10/03/25 23:29:21
(>>2の続き)
●中国勢の急成長に怯える
「脱エレクトロニクス」を図る今後の成長戦略で、再び照準を日本に絞ったサムスン。足元の業績
を見ても、その死角を見出すのは難しいようにみえるが、決して彼らも盤石ではない。彼らは今、
中国勢の台頭に戦々恐々としている。
中国の技術水準の上昇スピードは予想以上で、最近では「このままではサムスンとて中国企業に
負けてしまう」と指摘し始める業界関係者も出始めた。かつて、自らが日本から技術と市場を奪い
取って急成長を果たしたが、今度は、中国勢が猛追するという姿が重なる。サムスンの危機感は
人一倍だ。先を走る日本と急速に追い上げる中国に挟まれ、身動きが取れなくなる状態を表現した
「韓国経済のサンドイッチ危機論」とは、サムスンの李健熙前会長が指摘した有名な言葉である。
実際、中国の景気刺激策「家電下郷」によって台頭した地元企業によって、サムスンは家電製品
分野で中国市場から駆逐され始めている。〇八年に市場シェア一一%でトップを快走していた
液晶テレビは、〇九年上期で同五%、八位に後退した。代わって台頭した上位五社はいずれも
中国勢であった。
また半導体や液晶パネルといった先端分野でも、その兆候が現れている。半導体では中芯国際
集成電路製造(SMIC)、グレース・セミコンダクター(GSMC)、上海先進半導体製造(ASMC)
などが存在感を急速に増しており、液晶パネルでも吉林彩晶や上海広電集団(SVA)などの中国
企業が生産量を伸ばしている。
こうした中国勢の台頭に危機感を抱くサムスンでは、半導体など先端分野の技術情報の流出に
異様なほど神経を尖らせている。特に技術情報が集まる生産工場での対策は徹底している。
ソウルから車で一時間、半導体の主力工場の一つである器興工場を訪れた日本人ビジネスマン
によると、「正門と建物とを結ぶ道路脇に面会専用施設が設けられている。サムスン社内の人間
と外部の人間との接触は、すべてその施設内に限られ、原則社屋への立ち入りを一切許可して
いない。外部訪問者のみならず、敷地を出入りする全社員にまで撤底したボディチェックと赤外線
カメラによる空港の通関同様の厳重な持ち出し物検査など物々しい軍事施設並みの検査が義務
付けられていた」という。
これまでも韓国は「スパイ防止法」などで国家の重要技術の流出を懸命に防いできた。有名な事件
としては数年前、サムスンのエンジニアが中国企業に携帯電話端末の技術情報を漏洩したとして、
逮捕、起訴された。エンジニアが利用したタクシーの運転手の通報によって事態が明るみにでたと
いうことで、韓国の情報管理の凄まじさを物語る逸話である。
しかし、このような徹底した情報管理をもってしても、完全には技術を守れないことは、彼ら自身が
誰よりも知っている。「隣国に技術が盗み放題の国(日本)がある限り、我々がいくら技術情報を
防衛したところで意味はない」(サムスン関係者)との皮肉も聞かれる。また中国勢台頭の背後には、
最近、技術提携が本格化している台湾企業の存在があることもサムスンの苦悩を深めている。台湾
・馬英九政権による通商政策の転換から、台湾企業の大陸進出が緩和されたこともあり、台湾から
中国への技術流出はもう止められない段階にきている。
●日本企業への浸食はまだまだ続く
韓国では今年、韓国のシリコンバレーと呼ばれる大徳バレーにおいて、世界最大規模の重イオン
加速器の建設が着工される。このプロジェクトでは、次世代素材開発など「脱エレクトロニクス」を
標榜している。サムスンを除いて、こうした基礎技術を事業化する仕組みが現在の韓国にはない
以上、これは事実上、「国策企業」であるサムスンのためのプロジェクトにほかならない。
三兆五千億ウォン(約二千七百億円)が投入される計画だ。国内外の研究者三百名で構成される
五十の研究チームが新産業の創出に資する基礎開発研究を競うもので、九名のノーベル賞受賞
者を含む八十一名のトップレベルの研究者を世界中から招聘する計画だという。
(>>4に続く)