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その瞬間、東京ドームは総立ちとなった。ナインの、G党の、そして木村拓也さんを愛したすべての人の思いを乗せた谷の打球が、
ドームの上空を舞い、左中間スタンドに吸い込まれた。
1点を追う8回だ。1死満塁で代打・谷が登場。真ん中高めの直球を振り切ると、そのまま両手を天に伸ばした。
打球は左中間席へ一直線。木村拓コーチと同級生のベテランが、魂を運ぶ今季1号満塁弾だ。
「今日はタクの日。何としても勝つ、打つしかない、という気持ちだった」。お立ち台。クールな男が感極まった。
「こんなところで打てるなんて思ってなかった。タクのおかげ。いつも励まし合ってきた。天国で『やったな』と言ってくれていると思う」
昼間は全員で「お別れの会」に出席。試合前の追悼セレモニーでは、生前の木村拓コーチが「勝っても負けても野球は楽しい」と語りかけた。
勝敗は関係ない。しかし、お互いにとってどうしても勝たなければならない一戦だった。
全力プレーがモットーだった木村拓コーチの遺志を受け継ぐ執念のぶつかり合い。そして最後は谷が決めた。
昨年10月24日の中日とのクライマックスシリーズ以来プロ2度目となるグランドスラム。こんな筋書きは、野球の神様にだって書けない。
原監督の目も真っ赤だった。「いや~、もう、見事のひと言」。打った瞬間にベンチを飛び出し、ベンチ前では谷と抱き合って狂喜乱舞。
「試合後に同級生2人が仲良く、おいしそうにタバコを吸っていた光景が目に浮かぶ。その谷が決めたということにも不思議なものを感じますね」と、しみじみ語った。
谷がヒーローインタビューを終え、ベンチに戻ると、そこには木村拓コーチの長男・恒希くん(10)がいた。
谷は、ソフトボールをしている息子を電話越しにしかり付ける父親の姿を何度も見ていた。優しく抱き寄せてウイニングボールを手渡すと「プロを目指せ」と言葉をかけた。
同じ移籍組で、同じ学年。苦労をともにしてきた同志にこれ以上ない惜別のアーチをささげた。
もちろん、これがゴールではない。「タクは『次もあるぞ』と言うはず。頂点しかない。タクと一緒に一番上まで行く」。天国の友は日本一の報告を待っている。