11/01/24 21:22:00 2ebl2vKy
自分の使い魔が何も無い空間から突然短剣を出したことに驚いたルイズは
しばし呆然と見守っていた。
だが、何か様子がおかしい。士郎はボーっと突っ立っている。
「あんた?大丈夫?」
(なんだ、使い魔のルーンとかには、特殊な能力があったのか?)
士郎は、この現象が今のところ害は無いと判断。思考に流れてくる情報の他に
精神支配・精神崩壊の予兆は無いだろうと思うことにした。
「あ、ああ。大丈夫。
これが俺の属性。“剣”を作ることに特化した魔術師なんだ」
「へ~、妙な魔法ねぇ。私にも属性がわかるといいんだけど。」
「さっきの授業で4大系統と伝説とか言ってたけど、どの系統も使えないのかい?」
少し優しい声で尋ねる士郎。
「……うん、初歩の初歩の魔法だけじゃなくて、『コモンマジック』も成功したことが無いの。
『虚無』は試したことがないわ。伝説だもの。ルーンなんてわからないわ」
こう言われると士郎は、それを何とかしてやりたいと思う。
「もしかしたら歴史書にも載ってない6番目の系統ってこともあるかもしれないぞ。
俺の世界には“五大元素”って言うのはあるけど、俺自身はその中に含まれないし」
本来は分化した魔術という分類もあるが、それは言わないことにした。
「そうね。そうだったらいいな……」
落ち込むルイズに士郎は今投影したばかりの短剣を送ることにした。
「ルイズ。これを君にあげるよ。元手ゼロの安上がりな剣だけど」
「ゼロのルイズに、ゼロエキューの短剣ね……」
自嘲的だが少し笑顔を取り戻すルイズ。
「さ、そろそろお昼になっちゃうわ。とっとと掃除を終わらせましょう」
………
昼食時間に少し遅れて、食堂に向かったルイズと士郎。
皆は既に食堂の外でティータイムと洒落こんでいるようだ。
だが、なにかもめているらしく、誰かの恫喝する声が聞こえる。
「君が軽率に、香水の壜なんかを拾い上げたおかげで、二人のレディの名誉が傷ついた
どうしてくれるんだね?」
周りでは「二股かけてるお前が悪い」などと囃し立てる声も聞こえる。
ルイズは遠巻きに眺めている一人の生徒を捕まえて事情を聞いた。
どうやら一人の彼女に送られた香水の壜を持っていたことに、他の彼女に気づかれて
しまったようである。その際、その壜を拾い上げたのが学院で働いている平民だったようだ。
701:シロウが使い魔
11/01/24 21:23:36 2ebl2vKy
「あれは、シエスタじゃないか」
平謝りしている少女は、朝見知った人間であった。
「あんた、知ってるの?」
「あぁ、今朝2回ほど世話になった。ちょっと止めてくる」
言うなり士郎は、その渦中に割って入った。ルイズが止める間もなくである。
「八つ当たりと、弱いものいじめはやめとけよ」
「む、何だね。君は」
「俺は衛宮士郎。ミス・ヴァリエールの使い魔だ」
「ふふん、確かに君はゼロのルイズの呼び出した平民だったね。貴族に対する礼儀も知らないなんて」
「何が貴族だ。弱いものいじめをして悪びれないようなやつは、
どの世界においても大したこと無いって決まっている」
これにはカチンときたらしく、
「この、ド・グラモン家のギーシュに対してその口のききよう。
よかろう、君には体で教えねばならないようだね。……ヴェストリの広場へ来たまえ」
ギャラリーがいっせいに沸く。 決闘だ! ギーシュとルイズの使い魔が決闘だ!
ルイズとシエスタが士郎へ駆け寄る。
「あ、あんた、大丈夫なの!?ギーシュって確か『ドット』だけど、あんたに勝てる方法あるの?」
「シ、シロウさん、駄目です!貴族に歯向かったら殺されてしまいます。
今すぐ誤って許してもらってください」
これに対して士郎は
「う~~ん、多分大丈夫だろ。
あいつもここに居る大勢も“死”の匂いが全然しないような人間ばかりだし……」
衛宮士郎はかなり場数も踏んでいる。喧嘩と決闘の違いくらいなら見極めることは簡単だ。
ギーシュの友人らしき人間がヴェストリの広場という場所を教えてくれた。
士郎はすたすたと歩いていってしまう。
「あぁぁ、シロウさんが死んでしまう」と、シエスタは涙を流し蹲ってしまった。
………
702:シロウが使い魔
11/01/24 21:24:23 2ebl2vKy
「とりあえず、逃げずに来たことは、褒めてやろうじゃないか。では、始めよう」
ギーシュは手に持っている薔薇の花を振る。花びらが地に舞い落ちると同時にそこから、
甲冑を着た女戦士の形をした人形が現れた。
「僕はメイジだ。だから魔法で戦う。よもや文句はあるまいね?」
「じゃあ俺の方が武器を使っても文句は無いんだな?」
「見たところ、手ぶらのようだが、お願いするんなら剣の一つも『練成』してあげよう」
「ふん、いらねぇ。武器なら持っている」
と、士郎は腰から背中へむけて、服の中に手を入れる。「─投影、開始」
士郎が服の中から手を出すと、その手には短刀が握られていた。
やくざが俗に言うドス(質の悪い短刀)とは違い、いわゆる日本刀の短いバージョンである。
(藤村の爺さんに見せてもらったのが役にたつとは…)
「あははは、そんな小ぶりの剣で僕の『ワルキューレ』に勝てると思っているのかい?
馬鹿にしすぎだよ!!」
士郎の行為に妙な引っ掛かりを感じたギーシュだが、
「言い忘れたな。僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュだ。
我が『ワルキューレ』の強さを、その身をもって味わうといい!」
言うなり、ギーシュは『ワルキューレ』を士郎に突進させる。
そんなギーシュの台詞を聞き流しながら、衛宮士郎はやはりと思っていた。
投影直後に起きた体が軽くなる現象は、戦闘に特化した肉体強化だと。
日本刀といえども所詮は短刀である。しかも相手は金属の鎧乙女。
だが士郎は、相手をこの短刀でいなせることを、直感によって知っていた。
そして士郎は『ワルキューレ』の設計図を描き、そこに現れた弱点を攻めることにした。
(意外と間接部分の装甲が薄い)
………
『ワルキューレ』の攻撃は士郎の体に一度も届くことはなかった。
肉体が強化された士郎にとって、『ワルキューレ』の攻撃はあまりに稚拙すぎた。
戦乙女が一回突撃するたびに、三度の反撃を食らう。しかも士郎は無傷。
あわててギーシュはもてる全ての精神力を使い6体のゴーレムを追加した。
だが、それでも士郎に攻撃が届くことは無かった。
それどころか、1体1体のゴーレムの動きが鈍ってくる。
最初に呼び出した『ワルキューレ』なぞ、膝の関節部分が崩壊する始末。
士郎の投影した短刀が蓄積したダメージによって霧消するころは
全ての『ワルキューレ』は地に伏してもがいていた。
あまりのことに腰が抜けたギーシュ。そこへ歩み寄る士郎。
「ま、参った」
ギーシュは返事をするのが精一杯だった。
「あとで、さっきのメイドに謝っておけよ。いいな!?」
「わ、わかった」
703:シロウが使い魔
11/01/24 21:26:56 2ebl2vKy
───────────────
オスマンとコルベールは一部始終を遠見の鏡で見つめていた。
士郎とギーシュの決闘を止めようと『眠りの鐘』と呼ばれる秘法の使用許可を得ようと
他の教師がオスマンに求めてきたため、騒ぎを知ったためだった。
秘法の使用など喧嘩ごときには使わせなかったオスマンである。
戦い方を見た限りでは、士郎の圧倒的すぎる勝利である。
メイジ相手に短剣などで勝利するなど聞かぬ話だ。
「やはり彼は『ガンダールヴ』。始祖の使い魔に間違いありませんぞ。早速王室へ報告を……」
「それにはおよばん」
とオスマン。
「始祖ブリミルの強大な呪文の長い詠唱時間を守るために存在した『ガンダールヴ』
その強さは……」
コルベールが後を引き継ぐ。
「千人もの軍隊を一人で壊滅させるほどの力を持ち、あまつさえ並のメイジではまったく
歯が立たなかったとか!」
オスマンは語る。
「そのようなものを、王室のボンクラどもの前に吊る下げてみよ。あっという間に戦の道具に
されてしまうじゃろ」
「そうですね。わかりました。これは他言無用ということでよろしいですか?」
「ああ、そうしてくれ。本人たちにも、ルーンを含めて諸々のことを隠すように、言い含めておくように」
───────────────
704:シロウが使い魔
11/01/24 21:28:31 2ebl2vKy
「あ、あなた強いのね……」
ルイズは決着直後に思わず駆け寄ったはいいが、他になんて声を掛ければいいのかわからなかった。
「だから剣でなら戦えるって言ったじゃないか……」
『ガンダールヴ』による肉体強化のことは置いといてである。
「俺はこの世界に居るうちはちゃんと使い魔となりお前を守るつもりだ。
だからルイズは俺が元の世界に戻れるように、努力をしてくれ」
「わ、わかったわ。私は精一杯あんたのご主人様になるわ。決して後悔させないように!」
少女の決意が伝わったのか、士郎はふと微笑む。それを見たルイズは顔を真っ赤にする。
「ひとついいか?使い魔とかご主人様ってなんかピンと来ないんだ。他の呼び名にしていいかな?」
「ルイズ、シロウって呼び合うって事?」
「いや、普段はそれでいいけど、そっちじゃなくて“使い魔”と“ご主人様”の名称を変えたい」
「なんて変えたいのよ!」
なんかこれを認めるとますますご主人様との威厳が損なわれることに危惧して、ルイズは声が荒くなる。
「“サーヴァント”と“マスター”ってどうかな?」
「う、なかなかカッコいいじゃない。」
翻訳機能はうまく働いているようだと士郎は思った。
「いいわ。それで」
士郎は「ん~」と少々考えた後、ケジメだからと真面目な顔をしてルイズに向き直る。
ルイズがきょとんとした顔で士郎の顔を見つめた。見詰め合う二人。
士郎は在りし日の騎士王を思い出して言葉を紡いだ。
「サーヴァント・衛宮士郎。
──これより我が剣は貴女と共にあり、貴女の運命は我と共にある。
──ここに、契約は完了した」
705:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/24 21:29:28 iI3apZUF
>(意外と間接部分の装甲が薄い)
肘膝の「かんせつ」は「関節」
706:シロウが使い魔
11/01/24 21:32:23 2ebl2vKy
ここまでが第3章です。
自分のイメージ的には、ここで「THIS ILLUSION」が流れます。
4章は体が回復してから書こうと思ってます。
では次章で。
707:シロウが使い魔
11/01/24 21:33:13 2ebl2vKy
ああ、間接。ありがとう。直しておきます。^^
708:シロウが使い魔
11/01/26 22:40:41 hnYGfIY8
なんか医者に行ったらインフルエンザとわかりました。
タミフル飲んで今から第4章うpします。
709:シロウが使い魔
11/01/26 22:42:26 hnYGfIY8
第4章
「く、くふふふふふふふ」
妙な笑い声を出しながらルイズはもだえていた。
自室のベッドの上で、枕を抱きしめて顔をうずめながら足をバタバタしながら
笑いを押し殺していた。
それは、先ほどのことである。
─回想─
「サーヴァント・衛宮士郎。
──これより我が剣は貴女と共にあり、貴女の運命は我と共にある。
──ここに、契約は完了した」
一瞬、呼吸を忘れるくらいにルイズは己が使い魔に見とれてしまった。
周囲の景色も、時間も、全てが消え去った瞬間……
< ぐぅぅぅぅうぅぅぅぅぅ >
台無しである。いくら昼食をまだ摂ってないにしてもである。
士郎は自分の失態を顔色に顕著に表していた。火竜山脈の万年マグマと比べても
なんら遜色ないくらいに真っ赤になっていた。
「…………!」
ルイズは吹き出すのをこらえる事に精一杯だった。何とか呼吸を整えて
「遅いけど昼食にしましょ。私の部屋へ運んできて」
と声を掛けてそのまま部屋に戻ってきたのだった。
─回想終了─
今もルイズの顔色は真っ赤である。先ほどの名乗り。
実はそれだけでもルイズは、悶えるには十分だったのだ。
(私、何を使い魔にこんな気持ちになっているんだろう……)
そして、名乗りの直後のお腹の音も思い出し、今度は笑い悶える。
実は士郎のお腹の音に隠れて、ルイズもお腹を鳴らしていたのだが、それを士郎が知ることは無かった。
710:シロウが使い魔
11/01/26 22:43:17 hnYGfIY8
───────────────
お腹の音を聞かれて、逃げるように部屋へ戻ったルイズに取り残され、
しばらく士郎は立ち尽くしていた。
気を取り直して、厨房へ食事を調達しに向かう。
「…………」
ルイズとは、しばらく恥ずかしくて口も利けないだろう。
厨房に入ると、なにか大きな物体がもの凄い勢いで衝突してきた。
「シロウさん! 無事だったんですか?!!」
シエスタだ。先ほど別れてから、ずっと泣いていたような顔である。
「わだじ! わだじ! じゅっどジロヴざんのごど、じんばいじで……」
言葉にならなくなってきている。
周りのメイドに訊いたところ、
シエスタがトラブルに巻き込まれたようだと聞いて、見に行こうとしたところ
泣きながらシエスタが帰ってきた。
訳をきいても、「シロウさんが……、シロウさんが……」 としか言わない。
決闘騒ぎがあったとひとりの学院の教師が教えてくれた。
そして今度はギーシュと名乗る生徒が厨房のシエスタを尋ねてきた。
シエスタは視線で呪い殺してやるというくらいに、ギーシュを睨みつけた。
「さきほどはすまない。あれは全面的に自分の非であった」
と、ギーシュが謝っても、けしてシエスタは睨むのをやめなかった。
そして士郎が登場したというわけである。
(そうか、ギーシュは早速謝罪したのか)と、ギーシュの潔さを認めようかとも思った。
「ジロヴざ~~~~ん!!!」
泣きついて離れないシエスタを周りの助けも借りて引き剥がして、料理長に賄いを2人分頼む。
なにがあったかはどうせ明日には噂でわかるだろうと思い、詳しい説明はしないでおいた。
───────────────
711:シロウが使い魔
11/01/26 22:45:10 hnYGfIY8
<コンコン>
ルイズの部屋の扉がノックされる。
「開いているわ」
士郎が食事を二人分運んできた。
「……!、じゃあ早速食べましょ」
笑いを堪えつつ、食事を始めるルイズ。同じく食事を始める士郎。
「なにこのシチュー!! 凄く美味しい!!」
士郎が持ってきたシチューの皿と、粗末な麦で作ったパン。これが今まで食べた料理の中で
一番旨く感じたルイズ。
「なに? 厨房の平民たちって自分たちだけでこんな美味しい料理を独り占めしているの?」
さすがにそのようなことを言われていると反論せざるをえない。恥ずかしさを忘れて口を開く。
「違うよ。それはルイズがこれをはじめて食べるからだろう。
あと昼間、掃除で働いたって理由もあるはずだ」
「どういうこと?」
「普段から働いて体を動かしている人間は、体が塩分の濃いものを欲しがるようにできてる。
このシチューだって、普段体を動かしていない人間には、濃すぎる味付けだと思う」
ルイズは神妙に話を聞く。
