型月のキャラがルイズに召喚されましたpart7at ANICHARA
型月のキャラがルイズに召喚されましたpart7 - 暇つぶし2ch663:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/13 21:31:49 dH+KZCTY
キャス狐、ご主人様ラヴ過ぎて事件起こしそうだな。

デルフは真名解放したら7万吹き飛ばす対軍宝具になってそうだな
伝承補正で

664:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/13 22:02:48 wJ+n6I8t
>>663
エクストラ世界の無理やりな解釈なら…ありえるw


665:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/14 06:54:28 fjSkxll3
>>663
むしろ、そういう需要だろうな。
何か事件がおきないと話しにならないしw



666:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/14 07:20:26 sy+/1xWU
ギーシュに対して一夫多妻去勢拳か…胸が熱くなるな

667: [―{}@{}@{}-] 名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/14 22:13:01 sy+/1xWU
>>656
ふと思ったが、
英霊ルイズを召喚

だと↑のチート性能な使い魔もセットになるんだろうか
クラスはキャスターか?
単品召喚だと使い魔の方はセイバーかライダーになりそうだが

668:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/15 09:58:23 IwqMJzj0
ルイズはキャスターだと思うのだが、あるいは犬扱いした使い魔に乗っててライダーという…のはなさそうだしな。
召喚とクラスは直接の関係はなかったような気はする。



669:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/15 10:45:27 T3xmlqsr
使い魔を犬扱いするんならその使い魔はランサーしか考えられないじゃないか

670:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/15 21:57:58 So5UlJTw
英霊ルイズに扱き使われる赤枝の騎士か…胸が略


つかエクスプロージョンとか使ったらマスターが魔力枯渇で死にそうだな
なんたって6000年前にほぼ途絶えた神秘な上に大規模殲滅魔法になるし

671:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/17 23:10:39 Biw9fDjp
>胸が略
っていうのはキミ、誰かさんへの当てつけかね?

672:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/18 00:04:55 NOTqdVnn
レボリューションか無か

673:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/18 00:53:31 r8AGA9yv
651です

一話目作って読み直しとかもしてみたんだけど、
うpしてよろしいですか?

674:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/18 21:24:24 NOTqdVnn
いいんでね?

675:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/18 22:58:38 WwJec1Tw
>>673
れっつらごー!

676:シロウが使い魔
11/01/19 01:56:16 3iqoDT3X
第1章

 「宇宙の果てのどこかにいる、私の下僕よ!
 強く美しくそして生命力に溢れた使い魔よ!
 私は心より求め、訴えるわ。我が導きに応えなさい!」

 ピンク色をした髪の少女が、呪文を唱えた。
 それまで揶揄していた同級生も口を噤んで事の成り行きを見守る…

 <ちゅどーーーん>

 爆音とともにあたり一面煙に包まれる。
 またも爆発。つまりは召喚失敗。
 教師もほかの生徒も、召喚者本人さえ溜め息をつく中、
 うっすらと煙の中に何らかの影が見えた…
 
 「え!?召喚がおこなわれた!?」

 半信半疑で全員が見守る中現れたのは、
 尻餅をついた何処にでも居そうな平凡な少年であった。

 「なんだ!?突然平民が現れたぞ!」
 「ゼロのルイズが平民を喚び出したぞ!」
 ギャラリーが騒ぎ出す。

 初めての魔法の成功に喜びを表そうとしていた少女は
 その声に唖然となる。気を取り直したとたん、
 「もう一度!もう一度召喚をやり直させてください!!」
 と、教師のコルベールに噛み付くように訴えかけた。
 
 「残念だが、ミス・ヴァリエール。二年生に進級するときに行われる
 この『使い魔』召喚の儀式は神聖なものであり伝統でもある。
 呼び出したのが平民であろうと無かろうと関係ない。
 呼び出した『使い魔』と契約することはあらゆるルールに優先される。」

 正直、繰り返される失敗に辟易していた教師は会話自体早く終わらせたかった。

 「最初に喚び出された生き物とは必ず契約を行わなくてはいけない決まりです。
 平民が呼び出されたことは前代未聞ですが、とにかく彼を『使い魔』にするように」

 「そんな……」
 コルベールの態度から、これ以上抗議しても無駄なのがわかったのか
 ミス・ヴァリエールと呼ばれた少女は、契約を結ぶため召喚した少年の
 そばに跪いて…


677:シロウが使い魔
11/01/19 01:57:51 3iqoDT3X

───────────────
半時前
 
 衛宮士郎は日課になっている魔術の鍛錬をしようとしていた──

 終業式も問題なく終わり、遠坂にロンドン行きを誘われ了承し、
 春休みに入った当日の晩のことだった。
 土蔵の一角。挨拶することもできずに消えていった気高い少女と
 初めて顔をあわせた、あの場所に今度は鏡のようなものが出現した。
 
 聖杯戦争は一月前に終結し、聖杯と呼ばれた魔術装置は消滅したはずだった。
 魔術儀式は失敗に終わった。

 だから今眼前にあるものに対して衛宮士郎は何の判断もできずにいた。
 何らかの魔術が働いた結果、此処にこのような物が現れたことはわかる。
 「遠坂に連絡して、判断を仰ぐか…」
 母屋に戻り、遠坂凛に電話を入れるが留守番電話だった。
 正体不明の鏡が現れたことだけ告げて、電話を切る。
 
 再度土蔵に戻り、鏡を調べようと不用意に手を触れた瞬間に
 吸い込まれ、電流のような衝撃を食らったと思ったら
 衛宮士郎は知らない場所へと移動していた。

───────────────

 「あんた、感謝しなさいよ。 貴族である私とこんなことするなんて
 一生ありえないんだから!」
 頬を紅く染めながら少女は呪文を唱えだす。

 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
 五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」
 そして、己が唇と少年の唇を寄せようと…したとたん、
 少年は飛びずさった。少し少女と離れると慎重に立ち上がる。

 「ちょっと待ってくれ。いきなり説明もなしになんか物騒なことしようとして…」
 初めて出した少年の声は抗議であった。

 「私だって嫌よ!!それでも、おとなしく私のキスをうけなさいっ!」
 「何の説明もなしに人を勝手に使い魔にしようとしても、そんなの承知できるか!」

 召喚された直後は驚きのあまり少々呆けていたが、少女たちの会話から
 自分は召喚魔術によってここに呼び出され
 今まさに契約魔術を“勝手に”施されようとしていたと推測し、
 とりあえず逃げる方法を模索する。



678:シロウが使い魔
11/01/19 01:58:31 3iqoDT3X

 「普通の人間を使い魔にしようなんて、非常識にもほどがあるぞ!!」
 言葉をつむぎつつ、現状を確認する。

 時間は昼。場所は平原。近くに壁に囲まれた塔が見える。ぱっと見刑務所。
 周りにはマントを羽織った年の若い人間が20人くらい。禿げた中年が一人。
 その他に使い魔と思われる動物多数。幻想種っぽいものもいるがゴーレムの類か?…
 
 中年以外の人間は同じような格好とかもし出す雰囲気から
 魔術学校の生徒とか塾生と判断。中年の方は、教師だろう。
 遠くに見える森まで走って逃げるのが一番無難か…?

 でも、遮蔽物も無いこの場所だと後ろからガンド(呪い)の一斉掃射なんてこともある。
 とりあえずは話し合いしかなさそうだ。教師と思われる中年に尋ねる。

 「説明も無く、こっちの意思も問わずに一方的な契約なんて従えない!
 ここの魔術師はそんなに横暴なのか!?」
 中年教師は、ふむとしばらく考えた後、
 「わかりました。確かに一方的過ぎたかもしれません。ミス・ヴァリエールは
 そこの呼び出した少年に説明をしてもらいましょう。
 そして、納得してもらってから私の目の前でコントラクト・サーヴァントして下さい。
 コントラクト・サーヴァントを確認した時点で進級を認めることにしますので…。
 そのほかの皆さんは教室に戻り次の授業の準備をするように。解散」

 一連のやり取りが終わると、生徒たちは
 「ゼロのルイズは呼び出した使い魔にも反抗されてる」とか
 「空も飛んで帰れないんだからゆっくり歩いて帰れよ」とか色々野次を飛ばす。

 そして驚くことに空に浮かんで戻っていく。浮遊の魔術なんて
 魔術の水準はかなり高そうだ。

 「えーっと、ルイズ?…さんは飛行しないのかな?」
 「うるさいわね!!あんた飛べないんでしょ!だから合わせてあげているだけよ!」
 おこられた。
 「とりあえず私の部屋に行くわよ。一応説明してあげるから、終わったら契約よ!」
 聞く耳を持っていないようだ。

 歩いて移動する間に考える。
 此処はイギリスか何処かの地方だろうか。言葉が通じるようになっているのは魔術だろう。
 目の前を歩くルイズも他の生徒たちも派手な色の髪だった。なにかの習慣だろうか。
 土蔵からこの異国と思われる場所までは一瞬だったはず。聖杯なみの機能が働いたのか。
 なぜ自分が巻き込まれることになったのか。
 遠坂はどう思うだろうか。心配かけないように連絡を早めに入れなければ。
 
 恋人と呼べるまで親しくなった少女のことを思いだしつつ、ルイズの自室に入っていくのだった。


679:シロウが使い魔
11/01/19 02:06:00 3iqoDT3X

と、ここまでが1章です。SSは初めてなので、
文章的に短かったり、型月・ハルケギニア世界を曲解して理解してたり
するかもしれませんので、そのときは文句バシバシ言ってください。

問題ないようでしたら、また今度続きをうpします^^

680:シロウが使い魔
11/01/22 01:36:36 sjGXMhu3
1章が短かったので、続き書かせてもらいます。

681:シロウが使い魔
11/01/22 01:37:43 sjGXMhu3

 「で、あんた誰?」

 開口一番、ルイズは士郎に問うた。

 「俺の名は衛宮士郎。日本の魔術師。半人前だけど…。年齢は18歳」
 「あ、あんたメイジなの!?」
 「いや、メイジって魔法使いのことだろ?俺は単なる魔術師だから」
 「?…魔術師って魔法使いのマイナーな呼び方なんじゃないの?」

 なにか言葉の齟齬が発生しているようだ。
 鏡を潜ったときの電撃のようなものに『翻訳』の魔術が付随していたとして、
 その魔術は不完全なものだったのだろうか?
 
 ちなみに士郎は召喚されたときから、周りの人間が日本語を話しているとは
 思わなかったし、自分が日本語でコミュニケーションしているとは思ってない。
 第3巻の4章あたりで初めて気づくなんてことは無かった。

 「魔法は文明に再現不能な奇跡であって、魔術とは違うだろ。」
 「わけわかんないこと言わないで!なんでもいいから、あなたの魔法見せてみなさい。
  そしたら、メイジかどうかはっきりするから」
 「なんでもよくは無いけど、いいよ」

 士郎は自分も魔術師ということを証明しようと強化の魔術を行うことにした。
 不要な木材かなにか無いか尋ねたら、ルイズ自ら部屋を出ていき、薪を調達してきた。
 せっつくように魔術を促されるままに強化を行った。なんとか成功…
 杖を使わなかったので先住魔法がどうのこうの言われたが。

 「『固定化』ってことは土系統のメイジなのね…」
 強度の増した薪を手に、なんだか悔しそうな目で士郎は睨まれた気がした。
 士郎にとって投影の方が簡単なのだが、それを誰かに教える気は今は無かった。

 「さっきの話の続きなんだけど、ニホンってどこ?あと18歳には見えないわ」
 「日本は極東にある島国。ここじゃ知られていないのか?て言うかここはイギリス?」
 「イギリスってのも何処よ?ここはトリステインの魔法学院!」
 「トリステインってのは何処か知らないが、イギリスはわかるだろ?イングランド」

 このまましばらく質問の応酬が続く。

 そして、かみ合わない議論に士郎ははたと気付き質問する。
 「ちょっとまて。ここは《地球》にある欧州の何処かじゃないのか?」
 「地球とか欧州もわからないわよ!トリステインはハルケギニア大陸の国!」
 
 士郎はここに到って、現在地球以外の場所に居る可能性に思い至る。
 パラレルワールド?遠坂の先祖が目指した平行世界ってやつなのか?

 「それであんた、私の使い魔にはなってもらえるの?」
 平民と思っていた少年?がメイジらしいと判り少し弱気になるルイズ。
 「その前に…、
  ここが地球じゃないのなら、自分は異世界からやってきたことになる」



682:シロウが使い魔
11/01/22 01:39:23 sjGXMhu3
───────────────

 遠坂凛は怒っていた。

 弟子であり恋人である衛宮士郎からの留守電を聞いて急いで衛宮家に来てみたが
 その家は鍵を空けたまま、家主はどこかへ消えていた。

 土蔵の中へ行き調べてみた。魔術の痕跡らしきものは確かにあった。
 何も無い空間へ向かって、魔力のひもみたいなのが伸びている…ような感じがする。
 そのひもを辿ってみたいが、手を触れると消えてしまいそうなので
 うかつに触れない。

 「あいつ、勝手に調べようとしてどこぞへ飛ばされたんじゃないでしょうね…」
 その通りである。
 ただ、それが異世界だとは遠坂凛もこの時点では思いついてはいない。

 凛と士郎の間にあったはずの魔力のリンクは今は消えている。

───────────────

 「それほんと?」
 ルイズは疑わしげに訊いてくる。

 「ここが異空間だろうが異世界だろうが幽界だろうがそれはいいんだ。
  自分としては、元の世界に戻して欲しい」
 「無理よ。だって、送り返す魔法なんて聞いたことないし…」
 「さっきの教師も知らないってことか?」
 「ミスタ・コルベール?訊いてみないと判らないわ」
 「……」

 「あの…、帰る方法が見つからないようだったら、しばらく私の使い魔やってもらえない?
  進級できないと困るの!お願い!」
 ルイズは手を合わせて懇願する。士郎は手を合わせるって行為は、ここでもするんだなぁと
 変なことを考えつつ返事をする。
 「じゃあまずコルベール先生だっけ?その人に訊いてから、帰る方法がすぐに見つからない
  場合は使い魔を仮にやるよ。でもその場合は、帰る方法を探すことを約束してもらう」
 「うん、それでいいわ」
 「契約のことだけど、精神支配とかそういうのはなしで頼む」
 「えっと大丈夫だと思うわ」(根拠は無いけど)

