【けいおん!】唯×梓スレ 9at ANICHARA2
【けいおん!】唯×梓スレ 9 - 暇つぶし2ch500:本当の自分
10/08/15 10:28:52 PdcQhAG30



『……行き、ドアが閉まります。駆け込み乗車は危ないのでお止め下さい』
扉が音を立てて閉まり、電車がゆっくりと動き出した。
「さて……と、何個目で乗り換えだっけ?」
「えっと……七個目ですね。そこから乗り換えて大体三十分です」
「大体一時間かぁ~。今が九時半だから……」
「唯先輩の家に着くのは十一時前ですね……。すみません……こんなにも遅くなってしまって」
「気にしないから、大丈夫だよ~。それに今日は誰も居ないからねぇ」
「ですけど……」
「ほらほら、遠慮は要らないって言ったでしょ~。それに、別にあずにゃんのせいで晩御飯が遅くなった訳じゃないんだし」
「はぁ……まぁ、そうですけど……」
「だから、気にしないの。ねっ」
「はい……わかりました……」
あずにゃんはまだ何か言いたそうだけど、取り敢えずそのままにしておこうかな。
……下手に何か言ったらまた『遠慮』しちゃうしね……。



「それで憂がさぁ~……」
「え~、そうなんですか?」
他愛もないお喋りをしていると、乗り換え駅まで後四駅程となっていた。
「んーと、次の駅着いたら、あと三つだよね」
「んー、そうですね~」
「二人で話してるとあっという間だね~」
「ホントですね~……キャァッ!!」
『緊急停止します。お近くの吊り革等にお掴まり下さい』「あずにゃん危ない!!」
アナウンスが車内に響いて、急ブレーキがかけられた。
私は慌てて、バランスを崩して倒れそうになったあずにゃんを、間一髪の所で抱きしめらた。
「危なかったね~。……大丈夫?」
「はい……大丈夫……っ!!」
「どうしたの?何処か痛いの?」
「左足をちょっと……捻ったみたいです……」
「取り敢えず、私に掴まって。あんまり左足に体重かけちゃダメだよ」
「はい……ありがとうございます」
流石にこれは素直に応じてくれた。もう少し空いていれば捻った具合を確認出来るんだけどなぁ~。
むぅ……あんまり酷くなければ良いけど……。

『お客様にお知らせ致します。先程、この先の駅で人身事故が発生致しました。そのため、この電車は暫く停車致します。お客様には……』

車掌のアナウンスが流れると、あちこちでざわめく声が聞こえた。慌てて携帯電話を取り出し、何処かにかけている 人もいる。
「人身事故かぁ……すぐに動くと良いね……」
「そうですね……っ!」
「ほらほら、もっと私の方に体重かけないと」
そう言って、私はあずにゃんの右肩に手をかけ軽く抱き寄せた。
「は……はい……。あの……唯先輩……その……」
あずにゃんは顔を赤く染めて小声で続けた。
「……ちょっと……恥ずかしい……です……」
まぁ、気持ちはわかるけどさぁ……私だって少し恥ずかしいし……でもね。
「恥ずかしくっても我慢してよ……。あずにゃんの左足のためなんだから……ね」
「……わかりました……」
なんだから不満げだけど、取り敢えずこの状態を解こうとしてないから、まぁ良しとしておきますか~。

『お客様にお知らせ致します。先程発生した人身事故について、復旧までかなりの時間を要する見込みだそうです。お客様にはご迷惑おかけ致しますが、今暫くお待ち下さい』

かなりの時間か……。
「あずにゃん、大丈夫?痛みが酷くなったりしてない?」
「それほどは……」

501:本当の自分
10/08/15 10:29:15 PdcQhAG30
「そう……なら良いんだけど」
腫れたりしていないか、後でちゃんと確認しないとね……。
……早く動かないかなぁ……。



『……次の駅まで運行致します。発車致しますのでお近くの吊り革等にお掴まり下さい』

電車が止まってから約二十分。アナウンスと共に再びゆっくりと動き出した。
「あずにゃん……取り敢えず、次の駅で降りて足の具合見るよ」
「いえ……大丈夫」
「じゃないよ。さっきからずっと辛そうな顔をしてるじゃん。全く……私の目はごまかせないよっ!」

流石にこの一言は効いたのか、あずにゃんは急に素直になって答えた。
「すみません……本当は余り良くありません。……さっきからなんだか熱を持っている感じなんです」
「やっぱり……」
さっきから時折痛みに耐えるような表情を見せていたから、もしやとは思っていたんだけど……。

程なくして電車は駅に到着した。幸いな事に私達が立っている方とは逆の扉が開いた。
『お客様にお知らせいたします。後続列車が駅間に停車中ですので、そちらのお客様を降車させる為に、この列車は当駅で回送となります。繰り返しお客様に……』
「だってさ。みんなが降りてからゆっくりと降りようか?」
「そう……ですね」
ホームは人で溢れてるし、急いで降りたらあずにゃんの足に負担がかかっちゃうもんね……。

暫く待っていたら、ホームの人も少なくなってきた。……それでもラッシュの時位居るけど……。
「そろそろいこっか?ギター貸して、持ってあげるから」
「ありがとうございます。……っ」
「ほらほら、気をつけなきゃダメだよ」
ギターを渡すときに、少しバランスを崩して左足に体重をかけちゃったみたいで、あずにゃんは少し顔をしかめた。
……取り敢えずベンチに座らせないとね。

「あずにゃん、ほら、そこ空いてるよ」
上手い具合に一つだけベンチが空いていたので、そこに座らせて足を診てみた。
「靴と靴下脱いで……うわ、腫れてきてるね……。ちょっと診てみるよ、痛かったら言ってね」
足を持ち、足首を少し捻ってみる。
「いたっ!」
「痛かった?ごめんね。……熱も持ってきてるね……。ちょっと待ってて、駅員さん呼んで来るから」
私はそう言い残して駅員さんを呼びに行った。医務室で湿布か何か貰えればいいなぁ~。

「すみませーん」
人の流れが途切れてきたので、手の空いている駅員さんがすぐに見つかった。
「はい。何でしょう?」
「あの……さっきの急ブレーキで友達が足を痛めちゃって……湿布か何か頂けますか?」
「足を痛めたのですか?そのお友達はどちらに?」
「あ、あそこのベンチに座ってます」
「わかりました。救急箱を持ってきますので、少々お待ち下さい」
「あ、じゃぁ私、友達の所で待ってますね」
「かしこまりました」
そう言うと、駅員さんは乗務員室に向かって行った。
……取り敢えず、一安心、かな?



「……これでどうかな?ちょっと足を動かしてみて」
「ん……まだちょっと痛いけど……大丈夫みたいです」
「そう?でも無茶はしないでね。うーん……残り二枚か……。あ、えーっと、ゆいちゃん……だっけ?」
「あ、はい。何ですか」
「この袋の中に後二枚だけ湿布が入っているから、もし、えーっと」
「梓ちゃんですか?」

502:本当の自分
10/08/15 10:29:42 PdcQhAG30
「そう、あずさちゃんの足が痛むようなら、さっき僕がやったように貼ってもらえれば良いからね。一応四時間しか効果がないから」
「はい、わかりました」
「あとは……。あずさちゃん、もし明日の朝になっても強い痛みが残っているようなら、すぐに診察を受けてね」
「あ、はい」
ふぅ……湿布を貼って包帯で固定したから、暫くは大丈夫かな?でも、あんまりノンビリも出来ないよね
「あの……後どのくらいで電車動きますか?」
「そうだなぁ……ちょっと待ってて、救急箱置いてくるついでに状況確認してみるよ」
「あ、ありがとうございます」
私がお礼を言うと、駅員さんは軽く会釈をして走って行った。
「唯先輩、ありがとうございます」
「ん?お礼を言うのは私じゃなくて駅員さんでしょ?」
「まぁ、そうなんですけど……でも、呼んできてくれたのは唯先輩だし……」
「……そか。んじゃぁ、どういたしまして~。……で、実際の所、痛みはどうなの?嘘ついちゃダメだよ」
「あぁ、本当に少し痛いだけで、問題無いですよ。……立って体重をかけてないから、普通に歩けるかはわかりませんけど……」
「座って足浮かせてるしね~。まぁでも暫くは動きそうにないから、なるべく足を休ませておくんだよ」
「はーい」
体重をかけていないとは言え、確かにさっきよりは痛みが軽そうだな~。この感じなら、さっきみたいにしっかりと支えなくても大丈夫かな?

「お二人さん、お待たせ」
突然声をかけられてそちらを向くと、さっきの駅員さんが片手にマイクを持ってやって来た。
「えっとね、電車なんだけど、まだ当分動きそうに無い感じだね~」
「そうですか……」
「うん、事故は二つ先の駅で起こってるんだけど、どうも当人が車輌の下にいるらしくてね……『救助』に手間取っているみたいなんだ」
「じゃぁ、まだまだ……」
「かかりそうだね。……降りる駅はまだ先なのかな?」
「はい……三つ先の駅で乗り換えて、そこから……えっと……梓ちゃん、三十分位だっけ?」
「え?あぁ、はい。そうですよ」
「そうか……じゃぁ、もうすぐ後続列車が入って来るから、その中で待ってるのが良いかもね。さっき見たけどタクシーも待ってる人でごった返してたし」
「せんせー、タクシー代がありませーん」
私がおどけた口調で言うと、駅員さんもあずにゃんも笑ってくれた。
「はははっ、それもそうだよな。高校生の所持金じゃ家までは辛いよなぁ」
「えきいんさーん。なんとかなりませんかー?」
「なりません。あまり大人をからかわないよーに」
「はーい」
「お、丁度入線してきたぞ」
すると駅員さんはマイクを口元に持って行き、さっきまでと全然違う口調で話しはじめた。

『お客様にお知らせ致します。この列車、二駅先で発生した人身事故の救助活動が続いているため、当駅で停車致します。尚、復旧の目処はまだ立っておりません。繰り返し……』

電車のドアが開いて、中から人が溢れ出てきた。
あっという間にホームは人の海になった。
「おい!押すなよ!!」
「ちょっと!危ないでしょ!!」
あちこちからそんな怒声が聞こえてくる。
『ホーム上、大変混雑しております!。階段等なるべく譲り合っての利用をお願い致します!』
「駅員さんも大変だねぇ~」
「そうですね~」
そんな事を話していると、私達の方まで人の波が押し寄せてきた。
「ギター脇に避けとかないと危ないね」
私が二人のギターを邪魔にならない所に置いたその瞬間。
「高校生がこんな所に座ってんじゃねぇよ!!」
「きゃっ!!」
「あずにゃん危ない!!」
酔っ払いのキックがあずにゃんの怪我をした足にぶつかる寸前、私が何とか間に入った。
「いったーい!!!」
……うぅ……流石は『弁慶の泣き所』って言うだけあって、涙出る位痛いよぉ……。でも、泣いてる場合じゃ無いよね!
「ちょっと!!この子足を怪我してるんですよっ!!何で蹴るんですかっ!?」
「え……あ……いや……怪我してるなんて、わからなかったから……」
「わからなかったら蹴っても良いんですかっ!?怪我していない私ですらこんなに痛いのに、怪我してる所に当たったらどうなるかわからないんですかっ!?」

503:本当の自分
10/08/15 10:30:12 PdcQhAG30
「う……あぁ……悪かった」
「『悪かった』で済む問題なんですか!?事故で電車が止まってイライラしているのはあなただけじゃないんですよっ!!」
私と酔っ払いが言い争うのを見て、周りから「どうしたの?」「なんだ?喧嘩か?」「まーた酔っ払いかよ」といった声が聞こえてきた。
「だから悪かったって……」
「だったらちゃんと謝って下さい!!少なくとも私はあなたに蹴られたんですよ!!」
むー!なんでごめんなさいの一言も言えないのかなぁっ!!
「どうしました?」
私達の声が聞こえたのか、乗客の誰かが教えたのかわからないけれど、さっきの駅員さんが来てくれた。
「あ、いや、なんでもないですよ。お嬢ちゃん、ごめんな」
「何でもなくないでしょう!!じゃぁさっき私を蹴ったのは何なんですか!?」
「そうなんですか?」
私の一言で、酔っ払いはいきなり怒りだした。
「あぁ?おぉそうだとも、俺はお前を蹴ったさ!だから何だってんだ!?勝手に間に入ってきただけだろうが!」
むっかぁー!!もーあったまきたよー!!!
「勝手に入ったって!!そうしないとこの子の怪我がもっと酷くなるでしょう!?間に入るのは当たり前じゃないですか!!」
「怪我だぁー?けっ!本当に怪我しているかどうか怪しいもんだ!怪我してるふりなんて誰でも出来るからな!!」
「いえ、怪我をされているのは本当ですよ。先程私が応急処置をしましたから」
「え、あ、そうなんですか?」
駅員さんの言葉で酔っ払いは急に態度を変えて大人しくなった。
「はい。車内で足を捻ったようなので、湿布を貼って包帯を巻きました」
「そうか、本当だったんだ。……済まない、いきなり蹴ったりして」
……何なの!?この急な態度の変わり様は。駅員さんだと信用出来て、私だと信用出来ないって事!?
「すみませんが、謝るだけでは足りません。……先程こちらのお客様が『私を蹴った』と言われましたが、本当なんですか?」
「ま、まぁ、蹴ったと言われれば……蹴ったのかな?」
「『蹴ったのかな』じゃなくて、思い切り『蹴った』んだと思うんですけど!」
「やかましい!だからお前が間に入らなきゃ」
「この子の怪我が酷くなってたって言ってるでしょ!」
「まぁまぁ、二人とも落ち着いて下さい。取り敢えず、事務所まで来ていただけますか」
「わかりました」
「はぁ!?なんでそんな所に行かなきゃならないんだよ!」
「先程も申し上げたように、こちらのお客様を蹴った事実がありますので、もう少し詳しく」
「そんなの話す必要はねぇだろ!!さっきこっちは謝ったんだ!それじゃ足りないのか!?」
「はい。まだ和解されていないので……」
「和解だぁ!?そんなのこっちが謝った時点で成立してるだろぅが!!」
「確かに、お客様は謝られましたが、こちらのお客様がそれを受け入れておりませんので」
「あぁ?んじゃ何か?俺がここで土下座でもすればいいってのか!?」
「いえ、そういう訳では……」
「おい!小娘!ちゃんと謝ればいいんだな!!」
……はぁ……もぉいいや……なんでこんな酔っ払い相手に喧嘩なんかしちゃったんだろ……。
「……別に良いよ、謝んなくても。もぅどうでもいいよ……」
すると酔っ払いは無言で私達に近寄ってきた。……なんか、物凄く怒った顔をしてるんですけど……。
「『別に良いよ』だと……!?だったらこんな手間とらせるんじゃねぇーよ!!!」
「きゃぁっっっ!!!」
「唯先輩!!!」
その怒声と共に、酔っ払いが私を殴ろうと拳を振り上げ、私目掛けて渾身の力で振り下ろされ……。

Part.Bに続く!

