ヤンデレの小説を書こう!Part38at EROPARO
ヤンデレの小説を書こう!Part38 - 暇つぶし2ch2:名無しさん@ピンキー
10/10/26 22:11:46 6xHSp6L1
ヤンデレの貧しい乙パイ

3:名無しさん@ピンキー
10/10/26 22:34:41 qagwN0hr
>>1さん
乙です

4:名無しさん@ピンキー
10/10/26 22:41:49 /eDJmJFx
>>1
お疲れ様であります。注意書きはちゃんと読もうぜ!

5:名無しさん@ピンキー
10/10/26 23:08:33 Ez8KALrT
ヤンデレのおっぱいは卑しいおっぱいだから巨乳だと思うんです

6:名無しさん@ピンキー
10/10/26 23:29:54 hVz+SM81
おっぱいの無い女は麺のないラーメンみたいなもん

7:名無しさん@ピンキー
10/10/27 04:16:36 yVtccKOl
>>1




オッパイなどただの飾りよ………。

通は腹よ……。
まったいらではない、少し摘めるくらいの腹こそ至高。

8:名無しさん@ピンキー
10/10/27 09:25:13 NE5s+GpV
何が通だ
通なら髪だろう
普段はポニーテールに結い上げてるのに、主人公が他の女の子を目撃するとその髪が・・・ってのが萌えるんじゃないか

あれ?どっかでそんなヒロインがいた気が

9:名無しさん@ピンキー
10/10/27 16:21:15 UuktZRZQ


10:名無しさん@ピンキー
10/10/27 19:33:42 LHtTCu8/



























11:名無しさん@ピンキー
10/10/27 19:35:03 LHtTCu8/
テスト

12:名無しさん@ピンキー
10/10/27 22:54:40 UuktZRZQ


13:名無しさん@ピンキー
10/10/27 23:23:23 qTrHDd/5
新スレに投下がまだ一つもないとは…

14:名無しさん@ピンキー
10/10/27 23:43:20 YdhBV5+t
焦らず、マタギのように待つのだ……

15:名無しさん@ピンキー
10/10/27 23:58:42 cJGXZWoX
盲目のヤンデレ娘に依存されたい

16:名無しさん@ピンキー
10/10/28 02:17:43 lXFIYGI8
>>15
「片輪少女」的なものか…

17:名無しさん@ピンキー
10/10/28 07:00:28 ya1Jvu68
素直クールなヤンデレに一目惚れされたい…

18:名無しさん@ピンキー
10/10/28 18:08:50 b0zRRkDO


19:名無しさん@ピンキー
10/10/28 18:18:26 b0zRRkDO


20:名無しさん@ピンキー
10/10/28 19:19:06 4u20D2Ii
逆・解

21:名無しさん@ピンキー
10/10/28 20:32:46 T7HP+EN2


22:名無しさん@ピンキー
10/10/28 21:11:18 lXFIYGI8
何か荒らしが沸いてるな…作者の皆さんドン引きして投下できないし…

23:名無しさん@ピンキー
10/10/28 22:41:00 y2XWhLTu
この程度荒らしでも何でも無い


24:名無しさん@ピンキー
10/10/29 00:03:13 jSBOCbOf
投下来るときってまとまって来るとき多いけど
ひょっとしてタイミングとか計ってんのかな
今と投下されたばっかだから俺も便乗しようみたいな

25:名無しさん@ピンキー
10/10/29 00:03:25 Mca9yZM1
俺はバランス派だなぁ。

26:名無しさん@ピンキー
10/10/29 02:45:49 L05vHEql
一応一話分はできているのですが、二話目ができるまで待とうかと
間が空いて辞めてしまうかもしれませんので
最後まで書きたいのですが、どうしても……

27:名無しさん@ピンキー
10/10/29 10:14:54 NXY76+sX
最近は長編が多くなったな
一話だけ投下してあとは…のがあるけど
俺は長編なら三話まで続かないと読まないな
長編より短編でまとまってた方が好きだな

28:名無しさん@ピンキー
10/10/29 11:14:59 iB8NzltB
>>27
長編書いても途中で辞める事が多いからね

29: ◆g1RagFcnhw
10/10/29 16:49:40 RnyLP4B6
テスト

30: ◆g1RagFcnhw
10/10/29 16:50:22 RnyLP4B6
初投稿です。
酉の練習も兼ね、短編を投下させていただこうと思います。
タイトルは「狂う者こそ強い」です。
宜しくお願いいたします。

31: ◆g1RagFcnhw
10/10/29 16:51:06 RnyLP4B6
「私は、自分の事が大好きだ」
暗い部屋の中。
その部屋にある、椅子の一つ。
そこに、男が座っていた。
「何故か?…そもそも、昨今の人間というのは自分の事を蔑ろにし過ぎる。何の根拠も無いのに『自分は駄目だ』と意味のわからん自己暗示を自分に掛けるのだ。そうしてあっさり負のスパイラルを作り出し、勝手にネガティブになっていく。全く馬鹿馬鹿しい。馬鹿甚だしい」
男は語る。
「そんな馬鹿甚だしい人間が跳梁跋扈している馬鹿甚だしい時代に対し、私はこの素晴らしい肉体と精神をフルに使い、全力でポジティブな時代に変えてゆきたいのだ」
だからこそ、と男は一息ついてから続ける。
「まずは自分の事を好きになるべきだと私は思うのだ。そして他人も好きになる。性別年齢人種分け隔てなく好きになる。するとどうだ!?世界はハッピー!!私もハッピー!!皆もハッピー!!」
男は最後の辺りを喚くように、叫ぶように言う。
そして、急に声の調子を落とし続ける。
「だが無論私は博愛主義であっても全てのものを共通に愛せるほど聖人ではない。私は強い者が好きなのだ。ここで言う強い者とは、つまり―」
「―兄さん、幾ら寂しいからといっても、喉を嗄らすまで一人で喚かないで下さい」


