09/03/09 00:20:28 PPHkYkgu0
>>742
「いやぁビックリしたよ、まさかキョンキョンに会うなんてさ」
『女性』ことこなたの履いた靴の踵が地面に打ち付けられる音は、コツコツと弾むように軽快である。
本屋を後にした俺とこなたは、何を言うでもなく歩き出し、どういうわけか
俺が一人暮らしをしているマンションとは間逆の方向へ向かっていた。
ソワソワと落ち着かない俺とは対照的に、こなたはずっと前を向いて歩いている。
こなたの様子に、なんとなくこれからどこへ向かおうとしているのか分かったような気がしていたが、
それを尋ねてみることもせず、俺はただこなたの斜め後ろを歩いていた。
「どーしたの?」
俺の歩く速度が自分より遅いことに気づき、こなたはスピードを緩めつつ俺に尋ねる。
「いや、なんでもない」
「ふーん」
「それにしても……」
今横に並んでいるのがあのこなただとは本当に驚きだ。
ダーウィンもビックリの超進化ならぬ長身化といったところか。
きっとこなたの身体は成長のペース配分を誤ったのだろう。
「まぁ成長していないところもあるんだけどね」
自分の胸を撫でながら、照れた笑いを浮かべるこなた。
幼さの中にも若干大人びた印象を受けるその顔を見て、ふと考えを巡らせる。
あの頃のこなたと一緒に道を歩いていると、まるで……そう。
こうして道端に立っている『歩行者専用』をあらわす道路標識のようだった。
……ってそれは言いすぎだな。
それが今、文字通り肩を並べて歩いている俺達二人は一体どう見えるのだろうか。
「キョンキョンはどう見えて欲しいの?」
そうこなたに尋ねられて、少し言葉に詰まってしまった。
こなたがその質問を投げかけることの真意が、俺には分からなかったのかもしれない。
「さぁな」
「……あっそ」
当たり障りの無いように応えるも、俺とこなたの間に妙な沈黙が生まれる結果となった。
ただこなたの靴音が耳に入るだけだったが、こなたが足を止めたことで、それさえも聞こえなくなってしまった。
その姿は何かを物語っているように見えたのだが、残念ながら俺にはさっぱり分からん。
しばらく眺めていると、こなたは意を決したように短く息を吐いて、少し前方へ駆け出した。
そうかと思えば、数メートル進んだところで立ち止まり、髪を靡かせながら勢い良く振り返った。
「私んち、近くなんだ」
確かに身長は急激に伸びたし、顔立ちだってそれなりに変わっている。
だが目の前で俺の返事を今か今かと待っているのは、あの頃と同じ元気の良いこなただった。
「そうだな、寄らせてもらおうか」
こなたの嬉しそうな笑顔のずっと先にある空。
上空遥か38万キロの彼方には依然として月が浮かんでいる。
そこにウサギが居ようが居まいが、今の俺には関係ない。