504:名無しさん@お腹いっぱい。
10/08/15 10:31:09 PdcQhAG30
以上です

今から出かけるので、Part.Bは夜に投下しますね~

ではでは ノシ

505:名無しさん@お腹いっぱい。
10/08/15 10:58:50 Hjc+OZJiO
Part.B投下待ってるよ~

506:名無しさん@お腹いっぱい。
10/08/15 12:04:54 zHlsLTOD0
やばいストパン6話のエイラーニャが凄すぎて唯あず熱が冷めそうw

507:名無しさん@お腹いっぱい。
10/08/15 12:11:44 8qrYPen/0
そういうことはチラ裏にでも書いてね

508:名無しさん@お腹いっぱい。
10/08/15 14:44:30 SychCrkMO
唯の怒る様子って脳内再生難しい

509:名無しさん@お腹いっぱい。
10/08/15 14:49:40 BYyH1WghP
澪律はケンカ回あったのになぁ
唯のケンカ回も観てみたい

510:名無しさん@お腹いっぱい。
10/08/15 14:54:59 lbBqBYuiO
はげた
URLリンク(m.pixiv.net)
画像だけ貼るのも絵師さんに失礼かと思ったので。

511:名無しさん@お腹いっぱい。
10/08/15 15:16:08 ytBzZFQ+0
梓に張り手食らった後数秒間泣きっぱなしの唯
ギャグ顔で誤魔化しているけど、内心マジで凹んでたりしてね…心が痛む
一期14話の「制服もいいよね!」直前の停止唯を思い出したわ

512:名無しさん@お腹いっぱい。
10/08/15 15:17:34 BYyH1WghP
そういや作中の泣き顔って唯だけだよね

513:名無しさん@お腹いっぱい。
10/08/15 15:27:20 Ir32UAF80
卒業式であずにゃんが大号泣するから問題ない

514:名無しさん@お腹いっぱい。
10/08/15 16:16:29 csf1NwFhO
まあ、みんな泣くだろうね

515:名無しさん@お腹いっぱい。
10/08/15 17:30:28 MHu8IFolP
>>511
あの後さわちゃんが寝袋を持って来てくれて、
まっさきに唯が受け取りに行ったよね。
何か唯にしては意外な行動だなあと思ったんだけど、
おちゃらけながらも結構マジにキスを迫ったのに梓に拒否られて
ちょっと凹んでその場に居づらくなって
飛び出して行ったんだと妄想。

516:名無しさん@お腹いっぱい。
10/08/15 17:31:45 lsyp+BuF0
>>510
直リンクじゃなくて検索ワードだけとかのほうが良くないか?わからんけど

517:名無しさん@お腹いっぱい。
10/08/15 18:25:26 ylMmPc8HO
ていうかアレは梓が回避しなかったら普通にしちゃってたよな
一期のそれとは本気度が違う

518:名無しさん@お腹いっぱい。
10/08/15 18:55:15 yohTCSjI0
ファーストキスくらいはマジ顔でして欲しい梓の乙女心よ

519:名無しさん@お腹いっぱい。
10/08/15 19:15:03 csf1NwFhO
確かにギャグ顔だったな でもその直前の梓を下から見上げるポジショニングは良かったと思うぜ

520:名無しさん@お腹いっぱい。
10/08/15 19:18:26 UfwA23MQ0
卒業式ならきっと…!

521:名無しさん@お腹いっぱい。
10/08/15 19:19:17 cIt/FYBTO
表紙が唯梓だったから買ってみたら男にヤられてたお…

522:名無しさん@お腹いっぱい。
10/08/15 19:31:46 UfwA23MQ0
>>521
もしかして唯と梓がこの字になってる表紙のやつか?
見本見て即行切り捨てたぜ

523:名無しさん@お腹いっぱい。
10/08/15 19:48:47 qtxtVMuzO
>>519
膝に乗っかられても全く嫌がる様子なく、
寧ろ今にも梓が唯の頭を撫でそうだった

実は唯の方が梓の飼い猫なのかもしれんな

524:名無しさん@お腹いっぱい。
10/08/15 19:53:34 TyCrDwbt0
Part.B投下楽しみ


525:名無しさん@お腹いっぱい。
10/08/15 19:58:22 wpR8uvlK0
梓も二人っきりならばっちこいのはず!
むしろあの後拗ねた唯のご機嫌を直すためにむちゅちゅ~
しているだろうと妄想

526:名無しさん@お腹いっぱい。
10/08/15 19:58:23 cIt/FYBTO
>>522
違うと思われ
一応唯梓で絡みはあることはあるんだけどね

527:名無しさん@お腹いっぱい。
10/08/15 20:43:05 UfwA23MQ0
違ったのか…

キスは駄目でも抱きついて頬ずりは許容する梓は唯焦らしの天才だな

528:名無しさん@お腹いっぱい。
10/08/15 22:35:41 IJ/QcXk90
Part.Bまだかな

529:504
10/08/15 22:37:20 PdcQhAG30
どもども>>504です
帰ってきたので、Part.Bを投下します

尚、ここからオリキャラが登場しますので、ご注意くださいませ~

では、本文9レスほど使いまーす

530:本当の自分 Part.B
10/08/15 22:38:25 PdcQhAG30

 ♪本当の自分♪ Part.B

……あれ?痛くない。
恐怖で思わず閉じた瞼をゆっくり開くと……。
「なんだよ!離せよ!!」
警察っぽい制服を着た男の人が、酔っ払いの手を掴んでいた。
「鉄道警察隊です」
「あぁ!?警察が一体何のようだ!」
「先程から一部始終を見ていました。なので、傷害未遂の現行犯で逮捕します」
「な、なんだってー!!」
私達の目の前で、酔っ払いに手錠がかけられた。
あちこちから「あーあ、これだから酔っ払いは……」「怖いわねー」といった声が聞こえる。
……私達にあんな事をしたんだから、当然の報いってやつだよね!
すると、警察官さんは私達にも声をかけてきた。
「すみませんが、お二人も一緒に来ていただけますか?……詳しい事情を聞きたいので」
「え?あ、はい。……梓ちゃん、行けそう?」
「何とか。ゆっくりとなら……」
「あ、無理に急がなくても良いですよ。では、すみませんがお二人を詰め所まで案内していただけますか?」
「あ、はい。わかりました」
警察官さんは駅員さんにそう言うと、酔っ払いを連れて一足先に詰め所に向かっていった。
「大丈夫かい?ゆっくりで良いから僕達も行こうか」
「はい。……梓ちゃん、ちゃんと私に掴まってるんだよ」
「あ……はい、唯先輩」
あずにゃんが私の手に掴まり、ゆっくりと立ち上がって歩きだした。
「どぉ?痛くない?」
「あ、はい。さっきと比べるとほとんど痛みは有りませんね」
そっか~、良かった~。
「でも、無理は禁物だからね。ゆっくりで大丈夫だから、痛くなったらちゃんと私に言うんだよ」
「はい……」
そして、私はあずにゃんをしっかりと支えながら、駅員さんと一緒に詰め所に向かった。



「ご協力、ありがとうございました。……本当に送っていかなくても大丈夫かい?」
「あ、はい。ご近所さんに驚かれても困るので……」
「そう?じゃぁ、気をつけてね」
「はーい。……じゃぁ梓ちゃん、行こうか」
……まただ。
「あ、はい」
「どうだい?一人で歩けそうかな?」
「んー、……何とか……大丈夫な感じですね~。ゆっくりとなら、ですけど」
「まぁ、まだ動きそうにないからね。急ぐ必要もないし」
「まだ動かないんですかぁ?」
唯先輩がため息混じりに時計を見た。

現在時刻は午後十時五十分。
そして乗り換える路線の最終電車は午後十一時二十分発。
それ以降は全て四つ手前の駅止まりになってしまう。
乗り換え駅までは約七分。
階段を二階層分登るのに普通ならば約三分。
つまり……あと少なくとも二十分以内に動かないと間に合わなくなってしまう計算だ。

「終電に、間に合いますかね……」
「まぁ、それは『神のみぞ知る』ってやつだからね。僕達でも予想は全く出来ないし」
「そうですか……」
「早く動いてほしいよねぇ~」
「あ、でも今動き始めたら、君達はラッシュ以上の混み具合の中、『立ったまま』電車に乗車するって事になるけど……」
「あぅ……それだけはご勘弁を……。せめて、梓ちゃんだけでも座らせてあげてつかぁさい……」

531:本当の自分 Part.B
10/08/15 22:38:53 PdcQhAG30
……なんで……。
「でもまぁ、まだ大丈夫だと思うよ。とは言え今までの経験からすると……多分後五分ちょいで運転再開かな?」
「そんなのわかるんですか!?」
「まぁ、確実じゃ無いけどね。的中率は七割ってとこかな?」
「はぁー。駅員さんって、そんな特技を身につけてるんですね」
「特技って……まぁ、そう言われればそうかな?」
そんな事を話している間に、ホームに着いていた。
「お、あそこら辺が空いてそうだよ。……では、本日はご協力ありがとうございました。お気をつけてご帰宅下さい」
それまでのおどけた口調を一変させて、仕事口調で私達にお礼を言った。
「あ、いえ、私達も色々とご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。お陰で梓ちゃんの怪我を酷くせずにすみました。ありがとうございました」
「あ、ありがとうございました」
私も慌ててお礼を言った。
……唯先輩……どうして……。

車内に入ると、既に殆どの座席が埋まっていた。
……まぁ、明らかに一人で三人分のスペースを占領している酔っ払いもいるけど……、相手するのも面倒だし……。
「あ、あそこ空いてるよ」
唯先輩が指差す先には詰めて貰えれば座れそうなスペースがあった。
「良かったねぇ~、あずにゃ」
「ちょっと!そこのお二人さん!」
唯先輩が私に微笑みながら話しかけたその時、不意に車輌の少し離れた所から声が聞こえた。
『はいっ!?』
私達は思わず同時に声を上げた。声の先を見ると、ギターを抱えて座っている二人の女性が手招きをしている。
「あれ?あの二人って……」
「唯先輩、お知り合いですか?」
「知り合いって言うか……」
「ほらほら、そんな所に突っ立ってないでこっちに来なよ!」
私達が話していると、痺れを切らしたのか片方の女性がこちらに向かって歩きながらそんな事を言った。
意外に背が高いんだなぁ~。……ん?あれっ!?
「やっぱり……。『claydoll』のSayaさんですよね?」
唯先輩が言う通り、メイクをしていないから多少イメージが違うけれど、Sayaさんだった。
「あ、わかっちゃった?まぁ、とにかくこっち来て座んなよ。話しはそれからって事で」
Sayaさんはそう言って席の方へ歩き始めた。
「……唯先輩、行きましょうか?」
「……うん、そうしよっか……」
唯先輩に掴まりながら、Sayaさん達が座る席の方へと向かった。
……なんでここにいるんだろう……?

「ほら、ここなら私達が詰めれば二人座れるでしょ」
「はい、ありがとうございます」
「おっと、そっちのお下げの子は間に座んなよ。足を怪我してるんだろ?」
「あ、はい……」
私の右に唯先輩、左にSayaさん、その隣にはMiyuさんが座ってる。
うぅ……なんか、緊張しちゃうなぁ……。
「えっと……、すみません、少し質問しても構いませんか?」
「あぁ、良いよ。んーと、多分最初の質問は『なんでここに居るか』って事かな?」
「あ、それも有るんですけど……、何で私達に声をかけたんですか?」
「Saya、残念だったね~」
「別に良いじゃん。それも有るって言ってんだし。んで……あ、何で声をかけたかって事ね」
私と唯先輩は無言で頷いた。
「さっき二人共私達のライブ見てたでしょ?だからだよ」
「でも、他にも沢山のお客さんが居たのに、何でわかったんですか?」
唯先輩の言う通りだ。今日のライブは超満員と言ってもおかしくないくらいに人が多かったのに。
「最前列で、ギターを背負って、しかも高校の制服着てたら誰だって覚えるよ。実際、さっきの打ち上げでもあんた達の話題で盛り上がってたし」
「はぁ、そうだったんですか」
「女の子二人で、しかもギターを背負ってだから、私達と同じなのかなぁ~って、ずっとSayaと話してたんだよね~」
……意外に見られてるんだ……気付かなかったなぁ。
「で、次の質問はさっき私が言った事かな?」
「あ、はい」

532:本当の自分 Part.B
10/08/15 22:39:27 PdcQhAG30
「あんた達と同じだよ。帰る途中に事故に巻き込まれたってだけ。ついでにもひとつ。何で声をかけたかって言うと、キミ……えっと……」
「あ、中野梓です」
「梓ちゃんか。それと……」
「私は、平沢唯です。桜が丘高校三年です。あ、梓ちゃんは二年生です」
……。
「そっか。えぇっと……そうそう。唯ちゃんと酔っ払いが喧嘩してたでしょ。その時に色々と聞こえたからね、梓ちゃんが怪我してる事とか」
「はぁ……それで、私が怪我をしているのなら……」
「多分これから沢山の人が乗ってくるだろうから、間に合いそうなら私達で座席を確保しておこうかって、Sayaと話していたのよ」
「そーゆーこと。OK?」
「そうだったんですか……。すみません、梓ちゃんだけでなく私の席も確保して頂けたなんて……、ありがとうございます」
……なんで……私の事を……。
「そんな、かしこまらなくたって良いって。で?二人はバンドやってんの?」
「あ、はい。軽音部で活動してます。私がリズムギターで、唯先輩がリードギターです」
「あら、私達と同じなのね」
「はい。だから一度見に来たかったんです。今日は最前列で見られてとても幸せでした」
「そっか~。それは、私達にとっても光栄だな~。な、Miyu」
「そうね~。ガールズバンドでツインギターって、メジャーでもインディーズでも珍しい方だものね~」
「んで、実際見てどこら辺が気になった?」
「えっとですね……」

私達が話しに花を咲かせていると、アナウンスが流れてきた。
『お客様にお知らせ致します、先程お客様の救助活動が終了したとの連絡が入りました。間もなく運転再開致しますので、ご乗車になってお待ち下さい。くりかえし、……』
運転再開か……今、何時だろ……。
「十一時二分か……。あんた達、終電大丈夫なの?」
「一応は。……順調に駅まで進めばですけど……」
はぁ……間に合うかなぁ……。



