹色兄弟─これまで世話になった。礼を言う。
近い将来もし会うことがあれば、その時は改めて礼をさせてもらう」
やがて晴れやかな顔でこちらを見て、海部ヶ崎はそう言った。
先程までの思い詰めていた顔はもうない。
「それまで、どうか元気で─!」
そして元気良く走り去って行った。
その方角は先程去った氷室と同じ方角だった。
まるで氷室を新たな目標とし、それに追いつき追い越す、といった感じにも見えた。
それを見送ってアリシアは再び考え出す。
(やはり先程の地震、ただの地震ではありませんね。
それに気になるのは魔水晶の行方…。
雲水さんは持っていなかったようですし、あれは物理的な力で破壊することも出来ません。
と言うことは誰かが持ち去ったのでしょうか…?一体誰が…?
そう言えば、あのカノッサという方達はやけに私や化身の事に詳しかった…。
化身の方はともかく、私やアリス達に関して残っている文献などほとんどないはず…。
仮にあったとしても、現代人では解読など到底不可能…。
誰か解読できる人間がいた?それならばその人物は何処へ行ったのでしょう?
私達は四天王と呼ばれていた4人の方しか見ていません。
あの時、建物の中に5人目がいた…?それとも四天王の誰かが解読できた…?
…考えるだけならいくらでも出来ます。今は情報が少なすぎますね)
思考を停止して頭を振る。今は考えても仕方のないことだ。
件の人物の気配はもう感じ取れないのだから。
頭の中を切り替えると、残っていた虹色兄弟に目を向ける。
「貴方達には二つほど謝っておかなければなりません。
一つは御月が貴方達の護衛役を仰せつかっていたのに、貴方達に戦闘を任せてしまったこと。
これでは護衛の意味がありません。万が一貴方達に何かあってからでは遅いですからね。
…結果的に無事に生きて帰ってこられましたが、護衛の任を放棄したことに変わりはありません。
御月に代わって謝罪を申し上げます。本当にすみませんでした」
深々と頭を下げるアリシア。虹色兄弟も呆気にとられている。
「もう一つは、誠に勝手ながら一時的に護衛の任を解かせて頂くこと。
先程も申し上げましたが、この世界にとって私と言う存在は危険すぎます。
いつ争いの火種になるか分かりません。
そうなったら護衛どころではなく、寧ろ危険を呼び込んでしまいます。
護衛役が主に危険を呼び込むなど本末転倒もいいところ。
ですので護衛の任はここで凍結致します。
私がいない方が安全に暮らせると思いますしね…。
ですが、火急の際にはお持ちの玉で連絡して下さればすぐにでも参ります」
そこまで言って、アリシアは言葉を切った。
「まだお話したいことは沢山ありますが、全て話すには時間がかかりすぎてしまいます。
ですので、ここで一つの区切りと致しましょう。
いずれまたお会い出来れば、その時はお茶でも飲みながらゆっくりとお話しましょうね?
では私も参ります。お元気で」
最後まで笑顔を絶やさずに話を終えると、アリシアはゆっくりと歩き出した。
彼女の行く先は誰も知らない―
【二つ名を持つ異能者達Part1 始祖(御月、アリス、アリシア)編:完】
114:虹色優 ◆K3JAnH1PQg
10/11/06 16:50:23 0
「私も、もう行くよ。アリシア、虹色兄弟─これまで世話になった。礼を言う。
近い将来もし会うことがあれば、その時は改めて礼をさせてもらう」
「いえいえ。僕達は特に何もしていませんよ」
「双綱高校の文化祭に来れば、僕達軽音部がライブを開いてますよ!」
「我がアニメ研究会の作品放送もよろしくお願いします」
「美術部の作品展示もなかなかのものですよ」
ちゃっかり宣伝する虹色兄弟
「それまで、どうか元気で─!」
「「「さようならー」」」
別れの挨拶をする
「貴方達には二つほど謝っておかなければなりません。
一つは御月が貴方達の護衛役を仰せつかっていたのに、貴方達に戦闘を任せてしまったこと。
これでは護衛の意味がありません。万が一貴方達に何かあってからでは遅いですからね。
…結果的に無事に生きて帰ってこられましたが、護衛の任を放棄したことに変わりはありません。
御月に代わって謝罪を申し上げます。本当にすみませんでした」
「いえ、良いんですよ。貴方がいなければ、その…雲水っていう人は倒せなかったのでしょう?」
「やっぱりラスボスには強力な人が立ち向かわないとですからね!」
「それに正直、あの時は護衛とかそういうの忘れていましたし…」
呆気に取られた兄弟だったが、すぐに気を取り直し、言う
「もう一つは、誠に勝手ながら一時的に護衛の任を解かせて頂くこと。
先程も申し上げましたが、この世界にとって私と言う存在は危険すぎます。
いつ争いの火種になるか分かりません。
そうなったら護衛どころではなく、寧ろ危険を呼び込んでしまいます。
護衛役が主に危険を呼び込むなど本末転倒もいいところ。
ですので護衛の任はここで凍結致します。
私がいない方が安全に暮らせると思いますしね…。
ですが、火急の際にはお持ちの玉で連絡して下さればすぐにでも参ります」
「分かりました。…では、僕達は平和な高校生活をすごそうと思います。事件とかは若い者に任せて…」
「そんな老人みたいなこと言わないでよ兄さん。まあ、平和が一番なんだけどね…」
アリシアの言葉に優が答え、それに相槌を打つ詞音
「まだお話したいことは沢山ありますが、全て話すには時間がかかりすぎてしまいます。
ですので、ここで一つの区切りと致しましょう。
いずれまたお会い出来れば、その時はお茶でも飲みながらゆっくりとお話しましょうね?
では私も参ります。お元気で」
「そうですね! ちなみに僕はほっとレモンティー派です」
「僕はジャスミン茶派ですかね」
「兄さん達、何言ってるの…。日本人なら緑茶でしょ…?」
「「「まあ、とにかく…」」」
「「「さようなら。また会えると良いですね」」」
そういって優たちも歩き出す
「それにしてもあの地震はなんだったんだろ…。清浦さんは光を操る能力のはずなのに…」
「ただの地震…て感じじゃなかったね」
「僕たちが考えても仕方ない。何かできるわけでもないし…」
「そうだね」
「まあ、とにかく僕達の物語はここで一旦終わりだね」
「「「めでたしめでたし」」」
【二つ名を持つ異能者達Part1 虹色兄弟編:完】
115: ◆vmVAU8BU2zJP
10/11/06 17:01:04 0
>>111
―いい邪念だ『カノッサの知恵袋』
洞窟内にどこからともなく響く声に、独り高笑いを決め込んでいた老人は絶句する。
「な…バカな!?いったいどこから…それにその声…まさか貴様!!」
なに…残り少ない老後の楽しみを邪魔しようと言うわけじゃない。
ただ僕の目論見が外れて復活を果たし損ねたから"それ"の力を少し貰いに来たんだ。
「まさか…わしの身体を乗っ取る気か?」
はははっ!そんな老いぼれた身体、頼まれてもゴメンだよ。
僕が欲しいのは復活に必要な力だけ。新しい身体ならもう見つけてあるんだ。
「フン…まあ邪魔をしないと言うなら少しくらい力を分けてやるのも良かろう。
"これ"を手にする為に、貴様にも秘密裏に役立ってもらったからな」
正確には"僕"じゃなくて"父様"だけどね。
ただ僕が邪魔をする気はなくても、新しい"彼"もそうとは限らないから計画は慎重に進めた方がいい。
僕の見込んだところ、彼には父様以上の素質を感じたからね。僕の完全復活にも時間がかかりそうだ。
「…復活させる代わりに邪魔をしないという約束、忘れるなよ」
老人が手におさめた黄金の輝きを掲げると、そこに一筋の影が射し、それが洞窟内に黒い鳥の影ができていく。
そして黄金に照らされた洞窟の中から、一羽の黒鳥が角鵜野市内に飛び立っていった…
116:氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c
10/11/07 03:03:20 0
角鵜野市の中心街から北に外れること1kmの市街地。
調度、昼時のこの辺りは、昼休みに入ったサラリーマンや夏休みを満喫する学生らでごった返している。
そんな喧騒の中、まるで怪しげな密談をするかのように、大通りの端で静まり返る二人の女性の姿があった。
一人は「占い・一回千円」の看板を傍に立て、椅子にふんぞり返る青い髪が特徴の20代の女性。
彼女の名は氷室 霞美。本業を占い師へと変えたかつてのカノッサ四天王の一人である。
一方で、こじんまりとした客用の小椅子に生真面目にも背筋を伸ばしてキチンと座るのは、
氷室とはかつて敵対関係にあった10代の同じく若き女性、海部ヶ崎 綺咲。
二人が顔を合わせるのは、いわゆる世間で「大災害の日」と呼ぶ日から数えて、およそ三ヶ月ぶりのことだ。
すなわち、雲水 凶介率いるカノッサ機関が引き起こした「カノッサの乱」以来ということである。
突然の珍客に氷室は驚き訝ったが、その珍客の第一声を聞いて、その顔を更に怪訝なものへと変えた。
「夢?」
氷室の声に海部ヶ崎は小さくコクリと頷いた。
彼女の無地の白いタンクトップから露出した透き通るなような肌が微かだが汗ばんでいる。
真夏なのだから汗をかくのは当然であるが、それだけが理由でかいた汗ではないということを、
氷室は心なしか感じ取っていた。いや……それもあるいは予想していたからかもしれない。
「全く……何しに来たかと思ったら。
ここは精神科じゃなければ、人生相談をする場所でもない。ただの占い屋なんだ。
私の生活を思うなら占いをして金を落としていって欲しいね」
「金はやる。だから、話だけでも聞いてくれ! お前しか話せる奴はいないんだ……」
強い口調で詰め寄る海部ヶ崎に、周囲を歩く人々の視線が突き刺さる。
氷室は目で椅子に座り直せと彼女に合図し、
続いて「千円」の文字がでかでかと書かれた木箱を顎でしゃくった。
「聞いてやるよ」
海部ヶ崎は一枚の札を木箱に入れると、落ち着いた様子で椅子に座り直した。
そして、氷室を神妙な顔付きで見据えると、やがて小さな声で語り出した。
彼女が見たという“夢”の話を─。
「あれは昨夜のことだ。奇妙……そう、奇妙な夢だった。
夢の中で、得体の知れない不気味な“ピエロ”が現れたんだ……」
ピエロ─その言葉に氷室の眉が微かに動いたのを、海部ヶ崎は気付かなかった。
もっとも、気付いたところで話を止めることはなかっただろう。
彼女は淡々と話を続ける……。
117:氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c
10/11/07 03:09:14 0
「周りは真っ暗な空間だった。自分以外、誰もいない。そんな闇の向こうから、やがて何かが近付いてきたんだ。
大きな鎌を肩に乗せて、飄々とした足取りでな。それがあの妙な仮面を着けた“ピエロ”だった─。
私が呆気にとられていると、ピエロは私の前まで寄ってきてこう言った。
『ホーッホッホッホ、あなたはとても運がおよろしい。
“私の夢”を見たということは、私が発信する夢電波を受信した、つまり私と波長が合ったということ。
それが何を意味するかこれからお教えしましょう』と。
まるで変声期を通したような気味の悪い声だった。
身動き一つ、声一つ出せずに唖然とする私を横目に、ピエロは一方的に続けた。
『あなたをこれから“幻影島”にご招待させていただきます。
幻影島とは何か? んー、良いご質問ですねぇ。幻影島とは太平洋上にポツンと浮かぶ孤島のこと。
地図には載っておりませんし、普通の一般客が辿り着けるような場所でもありません。
何故なら、私がご招待した“異能者”でなければ入島することができない特殊な島だからです、はい。
では、何故異能者を招待するのか? そうお思いでしょう? 答えは簡単です。
私は“ご主人様”の命に従ってこうして招待状をばら撒いているわけですが、
そのご主人様がこう仰せなのです。「異能者を闘わせ、勝ち残った者に最大の栄誉と幸福を与えよう」と。
おわかりですか? あなたはその挑戦権を得られたのです。ホーッホッホ、羨ましいじゃありませんか。
ですが、言葉だけではご納得していただけないと思いますので、
特別サービスで最大の栄誉と幸福を具現化したものをお見せしましょう』
そう言って奴は取り出したんだ。黄金色に輝く水晶をな……。
純金でできているとかそういうものではない。何か、悪魔的な輝きをそれは放っていた。
それについては奴はこう言った。
『これはこの世の全てを統べる力を秘めた水晶。
手にした者の願い一つで世界をどのような形にも変えることができる正に異能の結晶。
ご主人様は、闘いに勝ち残った強者(つわもの)にこれを差し上げると仰せなのです、はい。
如何です? 少しは招待されてみる気になられたでしょうか?