「厨房の賄いは余り物を食材として作られるんだ。だから大体シチューになる。
なんでも煮込めばいいんだからな。
料理長の腕は抜群だろうけど、それは自由に食材を使えるときにこそ発揮されるはずだよ」
それほど多くこの学院で食事をしたわけではない士郎だが、大体見当を付けて話していた。
「ふ~~ん、そうなの……」
相槌を打ちつつ、またそのうちに賄い料理を食べさせてもらおうと企むルイズだった。
<コンコン>
扉がノックされる。ルイズが入室を促す。
「ミス・ヴァリエールとシロウさん、
ミスタ・コルベールがお呼びらしくてお部屋の方に来るようにと……」
言伝を持ってきたのは顔を真っ赤にしたシエスタだった。
「わかったわ。あ、丁度良かった。食器をついでに片付けてもらえる?」
シエスタは、士郎に何かを言いたげな視線を向けていたが、
「はい、わかりました。では、失礼致します」
と告げ、そのまま戻っていってしまった。
「なにかしら?ミスタ・コルベールの用件って……」
………
712:シロウが使い魔
11/01/26 22:47:08 hnYGfIY8
「シロウのルーンが始祖ブリミルの使い魔のルーンですって!?」
「声が大きい!ミス・ヴァリエール」
始祖ブリミルとは、ぶっちゃけ世界の創始者みたいな扱いの偉人である。
「それだと、ルイズはそのブリミルって人と同じ属性って事ですか?」
ルイズの魔法を気にしていた士郎がコルベールに尋ねる。
「それはわからない。まぁ否定する根拠も乏しいが。なにせ≪伝説≫だからね」
属性がわかるかもと一瞬思ったルイズだが、これに少し肩を落とす。
「がっかりさせるようだが、例えばだ。
シロウ君が『ガンダールヴ』としてこの世界に呼ばれる。
そして『虚無』の使い手となる人物がこの世界に現れる。シロウ君は忠誠心をもって
その『虚無』の使い手に仕える。 ということにならないとは言い切れない」
用は、『サモン・サーヴァント』『コントラクト・サーヴァント」に付随している忠誠効果が
ルイズの召喚の場合あらわれなかったことを問題視しているのだ。
「だが、単純にミス・ヴァリエールが《虚無》という可能性ももちろんある。畏れ多いが。
ミス・ヴァリエールの魔法の失敗による爆発は、
なんらか《虚無》と関連付いているからというふうに見る方法も無くも無いような気がないでも……」
ルイズはコルベールを睨む。遠回りに否定したがっていることがありありとしているからだ。
「じゃあ俺が『ガンダールヴ』とか言うものだとしたら、調べる書物は始祖ブリミル関連を
中心に漁ればいいんですね?」
「そういうことになるな」
「意外と帰る方法を見つけるのも早く済むかもしれない」
士郎はまだ見ぬ帰還方法を期待してテンションがあがった。
それと反対にルイズは意気消沈。でも、士郎の前ではその素振りを隠すのだった。
このあと、コルベールは一連の会話を誰にも言わないように釘を刺す。
この事を知っているのはコルベールと学院長のオールド・オスマン、ルイズと士郎の4人だけ。
下手に『ガンダールヴ』の事が世間に知られると、軍が黙っていないと思われるからだ。
士郎がやった“強化”の魔術だが、この世界において該当するのは『硬化』らしいこともわかった。
………
713:シロウが使い魔
11/01/26 22:48:24 hnYGfIY8
翌朝
士郎はシエスタの猛アタックを受けることになった。
といっても、洗濯のことである。
「さあシロウさん、まずはこれに着替えてください!」
と、男性物の簡素な服を上下分手渡される。
「ではシロウさんの服も一緒に洗っちゃいましょう!」
たくさんの洗濯物が山積みの桶とは別に、水を張った桶が合った。
そこへシエスタは袋に入った灰を入れて、溶かし始める。
「物(繊維)によっては生地を傷めるので、気をつけてくださいね」
洗濯物を灰の水に沈めていくシエスタ。ある程度の洗濯物を浸けると足で踏みつけ始める。
「まんべんなく染み込ませたら、今度は同じように水洗いしてください」
桶から灰汁を捨てると、代わりに水を入れる。そしてまた踏む。
水が汚れるとそれを捨てて、新しい水を入れる。これの繰り返しである。
「水が濁らなくなるまで、きちんと繰り返してくださいね」
士郎は教わったとおりに洗濯の作業をする。小一時間もするとたくさんあった洗濯物は
残りわずかとなる。
「こっちの洗濯物は作りが細かいものとかなので、足で踏むやり方はできないんです」
女生徒の下着だろうか。そちらは手もみ洗いで作業している。
「こっちは私が洗濯するので、シロウさんは洗濯物を干す作業してもらえますか?」
学院の一角に干し場があり、洗濯ばさみで乾かしていく士郎。
自分の服が乾くのはまだだろうから、今日は一日シエスタに渡されたこの服で過ごす事になるだろう。
………
ルイズを普通に起こす士郎。朝食を摂った後、教室へ。
授業中、何もしないで居るということに居心地の悪さを感じた士郎は、ルイズに筆記用具を用意してもらう。
自分なりにこの世界の魔法の勉強をしつつ、文字も勉強しようと努力する。
士郎の書く文字に興味を示したのが他の生徒たちだった。
「なにこの文字?」「ロバ・アル・カリイエの字?」「僕の名前書いてみてもらえるかな?」
休憩時間に入ると、ちょっとした騒ぎに。
士郎がそれぞれのノートに適当に当て字をした漢字で名前を書いてやる。
昨日の騒ぎで、士郎に対して微妙な空気があったが、これによりちょっとした人気者になる。
そして授業が終わり昼食。
昼食が終わるとデザートの時間。
ギーシュが士郎に声を掛けてきた。
「君、ちょっといいかな?」
士郎はギーシュに付き従う。
714:シロウが使い魔
11/01/26 22:50:36 hnYGfIY8
人気の無いとこに来たとたんに
「君には本当~にすまないことをしたッ!!」
ギーシュが謝罪をする。彼が言うには、昨日のシエスタへの暴言は引っ込みがつかなくなったものであり、
その場で割り込んできた士郎にこれ幸いと八つ当たりをしたものであったらしい。
平民に対して弱気な態度を見せられないという貴族の体質は根深いものでありそうだ。
「あと、君が取り出した剣ってあれは『錬金』によるものだろう?」
と、突然衝いてきた。
「え?なんのことだ?」
「この青銅ギーシュの目をごまかす事はできないよ。最初の君は寸鉄帯びていなかったのは明白さ。
あと戦闘終了と同時に君の武器は掻き消えたしね。という事は、君はメイジなんだね!?」
ギーシュの口封じをするわけにもいかない士郎はどうしたものかと一瞬悩む。
「あぁ、メイジという事はもちろん誰にも言わないよ。ただ一つだけお願いがあるんだ」
先にギーシュが口を開く。
「君の『錬金』した武器。あれが非常に気に入ってしまったんだ。自分でも『錬金』できるように
なりたいから、ぜひそのやり方を指南してくれないかな?」
片刃の剣のデザインが気に入ったらしい。その位ならそれほど大変なことでもなさそうなので了承する。
「俺がメイジとかなんとかって噂が立ったらお前のとこを襲いに行くから気をつけとけよ」
と、脅しを入れるのはもちろん忘れない。
………
午後、ティータイムの終わったルイズは図書館へ向かう。
始祖ブリミル関連の書物を漁りにいくのだ。6000年も歴史があると、それは膨大すぎる蔵書量となる。
ルイズは『レビテーション』など使えないため、とりあえずは手の届く高さの書物に限られるが、
それでも数日で目を通すことなどは不可能であった。地道な作業となる。
士郎は書物は読めないが、同じく図書室で文字の勉強をする。
ちなみにコルベールにも『フェニアのライブラリー』でブリミル関連の書物を調べてもらう。
主に探す資料は、“ガンダールヴ”“始祖の使い魔”“虚無の呪文”“異世界”の4つである。
これらの目ぼしい記述が見つかった場合、ノートに書き写し、それを後ほど報告するというものである。
夜になり、コルベールの部屋で報告会を行い、それでその日は終了である。
ルイズを部屋まで送り届けるときに、ルイズが言った。
「明日は虚無の曜日だから、街に出るわ。前に言った買い物とかするからね」
(そんなみすぼらしい格好なんて私の使い魔にさせてられないわ)
ルイズは今日一日士郎が着ていた服が気に入らなかったらしい。
「それじゃシロウ、おやすみ」
「ああ、おやすみ。ルイズ」
士郎の異世界3日目が終了する。
715:シロウが使い魔
11/01/26 22:53:01 hnYGfIY8
以上。次は街描写するです
716:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/27 17:19:57 w7PBU+5m
違和感無く面白いな
717:シロウが使い魔
11/01/30 01:24:08 +kO9/ycR
タミフルは残り1日分。
第5章完成したんですが、なんか今までと毛色が違った気がして
うpしていいのかどうか悩んでます
だから評判悪いようだったら書き直すつもりです。
明日うpします
718:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/30 02:42:59 njZlQuLA
む。執筆乙。
期待しているよ。
自分もそろそろ続き書かないとなあ…。
719:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/30 06:07:15 4f5kEgui
十分面白いから体に気をつけて投下してくれ
720:シロウが使い魔
11/01/30 09:42:08 +kO9/ycR
ほめてもらってうれしいです>オール
では、うpします
721:シロウが使い魔
11/01/30 09:43:01 +kO9/ycR
第5章
「馬にも乗ったことが無いなんて。異世界のメイジも大したこと無いのね」
珍しく主人(あるじ)として自慢ができることを見つけたルイズは、
上機嫌に士郎にたいして口撃をしていた。
(う~痛てて。ちくしょ~。戻ったらギーシュあたりに自転車を『錬金』させてやる)
乗りなれていない馬に長時間乗ったことで、少々腰を痛めた士郎である。
「まずは、服を買うわよ」
貴族御用達の店へと入るルイズと士郎。店員に士郎のサイズを測らせると、色々注文を出していく。
店では士郎が口を一言も開かないまま買い物は終了した。上流階級恐るべし。
次は士郎の要望で一般の衣料品店に行くことになった。
まずは出来合いの平民の服などを士郎の好みで買う。
次に羊毛に見える繊維を中綿にした布団を2組注文する。片方は綿をかなり硬めに。もう片方は柔らかめに。
「なに?ベッド用のマットなら、貴族向けの店で注文した方が、ぐっすり寝れるわよ」
ルイズは言うが、士郎はやんわり断る。シーツなど他にも数点の布を買い込む。
お金はエンジンの設計図の代わりに貰ったお金でまかなう事ができた。
丁度お昼時になったので、休憩する。
カッフェなる店が流行っているらしく、そこで昼食を摂る。
驚くことにそこでは緑茶と瓜二つの“お茶”が出されていた。カッフェなのにお茶?とは思う士郎だが、
そこは翻訳上、瑣末なことであろう。
昼食後、嗜好品の店を訪れお茶を買い入れておくことを忘れない士郎。
今現在、この国にはコーヒーは存在していないようだ。まぁいいけど。
ルイズが秘薬の店に行きたいというのでもちろんお供をする。
そこで何らかの秘薬を買い入れたようだが、士郎にはどんなものかは全然わからなかった。
これまでの買い物は全て学院に配送してもらうように手を売ってもらう。
街には、運送を一手に引き受ける配送業もあり、学院でも良く使っているとルイズに教えてもらった。
722:シロウが使い魔
11/01/30 09:43:46 +kO9/ycR
最後に向かうところは、街でもあまりきれいとはいえない場所にある武器屋だった。
ルイズが店の扉をくぐると、店の主と思われる男が胡散臭げに視線を投げかける。
相手の格好を見て貴族だと気づくと
「貴族のお嬢様。うちはまっとうな商売してまさあ。お上に目を付けられるようなことなんか、
これっぽっちもありませんぜ」
とにかく謙(へりくだ)った態度に出る。
「客よ」 ルイズは腕を組んで言った。
「こりゃおったまげた。貴族が剣を! おったまげた!」
ルイズは黙って、懐から一振りの短剣を店主の目の前に置く。
「この剣に見合う鞘が欲しいの」
それは士郎が投影したアゾット剣だった。
「こりゃなかなかの名品で……。鞘はどのようなものが?金・銀・鉄・革。なんでも作れやすが」
あつらえになると店主。
「護身用に肌身離さず身に付けたいから革の方がいいわ。出来合いの革の鞘って無いの?」
なんだ、一番安値の物か。と店主は不満に思ったが儲かる分、文句は決して言わない。
「へぇ、そちらの剣(アゾット剣)と同じ大きさの短剣ごと鞘を買っていただければいいかと。
もちろん不要な短剣は下取りさせていただきまさぁ」
ルイズは適当な短剣(の鞘)を選び、店主に値段を聞く。短剣の下取り分安くなった値段を提示する店主。
「それでいいわ。それはこのまま貰っていくから。……シロウ?」
士郎は店の片隅で独り言をなにやら呟いているようだ。
「どうしたのよ、シロウ」
「こら!デル公。またてめ~はお客様に余計なちょっかい出してやがんな!!」
声を張り上げる店主。それに答えるように士郎のそばから声が聞こえた。
「うるせい! へぼ店主!! 俺様はこの小僧っこに武器のイロハを教えてやっているとこでぇ」
「それって、インテリジェンスソード?」
「そうでさ、若奥様。意思を持つ魔剣、インテリジェンスソードでさ。こいつは口はやたら口が悪いわ、
客に喧嘩を売るわで閉口してまして……」
ふと士郎がその魔剣を持ち上げると、五月蝿かった剣が暫し黙り込む。そして、
「おでれーた。てめ、『使い手』なんか。……、俺を買え」と突然自分を売り込む。
既に『ガンダールヴ』のことを知っている士郎とルイズは目配せをしあう。
「あの剣はお幾ら?」
「あれなら、百で結構でさ」
「じゃあ買うわ。シロウ、他に買う物ある?」
店内の武具を一通り見たが、他に目ぼしいものは無かった。弓も数点あったがたいしたものではない。
こんな感じで、士郎の街でのはじめての買い物は終わった。
帰りはまた馬に乗るのかと士郎は少しげんなりした。
………
723:シロウが使い魔
11/01/30 09:44:36 +kO9/ycR
学院に着いたは夕方ぐらいとなった。
ルイズの部屋。
「シロウはこのインテリジェンスソードも『錬金』できるの?」
「俺っちはデルフリンガー様だ。まぁデルフって呼んでくれ」
「俺のは『錬金』じゃなくて、投影魔術な。いや、コイツをはじめて見たときから解析できないから
何かなと思って近寄ったら、コイツが話しかけてきたんだ」
「コイツじゃなくてデルフな」
「“剣”属性のメイジでもインテリジェンスソードは別扱いなのね」「…デルフな」
「コイツみたいなのが投影できることになったら、俺の固有結界内に一人でグチグチしゃべる剣が
いることになるからなぁ。かえって助かったよ」「…デルフ…」
「なによ、そのコユウケッカイって」
「ん~、簡単に言うと精神内の世界が現実に影響を及ぼす現象かな?
