09/09/12 12:24:15 kEGuErho
入江は一度静かに口を結び、再び口を開いた。
「ですが、それはまず起こりません」
「何故です?」
「そういう事態に備えて緊急マニュアルというものがあるんです」
「緊急マニュアル?」
それは初耳だった。おそらく梨花も知らない情報だろう。詳しく聞く必要がある。
入江は表情をさらに強張らせた。
「……これは、古手さんにとって刺激の強い話です。彼女にも内緒にすると約束……いえ、誓ってください」
「ええ、分かりました。誓います」
強く念を押してくる入江に俺は深く頷いた。
無論そのような約束は反故だ。入江には悪いが梨花とは協力体制を取っているのだから、どんな気分を害する情報であれ伝える必要があるし、中には梨花が知ることによって初めて意味を持つ情報もあるだろう。
入江は俺が即答したことに誠実さを感じたのか、こくりと頷き返し、ゆっくりと話し始めた。
「先ほどお話した通り、女王感染者は云わば爆弾の導火線なんです。その爆弾は爆発すれば恐ろしい事態が起きてしまう。……それを非人道的に処理するのが通称、滅菌作戦と呼ばれる措置です」
「非人道的に処理? ……っ、入江先生それはまさか!」
入江はわざと言葉を選んで直接的な表現を避けているが、俺には彼の言いたいことが十分すぎるほど理解できた。
入江は何を言うでもなく、ただ深く頷いて俺の想像を肯定する。その様子を見て取って、俺はある種の絶望を抱かずを得なかった。
やはり非人道的な処理方法とはそういうことなのか……。
もし仮に爆弾が破裂すると大変なことが起きると分かっているならば、爆発する前にその問題の爆弾を摘出してしまえばいい。
摘出とはつまり……感染者の完全な消去。皆殺し。大虐殺となるわけだ。
緊急マニュアル三十四号―滅菌作戦とやらが発動すれば、誰が何をしようと間違いなく雛見沢は終わる……。
いや、ここは恐れ慄いている場合じゃないはずだ。梨花殺害の動機は十中八九この件が関係している。未だ動機は不明だが、上手くいけば梨花殺害の犯人の正体に近づけるかもしれないのだから。
「もしその事態が起きたとして、得する人間はいませんか?」
俺は思い切って、さらに踏み込んだ質問をする。それは動機の追究。子供向けの漫画やアニメならともかく、こんなテロレベルの事件を起こしてただ喜ぶのが目的の悪人など現実には存在しない。そこには確かに何らかの利益、理由があるはずだ。
しかし入江は驚き顔で即答した。
「まさか、そんな人間がいるはずありません」
「では質問を変えましょう。その緊急マニュアル、滅菌作戦の内容を熟知している人間を教えてくれませんか」
そう訊ねると突然入江は重苦しい表情で押し黙った。 どうしたことかと不思議に思っていると、入江は鋭い目つきでこちらを窺ってきた。
「……おかしいですね、ランペルージさん」
「何が、です……?」
「貴方は再発を防ぐために雛見沢症候群について知りたいと言った。ですが思い返せば、貴方が聞いてくることは先ほどから対症療法とは関係ないことばかり。どうしてですか」
入江は俺を値踏みするように見据える。
「いや、それは……」
しまったと思った。情報を引き出すことばかりに夢中になり、疑いの目を向けられる危険を考えていなかったのだ。
もし入江に嫌疑―どこかの諜報員かそれに順ずる何かの容疑―をかけられようものなら、遅かれ早かれその疑いは鷹野の知る所となり、疑わしきはクロのルールに従って俺は鬼隠しにされてしまうことも十分ありえる。
何とか誤魔化さなければ……。嫌な汗が頬を伝った。
286:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/12 12:35:44 j8GQudku
乙
287:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/12 12:51:13 FKx2kjNh
乙です!続きが楽しみ。
288:富竹 ◆dFZPiudNYU
09/09/12 23:18:15 IQZTXmHC
いまさらながら、復活乙!
289:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/12 23:36:46 jtDdAUky
乙!
>>288
投下する時以外はコテと目ラン無しにしたら?
290:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/14 19:28:49 HPXhid0s
ひぐらしのなく頃に反逆の梨花
URLリンク(www.youtube.com)
URLリンク(www.youtube.com)
URLリンク(www.youtube.com)
URLリンク(www.youtube.com)
URLリンク(www.youtube.com)
291:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/20 12:49:59 ABOKZgK+
久々保守
292:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/23 00:49:19 nvyr9XgD
偶然見つけて見てみたらやたらおもしれぇ。
保守するぜ
293:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/23 00:53:24 C763we7G
やっぱルル坊はすれ違いスパイラルでウボァーになるより、無駄に理屈っぽく頭使ってる方が見てて楽しいよな。
294:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/24 01:24:17 56XXtZ8s
全力をあげてこのスレを支援するんだ
295:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/25 18:26:45 cz2RdiW5
保守だッ!!
296:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/09/26 19:55:21 9vo6M7Xz
支援保守感謝。すまん、ちょっとうみねこに浮気してた
あまり放置も良くないので今回も少ないが投下しておく。
297:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/09/26 20:25:05 9vo6M7Xz
適切な言い訳が思いつかず、沈黙のまま時が経過する。
そもそもこうなってしまったなら、どのような言葉も無意味なのだろう。意味があるとしたらギアスによる絶対遵守の命令しかない。
正直入江にはギアスを使いたくない……がそう言っていられる状況か……?
……っ、やはり使うしか……。
そう覚悟し、ギアスを開放させようとした矢先に入江が首を横に振る。
「いえ、今のは忘れてください」
「はい?」
間抜けにも口をぽかんと開けてしまう俺。
入江は気にせず続けた。
「私は沙都子ちゃんを救ってくれたランペルージさんを信じます。
貴方がどういう理由で雛見沢症候群に興味があろうと、そこに悪意があるとは思えない。だからすべてお話しましょう」
「入江先生……」
どこまで人が良いのだ、この人は。思わず俺は苦笑する。
それとも、ここは沙都子に感謝すべきか。
沙都子には悪いが、あいつが鉄平に虐待を受け救出することがなければ、ブリタニア人の俺が入江とここまで友好的にはなることはおそらくなかっただろうしな。
「さて。ランペルージさん、検査のほうは済みましたよ。
一時的にL4になったような抗体反応が見られましたが、素早いC120の使用が良かったんでしょうね。現在はL2に落ち着いています。もう大丈夫ですよ」
「そうですか、ありがとうございます」
「ただ再発の可能性が通常の潜伏患者よりも若干高くなっています。毎日十分な睡眠を摂り、ストレスを溜めないことを心がけてくださいね」
「ええ、分かりました。気をつけます」
とりあえずは一安心といったところか。だがベッドでの睡眠時間を削り、居眠りで補っている俺にとってはつらい心がけになりそうだ。
298:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/09/26 20:26:35 9vo6M7Xz
入江は検査道具を片付けながら先ほどの質問に答え始めた。
「緊急マニュアル34号の存在を知っている人物でしたね? それだとかなりの人数になりますが」
「では入江先生が思いつく限りで構いません」
「ん……そうですか、分かりました」
入江が頷き、順に名前を上げていく。入江自身、富竹、鷹野、山狗の隊員―。
「それと、キョウト六家の関係者ですかね」
「え……? ちょっと待ってください!」
動揺から自然と声のトーンが大きくなってしまう。俺は慌てて自制した。
「……キョウトですって? "東京"の間違いではなく?」
「いえ、キョウトであってますが」
入江はそう応えてから独りごちるように言った。
「そうか……梨花さんは東京がもはや存在しないことを知らない。だからランペルージさんが知らないのも無理はないかもしれませんね」
「どういうことです?」
「東京は、日本がエリア11と名を変えてブリタニア帝国の属領になった際に解体を余儀なくされました。
この時、後ろ盾を失くした入江機関の存続も危ぶまれましたが、東京の代わりに無償で資金を提供してくださったのがキョウト六家だったのです」
そんな馬鹿な。キョウトが無償で資金を提供するなんてありえない。何か裏があるに決まっている。
「無償……それは本当ですか?」
俺が怪訝そうに尋ねると入江は首を傾げた。
「ええ、本当ですが。……何か目的があると?」
キョウトはブリタニアから日本を取り戻そうと暗躍、活動している。
日本解放戦線のようなテロ組織や黒の騎士団に資金を提供するのに手一杯で、そんな誰も知らないような奇病の根絶に割く資金などないはずだ。
もし仮に資金に余裕があっても無償など考えられない。何か目的があるとしか思えなかった。それもおそらく軍事目的の……。
別にキョウトの思惑を想像するのは大して難しくはなかった。ただ理解することは俺にはできそうになかった。
「キョウトは雛見沢症候群を生物兵器として軍事利用するつもりでは?」
「それはありえません。過去にはそういう研究を為されていたこともありますが、現在は治療薬等のポジティブなものしか扱っていません」
だろうな。生物兵器の研究を代償にしてまで資金を得ようなどと入江のような人間が考えるはずがない。
となると表向きは入江が治療法の研究を、裏ではおそらく別の人間が入江の目を盗んで生物兵器の研究を進めているといったところだろう。
雛見沢症候群の研究に携わっている人間で怪しい人間は……?
……今のところ鷹野だろうか。梨花の話では綿流しの日に殺されるとのことだったが、偽装死の可能性も十二分にある。
勿論キョウトから派遣された人間が入江診療所とは別の場所で研究をしている可能性も否定できない。
だが生物兵器の性能をまず第一に考えたなら、東京が解体される以前から入江機関に属して雛見沢症候群を研究している人間にコンタクトを取るほうが都合がいいはずだ。
そうなると鷹野の手駒の山狗や仲間の富竹という男も怪しく思えてくる。
……悪い兆候だ。雛見沢症候群の再発の危険性を思うと、あまり深くは考えないほうがよさそうだ。
疑心は必要最低限に止めなければならない。俺のように頭で考えてから行動する人間には雛見沢症候群は最大の敵なのだと今更ながらに痛感する。
こういう時は一人で悩むのはまずいな。梨花に意見を求めることにしよう。
「今日はありがとうございました。そろそろ沙都子の病室に行きますのでこれで失礼します」
「ええ、そうしてあげて下さい」
俺はすっと席を立つと、入江に会釈をして診療室を後にした。
299:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/26 22:30:44 B7Ky5xXN
グッド。良い更新です。
300:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/27 11:55:01 xeC1xYgr
乙
301:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/27 13:05:30 EBnzdeyF
更新乙 全裸に首輪付けてまっとく
302:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/28 11:04:08 iuSRvjBB
乙!
メカ戦の予定はあるのかな?
303:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/29 19:17:21 QrKUPflo
乙。
無いんじゃないかなメカ戦。騎士団旅行行ってるし。
感想としては、細かい所まで描写出来ていて凄いと思う。
何か偉そうですみません。
304:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/30 05:26:03 kuO6h5a1
細部描写にこだわってると時間がかかって大変だろうけど
緊迫感で背筋がゾクゾクするSSなんて久しぶりだよ
キョウト六家の名も登場、さてルルーシュは次にどう動くのか?
気長に待ってますんで、無理せぬ範囲で続きをよろしく!
305:名無しさん@お腹いっぱい。
09/10/01 13:53:55 Q0M+fV2I
支援
306:名無しさん@お腹いっぱい。
09/10/02 23:45:35 nBrRxXXG
保守支援
307:名無しさん@お腹いっぱい。
09/10/04 09:52:19 XKyOdRxH
捕手
308:名無しさん@お腹いっぱい。
09/10/05 17:26:17 SVF+IfIL
がんばって。
支援
309:名無しさん@お腹いっぱい。
09/10/07 12:24:28 Z+UkijqC
保守
310:名無しさん@お腹いっぱい。
09/10/07 23:41:13 nEjTxNZa
保守
311:名無しさん@お腹いっぱい。
09/10/09 10:34:23 bGXf4HOg
続きマダー?
312:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/10/10 19:55:38 t7BYDP8S
【13】
診療室を出た足でそのまま沙都子の病室へと向かう。人気のない廊下を早歩きで進んだ。
時刻は午後の六時半過ぎ。陽はほとんど落ち、窓の向こうでは暗闇が世界の統治を厳かに始めている。
想定していたよりも入江と長く話してしまったな……。いくらなんでももう皆は帰ってしまっているだろう……―と思っていたのだが、予想に反して一人も欠けることなく全員が沙都子の病室に留まっていた。
「あ、ルルーシュくん! 今までどこに行ってたの?」
レナがまず最初に俺の姿に気がつき、それに応じて皆が振り向く。
視線が一斉に俺のほうへ集まってきて少し気まずい。
「あ、ああ。ちょっと入江先生に用があってな」
「入江先生に? 何の用かな、かな?」
「どうせ沙都子そっちのけで監督とメイド服談義でもしてたんじゃないの~? くっくっく!」
魅音がお決まりのように囃し立てる。
俺にそのような趣味はない! と言い返したかったが、墓穴を掘ることになりかねないので無視を決め込むことにした。
ベッドで上半身を起こして、俺たちのやり取りを見てぎこちなく笑う沙都子に視線を移す。
「沙都子、大丈夫だったか?」
「ええ、ルルーシュさん……私は、大丈夫でしてよ。でも」
いきなり沙都子が俺の手を鷲掴んだ。思わずぎょっとする。
「この手のひらの傷……どうされたんですの?」
沙都子にそう聞かれて魅音のほうを一瞥する。
魅音が微かに首を横に振るのが見えた。沙都子には内緒にしておけって事だろう。
分かっている、沙都子に自分のせいで俺が傷ついたなんて余計な罪悪感を背負わせるわけにはいかないからな。
さも不敵そうに笑って空惚けることにした。
「何のことだ? これは気まぐれで自炊して出来た怪我なんだが」
「そうそう、ルルって意外に不器用でさー! 今度またルルが自炊しなくちゃならなくなったら沙都子が手料理でも作ってやんなよ」
「さ、沙都子ちゃんの手料理……はぅ~っ! お~持ち帰りぃ♪」
「駄目なのですよ、沙都子の料理は僕が未来永劫独り占めなのです。にぱー☆」
俺のついた嘘に魅音らが調子を合わせてくれる。ナイスフォローだ。と言いたい所だが、親指を立てながらウィンクするのは止めとけ。
そんな一見楽しそうなやり取りの中、沙都子は真顔のまま首を横に振った。
「皆さん誤魔化さなくてよろしくてよ。私、全て知っているんですから。ルルーシュさんのその怪我は、私のために負った刀傷なのでございましょう?」
全部ばれてるじゃないか。俺は舌打ちをしながら魅音を睨みつける。すると魅音はあららと言わんばかりに苦笑いをした。
沙都子に教えたのはおそらく葛西だな。魅音め、余計なことを話さないよう葛西に言いつける所まで気が回らなかったのか。まったくもって詰めが甘いやつだ。
「そ、それはだな、沙都子」
慌てて適当な話をでっち上げようかと考えを巡らせる俺。……くそ、どういうわけか最近こんな役回りばかりな気がする。
沙都子はそんな俺のことなど気にする様子もなく、ただ虚空を見つめて独り語るように言った。
「私……誰が何をしようとも叔父様のもとを離れるつもりは毛頭ありませんでしたのよ。……喩え叔父様に殴られ蹴られようとも、これは試練なんだって、この試練に屈したら絶対にーにーは帰ってこないと自分に言い聞かせてずっと耐え忍ぶ気でいましたの」
突然の沙都子の告白に一同言葉を無くす。病室に刹那的な静寂が訪れた。
313:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/10/10 19:59:04 t7BYDP8S
誰も口を挟まないことを確かめると、しばらくして自嘲気味に沙都子は先を続けた。
「……つい先ほど葛西さんが来た時だってそうでしたのよ? ルルーシュさんたちが私のために根回ししたんだろうなって思ったぐらいで気持ちに揺らぎは一切ありませんでしたわ」
「何が、言いたいんだ?」
その疑問が自然と口をついた。皆もただ口にさせなかっただけで同じ疑問を持っていたのだろう。皆、沙都子を食い入るように見つめている。
だが沙都子はその疑問に答えることはなく、皆を見回してから再び語り出した。
「先日ルルーシュさんは、私が耐え忍んだところでにーにーは帰って来ないと言いましたわね。私はそれを聞いてなんて酷い人だろうと貴方のことが大嫌いになりました」
「沙都子……」
零すようにその名を口にすると、少女は蜂蜜色の髪をなびかせてこちらに目を向けた。
「……けれどルルーシュさん、実際は違ったんですわね。貴方は事実を言い、私を助けようとしてくれていただけ。
なのに私はその手を振り払い、ろくに話を聞こうとしなかった。ごめんなさい、本当に酷いのは私のほうだった。
……葛西さんが教えてくれましたの」
『なるほど、たしかに君の意志は高潔でとても崇高なものだ。だがしかし、果たしてその意志は友の想いを踏み躙ってまで守るべきものなのか』
玄関先で沙都子によって門前払いされた際に、葛西はただそれだけを言ったのだそうだ。
「私はそれを聞いて、急に自分の信念が酷く安っぽいものに思えてきましたの。
にーにーが帰ってくるまで耐え忍ぶ? なんてくだらない。
本当ににーにーに帰ってきて欲しかったなら、悪い叔父様なんかさっさと追い出して、にーにーが帰って来やすいようにするべきなんですわ。
だから私、葛西さんには外でお待ちいただいて――」
沙都子はそこで一旦言葉を切り、表情に満面の笑みを咲かせた。そして……
「それから、宿敵叔父様と北条家の利権と覇権を賭けた壮絶な死闘を繰り広げましたの」
これまでのシリアスな空気をぶち壊すように、とんでもない事実をさらりと俺たちに打ち明けたのである。
「「……はぁ?! 死闘ぅぅ?!」」
沙都子の予想を上回る発言に一同唖然とし、素っ頓狂な声を上げてしまうのだった。
「お前! 葛西さんに助けてもらったんじゃなかったのか?!」
「ええ、葛西さんにはある意味助けてもらいましたわ。あのまま葛西さんが止めに入ってくださらなかったら、どちらかが死ぬか倒れるまで終わらない文字通り"死闘"が続いていましたもの」
……不思議だ。鉄平と沙都子が取っ組み合いをする光景が音声付で脳裏に浮かんでくるのだが。
というか、それでその怪我なのか……? 呆れてため息が出てくるぞ。
「……で、当の叔父は?」
「股間を蹴り上げてさし上げましたら、半分泣きべそをかいてましたわ」
「レディーにあるまじき行動と発言なのです」
梨花が冷静に突っ込むと、耐え切れなくなった皆が呆れを通り越して一斉に吹き出した。
「くっくっく! おじさん、沙都子はやる子だと思っていたよ!」
「あはは、でも男の人の大事なところを蹴るのは感心しないかな、かな。沙都子ちゃんの叔父様、赤ちゃん作れなくなっちゃったかも……はぅ……」
「レナが何気に卑猥なことを言ってるのです」
「……? 赤ん坊はコウノトリが運んでくるんですのよ。蹴ると何で赤ちゃんが出来なくなっちゃうんですの?」
「みー。沙都子もそのうち分かりますです」
「一体なんなんですのよ~っ! ルルーシュさん、教えなさいませ!」
「え、俺なのか?!」
沙都子の無知ゆえの大胆な質問をどうにか回避し、話題を他へと移行させることに成功すると、ようやく俺はいつもの日常を取り戻せたように感じることができたのだった。
314:名無しさん@お腹いっぱい。
09/10/10 20:17:04 7kpx0xdI
投稿乙!!
次の展開はどうなるのか
とても楽しみです
続き待ってます
315:名無しさん@お腹いっぱい。
09/10/10 20:22:35 b0rq5f7E
この沙都子は惚れるっ!
316:名無しさん@お腹いっぱい。
09/10/10 20:47:47 7kpx0xdI
そういえば、沙都子とかぐやって中の人同じだったな。
317:名無しさん@お腹いっぱい。
09/10/11 10:05:36 wkAdgMhq
沙都子もやる子だが、葛西がまたかっこ良いなぁ。
318:名無しさん@お腹いっぱい。
09/10/12 20:25:01 bYdrzz0R
支援。
のんびり待ってます
319:名無しさん@お腹いっぱい。
09/10/14 18:20:01 TzWNwpdF
普通にルルーシュが御社様になって終わり。
320:名無しさん@お腹いっぱい。
09/10/15 18:38:43 pOukdJig
支援
321:名無しさん@お腹いっぱい。
09/10/17 12:42:58 aSqssYCL
支援。
322:名無しさん@お腹いっぱい。
09/10/18 10:00:28 VH2dYN6P
保守!
323:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/10/20 19:05:40 HaukbonU
最近レス返してなくてすまん。
理由としてはそれよりも話進めるほうが重要だと思ってやってるんだが。
しかし今また詰まってるからさらに遅くなりそうだ…。
ちなみにメカ戦はない予定。入れることは無理ではないと思うけど描写ができなそう。
324:名無しさん@お腹いっぱい。
09/10/20 19:47:13 U5ziY4xL
気にしないで下さい。
のんびり待ってます
325:名無しさん@お腹いっぱい。
09/10/21 10:58:42 beO4So7O
無職なのでのんびり待ってます
326:名無しさん@お腹いっぱい。
09/10/23 17:24:32 CuVitn25
学生ですけどのんびり待ってます。
327:名無しさん@お腹いっぱい。
09/10/24 15:25:57 Iz9yOO87
パートなので働きつつ待ってます。
328:名無しさん@お腹いっぱい。
09/10/28 13:30:54 ujb7J066
支援
329:名無しさん@お腹いっぱい。
09/11/01 16:38:49 1rWNFECE
捕手
330:名無しさん@お腹いっぱい。
09/11/05 07:28:21 V3Jvld5q
自営業だけどゆっくり待ってます。
331:名無しさん@お腹いっぱい。
09/11/05 09:37:54 O8FjRII/
支援
332:名無しさん@お腹いっぱい。
09/11/07 00:02:20 KTfFTv+V
保守
333:名無しさん@お腹いっぱい。
09/11/10 16:45:14 GvGCoQdf
続きまだかな?かな?
334:名無しさん@お腹いっぱい。
09/11/11 13:38:19 3E8VvpUm
もうダメだな
335:名無しさん@お腹いっぱい。
09/11/12 21:26:26 eKUZYXRE
まだ終わらんよ
336:名無しさん@お腹いっぱい。
09/11/17 00:15:18 hX4r9lmi
支援
337:名無しさん@お腹いっぱい。
09/11/22 18:51:28 u7x5JEBU
全力を挙げてこのスレを支援するんだ!!
338:名無しさん@お腹いっぱい。
09/11/23 04:40:17 DEjCcE80
全力でだ!
339:名無しさん@お腹いっぱい。
09/11/23 13:35:04 CAwlG/Ws
イエス、マイ・ロード!
340:名無しさん@お腹いっぱい。
09/11/24 18:35:38 jxQYy0Zx
_人人人人人人人人人人人人人人人_
> また観てギアス!!! <
 ̄^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄
∧ ( ヽ_,. --- 、
∧ ! `ー゙ ヽ- 、
| `ー‐‐ク 、 ___ ヽ
. /\ ', / rェ.、ヾ〃´__ ハ l
/l/ \l\ ヽ / /二メ、,∠彡A | l
/ \ `フ.l /______ `゙l | ヽ、
/ / ̄ ̄\ ヽ \ー'´ | /二ヽ -─-=ミ ト、 、___メ
_l / ヽ l__ `ヽ--ィ ィt'7ィォ ,ォュァゥt、| ト、|. `゙メ
\ | | / 、 ィ7 |リゞュソ ' トッ::ソハ ./ハ ____ノ
ヽ ヽ / /  ̄| .k.、 、____ `ー' ,l ノ/ノ 、__>
\ \___/ / リy-、 ヽ _丶ノ _,. イ/./---≧
341:名無しさん@お腹いっぱい。
09/11/27 13:02:32 EalJ+vFx
支援
342:名無しさん@お腹いっぱい。
09/12/01 02:53:10 A/8Q8Om1
保守
343:名無しさん@お腹いっぱい。
09/12/03 23:51:38 iY0dvXPq
支援
344:名無しさん@お腹いっぱい。
09/12/06 20:19:35 4pJJbewO
支援
345:名無しさん@お腹いっぱい。
09/12/10 23:39:13 DCM5XQGj
コードギアス新作期待あげ
346:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/12/12 09:40:04 defdh8MR
テスト
347:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/12/12 09:41:45 defdh8MR
やっと規制が終わったみたいだなw
今から投下する。長らくお待たせしますた。
348:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/12/12 09:47:00 defdh8MR
Turn of Tokyo settlement ― Shirley side
陽もとっくに落ち、放課後というには遅すぎる時間に、あたしは未だ生徒会室に留まっていた。
というのも自分を含め、ミレイ会長率いる生徒会メンバーはその一見華々しい開催を予定している文化祭の、専ら雑務に追われていたのだ。
「会長~、もう明日にしましょうよ~」
「甘いっ! もう少し踏ん張りなさい!」
リヴァルが音を上げ、会長が叱咤する。そんなやり取りももうこれで三度目となる。
リヴァルの隣ではニーナがウトウトと夢の国へと船をこぎ始めている。そろそろ意識を保つのも限界だろう。
あたし自身も単調作業と薄暗い燈色の照明のためか少し眠気を感じていたので、弱音を吐くリヴァルに助け舟を出す、もとい便乗することにした。
「会長、リヴァルの言うとおりそろそろ解散にしません? こんな状態で続けても作業効率は落ちる一方ですし」
会長が顎に手を当てしばし悩む。
「うーん……。本当は今日中にやっておきたかったのだけど、予定をずらすのもやむを得ないかな……。でもやっぱり明日に伸ばすと他のスケジュールがねぇ……」
「それはルルーシュがいた時のスケジュールでしょ~! 今日に限ってスザクもいないし、土台無理な話だったんですよ!」
「だまらっしゃいっ、いない人のことを持ち出すんじゃないの!」
リヴァルが会長に抗議すると決まって彼の名前が出る。……あたしの記憶にないルルーシュ・ランペルージの名が。
でも『ルルーシュって誰?』なんて聞くと、皆一様に『まだ仲直りしてないの?』と聞き返される。
仲直りも何もあたしとルルーシュには生徒会でしか接点がない。むしろ最近までルルーシュ・ランペルージという生徒会メンバーがいたことすら知らなかったぐらいだ。皆に誤解されるような仲であるわけがない。
以上のことをミレイ会長らに話すと何故か呆れてため息をつくかぎこちなく笑うのだが、一体どういうわけなのだろう。不思議で仕方がない。
―と、いけないいけない。話が脱線してしまった。
アッシュフォード学園が経営不振で無くなるかもしれないと聞いてそそくさと別の土地へ行ってしまった人間のことなんてどうでもいい話だった。
今は会長を説得することに集中しよう。このまま続けて明日に疲労を残していたら本末転倒なのだから。
「そうだ、明日授業の合間の休み時間を利用して遅れを取り戻すというのはどうですか? 授業の合間ならスザク君も手伝ってくれると思いますし」
「そりゃいい! 会長そうしましょうよ!」
リヴァルが調子よくあたしの意見に賛成してくる。彼の様子を見ていると本当に明日頑張ってくれるのか甚だ疑問だが、今は気にしないこととする。
ニーナの方に視線を移すと、彼女もまたこくりと首を縦に振って同意してくれていた。……と、見せかけて彼女は既に夢の中だったりするっ!