もっとも、あなたの意に関わらず、招待は決定されたこと。
時が来れば自然に強制的にあなたの体は幻影島にテレポート致します。
ほら、手首を御覧なさい。それが招待状です』
手首にはいつの間にか黒い腕輪が巻かれていた。外そうとしても外せない。
『その腕輪は私のご主人様が直々にお作りになられたもの。
装着されてから24時間後、自動的に幻影島に瞬間移動するようプログラムされております。
24時間も待てないというせっかちさんは腕輪の真ん中についている赤いボタンを押しなさい。
直ぐに島に飛ぶことができます。
ただし、バトルの開始は時間が決まっておりますので、向こうでも待つようですがね。
おっと、外そうとしても外せませんよ? それには参加者の認識番号も記されておりますので、
少なくとも闘いが終わるまでは、あなたの体の一部になっているのですからねぇ……ホッホッホ。
さて、お解かりいただいたところで、調度私の説明も終わりです。
後は島に着いてから詳しいルールの説明があるでしょう。
ルールを良く聞き、守って、自分の命を賭けた闘いを存分に楽しんで下さい。
それでは良い夢を。ホーッホッホッホ』
……それだけ言うとピエロは消えた。そこで私の目も覚めたんだ。
夢……そう、薄気味悪い夢、現実ではない。そう思った。
だが、あれはただの夢じゃなかったんだ……見てくれ」
118:氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c
10/11/07 03:16:06 0
すっと右腕を上げる海部ヶ崎。
その手首には、黒い腕輪が太陽の光に反射して光っていた。
「夢で見た通りのものだ。あれは現実だったんだ。間違いなく、あのピエロは異能者だ」
ふと氷室が目を細める。
「……394。それがお前の認識番号か」
その言葉に、海部ヶ崎が手首を返して気付く。
手首の裏側の腕輪に394の文字が記されていることに。
「394番……少なくとも、私を含めて394人の異能者が招待されているということか」
「もっと多い」
氷室が右腕のジャージの袖をまくり、海部ヶ崎に見せ付ける。
海部ヶ崎は思わず目を見開いた。氷室の腕にも、黒い腕輪がはめられていたのだ。
「お……お前も!?」
「お前のいうピエロが私のところにきたのは昨晩の11時過ぎ。
私の番号は466……招待されたのは最低でも500人前後だ」
「しかし、そんな数の異能者を集めて、本当に闘いをさせるのが目的なんだろうか?」
「闘いをさせるのは目的の一つだろうが、真の狙いは別にあるはずだ。
何故ならあの黄金色の水晶……あれは魔水晶だ」
「魔水晶!? あれが!?」
氷室は小さく頷き、言葉を続けた。
「魔水晶は長い年月をかけて封印された魔力が浄化される。
それと共に輝きは失せ、最後にはただの石と化すが……
あのピエロが持っていた魔水晶は紛れもなく完成したばかりのものだ。
恐らくあれこそが雲水が作った魔水晶なのだろう。
……あの闘いの後、私は気になっていたんだ。魔水晶の行方がな。
最初は雲水と共に消滅したとも考えていたが……
雲水死亡後に、どういうわけかあのピエロの手に渡ったと考えるのが今や自然だ」
「あのピエロ……まさかカノッサの生き残り?」
「さぁな……。いずれにしろ、奴の主人とやらに答えが隠されていそうだ」
すっと席から立ち上がり、店のものを手早く片付け始める氷室。
それにつられるように海部ヶ崎も立ち上がる。
「今のこの街に500人も異能者がいるはずがない。
ということはかなりの広範囲に渡って招待状を乗せた電波をばら撒いているはずだ。
この国全体か、あるいは世界中か……何にせよ、相当手強い奴に違いはない。
……お前、大丈夫か?」
氷室は訝しげな視線を海部ヶ崎に送りつける。
三ヶ月前の記憶が残る彼女にしてみれば実力を疑問視するのも当然であるが、
海部ヶ崎はそれを「フッ」という似つかわしくない笑みでかわしてみせた。
「まだお前には及ばないかもしれないが、この三ヶ月、私は鍛錬を怠ったことはない。
少なくとも三ヶ月前よりはあらゆる面でレベルアップしているつもりだ」
「ふん、それはそれは」
特に感心した様子もなく言い返し手際よく荷物を纏めていく氷室。
そして荷物を入れたバッグを肩に回すと、最後にこう言った。
「何もこの街で時間が過ぎるのを待つことはないんだ。
バトルが始まるより先に島の地形を把握しておくのも時間の有効な使い方だろう。
六時に湖の南の高台でもう一度会おう。それまでに準備は整えておきな」
二人は互いに小さく頷くと、くるりと翻って別々の方向に歩みを進めていった。
時間は午後0時30分─
氷室が腕輪をはめられてから13時間後。
海部ヶ崎が腕輪をはめられてから14時間後のことであった。
【氷室&海部ヶ崎:午後六時に落ち合う約束をして市街地を離れる。現時刻:PM12:30】
【ピエロ(仮称):世界各地の異能者に招待状をばら撒く。
ただし、波長が合った者の夢にしか登場できないため、全ての異能者とまでには至っていない。
それでもその数500~それ以上とも思われる】
【二つ名を持つ異能者達 Part2開始! 新規さん募集中です】
119:アリシア ◆21WYn6V/bk
10/11/07 09:32:44 0
角鵜野市の南に位置する咸簑山、その山頂に程近い鬱蒼と茂る森の中。
滅多に人が立ち入る事のないその森の奥深くに、一軒の家が建っていた。
家と言っても簡易的なもので、ログハウスのように丸太を組んだだけのものである。
アリシアはそんな場所で生活していた。
食料に関しては山や川で採れるため問題ない。
しかし調味料や日用雑貨はそうはいかなかった。
こればっかりは山で採れるわけではないので、街に買いに行くしかない。
夕飯で油と塩を使い切ってしまい、調味料が足りなくなってしまった。
本来ならアリシアに食事は必要ないのだが、万が一人間に見つかった時のカモフラージュにと始めたのだ。
しかしそれにハマってしまい、いつしか料理が日課になっていた。
(これでは料理が出来ませんね…。明日にでも街に降りて買って来なくては)
そう思い、眠りにつく。
眠りの淵で見た夢の中に、巨大な鎌を携えたピエロが現れ、海部ヶ崎の時と同じ台詞を言い放った。
アリシアはその言葉は聞き流していたが、話の途中でピエロが見せたものを見て顔色を変えた。
―そう、魔水晶である。
カノッサ崩壊と共に所在不明となっていた魔水晶。
それが目の前にいる道化の手の中から現れたのだ。
手を伸ばし、掴もうとするもすり抜けた。ピエロは相変わらず喋り続けている。
やがて夢は終わった。起きてみると、そこはいつもの天井だった。
(あれは魔水晶…あの道化は一体…?
それに今の夢、こちらの行動に対しても反応がありませんでした。
広域に発信された録画映像のようなもの、と言う事でしょうか?それも異能者限定で…。
こうしてはいられませんね。情報を集めませんと)
支度をして家を出る。
山を降りるまではオーラを使用し、普通の人間では1時間かかるところを僅か2分程で下る。
街に到着して、ある反応を探す。
以前の戦いの折に海部ヶ崎達に渡した玉の反応である。
あれは微弱なオーラを発しているため、発信機のような役割も果たすのだ。
反応はすぐに見つかった。北の方角に一つと、別の場所に一つ。
アリシアはまず北の方角にあるものに向かった。
人の目のないところを高速で移動していたので、大した時間はかからなかった。
そして発信源―海部ヶ崎を見つけた。
駆け寄って声をかける。
海部ヶ崎は最初驚いていたが、すぐに応じてきた。
街に降りてきた訳を話し、先程自分が見た夢について尋ねる。
すると海部ヶ崎も同じ夢を見たといい、更に夢の中で腕輪まで付けられたという。
腕をまくり、腕輪を見せる海部ヶ崎。しかし自分にその腕輪はない。
「非常に残念ですが、今回はご一緒することが出来ないようですね…。
こちらの正体を知っていたのでしょうか…?
勝手で申し訳ないのですが、貴女にお任せするしかないようですね。
何としても魔水晶を取り返して下さい。あれは人の手に余るものです。
私はそばで見ていることすら叶いませんが、魔水晶に関して分からないことがあればいつでも連絡して下さい。
もし貴女達が向かう場所の正確な位置が分かれば、後から応援に行くことも出来るかも知れません。
その玉は肌身離さず持っていて下さいね」
アリシアは話を終えると海部ヶ崎に別れを告げ、当初の目的だったスーパーへ向かって歩いていった。
【アリシア:海部ヶ崎と同じ夢を見るも、参加資格は得られず。
海部ヶ崎に接触し、魔水晶を取り返すよう頼む】
120:神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk
10/11/07 09:41:10 0
角鵜野市の中心部にあるオフィス街を、一人の少女が歩いていた。
サラリーマンやOLに混ざって歩くその姿は、この場には不釣合いな格好だった。
夕方の帰宅ラッシュ、そのスーツの群れの中で、少女は一際異彩を放っている。
真白い髪に黒いYシャツ、女性の平均を遥かに上回る身長、更には煙草まで吸っている。
明らかに会社員には見えないその少女―神宮 菊乃は人を探していた。
この街で、よく当たると言われている占い師を探す為だ。
しかし早朝から探しているにも拘らず、未だに探し人は見つからない。
その間に消費した煙草は優に二箱を超えていた。
そしてまた一本の煙草を吸い終える。
フィルターギリギリまで吸った煙草を地面に落とし、足で踏み消す。
「占い師とやらは一体何処にいるのかねー…?」
普段であれば菊乃にとって全く縁のない占い師を探しているのには理由があった。
昨晩、奇妙な夢を見た。
いきなりピエロが現れ、"幻影島"なるところで戦わせる為に自分を招待する、と言ってきたのだ。
当然菊乃には何がなんだかさっぱりで、黙ってピエロの話を聞く外なかった。
そしてこれまたいきなり招待状と銘打って強制的に取り付けられた黒い腕輪。
夢の中でつけられたはずなのに、起きてみると現実でも腕輪は自分の腕についていた。
そしてピエロはこうも言っていた。
腕輪を装着してから24時間で幻影島に飛ばされる、と。
その24時間まで残り数時間。
早朝から探しても見つからないので、菊乃は既に諦めかけていた。
今は何となく歩いているついでに占い師を探している、といった感じだった。
そしれ二箱目最後の煙草を取り出し、火をつけて紫煙を吐き出した。
煙草が切れたのでコンビニに寄る。
買い物のついでに件の占い師について店員に聞いてみたところ、ここから程近い場所にいつもいるという。
詳しい場所を聞いて、その場所を目指して歩き出す。
煙草のついでに買ったペットボトル飲料で、歩きながら渇いた喉を潤す。
やがて店員に聞いた場所に着いたが、辺りにそれらしき人影は見当たらない。
それもそのはず、現在の時刻は午後4時30分。
占い師―氷室 霞美―は4時間も前にこの場を去っている。
「ったく、散々探し回った挙句、聞いた場所にはいないときたもんだ。
一体神様って奴は何してんだろうね。
幼気(いたいけ)な少女が足を棒にして歩き回ってんだから、ちょっと位おまけしてくれてもいいってもんだろうに」
この場にいない神―いるかどうかも分からないが―に向かって悪態を吐く。
そして暫くその場に立ち尽くし、やがて頭を掻き毟る。
「あーもうどうすりゃいいんだよ全く!
変な夢見てただでさえ気分悪いのに強制的に腕輪まで付けられて!
戦って勝ち残れば栄誉と幸福を与えるだぁ?
