10/04/30 22:59:25
(以下引用)
扇動社会1
「外国人が島奪う」
参政権反対メール殺到
群青に染まる太平洋。八丈島から飛び立ったヘリコプターの窓に、断崖に囲まれた活火山
の島が現れた。東京港から南へ358キロ、青ヶ島は外周9キロの孤島だ。人口167人。秦の
始皇帝の命令で、不老不死の薬を探す徐福らの一行がたどり着いた、という伝説が残る。
今年1月。青ヶ島村役場でパソコンを開いた吉田昌信総務課長(36)は驚いた。
《国家滅亡の危険》
《外国人に占領される》
外国人の地方参政権に反対するメールだった。その後2週間、届くメールを削除し続けた。
「いったい何なんだ」
同じころ、他の伊豆諸島や小笠原諸島にも似た内容のメールやファクスが殺到した。老人
ホームや小学校、民宿・・・・・・。1日に千通を超えるメールを受け取った人もいた。
島々を選挙区とする東京都議補選が近づいていた。自民が保つ議席に、政権交代を果た
した民主が挑んだ。主な争点は島の振興策だった。だが、島の現実とは無関係に、ネット
では侵略への「警告」が拡散していた。
青ヶ島に中国人が大量移住。島が独立し、中国と同盟。在日米軍を封じ、中国が台湾と
沖縄を侵略する─。
昨年11月、東京都武蔵村山市の天目石要一郎市議(41)はそんな筋書きをプログに書いた。
宝島社が今春出版した本に、これをもとにしたシミュレーション小説が載った。青ヶ島に注目
したのは、村が全国で最も人口が少ない自治体だからだ。「村長選が10票ほどの差で決まる。
わずかな人を動かせば牛耳られる。国防の盲点です」
西に約千キロ、朝鮮半島に近い長崎県対馬では2008年秋、島外から来た市民団体の
シュプレヒコールが響いた。
「対馬市民のみなさん、目を覚ましてください!」
「これは戦争なんです!」
近年、韓国人の旅行客が急増している対馬。08年には島の人口の倍にあたる約7万2千人が
訪れ、韓国人向けの宿泊施設もできた。市民団体は土地の買い占めも進むと主張。「朝鮮人
をたたきだせ!」と叫んだ。市民団体の代表は市議会議長らとも面会し、自説を展開した。
今年3月下旬。対馬市議会は、この市民団体が持ち込んだ外国人参政権反対の意見書を
一部修正して採択した。外国人参政権への反対や慎重な審議を求める意見書を可決したり
請願を採択したりした県議会は35。急速に広がるうねりの中で「国土が侵略される」という話が、
日本の端々で叫ばれる。
青ヶ島などに送られたメールをたどると、あるプログに行き着いた。その主が都内在住の
ジャーナリスト、水間政憲氏(59)だ。外国人参政権反対や民主党批判の言葉とともに、メール
やファクスの送り先として、伊豆・小笠原諸島の150件以上の連絡先があった。
「メディアがきちんと報道していれば、ネットの人たちが心配することもなかった。日本を危険に
したくないという善意の行動でしょう」。
水間氏は、島々に殺到したメールについてそう語る。
(>>2に続く)
(朝日新聞 2010年4月29日 朝刊39面より引用)