俺が剣の投影をできるのは、その固有結界を体現する能力の一部というか……」
「……ますますわかんないわよ」
デルフはいつの間にか拗ねて黙ってしまった。
「なあ、ルイズ。君の魔法について、ひとつ提案があるんだ」
真面目な顔で士郎が話す。ルイズは「何?」と訊く。
「失敗で終わるかもしれないけど、魔法訓練やってみないか?俺流なんだけど……」
「やるわ!」 ルイズ即答。
「そりゃ俺みたいな半人前に提案されても……って、即答かよ!?」
「私は魔法が使える用になるなら何でもするわ! シロウ、でいつやるの?今やりましょう」
腕をまくり、杖を構えるルイズ。
「い、いや、ここじゃさすがにまずいよ。広い場所に移らないと。あと道具も必要だし」
「道具?」
「コルベール先生の部屋に一冊の呪文書があるんだ。俺には、読めないんだけどね」
………
既に日は落ちて、空から2つの月が明かりを照らす。場所は召喚の儀式を行った場所である。
ルイズの手元には一冊の呪文書。といっても、唱えても魔法が発動する呪文が載っているのではなく、
ルーンを分解した辞書を士郎は用意したのだった。
「ルイズは魔法を失敗すると必ず爆発が伴うんだよな?
それなら逆にアプローチしてみたら、どうかなと思った」
「逆?」
「爆発する魔法を探す。 しかも失敗の魔法ではなく、意図的に爆発を起こす魔法をだ」
呪文一つで爆発(失敗)が導き出されるのなら、同じように爆発(成功)もあるのではないかと
士郎は考えたのだった。
「でも、属性の魔法では『爆発』なんて聞いたことがないってコルベール先生は言ってた。
じゃあ探すしかないなと。丁度いい呪文書もコルベール先生が持っていたし」
「うん、理屈はわかったわ。 ……つまり、スペルの組み合わせを探し続ければいいのね?」
「成功する保証は何も無いよ。草原の中の針を探すようなものだから。それでもやるかい?」
「もちろんやるわ。 いえ、やらないといけないの。 私が誇りを持って貴族を名乗るには……」
………
724:シロウが使い魔
11/01/30 09:45:49 +kO9/ycR
「風属性で使われる『ウィンデ』とか水属性の『ウォータル』とかは、
言葉(ワード)としては対象外よね?」
「そうだなぁ。今やりたいのは、一番単純な爆発呪文探しだから、多分いらないと思う」
「じゃあまず『イル』を最初にしてみるわ。残りは(スペルを)何にしたらいいかしら?」
「爆発。破裂。炸裂。爆ぜる。弾ける。割れる。壊れる。……ん~、こんな感じの言葉かなぁ」
「シロウ同じ言葉が混じっているわよ。それにしてもシロウは古代語まで使えるの?」
どうやら、翻訳機能でまったく同じ言葉になったり古代語になったりしているようだ。
「じゃあ最初は『イル・プロージョン』で試してみるわ」
士郎の言葉から『プロージョン』と言う古代語を抜き出して呪文を組み立てたルイズ。
杖を構え『イル・プロージョン』と唱え、前方の空間に向かい杖を振り下ろす!
<どごんっ!!!>
爆発(魔法)発動。問題はこれが成功魔法か、失敗魔法かなのだが……
「駄目、失敗みたい」
「そうか……、用はこれを繰り返すんだけど、本当にこれは大変な作業になるんだけど……」
士郎は再度、ルイズにこの地道な作業を行うか尋ねようとしたが、
既に次の呪文に挑戦し始めるルイズだった。
「イル・プロージョン・デル」
<ぱぁぁぁんっ!!!!>
ルイズが杖を振り下ろした瞬間、甲高い音が目の前の空間で炸裂する!
それは極限まで圧縮された空気が一気に開放されたような、タイヤがパンクした音のような、
巨大な風船が割れた時の音のような、そんな音だった。
あまりの音に驚いたのか、ルイズは直立したまま気を失い倒れてしまった。
………
「ルイズ?大丈夫か?」
ルイズを部屋へと運んだ士郎。洗面器に水とタオルを用意して、濡れタオルで頭を冷やしてやる。
「…………ん、……シ、シロウ」
「どうした?ルイズ。やっぱりこの訓練は無茶だったかもしれない。他の方法を……」
ここで飛び起き士郎に抱きつくルイズ。
「シロウ!! 成功したの!! 生まれて初めて魔法に成功したの!!」
「成功って、さっきの爆発は魔法に成功して爆発したのか?」
「そう!そうなのよ! 先生やお母さま、お姉さまが言ってたわ。得意な系統の呪文を唱えると、
体の中に何かがうまれて、それが体の中を循環する感じがするって!!そんな感じなの!
今、私の中に魔法のリズムがうまれたのよ!!」
しっかと士郎に抱きついて涙を流すルイズ。
「これで……、これで……、もうゼロのルイズなんて呼ばれないですむ。お姉さまの役にだって
立てるし、お母さまを落胆させることも無くなって、やっと本物の貴族だって胸を張って言えるわ……」
「そうか、よかったな。ルイズ」
「あ……、ありがとう、シロウ。私…、貴方のおかげで。…これからは全力で貴方の望みをかなえるわ」
魔法の訓練を提案してから1時間も経たずに、このような急展開を見せることになるとは
士郎自身も思ってなかった。
「とりあえず、コルベール先生にも報告しよう」
「そうね!」
晴れ晴れとした顔でうなずくルイズ。 魔法が成功したことを教師に報告できる喜びにあふれている。
725:シロウが使い魔
11/01/30 09:46:51 +kO9/ycR
………
「驚いた。ミス・ヴァリエールが本当に魔法を使えるようになるとは!」
コルベールの部屋で実際にルイズが魔法を唱えたときの反応である。
「で、これはいったいどのような魔法なのかね?」
「魔法のキーワードが“プロージョン”なので『破裂魔法』って感じですかね?
現実は猫だましみたいなものですけど」
「「猫だまし?」」 ルイズとコルベールに意味は通らなかったみたいだ。
<パぁーーン!>
いきなりコルベールの目の前で両の手を叩く士郎。 目を白黒させるコルベール。
「今の、俺の世界では猫だましって言う技なんですよ。格闘技の。」
「おぉぉ、びっくりした。 ほほう、なるほど。たしかにその『猫だまし』にそっくりだね。
ミス・ヴァリエールの唱えた魔法は。
では魔法の方も、『猫だまし』という名前で良いのではないかね?」
「「 え? 」」 ルイズと士郎が驚く。
「いや、これからもミス・ヴァリエールの魔法を探索というか、開発していくなら、名前も必要だろう。
見つけた魔法はミス・ヴァリエールの専用魔法として、どこかに記録していくといい」
「ああ、そっか。ルイズの魔法道は今始まったようなものなんだよな」
ルイズ、感激にウルっときたが、『猫だまし』は無いだろうと正直思ったりもしていた。
「ところでミス・ヴァリエール。その、君には申し訳ないんだが、魔法が使えるようになったことも
しばらく周囲には黙ってもらえないだろうか」
「なぜですか!? ミスタ・コルベール」
「それは君が『虚無』の可能性が高まってきたからだ」
以前あれだけ否定したがっていた『虚無』を、この段階になって肯定する理由を二人は知りたがった。
「古い文献を探している間に始祖ブリミル自身の魔法に、いくつかの記述が見つかった。
一つは幻覚タイプといえるもの。次に門を開くなどの移動系。
最後に、これを一番多用していたようだが爆発系の魔法だ。
ミス・ヴァリエールの先ほどの魔法とは違って、かなりの規模の爆発のようだがね」
「 ! 」ルイズはついに自分の系統というものにたどり着いたのである。
726:シロウが使い魔
11/01/30 09:49:15 +kO9/ycR
「で、でも、それじゃあ私は、魔法の、『虚無』の修行を行えないんですか!?」
「いや、人のいないところでの修行ならかまわない。ただし、人に悟られないようにすることが前提だ」
「音も駄目ってことですね。ミスタ・コルベール」
「……そうだ」
『猫だまし』しかわかっていない現状では、修行には音が発生してしまう。
サイレントを誰かに掛けてもらう以外に、学院内での修行は厳しいだろう。
「……わかりました。それでも何とか修行する方法は探してみせます。
だめなら、学院から離れて修行するって手もあります」
「そのあたりは、君たち二人でなんとか頑張ってくれたまえ。
私は明日からブリミルの呪文に絞って、調べを掛けようと思う」
この日はこれでお開きとなる。かなり夜も遅くなってしまった。
「シロウ。私、立派な貴族になれると思う?」
士郎が部屋まで送り届ける帰り道。
「大丈夫! 俺はブリミルって人のことは知らないけど、ルイズの努力次第だよ」
「ふふ、あんまり応援の言葉になってないわよ」
今夜も2つの月が二人の歩く先を明るく照らしていた。
727:シロウが使い魔
11/01/30 09:56:42 +kO9/ycR
以上です。
書いていてかなーりご都合主義してます。
皆さんが「イル・プロージョン・デル」と唱えても魔法発動はされません。
あと、閑話とかフラグ回収話とかも書こうかなぁと思ってます。
(士郎が日本刀を見せてもらった話や買い物で届いたものの話)
「おいおい、今回はちょっと話し無理すぎる」みたいな反応多いようでしたら
この章書き直しますね。
ではまた。 ビバジャパン
728:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/30 10:33:25 4f5kEgui
面白かった投下乙
729:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/30 22:09:55 /aFpTj4W
ガンダールヴと無限剣製の相性のよさは凄いな。この時点でアーチャーより強いんじゃね
730:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/30 22:12:32 /aFpTj4W
ミスった。すまない
731:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/31 02:31:12 9I6CaxLd
キュルケとタバサがいないのが気になった
732:シロウが使い魔
11/01/31 23:16:57 pxkS3CVD
キュルケはこれから徐々に士郎にアタックさせる予定です。
原作の『見』状態のキュルケです。
キュルケが動かないとタバサも動けないし^^;
733:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/31 23:28:10 kh5fTnx0
各種二次創作で士郎(エミヤ)は麻帆良や海鳴にはやたら召喚されますがハルケギニアに、て話は意外に無いんで喜ばしいです。
シエスタの先祖はやっぱ型月キャラなんだろうか?
