10/02/02 05:52:42
- 日中歴史研究―政治との距離感が大切だ -
日中歴史共同研究の報告書が公表された。中国側の求めで戦後の部分が非公開となるなど、
問題は多い。だが、いくつもの困難を乗り越え、ここまでこぎ着けたことを評価したい。
歴史認識にかかわる問題は争いが多く、トゲも含む。それは専門家の冷静な議論に委ね、
政治は未来志向で戦略的な協力関係を目指そう―。
小泉純一郎首相(当時)の靖国参拝で冷え込んだ日中関係の打開のため、日本側が歴史の
共同研究を提案。2006年10月の安倍晋三首相(当時)訪中で、中国側と合意した。
発端が政治主導であるうえ、相手は学問や表現が自由ではない中国である。日本の専門家には、
成果が得られるのかという疑問が当初からあった。中国側にも「侵略戦争の責任を日本側が否定
するのではないか」との警戒感が強かった。
しかし、歴史認識の違いが政治の世界だけでなく国民の感情にも大きな影を落とす日中関係で、
日中の専門家が公に語りあい、成果を公表するという計画は画期的だった。
「古代・中近世史」と日本の戦後の平和的な歩みも含めた「近現代史」について、双方が論文を書き、
意見を出し合う。討議の要旨もつける。日中平和友好条約締結30周年の08年には報告書を出す。
そんな当初の狙い通りに実現すれば、報告書は日中の歴史を考えたり、話したりするときにもっと
役立つガイドブックになったことだろう。
研究の継続を確認した08年5月の胡錦濤(フー・チンタオ)国家主席の訪日までは、議論は順調
だった。だがその後、一般国民への影響などを理由に中国側が、討議要旨に続いて論文すべての
非公表を求める事態に陥った。
論文や討議要旨のなかに、中国の一般市民の知らないこと、知らされていないことがあり、表に
出せば問題が起きかねない。中国政府がそう恐れて待ったをかけたのだろう。政治との距離を置く
という当初の目標が軽視されたことは、極めて遺憾だ。
とはいえ、曲折を経て1年以上遅れて公表された報告書に驚くような内容はない。南京大虐殺の
犠牲者の数も中国側は最大で30万超と主張するなど、評価の違いも当然のことながら目立つが、
一方で総じて抑制的な表現が多く、淡々と書かれている。双方の研究者とも、日の丸と五星紅旗
から距離を置こうとした跡がうかがわれる。
共同研究はこれからも続くことが決まっているが、戦後部分の公開を急いでほしい。日中間で相互
理解を深めるのは当然だが、研究は日中で独占されるべきものではない。諸外国の幅広い有識者
の知恵や研究成果をとり入れてもらいたい。研究が静かに続けられるよう見守りたい。
ソース : 朝日 2010年2月2日(火)付
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