11/01/13 01:19:21 38mx1gxt
「なんで……? 何が起こってるの?」
なぜ常咲きの椿の花が落ちている? 半ば呆けたように佇み、自分の目に映る光景に、
わたしは意識を奪われていた。
しかし、それも長い時間ではない。腹部を襲う痛みが、わたしを現実に引き戻す。
「先輩の身体……! 怪我の具合を確かめないと」
いくら峰打ちだったからといっても安心はできない。当たり所や力加減によっては大怪我、
最悪は死に至ることもあると聞いている。剣を振るったのがお父さんで、
万にひとつも手元が狂うことなどないにせよ、梢子先輩の身体に何かあっては、わたしが自分を許せない。
パーカーの前を開き、打たれたところを月明かりに照らしてみた。傷ひとつなかったはずの腹部に、
一筋の線が走っている。十分な明るさがないため色は判然としないが、内出血を起こしているらしい。
「梢子先輩、ごめんなさい……」
注意深く、その周辺をなぞってみた。少し熱っぽい。触れている指に少し力を入れただけで、
痛みが背筋までも震わせる。
「あ……。当たり前だけど、これ、先輩の身体なんだ……」
痛みはわたしに、非現実的な状況を改めて認識させた。ずっと憧れてきた梢子先輩の身体に、
わたしは触れている。服の上からではない、素肌に直に触れているのだ。
「先輩の身体、すごく綺麗……」
内出血の部分を除けば、綺麗という表現ではとても物足りないくらい美しい。
無駄な力が抜け、半分無意識で、わたしはゆっくりとその場にひざまずく。