32: ◆g1RagFcnhw
10/10/29 16:51:38 RnyLP4B6
男の言葉は、最後まで言い切る事は無かった。
暗い部屋の扉。
そこから、一人の少女が入ってきたからである。
「ああ、妹か、妹よ!待っていた!待ちすぎて思わずいつものように叫んでいた所だった!折角だからもう少し二時間程続けてもいいかな!?」
「止めて下さい。独り言ショウは終了ですよ」
少女は黒く長い髪をしており、コートを着ておりマフラーをしている。
左手にはスーパーで買ったであろう食材が入ったビニル袋を持っていて、右手には―一振りの出刃包丁。
大きさは所謂大出刃と呼ばれる出刃包丁としては大き目のサイズであり、切っ先から刃元にかけて赤黒い液体がべっとりと付着していた。
その包丁の様子を見て、男は派手なため息を一つついた。
そしてその男のため息を聞いて、少女が右手に持った刃物を見る。
「ああ、兄さん。御免なさい。汚い物を持ってきてしまいましたね」
微笑みながら、包丁を部屋にある台所らしき場所に置いた。
「兄さんに擦り寄る女をまた一人、一人殺してきたんですよ」
包丁を置き、椅子から座っている男に背後から抱きつきながら、少女は言う。
喜びと、恍惚の表情を浮かべながら。
「妹よ。君は…君は何て事をしてくれたんだい?」
男は少女に抱きつかれながら、ため息をついた。
その明らかな落胆の様子を見て、少女は『不思議そうな』表情をして言った。
「何故ですか?そんなにあの女がお気に入りだったのですか?」
「違う」
男はその少女の言葉にきっぱりとそう告げ、大仰な口ぶりで言った。
「その、包丁だよ」
「は?」
「幾らだと思う?妹よ」
「はあ…おそらく、五千円程度かと」
少女の言葉に男はありえない、君は馬鹿かね、と言わんばかりの態度を取った後言った。
「四、零、九、五、零。―四万九百五十円だ」
「―あら」
その男の言葉に意外そうに少女が驚きの声を上げる。
「君が例えば近くのスーパーでバイトする―因みにあそこの時給は八百五十円なんだが―として、君が一日三時間を十六日働き、ようやく稼げる金だ。大金だよ」
「でも、三時間も私がいなければ兄さんは」
その言葉を少女が最後まで言うより先に、男は言った。
「無論、妹よ。君が三時間いなければ私は死ぬ。具体的に言うと孤独死か餓死でね。特に私は寂しがりなので、君が三時間居ないとなるといよいよ首を吊ろうか括ろうか果たしてどっちにしましょうか、となる訳だ」
男は続ける。
「よって、その包丁一振りで『私を刺さなくても』私は死ぬ。君がその道具を乱雑に扱って台無しにしてバイトに行くだけで私は死ぬわけだ。という訳でもっと大事に扱いたまえ」
そうして長い長い語りを男が終わらせると、今度は急に少女が―笑い出した。
「ふふ。兄さん。寂しかったんですね」
「無論」
今度もまた断定的な口調で言い切る男に対し、少女は背中から抱きついていた腕を外して男の前に立ち、言う。
「兄さん」
「む?」
「兄さんは、私の事が好きですか?」
今まで、男と少女の間で幾度と無く繰り返されてきた言葉。
「無論だな」
「じゃあ、兄さんは―どんな人が好きなのですか?」
「―強い、人間が」
男と少女で、いつもどおりの言葉を交わす。
「兄さんにとって強い人とはどんな人ですか?」
今までも、これからも。
永遠に、続いていく言葉達。
「―狂ってる者だ。そんな人々が、私は大好きだ」

33: ◆g1RagFcnhw
10/10/29 16:52:26 RnyLP4B6
少女は時偶、思う事がある。
―兄が自分を永遠に愛し続けてくれるためには、如何すればいいのか。
そして、何時も答えは同じだった。
―狂うのだ。
―そして、自分と同じくらい狂っている人間を全て殺すのだ。
―そうすれば私は最強だ。
―『強い人』が、『狂っている人』が彼は最も愛してくれる人間なのだ。
そして時に、少女はこうも考える。
―兄さんは、自分自身と私の事、どちらが好きなのだろうか。
それは聞いてはいけない禁忌の疑問。
聞いて、もし期待していない答えが出れば如何すればいいのか。
だが少女は一つ、一つ確信している事があった。
―兄さんは、きっと私以上に狂っている。
それは唯の感覚でしか無く、それは唯の直感でしか無いことだったが。
彼女はそれを、信じていた。
そして兄を、愛していた。

少女は男に抱きつき、背中に手を回す。
「ねえ、兄さん」
そして、再び言葉を交わす。
ある種儀式のようにも思える言葉を。
「ん?」
「兄さんは、私の事を狂っていると思いますか?」
これを儀式とするなら、これは愛の確かめ合いでもあった。
「ああ…全く、私の妹とは思えないくらいの狂いっぷりだ」
「兄さんは、そんな私が強いと思いますか?」
狂愛。
狂った愛の、確かめ合い。
「ああ、最強だ。君はまだ死んでないからね。それは最強の証明だよ」
「そうですか。…ねえ」
「何だい?」
「兄さんはそんな私が、好きですか?」
「―ああ。大好きだ」
原点から始まり、原点に終わる。
そんな傍から見れば無意味な、無価値な会話を交わす。
愛のために。
ただただ狂った、愛のために。


never end.

34: ◆g1RagFcnhw
10/10/29 16:52:55 RnyLP4B6
投下終了です。
ありがとうございました。


35:名無しさん@ピンキー
10/10/29 18:13:54 eQxhCW2p
>>34
GJ
大佐ネタ?

