【ひぐらし】雛見沢にルルーシュを閉じ込めてみた【ギアス】at ANICHARA
【ひぐらし】雛見沢にルルーシュを閉じ込めてみた【ギアス】 - 暇つぶし2ch200:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/06/20 09:55:22 kVQipzlM
【11】

 ギアスの効果によって、お魎は沙都子を助けることをあっさりと承諾した。それから程なくして話し合いはお開きとなった。
 茜はお魎の態度の急変に戸惑いつつも、黒服を身に纏った葛西という男に今から北条家に向かうよう指示を出した。
 葛西は短くはいと言葉を返し、黒服の男を数人連れて屋敷を出て行く。俺は縁側に座ってそれを眺めていた。
「ふっ、何をするかは知らないが、可能な限り平和的に解決して欲しいものだな」
 手のひらに出来た刀の傷の手当てをレナにしてもらいながらそっと呟く。
「しっかしルルも無茶するよねー」
 傍らで魅音が呆れたように言う。
 まあ、たしかに俺にしてはゴリ押しの解決法だったがな。
 手当てが終わってからレナが頬をぷくっと膨らませた。
「本当だよ。レナは怒ってるんだからね。幸い軽傷で済んだけど、下手したら手首から上がなくなってもおかしくなかったんだよ、だよ」
「む……それは困る、無事で何よりだった」
 あれは出来るだけ刃先に触らないように気をつけた上での演出なのだから、本当に大怪我をしたら間抜けもいいとこだ。
「ま、そのおかげでばっちゃを説得できたんだけどさ」
 魅音が場を和ませようとからからと笑った。
 どうやら魅音は俺の大立ち回りよりお魎の気持ちが動いたと思ったらしい。好都合だ、他の皆も同様の勘違いをしてくれる嬉しいんだがな。
 さて、村人による沙都子の冷遇も今日中にはなくなるだろう。まだ沙都子が救出されたわけではないが、この件は園崎家と魅音たちに全面的に任せておけばいい。
 問題は三日後の綿流しの日に起こるとされるオヤシロさまの祟りだ。まだ何も対策が打てていない状態で肩の荷を下ろした気にはなれない。
 結局この村に住むギアス能力者の正体は分からず、下手に動くことも出来ない。残された時間も僅かだ。
 これからどうするべきか……。
 今後の指針を考えている時、背後から突然名前を呼ばれた。
「ルルーシュ」
 振り返ると梨花が立っていた。
「なんだ、梨花か。どうかしたか?」
「貴方に話があるのです」
「俺に?」
「はいです。少しその辺まで付き合ってくださいなのです」
 改まって一体何の用だろうか。
 沙都子の件か? それとも何か別の―。
 一旦は思考を巡らせてみたものの、梨花に直接聞けば答えが出る話なので馬鹿らしくなって考えるのをやめた。
「分かった。では場所を移そう」
 梨花はこくんと頷くと踵を返し、一人歩き出した。その後ろを黙って着いて行く。
 進行方向から玄関へ向かっていると分かる。おそらく外に出て、屋敷の庭園で話をするのだろう。
「駄目だよルル、幼女に妙な真似しちゃ! くっくっく!」
 背中越しに魅音の軽口が飛んで来たが無視しておくとしよう。


201:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/06/20 09:56:54 kVQipzlM
 案の定、移動した先は園崎家の庭園だった。その造りはブリタニア人の俺ですら美しいと思えるほど完璧で非の打ち所がない。
 まだ日本にこのような場所が残されていたのか。思わず息を飲む。
 しばらく歩くと大きな池が目の前に飛び込んでくる。俺はそこで歩みを止め、梨花の背に声をかけた。
「おい梨花。……それで? 話とはなんだ」
 いつまで経っても話を切り出さない梨花に痺れを切らして先を促す。
 梨花は逡巡した後、静かに口を開いた。
「そうですね、ここならば盗み聞きされることもないでしょう」
 いつもと違う口調で喋る梨花に違和感を覚えながらも、俺は冗談交じりに言葉を返した。
「フッ、そんな秘匿性の高い話をされるほど俺はお前と深い仲だったのかな?」
 梨花は顔を真っ赤にして慌てて否定するとばかり思っていた。ところが、実際に彼女のとった態度は俺の予想を遥かに裏切るものだった。
 長く艶のある黒髪をふわりと撫で上げると梨花は心底おかしそうに笑みを浮かべながら言った。
「ええ、そうね。たしかに私と貴方はある意味深い仲と呼べる間柄かもしれないわね、くすくす」
「……どういう意味だ」
 まさかこいつは……。
 咄嗟に最悪のケースを頭に思い浮かべて身構える。
 そうでないことを切に願って。
 だが―梨花の返答によって、俺の願いは完膚なきまでに裏切られた。
「驚いたわ。ルルーシュ、貴方もギアスユーザーだったなんてね」
 その言葉を捉えるなり、梨花を敵と判断する。現状ではオヤシロさまの祟りはコイツの仕業である可能性が高い。俺は可能な限り迅速にバックステップにて梨花との間合いを取った。


202:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/20 09:59:12 Z/rkbRlZ
フハハハハハ、来た、来たぞぉぉ!

203:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/20 11:38:03 g1SUsZAE
続きをplease

204:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/20 14:43:43 bbp9WEg8
くそぉお続きが気になるぅう

205:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/20 15:57:34 AlcJoGL4
ギ・ア・ス・きたぁ!

でもギアスユーザーはりかちゃん自身じゃなくね?
…うー気になるー

206:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/20 16:11:50 anQtLJW0
更新乙!
梨花がギアスユーザーってことは羽生はコード持ちなのかね。

207:名無しかわいいよ名無し
09/06/20 17:49:21 Tntx8sc5
初スレで、ギアススレを回ったらたどり着いたので一気に読ませていただいた

何 こ の お も し ろ さ

全力で支援させていただきます
続きが気になるwwwww

208:名無しかわいいよ名無し
09/06/20 18:10:32 Tntx8sc5
すまん
初レスだった


209:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/21 02:01:32 NoOa2yIL
更新乙!
ギアスユーザーは梨花なのか、それとも?
それとここのギアス能力はなんだろう、続きが気になる

210:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/21 21:08:07 i8Ot1/dq
キター

211:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/22 18:40:07 Vj40hks+
乙です。
マリアンヌみたいな感じかな。
心じゃなくて世界を渡る、みたいな。

212:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/22 20:17:38 6JLfoluv
次はまだかぁああああ?
楽しみすぐるぁああああ

213:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/22 21:16:25 awFxVjAS
むしろ
「永遠に死に続ける」
とかじゃないだろうかw

214:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/24 17:17:47 RV3MGzat


215:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/25 12:59:00 QNu+hS4W
保守

216:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/26 07:28:22 NoEGGfhA
タンメン

217:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/06/27 11:24:08 2Vztb5Gj
なんかコメがどっさり来てて嬉しいぜ。
最近投稿がやけに遅いけど気にせず見てくれてサンキューな!
支援保守も感謝! レスは大歓迎だから荒らしでなければチラシの裏とでも思って書き込んでくれw
では次レスにうpするよ

218:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/06/27 11:35:01 2Vztb5Gj

 後ろに飛びつつギアスを開放させる。
 この間合いこそ、俺のギアスがもっとも上手く機能する距離。相手がどのようなギアスだろうと俺のギアスのほうが早く効果を発揮するはず。
「取った!」
「待ってルルーシュ!」
 絶対遵守の命令を発声しようとした矢先、突然梨花の制止の声が入った。
「私は貴方とやり合うつもりはないわ!」
「……どうかな。そう信用させた所で不意を突くんじゃないのか?」
「誓ってそんなことはしないわ。むしろ貴方のそのギアスで洗脳されないか怖いのは私のほうよ」
「ふん、こちらの手の内はすべて知られているということか」
「ええ、けれど何度も言うように貴方とやり合う気はないわ。だって戦う理由がないじゃない」
 戦う理由がない。本当にそうか?
「お前がギアス能力を使ってオヤシロさまの祟りを引き起こしていると考えれば理由は十分だ。次の標的はこの俺なんだろう?」
 自問自答の末、梨花の言い分を否定して間髪いれずに鎌をかけるよう疑問を投げかける。すると梨花は顔を真っ青にし、神妙な面持ちで聞き返してきた。
「……貴方、まさか発症しているわけじゃないわよね……?」
「一体何のことだ」
 発症……病院に行かない限り普段はあまり耳にしない単語だ。そのワードについて思いを巡らせてみたが、今優先すべきことはそれではないと考え直し、途中で思考を打ち切った。
 梨花を注意深く観察する。もし彼女が少しでも不審な動きを見せたら迷わずギアスを使うつもりだ。
「貴方……その腕の傷。……掻いたのね?」
「なに?」
 梨花に指摘されて腕に視線を移すと、右腕に引っかき傷が乱雑に刻印されていることに気がついた。
 おかしい。先程までこんなものはなかったのに。
 いつの間にか掻き毟っていた……?
 引っかき傷はすでにミミズ腫れとなっており、糸状に赤く膨れて血が滲んでいる。それを視認するなり、腕が強く疼き出した。遮二無二掻き毟る。
 まずい、このまま掻き続ければ重要な血管までも傷つけることになる……。それが分かっていながら自傷行為を止めることが出来ない。
「くっ……どうして急に腕が……。まさかこれがお前のギアスか?!」
「やっぱり……発症しているのね」
「発症とは何だ?! 答えろ!」
 俺は梨花をきつく睨みつけると、冷静さを欠いたまま厳しく追及した。


219:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/06/27 11:35:54 2Vztb5Gj

 梨花は酷く落胆した様子でため息を一つ吐くと重い口を開いた。
「……まず、貴方の腕の痒みは私のギアス能力のせいではないわ。原因はこの土地に古くからある風土病」
「風土病だと?」
「ええ、貴方が発症している病は雛見沢症候群と呼ばれている。発症者は疑心暗鬼に駆られ、周囲の言葉に耳を貸そうとしなくなる。次第に幻覚を見るようになり、身体の随所に痒みを覚え……いずれは凶行に走って絶命する。故に貴方は一刻も早く処置を受けるべきよ」
「そんな話、信じられるものか」
 病気ならば発病前に何かしら兆候が見られるはずだ。だがこの痒みは梨花と会話をしている間に突然起こった。
 梨花の話がまったくのデタラメで、コイツのギアス能力のせいだと考えるのが一番妥当だ。
「そうでしょうね……。一度発症して私の話をちゃんと聞いてくれた人は今まで誰もいないもの。……この世界には期待していたのだけど、こうなっては終り、ね」
 そう呟くように言うと、梨花はポケットから何かを取り出した。
 あれは……注射?
「これは貴方の痒みを止めることが出来る治療薬。もし使いたければあげるわ……。ま、信じる信じないは貴方が決めることだけど」
 梨花は注射を指で玩びながら、さらに続けた。
「それでも最後にもう一度だけ。ギアスユーザーとではなく、貴方の仲間として説得させて欲しい」
 ……。その表情はなんと悲痛なものだろうか……。
 心がずきりと痛む。
 いや、騙されるな。これは情に訴える梨花の作戦だ。注射の中身は治療薬なんかではなく、おそらく俺を絶命させるための毒薬に違いない。
 しかし……もしも梨花の言葉が本当に―だったら……?
 馬鹿、甘い考えは止めろ。今目の前にいるのは仲間なんかじゃない、俺を殺そうとしている敵ではないか。すでにギアスの先制攻撃を受けている。もはや確定的なはずだ。だが……でも。
 信じたいのに、信じられないまま……唇をぎゅっと噛み締め、梨花の言葉に耳を傾ける。
「私は貴方の敵ではない。考えてもみてよ……私が沙都子を助けてくれた恩人の貴方とやり合う理由がどこにあるっていうの。ルルーシュ、お願い……私を、信じてよっ……」
 梨花の瞳からは一抹の涙が零れ落ちる。俺は無意識にそれを目で追った。
 彼女の涙は夕焼け色に煌きながら、すうっと地面に溶けてすぐに見えなくなった。その一瞬の情景が酷く心に残り、胸を強く締め付けた。
 …………。
「……駄目だ。信じられない」
「そう……」
 分かっていたことなのか、梨花は至極簡単に諦めの色を見せた。それでも肩はうな垂れ、失望した様子がありありと見て取れる。しかし、そんな態度を取られても到底信じられるわけがないのだ。
 だから俺は梨花の瞳を覗き込み、彼女に対して絶対遵守の力を発動させた。


220:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/27 11:50:32 MtDzMdiN
ルルーシュ踏ん張りどころ
おしまいなのか理性保てるかドキドキするね

221:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/27 20:24:06 WIkAYlxk
投下乙!
ルルーシュの発症フラグがまだ消えてなかったのはちょっと意外

222:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/27 21:19:13 t9EC6U9z
支援。

223:名無しさん@お腹いっぱい。
09/07/03 18:49:52 4cRBM3ho
ほしゅっ

224:名無しさん@お腹いっぱい。
09/07/08 16:20:16 JQt44Ndk


225:名無しさん@お腹いっぱい。
09/07/09 14:32:11 0k4WwTKs
つづききになり

226:名無しさん@お腹いっぱい。
09/07/10 09:34:37 SgGl7u83
アゥアゥアゥ


はだしのゲンかい!

227:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/07/11 09:08:16 sdUKfmce
やっと形になった…遅れてすまん。
投下するけど次回はさらに遅れるかもしれんな…
コメさんきゅ

228:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/07/11 09:10:32 sdUKfmce


 呆然と立ち尽くした俺の手には、梨花から貰い受けた注射が使用済みの状態で握られていた。
 自らの取った選択を振り返る。
 疑心暗鬼に取り付かれた俺が取った行動は仲間に対してギアスを使用することだった。
 その遵守内容は腕の痒みを止める手段を提供させること。ギアス能力は絶対であり、嘘をつくことができない。それが疑心に狂った俺の命綱となった。
 ギアスに心を奪われた梨花は一瞬見動きを止めた後、すぐさま俺に注射を手渡してきた。
 受け取った注射を打つと腕の痒みはぴたりと止まり、頭は霞が晴れたように鮮明になった。この時ようやく俺は梨花の言うことが真実で、自らが雛見沢の奇病とやらに感染していた事実を認識できた。
「しかし病気に侵されていたとはいえ仲間を疑ってしまうとは……」
 梨花は未だギアスの効果によって放心状態だ。しばらくすれば開放されると思うが……ギアスに保証はない。最悪このままかもしれないと思うと、仲間に対しギアスを使ってしまったという後悔と自己嫌悪が募る。
「……ルルー、シュ……?」
 意識が戻り、俺の名を呼ぶ梨花。何が起こったのか分からず酷く困惑しているようだ。
 そんな梨花の様子にほっと安堵のため息をついたものの、俺はすぐさま謝罪の言葉を口にした。
「……すまない梨花、ギアス能力を使わせてもらった。あの場合そうせざるを得なかった……」
「ルルーシュ……いえ、良くやってくれたわ」
「……怒らないのか?」
 梨花は長い髪をなびかせながらふるふると首を横に振った。
「そんなわけないじゃない。ギアスで殺されるか、操り人形にされるか。いずれにしろ貴方を正気に戻すことは叶わないと思ってたもの」
 そこで一旦言葉を切り、梨花は俺に問う。
「それで……貴方の雛見沢症候群のほうは治まったと考えていいのね?」
 激しかった腕の痒みは収束し、疑心の炎は消え去っている。もう平気だろう。自分の体調を分析してから言葉を返した。
「ああ、問題ない。疑ってすまなかった、お前の話は真実だったんだな」
「よかった……」
 そう呟くように言うと、梨花はその場にぺたりと座り込んだ。
「それで? 自らの正体を明かして一体どういうつもりだ。まさかギアスユーザー同士の同窓会ってわけでもあるまい」
「ええ、違うわ。これから貴方の力を借りる上でお互いの秘密は共有すべきかと思ったのよ。もっとも、そのせいで大変なことになるところだったのだけど」
「力を借りるだと?」
 梨花は深く頷いてから言葉を連ねた。
「そうよ、ルルーシュ。貴方がこんなにも力強く心優しい人間としてこの雛見沢に来たのは今回が初めて。私はこのチャンスを逃したくはなかったの」
「……どういう意味だろうか」
 俺の問いかけを聞いているのかいないのか、梨花は独りごちるように言葉を紡ぎ続けた。
「今までの貴方なら、まず沙都子を助けようなどと考えはしなかった。
 ルルーシュ・ランペルージにとって仲間は退屈な日常を紛らわすためだけの存在であり、例え仲間が危機に陥っても、対岸の火事を見ているかのように『ああそうか』と思うだけだったはず。
 何が貴方をここまで変えたのか分からない。けれど……ただ一点、私にはこの世界が奇跡であると分かる」
「梨花、話が見えない。順序立てて説明してもらおうか」
「そうね、ごめんなさい。さて……どこから話せばいいのかしら」
 梨花は自分の置かれている立場を淡々と話し始めた。

229:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/07/11 09:52:50 sdUKfmce
 梨花の話はとても常識では考えられない話だった。超常の力―ギアスを得ていなかったならおそらく俺自身、耳を傾けなかっただろう。だから梨花が事前に自分が能力者であることを俺に打ち明けたのは、紆余曲折あったにせよ、今なら正しい選択であったといえる。
 まず梨花のギアス能力について説明を受けた。
 彼女の能力は時間流離のギアス、時間を過去へと巻き戻すことが出来るものだそうだ。
 それが事実であるなら、考えうる限り最強のギアス能力だ。俺などのギアスではまるで歯が立たない。
 確かに俺のギアスは発動さえすれば必殺の力がある。しかしそれも一の世界ならばではだ。百の世界、千の世界では彼女の右に出る能力者はまずいないだろう。
 ただそんな最強の能力にも弱みはあるらしい。発動が死の瞬間にだけ固定されており、いつでもというわけにはいかないようだ。
 また死から2・3日の記憶が混濁するようで、殺害時の状況が今ひとつ要領を得ない。
 つまり犯人・殺害動機共に不明。それ故に、彼女は綿流しの日の数日後に―おそらく連続怪死事件の関係で―必ず殺され、そのギアスの力で何度も同じ時間を繰り返しているそうだ。
 それから連続怪死事件には雛見沢症候群が密接に関係していると聞かされた。
「雛見沢症候群だったか。雛見沢に昔からある風土病といってたな」
「ええ。もっとも、正式な名称はなくて地名を取ってそう呼ばれているだけなのだけど」
 元凶はこの土地に生息する、ある寄生型病原菌。それが人間の脳に寄生し、宿主を疑心暗鬼に取り付かせる。最後には発狂させ、宿主を凶行に駆り立てるという。
 その病原菌は空気感染で広がり、雛見沢に住む者は全員感染しているそうだ。
 たしかにこれならば、ギアスなんて力を使わなくとも連続怪死事件の全てに説明がつく。……サクラダイト発掘会社のバラバラ殺人事件にも。沙都子の叔母撲殺事件にも。
 梨花から話を粗方聞き終え、俺はため息混じりに口を開いた。
「すると、雛見沢連続怪死事件は連続していなかった?」
「ええ、連続怪死事件は決して連続しているわけではなく、おそらくは雛見沢症候群が引き起こした個々の悲劇に過ぎない」
 個々の悲劇か。一つ間違えれば俺もそれに名を連ねてたというわけだ。
 錯乱して周りの人間に危害を加え、何も分からずに絶命する……。そんな光景が頭に浮かんで背筋が凍った。
「……待て。連続怪死事件は雛見沢症候群による個別の事件といったな。ならばお前自身の死もそれが原因なのだろうか?」
「それもなかったわけじゃないけれど……」
 俺の疑問に梨花は言葉を渋る。梨花自身考えあぐねているようだ。
「けれど、何だ?」
「私は、真犯人は雛見沢症候群を発症していない人間だと思う。私の殺害は大抵、生きたまま腸を引きずり出されて行われるのだから」
「分からないな。お前の死に雛見沢症候群が直接関与していないとする理由は?」
「殺害手順が同じということはつまり、同じ人物が同じ時期に発症して私を殺しに来るという話になるからよ。
 ところが今の雛見沢症候群の病原性は昔のそれと比べると著しく弱体化してるの。発症なんて稀なはず。
 貴方自身発症したから説得力はないでしょうけど、毎回そう都合よく同一人物が雛見沢症候群を発症させ、私を殺しに来るとは考えられない」
「なるほどな。そこには雛見沢症候群の発病などという偶発的なものではなく、何者かの意思が確かに介入しているというわけだ」
「そうなるわ。そして例外なく起こる死は私だけではないの」
「というと?」
「今年は、毎年綿流しの日になると現れる富竹という男と入江診療所の鷹野という女が殺される。
 最初私は自分の命ばかり考えてたけど、しばらくして彼らの死が私の死に直結していることに気がついた。私が助かるためには彼らにも生きてもらわなくてはならない」
 それから梨花は雛見沢症状群を研究する組織―東京―が存在する事実を明かした。
 富竹と鷹野はその組織の一員で、日本がブリタニアに敗戦した後も変わらず雛見沢症候群を根絶させようとしているそうだ。
 梨花は自らの体内に雛見沢症候群の親玉を飼っていると告げる。話を聞く限り、その組織にとって彼女は女王感染者と呼ばれる存在であり、極めて重要人物らしい。
 富竹と鷹野は研究の存続のため、梨花に危険が及べば守らなくてはならない立場にいる。
 二人を殺す理由は単純明快。梨花を殺すために二人が邪魔なのだろう。
「―と、話が長くなったけど、私が言いたいことは一つしかないわ。ルルーシュ、貴方の力を借りたい。協力してくれるかしら」
「ああ、勿論だ。絶対にお前を死なせはしない」

230:名無しさん@お腹いっぱい。
09/07/11 11:31:32 N9O+/Uzv
乙まってました

231:名無しさん@お腹いっぱい。
09/07/11 22:30:12 S8+AQn99
乙!またもや楽しませてもらった!!

232:名無しさん@お腹いっぱい。
09/07/12 19:22:59 XpfBMyRi
待ってました

233:名無しさん@お腹いっぱい。
09/07/15 13:49:45 GbR72YIw
あう

234:名無しさん@お腹いっぱい。
09/07/15 14:28:17 BP0TmtL3
>>「ああ、勿論だ。絶対にお前を死なせはしない」
これ、ルルーシュの迷惑死亡フラグだろ。

235:名無しさん@お腹いっぱい。
09/07/17 07:59:37 kTvy/Zj9
ついに嘘つき魔王の真骨頂が発動するフラグ&些細な嘘も許さないアノ御方がアレを持ち出すフラグ

236:名無しさん@お腹いっぱい。
09/07/17 22:44:32 M4lOkXlF
嘘だッッッ!

237:名無しさん@お腹いっぱい。
09/07/22 23:33:02 PbnTxS2J
保守

238:名無しさん@お腹いっぱい。
09/07/23 00:04:07 IPmeMrDc
そろそろあげ

239:名無しさん@お腹いっぱい。
09/07/23 20:10:56 oaMRby1R
渇望

240:名無しさん@お腹いっぱい。
09/07/24 14:18:33 K2tEzetw
保守総一郎

241:名無しさん@お腹いっぱい。
09/07/27 08:13:44 4H51Dyp0
咲世子さんハジケてくれー!

242:名無しさん@お腹いっぱい。
09/07/27 09:08:54 MY9I5lC+
補習総一朗

243:名無しさん@お腹いっぱい。
09/07/28 09:54:29 7/cPgtne
そろそろあげ

244:名無しさん@お腹いっぱい。
09/07/29 10:48:05 aGzpIm+3
次が見たいねぇ、まだかねぇ

245:名無しさん@お腹いっぱい。
09/07/31 21:17:54 FpIgAYm8
イイモノってやつのためにはひたすら待ち続けることが出来る

246:名無しさん@お腹いっぱい。
09/07/31 23:59:26 Wkf93GYb
時間だけが築き上げる事の出来る味がある

247:名無しさん@お腹いっぱい。
09/08/02 10:49:19 YfOcCJWN
まだ一ヶ月も経ってない
とりあえずあげ

248:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/08/03 21:33:14 09OMKvyg
やっと少しだけ書けたんだぜ。
たくさん支援さんきゅーな。
最近本当に忙しくなってきたんで、これからどうなるか分からんがお前らがいれば頑張れる気がする。
それじゃ次にうpで

249:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/08/03 21:36:11 09OMKvyg
【12】

「あ、こんな所にいたー! ルル! 梨花ちゃん!」
 硬い握手を交わす俺たちの元に遠方からの魅音の呼び声が届く。
 魅音は肩で息をしながらこちらに駆け寄ってくる。
「どうした、魅音?」
 俺が涼しい顔で訊ね聞くと、魅音は口をあんぐりと開けて非難の声を上げた。
「どうしたじゃないよっ、沙都子が無事救出されたって連絡が着たからルルたちにも知らせようと思ったのに、あんた達どこにもいないじゃん! まったくもーっ、何やってんのこんなとこで! 散々探したよ!」
「ああ、そいつはすまない。で、沙都子は今どこにいる?」
「それがね、鉄平に相当痛めつけられたらしくて、今は入江診療所で怪我の治療をしているみたいだよ」
「沙都子は大丈夫なのですか?!」
 梨花の甲高い声が辺りに響く。
 魅音はそれを聞くと深く頷いて微笑を浮かべた。
「平気だよ、本人はいたって元気。今は憑き物が落ちたようにけろりとしてるよ」
「そう……良かったのです」
 梨花がほっと安堵のため息をつく傍らで、俺も顔を綻ばせた。
「レナは一足先に診療所に行ってる。私たちも行くよ!」
 どうやら魅音は沙都子の容態を人づてに聞いただけのようだ。早く自分の目で確認したいのだろう。魅音が俺たちを急き立てる。
「ルルーシュ、行きましょう!」
 梨花の言葉に頷くと、俺は梨花と共に魅音の背を追いかけるように診療所へ向かった。


250:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/08/03 21:38:00 09OMKvyg

 しばらく小走りで駆けた後、ようやく診療所へと到着した。
 園崎本家からここまで幾らか距離ある。沙都子の安否が気になり、慣れない運動をしたためか身体は熱り、背中はびっしょりと汗ばんでいた。
 自動ドアをくぐるとエアコンのひんやりとした空気が心地よく身体に吹き付ける。するとうだるような暑さが嘘のように退いていった。
 乱れた呼吸を整えて、診療所内を見渡してから魅音に訊ねた。
「沙都子の病室は?」
「ごめん、ちょっと受付で聞いてみるよ。そこまでは電話で教えてもらってないんだ」
「なら僕も一緒に行きますです」
 そう言うと魅音と梨花は受付の白衣の女性に近寄っていった。
 遠目で女の顔を確認する。
 あれは……鷹野か。一見普通のナースに見えるが、たしか彼女もまた入江や診療所のスタッフと共にこの診療所で雛見沢症候群の研究をしているんだったな。
 あまり気が進まないが、近いうち彼女にも話を聞いておくべきだろう。
「ルル、何ぼけっとしているのさ」
「はい……?」
 気がつくとすでに魅音らは受付から戻って来ていたようだ。無意識のうちに呆けた返事をしてしまう。
 そんな俺に対して、魅音は責めるように口を尖らせた。
「もうっ、しっかりしてよ。沙都子はこの奥の個室だって言ってんの!」
「あ、ああ、了解した」
「まったく。ルルはちょっとマイペース過ぎだよ。私は先に行くからね!」
「あ、おいっ」
 魅音は呼び止めの言葉も空しく、一人慌しい様子で診療所の奥へと姿を消していった。
 その場には梨花と俺だけが取り残される。
 最初に口を開いたのは梨花だった。
「ルルーシュ、沙都子が気になるわ。私たちも行きましょう」
「ああ、そうしよう。だが俺はその前にしておきたいことがある。悪いが先に一人で行っていてくれないか?」
 梨花は不思議そうに首を傾げ、たまらず聞き返してきた。
「しておきたいことって何よ?」
「……俺は先ほど雛見沢症候群の急性発症を起こしかけた。俺にはこのままでいいとはどうしても思えない」
 周囲を確認後、声を落として梨花に囁く。
「? 貴方が打った注射―C120は雛見沢症候群の病原性を急速に沈静化させ、無害なレベルまで引き下げる効果を持っているわ。手遅れなケースも当然あるけれど、貴方の場合はもう心配しなくても平気そうだけど?」
「いいや。念のために専門家の判断を仰いだほうがいい」
 俺はあっさりと首を横に振る。梨花は大丈夫だと言っているが、素人判断で病状の良し悪しを決め付けるわけにはいかないだろう。梨花に頼み、入江に病状の検査をしてもらうことにした。
 梨花の話によるとすでに短時間で結果が出る簡易検査も確立されているようなので、梨花の死を回避するために動ける時間もそんなに減るわけではない。
 それに何も検査だけのためにわざわざ入江と接触したいわけではないことも合わせて伝える。
 彼から直接、雛見沢症候群の話を聞かせてもらうつもりだ。
 そう俺が豪語すると梨花は表情を少し曇らせた。
「果たして正直に話してくれるかしら……」
「なんだ、えらく弱気だな?」
「だって、雛見沢症候群の存在はこれまで隠匿され続けてきたんだもの。簡単に答えてくれるとは思えない。最悪、秘密を知る者は東京によって消されるかも知れないのよ……」
「そんなに難しく考えるな。大丈夫、入江ならばきっと快く話をしてくれるだろうさ」
「その根拠は?」
 梨花に聞かれて俺は即答した。
「入江は変人だが、正しく医者だ。彼の性格からしても一度急性発症を起こしている俺を、放っておくことはしないだろう」
 そう……。これから先、俺はいつ雛見沢症候群を再発させてもおかしくはないのだ。
 隠匿されてきた病とはいえ、患者にとって自らの病気を知るのは大事なことだと、入江なら考えるはず。
「ならいいのだけど……でも」
 梨花はまだ納得いかないようだ。
 そんな彼女の頭を軽く撫でると、俺は不敵に笑った。
「心配は無用だ。もし入江が非協力的な態度を取ったなら、こちらもギアスの使用を辞さないさ」


251:名無しさん@お腹いっぱい。
09/08/03 22:09:34 VtK/OnBI
支援

252:名無しさん@お腹いっぱい。
09/08/04 00:53:12 USNHbqhB
投下乙!
少し気になっていたんだけど、ギアス世界準拠の東京ってどれぐらいの力があるんだろうか?
今後の展開でそのあたりは明らかになったりする?