十一時十四分か……、あと六分……。

運転再開した電車は、多少遅れながらも駅間に停車することなく進み、間もなく乗換駅に到着する。
「さてと……そろそろ降りる準備をしないといけないわね……。じゃぁ、私が荷物を持ってあげるわね」
「んじゃ、私はギターかな?ほら、貸しなよ。持ってあげるから」
「へ?あ、大丈夫ですよ、さっきもちゃんと二人分持って移動していましたから」
「さっきとは違うわよ~。人も多いし、多分ホームも凄い人だからね」
「梓ちゃんが怪我してるんだから、唯ちゃんはきちんと梓ちゃんを支える事!OK?」
「……そうですね、わかりました!」
「じゃぁ、行くわよ~。ちゃんと私の後ろをついて来てね~」
「Miyu……程々に、な」
程々……?何の事だろう?
Sayaさんに、その意味を聞こうとしたその時、電車がホームに到着した。
「はーい!降りる人はさっさと降りてねー!降りない人は邪魔にならないように上手く脇に寄ってねー!!」
……なっ!?
私は思わず唯先輩の顔を見た。予想通り目が点になっている。
「そんなこと言われなくたってそうするよ!当たり前だろ!!」
「はいはい!口を動かす前に足を動かす!!ほらそこ!割り込もうとしない!ちゃんと並んで降りなさい!!」
もし、これが私や唯先輩やSayaさんが言ったのなら、先程みたいに口論になっていたんだと思うんだけど……。
「ほら、怪我してる女の子が通るよ!ちゃんと道を空けなさい!!」
Miyuさんは一見すると『清楚なお嬢様』って感じの格好をしているからなのか、口答えする人も殆どなく、皆言われるままに動いている。
「Sayaさん……Miyuさんって……凄いんですね……」
思わず小声でSayaさんに話しかけた。
「あぁ……テンパってるとな……あんな感じになるんだよ……。全く、程々にって言ったのに……」
「はぁ……、テンパってるんですか……」
ホント……人って見かけによらないんだなぁ……。



「後二分!!」

533:本当の自分 Part.B
10/08/15 22:39:52 PdcQhAG30
Miyuさんの声に、痛む足をかばいつつ早足でホームへと向かう。
あの後、Miyuさんの先導で無事ホームに出る事は出来たけれど、ホーム上も人で溢れかえっていて、流石のMiyuさんでも人の波をコントロールする事は出来なかった。
「全く!!何でみんな自分の事しか考えないんだろうね!!ちゃんと順序よく動けば、もう少し位は混雑しないだろうに!!」
「Miyu……わかったから……取り敢えず落ち着こう。な」
そう言うSayaさんも、私達の荷物を抱えながら早足でMiyuさんを追っている。
「ほら!後は階段上がるだけだよ!!」
Miyuさんは既にホームに続く階段の下に到着していた。
「あずにゃん、もうちょっとだよ」
不意に唯先輩が小声で声をかけてきた。
……あれ?『梓ちゃん』じゃ……ない?
「ほら!頑張れ!!」
一瞬呆気に取られた私は、Sayaさんの一言で我に返った。
「はい!!」
もうひと踏ん張り、頑張らないと!

「後一分!!大丈夫!間に合うよ!!」
Miyuさんが階段の上で叫んだ。
良かった……何とかなった……。
私が気を抜いたその瞬間だった。
「どけっ!!」
「きゃぁっ!!」
後ろから猛スピードで駆け上がるサラリーマンが、私を突き飛ばした。
瞬間的な衝撃でバランスを崩し、唯先輩を掴んでいた手が緩んだ。
「危ない!」と思った瞬間、私は階段から落ちないように足を思い切り踏ん張った。
たった今持ち上げた左足を、階段に押し付ける形で。
「!!!!!」
声にならない悲鳴を上げて、思わず階段にしゃがみ込んだ。
……湿布と包帯でカバーしていたとは言え……これは……物凄く……痛いよぉ……。
「おい!こら!!お前ちょっと待てよ!!!」
「ちょっと!!女の子を突き飛ばして知らんぷりするつもりなの!!」
SayaさんとMiyuさんが私を突き飛ばしたサラリーマンを老いかけて捕まえようとしたけれど、その手をサッとかわしてホームへと消えて行った。
「あずにゃん……同じ所?」
唯先輩の問い掛けに、私は無言で頷いた。
少しでも動かそうものなら、頭のてっぺんまで痛みが走る位に酷い状態だ。
「大丈夫か?」
声の方を見上げると、心配そうな顔をしたSayaさんとMiyuさんが居た。
発車のベルが鳴り響いた。
「……間に合いませんでしたね……すみません……私のせいで……」
「……取り敢えず、ホームに上がるぞ。ベンチで怪我の具合を見ないと……」
私の言葉に少し顔をしかめたSayaさんは、そう言って私の体を起こし、ホームへと向かった。
「梓ちゃん、ちゃんと私に掴まっててね~。唯ちゃん、そっち側ちゃんと支えてね」
私は、Miyuさんと唯先輩に挟まれ、左足を下につかないようにして階段を上がった。

「さてと……、ちょっと足を見せてみな」
「はい……ぃっ!」
「自分で靴を脱ぐのも辛いのか……、ちょっと待ってな、今脱がすから……。うわ……こりゃ酷いな……」
靴を脱ぐのが辛いのも当然だ。私の足首はさっきよりも酷く腫れ上がっている。
「えっと……湿布が残ってるんだっけ?」
「あ、はい……これです」
唯先輩が取り出した湿布を受け取ると、Sayaさんは手慣れた手つきで湿布を貼り、包帯を巻き直した。
「……これで大丈夫……だと思う。さっきの包帯がもっとしっかり巻いてあれば、ここまで酷くはならなかったんだけどな」
「あ、それ……さっきの駅で、駅員さんが巻いたんですけど……」
「そうなの?まぁ、慣れてない素人じゃ仕方が無いかな~」
「『慣れてない』って……Sayaさんは慣れてるんですかぁ?」
「唯ちゃん……さっきのステージ見てて思わなかったか?Miyuの動き……」
「……あぁ、なるほど……」
「何でその一言で納得するのよぉ~」
「だって……なぁ」
「うん……」

534:本当の自分 Part.B
10/08/15 22:40:23 PdcQhAG30
「そうですよね……」
さっきのライブ……Miyuさん跳ねまくってたし……そりゃあ慣れるのも当然だよね。

「んもぉ……。所で、あなた達はこれからどうするの?」
Miyuさんの一言で、私達は今現在の状況を思い出した。
……そうだ……終電……終わっちゃったんだ……。
「あ、そっか……。終電行っちゃったんだよね……」
「そうでしたね……。唯先輩、……すみませんでした」
「そんな、謝る必要なんか無いって~」
「でも、私が怪我をしなければ普通に電車に乗れたんですし……」
「こら!梓!」
「はえっ!?」
えっと……今のはSayaさんですか?てか何で呼び捨て?それに何で怒った顔をしてるんですか!?
「唯が『謝らなくていい』っていってんだから、それで良いんだよ」
「え?あ、だけど……」
「あのなぁ……。いいか?梓は何で怪我をしたんだ?事故でバランスを崩したんだろ?じゃぁこれは急停車した電車の責任だよな」
「えと、まぁ、そうですね」
「んで、さっきの電車に乗れなかったのは、アホサラリーマンが梓を突き飛ばしたからだよな。ってことは、これはサラリーマンの責任だよな」
「それで間違いは無いです」
「だったらさ、……怪我の責任は梓に無いんじゃないのか?」
その言葉にハッとなった。
そうか……勝手に自分でそう思ってただけなんだ……。
「そう……でしたね……すみません……変な事を言ってしまって……」
「別に謝らなくても良いって……。もしかして梓ってさ、すぐに自分の責任にしちゃうタイプか?」
「いえ……そんな事は無い……はず……ですけど……。唯先輩はどう思いますか?」
「えっ?んーと……いつもはそんな事無いかなぁ~。今日はたまたまだと思うんですけど……」
「そっか。……もしかしてさ、梓ってMiyuみたいにテンパると性格変わっちゃうとか?唯、いつも見ててそんな感じはない?」
「えっと……あ!それあるかも知れませんね!前にも一度ありました!」
「えっ!ありましたっけ!?」
「ほら、今年の冬にあったじゃん。猫預かった時に」
……あ、そうか。そういえば……。
「毛玉を吐いた時に電話したことありましたね……。そっか……」
私って、テンパると駄目なんだ……。気をつけないといけないなぁ……。
「そう言ってるSayaだって、思いっ切りテンパっているんじゃない?」
「なっ!そんな事あるわけないだろ。……そんな感じしないよな、唯」
「ほら、呼び捨て」
あぁ、やっぱりそれってテンパってる証拠だったんだ。
「ぐっ……。ま、まぁ、確かにちょっとはテンパってるかなっ。そんな事よりも……あぁっと……そうだ!思い出したぞ!えっと……二人はこれからどうするんだ?」
そんな重要な事を忘れてたんですか……。まぁ、良いんですけど。
「あ、その事なら心配しないで。もう連絡してあるから」
『連絡?』
思わず三人の声がハモった。
「そ。私達の家……というか敷地内の建物なんだけど……そこに泊まってもらうわ」
「Miyu……お前の方がかなりテンパってると思うんだがな……。それもいつも以上に……」
「えぇ~、そうかなぁ~?」
「そうだよ……いつもだったら勝手に泊まる場所決めないだろ」
「あ、そっか~」

「……テンパったMiyuさんは、思った以上に『仕切り屋』なんですね……」
「……言わないで……恥ずかしいから……」
私の言った言葉に、Miyuさんは体をくねらせながら恥ずかしがった。
「Sayaさんは……名前を呼び捨てで言うようになる……」
「それだけじゃなくて、物凄く『お節介さん』になるのよ。ねっ」
MiyuさんがSayaさんにそう言うと、Sayaさんは恥ずかしそうにソッポを向いてしまった。
「私は……マイナス思考になるんですね……初めて知りました。……えっと……唯先輩は……?」
「私?ん~とぉ……なんだろね~」
「唯先輩は……わかりませんね。学祭の時もテンパってたはずなのに、いつもと大して変わりませんでしたし」
……もしかしたら、表裏があまり無いのかな?

535:本当の自分 Part.B
10/08/15 22:40:43 PdcQhAG30

「まぁ、こんな所で話し込むのも何だから、移動しましょう。梓ちゃん、大丈夫そう?」
Miyuさんに聞かれて気が付いた。
「あ、痛く……ない!」
「そりゃそうさ、私がちゃんと巻いたからね。……まぁ、体重をかければまだまだ痛いとは思うけど」
「唯先輩、すみませんけど……」
「うん、支えるよ」
唯先輩に支えられながら、恐る恐る立ち上がり、足の具合を確かめる。
「……確かに……突き飛ばされる前から比べると……やっぱりちょっと痛いですね……。でも、歩くことは出来そうです」
「そっか……、まぁ、仕方が無いかな。その程度の痛みで済んでるって事で勘弁してくれ。じゃぁ、行こうか」
「二駅だけど、混んでると思うから……梓ちゃんを真ん中にして、みんなでガードしながら乗りましょう」
その提案に、Sayaさんと唯先輩が頷き、電車待ちの列に並んだ。
……二駅か……何とかなるかな?



「ここからちょっと歩くけど……大丈夫かしら?」
「はい、多分大丈夫です」
電車の中はやっぱり混んでいたけれど、三人がガードしてくれたおかげで足を痛める事無く過ごせた。
「歩くって……どのくらいなんですか?」
「普通に歩くと十分位かなぁ……。唯ちゃん、支えるのに疲れたんだったら私が代わるよ」
「あ、大丈夫ですよ~」
唯先輩はそう言っているけど……ちょっと無理してる感じかな……。 私を支えて、歩幅も私に合わせて歩いているんだから、無理も無いよね……。
本当なら、ちょっと休憩したほうが良いんだけど……。あ、そうだ!
「唯先輩、憂に電話ってしました?」
「えっ?あっ!そうだよ!電話しないと……。Sayaさん、Miyuさん、すみません、妹に電話をするのでちょっと待っていただけますか?」
「あぁ、いいよ」
その返事を聞き、唯先輩は鞄から携帯電話を取り出して憂に電話をかけた。
「……あ、憂?あのね……うん、そう……はぁ~そうなんだ~。……うん、でね……そう、終電無くなっちゃってさ……ん?……それなんだけどね……うん、大丈夫だよ」
唯先輩が憂と電話をしている間、私は街路灯に寄り掛かっていた。
「うん……あずにゃんも一緒だよ……うん、うん……」
あずにゃん……梓ちゃん……。
なんで、唯先輩はいきなり『梓ちゃん』なんて言い出したんだろ……。
「うん……じゃぁ、明日の朝に……うん、おやすみ~」
なんで……こんなに……寂しいんだろ……。

「お待たせしました~」
「妹さん、何て言ってた?」
「テレビで中継してたらしくって、ずっと心配してたみたいなんですけど、泊めてもらえる事を伝えたら安心してました」
「そっか」
「あと……梓ちゃんも一緒だよっていったら、じゃぁ心配しないで大丈夫だね……とも……」
「おいおい……しっかりしろよ、『唯先輩』」
「えへへ……はーい。じゃぁ、梓ちゃん、行こう……か?……どしたの?足痛くなってきた?」
「いえ……大丈夫です……」
「そう?なら良いけど……じゃぁ、行こうか」
「はい……」
唯先輩……とても……寂しいです……。



「さ、着いたぞ」
足をかばいつつ歩くこと約二十分。
目の前には大きなホテルが建っている。
「えと……ここ……ですか?」
ピンク色の外壁、カーテンがかけられた駐車場の入口。
「ふふっ。初めて来る人はみんな驚くのよね~」
建物の入口も、外からは決して見えないようになっている。
「ゆ、唯……先輩……」
隣を見ると、唯先輩は私と同様に目を点にして立ち尽くしていた。

536:本当の自分 Part.B
10/08/15 22:41:02 PdcQhAG30
「ね、ねぇ……ここって……やっぱり……」
建物には、青紫色のネオンサインで彩られた看板がかかっている。
「ラブホテル……ですよね……」
そこには『Hotel Love&Peace』の文字が妖しく光っていた……。

「あぁ、親が経営してるんだよ。ちなみに自宅はこっちだから。ついて来て」
SayaさんとMiyuさんがホテルの裏手へと歩きだした。私達も慌ててそれに続く。
……えっと……もしかして……泊まるのって、ここですか!?



