【ひぐらし】雛見沢にルルーシュを閉じ込めてみた【ギアス】at ANICHARA
【ひぐらし】雛見沢にルルーシュを閉じ込めてみた【ギアス】 - 暇つぶし2ch57:富竹 ◆gqRrL0OhYE
09/02/15 10:28:20 sEZJjbW+
すいません、アドバイスお願いします
どうすれば、そんなに、文章うまくなるんでしょうか?
同じようなもの書いているのがいけないのでしょうか?

58:富竹 ◆gqRrL0OhYE
09/02/15 10:29:51 sEZJjbW+
一度見てもらえますか?
「ルルーシュが、雛見沢にスザクと飛ばされました」
です。宜しくお願いします


59:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/02/16 18:55:45 UPxmt0Ua
>>57
お褒めの言葉、ありがとう。
感謝しるしに批評まがいのレスを一つ。

自分がうまいとは思わないけど、それなりに書けるようになるにはやっぱり慣れが必要だと思う。
あのストーリーの進め方だが、全体的に急ぎすぎな気がしなくもないな。
2chとかだと人気なト書きだが、シリアス展開を書くには若干不向き。
それとルルーシュらしさを出すためには心理描写を多く取り入れるべきなのだが、ここでもト書きは相性悪いんだよな。
(ただ地の文(会話文以外)を取り入れると、読み手が読むのが面倒と感じる節があるので考えものだが。)
所々に、情景を会話文で説明しようとする傾向が見られるな。
会話文での情景描写は必要最低限でとどめたほうが良い。おそらく読み手は説明口調が目に付いているはずだ。
ト書きにおいて、会話文を説明口調にするぐらいなら情景描写は止めといたほうが良いと思う。
ついでに言うと、ここに直書きではなく一度メモ帳などに書き込んで誤字とかチェックするといいよ。
以上


多分次のうpはあさってぐらいに出来るかな……。





60:富竹 ◆gqRrL0OhYE
09/02/16 20:02:52 Y7J0OWxy
有難う御座いました!
今後の参考にさせていただきます・・・・と言っても
そろそろ終わりですけどね(TAT)
オマケで頑張ってみますよ


61:名無しさん@お腹いっぱい。
09/02/16 23:39:33 L9U8D2ed
>>59
半裸でまっとく

62:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/02/18 11:06:48 ET9QUkdk
「……ん、ここは……?」
 俺は意識を取り戻し、薄っすらと目を開けた。視界が白くぼやけてまだよく見えない。
 机に寝かされているのだろうか。背中がひんやりと心地良い。
 視線の先に魅音が映った。魅音が俺を微妙な表情で見下ろしている。
「……魅音?」
「ルル、あんた……」
 魅音は手を口元に当て、呆然とこちらを窺っている。
「なんだ、俺がどうかし……ん?」
 何気なく両の手を見ると、自分が手袋を着用している現状に気がつく。
 白い手袋。よく見ると全体的に服装が白い気がする、が……ま、まさか。
 俺は自分自身に降りかかった災いを思い出して青くなった。
「沙都子、それを貸せ……」
「あっ」
 机から起き上がると、近くにいた沙都子の持つ手鏡を強引に奪い取る。
「ぐっ……!」
 鏡を見て俺はさらに青くなった。
 そこには口に出すのもおぞましい姿の俺がいたのだ。
 

63:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/02/18 11:08:16 ET9QUkdk

 ナナリーを除く女性陣は何が良いのか、俺を眺めて感嘆の息を漏らしている。
「ルル、あんたすごいよ……」
「はぅぅ、ルルーシュくん本当に綺麗なんだよ、だよ」
「ですわね。女装姿をからかってやろうと思ってたのでございますが、これは……」
「レナがお持ち帰りを躊躇するほど綺麗なのですよ」
 褒められているのだろうが全然嬉しくない……。
「あのさ、ルル」
「……なんだ。先に言っておくが慰めは不要だぞ」
 慰めの言葉などかけられたら、自分が余計惨めに思えてくるからな。
「いや、そうじゃなくてさ。あんた、その花嫁姿で来春のミス雛見沢コンテスト出なよ……私ら差し置いて絶対優勝するから」
「冗談言うな……」
「いや本気なんだけど」
「尚更止めてくれ……」
 来春は強制的に出場させられるのだろうか……。ありえるから怖い。
「ふふ、たしかにお兄様なら優勝出来そうですね」
 と罰ゲームのメンズスーツを身に纏ったナナリー。
「く、お前までそんなことを……」
 兄の威厳もあったものではない。
 俺はすべての元凶である魅音をキッと睨みつけた。
「魅音、そろそろ良いだろう。俺は罰ゲームとして十分な屈辱を受けた。もう着替えさせてもらう」
「へぇ、敗者が勝手に罰ゲームの期間を決めちゃうんだ?」
「貴様! これ以上何をさせるつもりだ?!」
 魅音が嫌らしい笑みを浮かべながら言った。
「帰宅するまでその格好でいてもらう」
「な、何だと?! この格好で家まで? 馬鹿を言うな!」
「ふーん、そっかぁ」
 魅音は俺がそういう反応を示すことが分かっていたようで、腹立たしいことに馬鹿にした表情で続けた。
「やっぱりブリタニアの坊ちゃんには難しかったね。はいはい、もう止めていいよ。でも残念だなあ、ルルはもっと骨のあるやつだと思ってたんだけどなあ?」
「ぐっ、貴様…………いいだろう! やってやる、やってやるぞ!」
「おーっ、さすがルル! おじさんの眼はやはり正しかったよ、くっくっく!」
 魅音が尚嫌らしい笑みを浮べたまま、俺に拍手で賛辞を送ってくる。
 馬鹿にされたままは癪だったのでつい売り言葉に買い言葉で乗ってしまったが、これで本当によかったんだろうか……。


64:名無しさん@お腹いっぱい。
09/02/19 00:27:31 ZYtDo5Kp
面白いけどwww話進まんwww

65:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/02/19 01:41:13 IaqfPSy2
>>64
すまんw俺も実は書いてて苦痛だったw
けど逆パートすっ飛ばして即惨劇だとひぐらしらしくないと思ってな。
もうすぐ非日常入るんで我慢してくれると嬉しい

66:名無しさん@お腹いっぱい。
09/02/19 17:00:13 ZYtDo5Kp
>>65
wktk

67:名無しさん@お腹いっぱい。
09/02/22 23:09:16 V+TEfC3w
gj!
おもしろかった

68:名無しさん@お腹いっぱい。
09/02/25 16:15:33 994P94yb
なんという良スレ・・・スレタイをみただけでワクワクしてしまった・・・

69:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/02/26 13:33:50 pRHv031H
 罰ゲーム衣装のままの下校。
 俺は学校を出るとナナリーをレナに任せて、村人に見られないようレナや魅音の影に隠れながら、夕暮れ刻の帰り道を歩いた。
 木陰が人に見え、びくついた所を魅音に笑われる。屈辱だ。
 たしかに自分でも格好が悪いと思うが、魅音は少し人の気持ちとかを考えたほうがいい。さもないと、いずれ些細な事象から惨劇へと発展しかねない。
 水車小屋で魅音と別れ、やっと冷やかす人間がいなくなりせいせいする。
 しばらくしてレナとの分かれ道に差し掛かる。ここまで来れば家まで後半分といった所だ。
 レナは去り際に『魅ぃちゃんのことを許してやってね』と申し訳なさそうに言っていた。レナがそんな顔をする必要はないのに……。
 レナという少女は本当に良いやつだ。俺はすっかり彼女に毒気を抜かれてしまったようだ。
 ……そうだな、魅音だって同じリスクを背負っていた。引き返すチャンスも与えてくれた。だから恨むのはお門違いだよな。
 ナナリーと一緒に軽く手を振って笑顔でレナを見送る。
 騒がしい仲間がいなくなり、ナナリーと二人きりとなった。
「お兄様、今日は楽しかったですね」
「そうだな。たまには良いかもしれない……が、もうこの衣装は勘弁願いたいな」
「ふふ、私の目が見えるようになったらまた着てくださいね」
「それは駄目だ。せっかく治ったナナリーの目が潰れてしまう」
「そんなことないですよ、ふふふ」
 ナナリーは口元に手を当てて、さもおかしそうに笑った。
「おいおい、笑いすぎだ」
「だって、お兄様が。くすくす」
 ころころと笑うナナリーに感化されて俺も笑ってしまう。
 こんなに日常がいつまでも続くと良いのに……俺は切にそう思った。
 笑いが一段落着いた頃、ようやく雛見沢の我が家に到着した。


70:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/02/26 13:35:43 pRHv031H

 誰にも見られずに家に到着できたことで気が緩み、咲世子の存在をすっかり失念していた。玄関に入った所で彼女と遭遇、痴態を見られてしまった。こんなケアレスミスをするとは今日の俺はどうかしている。
 だがもう階段を上がりきり、俺の部屋の前。これ以上の恥の上塗りはないはずだ。
 そういえば、なぜか咲世子がしつこく俺を一階に引き止めようとしていたな。鼻血を出していたが大丈夫だろうか。
「……いや。人の心配よりまずは自分だな」
 自室の引き戸を開ける。
 ふはは、これでこの衣装ともおさらばというものだ。
「おい、遅かったなルルーシュ」
「なっ……C.C.(シーツー)?!」
 誰もいないはずの扉の向こうにはC.C.の姿があった。想定外の事態に目が点になる。
「お、お前がどうしてここにいるっ?!」
「お前こそどうしたんだ? その格好は」
 C.C.はこれ見よがしにあざ笑う。
 やつは俺の布団を勝手に敷き、その上に寝転がりながらピザを食べていた。

71:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/02/26 13:36:52 pRHv031H
支援サンクス。
不定期だけど生きてます。

72:名無しさん@お腹いっぱい。
09/02/26 17:50:24 hMmF4LyX
C.C.の登場でワクワクしっぱなしですwww

73:名無しさん@お腹いっぱい。
09/03/04 19:13:18 tQekrBYZ
続き楽しみ

74:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/03/05 19:32:09 1pRKYEax
>>72>>73
支援サンクス。
お前らがいる限り書き続けるぜ


75:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/03/05 19:33:03 1pRKYEax



 C.C.の我が物顔でくつろいでいる様に腹が立って仕方がない。
「そんなことはどうでもいい、答えろ!」
 俺はウィッグと手袋を外し、怒りに任せてC.C.に向かって投げつけた。ところがやつはだらけきった姿勢にも関わらず華麗に避けた。
「お前からここの暮らしを耳にして少し興味がわいた、じゃ理由としては薄いか? ……んぐんぐ」
 とピザを一ピース飲み込みながらやつは答える。その態度にさらに怒りが増大した。
「そういうことではない!」
「おいおい、いいのか? 日本家屋は音を良く通すのだがな」
「……っ!」
 階下にナナリーたちがいることを思い出し、声量を抑えて言った。
「お前にはゼロの影武者を任せていたはずだ」
「分かってるさ、私も馬鹿じゃない。代理を立てておいたから安心しろ」
「そうか、ならいい。…………いや待て。一体誰に代役を頼んだ?」
「玉城だ」
「はぁっ?! 玉城だと?! よりにもよって?! 今すぐ東京租界へ帰れ、この馬鹿!」
 玉城とはレジスタンス時代のカレンの仲間だ。カレンと共に黒の騎士団に入団してきたが、リヴァルを100倍に濃縮したようなお調子者でよく作戦でへまをして騎士団全体に迷惑をかける。まったくもって厄介この上ない人間だ。
 あいつにゼロをやらせようものなら、最速三日で黒の騎士団は解散を余儀なくされるに違いない。
「なぜだ? 玉城なら面白がってやってくれているぞ」
 C.C.は不思議そうに首を傾げる。コイツ本当に分かってないぞ……。
「面白がってやっているからまずいんだよ!」
「ルルーシュ、落ち着け。また声が大きくなっているぞ」
「……っ! とにかくすぐに租界に戻ってくれ」
「嫌だと言ったら?」
「お前……!」
 C.C.は俺をからかい満足したのか、ケタケタと笑いながら布団から出た。
「しょうがないな。まったく、お前は私がいないと何も出来ないのだな」
「ぐっ……」
 俺は今にも堪忍袋の尾が切れそうだったがどうにか我慢した。


76:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/03/05 19:33:47 1pRKYEax

「さて、では従順な私は素直に租界に戻るとしよう。ここは居心地は良いのだがピザの調達が難しいんだ。じゃあな」
「ああ、早く行ってしまえ!」
 C.C.はわざと俺の神経を逆撫でするような言葉を残し、部屋を出て行く。なんて女だ。
「そうだ、ルルーシュ」
 そして罰ゲーム衣装を脱ぎ捨て私服に着替え終えた頃、C.C.が部屋に舞い戻ってきた。何事もなかったように戻って来れるコイツの無神経さが分からない。
「何か忘れ物か、C.C.?」
「ああ、お前に一つ伝えたいことがあってな」
「そうか。だが俺はもう大分腸が煮えくり返っているのだが?」
「まあそう言うな。お前にとって有益な情報だ」
「言ってみろ」
 これでまた冗談でも口にしようものなら、俺はコイツを殴ってしまうかもしれない。
 C.C.は急に真顔になって押し黙った。
「どうした?」
 俺が先を促すと、しばらくしてC.C.は重い口を開いた。
「……この村に私と同等の存在が居る」
「それはどういうことだ?」
「私と同じく他者にギアスを発現させる存在が居ると言ったほうがいいだろうか」
 そんな大事なことを今頃になってこいつは……。
「なぜ黙っていた?」
「そう睨むな。黙っていたわけじゃない。ただ、最近知り得た情報なだけだ」
 だろうな。コイツは俺の共犯者だ。俺に害のある隠し事などするはずがないし、する必要がない。
「そうか、それで?」
「そいつの名はO.O.(オーツー)。別段そいつ自体が危険というわけではないが、ギアス能力者のほうは分からない」
「つまり、ギアス能力者が敵として現れるかもしれないから気をつけろということか」
「そういうことだ。話が早くて助かる」
「分かった、十分気をつけよう」
「ああ、簡単に殺されてくれるなよ。お前に死んでもらっては私が困るからな」
 そう言うと今度こそ本当にC.C.は帰っていった。
「この村にギアス能力者か……」
 自分以外の能力者は今のところマオしか出会っていない。最悪のケースしかないというのはつらいな。
 出会い頭にギアス戦になるという可能性も十分考えておくべきだろう。