36:駄文太郎 ◆4wrA6Z9mx6
10/10/29 19:38:14 IsLckfBA
>>34
GJ

それではちとペース早いですが日常に潜む闇第3話投下開始します。

37:日常に潜む闇 第3話 ◆4wrA6Z9mx6
10/10/29 19:39:33 IsLckfBA
~Side Yuri~
 誠二君がいなくなってから小一時間が過ぎていた。
 私たちはあの日から運命の赤い糸で結ばれているのに、どうしてそれを拒絶する行動に出るのだろうか。
 雌猫が懐いているから、そのせいで自分に正直になれないのだ。
「うふ……うふふふふ…………」
 明日から誠二君と同じ学校、同じ教室、同じ時間を過ごせると思うと同時に、誠二君を困らされる雌猫を探し当てる方法を考えると、どうしても楽しくて仕方がない。
 そうだ、誠二君には明日お弁当を作ってきてあげよう。
 だって奥さんが旦那さんに愛妻弁当を作ってあげるのは当然でしょ?
 お弁当に入れるおかずは何にしようか。
「あ―良いこと思いついちゃった」
 誠二君には私を食べてもらおう。でも、食べてもらうのは私の一部。さすがに全部をあげたら誠二君と一緒にいられなくなってしまうもの。
 これであなたは私色に染まれるよね。ううん、『私のこと、もっと深く知れるよね?』



38:日常に潜む闇 第3話 ◆4wrA6Z9mx6
10/10/29 19:40:39 IsLckfBA

~Next day~
「…………」
 学園都市内の路面電車に乗りながら誠二は昨日の出来事を考えていた。
 どうして友里はあんなことをしでかしたのか。
 二人は愛し合っていると言っていたが、どう考えてもおかしい。
 あのクリスマスの日、誠二は死線を踏み越えようとしていた彼女を助けた。それは事実だ。しかし彼女に惚れていたから助けたわけではない。
 普通、死んでしまうかもしれない状況で、助かるかもしれない人名が目の前にあればそれを救うのは道理だ。
 そして助けられたから、助けてくれたのが異性だったから好きなってしまうのは、まあ、あり得る話だろう。だが問題は、今回の場合は、助けられたのは相手が自分のことを好きだったからという理由だ。
 友里の勘違い、の一言で済ませられるのだが、どうしても彼女はそのことを分かってくれない。
 どうやって誤解を解けばいいんだろうかと考えているうちに、いつの間にか路面電車を降りて、高等部の校舎に足を踏み入れていた。
 昇降口で上履きに履き替えて、教室に向かう。
 ふと、自分に向けられる奇妙な視線に気づいた。
 廊下の所々で女子たちがちらちらとこちらに目を向けながら何かをひそひそと話している。
 変な寝ぐせでもついているのかなと思いながら教室に入った時、そこでもまた廊下の時と同じ視線を教室中から頂く羽目になった。
 一応朝、鏡で確認したがそれほどおかしなことにはなっていないはずだ。
 それとも、自分の基準がおかしいのだろうか。
 首をかしげながら席に着くと、弘志が慌てたように駆け寄って来た。
「おい誠二」
「どうしたんだそんなに血相変えて? 事件でも起きたのか?」
 冗談のつもりで言ったのだが、弘志は深刻な表情をして首肯した。
「誠二、お前、紬原友里と以前会ったことは?」
「? 高三の時、事故に巻き込まれそうになったのを助けたきりだけど?」
「…………その後、やつと一度も接触してないんだな?」
「そうだけど、一体どうしたんだ?」
 彼の真剣御を帯びた質問の意図を今一つ掴みきれない誠二は、どうしてそんなことを問うのか不思議で仕方がない。
 そして弘志は弘志で、誠二の問いに応えずに何か思考しているようだ。
 しばらくの間をおいて、弘志はゆっくりと口を開く。
「誠二。俺はお前を友人として、信じている。その上で聞いてくれ」
「あ、ああ」
 自分が問題の渦中にいるらしいとようやく悟る誠二だが、次に弘志が告げた内容に愕然とした。
「お前、前から付き合ってた友里を酷い目に合わせて挙句の果てに捨てたって噂になってるんだ」
「え…………?」
 戸惑う誠二を置いて、弘志は矢継ぎ早に説明する。
「情報は昨日の夕方から流れ出した。誰が発信元かは不明。けど、お前の話を聞いて噂は根拠がないと俺は判断した」
「ちょ、ちょっと待て。一体何が何だかさっぱりだぞ」
 どうしてそんな根も葉もない噂がでっち上げされたのか、その理不尽な話に誠二は困惑する。
「俺も分からん。けど、高等部全域に広まって収拾できない状態だ。女子連中と増長した男子から何かしらのアクションがあるかもしれない。だから注意しておけ。俺からもなんとかフォローしてみるけど…………期待はするな」
「…………」
 椅子に深く座り込み、誠二は一人沈黙する。
 弘志は窓に背を預けて、彼が十分に今の状況を理解するのを待っている。
 校舎に入ってからの女子たちの視線はこういうことだったのか。と誠二はようやくそのことを認識できていた。教室に入っても同じ反応だったことから、この高等部の女子全員が敵に回ったと考えていい。そして女子と仲の良い男子も向こう側に回った。
 孤立していると、誠二は静かにその事実を受け入れた。
「つまり、僕は孤立無援の状態で、これから何があってもおかしくはないってことか」
「ああ」
 何しろ噂では、誠二は女の敵だ。
 それを事実と思いこみ、怒り心頭に発した女子たちが結束して行動に出ることは明らかだ。
 恐らく男子からも、嫉妬と女子の雰囲気に流されてという二つの理由で参戦するに違いない。
 異性からどう思われようが知ったことではないが、同性からもいじめを受けるというのは少々どころかかなり辛い。
 体育の時、ペアを組んで行う授業なんかでは一人孤立―ハブられてしまうではないか。
「どうすればいいと思う?」
「ここまで広がってると、恐らく主犯格を探すのは困難だ」
 真剣な表情で弘志は考えている。
 彼の下には全校生徒の情報が流れ込んでいる。その情報量ゆえに誠二の無罪を信じて、こうして対策を練ってくれている。
 それだけで誠二は万感の思いだった。


