11/01/10 03:20:56 l6yo4AV50
ある初冬の日の学校帰り。
私は、"新世界の構築"のため、高坂邸を訪れた。有体に言えば、新作ゲームの製作だ。
この場所での先輩と二人でする創作活動は、最早私の習慣になりつつある。ライフワークと言ってもいい。
機材が揃っている部室も決して悪くは無いのだけれど、逆にそれらを必要としない作業の場合、やはりこの場所が一番落ち着く。
……別に、二人きりになりたいとか……そういう邪念は無いのよ、勘違いしないで頂戴。
「遠慮しないで上がれよ。何時もの如く誰もいないから」
「……そう。……お邪魔します」
この時間帯の高坂邸は、誰も居ないことが多い。"あの女"も、部活やら仕事やらで、帰りは遅いことが多いようだ。
"二人きり"……、先程の言葉が頭を過ぎるけれど、別段意識したりはしないわ。大体、もう慣れたもの─
ごんっ!「にゃっ!?」
─二階に上がろうとした矢先、半開きになっていたリビングのドアに頭をぶつけた。い、痛いじゃないのよ……っ。
「だ、大丈夫か?─お前、いつまでたっても人の家に上がるときは緊張するのな」
先輩が心配げな声をかけつつ、苦笑する。……い、今のは、ドアを開けっ放しにしておいたこの家の住人が悪いと思うわ。
ちょっと涙目になってしまったじゃない。
「……大丈夫よ、問題ないわ」
さながら天界の騎士のように颯爽と切り返す私。……ぶつけた所、赤くなったりしていないかしら。後でこっそり手鏡で見ておこう……。
とん、とん、と、先輩の後ろに付いて階段を上っていく。上りきってすぐの所にある先輩の部屋、先輩はそのドアを開いて招き入れてくれた。
「……ありがとう」
あくまでもクールに、私はその招きに応じる。……実際のところ、この辺りが毎回、緊張の極限だったりするのだけれど。
部屋に染み付いた先輩の"匂い"であったり、小さな空間に置かれた"ベッド"であったり……どうしても"意識"してしまう。
ここは先輩の"領域"……、例え何かが起こったとしても、現世の非力な私に抗う術は無い。
……ふん、そんなもの、当に覚悟の上よ。見縊らないで頂戴。
もう何度目かになる覚悟を秘めて足を踏み入れた私の後ろで、そっとドアが閉ざされる──