11/11/23 11:15:36.31 sDGnomN0
十代の頃、不思議で恐ろしい体験をした。
あの時、一歩間違えば、おれはこの世にいなかったかもしれない。
少し長いがその話をさせてくれ。
親父の実家は自宅から車で二時間弱くらいのところにある。
農家なんだけど、子供の頃から夏休みになると田んぼと山のある風景で、暗くなるまで
トンボを取ったりザリガニ捕ったりとジブリの映画のような田舎のガキ大将だった。
高校になってバイクに乗るようになると、夏休みとか春休みになるとよく一人で遊びに行ってた。
じいちゃんとばあちゃんも「よく来てくれた」と喜んで迎えてくれたしね。
でも、最後に行ったのが高校三年にあがる直前だから、もう十年以上も行っていないことになる。
決して「行かなかった」んじゃなくて「行けなくなった」んだ。
子供の頃の思い出がいっぱい詰まった場所に行けないのはとても辛いことだが、
おれはおそらく一生行くことはないだろう。もし行けば命を失う可能性があるからだ。
春休みに入ったばかりのこと、のどかな天気に誘われてじいちゃんの家にバイクで行った。
まだ少し肌寒かったけど、広縁はぽかぽかと気持ちよく、そこで大空を眺めてしばらく寛いでいた。
子供の頃からまったく変わらない風景がいつものようにそこにあった。その時までは。
そうしたら、
「あぽぉ、あぽぽっぽ、あぽ、あっぽぉ…」
と変な音が聞こえてきた。機械的な音じゃなくて、妙に生々しく耳に障る音だった。
生まれて初めて聞くような、それも濁音とも半濁音とも、どちらにも取れるような感じだった。
何だろうと思っていると、庭の生垣の上に帽子があるのを見つけた。
生垣の上に置いてあったわけじゃない。帽子はそのまま横に移動し、垣根の切れ目まで来ると、
一人のノッポが見えた。まあ、帽子はそのノッポが被っていたわけだ。
ノッポはなんと真っ昼間から白っぽいネグリジェを着ていたので、びっくりした。
この世のものとは思えない光景だった。
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11/11/23 11:16:05.52 sDGnomN0
しかも生垣の高さは二メートルほどある。その生垣から頭を出せるってどんだけ背が高いんだ…
驚いていると、ノッポはまた移動して視界から消えた。帽子も消えていた。
また、いつのまにか「あぽぽぽ」という音も無くなっていた。
おれはまさに( ゚д゚)ポカーン 状態さ。
そのときは、もともと背が高いノッポが超厚底のブーツを履いていたか、
踵の高い靴を履いた背の高い男が女装したかくらいにしか思ってた。
こんな田舎になんでそんな変な人がいるんだろう?と不思議には思ったけどね。
その後、居間でお茶を飲みながら、じいちゃんとばあちゃんにさっき見た不思議な人物のことを話した。
「さっき、大きなノッポを見たよ。大きな男が女装してたのかなあ。ネグリジェ着てたんだよ」と言っても
「へぇ~」くらいしか言わなかったけど、「垣根より背が高かった。帽子を被っていて『あぽぽぽ』とか変な声出してたし」と
言ったとたん、二人の動きが止ったんだよね。いや、本当にぴたりと止った。
そしたら、「いつ見た」「どこで見た」「垣根よりどのくらい高かった」と、じいちゃんが怒ったような顔で
すごい勢いで質問を浴びせてきた。
じいちゃんの気迫に押されながらもそれに答えると、急に黙り込んで廊下にある電話まで行き、
どこかに電話をかけだした。引き戸が閉じられていたため、何を話しているのかは良く分からなかった。
ばあちゃんは何も言わず、悲しそうにうつむいて、心なしか震えているように見えた。
おれは、なにか重大な出来事が起こったことを直感した。
じいちゃんは電話を終えたのか、戻ってくると、
「今日は泊まっていけ。いや、今日は帰すわけには行かなくなった」と言った。
―おれ、何かじいちゃんを怒らせるようなことしちゃったのかな・・・
と必死に考えたが、何も思い当たらない。あのノッポだって、自分から見に行ったわけじゃなく、あちらから現れただけだし。
じいちゃんは、「ばあさん、後頼む。俺はKさんを迎えに行って来る。いいか、それまで二人とも一歩も家を出るな」と言い残し、慌ただしく軽トラックでどこかに出かけて行った。
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11/11/23 11:16:32.43 sDGnomN0