「うーん、そうね。じゃあ今日は解散にしましょ」
会長が折れ、リヴァルが無言でガッツポーズを作る。それを見て会長は意地悪げに一言付け加えた。
「その代わり明日は死ぬ気で頑張ってもらうわよ、ガッツの魔法重ねがけで」
「げ、それってまじっすか?!」
「いえ~す、これは会長命令で~す♪」
「ちょ、嘘でしょ~っ?!」
リヴァルの悲鳴が生徒会室に響き渡った。
ちなみにガッツの魔法重ねがけは、限界を超えた限界をさらに超えた限界まで頑張り続ける時に使用されるといわれている。もっとも、その正体は気休めのインチキ魔法なのだけど……。
349:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/12/12 10:43:50 defdh8MR
皆と別れて寮の自分の部屋へと戻る。ソフィはもう寝ているだろうから起こさないように静かに鍵を開けて部屋に入った。
さらに扉をゆっくりと閉めて施錠する。照明もベッド脇のスタンドを点けるだけにとどめた。
ところがそんな細心の注意も無駄に終わったらしい。
「シャーリー遅かったねぇ……お帰りぃ……」
ソフィが目を擦りながらむくりと起き上がる。
「あ、起こしちゃってごめんね」
「いいよぅ……さっきベッドに入ったばっか、だから……」
それにしては口調が普段より間延びしており、眠いのを我慢しているのが明白である。どうやら完全に安眠妨害をしてしまったようだ。
もう一度謝るとお休みとソフィに言葉をかける。すると寝ぼけているのか、ソフィはこくりと頷き布団を被ってそのまま寝息を立てて寝入ってしまった。
その様子に一人苦笑して、自分も就寝するために寝仕度を整える。それからベッドの上に仮置きしていたバッグの中をまさぐり、文化祭関係の書類を取り出すと机に置いた。
「少しだけやっておこうかな……」
一人呟き、書類を机に広げる。
解散を了承したミレイ会長だが、彼女のことだから一人で今も続けているに違いない。そう思うとこのまま寝てしまうのは悪い気がしたのだ。
今回の文化祭はいつも以上に成功させねばならない。
文化祭は学園の良い宣伝材料になるからだ。もし大成功させることが出来れば学園のイメージアップに繋がる。
学園が良い意味で有名になれば生徒の転校を抑制でき、加えて入学者も現れる可能性が発生する。そうなれば学園は立て直せるかもしれない。
「よし、頑張ろうっ」
所詮は一生徒である自分が出来ることなどたかが知れている。あたしが何をしようと結局学園は無くなる運命なのかもしれない。
けれど何もせず成り行きに任せるなんて、とにかくあたしの性には合わないのだっ。
机に向かい、書類の束に目を通していく。
「喫茶店は三クラスあるから、配置場所をうまくばらけさせないと」
三件とも要望とは別の場所に配置することになるが、ライバル店同士一部の地域に固まってしまうよりはずっと良いはず。
「えっと、次は……あ」
次の書類を手に取る際に誤って筆箱を机から落としてしまう。
咄嗟に目で追ったものの、キャッチするまでには至らず、筆箱の中身は見事に机の下で散乱した。
やれやれ……。
ため息を一つ吐くと椅子を引き、転がり落ちた種々の愛用のペン達を一つ一つ拾い上げる。
「あれ?」
何気なくペンの向こう側、机の下のずっと奥に視線を向けると、そこにはくしゃくしゃに丸められた紙が一つ落ちているのが見えた。
拾い上げ、そのままゴミ箱に捨てようと考えて手が止まる。ふと中に何が書かれているのか気になってしまったのだ。
あたしは極普通のありふれた好奇心に後押しされ、拾い上げた紙の皺を机上で伸ばして内容を確認する。
最初はぱっと流し見してゴミ箱に捨てようと思っていたくしゃくしゃの紙。
だけれど、気づけばあたしは何度も何度もその内容を読み返していた。
「嘘……そんな……どうして貴方が…………」
手紙を持つ指先に震えが生じ、背筋が凍る。体中に戦慄が走り、嫌な汗が頬を伝った。
そこに綴られていた文字は紛れもない自分自身のもの。
書いた覚えのない文面。決して送られることのなかった手紙。
果たしてそれは――忘却の彼方に打ち捨てられた、あたしから"彼"への密かなメッセージだった。
「ルルーシュ……貴方がゼロなの……?」
350:名無しさん@お腹いっぱい。
09/12/12 15:30:43 03Hb1hqs
(*゚∀゚)=3
351:名無しさん@お腹いっぱい。
09/12/13 01:36:15 wKvWtTh8
シャーリーも雛見沢に来るのか?
とりあえず乙!!
352:名無しさん@お腹いっぱい。
09/12/13 02:53:53 zNigzMUx
おおっ来てた!乙!
353:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/12/13 17:53:37 bX3+ewyv
またいつ規制されるか分かったものじゃないからもう少し投稿しておくかな。
とりあえずコメ返しておく。あと遅れたけど書き込めない間支援保守してくれた人さんきゅーな。
>>351
シャーリーを雛見沢に向かわせるのかはまだ決めてないな。
実は密かに皆の反応を見て話の方向性に変更を加えているんだw
>>352
まだ見ていてくれてて感謝。
ようやく全体の四分の三ぐらい書ききった所かな。
アニメ三期も放送されるらしいし、最後まで見捨てずにいてやってくれ。
354:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/12/13 19:27:40 bX3+ewyv
Turn of Hinamizawa Village ― Lelouch side
ふと時計に目を向けると、もう時刻は午後八時を回っていた。談笑を続けたいところだが、そろそろ帰らないとナナリーと咲世子が心配するかもしれない。それに梨花に話しておきたいこともあるしな……。
俺のそわそわした様子を見て取り、レナも時間という制約を思い出したようだ。時計を一瞥して、そろそろ夕食を作らないと……と椅子から立ち上がる。
「お、もうこんな時間なんだ。いけない、おじさんも帰らないと、ばっちゃに叱られるよ」
魅音も慌ててレナに倣った。
「僕は沙都子に付き添ってここに泊まりますのです」
梨花がにぱーと笑ってレナと魅音に手を振る。
「ルルーシュくんはどうするのかな、かな?」
「悪い、俺は梨花に用があるから先に帰っていてくれ」
自分を置いて先に帰宅するよう促すと魅音が口を尖らせて不満を漏らした。
「また梨花ちゃんと~? 最近ルルってば付き合い悪くない?」
「すまん、そういうつもりじゃないんだがな」
「じゃあどういうつもりなのさ~」
「いや、それがだな……」
どう応えれば魅音の機嫌を損なうことなくかわせるか迷っていると、幸いにもレナのフォローが入った。
「ルルーシュくんにも色々とあるんだよ。魅ぃちゃん行こ」
「ちぇ~、ルルの浮気者~っ」
「誰が浮気者か」
不満げな魅音を引っ張ってレナが病室を出て行った。
二人がいなくなると途端に病室が静かになったように思える。俺にとって魅音とレナの存在はそれほど大きいようだ。
「さて、沙都子。しばらく梨花を借りるぞ。一人で平気か?」
「え、ええ、私は大丈夫でしてよ。い、いってらっしゃいまし……」
沙都子はぎこちなく笑う。その心を見透かすかのように梨花が沙都子の声真似をしてからかった。
「でも本当を言うと夜の病室に一人きりなんて、お化けが出そうでがくがくぶるぶるにゃーにゃーでしてよ…………にぱにぱ☆」
「梨ぃ花ぁ~っ!」
「みぃ~★ しばらく一人でいい子にしてるのですよ~っ!」
握りこぶしを振り上げる沙都子から逃れるように椅子から立ち上がると、梨花は俺の腕を掴んで一気に引っ張り上げた。
「ちょ、おまっ、ぐおっ! 俺の腕が変な方向に!!」
俺はされるがまま椅子から立ち上がると、半ば引き摺られる形で沙都子の病室を出ることとなった。
355:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/12/13 19:28:40 bX3+ewyv
梨花と二人で手分けして無人の部屋を探し出すと、そこで俺は先ほど入江から知り得た情報を梨花に伝えた。無論、盗聴などの危険を考えて室内は十分に探索済みである。
話した内容は大きく二点。緊急マニュアル34号とキョウト六家についてだ。
梨花は全てを聞き終えると興奮気味に、しかし、静かにそっと口を開いた。
「ありがとう、ルルーシュ。もし貴方がいなければ私は真実に至る事は出来なかったかもしれない」
「その言い方だと何か掴めたようだな」
「ええ、実行犯は未だはっきりとは分からないけれど、誰の意思によって何のために古手梨花が殺されなければならなかったのか、ついに私は理解した」
「……話してみろ」
今度は俺が聞く番だ。傍らに据え置かれたベッドに座ると足を組み、梨花に先を促す。
梨花も俺に倣い、二人は並ぶ形でベッドに腰を掛けた。それから梨花は徐に口を開いた。
「まず……私の殺害は手段であって目的そのものではなかった」
「というと?」
「やつらにとって、私はある目的を果たすための過程でただ殺されるだけの存在。立場は違えど、富竹たちと何も変わらないわ」
「ある目的とは、やはり緊急マニュアルに関わることか?」
「答えはイエスよ。すなわち、私の殺害はキョウト六家の意思に基づいて行われると考えられる」
「だが分からないな、お前が死ねば日本人である雛見沢住人が虐殺される。日本解放を謳うキョウト六家の動機にはなりそうにはないが?」
そう、この件で多数のブリタニア人が犠牲になるのなら理解できる。しかしこの件で被害を被るのは俺とナナリーを除外すると対象となるのはほぼ日本人のみのはずだ。
だが梨花は静かに首を横に振った。
「それがなるのよ」
「なに……?」
俺には梨花の考えるキョウト六家の動機なるものに一切心当たりはなかった。だから俺は歯がゆくも、ただ梨花の次なる言葉を待つことしかできない。
梨花は少し躊躇した後、先を口にした。
「おそらく……。キョウト六家の目的は、雛見沢に住む園崎家に関わる人間の殲滅よ」
「園崎……だと……?」
正直ここでその名が出てくるとは思わなかった。だから声が少し上ずってしまったかもしれない。
一方、梨花は俺の動揺を見て取って肩をすくませた。
「ええ、ご存知の通り魅音の家よ」
「何故だ、どうして園崎家が?」
「それは、魅音の家がかつてキョウトのメンバーだったから」
何、だと……? どういうことだ……。
ゼロとしてキョウト六家について色々と調査をしたことがあるが、そんな情報はまったく掴んでいない。この俺が見落とした? 馬鹿な……。
「貴方は知らなくて当然ね。園崎家がキョウトのメンバーだった事については、キョウト六家の一部のものと雛見沢御三家だけしか知らないもの」
梨花はそこで一呼吸置いてから言葉を連ねた。
「もっとも、メンバーと言ってもほんの僅かな間だったようね。なんでも結成当初のキョウトは、話し合いで日本の返還を求める平和団体だったらしいわ。
まあ、多少は暴力に訴える部分もなかったわけではないけど、でも現在のようにテロのような殺人行為を支援するなんてことはなかった。
園崎家はテロ組織への支援を良しとせずキョウトから離反、その後は雛見沢にて沈黙を守っていた。キョウト六家にとっては、園崎家はさぞや危険な因子(ファクター)でしょうね。
だって中立なんて言っても、いつ心変わりしてブリタニアに自分たちの素性を売るか分からないのだから。
……例えるなら不発弾を抱えて戦場に立っているようなものよ。出来れば早めに切り捨てておきたい」
「だが日本人であり、様々な地域で影響力のある園崎家を滅ぼすとなるとキョウト内でも意見が割れる。下手すれば内部分裂の恐れもある。だからバイオハザード……生物災害の緊急処置に乗じて皆殺しにする、か」
「おそらくそういうことね」
「ふっ、ここまで来るとお前の死はとんだとばっちりじゃないか」
「ええ、まったく困ったものよ。やんなっちゃう、くすくす」
俺たちは顔を見合わせて苦笑した。
356:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/12/13 19:31:12 bX3+ewyv
しばらくして表情を真顔に戻すと話を先に進めることにした。
「―さて、と。バックグラウンドは大方把握した。問題は実行犯だが……お前、心当たりはいるのか?」
そう訊ねながら俺は月明かりに照らせれた梨花の横顔を覗き込む。
すると梨花は唇に人差し指を当て、虚空を見やったままゆっくりと考え始めた。
「……そうね。怪しい人間はたくさんいるけれど……そこから容疑者を絞るとなると、案外難しいわね」
「鷹野や富竹なんかはどうだ?」
「最初から妙な所を疑うのね。言ったと思うけど二人は綿流しの晩に殺されるのよ。ちゃんと話覚えてる?」
「馬鹿にするな。それが偽装死である可能性は考えられないかと聞いているんだ」
「その可能性はないと思うけど……。だって二人はその後、遺体となって発見されているもの」
「遺体を見たのか?」
「いえ……。でも富竹らしき遺体が発見され、確かに警察はそれを富竹本人だと断定したわ」
そうか、ならば富竹が犯人である線は薄い。
ブリタニア警察にキョウトの息のかかった者がいて、検死結果を改竄したということもありえないわけではないが、ブリタニアは例え名誉ブリタニア人であろうと日本人を決して信用しない。
内通者がブリタニア人でもない限り、そう易々とこのような手は使えないだろう。
したがって富竹の死は概ね真実だといえよう。だがしかし……。
「鷹野の方はどうだろうか?」
「鷹野……? 彼女もたしか隣の県で焼死体となって発見されているはずよ」
「焼死体?」
「ええ、それが何か?」
梨花が首を傾げ、怪訝そうな顔で聞き返してくる。
どうやら糸口が見えてきたようだ。
俺の記憶が正しければ、焼死体は身元確認がなかなかに難しいはず。DNA鑑定を駆使すればやってやれないことはないが、それには時間がかかり過ぎる。まず歯型情報を基にして身元を割り出すのがセオリーだろう。
よって、もし鷹野の歯型情報が登録されている歯科医院に内通者がいたのならば、偽装死は十分に可能なのではないか?
以上のことを梨花に話して聞かせた。すると梨花は言葉を噛み締めるように何度か頷いた。
「なるほど……そうね。どうやらその可能性を疑う価値は大いにありそうだわ」
「ならば確かめてみるとするか」
俺はベッドから立ち上がると、口元に手を当てて考え込む梨花の正面に回って手を差し出した。
「どうやって……?」
梨花は差し出された手をまじまじと見つめた後、俺と目を合わせて問う。
いつまでも手を取らない梨花の手を掴み、彼女を引っ張り上げながら俺は静かに答えた。
「明日辺り鷹野に接触し、ギアスで探りを入れてみよう」
実行犯が鷹野である可能性が濃厚になった今、彼女に対し一度しか使用できないギアスをこういった目的で使用するのは、俺自身の生存率を大幅に低下させることに繋がる。
本来ならもう少し外堀を固め、鷹野を犯人と断定した上で殺すかギアスで操るかしたいところだが、今は何より時間が欲しい。多少のリスクは甘んじて受けるべき時なのだろう。
果たして、鷹野はただの犠牲者なのか、或いは祟りを起こす側の人間なのか。
羊か狼か、今の俺にはそれを知る術はなかった。
―タイムリミット;オヤシロさまの祟りまで後3日。
357:名無しさん@お腹いっぱい。
09/12/14 01:13:34 5Ra9G8dC
おおっ!!
おもしろくなってきたぜ!!
358:名無しさん@お腹いっぱい。
09/12/17 00:31:59 2szqT345
待ってた甲斐があるともの!GJ!
359:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/12/17 21:51:38 tbcnZaPH
シャーリーどうしようか迷ってるから安価してみるw
雛見沢に向かわせるべきか否か。>>362頼むぜ。
360:名無しさん@お腹いっぱい。
09/12/19 01:03:18 SXyXQ+f0
ksk
361:名無しさん@お腹いっぱい。
09/12/20 12:18:29 mFIP0DbE
kask
362:名無しさん@お腹いっぱい。
09/12/20 15:51:33 RC/AtPhD
シャーリーって誰?
363:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/12/20 16:28:01 hCLiBBqg
>>362
マジレスするとコードギアスのキャラだよ。
そしてそんなことを聞くようじゃ「ぐぐれカス」と言われても仕方ないぞ
安価潰されてるんで次回から先着順で。
どちらの構想もあるから正直どっちでも良いよ。
本当ならどっちも書きたいんだけどな。
364:名無しさん@お腹いっぱい。
09/12/20 19:51:43 LPnjSswB
んじゃ シャーリー向かわせてくれ!