『ただいま~』
ホテルの裏手にある玄関を開けて、二人が自宅へと入って行った。
『お邪魔しまーす』
私達も少し遅れて中に入った。
「お帰り~。あら、この子達が電話で言ってた子?部屋なら空いてるわよ」
「そう、ありがと。あ、でもその前にちょっと居間使っても良い?足の具合が気になるからさ」
「構わないわよ。さ、えっと……」
「あ、桜が丘高校二年の中野梓です」
「同じく三年の平沢唯です」
「唯ちゃんに梓ちゃんね。いらっしゃい、大変だったでしょ。さ、上がって」
「失礼します……あ、今脱がしてあげるよ」
「あ、すみません……」
湿布と包帯をしているとはいえ、流石に駅からここまでの時間は長かったみたいで、私の足首はかなり腫れてきていた。
「あらあら、ちょっと痛そうね。清香、すぐに両方の湿布持ってきて!麻由美は先に部屋に行って、お風呂にお湯……ぬるま湯を張っといて!」
『はい!』
「さ、二人はこっちの居間で待っててね」
そう言うと、お母さんもどこかへと消えていった。
「なんか……パワフルですね……」
「そだね……んじゃ、居間で待ってようか……」
「そうですね……」



「これは、お風呂上がりに張ってね。そのあとにこのサポーターをしておけば問題無いからね。あ、でも締めすぎちゃ駄目よ、血行悪くしちゃうからね」
「ありがとうございます」
お母さんの持って来た氷嚢で足首を冷やし、そのあとに塗るタイプの湿布を塗ってもらったから、足の痛みがかなり良くなってきた。
「それにしても大変だったわねぇ~。そうだ、親御さんには連絡してあるの?」
「あ、私も梓ちゃんも今日は両親が出掛けているので……」
「あら、そうなの?」
「そうなのって……お母さん……さっきの電話で……私……言ったでしょ?」
「あら、麻由美、早かったじゃないの」
「早かったじゃないって……お母さんが……急がせたんでしょ……」
そう言うMiyuさんは息を切らせた上に髪の毛も乱れていて、体全体で『急いだ!』という雰囲気を醸し出していた。
「だって……急いだ方が良いと思ったし……」
「そりゃまぁ……そうなんだけど……さ……」
「じゃぁ良いじゃない。……えーと、そうそう。親御さんへの連絡はしなくてもいいから……じゃぁ、もう夜も遅いから部屋に行って休んだ方が良いわね」
時計を見ると、既に針は日付をまたいでいた。
「麻由美、清香、二人を部屋に案内してあげて」
『はーい』
「あ、これも持って行きなさい」
手渡されたのは、ミネラルウォーターの入ったペットボトルだった。
「これはなんですか?」
「見ての通り、ミネラルウォーターのペットボトルよ。……『休憩』のお客には渡さないんだけど、『宿泊』のお客には必ず渡すようにしてるからね……ふふっ」
「そ、そうですか……じゃぁ、頂きます……」
「もぉ、母さんってば……」
「良いじゃないの、このくらい。さ、早く案内しなさい」
「じゃぁついて来て……っと、そうだ。靴も持ってきて……って支えたまんまじゃ無理か。まゆ~、靴持ってきて~」
「『まゆ』?」

537:本当の自分 Part.B
10/08/15 22:41:36 PdcQhAG30
私が小声で呟いた。
「オッケ~、さーやの靴は~?」
「『さーや』?」
唯先輩も同様に呟く。
「あ、私のも頼んだ~。……ん?二人ともどうした?変な顔して……」
「あ……いえ……その……」
「もしかして、今の『まゆ』と『さーや』が不思議だったのかしら?」
背後でいきなり声がしたので、驚いて振り向くと、いつの間にか来ていたMiyuさんがニヤニヤしながら立っていた。
「えと、そうなんですけど……」
「そんなに呼び方が気になるのか?」
私と唯先輩は無言で何度も頷いた。
「そんなに全力で肯定しなくても……まぁいいか。呼び方が違うのは、今居る場所が『自宅』だからだよ」
「『使い分け』ってやつですか」
「そこまで大層な意味は無いけどねー。強いて言ったら『ON・OFF』って感じかな?」
「『ON・OFF』ですか?」
「そ。家に帰っても『claydoll』の『Saya』と『Miyu』じゃ疲れちゃうでしょ。……それ以前に自宅で家族と居るのにそっちで呼び合うのも変だしね」
「それも……そうですね」
『ON・OFF』か……。でも、唯先輩が『梓ちゃん』って言っているのは、それとはちょっと違う気がするなぁ……。
「ほらほら、そんな所で喋って無いで、さっさと部屋に行きなさい」
「はーい。じゃぁ、こっちだよ」

Sayaさんの案内で住居部分を抜け、靴を履き、ホテル部分へと出た。
「……意外に薄暗いんだ……」
唯先輩が思わず小声で呟いた。
確かに、廊下の明かりは必要最低限に抑えられている感じで、所々に見える非常口案内の緑色がやけに目立っていた。
「まぁね~、あまり人に見られたく無い人もいるから。……ほら、こっち来て。エレベーターで上に行くから」
……そっか……そういった所なんだよね……ここって。
「従業員専用だから少し狭いけど、何とか乗れるから」
「はい……。あの、変な質問なんですけど、なんで……その……ホテルを経営してるんですか?」
すると二人は微笑みながら答えてくれた。
「ふふっ……初めて来た人はみんな聞くのよね、それ」
「あ、すみません……」
「気にしなくていいよ。誰だって不思議に思うんだから」
「……ここはね……『避難所』なの」
……『避難所』?えっと……。
「まゆ、それだけじゃわからないだろ~。……っと続きは乗ってからにしようか」

エレベーターのドアが静かに開く。
廊下とは違い、目も眩む程の明るさだ。
実際には、廊下の薄暗さに目が慣れていただけなんだろうけど……。
『非現実』の中の『現実』という感じで、今ここに居るのが『現実』なんだと、改めて気付かされた。

「よし、何とか乗れたな」
扉が静かに閉じ、最上階へ向けて動き出した。
「……で、何なんですか?『避難所』って」
「その前に一つ質問があるんだけど……ずばり『ラブホテル』ってどんな場所?」
へっ!?そ……それは……。
「こ、恋人同士が……エ、エッチをする……場所?」
口ごもる私の代わりに唯先輩が答えてくれた。
「まぁ、普通はそうよね~。……でもね、ここはそれだけの場所じゃないの」
それだけの場所じゃ……ない?
「ここはね……所謂『駆け込み寺』の役目も果たしているの。……今は違うけど、以前はここから少し入ったところに地主の家が何軒か建っていたの」
「はぁ」
「それでね、そこに嫁いできた人達が義理の親から虐待……とまでは言わないけれど、陰湿ないじめを受けていたらしいのよ」
「で、それを聞いた母さんの親……つまり私達の婆ちゃんが、このホテルの前身の宿屋を建てたってわけ」
「宿屋……ですか」
「そ。見た目は『連れ込み宿』なんだけどね。実際、そういった事で利用する人も多かったみたいだし」
「だけど、裏に……つまり自宅にやってきた人達には『駆け込み寺』としてやっていたの。……あ、着いたわね」

538:本当の自分 Part.B
10/08/15 22:41:58 PdcQhAG30

エレベーターの扉がゆっくりと開いた。
目の前には、薄暗く、静寂に包まれた廊下が奥へと続いている。

「あの一番奥の部屋がそうよ。……ちなみに、さっき言った『駆け込み寺』って、こことこの下のフロアの事なの」
「えっ!?じ、じゃぁ今も?」
「さぁ……どうかしらね。基本的に避難してきた『お客』の事は、聞かない、教えない、だからね。でも最近は少なくなってきたみたいだけどね」
「ホテルに建て直す前は凄かったらしいぞ~。いびられて親子で逃げ込んで来たり、『親が認めてくれないから』って理由で、認めてくれるまで住んでた人も居たみたいだし」
「そうなんですか……」
「ホテルになってからも、最初の頃は凄かったみたいだけどね~。さ、着いたわよ。ちょっと待っててね……。さーや~、鍵開けて~、荷物先に入れちゃうから~」
「はいよ~」
Sayaさんが鍵を開け、Miyuさんが荷物を置きに一足先に入って行った。
……中って、どうなってるんだろう……。
「んじゃ、私達も入ろっか」
Sayaさんに促され、私達も中へと入った。

『うわぁ……』
短い廊下の先には大きな部屋が一つ。大きなベッドと立派なソファー、そして小さなテーブルが置いてある。
「荷物はここに置いておくからね~」
Miyuさんがソファーの脇に私達の荷物を置いてくれた。
「あ、ありがとうございます」
「それと~、はい。唯ちゃんにプレゼント」
「私にですか?」
「『お泊りセット』よ。さっきの話からすると、梓ちゃんは着替えを持ってるけど、唯ちゃんは持ってないでしょ?まさか、明日も同じ下着を着るつもり?」
「いえ、まぁ、仕方が無いかな~とは思っていたんですけど……」
「駄目よ~そんなんじゃ……。女の子なんだから……」
「はぁ……。そうですか……」
「そうだぞ、身嗜みは下着から始まってるんだからな」
「そうなんですか!?」
「そうよ~。だから、はい、これ」
「あ、ありがとう……ございます……」
『お泊りセット』を受け取った唯先輩は早速中を覗いて……。あれ?なんでそんなに顔を赤らめるんですか!?
「あの……これって……」
「んー、まぁ、ここって一応そういった所だから……。まぁそのくらいのを一つぐらい持ってても良いんじゃない?」
「はぁ……そうですか……」
「嫌だったら着なければ良いし、その時は出るときに返してもらえれば良いから」
「……わかりました……」
唯先輩がそんなにも恥ずかしがる下着って……、一体どんだけのモノなんですか!?

「それじゃ、そろそろ私達は自宅に戻るとするかな。えーっと、荷物は置いたし、鍵は……はいこれ」
「はい、ありがとうございます」
「あとは……。朝食はどうする?時間を決めてもらえれば部屋に運ぶよ。何なら私達と一緒に食べるかい?時間は八時頃になるけど」
「ん~と……。どうしよっか?」
「私はお二人と一緒で構いませんよ」
「そ?じゃぁ、一緒の朝ごはんでお願いしまーす」
「はーい。お母さんにちゃんと伝えておくわね。……あ、そうだ。一応お風呂にぬるま湯を張ってあるけど、入って足が痛くなるようなら直ぐに冷やしてね」
「わかりました」
「それじゃ、お二人さん。また明日……じゃないや、また朝に。おやすみ~」
「おやすみなさい、朝までしっかりと身体を休めてね」
『おやすみなさーい』

Part.Cへ続く!

539:名無しさん@お腹いっぱい。
10/08/15 22:47:15 PdcQhAG30
以上です

プロットを見た人からしたら、Part.Cは
わっふるわっふる~
な感じかもしれませんが、一応全年齢板なんで、残念ながらエロは殆どありません

ではでは、明日の同じ時間にPart.Cを投下しますね~ ノシ





540:名無しさん@お腹いっぱい。
10/08/15 23:07:45 yohTCSjI0
なんという寸止め・・・

541:名無しさん@お腹いっぱい。
10/08/15 23:14:00 TyCrDwbt0
>>539 なんという酷い焦らし 続きが気になって眠れませぬ

542:名無しさん@お腹いっぱい。
10/08/15 23:50:55 TiytpoLI0
全く酷い事しやがるぜ・・・続きが気になってしょうがない

543:名無しさん@お腹いっぱい。
10/08/16 00:24:45 SbpaEtTd0
続きがすごい気になる

544:名無しさん@お腹いっぱい。
10/08/16 01:42:00 qOOcCn9KO
なんだエロないのか・・・

545:名無しさん@お腹いっぱい。
10/08/16 01:54:52 pJqdQpy3O
梓ユイってAV女優いるな

546:名無しさん@お腹いっぱい。
10/08/16 02:11:28 QcZccN5I0
唯「あずにゃんは本当にパワフルで、かつソウルフルだよ」

547:名無しさん@お腹いっぱい。
10/08/16 02:35:21 mDQIYgwM0
上の方だかで挙がってた「あと3センチ」ってタイトルの本の詳細が思わぬところで判明した

チケ組じゃないとほぼ購入不可なことで定評のある某サークルのけいおん本を求めてダメ元で並んでみた
2年位前に始発で買えたことがあるので淡い期待は持っていたが、かなり手前で完売の憂き目に会った
そのまま館内へ戻ると、目的のスペースの隣で件の本が頒布されていた
躓いて転んだら目の前に万札が落ちてたような感じがした

余談だが、そこは漫画版とらドラの絵描きさんのサークルだった
普段女性向けやってるので、まさか3日目にいるとは思わなかった

548:名無しさん@お腹いっぱい。
10/08/16 02:45:04 o+/V9ret0
ググっても出てこなかった。別にいいけど

549:名無しさん@お腹いっぱい。
10/08/16 03:12:31 aeB48Kg20
普通にピクシブにいるけど

550:名無しさん@お腹いっぱい。
10/08/16 03:32:17 nchJoI1v0
虎からもうすぐ通販分がどさっと来る予定なので、楽しみ
最近は何かハズレを引いても、相手を唯(or梓)に脳内変換して楽しめるようになった気がする

551:名無しさん@お腹いっぱい。
10/08/16 12:04:11 e3aQXCPo0
カゲ路好きだが今回は迷うところだな
はたして唯梓はあるのか

>>550 なんだその羨まスキルは!くれ!

552:539
10/08/16 12:48:27 KCVhbjVdO
>>544
そりゃぁ、全年齢板だし……

553:名無しさん@お腹いっぱい。
10/08/16 13:25:13 xQinQZQz0
URLリンク(iup.2ch-library.com)

554:名無しさん@お腹いっぱい。
10/08/16 13:41:22 nchJoI1v0
>>551
幾度となくハズレを引き続ければ自然と身に着くスキルなんだ…
ハッピーエンド捏造スキルも自然と習得するよ…

>>553
何度見ても素晴らしい

555:名無しさん@お腹いっぱい。
10/08/16 14:11:31 yldZ2559O
>>551

唯梓あったよ

556:真夏の午後のあずにゃん
10/08/16 14:21:14 rPKjQhlSO
梓「こんにちは!」
憂「いらっしゃい、梓ちゃん♪」

今日は唯先輩の家にやってきた。一応宿題をする、という名目で来たのだけど、実は本当の目的は別にある。それは…

梓「うっ、憂!」
憂「なに?」
梓「宿題、唯先輩も一緒にやるっていうのはどうかな!?」
憂「え?なんで?」
梓「えーっと…ほら、どうせ唯先輩も宿題終わってないだろうし、3人でやって唯先輩に教えてあげられたらなって」
憂「なるほど…さすが梓ちゃん、お姉ちゃんのこと考えてくれてるんだね!」
梓「そっ、そそ、そんなことないし!な、なに言ってんのかなもう…」

い、言えない…本当は唯先輩にぎゅってされたいから、なんて!