77:名無しさん@お腹いっぱい。
09/03/11 20:06:31 m80vU4Dy
O2って、オヤシロ様=羽入のことかな

78:名無しさん@お腹いっぱい。
09/03/11 23:51:47 qTS0RgHO
OOishiだろ

79:名無しさん@お腹いっぱい。
09/03/12 00:48:35 2aUP6XBR
黒幕だった鷹野の場合もありえる。
そして、支援age

80:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/03/13 18:49:49 Xmy/hGA+
>>77>>78>>79
レスありがとう。
だがギアスユーザーたちについてはノーコメントでw
大体予想がつくと思うけどな

ちょっと続きは待ってくれ。
書けてはいるんだが、後々の展開に齟齬が出ないように考え中なんだ。

81:名無しさん@お腹いっぱい。
09/03/13 19:21:50 x814MRKq
頑張れ!応援してる。
なんか結構いい感じだから期待。

82:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/03/16 21:39:50 wEFLM2pr
【5】

 朝、小鳥のさえずりを聞きながら目が覚めた。
 頭がずっしりと重く感じる。起き上がろうとすると身体もだるい。
 昨日やけにミスが多いと思っていたら、風邪をひいていたようだ。
 日本では夏風邪をひくのは馬鹿だと言われているらしい。次に学校に行った時を思うと気が重い。またそれをネタに魅音にからかわれるんだろうな。
 自分で言うのもなんだが俺は体があまり強くない。スザクまでとはいかぬまでも、少しは身体を鍛えたいとは思っているのだが……いつも長続きしないのは何故だ?
 無論俺がヘタレだからという回答は却下だ。俺はそんな軟弱ではない。
「医者に行くべきか……だが面倒だな……」
 しかしこのまま寝ていても、俺の治癒能力では完全回復までに時間がかかりそうだ。やはり素直に医者に行って薬をもらって来るとしよう。
 雛見沢には、租界から離れたゲットー地域にも関わらず高度な医療施設があったはずだ。確か入江診療所。場所は……大丈夫。雛見沢の地形はすでに頭に入っている。
 隣の部屋に行き、ナナリーに声をかけてから出かけることにした。
「ナナリー、すまない。どうやら風邪を引いてしまったようだ」
「お兄様。まあ、大丈夫なのですか?」
「ああ、風邪気味なだけだよ。少し休めば平気なはずだ」
 ナナリーに対して見栄を張る自分がおかしくて苦笑する。
「そういう訳だから今日俺は大事をとって学校を休むが、お前はどうする?」
「では私も休みます。私だけ学校に行って楽しんではお兄様に悪いですから」
「はは、そんな気遣いは不要だよ。行って来い、咲世子さんに送ってもらうよう頼んでおこう」
「そうですか。では安静にしていてくださいね」
「ああ、そうしよう」
 ナナリーの部屋を出て階下へ向かう。キッチンで朝食を作っている咲世子に声をかけて家を出た。 


83:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/03/16 21:42:18 wEFLM2pr

 入江診療所に到着する頃には、俺の病状は著しく悪化していた。
 だいぶ息が荒くなっている。こんなことなら無理せず咲世子に付き添ってもらえばよかったかもしれない。自分の軟な体が憎い。
 扉を倒れ込むようにして押し開け、診療所内に入る。
 内部は租界のと比べるとそんなに大きくはなかったが、ゲットーにある医療施設としては立派過ぎるくらい清潔そうだった。
 日本人相手にどこで利益を出しているのだろうか、とどうでもいいことを不思議に思ってしまう。風邪のせいだな。
 待合室で自分の番を待っていると、自分の名が呼ばれた。席を立ち、診察室に入る。室内で待っていた医者は入江だった。
「お久しぶりですね。今日はどうされました、ランペルージさん?」
 入江はうちの学校の保険医も兼任しているのでお互いに良く知っていたが、世間話などしたくはないし、今は無駄な動作を取れる健康状態ではないので質問に応えるのみに抑えることにする。
「はい。熱があって体がだるいのですが、風邪でしょうか」
「そうですねー。とりあえず脈を取りましょうか」
「はい」
 手を入江に差し出す。
「うーん、すべすべのお肌ですねー……ハアハア」
 こういう変なところがなければいかにも好青年なのに惜しい男だ。
「ちょっと、先生。ちゃんと診断してください」
「そんな、心外ですね。ちゃんとやっています。では次はこちらの検査着に着替えてください」
「もろメイド服じゃないですか」
「あれ、ばれちゃいました?」
「時間の無駄しました。失礼します」
 席を立とうとすると慌てて入江が制した。
「わ、待ってください、冗談ですよ! 診察は真面目にやってますから!」
「ならいいのですが、今度ふざけたら本当に帰らせてもらいますから」
「分かりました、分かりました。もう言いませんよ」
 入江が苦笑した。苦笑したいのはこっちのほうだ。
 触診をされた後、俺は入江から体温計を受け取り熱を測った。
「で、診察の結果はどうですか」
「んー、風邪ですね。薬出しておきますので食後30分に飲んで、それからがっつり寝てください」
「分かりました。では失礼します」
 無駄にとどまるとロクなことがなさそうなので、俺は素早く席を立って診察室を出た。


84:名無しさん@お腹いっぱい。
09/03/19 23:06:45 QOylmek2
ルルーシュだけじゃなくて生徒会メンバー全員を雛見沢に移住させたいな
シャーリーは魅音と詩音と恋バナで仲良くなって、
レナはなんかスザクとアーサーと仲良くなりそう。


85:名無しさん@お腹いっぱい。
09/03/23 13:01:26 5DZMrafj
なんか東京とキョウトがつながってそうですね

86:名無しさん@お腹いっぱい。
09/03/27 10:07:44 4f3IUrwo
期待
でもいつもの事ながら一度の投下量が少な過ぎるんだぜ・・・

87:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/03/27 18:44:10 xOA6A1Rh
投稿ペースは読み手にあわせているつもりだったんだが。
自分の都合ももちろんあるが、あまり一回の分量増やすと読む気なくすと思ってな。
まだ書き溜めてあるから一気に投稿することも出来るが、物語が破綻する可能性が若干増える。
それでも良いんだったら投稿量増やすよ。



88:名無しさん@お腹いっぱい。
09/03/27 19:55:58 4f3IUrwo
>>87
書き手の投下しやすいペースで良いとおもったんだけど。
流石に2レスはどうかな・・・
長くても良いと思うぜ。それだけの面白さが有るんだからさ。


89:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/03/31 10:55:40 62zYNVxF

 会計を終えて帰ろうとしていると、不意に看護婦から声をかけられた。
「あら、あなた。ルルーシュ・ランペルージ君?」
「はい? そうですが何か」
「やっぱり貴方が噂のブリタニアの学生さんなのね」
「ええ、まあ……。あなたは?」
「私は鷹野三四よ。ここで働いているの、よろしくね」
「僕に何か御用ですか?」
「いいえ、特に用はないのだけど。雛見沢にブリタニアの兄弟が住んでるって話を聞いてたからどんな酔狂な子かなと気になってただけよ、くすくす」
 三四はおかしそうに笑う。俺は少しむっとした。
 この、人を見下すような態度……見ていて腹が立つ。もっとも十中八九同属嫌悪だろうが。
 もちろん表情には出さないようにする。
 ふっ、揺さぶって詮索するつもりだろうがさせるものか。知らない人間からそういった疑問を投げかけられるのは想定済みだ。
「そうですか。でも別に酔狂ってわけじゃないですよ。日本の自然が好きなブリタニア人はたくさんいます。古手神社から見下ろす雛見沢の景色は本当に綺麗ですよね」
「ふーん、そうなの」
 三四がつまらなそうに相槌を打つ。あまり俺の話を信じていないようだ。
 三四は俺から真実を引き出すことが無理そうだと理解し、信じた素振りをした。
「あの、まだ何か?」
「いいえ、引き止めた悪かったわね」
 それでいい。気が済んだのなら黙って質問を終えろ。
「じゃあ失礼します」
「ちょっと待って。でもおかしくない?」
 三四に引き止められる。何がおかしいというのだ。
「なにが、ですか?」
「自然が好きなだけなら、他のブリタニア人のように観光で来れば良いのに、貴方たちはどうしてここに住む気になったのかしら?」
 こいつ……。俺たちに何か知られたくない素性があることに薄々感づいているのか……?
「僕には日本人の友達がいましてね。ゲットーに住むのはそんな抵抗はないんです。それに、ここは他のゲットーと違って住みやすいですしね」
 咄嗟に切り替えす。だがこれ以上はギアスを使う必要性が出てくる。無駄には使いたくはない、早く消えてくれ。
 三四が俺の言うことに同意した。
「そうね。ここは多分、君の言う通り租界の次に暮らしやすいんじゃないかしら。けれど、本当にここは"住みやすい所"なのかしらね、くすくす」
「……それはどういうことですか」
「くすくすくすくす!」
 三四の小馬鹿にするような笑い声。それは先ほどの同属嫌悪から来るものとはまた違った不快感があり、言いようもない禍々しさと邪悪さを合わせ持っていた。
「……一体、何だと言うんです?」
 俺が再び訊ねると三四はゆっくりと口を開いた。
「雛見沢連続怪死事件。聞いたことはなぁい?」

 例えようのない不安が俺をねっとりと包み込んだ。


90:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/03/31 10:57:36 62zYNVxF
 診療所から帰宅すると、家の電話からスザクにいの一番で電話をかけた。
「もしもし?」
 スザクの声がする。携帯にかけたのだから本人が出るのは当然だが。
「もしもし、俺だ」
「ルルーシュ? どうしたんだい?」
「どうしたじゃない、この馬鹿」 
 俺は鷹野から聞かされた話をスザクに聞かせる。

 雛見沢で毎年起こる凄惨な殺人事件―

 毎年綿流しの祭の日に起こり、一人が死に一人が消える謎―

 偶然だと噂されながら、けれど確実に起きた怪奇―

 雛見沢連続怪死事件。通称"オヤシロ様の祟り"のことを。

 スザクは俺が話すのを静かに聴いていた。俺はスザクが真剣に聞いているものと判断し、先を続ける。
「すでに四年連続で発生しているらしい。そして今年で五年目。後一週間で綿流しの祭。その日誰かが謎の死を遂げ、誰かが消失する可能性がある。お前はそれを知らなかったのか?」
 知らないだろう。知っていたら、スザクはナナリーをこんな危険な場所に近づけさせないはずだ。
 だがスザクの返答は俺が思っていたのとは違うものだった。
「知っていたよ、ルルーシュ」
「なんだと?! どういうつもりだスザク!」
 俺は思わず激昂する。一番信頼していた友に裏切られたんだ。腹も立つというものだ。
 スザクが慌てて弁明した。
「ルルーシュ、少し落ち着いて僕の話を聞いてくれ。確かに僕は連続怪死事件の噂を知っていながら、君たちをここに住むよう促した。けれど、それには理由があるんだ」
「どういうことだ。もったいぶらず話せ」
「君も気づいていると思うけど、連続怪死事件の被害者は少しずつ村の仇敵という関係から離れていき、動機が希薄になってきている。今年は余所者という理由だけで殺されてもおかしくないんだ」
「お前、ふざけているのか? だったら日本人でもない余所者の俺とナナリーが一番危ないということになるが、分かって言っているんだろうな?」
「ああ、分かっているよ。けどそれは言い返せば、雛見沢がブリタニア人の近づけない絶対の聖域となることを意味する。事実、ブリタニアの警察官は雛見沢にただ一人も巡回には来ない」
 そういえばそうだ。雛見沢では一度もブリタニア人やナイトポリスを見たことがない。
 こんな辺境に警察を巡回させる暇はないのだろうと思っていたのだが、そういう事情も隠されていたのか。
 確かにブリタニア人が恐れて近づかない場所ならば、俺たちの素性もばれにくい。
「連続怪死事件について話さなかったのは悪かったと思ってるよ。けれど、それは君たちに余計な心配をかけないためだったんだ」
「お前の言い分は分かった。だが、今年の祟りで俺たちが被害に遭う可能性は著しく高い。もしナナリーが危険な目にあったらどう責任を取るつもりだったんだ」
「その場合、今年の祟りは起こらない」
「どういうことだ?」
「僕は秘密裏に君たちを護衛するつもりでいたんだ」


91:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/03/31 10:58:52 62zYNVxF

 スザクとの電話を終えると汗を拭き取りながら自室に戻った。スザクの護衛がつくということが分かっても、どうしても不安だけは拭えなかった。 
 一人が謎の死を遂げ、一人が消えるオヤシロ様の祟り。被害者の数は常に偶数。最小の偶数は2。
 何度考えようと、今年の被害者は日本人ですらない他所者の―……俺とナナリーの可能性が高く思える。
「……馬鹿な、そんな理由で祟られてたまるか」
 どろりとまとわりつくような疑念を吹き飛ばそうと頭を思い切り振るが、それが引き金となって鈍重な痛みが頭を支配する。
 まずは体調を万全にしよう。それが最優先。
 洗面台に行って薬を飲んだ。飲んですぐ効くはずはないが、少し身体が楽になったような気がする。
 プラシーボ効果様々というやつか。人間の身体というものはつくづく便利に出来ているものだ。どうせならこの勢いで明日には完治したいものだ。鏡の前で一人苦笑した。
 スザクを信じないわけではないが、今日ぐっすりと寝て風邪が治ったなら、明日は怪死事件について調べてみよう。
 ギアス能力者、コーネリア、日本解放戦線……問題は山済みだが、今は後回しにするしかないだろう。
 俺は着替えると布団に入って目を瞑った。

 ―タイムリミット;オヤシロ様の祟り発生まで後7日。


92:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/03/31 11:00:59 62zYNVxF
コメありがとう。
要望があったんで今回から三レスに増やすよ。
でもこれ以上の増加は推敲の関係で無理だ。勘弁してくれ


93:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/03/31 11:04:17 62zYNVxF
>ブリタニアの兄弟
早々に誤字発見すまん。兄妹な

94:名無しさん@お腹いっぱい。
09/03/31 15:29:27 QCToJsU/
どうでも良いけど、ひぐらしの原作的には ○オヤシロさま ×オヤシロ様
まあ、原作でも一箇所誤字かなんかで漢字になってたけど、基本的に人名+さまの「さま」は平仮名になってる。

期待してるからこそちょっとだけ気になったこと言ってみた。
楽しみにしてるから投下頑張って。

95:名無しさん@お腹いっぱい。
09/03/31 22:16:06 Ah1WgAZW
wktkが止まらねえぜ・・・

96:名無しさん@お腹いっぱい。
09/04/02 15:42:32 5yOcjXTq
保守

97:富竹 ◆gqRrL0OhYE
09/04/02 17:59:42 bf6pJxjR
いい感じですね。保守しますよ!