253:名無しさん@お腹いっぱい。
09/08/04 09:50:22 9GEezXlR
また読ませてもらいました 
ブリタニアに占領されていてもトウキョウ疎開に潜んでいるって言う設定なら話が成立するかも

254:名無しさん@お腹いっぱい。
09/08/04 13:41:17 vW+tFqmr
うおっおお

255:名無しさん@お腹いっぱい。
09/08/05 09:02:49 5CvTivsF
ついにキター キター?

256:名無しさん@お腹いっぱい。
09/08/06 12:41:29 XiKLb7QM
時間あいても着々とうpされてくので毎度とても楽しみだよ。支援保守は欠かしませぬ。

257:名無しさん@お腹いっぱい。
09/08/09 18:12:08 IM/SoGP2
保守

258:名無しさん@お腹いっぱい。
09/08/09 21:46:09 B8yAKSVQ
保守してもいいかな?かな?

259:名無しさん@お腹いっぱい。
09/08/13 00:47:34 jfbr4Ovq
支援

260:名無しさん@お腹いっぱい。
09/08/16 12:23:07 DPIS8ZOA
保守なのです

261:名無しさん@お腹いっぱい。
09/08/17 10:39:33 kw3s0Lv/
ルルシーがあると信じて支援

262:名無しさん@お腹いっぱい。
09/08/18 10:33:28 /rj+wIH3
全力で支援

263:名無しさん@お腹いっぱい。
09/08/18 18:34:27 uJ9JFOUA
支援なのです

264:名無しさん@お腹いっぱい。
09/08/20 14:54:44 K4JEAQGc
全力で支援


265:名無しさん@お腹いっぱい。
09/08/20 19:34:40 +AssGfym
支援と保守の違いくらい・・・

それとあんまり上げすぎるなよ。落ちさえしなければいい

266:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/08/23 11:32:52 tL6vuKsM
最近めっきり書き込んでなくてすまん。
いやリアルがちょっと立て込んでてだな。
時間に余裕はあるにはあるが精神的余裕がなくて筆があまり進まないんだ。
なんで気晴らしにコメ返信でもしておくとする。

>>252、253
東京の話は後ほど出てくるんだが、簡単に言うと東京は解体されて入江機関しか機能していないよ。
資金はどこから出てるかは物語中で説明する手筈となってるから詳しくは書かないけど。
それに気分しだいで話の筋が変わる恐れもあるから、下手なこと書けないってのもあるw

>>256
楽しみにしてくれてありがとう!
すまん、今しばらく待っていてくれ。
「入江から雛見沢症候群について問いただす。」
このシーンが一番書いててつまらないところなのでここが過ぎれば筆も進むんじゃないかと思うんだ。


267:名無しさん@お腹いっぱい。
09/08/23 18:40:50 RO85HCJK
期待!

268:名無しさん@お腹いっぱい。
09/08/25 18:01:27 riZqoHtH
コメ返信(笑)ってブログや個人サイトかよ

269:名無しさん@お腹いっぱい。
09/08/25 18:21:04 8BSKhiuO
ニコ厨は巣に帰れ

270:名無しさん@お腹いっぱい。
09/08/28 10:32:26 FqYATq1w
保守するよ

271:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/08/28 21:47:37 zqfuJdgT
ただ疑問に答えただけなのに酷い言われようだな。
まあいいや。あんまり進んでいないけど続き投下するよ。

272:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/08/28 21:48:28 zqfuJdgT
 梨花が沙都子の病室に入って、しばらく時間を置いてから俺は病室の入り口から室内を覗き込んだ。
 事前に聞いていた通り、沙都子は頗る元気そうだった。皆に対して何やら申し訳なさそうな笑顔を浮かべていたが、それでも彼女の安否を確認出来たことに安堵のため息を漏らす。
 納得すると室内へは入らず、ワイワイと雑談に興じる皆に気づかれぬよう一人踵を返した。
 入江と接触するため受付にて診療の手続きをする。病室に行く前に梨花が自分も付き添うと言ってくれたが、沙都子と話したいことがあるだろうと思い、俺はその申し出をきっぱりと断っていた。
 受付での鷹野との会話は二三やり取りをするだけの簡単なもので済まし、待合室の長椅子に腰をかける。清潔感のある真っ白な天井を見上げて一息をついた。
 ……しかし、まさか先日俺が風邪で通院した診療所が謎の奇病の研究をする施設だとは思わなかったな。たしかにひなびた寒村の診療所にしては立派過ぎるとは思っていたが……。そんなことを今更ながら考える。
 三人ほど別の名前が呼ばれた後、自分の番が来る。椅子から立ち上がって診療室へと足を運んだ。
「ランペルージさん。大活躍だったそうじゃないですか」
 診療室に入った早々に入江からそんな言葉をかけられて、俺は呆けた声を上げた。
「はい?」
「またまた。沙都子ちゃんの件ですよ。聞きましたよ、なんでもあの園崎お魎さんを説き伏せたとか」
「ああ、そのことですか。いえ、説得なんてそんな。ただお願いを聞いてもらっただけですよ」
 もっとも、お魎に拒否権はなかったがな。心中でほくそ笑み、入江の前に置かれた背もたれのない丸椅子に近寄る。
「あ、どうぞおかけください」
「失礼します」
 俺は入江に促されて丸椅子に座る。
 そんな俺を前にして入江はうな垂れた。
「しかし、沙都子ちゃんがここに運び込まれた時は本当に驚きました……。まさか彼女がそのような状況に置かれていたとは……」
「無理もないですよ。担任の知恵先生ですらこの間まで知らなかったことですから」
 珍しく真顔で悔いている入江に対して慰めの言葉をかける。
 それにも入江は難色を示す。
「いえ、しかし……私は恥ずかしい……。日頃から沙都子ちゃんために何かしたいと思っていながら、ここぞという時に何も出来なかった……。だから私は……」
 しばらく入江による懺悔が続く。
 俺は一通りそれを聞き終えると、首を横に振って言葉を投げかけた。
「入江先生、それは間違っている」
「え?」
 入江はきょとんとしてただ俺の次なる言葉を待っていた。
「貴方は何も出来なかったというが、沙都子のために最善の治療をしてくれたじゃないですか」
「それは……医者として当然のことをしただけで……。なにも、沙都子ちゃんだから特別というわけではありません」
 俺は再び首を横に振ると同時に入江の手を握り締め、ぽつりと言った。
「その当然に感謝します」
「え?」
 顔を上げ、きょとんとする入江。彼に対して言葉を続ける。
「その当然が出来ない、そんな村のしがらみが沙都子を苦しめていた。なのに貴方は医者としてそれを当然と言ってのけた。ならば貴方は出来たんだ。言い切ってもいい。もし仮に今回の件を貴方が知っていたなら、貴方は沙都子を助けるために少しも協力を惜しまなかった」
「ランペルージさん……」
 入江は身体を震わせ、一抹の涙を零した。その様子を見られまいと、白衣で隠すようにして涙を拭うとすっと立ち上がった。
「……ちょっとコーヒーを持ってきますね。待っていてください」
 そう震えた声で言うと返事も待たずに診療室を出て行く。
 俺はその後姿を黙って見送った。

273:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/08/28 21:49:21 zqfuJdgT

 数分後、コーヒーの香りを漂わせて入江は診療室に戻ってきた。手には二人分のコーヒーカップを乗せたトレイを持っている。
「インスタントで申し訳ないのですがどうぞ」
「ありがとうございます」
 カップを一つ、火傷に気をつけながら受け取る。
 エアコンの心地よい冷風もそろそろ肌寒く感じてきたところなので、温かいコーヒーだったのがとても嬉しい。ありがたくカップを口に運んだ。
 入江は一度コーヒーを啜ると、それから遠慮がちに口を開いた。
「ところで……今日はどんなご用件で? もしやまだ風邪が治られてないとか」
「いえ、今日は別件です」
「別件?」
 怪訝な顔で聞いてくる入江。さてどう話を切り出すべきか……。
 しばらく思案した後、結局単刀直入に聞くのがベストだという考えに至り、入江に詰問する。
「雛見沢症候群について分かることを教えていただきたい」
「なっ……」
 入江は俺の口からそんな話題が飛び出すなどまったく予想だにしていなかったのだろう。驚きで声を失っていた。
 それでも必死に誤魔化すように稚拙ながら言葉を紡いだ。
「な、なんですか? その雛見沢症候群とは一体……?」
 入江は視線を逸らし、机に置かれたカルテを手に取った。
「すみません、急な仕事を思い出したのでお引取り願えますか」
 俺の返事も待たずに捲し立てるように言葉を連ねる入江。その表情にはあからさまな焦りが見え隠れしていた。
 俺は間髪いれずに首を横に振り入江を追い詰めた。
「妙な誤魔化しは無用です。粗方のことは梨花から話を聞いて知っていますから」
「え、古手さんから、ですか……?」
「ええ。ですから入江先生、あまり手間を取らせないで欲しい」
 入江は梨花の名を出され、観念したようだ。深いため息を付くと、徐に二口目のコーヒーを口に運び入れた。
「どこまでご存知なんです……?」
「その問答に意味はないでしょう」
「そう、ですね。……では、逆にお尋ねします。何故古手さんは貴方にその話をされたんですか?」
「それは――」
 入江の疑問に対して一呼吸置くと、俺は自らが発症に至るまでの経緯をこと細かく打ち明けた。


274:名無しさん@お腹いっぱい。
09/08/28 21:58:29 JbZFET6f
支援

275:名無しさん@お腹いっぱい。
09/08/29 13:29:54 QN66iqHw
待ってました

276:名無しさん@お腹いっぱい。
09/08/31 20:43:41 0eVxMgy+
待っていたぜ!

277:名無しさん@お腹いっぱい。
09/08/31 23:54:36 v2In1WD0
>>276
ageるなよ

278:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/02 22:50:31 k0wNSx6y
相変わらず物語の情景が想像しやすい良い文章だなー
楽しませてもらった!!

279:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/02 23:34:19 0NbCbCqH
>>268
は文才ないから嫉妬してるだけだから気にすんなよ!

支援

280:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/03 23:16:48 WgB9hH8Z
なんじゃらほいってきたら、放ったらかしよりも
こうでんねんってきたほうが気持ちいいよな。。

リアルも根詰めずがんがれー

281:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/06 13:29:46 gBQXaRrw
保守ですわ

282:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/11 16:37:11 lOvpXcbK
保守しときますよ、んっふっふーん

283:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/11 18:50:47 UcQRKKZ1
コココココ…貴方には 素質があります

284:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/09/12 12:22:30 kEGuErho

 俺は一部始終を―勿論ギアスの件は伏せているので全てというわけではないが―入江に淡々と話して聞かせた。その間入江は相槌以外ずっと無言だった。
 話が一段落着くと、すぐに簡易検査をする事となった。
 検査は実に単純なもので、採血をして血中のアレルギー物質の濃度を測り取り、試薬との反応を見るといったものだった。場所は極普通の診療室でひっそりと行われた。
 本当なら地下に存在する雛見沢症候群専用の研究施設で検査したいようだったが、鷹野に知られると面倒になるとのことで入江は諦めたようだ。
 梨花から鷹野は東京の監視員と聞いていた。主な任務は入江機関の監視だが、同時に雛見沢症候群の存在の隠蔽も行っている。
 山狗という不正規部隊を率いて、機密保持のためなら如何なる手段も躊躇なく使用し、情報漏洩の危険を排除する。その中には当然というべきか殺人も含まれるそうだ。
 だから、鷹野から情報を得る際には大事を取ってギアスを使おうと思っていた。
 それに対して、入江は雛見沢症候群について他言しないことを条件に何のリスクもなく質問に応じてくれるので都合が良かった。検査の間、俺は思いつく限りあらゆる疑問を投げかけていた。
「―ええ、そうです。古手さんが女王感染者と呼ばれ、研究対象として大変重要な人物であるのは本当です。
 事実、彼女の協力によって雛見沢症候群の研究は大きな躍進を遂げました。貴方の使用したC120も彼女がいなければまず完成には至らなかったでしょう」
 入江は治療薬の進歩を梨花のおかげと言う。そこには自分の手柄だという慢心は一切見えない。改めて入江の人の良さを垣間見た気がした。 
「それでは梨花が死ぬと村人が一斉に急性発症を起こすというのも事実なんですね?」
「そんなことも知っているんですね……。ええ、その通りです。
 もし仮に古手さん……いえ、女王感染者が何らかの理由で死亡するようなことがあれば、全ての感染者が48時間以内にL5急性発症を起こし、暴徒と化した人々で雛見沢は生き地獄になります。
 ……隣人を憎しみ疑い、昨日まで食事を囲んで笑い合っていた家族さえ信じることが出来なくなって殺し合う。想像するだけでも恐ろしい未曾有の生物災害となるでしょう」
 入江は試薬を秤量する手を止めて、一気に捲し立てる。
 事前に梨花からその話をされていたものの、俺は入江の口から物語られる凄惨な光景を想像してぞっとした。

285:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/09/12 12:24:15 kEGuErho
 入江は一度静かに口を結び、再び口を開いた。 
「ですが、それはまず起こりません」
「何故です?」
「そういう事態に備えて緊急マニュアルというものがあるんです」
「緊急マニュアル?」
 それは初耳だった。おそらく梨花も知らない情報だろう。詳しく聞く必要がある。
 入江は表情をさらに強張らせた。
「……これは、古手さんにとって刺激の強い話です。彼女にも内緒にすると約束……いえ、誓ってください」
「ええ、分かりました。誓います」
 強く念を押してくる入江に俺は深く頷いた。
 無論そのような約束は反故だ。入江には悪いが梨花とは協力体制を取っているのだから、どんな気分を害する情報であれ伝える必要があるし、中には梨花が知ることによって初めて意味を持つ情報もあるだろう。
 入江は俺が即答したことに誠実さを感じたのか、こくりと頷き返し、ゆっくりと話し始めた。
「先ほどお話した通り、女王感染者は云わば爆弾の導火線なんです。その爆弾は爆発すれば恐ろしい事態が起きてしまう。……それを非人道的に処理するのが通称、滅菌作戦と呼ばれる措置です」
「非人道的に処理? ……っ、入江先生それはまさか!」
 入江はわざと言葉を選んで直接的な表現を避けているが、俺には彼の言いたいことが十分すぎるほど理解できた。
 入江は何を言うでもなく、ただ深く頷いて俺の想像を肯定する。その様子を見て取って、俺はある種の絶望を抱かずを得なかった。
 やはり非人道的な処理方法とはそういうことなのか……。
 もし仮に爆弾が破裂すると大変なことが起きると分かっているならば、爆発する前にその問題の爆弾を摘出してしまえばいい。
 摘出とはつまり……感染者の完全な消去。皆殺し。大虐殺となるわけだ。
 緊急マニュアル三十四号―滅菌作戦とやらが発動すれば、誰が何をしようと間違いなく雛見沢は終わる……。
 いや、ここは恐れ慄いている場合じゃないはずだ。梨花殺害の動機は十中八九この件が関係している。未だ動機は不明だが、上手くいけば梨花殺害の犯人の正体に近づけるかもしれないのだから。
「もしその事態が起きたとして、得する人間はいませんか?」
 俺は思い切って、さらに踏み込んだ質問をする。それは動機の追究。子供向けの漫画やアニメならともかく、こんなテロレベルの事件を起こしてただ喜ぶのが目的の悪人など現実には存在しない。そこには確かに何らかの利益、理由があるはずだ。
 しかし入江は驚き顔で即答した。
「まさか、そんな人間がいるはずありません」
「では質問を変えましょう。その緊急マニュアル、滅菌作戦の内容を熟知している人間を教えてくれませんか」
 そう訊ねると突然入江は重苦しい表情で押し黙った。 どうしたことかと不思議に思っていると、入江は鋭い目つきでこちらを窺ってきた。
「……おかしいですね、ランペルージさん」
「何が、です……?」
「貴方は再発を防ぐために雛見沢症候群について知りたいと言った。ですが思い返せば、貴方が聞いてくることは先ほどから対症療法とは関係ないことばかり。どうしてですか」
 入江は俺を値踏みするように見据える。
「いや、それは……」
 しまったと思った。情報を引き出すことばかりに夢中になり、疑いの目を向けられる危険を考えていなかったのだ。
 もし入江に嫌疑―どこかの諜報員かそれに順ずる何かの容疑―をかけられようものなら、遅かれ早かれその疑いは鷹野の知る所となり、疑わしきはクロのルールに従って俺は鬼隠しにされてしまうことも十分ありえる。
 何とか誤魔化さなければ……。嫌な汗が頬を伝った。
 

286:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/12 12:35:44 j8GQudku


287:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/12 12:51:13 FKx2kjNh
乙です!続きが楽しみ。

288:富竹 ◆dFZPiudNYU
09/09/12 23:18:15 IQZTXmHC
いまさらながら、復活乙!

289:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/12 23:36:46 jtDdAUky
乙!

>>288
投下する時以外はコテと目ラン無しにしたら?

290:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/14 19:28:49 HPXhid0s
ひぐらしのなく頃に反逆の梨花
URLリンク(www.youtube.com)
URLリンク(www.youtube.com)
URLリンク(www.youtube.com)
URLリンク(www.youtube.com)
URLリンク(www.youtube.com)



291:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/20 12:49:59 ABOKZgK+
久々保守

292:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/23 00:49:19 nvyr9XgD
偶然見つけて見てみたらやたらおもしれぇ。

保守するぜ

293:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/23 00:53:24 C763we7G
やっぱルル坊はすれ違いスパイラルでウボァーになるより、無駄に理屈っぽく頭使ってる方が見てて楽しいよな。

294:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/24 01:24:17 56XXtZ8s
全力をあげてこのスレを支援するんだ

295:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/25 18:26:45 cz2RdiW5
保守だッ!!

296:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/09/26 19:55:21 9vo6M7Xz
支援保守感謝。すまん、ちょっとうみねこに浮気してた
あまり放置も良くないので今回も少ないが投下しておく。


297:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/09/26 20:25:05 9vo6M7Xz

 適切な言い訳が思いつかず、沈黙のまま時が経過する。
 そもそもこうなってしまったなら、どのような言葉も無意味なのだろう。意味があるとしたらギアスによる絶対遵守の命令しかない。
 正直入江にはギアスを使いたくない……がそう言っていられる状況か……?
 ……っ、やはり使うしか……。
 そう覚悟し、ギアスを開放させようとした矢先に入江が首を横に振る。
「いえ、今のは忘れてください」
「はい?」
 間抜けにも口をぽかんと開けてしまう俺。
 入江は気にせず続けた。
「私は沙都子ちゃんを救ってくれたランペルージさんを信じます。
 貴方がどういう理由で雛見沢症候群に興味があろうと、そこに悪意があるとは思えない。だからすべてお話しましょう」
「入江先生……」
 どこまで人が良いのだ、この人は。思わず俺は苦笑する。
 それとも、ここは沙都子に感謝すべきか。
 沙都子には悪いが、あいつが鉄平に虐待を受け救出することがなければ、ブリタニア人の俺が入江とここまで友好的にはなることはおそらくなかっただろうしな。
「さて。ランペルージさん、検査のほうは済みましたよ。
 一時的にL4になったような抗体反応が見られましたが、素早いC120の使用が良かったんでしょうね。現在はL2に落ち着いています。もう大丈夫ですよ」
「そうですか、ありがとうございます」
「ただ再発の可能性が通常の潜伏患者よりも若干高くなっています。毎日十分な睡眠を摂り、ストレスを溜めないことを心がけてくださいね」
「ええ、分かりました。気をつけます」
 とりあえずは一安心といったところか。だがベッドでの睡眠時間を削り、居眠りで補っている俺にとってはつらい心がけになりそうだ。


298:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/09/26 20:26:35 9vo6M7Xz
 入江は検査道具を片付けながら先ほどの質問に答え始めた。
「緊急マニュアル34号の存在を知っている人物でしたね? それだとかなりの人数になりますが」
「では入江先生が思いつく限りで構いません」
「ん……そうですか、分かりました」
 入江が頷き、順に名前を上げていく。入江自身、富竹、鷹野、山狗の隊員―。
「それと、キョウト六家の関係者ですかね」
「え……? ちょっと待ってください!」
 動揺から自然と声のトーンが大きくなってしまう。俺は慌てて自制した。
「……キョウトですって? "東京"の間違いではなく?」
「いえ、キョウトであってますが」
 入江はそう応えてから独りごちるように言った。 
「そうか……梨花さんは東京がもはや存在しないことを知らない。だからランペルージさんが知らないのも無理はないかもしれませんね」
「どういうことです?」
「東京は、日本がエリア11と名を変えてブリタニア帝国の属領になった際に解体を余儀なくされました。
 この時、後ろ盾を失くした入江機関の存続も危ぶまれましたが、東京の代わりに無償で資金を提供してくださったのがキョウト六家だったのです」
 そんな馬鹿な。キョウトが無償で資金を提供するなんてありえない。何か裏があるに決まっている。
「無償……それは本当ですか?」
 俺が怪訝そうに尋ねると入江は首を傾げた。
「ええ、本当ですが。……何か目的があると?」
 キョウトはブリタニアから日本を取り戻そうと暗躍、活動している。
 日本解放戦線のようなテロ組織や黒の騎士団に資金を提供するのに手一杯で、そんな誰も知らないような奇病の根絶に割く資金などないはずだ。
 もし仮に資金に余裕があっても無償など考えられない。何か目的があるとしか思えなかった。それもおそらく軍事目的の……。
 別にキョウトの思惑を想像するのは大して難しくはなかった。ただ理解することは俺にはできそうになかった。
「キョウトは雛見沢症候群を生物兵器として軍事利用するつもりでは?」
「それはありえません。過去にはそういう研究を為されていたこともありますが、現在は治療薬等のポジティブなものしか扱っていません」
 だろうな。生物兵器の研究を代償にしてまで資金を得ようなどと入江のような人間が考えるはずがない。
 となると表向きは入江が治療法の研究を、裏ではおそらく別の人間が入江の目を盗んで生物兵器の研究を進めているといったところだろう。
 雛見沢症候群の研究に携わっている人間で怪しい人間は……?
 ……今のところ鷹野だろうか。梨花の話では綿流しの日に殺されるとのことだったが、偽装死の可能性も十二分にある。
 勿論キョウトから派遣された人間が入江診療所とは別の場所で研究をしている可能性も否定できない。
 だが生物兵器の性能をまず第一に考えたなら、東京が解体される以前から入江機関に属して雛見沢症候群を研究している人間にコンタクトを取るほうが都合がいいはずだ。
 そうなると鷹野の手駒の山狗や仲間の富竹という男も怪しく思えてくる。
 ……悪い兆候だ。雛見沢症候群の再発の危険性を思うと、あまり深くは考えないほうがよさそうだ。
 疑心は必要最低限に止めなければならない。俺のように頭で考えてから行動する人間には雛見沢症候群は最大の敵なのだと今更ながらに痛感する。
 こういう時は一人で悩むのはまずいな。梨花に意見を求めることにしよう。
「今日はありがとうございました。そろそろ沙都子の病室に行きますのでこれで失礼します」
「ええ、そうしてあげて下さい」
 俺はすっと席を立つと、入江に会釈をして診療室を後にした。


299:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/26 22:30:44 B7Ky5xXN
グッド。良い更新です。

300:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/27 11:55:01 xeC1xYgr


301:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/27 13:05:30 EBnzdeyF
更新乙 全裸に首輪付けてまっとく

302:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/28 11:04:08 iuSRvjBB
乙!
メカ戦の予定はあるのかな?

303:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/29 19:17:21 QrKUPflo
乙。
無いんじゃないかなメカ戦。騎士団旅行行ってるし。

感想としては、細かい所まで描写出来ていて凄いと思う。

何か偉そうですみません。

304:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/30 05:26:03 kuO6h5a1
細部描写にこだわってると時間がかかって大変だろうけど
緊迫感で背筋がゾクゾクするSSなんて久しぶりだよ

キョウト六家の名も登場、さてルルーシュは次にどう動くのか?
気長に待ってますんで、無理せぬ範囲で続きをよろしく!

305:名無しさん@お腹いっぱい。
09/10/01 13:53:55 Q0M+fV2I
支援

306:名無しさん@お腹いっぱい。
09/10/02 23:45:35 nBrRxXXG
保守支援

307:名無しさん@お腹いっぱい。
09/10/04 09:52:19 XKyOdRxH
捕手

308:名無しさん@お腹いっぱい。
09/10/05 17:26:17 SVF+IfIL
がんばって。

支援

309:名無しさん@お腹いっぱい。
09/10/07 12:24:28 Z+UkijqC
保守

310:名無しさん@お腹いっぱい。
09/10/07 23:41:13 nEjTxNZa
保守

311:名無しさん@お腹いっぱい。
09/10/09 10:34:23 bGXf4HOg
続きマダー?

312:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/10/10 19:55:38 t7BYDP8S
【13】

 診療室を出た足でそのまま沙都子の病室へと向かう。人気のない廊下を早歩きで進んだ。
 時刻は午後の六時半過ぎ。陽はほとんど落ち、窓の向こうでは暗闇が世界の統治を厳かに始めている。
 想定していたよりも入江と長く話してしまったな……。いくらなんでももう皆は帰ってしまっているだろう……―と思っていたのだが、予想に反して一人も欠けることなく全員が沙都子の病室に留まっていた。
「あ、ルルーシュくん! 今までどこに行ってたの?」
 レナがまず最初に俺の姿に気がつき、それに応じて皆が振り向く。
 視線が一斉に俺のほうへ集まってきて少し気まずい。
「あ、ああ。ちょっと入江先生に用があってな」
「入江先生に? 何の用かな、かな?」
「どうせ沙都子そっちのけで監督とメイド服談義でもしてたんじゃないの~? くっくっく!」
 魅音がお決まりのように囃し立てる。
 俺にそのような趣味はない! と言い返したかったが、墓穴を掘ることになりかねないので無視を決め込むことにした。
 ベッドで上半身を起こして、俺たちのやり取りを見てぎこちなく笑う沙都子に視線を移す。
「沙都子、大丈夫だったか?」
「ええ、ルルーシュさん……私は、大丈夫でしてよ。でも」
 いきなり沙都子が俺の手を鷲掴んだ。思わずぎょっとする。
「この手のひらの傷……どうされたんですの?」
 沙都子にそう聞かれて魅音のほうを一瞥する。
 魅音が微かに首を横に振るのが見えた。沙都子には内緒にしておけって事だろう。
 分かっている、沙都子に自分のせいで俺が傷ついたなんて余計な罪悪感を背負わせるわけにはいかないからな。
 さも不敵そうに笑って空惚けることにした。
「何のことだ? これは気まぐれで自炊して出来た怪我なんだが」
「そうそう、ルルって意外に不器用でさー! 今度またルルが自炊しなくちゃならなくなったら沙都子が手料理でも作ってやんなよ」
「さ、沙都子ちゃんの手料理……はぅ~っ! お~持ち帰りぃ♪」
「駄目なのですよ、沙都子の料理は僕が未来永劫独り占めなのです。にぱー☆」
 俺のついた嘘に魅音らが調子を合わせてくれる。ナイスフォローだ。と言いたい所だが、親指を立てながらウィンクするのは止めとけ。
 そんな一見楽しそうなやり取りの中、沙都子は真顔のまま首を横に振った。
「皆さん誤魔化さなくてよろしくてよ。私、全て知っているんですから。ルルーシュさんのその怪我は、私のために負った刀傷なのでございましょう?」
 全部ばれてるじゃないか。俺は舌打ちをしながら魅音を睨みつける。すると魅音はあららと言わんばかりに苦笑いをした。
 沙都子に教えたのはおそらく葛西だな。魅音め、余計なことを話さないよう葛西に言いつける所まで気が回らなかったのか。まったくもって詰めが甘いやつだ。
「そ、それはだな、沙都子」
 慌てて適当な話をでっち上げようかと考えを巡らせる俺。……くそ、どういうわけか最近こんな役回りばかりな気がする。
 沙都子はそんな俺のことなど気にする様子もなく、ただ虚空を見つめて独り語るように言った。
「私……誰が何をしようとも叔父様のもとを離れるつもりは毛頭ありませんでしたのよ。……喩え叔父様に殴られ蹴られようとも、これは試練なんだって、この試練に屈したら絶対にーにーは帰ってこないと自分に言い聞かせてずっと耐え忍ぶ気でいましたの」
 突然の沙都子の告白に一同言葉を無くす。病室に刹那的な静寂が訪れた。



313:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/10/10 19:59:04 t7BYDP8S
 誰も口を挟まないことを確かめると、しばらくして自嘲気味に沙都子は先を続けた。
「……つい先ほど葛西さんが来た時だってそうでしたのよ? ルルーシュさんたちが私のために根回ししたんだろうなって思ったぐらいで気持ちに揺らぎは一切ありませんでしたわ」
「何が、言いたいんだ?」
 その疑問が自然と口をついた。皆もただ口にさせなかっただけで同じ疑問を持っていたのだろう。皆、沙都子を食い入るように見つめている。
 だが沙都子はその疑問に答えることはなく、皆を見回してから再び語り出した。
「先日ルルーシュさんは、私が耐え忍んだところでにーにーは帰って来ないと言いましたわね。私はそれを聞いてなんて酷い人だろうと貴方のことが大嫌いになりました」
「沙都子……」
 零すようにその名を口にすると、少女は蜂蜜色の髪をなびかせてこちらに目を向けた。 
「……けれどルルーシュさん、実際は違ったんですわね。貴方は事実を言い、私を助けようとしてくれていただけ。
 なのに私はその手を振り払い、ろくに話を聞こうとしなかった。ごめんなさい、本当に酷いのは私のほうだった。
 ……葛西さんが教えてくれましたの」
『なるほど、たしかに君の意志は高潔でとても崇高なものだ。だがしかし、果たしてその意志は友の想いを踏み躙ってまで守るべきものなのか』
 玄関先で沙都子によって門前払いされた際に、葛西はただそれだけを言ったのだそうだ。
「私はそれを聞いて、急に自分の信念が酷く安っぽいものに思えてきましたの。
 にーにーが帰ってくるまで耐え忍ぶ? なんてくだらない。
 本当ににーにーに帰ってきて欲しかったなら、悪い叔父様なんかさっさと追い出して、にーにーが帰って来やすいようにするべきなんですわ。
 だから私、葛西さんには外でお待ちいただいて――」
 沙都子はそこで一旦言葉を切り、表情に満面の笑みを咲かせた。そして……
「それから、宿敵叔父様と北条家の利権と覇権を賭けた壮絶な死闘を繰り広げましたの」
 これまでのシリアスな空気をぶち壊すように、とんでもない事実をさらりと俺たちに打ち明けたのである。
「「……はぁ?! 死闘ぅぅ?!」」
 沙都子の予想を上回る発言に一同唖然とし、素っ頓狂な声を上げてしまうのだった。
「お前! 葛西さんに助けてもらったんじゃなかったのか?!」
「ええ、葛西さんにはある意味助けてもらいましたわ。あのまま葛西さんが止めに入ってくださらなかったら、どちらかが死ぬか倒れるまで終わらない文字通り"死闘"が続いていましたもの」
 ……不思議だ。鉄平と沙都子が取っ組み合いをする光景が音声付で脳裏に浮かんでくるのだが。
 というか、それでその怪我なのか……? 呆れてため息が出てくるぞ。
「……で、当の叔父は?」
「股間を蹴り上げてさし上げましたら、半分泣きべそをかいてましたわ」
「レディーにあるまじき行動と発言なのです」
 梨花が冷静に突っ込むと、耐え切れなくなった皆が呆れを通り越して一斉に吹き出した。
「くっくっく! おじさん、沙都子はやる子だと思っていたよ!」
「あはは、でも男の人の大事なところを蹴るのは感心しないかな、かな。沙都子ちゃんの叔父様、赤ちゃん作れなくなっちゃったかも……はぅ……」
「レナが何気に卑猥なことを言ってるのです」
「……? 赤ん坊はコウノトリが運んでくるんですのよ。蹴ると何で赤ちゃんが出来なくなっちゃうんですの?」
「みー。沙都子もそのうち分かりますです」
「一体なんなんですのよ~っ! ルルーシュさん、教えなさいませ!」
「え、俺なのか?!」
 沙都子の無知ゆえの大胆な質問をどうにか回避し、話題を他へと移行させることに成功すると、ようやく俺はいつもの日常を取り戻せたように感じることができたのだった。
 


314:名無しさん@お腹いっぱい。
09/10/10 20:17:04 7kpx0xdI
投稿乙!!

次の展開はどうなるのか
とても楽しみです

続き待ってます

315:名無しさん@お腹いっぱい。
09/10/10 20:22:35 b0rq5f7E
この沙都子は惚れるっ!

316:名無しさん@お腹いっぱい。
09/10/10 20:47:47 7kpx0xdI
そういえば、沙都子とかぐやって中の人同じだったな。

317:名無しさん@お腹いっぱい。
09/10/11 10:05:36 wkAdgMhq
沙都子もやる子だが、葛西がまたかっこ良いなぁ。


318:名無しさん@お腹いっぱい。
09/10/12 20:25:01 bYdrzz0R
支援。
のんびり待ってます

319:名無しさん@お腹いっぱい。
09/10/14 18:20:01 TzWNwpdF
普通にルルーシュが御社様になって終わり。

320:名無しさん@お腹いっぱい。
09/10/15 18:38:43 pOukdJig
支援

321:名無しさん@お腹いっぱい。
09/10/17 12:42:58 aSqssYCL
支援。

322:名無しさん@お腹いっぱい。
09/10/18 10:00:28 VH2dYN6P
保守!

323:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/10/20 19:05:40 HaukbonU
最近レス返してなくてすまん。
理由としてはそれよりも話進めるほうが重要だと思ってやってるんだが。
しかし今また詰まってるからさらに遅くなりそうだ…。

ちなみにメカ戦はない予定。入れることは無理ではないと思うけど描写ができなそう。

324:名無しさん@お腹いっぱい。
09/10/20 19:47:13 U5ziY4xL
気にしないで下さい。
のんびり待ってます

325:名無しさん@お腹いっぱい。
09/10/21 10:58:42 beO4So7O
無職なのでのんびり待ってます

326:名無しさん@お腹いっぱい。
09/10/23 17:24:32 CuVitn25
学生ですけどのんびり待ってます。

327:名無しさん@お腹いっぱい。
09/10/24 15:25:57 Iz9yOO87
パートなので働きつつ待ってます。

328:名無しさん@お腹いっぱい。
09/10/28 13:30:54 ujb7J066
支援

329:名無しさん@お腹いっぱい。
09/11/01 16:38:49 1rWNFECE
捕手

330:名無しさん@お腹いっぱい。
09/11/05 07:28:21 V3Jvld5q
自営業だけどゆっくり待ってます。

331:名無しさん@お腹いっぱい。
09/11/05 09:37:54 O8FjRII/
支援

332:名無しさん@お腹いっぱい。
09/11/07 00:02:20 KTfFTv+V
保守

333:名無しさん@お腹いっぱい。
09/11/10 16:45:14 GvGCoQdf
続きまだかな?かな?

334:名無しさん@お腹いっぱい。
09/11/11 13:38:19 3E8VvpUm
もうダメだな

335:名無しさん@お腹いっぱい。
09/11/12 21:26:26 eKUZYXRE
まだ終わらんよ

336:名無しさん@お腹いっぱい。
09/11/17 00:15:18 hX4r9lmi
支援

337:名無しさん@お腹いっぱい。
09/11/22 18:51:28 u7x5JEBU
全力を挙げてこのスレを支援するんだ!!

338:名無しさん@お腹いっぱい。
09/11/23 04:40:17 DEjCcE80
全力でだ!

339:名無しさん@お腹いっぱい。
09/11/23 13:35:04 CAwlG/Ws
イエス、マイ・ロード!

340:名無しさん@お腹いっぱい。
09/11/24 18:35:38 jxQYy0Zx
     _人人人人人人人人人人人人人人人_
     >     また観てギアス!!!    <
      ̄^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄
                      ∧ ( ヽ_,.  --- 、
                  ∧    ! `ー゙         ヽ- 、
                  | `ー‐‐ク   、    ___     ヽ
.       /\        ',      /  rェ.、ヾ〃´__   ハ   l
    /l/   \l\      ヽ   /  /二メ、,∠彡A   |    l
  /          \     `フ.l  /______ `゙l   |    ヽ、
  /    / ̄ ̄\   ヽ \ー'´ | /二ヽ  -─-=ミ   ト、  、___メ
_l    /       ヽ  l__  `ヽ--ィ ィt'7ィォ   ,ォュァゥt、|  ト、|.   `゙メ
\    |        |  /   、 ィ7 |リゞュソ  '  トッ::ソハ ./ハ  ____ノ
  ヽ   ヽ      / /      ̄| .k.、   、____ `ー' ,l ノ/ノ 、__>
   \  \___/ /         リy-、 ヽ _丶ノ  _,. イ/./---≧


341:名無しさん@お腹いっぱい。
09/11/27 13:02:32 EalJ+vFx
支援

342:名無しさん@お腹いっぱい。
09/12/01 02:53:10 A/8Q8Om1
保守

343:名無しさん@お腹いっぱい。
09/12/03 23:51:38 iY0dvXPq
支援

344:名無しさん@お腹いっぱい。
09/12/06 20:19:35 4pJJbewO
支援

345:名無しさん@お腹いっぱい。
09/12/10 23:39:13 DCM5XQGj
コードギアス新作期待あげ

346:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/12/12 09:40:04 defdh8MR
テスト

347:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/12/12 09:41:45 defdh8MR
やっと規制が終わったみたいだなw
今から投下する。長らくお待たせしますた。

348:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/12/12 09:47:00 defdh8MR

 Turn of Tokyo settlement ― Shirley side

 陽もとっくに落ち、放課後というには遅すぎる時間に、あたしは未だ生徒会室に留まっていた。
 というのも自分を含め、ミレイ会長率いる生徒会メンバーはその一見華々しい開催を予定している文化祭の、専ら雑務に追われていたのだ。
「会長~、もう明日にしましょうよ~」
「甘いっ! もう少し踏ん張りなさい!」
 リヴァルが音を上げ、会長が叱咤する。そんなやり取りももうこれで三度目となる。
 リヴァルの隣ではニーナがウトウトと夢の国へと船をこぎ始めている。そろそろ意識を保つのも限界だろう。
 あたし自身も単調作業と薄暗い燈色の照明のためか少し眠気を感じていたので、弱音を吐くリヴァルに助け舟を出す、もとい便乗することにした。
「会長、リヴァルの言うとおりそろそろ解散にしません? こんな状態で続けても作業効率は落ちる一方ですし」
 会長が顎に手を当てしばし悩む。
「うーん……。本当は今日中にやっておきたかったのだけど、予定をずらすのもやむを得ないかな……。でもやっぱり明日に伸ばすと他のスケジュールがねぇ……」
「それはルルーシュがいた時のスケジュールでしょ~! 今日に限ってスザクもいないし、土台無理な話だったんですよ!」
「だまらっしゃいっ、いない人のことを持ち出すんじゃないの!」
 リヴァルが会長に抗議すると決まって彼の名前が出る。……あたしの記憶にないルルーシュ・ランペルージの名が。
 でも『ルルーシュって誰?』なんて聞くと、皆一様に『まだ仲直りしてないの?』と聞き返される。
 仲直りも何もあたしとルルーシュには生徒会でしか接点がない。むしろ最近までルルーシュ・ランペルージという生徒会メンバーがいたことすら知らなかったぐらいだ。皆に誤解されるような仲であるわけがない。
 以上のことをミレイ会長らに話すと何故か呆れてため息をつくかぎこちなく笑うのだが、一体どういうわけなのだろう。不思議で仕方がない。
 ―と、いけないいけない。話が脱線してしまった。
 アッシュフォード学園が経営不振で無くなるかもしれないと聞いてそそくさと別の土地へ行ってしまった人間のことなんてどうでもいい話だった。
 今は会長を説得することに集中しよう。このまま続けて明日に疲労を残していたら本末転倒なのだから。
「そうだ、明日授業の合間の休み時間を利用して遅れを取り戻すというのはどうですか? 授業の合間ならスザク君も手伝ってくれると思いますし」
「そりゃいい! 会長そうしましょうよ!」
 リヴァルが調子よくあたしの意見に賛成してくる。彼の様子を見ていると本当に明日頑張ってくれるのか甚だ疑問だが、今は気にしないこととする。
 ニーナの方に視線を移すと、彼女もまたこくりと首を縦に振って同意してくれていた。……と、見せかけて彼女は既に夢の中だったりするっ!
「うーん、そうね。じゃあ今日は解散にしましょ」
 会長が折れ、リヴァルが無言でガッツポーズを作る。それを見て会長は意地悪げに一言付け加えた。
「その代わり明日は死ぬ気で頑張ってもらうわよ、ガッツの魔法重ねがけで」
「げ、それってまじっすか?!」
「いえ~す、これは会長命令で~す♪」
「ちょ、嘘でしょ~っ?!」
 リヴァルの悲鳴が生徒会室に響き渡った。
 ちなみにガッツの魔法重ねがけは、限界を超えた限界をさらに超えた限界まで頑張り続ける時に使用されるといわれている。もっとも、その正体は気休めのインチキ魔法なのだけど……。



349:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/12/12 10:43:50 defdh8MR

 皆と別れて寮の自分の部屋へと戻る。ソフィはもう寝ているだろうから起こさないように静かに鍵を開けて部屋に入った。
 さらに扉をゆっくりと閉めて施錠する。照明もベッド脇のスタンドを点けるだけにとどめた。
 ところがそんな細心の注意も無駄に終わったらしい。
「シャーリー遅かったねぇ……お帰りぃ……」
 ソフィが目を擦りながらむくりと起き上がる。
「あ、起こしちゃってごめんね」
「いいよぅ……さっきベッドに入ったばっか、だから……」
 それにしては口調が普段より間延びしており、眠いのを我慢しているのが明白である。どうやら完全に安眠妨害をしてしまったようだ。
 もう一度謝るとお休みとソフィに言葉をかける。すると寝ぼけているのか、ソフィはこくりと頷き布団を被ってそのまま寝息を立てて寝入ってしまった。
 その様子に一人苦笑して、自分も就寝するために寝仕度を整える。それからベッドの上に仮置きしていたバッグの中をまさぐり、文化祭関係の書類を取り出すと机に置いた。
「少しだけやっておこうかな……」
 一人呟き、書類を机に広げる。
 解散を了承したミレイ会長だが、彼女のことだから一人で今も続けているに違いない。そう思うとこのまま寝てしまうのは悪い気がしたのだ。
 今回の文化祭はいつも以上に成功させねばならない。
 文化祭は学園の良い宣伝材料になるからだ。もし大成功させることが出来れば学園のイメージアップに繋がる。
 学園が良い意味で有名になれば生徒の転校を抑制でき、加えて入学者も現れる可能性が発生する。そうなれば学園は立て直せるかもしれない。
「よし、頑張ろうっ」
 所詮は一生徒である自分が出来ることなどたかが知れている。あたしが何をしようと結局学園は無くなる運命なのかもしれない。
けれど何もせず成り行きに任せるなんて、とにかくあたしの性には合わないのだっ。
 机に向かい、書類の束に目を通していく。
「喫茶店は三クラスあるから、配置場所をうまくばらけさせないと」
 三件とも要望とは別の場所に配置することになるが、ライバル店同士一部の地域に固まってしまうよりはずっと良いはず。
「えっと、次は……あ」
 次の書類を手に取る際に誤って筆箱を机から落としてしまう。
 咄嗟に目で追ったものの、キャッチするまでには至らず、筆箱の中身は見事に机の下で散乱した。
 やれやれ……。
 ため息を一つ吐くと椅子を引き、転がり落ちた種々の愛用のペン達を一つ一つ拾い上げる。
「あれ?」
 何気なくペンの向こう側、机の下のずっと奥に視線を向けると、そこにはくしゃくしゃに丸められた紙が一つ落ちているのが見えた。
 拾い上げ、そのままゴミ箱に捨てようと考えて手が止まる。ふと中に何が書かれているのか気になってしまったのだ。
 あたしは極普通のありふれた好奇心に後押しされ、拾い上げた紙の皺を机上で伸ばして内容を確認する。
 最初はぱっと流し見してゴミ箱に捨てようと思っていたくしゃくしゃの紙。
 だけれど、気づけばあたしは何度も何度もその内容を読み返していた。
「嘘……そんな……どうして貴方が…………」
 手紙を持つ指先に震えが生じ、背筋が凍る。体中に戦慄が走り、嫌な汗が頬を伝った。 
 そこに綴られていた文字は紛れもない自分自身のもの。
 書いた覚えのない文面。決して送られることのなかった手紙。
 果たしてそれは――忘却の彼方に打ち捨てられた、あたしから"彼"への密かなメッセージだった。

「ルルーシュ……貴方がゼロなの……?」
  

350:名無しさん@お腹いっぱい。
09/12/12 15:30:43 03Hb1hqs
(*゚∀゚)=3

351:名無しさん@お腹いっぱい。
09/12/13 01:36:15 wKvWtTh8
シャーリーも雛見沢に来るのか?

