11/01/15 11:30:01 +CGQrhvD
音を立てないように気をつけながらアンドレは控えの間に戻った。薄々きづいていた
事とはいえ、このようにあからさまに二人の情交を目にしてしまったショックで
体中の力が抜けてしまい椅子に座ったまま動けなかった。恋焦がれる男と
あのような濃密な時をすごすオスカル。だがその男の心はオスカルではなく
別の人に一途に向けられている。
フェルゼン伯にとってこの関係は親密な友情を少し超えた程度の交わりでしかない。
だがオスカルはそうではない。彼女の心を知った上でのことなのか、まったく
気づいていないのか、それとも気づいていながら知らぬ振りをする男の
狡猾さなのか。それは分からなかった。
謹厳な近衛仕官、氷の華と謳われる表の顔と激しい情熱を内に秘め、燃えるような
恋をする女の顔を持つオスカル。この二つの顔のどちらもよく知るアンドレは
言いようの無い不安を感じていた。あいつはこのままで大丈夫なのだろうか。
どこかでこの均衡が崩れてしまうことはないのか。その危うさを思うと
心配でたまらない。たとえ何があっても、どのような事が起ころうとも
オスカルの傍にいて力の及ぶ限り支えてやらなくては。
今日このような二人を目撃して激しく動揺はしたが、不思議なことに愛する人を
守りたいという気持ちに寸分も変わりは無かった。こんな事はきっと
他の誰に話してもわかってもらえないだろうが、たとえオスカルがどんなに他の男に
抱かれようとも自分のオスカルへの愛は微塵も揺るぎはしない。
ずっと昔から、多分初めて会った幼いときから分かっていた。命を投げ出しても
悔いの無いものはこの世でオスカル・フランソワただひとりだけなのだと。
自分はオスカルのために生まれてきたのだ。
深いため息をつくとアンドレは顔を両手で覆って俯いた。耳にカチャリとドアの
開く音が聞こえ、フェルゼン伯が部屋を出ていく気配がした。 そのまま彼の
遠ざかっていく足音を聞きながら、しばらく誰も部屋にいれないように
しなくては、とアンドレはぼんやりと考えた。
Fin