―そう、私は夏休みになってから唯先輩欠乏症に陥っていた。
毎日毎日、考えるのは唯先輩のことだけ…抱き締められたい。笑顔を見たい。あぁ唯先輩、唯先輩、唯先輩…
こんな感じで、もう昼に夜に朝にthinking yui!なのだ…

唯「おー、あずにゃんや、いらっしゃーい!」

いつもなら一目散に私に飛び付いてくる唯先輩が、今日は暑さのせいか寝転がったまま挨拶をするだけ。
寒気がするほど古いネタ使ってる場合じゃないんですよもう!

557:真夏の午後のあずにゃん
10/08/16 14:22:07 rPKjQhlSO
憂「じゃあ冷たいもの用意してくるから待っててねー」
梓「う、うん!ごゆっくり!」
憂「やだなぁ梓ちゃん、それは私のセリフじゃない?」

この状況では私のセリフなの!さぁ早く部屋から出て!
私はもう今にも唯先輩に飛び付きそうなくらいうずうずしてるんだから!

パタン…

梓「ゆっ、ゆっ、ゆ…」
唯「ふあぁ、宿題かぁ、めんどくさいなぁ」
梓「あ、あ、あの…」
唯「後で澪ちゃんかムギちゃんに見せてもらえないかなぁ…あ、和ちゃんに教えてもらうっていう手もあるよね!」
梓「唯先輩っ!」
唯「ほ?なに?」
梓「え…えと…な、何か忘れてることありません?」
唯「へ?何かあったっけ」
梓「ほら…いつもやってることというか、習慣になってることをしてないっていうか」
唯「うーん…あ!」
梓「思い出しましたか!さぁ、思う存分…」
唯「おやつのアイス食べてなかったや!ういー!」

なんでそうなるの!あぁ、そうこうしてるうちに憂も来ちゃったし…うぅ、チャンスがぁ!

…結局、私たちは普通に宿題をすることになった。
でも目の前に唯先輩がいて、なおかつ自分の溢れんばかりの欲求を満たせていないこの状況でまともに集中できるはずもなく…

558:真夏の午後のあずにゃん
10/08/16 14:22:52 rPKjQhlSO
憂「梓ちゃん、そこの文法間違ってるよ?スペルも違うし…そもそもこれ数学のノートじゃない!今してるのは英語の宿題だよ!?」
梓「あ、あはは、あははは…ちょっとトイレ!」

…はぁ、私なにやってるんだろ。唯先輩は抱きついてきてくれないし集中できないし、さっぱりだよ…
…どうして、こんな風になっちゃったのかな。唯先輩なんてだらしなくて頼りなくて、全然先輩らしくないのに。…なのにこんなにも気になっちゃうなんて、どうしてかな。
そりゃたまにはかっこよく見えることもあるし抱きつかれるとあったかくてほわほわしてるよ?一緒にいるとすごく幸せな気持ちになれて、いつまでもそばにいたいって思えるし…

あ…唯先輩は、いつだって私のことを見てくれてる。私はそれがすごくうれしい。だから…なのかな。

…なんにしても、向こうからなにもアプローチがないこの状況はすごく辛い。

梓「…もう、帰ろっかな」
唯「やだよ」
梓「…!」

廊下の隅で呟いた直後、いつもの感触が私を包んだ。確認しなくてもすぐ分かる、幸せなぬくもり。
私がずっと望んでいた、唯先輩のぬくもりだ。

唯「もう帰っちゃうなんてやだよ。まだいて?」
梓「ゆい…先輩、なんで…?」

559:真夏の午後のあずにゃん
10/08/16 14:23:43 rPKjQhlSO
唯先輩は私を抱き締める腕に力を込めて、囁くように言った。

唯「一度こうしたら、しばらく離したくないから…あまり憂に見られたくないでしょ?だからここでしようって」
梓「…なんで、ですか。さっきは忘れてたくせに」
唯「わざとだよ♪」
梓「…あやしいです」
唯「最近あずにゃんのことぎゅってできなかったでしょ。だからその分、いつもより…ね」

後ろから私を抱きしめる唯先輩は、私の胸をそっと撫でた。
こうして抱きしめられてるだけでもドキドキして胸が苦しいのに、こんなことされたら私…

唯「ねぇあずにゃん…あずにゃんは、私にぎゅってされるのやだ?」
梓「…やじゃ…ないです」
唯「じゃあ、うれしい?」
梓「……」
唯「あずにゃん?」

私は唯先輩に向き合うと、思いきり抱きついた。もう、我慢なんてしたくなかったから。

梓「うれしいに…決まってるじゃないですか。すごくすごくうれしくて、ずっと離れたくないくらいです」
唯「…そっか。うれしいな」
梓「唯先輩…」

廊下で抱き合って見つめ合う私たち。もしこの状況を憂に見られたらどうしよう…なんて不安は、わき上がる衝動にかき消されてしまった。
私は、私は、唯先輩のことが―

560:真夏の午後のあずにゃん
10/08/16 14:25:57 rPKjQhlSO
唯「…あずにゃん、私の部屋行こっか」
梓「…はい」

私たちはそっと唯先輩の部屋に入った。そろそろ憂が不思議に思う頃だと思うけど、もうそんなのどうでもよくなっていた。
西日が差し込む中、私たちはベッドに倒れこむとさらに強く抱きしめ合う。
好き、好き、大好き…ずっと抑えてきた気持ちは、もうどうしようもないほどに爆発してしまっていた。

梓「ゆい…先輩、その」
唯「ん…?」
梓「…かわいいって、言って?」
唯「珍しいねぇ。あずにゃんからおねだりなんて」
梓「い、いいじゃないですか別に…」
唯「ふふ…♪かわいいよ、あずにゃん」
梓「…えへへ、うれしいです」
唯「あずにゃん…だいすきだよ」

唯先輩は私の胸に顔を埋めた。まぁ、埋めるほどないんだけどさ…
でも唯先輩はとても穏やかな表情で、私の胸の上で目を閉じて微笑んでいた。
なんだか、唯先輩のお姉ちゃんになった気分。

唯「あずにゃん、いい匂いがする…甘くて、おいしそうな匂い」
梓「…食べても、いいんですよ?」
唯「いいの?」
梓「…はい」
唯「じゃあ…いただきます♪」

真夏のある日の午後、こうして私は唯先輩においしくいただかれてしまったのだった―

END

561:名無しさん@お腹いっぱい。
10/08/16 14:27:57 rPKjQhlSO
数ヶ月ぶりにゆいあずSS書いてみた
おっかなびっくりなのでクオリティの低さにはご勘弁を…

562:名無しさん@お腹いっぱい。
10/08/16 14:29:57 q0Vh1e/v0
>>560
GJ!
あずにゃん重症だなw唯先輩欠乏w
とにかく唯梓はわほわ

563:名無しさん@お腹いっぱい。
10/08/16 14:37:10 nchJoI1v0
>>560
GJすぎる!
また次回作待ってるよ!

564:名無しさん@お腹いっぱい。
10/08/16 15:13:25 2tcZRPSM0
なんかすっかり同人でも唯×梓が鉄板になってきてるなぁ
外れもそんなにないっぽいし

565:名無しさん@お腹いっぱい。
10/08/16 15:28:28 51yTumPLO
>>560
ほわエロ万歳ッッ

566:名無しさん@お腹いっぱい。
10/08/16 16:29:28 b3h4bAdF0
>>553
もう消えてるけど何だった?


567:名無しさん@お腹いっぱい。
10/08/16 16:46:45 e3aQXCPo0
>>555 サンクス!!虎行ってくるわ!

19話が神すぎて多少不安もあるが、明日の学園祭楽しみだ
不意打ちで唯梓くるとマジしねる




568:名無しさん@お腹いっぱい。
10/08/16 17:09:18 KCVhbjVdO
>>560
おぉー、甘エロですなぁ~
GJ!!!!

569:名無しさん@お腹いっぱい。
10/08/16 18:22:40 geqr/226O
なんでこんなにニヤニヤしてしまうのか

570:名無しさん@お腹いっぱい。
10/08/16 18:54:18 augU/uL/0
唯梓だからさ

571:名無しさん@お腹いっぱい。
10/08/16 20:02:40 f5sqpJjS0
>>560 GJ!
あずにゃんえっちいな…はわほわ(^ω^)

572:名無しさん@お腹いっぱい。
10/08/16 20:52:15 4thf2ElBO

あずにゃん先輩

~~~~~~~

唯「あずにゃんセンパ~イ」ギュ
梓「にゃっ!ゆ、唯?教室まで来てやめてよ」
唯「あずにゃん先輩分が不足気味なので補給しにきてみました」ビシ
梓「わかった、とりあえずみんな見てるから離れて」
「あとあずにゃん先輩もやめて」
唯「えへへ~両方とも却下であります」
梓「はあ…唯はも少し先輩を敬って言うことを聞こうよ」
唯「んーあずにゃん先輩って、ちっこくて可愛いからあんまり先輩って感じがしなくて」
梓「…絶対唯よりおっきくなって見返してやる!」
唯「あずにゃん先輩はこれ以上伸びないよぉ」
梓「な、何を~!」
唯「キャー♪」


573:名無しさん@お腹いっぱい。
10/08/16 20:55:09 4thf2ElBO
梓「で、いつになったら離してくれるの?」
唯「だって先輩たち部活来てくれないから…」
梓「寂しかったんだ?」
唯「…」プク~
梓(なにこれ可愛い)
梓「ごめん。劇の練習で忙しくて」
「でも私たちちゃんと唯の心配もしてるから」
唯「ほぇ?」
梓「私たちにとって唯はたった1人の可愛い後輩なんだから」
唯「可愛い…あずにゃん先輩にとっても?」
梓「もちろん!」
唯「…!ニヤっあずにゃん先輩!!」ズイ
梓「な、何?」
唯「じゃあ可愛いよって言ってください」
梓「えぇっ?な、何言って…ここじゃ恥ずかしいし」
唯「…りっちゃん先輩なら肩抱きながら」
「ムギちゃん先輩ならあったかい笑顔で」
「澪ちゃん先輩なら頭なでながら言ってくれると思うのに」
梓「うっ…」
唯「あずにゃん先輩にとって私は…」ウルウル
梓「わ、わかったよ言うから」
唯「」ジッ
梓(嘘泣きか。なんでこんなことに)
唯「」ジー
梓「…///か、可愛いよ、ゆ、唯…///」
唯「」パア
梓「うぅ~///」
唯「あずにゃん先輩かっわいい~!!!」
梓「…もう…唯のバカ///」

律「あのバカップル教室で何やってんだ」
澪「同じ軽音部として見てるこっちが恥ずかしい///」
紬「キマシ(ry」

574:名無しさん@お腹いっぱい。
10/08/16 20:58:06 4thf2ElBO
~~~~~~

梓「…夢…?我ながらなんて夢を」
(唯先輩は後輩でも大して変わんないなあ。…可愛かったけど)
唯「おいーっす!あずにゃーん!」バン
梓「唯先輩?劇の練習は?」
唯「あずにゃん分補給しにきました」ギュ
梓「はあ…やっぱりそれですか」
唯「えへへ~それにあずにゃん1人で部活させるのも悪いしね」
梓「え?」
唯「あずにゃんが1人で寂しい思いしてたら可哀想だもん」
梓(そっかなんだかんだ言っても、やっぱりこういうとこが…)クス
唯「あずにゃん?」
梓「いえ、唯先輩はやっぱり先輩ですね」
唯「はい?」

おわり

今更ですが16話の「あずにゃん先輩」発言が
忘れられないヒマ人がPC規制されながら
気合いで初めて書いた拙いSSというか小ネタというかそんなもの。
失礼しました。

575:名無しさん@お腹いっぱい。
10/08/16 21:46:30 q0Vh1e/v0
>>574
GJ!先輩後輩の逆転も良いものだw


576:名無しさん@お腹いっぱい。
10/08/16 21:49:06 JWujPyOb0
>>574 GJ! ちっちゃいあずにゃん先輩、ぜひ他の展開も見たい

577:名無しさん@お腹いっぱい。
10/08/16 22:15:29 D48RYFvQ0
お世辞にも甘いとは言えない上に
梓片思い系と言った方がしっくりくるだろうSSは
別の所に投下した方がいいのかな

ビギナーなせいか、スレの住み分けがよくわからん

578:名無しさん@お腹いっぱい。
10/08/16 22:41:56 ZtjVTyoQ0
オイラも棲み分けワカンネ ついでに投下のタイミングもワカンネ
投下してもいいのかないいのかな・・・ってためらってるうちに次から次へとエンドレス

579:名無しさん@お腹いっぱい。
10/08/16 22:44:05 JWujPyOb0
>>539 
カムバック! C-part待ってる

580:名無しさん@お腹いっぱい。
10/08/16 22:56:47 nchJoI1v0
>>577
以前片思い系を書いたときは、反応は分かれたかも
冒頭に注意書きを載せれば大丈夫かと思うけど
気になるならTXT上げか、まとめに直接アップしてリンク貼るとかも手かも

個人的には読みたいので待ってます

581:名無しさん@お腹いっぱい。
10/08/16 23:06:01 w1fTflrY0
>>574
良いねぇ~『あずにゃん先輩』、先輩後輩にかかわらず唯の性格が全く変わらないのもナイスです。
GJ!!!