とりあえず乙!!

352:名無しさん@お腹いっぱい。
09/12/13 02:53:53 zNigzMUx
おおっ来てた!乙!

353:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/12/13 17:53:37 bX3+ewyv
またいつ規制されるか分かったものじゃないからもう少し投稿しておくかな。
とりあえずコメ返しておく。あと遅れたけど書き込めない間支援保守してくれた人さんきゅーな。

>>351
シャーリーを雛見沢に向かわせるのかはまだ決めてないな。
実は密かに皆の反応を見て話の方向性に変更を加えているんだw

>>352
まだ見ていてくれてて感謝。
ようやく全体の四分の三ぐらい書ききった所かな。
アニメ三期も放送されるらしいし、最後まで見捨てずにいてやってくれ。




354:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/12/13 19:27:40 bX3+ewyv
 Turn of Hinamizawa Village ― Lelouch side

 ふと時計に目を向けると、もう時刻は午後八時を回っていた。談笑を続けたいところだが、そろそろ帰らないとナナリーと咲世子が心配するかもしれない。それに梨花に話しておきたいこともあるしな……。
 俺のそわそわした様子を見て取り、レナも時間という制約を思い出したようだ。時計を一瞥して、そろそろ夕食を作らないと……と椅子から立ち上がる。
「お、もうこんな時間なんだ。いけない、おじさんも帰らないと、ばっちゃに叱られるよ」
 魅音も慌ててレナに倣った。
「僕は沙都子に付き添ってここに泊まりますのです」
 梨花がにぱーと笑ってレナと魅音に手を振る。
「ルルーシュくんはどうするのかな、かな?」
「悪い、俺は梨花に用があるから先に帰っていてくれ」
 自分を置いて先に帰宅するよう促すと魅音が口を尖らせて不満を漏らした。
「また梨花ちゃんと~? 最近ルルってば付き合い悪くない?」
「すまん、そういうつもりじゃないんだがな」
「じゃあどういうつもりなのさ~」
「いや、それがだな……」
 どう応えれば魅音の機嫌を損なうことなくかわせるか迷っていると、幸いにもレナのフォローが入った。
「ルルーシュくんにも色々とあるんだよ。魅ぃちゃん行こ」
「ちぇ~、ルルの浮気者~っ」
「誰が浮気者か」
 不満げな魅音を引っ張ってレナが病室を出て行った。
 二人がいなくなると途端に病室が静かになったように思える。俺にとって魅音とレナの存在はそれほど大きいようだ。
「さて、沙都子。しばらく梨花を借りるぞ。一人で平気か?」
「え、ええ、私は大丈夫でしてよ。い、いってらっしゃいまし……」
 沙都子はぎこちなく笑う。その心を見透かすかのように梨花が沙都子の声真似をしてからかった。
「でも本当を言うと夜の病室に一人きりなんて、お化けが出そうでがくがくぶるぶるにゃーにゃーでしてよ…………にぱにぱ☆」
「梨ぃ花ぁ~っ!」
「みぃ~★ しばらく一人でいい子にしてるのですよ~っ!」
 握りこぶしを振り上げる沙都子から逃れるように椅子から立ち上がると、梨花は俺の腕を掴んで一気に引っ張り上げた。
「ちょ、おまっ、ぐおっ! 俺の腕が変な方向に!!」
 俺はされるがまま椅子から立ち上がると、半ば引き摺られる形で沙都子の病室を出ることとなった。


355:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/12/13 19:28:40 bX3+ewyv
 梨花と二人で手分けして無人の部屋を探し出すと、そこで俺は先ほど入江から知り得た情報を梨花に伝えた。無論、盗聴などの危険を考えて室内は十分に探索済みである。
 話した内容は大きく二点。緊急マニュアル34号とキョウト六家についてだ。
 梨花は全てを聞き終えると興奮気味に、しかし、静かにそっと口を開いた。
「ありがとう、ルルーシュ。もし貴方がいなければ私は真実に至る事は出来なかったかもしれない」
「その言い方だと何か掴めたようだな」
「ええ、実行犯は未だはっきりとは分からないけれど、誰の意思によって何のために古手梨花が殺されなければならなかったのか、ついに私は理解した」
「……話してみろ」
 今度は俺が聞く番だ。傍らに据え置かれたベッドに座ると足を組み、梨花に先を促す。
 梨花も俺に倣い、二人は並ぶ形でベッドに腰を掛けた。それから梨花は徐に口を開いた。
「まず……私の殺害は手段であって目的そのものではなかった」
「というと?」
「やつらにとって、私はある目的を果たすための過程でただ殺されるだけの存在。立場は違えど、富竹たちと何も変わらないわ」
「ある目的とは、やはり緊急マニュアルに関わることか?」
「答えはイエスよ。すなわち、私の殺害はキョウト六家の意思に基づいて行われると考えられる」
「だが分からないな、お前が死ねば日本人である雛見沢住人が虐殺される。日本解放を謳うキョウト六家の動機にはなりそうにはないが?」
 そう、この件で多数のブリタニア人が犠牲になるのなら理解できる。しかしこの件で被害を被るのは俺とナナリーを除外すると対象となるのはほぼ日本人のみのはずだ。
 だが梨花は静かに首を横に振った。
「それがなるのよ」
「なに……?」
 俺には梨花の考えるキョウト六家の動機なるものに一切心当たりはなかった。だから俺は歯がゆくも、ただ梨花の次なる言葉を待つことしかできない。
 梨花は少し躊躇した後、先を口にした。
「おそらく……。キョウト六家の目的は、雛見沢に住む園崎家に関わる人間の殲滅よ」
「園崎……だと……?」
 正直ここでその名が出てくるとは思わなかった。だから声が少し上ずってしまったかもしれない。
 一方、梨花は俺の動揺を見て取って肩をすくませた。
「ええ、ご存知の通り魅音の家よ」
「何故だ、どうして園崎家が?」
「それは、魅音の家がかつてキョウトのメンバーだったから」
 何、だと……? どういうことだ……。
 ゼロとしてキョウト六家について色々と調査をしたことがあるが、そんな情報はまったく掴んでいない。この俺が見落とした? 馬鹿な……。
「貴方は知らなくて当然ね。園崎家がキョウトのメンバーだった事については、キョウト六家の一部のものと雛見沢御三家だけしか知らないもの」
 梨花はそこで一呼吸置いてから言葉を連ねた。
「もっとも、メンバーと言ってもほんの僅かな間だったようね。なんでも結成当初のキョウトは、話し合いで日本の返還を求める平和団体だったらしいわ。
 まあ、多少は暴力に訴える部分もなかったわけではないけど、でも現在のようにテロのような殺人行為を支援するなんてことはなかった。
 園崎家はテロ組織への支援を良しとせずキョウトから離反、その後は雛見沢にて沈黙を守っていた。キョウト六家にとっては、園崎家はさぞや危険な因子(ファクター)でしょうね。
 だって中立なんて言っても、いつ心変わりしてブリタニアに自分たちの素性を売るか分からないのだから。
 ……例えるなら不発弾を抱えて戦場に立っているようなものよ。出来れば早めに切り捨てておきたい」
「だが日本人であり、様々な地域で影響力のある園崎家を滅ぼすとなるとキョウト内でも意見が割れる。下手すれば内部分裂の恐れもある。だからバイオハザード……生物災害の緊急処置に乗じて皆殺しにする、か」
「おそらくそういうことね」
「ふっ、ここまで来るとお前の死はとんだとばっちりじゃないか」
「ええ、まったく困ったものよ。やんなっちゃう、くすくす」
 俺たちは顔を見合わせて苦笑した。


356:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/12/13 19:31:12 bX3+ewyv
 しばらくして表情を真顔に戻すと話を先に進めることにした。
「―さて、と。バックグラウンドは大方把握した。問題は実行犯だが……お前、心当たりはいるのか?」
 そう訊ねながら俺は月明かりに照らせれた梨花の横顔を覗き込む。
 すると梨花は唇に人差し指を当て、虚空を見やったままゆっくりと考え始めた。
「……そうね。怪しい人間はたくさんいるけれど……そこから容疑者を絞るとなると、案外難しいわね」
「鷹野や富竹なんかはどうだ?」
「最初から妙な所を疑うのね。言ったと思うけど二人は綿流しの晩に殺されるのよ。ちゃんと話覚えてる?」
「馬鹿にするな。それが偽装死である可能性は考えられないかと聞いているんだ」
「その可能性はないと思うけど……。だって二人はその後、遺体となって発見されているもの」
「遺体を見たのか?」
「いえ……。でも富竹らしき遺体が発見され、確かに警察はそれを富竹本人だと断定したわ」
 そうか、ならば富竹が犯人である線は薄い。
 ブリタニア警察にキョウトの息のかかった者がいて、検死結果を改竄したということもありえないわけではないが、ブリタニアは例え名誉ブリタニア人であろうと日本人を決して信用しない。
 内通者がブリタニア人でもない限り、そう易々とこのような手は使えないだろう。
 したがって富竹の死は概ね真実だといえよう。だがしかし……。
「鷹野の方はどうだろうか?」
「鷹野……? 彼女もたしか隣の県で焼死体となって発見されているはずよ」
「焼死体?」
「ええ、それが何か?」
 梨花が首を傾げ、怪訝そうな顔で聞き返してくる。
 どうやら糸口が見えてきたようだ。
 俺の記憶が正しければ、焼死体は身元確認がなかなかに難しいはず。DNA鑑定を駆使すればやってやれないことはないが、それには時間がかかり過ぎる。まず歯型情報を基にして身元を割り出すのがセオリーだろう。
 よって、もし鷹野の歯型情報が登録されている歯科医院に内通者がいたのならば、偽装死は十分に可能なのではないか?
 以上のことを梨花に話して聞かせた。すると梨花は言葉を噛み締めるように何度か頷いた。
「なるほど……そうね。どうやらその可能性を疑う価値は大いにありそうだわ」
「ならば確かめてみるとするか」
 俺はベッドから立ち上がると、口元に手を当てて考え込む梨花の正面に回って手を差し出した。
「どうやって……?」
 梨花は差し出された手をまじまじと見つめた後、俺と目を合わせて問う。
 いつまでも手を取らない梨花の手を掴み、彼女を引っ張り上げながら俺は静かに答えた。
「明日辺り鷹野に接触し、ギアスで探りを入れてみよう」
 実行犯が鷹野である可能性が濃厚になった今、彼女に対し一度しか使用できないギアスをこういった目的で使用するのは、俺自身の生存率を大幅に低下させることに繋がる。
 本来ならもう少し外堀を固め、鷹野を犯人と断定した上で殺すかギアスで操るかしたいところだが、今は何より時間が欲しい。多少のリスクは甘んじて受けるべき時なのだろう。
 果たして、鷹野はただの犠牲者なのか、或いは祟りを起こす側の人間なのか。
 羊か狼か、今の俺にはそれを知る術はなかった。

 ―タイムリミット;オヤシロさまの祟りまで後3日。
 

357:名無しさん@お腹いっぱい。
09/12/14 01:13:34 5Ra9G8dC
おおっ!!

おもしろくなってきたぜ!!


358:名無しさん@お腹いっぱい。
09/12/17 00:31:59 2szqT345
待ってた甲斐があるともの!GJ!


359:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/12/17 21:51:38 tbcnZaPH
シャーリーどうしようか迷ってるから安価してみるw
雛見沢に向かわせるべきか否か。>>362頼むぜ。

360:名無しさん@お腹いっぱい。
09/12/19 01:03:18 SXyXQ+f0
ksk

361:名無しさん@お腹いっぱい。
09/12/20 12:18:29 mFIP0DbE
kask

362:名無しさん@お腹いっぱい。
09/12/20 15:51:33 RC/AtPhD
シャーリーって誰?

363:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/12/20 16:28:01 hCLiBBqg
>>362
マジレスするとコードギアスのキャラだよ。
そしてそんなことを聞くようじゃ「ぐぐれカス」と言われても仕方ないぞ

安価潰されてるんで次回から先着順で。
どちらの構想もあるから正直どっちでも良いよ。
本当ならどっちも書きたいんだけどな。

364:名無しさん@お腹いっぱい。
09/12/20 19:51:43 LPnjSswB
んじゃ シャーリー向かわせてくれ!
正座で待ってる!


365:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/12/20 21:58:08 hCLiBBqg
>>324了解
シャーリー出すのはまだかかりそうだけど来週には投下する

366:362
09/12/21 13:45:53 6mUnGZBH
まさか本当にシャーリー知らないワケが無かった!