734:名無しさん@お腹いっぱい。
11/02/01 02:23:35 NIAOGSMz
応援してるよ、久々の作者さんだし期待もしてる
735:名無しさん@お腹いっぱい。
11/02/01 11:51:05 mLEYvHvq
とても懐かしい香り
2~3年ぐらい遅れてやってきた感じ
736:名無しさん@お腹いっぱい。
11/02/01 13:28:21 JHVSy7rN
まとめ方わかんねぇ・・・・・・
737:名無しさん@お腹いっぱい。
11/02/02 14:12:54 uRXlB106
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738:シロウが使い魔
11/02/02 23:50:05 ic7S05JD
では、第6章うpしますね。
739:シロウが使い魔
11/02/02 23:50:56 ic7S05JD
第6章 微熱
先日の買い物で着替えだけは先に持ち帰っていたので、本日より朝の日課が行える。
まずは柔軟。腹筋運動をして、素振りを100本。 聖杯戦争以前には無かった素振りを日課に
くわえたのは、少しでも“あいつ”を超えるためである。
昨日拾ってきた素振り用の2本の棒を置いて、汗を吸った服を脱ぐ。
固く絞ったタオルで体をぬぐい、新しい服を身に付ける。
ルイズの洗濯物と一緒にこれを洗って、朝のお仕事はルイズを起こすだけとなる。
洗面用の水桶を持ってルイズの部屋へ行こう。
………
授業中、今日もハルケギニアの文字を学習していると、意外にもマリコルヌがあれこれと教えてくれる。
貴族特有の“上から目線”なのだが、士郎の隣に座り、士郎が詰まるとすぐに反応する。
意外に世話焼きな性格だったらしい。 これにはルイズも驚いていた。
昨日の買い物を配送してきた荷馬車が昼ごろ着いた。受け取りはもちろん学院で働いている平民がする。
午前中の授業が終わり、食堂に向かうとシエスタが荷物の到着を教えてくれた。
昼食が済むとすぐにコルベールの部屋へ赴く。はたして、羊毛(のような繊維の)布団が届いていた。
さっそく寝心地を確かめる。……マーベラス! 布団は場所もとらない日本人の知恵である。
これからは天気の日は朝、外に干してから出かけることになるだろう。
(後日:コルベールも同じような寝具を注文したらしい)
午後、図書館に調べ物へ行く前にルイズが士郎を部屋へと呼ぶ。
「ちょっとこれを着てみてくれない?」
着替えてみると、学院の男子学生の制服だった。訳を尋ねると、
「だって身分とか色々隠さなきゃいけないときや、秘密の任務とかあったら変装も必要でしょ?」
と言われる。秘密の任務って何だ!? ルイズの思考は時々わからない。
「ついでに髪の色も変えてみましょう。え~っと、金髪、黒髪、白髪、…そうね、今日は青い髪!」
昨日の買い物の中に秘薬があったが、どうやら髪の色を変えるものだったらしい。
士郎は結局、青い髪をした見慣れぬ男子学生という風体にされた。
「あ、そうそう。合鍵も作っておいたから今日からそれを使ってね」
さすがに学院の生徒用マントをむやみに身に付けるわけにはいかないので、それは脱いだのだが、
髪の色はしばらく落ちないらしい。
茶髪の薬を使えば表面上元に戻るが、面白がったルイズはそのままにしろと言った。
………
「シロウ、なんだね? その髪の色は」 図書館へ行く途中、ギーシュにつかまった。
「俺に訊くな。ルイズに訊け」 なげやりになる。
「ちょっと街で秘薬を見つけて、思わず懐かしくて買っちゃったの」
「無駄遣いして。 これだから貴族は……」 士郎は愚痴る。
「心外だな。貴族の全てが無駄遣いするわけじゃあないぞ。
……でも髪の色を変えるのも楽しそうだなぁ。モンモランシーに頼み込んで作ってもらおう」
次の日から学院で髪の色を変えることが流行ったりする。
………
740:シロウが使い魔
11/02/02 23:52:03 ic7S05JD
深夜、
「――投影、開始(トレース・オン)」
コルベールの小屋を出て草地の上、結跏趺坐の状態で修行を行う。
創造の理念を鑑定し、基本となる骨子を想定し、構成された材質を複製し、製作に及ぶ技術を模倣し、
成長に至る経験に共感し、蓄積された年月を再現する。
これが衛宮士郎の投影魔術における工程である。
頭に思い浮かべるのは、“あいつ”の愛用していた一組の夫婦剣。
誇れるものが何もない英霊だったからこそ、己が努力のみで掴み取った極み。
衛宮士郎は奴を越えていかねばならない。
「――憑依経験、共感終了」
投影する手前で工程を止める。投影せずともわかる。未だ、奴の投影したものには遠く及ばない。
だが錬鉄の英霊という目標は、自分をいずれあの高みに連れて行くだろう。
その高みを越えられるか……、“あいつ”は俺に常に問いかけている気がした。
「ん?」 ふと視線を感じた気がする。
視線を上げると、本塔の上だろうか。人影が見えたようだ。
こんな時間に誰だろうと思うが、この世界の魔法使いは深夜の散歩を嗜む者もいるのかもしれないと思い、
特に気にしないことにした。 小屋へと戻る士郎。
───────────────
コルベールの小屋の前で不思議な座り方をしている少年に、ふと興味を惹かれてしまった。
ちょっと見ていただけだが、逆に感づかれるとはこの『土くれのフーケ』様らしくない失敗だ。
あわてて隠れたが、向こうの反応からこちらに気づいたのは明白だった。
まぁ、顔を見られたわけじゃないし、相手も気にしていないようなので一安心である。
明日の晩も、あの少年があそこに居るようなら少々時間を変えて下見をせねばなるまい……
───────────────
………
741:シロウが使い魔
11/02/02 23:54:40 ic7S05JD
本日も授業を受けるルイズと士郎。士郎は視線を感じたので、そちらを振り向く。
キュルケのサラマンダーだった。 そういえば、もう召喚されてから7日目かと、しみじみ思う。
幻獣種を見慣れるようになろうとは、召喚前の自分は思ってもみなかった。
それにしても、あのサラマンダーはなぜこっちを見ているのか。ちょっと気になる。
昼食時もサラマンダー(名前はフレイムだったか)がすぐそばでこちらを見つめていた。
キュルケ自身や他の使い魔たちはこちらに興味を持っている風ではないので、ますます意味がわからない。
「チチチチ」 手を出してみたが、炎を一つ吐いて主人の元へ歩き去った。
図書室にこもり、コルベールの小屋での報告会の後、ルイズを部屋まで送った。
そこで、キュルケの部屋のドアが突然開いた。
現れたのはサラマンダーのフレイム。フレイムはちょこちょこと士郎のそばまでやってきて、
「きゅるきゅる」
人懐こい感じでないた。敵意は無いようである。
士郎の上着の袖を咥えると、そのまま何処かへ引っ張っていこうとする。
「おい、袖が伸びるよ」 困る士郎。そのまま引っ張られていく。
フレイムはそのままキュルケの部屋へ。中は暗い。
「扉を閉めて」
キュルケの声がする。 内密な話だろうか? とりあえずそのまま言うとおりにする。
「ようこそ、こちらにいらっしゃい」
「ずいぶん暗いんだな」
キュルケが指を弾くと、暗がりから一本一本蝋燭の火が灯っていく。
ベッドに腰掛けた悩ましい感じのキュルケの姿が浮かび上がる。
(ぽりぽり)士郎は困って耳の後ろを掻く。
「そんなところに突っ立ってないで、いらっしゃいな」
キュルケの横へ座れと促される。
「用件を言ってくれないか?」
「あら、野暮なお方。こんな状況なら、用件を言わずともわかってくれるでしょう?」
士郎は初めて接するタイプの女性に思わず苦笑した。
(俺の知り合いもバラエティーに富んでたけど、さすがにこの手の娘はいなかったなぁ)
「あたしの二つ名は『微熱』。あたしはね、松明みたいに燃え上がりやすいの。だから、
いきなりこんな風にお呼びだてしたりしてしまうの。わかってる。いけないことよ」
「ええと……、俺のどこを好いてくれたのかな?」
「あなたが、ギーシュを倒したときの姿……。かっこよかったわ。まるで伝説のイーヴァルディの
勇者! あたし、それを見て痺れたのよ。そのときにあたしの中の情熱が燃え上がったの!」
立ち上がり抱きついてくるキュルケ。
「今日は青い髪なのね。赤い髪の方が素敵だけど、青も悪くないわ」
742:シロウが使い魔
11/02/02 23:55:46 ic7S05JD
(う~む、どうしようか)と士郎が思案していると、
「キュルケ! 待ち合わせの時間に君が来ないから来てみれば……」
「ペリッソン! ええと、二時間後に」
「話が違う!」
三階の窓の外からハンサムボーイがキュルケに抗議をしている。
キュルケは煩そうに、胸の谷間から魔法の杖を取り出すと、見もせずに窓の外へ向かい杖を振るう。
蝋燭の火から、炎が大蛇のように伸び、窓ごと男を吹っ飛ばす。
「まったく、無粋なフクロウね。 でね?聞いてる?」
「約束は守った方がいいよ」 呆れて声も出ない士郎だったが、何とか一言言う。
「そんな事言わないで。 新たな恋は何よりも優先させるのが、女としての……」(ゴンゴン)
今度は窓枠が叩かれる。
「キュルケ! その男は誰だ! 今夜は僕と過ごすんじゃなかったのか!」
「スティックス! ええと、四時間後に」
怒り狂いながら、スティックスと呼ばれた男は部屋に入ってこようとした。
再度、煩そうに杖を振るうキュルケ。 炎と共に地面に落ちていくスティックス。
このタイミングに合わせて士郎はこっそりドアから外に出て行った。
「あら? ダーリン? どこに隠れたの?」
部屋の中からキュルケの声がしたが、もちろんスルーしてコルベールの小屋へと戻った。
(それにしても時間だけずらして、約束のキャンセルをしないのはある意味凄いな)
妙なことに感心する士郎であった。
この後、キュルケの部屋では新たに3人の男が登場したのだが、それは士郎には知る由もない。
………
743:シロウが使い魔
11/02/02 23:56:28 ic7S05JD
「なぁ相棒。何で俺っちはこんな埃だらけの部屋の隅っこに置きっぱなしなんだ?」
今夜も魔術の修行に出かけようと思ったら、デルフが訊いてきた。
「何でといわれても、普段から刃物を持ち歩くわけに行かないだろ」
「相棒は剣士だろ? いざというときに武器を持ってないと逆に困んだろ」
「いや、いざというときには剣を出せるし……」
「何だよ、それ。相棒は体ん中に剣でも埋まっているってのかよぉ~」
「……似たようなもんだよ。しょうがない、一度お前には見せておくか」
煩くされてもしょうがないので、デルフに剣製を見せておくことにした。
「ほら、これが夫婦剣の片割れ。干将だ」
「うぉい、どこから出したんだよ。あれか?メイジの錬金ってやつか?」
「そんなもんだと思ってくれていい」
「ちっ、それじゃあ俺のことは必要じゃねえのかよぉ」
「……お前を持ち歩けば、(人前で)剣製せずにすむか……。
明日の朝から、修行用に持ち歩くことにするから、おとなしくしてろよ」
「おお、ありがてぇ。これで俺様も役立つことができるぜ」
意外とさびしがりやだったようだ。
(さて、今宵も剣製のイメージトレーニングをするか。
……ルイズの魔法修行にイメージトレーニングは使えないかな?)
