10/03/25 23:29:11
(>>1の続き)
サムスンが「デジタル一眼レフ」に白羽の矢を立てたのは極めて象徴的である。確かにサムスン
の主力四事業(薄型テレビ、携帯電話、半導体、液晶パネル)に比べれば、事業規模で見劣り
する一眼レフだが、そのインパクトは決して小さくない。業界アナリストは指摘する。
「イメージセンサーのほかレンズ、光学部品、各種電子部品など基幹部品が搭載されており、
これらはいずれも現在に至るまで日本勢の独壇場だった。電子部品は長年、村田製作所や
TDKといった日本企業が席巻しており、市場シェアの九割以上を占める品目もある。電子部品
の市場規模は二十兆円以上とも言われており、彼らにとっては熟した隣家の果実そのもの。
金額もさることながら、いまだサムスンの手つかずの市場を彼らに奪われるダメージは計り
知れない」
こうした「日の丸」電子部品は、材料の配合や焼成技術など職人技とも呼べる技術的蓄積の
かたまりだ。また、光学系部品は極めて高度なすり合わせ技術を要する。これらの製品は、
技術上の差別化よりもコスト削減と果敢な集中投資で競争をリードするデジタル時代のサム
スンの常勝パターンからは外れるもので、本来彼らが最も不得手とする領域である。
こうした分野にまで彼らの手は伸びてきているのだ。日本勢が優位を示せる「最後の市場」に
対するサムスンの戦略は、日本勢を徳俵にまで追い詰めるものにほかならない。
●再開した日本人技術者の引き抜き
電子部品の内製化は、日本に深刻な事態をもたらすだろう。特にサムスンの飛躍を支えた携帯
電話端末などは、内蔵されるコンデンサーやSAWフィルター、水晶部品といった基幹電子部品
は相変わらず日本製である。
ウォン安で輸出が増えるほど日本からの輸入も増え、為替の逆ザヤが発生するジレンマを抱える。
彼らにとってこれら電子部品は、このジレンマを解消するうえでどうしても自前で欲しい部品であり、
さらに外販攻勢に転ずることができれば、再び日本勢の市場を食い荒らし、成長を手にできる
一石二鳥のアイテムとなる。まるでオセロの目が次々と裏返るように、日本は顧客と市場を同時に
失うことを意味する。
「サムスンは例外なくシェアナンバー1を取る。目をつけられたら逃げられない」(前出アナリスト)
彼らの「焦土作戦」が始まるのは時間の問題であり、彼ら独自の「一眼レフカメラ」の発売がその
始まりを告げることになるはずだ。
このサムスンの対日作戦を支える原動力は、最近、彼らが再び活発化させている「お家芸」とも
いえる日本人技術者の買い上げだ。サムスンはここ数年、前述の電子部品や光学系部品分野
を精力的に開拓し、有能な企業や技術者個人に的を絞り、獲得に向けて動いていた形跡がある。
昨年夏、またもや日本の有能な技術者たちがサムスンの軍門に下ったことは、業界内でもほとんど
知られていない。電子部品業界の雄、村田製作所から最前線の技術エンジニア数名がサムスンに
移籍した。村田製作所からは数年前にも、幹部クラスの人材がサムスンに引き抜かれている。
今回はこの人脈を利用し、最新の製造技術に携わるエンジニアの獲得に成功したようだ。
また光学系部品では、住田光学ガラスやタムロンといった、一般の日本人がその名を知らない
ような中小企業にまで食指を伸ばしたという情報もある。住田光学は、一眼レフカメラ用レンズを
中心に、幅広く高度な光学部品を手がける埼玉県の有力メーカー。一方のタムロンは、ソニー製
ビデオムービーのカメラレンズなどを手がけるやはり埼玉県の有力技術系企業である。
前述のサムスン上級幹部の自信の背景には、こうした着々と進む人材獲得の実績もあるのだ。
サムスンの人材戦略は、技術が人に付いて容易に移動可能であることを知らしめた。初期は
隠密行動であった人材買い上げも時間が経つにつれてエスカレートし、現在では公然の事実と
なっている。
チーフエンジニアクラスで三年契約一億~二億円という相場で、日本の先行きに見切りをつけて
サムスンの傭兵となる技術者が後を絶たないのが現実なのである。
(>>3に続く)