 2人は、屋外にあるコルベールの自室に向かうことにした。

 道すがら「あの人は変わり者だから」とルイズに言われたが、魔道に関わる人間は
 変わり者が多いのが普通じゃないのかなと士郎は思った。

 「ミスタ・コルベールいらっしゃいますか?」
 学園の一角に建てられた掘っ立て小屋の前でルイズは声をあげた。

 <がちゃ>
 「ああミス・ヴァリエールでしたか。それで使い魔君との話はつきましたかな?」
 中から中年教師が現れる。それと同時に鼻につく匂いもする。
 (ここにはあんまり来たくないのよね)ルイズは思った。

 「とりあえず中に入ってくれたまえ」
 

683:シロウが使い魔
11/01/22 01:40:56 sjGXMhu3
 中は見るからに錬金術師の部屋といった感じで魔道の道具や本、地図、生物が所狭しと
 並んでいた。その中にコルベールが先ほどまで研究してたと思われる奇妙な道具があった。
 
 目を閉じ手を触れ、中を魔術で《覗き視る》。視覚情報としての設計図があらわれる。
 (原始的だけど、これは間違いなくエンジンだな)
 「おぉ、それに目をつけるとは使い魔君はなかなかの目利きだな」
 突然説明をしようとするコルベール。
 「それはだな…
  「気化した燃料をピストン上の空間に流し込み、燃料を爆発させることでピストンが押し戻され
   それを動力として回転運動が発生する…ですね」
 そ、そうだ。よくわかったな」

 「ミスタ・コルベール!私が喚び出した彼はメイジだったんです。
  だからもう一度他の生物の召喚をさせてもらえないでしょうか?」
 おかしな機械に興味の無いルイズは、コルベールに話しかけた。

 「……、メイジ?先ほどディテクトマジックしたときには魔法の痕跡は感じなかったが」

  『ディテクトマジック』
    魔法を探知する魔法。先住魔法は探知できないらしい

 「彼に『固定化』の魔法を見せてもらいました。土系統のメイジだと思います」
 「ちょっと待ってくれ。その前に俺は別の世界から召喚されたんです。俺の世界は魔道は
 一般に隠匿されて、科学が発達した世界です。そこに帰りたいんです」

 時間を掛けて士郎はコルベールに詳しく説明する。
 異世界から召喚されたと判断した根拠や、士郎の世界のことを。
 コルベールも話を聞いて、衛宮士郎なる人物が異世界人だと納得する。

 「う~む。だが、送還の魔法など私も聞いたことが無い。
  図書館の書籍など洗いざらい調べればどうかはわからんが。
  とりあえず送還方法が見つかるまで彼女の使い魔に収まってくれると
  彼女も進級できるのだが、どうだろうか?」

 士郎は大いに悩みつつも「わかりました」と答えた。

 「ではミス・ヴァリエールは『コントラクト・サーヴァント』をしてくれたまえ」
 再召喚は結局させてもらえず、契約を促されたルイズ。
 「わかりました」
 しぶしぶだが、やはり契約を終わらせるしかないルイズ。
 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
  五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」
 契約の儀を再び行い……士郎と唇を合わせる。

 (遠坂ゴメン…)
 士郎は心の中で師匠であり恋人でもある女の子に詫びを入れた。

 「終わりました」
 ルイズも顔を真っ赤にしている。


684:シロウが使い魔
11/01/22 01:41:50 sjGXMhu3

 少し待つと、士郎の全身が熱くなる。
 「ぐっ!!」
 (これは魔術の鍛錬にしくじったときと同じ!)
 歯を食いしばり、呼吸を強引に鎮める。
 「がまんして。『使い魔のルーン』が刻まれているの。」
 士郎は鍛錬に失敗しそうになったときと同じ手順を取ろうかと思ったが、
 意外にもあっさり苦痛はおさまる。

 士郎はかつて令呪があった場所になにかの文字が現れたのに気がついた。
 「珍しいルーンだな」
 ルーンを見てコルベールはつぶやいた。

 「ところでルイズさん」
 「あんたもメイジならもういっその事、呼び捨てでいいわよ。」
 異世界に召喚した弱みからか、ルイズはどこか卑屈になっていた。
 「じゃあルイズ。この世界の使い魔って何をすればいいんだ?」
 「えっと使い魔の見聞きしたものは主人にも伝わるって言うのが…」
 「できるの?」
 「できないみたい。次に秘薬の入手とかかしら。秘薬とか採ってこれる?」
 「この世界の情報を知識として持ってないからなぁ」

 「まぁいいわ。最後に主人を守る…って無理よね」
 「敵にもよるけど、ある程度なら戦うことはできるぞ」
 「だって魔術?とかも半人前なんでしょ?」
 「剣でならそこそこ戦える」
 「幻獣とかと戦えるくらいじゃないと意味無いわ。じゃあ他に雑用ね。掃除洗濯」
 「下着とか以外ならやるよ。家では家事は一通り自分でこなしていたからな」
 自分の下着も洗ってもらおうとしていたルイズは、はしたない事を頼もうとして気づき
 顔をひっそり赤らめた。


685:シロウが使い魔
11/01/22 01:54:50 sjGXMhu3

 「じゃあ今度はこっちからの要求だな」
 「え!?使い魔が要求するの!?」
 「当たり前だ。これは契約なんだから。契約とはそういうもんだろ」
 「…そうね。契約だものね」
 「まずは、自分が元の世界に戻る手段をきちんと探すこと。次に衣食住を確保すること。
  この2つかな。とりあえず思いつくのは」
 「送還の方法はもちろん探してあげるわよ。着るものは今度街に行って買ってあげる。
  食べ物は食堂があるし一緒に食べればいいわ。住まいはさっき居た私の部屋があるし」

 「住む場所は却下」
 士郎は文句を言う。
 「なんでよ!」
 「女の子と一緒の部屋に寝起きなんてできない!」
 「大丈夫よ。私は使い魔に対してなんて、なんとも思わないわ」
 何度も赤面していたことを棚にあげてルイズは言う。

 ここで使い魔のルーンの書き写しが終わったコルベールが口を挟む。
 「では寝起きはここでするというのはどうかね?」
 「俺は助かりますが、いいんですか?」
 「もちろんだとも。その代わりといっては何だが、君の世界の話を聞きたいのだ」
 「それくらいなら。エンジンとかの設計図程度なら作れますよ」
 「おお!それは是非に欲しいな。買い取ってもいいぞ」

 自分を無視して進められる会話にルイズはむっとして
 「じゃあ勝手にすれば!た・だ・し、毎朝私を起こしにくるようにしてよね!
  部屋の鍵は開けておくから!それじゃ!」
 と、コルベールの部屋の扉を乱暴に開けて帰っていってしまった。

 「なんか俺、怒らせるようなこと言いましたか?」
 「さぁなぁ。あの年頃のこは色々複雑なのだと思うよ」

 こうして、ハルケギニアでの衛宮士郎の使い魔生活が始まった。


686:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/22 18:30:03 mcvotdWf
面白そうだ、続き期待。

687:シロウが使い魔
11/01/23 00:18:20 4Q3LPdpQ
>686
ありがとうございます。

一応第2章を作りました。文章チェックを行った後、後ほどうpします
ただ自分の2章って、他のSSとも違いがあまりないので退屈かも…

688:シロウが使い魔
11/01/23 00:50:08 4Q3LPdpQ
第2章

 衛宮士郎の朝は早い。昨晩はかなり遅くまでコルベールの質問攻めにあったが、
 それでも体内時計は早朝に起きるように体を促したようだ。
 「日課の鍛錬……って言っても着替えが無いうちに汗を流すのもなぁ」
 昨日ルイズに約束してもらった衣食住の衣。つまり着替えを用意してもらうまでは
 着たきり雀になるため今着ている服を洗って乾かして着るという行為を
 繰り返さなくてはならないようだ。

 「さてと、では使い魔としての日課をすませるか」
 誰ともなしに呟いて、士郎はルイズの部屋へ洗濯物を取りに向かった。

 ルイズの部屋では、もちろんルイズは熟睡の最中であった。
 音を立てないように部屋に入った士郎は、毛布をはがして丸まっているルイズに
 そっと毛布を掛けなおしてやり、部屋の隅の籠に入っている洗濯物を籠ごと外へ運び出した。

 水場の場所は昨夜コルベールに聞いていたが、この世界の洗濯の方法なんかを
 聞いてなかったことに気がついた士郎。
 丁度近くを通りかかったメイドらしい黒髪の女性に声を掛けた。

 「すみません」
 「はい?あら、ここでは見かけない方ですね」
 「ちょっとお尋ねしたいのですが、この洗濯物を洗いたいのですが、やり方を知りたいのです」
 「……はぁ。洗濯物ですか…。これはどなたの洗濯物でしょうか?」
 「えっと、ルイズ…じゃない。ミス・ヴァリエールと言う生徒のものです」
 「そうですか。じゃあこれは私の方で洗濯いたしますわ」
 「え? それは悪いです。自分が任されたものなので」
 「あぁ、もしかして、あなたが昨日召喚されたという噂の平民のかたですか?」
 
 特に娯楽も無い全寮制の施設内においては、噂は何より退屈を紛らわせるものとなっていた。

 「えっと、多分その噂の平民です」
 「私はシエスタと申します。お名前伺ってもよろしいでしょうか?」
 「あ、俺は衛宮士郎。士郎って呼んでください」
 「シロウさんですか。では、シロウさん。この洗濯物は責任を持って、私シエスタが
  お預かりいたしました」(にこっ)

 どことなく間桐桜を思い出させる女性である。
 「ありがとう。ん~、でも一応洗濯するやり方とか一度覚えておきたいんだよなぁ」
 「そうですか。では今度時間のあるときに洗濯をお教えしますわ。
  でもそろそろ生徒さんが起きる時間だと思うんですけど……」
 意外と時間が経っていたようだ。
 「じゃあ洗濯お願いします。俺は急いでご主人様を起こしてくるんで。じゃぁ」
 「はい、いってらっしゃい」


689:シロウが使い魔
11/01/23 00:51:04 4Q3LPdpQ

 再び、ルイズの部屋

 「お~い、ルイズ。そろそろ起きないと遅刻するぞ」
 「…………ふが、…………む」(ぱちくり)
 「おはよう、お嬢様」
 「ぉはょぅ……。……ってあんた誰?」
 魔術師の女性は朝が弱いって法はないよなぁと思いつつ自分の名を名乗る士郎。
 「ああ、使い魔ね。昨日、契約したんだっけ」
 自分は魔法が成功したことが無いのに、魔法が使える使い魔なんて喚んでしまって
 コンプレックスが刺激される。

 「服着せて」
 ルイズはネグリジェを脱ぎ始めた。
 <ゴツン!>
 ルイズは士郎に拳骨で叩かれた。
 「いたぁ~~い!!」
 「自分でやれ!」
 貴族に手を上げるなんて!と文句を言いそうになるが、士郎が笑顔で怒っているのに気付き
 「ごめんなさい」
 と思わず謝ってしまった。

 「先に部屋の外で待っているからな」
 さっさと出て行く士郎。
 (なによ、私の使い魔の癖に。私がご主人様なのに……)と不満たっぷりのルイズ。
 それでも朝の仕度を自分独りですませるのであった。

 ルイズが部屋を出るのと、隣の部屋から赤い髪の女性が出るのは同時であった。
 「おはよう。ルイズ」
 「おはよう。キュルケ」
 「そこに居るのは、あなたの使い魔?」
 キュルケと呼ばれた女性は、にやけながらルイズに質問する。
 「あっはっは!本当に平民を使い魔にしたのね!すごいじゃない!」

 顔に朱がさすルイズ。

 「じゃあ私の使い魔も紹介してあげる。フレイム、出てらっしゃい~」
 キュルケの部屋から巨大なトカゲが現れる。
 「それ、サラマンダー?」
 「そうよ。火竜山脈のサラマンダーよ。私にぴったり。ところで使い魔さん、お名前は?」
 (幻想種の生きたサラマンダーをまじまじ見つめていた士郎はあわてて答える)
 「え、衛宮士郎」
 「エミヤシロ? 変な名前ね。まぁいいわ。じゃあお先に」
 そう言うと、颯爽とキュルケは去っていった。サラマンダーもかわいい動きで後を追う。

 「くやし~~~!!サラマンダーを召喚したからって、自慢げに!!」
 「まぁ俺とサラマンダーじゃ比べ物にならないよな……。ごめんな」
 自虐的な士郎におもわずルイズは
 「ちがうの。あなたが駄目ってわけじゃないの。あなただってメイジだし…」
 とフォローを入れてしまう。メイジという単語に何か思いついたルイズは
 「あの、士郎がメイジって事、他の人には内緒にしてもらっていい?」
 と尋ねた。

 ………


690:シロウが使い魔
11/01/23 00:51:56 4Q3LPdpQ

 トリステイン魔法学校の食堂は、学園敷地中央の本塔にある。
 生徒は、学年ごとに色分けされたマントを身に付け、
 やはり学年ごとに分かれ一つの長テーブルの席についていた。

 豪華な装飾、花、フルーツ。室内は貴族が使うにふさわしいように華美を極めている。

 ルイズはその中を歩いていき、一つの席の傍で立ち止まる。
 上流階級のマナーなど知らない士郎だが、空気を読む能力を発揮して、椅子を引く。
 「ありがとう」と軽く会釈をしてルイズは席に着いた。
 ルイズの席のそばに立ち指示を待っていると、「!!」とルイズは声を出さずに
 何か微妙な反応をした。

 「し、ししし、士郎。あ、ああの、じ、実はあななたの、しょ食事用意するように
  い、言うのを忘れてたの忘れてたの。だから、使用人に頼んで、ちゅ厨房がどこかで
  食事を摂ってもらえる?こ今回だけ」

 なぜか異常に言葉をかみながら話すルイズに違和感を覚えながらも、素直に使用人の一人へ
 声を掛けて食堂を出て行く士郎。

 ルイズの足元には、ペットのえさと見間違える粗末な食事が皿に入っていた。
 それをつま先で必死になってテーブルの奥へ隠すルイズがいた。

───────────────

 厨房ではシエスタも働いていて、料理長に口を利いてもらい士郎は無事に食事を摂れた。
 やはり人間の使い魔を召喚した噂を知っていて、とても同情的だったのは言うまでも無い。
 賄いのシチューはとてもおいしゅうございました。

