佐々木「キョン、ファイターズの開幕第三戦が始まるよ」at NEWS4VIP
佐々木「キョン、ファイターズの開幕第三戦が始まるよ」 - 暇つぶし2ch88:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
10/03/22 22:00:18.91 djZt5pr70
 

89:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
10/03/22 22:22:14.70 djZt5pr70
 

90:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
10/03/22 22:41:48.80 djZt5pr70
 佐々木と一緒に観戦した開幕カードも、終わってみれば一勝二敗の負け越しだ。

 今日こそ胸の空くような大勝を収めたが、連敗した試合は見ているこっちが可哀想になってしまうような展開が続いてしまったのだ。

 こんなことなら、佐々木と連れ立ってどこか恋人らしいところへでも行けばよかったかもしれないな。

「悪いな、佐々木。せっかくの三連休だったってのに、どこにも連れてってやれなかった」

「いいのだよ。僕にとっては有意義な時間を過ごせたのだから」

「せめてどこかお前の行きたいところにでも連れてってやりたかったよ」

「ふむ、それならば」

 佐々木は一瞬迷うような仕草を見せたものの、いやに思いつめた表情で、

「北高に行きたい。キョンがどういった場所で高校生活を送っていたのか、僕は知りたい」

 それって今からか? 俺は別に構わないが、今からだと遅くなるぞ。

「うん、今日でなければだめなのだ」

 よりにもよって北高とはな。まったくもって恋人らしからぬ場所を選んでくれるものだ。

 やれやれ、ハイキングコースで音を上げるなよ?

91:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
10/03/22 22:42:30.05 djZt5pr70
 肌寒さの僅かに残る風を切り、二人乗りの自転車を走らせる。

 佐々木はぴったりと抱きついていて、背中に柔らかな温もりを伝えてくれる。顔がやけに熱いのだが、それはじりじりと照りつける夕日のせいだけではないのだろう。

 なんとなく中学時代を思い出しちまうな。佐々木を荷台に乗せ、駅前の塾へと通っていたあの頃を。

 運命なんてわからないものだ。あの時の俺は佐々木とこんな関係になれるだなんて思ってもみなかっただろうな。

 今の俺はなんと幸せなことなのだろうか。こんなに幸せでいいのかと自問してしまうほどに満ち足りている。

 この時間が永遠に続いて欲しいなどというこっぱずかしい願いを、思わず神様に祈りたくなるくらいだ。

 神様なら俺のすぐ後ろに鎮座してるっていうのにな。

92:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
10/03/22 22:43:20.50 djZt5pr70
「へぇ、ここがキョンの教室なのだね」

 サイクリングとハイキングという変則バイアスロンにめげた様子もなく、佐々木は楽しげに校舎を巡っていた。

 まぁサイクリングについては俺が漕いでたんだから、佐々木が元気なのも当然か。

 当の佐々木はといえば、俺が一年間を過ごした二年五組の教室をものめずらしそうに見てまわっていた。

 まったく、教室なんてものはどこでもたいして変わらんだろ? それともお前の学校は冷暖房完備でペンタブレット式のPCでも備え付けられてるのか?

「そこがキョンの席なのだね」
 
 習慣的に自分の席へと腰を下ろした俺を、なぜか佐々木はにやにやとした笑みを浮かべながら鑑賞していた。

「ふふ、するとここが涼宮さんの席なのかな?」

 昔から勘の鋭い奴だったが、ハルヒの席を一発で当てるとは少し驚いた。古泉あたりが橘経由でいらん情報を流してるのかもしれないな。

 隠すようなことでもないから、素直に白状してやるよ。席替えの時の団長様は律儀にも毎回能力を使用なさっているようで、高校入学以来、俺の後ろにはハルヒ様が鎮座されてるぞ。

93:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
10/03/22 22:44:17.01 djZt5pr70
「ふむ、いい席だ」