ぐげげげげげげげげーっ

367:名無しさん@お腹いっぱい。
09/12/21 14:03:47 2ukTJ7x0
>>365
また 気長に待ってるよ~ノシ

368:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/12/27 23:15:15 lFPQzlnB
【14】

 Turn of Tokyo settlement ― Shirley side

 あの手紙を読んだせいで結局昨晩はあまり寝られなかった。ベッドから上半身を起こす際、少しの倦怠感を覚える。
 これが身体がまだ睡眠を欲しているからなのか、それとも手紙の内容にショックを受けて心が弱っているからなのかは当の本人であるあたし自身にも分からなかった。
「なんで……どうして……こんな…………」
 再びベッドに横たわりながら問題の手紙を読み返す。
 夜通しで数え切れないほど読んでいるそれの内容は、既に頭に入ってしまっていた。
 ゼロの正体が、同じ学校に通うルルーシュ・ランペルージという少年であったこと。
 ずっと昔に亡くなったと思っていた父の死が、つい最近起こった出来事であったこと。
 そして、父を殺したのが他ならぬルルーシュだったこと……。
 手紙の内容が真実である可能性は高い。父について昨晩母に電話で訊ねたところ事実であることが判明したからだ。
 けれどこの手紙の内容が真実で、本当に自分が記した物であると考えるなら、自分では気がつかない部分で記憶に齟齬が出ているということになる。
「っぅ……」
 軽い吐き気に襲われ、慌てて洗面所に駆け込んだ。
 この現場をミレイ会長に目撃されようものなら、妊娠してるの? なんてからかわれるんだろうなと思いながら、鏡で自分の顔を覗き見る。
 鏡の中のあたしは酷く陰鬱な表情でもってこちらを見据えていた。

 一体……あたしは誰なんだろう。
 ここにいるあたしという存在は何……?

 手紙の文面から察するに、昔のあたしはルルーシュ・ランペルージという人間を少なからず知っているらしい。だけど、あたしの記憶の中には彼の存在は少しも見られない。
 もし人格が記憶や思い出によって構築されているのなら、そうであったのなら、今のあたしは皆の知るシャーリー・フェネットではないのだろうか……。
 偽者の記憶、偽者の自分――。どうしてこうなってしまったのかのだろうか。あたしにはまったく検討がつかなかった。

 …………嘘だ。

 分からない振りをすれば忘れられるなんて甘い考えは捨てろ。昨日あたしはゼロについて重大な事実を知ってしまったじゃないか。
 そう、この手紙には続きがあったのだ。

 ゼロは、催眠術のような不思議な力―ギアス―で人を操り支配する。

 ならば記憶の改竄ぐらい容易なはず。
 ルルーシュはゼロである自分の正体がばれたことをどこかで嗅ぎつけ、あたしに対して記憶の操作をおこなったに違いない。
 なんという事だろう。彼は父を殺しただけに飽き足らず、残されたあたしの思い出すらも踏み躙ったのだ。
「……っ…………」
 頭がずしりと重い。脳内で鐘が鳴り響くように頭痛が止まない。
 ゼロ―ルルーシュ―父の死―……。
 手紙の内容がぐるぐると頭の中で遠心分離にかけられ、嫌なワードだけが残滓として脳裏に濃縮沈殿する。
 駄目、これはまずい……。自分の中で黒い感情が渦巻いてくるのが分かる。
 ……こういう時は笑おう。皆が知るシャーリー・フェネットは馬鹿みたいに元気だけがとりえの女の子だったはず。だから、笑え。
「あはは」
 けれどあたしの精一杯の作り笑いは、不自然なまでに歪んでいた……。
 今朝はソフィとは顔を合わせないでおこう。今は色々と心配をかけてしまいそうだから。
 あたしはまだ夢の中のソフィに声をかけずに寮部屋を出る。
 まだいつもの時間より三十分も早いけど、ここにいるよりずっと良い。
 問題の手紙をバッグの中に押し込んで、制服に着替えると足早に寮を後にした。


369:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/12/27 23:16:38 lFPQzlnB
 授業が始まるまで、まだ若干時間がある。
 暇を持て余したあたしは教室にある花瓶の水を替えることにした。
 化粧室のすぐ脇に設置されてた蛇口を捻ると、生ぬるい水の後に冷たい水が流れる。
 花瓶を綺麗に洗い、新しい水を注いでいく。
 それから、意識的に正面にある鏡は見ないようにして教室へ踵を返した。もし再び鏡を覗き込んだら、また気持ちが不安定になるかもしれないから。
「あ……」
 教室の扉を開けると、まだ早いというのに既に一人の男子生徒の姿があった。
 あれは、遠目でもすぐに分かる。この学校に唯一在籍している日本人であり、生徒会メンバーの枢木スザク君だ。
 あたしの存在に気がつくと、彼は笑顔で挨拶をしてくる。
「おはよう、シャーリー」
「お、はよう……スザク君」 
「どうかしたの?」
 呆然と教室で立ちつくすあたしを見て、スザク君は不思議そうに首を傾げる。
「あ、えと……。別になんでもないの、気にしないで」
 あたしは首を横に振り、笑って言葉を返す。鏡で一度笑顔の練習をしたおかげか、今度は普通に笑えた気がする。
 思い出したように足を動かし、教室に入る。
 そのままスザク君から目を逸らし、花瓶を元あった場所へと戻した。
 そういえば、ルルーシュって"スザク君の親友"だったっけ……。ううん、それともスザク君が"ルルーシュの親友"だった?
 花瓶の花を見栄えの良いように整えながら考えを巡らせる。
 あたしは先にどちらと知り合ったのだろう。
 スザクくんがこの学校に通い始めたのはつい最近だ。
となると時間を考えれば、あたしはルルーシュのほうと先に知り合った可能性が高いわけで。
 あたしとスザク君は仲良し。生徒会でもよく話をしてる。
 一方ルルーシュはあたしにとってただの知り合い。生徒会にいたことすら気づけなかったぐらいにあたしとは面識がない人。
 ところがスザク君はルルーシュを介しての友達……。
 これってやっぱり変だと思う。つまり、ルルーシュはあたしの記憶を改竄して、あたしとの関係までも抹消した……?
「ねぇ……スザク君。あたしとルルーシュってどんな関係に見える……?」 
 振り返ってスザク君を見やる。彼は自分の席で授業の予習をしていたようだ。顔を上げてこちらに視線を向けた。
「急にどうしたんだい?」
 うっ、すごい怪訝そうな顔してる……。こういう時は笑って誤魔してしまうに限る。
「あ、その……。あはは……な、なんとなく、かな?」
 果たしてこれで誤魔化せているのだろうか……。自分としては全然駄目、大根役者もいいとこだと思った。
 けれど幸いスザク君は少しも気にすることなく、実に人懐っこい笑顔を惜しげもなく返してくれたので、あたしはホッと安堵のため息をついた。
 ところが、すぐにそれは間違いであったことが分かる。
「シャーリー」
「な、何かな?」
 一呼吸置いて、スザク君が真顔であたしの名を呼ぶ。突然のことに驚き戸惑うが、安心しきっていたあたしは無防備に返事をしてしまった。
「すごく、お似合いだと思うよ」 
「えっ、えっ……?」
 それって、つまり……。スザク君の云わんとしている事は至極簡単に理解できた。けれど、その言葉の意味合いに心が付いてこない。激しく動揺し、拙い言葉が口から零れる。
「お、お似合いって……」
「うん。君とルルーシュならベストカップルだ」
 スザク君はあたしの戸惑いが照れから来ているものだと勘違いしたのだろうか。皮肉が一切見られない爽やかな笑顔で言葉を返してくる。
 それを聞いて、あたしの全身からは血の気が急速に引いていった。
 あたしと、ルルーシュが……?
 そんなのって、ないよ……。
 むしろ皮肉で言ってくれたほうが良かった。
 だって、そうだったなら、あたしはきっと――。
「勇気を出して告白してみるといいよ。そしたら、」
「止めて……っ!!」
 気付けばスザク君に拒絶の言葉を吐き出していた。
 手紙の文面からあたしは自分とルルーシュの関係に薄々気がついていた。それでも気のせいだと気付かない振りをしていた。なのに、だからこそ、他人の口からそんな言葉は聞きたくなかった。律儀に言って欲しくなかった。
 だって、例えあたしがルルーシュのことを好きだったのだとしても、ゼロである彼が父を殺しているのは変わらない事実なのだから。


370:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/12/27 23:17:55 lFPQzlnB
 
「シャーリー?」
 スザク君は目を見開き、驚きの表情で固まっていた。
 そんな彼の様子を見て取って、ようやくあたしは我に返る。
 だが慌てて取り繕おうと口を開きかけ、結局何も言えないでいた。
 スザク君があたしを見据え、真剣な表情で訊ねてきた。
「最近君とルルーシュが話している所を見ていないし、妙だと思っていたんだけど……ルルーシュと何かあったの?」
「ち、違うの、そうじゃないの」
 あたしは首を横に振って精一杯に否定する。否定した後に、はたと気がつく。
 目の前にいるスザクという少年は日本人といえどブリタニア軍人でゼロと敵対しているはずだ。今彼にゼロの正体がルルーシュだと教えれば簡単に父の敵討ちができるのではないだろうか。
 そうだ……告発してしまえば良い。
 記憶を失う前のシャーリー・フェネットがルルーシュのことをどう想っていようと、今のあたしにはルルーシュに対しての恋愛感情はない。実質、このあたしには一切の関係がないのだから。
 黒い感情が湧き上がり、口元に邪悪な笑みが浮かぶのが自分でも分かった。 
 捕まっちゃえ、ルルーシュ。
 それから仮面の下の素顔を大衆に晒し、無様に処刑されちゃえばいい。
 その引き金をあたしが引いてあげるから。
「……っ…………」
 そう考えたところで唐突に胸が痛み出した。
「シャーリー! 大丈夫かい?!」
 ふらつく身体をスザク君に支えられ、何とか呼吸を立て直す。
「う、うん……。大、丈夫……だから……」
 スザク君に言葉を返す頃には、胸の痛みのほうはだいぶ落ち着いていた。
 しかし今のは一体……。どうして急に?
 まさか、ルルーシュを軍に売ろうとする行為をあたしが無意識に忌避しているとでもいうのだろうか。
 例えばルルーシュによって完全に消されたはずの記憶が、知覚出来ないほどに僅かな断片としてあたしの中に残っており、ルルーシュを告発するのを嫌悪しているのかもしれない。
 もし本当にそうだとしたなら、あたしは一体どうするべきなのか。
 本当に好きだったかも怪しい人をあたしは庇うべきなのだろうか?
 父の仇である男を?
 そんなことはありえない。ありえない、でも……。…………。
「シャーリー、本当に大丈夫かい? 保健室に連れて行こうか?」
「え、あ、ううん、平気。そんな心配しないで」
「だけど、」
「ありがとう、でも本当に大丈夫だから。ところで休み時間は空いてるかな? 文化祭の仕事がどっさりあるからスザク君にも手伝ってもらいたんだけど」
「あ、ああ。僕でよければ構わないけど、それよりも、」
「ありがと、助かったよ! じゃ、あたしはもう行くから」
 心配してくれるスザク君に飛びっきりの笑顔を投げかけると、授業の準備があるからと早々に話を打ち切る。
「ちょっと、シャーリー?」
 それでも追いすがってくるスザク君だったが、けれどそこでタイミングよく予鈴が鳴って、彼は渋々自分の席に戻っていった。
 それを横目で確認し、あたしも安心して自分の席に向かった。

 ルルーシュ、あたし決めたよ。
 貴方の正体はスザク君には内緒にする。勿論他の誰にも洩らさない。
 だって、もし貴方が捕まったら困るもの。

 ――貴方はあたしが殺すから――

 何事もなかったかのように自分の席に着くと、あたしは偽りの笑顔を霧散させた。そしてテキストとノートを開いてペンを握ると、口元をきつく真横に結んで、空席となったかつてのルルーシュ・ランペルージの席を一瞥する。

 あたしは以前のあたしなんて知らない。もはや関係もなければ興味すらもない。
 だからルルーシュ、貴方はあたしが必ずこの手で。



371:名無しさん@お腹いっぱい。
09/12/28 00:29:22 Uv/Gvvr5
ID記念

372:名無しさん@お腹いっぱい。
09/12/28 00:53:04 tfBVhOFz
シャーリー病みフラグ(((;゚Д゚))) !?
このまま雛見沢きちゃダメー!

373:名無しさん@お腹いっぱい。
09/12/28 16:51:12 u3/Tmo/t
あばばっ?!

みぃしぃもレナレナも非じゃない明確な殺意がキター?

374:名無しさん@お腹いっぱい。
09/12/28 17:12:06 Zg1CDF5W
ルルーシュ逃げるっす、超逃げるっす

375:名無しさん@お腹いっぱい。
10/01/01 15:45:54 jSmXMlc0
久しぶりに来てみたら何という急展開にw

きっとシャーリーの目はオヤシロモードだ

376:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
10/01/01 15:54:36 /tzJ9Y9T

 Turn of Hinamizawa Village ― Lelouch side

 雀のさえずりが聞こえて目が覚める。昨晩は帰宅してすぐに就寝したおかげか、久しぶりに快眠ができたようだ。起きる時間もいつもより遅い。
 いつもなら登校時間ぎりぎりで慌てるところだが、本日は休校日となっているので心配は要らない。
 なんでも今日は校長の海江田と担任の留美子が綿流しの祭の準備に借り出されているらしく、二人は祭りの準備に手一杯のため授業ができる状況にないのだそうだ。俺としては願ったり叶ったりだ。
 ゆっくりと私服に着替えると洗面所で身支度を整え、それからナナリーの部屋に足を運んだ。
「ナナリー、起きているか? 入るぞ」
「あ、はい。お兄様どうぞ」
 中に入ると咲世子がすでにナナリーの身の回りの世話を始めていた。
「なんだ、咲世子さんもいたのか」
「ルルーシュ様、おはようございます」
「お兄様、おはようございます」
「ああ、おはよう。ナナリー、風邪はもう大丈夫か?」
「ええ、おかげさまで」
「そうか、それは良かった」
 昨晩は梨花と空恐ろしいテロについて話をしていたのに、今日はというと普段となんら代わらない朝の挨拶をナナリーたちと交わしている。
 不思議な気分だな。昨日の出来事がまるで夢のようだ。
 だが決して夢などではない。沙都子を助けた時に出来た刀傷が教えてくれる。
 昨晩の話が夢だったと思いたい気持ちも僅かにあるが……認めなくては、現実を。
 今この時を抗わなくては何も守れはしないのだから。
「……ナナリー。ちょっと出かけてくるよ」
「どこに行かれるのですか?」
 不安そうにナナリーは訊ねてくる。ここの所ばたついていて二人でゆっくり過ごす時間が取れないでいたし、おそらく寂しいのだろう。
 気持ちは俺も同じだが、今の俺にはやらなくてはならないことが山ほどある。しばらくはお互い我慢だな。
「なに、雛見沢を色々と見て回ってくるだけだよ。遠くには行かないさ」
 ナナリー、お前を残しては絶対にな。
 お前の居場所は俺が守る。
 
 咲世子にナナリーを任せ、俺は梨花の待つ入江診療所へと向かった。


377:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
10/01/01 15:55:16 /tzJ9Y9T
 