正座で待ってる!
365:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/12/20 21:58:08 hCLiBBqg
>>324了解
シャーリー出すのはまだかかりそうだけど来週には投下する
366:362
09/12/21 13:45:53 6mUnGZBH
まさか本当にシャーリー知らないワケが無かった!
ぐげげげげげげげげーっ
367:名無しさん@お腹いっぱい。
09/12/21 14:03:47 2ukTJ7x0
>>365
また 気長に待ってるよ~ノシ
368:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/12/27 23:15:15 lFPQzlnB
【14】
Turn of Tokyo settlement ― Shirley side
あの手紙を読んだせいで結局昨晩はあまり寝られなかった。ベッドから上半身を起こす際、少しの倦怠感を覚える。
これが身体がまだ睡眠を欲しているからなのか、それとも手紙の内容にショックを受けて心が弱っているからなのかは当の本人であるあたし自身にも分からなかった。
「なんで……どうして……こんな…………」
再びベッドに横たわりながら問題の手紙を読み返す。
夜通しで数え切れないほど読んでいるそれの内容は、既に頭に入ってしまっていた。
ゼロの正体が、同じ学校に通うルルーシュ・ランペルージという少年であったこと。
ずっと昔に亡くなったと思っていた父の死が、つい最近起こった出来事であったこと。
そして、父を殺したのが他ならぬルルーシュだったこと……。
手紙の内容が真実である可能性は高い。父について昨晩母に電話で訊ねたところ事実であることが判明したからだ。
けれどこの手紙の内容が真実で、本当に自分が記した物であると考えるなら、自分では気がつかない部分で記憶に齟齬が出ているということになる。
「っぅ……」
軽い吐き気に襲われ、慌てて洗面所に駆け込んだ。
この現場をミレイ会長に目撃されようものなら、妊娠してるの? なんてからかわれるんだろうなと思いながら、鏡で自分の顔を覗き見る。
鏡の中のあたしは酷く陰鬱な表情でもってこちらを見据えていた。
一体……あたしは誰なんだろう。
ここにいるあたしという存在は何……?
手紙の文面から察するに、昔のあたしはルルーシュ・ランペルージという人間を少なからず知っているらしい。だけど、あたしの記憶の中には彼の存在は少しも見られない。
もし人格が記憶や思い出によって構築されているのなら、そうであったのなら、今のあたしは皆の知るシャーリー・フェネットではないのだろうか……。
偽者の記憶、偽者の自分――。どうしてこうなってしまったのかのだろうか。あたしにはまったく検討がつかなかった。
…………嘘だ。
分からない振りをすれば忘れられるなんて甘い考えは捨てろ。昨日あたしはゼロについて重大な事実を知ってしまったじゃないか。
そう、この手紙には続きがあったのだ。
ゼロは、催眠術のような不思議な力―ギアス―で人を操り支配する。
ならば記憶の改竄ぐらい容易なはず。
ルルーシュはゼロである自分の正体がばれたことをどこかで嗅ぎつけ、あたしに対して記憶の操作をおこなったに違いない。
なんという事だろう。彼は父を殺しただけに飽き足らず、残されたあたしの思い出すらも踏み躙ったのだ。
「……っ…………」
頭がずしりと重い。脳内で鐘が鳴り響くように頭痛が止まない。
ゼロ―ルルーシュ―父の死―……。
手紙の内容がぐるぐると頭の中で遠心分離にかけられ、嫌なワードだけが残滓として脳裏に濃縮沈殿する。
駄目、これはまずい……。自分の中で黒い感情が渦巻いてくるのが分かる。
……こういう時は笑おう。皆が知るシャーリー・フェネットは馬鹿みたいに元気だけがとりえの女の子だったはず。だから、笑え。
「あはは」
けれどあたしの精一杯の作り笑いは、不自然なまでに歪んでいた……。
今朝はソフィとは顔を合わせないでおこう。今は色々と心配をかけてしまいそうだから。
あたしはまだ夢の中のソフィに声をかけずに寮部屋を出る。
まだいつもの時間より三十分も早いけど、ここにいるよりずっと良い。
問題の手紙をバッグの中に押し込んで、制服に着替えると足早に寮を後にした。
369:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/12/27 23:16:38 lFPQzlnB
授業が始まるまで、まだ若干時間がある。
暇を持て余したあたしは教室にある花瓶の水を替えることにした。
化粧室のすぐ脇に設置されてた蛇口を捻ると、生ぬるい水の後に冷たい水が流れる。
花瓶を綺麗に洗い、新しい水を注いでいく。
それから、意識的に正面にある鏡は見ないようにして教室へ踵を返した。もし再び鏡を覗き込んだら、また気持ちが不安定になるかもしれないから。
「あ……」
教室の扉を開けると、まだ早いというのに既に一人の男子生徒の姿があった。
あれは、遠目でもすぐに分かる。この学校に唯一在籍している日本人であり、生徒会メンバーの枢木スザク君だ。
あたしの存在に気がつくと、彼は笑顔で挨拶をしてくる。
「おはよう、シャーリー」
「お、はよう……スザク君」
「どうかしたの?」
呆然と教室で立ちつくすあたしを見て、スザク君は不思議そうに首を傾げる。
「あ、えと……。別になんでもないの、気にしないで」
あたしは首を横に振り、笑って言葉を返す。鏡で一度笑顔の練習をしたおかげか、今度は普通に笑えた気がする。
思い出したように足を動かし、教室に入る。
そのままスザク君から目を逸らし、花瓶を元あった場所へと戻した。
そういえば、ルルーシュって"スザク君の親友"だったっけ……。ううん、それともスザク君が"ルルーシュの親友"だった?
花瓶の花を見栄えの良いように整えながら考えを巡らせる。
あたしは先にどちらと知り合ったのだろう。
スザクくんがこの学校に通い始めたのはつい最近だ。
となると時間を考えれば、あたしはルルーシュのほうと先に知り合った可能性が高いわけで。
あたしとスザク君は仲良し。生徒会でもよく話をしてる。
一方ルルーシュはあたしにとってただの知り合い。生徒会にいたことすら気づけなかったぐらいにあたしとは面識がない人。
ところがスザク君はルルーシュを介しての友達……。
これってやっぱり変だと思う。つまり、ルルーシュはあたしの記憶を改竄して、あたしとの関係までも抹消した……?
「ねぇ……スザク君。あたしとルルーシュってどんな関係に見える……?」
振り返ってスザク君を見やる。彼は自分の席で授業の予習をしていたようだ。顔を上げてこちらに視線を向けた。
「急にどうしたんだい?」
うっ、すごい怪訝そうな顔してる……。こういう時は笑って誤魔してしまうに限る。
「あ、その……。あはは……な、なんとなく、かな?」
果たしてこれで誤魔化せているのだろうか……。自分としては全然駄目、大根役者もいいとこだと思った。
けれど幸いスザク君は少しも気にすることなく、実に人懐っこい笑顔を惜しげもなく返してくれたので、あたしはホッと安堵のため息をついた。
ところが、すぐにそれは間違いであったことが分かる。
「シャーリー」
「な、何かな?」
一呼吸置いて、スザク君が真顔であたしの名を呼ぶ。突然のことに驚き戸惑うが、安心しきっていたあたしは無防備に返事をしてしまった。
「すごく、お似合いだと思うよ」
「えっ、えっ……?」
それって、つまり……。スザク君の云わんとしている事は至極簡単に理解できた。けれど、その言葉の意味合いに心が付いてこない。激しく動揺し、拙い言葉が口から零れる。
「お、お似合いって……」
「うん。君とルルーシュならベストカップルだ」
スザク君はあたしの戸惑いが照れから来ているものだと勘違いしたのだろうか。皮肉が一切見られない爽やかな笑顔で言葉を返してくる。
それを聞いて、あたしの全身からは血の気が急速に引いていった。
あたしと、ルルーシュが……?
そんなのって、ないよ……。
むしろ皮肉で言ってくれたほうが良かった。
だって、そうだったなら、あたしはきっと――。
「勇気を出して告白してみるといいよ。そしたら、」
「止めて……っ!!」
気付けばスザク君に拒絶の言葉を吐き出していた。
手紙の文面からあたしは自分とルルーシュの関係に薄々気がついていた。それでも気のせいだと気付かない振りをしていた。なのに、だからこそ、他人の口からそんな言葉は聞きたくなかった。律儀に言って欲しくなかった。
だって、例えあたしがルルーシュのことを好きだったのだとしても、ゼロである彼が父を殺しているのは変わらない事実なのだから。
370:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/12/27 23:17:55 lFPQzlnB
「シャーリー?」
スザク君は目を見開き、驚きの表情で固まっていた。
そんな彼の様子を見て取って、ようやくあたしは我に返る。
だが慌てて取り繕おうと口を開きかけ、結局何も言えないでいた。
スザク君があたしを見据え、真剣な表情で訊ねてきた。
「最近君とルルーシュが話している所を見ていないし、妙だと思っていたんだけど……ルルーシュと何かあったの?」
「ち、違うの、そうじゃないの」
あたしは首を横に振って精一杯に否定する。否定した後に、はたと気がつく。
目の前にいるスザクという少年は日本人といえどブリタニア軍人でゼロと敵対しているはずだ。今彼にゼロの正体がルルーシュだと教えれば簡単に父の敵討ちができるのではないだろうか。
そうだ……告発してしまえば良い。
記憶を失う前のシャーリー・フェネットがルルーシュのことをどう想っていようと、今のあたしにはルルーシュに対しての恋愛感情はない。実質、このあたしには一切の関係がないのだから。
黒い感情が湧き上がり、口元に邪悪な笑みが浮かぶのが自分でも分かった。
捕まっちゃえ、ルルーシュ。
それから仮面の下の素顔を大衆に晒し、無様に処刑されちゃえばいい。
その引き金をあたしが引いてあげるから。
「……っ…………」
そう考えたところで唐突に胸が痛み出した。
「シャーリー! 大丈夫かい?!」
ふらつく身体をスザク君に支えられ、何とか呼吸を立て直す。
「う、うん……。大、丈夫……だから……」
スザク君に言葉を返す頃には、胸の痛みのほうはだいぶ落ち着いていた。
しかし今のは一体……。どうして急に?
まさか、ルルーシュを軍に売ろうとする行為をあたしが無意識に忌避しているとでもいうのだろうか。
例えばルルーシュによって完全に消されたはずの記憶が、知覚出来ないほどに僅かな断片としてあたしの中に残っており、ルルーシュを告発するのを嫌悪しているのかもしれない。
もし本当にそうだとしたなら、あたしは一体どうするべきなのか。
本当に好きだったかも怪しい人をあたしは庇うべきなのだろうか?
父の仇である男を?
そんなことはありえない。ありえない、でも……。…………。
「シャーリー、本当に大丈夫かい? 保健室に連れて行こうか?」
「え、あ、ううん、平気。そんな心配しないで」
「だけど、」
「ありがとう、でも本当に大丈夫だから。ところで休み時間は空いてるかな? 文化祭の仕事がどっさりあるからスザク君にも手伝ってもらいたんだけど」
「あ、ああ。僕でよければ構わないけど、それよりも、」
「ありがと、助かったよ! じゃ、あたしはもう行くから」
心配してくれるスザク君に飛びっきりの笑顔を投げかけると、授業の準備があるからと早々に話を打ち切る。
「ちょっと、シャーリー?」
それでも追いすがってくるスザク君だったが、けれどそこでタイミングよく予鈴が鳴って、彼は渋々自分の席に戻っていった。
それを横目で確認し、あたしも安心して自分の席に向かった。
ルルーシュ、あたし決めたよ。
貴方の正体はスザク君には内緒にする。勿論他の誰にも洩らさない。
だって、もし貴方が捕まったら困るもの。
――貴方はあたしが殺すから――
何事もなかったかのように自分の席に着くと、あたしは偽りの笑顔を霧散させた。そしてテキストとノートを開いてペンを握ると、口元をきつく真横に結んで、空席となったかつてのルルーシュ・ランペルージの席を一瞥する。
あたしは以前のあたしなんて知らない。もはや関係もなければ興味すらもない。
だからルルーシュ、貴方はあたしが必ずこの手で。
371:名無しさん@お腹いっぱい。
09/12/28 00:29:22 Uv/Gvvr5
ID記念
372:名無しさん@お腹いっぱい。
09/12/28 00:53:04 tfBVhOFz
シャーリー病みフラグ(((;゚Д゚))) !?
このまま雛見沢きちゃダメー!
373:名無しさん@お腹いっぱい。
09/12/28 16:51:12 u3/Tmo/t
あばばっ?!
みぃしぃもレナレナも非じゃない明確な殺意がキター?