───────────────


691:シロウが使い魔
11/01/23 00:52:49 4Q3LPdpQ

 魔法学院の教室は一言で言えば大学の講義室のようである。階段状に座席が配置されていた。
 ルイズが士郎とともに教室へ入ると、他の生徒から失笑が聞こえてきた。
 むっとしつつ席へつくルイズ。士郎はその隣へ座る。
 召喚された直後は余裕が無かったため他の使い魔を見る機会は無かったが、
 改めてじっくり幻想種やら色々な動物を鑑賞する士郎。
 烏や蛇、猫や梟(梟の使い魔で凛を思い出した)と幻想種以外において生態系が地球と
 重なることに、本当に異世界かどうかと一瞬疑ってしまう。

 そこへ中年の女性が前方の扉から入ってきた。教師のようだ。
 「おはようございます」「おはよう」と挨拶が終わると教師が口を開く。
 「皆さん。春の使い魔召喚は大成功のようですね。
  私はこの新学期に皆さんの様々な使い魔たちを見るのが楽しみなのですよ」
 と、ルイズと隣の士郎を見て
 「おやおや、変わった使い魔を召喚したのですね。ミス・ヴァリエール」
 教師がとぼけた声で言うと、これに教室中がどっと沸く。

 「ゼロのルイズ!召喚できないからって、平民を連れてくるなよ!」
 ルイズは反論しようと一瞬立ち上がったが、そのまま何も言わずに席に着く。
 (ただの平民じゃなくてメイジなのよ!)と出かかったのを抑えたためだった。
 (そんな事言ったら、ゼロのルイズより使い魔の方が魔法が上手なんて言われる)

 女性教師はさすがにルイズを気の毒に思ったのか判らないが、ルイズに暴言を吐いた少年
 (名をマリコルヌと言う)に向かい杖を振るう。彼の口に赤土が張り付いた。
 「お友達をゼロとかで呼んではいけません。わかりましたか?」教師は言う。
 教室の笑いも収まる。

 「では授業を始めますよ。
  私の二つ名は『赤土』赤土のシュヴルーズです。『土』系統の魔法を一年間講義します。
  魔法の四大系統はご存知ですね?ミスタ・マリコルヌ」
 ようやくと口に張り付いた粘土をはがしたマリコルヌが答える。
 「『火』『水』『土』『風』の四つです」
 「そのとおり。それに失われた系統魔法『虚無』を合わせて全部で五つの系統が存在します。
  その五つの系統の中で『土』はもっとも重要なポジションを占めると私は考えます。
  私が『土』系統だからという理由での身びいきではありません」

 士郎は“五大元素”の属性を持つ師匠(恋人)の事を思い出した。
 この世界に遠坂が生まれていたら、その伝説の『虚無』とやらも使えていたのだろうかと。

 講義は進んでいく。この世界では石の切り出しも農作物の収穫も《魔法》が使われるらしい。
 確かに科学文明の発達していないこの世界では《魔法》と呼ばれてもおかしくは無いのだろう。


692:シロウが使い魔
11/01/23 00:54:32 4Q3LPdpQ

 「今から皆さんに『土』系統の基本である『錬金』を覚えてもらいます。よろしいですか?」
 と、シュヴルーズは教壇の上に用意した石ころに向かい、詠唱とともに小ぶりな杖を振るう。
 石ころはピカピカ光る金属へと変わっていた。
 
 「ゴゴ、ゴールドですか?ミセス・シュヴルーズ!」キュルケが身を乗り出す。
 「違います。ただの真鋳です。ゴールド練成は『スクウェア』クラスでないと。
  私はただの……」
 もったいつけてシュヴルーズは言う。
 「『トライアングル』ですから……」

 やり取りを見てて士郎はルイズに尋ねた。
 「ルイズ、もしかして使える系統の数によって『スクウェア』『トライアングル』になるのか?」
 「そうよ。系統が多いほど使える魔法も強力になって、必要な精神力も減るの。
  1つは『ドット』2つは『ライン』で、3つ4つが『トライアングル』『スクウェア』」

 このやり取りをシュヴルーズに見咎められる。
 「ミス・ヴァリエール。授業中の私語は慎みなさい。おしゃべりしているくらいでしたら、
  あなたにもやってもらいましょう。この石を『錬金』で望む金属に変えてもらいます」

 キュルケが口を挟む。
 「先生、危険です。やめておいた方がいいと思います……」
 「どうしてでしょう。ミス・ツェルプストー」
 「ルイズを教えるのは初めてですよね?」
 「ええ、でも彼女が努力家というのは知っております。さぁ、ミス・ヴァリエール。失敗を恐れずに」

 「わかりました。やります」
 決意をした顔で教壇まで歩いていくルイズ。教室がざわつく。
 キュルケは「ルイズ。やめて」と声を出す。

 ルイズが目を瞑りルーンの詠唱と杖を振るころには、教室の前方の生徒は椅子の下へ避難していた。

 <ちゅどーーーーん!!>

 机ごと石ころが爆発する。シュブルーズとルイズは黒板に叩きつけられ使い魔たちは大暴れする。
 教室は阿鼻叫喚の嵐だが、ルイズはそんな中すっくと立ち上がり
 「ちょっと失敗したみたいね」
 と、言い放った。

 「ちょっとじゃないだろ!ゼロのルイズ」
 「いつだって成功の確率、ほとんどゼロじゃないかよ!」

 ここで士郎はルイズの二つ名が『ゼロ』、
 つまり『ゼロのルイズ』と呼ばれていることを知るのであった。


693:シロウが使い魔
11/01/23 00:58:35 4Q3LPdpQ
第2章は以上です。

次章はギーシュ戦の予定です。ありがとうございました。

694:シロウが使い魔
11/01/23 12:33:53 4Q3LPdpQ
うは、2章で魔法学院を魔法学校なんて書いてました。
訂正いたします。第3章も完成しだいうpします。

695:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/23 23:06:52 B5MCm4A+
おおっ
つづきまってますー

696:シロウが使い魔
11/01/24 20:45:02 2ebl2vKy
すいません、風邪引いちゃいまして机仕事が長くできなくなっております。
3章は出来上がっているのですが、見直し時間が取れない…

治り次第見直してうpします。
ではノシ

697:シロウが使い魔
11/01/24 21:11:27 2ebl2vKy
と、思いましたが、コンピュータの前に座っちゃうと色々やってしまいますね

見直しかけたのでこれからうpします。

698:シロウが使い魔
11/01/24 21:18:32 2ebl2vKy
第3章

───────────────

 コルベールは図書館で調べ物をしていた。衛宮士郎の左手に現れたルーンのことである。
 教師生活20年の間ではじめて見たルーンであった。
 食堂と同じ本塔にある図書館は高さ30メイル(約30m)もある。
 その一角、教師専用の『フェニアのライブラリー』で一心不乱に書物をあさる。
 そして、ついにお目当ての記述を発見した。
 それは始祖ブリミルが使用した使い魔たちのことを記述した古書であった。

 古書を抱え、コルベールはあわてて学院長室へ向かう。

 今日もハルケギニア魔法学院の学院長室では、
 学院長オールド・オスマンのセクハラと、秘書のミス・ロングビルの応酬が
 それはコントのように行われていた。
 最終的に秘書が学院長をサッカーボールのように蹴倒し続けることで決着がつく。
 
 そこにドアを乱暴に開けて入ってきたコルベール。
 「オールド・オスマン!!たた、大変です!」

 ミス・ロングビルは何事も無かったように席に着く。

 「これを見てください!」とコルベールは先ほど見つけた書物を開く。
 「君はそんな古書など漁って……。他にやることもあるだろう、ミスタ……」
 「コルベールです!お忘れですか!」
 「そうそう、コルベール君。で、この書物がどうかしたのかね?」

 コルベールは士郎の手に現れたルーンのスケッチを手渡した。
 それを見たオスマンの目が剣呑なものと変わる。

 「ミス・ロングビル。席を外してもらえるかな」と退席を促すオスマン。
 ロングビルが退室すると、オスマンは真剣な目をして言った。
 「詳しい説明をしてもらおうかの。ミスタ・コルベール」

───────────────



699:シロウが使い魔
11/01/24 21:20:50 2ebl2vKy

 ルイズは魔法失敗によりめちゃくちゃにした、教室の後片付けを命じられていた。
 罰として魔法の使用は禁止されていたが、『ゼロのルイズ』にとって意味は無かった。
 「あんたもどうせ私のこと、馬鹿にするんでしょ……」
 使い魔に幻滅されていると思いルイズは落ち込んでいた。
 「そうよ。私は今まで一度だって魔法に成功したこと無いの……」
 あらかたの片付けは終わり、ルイズは手を止めてあらぬ方向に向かい、声を荒げる。
 「『ゼロ』!『ゼロ』!『ゼロのルイズ』!
  私は生まれてからずっと、貴族ではあっても、メイジであったことなんて無いっ!!
  だからあんたも…、あんたも…」

 「俺は君に幻滅なんかしないよ」
 「えっ?」
 ルイズは背後で雑巾がけをしていた使い魔のほうを振り返る。
 「俺もさ、つい最近までは魔術なんて成功したためしがなかったんだ。
  毎日毎日、死ぬ寸前くらいの修行を行って、いざ魔術を試してみると失敗ばかり。
  衛宮士郎には魔術を行う才能なんてこれっぽっちも無いかなって思ってた」
 「……」 ルイズが無言で話の先を促す。
 「そしたら突然、俺は聖杯戦争ってものに巻き込まれたんだ。
  実際俺はそこで一度死んでる。 心臓を槍で一突きされて。
  奇跡のような魔術で生き返えらせてもらったけど……」

 士郎も手を止めて何処か遠くを見上げる。
 「そこからはジェットコースターのような毎日だったな。
  遠坂凛って子と仲良くなって、自分の属性が“剣”だってわかったんだ。
  属性が判明してからは、《強化》の魔術とかも成功率が上がったよ」
 ルイズも話に聞き入る。
 「今は遠坂の弟子になって、魔術を教えてもらっている」

 なんとなく意味がわかったのでルイズはジェットコースターって何とかは訊かない。
 「遠坂って人があなたの恋人なの? あと属性が“剣”ってどういう意味?」

 「うん、遠坂は恋人だよ。一番大切な人」
 ここで照れて否定なんかすると、遠坂本人が現れて士郎をボコボコにしそうだ。
 本当にこの異世界に現れるなら歓迎するが……。
 「“剣”のことなら実際見てもらおうかな。 丁度誰も居ないし、使い魔としては
  マスターに対して能力を見せるのは義務かもしれないから」

 窓の外や廊下を探って誰も居ないことを確認した上、士郎は肩の力を抜き、立つ。
 「──投影、開始(トレース・オン)」
 最近の遠坂との魔術講義で、さんざん投影させられた魔術礼装の剣をイメージする。

 <きぃぃぃぃぃん、ざん>
 他人には聞こえない音が士郎の耳に届く。
 士郎の手の中には『アゾット剣』と呼ばれる一振りの短剣が現れた。

 「くっ!!」
 短剣が現れると同時に、妙なイメージとともに体が軽くなった気がした。

  『アゾット剣』
    切り合う為の道具ではなく、所有者の魔力を増幅させ、
    魔術行使を補助・強化させる魔杖である。

 (そんな事は知っている)
 と士郎は思った。いまさら知っている情報を左手のルーン経由で伝えられているようだ。
 やはりルーン経由で、妙な力が全身に流れ始めているのも判った。


700:シロウが使い魔
11/01/24 21:22:00 2ebl2vKy

 自分の使い魔が何も無い空間から突然短剣を出したことに驚いたルイズは
 しばし呆然と見守っていた。
 だが、何か様子がおかしい。士郎はボーっと突っ立っている。
 「あんた?大丈夫?」

 (なんだ、使い魔のルーンとかには、特殊な能力があったのか?)
 士郎は、この現象が今のところ害は無いと判断。思考に流れてくる情報の他に
 精神支配・精神崩壊の予兆は無いだろうと思うことにした。

 「あ、ああ。大丈夫。
  これが俺の属性。“剣”を作ることに特化した魔術師なんだ」
 「へ~、妙な魔法ねぇ。私にも属性がわかるといいんだけど。」
 「さっきの授業で4大系統と伝説とか言ってたけど、どの系統も使えないのかい?」
 少し優しい声で尋ねる士郎。

 「……うん、初歩の初歩の魔法だけじゃなくて、『コモンマジック』も成功したことが無いの。
  『虚無』は試したことがないわ。伝説だもの。ルーンなんてわからないわ」
 こう言われると士郎は、それを何とかしてやりたいと思う。
 「もしかしたら歴史書にも載ってない6番目の系統ってこともあるかもしれないぞ。
  俺の世界には“五大元素”って言うのはあるけど、俺自身はその中に含まれないし」
 本来は分化した魔術という分類もあるが、それは言わないことにした。

 「そうね。そうだったらいいな……」

 落ち込むルイズに士郎は今投影したばかりの短剣を送ることにした。
 「ルイズ。これを君にあげるよ。元手ゼロの安上がりな剣だけど」
 「ゼロのルイズに、ゼロエキューの短剣ね……」
 自嘲的だが少し笑顔を取り戻すルイズ。

 「さ、そろそろお昼になっちゃうわ。とっとと掃除を終わらせましょう」

 ………

 昼食時間に少し遅れて、食堂に向かったルイズと士郎。
 皆は既に食堂の外でティータイムと洒落こんでいるようだ。
 だが、なにかもめているらしく、誰かの恫喝する声が聞こえる。

 「君が軽率に、香水の壜なんかを拾い上げたおかげで、二人のレディの名誉が傷ついた
  どうしてくれるんだね?」
 
 周りでは「二股かけてるお前が悪い」などと囃し立てる声も聞こえる。
 ルイズは遠巻きに眺めている一人の生徒を捕まえて事情を聞いた。
 どうやら一人の彼女に送られた香水の壜を持っていたことに、他の彼女に気づかれて
 しまったようである。その際、その壜を拾い上げたのが学院で働いている平民だったようだ。


701:シロウが使い魔
11/01/24 21:23:36 2ebl2vKy

 「あれは、シエスタじゃないか」
 平謝りしている少女は、朝見知った人間であった。
 「あんた、知ってるの?」
 「あぁ、今朝2回ほど世話になった。ちょっと止めてくる」

 言うなり士郎は、その渦中に割って入った。ルイズが止める間もなくである。

 「八つ当たりと、弱いものいじめはやめとけよ」
 「む、何だね。君は」
 「俺は衛宮士郎。ミス・ヴァリエールの使い魔だ」
 「ふふん、確かに君はゼロのルイズの呼び出した平民だったね。貴族に対する礼儀も知らないなんて」
 「何が貴族だ。弱いものいじめをして悪びれないようなやつは、
  どの世界においても大したこと無いって決まっている」

 これにはカチンときたらしく、
 「この、ド・グラモン家のギーシュに対してその口のききよう。
  よかろう、君には体で教えねばならないようだね。……ヴェストリの広場へ来たまえ」

 ギャラリーがいっせいに沸く。 決闘だ! ギーシュとルイズの使い魔が決闘だ!

