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たった200ページの本でこれだけ壮大なロマンをたのしめるのか。ぞくぞく身震いする
ような「物語」である。
主な役者は日本語、百済語、新羅語だ。7世紀ごろまでこの三言語はそんなに違わなかっ
たと著者はいう。だが日本語と韓国語が今、違う言葉のように見えるのは、なぜか。
日本語は百済語の痕跡を色濃く残しているのに対し、今の韓国語は中国化した新羅語の影
響をもろに受けて、変形してしまったという。決定的だったのは、日本では百済の影響を
受けて漢文を訓読する方法が定着し、そこから日本独自の文学などが生まれたのに対し、
韓国では半島統一後の新羅が全面的な唐化によって漢文を中国式に棒読みするようになり、
音韻が膨れ上がって吏読(りとう)(新羅式万葉仮名)では対応できなくなった点にある。
その結果、現韓国語は現日本語の30倍もの音の種類を必要としている。この音韻を記述
するためには、15世紀のハングルの創製を待たねばならなかった。〈現韓国語がオリジナ
ルで、現日本語はその変形だ〉と誤解している韓国人が多いが、事実はその逆で、日本語
のほうが原型に近いという。
語彙(ごい)に関する考察もスリリングだ。日本語と韓国語は、文法は酷似している。だ
が、語彙の共通点が少なすぎる。これがネックである。しかし著者は、これまでの印欧語
の言語比較の方法論がいけないといって大胆な日韓語彙同源論を繰り広げる。とうてい首
肯できない語呂合わせも多いが、検証はこれからの課題だろう。
1927年生まれの著者は韓国の著名な数学者であり文化比較論者。日韓の古典から今の
文化や社会まで、何から何まで熟知しているこういう世代は、もう二度と歴史に現れない
だろう。著者はまた日韓文化交流会議の韓国側代表を長くつとめ、日韓の友好に多大な尽
力をしている人物である。この本は決して韓国ナショナリズムの書などではない。
『日本語の正体』金容雲;出版社:三五館;発行:2009年8月;ISBN:9784883204762;
価格:¥1575
◇キム・ヨンウン=1927年生まれ。檀国大学校特別教授。戦前の日本で生活経験があ
り日韓文化比較の大御所。
評・小倉紀蔵(韓国思想研究家)
ソース:読売新聞<『日本語の正体』>
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