ふざけんな!そんなもんで幸せになれるならアタシはとっくに幸せだっつーの!」
回りを気にせず叫んだので、周囲の人間が何事かと振り返る。
しかし菊乃はそんな視線も気にせず、更に喋り続けた。
「ったく、どうしろっつーんだよ…。
昨日は確か7時頃に寝たから…後2時間半しかねーじゃねーか。
こりゃお手上げだね…。
そもそも占い師にどうするか視て貰おうとしたのが間違いだったかねぇ…」
腕輪を空に翳し、虚空を見つめて溜息を吐いた。
【神宮 菊乃:氷室に占ってもらう為、その場所を訪れるも入れ違いに。現在時刻PM4:30】
121:名無しになりきれ
10/11/07 14:48:29 0
募集age
122:名無しになりきれ
10/11/07 21:35:53 0
期待
123:鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg
10/11/08 19:28:59 0
「はぁ…。何なんだろ幻影島って…」
ボサボサの髪に虚ろな瞳、青白い顔といかにも不健康で陰気な感じのする青年、鎌瀬犬斗もまた、ピエロに会っていた
それは昨日の夜のことだった…。寝ている彼の夢の中にピエロが現れ、戦わせる為に幻影島に招待するなどと一方的に説明し、
招待状と称して黒い腕輪を巻き付けたのだ。そして、夢の中で付けられたはずのそれは、何故か現実でも腕にしっかり付いていた
「はぁ…。本当何が目的なんだ…。どうせ僕なんかが戦っても勝てるわけないってのに…」
他人よりも遅い足を、一層重く引きずりながらため息を吐く
「棄権しようかとも思ったけどやり方が分からないし…。腕輪は外れないし…」
なんだかんだであともう数時間しかない。腹を決めるべきなのだろうか
「というか飛ばされてる間学校はどうするんだ…? 僕は健全な生徒だから留年したくないってのに…」
一応学生である犬斗はそれを心配する。何やら背の高い、煙草を吸っている女性が見えるが、まあ僕には関係ないだろう
ぶつぶつとネガティブで暗いオーラを醸し出しながら彼は歩いていた…
【鎌瀬犬斗:神宮菊乃を視界に入れる。現在時刻4:45】
124:氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c
10/11/08 22:54:54 0
午後六時を迎えた角鵜野市─
氷室と海部ヶ崎の二人は、約束通り夕闇迫る湖南の高台にて落ち合っていた。
「準備は整えてきたか?」
訪ねる氷室に海部ヶ崎は小さく頷く。
といっても、海部ヶ崎の格好は黒いタンクトップに同じく黒のショートパンツ、
少々カジュアルなベルトを腰に斜めに巻きつけ、
そこに一本の日本刀を差しているだけの軽装で、他に荷物は見受けられない。
準備を命じた当の氷室に至っては、普段のジャージ姿のままで変わった点は何一つない。
両者ともまるで近くの道場やスポーツジムにでも行くかのような出で立ちだが、
そもそも彼女らにとって準備とは仰々しい荷物を用意することではなく、
精々、愛刀を一本取りに戻るか、自宅でゴロリと横になり仮眠を取る程度のことでしかないのだ。
何故なら、二人は己の体そのものを武器とする異能者だからである。
登山者が背負うような、立ちはだかる困難を乗り切る為の大げさな荷物は、
元より必要はないというわけだ。
「出発前にこれだけは渡しておく」
それでも、氷室にも一つくらいは事前に用意してきた物があったようで、
彼女はゴソっとポケットの中を弄ると、やがて小型の黒いチップのようなものを海部ヶ崎に投げ渡した。
「これは?」
「それを襟元にでも胸にでもつけときな。単純な無線になる。
向こうへ着いたら恐らく互いに単独行動をとることになるだろうが、
そうなると、いずれ連絡の手段に苦慮することになる。
まさか地図にも載ってないような島で携帯電話が使えるとも思えないしな」
「そうか……私達に念話が使えるわけではないからな。
互いにオーラを探り合って定期的に落ち合うにしても、それでは効率が悪いし……」
「それも感知したオーラを識別できるだけの技量があっての話だ。
500人の中から特定人物を探し出せる程の卓越した感知能力はまだないだろ? 互いにな。
だからわざわざ作ってきてやったんだよ。
もっとも、幻影島とやらが、電波や通信の一切を遮断するようなところだったら無意味だけどな。
まぁ……それでも何の手も講じないでおくよりはマシだろう」
納得するように小さく何度も頷きながら海部ヶ崎が胸にチップをつける。
それを見届けて、氷室がジャージの襟を広げる。そこには既に同じチップがつけられていた。
「何か手掛かりが……そう、ピエロや事を仕組んだ黒幕について何か判ったことがあったら、
チップについてる電源ボタンを押して話しかけな。声が私に繋がる」
「会話する時は押せばいいんだな。わかった。
……そうだ、最後に一ついいか? 黒幕を引きずり出して倒した後……魔水晶はどうするんだ?」
その問いに、氷室は広げていた襟を戻し、今度は右腕の裾を捲くり腕輪を出しながら答えた。
「圧倒的なパワーを秘めているとはいえあくまで封印されている状態だ。
常人が手にしたところで何を起こすこともできないだろうが、
かといってどこかに野ざらしにするわけにもいかないからな。
破壊するか、それができなければ、人の手の及ばない海の底深くに沈めるか……。
いずれにせよ、当面は魔水晶をどうするかより、黒幕をどう引きずり出すかを考えるのが先決だ」
「わかっている。言われるまでもない」
「ならいい。……さて、お喋りもここまでにしておこうか」
腕輪中央の赤いボタンに指をかける氷室に応えるように、
海部ヶ崎もまた自らの腕輪のボタンに指をかける。
二人がボタンを押し、その姿を角鵜野市から消したのは、午後六時十分丁度のことであった。
125:氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c
10/11/08 22:57:40 0
「……ここが幻影島か……」
氷室は辺りを見回して、思わず「ふぅ」と溜息をついていた。
海部ヶ崎とは別々の場所に瞬間移動したのか近くに彼女の姿はない。
代わりに目に付くのは鬱蒼とした木々と草ばかり、鼻を突くのは湿気が混じった木々と草のニオイだけ。
野鳥や虫がうるさいほどに鳴いているが、人の声や気配は一切しない。
紛れも無く、ここは島のどこかにあるであろう森林地帯のど真ん中であった。
「あいつと別々の場所に飛ばされることは予想していたことだったが……
それにしても、やれやれ……もうちょっと洒落た場所に出たかったね」
肩をすくめて思わず笑止顔の氷室。
そこに、突如として野鳥や虫とは違う機械的な音が「ピーピー」と鳴り響く。
氷室は音の出所には直ぐに気がついた。腕輪が鳴っていたのだ。
「……?」
何かと腕輪に視線を向けた時、これまでの機械音とは違う明らかな人の声がその腕輪から発せられた。
「異能者466番─ようこそ幻影島へ。私の名は『ワイズマン』。この島の主である─」
その声はピエロのように性別すら定かではない変声機を使ったようなものではなく、
生々しいほどに低く野太い、直ぐに男のものであるとわかる声であった。
(『ワイズマン』……? こいつがピエロの言っていた主人か?)
恐らく、島に飛ぶと腕輪に録音されていた声が自動で再生されるようになっているのだろう、
こちらの反応にかかわりなく、ワイズマンと名乗る男の声はただ一方的に要件だけを告げる。
「君たちをここに呼んだ理由は既に承知していることと思う。
故に、早速だが闘いのルールを説明しよう。
一つ目、バトルは今夜の午前0時をもって開始とし、それまでは一切の戦闘を禁ずるものとする。
二つ目、闘いの方式は“バトルロイヤル”。バトルは、君たち異能者が最後の一人になるまで続けられる。
以上の二つがルールである。
二つ目のルールにあるように、バトルは君たちの中から勝ち残った一人が決まるまで続く。
従って何日か、あるいは何週間かの長期戦を覚悟してもらうことになる……が、案ずることはない。
この島には1万人が1ヶ月暮らしていけるだけの新鮮な食料が蓄えられている。
島のあちこちに放棄された家屋を調べてみるといい。君たちが飢えないほどの食料が見つかるはずだ。
次に、注意点を二つ。
賢明な君たちなら既に察している事と思うが、一応、説明しておこう。
一つは闘いが終わるまでは誰一人としてこの島を抜け出すことはできないということ。
この島は私のオーラが作り出した、円形の防御膜(バリアー)に包まれている。
私の許可なしには誰もこの島に立ち入ることはできない。
それと同じく、私の許可なしにこの島から抜け出すこともまたできないのだ。
そしてもう一つは、私の正体を探ろうとしたり、逆らおうなどと妙な気を起こさないこと……。
ルールに反したり私への反逆を露にした者には容赦なく“死”を与えるであろう。
決して逃れることなどできない、完全なる死を……。
さて、理解していただけたかな?
それでは、君たちの健闘を祈る……。ククククク……存分に殺し合ってくれたまえ」
「ブツ」─という音と共に、腕輪からの声が切れる。
(フッ、逆らった死か。ま……そんなこったろうとは思ったけど)
思う氷室の周囲に、また声が響いたのはその直後だった。
だが、今度のそれはワイズマンのものとは違う、女性のもの。
「私だ。氷室、今どこにいるんだ?」
声の主は海部ヶ崎であった。
126:氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c
10/11/08 23:05:10 0
襟元につけられたチップに向かって氷室は口を開く。
「森の中だ。島のどこに位置するかはわからない」
「私はどうやら山の頂上にいるらしい。太陽の方角から見て、恐らく島の北だと思う。
今夜0時にバトルロイヤルを開始すると言っていたから、島を探索するのも今の内だな」
「……あまり活発に動き回らない方がいいかもな。
感じるだろ? 私らの他に、でかいオーラを持つ奴が既に何人かいる。
中にはやたら攻撃的なのもいる。もし目をつけられたら厄介だ」
「……そういえば大きなオーラが多いな。彼らも巻き込まれた側だ。戦闘は極力避けたい」
その点には氷室も同感であった。
彼らを倒す自信がないわけではない。むしろ誰でも倒せるという自信すらあったろう。
だが、倒すべきは彼らではなくワイズマンなのである。
故に無意味な戦闘は避けておくことに越したことはないのだ。
「まぁ、必要以上に消極的になる必要もまた無い。自由にすればいい。
私は開始までオーラを抑えてこの場に留まる。体力をあまり消費したくないからな」
「わかった。では、私はしばらく注意して探索をしてみよう。
何かわかったことがあったらまた連絡する」
そう言って、海部ヶ崎は通信を切った。
再び氷室の周りが小動物の鳴き声に包まれる。
氷室は上を見上げると、強く地を蹴った。
たった一蹴りで十メートルほどの高さまで氷室の体が舞い上がる。
そして滑らかな動きで大木の太い枝に足を降ろした彼女は、
そのまま腰を下ろし、枝の上に足を伸ばして幹に寄りかかる格好で腕を組んだ。
「探索はお前に任せる。私は休める時に休んでおくさ」
ぽつりと独りごちながら氷室は目を閉じ、やがて意識をも閉じていった……。
【氷室 霞美:島の南東の森林地帯で仮眠を取る。現時刻PM6:30】
【海部ヶ崎 綺咲:同時刻、島の北の山で探索を開始する】
【敵のボスの名は『ワイズマン』と判明。】
【幻影島:島の大きさは角鵜野市のおよそ1.5倍ほど。
中央に市街地、南東に森林地帯、中央から北にかけてに田園地帯、北東と南西に山林地帯がある。
島には多くの建物や施設があるが、その悉くは放棄されてからかなりの年月が経ったような廃墟。
ただし、建物では水も使え、大量の食料が備蓄されていたりするので食事には不自由しない。
※まとめサイトに島の地図をアップしておきました。参考までにどうぞ。】
127:神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk
10/11/09 00:14:48 0
「チッ、もう余り時間がないな…。
いっその事、少しでも早めに行って島の様子でも確認しておくか…?」
菊乃は占い師のことは諦め、市街地の外れにある廃ビルの屋上にいた。
現在の時刻は午後6時30分。島に転移するまで残り30分程だった。
先程のコンビニに再度立ち寄り、おにぎりとお茶を購入、早めの夕食を摂っていた。
「このまま待ってもどのみち島に飛ばされるだけ…。
どうせ行くならこっちから乗り込んでやるくらいの気概は見せてやるか」
再度腕輪を見て、中央の赤いボタンを確認する。
「確かこいつを押せばいいんだよな。
しかし島か…。人が住んでる…訳はないよなぁ。
食料とかはどうすんのかね…?自分で取れってか?」
島に着いてからの事を軽く考える菊乃。
もとより放浪者である彼女は、野宿なども慣れていたためそれでも良かった。
「…あれこれ考えても仕方ないか。うーん、っと。さって、行きますか!」
一つ大きく伸びをして、目を閉じて腕輪のボタンを押す。
そして神宮 菊乃は角鵜野市から姿を消した。
「ここは…?もう幻影島とやらに着いたのか?」
目を閉じていた一瞬の間に周囲の景色は一変していた。
そこは今までいたビルの屋上ではなく、朽ち果てた建物の中だった。
正面には沢山の壊れかけた長椅子が規則正しく並んでいる。
背後には腰から下がなくなったマリア像と、割れたステンドグラスが見える。
「どうやらここは教会のようだね…。人は…いないみたいだな。
しかしどんだけ放置されてたのかね?ひどい荒れようだ。
ま、建物としてはまだ使えそうだし、暫く拠点にさせてもらおうかね」
そう言うと、手近な長椅子にゴロリと横になり、天井を仰ぎ見た。
この角度ならば、背もたれのお陰で入り口から菊乃の姿は見えない。
「これからどうなんのかね。島に何人いるのかも分かんねーし…。
とりあえず今の内に休んでおくかね…」
目を閉じて眠ろうとした瞬間、腕輪から機械音が鳴った。
「あん?アラームか何かか?」
訝しげに腕輪を見た瞬間、その腕輪から声がした。
「異能者97番─ようこそ幻影島へ。私の名は『ワイズマン』。この島の主である─」
128:神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk
10/11/09 00:15:40 0
(『ワイズマン』…こいつがピエロの言ってたご主人様とやらか?)