 ルイズとシエスタが士郎へ駆け寄る。
 「あ、あんた、大丈夫なの!?ギーシュって確か『ドット』だけど、あんたに勝てる方法あるの?」
 「シ、シロウさん、駄目です!貴族に歯向かったら殺されてしまいます。
  今すぐ誤って許してもらってください」
 
 これに対して士郎は
 「う~~ん、多分大丈夫だろ。
  あいつもここに居る大勢も“死”の匂いが全然しないような人間ばかりだし……」
 衛宮士郎はかなり場数も踏んでいる。喧嘩と決闘の違いくらいなら見極めることは簡単だ。

 ギーシュの友人らしき人間がヴェストリの広場という場所を教えてくれた。
 士郎はすたすたと歩いていってしまう。

 「あぁぁ、シロウさんが死んでしまう」と、シエスタは涙を流し蹲ってしまった。

 ………


702:シロウが使い魔
11/01/24 21:24:23 2ebl2vKy

 「とりあえず、逃げずに来たことは、褒めてやろうじゃないか。では、始めよう」
 ギーシュは手に持っている薔薇の花を振る。花びらが地に舞い落ちると同時にそこから、
 甲冑を着た女戦士の形をした人形が現れた。
 「僕はメイジだ。だから魔法で戦う。よもや文句はあるまいね?」

 「じゃあ俺の方が武器を使っても文句は無いんだな?」
 「見たところ、手ぶらのようだが、お願いするんなら剣の一つも『練成』してあげよう」
 「ふん、いらねぇ。武器なら持っている」
 と、士郎は腰から背中へむけて、服の中に手を入れる。「─投影、開始」

 士郎が服の中から手を出すと、その手には短刀が握られていた。
 やくざが俗に言うドス(質の悪い短刀)とは違い、いわゆる日本刀の短いバージョンである。
 (藤村の爺さんに見せてもらったのが役にたつとは…)

 「あははは、そんな小ぶりの剣で僕の『ワルキューレ』に勝てると思っているのかい?
  馬鹿にしすぎだよ!!」

 士郎の行為に妙な引っ掛かりを感じたギーシュだが、
 「言い忘れたな。僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュだ。
  我が『ワルキューレ』の強さを、その身をもって味わうといい!」
 言うなり、ギーシュは『ワルキューレ』を士郎に突進させる。

 そんなギーシュの台詞を聞き流しながら、衛宮士郎はやはりと思っていた。
 投影直後に起きた体が軽くなる現象は、戦闘に特化した肉体強化だと。

 日本刀といえども所詮は短刀である。しかも相手は金属の鎧乙女。
 だが士郎は、相手をこの短刀でいなせることを、直感によって知っていた。
 そして士郎は『ワルキューレ』の設計図を描き、そこに現れた弱点を攻めることにした。

 (意外と間接部分の装甲が薄い)

 ………

 『ワルキューレ』の攻撃は士郎の体に一度も届くことはなかった。
 肉体が強化された士郎にとって、『ワルキューレ』の攻撃はあまりに稚拙すぎた。
 戦乙女が一回突撃するたびに、三度の反撃を食らう。しかも士郎は無傷。

 あわててギーシュはもてる全ての精神力を使い6体のゴーレムを追加した。
 だが、それでも士郎に攻撃が届くことは無かった。
 それどころか、1体1体のゴーレムの動きが鈍ってくる。
 最初に呼び出した『ワルキューレ』なぞ、膝の関節部分が崩壊する始末。

 士郎の投影した短刀が蓄積したダメージによって霧消するころは
 全ての『ワルキューレ』は地に伏してもがいていた。

 あまりのことに腰が抜けたギーシュ。そこへ歩み寄る士郎。
 「ま、参った」
 ギーシュは返事をするのが精一杯だった。
 「あとで、さっきのメイドに謝っておけよ。いいな!?」
 「わ、わかった」



703:シロウが使い魔
11/01/24 21:26:56 2ebl2vKy

───────────────

 オスマンとコルベールは一部始終を遠見の鏡で見つめていた。
 士郎とギーシュの決闘を止めようと『眠りの鐘』と呼ばれる秘法の使用許可を得ようと
 他の教師がオスマンに求めてきたため、騒ぎを知ったためだった。
 秘法の使用など喧嘩ごときには使わせなかったオスマンである。

 戦い方を見た限りでは、士郎の圧倒的すぎる勝利である。
 メイジ相手に短剣などで勝利するなど聞かぬ話だ。

 「やはり彼は『ガンダールヴ』。始祖の使い魔に間違いありませんぞ。早速王室へ報告を……」
 「それにはおよばん」
 とオスマン。
 「始祖ブリミルの強大な呪文の長い詠唱時間を守るために存在した『ガンダールヴ』
  その強さは……」
 コルベールが後を引き継ぐ。
 「千人もの軍隊を一人で壊滅させるほどの力を持ち、あまつさえ並のメイジではまったく
  歯が立たなかったとか!」

 オスマンは語る。
 「そのようなものを、王室のボンクラどもの前に吊る下げてみよ。あっという間に戦の道具に
  されてしまうじゃろ」
 「そうですね。わかりました。これは他言無用ということでよろしいですか?」
 「ああ、そうしてくれ。本人たちにも、ルーンを含めて諸々のことを隠すように、言い含めておくように」

───────────────


704:シロウが使い魔
11/01/24 21:28:31 2ebl2vKy

 「あ、あなた強いのね……」
 ルイズは決着直後に思わず駆け寄ったはいいが、他になんて声を掛ければいいのかわからなかった。
 「だから剣でなら戦えるって言ったじゃないか……」
 『ガンダールヴ』による肉体強化のことは置いといてである。
 「俺はこの世界に居るうちはちゃんと使い魔となりお前を守るつもりだ。
  だからルイズは俺が元の世界に戻れるように、努力をしてくれ」

 「わ、わかったわ。私は精一杯あんたのご主人様になるわ。決して後悔させないように!」

 少女の決意が伝わったのか、士郎はふと微笑む。それを見たルイズは顔を真っ赤にする。

 「ひとついいか?使い魔とかご主人様ってなんかピンと来ないんだ。他の呼び名にしていいかな?」
 「ルイズ、シロウって呼び合うって事?」
 「いや、普段はそれでいいけど、そっちじゃなくて“使い魔”と“ご主人様”の名称を変えたい」

 「なんて変えたいのよ!」
 なんかこれを認めるとますますご主人様との威厳が損なわれることに危惧して、ルイズは声が荒くなる。

 「“サーヴァント”と“マスター”ってどうかな?」
 「う、なかなかカッコいいじゃない。」
 翻訳機能はうまく働いているようだと士郎は思った。
 「いいわ。それで」
 士郎は「ん~」と少々考えた後、ケジメだからと真面目な顔をしてルイズに向き直る。

 ルイズがきょとんとした顔で士郎の顔を見つめた。見詰め合う二人。
 士郎は在りし日の騎士王を思い出して言葉を紡いだ。



 「サーヴァント・衛宮士郎。
  ──これより我が剣は貴女と共にあり、貴女の運命は我と共にある。
  ──ここに、契約は完了した」


705:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/24 21:29:28 iI3apZUF
>(意外と間接部分の装甲が薄い)
肘膝の「かんせつ」は「関節」

706:シロウが使い魔
11/01/24 21:32:23 2ebl2vKy
ここまでが第3章です。

自分のイメージ的には、ここで「THIS ILLUSION」が流れます。
4章は体が回復してから書こうと思ってます。

では次章で。

707:シロウが使い魔
11/01/24 21:33:13 2ebl2vKy
ああ、間接。ありがとう。直しておきます。^^

708:シロウが使い魔
11/01/26 22:40:41 hnYGfIY8
なんか医者に行ったらインフルエンザとわかりました。

タミフル飲んで今から第4章うpします。

709:シロウが使い魔
11/01/26 22:42:26 hnYGfIY8
第4章

 「く、くふふふふふふふ」
 妙な笑い声を出しながらルイズはもだえていた。
 自室のベッドの上で、枕を抱きしめて顔をうずめながら足をバタバタしながら
 笑いを押し殺していた。

 それは、先ほどのことである。

─回想─

  「サーヴァント・衛宮士郎。
  ──これより我が剣は貴女と共にあり、貴女の運命は我と共にある。
  ──ここに、契約は完了した」

 一瞬、呼吸を忘れるくらいにルイズは己が使い魔に見とれてしまった。
 周囲の景色も、時間も、全てが消え去った瞬間……

 < ぐぅぅぅぅうぅぅぅぅぅ >

 台無しである。いくら昼食をまだ摂ってないにしてもである。

 士郎は自分の失態を顔色に顕著に表していた。火竜山脈の万年マグマと比べても
 なんら遜色ないくらいに真っ赤になっていた。

 「…………!」
 ルイズは吹き出すのをこらえる事に精一杯だった。何とか呼吸を整えて

 「遅いけど昼食にしましょ。私の部屋へ運んできて」
 と声を掛けてそのまま部屋に戻ってきたのだった。

─回想終了─

 今もルイズの顔色は真っ赤である。先ほどの名乗り。
 実はそれだけでもルイズは、悶えるには十分だったのだ。
 (私、何を使い魔にこんな気持ちになっているんだろう……)
 そして、名乗りの直後のお腹の音も思い出し、今度は笑い悶える。
 実は士郎のお腹の音に隠れて、ルイズもお腹を鳴らしていたのだが、それを士郎が知ることは無かった。


710:シロウが使い魔
11/01/26 22:43:17 hnYGfIY8
───────────────

 お腹の音を聞かれて、逃げるように部屋へ戻ったルイズに取り残され、
 しばらく士郎は立ち尽くしていた。
 気を取り直して、厨房へ食事を調達しに向かう。

 「…………」
 ルイズとは、しばらく恥ずかしくて口も利けないだろう。

 厨房に入ると、なにか大きな物体がもの凄い勢いで衝突してきた。
 「シロウさん! 無事だったんですか?!!」
 シエスタだ。先ほど別れてから、ずっと泣いていたような顔である。
 「わだじ! わだじ! じゅっどジロヴざんのごど、じんばいじで……」
 言葉にならなくなってきている。

 周りのメイドに訊いたところ、
  シエスタがトラブルに巻き込まれたようだと聞いて、見に行こうとしたところ
  泣きながらシエスタが帰ってきた。
  訳をきいても、「シロウさんが……、シロウさんが……」 としか言わない。
  決闘騒ぎがあったとひとりの学院の教師が教えてくれた。
  そして今度はギーシュと名乗る生徒が厨房のシエスタを尋ねてきた。
  シエスタは視線で呪い殺してやるというくらいに、ギーシュを睨みつけた。
  「さきほどはすまない。あれは全面的に自分の非であった」
  と、ギーシュが謝っても、けしてシエスタは睨むのをやめなかった。
 そして士郎が登場したというわけである。

 (そうか、ギーシュは早速謝罪したのか)と、ギーシュの潔さを認めようかとも思った。
 「ジロヴざ~~~~ん!!!」
 泣きついて離れないシエスタを周りの助けも借りて引き剥がして、料理長に賄いを2人分頼む。

 なにがあったかはどうせ明日には噂でわかるだろうと思い、詳しい説明はしないでおいた。

───────────────


711:シロウが使い魔
11/01/26 22:45:10 hnYGfIY8

 <コンコン>
 ルイズの部屋の扉がノックされる。
 「開いているわ」

 士郎が食事を二人分運んできた。
 「……!、じゃあ早速食べましょ」
 笑いを堪えつつ、食事を始めるルイズ。同じく食事を始める士郎。

 「なにこのシチュー!! 凄く美味しい!!」
 士郎が持ってきたシチューの皿と、粗末な麦で作ったパン。これが今まで食べた料理の中で
 一番旨く感じたルイズ。
 「なに? 厨房の平民たちって自分たちだけでこんな美味しい料理を独り占めしているの?」

 さすがにそのようなことを言われていると反論せざるをえない。恥ずかしさを忘れて口を開く。
 「違うよ。それはルイズがこれをはじめて食べるからだろう。
  あと昼間、掃除で働いたって理由もあるはずだ」
 「どういうこと?」

 「普段から働いて体を動かしている人間は、体が塩分の濃いものを欲しがるようにできてる。
  このシチューだって、普段体を動かしていない人間には、濃すぎる味付けだと思う」
 ルイズは神妙に話を聞く。
 「厨房の賄いは余り物を食材として作られるんだ。だから大体シチューになる。
  なんでも煮込めばいいんだからな。
  料理長の腕は抜群だろうけど、それは自由に食材を使えるときにこそ発揮されるはずだよ」

 それほど多くこの学院で食事をしたわけではない士郎だが、大体見当を付けて話していた。

 「ふ~~ん、そうなの……」
 相槌を打ちつつ、またそのうちに賄い料理を食べさせてもらおうと企むルイズだった。


 <コンコン>

 扉がノックされる。ルイズが入室を促す。

 「ミス・ヴァリエールとシロウさん、
  ミスタ・コルベールがお呼びらしくてお部屋の方に来るようにと……」
 言伝を持ってきたのは顔を真っ赤にしたシエスタだった。

 「わかったわ。あ、丁度良かった。食器をついでに片付けてもらえる?」
 シエスタは、士郎に何かを言いたげな視線を向けていたが、
 「はい、わかりました。では、失礼致します」
 と告げ、そのまま戻っていってしまった。

 「なにかしら?ミスタ・コルベールの用件って……」

 ………


712:シロウが使い魔
11/01/26 22:47:08 hnYGfIY8

 「シロウのルーンが始祖ブリミルの使い魔のルーンですって!?」
 「声が大きい!ミス・ヴァリエール」
 始祖ブリミルとは、ぶっちゃけ世界の創始者みたいな扱いの偉人である。
 「それだと、ルイズはそのブリミルって人と同じ属性って事ですか?」
 ルイズの魔法を気にしていた士郎がコルベールに尋ねる。
 「それはわからない。まぁ否定する根拠も乏しいが。なにせ≪伝説≫だからね」
 属性がわかるかもと一瞬思ったルイズだが、これに少し肩を落とす。