>>577
梓→唯ならば問題ないと思いますよ。
投下待ってまーす。


さてさて

本当の自分 Part.C

を投下させて頂きます。

本文9レス使いますね~。

582:本当の自分 Part.C
10/08/16 23:06:36 w1fTflrY0

 ♪本当の自分♪ Part.C

二人が外に出ると、オートロックのドアが『カチリ』と音を立てて鍵をかけた。
「あ、あずにゃん。コップあるよ~、お水飲もっか~」
そう言うと、冷蔵庫の上からコップを二つ手にとり、テーブルの上に並べ、ペットボトルの水をコップに注いだ。
「はい、あずにゃんどうぞ」
「ありがとうございます」
……今は『あずにゃん』なんですね……。
「どういたしまして。……ング……ング……プハァ~……ふぅ」
えぇ~!そんな飲み方するんですか?
「唯先輩、その飲み方は女子高生として如何かと思うんですが」
「えぇ~、いいじゃ~ん。あずにゃんも喉渇いているんでしょ?」
「そりゃぁ、あれだけ歩けば喉だって渇きますけど……ング……ング……プハァ」
「ほらぁ~、あずにゃんだって一緒じゃない」
唯先輩に言われて、初めて自分が今どんな飲み方をしたのかに気が付いた。
……はぅ……ちょっと……恥ずかしいかも……。

私が顔を上げると、唯先輩は物珍しそうに室内を見渡していた。それにつられて、私も同様に見渡してみた。
大きなベッド……キングサイズか……。えっ!?お風呂って……ガラス張り!?って事は……外から丸見えで……。
「ねぇねぇ、あずにゃん。お風呂がガラス張りだよ~、凄いねぇ~」
「まぁ……そういった所……ですし……」
私がそう呟くと、唯先輩は待ってましたとばかりに不敵な笑みを浮かべながら、私に聞いてきた。
「『そういった所』って……どんな所の事かなぁ?」
「えっ!……『そういった所』は『そういった所』ですよ」
「えー、それじゃぁわかんなーい」
唯先輩は口を尖らせて不満を口にした。
「あずにゃ~ん、さっきあずにゃんが聞かれたのに答えなかったから、私が代わりに答えたんだよ~。……あれ、結構恥ずかしかったんだからね……」
あ……そういえば……そうだったっけ……。
「だ・か・ら~、ちゃんと答えてよぉ」
じゃぁ、私もちゃんと答えてあげないと……。
「あ、えと……。エ、エッチな事を……するところ……です……」
「うん!大変良く言えました!……りっぱりっぱ」
私が消え入りそうな声で答えると、満足したのか私の頭を撫でながらそう言ってくれた。
「んもぉ、からかわないで下さいよ……」
「えー、良いじゃん。おあいこって事で……」
おあいこって……ふふっ。相変わらずだなぁ~唯先輩って。
「んもぉ、からかわないで下さいよ……」
「えー、良いじゃん。おあいこって事で……」
おあいこって……ふふっ。相変わらずだなぁ~唯先輩って。
「……やっと笑ってくれたね……」
「えっ……?」
その言葉にハッとして思わず唯先輩を見ると、安心したような……でもまだ不安そうな……そんな顔をしていた。
「足を怪我してるからなんだろうけど……あずにゃん、ずっと難しい顔してたから……」
「そう……でしたか?」
でも……それを言うなら唯先輩だって……。
「うん……でもね、部屋に入って落ち着いたら、いつもの顔にちゃんと戻ったよ」
そこにはいつものふんわりとした笑顔があった。
……あぁ……そっか……この顔だ……。
呼び方の一件もあるけど……私は……この笑顔を見せてくれない唯先輩に……不安……だったんだ……。
「あずにゃん?……なんで……泣いてるの?」
「……ふ、不安……だったん……です」
その一言で、私は感情を抑えられなくなってしまった。
「唯先輩……ずっと……怖い顔してるし……私の事も……梓ちゃんって……呼んでいるし……なんで……どうして……」
泣いちゃいけない……そんな事……わかりきってる事……なのに……。

……どうして……こんなにも……悲しいの……。

583:本当の自分 Part.C
10/08/16 23:06:54 w1fTflrY0

「……あずにゃん……不安にさせちゃって……ごめんね……」
その声と共に……唯先輩が……私を優しく……抱きしめてくれた。
それは……暖かくて……柔らかくて……。
「落ち着くまで待っててあげるからね……いっぱい泣いて……嫌なことは全部流しちゃうんだよ……私はちゃんと、ここに居るからね……」
「う……うぅっ……えぐっ……うわぁぁぁ……」



私が泣き止むまで……泣き止んでもずっと……唯先輩は私を抱きしめ、頭を撫で続けてくれた。
私も……それを止めさせようとは……思わなかった。だって……。
……その温もりも、その柔らかさも、それ以外の全ても、手放したくなかったから。

「あずにゃん……落ち着いた?」
「……少しだけ……ですけど」
本当はとっくに落ち着いていた。でも……唯先輩の腕の中に……もうちょっとだけ……居たいから……。
「じゃぁさ……そのままで良いから、聞いてもらえるかな?……私がなんで『梓ちゃん』って言ってたのか、その理由を……」
「!!」
私が思わず身体を強張らせると、唯先輩は抱きしめる腕に少しだけ力を込めた。
「大丈夫だよ……あずにゃんが嫌がることを言う訳じゃないから。……むしろ変に思うかもしれないけど……」
「……?」
不思議そうな顔をして唯先輩を見ると、微笑みながら話してくれた。
「んーと……私が『お気に入りを手放したくない性格』ってのはわかるかなぁ?」
私は小さく頷いた。
「でね……あずにゃんの事を、他の人が『あずにゃん』って呼ぶと、あずにゃんが離れていっちゃう気がして……それで……」
「……他の人が『あずにゃん』って呼ばないように、『梓ちゃん』で通したと……ふふっ」
「大当りぃ~!……って笑わないでよぉ……結構本気で心配してたんだから……」
「あ……すみません……だって……本当に……変な理由なもんで……」
……なんだ……心配する必要無かったんだ……。
そうだよ、別に呼び方なんて気にする必要は無いんだし、ましてやそれで不安になる必要なんて全く無いんだから……。
「……やっぱ、Sayaさんが言ってた通り……テンパってたからなのかなぁ……」
「ん?あずにゃんがマイナス思考になってたって事?」
「はい……だから、不安に感じたんですね……」
「……私も、あずにゃんにちゃんと伝えておけばよかったね……ごめんね……」
「いえ……私が勝手にそう感じただけですし……」
「ううん……あずにゃんは悪く無いよ、悪いのは私なんだから……そんなに自分を責めちゃ、ダメだよ」
「は……はぁ……」
でも……自分で勝手に不安になってただけだし……。
「ね、悪いのは私。それで良いじゃない」
唯先輩一人の責任じゃないのに……。ん?あれ……?

私は、自分が怪我をしてからの唯先輩の行動を思い返してみた。
電車の中……酔っ払いとの喧嘩……ここに着くまでの道程……。
そして、一つの事に気が付いた。

「唯先輩……もしかしたらなんですけど、テンパった時の唯先輩って……自分を『二の次』にしちゃうんじゃないんですか?」
そういえば、去年の学祭の時もそうだったっけ。ギターを取りに行って戻ってきた時、いくら急いでいたとは言え、髪も服も乱れた状態でステージにやって来たし……。
「えへへ……、わかっちゃった?……前にね、お母さんや隣のお婆ちゃんに言われた事があるんだ……『唯ちゃんは、一所懸命になると自分が見えなくなるんだね』って」
「そうなんですか?」
「うん。ただ、それを言われたのが小学校の二年か三年位だったから、意味がよくわからなかったんだよね~」
「まぁ、その年齢なら仕方ありませんね……」
「でもね、んーと……中学生の時かなぁ……友達が男の子からいじめられてて、それを止めに入って怪我した事があってさ」
「そんな事があったんですか!?」
唯先輩は黙って頷き、話を続けた。
「家に帰ってから、お母さんに『また自分が見えなくなっちゃったの』ねって言われて、そこで初めて気が付いたんだよね……。だから、気をつけていたんだけどね……」
「そうならないように、ですか?」
「そ。……でも、今回はちょっと無理だったみたいだねぇ……えへへ……。中学の時と同じ事しちゃった……」

584:名無しさん@お腹いっぱい。
10/08/16 23:07:02 cwaju0xZ0
Cパートまだかな

585:本当の自分 Part.C
10/08/16 23:07:10 w1fTflrY0

そう言った唯先輩は、寂しそうな顔を見せた。
……何か、辛い事があったんだろうな……。
「……すみません、嫌なことを思い出させてしまったみたいで……」
「ん?別に気にしなくて良いよ……もう済んだ事だし」
「はぁ……そうですか……」
「ほら~そんな顔しないの。今のあずにゃんには関係の無い事なんだから……ね」
でも……気になりますよ……今までに見たことの無い……唯先輩のそんな顔を……見せられたら……。
「はっ!!そんな事よりも、あずにゃん!時間!!」
「へっ?……にゃっ!もうこんな時間ですかっ!?」
ベッドサイドの時計を見ると、既に十二時半を過ぎていた。
「早くお風呂入って寝ないと……。あずにゃん、急いで入るよ!」
「はい!……じゃぁ、唯先輩、お先にどうぞ」
やっぱり、先輩から先に入ってもらわないとね。後輩なんだし……。
「えっ!?一緒に入ろうよ。あずにゃん怪我してるんだし」
「いえ……何とかなりそうですし……それに……恥ずかしいですよ……」
「えぇ~。合宿の時も一緒に入ってるんだし……それに……お風呂……あれだよ……。一人の方が……恥ずかしいよ……」
唯先輩はお風呂の方を見てそう呟いた。
「あ……そういえば……そうでしたね……」
流石に……入っているところを外から見られるのは……一緒に入るよりも……恥ずかしいかも……。
「ね。だからさ、一緒に入ろう?」
「そうですね……」
でも……やっぱりちょっと……恥ずかしい、かな。



「どぉ?お湯に浸かっても痛くない?」
「えっと……大丈夫みたいですね」
「そっか、良かった~」
お互いの頭をシャンプーしあったり、背中の洗いっこをしたりして、二人で湯舟に浸かった。かなり大きいから、二人一緒でも十分余裕があった。
「あずにゃんの背中……白くてスベスベで、気持ち良かったなぁ~」
「は、恥ずかしい事言わないで下さい……。唯先輩だってスベスベでしたし、髪の毛もサラサラでしたよ」
「そぉ?ありがと~」
「……唯先輩は、そう言われて恥ずかしく無いんですか?」
「えっ?うーん、たまに憂と一緒に入ったりして同じ事言われてるからなぁ~」
はぁ、一緒に入ったりしてるんですか……。
「あ、でも~、あずにゃんと『二人きり』だから、それはちょっと恥ずかしいかも」
「……わざわざ『二人きり』を強調しないで下さい」
「えへへ~、ばれた~?」
「バレバレですよ……全くもぉ……」
「まぁまぁ、怒らない怒らない。……さて、そろそろ出ようか?」
「そうですね」
「じゃぁ、先に出てるね」
そう言うと、唯先輩はそそくさと湯舟から上がり、身体を拭いて風呂場の外に出て行った。
……なんでそんなに急ぐんだろ?……あ!そうか!下着!
静かに湯舟から上がり、脱衣所を覗き見ると……。
うわぁ……。あれは、かなり、恥ずかしい、かも……。
唯先輩が手に持ってジーッと見つめているのは、フロントの部分がレースになっているショーツ……。
でも……後ろ側、あれって……『Tバック』ってやつ……だよね……。
すると唯先輩は諦めたようにため息を一つついて、そのショーツを穿いた。
やっぱり落ち着かないのかなぁ、なんだかしきりにお尻の辺りを気にしてるし……。
「あ!」
「えっ?」
しまった!見つかった!
「あずにゃ~ん、覗かないでよぉ……。んもぉ~、あずにゃんのエッチ……」
「エ、エッチって……。わ、私はただ、どんな下着なのかなぁ~って思っただけで」
慌てて言い訳をすると、唯先輩が不敵な笑みを浮かべた。

586:本当の自分 Part.C
10/08/16 23:07:24 w1fTflrY0
「そんな事言っちゃって……見たいんだったら何時でも見せてあげるのに……」
「み、見たいだなんて……だ、第一、もう見たからいいです!」
「やっぱり見てたんじゃん……。よし!じゃぁ罰として、あずにゃんの下着もちゃんと見せること!」
「ええっ!なんでそうなるんですか!?嫌ですよ!そんなの!」
「えー、だって……あずにゃんが覗きなんかするから……。さ、そんな所に座ってないで、さっさと出て着替えようね~。ほらほら~」
唯先輩は扉を開け、私の腕を引っ張った。
うぅ……変な好奇心を出すんじゃなかった……。



「わぁー、ベッドフカフカ~。気持ち良い~。私のベッドと大違い~」
「本当ですね、私のベッドもこのくらいフカフカだったらなぁ~」
脱衣所での一悶着の後、私達は用意されていたバスローブを身につけ、……私は、唯先輩に湿布を貼ってもらい、サポーターを穿いて……、ベッドに入った。
キングサイズなだけあって、二人で寝転がってもまだまだ余裕がある。
「この大きさなら、多少転がっても安心だね~」
「『転がって』って……どれだけ寝相悪いんですか」
「んー、たまに落っこちかけて目を覚ます位?」
「はぁ、そうですか……。まぁ、今日はそんな事無いと思いますから、安心して眠れますね」
「そだね~。それに……」
「それに?」
……なんだろ?
「そ・れ・に……えへへ……とぉっ!!」
「にゃっ!!」
かけ声と共に、唯先輩が私の方へ転がってきて有無を言わせぬ素早さで真横から抱きしめた。
「こうしてれば、落っこちる心配はないでしょ~」
「そ……そりゃぁそうですけど……」
「ん~?な~に?あずにゃん恥ずかしいのぉ~?」
「恥ずかしいっていうか……何と言うか……」
気恥ずかしいとか照れくさいって、こんな感じなのかな……。
「別にいーじゃん?合宿の時もこんな感じで寝たんだし……ファ~ァ」
「ま、まぁ、それはそうなんですけど……ふぁ……」
「んじゃ、そろそろ寝よっか」
唯先輩が枕元のスイッチを操作すると、部屋の中が薄暗くなった。
「……おやすみ、あずにゃん……」
「……って抱きしめたままですか?……まぁ、良いですけど……特別、ですよ……。おやすみなさい、唯先輩……」
……って、全然眠れそうに無いんだけどね……今日は、『これでもか』って位、色んな事がいっぱいあったからなぁ~。
ライブを見て、ご飯をたべて、事故で電車が止まって、足を怪我して、酔っ払いと喧嘩して……SayaさんとMiyuさんに会って……。
「あふ……」
ちょっと……眠くなって……きたなぁ……。ちゃんと……寝な……い……と……。

§

……唯先輩遅いな……。駅員さんを探してくるって言ってたけど……見つからないのかなぁ~?
「おい!」
「はい!?なんですか?」
って、あぅ……酔っ払いだよ~。
「なんで高校生がこんな所で座ってくつろいでるんだ!!」
「あ、あの、さっき足を怪我してしまったので……」
うぅ……唯先輩、早く戻ってきてくれないかなぁ~。
「ほぅ……怪我してるのか……ひひっ 」
やだ、なんでそんな嫌な笑い方するの!?てゆーか絶対にこの人変だよ!唯先輩!!早く戻ってきて!!!
「そんじゃぁ、俺がその足を使い物にならなくしてやるよ!!」
えっ!この人ワタシの足を蹴ろうとしてるの!?
やだやだやだやだ!!今すぐ逃げなきゃ!!
……なんで!?なんで足が動かないの?
「覚悟しやがれ!!!!」
やめてー!!!唯先輩!!!助けてー!!!!ゆいせんぱーい!!!!!