374:名無しさん@お腹いっぱい。
09/12/28 17:12:06 Zg1CDF5W
ルルーシュ逃げるっす、超逃げるっす
375:名無しさん@お腹いっぱい。
10/01/01 15:45:54 jSmXMlc0
久しぶりに来てみたら何という急展開にw
きっとシャーリーの目はオヤシロモードだ
376:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
10/01/01 15:54:36 /tzJ9Y9T
Turn of Hinamizawa Village ― Lelouch side
雀のさえずりが聞こえて目が覚める。昨晩は帰宅してすぐに就寝したおかげか、久しぶりに快眠ができたようだ。起きる時間もいつもより遅い。
いつもなら登校時間ぎりぎりで慌てるところだが、本日は休校日となっているので心配は要らない。
なんでも今日は校長の海江田と担任の留美子が綿流しの祭の準備に借り出されているらしく、二人は祭りの準備に手一杯のため授業ができる状況にないのだそうだ。俺としては願ったり叶ったりだ。
ゆっくりと私服に着替えると洗面所で身支度を整え、それからナナリーの部屋に足を運んだ。
「ナナリー、起きているか? 入るぞ」
「あ、はい。お兄様どうぞ」
中に入ると咲世子がすでにナナリーの身の回りの世話を始めていた。
「なんだ、咲世子さんもいたのか」
「ルルーシュ様、おはようございます」
「お兄様、おはようございます」
「ああ、おはよう。ナナリー、風邪はもう大丈夫か?」
「ええ、おかげさまで」
「そうか、それは良かった」
昨晩は梨花と空恐ろしいテロについて話をしていたのに、今日はというと普段となんら代わらない朝の挨拶をナナリーたちと交わしている。
不思議な気分だな。昨日の出来事がまるで夢のようだ。
だが決して夢などではない。沙都子を助けた時に出来た刀傷が教えてくれる。
昨晩の話が夢だったと思いたい気持ちも僅かにあるが……認めなくては、現実を。
今この時を抗わなくては何も守れはしないのだから。
「……ナナリー。ちょっと出かけてくるよ」
「どこに行かれるのですか?」
不安そうにナナリーは訊ねてくる。ここの所ばたついていて二人でゆっくり過ごす時間が取れないでいたし、おそらく寂しいのだろう。
気持ちは俺も同じだが、今の俺にはやらなくてはならないことが山ほどある。しばらくはお互い我慢だな。
「なに、雛見沢を色々と見て回ってくるだけだよ。遠くには行かないさ」
ナナリー、お前を残しては絶対にな。
お前の居場所は俺が守る。
咲世子にナナリーを任せ、俺は梨花の待つ入江診療所へと向かった。
377:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
10/01/01 15:55:16 /tzJ9Y9T
診療所が近づくと、淡い緑色のワンピースを身に付けた少女の姿がぼんやりと目に入る。少し距離をつめると、その少女が梨花であることが分かった。
彼女は目を瞑ったまま診療所の壁に寄りかかって俺を待っていた。
「待たせたな。おはよう、梨花」
「おはようルルーシュ……くぁ~」
欠伸をしながら徐に双眸を開く梨花のワンピースは肩紐が若干ずれている。
「おい、なんだか眠そうだな」
「ええ、ちょっとね。昨日はあんまり眠れなかったのよ」
「寝癖もついてるぞ」
梨花のとても前衛的なヘアースタイルを指摘すると、梨花はハッと髪の毛を両手で押さえた。
「う、うるさいわね、私って朝だけは駄目なのよ。ちょっと直してくるっ」
「そうだな、そうしたほうが良い。ふっ」
「……笑ったわね。あんた、後で覚えてなさいよ……」
「おや、それは怖いな」
逆なでするような言葉を返してやると、梨花は一度俺を睨みつけてから肩を怒らせて診療所の中に入っていった。
どうやら梨花は俺の冗談をあまり好ましく思っていないようだ。ま、当然というべきか。俺と似て、無駄にプライドの高いやつのようだしな。
「というか、もうあれは猫かぶりってレベルじゃないな……」
今の梨花には以前の幼い少女の面影はそれこそ蚊ほどもない。豹変という言葉がぴたりと当てはまるぐらいの変わりようで、もうこれは詐欺といっても決して過言ではないように思う。
だが、これがギアスで世界を繰り返すうちに精神だけが大人になった彼女本来の姿なのだろう。
……。
…………。
「……救ってやらないとな」
まだ間に合う、梨花のギアスが暴走していない今なら。
ギアスの暴走が始まってしまえば、現在のように能力の発動が死の間際に限定されるとは限らない。下手をすれば常に能力を開放し続けることになり、その結果、刹那という時の牢檻へ永久に封じ込められてしまうかもしれない。
そうでなくとも、このままギアスを使用して世界を繰り返せば、待っているのは退屈と絶望による精神の死だけだ。だから、そうなる前に――……。
「どうしたの、難しい顔して?」
「ほぁぁっ!? 梨花っ、いつからそこに!」
物思いにふけっている間に、気づけば梨花は身支度を整えて戻って来ていたようだ。彼女は下から覗き込むようにして俺の真正面に立っていた。
「たった今戻ってきたところよ。それよりなぁに? 『ふぉうあっ?!』だって★」
俺の驚き様がおかしかったのか彼女は先程の仕返しとばかりに嘲ってくる。不愉快だ。
「うるさい、マセガキめ」
「あら、ごめんあそばせ。くすくす!」
チッと舌打ちをして俺はそっぽを向く。まったくもってやりにくいやつだ。
「ところで、何を"救ってやらないと"なの?」
ぐっ、やはり聞かれていたか。
梨花はニヤリと笑いながら、こちらの反応を楽しむかのように問い詰めてくる。分かっているくせに、この狸め。
悔しいので正直に答えるのはやめた。
「別に、大した意味はないさ。真犯人の足元を"すくってやらないと"と思っていただけだ。用意が済んだなら行くぞ」
心中を見透かされないようにそう真顔で言ってのけ、俺は一人歩き出す。
無論行くべき場所など俺には検討がつかなかったので、ただ闇雲な方角へとまっすぐ進むしかない。俺としたことが無様この上ないな。
そんな折り、背後からの小さな声を捉えた。
「素直じゃないんだから」
梨花がクスリと笑って俺の隣にやって来る。俺は彼女の呟きにも似た言葉をあえて聞かなかったことにした。
378:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
10/01/01 16:00:21 /tzJ9Y9T
入江診療所から向かった先は古手神社だった。梨花曰く、この時間帯ならば神社の敷地内の何処かに富竹がいるとのことだった。
今年の祟りの犠牲者である富竹を救うのは、梨花の命を守るための必要不可欠なテーマとなっている。残された時間は後僅か……今日中には事情を説明し納得させた上、彼の死の運命を回避しなければならない。
だがそこにたどり着く前に難所が一つあり、それを見上げて俺は一つため息をつくのだった。
果たして視線の先には、やたらと長い石段が嫌がらせのように上方へと伸びていた。
これを登るのか、しんどいな。脇にエスカレーターぐらい設置しておけと言いたくなる。
愚痴を零しながらも覚悟を決めて昇っていく俺。だが半分も上るともう息も絶え絶えとなっていた。
一方、梨花は慣れたものでひょいひょいと軽快なステップで先を行く。彼女は最上段で後ろを振り返り、俺との距離を確かめてから呆れ顔で言った。
「相変わらず体力ないわねぇ。ルルーシュのもやしー」
「うるさい、お前はっ、少し、黙ってろっ……。くそっ、一体何段あるっていうんだ……」
「あともう少しだから頑張って。早くしないと富竹が別の場所に野鳥の撮影に出かけてしまうわ。そうなったら私には富竹の足取りを知る方法はないんだから」
梨花は石段に座り込み、俺を見下ろしながら言葉を付け加えた。
「二人で雛見沢中を探し回るのは骨よ。貴方も肉体労働は嫌でしょう? くすくす」
「分かっている……。分かっているが、しかし……」
こういうのは俺のジャンルじゃないんだよ……。
少しだけ息を整えてから気力だけで梨花の居る位置まで駆け上る。それから階段を昇りきり、神社の境内に到達してからゼイゼイと見苦しく呼吸を整えた。
「はい、お疲れ様。じゃ、今度は富竹を探すわよ」
未だ肩で息をしている俺に対し、無情にも梨花は笑顔でそう言ってのける。この鬼畜狸め。
正直な話、しばらく休憩を挟んでから富竹の捜索を始めたかった。しかしまた年下に軟弱もの呼ばわりされるのも癪に触るので、俺は諦観と共に深く頷いたのだった。
「……ああ、そうだな」
無駄にプライドが高い自分が憎い。
379:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
10/01/01 16:04:18 /tzJ9Y9T
あけおめ、今年もよろしく!
つか執筆開始からもう一年経ってるんだよなw
早く完結させなければと思ってるんだが……。
規制が続く中こめさんきゅーな!
380:名無しさん@お腹いっぱい。
10/01/05 13:22:40 CvyCOHkL
ようやっと規制解けた
スーパー咲世子さんタイム発動で山狗とかイチコロ(ry
もとい、時報救出作戦に近づくと事態も動いてきたって実感湧くね。
てなわけで今年も応援してます!
381:名無しさん@お腹いっぱい。
10/01/08 17:27:04 jAdHK8kr
久しぶりに来たら大分進んでた!
シャーリーはルルーシュにとって かなりの想定外になるだろうな。
>>1さん、のんびりでいいから完結させてねノシ
382:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
10/01/18 22:28:50 k48EGFOf
>>380,381
応援サンキュー
もう少ししたら投下するよ
ただいい加減スレも過疎ってきたし、少し駆け足で終わらせるかもしれないな
383:名無しさん@お腹いっぱい。
10/01/22 21:03:17 s4VQvJtr
/ ̄ ̄ ̄ \ ホジホジ
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〈__ノ
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/⌒⌒⌒/ ..:::::::::::.. ヽ ピトッ
| | | { .::::::●::::: }
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ヽ ヽ ヽ `ー一'´
384:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
10/01/23 12:28:30 rWLV+5lg
目的の人物は思いのほかあっさりと見つかった。発見場所は古手神社の奥にある祭具殿だ。
富竹はそこで中腰になり、祭具殿の扉の錠前をいじり回していた。彼の脇にはその様子を眺める鷹野の姿があった。祭具殿に不法侵入でも企てているのだろうか。
「二人とも探しましたのです」
梨花が声をかけると、二人はびくりと身体を震わせ、反射的に振り返る。
「あら梨花ちゃん、こんにちは」
鷹野は内心の動揺を押し隠すように落ち着き払った様子で言葉を返す。なかなかの役者のようだ。
それに対して、富竹は帽子を深く被る仕草をして気まずそうに俯いてから口を開いた。
「梨花ちゃん……こんにちは。失礼だけど、そちらの彼は誰だい?」
「彼はルルーシュ・ランペルージ。僕の大切な仲間なのです」
「ほら、ジロウさん。前に、この村にブリタニア人の兄妹がいるって話をしたことがあったじゃない?」
梨花の紹介に鷹野が補足を加える。富竹はそれを聞いて表情を和らげた。
「ああ、君がルルーシュくんか。話は聞いているよ。なかなか聡明な子だってね」
「恐縮です。そういう貴方は富竹ジロウさんでよろしいですか?」
「僕の名前を知っているのかい? はは、最近越してきたばかりのはずの君に知られているなんて、僕も有名人になったものだね」
「有名は有名でも、富竹は毎年綿流しの季節になると雛見沢にやってくる全然売れないフリーのカメラマンとして有名なのです☆」
「あはは、きっついなあ」
猫かぶりモードの梨花の毒舌に富竹は頭を掻いて苦笑した。
そんな談笑の最中、鷹野がその流れを切るかのように言葉を吐いた。
「それで、梨花ちゃん? 私たちを探しているって言っていたわね。どんな用件なのかしら?」
俺と梨花は話を切り出す覚悟を決め、視線を合わせて頷いた。
まずは俺が代表して口を開いた。
「では単刀直入に言います。用件はこの村に蔓延する風土病、雛見沢症候群についてです」
その言葉を捉えるなり、富竹と鷹野は先日の入江と同じような表情を見せた。
それから富竹は不器用に惚け、鷹野は警戒心と敵意が入り混じった瞳でこちらを見据えてきた。
「な、なんのことだい?」
「惚けないで結構です、富竹さん。話は全て梨花から聞きました。ですから大体の事情は知っているつもりです」
「小此木!」
鷹野が吼えるように誰かの名を呼ぶ。すると鬱蒼と生い茂る木々の間から数人の男たちが飛び出してきた。
「お呼びですかい、三佐」
突如現れた男たちの一人、小此木と呼ばれたリーダー格の男が面倒そうに鷹野に訊ねる。
「ええ、呼んだわ。その少年を速やかに拘束しなさい」
「鷹野さんっ、山狗を出すなんて!」
「ジロウさんは黙ってて。小此木、早くなさい」
「はいはい了解です、っと」
小此木が声を発すると男たちは素早く俺を取り囲み、流れるような動きで俺の身体を組み敷いた。
385:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
10/01/23 12:30:53 rWLV+5lg
「ま、待ってくださいなのです! ルルーシュはっ、」
「駄目よ、待てないわ。機密が外部の人間に漏れれば、それを何とかするのが私の仕事だもの。でもルールを守らなかった梨花ちゃんがいけないのよ」
「鷹野!」
梨花が鷹野の服を掴んで訴えるが、鷹野はそれを冷酷に突き放す。梨花は双眸に涙を溜め、俺の傍らで尻餅をついた。俺はそんな梨花を安心させるために小声で呟いた。
「……心配するな梨花、これは想定内の事態だ」
「え?」
梨花がきょとんとするのが早いか俺は鷹野に言ってやる。
「鷹野さん、俺を殺して口封じでもするつもりですか?」
「そうね、残念ながらそうなるわ。だけど恨まないでね、ランペルージ君?」
「それは無理な相談ですが―本当にこのまま俺を殺していいのですか?」
「どういうこと、かしら?」
怪訝そうな表情を浮かべつつも鷹野が話に乗ってきた。よし、これで条件はクリアされたも同然だ。内心ほくそ笑む。
「仮に俺が死ねば、俺が知る全ての雛見沢症候群に関する機密事項がネットを介して自動的にブリタニアの軍基幹コンピュータへとアップロードされる仕組みになっているんですよ」
「……馬鹿ね。ならば貴方を始末した後に貴方のおうちのパソコンを壊してしまえばいいだけの話、違うかしら」
「ふっ、ぬるいな」
「なんですって?」
俺が不敵そうに鼻を鳴らすと、鷹野は不快そうに眉をひそめた。
「無駄だと言っている。パソコンは東京租界のとある漫画喫茶のものを使用した。そこの数台に自作のスパイウェアを仕込み、24時間に一度、機密ファイルがブリタニア軍へ転送されるように仕向けてある。
アップロード開始3時間前に逐一俺のパソコンからパスワード認証及び声帯認証を行わない限りアップロードは防げない。
ステガノグラフィーを利用し、機密ファイルは一時的にシステムファイルに紛れているため、通常使用での判別は不能かつ削除も不可。
さらにスパイウェアは極めて無害故にネットワークを通して急速に感染拡大し、数日も経てば東京租界中に広まる手筈となっている」
「……貴方、何者……?」
鷹野が初めて狼狽の色を見せる一方、俺は落ち着き払った様子で微笑を浮かべた。
「別に、ただの学生ですよ」
「小此木、彼を立たせてやりなさい」
鷹野の命令に従い、男が俺を助け起こす。
俺は立ち上がると服をパタパタと叩いて汚れを落とした。土ぼこりが静かに舞う。
粗方汚れを落としてから鷹野を見据える。鷹野はそれを待っていたかのように訊ねてきた。
「何が目的なの?」
「別に脅迫するつもりはありませんよ。二人に梨花の話を聞いてもらいたいだけです」
「話ですって?」
「ええ、そのお願いを聞いてくれるならスパイウェアは直ちに無力化させましょう」
「そんな約束、信じられないわ」
「疑って結構です。こちらもスパイウェアを止めた後で貴方によって鬼隠しにされる可能性を疑っている。これは信頼とは程遠い打算による契約であり、両者が動けないようにする枷ですから」
そうだ、疑え鷹野。疑えば疑うほど思考の泥沼は貴様を最も愚かな選択へと引きずり込むだろう。
全てはブラフ―。そのようなプログラムなど初めから存在しない。作成は可能ではあるが、それには相応の時間がかかるからだ。俺にはその時間がなかった。
つまりは陳腐な虚言とでもいうべきか。
ふっ……だがそうだとしても鷹野、貴様は易々と嘘を断定できるほど軽率な間抜けではないのだろう?