 「がっかりさせるようだが、例えばだ。
  シロウ君が『ガンダールヴ』としてこの世界に呼ばれる。
  そして『虚無』の使い手となる人物がこの世界に現れる。シロウ君は忠誠心をもって
  その『虚無』の使い手に仕える。 ということにならないとは言い切れない」
 用は、『サモン・サーヴァント』『コントラクト・サーヴァント」に付随している忠誠効果が
 ルイズの召喚の場合あらわれなかったことを問題視しているのだ。

 「だが、単純にミス・ヴァリエールが《虚無》という可能性ももちろんある。畏れ多いが。
  ミス・ヴァリエールの魔法の失敗による爆発は、
  なんらか《虚無》と関連付いているからというふうに見る方法も無くも無いような気がないでも……」
 ルイズはコルベールを睨む。遠回りに否定したがっていることがありありとしているからだ。

 「じゃあ俺が『ガンダールヴ』とか言うものだとしたら、調べる書物は始祖ブリミル関連を
  中心に漁ればいいんですね?」
 「そういうことになるな」
 「意外と帰る方法を見つけるのも早く済むかもしれない」
 士郎はまだ見ぬ帰還方法を期待してテンションがあがった。

 それと反対にルイズは意気消沈。でも、士郎の前ではその素振りを隠すのだった。

 このあと、コルベールは一連の会話を誰にも言わないように釘を刺す。
 この事を知っているのはコルベールと学院長のオールド・オスマン、ルイズと士郎の4人だけ。
 下手に『ガンダールヴ』の事が世間に知られると、軍が黙っていないと思われるからだ。

 士郎がやった“強化”の魔術だが、この世界において該当するのは『硬化』らしいこともわかった。

 ………



713:シロウが使い魔
11/01/26 22:48:24 hnYGfIY8

 翌朝

 士郎はシエスタの猛アタックを受けることになった。
 といっても、洗濯のことである。
 「さあシロウさん、まずはこれに着替えてください!」
 と、男性物の簡素な服を上下分手渡される。

 「ではシロウさんの服も一緒に洗っちゃいましょう!」
 たくさんの洗濯物が山積みの桶とは別に、水を張った桶が合った。
 そこへシエスタは袋に入った灰を入れて、溶かし始める。
 「物(繊維)によっては生地を傷めるので、気をつけてくださいね」
 洗濯物を灰の水に沈めていくシエスタ。ある程度の洗濯物を浸けると足で踏みつけ始める。
 「まんべんなく染み込ませたら、今度は同じように水洗いしてください」
 桶から灰汁を捨てると、代わりに水を入れる。そしてまた踏む。
 水が汚れるとそれを捨てて、新しい水を入れる。これの繰り返しである。
 「水が濁らなくなるまで、きちんと繰り返してくださいね」
 
 士郎は教わったとおりに洗濯の作業をする。小一時間もするとたくさんあった洗濯物は
 残りわずかとなる。
 「こっちの洗濯物は作りが細かいものとかなので、足で踏むやり方はできないんです」
 女生徒の下着だろうか。そちらは手もみ洗いで作業している。
 「こっちは私が洗濯するので、シロウさんは洗濯物を干す作業してもらえますか?」

 学院の一角に干し場があり、洗濯ばさみで乾かしていく士郎。
 自分の服が乾くのはまだだろうから、今日は一日シエスタに渡されたこの服で過ごす事になるだろう。

 ………

 ルイズを普通に起こす士郎。朝食を摂った後、教室へ。
 授業中、何もしないで居るということに居心地の悪さを感じた士郎は、ルイズに筆記用具を用意してもらう。
 自分なりにこの世界の魔法の勉強をしつつ、文字も勉強しようと努力する。

 士郎の書く文字に興味を示したのが他の生徒たちだった。
 「なにこの文字?」「ロバ・アル・カリイエの字?」「僕の名前書いてみてもらえるかな?」
 休憩時間に入ると、ちょっとした騒ぎに。
 士郎がそれぞれのノートに適当に当て字をした漢字で名前を書いてやる。
 昨日の騒ぎで、士郎に対して微妙な空気があったが、これによりちょっとした人気者になる。

 そして授業が終わり昼食。
 昼食が終わるとデザートの時間。

 ギーシュが士郎に声を掛けてきた。
 「君、ちょっといいかな?」
 士郎はギーシュに付き従う。


714:シロウが使い魔
11/01/26 22:50:36 hnYGfIY8

 人気の無いとこに来たとたんに
 「君には本当~にすまないことをしたッ!!」
 ギーシュが謝罪をする。彼が言うには、昨日のシエスタへの暴言は引っ込みがつかなくなったものであり、
 その場で割り込んできた士郎にこれ幸いと八つ当たりをしたものであったらしい。
 平民に対して弱気な態度を見せられないという貴族の体質は根深いものでありそうだ。
 
 「あと、君が取り出した剣ってあれは『錬金』によるものだろう?」
 と、突然衝いてきた。
 「え?なんのことだ?」
 「この青銅ギーシュの目をごまかす事はできないよ。最初の君は寸鉄帯びていなかったのは明白さ。
  あと戦闘終了と同時に君の武器は掻き消えたしね。という事は、君はメイジなんだね!?」

 ギーシュの口封じをするわけにもいかない士郎はどうしたものかと一瞬悩む。

 「あぁ、メイジという事はもちろん誰にも言わないよ。ただ一つだけお願いがあるんだ」
 先にギーシュが口を開く。
 「君の『錬金』した武器。あれが非常に気に入ってしまったんだ。自分でも『錬金』できるように
  なりたいから、ぜひそのやり方を指南してくれないかな?」
 片刃の剣のデザインが気に入ったらしい。その位ならそれほど大変なことでもなさそうなので了承する。
 「俺がメイジとかなんとかって噂が立ったらお前のとこを襲いに行くから気をつけとけよ」
 と、脅しを入れるのはもちろん忘れない。

 ………

 午後、ティータイムの終わったルイズは図書館へ向かう。
 始祖ブリミル関連の書物を漁りにいくのだ。6000年も歴史があると、それは膨大すぎる蔵書量となる。
 ルイズは『レビテーション』など使えないため、とりあえずは手の届く高さの書物に限られるが、
 それでも数日で目を通すことなどは不可能であった。地道な作業となる。

 士郎は書物は読めないが、同じく図書室で文字の勉強をする。
 ちなみにコルベールにも『フェニアのライブラリー』でブリミル関連の書物を調べてもらう。

 主に探す資料は、“ガンダールヴ”“始祖の使い魔”“虚無の呪文”“異世界”の4つである。
 これらの目ぼしい記述が見つかった場合、ノートに書き写し、それを後ほど報告するというものである。

 夜になり、コルベールの部屋で報告会を行い、それでその日は終了である。

 ルイズを部屋まで送り届けるときに、ルイズが言った。
 「明日は虚無の曜日だから、街に出るわ。前に言った買い物とかするからね」
 (そんなみすぼらしい格好なんて私の使い魔にさせてられないわ)
 ルイズは今日一日士郎が着ていた服が気に入らなかったらしい。

 「それじゃシロウ、おやすみ」
 「ああ、おやすみ。ルイズ」

 士郎の異世界3日目が終了する。

715:シロウが使い魔
11/01/26 22:53:01 hnYGfIY8
以上。次は街描写するです

716:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/27 17:19:57 w7PBU+5m
違和感無く面白いな

717:シロウが使い魔
11/01/30 01:24:08 +kO9/ycR
タミフルは残り1日分。

第5章完成したんですが、なんか今までと毛色が違った気がして
うpしていいのかどうか悩んでます

だから評判悪いようだったら書き直すつもりです。
明日うpします

718:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/30 02:42:59 njZlQuLA
む。執筆乙。
期待しているよ。

自分もそろそろ続き書かないとなあ…。

719:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/30 06:07:15 4f5kEgui
十分面白いから体に気をつけて投下してくれ

720:シロウが使い魔
11/01/30 09:42:08 +kO9/ycR
ほめてもらってうれしいです>オール

では、うpします

721:シロウが使い魔
11/01/30 09:43:01 +kO9/ycR
第5章

 「馬にも乗ったことが無いなんて。異世界のメイジも大したこと無いのね」
 珍しく主人(あるじ)として自慢ができることを見つけたルイズは、
 上機嫌に士郎にたいして口撃をしていた。
 (う~痛てて。ちくしょ~。戻ったらギーシュあたりに自転車を『錬金』させてやる)
 乗りなれていない馬に長時間乗ったことで、少々腰を痛めた士郎である。

 「まずは、服を買うわよ」
 貴族御用達の店へと入るルイズと士郎。店員に士郎のサイズを測らせると、色々注文を出していく。
 店では士郎が口を一言も開かないまま買い物は終了した。上流階級恐るべし。

 次は士郎の要望で一般の衣料品店に行くことになった。
 まずは出来合いの平民の服などを士郎の好みで買う。
 次に羊毛に見える繊維を中綿にした布団を2組注文する。片方は綿をかなり硬めに。もう片方は柔らかめに。
 「なに?ベッド用のマットなら、貴族向けの店で注文した方が、ぐっすり寝れるわよ」
 ルイズは言うが、士郎はやんわり断る。シーツなど他にも数点の布を買い込む。
 お金はエンジンの設計図の代わりに貰ったお金でまかなう事ができた。

 丁度お昼時になったので、休憩する。
 カッフェなる店が流行っているらしく、そこで昼食を摂る。

 驚くことにそこでは緑茶と瓜二つの“お茶”が出されていた。カッフェなのにお茶?とは思う士郎だが、
 そこは翻訳上、瑣末なことであろう。

 昼食後、嗜好品の店を訪れお茶を買い入れておくことを忘れない士郎。
 今現在、この国にはコーヒーは存在していないようだ。まぁいいけど。

 ルイズが秘薬の店に行きたいというのでもちろんお供をする。
 そこで何らかの秘薬を買い入れたようだが、士郎にはどんなものかは全然わからなかった。

 これまでの買い物は全て学院に配送してもらうように手を売ってもらう。
 街には、運送を一手に引き受ける配送業もあり、学院でも良く使っているとルイズに教えてもらった。


722:シロウが使い魔
11/01/30 09:43:46 +kO9/ycR

 最後に向かうところは、街でもあまりきれいとはいえない場所にある武器屋だった。

 ルイズが店の扉をくぐると、店の主と思われる男が胡散臭げに視線を投げかける。
 相手の格好を見て貴族だと気づくと
 「貴族のお嬢様。うちはまっとうな商売してまさあ。お上に目を付けられるようなことなんか、
  これっぽっちもありませんぜ」
 とにかく謙(へりくだ)った態度に出る。
 「客よ」 ルイズは腕を組んで言った。
 「こりゃおったまげた。貴族が剣を! おったまげた!」

 ルイズは黙って、懐から一振りの短剣を店主の目の前に置く。
 「この剣に見合う鞘が欲しいの」
 それは士郎が投影したアゾット剣だった。
 「こりゃなかなかの名品で……。鞘はどのようなものが?金・銀・鉄・革。なんでも作れやすが」
 あつらえになると店主。

 「護身用に肌身離さず身に付けたいから革の方がいいわ。出来合いの革の鞘って無いの?」
 なんだ、一番安値の物か。と店主は不満に思ったが儲かる分、文句は決して言わない。
 「へぇ、そちらの剣(アゾット剣)と同じ大きさの短剣ごと鞘を買っていただければいいかと。
  もちろん不要な短剣は下取りさせていただきまさぁ」

 ルイズは適当な短剣(の鞘)を選び、店主に値段を聞く。短剣の下取り分安くなった値段を提示する店主。
 「それでいいわ。それはこのまま貰っていくから。……シロウ?」

 士郎は店の片隅で独り言をなにやら呟いているようだ。
 「どうしたのよ、シロウ」

 「こら!デル公。またてめ~はお客様に余計なちょっかい出してやがんな!!」
 声を張り上げる店主。それに答えるように士郎のそばから声が聞こえた。
 「うるせい! へぼ店主!! 俺様はこの小僧っこに武器のイロハを教えてやっているとこでぇ」

 「それって、インテリジェンスソード?」
 「そうでさ、若奥様。意思を持つ魔剣、インテリジェンスソードでさ。こいつは口はやたら口が悪いわ、
  客に喧嘩を売るわで閉口してまして……」

 ふと士郎がその魔剣を持ち上げると、五月蝿かった剣が暫し黙り込む。そして、
 「おでれーた。てめ、『使い手』なんか。……、俺を買え」と突然自分を売り込む。

 既に『ガンダールヴ』のことを知っている士郎とルイズは目配せをしあう。
 「あの剣はお幾ら?」
 「あれなら、百で結構でさ」
 「じゃあ買うわ。シロウ、他に買う物ある?」

 店内の武具を一通り見たが、他に目ぼしいものは無かった。弓も数点あったがたいしたものではない。

 こんな感じで、士郎の街でのはじめての買い物は終わった。

 帰りはまた馬に乗るのかと士郎は少しげんなりした。

 ………


723:シロウが使い魔
11/01/30 09:44:36 +kO9/ycR

 学院に着いたは夕方ぐらいとなった。

 ルイズの部屋。
 「シロウはこのインテリジェンスソードも『錬金』できるの?」
 「俺っちはデルフリンガー様だ。まぁデルフって呼んでくれ」
 「俺のは『錬金』じゃなくて、投影魔術な。いや、コイツをはじめて見たときから解析できないから
  何かなと思って近寄ったら、コイツが話しかけてきたんだ」
 「コイツじゃなくてデルフな」
 「“剣”属性のメイジでもインテリジェンスソードは別扱いなのね」「…デルフな」
 「コイツみたいなのが投影できることになったら、俺の固有結界内に一人でグチグチしゃべる剣が
  いることになるからなぁ。かえって助かったよ」「…デルフ…」

 「なによ、そのコユウケッカイって」
 「ん~、簡単に言うと精神内の世界が現実に影響を及ぼす現象かな?
  俺が剣の投影をできるのは、その固有結界を体現する能力の一部というか……」
 「……ますますわかんないわよ」

 デルフはいつの間にか拗ねて黙ってしまった。

 「なあ、ルイズ。君の魔法について、ひとつ提案があるんだ」
 真面目な顔で士郎が話す。ルイズは「何?」と訊く。
 「失敗で終わるかもしれないけど、魔法訓練やってみないか?俺流なんだけど……」
 「やるわ!」 ルイズ即答。
 「そりゃ俺みたいな半人前に提案されても……って、即答かよ!?」
 「私は魔法が使える用になるなら何でもするわ! シロウ、でいつやるの?今やりましょう」