そんなことを考えながら、日課の魔術鍛錬をする士郎だった。
………
744:シロウが使い魔
11/02/02 23:57:12 ic7S05JD
翌朝、朝の日課と洗濯を終わらせてルイズの部屋に向かうと、
「ダぁ~リンっ!」
キュルケがいきなり抱きついてきた。
「もう、昨夜はいきなりどこに消えてしまったのよ」
いきなりも何も普通に扉から帰っただけなのだが。黙ったまま。
「え~っと、ルイズ起こしに行かないといけないから離れてくれないかな?」
「もう、あんな小娘はほおっておけばいいのよ。食堂行きましょ?」
「なぁ~にが、あんな小娘ですって?」
珍しくルイズが既に起きてて、自分の部屋から出てきた。
「あら、珍しいじゃない。おはようルイズ」
「おはようじゃ無いわよ! シロウは私の使い魔なんだから、とっとと離れなさい!!」
士郎からキュルケを引っぺがすルイズ。
「もう、せっかくいいとこだったのに」
「しっしっしっ」
「あたしは犬じゃないの。まぁいいわ。また後でね、ダーリン」
キュルケはフレイムと一緒に階下へと降りていく。
「俺なんかのどこがいいんだろうなぁ。 まぁからかわれているだけかもしれないけどな」
「そうよ! からかわれてるだけなんだから! あんな女のそばに寄っちゃだめよ!」
背中に担いだ剣に気づいたルイズ
「なに?士郎。 その剣持ち歩くの?」
「部屋に置いとくとかえって煩いんだよ、こいつ」
「こいつじゃなくて、デルフって呼んでくれよ~~~~」
………
その日は一日中キュルケに絡まれた士郎。
授業中も絡んでくる。食事中も絡んでくる。トイレにさえ現れ絡んでくるキュルケ。
ルイズに断りを入れて、コルベールの小屋に隠れる士郎。
「相棒、んなこそこそ逃げ隠れねぇで、やっちゃえばいいんだよ」
どっちの“やっちゃえ”の意味なのかはあえて訊かない事にする。
「どうも、あのタイプは苦手だ……」
学校中をガンドの銃撃から逃げ回ったあの時の体験の方がよっぽど楽かもしれない。
「むぅ、しばらく身を隠しているくらいしか思いつかない」
ルイズに言って、しばらく身の回りの世話と勉強は休ませてもらおう。
この士郎の判断がルイズとキュルケを決闘に導くなど、誰に予想ができたであろうか。
745:シロウが使い魔
11/02/03 00:00:30 lt2b7GGW
以上第6章です。
なるべくフラグの類は回収し忘れないように気をつけてはいるんですが、
もしかしたら忘れちゃうかもしれません。そのときはご容赦を
次章、『土くれ』乞うご期待
746:名無しさん@お腹いっぱい。
11/02/03 21:22:18 qj9giS+y
激しく乙、6章までwikiにまとめておきました
なんかレイアウトで問題あればレスください
しかし、まとめ管理人氏はまだこのスレに要るのかのう
いるなら魔眼の使い魔のファイル名番号を半角二桁にしてほしい
naviが機能してなかった
747:名無しさん@お腹いっぱい。
11/02/03 22:22:57 FxIHvRgo
乙でした
>>733
他の作品世界だと士郎が投影魔術を見せたら「すげ~~!」とか驚いてくれるが
ゼロ魔世界だと「なんだ錬金か」で終わるから、ぶっちゃけギーシュクラスでも型月世界に着たら化物扱い。
そこらへんの整合をどう描いてくれるか…。
748:シロウが使い魔
11/02/05 22:45:45 FV6cQKE5
>>746
おお、まとめありがとうです。 いくつか修正部分あるから
それはどうしようかなと…。 まぁいいや^^
本日、真夜中に7章うp予定です。
ちょっと長くなっちゃったーー;
749:シロウが使い魔 ◆vVcjSMqk46
11/02/06 00:17:54 dulTJQnV
第7章 土くれ
衛宮士郎が今、ハルケギニアで作りたいものが5つある。
一つは自転車。だが、部品を錬金で作るのが難しいらしい。
冶金技術がものすごく遅れているようだが、ある程度は魔法で補えるだろう。
二つ目は反射望遠鏡。金属加工の技術の遅れは『固定化』の呪文がいくらでもカバーしてくれる。
単純な構造物なら作れるはず。ということで、思いついたのが反射望遠鏡だった。
コルベールには既に設計図を見てもらっている。
この世界の望遠鏡はかなり粗末なものらしいので、精度は比ぶべくもない。
三つ目は魔法瓶。これも『固定化』があれば案外簡単に作れるはず。
一般庶民もかなり便利がるアイテム、間違い無しである。
四つ目はしょっつる。いわゆる魚醤である。衛宮士郎は基本的に日本食を好む。
ハルケギニアに来て、何が困ったかといえば毎日洋食タイプの食事であることだ。
かといって、大豆製品がこの世界にはないらしい。代用の調味料で思いついたのが、魚醤である。
衛宮士郎は過去、工房代わりの土蔵で醤油を作ろうとして切嗣に怒られたこともある。
作り方はわかっているので、機会があれば作ってみようと思っている。
最後にマッチ。
突然お茶が飲みたくなったりしたとき、火種が無いのが困りものである。
もちろん学院には火のメイジも多いし、頼めばコモンマジックの“着火”程度ならすぐやってもらえる。
しかし、真夜中の人気の無い時間だと頼めない。学院の厨房にも、火種程度なら残っているが、
それをわざわざ火に熾すわけにもいくまい。
士郎はマッチの原材料を(リンを使っている程度しか)知らないので、
コルベールに研究してもらおうかと思っている。
コルベール自身は火のメイジのためか、マッチの重要性を今一つわかっていないようだ。
………
コルベールの小屋に篭っているついでに、今は魔法瓶の作成に取り掛かっている。
「ふむ、外側のガラスと内側のガラスの間に空間を設けるのですな?」
「そのあとに、隙間の空気を吸い出して隙間を閉じます」
『固定化』されたガラスの間にある空間から、空気を魔法を使って抜き、密閉する。
「さて、今作成したガラスのポットに熱いお湯を入れます」
「ほうほう」
「これをしばらく放置しておきます。まぁ1時間くらいですか」
「ではその時間でシロウ君の文字の学習を進めましょう」
………1時間後
「そろそろいいかな?コルベール先生、ポットのお湯でお茶でも入れましょうか」
「? もうお湯も冷めたのでは?」
「ふたを開けると……」
「おお、湯気が! 冷めてないということかな?」
「いえ、蓋の部分や外側と内側の部分の接合部、その他放射熱などにより熱は逃げます。
ただそれ以外では熱が逃げにくくなっているので、普段より冷めないんです」
「ほほう。 素材とか色々研究すれば、もっと冷めにくい物ができますな」
「そうです。 これを大量生産すれば、結構売れるんじゃないでしょうか?」
「一考の価値はあるな。 これなら『錬金』できるメイジも多いことでしょう」
『土』系統のメイジを確保することがこれからの課題になりそうだ。
………
750:シロウが使い魔 ◆vVcjSMqk46
11/02/06 00:19:13 dulTJQnV
閑話休題。
士郎がコルベールの小屋を出れなくなったため、ルイズは少々不満だった。
士郎がいつの間にか見当たらなくなったため、キュルケは少々不満だった。
結果、不満は互いの少女へ向かうことになる。
「キュルケ! あんたのせいでシロウが困ってんのよ! もうちょっかい出さないで!」
「ルイズ! あなたシロウをどこに隠したのよ! あたしの恋路を邪魔しないで!」
「「決闘よ!!」」 ある意味、息はピッタシだった。
月明かりの元、ヴェストリの広場で背中合わせに立つ2人の女生徒。
証人兼ジャッジとしてキュルケの親友タバサが呼ばれた。タバサがルールを説明する。
「10歩歩いたら、振り返って呪文を唱える。先に倒れた方が負け」
「「わかったわ」」
「開始」 タバサが開始の宣言をする。
「「1、2、3、4、5、6、7……」」 互いに杖を胸元まで持ってくる。
「「8、9」」
「「10!」」 両者振り向き呪文の詠唱に入る!
キュルケはお得意の『ファイヤーボール』を唱える。
ルイズは先日見つかったばかりの『猫だまし』を唱えた。
ルイズの呪文が一足先に完成。キュルケの目の前で炸裂する!
「きゃっ!」 キュルケの呪文の詠唱が途切れる。
ルイズは既に次の呪文の詠唱に入る。といってもその他の呪文は使えないはずだった。
(あたしだって『ファイヤーボール』くらいなら使えるはず!)
呪文完成! 発動……せず。いつもの失敗魔法が発動した!
<どごぉぉぉん>
目標のキュルケを大きく外れて、本塔の上のほうに命中したようだ。
「あなた、どこ狙っているのよ」 ルイズを鼻で笑うキュルケ。
(さっきはなんか訳のわからない呪文で驚かされたけど……)呪文を詠唱するキュルケ。
「食らいなさい!」
『ファイヤーボール』がルイズを跳ね飛ばした。
「キュルケの勝ち」 タバサがキュルケの勝利を宣言する。
「くっ! おぼえてなさい!」 雑魚キャラのような捨て台詞を吐くルイズだった。
751:シロウが使い魔 ◆vVcjSMqk46
11/02/06 00:20:11 dulTJQnV
<ずごごごごごぉぉぉ>
突然の地鳴りと共に、土で出来た巨大なゴーレムが目の前に現れた。
現れたかと思うと、そのまま本塔に殴りかかるゴーレム。
<ばごんっ!!>
本塔の壁が一部壊れる。
「なに?」 キュルケが突然の成り行きについていけずに誰とも無く訊いた。
「盗賊」 端的にタバサが答える。
「止めなきゃ!」 いち早くルイズが行動を起こす。
「今度こそ!『ファイヤーボール』っ!!」
失敗魔法発動。 ゴーレムの表面がはじけた。 だが、そのまま修復されるゴーレム。
キュルケとタバサが続く。
「『ファイヤーボール』っ!」「『ウィンド・ブレイク』」
かなりのダメージを食らったようだが、やはり修復されていくゴーレム。
ゴーレムの肩に黒い人影が見えたと思ったが、本塔に出来た亀裂から中へ消えていった。
タバサが自分の使い魔の風竜シルフィードを呼んで、他の2人と一緒に乗り込む。
「『土くれ』のフーケ。最近このあたりに出没しているらしい」
「このままじゃ学院の宝が盗まれちゃうじゃない!」 ルイズが声を荒げる。
「奴が出てきたところを集中的に狙いましょう」 キュルケが提案する。
しばしのち、黒ずくめのローブの人物が、ゴーレムの肩へ戻っていく姿が見えた。
「「『ファイヤーボール』」」「『ウィンド・ブレイク』」
3人は、先ほどと同じ呪文を今度はフーケに向かって撃ち込む。
「や、やったの?」 ルイズがフラグを発動する。
一瞬、人物に命中したと思えたがそれ自体がダミーだったようだ。
土煙にまぎれて、逃げおおせたフーケ。 まんまと学院の宝を盗まれてしまった。
………翌朝
トリステイン魔法学院は大騒ぎになっていた。もちろん『土くれ』のフーケ襲来の件である。
『宝の弓、確かに領収いたしました。土くれのフーケ』
などと、宝物庫の壁に残されていた。
宝物庫に教師が集まり、口々に好き勝手なことを言い合う。
「衛兵は何をしていた」「衛兵など平民、それより当直の貴族は誰だ」「ミセス・シュヴルーズですな」
「ミセス・シュヴルーズ、貴方は何をしていた」「も、申し訳ありません」
シュヴルーズ以外の教師がシュヴルーズを責め立てる。
「泣いても、お宝は戻ってこないのですぞ!貴方は『宝の弓』を弁償できるのですかな!」
「まぁまぁおよしなさい。我々の中にまともに当直の仕事をこなしていた人物、果たして居りますかな?」
オスマンが弁護をする。
「それは……」 一番猛烈に責め立てていたギトーは、口篭ってしまう。
「今回の件は我々全員にあるのじゃ。油断していた我らがまず反省せねばならん」
「おお、オールド・オスマン、貴方のお慈悲に感謝します。これからは父と呼んでよいでしょうか」
と、オスマンに抱きつくシュヴルーズ。 オスマンはシュヴルーズの尻を撫でたりしていた。
「私のお尻でよければお好きなように。 そりゃもう、いくらでも」
……オスマンに対する周囲の視線が冷たくなっていく。
752:シロウが使い魔 ◆vVcjSMqk46
11/02/06 00:21:12 dulTJQnV
咳を一つして、オスマンは言った。
「で、犯行の現場を見ていたのは誰じゃね?」
「この三人です」 コルベールが自分の後ろに控えていた三人を指し示した。
ルイズにキュルケにタバサである。士郎はルイズの付き添いでこの場にはいるが、現場は見ていない。
「詳しい説明をしてもらおうかの」
ルイズが進み出て、見たままを述べた。
「大きなゴーレムが現れて、壁を壊したんです。肩に乗っていた黒いメイジが、ここからなにかを……、
その『宝の弓』だと思うんですけど……、盗んだ後、またゴーレムの肩に乗りました。
私たちが呪文を唱えて阻止しようとしたんですが、土煙にまぎれて消え去っていきました」
「それで?」
「あとには、土しかありませんでした。手がかりになるようなものは特に見つけていません」
「ふむ、そうか……。 ときに、ミス・ロングビルはどうしたかね?」
誰も知らないと反応が返ってくる。 そして丁度ロングビルが現れる。
「オールド・オスマン。盗賊の手がかりをつかみました!」
「手がかりじゃと?」
「今朝方、この状況を見てすぐに調査に当たったのです。
周囲を聞き込んだところ、あやしげな人物を見たとの目撃証言を掴みました」
「仕事が早いの。ミス・ロングビル。 それでその場所は?」
「ここから馬で四時間くらいにある森の廃屋に黒ずくめのローブの人物が入るのを見たようです」
「すぐ王室に報告しましょう! 王室騎士隊であればあっという間に……」
「喝ぁぁっ! 王室なんぞに報告してたまるか! 時間も惜しいし、今後王室が学院に関与するなぞ
不愉快にもほどがある! 我々の問題は我々が解決するのが当然じゃ!!」
コルベールの提案を即効で却下して、オスマンは皆に言う。
753:シロウが使い魔 ◆vVcjSMqk46
11/02/06 00:22:05 dulTJQnV
「では、捜索隊を編成する。我と思う者は杖を掲げよ」
誰も杖を掲げない。困ったように顔を見合すだけである。オスマンがいくら促してもだめである。
だが、ここで一人杖を掲げるものが現れた。ルイズである。シュヴルーズが驚き、声を掛ける。
「ミス・ヴァリエール! あなたは生徒ではありませんか! ここは教師に任せて……」
「誰も掲げないじゃないですか!」
口を少々への字にして、真剣な目をするルイズ。この場の誰よりも格好よかった。
横目でルイズを見るキュルケ。 やれやれという顔をしながら続いて杖を掲げる。
「き、君たちも生徒じゃないか!」 コルベールが声をあげる。
見るとタバサも杖を掲げていた。
キュルケと目があうと、タバサは一言「心配」と言った。
「では、君らに頼むとしようか」 オスマンが言う。
コルベールやシュヴルーズが反対の声を上げるが、オスマンはそんな声を無視する。
「彼女たちは敵を見ている。その上、ミス・タバサは若くしてシュヴァリエの称号を持つ騎士だと
聞いているが?」
「本当なの? タバサ」 キュルケは思わず訊いてしまう。
周りがざわつく。シュヴァリエの称号はそれほどの価値があるのだ。
「ミス・ツェルプストーは、ゲルマニアの優秀な軍人を数多く輩出した家系の出で、
彼女自身の炎の魔法も、かなり強力と聞いている」
オスマンは続けた。
「ミス・ヴァリエールは優秀なメイジを数々輩出したヴァリエール公爵家の息女で……」
言葉に詰まるオスマン。 色々と秘密の話があるので言葉が濁ってきた。
「彼女は将来有望なメイジなのじゃ……。 そうそう、その使い魔は、
グラモン元帥の息子である、ギーシュ・ド・グラモンを傷一つ負うことなく倒した腕前じゃ」
「そうですぞ、なにせ彼はガンダ……」
不用意に口を滑らせそうになるコルベールにオスマンは杖で地獄突きをかます。