明らかにピエロの機械音声とは違うれっきとした人間の声に、ピエロの言葉を思い出す。
「おい、お前は何モンだ。何でこんなことをさせる?」
呼びかけてみたが、返ってきたのはこちらの質問の答えではなかった。
「君たちをここに呼んだ理由は既に承知していることと思う。
故に、早速だが闘いのルールを説明しよう。
一つ目、バトルは今夜の午前0時をもって開始とし、それまでは一切の戦闘を禁ずるものとする。
二つ目、闘いの方式は“バトルロイヤル”。バトルは、君たち異能者が最後の一人になるまで続けられる。
以上の二つがルールである。
二つ目のルールにあるように、バトルは君たちの中から勝ち残った一人が決まるまで続く。
従って何日か、あるいは何週間かの長期戦を覚悟してもらうことになる……が、案ずることはない。
この島には1万人が1ヶ月暮らしていけるだけの新鮮な食料が蓄えられている。
島のあちこちに放棄された家屋を調べてみるといい。君たちが飢えないほどの食料が見つかるはずだ。
次に、注意点を二つ。
賢明な君たちなら既に察している事と思うが、一応、説明しておこう。
一つは闘いが終わるまでは誰一人としてこの島を抜け出すことはできないということ。
この島は私のオーラが作り出した、円形の防御膜(バリアー)に包まれている。
私の許可なしには誰もこの島に立ち入ることはできない。
それと同じく、私の許可なしにこの島から抜け出すこともまたできないのだ。
そしてもう一つは、私の正体を探ろうとしたり、逆らおうなどと妙な気を起こさないこと……。
ルールに反したり私への反逆を露にした者には容赦なく“死”を与えるであろう。
決して逃れることなどできない、完全なる死を……。
さて、理解していただけたかな?
それでは、君たちの健闘を祈る……。ククククク……存分に殺し合ってくれたまえ」
一方的にそれだけ告げると、通信は切れた。
どうやら島に着いた瞬間に自動再生されるだけの音声のようだ。
(映像じゃないから姿は見えなかった。
と言うことはピエロ=ワイズマンと言う線はまだ捨てきれないか。
…とりあえず食料と水を探すか)
教会の中を探索する。
すると、奥の小部屋の中にペットボトルの水と袋につめられた食料があった。
「これだけありゃ当面飢え死にすることはないな。それにしても気前がいいねえ、ワイズマンとやらは。
そんなにアタシらに殺し合いをさせたいのかねえ…?そんなことしてあいつは何か得があるのか?
目的がはっきりしねえな。…ま、そのうち分かるか」
先程の長椅子に横になり、今度こそ眠る為に目を閉じる。
開始時刻までまだ少し余裕がある。今の内に体力は蓄えておくに越した事はない。
「そういや結構でかい反応がいくつかあったけど、そいつらで潰し合ってくれねえかな…?
自分でやるのは目立つし面倒くさいから出来れば避けたいな…」
目を閉じて呟く菊乃。その呟きはやがて静かな寝息に変わった―。
【神宮 菊乃:島の西にある教会にて仮眠中。現在時刻PM7:00】
129:氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c
10/11/11 01:36:53 0
ゴロゴロゴロ……。
突然、空があげた低い呻り声に、氷室は起こされた。
目を開ければそこは既に太陽の光などない漆黒の闇夜。
月すらも闇に等しい暗さを持った黒雲に覆われ、その輝きを視認することはできない。
ふと腕時計に目をやる。時間は午後11時58分。
バトルロイヤルの開始まで残り2分にまで迫っていた。
「いい目覚ましだ。どんな寝ぼすけでも時間内に起こせる。ワイズマンが気を利かせたのかな」
氷室が軽くあくびをしながら体を起こしかけると、
そこに、まるでタイミングを計ったように海部ヶ崎の声が届く。
「聞こえるか氷室? お前の方で何かわかったことはあるか?」
「いや、何もない。そっちこそ何か手掛かりのようなものはあったのか?」
「いや……。だが、島を少し歩いてみて、湖とどうやら街があることがわかった。
湖は西に、街は島の中心から南にかけて広がっている。
私は今、湖近くの廃校にいるが、ここから見た限りではやはり街も無人のようだ。
一体いつから放置されているのかどの建物もボロボロだ」
「西に湖、中央から南にかけてゴーストタウンか……そうか、わかった」
「っと……そろそろバトルの開始時刻だ。お前も何かわかったら連絡してくれ。それでは」
会話が切れると同時に、氷室は広げた襟を戻し、立ち上がって枝の上に直立する。
何とはなしに天を見上げると、その鼻筋にポツリと一滴の雫が落ちた。
ポツン、ポツン。落ちてくる雫は次第に数を増やし、瞬く間に本格的な雨となって全身を叩いた。
「異能者諸君、いよいよ待ちに待ったバトルの開始だ」
腕輪からワイズマンの声が再生される。
まるで、雨が闘いの狼煙代わりとでも言うかのように。
「目覚めにはシャワーってことかい。とことん気が利くじゃないか」
氷室は、雨で乱れた髪をかきあげながら恨めしそうにはき捨てると、
やがて果てしなく続く森林の先を見据え、枝を蹴った。
遥か先の木の枝に飛び移り、また間髪入れずに別の木へと飛び移っていく。
あたかも空を翔るようなその様は、闇夜を飛翔する梟のようにも見えた。
「何を探るにしてもとにかくここを抜けなければ話にならないからな。
しかし、自分が島のどの方角にいるかもわからないとは……
せめてコンパスでも用意しておくんだったよ」
舌打ち代わりというように指をパチンと鳴らして、氷室は森林の奥深くへと突き進んでいった。
……しばらく森を行くと、ふと何かが視界を横切った気がした。
飛び移った枝の上で一旦足を止め、その方向を見る。
周りは暗闇、しかも雨のせいもあって初めは黒い何かにしか見えなかったが、
そのうち、雷鳴と共に空に瞬いた稲光がその正体をはっきりと映し出した。
「鳥居か……?」
氷室の目に映ったのは黒い鳥居であった。
果てしなく木々の絨毯が続く中で、その一角だけぽつんと鳥居が佇んでいるのだ。
無視してもよかった。しかし、何か手掛かりがあるかもしれないという思いにとらわれた氷室は、
結局、一旦進路を変更してそこに向かうことにするのだった。
130:氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c
10/11/11 01:50:37 0
間近で見た鳥居はかなり苔むしていた。
手入れがされなくなってかなりの年月が経っているようだが、
どうやら、それは何も鳥居だけに言えることではないようである。
苔むした鳥居を抜けると、同じく苔むした石畳が一直線に続き、その先に建物があった。
それはどうやら神社であるらしいのだが、鳥居と同じように長年放置されたものであるようで、
苔むすどころかボロボロに朽ちているのだ。
「……南之西神社……?」
神社の境内とおぼしきところに掲げられた看板には、薄れかかった字でそう書いてあった。
南之西……それはつまり、南西に建てられた神社ということなのだろうか。
そう単純に解釈しながら、氷室はずかずかと境内に上がり込み、戸を引っぺがして中を見る。
……中はゴミやら土やらが散乱しているだけで、手掛かりのようなものは何もなかった。
それどころか建物にはあるはずの食料すら見あたらないではないか。
「チッ、骨折り損じゃないか」
今度こそ舌打ちし、もうここには用はないというようにくるりと踵を返す。
だがその時……
氷室は「ベチャベチャ」という何かを嘗め回すような耳障りな音に気付き、進めかけた足を止めた。
視線をその方向に移すと、暗闇の中で黒い物体が蠢いている……。狸か何かだろうか?
いや、じっと目をこらすと、どうやらそれよりも大きい何かが、何かを貪っているようである。
「……」
「ドン!」と氷室が床を踏み叩く。
すると、その黒い何かはピタリと動きを止め、やがてゆっくりと腰を上げた。
その大きさは高さにして1m90cmはあるだろうか。
直立できる点から見て少なくとも熊のような哺乳動物には違いない。
だが、直後に瞬いた稲光が、それが熊ではないことを氷室に知らしめた。
ガラガラガラ……ドーン!
雷鳴が轟き、稲光が建物の中に差し込む。
「──」
その瞬間、氷室は見た。光に照らされた黒い動物の正体を。
それは“人間”─。口の周りに食料のカスと涎をくっつけ、
瞳孔が開いたような不気味な眼差しをした長身のスキンヘッドの男だったのだ。
この島にいるということは異能者に違いない。
しかし、男の死んだような目つきと、知性の欠片すら感じさせない動物のような気配は何だ。
見れば、男の周りには食料が細切れになって散乱している。
恐らく、この建物に用意されていた食料を無造作に食い漁ったのだろう……
それこそ熊や狸のような野生の動物の如く。
「……」
異常な光景に流石の氷室も咄嗟に言葉を失う。
「ぐじゅるるるる」
そんな氷室に、男は不気味に咽を鳴らしながら……突然、飛び掛った。
「─!」
氷室は思わず我が目を疑った。
いつの間にか男が至近距離にまで到達し拳を振り下ろしていたのだ。
咄嗟に腕で拳をガードする氷室。
しかし、男の拳撃はそのガードごと彼女の体を吹き飛ばし、背後の壁を貫いて外に放り出した。
「チッ!」
空中で体勢を変えて石畳に着地し、背後を数メートル滑って鳥居の前で何とか止まる。
「ぐげ、げげげ」
男は蛙のような声を発しながら笑っていた。
「なんだ……こいつは」
氷室はビリビリとしびれる腕を抑えて、
視線の先で佇む得体の知れない“生物”を見据えた。
【氷室 霞美:南西の神社にて謎の男と戦闘に。現時刻AM12:05分。『一日目』開始】
131:神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk
10/11/11 19:23:20 0
近くで見ると、意外と小さいことが分かる。
どうやらここもあの教会と同じく、長いこと放置されていたようだ。
いたる所が壊れている。
「さって、まずは軽く挨拶かな?『重力増加(グラビテーション・プラス)』」
廃校の外壁に触れて呟く。
すると廃校の中から何かが落ちるような音が連続して聞こえる。
重力を操作し、廃校の中の重力を5倍にしたのだ。
そのため、水銀灯などの重いものは耐え切れずに落下しているのだろう。
「さ、とりあえず行きますか。人間だといいけどなぁ…」
一人ごちて、廃校に足を踏み入れる。
外観同様、中もひどい荒れようだった。
窓ガラスは割れ、壊れた椅子や机などが散乱している。
132: ◆21WYn6V/bk
10/11/11 19:24:39 0
書きかけで投下してしまいました。無視してください
133:神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk
10/11/11 19:49:02 0
暗い教会の中で菊乃は目を覚ました。外からは雨音が聞こえてくる。
「雨、か。これも演出なのかね…。おっと、今何時だ?」
右腕に内蔵されている時計を確認する。
「ありゃ、寝過ごした。0時過ぎてんじゃん…。
てことはもう始まってんのか?」
一先ず腹ごしらえを優先する。
流石に教会だけあって、食糧の備蓄はかなり多い。
―とは言っても他の建物を見たわけではないので比較のしようがないが。
火を熾して暖を取る。そのついでに干し肉を軽く炙る。
「ん…まぁ味はそこそこ、だな。保存食みたいなもんだから期待するのもどうかと思うし…。
及第点ってやつだな。とりあえず量はあるんだ。誰か来ない限りは大丈夫だろ。
万が一来ても移動すりゃいいだけの話だしな」
食事を終え、教会の外に出る。
中で聞いた音の通り激しい雨が降っていた。
「おー降ってるなぁ。ま、移動にはもってこいだな。
こんだけ降ってりゃ雨音が足音を消してくれる。
んじゃあ行きますか…よっこらせっ、と」
垂直跳びの要領で跳躍する。その高さは凡そ20m程。
常人ではありえない数値だが、重力を操る菊乃にとっては造作もなかった。
一瞬の内に一通り見回して着地する。
「んー、結構やってるやつが多いなぁ。迂闊に動かない方がいいか?
