10/03/18 07:09:37
記者の目:隣国で感じた日本の衰退=玉置和宏
日本経済の衰退は日本の港の陥没と重ね合わせるのが至当だろう。国内総生産(GDP)は
今年四十余年ぶりに3位に陥落しそうだ。68年にドイツ(当時西ドイツ)を抜いたのだが、
今年中国にその座を譲るのは確実だ。いずれ韓国にも抜かれるだろうという豪州紙の論評を
読んだ時その可能性は十分あると感じた。
日本の港の衰微は15年前に始まった。世界コンテナ港湾10位以内だった神戸港は
昨年は40位以下に劇的に陥落した事実が証明している。複式簿記の重要性を指摘した
文豪ゲーテが言うように言葉ではなく数字のみが真実を伝えるのだ。
長い間国際経済を見てきた記者として言うなら、まずリアルな日本を直視することである。
小泉改革をしのぐ「新構造改革」に取り組む覚悟がなければ日本の再生とか国際競争力
などという言葉を発することは俗論向けの自慰行為でしかないことが分かる。
この国はバブル崩壊の後処理に没頭するあまりグローバル化に完全に乗り遅れた。
正月の米経済紙は「日本は3度目の『失われた10年』を迎えようとしている」と論評し、
独紙も日本経済の末期症状を反面教師として揶揄(やゆ)している。
それなのに新政権は新自由主義の政治的なあら探しに夢中だ。それは過去の超長期政権
へのアンチテーゼとしての役割しかなくいずれ理論的にはげ落ちる。実際に地球温暖化対策と
高速道路無料化という理念と政策の矛盾は極致に達している。
先日韓国の釜山港を取材してそれを痛切に感じた。前原誠司国土交通相のように
日本にこれから国際ハブ港湾とか、ハブ空港と言うのはもはや時代錯誤の感すらする。
それを言うのは20年も遅く、無駄な税金をばらまくことになりかねない。残念ながらこれら
国際公共財は韓国に十分整備されつつある。日本の国益はこれをどう活用して国際物流の
一端を担うかにある。
せめて10年前ならまだその説得力はあった。だが当時のハブ港造りは進まなかった。
その理由はコストが高く国際的に競争力のない日本国内の海運(内航海運)と近代的とは
いい難い港運業者の既得権を守ろうと、政治家と地方自治体が結んで改革に石をぶつけ
続けたからである。
国家戦略として整備された釜山新港や光陽港で取材した韓国の港湾関係者は口々に
こう語ったものだ。「日本を反面教師にした。地方港へのばらまきを抑えて戦略的な
重要港湾に国が直轄で投資してきた成果だ」と。これは多分仁川空港にも当てはまるだろう。
「選択と集中」を実行したのが韓国で、日本は「選挙と分配」という安易な道を選択した
ツケである。
日本の港湾がアジアの三流にまで落ち込んだのは製造業の海外移転による経済の
凋落(ちょうらく)にも一因があるとするのは言い逃れに過ぎない。ちょうど日航が経営破綻
(はたん)したのは地方空港のネットワーク維持のために経営負担を強いられたと言い募る
のと同じだ。あってもその要素は何十分の一ではないか。もしそうなら競合する純粋に
民間資本で苦闘してきた全日空はもっと先に経営破綻していなければ勘定が合わない。
放漫経営に1兆円規模の公的資金を投入するのでは事実上2社体制の航空業界で公平な
市場原理は働かない。ナショナル・フラッグ・キャリアーの救済という情緒的な理屈に
日本のつぎはぎ資本主義が垣間見えてくる。
(>>2以降に続く)
毎日新聞 2010年3月18日 0時09分
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