小説を書く大学生7at CAMPUS
小説を書く大学生7 - 暇つぶし2ch187:〆ミ・д・,,ミ
10/12/30 18:52:34 cfkocEAj0
1章3節より適当に抜粋しました
一部改行がおかしい箇所がありますが仕様なので悪しからず

腕時計をちらりと見る。十二時五十分。約束の時間まで、あと十分と迫っていた。
時刻を確認すると、神原は残りのコーヒーを一息に飲み干した。サンドウィッチを口に放り込む。そして手早く後片付けを済ませると、急ぎ足でカフェを後にした。
眼前に立ち並ぶ数々の建物。その周りには、桜の木々が植えてあった。枝先で膨らんでいるピンクの蕾が、何とも情緒的である。
神原が訪れたのは、都内にある大学病院だった。敷地内に併設されたカフェから中央棟の正面玄関までは五分とかからない。
一階の待合ホールに入ると、そこは患者でごった返していた。三月と言えば、ちょうど風邪が流行る時期である。今年はインフルエンザの流行も長引いているらしい。あちこちから発せられる咳やくしゃみの音を聞いて、マスクの一つでも持ってくればよかったと神原は後悔した。
「お待たせしました」
待合ホールの隅にあるソファに腰掛けていると、神原は声をかけられた。
「どうもお久しぶりです、横溝先生。神原です。私からお伺いしなければならないのに、わざわざご足労賜りまして恐縮です」
「いえいえ、とんでもないです。今のお言葉は、そのままそっくりお返しいたしますよ。お元気そうで何よりです。どうぞ、おかけになってください」
神原は起立して背筋を伸ばしたが、すぐに着座を勧められた。
横溝喜一郎は、背の低い寸胴体型の男だった。外見は、一年半前に会った時から少し老け込んだという程度の変化があるだけだ。やはり六十歳前後だろう。
分厚い眼鏡のレンズの奥には、鋭い眼光を放つ切れ長の目があった。それでも以前に比べて穏やかな顔付きになったと思う。髪はやや薄くなっている。そして白髪が増えた印象を受けた。
「本来でしたら村山がお伺いするはずだったんですが、ご迷惑をお掛けして申し訳ないです」
「あはは。話は聞いていますよ。まさか神原さんが村山さんの上司だったとは存じませんでした」
「私はもう現役の検察官ではないんです。今年の初めに退職しまして、今はもう家事手伝いの身分ですよ」
「そうなんですか。奥様は幸せでしょうね」
「いえ、感謝しなければならないのは私の方です。あれがいなかったら、今も検察の人間としてくるくる働いていたと思います」
「立派な奥様がいらして、退職しても尚立派な部下をお抱えになっている。私から見たら、こんな羨ましいことはないですね」
横溝は笑った。それに合わせるように、神原もまた笑った。
身の上話はこれぐらいでいいだろう。そう思った。何も雑談をするために来たのではないのだ。神原が身を乗り出すと、それを察知したかのように、横溝も真剣な表情になった。


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