【ひぐらし】雛見沢にルルーシュを閉じ込めてみた【ギアス】at ANICHARA
【ひぐらし】雛見沢にルルーシュを閉じ込めてみた【ギアス】 - 暇つぶし2ch100:名無しさん@お腹いっぱい。
09/04/03 23:07:02 V4PsRLWE
>>99
宣伝は荒れる元になると思うよ

誰かに広めたい!ってのは分かるんだが・・・

101:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/04/05 15:45:15 oKvAi9N4
米サンクス。まずは米返しから。

>オヤシロ様
あまり気にしてなかった。一応これ以降のは修正しておいた。
また同じようなことがあるかも。
>ブリタニアの警官
勘ぐらせて悪いが、別に裏とかは考えていない。
スザクがなぜ危険な雛見沢にルルーシュを行かせたのか説明するための、ただの舞台装置だよ。
>宣伝
よく分からんが、クリックしても見れんな

次レスにうpするが、ちょっと展開が足早になってきたかもしれん。
すまん。




102:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/04/05 15:46:46 oKvAi9N4
【6】
 次の日になると俺の熱は下がり、風邪はすっかり治っていた。ところが、その代わりに今度はナナリーが風邪をひいてしまったようだ。
「大丈夫か?」
 ベッドに伏しているナナリーに訊ねる。手を握るととても熱かった。
「ええ……平気です。魅音さんたちと遊ぶのが楽しくて、少しはしゃぎすぎたせいのかもしれませんね」
「……俺の風邪が感染ったんだな。すまない」
 ナナリーは強がっているが、昨日の俺よりも体調が悪そうだ。今日はナナリーを医者に連れていって、その後に看病をするためにも学校を休むしかないだろう。
 俺がその旨を伝えると、ナナリーは首を横に振った。
「私は寝ていれば大丈夫ですから、お兄様は学校に行かれてください」
「しかしナナリー」
「いいんです。私もいつまでも子供じゃないんですから……風邪くらいお兄様がいなくっても平気ですよ。……それに、お兄様は学校をよくおさぼりになるんですから、行く気がある日くらいはちゃんと学校に行ってくださいね☆」
「はは、お前も言うようになったな」
 これだけ減らず口が聞けるのなら俺がいなくても大丈夫そうだな。医者には咲世子に連れて行ってもらおう。
 怪死事件について調べるのにも、ナナリーがいないほうが都合がいいだろう。
「分かったよ、今日はしっかり休んでいるんだぞ。行って来る」
「はい。行ってらっしゃいませ、お兄様」
 ナナリーの部屋を出て階下に降りて朝食を取ると、咲世子にナナリーを任せて一人家を出た。


103:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/04/05 15:47:27 oKvAi9N4

 放課後になって、部活の準備をしようとしている皆に魅音が謝った。
「ごっめーん! おじさん、今日はバイトだから部活できないんだった!」
「そうなの? でも用事があるなら仕方ないよね、よね」
「昨日の夜、急に入れられちゃってさー! 本当ごめん、今日はおじさん抜きでやってくれて良いからさ!」
「そう言われましても、ナナリーさんも欠席ですし、盛り上がりに欠けますわよ」
「となれば、今日の部活はなしにするのがいいかもなのです」
「そうだな、俺も今日は調べたいことがあるしな」
「「調べたいこと?」」
 他の部活メンバー全員が一斉に聞き返す。俺を除く皆が顔を見合わせて苦笑いをした。
 そうだ、こいつらに話を聞いておくのも良いだろう。大した情報は期待していないが何か怪死事件の謎の糸口になるかもしれない。
「なぁお前ら。この雛見沢で殺人事件があったって話を聞いたことはないか?」
 俺は何気なく、世間話をするつもりで質問したつもりだった。
 それなのに皆は俺の目を射抜くような冷たい視線でこう一蹴した。
「「知らない」」
「え……。だが、そういう事件があったんじゃないのか……?」
「「なかった」」
 雛見沢では有名なはずなのに、実際に起こったはずなのに……ないと言い張る皆が不気味だった。
「そ、そうだな……。この平和な村に事件なんか起きないよな……」
 俺はもう反論する気力をなくし、ただ皆に合わせるように言葉を紡ぐ。
「「もう帰ろう」」
 皆は帰りの仕度を整えると、俺を置いて教室から出る。静寂が教室を支配した。
 外から聞こえるひぐらしの鳴く声が一際大きく聞こえていた。
「ルルーシュくん、帰らないの?」
「……え?」
「一緒に帰ろ! はぅ!」
 教室のドアからレナの顔が覗く。
 いつものレナだ。俺はほっと胸を撫で下ろした。
 先ほどのレナや皆の冷たい視線は気のせいだったんじゃないか? 今の彼女を見ていると、心底そう思わされる。
「ルルーシュくん、どうしたの?」
 レナが不思議そうに首を傾げた。
「あ、ああ。なんでもないよ」
「そう、じゃあレナと一緒に帰ろ?」
「そうだな」
 荷物を手に取り、レナに駆け寄る。
 やっぱり気のせいだろう。このレナが人にあんな冷たい視線を投げかけるわけがない。
 だが…………不愉快な疑念だけは、纏わりつくようにしつこく俺を放さなかった。

 事件なんてなかったと言う魅音たち、事件の存在を肯定する鷹野とスザク……俺はどちらを信じたら良いのだろう……?
 この時から、俺の危機感と好奇心はフルスロットルで加速し始めた。


104:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/04/05 15:48:22 oKvAi9N4
 
「ねえねえ、ルルーシュくん」
「なんだ、レナ?」
「ちょっと寄り道して良いかな、かな?」
「あ、ああ。別に構わないがどこに行くつもりなんだ?」
「あはは、レナの秘密の場所~☆ ルルーシュくんを特別に連れてってあげるんだよ、だよ」
「秘密の場所?」
「いいから着いてきて、すぐ近くだから!」
「あ、おい!」
 レナに強引に手を引かれ連れて行かれた場所はサクラダイト発掘現場跡地だった。
 ここは……最初の惨劇が起きた場所ではないのか……?
 スコップやつるはしでのリンチ殺人。その後遺体をバラバラにするという凄惨な事件……被害者はサクラダイト発掘会社の現場監督。まだ遺体の一部、右腕で見つかっていないらしい。
「こんな場所に連れてきてどうするつもりだ?」
「はぅ? どうもしないんだよ」
「嘘をつくな。こんな人気のないところに来る理由など何もないはずだ」
「あははは。ルルーシュくんは何を怖がっているのかな、かな?」
 レナは感情の篭らない顔で、声だけで哂った。
 気のせいじゃ、なかった…………。
 教室でのあの冷たい視線は決して勘違いじゃなかったのだ…………。
「お前こそ、何を隠している!」
「あはははは、変なルルーシュくん。レナは何も隠してなんかないんだよ、だよ。そんなことより一緒に宝探ししようよ、楽しいよ? ね?」
「うるさい!」
「きゃっ!」
 気づけば、俺は近寄ってくるレナの頬を打っていた。辺りに乾いた音が響き、それからひぐらしの声が再び聞こえ出した。

105:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/04/05 15:49:05 oKvAi9N4

 レナは尻餅をついたまま、頬に手を添えてきょとんとしていた。
 俺は正気に戻り、自分の過ちを詫びた。
「すまないレナ! 大丈夫か?!」
「う、うん。平気だよ。びっくりしただけ」
「俺はなんてことを……本当にすまない」
「いいんだよ。それよりレナのほうこそごめんね。無理に誘ってちゃって。でもこれからは嫌ならそうだって断ってくれていいんだよ?」
「いや、そうじゃない。そうじゃないんだ……。今のは、完全に俺が悪い……すまない、許して欲しい」
「うん、いいよぅ。そんなに深刻に思わなくても大丈夫。だってルルーシュくんはまだ病み上がりなんだもの、はぅ!」
 俺は忘れかけていたレナの優しさに心を打たれた。
 そうだな。俺はまだ完治しておらず、自分でも気づかぬうちに疲労していたのだろう。
 レナや皆が突然示し合わせるように異常を見せるなんてありえない。皆が連続怪死事件について知らないというなら本当にそうなのだろう。
 きっとそうだ。心を鎮めて客観的に見さえすれば、周りがおかしいと考えるより俺自身がおかしいというほうがよっぽどシンプルだと気づけるじゃないか。
「レナの言うとおりかもしれないな。どうかしてたよ、ありがとう。君の優しさに感謝する」
「うん、どういたしましてかな。今日はもう帰ろっか」
「あ、ああ……そうしてもらえるとありがたい」
「うん、帰ろ帰ろ! 宝探しはまた今度、はぅ~☆」 
「悪いな、レナ。今度必ず埋め合わせをするよ」
「あはは、楽しみにしているね」
 どうやらレナとの友人関係を壊すことは免れたようだ。ほっと安堵のため息を漏らす。
 レナの横に付き、談笑を交えながら帰路に着いた。
 
 結局、連続怪死事件について今日の収穫はゼロ。改めてまた明日レナたちに話を聞くべきだろうか?
 いや、しばらく止めておこう……。今日の二の舞になるのが怖い。
 明日は租界の図書館を通じて情報を集めることにしよう。新聞など何か事件に関係のある情報媒体があるかもしれない。
 現在持っている情報は鷹野とスザクの話だけ。知略を巡らすにはあまりに少なすぎる。

 
 ―タイムリミット;オヤシロさまの祟りまで後6日。

106:名無しさん@お腹いっぱい。
09/04/05 17:01:16 eUfaYlrk
マジGJ 
PCつけると毎回きてます。
さすがルルーシュ、早々に疑心暗鬼から脱出。

107:名無しさん@お腹いっぱい。
09/04/05 20:12:15 Jfj5lcIF
GJです
ルルーシュの心理戦とか頭脳戦が見てみたいですね
どうでもいいですが、圭一と違ってバットの素振りでも始めたら筋肉痛になりそうw
次回も楽しみにしています


108:名無しさん@お腹いっぱい。
09/04/10 21:48:12 tSlhwH8U
ナナリーをイリーの診療所に連れていった帰りにはメイド服を着せられていることでしょう

109:名無しさん@お腹いっぱい。
09/04/11 10:43:02 VqZdkY94
つかルルーシュじゃ暴走して凶器振り回しても全然怖くないよなw

110:名無しさん@お腹いっぱい。
09/04/11 13:37:15 gxh+siKb
↑暴走したらギアス使いまくると思うぜ

111:名無しさん@お腹いっぱい。
09/04/12 10:11:57 vJpsZBnb
それは怖いな
つか、皇帝になった頃のギアス乱発を見るとさっさとギアスつかいまくってりゃもっと簡単にブリタニアをぶっ潰せてたんじゃねと思ふ

112:名無しさん@お腹いっぱい。
09/04/12 11:24:11 gomyBRcN
>>111
ルルーシュの最終目的はブリタニアを壊すことじゃないからじゃねーの?

113:名無しさん@お腹いっぱい。
09/04/12 14:01:08 QPqJYHDe
皇帝ルルーシュがギアスでブリタニア乗っ取れたのはギアスの存在知ってるシャルルが死んでたからだろう
てかアーニャにギアスかけたら中の人(マリアンヌ)にも効果あるんだろうか?

114:名無しさん@お腹いっぱい。
09/04/12 16:19:09 gI59z+rU
今度はプリズンブレイクの世界にルルーシュを閉じ込めてくれww

115:名無しさん@お腹いっぱい。
09/04/13 13:58:07 vvGccTXy
IDがVVとCCなので記念カキコ

116:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/04/13 20:33:48 f2ZjXBSx
米サンクス。
たくさんレスが付いて嬉しいんだが、忙しくて執筆がうまく行かないんだ。
来週にはなんとか提出するからちょっと待っていて欲しい。
最近は推敲してないから誤字とか多すぎ…OTL

117:名無しさん@お腹いっぱい。
09/04/13 22:43:06 q3P6r/M4
ガンガレー

118:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/04/18 18:32:12 kLqql3aB
【7】
 今日は学校を休むことにした。
 咲世子にナナリーの看病を任せて、俺は一人電車で租界に向かった。目指すはエリア11中央図書館だ。
 その建物の入ってすぐのところにあるPC端末を起動させた。
 カタカタカタ。キーボードをリズミカルに叩くものの、なかなか検索に引っかからない。
 雛見沢の事件は秘匿捜査対象になっているらしく、関係するページは数少ないようだ。
「――あった」
 ≪雛見沢連続怪死事件(※通称、オヤシロさまの祟り)捜査情報≫
 その項目をクリック。事件の詳細が表示される。
 サイトの造りから、どうやら公式的な情報サイトではなく個人の作ったもののようだ。
 今はとにかく情報が欲しい。多少誇張があっても構わない。
 トップから中に入ると、様々な情報が目に飛び込んできた。
 事件の日付。状況。犯人逮捕の有無。
 被害者の名前――。
「何、だと……?」
 そこには見覚えのある苗字が記されていた。
「北条……古手……。これは一体……?」
 たまたま知り合いの苗字と同じなだけなのか。いや、違う、そうじゃない。
 読み進めていくうちに被害者家族の話も出て来る。
 北条……沙都子。
 古手……梨花。
 被害者家族の名簿にクラスメートも名前を見つけた。
 二人が一緒に暮らしていると聞いたことはあったが、まさか共に両親を亡くしているとは思わなかった。
「そうか、なるほどな……」
 皆が怪死事件について知らないと言ったのは決して他人事じゃなかったから、そういうことか。
 仲間に対しての疑念が全て取り払われた気がした。思わず笑みがこぼれる。
 次に沙都子の叔母の撲殺事件のページに目が止まった。
 そうだ、この事件が一番不可解に感じる。
 警察は当初、沙都子の兄を容疑者としていたはずだ。そこに麻薬常習者の犯人が突然現れ、自白後犯人が死亡している……。まるでスケープゴートにされて口封じをされたかのように。
 そうなると北条悟史の失踪も不自然。電車に乗って家出をしたという説もあるが、沙都子を一人置いて逃げ出すだろうか?
 答えは否だ。兄が実の妹を置き去りにすることなど絶対にあるものか。
 それに俺はそんな噂レベルの説よりも全てを説明できる答えを知っている。
 スケープゴート。不自然な行動。そして突然の死。
 ギアス能力だ。
 仮に俺のように絶対遵守の力を使える能力者がいたなら? 人間の記憶を書き換える能力者がいたなら? 全ては可能だ。 
 つまり、連続怪死事件の犯人はギアス能力者……?
 クーラーがかかり涼しいはずの図書館内で嫌な汗が流れる。
 いや、そうと決まったわけではない。まだ情報が絶対的に足りていない。
 他のページに飛んでみる。だがあとは鷹野の話をなぞるようなオカルト的な内容しか記載されていなかった。
 ここで手に入る情報はこれぐらいか。
 俺はページを閉じて静かに席を立った。

119:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/04/18 18:34:57 kLqql3aB

 図書館を出ると日差しがさらに強くなっていた。じわりと汗が滲み出る。
 ……これはきついな。この暑さの中歩き回ったら熱中症で倒れそうだ。日陰を探しながら歩く。
 そうだ、租界なら携帯電話が使える。C.C.に電話してみよう。
 しばらくのコール音の後にC.C.が出た。
『なんだ、ルルーシュ』
「ギアス能力について聞きたい」
『なんだいきなり。ギアスユーザーに心当たりでもあるのか?』
「いや、違う。だがこちらで起きている事件にギアス能力者が関与している疑いがある。例えばだ、標的に幻覚を見せることが出来る能力やそれに類似するものに心当たりはないか?」
『……ないな。これは私が発現させた能力にはないという意味だが』
「そうか。だがそういった能力もありえるんだな?」
『ああ、発現する能力には著しい個人差がある。そんな能力が生まれることもあるのだろうな』
「そうか、わかった」
 それが聞けただけでも収穫だ。可能性は出来うる限り広く考えておくべきだ。
『用事はそれだけか?』
「いや、もう一つある。黒の騎士団員数名をしばらくの間、雛見沢に潜伏させて欲しい」
 綿流しの日から数日、スザクが守ってくれるというが一人では心もとない。二重の防壁を作っておくべきだろう。
『ルルーシュ、それは無理だ』
「……? なぜだ、理由を言え」
『言いにくいんだが今……団員の全てが某所に温泉旅行に出かけている』
「なんだと?! そんなことを誰が許可した!」
『いやな、それが玉城がゼロの姿でな』
「この馬鹿が! 何しに租界に戻った! 玉城にはゼロをやらせるなと言っただろ!」
『残念だが私が戻った時にはすでに発っていてな。文句はそれを止められなかった籐堂か扇に言ってくれ』
「ぐ、では黒の騎士団はいつ頃租界周辺に帰ってくる?!」
『電話で問い合わせたら、後一週間は帰って来ないそうだぞ』
「っ……それでは全てが遅い……もういいっ!」 
 返事も待たず携帯電話の電源を切り、それから俺は独りごちた。
「くそっ……黒の騎士団はあてにはならない……か」
 となると、スザク一人に頼るしかないと言うわけだ。
 スザクの力を認めないわけではないが危ういな……。
「痛っ!」
「あ、すみません」
 考え事をしながらを歩いていると路地裏に迷い込んでいた。そこで男と肩がぶつかった。
「ああん?! すみませんじゃねぇぞ?!」
 なんとも柄の悪いイレブンだ。どうやら俺はたちの悪い輩に絡まれてしまったらしい。
「申し訳なぁ思っとるんならちゃっちゃと慰謝料出さんかいゴラァ!」
「すみません、あまり持ち合わせがないもので……」
「おうおうっ! それで済むと本気で思っとるんかワレェッ?!」
 面倒だな。仕方がない、使うか……ギアスを。
 本当ならこんなゴロツキにギアス能力はもったいない。だがそれ以上に今の俺は時間を無駄にしたくなかった。男の眼を見てギアスを開放した。
「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる。お前は黙って今すぐこの場から立ち去れ」
 ――。
 ――――。
 ………………。
「…………」
 絶対遵守の力に支配された男は先ほどまでうるさく怒鳴っていた口を閉じ、そのまま踵を返す。俺はそれを鼻で笑うと男を静かに見送った。
 今日はもうこれぐらいでいいだろう。また妙な連中に絡まれないうちに雛見沢へと帰るとしよう。
 ……。
 …………。
 ひたひたひた。
「……!」
 自分のすぐ後ろから微かに足音が聞こえた気がした。
 だが立ち止まって背後を振り返ってもそこには誰もいない。
「……気のせい、か」
 俺は一人ごちると、ため息を一つ吐く。
 そうだよな、誰もいないはずの背後から足音が一つ余計に聞こえるなんてありえない、よな……。

 ―タイムリミット;オヤシロさまの祟りまで後5日。


120:名無しさん@お腹いっぱい。
09/04/18 19:31:35 D63TbDpY
いいじゃないか
支援するよ

121:名無しさん@お腹いっぱい。
09/04/19 01:06:01 0J55t1k6
支援。


122:名無しさん@お腹いっぱい。
09/04/21 19:16:56 QFhXpgxN
支援

123:名無しさん@お腹いっぱい。
09/04/21 21:47:00 cEgEcXxM
支援

124:名無しさん@お腹いっぱい。
09/04/22 23:57:51 f0Hiz8Um
支援

125:名無しさん@お腹いっぱい。
09/04/24 08:35:47 TCfu0Bh+
支援

126:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/04/25 11:38:07 5ZFXv8WD
たくさんの支援ありがとうw
支援でちょっとだけモチベーションが上がったよ。このまま頑張るぜ。
で、すまんが書き溜め分がなくなってきたんで、次回の投稿はGW中になりそうだ。
ちなみに次以降からギアスのバーゲンセールになるかもしれん…

127:名無しさん@お腹いっぱい。
09/04/25 12:12:33 +iteeJ4a
どうでもいい所で使って後から「しまった!」となるルル山の流れですね分かります支援。

128:名無しさん@お腹いっぱい。
09/04/25 12:48:01 3K4NiE49
期待して待ってる!

129:名無しさん@お腹いっぱい。
09/04/25 23:02:30 1aCBiRZH
楽しみにしてます。支援。

130:名無しさん@お腹いっぱい。
09/04/27 13:16:49 UGbXnEVg
ひぐらしサムネホイホイ動画
URLリンク(www.nicovideo.jp)


131:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/05/01 10:34:18 QhbLTTd4
支援ありがとう。
期待に応えられているかどうかは分からないけど、約束どおり投下します。
その前にコメ返し。

>>127
>どうでもいい所で使って
まさにその通りと言わざるをえないw
でもまあ、結果オーライ的な話にはしてあるけどな



132:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/05/01 10:35:15 QhbLTTd4

【8】
 次の日もナナリーは風邪で学校を休むことになった。
 俺はナナリーに声をかけ、安静にしているように言うと家まで迎えに来たレナと学校へ向かう。
 昨日ギアス能力者が連続怪死事件の犯人である可能性が浮上した。怪しまれないためにも今日はちゃんと授業に出て放課後になってから調査を始めよう。
 水車小屋の前で魅音と合流。
 今日も魅音は先に待っていた。珍しい。
 いつもの通学路を歩いて行くと分校が遠目に見えてきた。
「よぉし、じゃ教室まで競争ね。ビリはトップの言うことを聞くこと! はい、ドン!」
「はぅ?! いきなりすぎなんだよ!」
 魅音とレナは分校へと走り出した。
「ちょ、おま! ずるいぞ!」
 二人の背中を慌てて追いかける俺。ところが魅音たちの姿は小さくなっていく一方で、ついには分校の内部へ消えていった。
「あいつら、足……速すぎだろ……。常識的に考えて…………」
 歩みを止めて、独り言を吐きながら息を整える。
 体力勝負は俺の得意分野じゃないとはいえ、レナにまで体力で負けるとは思わなかった。魅音ならともかくとして若干ショックだ。
 俺は無理をするのはやめて、ゆっくりと分校へと歩き出した。


133:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/05/01 10:36:34 QhbLTTd4

 教室へと入るといつもと違ってなにやら騒がしかった。皆一様に深刻な表情でぼそぼそと呟き合っている。
 何か事件でも起こったんだろうか?
 レナ・魅音と挨拶を交わし、それから騒がしい理由を訊ねた。
「騒がしいが、何かあったのか?」
「……沙都子の叔父が帰ってきた」
 魅音が重苦しい表情で答える。
 口ぶりからあまり好ましい人物ではないようだ。
「どんな酷いやつなんだ?」
「ルルーシュくん、よく叔父が酷いやつって分かったね?」
「そんなに暗い顔をしていれば誰だって分かるさ」
 それに、俺も王位継承争いで身内から不当な扱いをされたことがあるからな。
 魅音は苦虫を噛み潰したような顔で吐き捨てるように言った。
「沙都子の叔父はいわゆるチンピラのようなやつさ。強い者にはヘコヘコするくせに弱い立場のものには威張り散らす、そんな最低野郎だよ」
「……そうか。ところで今日は沙都子が来ていないな。それと関係あるのか?」
「風邪で欠席……そういうことになってる。でも絶対そんなんじゃない」
「……虐待を受けているのか?」
「おそらくね……。いや、絶対されてるに決まっている!」
「ならば何故それが分かっていて児童相談所に相談しない? イレヴンにもそのための施設はいくらだってあるはずだ」
「それがね……」
 レナが魅音に代わって説明を始める。
 俺はレナの話を黙って聞いた。
「ふん……そういうことか」
 北条家はサクラダイト発掘の時以来、村の裏切り者とされているわけか。その名残が今でも根深く残っており、村人は沙都子に冷たく接しているようだ。彼らに助けを求めるのは無理かもしれないな。
 それに加えて沙都子は一度、児童相談所に嘘の通報をしているのか。これでは相談所側も慎重にならざるを得ない。
 しかし仮に相談所が動いてもこの件は解決されないだろうな。
 沙都子は兄である悟史失踪の真相を知らない。悟史がいなくなったのは自分が甘えすぎたから家出してしまったと勘違いしている節がある。
 だから頑なに誰にも助けを求めない。ここで誰かに縋ってしまえば兄はいつまでも帰ってくることがない、こう思い込んでいるから。
 なるほど、なかなかに複雑な事情があるようだ。
「そう……。だから残念だけど私たちが出来ることはないんだよ……」
 魅音はそう言い切ると表情に落胆の色を見せる。こんなに元気のない魅音を見るのは初めてだ。だが……
「それは間違っているぞ、園崎魅音」
「……え?」
「出来ないからやらない、それは逃げだ」
「でもどうしろって言うの! 沙都子の心が変わらない限り、」
「だから変えさせるんだ、俺たちで。なぜならこれは俺たち仲間の問題であって、沙都子だけの問題じゃないんだからな」
「ルルーシュくん、それって……」
「まず梨花に話を聞くのが先だ。梨花はいるな? 行くぞ二人とも」
「え、ちょ、ちょっとルルってば!」
 俺はレナと魅音を強引に引き連れて、自分の席で突っ伏している梨花の所へ向かった。


134:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/05/01 10:45:33 QhbLTTd4

 梨花に声をかけると、彼女は徐に顔を上げた。その表情にはいつもの快活さは蚊ほどもない。
「梨花、沙都子の件で話がある。知っていることを話せ」
「……話したところで無駄なのですよ。どうせ皆は同情するだけで何もしてくれないのです」
「たしかにその通りかもしれない。だがそうやってやる前から諦めるのは感心しないな」
 俺がそう言うと梨花が鼻で笑ったような気がした。
「…………『所詮は自己満足。どれだけ背伸びをしたって世界は何も変わらない』……。沙都子を見捨てた時の貴方の言葉なのですよ」
「見捨てた? お前は何を言っている?」
 梨花の態度に少しの違和感を覚えるが、それよりも俺は梨花の一言が気になった。すぐさま聞き返す。
 一方梨花はつまらなそうに再び口を開いた。
「……面倒なのです。話してあげるから聞いたら己の無力さを自覚して、さっさとどこか行くといいのです」
 その口ぶりはいつもの梨花と比べるとまさに別人のように冷たかった。
 梨花が事の成り行きを話し始める。要約するとこうだ。
 沙都子は昨日の正午頃―俺が東京租界で調べ物をしていた頃に一人で興宮まで買い物に出かけたそうだ。
 梨花は自宅でその帰りを待っていたがいつまで経っても沙都子は帰ってこない。
 心配になって雛見沢中を探し回ると、沙都子の両親が存命の時に住んでいた家が騒がしい。
 恐る恐る見に行ってみると、沙都子が叔父の鉄平に怒鳴られ暴行を受けながら、暗い表情で家の掃除をしていたとのことだった。


135:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/05/01 10:48:06 QhbLTTd4

 梨花から事情を聞いた後、俺は再び口を開いた。
「……そうか。それでお前は親友が暴行を受けても知らん振りなのか?」
「どうしようもないのですよ……。ルルーシュは状況が分かっていないからそんな態度が取れるのです」
「事情は知っているさ。魅音とレナから、沙都子と叔父の関係及び予想される児童相談所の対応を事細かく聞いたからな」
「では分かるでしょう? 僕たちが何をしようと、どうせ運命は変わらないのですよ……」
 そう言うと梨花はうな垂れ、視線を床に移す。その様子に俺はほっと安堵のため息をついた。
 梨花が何もしようとしないのは沙都子を単なる遊び友達としか考えていないのではないかと思ったからだ。
 だけど実際は違った。こいつは諦めたくないけれど、沙都子を助けてやりたいけれど、それが出来ない自分に絶望しているだけなのだ。
 俺は出来うる限りの不敵な笑みを浮かべ、梨花の頭を軽く撫でた。
「魅音にも言ったが……それは間違っているぞ、古手梨花」
「……え?」
 梨花は俺に微笑を投げかけられて目を丸くする。少しだけ彼女の瞳に生気が戻ったような気がした。
 俺は梨花の何かを期待するような視線を一身に受けながら言葉を続けた。
「自分には何も変えられないなんて理由は単なる逃げでしかない。
 たしかに現実は夢のように甘くはないさ。いつでも様々なしがらみのよって支配されている。それに押しつぶされてしまう人間も少なくはない。
 ……だがな、抗うことは必要なんだよ、俺にもお前にも。
 戦うことをやめてしまえば、人は生きながら死ぬこととなる。生きているって嘘をつき続け、まったく変わらない世界に飽き飽きして、でも嘘って絶望で諦めることもできなくなって……。
 だから梨花、抗え。今を精一杯足掻いてみせろ。そして共に力を合わせ、俺たちの大切な仲間である北条沙都子を助けてみせよう」
 俺は梨花に向けて手を差し出す。
「……ルルーシュは何か考えがあるというのですか」
「残念だが今はない。31通りの手を考えたが全て沙都子の悟史への罪悪感がネックとなっている」
「なら……やっぱり無理なのですよ……」
 梨花はポツリと呟くように言って再び表情を暗くした。こいつの諦め癖は予想以上に根強いようだ。
「だからこそ皆で知恵を出し合って解決策を練るべきだ。不貞腐れるのはそれを試してからでも遅くはないだろう?」
 そこでぱちぱちと突然の拍手音。振り返ると一歩下がった場所で魅音とレナが笑みを浮かべながら手を叩いていた。
「うん、ルルーシュくんの言うとおりだよね。誰かが世界を変えてくれるまで祈って待っていても、そんな日はいつまでも経っても来ないんだよ、だよ」
「くっくっく、おじさんちょっとブルーになってたよ。そうだったね、部活メンバーならどんな逆境にも立ち向かって行かなきゃ。それを部員になってまだ間もないルルに教えられるなんて部長として恥ずかしいよ」
「お前ら……」
 魅音とレナは表情を真顔に戻してから梨花に言った。
「私たちはもう自分を無力なんて思わない。力を合わせ、必ずや沙都子を助けると心に誓うよ」
「そう。だから後は梨花ちゃんだけだよ。皆で沙都子ちゃんを助けるために考えよう?」
「フッ――だそうだが、お前はどうする?」
 梨花は俺の問いかけに逡巡した後、重い口を開いた。
「……今回のルルーシュは何か違う気がするのです……。分かったのですよ、僕は貴方を信じますのです」
 梨花は俺の手を取って立ち上がった。俺について一部妙なことを口にしていたが、とりあえずはなんとかやる気になってくれたようだ。
 沙都子の問題は根深いが……皆で意見を出し合ってくれさえすれば、俺なら何かしら考え付くだろう。
 …………本当は一つだけ方法がある。
 それは絶対遵守のギアス。これならば今すぐにでも沙都子を救い出すことが可能だろう。
 だがギアスの使用は保険であり最後の手段。今のままでは沙都子は永遠に救われない。沙都子自身が変わらなければ、沙都子を取り巻く世界は何も変わらないのだ。
 