…いや、一先ずまともな人間を探すか。
アタシが97って事は少なくとも100人以上はいる筈だよな。下手したらもっとか…?」
呟きながら北西に向けて走り出す。
やはりその速度は一般の域を遥かに超えている。
しかも重力操作で自身を軽くしている為、殆ど無音に近い状態で走っている。
走りながら左目に内蔵されたサーモセンサーで周囲を探る。
「異常なし、と。意外と会わないもんだなぁ。もう少し移動してみるか」
やがて湖に差し掛かり、それを横目に見ながら湖畔を走る。
「しかし本当に100人もいるのかね…?ちょっと怪しくなってきたな。
もしくはこの島が異常に広いとか―」
言葉を途中で切って立ち止まる。サーモセンサーに反応があったのだ。
どうやら反応の主は正面に見える建物―学校に見える―にいるようだ。
「ようやくお出ましかい。まともな奴だといいんだけどねえ。
いきなり襲い掛かってきたら…とりあえず殴るか」
小さく呟いて、建物に向かって歩き出した―
134:神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk
10/11/11 19:55:22 0
近くで見ると意外と小さいことが分かる。
どうやらここもあの教会と同じく、長いこと放置されていたようだ。
いたる所が壊れている。
「さって、まずは軽く挨拶かな?『重力増加(グラビテーション・プラス)』」
廃校の外壁に触れて呟く。
すると廃校の中から何かが落ちるような音が連続して聞こえる。
重力を操作し、廃校の中の重力を5倍にしたのだ。
そのため、水銀灯などの重いものは耐え切れずに落下しているのだろう。
「さ、とりあえず行きますか。人間だといいけどなぁ…」
一人ごちて、廃校に足を踏み入れる。
外観同様、中もひどい荒れようだった。
窓ガラスは割れ、壊れた椅子や机などが散乱している。
もっとも、散乱しているものの半分は今の技のせいでもあるのだが。
「さて、どこにいるのかねえ…」
暫く歩き回ったが、それらしい影は見えない。
それどころか、人の気配すら感じない。
「あ、さっきので動けなくなってるのかも。もっかい見てみるかな」
再びサーモセンサーを起動する。すると、僅かだが反応があった。
「お、みっけ。やっぱり動いてないところを見ると動けないか、待ち伏せか…。
取り敢えず行ってみっか」
反応に向かって歩き出す。そして一つの教室の前にやってきた。
「ここか。んじゃ―」
壊れかけのドアに手をかけ、一気にスライドさせる。
するとガタンッ、という音と共にドアは外れ、次いでバターンという音を立てて勢い良く倒れた。
「ありゃ、壊しちゃったよ。ま、いっか。どうせ使ってないんだし」
壊れたドアの事は気にせず、教室内へ足を踏み入れる。
「頼もー!」
勢い良く一歩を踏み出した瞬間、左から何かが迫ってきた。
それが何かを確認する前に、菊乃は体を前に投げ出した。
その際、背中を斬られていたが、痛覚のない菊乃が気がつくことはなかった。
前転し、体の向きを変えて入り口の方を見る。
そこには刀を構えた人間が立っていた。暗いので顔が見えず、性別までは分からない。
「誰だ」
目の前の人物が問うてきた。声色から察するにどうやら女のようだ。
刀をこちらに向け、戦闘の意思を見せている。
煙草を取り出し、火をつけてからその人物に向かって声をかけた。
「あー取り敢えず待ってくれねえか?話し合いの余地があるならそうしたいんだが…。
アタシは神宮 菊乃。こっちに戦闘の意思はねえよ。
あー、さっきのはすまんかった。誰だかわかんねえから取り敢えず能力使っただけだ」
【神宮 菊乃:北西の廃校にて海部ヶ崎と接触。現在時刻AM12:30】
135:氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c
10/11/13 01:08:55 0
「げげ、げへぇぇえええええっ!!」
不気味に呻り声をあげて男は滑空するように石畳を滑る。
速い─しかし、一度そのスピード見た氷室には、今度はしっかりと動きが見えていた。
「フン……」
向かってくる男に怯むことなく堂々と仁王立ちし、体中にオーラを展開する。
そして、眼前にまで迫った男が繰り出しだ拳を、
足首一つ捻るだけの最小限の流れるような動作で綺麗にかわし、
その際にカウンターの膝蹴りを隙だらけの男の腹目掛けて放った。
「げっげげげ」
しかし、男はそれをまるで読んでいたかのようにくるりと宙に舞ってかわすと、
着地した位置からすかさず再度加速をかけて氷室の側背に突っ込んだ。
氷室も瞬時に向き直り、男の猛烈な攻勢に対処する。
(柔らかい動きだ。戦闘慣れしているな。だが─)
力任せの、それでいて速く正確な拳撃の嵐を柳のような柔軟な手首で流しつつ、
刹那に生まれる隙を見逃さず今度は正確に体に叩き込んでいく。
ドンッ! ドンッ! ドンッ!
素早く重いボディブローが音を立ててヒットする。
並の異能者であれば間違いなくノックアウトされるだけの威力があるだろう。
しかし、男はまるで蚊が止まっているとでもいうかのように、表情一つ変えない。
そればかりか胸元に飛び込んでいた氷室に逆にカウンターを放っていた。
氷室の首筋に向けて手刀が迫る。
死角である背後からの反撃─氷室は一瞬の気配から背後の手刀に気付き、
瞬時に横にステップしたが、反応の僅かな遅れから完全な回避には至らなかった。
右の頬が裂かれ細かな血の飛沫があがる。
「─!」
頬から出る血に一瞬視線を向けて、氷室は直ぐにその逆方向に写った残像に目を向けなおした。
ステップした方向から手刀が近付いてきている。
男は氷室がかわしたとみるや、すぐさま再度の追撃の一手を打っていたのだ。
「チッ!」
もはやかわせるタイミングにはない。
そう判断した氷室は、フリーの足を振り上げて力強く男の胸を蹴り、
その反動で自身を後方に突き放して手刀の軌道から何とか離れた。
空中でくるんと一回転して着地し、キッと男を見る。
「げっげっげ」
涎を垂らしながら不気味に愉悦する男。
本来なら肋骨が砕けていても不思議はないほどの蹴りなのだが、
表情からはまるでダメージを感じさせない。
(まるで分厚いゴムを殴ったような感触だった……体が相当に鍛えられていることは間違いない)
手足の感触からそう分析しながらも、氷室は異常とも思えるタフさを妙に感じていた。
(しかし、それだけではあれだけの衝撃は完全に防げないはずだ。
にも拘らず、奴は平然としている……。まさか……痛みを感じていないのか……?)
「……お前、何者だ?」
すっくと立ち上がり脅すような声色で訊ねる。
「げげ、げっげ」
だが、男は笑うばかりで答えようとしない。
あるいは、答えられないのかもしれない……。
言葉を理解していないのか、先程から男の言動は何かに憑り依かれたようなそれであるのだ。
「聞く耳もたず……あるいは、理解できる脳もないということか……。
話し合いで済むならと思ったが、それもできないとあらば仕方ないな」
溜息まじりに呟き、ふっと目を瞑る。
そして、彼女が再び目を開いた時、まるで物理的なプレッシャーが生じたように周囲の木々が慄いた。
136:氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c
10/11/13 01:20:11 0
「死んでもらうよ」
冷たささえ感じられる声で言い放つ氷室の目は、
これまで若干の丸みを帯びていたものから、鋭く尖った冷血なものへと変わっていた。
何人もの異能者を平然と屠ってきた、カノッサ時代のそれへと……。
「ぎっ、ぎぎぎ……ぎぃぃぃいいいイイイイイっ!!」
それに触発されたように寄声を発して男が飛び掛る。
だが、今度の氷室は“受け”に回ることはなかった。
自分も地を蹴り、自ら男の間合いへと飛び込んだのだ。
「ぎぃぃいいいっ!!」
男が向かってくる氷室目掛けて両拳を力任せに振り下ろす。
それを、一瞬男が硬直したかのように見えるほどの素早い動作でかわして、懐に潜り込む。
次の瞬間─振り続ける雨が一瞬大きく弾けるほどの衝撃が周囲に走った。
突っ込んだ勢いのままに放たれた氷室の肘鉄が、
それも今度は正真正銘の本気の一撃が、男の胸の中心部に炸裂したのだ。
その衝撃は男を背後に吹っ飛ばして鳥居に叩きつけ、
尚且つ、石でできた頑丈なその柱を「ガラガラ」と崩壊させるほどだ。
それでも、男は破片の山の中から、やがてむくりと体を起こした。
(今度こそ肋骨を砕いたはずなのにまだ立ち上がれるのか……やはり痛みを感じていない。
……けど、ダメージはどうかな?)
「フン」と鼻を鳴らすと、やがて予想通りに、男は大量の血反吐を吐き出してみせた。
「げへっ……ええぇぇっ!!?」
「痛みを感じていなくても体の方は正直ということさ。
肋骨を砕き、内臓にまでダメージを与えたんだ。悲鳴をあげて当然だ」
言いながら、氷室は呆れたように息を吐いた。
……笑っている。血を吐きながらも彼は愉悦の表情を保っているのだ。
「げっ、げへへへへ」
「お前は、そのことには死ぬまで気付きそうにないな。いや……死さえも気付かないかもな」
「げひゃぁぁぁあああああっ!!」
またも寄生を発して飛び掛ってくる男を、氷室は再度仁王立ちして迎えると、
直線上の攻撃を軽くかわしながら踏み込んできた右足を踏み付け動きを固定し、
ボディーにまたも鋭い肘鉄を一撃─かつ、鋭く振り下ろした拳をもって右膝を粉砕した。
「鍛え上げられた肉体、柔軟な動き、並の異能者以上のスピードとタフさ、それと根性。
それは褒めてやるよ。けど、少しばかり頭の回転が足らなかったな。
─そう何度もワンパターンが通用するか。お前如き、能力を使うまでもない」
そう言い放ちながら、ヒュッとジャンプし数メートルの間合いを取る。
男は氷室の移動位置を視認すると、相も変わらずの不気味な笑みを続けて歩み出した。
膝を砕かれているにもかかわらず、足を引きずる動作もなく、自然な歩調で。
「やれやれ……これだけ狂(イカレ)ている奴も初めてだ。
お前を殺すには、首を折るか飛ばすしかなさそうだな。……次で終わらせるよ」
氷室を取り巻くオーラが一層充実する。
「ぎ、ぎぎぎぎ、ぎひひへへへへへ」
それを見て、男は血で真っ赤に染まった口をガバッと開けて、不気味な声を漏らした
【氷室 霞美:右の頬に切り傷を負うが、戦闘は優勢。】
137:鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg
10/11/13 14:55:38 0
「はぁ…どうしてこんなことに…。どうせ僕なんて一回戦敗退だってのに」
鎌瀬犬斗は島をとぼとぼ歩いていた
「もうバトルの始まる0時を過ぎてるし…。まぁ、まだ誰とも会ってないだけ幸せか…」
ため息を吐きながらネガティブなことを呟く犬斗
「とりあえず島の探索しよう…。コンパスと携帯GPSはっと…あった」
食事を済ませて病院から出て、コンパスとGPSで島の探索をする
「結構建物多いな…。北東に洞窟か…。どうせ僕が行っても即死だろうけど…」
【鎌瀬犬斗:病院の周りを探索中】
138:海部ヶ崎 綺咲
10/11/13 23:46:05 0
>>134
「誰だ」
開かれたドアから現れる何者かを背後から斬りつけた後、
すかさず朱に染まった切っ先を向けて殺気の篭った声を放つ海部ヶ崎。
「あー取り敢えず待ってくれねえか?話し合いの余地があるならそうしたいんだが…。
アタシは神宮 菊乃。こっちに戦闘の意思はねえよ。
あー、さっきのはすまんかった。誰だかわかんねえから取り敢えず能力使っただけだ」
その何者かはくるりと振り返って答えた。
老婆のような白髪をしているが、その顔つきや体つきはまだ若い女のそれである。
確かにギャップを感じる風貌ではある。
しかし、海部ヶ崎にはそのこと以上に、怪訝に思うことがあった。
それは背中を斬りつけられたにも拘わらず、まるで意に介す様子がないということである。
痛みに耐えて平然とできる者なら何人といよう。
しかし、痛みに耐えるその“気”すら感じさせないのは、どう考えても妙なのだ。
(……いや、今はそれはいい。問題はこの者の言が真か否かだ)
刀をヒュッと横に振って刃に滴る血を振り払い、海部ヶ崎は口を開く。
「フッ、順序が逆だな。仕掛けてきたのはお前の方だ。
対話を求めるのであれば、まずは私に仕掛けた“術”を解いてからだろう」
顔にこそ出していないが、海部ヶ崎は先程から体にズシリと圧し掛かるように重みを感じていた。
動けないほどのものではないが、それでも一挙一動における疲労は普段とは比べ物にならない。
彼女が異能者でなければ、とっくに体にまとわりつく重みに耐え切れず、潰れていることだろう。
「私が刀を納めるのはその後だ。さぁ、返答は如何に?」
外で瞬く稲光を映して、銀色の切っ先が妖しく光った……。
【海部ヶ崎 綺咲:術を解けと要求】
139:神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk
10/11/14 12:33:09 0
>>138
「フッ、順序が逆だな。仕掛けてきたのはお前の方だ。
対話を求めるのであれば、まずは私に仕掛けた“術”を解いてからだろう」
「私が刀を納めるのはその後だ。さぁ、返答は如何に?」
こちらの自己紹介に対し、斬りかかってきた人物はそう答えた。
外で光った雷光に反射して、相手の得物が露になる。
(成程、刀、か。右からくれば防げたんだけどな。
しっかしまぁ5倍の重力であれだけの斬撃を繰り出すとは…。
並の異能者なら歩くのがやっとのはずなんだけどねぇ。
こいつも結構な使い手ってことか)
そんな事を考えていた時、相手の刀から血が飛んだことに気がついた。
飛んだ、と言うことはまだ真新しい証拠だ。
(あ、もしかしてアタシ斬られた?)