 腕をまくり、杖を構えるルイズ。
 「い、いや、ここじゃさすがにまずいよ。広い場所に移らないと。あと道具も必要だし」
 「道具?」
 「コルベール先生の部屋に一冊の呪文書があるんだ。俺には、読めないんだけどね」

 ………

 既に日は落ちて、空から2つの月が明かりを照らす。場所は召喚の儀式を行った場所である。

 ルイズの手元には一冊の呪文書。といっても、唱えても魔法が発動する呪文が載っているのではなく、
 ルーンを分解した辞書を士郎は用意したのだった。

 「ルイズは魔法を失敗すると必ず爆発が伴うんだよな?
  それなら逆にアプローチしてみたら、どうかなと思った」
 「逆?」
 「爆発する魔法を探す。 しかも失敗の魔法ではなく、意図的に爆発を起こす魔法をだ」

 呪文一つで爆発(失敗)が導き出されるのなら、同じように爆発(成功)もあるのではないかと
 士郎は考えたのだった。

 「でも、属性の魔法では『爆発』なんて聞いたことがないってコルベール先生は言ってた。
  じゃあ探すしかないなと。丁度いい呪文書もコルベール先生が持っていたし」
 「うん、理屈はわかったわ。 ……つまり、スペルの組み合わせを探し続ければいいのね?」
 「成功する保証は何も無いよ。草原の中の針を探すようなものだから。それでもやるかい?」
 「もちろんやるわ。 いえ、やらないといけないの。 私が誇りを持って貴族を名乗るには……」

 ………


724:シロウが使い魔
11/01/30 09:45:49 +kO9/ycR

 「風属性で使われる『ウィンデ』とか水属性の『ウォータル』とかは、
  言葉(ワード)としては対象外よね?」
 「そうだなぁ。今やりたいのは、一番単純な爆発呪文探しだから、多分いらないと思う」
 「じゃあまず『イル』を最初にしてみるわ。残りは(スペルを)何にしたらいいかしら?」

 「爆発。破裂。炸裂。爆ぜる。弾ける。割れる。壊れる。……ん~、こんな感じの言葉かなぁ」
 「シロウ同じ言葉が混じっているわよ。それにしてもシロウは古代語まで使えるの?」
 どうやら、翻訳機能でまったく同じ言葉になったり古代語になったりしているようだ。

 「じゃあ最初は『イル・プロージョン』で試してみるわ」
 士郎の言葉から『プロージョン』と言う古代語を抜き出して呪文を組み立てたルイズ。

 杖を構え『イル・プロージョン』と唱え、前方の空間に向かい杖を振り下ろす!
 
 <どごんっ!!!>

 爆発(魔法)発動。問題はこれが成功魔法か、失敗魔法かなのだが……

 「駄目、失敗みたい」
 「そうか……、用はこれを繰り返すんだけど、本当にこれは大変な作業になるんだけど……」
 士郎は再度、ルイズにこの地道な作業を行うか尋ねようとしたが、
 既に次の呪文に挑戦し始めるルイズだった。

 「イル・プロージョン・デル」

 <ぱぁぁぁんっ!!!!>

 ルイズが杖を振り下ろした瞬間、甲高い音が目の前の空間で炸裂する!
 それは極限まで圧縮された空気が一気に開放されたような、タイヤがパンクした音のような、
 巨大な風船が割れた時の音のような、そんな音だった。

 あまりの音に驚いたのか、ルイズは直立したまま気を失い倒れてしまった。

 ………

 「ルイズ?大丈夫か?」
 ルイズを部屋へと運んだ士郎。洗面器に水とタオルを用意して、濡れタオルで頭を冷やしてやる。
 「…………ん、……シ、シロウ」
 「どうした?ルイズ。やっぱりこの訓練は無茶だったかもしれない。他の方法を……」
 ここで飛び起き士郎に抱きつくルイズ。
 「シロウ!! 成功したの!! 生まれて初めて魔法に成功したの!!」

 「成功って、さっきの爆発は魔法に成功して爆発したのか?」
 「そう!そうなのよ! 先生やお母さま、お姉さまが言ってたわ。得意な系統の呪文を唱えると、
  体の中に何かがうまれて、それが体の中を循環する感じがするって!!そんな感じなの!
  今、私の中に魔法のリズムがうまれたのよ!!」
 しっかと士郎に抱きついて涙を流すルイズ。

 「これで……、これで……、もうゼロのルイズなんて呼ばれないですむ。お姉さまの役にだって
  立てるし、お母さまを落胆させることも無くなって、やっと本物の貴族だって胸を張って言えるわ……」
 「そうか、よかったな。ルイズ」
 「あ……、ありがとう、シロウ。私…、貴方のおかげで。…これからは全力で貴方の望みをかなえるわ」

 魔法の訓練を提案してから1時間も経たずに、このような急展開を見せることになるとは
 士郎自身も思ってなかった。
 「とりあえず、コルベール先生にも報告しよう」
 「そうね!」
 晴れ晴れとした顔でうなずくルイズ。 魔法が成功したことを教師に報告できる喜びにあふれている。


725:シロウが使い魔
11/01/30 09:46:51 +kO9/ycR

 ………

 「驚いた。ミス・ヴァリエールが本当に魔法を使えるようになるとは!」
 コルベールの部屋で実際にルイズが魔法を唱えたときの反応である。
 「で、これはいったいどのような魔法なのかね?」

 「魔法のキーワードが“プロージョン”なので『破裂魔法』って感じですかね?
  現実は猫だましみたいなものですけど」
 「「猫だまし?」」 ルイズとコルベールに意味は通らなかったみたいだ。

 <パぁーーン!>
 いきなりコルベールの目の前で両の手を叩く士郎。 目を白黒させるコルベール。
 「今の、俺の世界では猫だましって言う技なんですよ。格闘技の。」

 「おぉぉ、びっくりした。 ほほう、なるほど。たしかにその『猫だまし』にそっくりだね。
  ミス・ヴァリエールの唱えた魔法は。
  では魔法の方も、『猫だまし』という名前で良いのではないかね?」
 「「 え? 」」 ルイズと士郎が驚く。

 「いや、これからもミス・ヴァリエールの魔法を探索というか、開発していくなら、名前も必要だろう。
  見つけた魔法はミス・ヴァリエールの専用魔法として、どこかに記録していくといい」
 「ああ、そっか。ルイズの魔法道は今始まったようなものなんだよな」

 ルイズ、感激にウルっときたが、『猫だまし』は無いだろうと正直思ったりもしていた。

 「ところでミス・ヴァリエール。その、君には申し訳ないんだが、魔法が使えるようになったことも
  しばらく周囲には黙ってもらえないだろうか」
 「なぜですか!? ミスタ・コルベール」
 「それは君が『虚無』の可能性が高まってきたからだ」
 以前あれだけ否定したがっていた『虚無』を、この段階になって肯定する理由を二人は知りたがった。

 「古い文献を探している間に始祖ブリミル自身の魔法に、いくつかの記述が見つかった。
  一つは幻覚タイプといえるもの。次に門を開くなどの移動系。
  最後に、これを一番多用していたようだが爆発系の魔法だ。
  ミス・ヴァリエールの先ほどの魔法とは違って、かなりの規模の爆発のようだがね」

 「 ! 」ルイズはついに自分の系統というものにたどり着いたのである。


726:シロウが使い魔
11/01/30 09:49:15 +kO9/ycR

 「で、でも、それじゃあ私は、魔法の、『虚無』の修行を行えないんですか!?」
 「いや、人のいないところでの修行ならかまわない。ただし、人に悟られないようにすることが前提だ」
 「音も駄目ってことですね。ミスタ・コルベール」
 「……そうだ」

 『猫だまし』しかわかっていない現状では、修行には音が発生してしまう。
 サイレントを誰かに掛けてもらう以外に、学院内での修行は厳しいだろう。

 「……わかりました。それでも何とか修行する方法は探してみせます。
  だめなら、学院から離れて修行するって手もあります」
 「そのあたりは、君たち二人でなんとか頑張ってくれたまえ。
  私は明日からブリミルの呪文に絞って、調べを掛けようと思う」

 この日はこれでお開きとなる。かなり夜も遅くなってしまった。

 「シロウ。私、立派な貴族になれると思う?」
 士郎が部屋まで送り届ける帰り道。
 「大丈夫! 俺はブリミルって人のことは知らないけど、ルイズの努力次第だよ」

 「ふふ、あんまり応援の言葉になってないわよ」

 今夜も2つの月が二人の歩く先を明るく照らしていた。


727:シロウが使い魔
11/01/30 09:56:42 +kO9/ycR
以上です。

書いていてかなーりご都合主義してます。
皆さんが「イル・プロージョン・デル」と唱えても魔法発動はされません。

あと、閑話とかフラグ回収話とかも書こうかなぁと思ってます。
(士郎が日本刀を見せてもらった話や買い物で届いたものの話)

「おいおい、今回はちょっと話し無理すぎる」みたいな反応多いようでしたら
この章書き直しますね。

ではまた。 ビバジャパン

728:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/30 10:33:25 4f5kEgui
面白かった投下乙

729:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/30 22:09:55 /aFpTj4W
ガンダールヴと無限剣製の相性のよさは凄いな。この時点でアーチャーより強いんじゃね

730:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/30 22:12:32 /aFpTj4W
ミスった。すまない

731:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/31 02:31:12 9I6CaxLd
キュルケとタバサがいないのが気になった

732:シロウが使い魔
11/01/31 23:16:57 pxkS3CVD
キュルケはこれから徐々に士郎にアタックさせる予定です。
原作の『見』状態のキュルケです。

キュルケが動かないとタバサも動けないし^^;

733:名無しさん@お腹いっぱい。
11/01/31 23:28:10 kh5fTnx0
各種二次創作で士郎(エミヤ)は麻帆良や海鳴にはやたら召喚されますがハルケギニアに、て話は意外に無いんで喜ばしいです。
シエスタの先祖はやっぱ型月キャラなんだろうか?

734:名無しさん@お腹いっぱい。
11/02/01 02:23:35 NIAOGSMz
応援してるよ、久々の作者さんだし期待もしてる

735:名無しさん@お腹いっぱい。
11/02/01 11:51:05 mLEYvHvq
とても懐かしい香り
2~3年ぐらい遅れてやってきた感じ

736:名無しさん@お腹いっぱい。
11/02/01 13:28:21 JHVSy7rN
まとめ方わかんねぇ・・・・・・

737:名無しさん@お腹いっぱい。
11/02/02 14:12:54 uRXlB106
wikiの上にあるメニューバーを使う

・『メニュー』→『新規作成』→「ページ名」を入れて新規作成ボタンを押す
 →内容をコピペして、保存用の半角キーワードを画像の通りに入力→保存・新規作成ボタン


編集したいとき、新規ページへのリンクを載せたい
・編集ページを開く→メニューバーの『編集』→『このページを編集』
 →上と同様に操作し、内容を変更。半角で[[■■]] (■■はページ名)と書くとリンクができる。
  [[■■>URL・ページ名]] (■■は任意の文字列)でもいい。

738:シロウが使い魔
11/02/02 23:50:05 ic7S05JD
では、第6章うpしますね。

739:シロウが使い魔
11/02/02 23:50:56 ic7S05JD
第6章 微熱

 先日の買い物で着替えだけは先に持ち帰っていたので、本日より朝の日課が行える。
 まずは柔軟。腹筋運動をして、素振りを100本。 聖杯戦争以前には無かった素振りを日課に
 くわえたのは、少しでも“あいつ”を超えるためである。

 昨日拾ってきた素振り用の2本の棒を置いて、汗を吸った服を脱ぐ。
 固く絞ったタオルで体をぬぐい、新しい服を身に付ける。

 ルイズの洗濯物と一緒にこれを洗って、朝のお仕事はルイズを起こすだけとなる。
 洗面用の水桶を持ってルイズの部屋へ行こう。

 ………

 授業中、今日もハルケギニアの文字を学習していると、意外にもマリコルヌがあれこれと教えてくれる。
 貴族特有の“上から目線”なのだが、士郎の隣に座り、士郎が詰まるとすぐに反応する。
 意外に世話焼きな性格だったらしい。 これにはルイズも驚いていた。

 昨日の買い物を配送してきた荷馬車が昼ごろ着いた。受け取りはもちろん学院で働いている平民がする。
 午前中の授業が終わり、食堂に向かうとシエスタが荷物の到着を教えてくれた。

 昼食が済むとすぐにコルベールの部屋へ赴く。はたして、羊毛(のような繊維の)布団が届いていた。

 さっそく寝心地を確かめる。……マーベラス! 布団は場所もとらない日本人の知恵である。
 これからは天気の日は朝、外に干してから出かけることになるだろう。
 (後日:コルベールも同じような寝具を注文したらしい)

 午後、図書館に調べ物へ行く前にルイズが士郎を部屋へと呼ぶ。

 「ちょっとこれを着てみてくれない?」
 着替えてみると、学院の男子学生の制服だった。訳を尋ねると、
 「だって身分とか色々隠さなきゃいけないときや、秘密の任務とかあったら変装も必要でしょ?」
 と言われる。秘密の任務って何だ!? ルイズの思考は時々わからない。
 「ついでに髪の色も変えてみましょう。え~っと、金髪、黒髪、白髪、…そうね、今日は青い髪!」
 昨日の買い物の中に秘薬があったが、どうやら髪の色を変えるものだったらしい。
 士郎は結局、青い髪をした見慣れぬ男子学生という風体にされた。

 「あ、そうそう。合鍵も作っておいたから今日からそれを使ってね」

 さすがに学院の生徒用マントをむやみに身に付けるわけにはいかないので、それは脱いだのだが、
 髪の色はしばらく落ちないらしい。
 茶髪の薬を使えば表面上元に戻るが、面白がったルイズはそのままにしろと言った。

 ………

 「シロウ、なんだね? その髪の色は」 図書館へ行く途中、ギーシュにつかまった。
 「俺に訊くな。ルイズに訊け」 なげやりになる。
 「ちょっと街で秘薬を見つけて、思わず懐かしくて買っちゃったの」
 「無駄遣いして。 これだから貴族は……」 士郎は愚痴る。
 「心外だな。貴族の全てが無駄遣いするわけじゃあないぞ。
  ……でも髪の色を変えるのも楽しそうだなぁ。モンモランシーに頼み込んで作ってもらおう」