喜べ、その躊躇が俺にプログラムを作成する隙を与えるのだ。
「っ……」
舌打ちをする鷹野の脇で、今までずっと沈黙を守っていた富竹が声を発した。
「鷹野さん……僕らの負けだ。条件を飲もう」
「……でもジロウさん」
「ここは彼を信じるしかない。一時の感情で動いては駄目だ。契約に従おう」
「…………。……分かったわ」
富竹に説得されてようやく鷹野は折れた。
ここまでは計画通りであるが、仮に計画に沿わなくても俺にはギアスがあった。鷹野が軽率な間抜けだったとしても何も問題はなかったわけだがな。
「……富竹、鷹野。では今から話しますので心して聞いて欲しいのです」
「待て、梨花。その前に――」
梨花の肩に手を置いて制止の言葉をかける。そして、俺は不自然にならないよう言葉に気をつけて絶対遵守のギアスを開放させた。
「お二人にとって、梨花の話は到底信じられないことかも分かりません。ですがそれでも、"梨花の言葉を全面的に信じてやってくれませんか?"」
――。
――――。
………………。
386:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
10/01/23 12:35:20 rWLV+5lg
「……ああ、構わないよ」
富竹の瞳がギアスにかかったとき独特の虚ろなものへと変わる。
「では頼む。梨花」
「はいですっ」
我慢の限界だったのか梨花が畳み掛けるように話し出す。
富竹と鷹野が綿流しの晩に殺されること。
その数日後、梨花自身が殺されること。
動機が滅菌作戦を引き起こして園崎家を殲滅することであり、黒幕はキョウト六家であること。(勿論、実行犯として鷹野が怪しいという話はしていない。)
梨花がそれら全てを話終えると富竹は静かに口を開いた。
「なるほど、状況は分かった。滅菌作戦はキョウト六家全体の総意ではないはず、上に掛け合って番犬部隊の要請をしてみよう」
「ちょっとジロウさん! こんな子供の言うことを真に受けるの?!」
「ああ、これが事実であるなら由々しき事態だ。僕と鷹野さん、そして梨花ちゃんの警護には、番犬でも随一の実力を持つ精鋭中の精鋭を当たらせよう」
「たしかに……でも! それでも番犬はやりすぎだわ! 私たちには山狗がいるのに、一体どうしたというの?!」
酷く動揺して富竹の説得を試みるのは鷹野。
しかしながらその様子を見ても富竹は彼女の説得を一蹴に付した。
「鷹野さんは少し黙っていてくれ。僕は梨花ちゃんの言葉を信じているんだ、これは現実に起こりうる話だって。では梨花ちゃん、そういうことで構わないね?」
「はいなのです!」
鷹野を蚊帳の外にして話が纏まりかけたところで俺は徐に首を横に振った。
「いえ、鷹野さんの言うことももっともな話かもしれません。あまり大げさに動いてもらってもし実際に起こらなかった場合に申し訳ない」
「ルルーシュ、何を言っているのです?!」
予定にない展開に梨花が困惑して叫び声を上げる。それを無視して鷹野に視線を向けた。
「鷹野さん、山狗というのは俺を瞬時に拘束した彼らのことですね?」
「ええ、そうよ」
「ならば護衛として十分な戦力です。番犬部隊は必要ありません。梨花もそう思うだろう?」
納得のいかない表情を見せる梨花だったが、俺が目配せするとようやく首を縦に振った。
「え、ええ……。ルルーシュがそういうのならそれでいいのです……」
「ですってジロウさん? 番犬は必要ないそうよ?」
鷹野はそう言って安堵の表情を見せる。
「そうかい? 梨花ちゃんがそういうのなら大丈夫かな? では警護は山狗に任せることにするよ」
富竹には梨花の話を信じるようギアスがかけられている。従って梨花の言い分が変われば、富竹の意見も柔軟に変移するのが道理だ。
「ではよろしくお願いします」
「了解、用件はそれだけかい?」
「はい。では綿流しの日はくれぐれも気をつけてください」
「分かった、十分に気をつける。では失礼するよ」
富竹と鷹野が踵を返し、静かに立ち去っていく。それに呼応するように山狗も林の中へとすっと溶けていった。彼らの気配は今やほとんど感じない。
だが周りにはまだ山狗が残っているかもしれない。それを察してか、梨花は声を抑えて訊ねてきた。
「ルルーシュ、なんで番犬は必要ないなんて言ったのよ?」
「うろつかれると邪魔だからだ」
「邪魔? ……まあいいわ、あんたのことだから何か考えがあるんでしょうし、それに山狗の警護も鷹野に取り付けることができたしね」
「おめでたいやつだな。だからお前は逃れられない絶対の運命なんてものを簡単に信じるんだ」
「え?」
振り返って手を振る鷹野と富竹に笑顔で手を振り返しながら、俺は梨花にだけ届くように言った。
「鷹野は敵だ」
387:名無しさん@お腹いっぱい。
10/01/23 12:46:45 6nNK6yVp
敵だ!
388:名無しさん@お腹いっぱい。
10/01/28 00:17:20 CZq9E8dq
乙!!そして規制解除!!
389:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
10/02/13 11:31:14 PuU9DafQ
【15】
「ちょっと……鷹野が敵ってどういう意味よ?」
「分かりきったことを聞くな、お前を殺す犯人はアイツなんだよ」
唐突に鷹野が実行犯だと断定され、梨花は驚きを隠せないようだった。
この場できちんと説明をしてやりたいが、周りにはまだ山狗が潜んでいる可能性がある以上ここで全てを伝えるのは難しい。
「そういえば朝食がまだだったな。梨花、お前の家で何かいただくことにしよう」
「……もう、勝手に決めて。まあいいけど」
梨花の同意の元、彼女の住まう防災倉庫へと場所を移すことにした。
玄関口を開けると人の気配がない。当たり前か、ここでは梨花と沙都子が二人で生活していると聞いている。沙都子は今、鉄平の件で入江診療所に入院しているわけだしな。
防災倉庫の二階に上がると、梨花はすぐに出来るからと言葉を残し、まっすぐ台所に向かって朝食の準備を始めた。
一方、俺はその合間に診療所と同じように盗聴機の有無を確認していた。
二人での食事を摂り終えると、梨花は堰を切るように問い質しにきた。
「それで、ルルーシュ。一体どういうわけなの? 何故鷹野が犯人だと分かったの? 番犬部隊が必要ないってどういう意味?」
「待て、順を追って説明してやる。それよりもこの家は客人にお茶も出さないのか?」
「……っ、梅昆布茶でいいかしら」
梨花はこめかみを引くつかせながら冷静を装って言う。俺はそれに対し少しばかり横柄な態度でこう返した。
「まあそれでいいだろう」
390:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
10/02/13 11:33:05 PuU9DafQ
「まったく、図々しく朝食を催促したかと思えば失礼な客人だこと」
梨花は苛立ちながらも二人分のお茶を入れて戻ってくる。湯のみをテーブルに置くと、再び先ほどの質問をしてきた。
「で、どういうわけなのかしら?」
「まず俺のギアス能力についてだが、お前は俺の力をどんなものだと思っている?」
「そうね……最初は異性を魅了するようなギアスかと思っていたけれど、同性の富竹に使っていたようだからどうやら違うみたい。でも対象に命令を強制させるという能力で間違いはないわよね?」
「ああ、俺のギアスは絶対遵守の力。どんな人間にも拒否不可能な命令を一度だけ下すことができる」
梅昆布茶とやらを一口啜る。む、不快ではないものの妙な味がするな。
「一度だけなの?」
俺が梅昆布茶の味に首を傾げていると梨花が不思議そうに聞き返してくる。
「ああ、俺の能力は対象一人に付き、たった一度きり。だが、それ以外にも俺の能力が効かないケースが存在する」
「それは?」
「一つ目は物理的に無理な命令を下した場合。二つ目は使う意味のない命令を下した場合だ」
「えっと。一つ目は分かるけど、二つ目は一体どういう場合かしら?」
「例えばそうだな……今、お前は右手に湯飲みを持っている。その状況下で"右手に湯飲みを持て”とギアスで命令を出した場合どうなると思う?」
「なるほど、それが意味のない命令ね? だけどその話がさっきの私の質問に何の関係があるのよ」
「関係大有りだ。実は先ほど富竹にギアスをかけた際、同時に鷹野にもギアスをかけた」
「なんですって? だって、」
「そうだ。にも関わらず鷹野はお前の話を信じていなかったように見えた。これをどう考える?」
「どうってそりゃ……鷹野にギアスを使うのが二度目って訳じゃなさそうだし? かといって物理的に無理って訳でもないだろうし、だとしたら残すは意味のない命令だったってことになるわね。でもそれってちょっとおかしくない?」
「何もおかしくはないさ、鷹野は心の底ではお前の話を信じていた。それもお前の話が現実に起こる事象だと断定できるレベルでな。それ故にギアスは無効化されたに過ぎない」
「えーっとつまり? 鷹野は私の話を信じてたけど信じていない振りをしていたってことになるわよね? あれ?」
首を捻る梨花。まあややこしい話だから当然の反応かもしれない。埒が明かないので仕方なしに答えを教えてやることにした。
「そんな妙な態度を取ったのは鷹野が実行犯だからだ。信じるも何も自らの起こす犯行計画だ、知らないわけがないからな」
「なるほど! だから貴方は鷹野が犯人だと確定することが出来たのね、流石ルルーシュ――って貴方、それが分かっていてなんで番犬部隊の派遣を断ったのよ?!」
得心がいって手をぽんと叩いたと思えば、梨花は手のひらを強く卓袱台に叩き付けた。その衝撃で湯飲みの液面が大きく揺れる。
「お前の言い分はもっともだ。だがあのまま番犬部隊が警備に来てどうなる?」
俺はゆっくりと茶を啜りながら梨花に問う。すると彼女は興奮が収まらないまま俺の質問に答えた。
「どうなるですって?! ふざけないでっ、番犬がいれば鷹野は身動きが取れなくなって惨劇は回避される! 何も起こらないまま綿流しの祭が過ぎ去り、私は未来を掴むことができた!」
「では再び問おう、お前が望む未来とはどんなものだ。朝から晩まで警護という名の元に、監視をされ続ける不自由極まりない生活を送ることなのか」
「あ……」
どうやら彼女も俺の言わんとしていることが理解できたようだ。梨花はようやく冷静さを取り戻し、短く声を漏らした。
「分かったな。番犬を利用して一時的な平穏を手に入れても何の解決にもならない。逃げずに戦わなければ、いずれまた命を狙われることになるんだよ」
「でも鷹野が犯人ってことは普通に考えて山狗も敵よね……?」
「お前の気持ちも分かる。だが立ち止まっても何も進展しない。まずは信頼できる人間を集めよう」
「……そうね」
梨花は重く頷き、それから梅昆布茶を一気に飲み干した。
現時点で信頼できうる人間はあまり多くはない。
ならば頼らざるを得ないな、俺たちの仲間を。
391:名無しさん@お腹いっぱい。
10/02/13 21:33:02 ljaol4zX
乙☆
392:名無しさん@お腹いっぱい。
10/02/13 22:37:31 nv2lyLuV
黒の騎士団か
393:名無しさん@お腹いっぱい。
10/02/14 00:30:22 y/ALriym
乙
黒の氣志團を指すか?違うような…
394:名無しさん@お腹いっぱい。
10/02/15 08:21:56 x7MpfoK3
>>1さん
乙です!1日遅れだけど、チョコレートどうぞ
つ★
続き楽しみにしてます
395:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
10/02/15 22:01:11 7legPV4B
コメさんきゅー。
毎度遅くてすまん。
>>392,393
仲間は部活メンバーのことで、黒の騎士団は出さない予定。
つか出したくても人物が多くて書ききれない罠
>>394
チョコなんて人生で二回しかもらったことねーぜ。気持ちだけさんくす!
続き早く出せるようにがんばる
396:名無しさん@お腹いっぱい。
10/02/17 22:29:19 5FLhDSBR
おお、まだがんばってるんだな。何とか完結して欲しいぜ
397:名無しさん@お腹いっぱい。
10/02/26 02:23:22 P+U/uC5M
保守あげ
ここまできたら最後まで読みたいぜ
398:名無しさん@お腹いっぱい。
10/02/26 07:12:59 aTYYUpRs
期待
399:名無しさん@お腹いっぱい。
10/02/28 01:21:22 R1Nu72LM
のんびり
400:名無しさん@お腹いっぱい。
10/03/04 15:56:16 7Za6SIPX
支援
401:名無しさん@お腹いっぱい。
10/03/05 07:18:42 ZZ4dbONl
気長に期待あげ
402:名無しさん@お腹いっぱい。
10/03/05 07:22:43 WHVAi12x
まちまち
403:名無しさん@お腹いっぱい。
10/03/09 17:13:28 nvz6K4z7
ゆったり
404:名無しさん@お腹いっぱい。
10/03/10 13:48:58 rbGr0FMH
まったり
405:名無しさん@お腹いっぱい。
10/03/11 08:58:18 ka41YLCp
とっても面白いです^^
ギアスとひぐらしは今も昔もはまってるのでこういうssがあってうれしいです
がんばって完結して下さいっ応援してます
406:名無しさん@お腹いっぱい。
10/03/11 19:05:30 l6FfQYBX
なんだかんだでがんばってるなあ
407:名無しさん@お腹いっぱい。
10/03/11 19:26:04 QiB8LlU0
更新遅いけど続き楽しみだよね
408:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
10/03/12 23:08:10 3xMTKmUo
悪い、待たせた。
最近週一の休みしか取れてなくて執筆の時間と精神的余裕が若干なかったわ。
……とちょっと愚痴零しかけたけど投稿する。
409:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
10/03/12 23:30:01 3xMTKmUo
やはり一番の味方と考えられるのは魅音たち部活メンバーだろう。戦力としては若干物足りないが、そのデメリットを上回る程の信頼がある。
逆に山狗は戦闘能力こそ申し分ないが、彼らは鷹野の手駒であり信用に欠ける。山狗がシロで鷹野の単独犯という可能性もないわけではない。が、だからと言って羊の番をわざわざ狼にやらせる愚を冒せるはずもない。
魅音とレナと沙都子の三人、そしてスザク―これだけでは駒が足りないように思う。他には味方になってくれる人間はいないだろうか?