39:日常に潜む闇 第3話 ◆4wrA6Z9mx6
10/10/29 19:41:42 IsLckfBA
「なら、行動で示すしかない、か……?」
「けどどうやってだ?」
 弘志の問いに誠二は言葉を詰まらせる。
 なんとか考えてみるよ、と言おうとした時、弘志が顔を歪めた。
「時間切れだ」
 そう言って教室の後ろのドアを顎でしゃくる。
 振り向けば、紬原友里が入って来るところだった。
「おはよう、誠二君」
「あ、ああ……おはよう」
 さすがに昨日のこともあり、多少の居心地の悪さを感じながらなんとか挨拶を返す誠二。
 弘志はと言えば、タイミングを見計らって誠二にまた後で話しあおうとこっそりと告げて仲間の所に戻って行った。
「うわー。噂ってやっぱり本当だったみたい」
「サイテーじゃん」
「紬原さんカワイソー」
 どうやら声を掛けられて動揺していると思ったのだろう。
 教室の前のほうにいた女子たちが、ひそひそ話していると言う割には後方に居る誠二にまではっきりと聞こえる音量で喋っている。
 男子たちはこちらに懐疑的な視線を向けるにとどまっているが、そのうち女子たちのように誹謗中傷を投げてくるだろう。
 まだ実害がないから耐えられる。
 誠二は昔のことをぼんやりと思いながら、隣から友里の視線を感じながら、SHRの時間をひたすら待つのだった。


40:日常に潜む闇 第3話 ◆4wrA6Z9mx6
10/10/29 19:42:38 IsLckfBA


~昼休み~
 午前の授業は単なるガイダンスのみで、他の連中からのあからさまな嫌がらせもなく無事に過ごせた。
 だがこれからが本番だ、と昼休みを告げるスピーカーからの鐘の音を聞きながら気を引き締める。
「ねえ、誠二君。お弁当作って来たんだけど、よかったら一緒に食べない?」
 出鼻をくじく勢いで友里がいきなりそんなことを言ってきた。
 しかし誠二には午前中を全て思考に費やした果ての起死回生の策がある。
「ありがとう。じゃ、食べよっか」
「うんっ」
 喜びの表情を浮かべる友里。
 周囲の女子はかなり驚いている。
それもそうだろう。改善の可能性全くゼロの状態にまで関係が破綻していたはずの2人なのに、昼食を共にするという、仲が良くなければ成立しない現象がこうして目の前で繰り広げられているのだ。
 誠二が考えた挙句の果ての戦略は、彼女がこちらに好意を寄せていることを知っているので、逆にそれを利用して噂が根も葉もないものだと証明する方法だ。
 これで何事も問題なく学園生活を送れる―。
 そう思った矢先だった。
「久坂誠二はいるか?」
 そう言って、教室に入って来た1人の女子生徒。
 教室中の皆が何事だろうかと一斉に教室の前のドアのほうへ注目する。
 それは誠二とて例外ではない。
「おお! 久坂誠二! いるならいると言ってくれないか。昼休みの時間は少ないんだ。有効に使わなくてはならない」
 少しの間を置いて女子生徒は誠二の前にまで来ると、彼の手をいきなり掴んで早く来るようぐいぐいと引っ張り始めた。
「え? あの? ちょ……!」
 その女子生徒が入学式の時、学園の正門で会ったあの先輩であることに驚いた誠二だが、それ以上にこの状況に戸惑っていた。
「さあさあ! 短い時間は有効に活用しなくてはな!」
 そう言って女子生徒は困惑する誠二を引っ張って行った。
 友里は誠二が連れ去られた方向を、まるで能面のような表情で見つめ続けていた。