細かいんですが質問です。

ブリタニアの警官が来ないのは、本当に祟りに遭いたくないだけなのですか?
もし、裏があるなら、すごいと思うのですが・・・・

98:名無しさん@お腹いっぱい。
09/04/02 18:12:26 Gp+534l0
>>97
そーゆー質問は場合によってはネタバレになるかもなんだぜ


99:富竹 ◆gqRrL0OhYE
09/04/03 00:58:49 TAKBmCa0
>>98
確かに・・・・・すんません
ついでに

私のスレで短編集的なもの作ったので・・スレのほうでコメントいただければ
URLリンク(changi.2ch.net)

100:名無しさん@お腹いっぱい。
09/04/03 23:07:02 V4PsRLWE
>>99
宣伝は荒れる元になると思うよ

誰かに広めたい!ってのは分かるんだが・・・

101:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/04/05 15:45:15 oKvAi9N4
米サンクス。まずは米返しから。

>オヤシロ様
あまり気にしてなかった。一応これ以降のは修正しておいた。
また同じようなことがあるかも。
>ブリタニアの警官
勘ぐらせて悪いが、別に裏とかは考えていない。
スザクがなぜ危険な雛見沢にルルーシュを行かせたのか説明するための、ただの舞台装置だよ。
>宣伝
よく分からんが、クリックしても見れんな

次レスにうpするが、ちょっと展開が足早になってきたかもしれん。
すまん。




102:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/04/05 15:46:46 oKvAi9N4
【6】
 次の日になると俺の熱は下がり、風邪はすっかり治っていた。ところが、その代わりに今度はナナリーが風邪をひいてしまったようだ。
「大丈夫か?」
 ベッドに伏しているナナリーに訊ねる。手を握るととても熱かった。
「ええ……平気です。魅音さんたちと遊ぶのが楽しくて、少しはしゃぎすぎたせいのかもしれませんね」
「……俺の風邪が感染ったんだな。すまない」
 ナナリーは強がっているが、昨日の俺よりも体調が悪そうだ。今日はナナリーを医者に連れていって、その後に看病をするためにも学校を休むしかないだろう。
 俺がその旨を伝えると、ナナリーは首を横に振った。
「私は寝ていれば大丈夫ですから、お兄様は学校に行かれてください」
「しかしナナリー」
「いいんです。私もいつまでも子供じゃないんですから……風邪くらいお兄様がいなくっても平気ですよ。……それに、お兄様は学校をよくおさぼりになるんですから、行く気がある日くらいはちゃんと学校に行ってくださいね☆」
「はは、お前も言うようになったな」
 これだけ減らず口が聞けるのなら俺がいなくても大丈夫そうだな。医者には咲世子に連れて行ってもらおう。
 怪死事件について調べるのにも、ナナリーがいないほうが都合がいいだろう。
「分かったよ、今日はしっかり休んでいるんだぞ。行って来る」
「はい。行ってらっしゃいませ、お兄様」
 ナナリーの部屋を出て階下に降りて朝食を取ると、咲世子にナナリーを任せて一人家を出た。


103:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/04/05 15:47:27 oKvAi9N4

 放課後になって、部活の準備をしようとしている皆に魅音が謝った。
「ごっめーん! おじさん、今日はバイトだから部活できないんだった!」
「そうなの? でも用事があるなら仕方ないよね、よね」
「昨日の夜、急に入れられちゃってさー! 本当ごめん、今日はおじさん抜きでやってくれて良いからさ!」
「そう言われましても、ナナリーさんも欠席ですし、盛り上がりに欠けますわよ」
「となれば、今日の部活はなしにするのがいいかもなのです」
「そうだな、俺も今日は調べたいことがあるしな」
「「調べたいこと?」」
 他の部活メンバー全員が一斉に聞き返す。俺を除く皆が顔を見合わせて苦笑いをした。
 そうだ、こいつらに話を聞いておくのも良いだろう。大した情報は期待していないが何か怪死事件の謎の糸口になるかもしれない。
「なぁお前ら。この雛見沢で殺人事件があったって話を聞いたことはないか?」
 俺は何気なく、世間話をするつもりで質問したつもりだった。
 それなのに皆は俺の目を射抜くような冷たい視線でこう一蹴した。
「「知らない」」
「え……。だが、そういう事件があったんじゃないのか……?」
「「なかった」」
 雛見沢では有名なはずなのに、実際に起こったはずなのに……ないと言い張る皆が不気味だった。
「そ、そうだな……。この平和な村に事件なんか起きないよな……」
 俺はもう反論する気力をなくし、ただ皆に合わせるように言葉を紡ぐ。
「「もう帰ろう」」
 皆は帰りの仕度を整えると、俺を置いて教室から出る。静寂が教室を支配した。
 外から聞こえるひぐらしの鳴く声が一際大きく聞こえていた。
「ルルーシュくん、帰らないの?」
「……え?」
「一緒に帰ろ! はぅ!」
 教室のドアからレナの顔が覗く。
 いつものレナだ。俺はほっと胸を撫で下ろした。
 先ほどのレナや皆の冷たい視線は気のせいだったんじゃないか? 今の彼女を見ていると、心底そう思わされる。
「ルルーシュくん、どうしたの?」
 レナが不思議そうに首を傾げた。
「あ、ああ。なんでもないよ」
「そう、じゃあレナと一緒に帰ろ?」
「そうだな」
 荷物を手に取り、レナに駆け寄る。
 やっぱり気のせいだろう。このレナが人にあんな冷たい視線を投げかけるわけがない。
 だが…………不愉快な疑念だけは、纏わりつくようにしつこく俺を放さなかった。

 事件なんてなかったと言う魅音たち、事件の存在を肯定する鷹野とスザク……俺はどちらを信じたら良いのだろう……?
 この時から、俺の危機感と好奇心はフルスロットルで加速し始めた。


104:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/04/05 15:48:22 oKvAi9N4
 
「ねえねえ、ルルーシュくん」
「なんだ、レナ?」
「ちょっと寄り道して良いかな、かな?」
「あ、ああ。別に構わないがどこに行くつもりなんだ?」
「あはは、レナの秘密の場所~☆ ルルーシュくんを特別に連れてってあげるんだよ、だよ」
「秘密の場所?」
「いいから着いてきて、すぐ近くだから!」
「あ、おい!」
 レナに強引に手を引かれ連れて行かれた場所はサクラダイト発掘現場跡地だった。
 ここは……最初の惨劇が起きた場所ではないのか……?
 スコップやつるはしでのリンチ殺人。その後遺体をバラバラにするという凄惨な事件……被害者はサクラダイト発掘会社の現場監督。まだ遺体の一部、右腕で見つかっていないらしい。
「こんな場所に連れてきてどうするつもりだ?」
「はぅ? どうもしないんだよ」
「嘘をつくな。こんな人気のないところに来る理由など何もないはずだ」
「あははは。ルルーシュくんは何を怖がっているのかな、かな?」
 レナは感情の篭らない顔で、声だけで哂った。
 気のせいじゃ、なかった…………。
 教室でのあの冷たい視線は決して勘違いじゃなかったのだ…………。
「お前こそ、何を隠している!」
「あはははは、変なルルーシュくん。レナは何も隠してなんかないんだよ、だよ。そんなことより一緒に宝探ししようよ、楽しいよ? ね?」
「うるさい!」
「きゃっ!」
 気づけば、俺は近寄ってくるレナの頬を打っていた。辺りに乾いた音が響き、それからひぐらしの声が再び聞こえ出した。

105:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/04/05 15:49:05 oKvAi9N4

 レナは尻餅をついたまま、頬に手を添えてきょとんとしていた。
 俺は正気に戻り、自分の過ちを詫びた。
「すまないレナ! 大丈夫か?!」
「う、うん。平気だよ。びっくりしただけ」
「俺はなんてことを……本当にすまない」
「いいんだよ。それよりレナのほうこそごめんね。無理に誘ってちゃって。でもこれからは嫌ならそうだって断ってくれていいんだよ?」
「いや、そうじゃない。そうじゃないんだ……。今のは、完全に俺が悪い……すまない、許して欲しい」
「うん、いいよぅ。そんなに深刻に思わなくても大丈夫。だってルルーシュくんはまだ病み上がりなんだもの、はぅ!」
 俺は忘れかけていたレナの優しさに心を打たれた。
 そうだな。俺はまだ完治しておらず、自分でも気づかぬうちに疲労していたのだろう。
 レナや皆が突然示し合わせるように異常を見せるなんてありえない。皆が連続怪死事件について知らないというなら本当にそうなのだろう。
 きっとそうだ。心を鎮めて客観的に見さえすれば、周りがおかしいと考えるより俺自身がおかしいというほうがよっぽどシンプルだと気づけるじゃないか。
「レナの言うとおりかもしれないな。どうかしてたよ、ありがとう。君の優しさに感謝する」
「うん、どういたしましてかな。今日はもう帰ろっか」
「あ、ああ……そうしてもらえるとありがたい」
「うん、帰ろ帰ろ! 宝探しはまた今度、はぅ~☆」 
「悪いな、レナ。今度必ず埋め合わせをするよ」
「あはは、楽しみにしているね」
 どうやらレナとの友人関係を壊すことは免れたようだ。ほっと安堵のため息を漏らす。
 レナの横に付き、談笑を交えながら帰路に着いた。
 
 結局、連続怪死事件について今日の収穫はゼロ。改めてまた明日レナたちに話を聞くべきだろうか?
 いや、しばらく止めておこう……。今日の二の舞になるのが怖い。
 明日は租界の図書館を通じて情報を集めることにしよう。新聞など何か事件に関係のある情報媒体があるかもしれない。
 現在持っている情報は鷹野とスザクの話だけ。知略を巡らすにはあまりに少なすぎる。

 
 ―タイムリミット;オヤシロさまの祟りまで後6日。

106:名無しさん@お腹いっぱい。
09/04/05 17:01:16 eUfaYlrk
マジGJ 
PCつけると毎回きてます。
さすがルルーシュ、早々に疑心暗鬼から脱出。

107:名無しさん@お腹いっぱい。
09/04/05 20:12:15 Jfj5lcIF
GJです
ルルーシュの心理戦とか頭脳戦が見てみたいですね
どうでもいいですが、圭一と違ってバットの素振りでも始めたら筋肉痛になりそうw
次回も楽しみにしています


108:名無しさん@お腹いっぱい。
09/04/10 21:48:12 tSlhwH8U
ナナリーをイリーの診療所に連れていった帰りにはメイド服を着せられていることでしょう

109:名無しさん@お腹いっぱい。
09/04/11 10:43:02 VqZdkY94
つかルルーシュじゃ暴走して凶器振り回しても全然怖くないよなw

110:名無しさん@お腹いっぱい。
09/04/11 13:37:15 gxh+siKb
↑暴走したらギアス使いまくると思うぜ

111:名無しさん@お腹いっぱい。
09/04/12 10:11:57 vJpsZBnb
それは怖いな
つか、皇帝になった頃のギアス乱発を見るとさっさとギアスつかいまくってりゃもっと簡単にブリタニアをぶっ潰せてたんじゃねと思ふ

112:名無しさん@お腹いっぱい。
09/04/12 11:24:11 gomyBRcN
>>111
ルルーシュの最終目的はブリタニアを壊すことじゃないからじゃねーの?

113:名無しさん@お腹いっぱい。
09/04/12 14:01:08 QPqJYHDe
皇帝ルルーシュがギアスでブリタニア乗っ取れたのはギアスの存在知ってるシャルルが死んでたからだろう
てかアーニャにギアスかけたら中の人(マリアンヌ)にも効果あるんだろうか?

114:名無しさん@お腹いっぱい。
09/04/12 16:19:09 gI59z+rU
今度はプリズンブレイクの世界にルルーシュを閉じ込めてくれww

115:名無しさん@お腹いっぱい。
09/04/13 13:58:07 vvGccTXy
IDがVVとCCなので記念カキコ

116:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/04/13 20:33:48 f2ZjXBSx
米サンクス。
たくさんレスが付いて嬉しいんだが、忙しくて執筆がうまく行かないんだ。
来週にはなんとか提出するからちょっと待っていて欲しい。
最近は推敲してないから誤字とか多すぎ…OTL

117:名無しさん@お腹いっぱい。
09/04/13 22:43:06 q3P6r/M4
ガンガレー

118:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/04/18 18:32:12 kLqql3aB
【7】
 今日は学校を休むことにした。
 咲世子にナナリーの看病を任せて、俺は一人電車で租界に向かった。目指すはエリア11中央図書館だ。
 その建物の入ってすぐのところにあるPC端末を起動させた。
 カタカタカタ。キーボードをリズミカルに叩くものの、なかなか検索に引っかからない。
 雛見沢の事件は秘匿捜査対象になっているらしく、関係するページは数少ないようだ。
「――あった」
 ≪雛見沢連続怪死事件(※通称、オヤシロさまの祟り)捜査情報≫
 その項目をクリック。事件の詳細が表示される。
 サイトの造りから、どうやら公式的な情報サイトではなく個人の作ったもののようだ。
 今はとにかく情報が欲しい。多少誇張があっても構わない。
 トップから中に入ると、様々な情報が目に飛び込んできた。
 事件の日付。状況。犯人逮捕の有無。
 被害者の名前――。
「何、だと……?」
 そこには見覚えのある苗字が記されていた。
「北条……古手……。これは一体……?」
 たまたま知り合いの苗字と同じなだけなのか。いや、違う、そうじゃない。
 読み進めていくうちに被害者家族の話も出て来る。
 北条……沙都子。
 古手……梨花。
 被害者家族の名簿にクラスメートも名前を見つけた。
 二人が一緒に暮らしていると聞いたことはあったが、まさか共に両親を亡くしているとは思わなかった。
「そうか、なるほどな……」
 皆が怪死事件について知らないと言ったのは決して他人事じゃなかったから、そういうことか。
 仲間に対しての疑念が全て取り払われた気がした。思わず笑みがこぼれる。
 次に沙都子の叔母の撲殺事件のページに目が止まった。
 そうだ、この事件が一番不可解に感じる。
 警察は当初、沙都子の兄を容疑者としていたはずだ。そこに麻薬常習者の犯人が突然現れ、自白後犯人が死亡している……。まるでスケープゴートにされて口封じをされたかのように。
 そうなると北条悟史の失踪も不自然。電車に乗って家出をしたという説もあるが、沙都子を一人置いて逃げ出すだろうか?
 答えは否だ。兄が実の妹を置き去りにすることなど絶対にあるものか。
 それに俺はそんな噂レベルの説よりも全てを説明できる答えを知っている。
 スケープゴート。不自然な行動。そして突然の死。
 ギアス能力だ。
 仮に俺のように絶対遵守の力を使える能力者がいたなら? 人間の記憶を書き換える能力者がいたなら? 全ては可能だ。 
 つまり、連続怪死事件の犯人はギアス能力者……?
 クーラーがかかり涼しいはずの図書館内で嫌な汗が流れる。
 いや、そうと決まったわけではない。まだ情報が絶対的に足りていない。
 他のページに飛んでみる。だがあとは鷹野の話をなぞるようなオカルト的な内容しか記載されていなかった。
 ここで手に入る情報はこれぐらいか。
 俺はページを閉じて静かに席を立った。

119:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/04/18 18:34:57 kLqql3aB

 図書館を出ると日差しがさらに強くなっていた。じわりと汗が滲み出る。
 ……これはきついな。この暑さの中歩き回ったら熱中症で倒れそうだ。日陰を探しながら歩く。
 そうだ、租界なら携帯電話が使える。C.C.に電話してみよう。
 しばらくのコール音の後にC.C.が出た。
『なんだ、ルルーシュ』
「ギアス能力について聞きたい」
『なんだいきなり。ギアスユーザーに心当たりでもあるのか?』
「いや、違う。だがこちらで起きている事件にギアス能力者が関与している疑いがある。例えばだ、標的に幻覚を見せることが出来る能力やそれに類似するものに心当たりはないか?」
『……ないな。これは私が発現させた能力にはないという意味だが』
「そうか。だがそういった能力もありえるんだな?」
『ああ、発現する能力には著しい個人差がある。そんな能力が生まれることもあるのだろうな』
「そうか、わかった」
 それが聞けただけでも収穫だ。可能性は出来うる限り広く考えておくべきだ。
『用事はそれだけか?』
「いや、もう一つある。黒の騎士団員数名をしばらくの間、雛見沢に潜伏させて欲しい」
 綿流しの日から数日、スザクが守ってくれるというが一人では心もとない。二重の防壁を作っておくべきだろう。
『ルルーシュ、それは無理だ』
「……? なぜだ、理由を言え」
『言いにくいんだが今……団員の全てが某所に温泉旅行に出かけている』
「なんだと?! そんなことを誰が許可した!」
『いやな、それが玉城がゼロの姿でな』
「この馬鹿が! 何しに租界に戻った! 玉城にはゼロをやらせるなと言っただろ!」
『残念だが私が戻った時にはすでに発っていてな。文句はそれを止められなかった籐堂か扇に言ってくれ』
「ぐ、では黒の騎士団はいつ頃租界周辺に帰ってくる?!」
『電話で問い合わせたら、後一週間は帰って来ないそうだぞ』
「っ……それでは全てが遅い……もういいっ!」 
 返事も待たず携帯電話の電源を切り、それから俺は独りごちた。
「くそっ……黒の騎士団はあてにはならない……か」
 となると、スザク一人に頼るしかないと言うわけだ。
 スザクの力を認めないわけではないが危ういな……。
「痛っ!」
「あ、すみません」
 考え事をしながらを歩いていると路地裏に迷い込んでいた。そこで男と肩がぶつかった。
「ああん?! すみませんじゃねぇぞ?!」
 なんとも柄の悪いイレブンだ。どうやら俺はたちの悪い輩に絡まれてしまったらしい。
「申し訳なぁ思っとるんならちゃっちゃと慰謝料出さんかいゴラァ!」
「すみません、あまり持ち合わせがないもので……」
「おうおうっ! それで済むと本気で思っとるんかワレェッ?!」
 面倒だな。仕方がない、使うか……ギアスを。
 本当ならこんなゴロツキにギアス能力はもったいない。だがそれ以上に今の俺は時間を無駄にしたくなかった。男の眼を見てギアスを開放した。
「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる。お前は黙って今すぐこの場から立ち去れ」
 ――。
 ――――。
 ………………。
「…………」
 絶対遵守の力に支配された男は先ほどまでうるさく怒鳴っていた口を閉じ、そのまま踵を返す。俺はそれを鼻で笑うと男を静かに見送った。
 今日はもうこれぐらいでいいだろう。また妙な連中に絡まれないうちに雛見沢へと帰るとしよう。
 ……。
 …………。
 ひたひたひた。
「……!」
 自分のすぐ後ろから微かに足音が聞こえた気がした。
 だが立ち止まって背後を振り返ってもそこには誰もいない。
「……気のせい、か」
 俺は一人ごちると、ため息を一つ吐く。
 そうだよな、誰もいないはずの背後から足音が一つ余計に聞こえるなんてありえない、よな……。

 ―タイムリミット;オヤシロさまの祟りまで後5日。


120:名無しさん@お腹いっぱい。
09/04/18 19:31:35 D63TbDpY
いいじゃないか
支援するよ

121:名無しさん@お腹いっぱい。
09/04/19 01:06:01 0J55t1k6
支援。


122:名無しさん@お腹いっぱい。
09/04/21 19:16:56 QFhXpgxN
支援

123:名無しさん@お腹いっぱい。
09/04/21 21:47:00 cEgEcXxM
支援

124:名無しさん@お腹いっぱい。
09/04/22 23:57:51 f0Hiz8Um
支援

125:名無しさん@お腹いっぱい。
09/04/24 08:35:47 TCfu0Bh+
支援

126:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/04/25 11:38:07 5ZFXv8WD
たくさんの支援ありがとうw
支援でちょっとだけモチベーションが上がったよ。このまま頑張るぜ。
で、すまんが書き溜め分がなくなってきたんで、次回の投稿はGW中になりそうだ。
ちなみに次以降からギアスのバーゲンセールになるかもしれん…

127:名無しさん@お腹いっぱい。
09/04/25 12:12:33 +iteeJ4a
どうでもいい所で使って後から「しまった!」となるルル山の流れですね分かります支援。

128:名無しさん@お腹いっぱい。
09/04/25 12:48:01 3K4NiE49
期待して待ってる!

129:名無しさん@お腹いっぱい。
09/04/25 23:02:30 1aCBiRZH
楽しみにしてます。支援。

130:名無しさん@お腹いっぱい。
09/04/27 13:16:49 UGbXnEVg
ひぐらしサムネホイホイ動画
URLリンク(www.nicovideo.jp)


131:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/05/01 10:34:18 QhbLTTd4
支援ありがとう。
期待に応えられているかどうかは分からないけど、約束どおり投下します。
その前にコメ返し。

>>127
>どうでもいい所で使って
まさにその通りと言わざるをえないw
でもまあ、結果オーライ的な話にはしてあるけどな



132:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/05/01 10:35:15 QhbLTTd4

【8】
 次の日もナナリーは風邪で学校を休むことになった。
 俺はナナリーに声をかけ、安静にしているように言うと家まで迎えに来たレナと学校へ向かう。
 昨日ギアス能力者が連続怪死事件の犯人である可能性が浮上した。怪しまれないためにも今日はちゃんと授業に出て放課後になってから調査を始めよう。
 水車小屋の前で魅音と合流。
 今日も魅音は先に待っていた。珍しい。
 いつもの通学路を歩いて行くと分校が遠目に見えてきた。
「よぉし、じゃ教室まで競争ね。ビリはトップの言うことを聞くこと! はい、ドン!」
「はぅ?! いきなりすぎなんだよ!」
 魅音とレナは分校へと走り出した。
「ちょ、おま! ずるいぞ!」
 二人の背中を慌てて追いかける俺。ところが魅音たちの姿は小さくなっていく一方で、ついには分校の内部へ消えていった。
「あいつら、足……速すぎだろ……。常識的に考えて…………」
 歩みを止めて、独り言を吐きながら息を整える。
 体力勝負は俺の得意分野じゃないとはいえ、レナにまで体力で負けるとは思わなかった。魅音ならともかくとして若干ショックだ。
 俺は無理をするのはやめて、ゆっくりと分校へと歩き出した。


133:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/05/01 10:36:34 QhbLTTd4

 教室へと入るといつもと違ってなにやら騒がしかった。皆一様に深刻な表情でぼそぼそと呟き合っている。
 何か事件でも起こったんだろうか?
 レナ・魅音と挨拶を交わし、それから騒がしい理由を訊ねた。
「騒がしいが、何かあったのか?」
「……沙都子の叔父が帰ってきた」
 魅音が重苦しい表情で答える。
 口ぶりからあまり好ましい人物ではないようだ。
「どんな酷いやつなんだ?」
「ルルーシュくん、よく叔父が酷いやつって分かったね?」
「そんなに暗い顔をしていれば誰だって分かるさ」
 それに、俺も王位継承争いで身内から不当な扱いをされたことがあるからな。
 魅音は苦虫を噛み潰したような顔で吐き捨てるように言った。
「沙都子の叔父はいわゆるチンピラのようなやつさ。強い者にはヘコヘコするくせに弱い立場のものには威張り散らす、そんな最低野郎だよ」
「……そうか。ところで今日は沙都子が来ていないな。それと関係あるのか?」
「風邪で欠席……そういうことになってる。でも絶対そんなんじゃない」
「……虐待を受けているのか?」
「おそらくね……。いや、絶対されてるに決まっている!」
「ならば何故それが分かっていて児童相談所に相談しない? イレヴンにもそのための施設はいくらだってあるはずだ」
「それがね……」
 レナが魅音に代わって説明を始める。
 俺はレナの話を黙って聞いた。
「ふん……そういうことか」
 北条家はサクラダイト発掘の時以来、村の裏切り者とされているわけか。その名残が今でも根深く残っており、村人は沙都子に冷たく接しているようだ。彼らに助けを求めるのは無理かもしれないな。
 それに加えて沙都子は一度、児童相談所に嘘の通報をしているのか。これでは相談所側も慎重にならざるを得ない。
 しかし仮に相談所が動いてもこの件は解決されないだろうな。
 沙都子は兄である悟史失踪の真相を知らない。悟史がいなくなったのは自分が甘えすぎたから家出してしまったと勘違いしている節がある。
 だから頑なに誰にも助けを求めない。ここで誰かに縋ってしまえば兄はいつまでも帰ってくることがない、こう思い込んでいるから。
 なるほど、なかなかに複雑な事情があるようだ。
「そう……。だから残念だけど私たちが出来ることはないんだよ……」
 魅音はそう言い切ると表情に落胆の色を見せる。こんなに元気のない魅音を見るのは初めてだ。だが……
「それは間違っているぞ、園崎魅音」
「……え?」
「出来ないからやらない、それは逃げだ」
「でもどうしろって言うの! 沙都子の心が変わらない限り、」
「だから変えさせるんだ、俺たちで。なぜならこれは俺たち仲間の問題であって、沙都子だけの問題じゃないんだからな」
「ルルーシュくん、それって……」
「まず梨花に話を聞くのが先だ。梨花はいるな? 行くぞ二人とも」
「え、ちょ、ちょっとルルってば!」
 俺はレナと魅音を強引に引き連れて、自分の席で突っ伏している梨花の所へ向かった。


134:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/05/01 10:45:33 QhbLTTd4

 梨花に声をかけると、彼女は徐に顔を上げた。その表情にはいつもの快活さは蚊ほどもない。
「梨花、沙都子の件で話がある。知っていることを話せ」
「……話したところで無駄なのですよ。どうせ皆は同情するだけで何もしてくれないのです」
「たしかにその通りかもしれない。だがそうやってやる前から諦めるのは感心しないな」
 俺がそう言うと梨花が鼻で笑ったような気がした。
「…………『所詮は自己満足。どれだけ背伸びをしたって世界は何も変わらない』……。沙都子を見捨てた時の貴方の言葉なのですよ」
「見捨てた? お前は何を言っている?」
 梨花の態度に少しの違和感を覚えるが、それよりも俺は梨花の一言が気になった。すぐさま聞き返す。
 一方梨花はつまらなそうに再び口を開いた。
「……面倒なのです。話してあげるから聞いたら己の無力さを自覚して、さっさとどこか行くといいのです」
 その口ぶりはいつもの梨花と比べるとまさに別人のように冷たかった。
 梨花が事の成り行きを話し始める。要約するとこうだ。
 沙都子は昨日の正午頃―俺が東京租界で調べ物をしていた頃に一人で興宮まで買い物に出かけたそうだ。
 梨花は自宅でその帰りを待っていたがいつまで経っても沙都子は帰ってこない。
 心配になって雛見沢中を探し回ると、沙都子の両親が存命の時に住んでいた家が騒がしい。
 恐る恐る見に行ってみると、沙都子が叔父の鉄平に怒鳴られ暴行を受けながら、暗い表情で家の掃除をしていたとのことだった。


135:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/05/01 10:48:06 QhbLTTd4

 梨花から事情を聞いた後、俺は再び口を開いた。
「……そうか。それでお前は親友が暴行を受けても知らん振りなのか?」
「どうしようもないのですよ……。ルルーシュは状況が分かっていないからそんな態度が取れるのです」
「事情は知っているさ。魅音とレナから、沙都子と叔父の関係及び予想される児童相談所の対応を事細かく聞いたからな」
「では分かるでしょう? 僕たちが何をしようと、どうせ運命は変わらないのですよ……」
 そう言うと梨花はうな垂れ、視線を床に移す。その様子に俺はほっと安堵のため息をついた。
 梨花が何もしようとしないのは沙都子を単なる遊び友達としか考えていないのではないかと思ったからだ。
 だけど実際は違った。こいつは諦めたくないけれど、沙都子を助けてやりたいけれど、それが出来ない自分に絶望しているだけなのだ。
 俺は出来うる限りの不敵な笑みを浮かべ、梨花の頭を軽く撫でた。
「魅音にも言ったが……それは間違っているぞ、古手梨花」
「……え?」
 梨花は俺に微笑を投げかけられて目を丸くする。少しだけ彼女の瞳に生気が戻ったような気がした。
 俺は梨花の何かを期待するような視線を一身に受けながら言葉を続けた。
「自分には何も変えられないなんて理由は単なる逃げでしかない。
 たしかに現実は夢のように甘くはないさ。いつでも様々なしがらみのよって支配されている。それに押しつぶされてしまう人間も少なくはない。
 ……だがな、抗うことは必要なんだよ、俺にもお前にも。
 戦うことをやめてしまえば、人は生きながら死ぬこととなる。生きているって嘘をつき続け、まったく変わらない世界に飽き飽きして、でも嘘って絶望で諦めることもできなくなって……。
 だから梨花、抗え。今を精一杯足掻いてみせろ。そして共に力を合わせ、俺たちの大切な仲間である北条沙都子を助けてみせよう」
 俺は梨花に向けて手を差し出す。
「……ルルーシュは何か考えがあるというのですか」
「残念だが今はない。31通りの手を考えたが全て沙都子の悟史への罪悪感がネックとなっている」
「なら……やっぱり無理なのですよ……」
 梨花はポツリと呟くように言って再び表情を暗くした。こいつの諦め癖は予想以上に根強いようだ。
「だからこそ皆で知恵を出し合って解決策を練るべきだ。不貞腐れるのはそれを試してからでも遅くはないだろう?」
 そこでぱちぱちと突然の拍手音。振り返ると一歩下がった場所で魅音とレナが笑みを浮かべながら手を叩いていた。
「うん、ルルーシュくんの言うとおりだよね。誰かが世界を変えてくれるまで祈って待っていても、そんな日はいつまでも経っても来ないんだよ、だよ」
「くっくっく、おじさんちょっとブルーになってたよ。そうだったね、部活メンバーならどんな逆境にも立ち向かって行かなきゃ。それを部員になってまだ間もないルルに教えられるなんて部長として恥ずかしいよ」
「お前ら……」
 魅音とレナは表情を真顔に戻してから梨花に言った。
「私たちはもう自分を無力なんて思わない。力を合わせ、必ずや沙都子を助けると心に誓うよ」
「そう。だから後は梨花ちゃんだけだよ。皆で沙都子ちゃんを助けるために考えよう?」
「フッ――だそうだが、お前はどうする?」
 梨花は俺の問いかけに逡巡した後、重い口を開いた。
「……今回のルルーシュは何か違う気がするのです……。分かったのですよ、僕は貴方を信じますのです」
 梨花は俺の手を取って立ち上がった。俺について一部妙なことを口にしていたが、とりあえずはなんとかやる気になってくれたようだ。
 沙都子の問題は根深いが……皆で意見を出し合ってくれさえすれば、俺なら何かしら考え付くだろう。
 …………本当は一つだけ方法がある。
 それは絶対遵守のギアス。これならば今すぐにでも沙都子を救い出すことが可能だろう。
 だがギアスの使用は保険であり最後の手段。今のままでは沙都子は永遠に救われない。沙都子自身が変わらなければ、沙都子を取り巻く世界は何も変わらないのだ。
 