 次の日から学院で髪の色を変えることが流行ったりする。

 ………


740:シロウが使い魔
11/02/02 23:52:03 ic7S05JD

 深夜、

 「――投影、開始(トレース・オン)」

 コルベールの小屋を出て草地の上、結跏趺坐の状態で修行を行う。

  創造の理念を鑑定し、基本となる骨子を想定し、構成された材質を複製し、製作に及ぶ技術を模倣し、
  成長に至る経験に共感し、蓄積された年月を再現する。
 これが衛宮士郎の投影魔術における工程である。

 頭に思い浮かべるのは、“あいつ”の愛用していた一組の夫婦剣。
 誇れるものが何もない英霊だったからこそ、己が努力のみで掴み取った極み。
 衛宮士郎は奴を越えていかねばならない。

 「――憑依経験、共感終了」

 投影する手前で工程を止める。投影せずともわかる。未だ、奴の投影したものには遠く及ばない。
 だが錬鉄の英霊という目標は、自分をいずれあの高みに連れて行くだろう。
 その高みを越えられるか……、“あいつ”は俺に常に問いかけている気がした。

 「ん?」 ふと視線を感じた気がする。

 視線を上げると、本塔の上だろうか。人影が見えたようだ。
 こんな時間に誰だろうと思うが、この世界の魔法使いは深夜の散歩を嗜む者もいるのかもしれないと思い、
 特に気にしないことにした。 小屋へと戻る士郎。

───────────────

 コルベールの小屋の前で不思議な座り方をしている少年に、ふと興味を惹かれてしまった。

 ちょっと見ていただけだが、逆に感づかれるとはこの『土くれのフーケ』様らしくない失敗だ。
 あわてて隠れたが、向こうの反応からこちらに気づいたのは明白だった。
 まぁ、顔を見られたわけじゃないし、相手も気にしていないようなので一安心である。

 明日の晩も、あの少年があそこに居るようなら少々時間を変えて下見をせねばなるまい……

───────────────

 ………


741:シロウが使い魔
11/02/02 23:54:40 ic7S05JD
 本日も授業を受けるルイズと士郎。士郎は視線を感じたので、そちらを振り向く。
 キュルケのサラマンダーだった。 そういえば、もう召喚されてから7日目かと、しみじみ思う。
 幻獣種を見慣れるようになろうとは、召喚前の自分は思ってもみなかった。
 それにしても、あのサラマンダーはなぜこっちを見ているのか。ちょっと気になる。

 昼食時もサラマンダー(名前はフレイムだったか)がすぐそばでこちらを見つめていた。
 キュルケ自身や他の使い魔たちはこちらに興味を持っている風ではないので、ますます意味がわからない。
 「チチチチ」 手を出してみたが、炎を一つ吐いて主人の元へ歩き去った。

 図書室にこもり、コルベールの小屋での報告会の後、ルイズを部屋まで送った。


 そこで、キュルケの部屋のドアが突然開いた。
 現れたのはサラマンダーのフレイム。フレイムはちょこちょこと士郎のそばまでやってきて、
 「きゅるきゅる」
 人懐こい感じでないた。敵意は無いようである。

 士郎の上着の袖を咥えると、そのまま何処かへ引っ張っていこうとする。
 「おい、袖が伸びるよ」 困る士郎。そのまま引っ張られていく。

 フレイムはそのままキュルケの部屋へ。中は暗い。
 「扉を閉めて」
 キュルケの声がする。 内密な話だろうか? とりあえずそのまま言うとおりにする。

 「ようこそ、こちらにいらっしゃい」
 「ずいぶん暗いんだな」
 キュルケが指を弾くと、暗がりから一本一本蝋燭の火が灯っていく。

 ベッドに腰掛けた悩ましい感じのキュルケの姿が浮かび上がる。

 (ぽりぽり)士郎は困って耳の後ろを掻く。
 「そんなところに突っ立ってないで、いらっしゃいな」
 キュルケの横へ座れと促される。

 「用件を言ってくれないか?」
 「あら、野暮なお方。こんな状況なら、用件を言わずともわかってくれるでしょう?」
 士郎は初めて接するタイプの女性に思わず苦笑した。
 (俺の知り合いもバラエティーに富んでたけど、さすがにこの手の娘はいなかったなぁ)

 「あたしの二つ名は『微熱』。あたしはね、松明みたいに燃え上がりやすいの。だから、
  いきなりこんな風にお呼びだてしたりしてしまうの。わかってる。いけないことよ」
 「ええと……、俺のどこを好いてくれたのかな?」
 「あなたが、ギーシュを倒したときの姿……。かっこよかったわ。まるで伝説のイーヴァルディの
  勇者! あたし、それを見て痺れたのよ。そのときにあたしの中の情熱が燃え上がったの!」
 立ち上がり抱きついてくるキュルケ。
 「今日は青い髪なのね。赤い髪の方が素敵だけど、青も悪くないわ」

742:シロウが使い魔
11/02/02 23:55:46 ic7S05JD

 (う~む、どうしようか)と士郎が思案していると、

 「キュルケ! 待ち合わせの時間に君が来ないから来てみれば……」
 「ペリッソン! ええと、二時間後に」
 「話が違う!」

 三階の窓の外からハンサムボーイがキュルケに抗議をしている。
 キュルケは煩そうに、胸の谷間から魔法の杖を取り出すと、見もせずに窓の外へ向かい杖を振るう。
 蝋燭の火から、炎が大蛇のように伸び、窓ごと男を吹っ飛ばす。

 「まったく、無粋なフクロウね。 でね?聞いてる?」
 「約束は守った方がいいよ」 呆れて声も出ない士郎だったが、何とか一言言う。

 「そんな事言わないで。 新たな恋は何よりも優先させるのが、女としての……」(ゴンゴン)
 今度は窓枠が叩かれる。
 「キュルケ! その男は誰だ! 今夜は僕と過ごすんじゃなかったのか!」
 「スティックス! ええと、四時間後に」
 怒り狂いながら、スティックスと呼ばれた男は部屋に入ってこようとした。
 再度、煩そうに杖を振るうキュルケ。 炎と共に地面に落ちていくスティックス。

 このタイミングに合わせて士郎はこっそりドアから外に出て行った。
 「あら? ダーリン? どこに隠れたの?」
 部屋の中からキュルケの声がしたが、もちろんスルーしてコルベールの小屋へと戻った。

 (それにしても時間だけずらして、約束のキャンセルをしないのはある意味凄いな)
 妙なことに感心する士郎であった。

 この後、キュルケの部屋では新たに3人の男が登場したのだが、それは士郎には知る由もない。

 ………


743:シロウが使い魔
11/02/02 23:56:28 ic7S05JD

 「なぁ相棒。何で俺っちはこんな埃だらけの部屋の隅っこに置きっぱなしなんだ?」
 今夜も魔術の修行に出かけようと思ったら、デルフが訊いてきた。

 「何でといわれても、普段から刃物を持ち歩くわけに行かないだろ」
 「相棒は剣士だろ? いざというときに武器を持ってないと逆に困んだろ」
 「いや、いざというときには剣を出せるし……」
 「何だよ、それ。相棒は体ん中に剣でも埋まっているってのかよぉ~」
 「……似たようなもんだよ。しょうがない、一度お前には見せておくか」
 煩くされてもしょうがないので、デルフに剣製を見せておくことにした。

 「ほら、これが夫婦剣の片割れ。干将だ」
 「うぉい、どこから出したんだよ。あれか?メイジの錬金ってやつか?」
 「そんなもんだと思ってくれていい」

 「ちっ、それじゃあ俺のことは必要じゃねえのかよぉ」
 「……お前を持ち歩けば、(人前で)剣製せずにすむか……。
  明日の朝から、修行用に持ち歩くことにするから、おとなしくしてろよ」
 「おお、ありがてぇ。これで俺様も役立つことができるぜ」
 意外とさびしがりやだったようだ。

 (さて、今宵も剣製のイメージトレーニングをするか。
  ……ルイズの魔法修行にイメージトレーニングは使えないかな?)
 そんなことを考えながら、日課の魔術鍛錬をする士郎だった。

 ………

744:シロウが使い魔
11/02/02 23:57:12 ic7S05JD

 翌朝、朝の日課と洗濯を終わらせてルイズの部屋に向かうと、
 「ダぁ~リンっ!」
 キュルケがいきなり抱きついてきた。
 「もう、昨夜はいきなりどこに消えてしまったのよ」
 いきなりも何も普通に扉から帰っただけなのだが。黙ったまま。

 「え~っと、ルイズ起こしに行かないといけないから離れてくれないかな?」
 「もう、あんな小娘はほおっておけばいいのよ。食堂行きましょ?」
 「なぁ~にが、あんな小娘ですって?」
 珍しくルイズが既に起きてて、自分の部屋から出てきた。

 「あら、珍しいじゃない。おはようルイズ」
 「おはようじゃ無いわよ! シロウは私の使い魔なんだから、とっとと離れなさい!!」
 士郎からキュルケを引っぺがすルイズ。

 「もう、せっかくいいとこだったのに」
 「しっしっしっ」
 「あたしは犬じゃないの。まぁいいわ。また後でね、ダーリン」
 キュルケはフレイムと一緒に階下へと降りていく。

 「俺なんかのどこがいいんだろうなぁ。 まぁからかわれているだけかもしれないけどな」
 「そうよ! からかわれてるだけなんだから! あんな女のそばに寄っちゃだめよ!」

 背中に担いだ剣に気づいたルイズ
 「なに?士郎。 その剣持ち歩くの?」
 「部屋に置いとくとかえって煩いんだよ、こいつ」
 「こいつじゃなくて、デルフって呼んでくれよ~~~~」

 ………

 その日は一日中キュルケに絡まれた士郎。
 授業中も絡んでくる。食事中も絡んでくる。トイレにさえ現れ絡んでくるキュルケ。

 ルイズに断りを入れて、コルベールの小屋に隠れる士郎。
 「相棒、んなこそこそ逃げ隠れねぇで、やっちゃえばいいんだよ」
 どっちの“やっちゃえ”の意味なのかはあえて訊かない事にする。
 「どうも、あのタイプは苦手だ……」
 学校中をガンドの銃撃から逃げ回ったあの時の体験の方がよっぽど楽かもしれない。

 「むぅ、しばらく身を隠しているくらいしか思いつかない」
 ルイズに言って、しばらく身の回りの世話と勉強は休ませてもらおう。

 この士郎の判断がルイズとキュルケを決闘に導くなど、誰に予想ができたであろうか。


745:シロウが使い魔
11/02/03 00:00:30 lt2b7GGW
以上第6章です。

なるべくフラグの類は回収し忘れないように気をつけてはいるんですが、
もしかしたら忘れちゃうかもしれません。そのときはご容赦を

次章、『土くれ』乞うご期待

746:名無しさん@お腹いっぱい。
11/02/03 21:22:18 qj9giS+y
激しく乙、6章までwikiにまとめておきました
なんかレイアウトで問題あればレスください

しかし、まとめ管理人氏はまだこのスレに要るのかのう
いるなら魔眼の使い魔のファイル名番号を半角二桁にしてほしい
naviが機能してなかった

747:名無しさん@お腹いっぱい。
11/02/03 22:22:57 FxIHvRgo
乙でした
>>733
他の作品世界だと士郎が投影魔術を見せたら「すげ~~!」とか驚いてくれるが
ゼロ魔世界だと「なんだ錬金か」で終わるから、ぶっちゃけギーシュクラスでも型月世界に着たら化物扱い。
そこらへんの整合をどう描いてくれるか…。

748:シロウが使い魔
11/02/05 22:45:45 FV6cQKE5
>>746
おお、まとめありがとうです。 いくつか修正部分あるから
それはどうしようかなと…。 まぁいいや^^

本日、真夜中に7章うp予定です。
ちょっと長くなっちゃったーー;

749:シロウが使い魔 ◆vVcjSMqk46
11/02/06 00:17:54 dulTJQnV
第7章 土くれ

 衛宮士郎が今、ハルケギニアで作りたいものが5つある。

 一つは自転車。だが、部品を錬金で作るのが難しいらしい。
 冶金技術がものすごく遅れているようだが、ある程度は魔法で補えるだろう。

 二つ目は反射望遠鏡。金属加工の技術の遅れは『固定化』の呪文がいくらでもカバーしてくれる。
 単純な構造物なら作れるはず。ということで、思いついたのが反射望遠鏡だった。
 コルベールには既に設計図を見てもらっている。
 この世界の望遠鏡はかなり粗末なものらしいので、精度は比ぶべくもない。

 三つ目は魔法瓶。これも『固定化』があれば案外簡単に作れるはず。
 一般庶民もかなり便利がるアイテム、間違い無しである。

 四つ目はしょっつる。いわゆる魚醤である。衛宮士郎は基本的に日本食を好む。
 ハルケギニアに来て、何が困ったかといえば毎日洋食タイプの食事であることだ。
 かといって、大豆製品がこの世界にはないらしい。代用の調味料で思いついたのが、魚醤である。
 衛宮士郎は過去、工房代わりの土蔵で醤油を作ろうとして切嗣に怒られたこともある。
 作り方はわかっているので、機会があれば作ってみようと思っている。

 最後にマッチ。
 突然お茶が飲みたくなったりしたとき、火種が無いのが困りものである。
 もちろん学院には火のメイジも多いし、頼めばコモンマジックの“着火”程度ならすぐやってもらえる。
 しかし、真夜中の人気の無い時間だと頼めない。学院の厨房にも、火種程度なら残っているが、
 それをわざわざ火に熾すわけにもいくまい。
 士郎はマッチの原材料を(リンを使っている程度しか)知らないので、
 コルベールに研究してもらおうかと思っている。
 コルベール自身は火のメイジのためか、マッチの重要性を今一つわかっていないようだ。

 ………

 コルベールの小屋に篭っているついでに、今は魔法瓶の作成に取り掛かっている。
 「ふむ、外側のガラスと内側のガラスの間に空間を設けるのですな?」
 「そのあとに、隙間の空気を吸い出して隙間を閉じます」
 『固定化』されたガラスの間にある空間から、空気を魔法を使って抜き、密閉する。
 「さて、今作成したガラスのポットに熱いお湯を入れます」
 「ほうほう」
 「これをしばらく放置しておきます。まぁ1時間くらいですか」
 「ではその時間でシロウ君の文字の学習を進めましょう」