「ぉごぉぉぉ……」 悶絶するコルベール。
「魔法学院は、諸君らの努力と貴族の義務に期待する」 オスマンが宣言する。
ルイズ・キュルケ・タバサは「杖にかけて」と同時に唱和する。
そしてスカートの端をつまみ恭しく礼をする。 士郎は黙って見ている。
「では、馬車を用意しよう。魔法は目的地に着くまで温存したまえ。
ミス・ロングビル、彼女たちを手伝ってやってくれ」
「もとよりそのつもりですわ」 ミス・ロングビルが応えた。
………
754:シロウが使い魔 ◆vVcjSMqk46
11/02/06 00:22:59 dulTJQnV
女生徒3人とミス・ロングビルとともに、宝物庫から学院正門まで向かうときに士郎は尋ねた。
「で、この中に『宝の弓』を見た人間はいるのか?」
4人とも、『宝の弓』は見たことがないという。
「……、それじゃあ取り戻すにしたって何が『宝の弓』か判らないじゃないか」
士郎はあきれて、踵を返す。
「どこ行くのよ、シロウ」 ルイズが尋ねる。
「学院長のとこ。『宝の弓』がどんなものか訊いてくる。門の前で待っててくれ」
………
学院の宝物を取り戻しにいく馬車の中。
「で、『宝の弓』ってどんな物なの?」 ルイズが尋ねる。
「学院長が言うには、みすぼらしい弓だそうだ」
「お宝じゃないの~?」 キュルケが不満の声を上げる。
士郎は聞いた話を皆に伝える。
オスマンは学院の近くに住む貴族が亜人を見世物として手に入れた話を聞いた。
酷いことだと憤慨したオスマンは、密かに亜人を脱出させようと計画を練った。
その貴族の屋敷に忍び込もうとした矢先、もう一人の亜人が仲間の亜人を脱出させようとしていた。
屋敷は大騒ぎになっていた。オスマンは2人の亜人に協力して、屋敷から離れさせることができた。
捕まっていた亜人は脱出できたものの、長い監禁生活により体が弱っていた。
そしてまもなく息を引き取る。女性の亜人だった。助けようとしていた亜人はその連れ添いであった。
男性の亜人も脱出の折に深手を負っており、永くなさそうだった。
男性の亜人は最後に一族に伝わる弓と、自分と女性が付けていた宝石をオスマンに渡す。
自分が死んだ折には、この弓で宝石を月まで打ち上げて欲しいとのことであった。
その亜人の一族は、葬送の儀として個人が持っている『魂の宝石』を月まで飛ばすそうだ。
やはり脱出のときに弓もダメージを受けていて、2つの宝石を飛ばすまで壊れないでいるかもわからない。
士郎は馬車にいるルイズ・キュルケ・タバサ・ロングビルに伝えた。ロングビルは御者をしているが。
「なんで『宝の弓』なの?」 宝にこだわるキュルケが訊く。
「弓が“マジックアイテムしか射出できない”マジックアイテムらしい。
『魂の宝石』を射出するために作られた専用の弓ってことらしいけど。
『宝の弓』って名前はその由来から、理事長が適当に付けたそうだ」
「あんのクソじじぃ~っ……」 御者台で言ったロングビルの小声は皆には届かなかった。
「じゃあなに?『土くれ』のフーケはご大層に宝物庫の中で一番のガラクタを持っていったのね。
で、『魂の宝石』はどこにあるの?」
やはりキュルケはお宝にしか興味が無いようだ。
「理事長室の机の中に保管してあった」
そんなこんなで、馬車は目的地の森に到着する。
森の入り口に馬車を停めて、小屋までは徒歩である。
ルイズとキュルケは不満を言ったが、馬車で敵地に乗り込む馬鹿は居ないと窘められた。
………
755:シロウが使い魔 ◆vVcjSMqk46
11/02/06 00:23:48 dulTJQnV
小屋が見える位置に五人は陣取る。まずは士郎とタバサが小屋まで偵察に出る。
「誰もいないようだな」
「誰も居ない」
「鍵はかかっていないみたいだけど、俺が先に中に入るよ」
杖を構えて、こくりとタバサがうなずく。
シロウが小屋に入る。中にはひと気がない。特に罠もあるように見えない。
続いてタバサが中に入る。小屋の中で改めて『ディテクト・マジック』を唱える。
異常ないようだ。
外で待機していた他のメンバーも小屋の入り口までやってきた。
中から士郎とタバサが出てくる。手には『宝の弓』と思われるマジックアイテムを持っている。
「タバサ、フーケは?」
ふるふると首を振るタバサ。
「なによ、盗賊はどこにも居ないの?」 ルイズが少々ホッとしながら表面上文句を言う。
「盗品は戻りましたが、フーケの捜索をしますか?」 ロングビルが皆に尋ねる。
「先に弓を持って学院に戻りましょう。報告をまずしないと。
フーケの捜索なら、改めて組織した方がいいと思います」 士郎が提案する。
「そうね、そうしましょう」 ルイズもキュルケも賛成のようだ。 タバサも頷く。
………
「ふむ、そうじゃったか。フーケはおらなんだか。 それでも宝物が戻り、何よりめでたい」
オスマンに報告すると、このような反応が返ってきた。
「学院長、その『宝の弓』では葬送をおこなわないのですか?」
「今にも壊れそうでやたらに使えないんじゃ。弓の名手を探すわけにもいかなくてのぉ」
貴族から逃がしてやった経緯から、表ざたにはできないらしい。
「よろしければ、俺がその葬送を行いましょうか?」
「ん?(そういえば武器なら何でも使いこなせるのじゃな。ガンダールヴは)ぜひとも頼もうかの」
………
756:シロウが使い魔 ◆vVcjSMqk46
11/02/06 00:24:32 dulTJQnV
「黙祷!」 コルベールが号令をかける。
本塔の屋上にて、オスマン、ルイズ、キュルケ、タバサ、ロングビル、士郎が黙祷する。
今回の葬送は内々に行われる。総勢7人。捜索隊のメンバーとコルベール、オスマンのみである。
しばし黙祷の後、士郎が夕暮れに姿を現した赤と青の月に向けて弓を構える。
<しゅぃぃん>
赤い宝石を赤の月へ送る。亜人女性が持っていた『魂の宝石』である。
<しゅぃぃん>
青い宝石を青の月へ送る。亜人男性が持っていた『魂の宝石』である。
<ばきゃっ!>
役目を終えたとばかりに、『宝の弓』の弓部分が割れる。
士郎は、弓に掛けられていた魔力が抜けていくのも感じていた。この弓はもう使えないだろう。
葬送の儀は終わった。 学院長に壊れた弓を渡す。
「ロングビルさん、ちょっと残ってくれないかな?」士郎がロングビルに声をかけた。
「どうしたの?」 ルイズが士郎に尋ねる。
「いや、他の人は先に戻ってくれてていいから」
塔の屋上に士郎とロングビル、コルベールが残る。
「なんの用でしょうか?」 警戒しながらロングビルが尋ねる。
「ミス・ロングビルは『土』系統のメイジでいらっしゃいますよね?」
「はい、そうですが……」 コルベールの質問に、ロングビルは答える。
「『土くれ』のフーケはもちろん土系統……。だが今回の捜索では、姿を現さなかった」
士郎があとを引き取る。
「なにが仰りたいのでしょうか」 ロングビルがそっと懐に手を忍ばせる。
「簡単なことですよ……」
コルベールは、ロングビルの正面へ立ち……
<がばっ> 土下座をした。
「私たちと共に、発明の手伝いをしていただきたい」
「へ?」
「いや、今シロウ君と色々な製品の開発をしておるのですが、どうにもメイジの数が足りなくて、
『土』系統のメイジが欲しいのです。
もちろん、製品になって利益が出たあかつきには分配させていただきますぞ」
「『土くれ』のフーケが出たら、盗賊稼業をやめることを条件に仲間に入れようと思ってたんです。
だけど、現れなきゃしょうがないし……」
「は、はぁ」
「仲間になっていただけますかな?ミス・ロングビル」
「……、ええと、利益といってもどの位になるものなのでしょう」
「品は売れ行きに左右されるので、はっきりとはいえませんが、
下級貴族の収入程度は超えると予想しております」
コルベールは必死になってロングビルの勧誘を続ける。 なにか別の思惑もあるようだ。
「まぁ少々のお手伝い程度でしたら、かまいません。 秘書の仕事の合間で良ければ」
「よしっ!」 思わずガッツポーズを取るコルベール。
そんなこんなで、ハルケギニアでの新製品開発メンバーが一人増えたのだった。
757:シロウが使い魔 ◆vVcjSMqk46
11/02/06 00:37:26 dulTJQnV
以上です。とりあえず今回からトリップ付けてみました。
葬送の部分は、ルナル・サーガのエルファが元ネタです。
士郎のハルケギニアでの食事は頭を悩ませています。
パンや麦酒があるから麦はあるんだろうけど、麦飯とか出した方がいいのかなとか、
海があるなら、鰹節とか昆布とかも手に入るのかなと。
Fateみたいな料理の表現求めていた方がいたらすいません。
発明品も色々悩んでいる最中。
ということで、今回が大体1巻部分ですが、舞踏会はちょっと先です。
描写するかも未定です。
ではまた
758:名無しさん@お腹いっぱい。
11/02/08 16:48:50 tO0XjFvU
乙です
なるほど、こう来たか
この後の展開が楽しみだ
759:名無しさん@お腹いっぱい。
11/02/09 21:19:09 bNpUgyrD
乙です。
珍しい展開に期待
760:シロウが使い魔 ◆vVcjSMqk46
11/02/13 22:33:02 +sI/NyNY
書き込みできない~
出来たら第8章うpです
761:シロウが使い魔 ◆vVcjSMqk46
11/02/13 22:36:10 +sI/NyNY
第8章 王女来訪
「おお、クルクル回りますなぁ」 出来上がった部品を手に喜ぶコルベール。
「これはローラーベアリングといいます。中の円柱が接触部分の摩擦を減らすんです」
士郎の自転車製作計画の第一段階である。
「円柱は真円にしないといけないので、いろいろ大変ですけどね。
ちなみに中を玉にしたものがボールベアリングと呼ばれます」
衛宮家の近所に住んでいる藤村の爺さんのバイクをチューンするうちに得た知識を披露する。
「この手の作業は、これほどハンマーとヤスリが重要になるとは知りませんでしたよ。
それにしても、本当にシロウ君はいろいろなことを知ってますな。私の知識など足元にも及ばない」
「コルベール先生は独自にエンジンを開発するくらいですから凄いものですよ」
「いや、私は変わり者ですからなぁ」
ここで前から疑問だったことをコルベールにぶつける。
「この世界の人たちって、新しい技術とか新しい魔法なんかは作り出そうとしないんですか?」
「ふ~む、冶金技術とかでしたらゲルマニアの方で新しいものが生まれているようですが、
基本的に数千年前から代わり映えしないものを使っていると思いますな」
6千年前の書物が残っているようなこの世界だが、魔法も科学もあまり進歩がないようだ。
始祖ブリミルとやらが呪いでも掛けたのかと疑ってしまう。
ちなみにコルベールのエンジンとか今回のベアリングの作成方法は、粘土で成形したものを
『錬金』で金属化するだけである。習作を作ることに関してはとてもお手軽である。
「さて、今日はこのくらいにしましょう。もう真夜中近いですから」
「シロウ君、いつも外でやっているあの変わった座り方はどんな意味があるんですかな?」
「結跏趺坐のことですか? あれは魔術修行の一環です。精神統一方法なんですけど」
「ほうほう」
「俺の世界には“禅”というものがあって、心を平穏にし自己を見つめなおし悟りを得る。
それを行うのに座禅、つまり座った状態で瞑想を行うんです」
「ザゼンですか。それは私にもできるものかな?」
「座り方はあまり気にしないでいいですよ。とにかく、自分の内に埋没して精神統一をする。
その行為が目的ですから。 まぁ自分も自己流でやってますし」
「ふむ、では私もやってみましょう」
好奇心旺盛なコルベールらしい。
士郎は小屋の外で、コルベールは小屋の中でそれぞれ瞑想に入る。
この日はこれで終わる。
………
762:シロウが使い魔 ◆vVcjSMqk46
11/02/13 22:38:33 +sI/NyNY
朝
「よう、相棒」
「なんだ? デルフ」
「相棒は何で俺っちを左に持って、右側に棒っきれなんぞ持っているんだ?」
朝の修練中にデルフに声を掛けられた。
「なんだ、お前。右手の方が良かったのか?」
「いや、そういうことじゃなくて。 なんで二刀流なのか訊きたかったんだが」
「俺にはそれが一番向いているんだよ」
「まぁ確かに相棒の振りを見れば、二刀流向きな気もするが。ん~……」
「どうした?」
「いや、昔にそんな使われ方をしてたような……。左手に槍がいて……」
「お前、昔のことってどれだけ覚えているんだ?」
「あんま覚えてないわ。なんせ『使い手』と別れてから数千年だからなぁ」
「『ガンダールヴ』の事知りたいんだけどなぁ。思い出したら教えてくれ」
「あいよ~」
───────────────
ハルケギニアで実質宰相のマザリーニ枢機卿は、近頃多忙を極めていた。
アルビオンではレコン・キスタと称する貴族の反乱で、王家が滅ぼされそうになっていた。
滅亡までもって数週間だろう。
ガリアでは軍事行動が活発化している。
つい最近もトリステイン国境付近で軍事演習が行われた。
ゲルマニアとの軍事同盟は急務なのだが、肝心のアンリエッタ王女は婚姻に関して乗り気ではなく、
何かに付けて、引き伸ばし工作を図る。
本日もガリアとの同盟交渉に王女は列席していたのだが、気品もやる気もない態度に
トリステインへ戻る馬車の中で小言を洩らしてしまった。
「いっその事、枢機卿が王になればよろしいんですわ」
などと言い返される始末……。 振り回されっぱなしである。めっきり老け込んで、ぱっと見、
オールド・オスマンと大差ないように見えるが、実は四十男である。
王女に私めを虐めてそんなに楽しいですか?と、問いたい。小一時間問い詰めたい。
「そうだわ。せっかくですから途中で魔法学院に寄りたいですわ。お友達に会いたいの」
そのくらいの我侭ならまだかわいい方だ。
「宜しいでしょう。ゲルマニアに嫁ぐことになれば、そのようなことも出来なくなりますしな」
「……」
おもいっきり睨まれた。
とりあえず、魔法学院に先触れを出さねばなるまい。
───────────────
763:シロウが使い魔 ◆vVcjSMqk46
11/02/13 22:42:30 +sI/NyNY
本日の2時限目の授業はミスタ・ギトーの授業である。
ミスタ・ギトー。長い黒髪で漆黒のマントを纏ったその風体は、
自身を覆う冷たい雰囲気と相まって、生徒達からの人気をおとしめていた。
「では、授業を始める。知ってのとおり、私の二つ名は『疾風』。疾風のギトーだ」
静まり返る教室に満足げのギトー。
「最強の系統は知っているかね? ミス・ツェルプストー」
「『虚無』じゃないんですか?」 答えるキュルケ。 ピクっと反応するルイズ。
「伝説の話をしているのではない。現実的な答えを聞いているんだ」
しばらくキュルケとギトーの問答が続く。
最強は『火』と答えるキュルケとそうではなく『風』というギトー。
眺めていて士郎は呆れていた。 実際魔法合戦になるんじゃないかと思ってみていると、
……やはり、ギトーはキュルケを挑発して『ファイアーボール』を撃たせる。
そしてギトーは烈風を起こし、炎を掻き消しキュルケを吹っ飛ばす。
なんて教師だ……。ここまでひどい事は藤ねえでさえ、やら……、やるかもしれない。
でもやることに何処となく憎めなさを感じる藤ねえとは雲泥の差だ。
「目に見えぬ『風』は、見えずとも諸君らを守る盾となり、必要とあらば敵を吹き飛ばす
矛となるだろう。そしてもう一つ、『風』が最強たる所以は……」
杖を構え詠唱に入るギトー。 「ユビキタス・デル・ウィンデ……」
ここで突然、珍妙な格好をした闖入者が現れる。 コルベールである。
