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立命館大の公開講座「日本文化の奔流」(読売新聞大阪本社後援)の第20回は茶道武者小路千家の若宗匠、
千宗屋さんが講師を務めた。「茶の湯、いまむかし」と題し、1年間のニューヨーク滞在経験を踏まえなが
ら、お茶本来の国際性や伝統のあり方について語った。
昨夏から今年にかけて1年間、文化庁の文化交流使としてニューヨークに滞在しました。英語で「お茶」を
示す言葉として一番普及しているのが「ティー・セレモニー(tea ceremony)」です。直訳す
ると「茶の儀式」。これは特に外国人から見た印象でもあると思います。非常に特殊な、儀式的なものとし
てのお茶ですね。
「ティー・ギャザリング(tea gathering)」と訳した方が、「お茶の集い」ですから、お茶
を通してのコミュニケーションの場という印象が強くなると思ったり、あるいは「アート・オブ・ティー
(art of tea)」、つまり「茶の芸術」ですね、これもお茶の一つの性格を表している言葉では
ないかと、いろいろなことを考えました。
私にとって一番しっくりきているローマ字の「chanoyu」を使うこともありました。柔道(judo)
や剣道(kendo)は、そのままローマ字で通用していますから。非常にいいなと思うのです。
お茶はこのように非常に多様な面を持った文化なのです。「アート」でもあるし、「ギャザリング」という
団らんの場でもある。そして「セレモニー」という儀式的、宗教的な側面もある。茶の湯の思想とは、もと
をただせば禅宗に始まります。
ところでニューヨークは、アメリカの中でも突出して変わった場所で、世界中の人が集まり、共同体を形成
している。そういう町でお茶をしていると、非常にしっくり来た。お茶というと、日本の伝統文化、純日本
というイメージですが、そもそも非常に異種混交的な、ハイブリッドな文化なのです。
茶そのものも、お茶の背景となる禅の思想も、すべて中国から入ってきました。千利休以前は、道具にも、
日本のものはほとんどなかった。中国や朝鮮、東南アジア、遠くヨーロッパの道具も使ったのです。茶席に
掲げる掛け軸は、中国の水墨画や墨跡でした。
京都の禅寺は、今でこそ日本の文化を体現するような場と思われていますが、当時は公用語が中国語でしたし、
中国大使館状態というか、中国の人と文化、思想の最新のものが集まっている場所だったのです。
>>2,3に続きます
読売新聞 2010/01/07
URLリンク(osaka.yomiuri.co.jp)
写真:せん・そうおく
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1975年、京都市生まれ。武者小路千家14代、不徹斎宗守家元の長男。本名は方可(まさよし)。
中世絵画史を学び慶応大大学院文学研究科修士課程修了。2003年、京都・大徳寺で得度、隨縁斎の
斎号を授けられ、武者小路千家15代次期家元として後嗣号、宗屋を襲名。明治学院大学非常勤講師
(日本美術史)。著書に「ドッグ・ギャラリー」など