11/04/23 15:10:50.63 PWPdFI3B
僕の名前はGU76A。みんなは僕を「カタナ」って呼ぶから
兄弟達のご主人以外で僕の本名まで知ってる人はあんまりいない。
よく覚えていないんだけど、僕は「しずおか」ってところで生まれたらしい。
僕らは生まれるとすぐ船に乗せられて、何だか凄く蒸し暑いところに連れて行かれた。
一緒に連れてこられた兄弟達と何だかここ錆びちゃいそうでイヤだね、なんて
箱越しに話をしていると結局船から降りないままに再び僕たちは生まれたこの国に帰ってきた。
僕たちはそこで離ればなれになり、僕はそこでトラックに乗せられて
見たこともない街に連れてこられた。
そこには50歳くらいのおじさんと30歳いかないくらいのツナギを着たお兄さんがいて
「やっとカタナのイレブン入ってきましたねー」なんて話をしていた。
トラックから降ろされた僕はツナギを着たお兄さんの手で
お店の窓際に停められた。僕の兄弟は一人もいなかったけれど、見たこともない
知らない人がそこにはたくさんいた。僕と同じように一度海外旅行して
帰ってきた人や生まれてすぐここに来た人、それに色んな理由でご主人と
お別れした人がいた。僕は他にすることもなくて暇だったから、そんな先輩達から
色々な話を聞いた。ご主人に綺麗にしてもらって嬉しかった話や日本中を旅した話、
「みーてぃんぐ」とかいう集まりで工場を出て以来離ればなれになっていた兄弟と
何年かぶりに出会ったなんて楽しい話もあったけど、
一方では買ってくれたご主人がちっとも面倒を見てくれなくて体調が悪いのに目一杯走らされて
おかげで今でも体調が悪いまんまだって話や毎日野良猫におしっこをかけられた話、
中には知らないお兄さんにさらわれたこともあるなんて怖い話もあった。
まだご主人に巡り会ってない僕はそんな話をワクワクしたりビクビクしたりしながら聞いていた。