彼は金髪ロールのでかいウィッグをつけ、レースや刺繍だらけの派手な身なりをしていた。
「ミスタ?」 あまりの姿にギトーも眉をひそめる。
「ミスタ・ギトー、失礼しますぞ。本日の授業はすべて中止となりました」
中止の一言に教室が盛り上がる。
「えー、皆さんにお知らせですぞ」
もったいぶった調子でのけぞるコルベール。のけぞった拍子にかつらが床に滑り落ちた。
一番前に座っていたタバサが、一言言う。
「禿げ散らかすな」
教室は爆笑の嵐に包まれた。どうやら親友のキュルケがギトーにいい様にされたので
不満が毒舌に直結したようだ。
当のキュルケはすでに先ほどのことなど気にもかけておらず
「あなた、たまに口を開くと、言うわね」 と反応するだけだった。
「黙らっしゃい! このこわっぱども! 大口を開けて、下品に笑うとは貴族にもあるまじき、
行いですぞ!! これでは王室に教育の成果が疑われる!」
コルベールの剣幕に、おとなしくなる生徒達。
「恐れ多くも、我がトリステインの誇る姫君。アンリエッタ姫殿下が、本日ゲルマニアご訪問からの
お帰りに、この魔法学院に行幸なされます。 したがって今から歓迎の式典の準備を行います。
生徒諸君は正装し、門に整列すること」
764:シロウが使い魔 ◆vVcjSMqk46
11/02/13 22:45:57 +sI/NyNY
───────────────
トリステインの王女、アンリエッタは憂えていた。
ゲルマニアなどという成り上がりの国へ嫁がないといけないというのは、王女にとって
屈辱以外の何者でもなかった。
もちろん国の存亡にかかわる事柄だというのはわかっている。軍事同盟は必要だろう。
自分にとって最愛の人が居られるアルビオン。その国家が存亡の危機に瀕している。
これも憂いの原因でもあった。嫁げるのであればアルビオンへ嫁ぎたかった。
そして、ゲルマニアとの婚姻に障害となる手紙を、自らがアルビオンの王子に贈ってしまったことも
アンリエッタが憂えている理由でもある。
枢機卿には、ゲルマニアとの同盟に付け込まれる隙が無いよう、口を酸っぱくするほど言われている。
手紙の存在を誰かに知られるわけにはいかなかった。
憂い顔で馬車から外を見ていたら、グリフォン隊の貴族の一人が道に咲く花を魔法を使い摘んでくれた。
グリフォン隊隊長でワルドと名乗った。
「あなたの忠誠心はどのくらいのものでしょう? 私に困りごとがあったときには……」
この質問にワルドは答える。
「そのような際には、戦の最中であろうが、空の上だろうが、なにをおいても駆けつける所存で
ございます」
「あの貴族は、使えるのですか?」 アンリエッタはマザリーニに尋ねる。
「ワルド子爵。二つ名は『閃光』。かのものに匹敵する使い手は、『白の国』アルビオンにも
そうそうおりますまい」
「ワルド……、聞いたことのある地名ですわ」
「確か、ラ・ヴァリエール公爵領の近くだったと存じます」
(ラ・ヴァリエール……。私の数少ないお友達。早くルイズに会いたいわ)
王女は悩み事を打ち明けられる相手に早く会いたいと思って仕方が無かった。
───────────────
765:シロウが使い魔 ◆vVcjSMqk46
11/02/13 22:49:30 +sI/NyNY
王女を乗せた馬車が魔法学院の正門をくぐる。
馬車が止まると召使いたちが緋毛氈のじゅうたんを馬車まで敷き詰める。
呼び出しの衛士が、王女の登場を告げる。
馬車の中から枢機卿が先に現れると、お迎えとして並んだ生徒達が一斉に鼻を鳴らした。
マザリーニは貴族にも平民達にも良く思われてないと士郎はルイズに教えてもらっていた。
マザリーニは皆の態度を意に介さず、続いて降りてくる王女の手を取った。
生徒達の歓声の中、王女はにっこりと薔薇のような笑顔を振りまき手を振る。
「あたしの方が美人じゃないの」とキュルケはつまらなそうに呟く。
「ねえ、ダーリンはどっちが綺麗だと思う?」
ルイズの後ろに控えている士郎に尋ねるキュルケ。士郎は私語を謹んで答えなかった。
その士郎は、王女に対する第一印象が“がっかり”だった。
士郎が過去対峙した王族。騎士王然り英雄王然り、にじみ出るオーラに気品と同時に迫力があった。
比べる相手を間違ったとしか言い様が無いが、アンリエッタは学院にいる貴族(ルイズやキュルケ)に
毛の生えた程度にしか感じなかったのである。
そして、ルイズは近衛の一人をずっと見つめていた。羽帽子をかぶった凛々しい貴族である。
いつの間にかキュルケも同じ人物を見つめて、顔を赤らめていたりしている。
後ろに控えている士郎は二人の視線はわからないので、(早く終わらないかなぁ)と退屈していた。
タバサもそばに居たが、座って本を広げていた。 よく怒られないな、と士郎は思った。
………
夜
今日はさすがに勉強・調査や報告会、修行は休むことになった。王女が学院にお泊りになられるためだ。
士郎はルイズの部屋を掃除していた。
ルイズといえば、ベッドに横たわり枕を抱いて天井をぼーっと見上げていた。
おでこに手を当ててみたが、とくに熱があるようでもない。
問題ないだろうと判断。士郎はルイズを放置して、掃除を続ける。
ドアがノックされる音がした。初めに長く二回、それから短く三回……。
ルイズがはっとした顔で、急いでドアを開く。
ドアが開かれたとたんに、フードをかぶった人物が素早く滑り込んできた。
ルイズと士郎が驚いていると、その人物は「しっ」と口元に手を当て、魔法を詠唱する。
「……ディティクトマジック?」 ルイズが尋ねると頭巾の人物は頷き答えた。
「どこに耳が、目が光っているかわかりませんからね」
探知の魔法で安心したのか、その人物は頭巾を脱ぐ。
現れたのは先ほど総出で出迎えたアンリエッタ王女だった。
「姫殿下!」 ルイズが慌てて膝をつく。
「お久しぶりね。 ルイズ・フランソワーズ」
士郎はとりあえず掃除道具を片付けることにした。
766:シロウが使い魔 ◆vVcjSMqk46
11/02/13 22:54:07 +sI/NyNY
以上が第8章です。昨夜には完成していたんですが、
冒険の書がなんたらで書き込めませんでした。
変なとこや判りづらいとこなどありましたら言ってください。
次章は9章になります。いざアルビオンへ
767:名無しさん@お腹いっぱい。
11/02/13 23:51:32 cd+IFkm2
乙です!
768:名無しさん@お腹いっぱい。
11/02/14 00:53:53 bD1raxj/
うむうむ。乙乙。
769:シロウが使い魔 ◆vVcjSMqk46
11/02/20 02:02:12.29 NDQnPXMP
テステス、書き込めるかチェックです。
770:シロウが使い魔 ◆vVcjSMqk46
11/02/20 02:04:20.80 NDQnPXMP
第9章 思惑
「ああ、ルイズ、ルイズ、懐かしいルイズ!」
アンリエッタは女王の前に膝を突いたルイズへ抱きついた。
ルイズはかしこまって、アンリエッタを立たせようとするが、抱きついたまま離れない王女。
「……あ~、俺は紅茶でも入れてきますよ」
席を立つ士郎。
「彼は?」 とアンリエッタがルイズに尋ねる。
「えっと、彼は私の……使い魔(サーヴァント)です」
「そうなの。従者(サーヴァント)なのね。」
(ラ・ヴァリエール家くらいになると専属の従者を雇うのかしら?)
少々、行き違いがあるようだ。
部屋を出て厨房へ向かう士郎。夜になったばかりなので、まだ厨房では大勢働いていた。
メイドの一人に紅茶を用意してもらう。 ここで、シエスタが声をかけてきた。
「シロウさん、どうしたんですか?」
「いや、ちょっと紅茶を貰いにきたんだ」
「紅茶ですか? 仰っていただければ、幾らでもおいれしますのに」
「いや、俺がルイズにいれるんだけど……」
きゅぴーんとシエスタの目が光る。
「それなら、ちゃんとしたいれ方を覚えないといけませんね!」
「いや、今は急いでいるから、また今度教えてもらうよ」
「……約束ですよ! 私、絶対忘れませんから!」
なんか、シエスタが怖い士郎であった。
………
ルイズの部屋のそばまで来ると、扉の前で一匹の土メイジが、中の様子を伺っていた。
<ごちぃん>
ギーシュを殴りつける士郎。
「なにをしている」
「ぐぉぉっ。 いきなり殴るとは酷いね、君は」
扉を開け、ギーシュを部屋へ蹴り入れる。
「こいつが盗み聞きしてましたよ」
驚くルイズとアンリエッタ。
こんな簡単に盗み聞きされたら、先ほどの探知の魔法など意味がないだろうに。
「おい、出歯亀メイジ。どこまで話を聞いた?」
「え~と、なんかアルビオンに手紙を取り戻しに行って欲しいと姫殿下が仰られて……」
士郎はルイズと王女の反応を窺う。 どうやらそんな話をしていたようだ。
「で、コイツはどうしましょうか? 塔の天辺から吊るして、魔法でロープを切るとかしますか?」
ギーシュはがばっと床に伏せて、王女に嘆願する。
「姫殿下! その困難な任務、是非ともこのギーシュ・ド・グラモンに仰せつけますよう」
「なんてほざいてますよ。お二方」 士郎はあくまで冷静だ。
「グラモン? あの、グラモン元帥の?」
「息子でございます。姫殿下」
「あなたも、わたくしの力になってくれるというの?」
なんかギーシュがその任務とやらに参加することになったようだ。たぶん自分もそのメンバーに
入っているのだろう。 仕方ないので、詳細を最初から訊くことにした。
771:シロウが使い魔 ◆vVcjSMqk46
11/02/20 02:05:26.48 NDQnPXMP
………
「ウェールズ皇太子にお会いしたら、この手紙を渡してください。
すぐに件(くだん)の手紙を返してくれるでしょう」
そしてアンリエッタは、右手の薬指から指輪を引き抜き、ルイズへと手渡す。
「母君からいただいた『水のルビー』です。せめてものお守りです。
お金が心配なら、売り払って旅の資金にあててください」
概要はこうだ。現在トリステインはゲルマニアとの同盟を結ぼうとしている状態で、
アンリエッタはそのためゲルマニアへ嫁ぐことになった。
だが、アンリエッタは過去、アルビオンの皇太子宛に一通の手紙をしたためた。
これが、同盟関係を妨げる障害になるらしい。
それなので、ルイズにアルビオンまで手紙を取り戻しに行ってほしいということらしい。
士郎としては、ルイズが行くというなら、付いて行くしかないだろう。
結局明日の早朝出発となった。
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『閃光』のワルドこと、ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドは振って沸いた
幸運に笑いが止まらなかった。。
この男、トリステインのグリフォン隊隊長でありながら実は、アルビオンの貴族派
『レコン・キスタ』と通じているのだ。
レコン・キスタの総司令と会ったときに、一つ頼みごとをされていた。
「魔法の使えない貴族が、人を使い魔にしたり未知の魔法を使うことがあったと情報を得たら、
是非知らせて欲しい。 伝説の『虚無』の魔法使いかもしれない」
ワルドは魔法の使えない魔法使いと聞いて、真っ先にルイズのことを思い出した。
『虚無』について調べたりもした。『ガンダールヴ』『ヴィンダールヴ』『ミョズニトニルン』
という名称の使い魔を従えていたらしい。 このあたりはまだ士郎達も知らないことだ。
そして最近学院で、人が使い魔として召喚されたとの噂を聞いた。
これがルイズの仕業なら、『虚無』の力をこの手に出来るチャンスかもしれない。
丁度、学院に立ち寄る偶然がおきて、しかも王女自らがアルビオンまでの任務を頼んできた。
ルイズの情報を仕入れるチャンスだ。
王女はルイズにも任務を頼むようだ。もうここまで幸運が重なると怖いくらいだ。
明日はまず、ルイズの使い魔を確認しよう。と思うワルドであった。
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772:シロウが使い魔 ◆vVcjSMqk46
11/02/20 02:08:24.99 NDQnPXMP
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王女の我侭のせいで、突然魔法学院などに泊まることになったマザリーニは、仕事をしていた。
本来なら城に戻ってやらなければならない書類仕事だが、幾許かを学院まで届けてもらった。
認可、不認可の印を押していく。
<こんこん>
そんなマザリーニの部屋の扉をノックするものがいた。
「誰だ?」
「枢機卿、学院の教師が面会を求めてきておりますが……」
なんぞ、嘆願や文句でもあるのだろう。 突然の来訪はこちらの都合によってである。
学院側にとってはいい迷惑だっただろう。
さすがに、話くらいは聞かなければなるまいと、客を通すように伝える。
面倒くさいことにならなければよいなと思いながら。
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翌朝
朝もやけむる学院の門前にルイズがやってきた。ギーシュが先に待っていた。
「やぁおはよう、ルイズ君。清清しい朝だね」
「あれ?あんただけ?」
「他の皆は、今準備をしているとこだよ」
「みんな?? シロウだけじゃないの?」
「おや、今回の任務のメンバーはこれだけかね?」
朝もやの中から登場してきたのは、ワルドである。
「ワルド様!!」 ルイズが思わず立ち尽くす。
「僕はこの学院の土メイジ、ギーシュ・ド・グラモン。そちらのお名前をお聞かせ願いたい」
ギーシュが現れたハンサムに張り合う。
「女王陛下の魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵だ」
「これは失礼しました。今回の任務にご同行されるのでしょうか?」
「陛下直々の任務だからな。 よろしく頼むよ」
773:シロウが使い魔 ◆vVcjSMqk46
11/02/20 02:10:35.04 NDQnPXMP
ギーシュとワルドのやり取りの間呆然としていたルイズがはっとして、尋ねる。
「私、聞いてないです! ワルドさま……」
「久しぶりだね。 僕のルイズ!」
ルイズに駆け寄り、その体を抱えあげるワルド。
「昨夜突然に陛下に命ぜられてね。 しばらく一緒の旅になる。 楽しみだね」
「相変わらず軽いなきみは! まるで羽のようだ」
「……お恥ずかしいですわ」
「ところで改めて尋ねるが、今回の任務、私を含め3人なのかね?」
「いえ、6人です」 士郎の声が聞こえた。
<ばさっ、ばさっ>
大きな羽ばたきの音と共に青い竜の背に、士郎、タバサ、キュルケの3人が乗って現れる。
「シロウっ!……。……?」 ルイズが驚く。現したその姿に改めて驚く。
学院のマントに白髪姿の衛宮士郎。凄く違和感があった。背中にはデルフリンガーを背負って……
ワルドが皆に尋ねる。
「ふむ、君達も今回のメンバーなのかな? ルイズは知らなかったみたいだけど」
「はぁ~い、私はキュルケよ、おひげが素敵な2枚目さん。よろしくね」
ワルドにしなだれかかるキュルケ。それを押しやるワルド。
「すまんな。婚約者が誤解すると困るんだ」
ルイズに目をやるワルド。するとルイズが顔を赤らめてうつむいた。
「なあに? あんたの婚約者だったの?」
キュルケがつまらなさそうに言う。
「えっと、あの青い髪の子があたしの親友タバサ。それでこっちの白い髪の男の子はシェロ」
「よろしく」 一言で済ます士郎。タバサは頷くだけだ。
「え?」 理解が出来ないルイズ。シェロって誰??