587:本当の自分 Part.C
10/08/16 23:07:42 w1fTflrY0

§

「あずにゃん!あずにゃん!!」
「あ……ゆい……せんぱい?」
目の前には心配そうな唯先輩の顔、その向こうには見慣れない天井。
……あ、そっか。今の……夢だったんだ……。
「びっくりしたよ~。うなされているから何事かと思ったらさ、いきなり暴れだして大声で私の名前を呼ぶから……って、あずにゃん!?」
私は無言で唯先輩に抱き着いた。
そうしないと……不安で……苦しくて……悲しくて……。「どうしたの?怖い夢でも見た?」
私は黙って頷いた。一言でも声を出してしまうと、唯先輩が居なくなってしまう……そんな気がしたから。
「そっか……。大丈夫、私はちゃんとここにいるよ。あずにゃんの傍から離れたりしてないよ……」
「ゆ……ゆいせんぱい……うぅっ……うぐぅ……」
「よしよし……さっきで足りなかった分も、しっかり泣いて出し切っちゃうんだよ……」



「……そんな夢だったんだ……怖かったね……」
「はい……いくら叫んでも……唯先輩……どこにも居なくって……」
「そっか……」
唯先輩は先程と同じように、私を抱きしめ頭を撫で続けてくれた。そのおかげで、さっきまでの不安や悲しみが徐々に遠退いていった。
「そだ!あずにゃん、『指笛』って出来る?」
「へっ?あ、まぁ、そんなに上手じゃありませんけど……一応は」
「じゃぁさ、もしまた怖い夢を見て、その時に私が近くに居なかったら、指笛吹いてもらえればすぐに駆け付けるよ!」
「……それって、何かのゲームでありませんでしたっけ?」
「あ……ばれた?えへへ……」
「全く……。でも、もしまた怖い夢を見たら、ちゃんと吹きますからね。唯先輩もちゃんと来て下さいよ」
「おっけー、任せてよ!」
ふふっ……、夢なんだから、そんな約束したってしょうがないのに……。なんでだろう……唯先輩が言うと、本当に出て来てくれる……そんな気になってくるなぁ……。
「ふぁ……そろそろ落ち着いたかな?」
「はい……ありがとうございます」
「どういたしまして……おや……すみ……」

そう言うとすぐに安らかな寝息が聞こえてきた。
……相変わらず、可愛らしい寝顔ですね……。
唯先輩……軽音部の先輩……私が憧れていた人……。
何時もの唯先輩は……ちょっと頼りなくて……でもやるべき時はしっかりとして……マシュマロみたいにふんわりとしていて……日だまりのように暖かくって……。

……はふぅ……私も眠くなってきたなぁ……。
目を閉じると、唯先輩の鼓動が聞こえてきた。

笑顔が可愛らしくて……落ち込んでいるとすぐに励ましてくれて……寂しい時は何時も傍にいてくれて……私にとって……かけがえのない……存在……。

ん?かけがえのない存在?
夢うつつの中、ふと浮かんだその言葉で、私の意識は一気に覚醒した。
かけがえのない存在……他に代わるものの無い、大切な存在……私にとって、唯先輩が?
……本当にそうなのかなぁ……今まで考えた事無かったけど……。
……確かめてみるか、んーと……そうだ!もし唯先輩が私の前から居なくなったら……。

─ねぇあずにゃん。
なんですか?唯先輩。
─あのね……、私、明日引っ越す事んだ……。
へっ!?引っ越すって……何処に?
─かなり遠くに。
そんな!なんでそんな事今まで黙ってたんですか!?
─本当はもっと早く伝えたかったんだけど、準備とかに手間取っちゃって……。
で、でもまた会えるんですよね。

588:本当の自分 Part.C
10/08/16 23:08:04 w1fTflrY0
─ううん……多分無理。だから、あずにゃんとも今日でお別れなの。
そんな……そんな悲しいこと言わないで下さい!
─あずにゃん……泣かないで……。
な、泣いてなんかいません!!……あ、そうだ!今日これからお別れ会をしましょうよ!軽音部の皆さんと一緒に!
─ごめん、もうそんな時間は無いの。……じゃぁね。梓ちゃん……。
嫌です!行かないで下さい!!ゆいせんぱーい!!

「……うぅっ……やだよぉ……唯先輩……」
「……あずにゃん……大丈夫だよ……」
私が勝手に想像して泣いていると、そんな寝言を言いながら私を優しく抱きしめてくれた。

そっか……やっぱり……わたし……唯先輩の事が……。



『ありがとうございました~』
朝になり、私達は制服に着替えて、Sayaさん達と一緒に朝食を食べ、家路につくことにした。

「もう少しゆっくりしていっても構わないのに~」
「いえ……流石に妹も心配しますから……」
「そうだぞ、まゆ。家族に心配をかけさせちゃまずいだろ~」
「あ、そっかぁ~」

なんだかあっという間の出来事で……。

「じゃぁ、気をつけてね。梓ちゃん、痛くなったらすぐ病院に行くのよ」
「はい、わかりました。……でも、ほとんど痛みが無いから大丈夫だと思いますよ」
「『油断大敵』って言葉があるんだ、一応気をつけるんだぞ」

色々と嫌なこともあったけど……。

「はい!……ところで……湿布とサポーター、本当に頂いても良いんですか?」
「あぁ、気にしなくて良いよ。在庫は沢山あるからね」
「沢山……?なんでそんなにあるんですかぁ~?」
「ん?そりゃあ……たまに、腰を痛める人がいるからねぇ」
「……そ、そうですかっ……。あ、でも、サポーターって……」
「えっと~。ピンヒールってのは、履き慣れていないと大変みたいよ~」
「……唯先輩、薮蛇です!」

逆に、嬉しいこともいっぱいあったなぁ……。

「そういや、結局下着は穿いたのかい?」
「あ……はい……でも、なんだか……」
「穿き心地が良くない?サイズの見立て間違えたかしら?」
「いえ、サイズはピッタリなんですけど……その……お尻の辺りに違和感が……タイツも穿いていないから、余計に……」
「……あ、そっか。Tバックだったんだよな、すっかり忘れてたよ。まぁ、慣れるまでは我慢してくれ」
「大丈夫よ、すぐに慣れて落ち着いてくるから」
「はぁ……でも……ちょっと恥ずかしいなぁ……」
「おぉ、そうだ。駅の階段には気をつけるんだぞ……エロさ満開になっちゃうからな」
「はぅ……気をつけます……」

『本当の自分』に気付く事が出来たし……。

「それじゃ、失礼しまーす」
「次のライブも見に行きますからね~、失礼しま~す」
「じゃぁな、気をつけて帰るんだぞ」
「チケット送るからね~、またね~」

589:本当の自分 Part.C
10/08/16 23:08:29 w1fTflrY0

結構楽しかった……かな?唯先輩は……どうなんだろ?

「唯先輩……昨日から色々とありましたけど……嫌な事とかなかったですか?」
「んー?別にそういうのはなかったかなぁ~。どっちかって言うと……楽しかった……かな?今までに見たことの無いあずにゃんが見られたし……」
「あぅ……できれば……他の人には……内緒に……」
「んもぉ~、そんな事誰にも言わないよぉ~、当たり前じゃ~ん……ところでさ、あずにゃんはどうだった?」
「え、私ですか?」
そんなの、……決まってるじゃないですか。

だから、私は最高の笑顔でこう答えた。

「嬉しくて、楽しくて、とにかく、最高でしたよっ!!」



「うーん……やっぱり緊張するなぁ~」
今日は久しぶりのテレビ出演。
「でもさ、唯。この間のライブツアーよりは緊張しないんじゃない?」
私達『ゆいあずfromHTT』の新曲を、生放送で初披露する予定だ。
「えぇ~、ライブとテレビは別物だよぉ~」
梓はあまり緊張していないみたい……相変わらずすごいなぁ。

「いよぅ、お二人さん!おはよう!」
『ぬぉっ!』
いきなりかけられた声に驚いて振り向くと……。
「あ、Sayaさん、おはようございます。今から挨拶に行こうと思ってたんですよ」
「おはようございまーす。共演するのも久しぶりですね~」
「半年……それ以上か?まぁなんにせよ、元気そうで何よりだな」
「Sayaさんも、お元気そうで何よりです」
「ん?足の具合はどうだ?梓」
「もぉ……何時の話ですか?てか会う度に毎回それを言うの、そろそろ止めて下さい」
「ははっ、相変わらず厳しいなぁ……。唯、家でも最近はこんな感じなの?」
「ん~、でも家ではもうちょっとマイルドな……そうでもないか」
「そんな!酷いよ、唯!」
「えへへ~、冗談だってば~」
Sayaさんとの共演も久しぶりだなぁ……あれ?そういえば……。
「あのー、もしかしたら『ゆいあず』として共演するのって、始めてでしたっけ?」
「ん~?あぁ、そうかもな~」
「私達だけでSayaさんと会うのも、かなり久しぶりだと思いますよぉ~」
「……そっか、初めて会った時以来か。あ、そういや私達が引っ越しするって事、知らせたっけ?」
「え?そうなんですか?」
「あぁ、再開発に引っ掛かっちゃってさ」
「じゃぁ、あのホテルも……」
「えーっと、四ヶ月位前に閉館したよ」
そうなんだ……。ちょっと、寂しいな……。
「じゃぁ、おばさんも落ち込んでたんじゃないんですか?」
「まぁねー、でも一ヶ月位したら次の仕事見つけて働き始めたし」
うぉぅ、なんとまぁ。
「相変わらずパワフルですねぇ」
「まぁな~、生粋の『世話焼き』だから、じっとしてられなかったんじゃないかなぁ。テレビのニュース見た翌日には電話してたから」
『ニュース?』
なんだろ?そんなに気になる話題だったのかなぁ?
「あぁ、『児童施設の人員不足』ってのを知ってね、それで居ても立ってもいられなくなったみたい」
「はぁ……。おばさんらしいですね」
「まぁ、それが母さんの『売り』だから」
「そうですね……」

590:本当の自分 Part.C
10/08/16 23:08:53 w1fTflrY0
『児童施設』か……。

「あ、こちらにいらっしゃったんですか!間もなく本番ですので、スタジオに来て下さい!」
ADさんが私達を呼びにきた。
「それじゃ行こうか」
梓が一足先にスタジオへと向かう。
「よっしゃ!久しぶりだなー、生放送」
Sayaさんもそれに続く。
はぁ……いよいよ本番かぁ……。
私も緊張した面持ちで続いた。
「んー?なんだぁ?唯……もしかして緊張してるのか?」
「え?あ、まぁ……はい……難しい曲なんで……」
「大丈夫だよ、唯ならちゃんと出来る!」
「はぁ……ありがとうございます……」
そう言われても……ねぇ……。
「はぁー、全く……。そんなんじゃ母さんからの『依頼』も難しいかなぁ」
へっ!?『依頼』?
「なんですか?その……『依頼』って」
「あぁ、母さんが今働いてる児童施設……『ほおずき園』 って言うんだけどさ……、そこでチャリティーライブをしようかって話になってて……」
「もしかして、『私達』に出てほしいと?」
「まぁ、そーゆーこと。まぁでも、今の唯には難しいだろうな……この程度で緊張するようじゃ……」
むっ……。
「そんなこと」
「そんな事ありません!唯は本番に強いんですから!ねぇ、唯……あれ?」
「あ~あ、今の一言が更にプレッシャーになったみたいだぞ」
うぅ……。
「梓……今の一言は……かなり効いたよ……」
「あ……ごめん……」
「……許さない……」
「そ、そんなぁ~」
「許さない……けど、『私がちゃんと演奏出来たら、アイス二個食べて良い』って条件なら許してあげる」
「結局それ?まぁ良いけど。じゃぁ、出来なかったら『たいやき二個』ね」
「よーっし、望むところだぁ~」
「……相変わらず仲良いなぁ~。……で、どうする?なるべく早く結果を知らせたいから……」
おっと、それをすっかり忘れてたよ~。
「スケジュールに問題が無ければ大丈夫……だよね、梓」
「勿論!」
「そっか、じゃぁ番組終わったら早速伝えておくよ。詳しい日程なんかは後で正式に『依頼』されると思うから」
『はーい』



「……それでは最初のゲストはこちら!!Saya!!!」
「じゃ、お先に」

次は私達……。

「何?まだ緊張してるの?ふふっ……たいやきゲット確実かな?」

緊張はしてるけど、梓のおかげでかなり和らいでいた。

「何を言っているのかな?梓君。私がアイスを二個食べる事は、既に確定しているのだよ」

あの日……梓とライブに行かなかったら……今の私達も無かったんだなぁ。

「なんでホームズ口調なの?……って、前にも似たような事を言った気がするなぁ……」

591:本当の自分 Part.C
10/08/16 23:09:14 w1fTflrY0

梓は……あの日の事を今でも覚えているのかなぁ。

「あ……、そうか……、初めて唯とライブ見に行った日……」

あ……、覚えてて……くれたんだ……。

「ん?何でにやけてるの?」

だってそれは……。

「ん~?なんでもないよぉ~」

とても、とても、嬉しい事だから……。

「……さて、次のゲストは……なんやぁ?なっがい名前やなぁ~」

「ふふっ……いきなりダメだしされちゃったね」
「そだねぇ~」

「『ゆいあずふろむほうかごてぃーたいむ?』もっと略せばええんちゃうの!?……何?『ファンの間では、ゆいあずと呼ばれています』……ふーん」

そろそろかな……。
「行くよ!梓!!」
「うん!頑張ろうね!唯!!」
「うん!!!」

「ほんじゃぁ……次のゲスト!!ゆいあず!!!」

その掛け声を合図に、観客の歓声が響くステージへと私達は飛び出した。

『ゆいあずでーす!!こんばんわー!!!!』


おしまい!!

592:本当の自分 Part.C
10/08/16 23:13:39 w1fTflrY0
以上です。

今回で4作目ですけど、時系列的にこれが「最初」になります。

一応『次』も考えてはいるんですけど……まだまだプロットのプの字にもなってない状態でして……。

ま、いずれ書きますんで、それまでしばらく隠れてますね~

ではでは ノシ


593:名無しさん@お腹いっぱい。
10/08/16 23:24:56 SbpaEtTd0
すごく良かった

594:名無しさん@お腹いっぱい。
10/08/16 23:32:24 cwaju0xZ0
>>592
レス割り込んでしまってすまない

GJ!!!

