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■新鮮な感覚と驚きの再発見
本書を読んでいると、私は時々、ページを繰る手の動きを止めて深い感慨に浸ることがある。
生粋の日本人である長島陽子さんの「中国体験」は、
元中国人として生きた私の心の遍歴と重なりあう部分が多くあるからである。
一言で言えば、長島さんも私も、「中国」を熱愛していながら
「中国」に裏切られたという大変な人生体験の持ち主なのである。
長島さんは1989年の天安門事件での「血の弾圧」を目の当たりにして
「中共の本質をハッキリと認識した」というが、それとまったく同じように、私もまた、
天安門事件をきっかけに中国共産党政権との決別を告げたわけだ。
民族も出自もまったく違ったこの2人は、89年6月4日という同じ日に、
同じような思いを抱いて心の決意を固めたとは、何という運命の巡り合わせなのだろうか。
そういうこともあって、本書を読んでから、私はいまだに対面もしていない長島さんのことを「老朋友」
だと思いたくもなるが、彼女が本書においてつづった半世紀分の「中国体験」は、私にとってはやはり、
新鮮な感覚と驚きを伴った、「中国」というものへの興味深い再発見ともなるのである。
50年前、「人民中国」にあこがれた岩波書店勤務の一人の若き女性が初訪中したときに見た
その時代の中国、それ以来半世紀間、各階層の多くの中国人たちと重ねてきた愉快な、
もしくは大変不愉快な交遊と交流、日本人として外から観察してきた中国および中国人の激しい変貌、
そして、一人の「折り紙付きの親中派」が「さらば『日中友好』」と言いたくなるまでの、
彼女自身の中国観の変化など、長島さんが本書の中に盛り込んだ内容は実に豊富かつ多彩であり、
興味を引くものばかりである。
それを一読すると、「中国」とは何か、中国人とは何者か、
「日中友好」とは何かが、手にとるほど分かってくるのではないかと思う。
そういう意味では、本書はまさに、半世紀分の体験から紡いだ
等身大の中国論というべき一冊なのである。(論創社・1470円)
評・石平(せきへい)(評論家)
ソース 産経新聞 2009.11.22 08:12
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