 眺めるのにも飽きたのか、佐々木がハルヒの席に腰を落ち着けていた。

 ハルヒの席に座っている佐々木を見るのはなんとなく不思議な感じがする。ハルヒのデフォは怒り顔だからな、対照的な表情を浮かべる佐々木だと違和感があるのだろう。

「涼宮さんはずっと、すぐ後ろの席でキョンのことを眺めていたのだね……」

 佐々木、妙な言い回しをするんじゃない。あいつがただの平団員にそんな感慨を向けるわけがないだろ。

「そうかい? ならばそういうことにしておこう」

 やれやれ、お前の考えは高尚すぎて、たまに理解できなくなるぞ。

 さて、そろそろ満足したか? 日も落ちてきたし、そろそろ帰らないとお前の親が心配するぞ。

「そうだね。……キョン、もう一ついいだろうか。最後にキミ達の部室に行きたい」

94:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
10/03/22 22:45:04.38 djZt5pr70
 意外にも部室は無人だった。長門だって休日まで部室に来るほど暇があるわけではないだろうし、当然と言えば当然か。

 ま、長門がいた場合に備えて、いろいろと考えていた言い訳が無駄になっちまったがな。

 佐々木はというと、やはりもの珍しそうに周囲をしげしげと眺めている。

 そんな佐々木を邪魔するまいと、いつもの定位置に置かれたパイプ椅子に腰をかけたのだが、なぜかその張本人が近寄ってきた。

「佐々木、どうかしたのか?」

「キョン、そのまま。じっとしていて……」

 と告げるや否や、佐々木は俺が座っている椅子に腰を下ろした。って何やってんだよっ!

「ごめん、キョン……。このままで居させて欲しいんだ」

 消え入るような佐々木の声に抵抗する気も失せてしまった。正直に白状してしまえば、そんな気なんてほとんどなかったけどよ。

 それにしても、こんなことになるなら部室のドアに鍵をかけて置けば良かった。まかりまちがっても、この現場を見られてはいけないのだ。特に、忘れ物を取りにきた谷口なんかにはな。

 お姫様だっこのような体勢で、俺の胸に顔を埋める佐々木。ただならぬ気配に、どう声をかけたものかと逡巡していると、心臓の辺りから声が聞こえてきた。

「ちょっと話したいことがあるんだ。このままで聞いて欲しい」

 佐々木の意図は読めないものの、ここで拒否できるような度胸を持ち合わせていない俺は、手短にわかったとだけ答えた。

「キョンは、半年前の賭けを覚えているかい?」

95:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
10/03/22 22:45:51.97 djZt5pr70
 賭けと聞いてピンとくるものがあった。

 一つは、俺と佐々木が付き合うきっかけとなったもの。そしてもう一つは、佐々木がハルヒたちと取り付けたものだ。

 もう半年近く前のことになるのか。妙なきっかけで付き合い始めた俺と佐々木の関係を、ハルヒたちに報告した時の出来事である。

 佐々木が発した突然の告白に、ハルヒは激昂し、長門はなぜか禍々しいオーラを発し、そして悲しいことに朝比奈さんは俺たちを祝福するという、三者三様の反応を見せてくれた。

 そこで話が終われば、スラップスティック学園ラブコメとして当たり障りのないオチがついたのだが、その際佐々木はとんでもないことを言い出したのだ。

 『2010年日本シリーズの優勝チームを応援していた者が俺をどうにでもできる』という賭けを提案したのである。

 そんな賭けをしていったい誰が得をするのかという俺の感想とは裏腹に、SOS団だけでなくSOS団佐々木支部のメンバーまでこの賭けに乗ってしまったのだから世の中というものはわからない。まぁそのおかげで場の混乱は治まったんだがな。

 そんな幕引きもあって、俺は混乱した場を治めるための方便であったと解釈していたのだが、発案者はどうやら本気であったらしい。

「冗談であるはずがないだろう。あのようなことを戯れに言えるわけがないではないか。……特に涼宮さんたちを前にしてね」

 いや、仮にお前がそう思ってても、ハルヒたちが本気になるとは限らないだろ?

 それに俺たちはこうして付き合ってるんだ。万が一、いや億が一の可能性として、誰かが俺にとびっきりの好意を持っていてくれたとしても、

 佐々木と別れろなんて非常識なことを言える奴なんているはずがない。その根源が理性的なものか、立場的なものかって違いはあるだろうがな。

 それにいくらなんでも、野球の結果に己の命運を託すなんてのは、正気の沙汰とは思えないぞ。

「僕たちを取り巻く世界が特定の人物による意思を介在しない環境ならば、キョンの言うとおりさ。しかし、そうではないだろう」

96:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
10/03/22 22:47:40.86 djZt5pr70
「かつて古泉くんが言っていたそうだね。涼宮さんは無意識的に世界を改変してしまうと」

 よく考えてみろよ。お前に力を半分譲与する前のあいつならともかく、今のハルヒにそんなことができると思ってるのか?