41:日常に潜む闇 第3話 ◆4wrA6Z9mx6
10/10/29 19:43:29 IsLckfBA
~~~~~~~~
「さあ、入ってくれ」
「うわわ……し、失礼します」
 誠二は背中を押される形で生徒会室に足を踏み入れた。
「失礼しますなんて他人行儀な真似をする必要はない。ここはある意味身内の集まりみたいなものだからな」
「―っ!」
 生徒会室の奥、窓の外の風景を眺めている生徒会長に声をかけられ、誠二は身体を硬直させた。
「誠一、兄さん……」
「久しぶりだな。弟」
 生徒会長の誠一はそこのパイプ椅子に座るよう身振りで促す。
「…………」
 戦々恐々といった風で誠二は座った。
 誠一は弟と対面するように反対側のパイプ椅子に腰を下ろし、天城は誠二の隣に座る。
 気まずい雰囲気のまま沈黙が続くかと思われたが、先手を切ったのは誠二だった。
「兄さん、なんで僕を呼んだんですか」
「簡単なことだ。お前を生徒会執行部に迎えたい」
「……謹んでお断りします」
「まあそう言うな。お前が俺に対してコンプレックスを抱いているのは知ってる」
「…………」
 さすが兄と言うべきか。弟である誠二の苦手なものまで把握しているようだ。
 誠二は睨むような目つきで誠一の目を射抜く。
 そのまま誰も一言も発することなく時が過ぎて行き―、
「今日はこれくらいにしておこうか。お前を勧誘することなど、雑作もないことだからな」
 最初に折れたのは生徒会長の誠一だった。
「では、失礼します」
 何か余計なことを言われる前に、と誠二はいそいそと生徒会室を退出した。
 閉じられたドアを眺めながら誠一はぼんやりと呟く。
「さて、見事に振られてしまったわけだが……君はどうする?」
「分かりきったことを聞いてどうするんだ? 久坂会長」
「だがあいつの頑固さは兄譲りだ。さっきのやり取りを見て分かっただろう?」
 誠一は問題ないと言う天城に肩を竦めた。
 しかし彼女は何がおかしいのかくつくつと笑い始めた。
「既に布石は打ってある。誠二がここに来るのは自明の理だ」
 その言葉に誠一は、天城がどのような策を張り巡らせたのか、瞬間的に悟った。
 生徒会長になる以前から彼には独自の情報網があり、それは会長になった今でも機能している。さらに言えば、最新の情報が網にかかるたびに彼のもとへ逐一送られるのだ。
 莫大な情報が手元にあるがために、誠一は天城のやり方、目的を推測できる。
 そして、その予想は間違いなく当たる。
 そんな予感がしていた。
「全く、これだから弟が羨ましいんだ」
「ふっ。会長もそれなりにモテるのではないか?」
「求めるべき愛の深さが問題なんだ。まあ、あれでも弟だからね。少なくとも殺したりはしないでくれよ?」
「ふふっ。それは彼次第だな」
「俺の役目はあくまでも傍観であり観察。せいぜい頑張ってモノにしたまえ」




42:日常に潜む闇 第3話 ◆4wrA6Z9mx6
10/10/29 19:44:48 IsLckfBA
~教室~
生徒会室での一件といい、なんだかんだで昼休みはあと十分で終了という時間になっていた。
 お昼を食べ損ねてしまったことに僅かな悲しみを抱きながら誠二は教室に入る。しかし室内の妙な雰囲気に思わず足を止めた。
 女子は何やらひそひそギャーギャーといった感じで誠二の批判の嵐だ。表現が矛盾しているように感じるが、密談とは言えない程度の声量で話し、時折大きな声を上げているのだから、少なくとも間違ってはいないだろう。
 男子はそんな女子連中といましがた教室にやって来たばかりの誠二とを見比べて戸惑っているような戦々恐々としているような、物凄く微妙な表情をしている。
しかも中には悔やむような顔をしている者や、当然というような表情をしている者までいる。
 一体何がどうなっているのかますます理解できない誠二は自分の席に向かった。
 どうやら友里はどこかへ行っているらしく、彼の隣は空席だ。
 昼休みの後はすぐに授業なので、5限目は何だっただろうかと思いだしながら机の中から教科書を探る。
 取り出して、そして誠二は絶句した。
「………………」
 教科書がズタズタに切り裂かれている。ついでに言えば、油性ペンで落書きした後にカッターかハサミで切り刻んだようだ。
「……ま、いいか」
 気を取り直して誠二は極めて日常生活上の呟きにも似た呟きをする。
 ぶっちゃけて言えば教科書はなくても勉強は出来る。参考書を買って自宅で自学自習すればいいだけだ。
 そして何よりも、こうなることは既に覚悟していた。
 幸い男子からの目立った攻撃はない。
 まだ戦える。
 誠二はそう考えながら、窓の外を眺めた。

43:日常に潜む闇 第3話 ◆4wrA6Z9mx6
10/10/29 19:45:23 IsLckfBA


 誠二の席よりも少し黒板よりの場所で、女子たちが机を丸くして騒いでいた。
「なにあの態度? チョームカつかね?」
 先ほどの誠二のやり過ごし方に苛立ちを抱いた一人が呟くと、爆発したように非難の言葉が飛び交い始めた。
「なかった振りするのがカッコイイとか思ってんでしょ」
「バッカじゃねーの? これでアイツが泣き始めたらマジ最高じゃん」
「そんときは写メってマジみんなに晒してやるし」
 実に下らない、下賤な会話で一通りわめくと、今度は別な女子が言い始める。
「でもホント意外だよねー。あんな優男みたいな顔した奴が実はタラシだったなんて」
「噂だとエンコーとかで超ヤリチンらしいってえ」
「ええー? それマジ? マジでサイアクじゃん」
「しかも手ぇ出してたのって紬原さんだけじゃないらしいよ? そんでもって妊娠させて無理矢理オロさせたんだって」
「なにそれ? マジねえじゃん」
「女舐めんなよ。マジクソだし」
 ああ言えばこう言うとう言葉があるように、次々と女子たちが面白半分で嘘を本当のように語る様子に、弘志は苛立ちを感じていた。
 何とかしなければ誠二の立場が危ない、と。
 しかし決断を躊躇う理由が彼にはあった。
 久坂誠二を救うこと。それはつまり自分の立場を失うことだ。
 彼は自称とは言え情報屋として、学園内のすべての生徒たちと何らかの形で情報収集ネットワークを構築しておかなければならなかった。それは己の興味のためであり、自衛のためだ。
 それを失うことは、自分を守る術をなくすことであり、すなわち雪下弘志の精神的な自滅を意味する。