信頼という観点から見れば、今や俺のほうにはC.C.ぐらいしか思い当たらないが……。
「魅音たちに協力を求めるのは確定だとして、後もう少しだけ味方が欲しいところか?」
「そうね、入江なんかはどう?」
「いや、入江はよそう。確かに彼のおかげで貴重な情報を得られたのは事実だが、今回の件に関して言えば、正直あまり助けになりそうにない」
梨花の提案に俺はゆっくりと首を横に振った。
「それに入江は嘘や隠し事が苦手そうだ。下手をするとこちらの尻尾をつかまれる恐れもあるからな」
「入江が駄目なら他に誰か心当たりは?」
「そうだな―」
呟きながら視線を脇に流した丁度その時、梨花の家のアナログ電話がジリリと騒がしく鳴り出した。
「ちょっと待ってて」
梨花は一言断ると今時珍しいアナログの黒電話へと向かい、その無駄にサイズの大きい受話器を掴んだ。
相手は魅音やレナだろうか。であればこちらから連絡を取る手間が省けるのだが。そんなことを考えていると、梨花がこちらに視線を送ってきた。
「ルルーシュ、あんたによ。咲世子さんから」
「咲世子から?」
一体何の用だろう? 怪訝に思いながらもずしりと重い受話器を受け取って返事をする。
「もしもし、ルルーシュです。どうしました?」
「ルルーシュ様? 大変です、ナナリー様が!」
「ナナリーが一体どうしたんですか?!」
問い詰めると咲世子は酷く取り乱した様子でナナリーがいなくなったことを告げた。それを聞くなり身体中に戦慄が走る。
「少し目を離した隙にナナリー様の姿が見えなくなって、妙な手紙だけが残されていたんです! ああ、なんてこと!」
「落ち着いてください、咲世子さん。……その手紙にはなんと書かれていたんですか?」
咲世子がショックで声を震わせたまま手紙を読み上げる。
***
妹は預かった。
返して欲しければサクラダイト発掘現場のゴミ山に独りで来ること。
他言は無用。
***
410:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
10/03/12 23:31:24 3xMTKmUo
「―差出人はマオを名乗っています……」
「マオ、だと……」
「ルルーシュ様、何か心当たりでも?」
「いや……ないですね」
内心の動揺をひた隠して否定の言葉を口にする。
馬鹿な……。マオは確かC.C.の放つ銃弾によって頭を打ち抜かれ絶命したはずだ。生きているわけがない。
だがしかし、ナナリーを攫う理由がある人物はアイツだけしか思い当たらない。まさかやつもC.C.と同様に不死の身体を持ち、今も尚俺を嘲笑うかのように平然と生きているというのか?
いや、だとしたらC.C.が何かしら言うだろう……。それともC.C.に謀られた?
違う、それはありえない……。C.C.の言う願いをまだ俺は叶えていない。この状態で裏切ったとしても得は何もないはずだ。
従って現時点では何者かがマオを騙っているとしか考えられない。だが一体誰が?
鷹野はマオを知らないだろう。つまりこの件に関してはシロ。
では俺とマオの関係を知り、俺がこの雛見沢に転校したことを聞いている人物は……?
「……そんなことはどうでもいい。今は……」
独りごちると、咲世子に対しこの件は自分に全て任せるように言い聞かせて受話器を置いた。そして玄関に繋がる階段へと足を急がせる。
「ルルーシュ、何かあったの?」
ただことでない雰囲気を感じ取ったのか梨花が緊迫した面持ちで訊ねてくる。
……他言無用と言っていたが、梨花ぐらいにはいいだろう。幸い盗聴機等の有無は確認済みだ。
「ナナリーが攫われた」
「なんですって?!」
「だから、これから犯人の指示に従って行動する」
「私も行くわ!」
「お前は来なくていい。独りで来いという犯人からの要求だ」
「でも、」
渋る梨花を少し語気を荒くして諭す。
「馬鹿が、お前は他人の問題に構っているほど暇なのか? 違うだろ、お前はお前がすべきことをやれ」
「私がやること……?」
「朝のうちに電話でスザクを呼んでおいた、まもなく雛見沢に到着するだろう。スザクに全てを打ち明けて協力を求めろ。それから―」
魅音たちを呼んでスザクと同様に彼女らの協力も求めるよう梨花に促して、俺は足早に防災倉庫を後にした。
411:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
10/03/12 23:33:50 3xMTKmUo
犯人の要求通りサクラダイト発掘現場に独りで赴く。
高く詰まれた幾つものゴミ山を乗り越えて、その影に隠れた平地へと降り立つ。
そこには案の定マオはいなかった。ただ少女が独りぽつりと俺を待っていた。
ゴミ山にて決してその場に似つかわしくない燈色の美髪を靡かせる彼女は、果たして俺のよく知る人物だった。
少女は俺にとってたぶん一番大切な友達であり、それ故に繋がりを絶ったはずの――。
「シャー、リー……」
俺は思わずかつてのクラスメートの名前を呟いた。
一方、彼女はまっすぐと俺の目を見て徐に口を開いた。
「ルルーシュ、手紙の指示通りに一人きりで来てくれたのね」
「お前がナナリーを……。そうなのか、シャーリー……」
「うん、そうだよ」
そう答えるシャーリーの口元は綻んでいたが、目は僅かにも笑っていなかった。
「一体どうしてこんなことを」
「自分の胸に聞いて、ルルーシュ。いえ、ゼロ」
強い眼差しで俺をまっすぐと見据え、吐き捨てるようにシャーリーは言う。
「シャーリー……記憶が戻ったのか……?」
動揺する俺の質問にシャーリーは答えない。彼女は肩を竦ませるだけだった。
だがそれでも諦めることなく矢継ぎ早に言葉を紡ぎ出す。
「狙いは俺だろう、ナナリーは関係ない!」
「くすくす。関係、あるよ。だってナナちゃんは貴方の大切な妹だもの」
「ああ……認める。ナナリーは俺の大切な妹だ……。だから頼む、ナナリーを返してくれ!」
俺の悲痛な訴えにも関わらず、シャーリーは眉一つ動かさず冷たく残酷な言葉でもって俺の背筋を凍らせる。
「残念だけど、もう遅いわ」
「な、んだと……? それはどういう意味だ!」
「……貴方には私と同じ悲しみと憎悪を味わってもらう」
「お前……まさか…………」
そんな、ナナリーがもう既に――されているなんて。まさかそんな、そんな馬鹿なことがあってたまるのものか……。
言葉にならない絶望と恐怖がゆっくりと心を締め付ける。
俺は自分の読みを否定するように、一抹の希望を紡ぐように、無意識に首を横に振る。
だがしかし、シャーリーの無味簡素な声によって俺の希望は儚くも打ち砕かれたのだった。
「貴方はお父さんをナリタ山で生き埋めにした。だからそのお返し。貴方も……大切な人がいなくなる悲しみが少しは理解できたかな。ねぇ――ルル?」
「シャアァァリィィィィィッッッ!!」
気づけば俺は眼前の仇の名を叫びながら、その首へと向かって二の腕を突き出していた。
412:名無しさん@お腹いっぱい。
10/03/13 11:46:58 +fNLokei
ナァ~ナァリ~~~~~~!!!!
こんな展開ってぇ・・・・
413:名無しさん@お腹いっぱい。
10/03/14 00:01:52 PTLaiyXU
過疎
414:名無しさん@お腹いっぱい。
10/03/14 00:07:04 lTu4ae4M
支援
415:名無しさん@お腹いっぱい。
10/03/14 00:13:45 GS5XAaq5
馬鹿……な…!?
416:名無しさん@お腹いっぱい。
10/03/14 02:02:59 GS5XAaq5
記憶完全に戻ってれば仇の件飲み込んでデレるのに~(涙
417:名無しさん@お腹いっぱい。
10/03/14 08:02:26 hTKvBQir
規制つづきでなかなか乙できないのがもどかしい!
ちょこちょこのぞいて楽しみにさせてもらってます。
ぼちぼちでも最後までまってるよー
418:名無しさん@お腹いっぱい。
10/03/25 16:56:40 x2qitCOv
シャーリーヤンでるよwww
ヤヴァイよ・・・・ギアス的にどうよ この展開は・・・・
でも楽しみに待ってます 心から応援してます~!
419:名無しさん@お腹いっぱい。
10/03/25 16:59:02 sObq7AIj
おおッ!!!
420:名無しさん@お腹いっぱい。
10/03/27 14:51:22 85Ynlrcz
とりあえず、乙
421:名無しさん@お腹いっぱい。
10/03/28 12:26:42 uIReCxhK
ゼロ出ないかな~
422:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
10/03/29 20:20:22 90Lv1psf
俺の両の手がシャーリーの首へとかかり彼女は苦悶の声を上げる。苦しいという気持ちが痺れるように徐々に腕を伝い昇ってくるのが分かる。
このまま後数十秒も締め付けていれば目の前の少女の命はあっけなく止まってしまうだろう。それだけで俺はナナリーの仇を討てた。
そのはずなのに、俺は自然と彼女を開放していた。
シャーリーは肺に新鮮な空気を送り込みながら息も絶え絶えに言った。
「……どうして止めるの」
シャーリーにとってみればそれは当然の疑問。だが俺からしてみれば決してそうではなかった。
撃って良いのは撃たれる覚悟のあるやつだけ、俺は今までそう自分に言い聞かせて生きてきたからだ。だから分かる。俺の怒りはシャーリーの怒りでもあったのだ。
俺が誰かの大切なものを奪えば、俺も大切な何かを失ってもそれは至極当然の帰結なわけで……。
「私はナナちゃんを殺したのにどうして? 私が憎くないの」
「…………」
憎くないかと問われれば憎い。だが母親を殺した犯人を探し出して復讐をしようとしている俺がシャーリーに対して何を言えるだろうか。
何よりシャーリーは俺の大切な人だった。大切なものを失ってそれで今度は自らの手で大切なものを壊してしまったら、俺は自分を許すことができなくなってしまうから。
だから俺はシャーリーを殺すことができなかった。
「分かった、自分で手を下すのが怖いんでしょう?! だから殺せないんだ!」
シャーリーは唇を震わせてそう言い、俺の服を強引に掴む。それを振り払うこともせず、俺はされるがまま別のことに思いを馳せながら、ただ呆然と立ち尽くしていた。
どうして俺は未だこうして生きている? 最愛の妹がいなくなったその時点で、俺の生きる目的はとうになくなってしまったというのに。
ああ、そうか……分かった。俺の最後の役割が。
「シャーリー、お前を殺さない理由を教えてやろうか?」
「え?」
「フッ、それはな……お前が俺にとって取るに足らない存在だからだよ……ッ!