136:名無しさん@お腹いっぱい。
09/05/01 15:21:44 mPJMgaV7
ルルーシュも圭一と一緒で色んなルート通ってたのか。
そして同じ分だけ、仮面の革命家寒村にて人知れず果てる、してた訳か支援

137:名無しさん@お腹いっぱい。
09/05/01 15:22:41 92EFAoCS
乙支援

138:名無しさん@お腹いっぱい。
09/05/01 16:02:03 Wvu3Yko+
わくわく支援。

139:とある謎の人
09/05/05 19:36:04 Zvtj6q+v
いきなりツッコミです
鬼隠しと皆殺しがダブルっぽいですね。
かなりツボです続き楽しみです!
スザクは黒スザクがみてみたいです「黒スザク=暴走スザク)
ドキドキ



140:とある謎の人
09/05/05 19:36:49 Zvtj6q+v
いきなりツッコミです
鬼隠しと皆殺しがダブルっぽいですね。
かなりツボです続き楽しみです!
スザクは黒スザクがみてみたいです「黒スザク=暴走スザク)
ドキドキ



141:名無しさん@お腹いっぱい。
09/05/06 20:59:22 C1kojS7e
なんだろう…
上の人は来る場所を間違えてる気がする。

142:名無しさん@お腹いっぱい。
09/05/08 10:55:13 hnaAp/b4
>>141まぁ春だしな、色々来るさ

143:名無しさん@お腹いっぱい。
09/05/12 03:17:43 IrYj2OYs
偶然覗いたら何という良スレ発見。
これは支援せざるを得ない。

今回ルルーシュの行動がこれまでと違う理由が玉城の温泉旅行で
騎士団の動かせる駒が手近にないからだったら噴くw

144:名無しさん@お腹いっぱい。
09/05/12 07:42:52 tzdLtsQs
玉城がひぐらしに出たら絶対序盤で騒いだ後にあっさり死ぬ役だな。
戦闘での生存性と相反するけど、そんなイメージがw

145:名無しさん@お腹いっぱい。
09/05/12 22:18:11 eikuA4XJ
かつてルルーシュが来たと世界では、どんな行動を取ったのかも気になるな。

146:神童裕二郎◇ ◆4TOiDOQ5vo
09/05/13 23:12:25 JVIqDqiG
期待
支援

147:名無しさん@お腹いっぱい。
09/05/15 08:12:14 VXRcO+uQ
実は玉城こそが最大のイレギュラー

148:名無しさん@お腹いっぱい。
09/05/15 21:14:55 gxmt1Nur
玉城「くっそ! 寝坊した俺が悪いからって、温泉企画した人間を置いてくことないだろ!
   薄情な奴らだ……ん? なんだこのメモ、『雛見沢に至急、騎士団員を寄越せ、ゼロ』?
   へへっ、水臭ぇな。俺はゼロの親友だぜ! 待ってろよ、ゼロ!」

警察無線「興宮STより3号へ。仏さんの状態はどんなもんだ?」
警察無線「酷いもんですよ。なお所持品から、氏名は玉城真一郎と判明……」


149:名無しさん@お腹いっぱい。
09/05/15 21:23:51 zX1LKT4u
続きまだ?

150:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/05/16 22:29:12 oiYMSN4t
なぜか筆が止まったんだぜ…とりあえずコメ返ししておく。
明日少し書いてなんとか提出に漕ぎ着けるぜ。

>>136>>143
一応雛見沢に現れた他の世界のルルーシュはギアスを持っていなかったって設定です。
沙都子を助けようと思ったのも、ギアスを持ってゼロとして世界と関わって他人に興味を持ち始めたためです。

>>144>>147>>148
玉城はたぶん名前だけしか出ないんだぜw

>>145
ゼロとして世界と向き合うことのない無気力ルルーシュなので、惨劇エンドへまっしぐらかな。
妹以外のことはどうでもいいから沙都子を助けないし、梨花の話も信じないといった感じで。


151:136,144
09/05/16 23:32:25 lG76QRr0
なるなる。他の世界のルルは時々いいとこ見せるだけの厭世青年のまま。
憂さ晴らしも賭けチェスから賭け麻雀にシフトしたりしてた訳ねw 捕捉サンクス!

152:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/05/17 14:06:35 IB27GBqf
【9】
 放課後になり、俺たち四人は北条家宅へと向かった。
 わざわざ放課後を待った理由は留美子に沙都子の現状を知られないためだ。もし留美子の耳に入ることがあれば、生徒想いの彼女のことだからきっと北条宅へ家庭訪問をするなど何かしらアクションを起こすだろう。今留美子に動かれると厄介だ。
 事態を重く見てくれる大人は心強いが、今は叔父を刺激させたくはないし、何の前準備もなく児童相談所に駆け込まれても困る。留美子には沙都子は病気で欠席したと思ってもらおう。
「ここだよ、ルル」
 魅音の案内で北条宅に到着する。
 玄関の入り口付近には原付が置かれている。
 おそらく叔父所有のものだろう。
 俺は原付を横目で見ながら玄関へと歩を進める。
「ちょ、ちょっと、ルルーシュくん!」
 レナが小声で叫ぶように言いながら、俺の制服のすそを掴んだ。
「どうした、レナ」
「いきなり押しかけちゃまずいよ……」
「何を言っている。そのために来たんだろうが」
 俺たちは沙都子のクラスメートだ。別に友人の見舞いに来ることになんの問題もない。
 北条宅の呼び鈴を鳴らして待つ。
 すぐに出てこないのでもう一度押すと、怒号が辺り一帯に鳴り響いた。
「沙都子ぉぉぉ!! このダラズがぁぁ!! いるなら早く出んかい!!」
 どたばたと玄関の戸越しに沙都子のシルエットが映る。
 がらりと引き戸が開き、酷く慌てた様子の沙都子が現れた。
「沙都子」
「る、ルルーシュさん……それに皆さん……。どうかしまして?」
「どうかしたどころじゃない。お前、俺たちをどれだけ心配させているか分かっていないだろう」
 沙都子は表情を暗くし、すっと顔を背けた。
「何のことですの。私は別に……」
「そんなつもりはないと? だが現に俺たちはお前のことを心配してここまで来ているんだ」
「わ、私は別に皆さんに心配されるようなことは何もしていませんわ……」
「嘘だな。お前は今の自分を鏡で見たことがあるか?」
 首を横に振り、沙都子の言葉を否定する。
 沙都子はきょとんとして顔を上げた。
「分からないのか。今のお前は”如何にも絶望の真っ只中です”って顔をしてるんだよ」
「そんなこと……ありませんわ……」
 沙都子の表情が一層曇る。
「帰ろう沙都子。お前の居場所はこんな場所じゃないだろう? お前は戻ってきた叔父にいじめられても、助けを求めないことを試練だと思っているようだが、それは大きな間違いだ。そんなことをいくらしても悟史は戻って来ない」
 俺の言い方が悪かったのか、沙都子は俺をキッと睨みつけて叫んだ。
「戻ってきますわ! 戻ってくるもん! ルルーシュさん……貴方に何が分かりまして?! 私のことを何も知らないくせに! 帰ってくださいまし! 帰れぇぇぇッッッ!」
「っ……!」
 俺は沙都子に突き飛ばされ、体勢を崩して仰向けになって玄関口から外に押し出される。ぴしゃりと玄関の引き戸が閉じる音がした。


153:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/05/17 14:08:25 IB27GBqf
 倒れた俺を魅音とレナが心配そうに覗き込んで来る。 
「大丈夫、ルル?」
「ルルーシュくん平気?」
「あ、ああ……」
 だが子供とは思えないほどの力だったな、あいつ……。
 辛うじて魅音たちに身体を支えられて地面に倒れることはなかったが、あのままだったら間違いなく頭を打って昏倒していただろう。
「今の沙都子……決して普通の状態ではなかった……」
「そうだね、いつもの沙都子ちゃんだったらあんな風に人が怪我をするような真似は絶対しない」
「もう沙都子の心は限界なんだよ……」
 レナが真顔で言い、それに続く形で魅音も呟くように言葉を溢した。
 ……読みが甘かった。事情を聞かされてある程度分かった気になっていたが、沙都子の問題はすでに悠長なことを言ってられる場合じゃない。
 使わなければ……アレを。仲間を助けるために。
 それが最善、俺が取れる一番まともな選択肢なのだから。
「……お前らはここで待っていろ。俺は少し沙都子の叔父と話をしてくる」 
「え? 何するつもりなの?」
「大丈夫だ、別に彼を刺激するようなことは言わない」
 魅音に訊ねられ、俺は冷静に答える。レナがその脇から口を挟んだ。
「じゃあレナも行く」
「駄目だ、行くのは俺一人だ」
 レナの言葉を切り捨て、俺は首を横に振った。ギアスを使っているところは見られたくないからだ。
 そう、今から俺はギアスを使って沙都子の叔父―北条鉄平を殺害する。
 証拠は残るはずもない。まして俺が殺したなど誰も思わない。なぜなら鉄平は俺が死ねと命じただけで勝手に死ぬのだから。
 それにこの村でなら何人殺そうがオヤシロさまの祟りとして処理されるだろう。ギアスの使用において、まさにうってつけの場所だ。
「……では行ってくる。着いてくるなよ」


154:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/05/17 14:11:31 IB27GBqf
投下。
やはり二レスずつが一番安定するみたいだ。
投稿遅くてすまんが許してくれ。

155:名無しさん@お腹いっぱい。
09/05/17 17:58:12 xmSHAjVg
投下乙です。
命じるのは失踪しろで十分な気もするけど、ここで後々の禍根まで払っとく気かな?
身内に甘いルルーシュのことだから、冷静なようで実際は激昂してるんだろうなぁ。

156:名無しさん@お腹いっぱい。
09/05/17 20:58:47 W1ViKGjz
待ってた! 超乙!

ギアスで命じるのは死なのか。。
バッドエンドな予感だな。

157:名無しさん@お腹いっぱい。
09/05/17 21:33:41 198gbwEC
ペースゆっくりでもこの質で確実に投下してくれるのは嬉しいよ

158:名無しさん@お腹いっぱい。
09/05/18 02:01:21 8HuyY5Xu
乙 頑張って

159:名無しさん@お腹いっぱい。
09/05/20 00:05:02 N3Ilg2LY
遅くなったけど投下乙!
皆かと思いきや祟ルートを選択か、ギアス本編の今後の展開を考えると皆ルートだと違和感出ちゃうわな
ギアス使えば鷹野軍団も潰せるしなぁ
ところで今更ながらに詩音は存在してないのか?

160:名無しさん@お腹いっぱい。
09/05/21 22:02:22 vrbUSutW
皆殺し編かと思ったら祟りごろし編だったのか

161:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/05/22 22:21:46 P3wrH08R
支援&コメありがとう!
今日もまずコメ返ししてから投下するよ。

>>155>>156
ギアスで鉄平を殺すのはありきたりすぎなのでやめたんだぜ。
というかギアスは使い方考えないと話が安っぽくなるから使いづらいんだよな…

>>157
ありがとう。読んでくれる人がいる限り勝手に止めるつもりはないよ。
これからも細々とやっていくから支援よろしく。

>>159>>160
ところがどっこい宣言どおり皆編で行くんだ。
ハッピーエンドかバッドエンドかは最後のほうで決めるつもりだけど。

ちなみに詩音はあまり好きじゃないから出さないw
クロスオーバーSSでは出演キャラを出来る限り減らしていくのは定石だしな。
というわけでいなかったことにしてくれ。もしくは鬼隠し編の時みたく出番がないだけで実際は興宮で生活していることにするとか



162:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/05/22 22:40:38 P3wrH08R

 俺は玄関を睨みつけることで鉄平を殺す覚悟を決めると、背後を振り返ってレナたちを一瞥する。彼女らは心配そうな表情を浮かべて俺の動きを見守っていた。
 着いてくる様子は一遍も見られない。
 よかった、万が一にもこいつらをギアスの巻き添えにはしたくないからな。
 俺は玄関の引き戸を開ける。からりと引き戸の開く音が鳴った。その音を聞き取ったのか、玄関先に鉄平が現れた。
「ああん? なんね、お前?」
「ああ、貴方が沙都子の……」
 さて、この男にはどんな末路がお似合いだろうか。
 綿流しの祭当日に自殺というのも一興かと思うが沙都子の安否を考えるとそれまでは待てないな。
 となればそうだな、失踪した後のたれ死ねとでも命令を……――なっ?!
 俺は鉄平と思われる男の顔を見て驚愕する。
 なんと目の前にいるその男は、昨日俺が東京租界で肩をぶつけたゴロツキだった。
 ぐ、そんな馬鹿なことがあってたまるか……。
「ん、あんた……わしとどこかで会わんかったかいの?」
 鉄平が俺の顔を眺めて不思議そうに首を傾げる。
「いえ……ないと、思いますが……」
 苦し紛れにそう答える。
 鉄平は記憶を探りながら俺をまじまじと観察していた。
 この様子だと俺のことはほとんど覚えていないようだ。それも当然か。ギアスの支配下に置かれた人間は前後の記憶を無くすようだからな。 
 だがそんなことには何の意味もない……。
 何故なら同じ人物にギアスは二度効かない。これでは鉄平を排除することが出来ないのだ。
 どうすればいい……。どうすれば沙都子を助けることが出来る……? 気持ちばかりが逸り、思考がうまく纏まらない。
 俺の内心の動揺を知ってか知らずか鉄平が怪訝な顔をして訊ねてきた。
「……んで、うちに何の用があるっちゅうんね」
 仕方ない……ここは一旦退こう。このまま留まっても何も出来ることはない。ただ悪戯に鉄平を刺激するだけだ。
「いえ、何でもありません……」
 軽く会釈すると、俺はスッと踵を返して北条家を後にした。


163:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/05/22 22:44:10 P3wrH08R

 北条家のから少し離れたところで皆と合流した。
「ルル! 叔父はどうなったの?!」
 魅音が酷く慌てた様子で聞いてくる。
 俺は彼女の顔をまっすぐと見れなかった。目を逸らしたまま淡々と答えた。
「なんもしないさ。叔父と少し話をして終わった。状況はなんも変わっちゃいない……」
 変えられなかったのは……俺が無駄にギアスを使ったせいだ。何故俺は昨日、東京租界で鉄平相手にギアスを使ってしまったのか。ゴロツキをあしらう方法ならいくらでもあったはずなのに……。後悔の念が募る。
 俺は頭を下げ、魅音・レナ・梨花にポツリと呟くように謝った。
「皆、すまん……」
「そんなのルルーシュくんが謝ることじゃないよ」
「だがレナ、俺は……」
 自分の馬鹿さ加減が許せそうにない。
「ううん、レナの言う通りだよ」
 うな垂れる俺の肩に手を置く魅音。彼女は俺が顔を上げると、微笑を浮かべながら首を横に振っていた。
「私はむしろホッとしているんだよ、ルル」
「何だと? それはどういう意味だ?」
 俺は妙なことを口走った魅音に先を促す。
「恥ずかしい話さ、さっきのルルを見て……私、あんたが沙都子の叔父を殺しちゃうんじゃないかって思ったんだよ」
「なっ……」
 魅音の言葉に動揺し、俺の心臓が跳ねる。まさかギアスの存在までは知られてはいないと思うが、流石魅音といったところか。
 俺が魅音の洞察眼に対して驚きの声を上げると、何を勘違いしたのか魅音は謝罪の言葉を口にした。
「ああ、ごめんごめん! ルルはそんな直情的に動かないよね!」
 魅音はギアス能力を知らないはずだ。とすれば、魅音は俺が自ら手を汚して鉄平を殺害するんじゃないかと思ったわけか。俺はそれを踏まえて魅音へ言葉を返した。
「当たり前だろう。この俺がそんな愚かな真似をするわけがない」
 仮にそうしたとしても、俺では返り討ちに遭うのが目に見えてる。勝てない戦はしないのが俺の主義だからそれは絶対にあり得ない。
「そうだよね。もしやるにしてもルルなら完全密室殺人とか考えそうだし」
 魅音は微笑んだまま舌をぺロッと出す。
「はっ……まさか。密室殺人などミステリー小説の中の話だ。あれは娯楽であり、解かれることが前提条件としてあるものだろう。実際にやる馬鹿がどこにいる」
 俺の言い様が面白かったのか魅音が吹き出した。
「あはは、やっといつものルルに戻ったね!」
「……なに?」
 意図が分からず聞き返すと、魅音は真顔になって答えた。
「余裕のないルルなんて嘘だよ。そうやって大物振ってるほうが似合ってる」
「魅音……」
 そうか、魅音は俺を元気付けようとしていたのか……。
 俺は苦笑混じりに魅音と微笑を向け合った。
「……そうなのです、ルルーシュ。貴方には僕に希望を見せびらかした責任がある。こんなことぐらいで挫けるなんて許さない」
 今まで傍観するだけだった梨花が初めて口を開く。
 そして歌うように続けた。
「だから、貴方はいつも通りの貴方でいてください。いつも通りの……自信たっぷりで皮肉屋のリアリストな貴方で」
 ふっ……ひどい言われようだな。
「でも本当は他人のために優しくなれる理想主義者。それがルルーシュくんなんだよ」
 レナが言葉を付け加える。
 理想主義者云々というのは気に入らないが、レナたちの励ましは嬉しかった。少し心が楽になったようだ。
 ならば、俺もその気持ちに応えねばならないな。
「そうだな、落ち込んでばかりはいられない。沙都子の説得は後回しにして次の手を考えるとしよう」
 その場にいる皆が一様に頷いた。


164:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/05/22 22:45:29 P3wrH08R

 北条宅からの帰り道、俺はそのまま皆を自宅に招き入れた。沙都子を助けるべく、皆で話し合いをするためだ。
 ナナリーは風邪のため二階の自室で寝込んでいるので、話し合いは一階のリビングで行われた。
 様々な意見が飛び交う中、俺は皆の意見を拾い集め、次なる手を考えてゆく。
 ところが思いつく策は途中で手詰まりするものばかりで、とてもじゃないが沙都子を救い出すことは叶わない代物だった。
 故に、結局俺が至った解決策は至極シンプルなものとなった。
「―やはり、元を断つしかないな……」
「ルルーシュくん、それってどういうこと?」
 レナが不思議そうに訊ねてくるが、俺はそれに構わず魅音に視線を向けた。
「正直に言おう。沙都子の問題を面倒にしている一番の原因は魅音、お前の家だ」
「え……?」
 魅音が顔を引きつらせる。どうやら少しは自覚があったらしいな。
 皆を見渡してから俺は続けた。
「沙都子の問題は元を辿れば、過去の雛見沢サクラダイト発掘における北条家と園崎家の確執に繋がっている。北条家の村八分……それを取り除きさえすれば沙都子を救い出すことが出来るはずだ。違うか?」
 魅音が俯きながら言葉を零した。
「無理だと思うよ……。私の家が原因なのは認めるけど、他の手を考えたほうがいい……」
「それは何故だ?」
「口で言うほど沙都子に対しての村人の差別は浅くないんだよ」
 魅音の代わりにレナがその先を続ける。
「たしかに、村の皆の心を変えることが出来れば話は簡単だよね。けど、彼らはお互い疑心暗鬼になっているの。沙都子ちゃんへの差別をやめたら今度は自分が村八分の対象になるんじゃないかって……」
「ふん、なんだそういうわけか。そんなことは百も承知だ」
 そう俺が答えると、今度は梨花が口を開いた。
「だったら分かるでしょう? 村の皆の心を変えたいのなら村の人口2000人あまりを全て説得して回るしか手がないのです。それも、沙都子の心が壊れるまでに……」
 皆が押し黙り、沈黙がリビングを支配する。
 そんな重苦しい空気の中、静寂を破るよう俺は不敵に笑った。
「ふっ、村人2000人? 馬鹿を言うな。誰がそんな非効率な方法を取ると言った?」
「ルルーシュ、それはどういうことなのです?」
「分からないか? 俺たちが説得する相手は一人でいいんだ」
「ま、まさか……?!」
 梨花が俺の意図を読み取り、驚愕の声を上げる。
「そうだ、俺たちの相手はただ一人。魅音の祖母であり、この雛見沢の支配者―園崎お魎だ」
「「え~っっっ!!」」
 リビングから二階に居るナナリーへと届かんばかりの声が響き渡った。

 ―タイムリミット;オヤシロさまの祟りまで後4日。


165:名無しさん@お腹いっぱい。
09/05/22 23:10:43 ulFpYc9t
>ルルはそんな直情的に動かないよね!」
ルル、普段の行動を振り返ると心が痛いww

うっかり使ったギアスが後でウボァー!が、ここで来るとは盲点でした。
間とか運とかすれ違いで、ままならないの上等なギアスですが、
こっちは紆余曲折してもハッピーに終われるといいなぁ。

166:名無しさん@お腹いっぱい。
09/05/22 23:44:13 +8mhRODm
投下乙!
必要なときに役立たず、いらんときにかぎって発動するのがギアスですなw
ブリキなルルーシュは原作で言えばダム会社の人間が敵地に乗り込むようなもんだし、
VSお魎でどう話が動くのか期待が高まりますぜ。

167:名無しさん@お腹いっぱい。
09/05/23 00:49:21 Frahf1wd

続きが気になりすぎて悔しい

168:名無しさん@お腹いっぱい。
09/05/24 01:50:23 sLlmubPj
そうだぁ!ただのゴロツキなわけないだろ、てっぺいだよ、
家帰っちゃったらやばいよ!って思ったはずなのに見事に忘れてた!
すごいね、ますますわくわく展開だよ。
楽しみにまってるよ。

169:名無しさん@お腹いっぱい。
09/05/24 01:52:28 DoDXohNZ
糞スレ終了

170:名無しさん@お腹いっぱい。
09/05/24 21:12:49 /Fr0RCE4
ギアスの無駄遣い笑ったw
支援ですwwwww

ここ見てて、自分もひぐらしギアスやりたくなってきた…
部活メンバーとルルーシュが組んで反逆したら最強そうだよな
レナ「はぅ~。トリスタンかぁいいよぉ!! お持ち帰りぃ~!!」
ジノ「な、何か今、寒気が…」

171:名無しさん@お腹いっぱい。
09/05/25 13:45:38 6kH2Oatt

             /)
           ///)
          /,.=゙''"/   
   /     i f ,.r='"-‐'つ      こまけぇこたぁいいんだよ!!
  /      /   _,.-‐'~/⌒  ⌒\
    /   ,i   ,二ニ⊃( ●). (●)\
   /    ノ    il゙フ::::::⌒(__人__)⌒::::: \
      ,イ「ト、  ,!,!|     |r┬-|     |
     / iトヾヽ_/ィ"\      `ー'´     /


172:名無しさん@お腹いっぱい。
09/05/25 14:06:13 6kH2Oatt
誤爆

173:名無しさん@お腹いっぱい。
09/05/25 14:07:56 6kH2Oatt
した

174:名無しさん@お腹いっぱい。
09/05/25 14:15:26 KaRqu49L
だが許さぬ

175:名無しさん@お腹いっぱい。
09/05/29 01:28:12 0WdUO1Iv
>>170鉈ドムぽい無頼に乗るレナ

176:名無しさん@お腹いっぱい。
09/05/29 01:58:59 vIRvyM7B
ナイトメアの首とか庭におもちかえりされてたりな

177:名無しさん@お腹いっぱい。
09/05/31 01:03:38 TsHX+Hv2
支援。

178:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/05/31 12:58:41 N0Vry+jI
さて、そろそろ鉄平編も佳境かな。皆支援さんくす
まずはコメ返しから。全員に返せなくてすまそ

>>165>>166
今のところは紆余曲折で皆編のような流れになるかと思うけど、デッドエンドにはしない予定。
まだどうなるか分からんが応援よろしく頼む。

>>167
ありがとう。
一言でもコメがあると嬉しいぜ

>>168
複線を所々に散りばめようとしたためうpが遅れているが勘弁してくれ。
だが、こういう複線を張って回収するときが一番楽しいんだよな



179:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/05/31 13:00:15 N0Vry+jI
【10】

 皆との話し合いの次の日。
 ナナリーの病状はだいぶ落ち着いて来た模様。もう起き上がって食事も可能だそうだ。
 しかしまだ咳き込んでいるところを見ると、風邪をぶり返す恐れもあるので学校には行かせられない。今日こそは学校に行くと意気込むナナリーだが大事をとって休ませるとした。
 ちなみにナナリーには沙都子の件は伝えていない。伝えても余計な心配をかけるだけだ。ナナリーは目が見えないし、黙っていれば気が付かれる前に沙都子の件を処理することが出来るだろう。無論、今日中に方を付けるつもりだ。
 まず俺たちは普段どおり学校に登校し、留美子に沙都子の現状を報告することにした。無論留美子に話をした程度で沙都子を助けられはしないだろうから、彼女には俺たちが沙都子を助けるために動いているということを認識してもらうだけでいい。
 皆で留美子の居る職員室に押しかける。
「―というわけです、知恵先生」
「そうだったんですか……。ナナリーさんが風邪で休んでいますから、てっきり私は沙都子ちゃんも同じ理由で休んでいるとばかり……」
 留美子は生徒の異変に気づけなかったことに酷く落ち込んでいるようだ。
「たしか、沙都子の叔父には電話で病欠って言われたんでしたね?」
「はい……私はそれを信用しきっていました。そういうことならば、すぐにでも家庭訪問をして確認を取るべきですね」
 さすが生徒想いの留美子だ。すでに事態を重く見ている。だが今は留美子には動いてもらいたくはない。
「すみませんが、それは止めていただきたいですね。今は下手に叔父を刺激するべきではありません」
「で、ですが今はそんな悠長なことを言っていられる状況ではありませんよ!」
 落ち着きなく声を荒らげる留美子。彼女は生徒のために何かしなくてはと躍起になっている。
 俺は声のトーンを落とし、留美子をなだめるように言った。
「そうですね、事態は一刻の猶予もありません。ですが知恵先生、生徒を大事に想うその心はとても尊敬できますが、そのように熱くなっていては適切な判断ができないと思います。ですから、この件は僕たちに任せていただけませんか」


180:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/05/31 13:00:56 N0Vry+jI

「貴方たちに?」
 俺の提案に留美子がきょとんとして聞き返してきた。
「ええ。僕たちはすでに沙都子を叔父の手から救出する算段がついています」
「なんですって? 一体何をするつもりですか」
 留美子は俺たちが何か良からぬことを企んでいると思ったらしい。すかさず俺は彼女の考えを首を横に振って否定した。
「大丈夫です、知恵先生が思っているような物騒なことは考えてませんよ」
「では、どうすると言うんですか?」
 留美子は安心したのか、少しだけ表情を和らげ先を促す。
 決まっている。園崎お魎が沙都子を認めれば、村人の冷遇も自然消滅する。何も村人全員を説得する必要はないのだ。難しく考える必要はない。園崎お魎の説得、この一手ですべての障害はクリアされるのだから。
「この村の有力者、園崎お魎を味方に付けようと思います」
「え、それは一体どういうことです?」
 ん……そうか。留美子は沙都子の問題が如何に複雑なものになっているのか知らないというわけか。……よくよく考えてみればそれも当然だな。大切な生徒が村八分などされていると知っていたなら、留美子はすでに大騒ぎをしてこの村には居られなくなっていることだろう。
 何にせよ、沙都子の問題の裏事情を留美子に一から説明し且つ納得させるのは骨が折れる。
 それに教師という存在はここぞという時には役に立たないのだから居ても邪魔なだけだ。そんな無駄な時間を割く余裕は今の俺たちにはない。
 俺は留美子の疑問には応えず、一気にまくし立てた。
「そのために今日魅音の家にお邪魔しようと考えているのですが――学校が終わってからだと遅くなりますし迷惑なので、今から訪問する許可を頂けませんか」
 俺はその返事を待つことなく、留美子の瞳を見つめて次なる言葉を紡ぎ出した。
「なに、大船に乗った気持ちで待っていてください、知恵先生。
 "貴女はただ外出の許可を出し、俺たちを見送るだけでいい"」
 歌うように紡いだ言葉にギアスをそっと乗せて。
 ――。
 ――――。
 ………………。
 一瞬のタイムラグの後、留美子は再び口を開いた。
「……そうですね、北条さんの件はルルーシュくんに任せることにします。よろしくお願いしますね」
「分かりました、ありがとうございます」
 内心ほくそ笑みながら、うわべだけのお礼を言う。
 これでもうここには用はなくなった。
 踵を返して職員室を後にしようとすると、背後では魅音とレナが顔を見合わせていた。普段の留美子なら自分も同伴すると言い出すはずだからである。
 妙にあっけなく留美子が引き下がったので拍子抜けしているのだろう。無理もない。
 職員室を出てすぐ、
「一体どんな魔法使ったの?」
 なんて魅音が間抜け面で聞いてくるものだから、俺は笑いをこらえてこう答えてやった。
「馬鹿言うな、この世にそんなお手軽便利な力があるわけないだろう?」 