 それに、恋愛を病気だと思っているような奴が、俺に相応しい相手と結びつくよう世界を恣意的に改変するとでも言うのかよ。

「キョン、涼宮さんはこういった機微に対して敏感なのだ」

 ―去年の春、僕と言う存在を意識した彼女が、キョンとの関係を慮って世界を分裂させてしまったようにね。

 未だに食い下がる佐々木に、俺は少しばかりイラつき始めていた。どうやったらこの妄言を諌められるかってことについて頭をめぐらせていたのだ。

 しかし、次の瞬間俺の頭は真っ白になってしまった。他ならぬ佐々木の言葉によって……。

「キョン、僕はこの世界を改変するよ」

97:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
10/03/22 22:48:28.15 djZt5pr70
 佐々木、俺の耳がおかしくなっちまったみたいだ。すまんがもう一度言ってくれないか。

「僕はこの世界を改変するよ。涼宮さんたちが僕に気兼ねすることなく、キョンに対する思慕を発揮できるようにね」

「賭けに関する記憶を保持させたまま、この地域の時間を一年だけ遡行させる。そうすれば、誰もが公平な立場でそれぞれの想いを達成させることができるのだ」

 いきなりすぎて意味がわからない。さっきの賭けからどうすれば、世界改変なんてことに繋がるんだよ。

「僕はね、罪深いのだ」

「涼宮さんたちの想いを知りながら、キョンと二人だけで他愛もない賭けをして、キミを手に入れてしまった」

 佐々木、それを言うなら悪いのは俺じゃないか。あの時のお前は、俺に振られることを望んでいたんだろ?

 そうだ。あの時の佐々木は、俺に対する気持ちを断絶することを望んでいたのだ。それを俺が無理矢理に丸め込み、佐々木に交際を強要したのだから、寧ろ被害者はこいつであると言っていいくらいだろう。

「そうだね。確かに僕はキョンに抱いてきた気持ちを振り切ろうとしてた。でも、だからといって他の人を差し置いてキョンを手に入れたことには変わりはないのだ」

「涼宮さんや長門さんが、その想いを抑えつけていたのに……。僕は目の前に訪れた幸福に、結局は飛びついてしまったのだ。盗人のようにね」

 言葉がでなかった。

 ハルヒや長門の想いについて、俺が口を挟むのは失礼にあたる気がするから触れないでおくがな、だからといって、お前が身を引くようなマネをして、一体誰が喜ぶっていうんだよ。

 それとも何か? 口にするのも寒気がするが、お前は俺のことが嫌いになったとでも言うのかよ……。

「そんなこと、世界が千々に砕けようともありえないことさ」

98:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
10/03/22 22:49:35.42 djZt5pr70
「去年の四月、偶然にもキョンに再会できたあの日を昨日のことのように感じているよ」

「自らが選択した道とはいえ、キョンを失い、勉学に追われる毎日に身も心も疲れ果てていた。そんな僕が再びキョンに出会えたのだ」

「あの時の胸の高鳴りといったらなかったよ。昂奮のあまり、妙なことを口走っていかなったかと、あとになって心配してしまったほどさ」

「キョンに再会したあの日から……、ううん、それよりもずっと前から、僕の気持ちはキョンだけに向かっていたのだよ」

「そして、付き合ってからもその気持ちが変わることなんてなかった。こんなにも欲張りな僕に、一瞬たりとも不満を抱かせることなく不断の愛を注いでくれたのだからね」

 そんなたいしたもんじゃねえよ。それは、ただお前がかわいかっただけで……。別に大層な気概があったわけじゃない。

「キョンはなかなかどうして口説き上手なのだね。僕という存在への思慕だけで、あれほどの情愛を生み出せるのだ。今を手放すのが、本当に……、本当に辛いよ」

 だったらそんなふざけた真似なんかやめちまえよ。

「僕は本当に幸せ者なのだ。世界の誰よりもという言葉も決して比喩ではない。キョンは、僕の陳腐な想像力など及びもつかないほどに、あらゆる幸せを与えてくれたのだ」

「だから、僕は罪深いのだ。もしこれが偶然に転がり込んできたものならば、この幸せを享受すべきであった正当な持ち主に対して返さねばならないのだ」

99:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
10/03/22 22:51:12.80 djZt5pr70
 佐々木、冗談も大概にしろよ。俺はそんなこと認めないからな。