自分の体を確認する。
(見えるところにないって事は背中か…。また包帯巻くのかよ…めんどくせぇな…。
しかし、今は取り敢えず相手を納得させるのが先か)
「そうだな。口だけで信じてもらおうとは思っちゃいないよ」
そう言うと、指をパチンッ、と鳴らした。
すると廃校全体にかかっていた重力が元に戻った。
「これでいいだろ?それにあんたを殺るつもりならもっと重力を上げてるよ」
そう説明し、煙草を足で踏み消す。
「んじゃ、改めて自己紹介。
アタシは神宮 菊乃。こう見えても16だ。学校は行ってねえけどな。
仲間はいない、って言うか島に来て最初に会った人間があんただ。あんたは?」
海部ヶ崎に自己紹介を促し、それを聞く。
名前、歳、職業、仲間の有無…。しかしその中である単語を聞いた時、菊乃の表情が変わった。
「ひむ…ろ…?まさかあんた氷室 霞美の仲間だって言うのかい?
はっ、こんなところで"あの"カノッサの人間に出会うとはね…。
神様って奴は本当に粋な計らいをしてくれるもんだね」
口調とは裏腹に全くの無表情で話す菊乃。そしてオーラを充実させていく。
「どうやらあんたとは相容れないようだ。悪いがここで潰させてもら―」
そう言いかけた時、再び雷光が煌いた。
そして同時に海部ヶ崎の背後で腕を振り上げている人物も見えた。
「―ッ!横に跳べ!」
菊乃の叫びに遅れること刹那、海部ヶ崎が横に跳ぶ。そして襲撃者の手刀は空を切った。
不意に聞いた事のない声が聞こえてきた。
「おや、見つかってしまいましたか。雷光に救われましたね」
140:神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk
10/11/14 12:33:58 0
どうやら襲撃者は男のようだった。低く通る声で語りかけてくる。
菊乃はそれを無視し、海部ヶ崎の方へ目をやる。
「勘違いすんなよ?アタシはカノッサの人間はこの手で殺してやりたいだけだ。
別にあんたを助けたわけじゃない。獲物を横取りされたくなかっただけさ」
冷たい口調でそう言い放ち、男の方へ向き直る。
「さて、いきなり襲ってきて挨拶もなしかい?あんた何処の誰だい?」
男に向かって問い質す。しかし男は悠然とした笑みを浮かべて言葉を返してきた。
「私が何者か―あなたがそれを知ってどうするのです?
これから死に行くあなたがそんな事を知っても冥土の土産話にもなりませんよ?」
「あ?何言ってんだ?冥土に土産話を持ってくのはお前の方だろ?
…尤も、くれてやる話なんてないけどな」
菊乃も同じような態度で言葉を返す。
「やれやれ…あなたの様に綺麗な女性からそんな事を言われるとは…。
悲しいですねえ。では仕方ありません。死んでいただきましょう」
そう言った次の瞬間、菊乃は自分の感覚を疑った。
男が眼前にいたのだ。動いた気配すら感じなかった。
男の手刀が頭上に振り下ろされる。
「チッ!」
菊乃は咄嗟に右腕でガードした。
キィンッ、と言う甲高い金属音を残して菊乃は後方へ跳び退った。
「面白いものをお持ちですね。さしずめ―む」
今度は男が黙る番だった。男の視界から菊乃が消えたのだ。
否、実際には消えたわけではなく、高速で動いたに過ぎない。
「『重力減少』(グラビテーション・マイナス)」
囁くように呟くと、一瞬で男の背後に回り、脇腹に強烈な蹴りを放った。
男は避けきれずに吹き飛んで教室の壁に激突し、隣の教室を転がっていた。
「人体急所に打ち込んだ。普通の人間ならまともに歩けないはず―」
男が飛んで行った方向を見る。
するとそこには、起き上がるどころか既にこちらに向かって歩き始めている姿が確認できた。
その足取りにふらつきなどは一切ない。しっかりとした歩調だ。
「あれが効かないとなるとただの人間じゃねえな…。
仕方ねえ、敵の敵は見方ってやつか…。おいあんた、ちょっとばかし手伝ってくれよ。
どうやらあいつを片付けるのが先のようだ。あんたとやるのはその後だな」
海部ヶ崎に向かって少し不機嫌そうに告げた。
【神宮 菊乃:廃校にて謎の男と戦闘に。
氷室の名前を出したことにより海部ヶ崎を元カノッサの一員と思い込むが、一時的に共闘を申し出る】
141:氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c
10/11/14 18:02:23 0
「笑ってないで早くきたらどうだ。それとも、こっちから行って欲しいか?」
水溜りにバシャンと足を踏み入れる。
足首の辺りで余るジャージの裾がそれで濡れたようだったが、
もはや全身を雨でぐっしょりと濡らしている氷室が気にすることはない。
ただ、全身から針のような鋭い殺気を放ち、間を詰めていく。
「ぎっ、ぎぎぎぎっ……」
その圧倒的な迫力に、初めは心なしか男も動揺しているようであったが、
尻に火がついたことを認識したことで開き直ったか、
やがて全身から消えかかっていたオーラを再発現させて雄叫びをあけた。
「ぎひひひヒヒヒヒヒヒヒィィいいやぁぁぁぁぁぁアアアアアアアッ!!!!」
同時に、水飛沫をあげて飛び掛る。
─これまでにないスピードで瞬く間に氷室との間を詰めた男は、
いつの間にか倍以上にまで膨れ上がった腕を上げて、一気に振り下ろした。
ドンッ!!
強い衝撃音が響くと共に、拳の打ちつけられた石畳が大きく弾け、
一瞬の内に直系五、六メートル程の小型のクレーターを穿つ。
直撃を食らえば如何な氷室といえど即死は免れないところであろう。
……そう、あくまで直撃すれば、だ。
「─言ったろ? ワンパターンだってな」
氷室は男の頭上の空間を逆立ちの体勢で舞っていた。
振り下ろされた瞬間、小さくジャンプしてかわしていたのだ。
嘲笑するかのような頭上からの声に男は思わず顔をあげる。
しかし、それこそが氷室の狙いであった。
敢えて空中高くジャンプしなかったのは宣言通り「次で終わらせる」為なのだ。
空中で、男の額と顎をガシッと掴む氷室。
掴んだ手にグッと力を込めた彼女は、冷たい声で吐き捨てた。
「お前のような単細胞は扱いやすくて助かる。バイバイ」
両手がそれぞれ反時計回りに回転する─。
瞬間、骨が砕ける鈍い音を発して、男の顔は上下180度さかさまに回った。
首の肉が裂けて真っ赤な血が天に向かって噴き上がる。
氷室が降り立ち、それと同時に男の体がバタリと地に倒れる。
それは言うまでもなく勝者と敗者が決した瞬間であった。
「さて─」
くるりと背後を振り返り、首をかつてない方向に曲げてうつぶせに伏す男を見る。
普段の氷室であれば敵の死を改めて確認することなどないのだが、
今回ばかりはそうもいかないのだろう。何故なら、それだけ敵が異様だったのだから。
「まさかゾンビのように復活することもないと思うが……」
一抹の不安を払拭するように呟きながら男に近寄り、足元で止まって男をじっと見下ろす。
ピクリともしない男の体からは、既にオーラは視認できない。感知もできない。
気を失っているだけであればありえないことである。
つまり、男は完全に死んでいるのだ。
「……やれやれ、私も存外心配性だな……ん」
氷室は、思わず安堵するように吐きかけて、直後にふと目に付いた“もの”に息を止めた。
「これは……」
それは捻じ曲がった首筋に刻まれた『CO』の文字に『3』の数字重なったタトゥー……。
変わってはいるが、誰もが特に気にかけるようなものではない。
しかし、彼女だけはそのタトゥーの意味を良く知っていた。
何故なら、『CO』とは今は無き“カノッサ機関”を意味するものだからである。
142:氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c
10/11/14 18:14:27 0
それはこの男がカノッサの生き残りであるとの証明ではあったが、
注意しなくてはらないのはカノッサ機関は構成員にナンバーを与える習慣はなく、
しかもタトゥーは下級の構成員のみに刻まれるという点である。
「まさか……だが、しかし……」
タトゥーを持ち、番号を与えられた構成員……それが意味するところを氷室は知っていた。
だからこそ、解せなかった。
何故なら、とっくの昔に“処分”されているはずの存在なのだから─。
「─『狂戦士(バーサーカー)』─……。
『不死の実験』の過程で生み出され、処分されたはずの奴が何故……?」
ザァァァァァァァァ……。
まるで誰かに訊ねるように呟いても、当然ながら返ってくるのは無機質な雨音だけ。
そもそも、カノッサが崩壊した今、氷室の及び知らぬことを他人が知っているわけもないのだ。
氷室は、一度雨で乱れた髪の毛をかきあげると、改めて男を見据えた。
「たまたま生き残っていた奴が偶然ここに飛ばされてきたのか……? いや……」
男の腕には招待状である黒い腕輪がない。
それが意味することは、ピエロによって招待された客ではないということ。
つまり、初めからこの島にいた、ワイズマン側の異能者ということではないだろうか─。
「ワイズマン、そして狂戦士……。これは、思った以上に事が厄介かもしれないな……」
襟を広げて無線を開く。
しかし、「ザー」とテレビの砂嵐のような音が鳴るばかりで、海部ヶ崎とは一向に通じない。
樹海のど真ん中にいるせいで高い木々に電波を遮断されているのか、
それとも、雨のせいで電波が乱れているのか……
いずれにしても、電波が通じるところまで移動しなくてはならない。
「ここは南東だったな。ということは、北西に進めば街には出るか」
言いながら、氷室は倒れた鳥居に駆け寄ると、苔むしている柱に視線を落とした。
見れば、柱は一面ある方角にだけ生えている。
苔は日に当たるところには生えないもの。つまり、北側に向けて生えるのだ。
「こっちが南であっちが北……すると、北西は向こうだな」
氷室は北西と思われる方角に視線を送ると、やがて朽ちた神社を背にして進み始めた。
様々な疑問を胸に抱きながら……。
一方、同じ頃─
幻影島の地下深くにある大空洞の暗闇の中では、あのワイズマンの声が響いていた─。
「“庭”に放っていたNo.3の生命反応が消えた。どうやら少しはできる奴がいるらしい」
その声に応えるように、続いて変声機を通したような声が響く。
「オッホッホ……お言葉ですが、No.3は所詮カノッサの失敗作ではございませんか。
“我ら”と違って知恵を失い、ただ己が力をぶつけるだけの芸の無い闘い方しかできぬ男……
そんな男を倒したところで、“高い実力”であるとは言い切れますまい……ホーッホッホ」
「確かにな。だが、No.3をわずか数分の攻防で倒した異能者……
466番はワシが求める異能者かもしれん。一体何者か、調査を進めておけ」
「仰せのままに、我がご主人様」
「頼りにしておるぞ『ジョーカー』よ。そして『ジャック』、『クイーン』、『キング』……そなたらもな……」
この時、僅かな光さえない文字通りの漆黒の中で、ワイズマンの声にかしこまる気配が四つ、確かに存った……。
【氷室 霞美:殺害した敵の男がかつてカノッサがつくった『狂戦士』と判明】
【ワイズマンを主人と崇める敵幹部の名前(?)が明らかに】
143:氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c
10/11/14 18:16:33 0
>>130
今更ながらですがこちらでも訂正しておきます。
×南西の神社
○南東の神社
144:氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c
10/11/14 18:34:29 0
>>142
またミス…orz
×柱は一面ある方角にだけ生えている。
○苔は一面ある方角にだけ生えている。
145:鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg
10/11/14 21:16:28 0
「とりあえずどこに行こう」
鎌瀬は悩んでいた
「とりあえずまだ誰にも見つかってない…。なるべく他人に会わないようにしないと…」
鎌瀬は今中学校の辺りまで歩いてきていた
「それにしても暗くて見づらいな…。一応懐中電灯は持ってきたけど…僕の能力で明るさが劣化してるし…」