おれは、ばあちゃんに恐る恐る「おれ、じいちゃん怒らせちゃったのかな・・・」と尋ねてみた。
「バカなこと言うんじゃないよ、お前はなにも悪くないよ。余計な心配しなくていいから」と言ってため息をついた。
「お前はねぇ・・・馬場に魅入られてしまったようなんだよ。・・・でもじいちゃんが何とかしてくれるから
何も心配しなくていいから」と震えた声で言った。
「え? 馬場って何?」
それからばあちゃんは、じいちゃんが戻って来るまでぽつりぽつりと話してくれた。
昔からこの村には「馬場」が棲みついているのだという。
馬場は大きなノッポの姿をしている。名前の通り八尺ほどの背丈があり、
「あぼぉ」と男のような声で変な笑い方をする。
人によって、田吾作姿だったり、赤いパンツ一丁だったり、ジャージ姿だったりと見え方が違うが、
異常に背が高いことと頭に何か載せていること、それに気味悪い笑い声は共通している。
葉巻をくわえている姿を見た人もいるそうだ。
昔、旅人に憑いて来たという噂もあるが、定かではない。
馬場はいつの間にかやって来て、いつの間にか消える。馬場に魅入られると、数日のうちに憑り殺されてしまう。
最後に馬場の被害が出たのは十五年ほど前だという。
これは後から聞いたことではあるが、馬場はなぜか決まった道しか移動しないらしい。
そしてそれを知った昔の人は村境の東西南北の四ヶ所に地蔵菩薩を祭って馬場が村の外に出られないように封印したのだ。
だから馬場のことはこの村の人以外は誰も知らない。
不思議なのは、昔の人がなぜ、馬場をこの村に閉じ込めたのかということだ。
今となっては理由はわからないが、ある言い伝えによると、ずっと昔に、周辺の村と何らかの協定を結んで、他の村に馬場が移動できないようにしたようだ。
この村が馬場を引き受けることを条件に、水利権を優先するとか毎年娘を嫁入りさせるとかそんな類の取引だったようだ。
馬場の被害は数年から十数年に一度くらいなので、昔の人はそこそこ有利な協定を結べれば良しと考えたのだろうか。
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11/11/23 11:16:54.34 sDGnomN0
とか、そんなことを聞かされても、その時のおれは(゚Д゚ )ハァ?って感じ。
おいおい村の迷信ってパネェなとか、そんな風にしか思えなかった。当然だよね。
そのうち、じいちゃんが一人の老婆を連れて戻ってきた。
白装束を来て、目付きが異様に鋭い。ただの老婆ではないことが一目でわかった。
「えらいことになったのう。今はこれを持ってなさい」
Kさんという老婆はそう言って、お札をくれた。しっかりと力強い声だった。うちの親父より頼もしい感じがした。
それから、じいちゃんとKさんは一緒に二階へ上がると、しばらく何やらやっていた。
ばあちゃんはそのまま一緒にいて、トイレに行くときも付いてきて、トイレドアを完全に閉めさせてくれなかった。
ずっとおれを見張っているんだ。
ここにきて初めて、「これってヤバくね?…」と思うようになってきた。
しばらくして二階に上がらされ、一室に入れられた。
そこは窓が全部新聞紙で目張りされ、その上にお札が貼られており、四隅には盛塩が置かれていた。
お香が焚かれていたので、Kさんがさっきまでここでお祓いをしていたのだろうと思った。
また、木でできた箱状のものがあり(祭壇などと呼べるものではない)、その上に小さな仏像が乗っていた。
あと、どこから持ってきたのか「おまる」が二つも用意されていた。
えっ? トイレに行かずにこれで用を済ませろってこと? シャレになんねえじゃん・・・
「もうすぐ日が暮れる。いいか、明日の朝までここから出てはいかん。
俺もばあさんもお前を呼ぶこともなければ、お前に話しかけることもない。
そうだな、明日朝の七時になるまでは絶対ここから出るな。
七時になったらお前から出ろ。家には連絡しておく」
と、じいちゃんが真顔で言うものだから、黙って頷く以外なかった。
「今言われたことは良く守りなさい。お札も肌身離さずな。何か起きたら仏様の前でお願いしなさい」
とKさんにも言われた。
「いいか、明日の朝までが勝負だ。心するのだぞ」―Kさんが鋭い目つきで念を押すように言った。
おれはお札を握りしめて、うなずいた。