 お前を失うと聞いて、『はいそうですか』なんて答えられるわけがないだろ。

 これでも俺はこの世界に執着してるんだ。それを止めるためだったら、どんなにこっぱずかしいことだってやってやるさ。

 二年前の五月、ハルヒが世界を改変しようとしたときを思い出してた。この方法ならば、あるいは佐々木を止められるかもしれないと―

「佐々木、二度は言わないからよく聞いてくれ。俺はお前のことが好きだ。愛している。昨日お前が語ってくれた妄想語りを実現させてもいいって思えるくらいにな」

 そして柔らかな感触が伝わってくる。そうだ、これでいい。こうすればきっと佐々木だって思い直してくれる。

 俺の気持ちが佐々木に伝わってくれれば、きっと―

「キョン、ありがとう。そしてごめんね……」

 佐々木の返答に、全身の肌が粟立つような寒気を感じずにはいられなかった。

「僕の世界改変のトリガーは、これだったのだ……」

 夕闇に染まっていたはずの部室が、白い光を帯び始める。

 かつてこの色を見たことがある。橘の案内で潜入した、佐々木の閉鎖空間で見たあの光と同じ色だ。

100:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
10/03/22 22:52:10.55 djZt5pr70
「世界改変の動機において重要なのは、僕たちの関係なのだ」

「僕のたわ言を聞いたキョンが付き合いきれないと言って、僕の元から離れてしまうのなら、世界を改変する必要なんてなくなってしまう」

「悲しいことだが、僕たちが別れてしまえば争奪戦の参加者は対等な立場となるからね」

「だから、僕の我侭を聞いてなお、僕のことを好きでいてくれたなら……、世界改変が発動するようにトリガーを設定したのだ」

 佐々木の言葉が遠く響くようにかすれていく。

 胸の中にいたはずの恋人を、白い闇が奪い去っていくように。

「キョンから離れ離れになるなんて耐えがたい苦痛だよ。本当に身を引き裂かれるような思いさ……」

「でもね、僕は安心して新しい世界に旅立てるよ……。こんな救いようもない僕を最後の最後まで愛してくれたのだから……」

「僕は、確信しているのだ。また親友から始まるけれど、再び互いを求め慈しむ恋人という関係になることを」

「だから僕は心から願える」

「二人が何の翳りもなく愛し合える世界の訪れを―

 世界が白く染まっていく。あたたかな光の奔流が全てを飲み込むように。

 佐々木を失った俺は、上下さえなくなった世界で一人暗澹たる気持ちに沈んでいた。

 実際に沈んでいたのかもしれない。無力な俺は、圧倒的な白い闇にただただ身をゆだねていただけだなのだから。

101:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
10/03/22 22:52:59.50 djZt5pr70
 佐々木のいなくなった世界で、俺は一つの想いを胸に刻みつけていた。

 それはなんとしても佐々木を取り戻すという意思だ。

 佐々木、ふざけるのも大概にしろよ。自分勝手に何でもかんでも決めちまいやがって。

 俺は怒ってるんだ。僕の告白を断って欲しいなんて言っておきながら、こんな仕打ちをしてくれたんだからな。

 だからこそ、俺はまたお前と一緒の未来を選んでやる。記憶が消えても、時間が消えても、俺は絶対にお前との未来を掴み取ってやるからな。

 だから佐々木、もうそんな悲しい顔をするのはやめてくれ―

102:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
10/03/22 22:53:57.03 djZt5pr70
「ョ……ん、……て」

 ……なんだよ。

「キョ……ん、お……よ」

 うるさいな。静かにしてくれ。

「もう、キョンくん起きてよ! お客さんだよ!」

「んぁ?」

 目を開けると、妹が俺の肩をつかんでガクガクと揺らしていた。おい、そんなに激しく揺すったら揺さぶられっ子症候群になっちまうだろ。

「わかったわかった。起きるから手を離してくれ」

 テレビで野球を見たあとにリビングのソファーで寝てしまったらしい。春眠暁を覚えずとはよく言ったものだ。今は暁どころか夜だけどな。

 それにしても、なんだかおかしな夢を見ていた気がする。とても長い長い夢だ。

 胸中に残った夢の余韻がやけに悲しいものだった気がするのだが、覚醒し始めた意識に追いやられるようにして夢の断片が深層へと沈み込んでしまう。

 なんだったんだろうな、あの夢は―

「キョンくん! お客さんだってば!」

 まったく、微睡みの余韻に浸る風情すら与えてくれないのか。あと二週間足らずで六年生になろうとしているのに、我が愚妹は……って、客だと?

103:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
10/03/22 22:54:57.66 djZt5pr70
妹に追いやられるようにして玄関に足を運ぶと、そこには長門が待っていた。

 どうしたんだ、こんな時間に。

「あなたの存在が危険に晒されている」

 いきなりぶっそうなことを言い出しやがった。

「あなたの身柄の所有権を巡って、争奪戦が繰り広げられている」

「その争奪戦の内容とは、日本プロ野球機構に所属する十二球団を対象とし、2010年日本シリーズにおいて優勝した球団を選択した人物にあなたの所有権が与えられるというもの」

「なぜこのような手法をとったのか原因不明。首謀者も不明である。しかし、わたしやあなた以外にもこの争奪戦に参加している人物がいるという情報を得た」

 真剣な様子の長門とは対照的に、当の俺はあっけらかんとしていた。

 長門の言葉は、一年前の五月を思い起こさせるような内容であったが、その争奪戦とやらに心当たりがあったからだ。

 いつどこでだれと交わしたのか思い出せないが、そのような約束を確かにしていた。

 その記憶には恐怖などといった暗い色は微塵もない。ただ単純に勝つという強い意志が込められていただけなのだから、警戒する必要など微塵もないのだ。

104:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
10/03/22 22:56:18.94 djZt5pr70
「長門、お前が応援するチームってどこなんだ?」

 俺の意図を探るように数ミリ単位で首をかしげた長門ではあったが、質問の意味を理解したのか端的に回答を行った。

「東京ヤクルトスワローズ」

 そうか、それはよかった。

「長門、お前の家に遊びに行きたいんだが、いいか?」
 
「いつ?」

「金曜の午後6時だ。一緒に開幕戦を見ようぜ」

「了解した」

105:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
10/03/22 22:57:34.50 djZt5pr70
 長門を自転車に乗せ、マンションまで送り届けたときのことである。
 
「これをあなたに」

 長門は小さなシルバーリングを差し出していた。手にとって良く眺めたのだが、まったくもって覚えがない。それにサイズが合っていないのだから、俺へのプレゼントでもないのだろう。

 本当に俺が持ってていいものなのだろうか。長門に限って人違いなんてことはないだろうが、一応確認してみるべきだよな。

「わたしの部屋に置かれていたものであるが、わたしの所有物ではない。そして、この指輪にはあなたに渡して欲しいという意味の言葉が残されていた」

 石はついているものの、デザインは簡素で高価なものにはとても見えない。けれど、不思議と胸を締め付けてくる。

 不意にポタポタという水を打つような音がアスファルトから響いてきた。雨でも降ってきたのだろうか。

 そして長門はなぜかハンカチを俺に差し出している。純白の布地に水色の刺繍糸で雪の結晶があしらわれていて、なんとも長門らしいハンカチだ。

 けれど長門はなぜハンカチなんか出しているんだ? そのハンカチの評価でも聞きたいのだろうか?

 ―と、ここで全ての意味を理解した。

 俺は泣いていたのだった。指輪が原因なのかもしれないが、どうしてこんなものが俺を悲しい気持ちにさせるのかまったくわからない。

 混乱する俺に構うことなく、そして胸の虚空を埋めようとするように、あとからあとから涙が溢れてくる。
 
「――」

 嗚咽の中で漏れ出た声はなぜだろうか、誰かの名前のように聞こえた。

                                       <セ・リーグ開幕戦につづく>

106:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
10/03/22 23:02:54.85 djZt5pr70
これからですが、キョンの応援する巨人を中心に
なるべくテレビ中継のある試合をフォローしたいと思っています。

次回は3/26の17:50頃にスレを立てる予定です。
規制など不測の事態も予想されますが、もし見かけましたら是非お付き合い下さいませ。


107:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
10/03/22 23:20:18.26 wPigFykj0
>>106
乙、そしてGJ!
まさか本当にシーズン通してやるとはw
佐々木が交流戦までお預けっぽいのは残念だが次回以降も楽しみにしてます^^

108: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
10/03/22 23:34:03.32 RfpV0C/oP
おつ!佐々木がでないっぽいのは残念

いちはどこファンなの?巨人?


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