181:名無しさん@お腹いっぱい。
09/05/31 13:42:03 hLVDP9Li
乙 頑張って

182:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/01 03:05:09 ZluHTqwb
なんか、ナナリーの風邪ってのが気になってきたぞ。
…ほんとに、ただの風邪、なのかな、かな。

183:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/01 03:20:47 Q8N7ClEw
さいきんせきどめがてばなせなくなってきた……

184:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/06/06 15:39:27 l47lOoRR

 留美子に外出の許可をもらった俺たちは大手を振って魅音の家、園崎本家に向かった。
 魅音に仲介役を頼み、本家の車寄せで待つ。何しろアポなしの俺たちだ。魅音には精一杯頑張ってもらわないといけないだろう。
 小一時間待ち、太陽が西へと傾きかけた頃―魅音がようやく屋敷から出てきた。玄関から車寄せまで少しばかり距離があるから、小さく手を振っている姿だけが遠めに見えた。
 魅音は俺たちの近くまでは戻らず、皆に見えるよう大きく両手で円を作ってオーケーのサインを出す。どうやら面会の承諾が取れたようだ。
 俺たちは顔を見合わせて示し合わせるように魅音に駆け寄った。
「魅音、面会は可能なんだな?」
 念のため確認すると、魅音はこくんと頷いた。それから苦笑しながら全員の顔を見回して聞いた。
「けど、うちのばっちゃは怖いよ。覚悟はいい?」
 皆が一様に深く頷いた。
「愚問だな。沙都子を必ず助けると誓った俺たちだ、覚悟などとうに出来ている」
「それもそうだね、失敬失敬!」
 魅音が冗談めかして言う。
 レナが静かに口を開いた。
「それで、魅ぃちゃん? 魅ぃちゃんのお婆ちゃんはどこで待っているのかな」
「……ばっちゃの寝室だよ。あまり体調が良くないみたいだから、面会時間はあまり多くは取れないと思う」
「そうか、なら尚更手段を選んでいる暇はないな」
「ルルーシュ、それはどういう意味です?」
 俺の独り言気味の言葉に対し、思いのほか梨花が強く反応を示した。だがそれには答えない。
 俺は一人歩き出すと玄関の戸をからりと開け、後ろを振り返った。
「もたもたするな、行くぞ。分かっていると思うが、時間が経つにつれて状況は刻々と悪くなるんだからな」
 

185:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/06/06 15:41:35 l47lOoRR
 魅音の案内のもと、俺たちはお魎の寝室に向かった。長い廊下を一列に並んで進む。皆、終始無言だった。
 しばらくして廊下の突き当たりを右折すると、部屋の前に二人の黒服の男が立っているのが見えた。どうやらそこがお魎の待つ寝室らしい。
 魅音が男たちに近寄ると彼らは頭を下げ道を譲った。
 魅音に続く形で入室すると、すでに俺たち以外の皆が揃っていた。入るなり彼らからの視線の一斉射撃を食らう。
 園崎天皇とまで呼ばれるお魎その人は、布団に入ったままクッションのようなもので上体を支えながら偉そうに俺たちを見つめている。その鋭い眼光はさすが園崎頭首である。
 ところが鋭い眼光は彼女だけでなく、その場にいた五人の重鎮らしき人物らも発していた。その一人は着物を着こなした女性―魅音の母親、園崎茜である。
 着席すると魅音が俺たちをその場にいる全員に紹介する。それが終わると早速本題に入った。
 代表の俺が今までのいきさつを説明している間、ずっとお魎は厳しい顔をしていた。
「―以上。現在、沙都子は村人によって不当な差別を受け、また叔父によって危害を加えられている。沙都子を助けるため、その問題の根幹である園崎家と北条家の確執を解消してやって欲しい」
 一通り言い終えた後は黙ってお魎の返事を待つ。お魎は隣にいる魅音の母親の茜に聞こえる程度の声量で何かを言った。俺の位置からじゃボソボソとしか聞こえないのが腹立たしい。
 仕方なしにしばらく待っていると、茜がお魎の言葉を代理で口にした。さらりと簡潔に。
「駄目だとさ」
 やはりそう来たか。
 しかしそれで『はいそうですか』と帰るわけにはいかない。
「……何故です。北条家の罪は沙都子の両親が亡くなった時点で償われたはずだ。沙都子には一切の関係がない。にも関わらず、今も彼女が村中から不当な冷遇を受け続けているのは園崎家の罪ではないのか?」
「あたし達の罪だって?」
「その通りです。北条家側はすでに贖罪されている。ならば、今度は園崎家が贖罪をする番ではないのか」
「つまり極道なら仁義を通せと、こういうわけかい。ブリタニアの坊やが言うじゃないか、くっくっく」
 俺の言い分を聞き、茜が嘲る。それが癪に触り、俺は目を細め茜を睨んだ。
「何かおかしい所でも?」
 茜は人に睨まれることなどとうに慣れているのだろう。なお笑いながら言葉を返してきた。
「くっくっく、そりゃおかしいさ。坊や……ルルーシュ君と言ったねぇ。お前さん、考えがずれているよ」
 何だと? そいつは一体どういうことだ。
 俺は焦りを悟られないよう落ち着いて先を促した。
「ずれているとは?」
「分からないかい? 北条家の罪がすでに償われているなんてことはない、故に私たちも仁義を通す必要がないってわけさ」
「しかし北条夫妻は……!」
「そう、確かに亡くなった。だけどねぇ、彼らは本家に謝罪に来たわけでもなく、ただ勝手に事故で死んだだけさ。償ったわけではないだろう?」
「っ……」
 俺は茜の物言いに耐えかねて、思わず唇を噛んだ。
 許して欲しいのなら死んだ人間に謝まらせろと園崎家は本気で言っているのか。そんなことは不可能だ。
 ならば代わりに沙都子に謝らせろという論法か? それこそあり得ない! 昨日の沙都子の精神状態では軽く頭を下げることすらも難しい!
「…………」
 そこまで考えて俺の心は急速に冷めていった。
 ……そうか。お前らがそのつもりならば使ってやろう、絶対遵守の力を。
 魅音の家族だからあまり使いたくはなかったが、こうなればそうも言ってられない。お前らには全力で沙都子を助けろという命令を遵守してもらう。
 俺は座ったままお魎と目を合わせるとギアスを開放する。
 ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じ、
「おおっとそこまでだ。何をするつもりか知らないけどね、それ以上勝手したら容赦しないよ」
 ――それは、俺がギアスを発動させようとした瞬間の出来事だった。茜は俺の喉を貫く寸前で日本刀の切っ先を静止させていた。
「喋っても殺す。立ち上がっても殺す。娘の友達だからといって容赦はしない、躊躇なく殺す。だから間違っても、決して動くんじゃないよ」



186:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/06/06 15:43:27 l47lOoRR
 
 まさかギアス能力を気取られたというのか。俺は想定外の事態にいつもの冷静さを保つことが出来ない。
「お、お母さん?! 何しているの!」
 思い出したように魅音が悲鳴に近い声を上げる。俺も魅音と同様に叫び声を上げたい気持ちで一杯だったが、恐怖で悴んで言葉が出なかった。
 もっとも、それが幸いして俺は喉を貫かれることなく、未だ生きることを許されているのだが。
「いやなに、この坊やから酷く嫌な気配がしたんだよ。例えるなら暗殺者が自慢の一撃で標的を狩る時のような、さ。ほら、やられる前にやるのが極道の定石ってもんだろう?」
「やめてよ! ルルが何をするって言うの!」
 茜は魅音の必死な嘆願にも眉一つ動かさず、刀を俺の喉元に当てながら淡々と答えた。
「このブリタニアの坊やが何をするか、それはあたしには分からないさ。けどね、この坊やが”たった今やろうとしたことを諦めない限り”、あたしは刀を引く気はないさね」
 どうやらギアスそのものの正体を掴まれているわけではないようだ。
 茜が感じているものは気配。正体不明の力―ギアスを阻止出来たのも、極道を貫き、死線を幾つも潜り抜けて磨いた洞察眼の賜物だろう。
「ルルーシュくん!」
 茜と俺の間に入ろうとレナたちがすっと立ち上がるが、周囲に座っている重鎮たちが彼女たちを拘束した。
「話はしまいだね。そろそろ帰ってもらおうか」
 しばらくして茜が告げる。
 くそ、馬鹿げている……。こんな何も解決していない状況で引き下がることなどできるものか。
 このままでは沙都子は一生消えない心の傷を負うことになる。そうなれば俺たちは痛々しくも壊れた沙都子を目の当たりにし、無力だった自分自身を呪いながら生涯苦悩し続けるだろう。……そんな世界を認めるわけにはいかない、絶対に。
 俺はもう誰も失いたくないんだ。
「だから――」
 咄嗟に茜の日本刀の刃を右手で鷲掴むと、俺はそのまま喉元から切っ先を逸らした。手のひらから鮮血が流れ、痛みと共に腕を伝うがさして気にはならない。
 茜は俺がそのような真似をするとは夢にも思わなかったのだろう、ぎょっとして身体を硬直させていた。この時ばかりは流石の茜も動揺を隠せなかったらしい。
「アンタ、一体何してるんだい……使い物にならなくなる前に、早くその手を離しな!」
 そう叱り付けながら俺を見下ろすその顔は酷く青ざめていた。
 一方、俺の頭はむしろ頗る冷静だった。茜の僅かな隙を突き、お魎に向けて吼えるようにギアスを叩き付けた。

「"沙都子を、助けろッッッ"!!」



187:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/06/06 15:47:57 l47lOoRR
今のとこ総投稿文字数5万文字。思えば遠くまで来たもんだ

188:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/06 19:07:25 sbrOvZEX
面白い
支援

189:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/06 20:06:46 Gqzq/kjR
素直に格好いいシーン(;´Д`)ハァハァ

190:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/06 21:13:44 VC17pWFR
茜さんかっこいいな

191:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/06 23:27:39 5XlYTUhV
カッケーwktk

192:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/07 01:07:11 YfJc6bDS
続きが楽しみすぎて
ケツからウンコがとまらない

193:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/07 02:35:25 UhSDtinZ
つづきをっ つづきをっ ああああああいああ

194:ブリタニア住人
09/06/13 18:50:20 T1jOEUXF
ルルーシュかっけー!!続きが気になるw

195:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/15 01:30:21 Cf/SRT/H
つづきマダー?

196:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/15 23:37:40 k1jajqSG
まだ二週間目に突入したところじゃん

197:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/16 23:38:16 NQmORUrH
とりあえず保守

198:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/19 21:58:31 qvRdnCdn
シエンタ

199:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/06/20 09:53:30 kVQipzlM
コメサンキュー!
遅れたけど次レスに投下するよ。
本当はもう少し書き溜めてからうpにしようかと思ってたけど、
期待して待っててくれる人がいるなら話は別なんだぜw


200:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/06/20 09:55:22 kVQipzlM
【11】

 ギアスの効果によって、お魎は沙都子を助けることをあっさりと承諾した。それから程なくして話し合いはお開きとなった。
 茜はお魎の態度の急変に戸惑いつつも、黒服を身に纏った葛西という男に今から北条家に向かうよう指示を出した。
 葛西は短くはいと言葉を返し、黒服の男を数人連れて屋敷を出て行く。俺は縁側に座ってそれを眺めていた。
「ふっ、何をするかは知らないが、可能な限り平和的に解決して欲しいものだな」
 手のひらに出来た刀の傷の手当てをレナにしてもらいながらそっと呟く。
「しっかしルルも無茶するよねー」
 傍らで魅音が呆れたように言う。
 まあ、たしかに俺にしてはゴリ押しの解決法だったがな。
 手当てが終わってからレナが頬をぷくっと膨らませた。
「本当だよ。レナは怒ってるんだからね。幸い軽傷で済んだけど、下手したら手首から上がなくなってもおかしくなかったんだよ、だよ」
「む……それは困る、無事で何よりだった」
 あれは出来るだけ刃先に触らないように気をつけた上での演出なのだから、本当に大怪我をしたら間抜けもいいとこだ。
「ま、そのおかげでばっちゃを説得できたんだけどさ」
 魅音が場を和ませようとからからと笑った。
 どうやら魅音は俺の大立ち回りよりお魎の気持ちが動いたと思ったらしい。好都合だ、他の皆も同様の勘違いをしてくれる嬉しいんだがな。
 さて、村人による沙都子の冷遇も今日中にはなくなるだろう。まだ沙都子が救出されたわけではないが、この件は園崎家と魅音たちに全面的に任せておけばいい。
 問題は三日後の綿流しの日に起こるとされるオヤシロさまの祟りだ。まだ何も対策が打てていない状態で肩の荷を下ろした気にはなれない。
 結局この村に住むギアス能力者の正体は分からず、下手に動くことも出来ない。残された時間も僅かだ。
 これからどうするべきか……。
 今後の指針を考えている時、背後から突然名前を呼ばれた。
「ルルーシュ」
 振り返ると梨花が立っていた。
「なんだ、梨花か。どうかしたか?」
「貴方に話があるのです」
「俺に?」
「はいです。少しその辺まで付き合ってくださいなのです」
 改まって一体何の用だろうか。
 沙都子の件か? それとも何か別の―。
 一旦は思考を巡らせてみたものの、梨花に直接聞けば答えが出る話なので馬鹿らしくなって考えるのをやめた。
「分かった。では場所を移そう」
 梨花はこくんと頷くと踵を返し、一人歩き出した。その後ろを黙って着いて行く。
 進行方向から玄関へ向かっていると分かる。おそらく外に出て、屋敷の庭園で話をするのだろう。
「駄目だよルル、幼女に妙な真似しちゃ! くっくっく!」
 背中越しに魅音の軽口が飛んで来たが無視しておくとしよう。


201:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/06/20 09:56:54 kVQipzlM
 案の定、移動した先は園崎家の庭園だった。その造りはブリタニア人の俺ですら美しいと思えるほど完璧で非の打ち所がない。
 まだ日本にこのような場所が残されていたのか。思わず息を飲む。
 しばらく歩くと大きな池が目の前に飛び込んでくる。俺はそこで歩みを止め、梨花の背に声をかけた。
「おい梨花。……それで? 話とはなんだ」
 いつまで経っても話を切り出さない梨花に痺れを切らして先を促す。
 梨花は逡巡した後、静かに口を開いた。
「そうですね、ここならば盗み聞きされることもないでしょう」
 いつもと違う口調で喋る梨花に違和感を覚えながらも、俺は冗談交じりに言葉を返した。
「フッ、そんな秘匿性の高い話をされるほど俺はお前と深い仲だったのかな?」
 梨花は顔を真っ赤にして慌てて否定するとばかり思っていた。ところが、実際に彼女のとった態度は俺の予想を遥かに裏切るものだった。
 長く艶のある黒髪をふわりと撫で上げると梨花は心底おかしそうに笑みを浮かべながら言った。
「ええ、そうね。たしかに私と貴方はある意味深い仲と呼べる間柄かもしれないわね、くすくす」
「……どういう意味だ」
 まさかこいつは……。
 咄嗟に最悪のケースを頭に思い浮かべて身構える。
 そうでないことを切に願って。
 だが―梨花の返答によって、俺の願いは完膚なきまでに裏切られた。
「驚いたわ。ルルーシュ、貴方もギアスユーザーだったなんてね」
 その言葉を捉えるなり、梨花を敵と判断する。現状ではオヤシロさまの祟りはコイツの仕業である可能性が高い。俺は可能な限り迅速にバックステップにて梨花との間合いを取った。


202:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/20 09:59:12 Z/rkbRlZ
フハハハハハ、来た、来たぞぉぉ!

203:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/20 11:38:03 g1SUsZAE
続きをplease

204:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/20 14:43:43 bbp9WEg8
くそぉお続きが気になるぅう

205:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/20 15:57:34 AlcJoGL4
ギ・ア・ス・きたぁ!

でもギアスユーザーはりかちゃん自身じゃなくね?
…うー気になるー

206:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/20 16:11:50 anQtLJW0
更新乙!
梨花がギアスユーザーってことは羽生はコード持ちなのかね。

207:名無しかわいいよ名無し
09/06/20 17:49:21 Tntx8sc5
初スレで、ギアススレを回ったらたどり着いたので一気に読ませていただいた

何 こ の お も し ろ さ

全力で支援させていただきます
続きが気になるwwwww

208:名無しかわいいよ名無し
09/06/20 18:10:32 Tntx8sc5
すまん
初レスだった


209:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/21 02:01:32 NoOa2yIL
更新乙!
ギアスユーザーは梨花なのか、それとも?
それとここのギアス能力はなんだろう、続きが気になる

210:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/21 21:08:07 i8Ot1/dq
キター

211:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/22 18:40:07 Vj40hks+
乙です。
マリアンヌみたいな感じかな。
心じゃなくて世界を渡る、みたいな。

212:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/22 20:17:38 6JLfoluv
次はまだかぁああああ?
楽しみすぐるぁああああ

213:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/22 21:16:25 awFxVjAS
むしろ
「永遠に死に続ける」
とかじゃないだろうかw

214:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/24 17:17:47 RV3MGzat


215:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/25 12:59:00 QNu+hS4W
保守

216:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/26 07:28:22 NoEGGfhA
タンメン

217:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/06/27 11:24:08 2Vztb5Gj
なんかコメがどっさり来てて嬉しいぜ。
最近投稿がやけに遅いけど気にせず見てくれてサンキューな!
支援保守も感謝! レスは大歓迎だから荒らしでなければチラシの裏とでも思って書き込んでくれw
では次レスにうpするよ

218:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/06/27 11:35:01 2Vztb5Gj

 後ろに飛びつつギアスを開放させる。
 この間合いこそ、俺のギアスがもっとも上手く機能する距離。相手がどのようなギアスだろうと俺のギアスのほうが早く効果を発揮するはず。
「取った!」
「待ってルルーシュ!」
 絶対遵守の命令を発声しようとした矢先、突然梨花の制止の声が入った。
「私は貴方とやり合うつもりはないわ!」
「……どうかな。そう信用させた所で不意を突くんじゃないのか?」
「誓ってそんなことはしないわ。むしろ貴方のそのギアスで洗脳されないか怖いのは私のほうよ」
「ふん、こちらの手の内はすべて知られているということか」
「ええ、けれど何度も言うように貴方とやり合う気はないわ。だって戦う理由がないじゃない」
 戦う理由がない。本当にそうか?
「お前がギアス能力を使ってオヤシロさまの祟りを引き起こしていると考えれば理由は十分だ。次の標的はこの俺なんだろう?」
 自問自答の末、梨花の言い分を否定して間髪いれずに鎌をかけるよう疑問を投げかける。すると梨花は顔を真っ青にし、神妙な面持ちで聞き返してきた。
「……貴方、まさか発症しているわけじゃないわよね……?」
「一体何のことだ」
 発症……病院に行かない限り普段はあまり耳にしない単語だ。そのワードについて思いを巡らせてみたが、今優先すべきことはそれではないと考え直し、途中で思考を打ち切った。
 梨花を注意深く観察する。もし彼女が少しでも不審な動きを見せたら迷わずギアスを使うつもりだ。
「貴方……その腕の傷。……掻いたのね?」
「なに?」
 梨花に指摘されて腕に視線を移すと、右腕に引っかき傷が乱雑に刻印されていることに気がついた。
 おかしい。先程までこんなものはなかったのに。
 いつの間にか掻き毟っていた……?
 引っかき傷はすでにミミズ腫れとなっており、糸状に赤く膨れて血が滲んでいる。それを視認するなり、腕が強く疼き出した。遮二無二掻き毟る。
 まずい、このまま掻き続ければ重要な血管までも傷つけることになる……。それが分かっていながら自傷行為を止めることが出来ない。
「くっ……どうして急に腕が……。まさかこれがお前のギアスか?!」
「やっぱり……発症しているのね」
「発症とは何だ?! 答えろ!」
 俺は梨花をきつく睨みつけると、冷静さを欠いたまま厳しく追及した。


219:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/06/27 11:35:54 2Vztb5Gj

 梨花は酷く落胆した様子でため息を一つ吐くと重い口を開いた。
「……まず、貴方の腕の痒みは私のギアス能力のせいではないわ。原因はこの土地に古くからある風土病」
「風土病だと?」
「ええ、貴方が発症している病は雛見沢症候群と呼ばれている。発症者は疑心暗鬼に駆られ、周囲の言葉に耳を貸そうとしなくなる。次第に幻覚を見るようになり、身体の随所に痒みを覚え……いずれは凶行に走って絶命する。故に貴方は一刻も早く処置を受けるべきよ」
「そんな話、信じられるものか」
 病気ならば発病前に何かしら兆候が見られるはずだ。だがこの痒みは梨花と会話をしている間に突然起こった。
 梨花の話がまったくのデタラメで、コイツのギアス能力のせいだと考えるのが一番妥当だ。
「そうでしょうね……。一度発症して私の話をちゃんと聞いてくれた人は今まで誰もいないもの。……この世界には期待していたのだけど、こうなっては終り、ね」
 そう呟くように言うと、梨花はポケットから何かを取り出した。
 あれは……注射?
「これは貴方の痒みを止めることが出来る治療薬。もし使いたければあげるわ……。ま、信じる信じないは貴方が決めることだけど」
 梨花は注射を指で玩びながら、さらに続けた。
「それでも最後にもう一度だけ。ギアスユーザーとではなく、貴方の仲間として説得させて欲しい」
 ……。その表情はなんと悲痛なものだろうか……。
 心がずきりと痛む。
 いや、騙されるな。これは情に訴える梨花の作戦だ。注射の中身は治療薬なんかではなく、おそらく俺を絶命させるための毒薬に違いない。
 しかし……もしも梨花の言葉が本当に―だったら……?
 馬鹿、甘い考えは止めろ。今目の前にいるのは仲間なんかじゃない、俺を殺そうとしている敵ではないか。すでにギアスの先制攻撃を受けている。もはや確定的なはずだ。だが……でも。
 信じたいのに、信じられないまま……唇をぎゅっと噛み締め、梨花の言葉に耳を傾ける。
「私は貴方の敵ではない。考えてもみてよ……私が沙都子を助けてくれた恩人の貴方とやり合う理由がどこにあるっていうの。ルルーシュ、お願い……私を、信じてよっ……」
 梨花の瞳からは一抹の涙が零れ落ちる。俺は無意識にそれを目で追った。
 彼女の涙は夕焼け色に煌きながら、すうっと地面に溶けてすぐに見えなくなった。その一瞬の情景が酷く心に残り、胸を強く締め付けた。
 …………。
「……駄目だ。信じられない」
「そう……」
 分かっていたことなのか、梨花は至極簡単に諦めの色を見せた。それでも肩はうな垂れ、失望した様子がありありと見て取れる。しかし、そんな態度を取られても到底信じられるわけがないのだ。
 だから俺は梨花の瞳を覗き込み、彼女に対して絶対遵守の力を発動させた。


220:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/27 11:50:32 MtDzMdiN
ルルーシュ踏ん張りどころ
おしまいなのか理性保てるかドキドキするね

221:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/27 20:24:06 WIkAYlxk
投下乙!
ルルーシュの発症フラグがまだ消えてなかったのはちょっと意外

222:名無しさん@お腹いっぱい。
09/06/27 21:19:13 t9EC6U9z
支援。

223:名無しさん@お腹いっぱい。
09/07/03 18:49:52 4cRBM3ho
ほしゅっ

224:名無しさん@お腹いっぱい。
09/07/08 16:20:16 JQt44Ndk


225:名無しさん@お腹いっぱい。
09/07/09 14:32:11 0k4WwTKs
つづききになり

226:名無しさん@お腹いっぱい。
09/07/10 09:34:37 SgGl7u83
アゥアゥアゥ


はだしのゲンかい!

227:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/07/11 09:08:16 sdUKfmce
やっと形になった…遅れてすまん。
投下するけど次回はさらに遅れるかもしれんな…
コメさんきゅ

228:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/07/11 09:10:32 sdUKfmce


 呆然と立ち尽くした俺の手には、梨花から貰い受けた注射が使用済みの状態で握られていた。
 自らの取った選択を振り返る。
 疑心暗鬼に取り付かれた俺が取った行動は仲間に対してギアスを使用することだった。
 その遵守内容は腕の痒みを止める手段を提供させること。ギアス能力は絶対であり、嘘をつくことができない。それが疑心に狂った俺の命綱となった。
 ギアスに心を奪われた梨花は一瞬見動きを止めた後、すぐさま俺に注射を手渡してきた。
 受け取った注射を打つと腕の痒みはぴたりと止まり、頭は霞が晴れたように鮮明になった。この時ようやく俺は梨花の言うことが真実で、自らが雛見沢の奇病とやらに感染していた事実を認識できた。
「しかし病気に侵されていたとはいえ仲間を疑ってしまうとは……」
 梨花は未だギアスの効果によって放心状態だ。しばらくすれば開放されると思うが……ギアスに保証はない。最悪このままかもしれないと思うと、仲間に対しギアスを使ってしまったという後悔と自己嫌悪が募る。
「……ルルー、シュ……?」
 意識が戻り、俺の名を呼ぶ梨花。何が起こったのか分からず酷く困惑しているようだ。
 そんな梨花の様子にほっと安堵のため息をついたものの、俺はすぐさま謝罪の言葉を口にした。
「……すまない梨花、ギアス能力を使わせてもらった。あの場合そうせざるを得なかった……」
「ルルーシュ……いえ、良くやってくれたわ」
「……怒らないのか?」
 梨花は長い髪をなびかせながらふるふると首を横に振った。
「そんなわけないじゃない。ギアスで殺されるか、操り人形にされるか。いずれにしろ貴方を正気に戻すことは叶わないと思ってたもの」
 そこで一旦言葉を切り、梨花は俺に問う。
「それで……貴方の雛見沢症候群のほうは治まったと考えていいのね?」
 激しかった腕の痒みは収束し、疑心の炎は消え去っている。もう平気だろう。自分の体調を分析してから言葉を返した。
「ああ、問題ない。疑ってすまなかった、お前の話は真実だったんだな」
「よかった……」
 そう呟くように言うと、梨花はその場にぺたりと座り込んだ。
「それで? 自らの正体を明かして一体どういうつもりだ。まさかギアスユーザー同士の同窓会ってわけでもあるまい」
「ええ、違うわ。これから貴方の力を借りる上でお互いの秘密は共有すべきかと思ったのよ。もっとも、そのせいで大変なことになるところだったのだけど」
「力を借りるだと?」
 梨花は深く頷いてから言葉を連ねた。
「そうよ、ルルーシュ。貴方がこんなにも力強く心優しい人間としてこの雛見沢に来たのは今回が初めて。私はこのチャンスを逃したくはなかったの」
「……どういう意味だろうか」
 俺の問いかけを聞いているのかいないのか、梨花は独りごちるように言葉を紡ぎ続けた。
「今までの貴方なら、まず沙都子を助けようなどと考えはしなかった。
 ルルーシュ・ランペルージにとって仲間は退屈な日常を紛らわすためだけの存在であり、例え仲間が危機に陥っても、対岸の火事を見ているかのように『ああそうか』と思うだけだったはず。
 何が貴方をここまで変えたのか分からない。けれど……ただ一点、私にはこの世界が奇跡であると分かる」
「梨花、話が見えない。順序立てて説明してもらおうか」
「そうね、ごめんなさい。さて……どこから話せばいいのかしら」
 梨花は自分の置かれている立場を淡々と話し始めた。

229:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/07/11 09:52:50 sdUKfmce
 梨花の話はとても常識では考えられない話だった。超常の力―ギアスを得ていなかったならおそらく俺自身、耳を傾けなかっただろう。だから梨花が事前に自分が能力者であることを俺に打ち明けたのは、紆余曲折あったにせよ、今なら正しい選択であったといえる。
 まず梨花のギアス能力について説明を受けた。
 彼女の能力は時間流離のギアス、時間を過去へと巻き戻すことが出来るものだそうだ。
 それが事実であるなら、考えうる限り最強のギアス能力だ。俺などのギアスではまるで歯が立たない。
 確かに俺のギアスは発動さえすれば必殺の力がある。しかしそれも一の世界ならばではだ。百の世界、千の世界では彼女の右に出る能力者はまずいないだろう。
 ただそんな最強の能力にも弱みはあるらしい。発動が死の瞬間にだけ固定されており、いつでもというわけにはいかないようだ。
 また死から2・3日の記憶が混濁するようで、殺害時の状況が今ひとつ要領を得ない。
 つまり犯人・殺害動機共に不明。それ故に、彼女は綿流しの日の数日後に―おそらく連続怪死事件の関係で―必ず殺され、そのギアスの力で何度も同じ時間を繰り返しているそうだ。
 それから連続怪死事件には雛見沢症候群が密接に関係していると聞かされた。
「雛見沢症候群だったか。雛見沢に昔からある風土病といってたな」
「ええ。もっとも、正式な名称はなくて地名を取ってそう呼ばれているだけなのだけど」
 元凶はこの土地に生息する、ある寄生型病原菌。それが人間の脳に寄生し、宿主を疑心暗鬼に取り付かせる。最後には発狂させ、宿主を凶行に駆り立てるという。
 その病原菌は空気感染で広がり、雛見沢に住む者は全員感染しているそうだ。
 たしかにこれならば、ギアスなんて力を使わなくとも連続怪死事件の全てに説明がつく。……サクラダイト発掘会社のバラバラ殺人事件にも。沙都子の叔母撲殺事件にも。
 梨花から話を粗方聞き終え、俺はため息混じりに口を開いた。
「すると、雛見沢連続怪死事件は連続していなかった?」
「ええ、連続怪死事件は決して連続しているわけではなく、おそらくは雛見沢症候群が引き起こした個々の悲劇に過ぎない」
 個々の悲劇か。一つ間違えれば俺もそれに名を連ねてたというわけだ。
 錯乱して周りの人間に危害を加え、何も分からずに絶命する……。そんな光景が頭に浮かんで背筋が凍った。
「……待て。連続怪死事件は雛見沢症候群による個別の事件といったな。ならばお前自身の死もそれが原因なのだろうか?」
「それもなかったわけじゃないけれど……」
 俺の疑問に梨花は言葉を渋る。梨花自身考えあぐねているようだ。
「けれど、何だ?」
「私は、真犯人は雛見沢症候群を発症していない人間だと思う。私の殺害は大抵、生きたまま腸を引きずり出されて行われるのだから」
「分からないな。お前の死に雛見沢症候群が直接関与していないとする理由は?」
「殺害手順が同じということはつまり、同じ人物が同じ時期に発症して私を殺しに来るという話になるからよ。
 ところが今の雛見沢症候群の病原性は昔のそれと比べると著しく弱体化してるの。発症なんて稀なはず。
 貴方自身発症したから説得力はないでしょうけど、毎回そう都合よく同一人物が雛見沢症候群を発症させ、私を殺しに来るとは考えられない」
「なるほどな。そこには雛見沢症候群の発病などという偶発的なものではなく、何者かの意思が確かに介入しているというわけだ」
「そうなるわ。そして例外なく起こる死は私だけではないの」
「というと?」
「今年は、毎年綿流しの日になると現れる富竹という男と入江診療所の鷹野という女が殺される。
 最初私は自分の命ばかり考えてたけど、しばらくして彼らの死が私の死に直結していることに気がついた。私が助かるためには彼らにも生きてもらわなくてはならない」
 それから梨花は雛見沢症状群を研究する組織―東京―が存在する事実を明かした。
 富竹と鷹野はその組織の一員で、日本がブリタニアに敗戦した後も変わらず雛見沢症候群を根絶させようとしているそうだ。
 梨花は自らの体内に雛見沢症候群の親玉を飼っていると告げる。話を聞く限り、その組織にとって彼女は女王感染者と呼ばれる存在であり、極めて重要人物らしい。
 富竹と鷹野は研究の存続のため、梨花に危険が及べば守らなくてはならない立場にいる。
 二人を殺す理由は単純明快。梨花を殺すために二人が邪魔なのだろう。
「―と、話が長くなったけど、私が言いたいことは一つしかないわ。ルルーシュ、貴方の力を借りたい。協力してくれるかしら」
「ああ、勿論だ。絶対にお前を死なせはしない」

230:名無しさん@お腹いっぱい。
09/07/11 11:31:32 N9O+/Uzv
乙まってました

231:名無しさん@お腹いっぱい。
09/07/11 22:30:12 S8+AQn99
乙!またもや楽しませてもらった!!

232:名無しさん@お腹いっぱい。
09/07/12 19:22:59 XpfBMyRi
待ってました

233:名無しさん@お腹いっぱい。
09/07/15 13:49:45 GbR72YIw
あう

234:名無しさん@お腹いっぱい。
09/07/15 14:28:17 BP0TmtL3
>>「ああ、勿論だ。絶対にお前を死なせはしない」
これ、ルルーシュの迷惑死亡フラグだろ。

235:名無しさん@お腹いっぱい。
09/07/17 07:59:37 kTvy/Zj9
ついに嘘つき魔王の真骨頂が発動するフラグ&些細な嘘も許さないアノ御方がアレを持ち出すフラグ

236:名無しさん@お腹いっぱい。
09/07/17 22:44:32 M4lOkXlF
嘘だッッッ!

237:名無しさん@お腹いっぱい。
09/07/22 23:33:02 PbnTxS2J
保守

238:名無しさん@お腹いっぱい。
09/07/23 00:04:07 IPmeMrDc
そろそろあげ

239:名無しさん@お腹いっぱい。
09/07/23 20:10:56 oaMRby1R
渇望

240:名無しさん@お腹いっぱい。
09/07/24 14:18:33 K2tEzetw
保守総一郎

241:名無しさん@お腹いっぱい。
09/07/27 08:13:44 4H51Dyp0
咲世子さんハジケてくれー!

242:名無しさん@お腹いっぱい。
09/07/27 09:08:54 MY9I5lC+
補習総一朗

243:名無しさん@お腹いっぱい。
09/07/28 09:54:29 7/cPgtne
そろそろあげ

244:名無しさん@お腹いっぱい。
09/07/29 10:48:05 aGzpIm+3
次が見たいねぇ、まだかねぇ

245:名無しさん@お腹いっぱい。
09/07/31 21:17:54 FpIgAYm8
イイモノってやつのためにはひたすら待ち続けることが出来る

246:名無しさん@お腹いっぱい。
09/07/31 23:59:26 Wkf93GYb
時間だけが築き上げる事の出来る味がある

247:名無しさん@お腹いっぱい。
09/08/02 10:49:19 YfOcCJWN
まだ一ヶ月も経ってない
とりあえずあげ

248:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/08/03 21:33:14 09OMKvyg
やっと少しだけ書けたんだぜ。
たくさん支援さんきゅーな。
最近本当に忙しくなってきたんで、これからどうなるか分からんがお前らがいれば頑張れる気がする。
それじゃ次にうpで

249:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/08/03 21:36:11 09OMKvyg
【12】

「あ、こんな所にいたー! ルル! 梨花ちゃん!」
 硬い握手を交わす俺たちの元に遠方からの魅音の呼び声が届く。
 魅音は肩で息をしながらこちらに駆け寄ってくる。
「どうした、魅音?」
 俺が涼しい顔で訊ね聞くと、魅音は口をあんぐりと開けて非難の声を上げた。
「どうしたじゃないよっ、沙都子が無事救出されたって連絡が着たからルルたちにも知らせようと思ったのに、あんた達どこにもいないじゃん! まったくもーっ、何やってんのこんなとこで! 散々探したよ!」
「ああ、そいつはすまない。で、沙都子は今どこにいる?」
「それがね、鉄平に相当痛めつけられたらしくて、今は入江診療所で怪我の治療をしているみたいだよ」
「沙都子は大丈夫なのですか?!」
 梨花の甲高い声が辺りに響く。
 魅音はそれを聞くと深く頷いて微笑を浮かべた。
「平気だよ、本人はいたって元気。今は憑き物が落ちたようにけろりとしてるよ」
「そう……良かったのです」
 梨花がほっと安堵のため息をつく傍らで、俺も顔を綻ばせた。
「レナは一足先に診療所に行ってる。私たちも行くよ!」
 どうやら魅音は沙都子の容態を人づてに聞いただけのようだ。早く自分の目で確認したいのだろう。魅音が俺たちを急き立てる。
「ルルーシュ、行きましょう!」
 梨花の言葉に頷くと、俺は梨花と共に魅音の背を追いかけるように診療所へ向かった。


250:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/08/03 21:38:00 09OMKvyg

 しばらく小走りで駆けた後、ようやく診療所へと到着した。
 園崎本家からここまで幾らか距離ある。沙都子の安否が気になり、慣れない運動をしたためか身体は熱り、背中はびっしょりと汗ばんでいた。
 自動ドアをくぐるとエアコンのひんやりとした空気が心地よく身体に吹き付ける。するとうだるような暑さが嘘のように退いていった。
 乱れた呼吸を整えて、診療所内を見渡してから魅音に訊ねた。
「沙都子の病室は?」
「ごめん、ちょっと受付で聞いてみるよ。そこまでは電話で教えてもらってないんだ」
「なら僕も一緒に行きますです」
 そう言うと魅音と梨花は受付の白衣の女性に近寄っていった。
 遠目で女の顔を確認する。
 あれは……鷹野か。一見普通のナースに見えるが、たしか彼女もまた入江や診療所のスタッフと共にこの診療所で雛見沢症候群の研究をしているんだったな。
 あまり気が進まないが、近いうち彼女にも話を聞いておくべきだろう。
「ルル、何ぼけっとしているのさ」
「はい……?」
 気がつくとすでに魅音らは受付から戻って来ていたようだ。無意識のうちに呆けた返事をしてしまう。
 そんな俺に対して、魅音は責めるように口を尖らせた。
「もうっ、しっかりしてよ。沙都子はこの奥の個室だって言ってんの!」
「あ、ああ、了解した」
「まったく。ルルはちょっとマイペース過ぎだよ。私は先に行くからね!」
「あ、おいっ」
 魅音は呼び止めの言葉も空しく、一人慌しい様子で診療所の奥へと姿を消していった。
 その場には梨花と俺だけが取り残される。
 最初に口を開いたのは梨花だった。
「ルルーシュ、沙都子が気になるわ。私たちも行きましょう」
「ああ、そうしよう。だが俺はその前にしておきたいことがある。悪いが先に一人で行っていてくれないか?」
 梨花は不思議そうに首を傾げ、たまらず聞き返してきた。
「しておきたいことって何よ?」
「……俺は先ほど雛見沢症候群の急性発症を起こしかけた。俺にはこのままでいいとはどうしても思えない」
 周囲を確認後、声を落として梨花に囁く。
「? 貴方が打った注射―C120は雛見沢症候群の病原性を急速に沈静化させ、無害なレベルまで引き下げる効果を持っているわ。手遅れなケースも当然あるけれど、貴方の場合はもう心配しなくても平気そうだけど?」
「いいや。念のために専門家の判断を仰いだほうがいい」
 俺はあっさりと首を横に振る。梨花は大丈夫だと言っているが、素人判断で病状の良し悪しを決め付けるわけにはいかないだろう。梨花に頼み、入江に病状の検査をしてもらうことにした。
 梨花の話によるとすでに短時間で結果が出る簡易検査も確立されているようなので、梨花の死を回避するために動ける時間もそんなに減るわけではない。
 それに何も検査だけのためにわざわざ入江と接触したいわけではないことも合わせて伝える。
 彼から直接、雛見沢症候群の話を聞かせてもらうつもりだ。
 そう俺が豪語すると梨花は表情を少し曇らせた。
「果たして正直に話してくれるかしら……」
「なんだ、えらく弱気だな?」
「だって、雛見沢症候群の存在はこれまで隠匿され続けてきたんだもの。簡単に答えてくれるとは思えない。最悪、秘密を知る者は東京によって消されるかも知れないのよ……」
「そんなに難しく考えるな。大丈夫、入江ならばきっと快く話をしてくれるだろうさ」
「その根拠は?」
 梨花に聞かれて俺は即答した。
「入江は変人だが、正しく医者だ。彼の性格からしても一度急性発症を起こしている俺を、放っておくことはしないだろう」
 そう……。これから先、俺はいつ雛見沢症候群を再発させてもおかしくはないのだ。
 隠匿されてきた病とはいえ、患者にとって自らの病気を知るのは大事なことだと、入江なら考えるはず。
「ならいいのだけど……でも」
 梨花はまだ納得いかないようだ。
 そんな彼女の頭を軽く撫でると、俺は不敵に笑った。
「心配は無用だ。もし入江が非協力的な態度を取ったなら、こちらもギアスの使用を辞さないさ」


251:名無しさん@お腹いっぱい。
09/08/03 22:09:34 VtK/OnBI
支援

252:名無しさん@お腹いっぱい。
09/08/04 00:53:12 USNHbqhB
投下乙!
少し気になっていたんだけど、ギアス世界準拠の東京ってどれぐらいの力があるんだろうか?
今後の展開でそのあたりは明らかになったりする?

253:名無しさん@お腹いっぱい。
09/08/04 09:50:22 9GEezXlR
また読ませてもらいました 
ブリタニアに占領されていてもトウキョウ疎開に潜んでいるって言う設定なら話が成立するかも

254:名無しさん@お腹いっぱい。
09/08/04 13:41:17 vW+tFqmr
うおっおお

255:名無しさん@お腹いっぱい。
09/08/05 09:02:49 5CvTivsF
ついにキター キター?

256:名無しさん@お腹いっぱい。
09/08/06 12:41:29 XiKLb7QM
時間あいても着々とうpされてくので毎度とても楽しみだよ。支援保守は欠かしませぬ。

257:名無しさん@お腹いっぱい。
09/08/09 18:12:08 IM/SoGP2
保守

258:名無しさん@お腹いっぱい。
09/08/09 21:46:09 B8yAKSVQ
保守してもいいかな?かな?

259:名無しさん@お腹いっぱい。
09/08/13 00:47:34 jfbr4Ovq
支援

260:名無しさん@お腹いっぱい。
09/08/16 12:23:07 DPIS8ZOA
保守なのです

261:名無しさん@お腹いっぱい。
09/08/17 10:39:33 kw3s0Lv/
ルルシーがあると信じて支援

262:名無しさん@お腹いっぱい。
09/08/18 10:33:28 /rj+wIH3
全力で支援

263:名無しさん@お腹いっぱい。
09/08/18 18:34:27 uJ9JFOUA
支援なのです

264:名無しさん@お腹いっぱい。
09/08/20 14:54:44 K4JEAQGc
全力で支援


265:名無しさん@お腹いっぱい。
09/08/20 19:34:40 +AssGfym
支援と保守の違いくらい・・・

それとあんまり上げすぎるなよ。落ちさえしなければいい

266:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/08/23 11:32:52 tL6vuKsM
最近めっきり書き込んでなくてすまん。
いやリアルがちょっと立て込んでてだな。
時間に余裕はあるにはあるが精神的余裕がなくて筆があまり進まないんだ。
なんで気晴らしにコメ返信でもしておくとする。

>>252、253
東京の話は後ほど出てくるんだが、簡単に言うと東京は解体されて入江機関しか機能していないよ。
資金はどこから出てるかは物語中で説明する手筈となってるから詳しくは書かないけど。
それに気分しだいで話の筋が変わる恐れもあるから、下手なこと書けないってのもあるw

>>256
楽しみにしてくれてありがとう!
すまん、今しばらく待っていてくれ。
「入江から雛見沢症候群について問いただす。」
このシーンが一番書いててつまらないところなのでここが過ぎれば筆も進むんじゃないかと思うんだ。


267:名無しさん@お腹いっぱい。
09/08/23 18:40:50 RO85HCJK
期待!