お前の言う通り、俺の正体は日本を解放に導く偉大な革命家ゼロ! だがそれに対しお前は支配されるだけの矮小無力な女に過ぎない! 従って、殺す価値などただの一遍もないのだよ!」
「……ルルーシュ、まさか貴方は……?」
シャーリーが俯き加減だった顔を上げる。それを見計らって、俺は高らかに嘲笑って言葉を続けた。
「くっくっく、覚えているかシャーリー? 父親が死んだ時お前は俺に泣きついたんだ。その泣きついた相手が父親を殺した張本人とも知らずにな!」
「やめて、ルルーシュ……やめてよ」
嫌々とばかりに頭を振るシャーリーを尻目に俺は平然と踵を返す。彼女に対して無防備な背後を見せつける形で……。
「見ていて面白かったぞ。お前は俺を楽しませるための滑稽な道化だった。ありがとう、お前は本当にいい暇つぶしになったよ、あっはっはっは!」
「ルルーシュッッッ!」
シャーリーが俺の背中目がけて飛びかかってくるのが分かる。
そうだシャーリー、お前の憎い相手はここだ。殺せば楽になるというのなら殺せばいい。
そしたらすべて忘れて、俺が好きだったあの頃の君に――。
423:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
10/03/29 20:27:06 90Lv1psf
Turn of Hinamizawa Village ― Rika side
ナナリーは大丈夫だろうか。
私はルルーシュの親友スザクと電話で呼び出した仲間たちを待ちつつ物思いに耽っていた。
ルルーシュが防災倉庫を飛び出てもう十数分経つ。
やはり無理を言ってでも私も着いて行ったほうが良かったのではないか。何度もそんな不安にかられる。
だが私がいてどうなるものでもないとその都度思い直し、もはや頭の中はぐちゃぐちゃに煮込んだシチュー鍋のようになっていた。
思い悩んでいるうちにも時間が流れ、ついに玄関の呼び鈴が鳴った。
両頬をぴしゃりと自らの掌で打ち、頭を切り替える。
……ルルーシュの言う通りだ。今は自分のことだけを考えろ。
仲間たちに私の話を信じてもらい、この惨劇を終わらせる。ここが正念場なのだ。
皆は信じてくれるだろうか? よもや冗談半分で流されないだろうか……。そんな弱気な考えを切り捨て、玄関を開ける。
玄関の扉を開けると、そこにはスザクが立っていた。先に魅音たちが来てくれるとばかり思っていただけにぎょっとする。
「どうもこんにちわ……古手梨花ちゃんのお宅で、いいのかな?」
「はいです、貴方がスザクなのですか?」
「うん、そうだよ。よろしくね。君は梨花ちゃんで間違いないかい?」
スザクとはこの世界では初めてだが、以前の世界では何度か綿流しの当日に会ったことがある。
そういえば、彼に幾度か助けを求めたこともあったっけ。あれは苦い思い出だった。
スザクは真摯に私の話を聞いてくれたけれど、結局毎回鷹野の通常業務(機密保持)によって消されてしまっていた。
彼は強い力を持っているのは間違いない。だがそれに見合う経験が足りていなかった。
綿流しの当日から私が死ぬまでの僅かな期間では焦りたくなる気持ちも分かるが、彼はスピードを重視するあまりやりすぎた。情報収集の際、いつも引き際を誤って命を落としていたのである。
大変失礼な話だが、私にはそれが死にたがっているように思えたので、酷くやさぐれていた頃の私は陰で彼を死にたがりと呼んでいたことがあるぐらいだ。
勿論、本人には内緒なのだけれど。(余談だが、ルルーシュのほうは頭でっかちの無能呼ばわりしていた。)
そんなこともあって、以来スザクに話すのは控えていたのだけど……きっと今度こそは大丈夫だろう。
今回の味方は彼一人ではない。今までどうしても力になってくれたことのなかったルルーシュがいる。ううん、彼だけじゃない。魅音やレナ、沙都子たちもいるのだ。
ふと、人は助け合って強くなれると誰かが言っていたのを思い出す。
以前の私はそれを戯れ事だと嘲っていたけれど……今回は、見誤らない。
悲劇なんて知るもんか、惨劇なんて知るもんか。きっと今度こそ、悪魔たちの考えた脚本など打ち破り、私は私が納得いく決着を付けて見せよう。
424:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
10/03/29 20:27:55 90Lv1psf
「えっと……梨花ちゃん、だよね?」
「あっ……そうなのですよ。初めましてなのです、にぱー☆」
スザクと会話中だったことを思い出し、慌てて言葉を返す。
「早速だけど上がらせてもらっていいかな?」
「どうぞなのです」
スザクを防災倉庫の二階に招き、お茶の用意をする。
入ってすぐ彼も盗聴器の有無を確認しようとしていたが、ルルーシュが既に行っていることを伝えると安心して腰を下した。
「じゃあ……真相を聞かせてもらうよ、いいね?」
「はいなのです。けど、一緒に話を聞かせたい人たちがいるので、しばらくの間待っていてもらえますですか?」
「それは信用できる人たちかい?」
「僕の友達なので心配はいらないのです」
「そっか。そういうことなら待たせてもらうけど、一つ聞いていい?」
差し出したお茶を丁重に受け取ってスザクは訊ねてくる。
「なんなのです?」
「ルルーシュはいないのかい?」
「えっと、彼は……急用を思い出したとかで少し前に出て行ってしまったのです」
スザクにはナナリーが攫われた事実を伝えたほうが良かっただろうか。
少し考えて止めておくことにした。スザクには自分の話を聞いてもらわなくてはいけないのだ。ルルーシュのほうへ向かわせるわけにはいかない。
そもそも今はどこにいるかも分からない状況だ。無駄足になる可能性が高い。ここはルルーシュを信じるしかない。
「そっか。彼は元気かな? ほら、最近は電話で連絡を取り合うぐらいだからさ」
……ルルーシュは大丈夫だろうか。
大丈夫だ……大丈夫。ルルーシュなら上手くやってくれる……。
不安を誤魔化すかのように私はスザクへと冗談交じりに言葉を返した。
「もちろん元気なのですよ。この前なんかウェディングドレスで村を練り歩いたぐらいなのです、にぱー☆」
「あはは、どういう経緯でそうなったのか知らないけど、それはきついね」
スザクは苦笑してお茶を一口啜る。それに倣い、私も湯呑みに口を付け、彼に雛見沢でのルルーシュの生活を教える。
部活やその罰ゲームでのこと。沙都子が叔父に連れて行かれた時助けてくれたこと。そして今も真剣に私の話を聞き、共に行動してくれていること。
スザクが聞き上手なのもあってか、本当によく喋った気がする。
一しきり話終えた頃、丁度良いタイミングで玄関の呼び鈴が鳴って、私とスザクは顔を見合わせ頷き合った。
425:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
10/03/29 20:30:40 90Lv1psf
Turn of Hinamizawa Village ― Lelouch side
背中にトスンと軽い衝撃。
痛みはないが刺されたのだ。そう思った。刺された時なんて案外こんなもんだろうと思っていた。
だけどそれは違っていて、すぐにそれがシャーリーの温かい抱擁だと分かった。
「シャー、リー……どういうつもりだ」
「やめて……もう、いいから……。もう、嘘はつかなくて、いいから……」
「嘘だと? この期に及んで信じられないのか。お前の父親は俺が殺したんだよ」
「そうかもしれない、でもルルーシュは……。ルルは泣いているから」
「泣いている? 俺が? いつどこで?」
「たった今だよ。悪人を演じながら、ルルは心の中で泣いているよ……」
「イカレてるとしか言いようがないな。確かにナナリーが死んだことは悲しいが、これでゼロとして動きやすくなった。別に泣くほどのことではない」
明らかな嘘だった。ただ最愛の妹がこの世にいないというだけで胸が張り裂けそうだった。けれど、シャーリーのためにはこう言う他なかったのだ。それがせめてもの償いとなると思ったから。
「私もルルに嘘をついた……」
「何……?」
「ナナちゃんは生きてる」
「えっ?」
シャーリーの言葉が上手く飲み込めない。その癖妙な浮遊感が体を包む。
ナナリーが……生きて? それって……。
「殺してなんかない! 今もちゃんとナナちゃんは生きてる!」
「それは、それは本当なのか?!」
振り返ってシャーリーと対面する。その時初めて浮遊感の正体が喜びなんだと気づく。
「嘘をついて、ごめんなさい……」
目の前に現れたシャーリーの頬は涙で酷く濡れており、再び俯きながら彼女は俺に呟くように謝る。
「どうしてそんなことを……?」
「最初は殺そうと思ってた。だけどその時になって思ったの。“あたし“は何がしたいんだろうって」
そう言いつつシャーリーは涙を拭うと、それから俺の目をまっすぐと見据えた。
「ルルを殺そうと考えたこともあった。だけどそんなことをしたら何も罪のないナナちゃんが私と同じ目にあってしまう。
だからって貴方に私と同じ苦しみを与えるためにナナちゃんを殺すことはできなくて……ごめんなさい……」
「そうか……よかった……よかった……っ……」
気づけば俺の双眸からは涙が流れ出てきていた。
「ルル、私気づいたの。人を憎む気持ちを無くすのはとても難しいこと。けれど、だからこそ途中で誰かが止めないといけないんだって。
……貴方は憎悪に支配されても結局は私を殺さなかった。だから私は貴方を許そうと思う」
「シャーリー……」
「ルル、私は貴方を許すよ。例え世界が貴方を許さなくても私が貴方を許します」
「っ……ありがとう、シャーリー……ありが、とう……っ…………」
俺は恥も外聞もなく声を出して泣いた。
涙は止めどなく溢れ出て、まるで涙腺が壊れてしまったようだった。
それをシャーリーという少女は慈愛に満ちた微笑を浮かべながら背中を擦り、俺を快方してくれた。
自分もつらいはずなのに、彼女は憎い相手を許す強さを持っていた。
結局の所、彼女は憎しみの連鎖を断ち切ったのが俺というが、決してそうじゃなかった。他でもない彼女だったのだ。
涙が止まらない。自分の不甲斐無さが身に沁みて嗚咽がどうしても抑えられない。
「済まなかった……済まなかった! それがあの時どうしても言えなくて!」
もしかしたら俺は、彼女の記憶を消したその時からずっと彼女の許しが欲しかったのかもしれない。
426:名無しさん@お腹いっぱい。
10/03/30 20:01:48 58ry30Dg
おおっ?!キター
みな早く集まってこい!!
427:名無しさん@お腹いっぱい。
10/03/30 20:19:39 Hov5tESt
おおっ、おおっ! 涙で前が見えない…(T__T)
リアルでもらい泣きしそうになった名シーンですわ
428:名無しさん@お腹いっぱい。
10/03/31 05:53:22 H74Vzsi4
うううぅぅぅぅ乙!!
いつまででも待ってる!!
429:名無しさん@お腹いっぱい。
10/03/31 23:36:04 wuwkRSrV
シャアリィィィ!!
SSで泣いたの初めてだわ
430:名無しさん@お腹いっぱい。
10/03/31 23:45:51 YGBLXxlb
あれ?目から汗が…
431:名無しさん@お腹いっぱい。
10/03/31 23:49:06 gUswwDAB
>>429
お願いだからsageてくれ
変なのに荒らされたくないだろ?
432:名無しさん@お腹いっぱい。
10/04/06 20:29:58 7aP0Ox5a
了解です。
気をつけるお。
433:名無しさん@お腹いっぱい。
10/04/07 21:29:34 vK7pL5Hg
保守
434:名無しさん@お腹いっぱい。
10/04/09 22:16:45 BZP2Tk75
待つです。
435:名無しさん@お腹いっぱい。
10/04/12 13:47:55 L4+0L10Y
いつまでも待ってるよん
436:名無しさん@お腹いっぱい。
10/04/18 13:08:07 dNH57KmV
保守
437:名無しさん@お腹いっぱい。
10/04/18 13:16:44 fi3RIscs
羽入にレイプされるルル
438:名無しさん@お腹いっぱい。
10/04/29 22:55:25 5w2rSAa7
保守
439:名無しさん@お腹いっぱい。
10/05/05 23:31:49 iEBu5ENV
待ちますよ~
440:名無しさん@お腹いっぱい。
10/05/08 16:49:43 4L1EL0ZL
初見です。一気に読んじゃいました。
とても良かったです。
続きに期待しながらずっと待ってますよ~。
441:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
10/05/10 23:12:57 8F6F4szm
kakunin
442:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
10/05/10 23:14:09 8F6F4szm
シャーリーの案内の元、ナナリーのいる場所へと向かうと、意外にもそこはゴミ山のすぐ近くだった。
サクラダイト発掘のために建てられた廃墟の中で、ナナリーは特に拘束されているというわけではなかった。
例え目が見えなくとも、逃げようと思えば易々と逃げられる。そんな状況下でナナリーはいつもの車椅子に座り、まるで待ち合わせ場所で誰かを待っている風貌だった。
その様子を見て取り、本当にシャーリーはナナリーに危害を加える気がなかったんだなと今更ながらに思う。
ナナリーと二三、言葉を交わした後、共に廃墟から出る。
それからシャーリーと向かい合い、俺は彼女と別れの言葉を交わす。
「じゃあね、ルル」
「ああ、シャーリー……元気でな」
どちらからというわけでもなく、握手を交す。
「ルルこそ元気で……。そして、もう道を誤らないで」
「ああ、約束する……。俺はもう間違わない」
手段より追及すべきは結果。そう信じて今まで俺は歩み続けてきた。
けれどふと後ろを振り返ると、そこにはたくさんの屍が横たわっていて。その命を無駄にしないためという大義名分を掲げ、さらに多くの命を犠牲にしてきた。
だが俺は今日、その果てに至る未来をシャーリーに気づかされた。
至るのは破滅。結果を追い求めすぎ、そのせいで大事なものを自ら壊してしまうというもの。
それはただの想像なのに酷く生々しい光景で、俺はその現実感に寒気を起こす。
「スザクが言っていた。間違った方法で得た結果に意味なんてない。今ならそれが分かる」
「うん……そうだね。それに気づけたルルならきっと……」
唐突にシャーリーが握手を交わすその手を手前に引いた。それにつられ、身体が前に引っ張られる。
シャーリーはバランスを崩しかけた俺の身体を抱き寄せるかのように支えた。
「さようなら、ルル。またいつか」
「ああ、またいつか」
シャーリーはすっと身を翻し、未だ抱擁の余韻も消えないうちにその場を後にする。
もう彼女は僅かにも振り返ることはしなかった。
彼女の後姿―風に靡いた燈色の髪が夕焼けに交じり見えなくなった頃、唐突にナナリーがくすりと微笑んだ。
「お兄様、良かったですね。シャーリーさんと仲直りできたみたいで」
ナナリーのその言葉が引き金となってまた少し涙腺が緩む。
少し間が空き、不思議がるナナリーに俺は微笑交じりに言葉を返した。
「ああ、そうだな……。本当に長い刻を彼女と仲違いしていた気がする。でも、だからこそ――」
俺はもう二度と彼女を裏切る真似はしないと誓おう。
443:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
10/05/10 23:16:32 8F6F4szm
【16】
Turn of Hinamizawa Village ― Rika side
「―以上、これが僕の話したいことのすべてなのです。ぺこり」
防災倉庫のリビングにて短くない時間を費やし、ようやく魅音やスザクに私が置かれている状況を説明することができた。
一呼吸置いて周りを見回すと、皆呆然として押し黙っているのが見える。
魅音、レナ、沙都子、スザク……。やはりこんな荒唐無稽な話、簡単に信じてくれはしないか。
「信じられないのは分かりますです。でもこれは事実なのです」
……だが、こればかりは時間をかけてでも信じてもらわなくてはならない。何故なら、これから起こる事件が私だけの命を奪うものではないと、もう私は知ってしまったのだから。
「それで、おじさんたちはどうすればいいのかな?」
説明を終えてから、魅音が初めて口を開く。彼女に倣って沙都子も言葉を発すした。
「私たちに一体何が出来るというんですの?」
その言い方には僅かに私を責めるような強さがあった。
二人は怒っているのだろうか?
何に対して? もしかして私がいるせいで大量虐殺が引き起こされるから?
私が死ぬとそれに巻き込まれると知ったから?
二人にそんな目で見られているかと思うと居た堪らなくなった。私は自然と謝罪の言葉を口にしていた。
「ごめんなさい……」
「それは何に対してのごめんなのかな、かな」
レナだけはこの空気を理解して私を責めないでくれると思っていた。けれど彼女もまた二人と同じく私をきつく見据えて詰問してくる。
仲間が周りにたくさんいるはずなのに、私は何故か孤独感を感じてしまっていた。
「それは……皆を巻き込んでしまったからなのです。そして僕が死んでしまった時、皆も犠牲になるからです」
俯き加減にレナの問いに答える私。口に出して酷く悲しい気持ちになる。
皆の罵りの言葉が聞こえてくるような気がして再び謝った。
「本当にごめんなさい。でも僕が頼れるのは皆しかいないのです……」
首を横に振るレナ。それは拒絶?
「梨花ちゃんは謝るべきだと思う」
もう謝っているのに、これ以上何を謝罪しろと言うのか……。レナが分からない。
レナの言葉を引き継ぎ、スザクが言った。
「梨花ちゃん。僕は皆とは初対面ではあるけど、皆が君の何に怒り、何に謝罪を求めてるかが分かるよ」
「それは一体何なのです……?」
「どうしてもっと早くに相談してくれなかったの? 僕には魅音たちがそう言っているように見えるよ」
「え……」
非難されても仕方がないと思っていた所に意外な答えが返ってきて、思わず唖然としてしまう。
そんな私にレナが真顔で語りかけた。
「梨花ちゃんの相談がもっと早ければ、奴らに比べたら限りなく無力に近いこんな私たちでも、今より多くの事が出来たかもしれない。逆に相談がもっと遅くなっていたなら、最悪、何もできずに私たちはただ梨花ちゃんを失っていた。理解できるよね?」
「はいです……。僕は皆の気持ちを全然考えてなかった。本当にごめんなさいなのです……」
私は自分の事を信じてもらおうと考えて、そのくせ仲間を信じることが出来ずにいた。その私の心を責められていたのだと気づく。
「分かってくれたならいいよ。幸いまだ時間がないわけじゃないし、それに……」
そこで場の空気を仕切り直すかのように魅音が手を叩いた。
「はいはい、そこまでにしようか。まだ梨花ちゃんに最初に訊ねたことの答えを聞いてないからね」
「最初に訊ねたこと……?」
「ええ! 梨花が私たちに何をどうして欲しいかってことですわ!」
沙都子が先ほどまでの責めるような表情を一変させて、いつもの太陽のような笑顔を向けてくる。
彼女だけじゃない。見回すと他の皆も笑顔で私の答えを待っていてくれた。
「皆……。僕を、いえ私を……助けてください!」
「「当然!!」」
皆は口をそろえてその想いに答えてくれたのだった。