 彼は自分が他人からどう見られているかを過剰なまでに気にしている性質だった。自分が生み出す恐怖から自分を守るために彼は情報を集めるようになり、それが今ではここまで巨大化しているのだ。
 確かに網を縮小してもいいかもしれないが、久坂誠二を助ける場合、その網を全て失うというリスクを背負う羽目になる。
 義憤に駆られた弘志だが、さすがに己が身を賭してまで助けることはできなかった。
「なあ、誠二の噂……本当なのか?」
 弘志の友人が、不安げに弘志に問いかける。
「分かんねえ。噂の出所がはっきりしてないから、判断のしようがないんだ」
「そう、なのか……」
 友人は気まずい表情をして黙りこんだ。
 実はこの友人が尋ねてきたように、大きな謎がある。
 噂の発生源だ。
 つい先ほどネットワークを使って調べたのだが、どこからも発生源をうかがい知ることは出来なかった。
 噂は共通した内容と話が伝わるにつれて付け加えられていく内容の二種類から成る。特に前者が重要で、これを割り出すことで、その情報提供者の身辺を探れば大方予想がつく。
 だが、今回の噂は誰が発信元なのか、特定できなかった。
 同時に複数の人物から情報が流れたらしいというところまで想像できるのだが、その集団が何者なのかがまったくつかめない。
 久坂誠二に恨みを持つ集団だとしても、ここまで完璧に姿を消している連中ということは、学生の範囲内で考えること自体が間違っているのかもしれないと弘志は思い始めていた。
 そうなると、キナ臭い方向に舳先が向き始める。仮に外部の組織からの情報流入だったとした場合、それがもしも非合法的な集団だったとしたら命の危険がある。
自分だけではない。下手をすれば当事者の一人である誠二まで危険にさらされるかもしれないからだ。
自分がどう行動をするべきか、今は傍観するしかないという状況に弘志はいら立っていた。
面白い友人一人を救えないでいる自分を殴りたかった。
しかし時間というものは無情で、昼休みの終了を告げるベルが鳴った。


44:駄文太郎 ◆4wrA6Z9mx6
10/10/29 19:48:33 IsLckfBA
投下終了です。

本来なら毎週日曜更新ですが、
仕事のトラブルがさらなるトラブルに巻き込まれると言う負のスパイラルが発生しました。
なので今週末の日曜に投下できないため、急遽投下した次第です。

45:名無しさん@ピンキー
10/10/29 20:02:59 4mysa1rs
>>44
GJ!!
素晴らしい!
次回も楽しみにしています。

46:名無しさん@ピンキー
10/10/29 22:42:50 yinKL7B/

なんか弁当開けたら「私の一部」が隠れてなさそうだな。
海苔弁かと思ったら髪の毛とか、普通に指入ってたりとか

47:名無しさん@ピンキー
10/10/29 22:56:56 fVfzp7PD


48:名無しさん@ピンキー
10/10/30 01:38:21 rzpB5DT8
常連の作者消えたの?

49:名無しさん@ピンキー
10/10/30 02:59:43 uKBrKTvf
>>30
>>44
両方ともGJ!
とりあえず、『狂う者~ 』の方はどんだけ周りに狂人がいるのかとw
『日常に~』は、ウワサの出所は明らかに友里っぽいけど、明言されてないからどんでん返しがあったり?

50:名無しさん@ピンキー
10/10/30 03:05:24 59P69c7r
>>49
結果、誠二に嫌われて挙句に発狂…このままだと監禁か心中のどっちかか?

51:駄文太郎 ◆4wrA6Z9mx6
10/10/30 08:46:20 sJaMCz8m
仕事の合間に書いて投稿……
いやだってそんなことしないと定期的に投下できないんですもの

というわけで日常に潜む闇第4話投下します(今回は短め)
連投なのは、どうしてもこれだけは投下しておきたかったからです。
では投下開始します。

52:日常に潜む闇 第4話 ◆4wrA6Z9mx6
10/10/30 08:47:11 sJaMCz8m
~授業後~
 5限目の授業が終了し、帰りのSHR(ショートホームルーム)も終わった。
 皆が鞄を手に取り友達と帰る様子を、別に羨ましがることなく風景の一部として誠二は眺めていた。
 これまでの授業で教師からお勧めの参考書を聞き出していた誠二は、今日は商業区にある書店で買う予定だ。
 さすがに放課後まで漬け回して嫌がらせをしてくる奴はいないだろうと思うものの、用心するに越したことはないだろう。
 イジメの主犯であるクラスメイトは既に下校している。そしてなぜか友里も一足先に帰っていた。
 そういえば友里は昼休みの後、一度も話しかけてこなかった、と今更ながらに誠二は思っていた。
 どうやら自覚していた以上に精神的に参っているらしい。
 思わず苦笑が漏れた。
 そろそろ書店に行こうと誠二が席を立つと同時に、教室の前の扉がガラリと開かれ、見るからに柄の悪そうな男子生徒が数人こちらにやって来た。
 教室にまだ残っていたクラスメイトはいきなり現れた不良に驚き、狙われないようにと身を堅くしている。
「お前久坂誠二だよなあ?」
 ストレートパーマをかけて腰パンをしている不良が声をかけてくる。
「え? あ、はい」
 なんか変なのに絡まれたなあと思いながらも応じる誠二。
「話があるからちょっとこいや」
「この後どうしても外せない用事があるので、今すぐ帰らせていただきたいんですけど……」
「まあまあいいじゃねえかよ誠二クン。別に取って喰おうってわけじゃないんだからサア。ちょっとオレらとお話ししよってだけナンだからサア」
 誠二が断ろうとするとすかさず取り巻きの中からチャラチャラした男子生徒が慣れ慣れしく肩に腕をまわしてきた。
 相手に悟られず逃げないようにするところが実に巧妙だと誠二は思いつつ、ため息をついた。
「じゃあ雑談しやすい場所に移動でもしましょうか。ここでは話しづらいと思うので」
「オ! イイ心がけしてんじゃんヨ」
 チャラ男は感心したような口調で言うが、その目は他の不良たち同様、嘲笑を含んでいる。
 本当に面倒臭いと誠二は思いながらも、彼らに取り囲まれるようにして教室を出て行った。




53:日常に潜む闇 第4話 ◆4wrA6Z9mx6
10/10/30 08:47:45 sJaMCz8m