268:名無しさん@お腹いっぱい。
09/08/25 18:01:27 riZqoHtH
コメ返信(笑)ってブログや個人サイトかよ

269:名無しさん@お腹いっぱい。
09/08/25 18:21:04 8BSKhiuO
ニコ厨は巣に帰れ

270:名無しさん@お腹いっぱい。
09/08/28 10:32:26 FqYATq1w
保守するよ

271:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/08/28 21:47:37 zqfuJdgT
ただ疑問に答えただけなのに酷い言われようだな。
まあいいや。あんまり進んでいないけど続き投下するよ。

272:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/08/28 21:48:28 zqfuJdgT
 梨花が沙都子の病室に入って、しばらく時間を置いてから俺は病室の入り口から室内を覗き込んだ。
 事前に聞いていた通り、沙都子は頗る元気そうだった。皆に対して何やら申し訳なさそうな笑顔を浮かべていたが、それでも彼女の安否を確認出来たことに安堵のため息を漏らす。
 納得すると室内へは入らず、ワイワイと雑談に興じる皆に気づかれぬよう一人踵を返した。
 入江と接触するため受付にて診療の手続きをする。病室に行く前に梨花が自分も付き添うと言ってくれたが、沙都子と話したいことがあるだろうと思い、俺はその申し出をきっぱりと断っていた。
 受付での鷹野との会話は二三やり取りをするだけの簡単なもので済まし、待合室の長椅子に腰をかける。清潔感のある真っ白な天井を見上げて一息をついた。
 ……しかし、まさか先日俺が風邪で通院した診療所が謎の奇病の研究をする施設だとは思わなかったな。たしかにひなびた寒村の診療所にしては立派過ぎるとは思っていたが……。そんなことを今更ながら考える。
 三人ほど別の名前が呼ばれた後、自分の番が来る。椅子から立ち上がって診療室へと足を運んだ。
「ランペルージさん。大活躍だったそうじゃないですか」
 診療室に入った早々に入江からそんな言葉をかけられて、俺は呆けた声を上げた。
「はい?」
「またまた。沙都子ちゃんの件ですよ。聞きましたよ、なんでもあの園崎お魎さんを説き伏せたとか」
「ああ、そのことですか。いえ、説得なんてそんな。ただお願いを聞いてもらっただけですよ」
 もっとも、お魎に拒否権はなかったがな。心中でほくそ笑み、入江の前に置かれた背もたれのない丸椅子に近寄る。
「あ、どうぞおかけください」
「失礼します」
 俺は入江に促されて丸椅子に座る。
 そんな俺を前にして入江はうな垂れた。
「しかし、沙都子ちゃんがここに運び込まれた時は本当に驚きました……。まさか彼女がそのような状況に置かれていたとは……」
「無理もないですよ。担任の知恵先生ですらこの間まで知らなかったことですから」
 珍しく真顔で悔いている入江に対して慰めの言葉をかける。
 それにも入江は難色を示す。
「いえ、しかし……私は恥ずかしい……。日頃から沙都子ちゃんために何かしたいと思っていながら、ここぞという時に何も出来なかった……。だから私は……」
 しばらく入江による懺悔が続く。
 俺は一通りそれを聞き終えると、首を横に振って言葉を投げかけた。
「入江先生、それは間違っている」
「え?」
 入江はきょとんとしてただ俺の次なる言葉を待っていた。
「貴方は何も出来なかったというが、沙都子のために最善の治療をしてくれたじゃないですか」
「それは……医者として当然のことをしただけで……。なにも、沙都子ちゃんだから特別というわけではありません」
 俺は再び首を横に振ると同時に入江の手を握り締め、ぽつりと言った。
「その当然に感謝します」
「え?」
 顔を上げ、きょとんとする入江。彼に対して言葉を続ける。
「その当然が出来ない、そんな村のしがらみが沙都子を苦しめていた。なのに貴方は医者としてそれを当然と言ってのけた。ならば貴方は出来たんだ。言い切ってもいい。もし仮に今回の件を貴方が知っていたなら、貴方は沙都子を助けるために少しも協力を惜しまなかった」
「ランペルージさん……」
 入江は身体を震わせ、一抹の涙を零した。その様子を見られまいと、白衣で隠すようにして涙を拭うとすっと立ち上がった。
「……ちょっとコーヒーを持ってきますね。待っていてください」
 そう震えた声で言うと返事も待たずに診療室を出て行く。
 俺はその後姿を黙って見送った。

273:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/08/28 21:49:21 zqfuJdgT

 数分後、コーヒーの香りを漂わせて入江は診療室に戻ってきた。手には二人分のコーヒーカップを乗せたトレイを持っている。
「インスタントで申し訳ないのですがどうぞ」
「ありがとうございます」
 カップを一つ、火傷に気をつけながら受け取る。
 エアコンの心地よい冷風もそろそろ肌寒く感じてきたところなので、温かいコーヒーだったのがとても嬉しい。ありがたくカップを口に運んだ。
 入江は一度コーヒーを啜ると、それから遠慮がちに口を開いた。
「ところで……今日はどんなご用件で? もしやまだ風邪が治られてないとか」
「いえ、今日は別件です」
「別件?」
 怪訝な顔で聞いてくる入江。さてどう話を切り出すべきか……。
 しばらく思案した後、結局単刀直入に聞くのがベストだという考えに至り、入江に詰問する。
「雛見沢症候群について分かることを教えていただきたい」
「なっ……」
 入江は俺の口からそんな話題が飛び出すなどまったく予想だにしていなかったのだろう。驚きで声を失っていた。
 それでも必死に誤魔化すように稚拙ながら言葉を紡いだ。
「な、なんですか? その雛見沢症候群とは一体……?」
 入江は視線を逸らし、机に置かれたカルテを手に取った。
「すみません、急な仕事を思い出したのでお引取り願えますか」
 俺の返事も待たずに捲し立てるように言葉を連ねる入江。その表情にはあからさまな焦りが見え隠れしていた。
 俺は間髪いれずに首を横に振り入江を追い詰めた。
「妙な誤魔化しは無用です。粗方のことは梨花から話を聞いて知っていますから」
「え、古手さんから、ですか……?」
「ええ。ですから入江先生、あまり手間を取らせないで欲しい」
 入江は梨花の名を出され、観念したようだ。深いため息を付くと、徐に二口目のコーヒーを口に運び入れた。
「どこまでご存知なんです……?」
「その問答に意味はないでしょう」
「そう、ですね。……では、逆にお尋ねします。何故古手さんは貴方にその話をされたんですか?」
「それは――」
 入江の疑問に対して一呼吸置くと、俺は自らが発症に至るまでの経緯をこと細かく打ち明けた。


274:名無しさん@お腹いっぱい。
09/08/28 21:58:29 JbZFET6f
支援

275:名無しさん@お腹いっぱい。
09/08/29 13:29:54 QN66iqHw
待ってました

276:名無しさん@お腹いっぱい。
09/08/31 20:43:41 0eVxMgy+
待っていたぜ!

277:名無しさん@お腹いっぱい。
09/08/31 23:54:36 v2In1WD0
>>276
ageるなよ

278:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/02 22:50:31 k0wNSx6y
相変わらず物語の情景が想像しやすい良い文章だなー
楽しませてもらった!!

279:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/02 23:34:19 0NbCbCqH
>>268
は文才ないから嫉妬してるだけだから気にすんなよ!

支援

280:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/03 23:16:48 WgB9hH8Z
なんじゃらほいってきたら、放ったらかしよりも
こうでんねんってきたほうが気持ちいいよな。。

リアルも根詰めずがんがれー

281:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/06 13:29:46 gBQXaRrw
保守ですわ

282:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/11 16:37:11 lOvpXcbK
保守しときますよ、んっふっふーん

283:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/11 18:50:47 UcQRKKZ1
コココココ…貴方には 素質があります

284:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/09/12 12:22:30 kEGuErho

 俺は一部始終を―勿論ギアスの件は伏せているので全てというわけではないが―入江に淡々と話して聞かせた。その間入江は相槌以外ずっと無言だった。
 話が一段落着くと、すぐに簡易検査をする事となった。
 検査は実に単純なもので、採血をして血中のアレルギー物質の濃度を測り取り、試薬との反応を見るといったものだった。場所は極普通の診療室でひっそりと行われた。
 本当なら地下に存在する雛見沢症候群専用の研究施設で検査したいようだったが、鷹野に知られると面倒になるとのことで入江は諦めたようだ。
 梨花から鷹野は東京の監視員と聞いていた。主な任務は入江機関の監視だが、同時に雛見沢症候群の存在の隠蔽も行っている。
 山狗という不正規部隊を率いて、機密保持のためなら如何なる手段も躊躇なく使用し、情報漏洩の危険を排除する。その中には当然というべきか殺人も含まれるそうだ。
 だから、鷹野から情報を得る際には大事を取ってギアスを使おうと思っていた。
 それに対して、入江は雛見沢症候群について他言しないことを条件に何のリスクもなく質問に応じてくれるので都合が良かった。検査の間、俺は思いつく限りあらゆる疑問を投げかけていた。
「―ええ、そうです。古手さんが女王感染者と呼ばれ、研究対象として大変重要な人物であるのは本当です。
 事実、彼女の協力によって雛見沢症候群の研究は大きな躍進を遂げました。貴方の使用したC120も彼女がいなければまず完成には至らなかったでしょう」
 入江は治療薬の進歩を梨花のおかげと言う。そこには自分の手柄だという慢心は一切見えない。改めて入江の人の良さを垣間見た気がした。 
「それでは梨花が死ぬと村人が一斉に急性発症を起こすというのも事実なんですね?」
「そんなことも知っているんですね……。ええ、その通りです。
 もし仮に古手さん……いえ、女王感染者が何らかの理由で死亡するようなことがあれば、全ての感染者が48時間以内にL5急性発症を起こし、暴徒と化した人々で雛見沢は生き地獄になります。
 ……隣人を憎しみ疑い、昨日まで食事を囲んで笑い合っていた家族さえ信じることが出来なくなって殺し合う。想像するだけでも恐ろしい未曾有の生物災害となるでしょう」
 入江は試薬を秤量する手を止めて、一気に捲し立てる。
 事前に梨花からその話をされていたものの、俺は入江の口から物語られる凄惨な光景を想像してぞっとした。

285:雛見沢住人 ◆xAulOWU2Ek
09/09/12 12:24:15 kEGuErho
 入江は一度静かに口を結び、再び口を開いた。 
「ですが、それはまず起こりません」
「何故です?」
「そういう事態に備えて緊急マニュアルというものがあるんです」
「緊急マニュアル?」
 それは初耳だった。おそらく梨花も知らない情報だろう。詳しく聞く必要がある。
 入江は表情をさらに強張らせた。
「……これは、古手さんにとって刺激の強い話です。彼女にも内緒にすると約束……いえ、誓ってください」
「ええ、分かりました。誓います」
 強く念を押してくる入江に俺は深く頷いた。
 無論そのような約束は反故だ。入江には悪いが梨花とは協力体制を取っているのだから、どんな気分を害する情報であれ伝える必要があるし、中には梨花が知ることによって初めて意味を持つ情報もあるだろう。
 入江は俺が即答したことに誠実さを感じたのか、こくりと頷き返し、ゆっくりと話し始めた。
「先ほどお話した通り、女王感染者は云わば爆弾の導火線なんです。その爆弾は爆発すれば恐ろしい事態が起きてしまう。……それを非人道的に処理するのが通称、滅菌作戦と呼ばれる措置です」
「非人道的に処理? ……っ、入江先生それはまさか!」
 入江はわざと言葉を選んで直接的な表現を避けているが、俺には彼の言いたいことが十分すぎるほど理解できた。
 入江は何を言うでもなく、ただ深く頷いて俺の想像を肯定する。その様子を見て取って、俺はある種の絶望を抱かずを得なかった。
 やはり非人道的な処理方法とはそういうことなのか……。
 もし仮に爆弾が破裂すると大変なことが起きると分かっているならば、爆発する前にその問題の爆弾を摘出してしまえばいい。
 摘出とはつまり……感染者の完全な消去。皆殺し。大虐殺となるわけだ。
 緊急マニュアル三十四号―滅菌作戦とやらが発動すれば、誰が何をしようと間違いなく雛見沢は終わる……。
 いや、ここは恐れ慄いている場合じゃないはずだ。梨花殺害の動機は十中八九この件が関係している。未だ動機は不明だが、上手くいけば梨花殺害の犯人の正体に近づけるかもしれないのだから。
「もしその事態が起きたとして、得する人間はいませんか?」
 俺は思い切って、さらに踏み込んだ質問をする。それは動機の追究。子供向けの漫画やアニメならともかく、こんなテロレベルの事件を起こしてただ喜ぶのが目的の悪人など現実には存在しない。そこには確かに何らかの利益、理由があるはずだ。
 しかし入江は驚き顔で即答した。
「まさか、そんな人間がいるはずありません」
「では質問を変えましょう。その緊急マニュアル、滅菌作戦の内容を熟知している人間を教えてくれませんか」
 そう訊ねると突然入江は重苦しい表情で押し黙った。 どうしたことかと不思議に思っていると、入江は鋭い目つきでこちらを窺ってきた。
「……おかしいですね、ランペルージさん」
「何が、です……?」
「貴方は再発を防ぐために雛見沢症候群について知りたいと言った。ですが思い返せば、貴方が聞いてくることは先ほどから対症療法とは関係ないことばかり。どうしてですか」
 入江は俺を値踏みするように見据える。
「いや、それは……」
 しまったと思った。情報を引き出すことばかりに夢中になり、疑いの目を向けられる危険を考えていなかったのだ。
 もし入江に嫌疑―どこかの諜報員かそれに順ずる何かの容疑―をかけられようものなら、遅かれ早かれその疑いは鷹野の知る所となり、疑わしきはクロのルールに従って俺は鬼隠しにされてしまうことも十分ありえる。
 何とか誤魔化さなければ……。嫌な汗が頬を伝った。
 


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