10/09/29 18:49:28 61OgCZt10
「あぁーっ」
澪の叫び声は、部室内に居た他の三人の耳目を集めた。
「あうっ?('p')」
叫び声に驚いたように唯は奇声を発すると、興味津々といった様子で澪を見つめた。
「澪、どうしたんだ?」
「何があったの?」
対して律と紬の反応は澪を気遣うものであった。
決して唯が冷たい人間というわけではない。尤も優しい人間でもない。
知性が無い為に想像力が働かず、状況に応じた行動を取れないだけなのだ。
知性の無い者に、優しい・冷たいといった人格評価は適さない。
「無い……」
澪の発言は主語が欠けていた。
「え?」
「何が?」
澪の発言の意図を確かめるべく、律と紬は澪に近づいていった。
その後ろを唯が「だーだー(^p^)」と間の抜けた奇声を発しながら続く。
辿り着いた三人の目には、空になったクッキーの缶が映った。
「クッキーが無くなってるのね……」
澪に代わって現状を確かめるように、紬が呟いた。
「本当だ……。こーらっ、唯っ」
律は反射的に唯を怒鳴りつけた。
「う?うーうー("p")」
何故自分が怒鳴られているのか理解できないのか、
唯は威嚇するような唸り声を上げる。
「惚けるなっ。お前、勝手にクッキー食っただろっ?しかも全部っ」
「あうっ。ゆい、くっきーたべてない("p")」
「そんな事言ったって、お前以外に誰がこんな事するんだよ……」
律の言葉は尻すぼみになった。律が唯を犯人として推理した理由など、
消去法的選択と、唯の普段の行動を参考にしたものでしかない。
証拠の不在故に強く出られないのだ。
「違うんだ……」
唯の潔白を晴らしたのは、意外なことに澪だった。
「クッキーなんて最初から無かった。これは空の缶だったんだから。
その缶に……封印しておいたのに。封印して、隠しておいたのに」
「澪ちゃん、何を隠してたの?
って、それ訊いちゃったら隠してる意味無くなっちゃうか。
ごめんね、変な事訊いちゃって」
紬は赤い舌を出して自分の頭を小突いた。
「いや、いいんだ、このメンバーなら。
皆知ってる事だから。去年撮って没った新勧ビデオのディスクが無くなってるんだよ。
やはり割ってしまえば良かったか……」
「あー、あれかー。懐かしい話持ち出すよなー」
律は得心言ったように呟くと、唯を見て済まなそうに謝った。
「ごめんな、唯」
「う?うーっ、うーっ(`p´)」
唯の顔には一瞬怪訝が浮かんだが、すぐに怒りを露わにした表情へと転じた。
その反応を見るに、謝らなければすっかり忘れていたであろう。
だが律は律儀な質であった。
「ホントゴメン、唯」
両手を合わせて謝りこむ律の隣で、澪が言った。
「あんま謝らない方がいいよ、律。下手に出るとすぐ調子に乗るから。
それにいつもの唯の行動も悪いんだから。
しっかし不味いなー。
どうして無くなったんだろ。ここのメンバーに知られても問題ないけど、
梓に見つかりでもしたら」
その言葉に反応するように、ドアの開く音と共に
「何を私に見つかったら不味いんですか?」
と訝しげに問う後輩の声が室内に響いた。