自信の能力で劣化した懐中電灯の明かりとコンパス、そして携帯GPSを頼りに進んでいた
「…電気屋に行こうかな。そんなに遠くないみたいだし…。明かりが見つかる可能性も高いしね」
鎌瀬は電気屋に向かうことにした
「それにしても本当に誰も居ないな…僕としては嬉しいんだけど。
僕の腕輪のNo.は302で、ワイズマンって人も一万人が一ヶ月間暮らしていける食料が有るって言ってたから、
相当な人数が飛ばされてきてると思うんだけど…」
鎌瀬は不思議に思っていた。かなりの人数が飛ばされてきているはずの幻影島を、そこそこ歩いているのに、誰とも会っていない
これには鎌瀬自信の能力で、彼の感知力が低下していることも関係しているのだが…
未だに鎌瀬が傷を負っていないのをみると、本当に誰にも会ってないと言える
146:鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg
10/11/14 23:34:36 0
「僕が勝ち残る方法と言ったら、誰にも見つからないように行動して、他の人たちが倒し合うを待つことくらいだよね…」
随分消極的な方法で勝ち残りを狙う鎌瀬
「お、電気屋が見えてきた」
電気屋を見つけ、見つからないように祈りながらそこに向かう
(誰にも会いませんように、誰にも会いませんように…)
祈りながら進んで、電気屋の前まで来た。幸い、誰にも会わなかった
「良かった…誰にも見つからなかった」
胸をなで下ろし、電気屋に入る鎌瀬。中は薄暗かった。廃墟なのだろうか
「とりあえず何を持ってい…!?」
油断していた鎌瀬の元に、ロボット…それも攻撃能力の有る物が向かってくる
「やば…!“劣化空間(ネガティブルーム)”…!」
オーラを広げて空間を作り、射程範囲内にロボットを入れ、劣化させる
「うわぁあ…ついに誰かと会っちゃったよ…。どうせ僕なんかが勝てるわけない!」
ロボットの性能を劣化させながらも、敗北を確信する鎌瀬
「攻撃やめ」
ロボットの後ろの方から声が聞こえたかと思うと、ロボットが攻撃をやめて止まっていた
「いやいや、すみません。敵だと思ったもので…。今の能力と口癖…貴方、鎌瀬犬斗君ですね?」
147:鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg
10/11/15 00:00:43 0
「!?」
自分の名前を言い当てられ、狼狽える鎌瀬。だが、次の瞬間轟いた稲光がその人間の姿を露わにする
機械的な眼鏡(ゴーグル)に、技術者が着る服装、そして機械でできた左腕…。鎌瀬はその人間を知っていた
「君は…斎葉巧君…? どうしてここに…?」
「おいおい、そんなに驚くことないでしょう? おそらく貴方と同じ理由、これを見れば分かるんじゃないですか?」
斎葉が袖をまくり、腕輪を見せる。そこには、318と記されていた
「その腕輪…もしかして君もピエロの夢を…? ということは君も異能者だったの…?」
「はい。あれ?言ってませんでした? オーラに意識をとけ込ませて機械に入り込み、自在に操る…。それが私の能力です」
斎葉の説明を聞き、彼の能力を理解する鎌瀬
「なるほど、君らしい能力だね…。じゃ、友達ってことで今回は見逃してよ…?」
いずれ戦わなければいけないかもしれないので、見逃してもらおうとする鎌瀬
「待ちなさい」
が、斎葉は鎌瀬を止める
「鎌瀬君。私と協力しませんか?」
「え…?」
「倒し合うと言っても、それは別に今すぐでなくても良い…。仲間は多い方が有利だと思いますよ? 何か異論はありますか?」
148:鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg
10/11/15 00:30:02 0
斎葉が鎌瀬に協力を持ちかけてきた
「無い、無いよ…! 寧ろ嬉しいよ…!」
「では、決まりですね」
こうして、鎌瀬は斎葉と行動を共にする事にした
「では、貴方にこれを渡しておきます」
斎葉が鎌瀬に小さな機械を渡してきた
「これは?」
「無線機…つまりトランシーバーです。バッチ型にしておいたので、持ち運びには困りませんよ。
話すときはボタンを押して下さい。もしはぐれた時のために…」
「ありがとう…」
「ああ、それと…貴方のGPSを貸して下さい」
「ん、これ?」
「はい。少し待って下さいね…」
斎葉がGPSを改造する
「できました。これで貴方のGPSに、私の位置が映ります。そしてこれ…」
斎葉が更に小さな機械を渡す
「この発信機をつけたものの位置も、GPSに映ります。役立てて下さい」
「あはは、相変わらず器用だね…」
【鎌瀬犬斗:斎葉巧と協力】
149:海部ヶ崎 綺咲
10/11/15 03:55:44 0
>>139>>140
「そうだな。口だけで信じてもらおうとは思っちゃいないよ」
少女がパチンと指を鳴らす。
途端に、これまで体に圧し掛かっていた重みがすっと嘘のように消える。
「これでいいだろ?それにあんたを殺るつもりならもっと重力を上げてるよ」
(重力か……なるほど。恐らく、重力波に変えたオーラを展開することで、
自身の範囲内の重力に干渉でき、一時的に重力を操作できる能力……)
などと推測しながら、重さによって少し凝った首をコキコキと鳴らしていると、続けて少女の口が開いた。
「んじゃ、改めて自己紹介。
アタシは神宮 菊乃。こう見えても16だ。学校は行ってねえけどな。
仲間はいない、って言うか島に来て最初に会った人間があんただ。あんたは?」
くるんと刀を逆手に持ち替え、ゆっくりと腰の鞘に納めていきながら、海部ヶ崎は答えた。
「私は海部ヶ崎 綺咲。歳は19。角鵜野市という街で“何でも屋”をして暮らしている。
ここに来た理由は恐らくキミと同じだ。私もあのピエロに無理矢理招待された。
もっとも、単身のキミとは違って、私の場合は氷室 霞美という女と共にだがな」
自分の目的─それ以外のことは包み隠さず話した。
何も隠す必要はないし、互いに正直に話すことこそが対話であると思ったからである。
しかし、結果論ではあるが、それは却って余計な火種を生むものであった。
「キミ同様、私もできれば無用な戦闘は避けたい口だ。
だからここをすんなりと通してもらえるとありがた─」
ふっと彼女に……神宮と名乗った少女に目を向けて、思わず言葉を切る海部ヶ崎。
彼女の様子が変なのだ。まるで敵意を露にするようにオーラを充実させているではないか。
「ひむ…ろ…?まさかあんた氷室 霞美の仲間だって言うのかい?
はっ、こんなところで"あの"カノッサの人間に出会うとはね…。
神様って奴は本当に粋な計らいをしてくれるもんだね」
「カノッサ─? まさか、過去に氷室と─」
そんな海部ヶ崎の声には聞く耳もたず、
完全な臨戦態勢に入った神宮は、突き刺すような視線で彼女を捉えた。
(よく考えてみれば氷室はカノッサの大幹部の一人だった人間だ。
あらゆるところにその悪名が轟いていても不思議ではない。失言だったな)
「どうやらあんたとは相容れないようだ。悪いがここで潰させてもら―」
「待て、私の話を聞け。キミの言うカノッサはもうこの世に─」
言いかけたところで、突然、海部ヶ崎は戦慄いた。
神宮の発するものとは違う、“背後”からの別の殺気を感じたのである。
「―ッ!横に跳べ!」
神宮の声に、海部ヶ崎が咄嗟に横にステップしたのはその直後であった。
そしてその瞬間、何かが空を切る音が発せられる。
空を切ったのは手刀─背後からの何者かが繰り出したものだった。
「……何奴!」
神宮に対するものとは違って、どこかドスの効いたアルトヴォイスを叩きつける。
襲撃者は丁寧な、それでいて非情さを感じさせる低い声で言った。
「おや、見つかってしまいましたか。雷光に救われましたね」
150:海部ヶ崎 綺咲
10/11/15 04:03:07 0
襲撃者は紳士風な風貌をした男であったが、それは見た目だけだ。
いや、その目から滾る殺気を隠そうともしないのだから、見た目も既にエセ紳士である。
「勘違いすんなよ?アタシはカノッサの人間はこの手で殺してやりたいだけだ。
別にあんたを助けたわけじゃない。獲物を横取りされたくなかっただけさ」
言い放つ彼女に、海部ヶ崎は溜息を一つ零した。
(やれやれ……勘違いされてしまったな。まぁ、誤解は後で解けばいい。
それより問題はこの男が、話し合いの余地がある人間かどうかだ)
分析するようにじっと男を見つめて、二人のやり取りに耳を済ませる。
「さて、いきなり襲ってきて挨拶もなしかい?あんた何処の誰だい?」
「私が何者か―あなたがそれを知ってどうするのです?
これから死に行くあなたがそんな事を知っても冥土の土産話にもなりませんよ?」
「あ?何言ってんだ?冥土に土産話を持ってくのはお前の方だろ?
…尤も、くれてやる話なんてないけどな」
「やれやれ…あなたの様に綺麗な女性からそんな事を言われるとは…。
悲しいですねえ。では仕方ありません。死んでいただきましょう」
問答を止めて戦闘を開始する二人。
以前までの海部ヶ崎であったら目で追うのもやっとであったかもしれないが、
カノッサとの死闘を経て腕を磨き続けてきた彼女には、余裕を持って見えていた。
振り下ろされた手刀を神宮がガードし、
今度は素早く男の後方に回りこんでお返しとばかりに蹴りをくれる。
男は勢い良く吹っ飛んで隣の教室に転がり込むが、
それでもダメージは小さいようで、直ぐにむくりと立ち上がる。
短かくも、それでいて激しい攻防─。
傍でそれを静観していた海部ヶ崎は一つのことを確信していた。
男は話し合いが通じるような人間ではないと─。
バトルロイヤル─それは相手を殺さなければ自分の命が危ういゲームだ。
よって闘いが生じるのは仕方のないことである。
だが、恐らく多くは戸惑いの中で無我夢中に闘うだけか、
必死にこの状況下を割り切って闘おうとする者ばかりであろう。
ところが、どうだ。男の顔からはそんな様子は微塵も感じられない。
彼は殺し合いなど何とも思っていないのだ。あるいは、楽しんでさえいるのかもしれない。
(危険な奴が何人かはいると思っていたが、まさかそんな奴と真っ先に当たるとはな。
もはや闘いは避けられない、か……)
刀に手をかけた調度その時、神宮のどこか不機嫌そうな声が届く。
「あれが効かないとなるとただの人間じゃねえな…。
仕方ねえ、敵の敵は見方ってやつか…。おいあんた、ちょっとばかし手伝ってくれよ。
どうやらあいつを片付けるのが先のようだ。あんたとやるのはその後だな」
すーっと鞘から銀色の刀身を抜いて、海部ヶ崎は答えた。
「私はキミと闘るつもりはないが、この男とは闘わなくてはならないようだ。
こちらの意思に拘わりなく……な」
【海部ヶ崎 綺咲:戦闘体勢に入る】
151:神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk
10/11/16 02:10:08 0
>>149>>150
「私はキミと闘るつもりはないが、この男とは闘わなくてはならないようだ。
こちらの意思に拘わりなく……な」
海部ヶ崎は刀を抜いてそう答えた。
その言葉に、菊乃は表情を少しだけ、本人にしか分からない程度に和らげた。
「ふぅん、残虐で有名なカノッサの人間にしては殊勝な言葉だねぇ。
けどアンタが何と言おうとそれを証明出来るもんがなきゃ信じられねえ。
…しかし今はあいつを殺る事が先決だな。そこだけは譲歩してやる」
海部ヶ崎にそう返し、隣の教室から歩いてくる男に目を向ける。
そこで菊乃はおかしな光景を目にした。
男は隣室からこちらに向かって歩いてくる。
しかし、その右脇腹が不自然なまでに窪んでいるのだ。
恐らくは先程の蹴りのダメージなのだろうが、あの様子だと内臓にまでダメージがいっているはずだ。
普通の人間ならば歩くどころか立ち上がることすら難しいはず。
いくら異能者とは言え、無視できるレベルではない。
「頭逝ってんのか…?あれだけのダメージで平然としてやがる。
チッ、アタシと同じタイプか…?だとしたら厄介だな」
疑問は尽きない。
しかし目の前のこの男を倒さねば、解決どころかこちらがやられる。
「おいアンタ、手に持ってるそれは飾りじゃないよな?