595:名無しさん@お腹いっぱい。
10/08/16 23:56:24 q0Vh1e/v0
>>592

最初はどうなるかハラハラしたけど、ハッピーエンドで良かったw
GJ!

596:名無しさん@お腹いっぱい。
10/08/17 00:47:51 cfT1XUA10
カッコいい唯もかわいい唯も優しい唯も堪能できて最高やった・・・
続き待ってますぞ!GJ!

597:名無しさん@お腹いっぱい。
10/08/17 00:52:20 4Va8EkIV0
>>580-581


>>592
面白かったです

結局ここにうpる度胸も、自らまとめに上げる勇気もないチキン野郎なのでこっちで。
URLリンク(www.kent-web.com)

Pass:5066

*注意*
梓→唯の片思い。多分。
砂糖一粒ほどの甘さもない。
台本形式じゃないので読みにくいかもしれん。

それでもおkなら…

598:名無しさん@お腹いっぱい。
10/08/17 01:24:25 6fcM51Fd0
皆さんGJです!
空気読まずに、自分も書けたので投下してみます
6スレほど、タイトルは「やきもちと呼ばないで」です

599:やきもちと呼ばないで・1
10/08/17 01:25:40 6fcM51Fd0

 指先がなんとなく物足りなくて、半分無意識でその理由を探るうちに、私は目を覚ました。
 そこはひとり用のベッドで、だからふたりで眠るのはちょっと窮屈で、
けれど密着できるから好きな人と一緒ならむしろ好都合で、
なのに肝心のその人はいつの間にか行方不明、という状況だった。
 トイレという可能性もあるのだけれど、さっきまでその人のパジャマを握っていたはずの指先に、
私ひとり分の体温しか残ってないのが淋しくて、私はもぞもぞと起き上がった。
その人―唯先輩を捜すために。

 うっすらと差し込む朝日を頼りに、あまり音を立てないように移動し、廊下に通じるドアを開けた。
唯先輩と私のほか、今はこの家に誰もいないとわかっていても、ついつい辺りを気にしてしまう。
 平沢家の両親が不在なのは、今に始まったことではないから置いておくとして、
憂は昨日から、純の家にお泊まりに行っている。最初その話を聞いたとき、
そういう計画は私も誘われることが普通なのでおかしいなと思っていたら、
憂から、「私がいないとお姉ちゃんが心配だから、梓ちゃん、良かったらうちに泊まりに来てくれないかなあ?」と
言われてしまった。つまりそもそもが憂の計画通りなんだ。
彼女なりに、先輩と私がふたりきりになれるよう気を遣ってくれてるらしい。
 もちろん、せっかくのチャンスを有効利用しない手はなく、私は昨日の午後から、
お泊まりセットを抱えて平沢家にやってきた。憂からは程遠いにせよ、
唯先輩のレベルよりは格段に上のはずの手料理を振る舞った後は、
お風呂で背中の洗いっこをしたり、先輩のベッドで眠くなるまでいろんな話をしたり―憂の計画の一部なんだろうけど、
私の分の布団は用意されてなかった―そんなこんなで現在に至る、というわけなのだ。


600:やきもちと呼ばないで・2
10/08/17 01:26:24 6fcM51Fd0

 廊下に出てみると、下のリビングあたりから、アンプを通さないギターの音が流れてくる。
あっさりと尋ね人の行方が判明したことに拍子抜けしながら、ついつい私は苦笑していた。
部活では練習よりティータイムを優先するくせに、時には休日の早朝から練習しちゃう、
そんな理屈では説明できない唯先輩の行動は、いつも私の予想の斜め上を行く。

「唯先輩」
 驚かせるつもりはないので、ギターの音量に勝てるかどうかの声で呼びかけてみる。
すると、こちらに背中を見せていた先輩は、
「あ、あずにゃん、おはよー」
 肩越しに振り向き、いつもながらのふんわりとした笑顔で応えてくれた。
寝癖の付いた髪はそのままで、もしかしたらまだ顔も洗っていないのかもしれない。
「こんな朝早くからどうしたんですか?」
「んー、なんか目が覚めたらね、新曲の難しいとこが弾けるような気になってて、
そのイメージを忘れないうちにちょっと弾いておこうと思ったんだー」
 ここ最近、私たちが練習している曲の唯先輩のパートは、先輩よりギター歴が長い私から見ても
十分すぎるほど難しくて、パートごとの練習でも、みんなで合わせるときでも、先輩はかなり苦労している。
だったらアレンジを見直して、もう少し簡単にしようという選択肢もないことはないのだけれど、
妥協して作り上げた曲で満足するなんて、発展途上の私たちには似合わないので、
全員が納得するまでがんばろうってことになったのだ。
 正座を崩した女の子座りで、ギターを愛おしむように抱えた先輩は、身振りで私にも座るように促した。
「結構いい感じになってきたみたいだから、あずにゃん、聴いててくれる?」
「私も聴いてみたいです、お願いします」
 私は唯先輩の近くに落ち着き、期待を込めてうなずく。照れたような笑顔から一転、
真剣モードのかっこいい表情に変身した先輩は、間奏の、ずっと苦労してたソロのあたりを弾き始めた。

601:やきもちと呼ばないで・3
10/08/17 01:27:08 6fcM51Fd0

「……」
 呼吸は無意識のうちに止まり、私は、唯先輩のプレイに引き込まれていた。
昨日までのたどたどしさが嘘のようだ。フィンガーボードの上を、力強く滑らかに指が動く。
もちろん完璧とは呼べないけれど、メロディーもリズムもフィーリングまでも、想像してた以上の出来だ。
「―っと、こんな感じ」
 16小節を弾き終え、唯先輩が顔を上げた。ちょっと得意げな、それでいて弾いてる自分が
1番楽しんでいるような、とびっきりの笑顔だ。
「どう? どうだったあずにゃん?」
「……すごかったです。っていうか、びっくりしました。いつの間にか弾けるようになってたんですね」
「いやあ、私もよくわからないんだけどね」
 さっきまでのかっこいい表情ではなく、いつものとろけそうな顔で、
「きっと、あずにゃんがそばにいてくれたからだよ。あずにゃんの体温に包まれて、
あずにゃんの心臓の音聞きながら眠って、あずにゃん分が私のすみずみまで補給されたからだよー」
 こっちが赤面しそうな台詞を事も無げに言ってのけ、先輩はギターを放さないまま私を抱きしめた。
「ありがとね、あずにゃん」
 唯先輩特有のストレートな愛情表現は、はずかしいけれど癒されるのも事実だ。
「い、いえそんな、私は何も―」
 しかし、いい話で終わりはしないのが唯先輩クオリティ。私が目の前にいるのにも関わらず、
先輩は私との間のギターに視線を転じ、
「ギー太もありがと、大好きだよー」
 ネックに頬ずりして、キスまでし始めた。
「唯先輩、ギー太が大事なのはわかりますが、ちょっとこの体勢では……」
 一応さりげなく注意しても、ギー太とふたりだけの世界に旅立ってしまった唯先輩には、
多分、私の声は届いていない。
「もう、恋人の目の前で浮気だなんて、いい度胸ですね、先輩」
 私がそう言うと、やっと私の方を見てくれた先輩から、
「あずにゃん、やきもち?」
 今まで何度となく繰り返された台詞を、またも言われてしまった。
私をからかって遊んでいることは明白なので、いつもの私なら「違います」と即答するのだけれど、
今日の私は、自分でも説明のつかない反応をした。


602:やきもちと呼ばないで・4
10/08/17 01:27:53 6fcM51Fd0

「やきもちですよ? 悪いですか?」
「……へ?」
「当然じゃないですか。だって、せっかく遊びに来てるのに、なんで私を放っておいてギー太なんですか?」
 唯先輩は少し困った顔をしている。私だって心の中では、こんなこと言うつもりじゃないって思ってる。
それでもなぜか、自分じゃない自分の口は動くのをやめない。
「私だってギタリストの端くれですから、ギターを大事にする気持ちは先輩に負けてないと思います。
でも、先輩のギー太に対する愛情は、私の想像を超えています。
先輩にとってギー太は唯一無二の存在で、私はいくらでも代わりがいる恋人のひとりなんですよね?」
 先輩を困らせたくなんかない。ギー太と私を比べるなんて、先輩にもギー太にも失礼だってことも理解しているのに、
「私は先輩が好きです。ギー太を弾いているときの先輩が大好きです。けれど、
ギー太しか見てない先輩と一緒にいるのは、ちょっと悲しいです……」
 私の頭は混乱したままで、何を言っているのか自分でもわからなくなってきた。
 先輩は、ギー太をそっとソファーの上に置き、
「ごめんね、あずにゃん」
 悲しげな笑顔で私に向き直った。その顔を見たとき、一瞬の思考停止の後、
どうにか状況を把握した私は、自分が言ってしまったこと、唯先輩にぶつけてしまった暴言を後悔した。
「す……すみません、私、先輩にひどいこと―」
 その後の言葉は続かない。私は、息が詰まるくらい強く抱きしめられていた。
私よりほんの少し大きいだけなのに、不思議に包容力のある唯先輩の身体に。
「ううん、私こそごめんね、あずにゃんの気持ちも考えずに。あずにゃんが怒るのも無理ないよね」
「違うんです、やきもちじゃなくて―いえ、やきもちも少しあるかもですけど、
そんなことが言いたかったんじゃなくて……」
 しどろもどろになりながら、私の視線は泳ぐ。ずっと心の奥に仕舞っていた言葉を言うべきかどうか、
言うなら今しかないのだけれど、言っていいかどうかの判断が付かなくて、先輩の肩に頭を預けた。
 目を閉じると、それ以外の感覚は余計に敏感になり、耳は先輩の息遣いを捉える。
合わさった胸は先輩の鼓動を感じ取る。
 ―私は、この場所を失いたくない。


603:やきもちと呼ばないで・5
10/08/17 01:28:41 6fcM51Fd0

「先輩、私……怖いんです」
「……何が?」
「先輩がギターを……音楽を始めたときからずっと、先輩とギー太はいつも一緒で……」
 言いたいことが伝わるかどうか不安なまま、私はとにかく話し始めた。
「先輩自身もそう思ってるでしょうけど、私だって、先輩がギー太以外のギターを手にするところなんて
想像できないんです。ギー太を弾く先輩はすごくかっこよくて、先輩とギー太なら、
どんな不可能も可能になるように思えて」
 先輩はギー太を、軽々と自由自在に弾きこなす。ほんとは力持ちじゃないはずなのに。
私のムスタングよりずっと重いレスポールなのに。
レスポールは先輩のために作られたギターなんだと思えるくらい、ギー太を持つ先輩は絵になるのだ。
「でも、いくら大事にしてるギターでも、いつか壊れるときもありますよね? 
交換の利かない部分がダメになってしまったり、もっと大げさに言えば、
何かの事故で修理できないほど壊れちゃったりすることも、絶対ないとは言い切れませんよね?」
「……」
「もしギー太がそうなってしまったら……怖いんです。もしギー太を弾けなくなったら、
先輩は、ギターをやめちゃうんじゃないかって。バンドも音楽もやめちゃうんじゃないかって」
 ギターを通じて出会えた私たちも、終わりになっちゃうんじゃないかって。
 数回の呼吸のあと、先輩は言った。
「……そうかもしれないね」
 それは聞き間違いではなく確かに肯定の言葉で、予想していた答えのうちの最悪パターンだった。
衝撃で脱力する私に気付いているのかどうか、先輩は私を抱きしめたまま、同じ言葉を繰り返す。
「そうかもしれないね。―あずにゃんがそばにいてくれないなら」
 聞き流しそうになって、私は思わず固まった。先輩は今、何て?
 背中に廻されていた先輩の右手が、下ろしたままの私の髪を撫でる。
私は先輩に身を任せたまま、動けずに次の言葉を待った。すると先輩は、
少し身体を離して向かい合う体勢を取ると、私の目を見て言った。
「私も怖いよ。ギー太を弾けなくなる日が来るなんて、想像もしたくない。私が私でなくなっちゃう気がするよ。
でもね、もしあずにゃんが私の1番近くで支えててくれるなら、何とかなると思うんだ」
「先輩……?」
「しばらくは立ち直れないかもしれないし、かっこ悪いところ見せちゃうかもしれないけど、
あずにゃんがいてくれるなら、私、がんばれるよ。絶対、ギターもバンドもやめない。
だから、あずにゃん、私のそばにいてくれるかなあ?」
 先輩の柔らかい声が、私の中にゆっくりと舞い降りてくる。


604:やきもちと呼ばないで・6
10/08/17 01:29:32 6fcM51Fd0

「いいんですか……? 私でいいんですか?」
 今度は私の方から、唯先輩を抱きしめた。先輩はいつも暖かい。先輩に触れているだけで、
どんな悩みも溶けてしまう気がする。
「あずにゃんでいいんじゃなくて、あずにゃんじゃないとダメなんだよ」
「私はギー太と違って、多少乱暴に扱われても壊れたりしませんよ? 部品の交換もできませんよ? 
だから、もう飽きたとか好きじゃなくなったって言われても、先輩から離れたりなんかしませんよ? 
それでもいいんですか?」
 先輩は苦笑しながら、「あずにゃんも言うようになったねー」と、軽く私の頬を撫でる。
そして、少しだけ真顔に戻って囁いた。
「……ずっとそばにいてくれる? その日が来ても来なくても」
 その日―先輩と私をつないでくれたギー太が、ギターとしての生を終える日―がもしも来てしまったら、
私はギー太に約束しよう。ギー太の分も、私がしっかり先輩を護ると。
 私は、私の返事を待つ唯先輩の唇に、ダイレクトに肯定の意思を伝えた。


 しかし、いい話で終わりはしないのが唯先輩クオリティ。
「あ、もしもギー太を弾けなくなって、私がギー子やギー坊を弾くようになったとしても、
ギー太にはずっとそばにいてもらうつもりだから、あずにゃん、やきもちはダメだよ?」
「そんな心配は必要ないですっ! っていうか、唯先輩のネーミングセンスっておかしいでしょ絶対。
何ですか、ギー子やギー坊って……」
「えーー、おかしい? そうかなあ……。ならあずにゃんも一緒に考えてよー。
いい名前を付けてあげるのは、お父さんお母さんの大事な役目なんだから」
「誰がお父さんお母さんですか、誰がっ」

-おしまい-




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