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ルポ 新「保守」(下)
●不安の時代に根張る
「行動する保守」に集うのは、「ネット右翼」という言葉だけではくくれない人たちだ。
「民主党を粉砕するぞ」
名古屋で1月、「在日特権を許さない市民の会」(在特会)が開いたデモでマイクを握った情報処理会社の
男性社員(31)は「一二三(ひふみ)」という仮名で参加する。会社では、運動のことを話題にしない。
政治には無関心だった。理系大学院を終えた後、就職してから「嫌韓流」の本に出会い、はまった。一人
暮らしの一二三にとって、運動は、同僚には話せない歴史観や靖国問題などを話題にできる場だ。「国に
貢献している」とも感じられる。
彼らは、従来の「保守」とは趣が異なる。地縁や商売で結ばれた自民党後援会のような共同体組織ではない。
都会的なバラバラの個人が集い、仲間を発見する。
既成政党すべてに不満を抱く無党派も目立つ。「民主はサヨク、日本をダメにしたのは自民」。東京のデモに
参加した化学会社の男性社員(36)はこう語る。小泉純一郎首相当時の自民は支持したが、2006年に安倍
晋三首相(当時)に代わると、「タカ派と期待したのに、靖国参拝しなかった」と幻滅した。
在特会が生まれたのは、この時期だ。小泉時代に目覚め、受け皿を失った保守無党派層の先端部分なのか。
政権交代が、危機感に拍車をかける。
政治不信は運動論にも表れる。彼らは日本会議など従来の保守団体を「会議で議論ばかり。我々は行動する」
(桜井誠会長)と批判する。一方の日本会議は「私たちは時間をかけても、政治や行政に働きかけ、法や制度の
変更を目指す」(江崎道朗専任研究員)という。
時代の気分にも根を張る。「スパイの子供」。彼らは、朝鮮学校前でこう騒いだ。拉致問題を背景に、朝鮮学校を
高校無償化の対象から外すことを検討する政府の発想と重なる。
経済規模で日本と並んだ中国への警戒感も働く。「このままではのみ込まれ、日本はチベットのようになる」。
外国人参政権反対デモに参加した2女の父親という国立大の男性職員(45)は語った。
社会の流動化や閉塞(へいそく)感、国際環境の変化に対する危機感……。先の見えない日本への不安に、
運動が油を注いで、極端な敵意を膨らます。
東西統一直後のドイツで、若者に「外国人は出て行け」と突き飛ばされた経験のある大阪大大学院の
木戸衛一准教授(ドイツ政治)は「在特会は、人種差別的なヘイトクライム(憎悪犯罪)をあおっている」と見る。「人種
差別撤廃条約を批准しながら、日本は差別を禁じる国内法の整備を留保してきた。ドイツ刑法の『民衆扇動罪』の
ような歯止めが必要だ」と指摘する。(この連載は西本秀が担当しました)
【関西学院大の鈴木謙介助教(社会学)の話】
市民参加の保守運動が登場したのは90年代後半からだ。「新しい歴史教科書」の運動が先駆け、拉致問題で
保守世論が盛り上がり、その延長に在特会が生まれた。世の中全体では少数派だが、ネットの発信力で潜在的な
支持者を開拓し、街頭行動を呼びかけ存在感を増している。参加者は、行動は過激だが、社会的関心が高いという
意味でマジメ。これまで市民運動と言えば「左」で、「右」の受け皿が育っていない。保守的なものを求めると、過激な
団体に流れるほかない不幸がある。より極端に走る人々が現れると怖い。
ソース:朝日新聞 2010年03月17日
URLリンク(mytown.asahi.com)