 ………1時間後

 「そろそろいいかな?コルベール先生、ポットのお湯でお茶でも入れましょうか」
 「? もうお湯も冷めたのでは?」
 「ふたを開けると……」
 「おお、湯気が! 冷めてないということかな?」
 「いえ、蓋の部分や外側と内側の部分の接合部、その他放射熱などにより熱は逃げます。
  ただそれ以外では熱が逃げにくくなっているので、普段より冷めないんです」
 「ほほう。 素材とか色々研究すれば、もっと冷めにくい物ができますな」
 「そうです。 これを大量生産すれば、結構売れるんじゃないでしょうか?」
 「一考の価値はあるな。 これなら『錬金』できるメイジも多いことでしょう」
 『土』系統のメイジを確保することがこれからの課題になりそうだ。

 ………

750:シロウが使い魔 ◆vVcjSMqk46
11/02/06 00:19:13 dulTJQnV

 閑話休題。

 士郎がコルベールの小屋を出れなくなったため、ルイズは少々不満だった。 
 士郎がいつの間にか見当たらなくなったため、キュルケは少々不満だった。

 結果、不満は互いの少女へ向かうことになる。
 「キュルケ! あんたのせいでシロウが困ってんのよ! もうちょっかい出さないで!」
 「ルイズ! あなたシロウをどこに隠したのよ! あたしの恋路を邪魔しないで!」

 「「決闘よ!!」」 ある意味、息はピッタシだった。

 月明かりの元、ヴェストリの広場で背中合わせに立つ2人の女生徒。

 証人兼ジャッジとしてキュルケの親友タバサが呼ばれた。タバサがルールを説明する。
 「10歩歩いたら、振り返って呪文を唱える。先に倒れた方が負け」

 「「わかったわ」」

 「開始」 タバサが開始の宣言をする。

 「「1、2、3、4、5、6、7……」」 互いに杖を胸元まで持ってくる。
 「「8、9」」

 「「10!」」 両者振り向き呪文の詠唱に入る!
 キュルケはお得意の『ファイヤーボール』を唱える。 
 ルイズは先日見つかったばかりの『猫だまし』を唱えた。

 ルイズの呪文が一足先に完成。キュルケの目の前で炸裂する!
 「きゃっ!」 キュルケの呪文の詠唱が途切れる。

 ルイズは既に次の呪文の詠唱に入る。といってもその他の呪文は使えないはずだった。
 (あたしだって『ファイヤーボール』くらいなら使えるはず!)
 呪文完成! 発動……せず。いつもの失敗魔法が発動した!

 <どごぉぉぉん>

 目標のキュルケを大きく外れて、本塔の上のほうに命中したようだ。

 「あなた、どこ狙っているのよ」 ルイズを鼻で笑うキュルケ。
 (さっきはなんか訳のわからない呪文で驚かされたけど……)呪文を詠唱するキュルケ。
 「食らいなさい!」
 『ファイヤーボール』がルイズを跳ね飛ばした。

 「キュルケの勝ち」 タバサがキュルケの勝利を宣言する。
 「くっ! おぼえてなさい!」 雑魚キャラのような捨て台詞を吐くルイズだった。


751:シロウが使い魔 ◆vVcjSMqk46
11/02/06 00:20:11 dulTJQnV

 <ずごごごごごぉぉぉ>

 突然の地鳴りと共に、土で出来た巨大なゴーレムが目の前に現れた。
 現れたかと思うと、そのまま本塔に殴りかかるゴーレム。
 <ばごんっ!!>
 本塔の壁が一部壊れる。

 「なに?」 キュルケが突然の成り行きについていけずに誰とも無く訊いた。
 「盗賊」 端的にタバサが答える。
 「止めなきゃ!」 いち早くルイズが行動を起こす。

 「今度こそ!『ファイヤーボール』っ!!」
 失敗魔法発動。 ゴーレムの表面がはじけた。 だが、そのまま修復されるゴーレム。

 キュルケとタバサが続く。
 「『ファイヤーボール』っ!」「『ウィンド・ブレイク』」
 かなりのダメージを食らったようだが、やはり修復されていくゴーレム。

 ゴーレムの肩に黒い人影が見えたと思ったが、本塔に出来た亀裂から中へ消えていった。

 タバサが自分の使い魔の風竜シルフィードを呼んで、他の2人と一緒に乗り込む。
 「『土くれ』のフーケ。最近このあたりに出没しているらしい」
 「このままじゃ学院の宝が盗まれちゃうじゃない!」 ルイズが声を荒げる。
 「奴が出てきたところを集中的に狙いましょう」 キュルケが提案する。

 しばしのち、黒ずくめのローブの人物が、ゴーレムの肩へ戻っていく姿が見えた。
 「「『ファイヤーボール』」」「『ウィンド・ブレイク』」
 3人は、先ほどと同じ呪文を今度はフーケに向かって撃ち込む。

 「や、やったの?」 ルイズがフラグを発動する。

 一瞬、人物に命中したと思えたがそれ自体がダミーだったようだ。
 土煙にまぎれて、逃げおおせたフーケ。 まんまと学院の宝を盗まれてしまった。

 ………翌朝

 トリステイン魔法学院は大騒ぎになっていた。もちろん『土くれ』のフーケ襲来の件である。

 『宝の弓、確かに領収いたしました。土くれのフーケ』

 などと、宝物庫の壁に残されていた。

 宝物庫に教師が集まり、口々に好き勝手なことを言い合う。
 「衛兵は何をしていた」「衛兵など平民、それより当直の貴族は誰だ」「ミセス・シュヴルーズですな」
 「ミセス・シュヴルーズ、貴方は何をしていた」「も、申し訳ありません」
 シュヴルーズ以外の教師がシュヴルーズを責め立てる。

 「泣いても、お宝は戻ってこないのですぞ!貴方は『宝の弓』を弁償できるのですかな!」
 「まぁまぁおよしなさい。我々の中にまともに当直の仕事をこなしていた人物、果たして居りますかな?」
 オスマンが弁護をする。
 「それは……」 一番猛烈に責め立てていたギトーは、口篭ってしまう。
 「今回の件は我々全員にあるのじゃ。油断していた我らがまず反省せねばならん」

 「おお、オールド・オスマン、貴方のお慈悲に感謝します。これからは父と呼んでよいでしょうか」
 と、オスマンに抱きつくシュヴルーズ。 オスマンはシュヴルーズの尻を撫でたりしていた。
 「私のお尻でよければお好きなように。 そりゃもう、いくらでも」
 ……オスマンに対する周囲の視線が冷たくなっていく。


752:シロウが使い魔 ◆vVcjSMqk46
11/02/06 00:21:12 dulTJQnV

 咳を一つして、オスマンは言った。
 「で、犯行の現場を見ていたのは誰じゃね?」
 「この三人です」 コルベールが自分の後ろに控えていた三人を指し示した。
 ルイズにキュルケにタバサである。士郎はルイズの付き添いでこの場にはいるが、現場は見ていない。

 「詳しい説明をしてもらおうかの」
 ルイズが進み出て、見たままを述べた。

 「大きなゴーレムが現れて、壁を壊したんです。肩に乗っていた黒いメイジが、ここからなにかを……、
  その『宝の弓』だと思うんですけど……、盗んだ後、またゴーレムの肩に乗りました。
  私たちが呪文を唱えて阻止しようとしたんですが、土煙にまぎれて消え去っていきました」

 「それで?」
 「あとには、土しかありませんでした。手がかりになるようなものは特に見つけていません」
 「ふむ、そうか……。 ときに、ミス・ロングビルはどうしたかね?」
 誰も知らないと反応が返ってくる。 そして丁度ロングビルが現れる。

 「オールド・オスマン。盗賊の手がかりをつかみました!」

 「手がかりじゃと?」
 「今朝方、この状況を見てすぐに調査に当たったのです。
  周囲を聞き込んだところ、あやしげな人物を見たとの目撃証言を掴みました」
 「仕事が早いの。ミス・ロングビル。 それでその場所は?」 
 「ここから馬で四時間くらいにある森の廃屋に黒ずくめのローブの人物が入るのを見たようです」

 「すぐ王室に報告しましょう! 王室騎士隊であればあっという間に……」
 「喝ぁぁっ! 王室なんぞに報告してたまるか! 時間も惜しいし、今後王室が学院に関与するなぞ
  不愉快にもほどがある! 我々の問題は我々が解決するのが当然じゃ!!」
 コルベールの提案を即効で却下して、オスマンは皆に言う。


753:シロウが使い魔 ◆vVcjSMqk46
11/02/06 00:22:05 dulTJQnV

 「では、捜索隊を編成する。我と思う者は杖を掲げよ」
 誰も杖を掲げない。困ったように顔を見合すだけである。オスマンがいくら促してもだめである。
 だが、ここで一人杖を掲げるものが現れた。ルイズである。シュヴルーズが驚き、声を掛ける。
 「ミス・ヴァリエール! あなたは生徒ではありませんか! ここは教師に任せて……」
 「誰も掲げないじゃないですか!」
 口を少々への字にして、真剣な目をするルイズ。この場の誰よりも格好よかった。

 横目でルイズを見るキュルケ。 やれやれという顔をしながら続いて杖を掲げる。
 「き、君たちも生徒じゃないか!」 コルベールが声をあげる。
 見るとタバサも杖を掲げていた。
 キュルケと目があうと、タバサは一言「心配」と言った。

 「では、君らに頼むとしようか」 オスマンが言う。
 コルベールやシュヴルーズが反対の声を上げるが、オスマンはそんな声を無視する。
 「彼女たちは敵を見ている。その上、ミス・タバサは若くしてシュヴァリエの称号を持つ騎士だと
  聞いているが?」
 「本当なの? タバサ」 キュルケは思わず訊いてしまう。
 周りがざわつく。シュヴァリエの称号はそれほどの価値があるのだ。

 「ミス・ツェルプストーは、ゲルマニアの優秀な軍人を数多く輩出した家系の出で、
  彼女自身の炎の魔法も、かなり強力と聞いている」
 オスマンは続けた。
 「ミス・ヴァリエールは優秀なメイジを数々輩出したヴァリエール公爵家の息女で……」
 言葉に詰まるオスマン。 色々と秘密の話があるので言葉が濁ってきた。
 「彼女は将来有望なメイジなのじゃ……。 そうそう、その使い魔は、
  グラモン元帥の息子である、ギーシュ・ド・グラモンを傷一つ負うことなく倒した腕前じゃ」

 「そうですぞ、なにせ彼はガンダ……」
 不用意に口を滑らせそうになるコルベールにオスマンは杖で地獄突きをかます。
 「ぉごぉぉぉ……」 悶絶するコルベール。

 「魔法学院は、諸君らの努力と貴族の義務に期待する」 オスマンが宣言する。
 ルイズ・キュルケ・タバサは「杖にかけて」と同時に唱和する。
 そしてスカートの端をつまみ恭しく礼をする。 士郎は黙って見ている。

 「では、馬車を用意しよう。魔法は目的地に着くまで温存したまえ。
  ミス・ロングビル、彼女たちを手伝ってやってくれ」
 「もとよりそのつもりですわ」 ミス・ロングビルが応えた。

 ………

754:シロウが使い魔 ◆vVcjSMqk46
11/02/06 00:22:59 dulTJQnV

 女生徒3人とミス・ロングビルとともに、宝物庫から学院正門まで向かうときに士郎は尋ねた。
 「で、この中に『宝の弓』を見た人間はいるのか?」
 4人とも、『宝の弓』は見たことがないという。
 「……、それじゃあ取り戻すにしたって何が『宝の弓』か判らないじゃないか」
 士郎はあきれて、踵を返す。
 「どこ行くのよ、シロウ」 ルイズが尋ねる。
 「学院長のとこ。『宝の弓』がどんなものか訊いてくる。門の前で待っててくれ」

 ………

 学院の宝物を取り戻しにいく馬車の中。
 「で、『宝の弓』ってどんな物なの?」 ルイズが尋ねる。
 「学院長が言うには、みすぼらしい弓だそうだ」
 「お宝じゃないの~?」 キュルケが不満の声を上げる。
 士郎は聞いた話を皆に伝える。

 オスマンは学院の近くに住む貴族が亜人を見世物として手に入れた話を聞いた。
 酷いことだと憤慨したオスマンは、密かに亜人を脱出させようと計画を練った。
 その貴族の屋敷に忍び込もうとした矢先、もう一人の亜人が仲間の亜人を脱出させようとしていた。
 屋敷は大騒ぎになっていた。オスマンは2人の亜人に協力して、屋敷から離れさせることができた。

 捕まっていた亜人は脱出できたものの、長い監禁生活により体が弱っていた。
 そしてまもなく息を引き取る。女性の亜人だった。助けようとしていた亜人はその連れ添いであった。
 男性の亜人も脱出の折に深手を負っており、永くなさそうだった。
 男性の亜人は最後に一族に伝わる弓と、自分と女性が付けていた宝石をオスマンに渡す。
 自分が死んだ折には、この弓で宝石を月まで打ち上げて欲しいとのことであった。

 その亜人の一族は、葬送の儀として個人が持っている『魂の宝石』を月まで飛ばすそうだ。
 やはり脱出のときに弓もダメージを受けていて、2つの宝石を飛ばすまで壊れないでいるかもわからない。

 士郎は馬車にいるルイズ・キュルケ・タバサ・ロングビルに伝えた。ロングビルは御者をしているが。

 「なんで『宝の弓』なの?」 宝にこだわるキュルケが訊く。
 「弓が“マジックアイテムしか射出できない”マジックアイテムらしい。
 『魂の宝石』を射出するために作られた専用の弓ってことらしいけど。
 『宝の弓』って名前はその由来から、理事長が適当に付けたそうだ」

 「あんのクソじじぃ~っ……」 御者台で言ったロングビルの小声は皆には届かなかった。

 「じゃあなに?『土くれ』のフーケはご大層に宝物庫の中で一番のガラクタを持っていったのね。
  で、『魂の宝石』はどこにあるの?」
 やはりキュルケはお宝にしか興味が無いようだ。
 「理事長室の机の中に保管してあった」

 そんなこんなで、馬車は目的地の森に到着する。
 森の入り口に馬車を停めて、小屋までは徒歩である。
 ルイズとキュルケは不満を言ったが、馬車で敵地に乗り込む馬鹿は居ないと窘められた。

 ………


次ページ
最新レス表示
レスジャンプ
類似スレ一覧
スレッドの検索
話題のニュース
おまかせリスト
オプション
しおりを挟む
スレッドに書込
スレッドの一覧
暇つぶし2ch