~高等部某所~
「で、話というのは?」
 体育館裏という典型的な場所まで連れて来られて、すぐに相手との間合いを取り、誠二は尋ねた。
 もちろん連中が何を企んでいるのかは知っている。
「テメエ調子に乗り過ぎなんじゃねえの?」
「とりあえず調子こき過ぎだから締めてやんぜ」
 そう言って不良たちは一斉に飛びかかって来た。
 つまりは噂を聞きつけて、或いは噂を焚きつけた本人がこいつらを使って自分をさらに貶めに来たということか。
 そんなことを考えながら、誠二はスタコラさっさとその場から逃走を試みる。
「逃げんじゃねえぞゴルァ!」
 精一杯ドスを効かせているのだろうか。
 スキンヘッドの大男の怒声を左から右に聞き流しながら、誠二は校舎へ一直線に走る。
 煙草を吸っていそうな連中に見えるのだが、最近の不良は煙草はやらないらしい。
 いや、単純にあの不良どもが例外なだけだろうか。
 校舎内に入ってもなお追いかけて来る不良に、誠二は焦りを覚え始めていた。
「ああ、まったく辛い」
 階段を一段飛ばしで駆け上がり、教室へ滑り込む。
 一連の事態を把握していたクラスメイトは状況の推移を見守るかのごとく、未だ教室に残っていた。
 誠二は自分の席に近づき、鞄を回収する。
 既に教科書その他は閉まってあるので今更確認する必要はない。というよりも確認している暇がない。
「テンメェ……! ちょこまかと逃げんじゃねえ……!」
 怖い怖い先輩方が迫っている。
 誠二は急ぎ廊下に飛び出る。
 教室に居れば、前後の扉からやって来るだろう。
 あるいはどちらか一方からやって来て、もう一方では待ち伏せて誠二がくる瞬間を待っていただろうに。
 今度は階段を上に駆け上がる。
これより上は理科や音楽など、俗に移動教室や特別教室と言われる教室が設置されている。
 誠二は階段とは反対側に位置しているエレベーターに駆け寄り、ボタンを押した。エレベーターは運よくこの階に停まっていたらしく、ドアが開く。
 中には誰もいない。
 誠二は適当な階数ボタンを押し、ドアを閉じるボタンを押した。
 そして廊下に出て、エレベーターの扉が閉じるのを確認してから、今度はゆっくりとした歩調で階段を使ってさらに上の階へ上って行った。
 エレベーターが作動して下の階へ向かえば、不良たちがそれに釣られると思っての策だった。
 しかし放課後とはいえまだ生徒は残っている。誘導される可能性は低い。
 屋上を出て、誠二は鉄扉を後ろ手に静かに閉じる。普段は立ち入り禁止ということで施錠され足を踏み入れることができない場所だが、運が良いことに鍵がかかっていなかった。
 何も考えずに屋上へまっしぐらだった誠二にとって、実に都合がいい話である。
 日が落ちるまで、ここで隠れてやり過ごそうと決め込んだ―その時であった。
「あれ? 誠二君、来てくれたんだ」


54:日常に潜む闇 第4話 ◆4wrA6Z9mx6
10/10/30 08:48:11 sJaMCz8m
「あれ? 誠二君、来てくれたんだ」
 突然、傍から声をかけられ、声こそあげなかったものの盛大に肩をビクッと鳴らした。
「紬原、さん……?」
 落ち着きを取り戻しながら誠二は彼女の名を呼ぶ。
 対する友里は滅多に見せない静かな微笑みでこちらを見つめている。しかしどことなく危険な雰囲気がするのは気のせいだろうか。
 悟られないよう、彼女から少し離れつつ誠二はここで何をしているのか問うた。
「ここは立ち入り禁止だよ」
「知ってるわ。でも、ここなら誠二君と二人きりになれると思ったの」
「……言っておくけど、僕は紬原さんの想いに応えることはできない。何度も言ってるけど、お互いまだ何も知らないじゃないか」
 友里が何を言わんとしているかを気づいて、誠二は牽制を仕掛けた。
「そうね。だから私考えたの―お互いを分かりあうためには、一つになればいいと思うんだ」
 そう言って、紬原友里は学生鞄の中からスラリと何かを取り出した。
「いや……それは何の冗談なんだ……?」
 彼女の手にあるもの―刺身包丁を指差して、誠二は逃げ場を探る。
「冗談? 私は冗談は言わないわ。大丈夫、ちょっと痛いかもしれないけど、すぐに私たちは一緒になれるよ」
 彼女から距離を取ろうとして動いたのがいけなかった。
 唯一絶対の脱出口、校舎内へと続く鉄扉は友里の背後にある。
 自然、誠二の四肢は恐怖に打ち震える。
「カニバリズムは最高の愛情表現というけれど、ナンセンスよね。分かりあうためには時間が必要。それなら永遠に、一緒に、誰にも邪魔されることなくお互いを理解し合えて愛し合うことができる―そうは思わない?」
「……謹んでお断りしたいな」
 この期に及んで減らず口が言える自分にちょっと驚く誠二。
「私たちは赤い糸で結ばれているの。そして今、その糸はまさしく絡め取られて距離はゼロ―つまり一心同体になるのよ」
 怖いけど、逃げ場ないし諦めようかな。
 狂気に包まれた彼女の瞳を見て、誠二のうちに諦観の念が募り始める。
 それを機敏に察知したのか、友里は一層穏やかにしかし深く笑みを浮かばせる。
 ―ああ、なんだか艶やかだなあ。こんなに可愛かったのか。
 刺身包丁片手に近づく友里に、誠二はそんなことを思い始めていた。
 そして、無意識のうちに自らも彼女に歩み寄る。
 友里が誠二の首筋に刃を当てた時、誠二の口から言葉がこぼれ出た。
「愛してるよ、友里」
 友里は穏やかな笑みのまま返す。
「私もよ、誠二君」
 鋭い痛みが誠二の首筋に走ったかと思うと、視界がゆっくりとフェードアウトしていく。
 身体の自由が、思考ができなくなるのを感じながら、友里もまた血を噴き出して倒れつつ、お互いに抱き合う。
 そして二人はコンクリートの床に堅く抱きあって微動だにしなくなった。


55:駄文太郎 ◆4wrA6Z9mx6
10/10/30 08:51:36 sJaMCz8m
第4話 投下終了です。

しかし今気づいたこと、
×コンクリートの床に
○コンクリートの床の上で
ミスっちまったよ

ヤバい。上司が呼んでいる。休日返上の仕事馬鹿の働きぶり、舐めて貰っちゃ困りますな
では、また今度お会いしましょう
(ヤンデレの女性と結婚したいと思う今日この頃である)

56:名無しさん@ピンキー
10/10/30 12:23:38 uKBrKTvf
 GJです。