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11/11/23 11:17:28.07 sDGnomN0
テレビは見てもいいと言われていたので、点けっぱなしにしてたけど、上の空で何も目に入らない。
家中が静まりかえって、じわじわ無言の圧力が全身にのしかかってくるようだった。
誰かが近くにいる―
部屋に閉じ込められるときにばあちゃんがおにぎりやお菓子をくれたけど、
食べる気もおこらず、放置したまま布団に包まってひたすらガクブルしていた。
生まれて初めて感じる恐怖だった。
そんな状態でもいつのまにか眠っていたようで、目が覚めたときには、
何だか忘れたが深夜番組が映っていて、自分の時計を見たら、午前二時過ぎだった。
なんか嫌な時間に起きたなあなんて思っていると、窓ガラスをコツコツと叩く音が聞こえた。
小石なんかをぶつけているんじゃなくて、手で軽く叩くような音だったと思う。
心臓がバクバクしてきた。まさか、あいつが・・・
風のせいでそんな音がでているのか、誰かが本当に叩いているのかは判断がつかなかったが、
必死に風のせいだ、と思い込んで無視した。
落ち着こうとお茶を一口飲んだが、やっぱり怖くて、テレビの音を大きくして無理やりテレビを見ていた。
すると、じいちゃんの声が聞こえた。
「おーい、大丈夫か。怖けりゃ無理せんでいいぞ」
ああ、良かった!うれしくなって思わずドアに近づいたが、じいちゃんの言葉をすぐに思い出した。
また声がする。
「どうした、こっちに来てもええぞ」
じいちゃんの声に限りなく似ているけど、あれはじいちゃんの声じゃない。
どうしてか分からんけど、そんな気がして、そしてそう思ったと同時に全身に鳥肌が立った。
じいちゃんの真似をしているこいつは・・・
ふと、隅の盛り塩を見ると、上のほうが黒く変色していた。
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11/11/23 11:17:47.67 sDGnomN0
一目散に仏像の前に座ると、お札を握り締め「助けてください助けてください」と必死にお祈りをはじめた。
仏様に真剣に祈るなんて生まれて初めてだった。
そのとき、
「あぽぽっぽ、あぽ、あぽぽ…」
あああああああああああああああああ
絶叫状態なのに、声が出なかった。人間本当に怖いと悲鳴も出ないんだと思った。
窓ガラスがトントン、トントンと鳴り出した。
手が震えて、全身に鳥肌が立った。「おれ、マジで死ぬかもしれない・・・」そう思ったら腰が抜けた。
そこまで背が高くないことは分かっていたが、アレが下から手を伸ばして
窓ガラスを叩いている光景が浮かんで仕方が無かった。でも逃げ場はどこにもないのだ。
もうできることは、仏像に祈ることだけだった。
とてつもなく長い一夜に感じた。
気を失ったのか、眠ってしまったのか、気がついたら朝だった。
全身にびっしょり汗をかいていた。おねしょをしたのかと少し焦ったくらい
Tシャツもブリーフもびっしょり濡れていた。喉が渇いていた。
つけっぱなしのテレビが朝のニュースをやっている。
画面表示される時間は確か七時十三分ぐらいだった。
ガラスを叩く音も、あの声も気づかないうちに止んでいた。
盛り塩は火で焦がしたようにさらに黒く変色していた。
念のため、自分の時計を見たところ同じ時刻だったので、恐る恐るドアを開けると、
そこには心配そうな顔をしたばあちゃんとKさんがいた。皆、お札を持ってお祈りしていた。
おれのために皆が徹夜でお祈りしてくれていたのだ。
ばあちゃんが、よかった、よかったと涙を流してくれた。
1001:1001
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1000kmの旅を愛車と終えた夜 ―
一杯の熱い珈琲が 次の旅へと 想いを走らせる。
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゚. o * 。 ゚。 ゚.。 ゚。 +゚ 。 ゚
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(*'∀`)ノ ∫ ○ ∠〆~_-ワ
人_',ヘヘ へ.aノ人 《*)ゞ≦0《*)
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