136:名無しさん@お腹いっぱい。
09/05/01 15:21:44 mPJMgaV7
ルルーシュも圭一と一緒で色んなルート通ってたのか。
そして同じ分だけ、仮面の革命家寒村にて人知れず果てる、してた訳か支援

137:名無しさん@お腹いっぱい。
09/05/01 15:22:41 92EFAoCS
乙支援

138:名無しさん@お腹いっぱい。
09/05/01 16:02:03 Wvu3Yko+
わくわく支援。

139:とある謎の人
09/05/05 19:36:04 Zvtj6q+v
いきなりツッコミです
鬼隠しと皆殺しがダブルっぽいですね。
かなりツボです続き楽しみです!
スザクは黒スザクがみてみたいです「黒スザク=暴走スザク)
ドキドキ



140:とある謎の人
09/05/05 19:36:49 Zvtj6q+v
いきなりツッコミです
鬼隠しと皆殺しがダブルっぽいですね。
かなりツボです続き楽しみです!
スザクは黒スザクがみてみたいです「黒スザク=暴走スザク)
ドキドキ



141:名無しさん@お腹いっぱい。
09/05/06 20:59:22 C1kojS7e
なんだろう…
上の人は来る場所を間違えてる気がする。

142:名無しさん@お腹いっぱい。
09/05/08 10:55:13 hnaAp/b4
>>141まぁ春だしな、色々来るさ

143:名無しさん@お腹いっぱい。
09/05/12 03:17:43 IrYj2OYs
偶然覗いたら何という良スレ発見。
これは支援せざるを得ない。

今回ルルーシュの行動がこれまでと違う理由が玉城の温泉旅行で
騎士団の動かせる駒が手近にないからだったら噴くw

144:名無しさん@お腹いっぱい。
09/05/12 07:42:52 tzdLtsQs
玉城がひぐらしに出たら絶対序盤で騒いだ後にあっさり死ぬ役だな。
戦闘での生存性と相反するけど、そんなイメージがw

145:名無しさん@お腹いっぱい。
09/05/12 22:18:11 eikuA4XJ
かつてルルーシュが来たと世界では、どんな行動を取ったのかも気になるな。

146:神童裕二郎◇ ◆4TOiDOQ5vo
09/05/13 23:12:25 JVIqDqiG
期待
支援

147:名無しさん@お腹いっぱい。
09/05/15 08:12:14 VXRcO+uQ
実は玉城こそが最大のイレギュラー

148:名無しさん@お腹いっぱい。
09/05/15 21:14:55 gxmt1Nur
玉城「くっそ! 寝坊した俺が悪いからって、温泉企画した人間を置いてくことないだろ!
   薄情な奴らだ……ん? なんだこのメモ、『雛見沢に至急、騎士団員を寄越せ、ゼロ』?
   へへっ、水臭ぇな。俺はゼロの親友だぜ! 待ってろよ、ゼロ!」

警察無線「興宮STより3号へ。仏さんの状態はどんなもんだ?」
警察無線「酷いもんですよ。なお所持品から、氏名は玉城真一郎と判明……」


149:名無しさん@お腹いっぱい。
09/05/15 21:23:51 zX1LKT4u
続きまだ?

150:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/05/16 22:29:12 oiYMSN4t
なぜか筆が止まったんだぜ…とりあえずコメ返ししておく。
明日少し書いてなんとか提出に漕ぎ着けるぜ。

>>136>>143
一応雛見沢に現れた他の世界のルルーシュはギアスを持っていなかったって設定です。
沙都子を助けようと思ったのも、ギアスを持ってゼロとして世界と関わって他人に興味を持ち始めたためです。

>>144>>147>>148
玉城はたぶん名前だけしか出ないんだぜw

>>145
ゼロとして世界と向き合うことのない無気力ルルーシュなので、惨劇エンドへまっしぐらかな。
妹以外のことはどうでもいいから沙都子を助けないし、梨花の話も信じないといった感じで。


151:136,144
09/05/16 23:32:25 lG76QRr0
なるなる。他の世界のルルは時々いいとこ見せるだけの厭世青年のまま。
憂さ晴らしも賭けチェスから賭け麻雀にシフトしたりしてた訳ねw 捕捉サンクス!

152:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/05/17 14:06:35 IB27GBqf
【9】
 放課後になり、俺たち四人は北条家宅へと向かった。
 わざわざ放課後を待った理由は留美子に沙都子の現状を知られないためだ。もし留美子の耳に入ることがあれば、生徒想いの彼女のことだからきっと北条宅へ家庭訪問をするなど何かしらアクションを起こすだろう。今留美子に動かれると厄介だ。
 事態を重く見てくれる大人は心強いが、今は叔父を刺激させたくはないし、何の前準備もなく児童相談所に駆け込まれても困る。留美子には沙都子は病気で欠席したと思ってもらおう。
「ここだよ、ルル」
 魅音の案内で北条宅に到着する。
 玄関の入り口付近には原付が置かれている。
 おそらく叔父所有のものだろう。
 俺は原付を横目で見ながら玄関へと歩を進める。
「ちょ、ちょっと、ルルーシュくん!」
 レナが小声で叫ぶように言いながら、俺の制服のすそを掴んだ。
「どうした、レナ」
「いきなり押しかけちゃまずいよ……」
「何を言っている。そのために来たんだろうが」
 俺たちは沙都子のクラスメートだ。別に友人の見舞いに来ることになんの問題もない。
 北条宅の呼び鈴を鳴らして待つ。
 すぐに出てこないのでもう一度押すと、怒号が辺り一帯に鳴り響いた。
「沙都子ぉぉぉ!! このダラズがぁぁ!! いるなら早く出んかい!!」
 どたばたと玄関の戸越しに沙都子のシルエットが映る。
 がらりと引き戸が開き、酷く慌てた様子の沙都子が現れた。
「沙都子」
「る、ルルーシュさん……それに皆さん……。どうかしまして?」
「どうかしたどころじゃない。お前、俺たちをどれだけ心配させているか分かっていないだろう」
 沙都子は表情を暗くし、すっと顔を背けた。
「何のことですの。私は別に……」
「そんなつもりはないと? だが現に俺たちはお前のことを心配してここまで来ているんだ」
「わ、私は別に皆さんに心配されるようなことは何もしていませんわ……」
「嘘だな。お前は今の自分を鏡で見たことがあるか?」
 首を横に振り、沙都子の言葉を否定する。
 沙都子はきょとんとして顔を上げた。
「分からないのか。今のお前は”如何にも絶望の真っ只中です”って顔をしてるんだよ」
「そんなこと……ありませんわ……」
 沙都子の表情が一層曇る。
「帰ろう沙都子。お前の居場所はこんな場所じゃないだろう? お前は戻ってきた叔父にいじめられても、助けを求めないことを試練だと思っているようだが、それは大きな間違いだ。そんなことをいくらしても悟史は戻って来ない」
 俺の言い方が悪かったのか、沙都子は俺をキッと睨みつけて叫んだ。
「戻ってきますわ! 戻ってくるもん! ルルーシュさん……貴方に何が分かりまして?! 私のことを何も知らないくせに! 帰ってくださいまし! 帰れぇぇぇッッッ!」
「っ……!」
 俺は沙都子に突き飛ばされ、体勢を崩して仰向けになって玄関口から外に押し出される。ぴしゃりと玄関の引き戸が閉じる音がした。


153:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/05/17 14:08:25 IB27GBqf
 倒れた俺を魅音とレナが心配そうに覗き込んで来る。 
「大丈夫、ルル?」
「ルルーシュくん平気?」
「あ、ああ……」
 だが子供とは思えないほどの力だったな、あいつ……。
 辛うじて魅音たちに身体を支えられて地面に倒れることはなかったが、あのままだったら間違いなく頭を打って昏倒していただろう。
「今の沙都子……決して普通の状態ではなかった……」
「そうだね、いつもの沙都子ちゃんだったらあんな風に人が怪我をするような真似は絶対しない」
「もう沙都子の心は限界なんだよ……」
 レナが真顔で言い、それに続く形で魅音も呟くように言葉を溢した。
 ……読みが甘かった。事情を聞かされてある程度分かった気になっていたが、沙都子の問題はすでに悠長なことを言ってられる場合じゃない。
 使わなければ……アレを。仲間を助けるために。
 それが最善、俺が取れる一番まともな選択肢なのだから。
「……お前らはここで待っていろ。俺は少し沙都子の叔父と話をしてくる」 
「え? 何するつもりなの?」
「大丈夫だ、別に彼を刺激するようなことは言わない」
 魅音に訊ねられ、俺は冷静に答える。レナがその脇から口を挟んだ。
「じゃあレナも行く」
「駄目だ、行くのは俺一人だ」
 レナの言葉を切り捨て、俺は首を横に振った。ギアスを使っているところは見られたくないからだ。
 そう、今から俺はギアスを使って沙都子の叔父―北条鉄平を殺害する。
 証拠は残るはずもない。まして俺が殺したなど誰も思わない。なぜなら鉄平は俺が死ねと命じただけで勝手に死ぬのだから。
 それにこの村でなら何人殺そうがオヤシロさまの祟りとして処理されるだろう。ギアスの使用において、まさにうってつけの場所だ。
「……では行ってくる。着いてくるなよ」


154:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/05/17 14:11:31 IB27GBqf
投下。
やはり二レスずつが一番安定するみたいだ。
投稿遅くてすまんが許してくれ。

155:名無しさん@お腹いっぱい。
09/05/17 17:58:12 xmSHAjVg
投下乙です。
命じるのは失踪しろで十分な気もするけど、ここで後々の禍根まで払っとく気かな?
身内に甘いルルーシュのことだから、冷静なようで実際は激昂してるんだろうなぁ。

156:名無しさん@お腹いっぱい。
09/05/17 20:58:47 W1ViKGjz
待ってた! 超乙!

ギアスで命じるのは死なのか。。
バッドエンドな予感だな。

157:名無しさん@お腹いっぱい。
09/05/17 21:33:41 198gbwEC
ペースゆっくりでもこの質で確実に投下してくれるのは嬉しいよ

158:名無しさん@お腹いっぱい。
09/05/18 02:01:21 8HuyY5Xu
乙 頑張って

159:名無しさん@お腹いっぱい。
09/05/20 00:05:02 N3Ilg2LY
遅くなったけど投下乙!
皆かと思いきや祟ルートを選択か、ギアス本編の今後の展開を考えると皆ルートだと違和感出ちゃうわな
ギアス使えば鷹野軍団も潰せるしなぁ
ところで今更ながらに詩音は存在してないのか?

160:名無しさん@お腹いっぱい。
09/05/21 22:02:22 vrbUSutW
皆殺し編かと思ったら祟りごろし編だったのか

161:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/05/22 22:21:46 P3wrH08R
支援&コメありがとう!
今日もまずコメ返ししてから投下するよ。

>>155>>156
ギアスで鉄平を殺すのはありきたりすぎなのでやめたんだぜ。
というかギアスは使い方考えないと話が安っぽくなるから使いづらいんだよな…

>>157
ありがとう。読んでくれる人がいる限り勝手に止めるつもりはないよ。
これからも細々とやっていくから支援よろしく。

>>159>>160
ところがどっこい宣言どおり皆編で行くんだ。
ハッピーエンドかバッドエンドかは最後のほうで決めるつもりだけど。

ちなみに詩音はあまり好きじゃないから出さないw
クロスオーバーSSでは出演キャラを出来る限り減らしていくのは定石だしな。
というわけでいなかったことにしてくれ。もしくは鬼隠し編の時みたく出番がないだけで実際は興宮で生活していることにするとか



162:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/05/22 22:40:38 P3wrH08R

 俺は玄関を睨みつけることで鉄平を殺す覚悟を決めると、背後を振り返ってレナたちを一瞥する。彼女らは心配そうな表情を浮かべて俺の動きを見守っていた。
 着いてくる様子は一遍も見られない。
 よかった、万が一にもこいつらをギアスの巻き添えにはしたくないからな。
 俺は玄関の引き戸を開ける。からりと引き戸の開く音が鳴った。その音を聞き取ったのか、玄関先に鉄平が現れた。
「ああん? なんね、お前?」
「ああ、貴方が沙都子の……」
 さて、この男にはどんな末路がお似合いだろうか。
 綿流しの祭当日に自殺というのも一興かと思うが沙都子の安否を考えるとそれまでは待てないな。
 となればそうだな、失踪した後のたれ死ねとでも命令を……――なっ?!
 俺は鉄平と思われる男の顔を見て驚愕する。
 なんと目の前にいるその男は、昨日俺が東京租界で肩をぶつけたゴロツキだった。
 ぐ、そんな馬鹿なことがあってたまるか……。
「ん、あんた……わしとどこかで会わんかったかいの?」
 鉄平が俺の顔を眺めて不思議そうに首を傾げる。
「いえ……ないと、思いますが……」
 苦し紛れにそう答える。
 鉄平は記憶を探りながら俺をまじまじと観察していた。
 この様子だと俺のことはほとんど覚えていないようだ。それも当然か。ギアスの支配下に置かれた人間は前後の記憶を無くすようだからな。 
 だがそんなことには何の意味もない……。
 何故なら同じ人物にギアスは二度効かない。これでは鉄平を排除することが出来ないのだ。
 どうすればいい……。どうすれば沙都子を助けることが出来る……? 気持ちばかりが逸り、思考がうまく纏まらない。
 俺の内心の動揺を知ってか知らずか鉄平が怪訝な顔をして訊ねてきた。
「……んで、うちに何の用があるっちゅうんね」
 仕方ない……ここは一旦退こう。このまま留まっても何も出来ることはない。ただ悪戯に鉄平を刺激するだけだ。
「いえ、何でもありません……」
 軽く会釈すると、俺はスッと踵を返して北条家を後にした。


163:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/05/22 22:44:10 P3wrH08R

 北条家のから少し離れたところで皆と合流した。
「ルル! 叔父はどうなったの?!」
 魅音が酷く慌てた様子で聞いてくる。
 俺は彼女の顔をまっすぐと見れなかった。目を逸らしたまま淡々と答えた。
「なんもしないさ。叔父と少し話をして終わった。状況はなんも変わっちゃいない……」
 変えられなかったのは……俺が無駄にギアスを使ったせいだ。何故俺は昨日、東京租界で鉄平相手にギアスを使ってしまったのか。ゴロツキをあしらう方法ならいくらでもあったはずなのに……。後悔の念が募る。
 俺は頭を下げ、魅音・レナ・梨花にポツリと呟くように謝った。
「皆、すまん……」
「そんなのルルーシュくんが謝ることじゃないよ」
「だがレナ、俺は……」
 自分の馬鹿さ加減が許せそうにない。
「ううん、レナの言う通りだよ」
 うな垂れる俺の肩に手を置く魅音。彼女は俺が顔を上げると、微笑を浮かべながら首を横に振っていた。
「私はむしろホッとしているんだよ、ルル」
「何だと? それはどういう意味だ?」
 俺は妙なことを口走った魅音に先を促す。
「恥ずかしい話さ、さっきのルルを見て……私、あんたが沙都子の叔父を殺しちゃうんじゃないかって思ったんだよ」
「なっ……」
 魅音の言葉に動揺し、俺の心臓が跳ねる。まさかギアスの存在までは知られてはいないと思うが、流石魅音といったところか。
 俺が魅音の洞察眼に対して驚きの声を上げると、何を勘違いしたのか魅音は謝罪の言葉を口にした。
「ああ、ごめんごめん! ルルはそんな直情的に動かないよね!」
 魅音はギアス能力を知らないはずだ。とすれば、魅音は俺が自ら手を汚して鉄平を殺害するんじゃないかと思ったわけか。俺はそれを踏まえて魅音へ言葉を返した。
「当たり前だろう。この俺がそんな愚かな真似をするわけがない」
 仮にそうしたとしても、俺では返り討ちに遭うのが目に見えてる。勝てない戦はしないのが俺の主義だからそれは絶対にあり得ない。
「そうだよね。もしやるにしてもルルなら完全密室殺人とか考えそうだし」
 魅音は微笑んだまま舌をぺロッと出す。
「はっ……まさか。密室殺人などミステリー小説の中の話だ。あれは娯楽であり、解かれることが前提条件としてあるものだろう。実際にやる馬鹿がどこにいる」
 俺の言い様が面白かったのか魅音が吹き出した。
「あはは、やっといつものルルに戻ったね!」
「……なに?」
 意図が分からず聞き返すと、魅音は真顔になって答えた。
「余裕のないルルなんて嘘だよ。そうやって大物振ってるほうが似合ってる」
「魅音……」
 そうか、魅音は俺を元気付けようとしていたのか……。
 俺は苦笑混じりに魅音と微笑を向け合った。
「……そうなのです、ルルーシュ。貴方には僕に希望を見せびらかした責任がある。こんなことぐらいで挫けるなんて許さない」
 今まで傍観するだけだった梨花が初めて口を開く。
 そして歌うように続けた。
「だから、貴方はいつも通りの貴方でいてください。いつも通りの……自信たっぷりで皮肉屋のリアリストな貴方で」
 ふっ……ひどい言われようだな。
「でも本当は他人のために優しくなれる理想主義者。それがルルーシュくんなんだよ」
 レナが言葉を付け加える。
 理想主義者云々というのは気に入らないが、レナたちの励ましは嬉しかった。少し心が楽になったようだ。
 ならば、俺もその気持ちに応えねばならないな。
「そうだな、落ち込んでばかりはいられない。沙都子の説得は後回しにして次の手を考えるとしよう」
 その場にいる皆が一様に頷いた。


164:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/05/22 22:45:29 P3wrH08R

 北条宅からの帰り道、俺はそのまま皆を自宅に招き入れた。沙都子を助けるべく、皆で話し合いをするためだ。
 ナナリーは風邪のため二階の自室で寝込んでいるので、話し合いは一階のリビングで行われた。
 様々な意見が飛び交う中、俺は皆の意見を拾い集め、次なる手を考えてゆく。
 ところが思いつく策は途中で手詰まりするものばかりで、とてもじゃないが沙都子を救い出すことは叶わない代物だった。
 故に、結局俺が至った解決策は至極シンプルなものとなった。
「―やはり、元を断つしかないな……」
「ルルーシュくん、それってどういうこと?」
 レナが不思議そうに訊ねてくるが、俺はそれに構わず魅音に視線を向けた。
「正直に言おう。沙都子の問題を面倒にしている一番の原因は魅音、お前の家だ」
「え……?」
 魅音が顔を引きつらせる。どうやら少しは自覚があったらしいな。
 皆を見渡してから俺は続けた。
「沙都子の問題は元を辿れば、過去の雛見沢サクラダイト発掘における北条家と園崎家の確執に繋がっている。北条家の村八分……それを取り除きさえすれば沙都子を救い出すことが出来るはずだ。違うか?」
 魅音が俯きながら言葉を零した。
「無理だと思うよ……。私の家が原因なのは認めるけど、他の手を考えたほうがいい……」
「それは何故だ?」
「口で言うほど沙都子に対しての村人の差別は浅くないんだよ」
 魅音の代わりにレナがその先を続ける。
「たしかに、村の皆の心を変えることが出来れば話は簡単だよね。けど、彼らはお互い疑心暗鬼になっているの。沙都子ちゃんへの差別をやめたら今度は自分が村八分の対象になるんじゃないかって……」
「ふん、なんだそういうわけか。そんなことは百も承知だ」
 そう俺が答えると、今度は梨花が口を開いた。
「だったら分かるでしょう? 村の皆の心を変えたいのなら村の人口2000人あまりを全て説得して回るしか手がないのです。それも、沙都子の心が壊れるまでに……」
 皆が押し黙り、沈黙がリビングを支配する。
 そんな重苦しい空気の中、静寂を破るよう俺は不敵に笑った。
「ふっ、村人2000人? 馬鹿を言うな。誰がそんな非効率な方法を取ると言った?」
「ルルーシュ、それはどういうことなのです?」
「分からないか? 俺たちが説得する相手は一人でいいんだ」
「ま、まさか……?!」
 梨花が俺の意図を読み取り、驚愕の声を上げる。
「そうだ、俺たちの相手はただ一人。魅音の祖母であり、この雛見沢の支配者―園崎お魎だ」
「「え~っっっ!!」」
 リビングから二階に居るナナリーへと届かんばかりの声が響き渡った。

 ―タイムリミット;オヤシロさまの祟りまで後4日。


165:名無しさん@お腹いっぱい。
09/05/22 23:10:43 ulFpYc9t
>ルルはそんな直情的に動かないよね!」
ルル、普段の行動を振り返ると心が痛いww

うっかり使ったギアスが後でウボァー!が、ここで来るとは盲点でした。
間とか運とかすれ違いで、ままならないの上等なギアスですが、
こっちは紆余曲折してもハッピーに終われるといいなぁ。

166:名無しさん@お腹いっぱい。
09/05/22 23:44:13 +8mhRODm
投下乙!
必要なときに役立たず、いらんときにかぎって発動するのがギアスですなw
ブリキなルルーシュは原作で言えばダム会社の人間が敵地に乗り込むようなもんだし、
VSお魎でどう話が動くのか期待が高まりますぜ。

167:名無しさん@お腹いっぱい。
09/05/23 00:49:21 Frahf1wd

続きが気になりすぎて悔しい

168:名無しさん@お腹いっぱい。
09/05/24 01:50:23 sLlmubPj
そうだぁ!ただのゴロツキなわけないだろ、てっぺいだよ、
家帰っちゃったらやばいよ!って思ったはずなのに見事に忘れてた!
すごいね、ますますわくわく展開だよ。
楽しみにまってるよ。

169:名無しさん@お腹いっぱい。
09/05/24 01:52:28 DoDXohNZ
糞スレ終了

170:名無しさん@お腹いっぱい。
09/05/24 21:12:49 /Fr0RCE4
ギアスの無駄遣い笑ったw
支援ですwwwww

ここ見てて、自分もひぐらしギアスやりたくなってきた…
部活メンバーとルルーシュが組んで反逆したら最強そうだよな
レナ「はぅ~。トリスタンかぁいいよぉ!! お持ち帰りぃ~!!」
ジノ「な、何か今、寒気が…」

171:名無しさん@お腹いっぱい。
09/05/25 13:45:38 6kH2Oatt

             /)
           ///)
          /,.=゙''"/   
   /     i f ,.r='"-‐'つ      こまけぇこたぁいいんだよ!!
  /      /   _,.-‐'~/⌒  ⌒\
    /   ,i   ,二ニ⊃( ●). (●)\
   /    ノ    il゙フ::::::⌒(__人__)⌒::::: \
      ,イ「ト、  ,!,!|     |r┬-|     |
     / iトヾヽ_/ィ"\      `ー'´     /


172:名無しさん@お腹いっぱい。
09/05/25 14:06:13 6kH2Oatt
誤爆

173:名無しさん@お腹いっぱい。
09/05/25 14:07:56 6kH2Oatt
した

174:名無しさん@お腹いっぱい。
09/05/25 14:15:26 KaRqu49L
だが許さぬ

175:名無しさん@お腹いっぱい。
09/05/29 01:28:12 0WdUO1Iv
>>170鉈ドムぽい無頼に乗るレナ

176:名無しさん@お腹いっぱい。
09/05/29 01:58:59 vIRvyM7B
ナイトメアの首とか庭におもちかえりされてたりな

177:名無しさん@お腹いっぱい。
09/05/31 01:03:38 TsHX+Hv2
支援。

178:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/05/31 12:58:41 N0Vry+jI
さて、そろそろ鉄平編も佳境かな。皆支援さんくす
まずはコメ返しから。全員に返せなくてすまそ

>>165>>166
今のところは紆余曲折で皆編のような流れになるかと思うけど、デッドエンドにはしない予定。
まだどうなるか分からんが応援よろしく頼む。

>>167
ありがとう。
一言でもコメがあると嬉しいぜ

>>168
複線を所々に散りばめようとしたためうpが遅れているが勘弁してくれ。
だが、こういう複線を張って回収するときが一番楽しいんだよな



179:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/05/31 13:00:15 N0Vry+jI
【10】

 皆との話し合いの次の日。
 ナナリーの病状はだいぶ落ち着いて来た模様。もう起き上がって食事も可能だそうだ。
 しかしまだ咳き込んでいるところを見ると、風邪をぶり返す恐れもあるので学校には行かせられない。今日こそは学校に行くと意気込むナナリーだが大事をとって休ませるとした。
 ちなみにナナリーには沙都子の件は伝えていない。伝えても余計な心配をかけるだけだ。ナナリーは目が見えないし、黙っていれば気が付かれる前に沙都子の件を処理することが出来るだろう。無論、今日中に方を付けるつもりだ。
 まず俺たちは普段どおり学校に登校し、留美子に沙都子の現状を報告することにした。無論留美子に話をした程度で沙都子を助けられはしないだろうから、彼女には俺たちが沙都子を助けるために動いているということを認識してもらうだけでいい。
 皆で留美子の居る職員室に押しかける。
「―というわけです、知恵先生」
「そうだったんですか……。ナナリーさんが風邪で休んでいますから、てっきり私は沙都子ちゃんも同じ理由で休んでいるとばかり……」
 留美子は生徒の異変に気づけなかったことに酷く落ち込んでいるようだ。
「たしか、沙都子の叔父には電話で病欠って言われたんでしたね?」
「はい……私はそれを信用しきっていました。そういうことならば、すぐにでも家庭訪問をして確認を取るべきですね」
 さすが生徒想いの留美子だ。すでに事態を重く見ている。だが今は留美子には動いてもらいたくはない。
「すみませんが、それは止めていただきたいですね。今は下手に叔父を刺激するべきではありません」
「で、ですが今はそんな悠長なことを言っていられる状況ではありませんよ!」
 落ち着きなく声を荒らげる留美子。彼女は生徒のために何かしなくてはと躍起になっている。
 俺は声のトーンを落とし、留美子をなだめるように言った。
「そうですね、事態は一刻の猶予もありません。ですが知恵先生、生徒を大事に想うその心はとても尊敬できますが、そのように熱くなっていては適切な判断ができないと思います。ですから、この件は僕たちに任せていただけませんか」


180:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/05/31 13:00:56 N0Vry+jI

