10/08/14 20:25:57 0
>「うおおおおおおおおくっ…首がァァ……」
過ぎ去ってしまえば、全ては一瞬の出来事だった。
止める暇など無く、瓶の破片は徳井の首を貫通してしまった。
マイソンの表情が、蒼白に染まる。
>「“ある”ッ!」
だが、徳井一樹は生きていた。
>「セイヴ・フェリスで首を縦半分に切開した。瓶の破片は切開内を“通った”だけにすぎねー。
>だけど超イラつくぜェ~~~ッ!“再び”か?“再び”なのか?3度目もあんのかよ?」
けれどもマイソンの顔色は、依然変わらないままだった。
それどころか寧ろ、一層悲壮げに変貌していく。
理由は、彼を射抜くように見つめる徳井。彼が浮かべる憎しみの表情。
かつて家族が、友人が、先生が、近所の夫婦が、
名も知らぬ誰かが、マイソンへと向けてきた眼差し。
それらに酷似した徳井の視線を、マイソンは骨の髄から恐怖していた。
なまじ徳井との関係性を意識してしまったがばかりに、尚更に。
>「まっ……!いいよ………故意でも偶然でも………
>許してやろうじゃあねーか…………寛容な精神で………!」
怯えるあまり顔を俯けていたマイソンは、しかし徳井の言葉に顔を上げる。
だが彼の目に映ったのは、スタンドを発現させて自分に歩み寄る徳井の姿だった。
『セイヴ・フェリス』の手が、マイソンへゆっくりと迫る。
再び、彼は眼を固く閉ざし身を縮こめ―
>「あいたっ!?」
>「やっぱ、腹が立つからそれでお相子な。
目を開いて、マイソンは呆けた表情を浮かべた。
視界に映るのは憎しみの色が脱した徳井の顔と、『セイヴ・フェリス』の指先。
そして額に染み込む、鮮烈な痛み。
人と接する事の無い人生を歩んできた彼は、『デコピン』と言う物を知らない。
けれども徳井は自分を拒絶するでもなく、排除するでもなく、自分に触れた。
その事実はマイソンにとって、やはりとても大きな事だった。
>で……お前の能力………
>二度も食らってやっと理解したが、お前と関わる奴ほど不幸になって死ぬような出来事が起こるんだな?
>…──だが俺には関係ないぜ……おしゃべりの最中はともかく、“移動中”に関せばな」
そうして、マイソンは徳井の背中に切開された異空間に放り込まれる。
そこは外部から隔絶された孤独な―彼の最も嫌う孤独に満たされた空間だった。
が、彼は心臓が跳ね上がり肺腑が絞られる感覚に囚われながらも、手の内に安堵の欠片を抱いていた。
先程徳井にデコピンを喰らった額に、彼は両手の平を重ねている。
額に宿る痛みさえ彼にとっては手放し難い、人との繋がりなのだ。
>あんたの意思でスタンドが制御できれば多少はマシなんだろうけど。
>ちょっと気合入れて自力でスタンドを操ってみよう…なんて思ったことないの?
「……無理ですよ。そんな事」
そう答えるマイソンの顔に、つい先刻までのような悲痛の色は無い。
それどころか自嘲の、諦念の笑みすら浮かべている始末だ。
彼は挑む前から既に、最初から諦めているのだ。