今からあいつに止めを刺す。
アタシが動きを止めるから、アンタはそいつでサクッとやっちまいな」
海部ヶ崎の刀を見て、自分はこの場では止め役に適していないと判断。
得物を持つ海部ヶ崎に任せる。海部ヶ崎は小さく頷いた。
「よし、んじゃあ始めるぜ。ちょっとこっちに来てくれ」
海部ヶ崎を近くに呼んだ後、菊乃は跪き左腕を地面に、右腕で海部ヶ崎を掴んだ。
「『重力増加』」
菊乃が呟くと、右腕からオーラが地面に伝わり、先程同様周囲の重力が増す。
しかしその重さは先程の比ではない。流石の海部ヶ崎も少し顔を顰めた。
「今回は8倍だ。重いだろうが少し我慢してくれよ。すぐに軽くなる。『重力減少』」
今度は左腕を通して海部ヶ崎にオーラが送られる。
すると、海部ヶ崎の体は羽の様に軽くなった。
「これでアンタの体にかかる重力は通常の四分の一だ。
慣れない内はコケたりするから気をつけろよ」
海部ヶ崎はその場でジャンプし、感触を確かめている。
やがてジャンプをやめた。どうやら少しは慣れたようだ。
そうしている間にゆっくりと歩いてきた男がこちらに到着した。
「重力操作とは…本当に面白い能力をお持ちですね。
是非ともあなたの体を研究してみたい」
先程までの紳士の仮面を捨て、男は残虐な笑みを浮かべた。
152:神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk
10/11/16 02:11:47 0
「研究?自分の頭でも解剖してろ。
こちとら人体実験はもうウンザリでね。あんな場所に戻るつもりはねぇよ」
菊乃は吐き捨てるように言った。その顔には若干の自嘲が混ざっていた。
「さて、おしゃべりはここまでだ。そろそろケリをつけようぜ。
何か知らんがテメェの顔見てると吐き気がするんだ」
言い終わると同時に菊乃が動く。
自身も身を軽くしていた為、先程と同じかそれに勝るスピードで男に近付く。
迎え撃つ男はここで初めて手刀以外の構えを見せた。
オーラを充実させて両腕を広げ、一気に体の目でクロスさせる。
するとヒュウッ、と言う音と共に男の両手から見えない何かが繰り出された。
(鎌鼬…いや、風の能力か。おかしいとは思ってたんだ。
さっきあいつの手刀を右腕で防いだ時、金属音がしやがった。
ただの手刀にも拘らず、だ。正体はこれって訳か)
相手の能力を分析し、解明する。
しかし菊乃は避けるどころか鎌鼬に向かって突っ込んで行った。
「正面から向かってくるとは…。いいでしょう。
本当はあなたの体を傷つけずに研究したかったのですが…。
綺麗な体が紅く染まり、地に伏せるのを見るのもまた素敵なものだ」
「ケッ、いよいよ本性現しやがったな。
大方さっきのも薬(ヤク)か何かやってるから耐えられたんだろ。
…だが残念だったな。痛みを感じないのは何もお前だけじゃない」
鎌鼬が菊乃の体を切り裂く。右腕にも当たり、外装の皮膚が裂けて機械の部分が剥き出しになる。
しかし菊乃は気にすることなく男に接近していく。
「馬鹿な!?あれだけの斬撃を無視するなんて―!」
動揺する男の腕を掴み、ニヤリと笑う。
「テメェの専売特許だとでも思ったか?ま、こっちは薬なんかには頼ってねぇけどな。
―『重力増加』」
菊乃が呟いた瞬間、男の体がまるで吸い寄せられるように地面に張り付く。
「どうだい?8倍の2倍、16倍の重力は。
テメェの体重が70kgだとしたら…ざっと1120kgか。1t越えだな。
さ、ここでアンタの出番だ。
コイツは半端なダメージじゃきかねえ。そいつはさっき証明済みだ。
アタシが潰してやってもいいんだけど、こんな奴のスプラッタは見たくねぇ。
さっき"無用な"戦闘は避けたいとか言ってたが、こいつは"必要な"戦闘だ。キッチリやってもらうぜ」
倒れ伏す男から目を離し、海部ヶ崎の方を見て菊乃は言った。
【神宮 菊乃:戦闘中。海部ヶ崎に止めを刺すよう促す】
153:神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk
10/11/16 02:35:17 0
>>151
訂正
×右腕からオーラが地面に
○左腕からオーラが地面に
×左腕を通して
○右腕を通して
154:海部ヶ崎 綺咲
10/11/16 19:11:12 0
>>151>>152
勝負は海部ヶ崎が思っていた以上に早く、呆気なく決していた。
先程、彼女に掛けられた三倍以上の重力をその身に受けて、なすすべなく地に沈むエセ紳士……。
「ふぅ……」
それを見下ろして、安堵とも驚愕ともつかない息を吐く海部ヶ崎。
あるいは若干後者の色が強かったかもしれない。
重力を操作する能力─その威力が、想像以上のものであったことは確かなのだから。
「さ、ここでアンタの出番だ。
コイツは半端なダメージじゃきかねえ。そいつはさっき証明済みだ。
アタシが潰してやってもいいんだけど、こんな奴のスプラッタは見たくねぇ。
さっき"無用な"戦闘は避けたいとか言ってたが、こいつは"必要な"戦闘だ。キッチリやってもらうぜ」
神宮の視線が声と共に向けられる。
(やれやれ、私の出番がなかったな。少しばかり彼女の力を見誤っていたか)
海部ヶ崎は神宮を一瞥すると、やがて静かに刀を納め、男に再度視線を落として言った。
「……無用だ」
その言葉に、神宮は何かを言おうと声を出しかけるが、続けて吐かれた言葉がそれを遮る。
「もう勝負はついている。この男、既に全身の筋繊維と毛細血管の悉くが破壊されている。
元々、薬物投与によって体が弱っていたせいもあるのだろう。
高重力下での活動に肉体が耐え切れなかったんだ。もはや二度と立ち上がれまい……。
……本来なら情けをかけるところだが、痛みを感じないから、眠るように息を引き取れるはずだ。
故に、止めも介錯にも及ばない。そういうことだ」
……ピクピクと細かに痙攣する男から視線を外し、代わって神宮に合わせる。
誤解を解く、それを実行する時がきたというわけだ。
「キミの言うカノッサは三ヶ月前に消滅したよ。多くの命と共に、アジトもろともな。
私が知る限りで生き残っている元構成員は氷室一人。
私の立場はキミが思っていたものとはむしろ逆を行くものさ。
三ヶ月前……カノッサを滅ぼしたのは私と、私の仲間なんだよ」
呟くように吐かれた言葉を彼女はどう受け止めるだろうか。
信じるか信じないか……場合によっては彼女と闘わなくてはならないだろう。
だが、負けてやる理由は無い。ワイズマンを倒さなくてはならないのだから。
【海部ヶ崎 綺咲:誤解をしていると説明する】
155:神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk
10/11/16 20:31:25 0
「……無用だ」
海部ヶ崎は止めを刺すどころか刀を納めた。
その真意を問い質そうと口を開きかけるが、続く言葉によってそれは遮られた。
「もう勝負はついている。この男、既に全身の筋繊維と毛細血管の悉くが破壊されている。
元々、薬物投与によって体が弱っていたせいもあるのだろう。
高重力下での活動に肉体が耐え切れなかったんだ。もはや二度と立ち上がれまい……。
……本来なら情けをかけるところだが、痛みを感じないから、眠るように息を引き取れるはずだ。
故に、止めも介錯にも及ばない。そういうことだ」
その言葉を聞いて男を見る。
確かにもはや喋ることすらできないようだ。その口は僅かに呼吸を繰り返すのみである。
男から目を離し、再び海部ヶ崎と視線を合わせる。
「キミの言うカノッサは三ヶ月前に消滅したよ。多くの命と共に、アジトもろともな。
私が知る限りで生き残っている元構成員は氷室一人。
私の立場はキミが思っていたものとはむしろ逆を行くものさ。
三ヶ月前……カノッサを滅ぼしたのは私と、私の仲間なんだよ」
その言葉に菊乃は僅かに表情を変えた。
しかしまた元の無表情に戻して言葉を返す。
「へぇ、アンタがアジトを滅ぼしたって?
でもそれが地方にある研究機関に伝わるまでどのくらいかかると思う?
―2ヶ月だよ。
アタシはつい1ヶ月前までカノッサの研究機関で人体実験のモルモットだったんだ。
そりゃあもうヒドイもんでね。…何とか逃げ出したけど。
お陰で右腕と左目は壊れるわ痛覚まで抜き取られるわ…。
そう言う訳で、たとえアンタがアジトを潰そうとアタシには関係なかったのさ。
それに、カノッサを潰したアンタが何故カノッサの人間と行動を共にしている?
さっきも言ったが口で言うだけなら何とでも言える。
…が、アンタがアタシを連れ戻しに来た研究所の奴じゃないことは分かった。
でも、まだ完全に信用したわけじゃない。取り敢えず氷室に会わせて貰おうか。
…心配しなくてもいきなり襲ったりはしねぇよ。
アイツとは面識があるんだ。もっとも、向こうが憶えてるとは限らないけどな」
言い終えて、海部ヶ崎に背を向けて入り口に向かう。
そこで一度振り返り、難しい表情で立ち尽くしている海部ヶ崎に声をかけた。
「ほら、ボーっとしてねぇで氷室のところまで案内してくれよ。
一緒に来たって事は連絡手段くらい用意してるんだろ?」
―菊乃達がいる廃校から少し離れた場所にある大木の枝に、人影があった。
「ふぅ…やはり薬でドーピングしたものは使い物になりませんね。
また新しいものを考えませんと…。"ジャック"に相談してみようかしら」
その人物は物憂げに呟くと、音も無く姿を消した―
【神宮 菊乃:戦闘終了。海部ヶ崎とは一時的に停戦、氷室に会わせる様に言う】
156:海部ヶ崎 綺咲
10/11/17 18:01:32 0
>>155
(やはり、カノッサに強い恨みを持つ者、か……。口ではああは言ってるが……)
「ほら、ボーっとしてねぇで氷室のところまで案内してくれよ。
一緒に来たって事は連絡手段くらい用意してるんだろ?」
そう訊く神宮に、海部ヶ崎はまず一言─
「悪いが、案内する気はない」
と返し、くるりと背を向け、そして続けた。
「キミも言ったように口なら何とでも言える。
結果としてでも戦闘になる危険性がある内は、キミを氷室のもとに連れて行くことはできない。
それが仲間としての最低限の務めだ。……それに」
何かを言いかけて、彼女は直ぐに止めた。
「……いや、何でもない。
とにかく、私がキミに対しての敵対心を持っていないことを解ってくれたなら、一先ずはそれでいい。
今後、どこかで遭遇しても互いに手出しはしない……この場はそれで手を打ち、終わりにしよう」
言いながら、部屋の隅にあるはめ殺しの窓の前まで進み、それを足で蹴飛ばす。
ガシャーンとガラスが割れて、綺麗ぽっかりと外に通じる穴ができあがる。
途端に、そこから横殴りになった雨が吹き込む。外はいつの間にか風が出ていたらしい。
「だが、もし私の邪魔をするというのなら、その時は敵とみなすことになるだろう。
さっきも言ったが、私は避けられる戦闘なら避けておきたい。
この刀をキミに向ける日が二度と来ないことを祈っているよ─」
そう言い残して、海部ヶ崎は穴を潜って行った。
部屋は三階。本来なら自殺行為だが、異能者の彼女にとっては特に意に介す高さではないのだ。
強風の中、音も立てず木の葉のように静かに降り立つと、
そのまま何事もなかったように次の探索先を見定めた。
「さて……現在地は北西。ひとまず、このまま南西に向かうか」
足を進めた先は南西方向に架けられた橋。
とりあえずそこを通って街の南西部に向かうことにしたのだ。
その途中、海部ヶ崎は大粒の雨が降りしきる空を恨めしそうに見上げて、
先程言い掛けた言葉の続きを独りごちた。
「無線が通じない。電波の状態が悪いのか、それとも故障でもしたか……」
チップは戦闘での激しい動きと衝撃に耐えられるよう作られている。
だから実際は前者であったろう。
だが、メカの知識など「水に弱い」程度の知識しか持ち合わせていない彼女は、
大きく膨れた胸に剥き出しの状態で取り付けられた水浸しのチップを見つめて、
まるで自らを恥じるように頭をかくのだった。
【海部ヶ崎 綺咲:北西の廃校から街の南西部へ】