「貴方たちに?」
 俺の提案に留美子がきょとんとして聞き返してきた。
「ええ。僕たちはすでに沙都子を叔父の手から救出する算段がついています」
「なんですって? 一体何をするつもりですか」
 留美子は俺たちが何か良からぬことを企んでいると思ったらしい。すかさず俺は彼女の考えを首を横に振って否定した。
「大丈夫です、知恵先生が思っているような物騒なことは考えてませんよ」
「では、どうすると言うんですか?」
 留美子は安心したのか、少しだけ表情を和らげ先を促す。
 決まっている。園崎お魎が沙都子を認めれば、村人の冷遇も自然消滅する。何も村人全員を説得する必要はないのだ。難しく考える必要はない。園崎お魎の説得、この一手ですべての障害はクリアされるのだから。
「この村の有力者、園崎お魎を味方に付けようと思います」
「え、それは一体どういうことです?」
 ん……そうか。留美子は沙都子の問題が如何に複雑なものになっているのか知らないというわけか。……よくよく考えてみればそれも当然だな。大切な生徒が村八分などされていると知っていたなら、留美子はすでに大騒ぎをしてこの村には居られなくなっていることだろう。
 何にせよ、沙都子の問題の裏事情を留美子に一から説明し且つ納得させるのは骨が折れる。
 それに教師という存在はここぞという時には役に立たないのだから居ても邪魔なだけだ。そんな無駄な時間を割く余裕は今の俺たちにはない。
 俺は留美子の疑問には応えず、一気にまくし立てた。
「そのために今日魅音の家にお邪魔しようと考えているのですが――学校が終わってからだと遅くなりますし迷惑なので、今から訪問する許可を頂けませんか」
 俺はその返事を待つことなく、留美子の瞳を見つめて次なる言葉を紡ぎ出した。
「なに、大船に乗った気持ちで待っていてください、知恵先生。
 "貴女はただ外出の許可を出し、俺たちを見送るだけでいい"」
 歌うように紡いだ言葉にギアスをそっと乗せて。
 ――。
 ――――。
 ………………。
 一瞬のタイムラグの後、留美子は再び口を開いた。
「……そうですね、北条さんの件はルルーシュくんに任せることにします。よろしくお願いしますね」
「分かりました、ありがとうございます」
 内心ほくそ笑みながら、うわべだけのお礼を言う。
 これでもうここには用はなくなった。
 踵を返して職員室を後にしようとすると、背後では魅音とレナが顔を見合わせていた。普段の留美子なら自分も同伴すると言い出すはずだからである。
 妙にあっけなく留美子が引き下がったので拍子抜けしているのだろう。無理もない。
 職員室を出てすぐ、
「一体どんな魔法使ったの?」
 なんて魅音が間抜け面で聞いてくるものだから、俺は笑いをこらえてこう答えてやった。
「馬鹿言うな、この世にそんなお手軽便利な力があるわけないだろう?」 


181:名無しさん@お腹いっぱい。
09/05/31 13:42:03 hLVDP9Li
乙 頑張って

182:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/01 03:05:09 ZluHTqwb
なんか、ナナリーの風邪ってのが気になってきたぞ。
…ほんとに、ただの風邪、なのかな、かな。

183:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/01 03:20:47 Q8N7ClEw
さいきんせきどめがてばなせなくなってきた……

184:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/06/06 15:39:27 l47lOoRR

 留美子に外出の許可をもらった俺たちは大手を振って魅音の家、園崎本家に向かった。
 魅音に仲介役を頼み、本家の車寄せで待つ。何しろアポなしの俺たちだ。魅音には精一杯頑張ってもらわないといけないだろう。
 小一時間待ち、太陽が西へと傾きかけた頃―魅音がようやく屋敷から出てきた。玄関から車寄せまで少しばかり距離があるから、小さく手を振っている姿だけが遠めに見えた。
 魅音は俺たちの近くまでは戻らず、皆に見えるよう大きく両手で円を作ってオーケーのサインを出す。どうやら面会の承諾が取れたようだ。
 俺たちは顔を見合わせて示し合わせるように魅音に駆け寄った。
「魅音、面会は可能なんだな?」
 念のため確認すると、魅音はこくんと頷いた。それから苦笑しながら全員の顔を見回して聞いた。
「けど、うちのばっちゃは怖いよ。覚悟はいい?」
 皆が一様に深く頷いた。
「愚問だな。沙都子を必ず助けると誓った俺たちだ、覚悟などとうに出来ている」
「それもそうだね、失敬失敬!」
 魅音が冗談めかして言う。
 レナが静かに口を開いた。
「それで、魅ぃちゃん? 魅ぃちゃんのお婆ちゃんはどこで待っているのかな」
「……ばっちゃの寝室だよ。あまり体調が良くないみたいだから、面会時間はあまり多くは取れないと思う」
「そうか、なら尚更手段を選んでいる暇はないな」
「ルルーシュ、それはどういう意味です?」
 俺の独り言気味の言葉に対し、思いのほか梨花が強く反応を示した。だがそれには答えない。
 俺は一人歩き出すと玄関の戸をからりと開け、後ろを振り返った。
「もたもたするな、行くぞ。分かっていると思うが、時間が経つにつれて状況は刻々と悪くなるんだからな」
 

185:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/06/06 15:41:35 l47lOoRR
 魅音の案内のもと、俺たちはお魎の寝室に向かった。長い廊下を一列に並んで進む。皆、終始無言だった。
 しばらくして廊下の突き当たりを右折すると、部屋の前に二人の黒服の男が立っているのが見えた。どうやらそこがお魎の待つ寝室らしい。
 魅音が男たちに近寄ると彼らは頭を下げ道を譲った。
 魅音に続く形で入室すると、すでに俺たち以外の皆が揃っていた。入るなり彼らからの視線の一斉射撃を食らう。
 園崎天皇とまで呼ばれるお魎その人は、布団に入ったままクッションのようなもので上体を支えながら偉そうに俺たちを見つめている。その鋭い眼光はさすが園崎頭首である。
 ところが鋭い眼光は彼女だけでなく、その場にいた五人の重鎮らしき人物らも発していた。その一人は着物を着こなした女性―魅音の母親、園崎茜である。
 着席すると魅音が俺たちをその場にいる全員に紹介する。それが終わると早速本題に入った。
 代表の俺が今までのいきさつを説明している間、ずっとお魎は厳しい顔をしていた。
「―以上。現在、沙都子は村人によって不当な差別を受け、また叔父によって危害を加えられている。沙都子を助けるため、その問題の根幹である園崎家と北条家の確執を解消してやって欲しい」
 一通り言い終えた後は黙ってお魎の返事を待つ。お魎は隣にいる魅音の母親の茜に聞こえる程度の声量で何かを言った。俺の位置からじゃボソボソとしか聞こえないのが腹立たしい。
 仕方なしにしばらく待っていると、茜がお魎の言葉を代理で口にした。さらりと簡潔に。
「駄目だとさ」
 やはりそう来たか。
 しかしそれで『はいそうですか』と帰るわけにはいかない。
「……何故です。北条家の罪は沙都子の両親が亡くなった時点で償われたはずだ。沙都子には一切の関係がない。にも関わらず、今も彼女が村中から不当な冷遇を受け続けているのは園崎家の罪ではないのか?」
「あたし達の罪だって?」
「その通りです。北条家側はすでに贖罪されている。ならば、今度は園崎家が贖罪をする番ではないのか」
「つまり極道なら仁義を通せと、こういうわけかい。ブリタニアの坊やが言うじゃないか、くっくっく」
 俺の言い分を聞き、茜が嘲る。それが癪に触り、俺は目を細め茜を睨んだ。
「何かおかしい所でも?」
 茜は人に睨まれることなどとうに慣れているのだろう。なお笑いながら言葉を返してきた。
「くっくっく、そりゃおかしいさ。坊や……ルルーシュ君と言ったねぇ。お前さん、考えがずれているよ」
 何だと? そいつは一体どういうことだ。
 俺は焦りを悟られないよう落ち着いて先を促した。
「ずれているとは?」
「分からないかい? 北条家の罪がすでに償われているなんてことはない、故に私たちも仁義を通す必要がないってわけさ」
「しかし北条夫妻は……!」
「そう、確かに亡くなった。だけどねぇ、彼らは本家に謝罪に来たわけでもなく、ただ勝手に事故で死んだだけさ。償ったわけではないだろう?」
「っ……」
 俺は茜の物言いに耐えかねて、思わず唇を噛んだ。
 許して欲しいのなら死んだ人間に謝まらせろと園崎家は本気で言っているのか。そんなことは不可能だ。
 ならば代わりに沙都子に謝らせろという論法か? それこそあり得ない! 昨日の沙都子の精神状態では軽く頭を下げることすらも難しい!
「…………」
 そこまで考えて俺の心は急速に冷めていった。
 ……そうか。お前らがそのつもりならば使ってやろう、絶対遵守の力を。
 魅音の家族だからあまり使いたくはなかったが、こうなればそうも言ってられない。お前らには全力で沙都子を助けろという命令を遵守してもらう。
 俺は座ったままお魎と目を合わせるとギアスを開放する。
 ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じ、
「おおっとそこまでだ。何をするつもりか知らないけどね、それ以上勝手したら容赦しないよ」
 ――それは、俺がギアスを発動させようとした瞬間の出来事だった。茜は俺の喉を貫く寸前で日本刀の切っ先を静止させていた。
「喋っても殺す。立ち上がっても殺す。娘の友達だからといって容赦はしない、躊躇なく殺す。だから間違っても、決して動くんじゃないよ」



186:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/06/06 15:43:27 l47lOoRR
 
 まさかギアス能力を気取られたというのか。俺は想定外の事態にいつもの冷静さを保つことが出来ない。
「お、お母さん?! 何しているの!」
 思い出したように魅音が悲鳴に近い声を上げる。俺も魅音と同様に叫び声を上げたい気持ちで一杯だったが、恐怖で悴んで言葉が出なかった。
 もっとも、それが幸いして俺は喉を貫かれることなく、未だ生きることを許されているのだが。
「いやなに、この坊やから酷く嫌な気配がしたんだよ。例えるなら暗殺者が自慢の一撃で標的を狩る時のような、さ。ほら、やられる前にやるのが極道の定石ってもんだろう?」
「やめてよ! ルルが何をするって言うの!」
 茜は魅音の必死な嘆願にも眉一つ動かさず、刀を俺の喉元に当てながら淡々と答えた。
「このブリタニアの坊やが何をするか、それはあたしには分からないさ。けどね、この坊やが”たった今やろうとしたことを諦めない限り”、あたしは刀を引く気はないさね」
 どうやらギアスそのものの正体を掴まれているわけではないようだ。
 茜が感じているものは気配。正体不明の力―ギアスを阻止出来たのも、極道を貫き、死線を幾つも潜り抜けて磨いた洞察眼の賜物だろう。
「ルルーシュくん!」
 茜と俺の間に入ろうとレナたちがすっと立ち上がるが、周囲に座っている重鎮たちが彼女たちを拘束した。
「話はしまいだね。そろそろ帰ってもらおうか」
 しばらくして茜が告げる。
 くそ、馬鹿げている……。こんな何も解決していない状況で引き下がることなどできるものか。
 このままでは沙都子は一生消えない心の傷を負うことになる。そうなれば俺たちは痛々しくも壊れた沙都子を目の当たりにし、無力だった自分自身を呪いながら生涯苦悩し続けるだろう。……そんな世界を認めるわけにはいかない、絶対に。
 俺はもう誰も失いたくないんだ。
「だから――」
 咄嗟に茜の日本刀の刃を右手で鷲掴むと、俺はそのまま喉元から切っ先を逸らした。手のひらから鮮血が流れ、痛みと共に腕を伝うがさして気にはならない。
 茜は俺がそのような真似をするとは夢にも思わなかったのだろう、ぎょっとして身体を硬直させていた。この時ばかりは流石の茜も動揺を隠せなかったらしい。
「アンタ、一体何してるんだい……使い物にならなくなる前に、早くその手を離しな!」
 そう叱り付けながら俺を見下ろすその顔は酷く青ざめていた。
 一方、俺の頭はむしろ頗る冷静だった。茜の僅かな隙を突き、お魎に向けて吼えるようにギアスを叩き付けた。

「"沙都子を、助けろッッッ"!!」



187:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/06/06 15:47:57 l47lOoRR
今のとこ総投稿文字数5万文字。思えば遠くまで来たもんだ

188:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/06 19:07:25 sbrOvZEX
面白い
支援

189:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/06 20:06:46 Gqzq/kjR
素直に格好いいシーン(;´Д`)ハァハァ

190:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/06 21:13:44 VC17pWFR
茜さんかっこいいな

191:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/06 23:27:39 5XlYTUhV
カッケーwktk

192:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/07 01:07:11 YfJc6bDS
続きが楽しみすぎて
ケツからウンコがとまらない

193:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/07 02:35:25 UhSDtinZ
つづきをっ つづきをっ ああああああいああ

194:ブリタニア住人
09/06/13 18:50:20 T1jOEUXF
ルルーシュかっけー!!続きが気になるw

195:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/15 01:30:21 Cf/SRT/H
つづきマダー?

196:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/15 23:37:40 k1jajqSG
まだ二週間目に突入したところじゃん

197:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/16 23:38:16 NQmORUrH
とりあえず保守

198:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/19 21:58:31 qvRdnCdn
シエンタ

199:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/06/20 09:53:30 kVQipzlM
コメサンキュー!
遅れたけど次レスに投下するよ。
本当はもう少し書き溜めてからうpにしようかと思ってたけど、
期待して待っててくれる人がいるなら話は別なんだぜw


200:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/06/20 09:55:22 kVQipzlM
【11】

 ギアスの効果によって、お魎は沙都子を助けることをあっさりと承諾した。それから程なくして話し合いはお開きとなった。
 茜はお魎の態度の急変に戸惑いつつも、黒服を身に纏った葛西という男に今から北条家に向かうよう指示を出した。
 葛西は短くはいと言葉を返し、黒服の男を数人連れて屋敷を出て行く。俺は縁側に座ってそれを眺めていた。
「ふっ、何をするかは知らないが、可能な限り平和的に解決して欲しいものだな」
 手のひらに出来た刀の傷の手当てをレナにしてもらいながらそっと呟く。
「しっかしルルも無茶するよねー」
 傍らで魅音が呆れたように言う。
 まあ、たしかに俺にしてはゴリ押しの解決法だったがな。
 手当てが終わってからレナが頬をぷくっと膨らませた。
「本当だよ。レナは怒ってるんだからね。幸い軽傷で済んだけど、下手したら手首から上がなくなってもおかしくなかったんだよ、だよ」
「む……それは困る、無事で何よりだった」
 あれは出来るだけ刃先に触らないように気をつけた上での演出なのだから、本当に大怪我をしたら間抜けもいいとこだ。
「ま、そのおかげでばっちゃを説得できたんだけどさ」
 魅音が場を和ませようとからからと笑った。
 どうやら魅音は俺の大立ち回りよりお魎の気持ちが動いたと思ったらしい。好都合だ、他の皆も同様の勘違いをしてくれる嬉しいんだがな。
 さて、村人による沙都子の冷遇も今日中にはなくなるだろう。まだ沙都子が救出されたわけではないが、この件は園崎家と魅音たちに全面的に任せておけばいい。
 問題は三日後の綿流しの日に起こるとされるオヤシロさまの祟りだ。まだ何も対策が打てていない状態で肩の荷を下ろした気にはなれない。
 結局この村に住むギアス能力者の正体は分からず、下手に動くことも出来ない。残された時間も僅かだ。
 これからどうするべきか……。
 今後の指針を考えている時、背後から突然名前を呼ばれた。
「ルルーシュ」
 振り返ると梨花が立っていた。
「なんだ、梨花か。どうかしたか?」
「貴方に話があるのです」
「俺に?」
「はいです。少しその辺まで付き合ってくださいなのです」
 改まって一体何の用だろうか。
 沙都子の件か? それとも何か別の―。
 一旦は思考を巡らせてみたものの、梨花に直接聞けば答えが出る話なので馬鹿らしくなって考えるのをやめた。
「分かった。では場所を移そう」
 梨花はこくんと頷くと踵を返し、一人歩き出した。その後ろを黙って着いて行く。
 進行方向から玄関へ向かっていると分かる。おそらく外に出て、屋敷の庭園で話をするのだろう。
「駄目だよルル、幼女に妙な真似しちゃ! くっくっく!」
 背中越しに魅音の軽口が飛んで来たが無視しておくとしよう。


201:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/06/20 09:56:54 kVQipzlM
 案の定、移動した先は園崎家の庭園だった。その造りはブリタニア人の俺ですら美しいと思えるほど完璧で非の打ち所がない。
 まだ日本にこのような場所が残されていたのか。思わず息を飲む。
 しばらく歩くと大きな池が目の前に飛び込んでくる。俺はそこで歩みを止め、梨花の背に声をかけた。
「おい梨花。……それで? 話とはなんだ」
 いつまで経っても話を切り出さない梨花に痺れを切らして先を促す。
 梨花は逡巡した後、静かに口を開いた。
「そうですね、ここならば盗み聞きされることもないでしょう」
 いつもと違う口調で喋る梨花に違和感を覚えながらも、俺は冗談交じりに言葉を返した。
「フッ、そんな秘匿性の高い話をされるほど俺はお前と深い仲だったのかな?」
 梨花は顔を真っ赤にして慌てて否定するとばかり思っていた。ところが、実際に彼女のとった態度は俺の予想を遥かに裏切るものだった。
 長く艶のある黒髪をふわりと撫で上げると梨花は心底おかしそうに笑みを浮かべながら言った。
「ええ、そうね。たしかに私と貴方はある意味深い仲と呼べる間柄かもしれないわね、くすくす」
「……どういう意味だ」
 まさかこいつは……。
 咄嗟に最悪のケースを頭に思い浮かべて身構える。
 そうでないことを切に願って。
 だが―梨花の返答によって、俺の願いは完膚なきまでに裏切られた。
「驚いたわ。ルルーシュ、貴方もギアスユーザーだったなんてね」
 その言葉を捉えるなり、梨花を敵と判断する。現状ではオヤシロさまの祟りはコイツの仕業である可能性が高い。俺は可能な限り迅速にバックステップにて梨花との間合いを取った。


202:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/20 09:59:12 Z/rkbRlZ
フハハハハハ、来た、来たぞぉぉ!

203:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/20 11:38:03 g1SUsZAE
続きをplease

204:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/20 14:43:43 bbp9WEg8
くそぉお続きが気になるぅう

205:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/20 15:57:34 AlcJoGL4
ギ・ア・ス・きたぁ!

でもギアスユーザーはりかちゃん自身じゃなくね?
…うー気になるー

206:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/20 16:11:50 anQtLJW0
更新乙!
梨花がギアスユーザーってことは羽生はコード持ちなのかね。

207:名無しかわいいよ名無し
09/06/20 17:49:21 Tntx8sc5
初スレで、ギアススレを回ったらたどり着いたので一気に読ませていただいた

何 こ の お も し ろ さ

全力で支援させていただきます
続きが気になるwwwww

208:名無しかわいいよ名無し
09/06/20 18:10:32 Tntx8sc5
すまん
初レスだった


209:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/21 02:01:32 NoOa2yIL
更新乙!
ギアスユーザーは梨花なのか、それとも?
それとここのギアス能力はなんだろう、続きが気になる

210:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/21 21:08:07 i8Ot1/dq
キター

211:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/22 18:40:07 Vj40hks+
乙です。
マリアンヌみたいな感じかな。
心じゃなくて世界を渡る、みたいな。

212:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/22 20:17:38 6JLfoluv
次はまだかぁああああ?
楽しみすぐるぁああああ

213:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/22 21:16:25 awFxVjAS
むしろ
「永遠に死に続ける」
とかじゃないだろうかw

214:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/24 17:17:47 RV3MGzat


215:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/25 12:59:00 QNu+hS4W
保守

216:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/26 07:28:22 NoEGGfhA
タンメン

217:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/06/27 11:24:08 2Vztb5Gj
なんかコメがどっさり来てて嬉しいぜ。
最近投稿がやけに遅いけど気にせず見てくれてサンキューな!
支援保守も感謝! レスは大歓迎だから荒らしでなければチラシの裏とでも思って書き込んでくれw
では次レスにうpするよ

218:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/06/27 11:35:01 2Vztb5Gj

 後ろに飛びつつギアスを開放させる。
 この間合いこそ、俺のギアスがもっとも上手く機能する距離。相手がどのようなギアスだろうと俺のギアスのほうが早く効果を発揮するはず。
「取った!」
「待ってルルーシュ!」
 絶対遵守の命令を発声しようとした矢先、突然梨花の制止の声が入った。
「私は貴方とやり合うつもりはないわ!」
「……どうかな。そう信用させた所で不意を突くんじゃないのか?」
「誓ってそんなことはしないわ。むしろ貴方のそのギアスで洗脳されないか怖いのは私のほうよ」
「ふん、こちらの手の内はすべて知られているということか」
「ええ、けれど何度も言うように貴方とやり合う気はないわ。だって戦う理由がないじゃない」
 戦う理由がない。本当にそうか?
「お前がギアス能力を使ってオヤシロさまの祟りを引き起こしていると考えれば理由は十分だ。次の標的はこの俺なんだろう?」
 自問自答の末、梨花の言い分を否定して間髪いれずに鎌をかけるよう疑問を投げかける。すると梨花は顔を真っ青にし、神妙な面持ちで聞き返してきた。
「……貴方、まさか発症しているわけじゃないわよね……?」
「一体何のことだ」
 発症……病院に行かない限り普段はあまり耳にしない単語だ。そのワードについて思いを巡らせてみたが、今優先すべきことはそれではないと考え直し、途中で思考を打ち切った。
 梨花を注意深く観察する。もし彼女が少しでも不審な動きを見せたら迷わずギアスを使うつもりだ。
「貴方……その腕の傷。……掻いたのね?」
「なに?」
 梨花に指摘されて腕に視線を移すと、右腕に引っかき傷が乱雑に刻印されていることに気がついた。
 おかしい。先程までこんなものはなかったのに。
 いつの間にか掻き毟っていた……?
 引っかき傷はすでにミミズ腫れとなっており、糸状に赤く膨れて血が滲んでいる。それを視認するなり、腕が強く疼き出した。遮二無二掻き毟る。
 まずい、このまま掻き続ければ重要な血管までも傷つけることになる……。それが分かっていながら自傷行為を止めることが出来ない。
「くっ……どうして急に腕が……。まさかこれがお前のギアスか?!」
「やっぱり……発症しているのね」
「発症とは何だ?! 答えろ!」
 俺は梨花をきつく睨みつけると、冷静さを欠いたまま厳しく追及した。


219:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/06/27 11:35:54 2Vztb5Gj

 梨花は酷く落胆した様子でため息を一つ吐くと重い口を開いた。
「……まず、貴方の腕の痒みは私のギアス能力のせいではないわ。原因はこの土地に古くからある風土病」
「風土病だと?」
「ええ、貴方が発症している病は雛見沢症候群と呼ばれている。発症者は疑心暗鬼に駆られ、周囲の言葉に耳を貸そうとしなくなる。次第に幻覚を見るようになり、身体の随所に痒みを覚え……いずれは凶行に走って絶命する。故に貴方は一刻も早く処置を受けるべきよ」
「そんな話、信じられるものか」
 病気ならば発病前に何かしら兆候が見られるはずだ。だがこの痒みは梨花と会話をしている間に突然起こった。
 梨花の話がまったくのデタラメで、コイツのギアス能力のせいだと考えるのが一番妥当だ。
「そうでしょうね……。一度発症して私の話をちゃんと聞いてくれた人は今まで誰もいないもの。……この世界には期待していたのだけど、こうなっては終り、ね」
 そう呟くように言うと、梨花はポケットから何かを取り出した。
 あれは……注射?
「これは貴方の痒みを止めることが出来る治療薬。もし使いたければあげるわ……。ま、信じる信じないは貴方が決めることだけど」
 梨花は注射を指で玩びながら、さらに続けた。
「それでも最後にもう一度だけ。ギアスユーザーとではなく、貴方の仲間として説得させて欲しい」
 ……。その表情はなんと悲痛なものだろうか……。
 心がずきりと痛む。
 いや、騙されるな。これは情に訴える梨花の作戦だ。注射の中身は治療薬なんかではなく、おそらく俺を絶命させるための毒薬に違いない。
 しかし……もしも梨花の言葉が本当に―だったら……?
 馬鹿、甘い考えは止めろ。今目の前にいるのは仲間なんかじゃない、俺を殺そうとしている敵ではないか。すでにギアスの先制攻撃を受けている。もはや確定的なはずだ。だが……でも。
 信じたいのに、信じられないまま……唇をぎゅっと噛み締め、梨花の言葉に耳を傾ける。
「私は貴方の敵ではない。考えてもみてよ……私が沙都子を助けてくれた恩人の貴方とやり合う理由がどこにあるっていうの。ルルーシュ、お願い……私を、信じてよっ……」
 梨花の瞳からは一抹の涙が零れ落ちる。俺は無意識にそれを目で追った。
 彼女の涙は夕焼け色に煌きながら、すうっと地面に溶けてすぐに見えなくなった。その一瞬の情景が酷く心に残り、胸を強く締め付けた。
 …………。
「……駄目だ。信じられない」
「そう……」
 分かっていたことなのか、梨花は至極簡単に諦めの色を見せた。それでも肩はうな垂れ、失望した様子がありありと見て取れる。しかし、そんな態度を取られても到底信じられるわけがないのだ。
 だから俺は梨花の瞳を覗き込み、彼女に対して絶対遵守の力を発動させた。


220:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/27 11:50:32 MtDzMdiN
ルルーシュ踏ん張りどころ
おしまいなのか理性保てるかドキドキするね

221:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/27 20:24:06 WIkAYlxk
投下乙!
ルルーシュの発症フラグがまだ消えてなかったのはちょっと意外

222:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/27 21:19:13 t9EC6U9z
支援。

223:名無しさん@お腹いっぱい。
09/07/03 18:49:52 4cRBM3ho
ほしゅっ

224:名無しさん@お腹いっぱい。
09/07/08 16:20:16 JQt44Ndk


225:名無しさん@お腹いっぱい。
09/07/09 14:32:11 0k4WwTKs
つづききになり

226:名無しさん@お腹いっぱい。
09/07/10 09:34:37 SgGl7u83
アゥアゥアゥ


はだしのゲンかい!

227:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/07/11 09:08:16 sdUKfmce
やっと形になった…遅れてすまん。
投下するけど次回はさらに遅れるかもしれんな…
コメさんきゅ

228:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/07/11 09:10:32 sdUKfmce


 呆然と立ち尽くした俺の手には、梨花から貰い受けた注射が使用済みの状態で握られていた。
 自らの取った選択を振り返る。
 疑心暗鬼に取り付かれた俺が取った行動は仲間に対してギアスを使用することだった。
 その遵守内容は腕の痒みを止める手段を提供させること。ギアス能力は絶対であり、嘘をつくことができない。それが疑心に狂った俺の命綱となった。
 ギアスに心を奪われた梨花は一瞬見動きを止めた後、すぐさま俺に注射を手渡してきた。
 受け取った注射を打つと腕の痒みはぴたりと止まり、頭は霞が晴れたように鮮明になった。この時ようやく俺は梨花の言うことが真実で、自らが雛見沢の奇病とやらに感染していた事実を認識できた。
「しかし病気に侵されていたとはいえ仲間を疑ってしまうとは……」
 梨花は未だギアスの効果によって放心状態だ。しばらくすれば開放されると思うが……ギアスに保証はない。最悪このままかもしれないと思うと、仲間に対しギアスを使ってしまったという後悔と自己嫌悪が募る。
「……ルルー、シュ……?」
 意識が戻り、俺の名を呼ぶ梨花。何が起こったのか分からず酷く困惑しているようだ。
 そんな梨花の様子にほっと安堵のため息をついたものの、俺はすぐさま謝罪の言葉を口にした。
「……すまない梨花、ギアス能力を使わせてもらった。あの場合そうせざるを得なかった……」
「ルルーシュ……いえ、良くやってくれたわ」
「……怒らないのか?」
 梨花は長い髪をなびかせながらふるふると首を横に振った。
「そんなわけないじゃない。ギアスで殺されるか、操り人形にされるか。いずれにしろ貴方を正気に戻すことは叶わないと思ってたもの」
 そこで一旦言葉を切り、梨花は俺に問う。
「それで……貴方の雛見沢症候群のほうは治まったと考えていいのね?」
 激しかった腕の痒みは収束し、疑心の炎は消え去っている。もう平気だろう。自分の体調を分析してから言葉を返した。
「ああ、問題ない。疑ってすまなかった、お前の話は真実だったんだな」
「よかった……」
 そう呟くように言うと、梨花はその場にぺたりと座り込んだ。
「それで? 自らの正体を明かして一体どういうつもりだ。まさかギアスユーザー同士の同窓会ってわけでもあるまい」
「ええ、違うわ。これから貴方の力を借りる上でお互いの秘密は共有すべきかと思ったのよ。もっとも、そのせいで大変なことになるところだったのだけど」
「力を借りるだと?」
 梨花は深く頷いてから言葉を連ねた。
「そうよ、ルルーシュ。貴方がこんなにも力強く心優しい人間としてこの雛見沢に来たのは今回が初めて。私はこのチャンスを逃したくはなかったの」
「……どういう意味だろうか」
 俺の問いかけを聞いているのかいないのか、梨花は独りごちるように言葉を紡ぎ続けた。
「今までの貴方なら、まず沙都子を助けようなどと考えはしなかった。
 ルルーシュ・ランペルージにとって仲間は退屈な日常を紛らわすためだけの存在であり、例え仲間が危機に陥っても、対岸の火事を見ているかのように『ああそうか』と思うだけだったはず。
 何が貴方をここまで変えたのか分からない。けれど……ただ一点、私にはこの世界が奇跡であると分かる」
「梨花、話が見えない。順序立てて説明してもらおうか」
「そうね、ごめんなさい。さて……どこから話せばいいのかしら」
 梨花は自分の置かれている立場を淡々と話し始めた。


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