「よろしく。では、出発しようか。 ルイズは私と一緒にグリフォンに乗ろう……」
「あ~、申し訳ないんだけど、ルイズと話があるんで、そっちにギーシュを乗せてください」
士郎がそう言う。 ワルドもルイズと話をしたいというので後で乗り換えるということにして、
まずはタバサの竜に士郎、ルイズ、キュルケ、タバサと乗り、グリフォンにワルド、ギーシュと
乗ることになった。
見知らぬ男とグリフォンに跨ることになったワルドは、やはり少々不機嫌だった。
774:シロウが使い魔 ◆vVcjSMqk46
11/02/20 02:13:50.94 NDQnPXMP
今回のお話は以上です。
原作との相違点がじわじわ増えてきました。
話のペースは早くなる(と思う)んですが、作る速度遅くなってしまうかも。
遅くなっても怒らないでくんしゃい。では、次回までノシ
775:名無しさん@お腹いっぱい。
11/02/27 00:18:58.64 bPErxTgO
乙
原作からの乖離は新しい展開としてむしろ希望するところですw
どんどんやっちゃってください
ところで
士郎の言動に違和感を感じてしまうんだけど、自分だけかな
776:名無しさん@お腹いっぱい。
11/03/04 12:00:43.67 vx3Yccf4
自分は特に違和感感じなかったな。
8~9章見返して
・対コルベール
士郎は基本ぶっきらぼうだけど、年上や目上にまでタメ口ってわけでもないし(身内と嫌悪や敵対してる相手以外には)
こんな感じかと
・対デルフ
一番遠慮のいらない、素のしゃべりっぽい。
・対アンリエッタ
普通に丁寧語。
・対シエスタ
士郎にしては如才ない受けこたえだけど、原作終了からちょっとたってるし、おかしくはない
・対ギーシュ
立ち聞き見つけた時の対応はひどいけど、ホロウの日常パート比べてそこまでキャラ違うってほどでもないと思う。
細かいとこまで見ると、ちょっと自分が書くとしたらのしゃべりと違うなって場所はあるけど、
自分の中の士郎像が完璧に正しいなんて言えないから、どっちがより原作に近い言動かなんて解らんし
777:名無しさん@お腹いっぱい。
11/03/04 22:53:03.05 nz6ddu7F
ホロウは基準にしちゃいかんと思うんだがどうか?
778:シロウが使い魔 ◆vVcjSMqk46
11/03/05 18:41:47.70 3YJ1MCNo
最近また書き込めないし…
アドバイスありがとうです
士郎ってステイナイトだと敬語って使わないから、ホロウあたり参考にしようと
思ってインストールしようとしてたんですが、意味ないですかね?
ちなみにまだ次の部分書き終えてないので、もうしばらく待ってください
779:名無しさん@お腹いっぱい。
11/03/08 06:03:29.78 B5e8XcRm
精密機械の釣竿投影みたいな、きのこ発言に矛盾したのはアレだけど、
きのこが書いたものに矛盾してない部分のホロウは参考にしてもいいんじゃない?
絶対の基準てわけじゃなくて、ホロウ基準使っても使わなくてもいいって感じで。
Fate二次創作はみんなステイナイトと同じ雰囲気で書かないといけないわけじゃないし
780:名無しさん@お腹いっぱい。
11/03/14 21:27:39.22 VuHIEtTA
でもホロウは実際は士郎じゃなくてアンリが士郎という存在の皮を被っているだけだから
781:名無しさん@お腹いっぱい。
11/03/14 21:30:45.11 VuHIEtTA
途中送信失礼
でもホロウは実際は士郎じゃなくてアンリが士郎という存在の皮を被っているだけだから
意味がないとは言わないけどいくぶん違和感が生じると思いますよ。
ステイナイトの漫画やアンソロあたりを参考にするのがまだいいかと。
782:名無しさん@お腹いっぱい。
11/03/16 05:30:55.23 UEcs4F4e
アンソロ参考にしていいなら、もうなんでもいいような。
西脇だっとのステイナイト本編漫画ならともかく(こっちに敬語出てるかは知らないけど)
783:名無しさん@お腹いっぱい。
11/03/16 06:24:03.92 e5yucgbp
まだ漫画版ならともかくアンソロはねぇだろw
784:名無しさん@お腹いっぱい。
11/03/18 16:43:20.32 A2h/eyGd
アンソロは実質同人誌だからなあ…
785:名無しさん@お腹いっぱい。
11/03/24 23:33:15.04 w402xRl5
士郎の投影は固有結界からの派生だから世界から修正を受けないんだよね?
ゼロ魔世界に存在しないはずの宝具をゼロ魔世界で投影しても修正受けないのかな?
786:名無しさん@お腹いっぱい。
11/03/27 21:45:14.77 j6qlRcNr
>>780
ホロウ内でも言われてるけどアンリも士郎そのものだぞ
本来のアンリは人格を持つ権利さえ剥奪されてるので士郎そのもの
アヴェンジャー状態も士郎の一面
787:名無しさん@お腹いっぱい。
11/03/27 23:43:46.38 MrnQQFvN
>>786
本来の三次では人格なしで四日も戦えたのか……
788:名無しさん@お腹いっぱい。
11/03/28 03:36:28.46 6ZMOWlVP
士郎の考える「悪」がアンリ士郎だからなんか小悪党みたいな感じになってるってのをどっかで聞いた
789:名無しさん@お腹いっぱい。
11/03/29 12:54:14.49 ODIyvGGb
まあアンリ士郎の性格が何なのかはいろんな解釈があるだろうけど、
カレン以外に対する、昼間の衛宮士郎の言動は、四日ループに突入する前(というか本物の衛宮士郎)と何一つ変わってないってことになってるはず。
790:名無しさん@お腹いっぱい。
11/04/02 22:27:26.47 FetfDveX
>>787
第三次では普通の村人Aとして召喚されて最初に出会ったサーヴァントに秒殺
その後に聖杯に取り込まれる時に聖杯の力が働いて本物のアンリマユになってしまった
>>788
士郎の考えってより士郎の悪性だから単なる捻くれ好青年になっちゃったらしい
791:名無しさん@お腹いっぱい。
11/04/04 18:51:36.89 wpbHtbDe
ほんとは士郎の悪性とか使われてない部分とかを、きのこが真面目に考えてデザインした性格っていうか、
DDDのアリカの方向性を変えただけじゃなかったっけ。
そこまでアリカと似てるようにも思えないから、やっぱ士郎の内面も入ってるだろうけど。
792:名無しさん@お腹いっぱい。
11/04/10 21:02:01.94 B8Yw9SAc
>>790
宝具もスキルも何も無いガチの村人Aだったんだよなw
793:名無しさん@お腹いっぱい。
11/04/16 23:51:12.89 1l0+yK6i
あの作品のキャラが遠坂凛に召喚されました
スレリンク(anichara板)l50
794:名無しさん@お腹いっぱい。
11/04/21 18:21:44.60 2GHXgV1M
士郎が使い魔を期待しつつ待機
795:シロウが使い魔 ◆vVcjSMqk46
11/04/29 21:16:27.69 pbbogRdC
書き込みテスト
時間が空いちゃってすいません。
明日10話載せる予定です。
796:名無しさん@お腹いっぱい。
11/04/30 18:35:12.81 eP795Oc1
まだかな~
797:シロウが使い魔 ◆vVcjSMqk46
11/05/01 01:09:04.52 eLlJWkxP
では、10話です。
798:シロウが使い魔 ◆vVcjSMqk46
11/05/01 01:11:20.04 eLlJWkxP
第10章
「なによ、どうゆうことなの? シェロって何? なんでそんな格好なの?」
グリフォンを先に行かせて、声の届かないくらいの位置でタバサの竜はついていく。
開口一番、ルイズは士郎に尋ねた。
「いや、俺が『ガンダールヴ』とか使い魔とか一切秘密だから、こんな格好したんだけど
名前はキュルケのアドリブ。 おれも初耳」
ルイズの耳元でひそひそ声で答える。
「じゃあ何でツェルプストーとタバサが一緒なのよ?」
「昨夜コルベール先生に相談したんだよ。そしたら、タバサの使い魔ならあっという間に
移動できるって言うからタバサに相談しにいったらキュルケが付いてきた……」
「なによ、移動なら馬でいいでしょ?」
(馬に慣れてないから嫌という事は置いといて)
「来週のダンスパーティ、楽しみにしてたんじゃないのか?」
馬での移動なら往復1週間以上かかってしまうとコルベールから聞いた士郎。
「それはそうだけど……。でもこれって一応秘密の任務なんだから……」
といいつつ、士郎の心遣いに心温まるルイズであった。
「とりあえず、ルイズの使い魔のことを訊かれたら、召喚したけど他の使い魔に食べられたと
いうことにしてくれ。 俺のことは貧乏貴族で、“従者”として雇っているとかで」
士郎がルイズに付き添って出た初めての授業を思い出す。
ルイズの爆発魔法で誰かの使い魔が食われたとか騒ぎになっていた。
「え~、なによ。それ」 不満を言いつつもルイズは納得した。
「じゃあしばらくしたら休憩して、ルイズはあっちに乗り換えてくれ。
俺のことは秘密な。 近衛やっている人間には特に秘密にしないとな」
「わかったわ」
なんだかんだ、士郎の言うことには素直に従うルイズである。
799:シロウが使い魔 ◆vVcjSMqk46
11/05/01 01:14:01.86 eLlJWkxP
………
道中の小高い丘。 しばらくの休憩である。
「君はルイズの従者らしいけど、なんで学院の生徒が従者をやっているんだい?」
「彼の家、とても貧乏なの。 でも貴族だから学院に見栄をはって通わせてもらって、
生活費とかは私が出す代わりに、私専属の従者をやってもらっているの」
ルイズはすらすらと嘘をついた。
「ほほう。 彼はなんのメイジなんだね?」
「『土』系統よ。 土のドット」
「ちょっと魔法を見せてもらってもいいかな?」
妙にこだわるワルド。 士郎はそんなワルドに素直に答える。
「いいですよ」
右手に杖を構え(もちろん杖など必要ないのだが)、『錬金』の詠唱をする士郎。
(──投影、開始) そして、聞こえぬ声で唱えた。
士郎の左手に現れる小刀。
「これでいいですか?」
このとき、士郎の左手に刻まれているルーンは光を放っていない。
実は左手は肌色の湿布とファンデーションで偽装が施されていた。
「あ…あぁ、ありがとう。あと、君が従者をやっているって、どんなことをやっているのかい?」
しつこいほど、士郎に話を聞くワルドである。
「お茶を入れたり、掃除をしたり色々です。 あぁそういえば、お茶の用意をしてあった」
士郎は自分の荷物から、ポットを取り出す。 そして皆に木のカップを配る。
「ジンジャーのはちみつ漬けです。 まだ熱いから気をつけてください」
蜂蜜と生姜を1対1から2対1の割合で用意する。
生姜は皮をむき、薄くスライスして蜂蜜に浸るようにして壜に漬け込む。
これで一晩寝かせれば、生姜のエキスと蜂蜜がまざりあう。
お湯に溶かして飲めば、蜂蜜生姜湯の完成である。