 診療所が近づくと、淡い緑色のワンピースを身に付けた少女の姿がぼんやりと目に入る。少し距離をつめると、その少女が梨花であることが分かった。
 彼女は目を瞑ったまま診療所の壁に寄りかかって俺を待っていた。
「待たせたな。おはよう、梨花」
「おはようルルーシュ……くぁ~」
 欠伸をしながら徐に双眸を開く梨花のワンピースは肩紐が若干ずれている。
「おい、なんだか眠そうだな」
「ええ、ちょっとね。昨日はあんまり眠れなかったのよ」
「寝癖もついてるぞ」
 梨花のとても前衛的なヘアースタイルを指摘すると、梨花はハッと髪の毛を両手で押さえた。
「う、うるさいわね、私って朝だけは駄目なのよ。ちょっと直してくるっ」
「そうだな、そうしたほうが良い。ふっ」
「……笑ったわね。あんた、後で覚えてなさいよ……」
「おや、それは怖いな」
 逆なでするような言葉を返してやると、梨花は一度俺を睨みつけてから肩を怒らせて診療所の中に入っていった。
 どうやら梨花は俺の冗談をあまり好ましく思っていないようだ。ま、当然というべきか。俺と似て、無駄にプライドの高いやつのようだしな。
「というか、もうあれは猫かぶりってレベルじゃないな……」
 今の梨花には以前の幼い少女の面影はそれこそ蚊ほどもない。豹変という言葉がぴたりと当てはまるぐらいの変わりようで、もうこれは詐欺といっても決して過言ではないように思う。
 だが、これがギアスで世界を繰り返すうちに精神だけが大人になった彼女本来の姿なのだろう。
 ……。
 …………。
「……救ってやらないとな」
 まだ間に合う、梨花のギアスが暴走していない今なら。
 ギアスの暴走が始まってしまえば、現在のように能力の発動が死の間際に限定されるとは限らない。下手をすれば常に能力を開放し続けることになり、その結果、刹那という時の牢檻へ永久に封じ込められてしまうかもしれない。
 そうでなくとも、このままギアスを使用して世界を繰り返せば、待っているのは退屈と絶望による精神の死だけだ。だから、そうなる前に――……。
「どうしたの、難しい顔して?」
「ほぁぁっ!? 梨花っ、いつからそこに!」
 物思いにふけっている間に、気づけば梨花は身支度を整えて戻って来ていたようだ。彼女は下から覗き込むようにして俺の真正面に立っていた。
「たった今戻ってきたところよ。それよりなぁに? 『ふぉうあっ?!』だって★」
 俺の驚き様がおかしかったのか彼女は先程の仕返しとばかりに嘲ってくる。不愉快だ。
「うるさい、マセガキめ」
「あら、ごめんあそばせ。くすくす!」
 チッと舌打ちをして俺はそっぽを向く。まったくもってやりにくいやつだ。
「ところで、何を"救ってやらないと"なの?」
 ぐっ、やはり聞かれていたか。
 梨花はニヤリと笑いながら、こちらの反応を楽しむかのように問い詰めてくる。分かっているくせに、この狸め。
 悔しいので正直に答えるのはやめた。
「別に、大した意味はないさ。真犯人の足元を"すくってやらないと"と思っていただけだ。用意が済んだなら行くぞ」
 心中を見透かされないようにそう真顔で言ってのけ、俺は一人歩き出す。
 無論行くべき場所など俺には検討がつかなかったので、ただ闇雲な方角へとまっすぐ進むしかない。俺としたことが無様この上ないな。
 そんな折り、背後からの小さな声を捉えた。
「素直じゃないんだから」
 梨花がクスリと笑って俺の隣にやって来る。俺は彼女の呟きにも似た言葉をあえて聞かなかったことにした。


378:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
10/01/01 16:00:21 /tzJ9Y9T

 入江診療所から向かった先は古手神社だった。梨花曰く、この時間帯ならば神社の敷地内の何処かに富竹がいるとのことだった。
 今年の祟りの犠牲者である富竹を救うのは、梨花の命を守るための必要不可欠なテーマとなっている。残された時間は後僅か……今日中には事情を説明し納得させた上、彼の死の運命を回避しなければならない。
 だがそこにたどり着く前に難所が一つあり、それを見上げて俺は一つため息をつくのだった。
 果たして視線の先には、やたらと長い石段が嫌がらせのように上方へと伸びていた。
 これを登るのか、しんどいな。脇にエスカレーターぐらい設置しておけと言いたくなる。
 愚痴を零しながらも覚悟を決めて昇っていく俺。だが半分も上るともう息も絶え絶えとなっていた。
 一方、梨花は慣れたものでひょいひょいと軽快なステップで先を行く。彼女は最上段で後ろを振り返り、俺との距離を確かめてから呆れ顔で言った。
「相変わらず体力ないわねぇ。ルルーシュのもやしー」
「うるさい、お前はっ、少し、黙ってろっ……。くそっ、一体何段あるっていうんだ……」
「あともう少しだから頑張って。早くしないと富竹が別の場所に野鳥の撮影に出かけてしまうわ。そうなったら私には富竹の足取りを知る方法はないんだから」
 梨花は石段に座り込み、俺を見下ろしながら言葉を付け加えた。
「二人で雛見沢中を探し回るのは骨よ。貴方も肉体労働は嫌でしょう? くすくす」
「分かっている……。分かっているが、しかし……」
 こういうのは俺のジャンルじゃないんだよ……。
 少しだけ息を整えてから気力だけで梨花の居る位置まで駆け上る。それから階段を昇りきり、神社の境内に到達してからゼイゼイと見苦しく呼吸を整えた。
「はい、お疲れ様。じゃ、今度は富竹を探すわよ」
 未だ肩で息をしている俺に対し、無情にも梨花は笑顔でそう言ってのける。この鬼畜狸め。
 正直な話、しばらく休憩を挟んでから富竹の捜索を始めたかった。しかしまた年下に軟弱もの呼ばわりされるのも癪に触るので、俺は諦観と共に深く頷いたのだった。
「……ああ、そうだな」
 無駄にプライドが高い自分が憎い。


379:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
10/01/01 16:04:18 /tzJ9Y9T
あけおめ、今年もよろしく!
つか執筆開始からもう一年経ってるんだよなw
早く完結させなければと思ってるんだが……。

規制が続く中こめさんきゅーな!

380:名無しさん@お腹いっぱい。
10/01/05 13:22:40 CvyCOHkL
ようやっと規制解けた

スーパー咲世子さんタイム発動で山狗とかイチコロ(ry
もとい、時報救出作戦に近づくと事態も動いてきたって実感湧くね。

てなわけで今年も応援してます!

381:名無しさん@お腹いっぱい。
10/01/08 17:27:04 jAdHK8kr
久しぶりに来たら大分進んでた!
シャーリーはルルーシュにとって かなりの想定外になるだろうな。
>>1さん、のんびりでいいから完結させてねノシ

382:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
10/01/18 22:28:50 k48EGFOf
>>380,381
応援サンキュー
もう少ししたら投下するよ

ただいい加減スレも過疎ってきたし、少し駆け足で終わらせるかもしれないな


383:名無しさん@お腹いっぱい。
10/01/22 21:03:17 s4VQvJtr
              / ̄ ̄ ̄ \  ホジホジ
            / ―   ― \     
           /   (●)  (●)  \
           |     (__人__)      |  
           \   mj |⌒´     /
              〈__ノ
             ノ   ノ


                ____   ,
              /     \  -
            / ―   ― \`   
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384:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
10/01/23 12:28:30 rWLV+5lg
 目的の人物は思いのほかあっさりと見つかった。発見場所は古手神社の奥にある祭具殿だ。
 富竹はそこで中腰になり、祭具殿の扉の錠前をいじり回していた。彼の脇にはその様子を眺める鷹野の姿があった。祭具殿に不法侵入でも企てているのだろうか。
「二人とも探しましたのです」
 梨花が声をかけると、二人はびくりと身体を震わせ、反射的に振り返る。
「あら梨花ちゃん、こんにちは」
 鷹野は内心の動揺を押し隠すように落ち着き払った様子で言葉を返す。なかなかの役者のようだ。
 それに対して、富竹は帽子を深く被る仕草をして気まずそうに俯いてから口を開いた。
「梨花ちゃん……こんにちは。失礼だけど、そちらの彼は誰だい?」
「彼はルルーシュ・ランペルージ。僕の大切な仲間なのです」
「ほら、ジロウさん。前に、この村にブリタニア人の兄妹がいるって話をしたことがあったじゃない?」
 梨花の紹介に鷹野が補足を加える。富竹はそれを聞いて表情を和らげた。
「ああ、君がルルーシュくんか。話は聞いているよ。なかなか聡明な子だってね」
「恐縮です。そういう貴方は富竹ジロウさんでよろしいですか?」
「僕の名前を知っているのかい? はは、最近越してきたばかりのはずの君に知られているなんて、僕も有名人になったものだね」
「有名は有名でも、富竹は毎年綿流しの季節になると雛見沢にやってくる全然売れないフリーのカメラマンとして有名なのです☆」
「あはは、きっついなあ」
 猫かぶりモードの梨花の毒舌に富竹は頭を掻いて苦笑した。
 そんな談笑の最中、鷹野がその流れを切るかのように言葉を吐いた。
「それで、梨花ちゃん? 私たちを探しているって言っていたわね。どんな用件なのかしら?」
 俺と梨花は話を切り出す覚悟を決め、視線を合わせて頷いた。
 まずは俺が代表して口を開いた。
「では単刀直入に言います。用件はこの村に蔓延する風土病、雛見沢症候群についてです」
 その言葉を捉えるなり、富竹と鷹野は先日の入江と同じような表情を見せた。
 それから富竹は不器用に惚け、鷹野は警戒心と敵意が入り混じった瞳でこちらを見据えてきた。
「な、なんのことだい?」
「惚けないで結構です、富竹さん。話は全て梨花から聞きました。ですから大体の事情は知っているつもりです」
「小此木!」
 鷹野が吼えるように誰かの名を呼ぶ。すると鬱蒼と生い茂る木々の間から数人の男たちが飛び出してきた。
「お呼びですかい、三佐」
 突如現れた男たちの一人、小此木と呼ばれたリーダー格の男が面倒そうに鷹野に訊ねる。
「ええ、呼んだわ。その少年を速やかに拘束しなさい」
「鷹野さんっ、山狗を出すなんて!」
「ジロウさんは黙ってて。小此木、早くなさい」
「はいはい了解です、っと」
 小此木が声を発すると男たちは素早く俺を取り囲み、流れるような動きで俺の身体を組み敷いた。


385:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
10/01/23 12:30:53 rWLV+5lg

「ま、待ってくださいなのです! ルルーシュはっ、」
「駄目よ、待てないわ。機密が外部の人間に漏れれば、それを何とかするのが私の仕事だもの。でもルールを守らなかった梨花ちゃんがいけないのよ」
「鷹野!」
 梨花が鷹野の服を掴んで訴えるが、鷹野はそれを冷酷に突き放す。梨花は双眸に涙を溜め、俺の傍らで尻餅をついた。俺はそんな梨花を安心させるために小声で呟いた。
「……心配するな梨花、これは想定内の事態だ」
「え?」
 梨花がきょとんとするのが早いか俺は鷹野に言ってやる。
「鷹野さん、俺を殺して口封じでもするつもりですか?」
「そうね、残念ながらそうなるわ。だけど恨まないでね、ランペルージ君?」
「それは無理な相談ですが―本当にこのまま俺を殺していいのですか?」
「どういうこと、かしら?」
 怪訝そうな表情を浮かべつつも鷹野が話に乗ってきた。よし、これで条件はクリアされたも同然だ。内心ほくそ笑む。
「仮に俺が死ねば、俺が知る全ての雛見沢症候群に関する機密事項がネットを介して自動的にブリタニアの軍基幹コンピュータへとアップロードされる仕組みになっているんですよ」
「……馬鹿ね。ならば貴方を始末した後に貴方のおうちのパソコンを壊してしまえばいいだけの話、違うかしら」
「ふっ、ぬるいな」
「なんですって?」
 俺が不敵そうに鼻を鳴らすと、鷹野は不快そうに眉をひそめた。
「無駄だと言っている。パソコンは東京租界のとある漫画喫茶のものを使用した。そこの数台に自作のスパイウェアを仕込み、24時間に一度、機密ファイルがブリタニア軍へ転送されるように仕向けてある。
 アップロード開始3時間前に逐一俺のパソコンからパスワード認証及び声帯認証を行わない限りアップロードは防げない。
 ステガノグラフィーを利用し、機密ファイルは一時的にシステムファイルに紛れているため、通常使用での判別は不能かつ削除も不可。
 さらにスパイウェアは極めて無害故にネットワークを通して急速に感染拡大し、数日も経てば東京租界中に広まる手筈となっている」
「……貴方、何者……?」
 鷹野が初めて狼狽の色を見せる一方、俺は落ち着き払った様子で微笑を浮かべた。
「別に、ただの学生ですよ」
「小此木、彼を立たせてやりなさい」
 鷹野の命令に従い、男が俺を助け起こす。
 俺は立ち上がると服をパタパタと叩いて汚れを落とした。土ぼこりが静かに舞う。
 粗方汚れを落としてから鷹野を見据える。鷹野はそれを待っていたかのように訊ねてきた。
「何が目的なの?」
「別に脅迫するつもりはありませんよ。二人に梨花の話を聞いてもらいたいだけです」
「話ですって?」
「ええ、そのお願いを聞いてくれるならスパイウェアは直ちに無力化させましょう」
「そんな約束、信じられないわ」
「疑って結構です。こちらもスパイウェアを止めた後で貴方によって鬼隠しにされる可能性を疑っている。これは信頼とは程遠い打算による契約であり、両者が動けないようにする枷ですから」
 そうだ、疑え鷹野。疑えば疑うほど思考の泥沼は貴様を最も愚かな選択へと引きずり込むだろう。
 全てはブラフ―。そのようなプログラムなど初めから存在しない。作成は可能ではあるが、それには相応の時間がかかるからだ。俺にはその時間がなかった。
 つまりは陳腐な虚言とでもいうべきか。
 ふっ……だがそうだとしても鷹野、貴様は易々と嘘を断定できるほど軽率な間抜けではないのだろう?
 喜べ、その躊躇が俺にプログラムを作成する隙を与えるのだ。
「っ……」
 舌打ちをする鷹野の脇で、今までずっと沈黙を守っていた富竹が声を発した。
「鷹野さん……僕らの負けだ。条件を飲もう」
「……でもジロウさん」
「ここは彼を信じるしかない。一時の感情で動いては駄目だ。契約に従おう」
「…………。……分かったわ」
 富竹に説得されてようやく鷹野は折れた。
 ここまでは計画通りであるが、仮に計画に沿わなくても俺にはギアスがあった。鷹野が軽率な間抜けだったとしても何も問題はなかったわけだがな。
「……富竹、鷹野。では今から話しますので心して聞いて欲しいのです」
「待て、梨花。その前に――」
 梨花の肩に手を置いて制止の言葉をかける。そして、俺は不自然にならないよう言葉に気をつけて絶対遵守のギアスを開放させた。
「お二人にとって、梨花の話は到底信じられないことかも分かりません。ですがそれでも、"梨花の言葉を全面的に信じてやってくれませんか?"」
 ――。
 ――――。
 ………………。



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