 お仕事がんばってください。
 色々な意味でdead endな展開。
 どう続くのか、ちょっと読めない!

57:名無しさん@ピンキー
10/10/30 14:30:30 ATmMCG6/
GJ!
どんなふうに続くのか楽しみです!


58:名無しさん@ピンキー
10/10/30 16:44:00 Zx7NUwWd
一ヶ月はたったしそろそろ黒い陽だまり来ないかな…

59:名無しさん@ピンキー
10/10/30 21:49:42 alwjGZ09


60: ◆0jC/tVr8LQ
10/10/30 22:15:18 5GZedPN3
こんばんは。今回は触雷!の投下です。
第19話 紅麗亜サイドです。

61:触雷! ◆0jC/tVr8LQ
10/10/30 22:18:12 5GZedPN3
目が合った瞬間、男は倒れ、他界しました。
何ということをしてしまったのでしょう。
不可抗力とは言え、メイドがご主人様以外の男と目を合わせてしまうなんて。
後でご主人様に、きついお仕置きをしていただかなくてはなりません。
裸に剥かれ、荒縄で縛り上げられ、吊るされて、鞭で打たれながら気絶するまで犯されるのです。
しかしそのためには、まず雌蟲を駆除し、ご主人様を救出する必要があります。
その方法を考えながら、私は銀行を出て歩き出しました。
ところが、いくらも歩かないうちに、警官と名乗る男達が現れ、私を警察に連れて行こうとしました。
「恐れ入りますが、事情聴取にご協力を」
何を馬鹿な。
ご主人様が雌蟲に攫われたのです。想像したくありませんが、今まさに、凌辱されているかも知れません。
第一級の緊急事態、一刻を争う状況です。
警察で油を売る暇など、あろうはずがありません。
私は男達を睨み付けました。
「申し訳ございません。急いでおりますので」
「「ひ……」」
男達の股間が見る見る濡れ、足元がふら付きます。
しかし、そこで私は考え直しました。
ご主人様が雌蟲の手に堕ちている今、国家権力の手を借りるのも1つの方法です。
「考えが変わりました。連れて行っていただきましょうか」
「いや、あの、結構です……」
「お忙しいようですので、また後日に……」
「早く案内なさい!」
私は2人の男の襟首を掴み、両手で吊り下げて警察署に入りました。

「早速ですが、被害届の提出を所望いたします」
取調室に警官2人を放り込んだ私は、椅子に座って申しました。
「ひ、被害届ですか……? お気持ちは分かりますが、被疑者はすでに死亡しておりますので……」
被疑者が死亡?
それは確かに、あの雌蟲は一刻も早く絶命させるべきですが、忌々しいことにまだ生存しています。
きっとこの2人は何か、思い違いをしているのでしょう。
きちんと説明しなくてはいけません。床に座ったまま震える彼らを見下ろし、私は言いました。
「まだ生きていますよ。メイド保護法の違反者が」
「め、メイド保護法……?」
「ご存じないのですか? メイドのご主人様を略奪した女は無条件に死刑という法律です。メイドがご主人様にお仕えするという、神聖にして犯すべからざる権利を保護するのは、世界の常識、グローバルスタンダードです」
机の上の電気スタンドで、2人の顔を照らしました。
眩しそうにしながら、片方の警官が言います。
「いや、少なくとも日本では、そう言った法律は……」
私は呆れました。
21世紀にもなってメイド保護法が成立していないとは、何という後進国家でしょう。
しかし、ないものは致し方ありません。
今から総理大臣を拉致監禁・洗脳してメイド保護法を成立させても、おそらく手遅れです。
警察署のパソコンから、首相官邸の意見募集コーナーに“税金泥棒! 死ね!”と書き送り、私は外に出ました。


62:触雷! ◆0jC/tVr8LQ
10/10/30 22:21:57 5GZedPN3
外に出てすぐ、私の携帯電話が鳴り出しました。
上の妹から電話です。
「もしもし」
『お姉様!! ご主人様はまだですの!?』
鼓膜から三半規管から切り裂くような金切り声です。私は思わず、携帯電話を耳から遠ざけました。
「そんなに大声を出すな。普通に話せば聞こえる」
『メールしたのに、全然連絡がないんですもの。声だって大きくなりますわ。まさか、お姉様お1人でご主人様を独占するおつもりではありませんわよね!?』
「そんな訳がないだろう」
私は正直に言いました。全時間の8割、私がご主人様にご奉仕し、残りの2割の時間だけ妹達にくれてやるつもりではありますが。
『では何故!? 何故ご主人様がいらっしゃらないんですの!?』
「それはだな……」
私は仕方なく、これまでの経緯をかいつまんで上の妹に話しました。
話し終えた途端、電話口の向こうで何かが爆発したような音が聞こえました。

数時間後、私はご主人様のお屋敷からそう遠くない、とあるホテルの一室で2人の妹と会っていました。
本当は、すぐにでも雌蟲その1の巣に突入したかったのですが、上の妹が、詳しい事情を聞くことを強硬に望んだため、やむを得ず説明することにしたのです。
私は片側のソファーに腰掛け、妹2人は向かいのソファーに座っています。上の妹の右手には、白い粉が付着していました。屋敷の壁を怒りに任せて破壊したのでしょう。
2人の妹に私は、ご主人様が雌蟲その1に奪われた経過を、改めて話しました。
その間、上の妹は冷ややかな目で、下の妹は落ち着かない目で私を見ていました。
「お姉様……」
私の話が終わると、上の妹は低い声で話しかけてきました。
「ご主人様の元にお出かけになるとき、わたくし達に何と仰ったか、覚えておいでですか?」
「ん? 私が何か言ったか?」
「『お前達ゲテモノメイドにご主人様は捕まえられない。ご主人様の捕獲は私に任せろ』と、仰いましたわよねえ」
「そんなことを、言ったかも知れないな」
「言いましたわ! だからわたくし達は、涙を飲んでご主人様の捕獲をお姉様にお任せしたんですのよ。その挙句が、ご主人様を雌蟲に奪われた? 開いた口が塞がらないとは、このことですわね」
傲慢な態度で腕を組み、上の妹は私を睨み付けます。
無礼な態度を注意したいところではありますが、今回のことは私にも若干の落ち度があります。あえて自重しました。
「…………」
「うう……ひどいですう。お姉様」
黙り込んでいると、下の妹が泣き始めました。
「ご主人様に使ってもらうために、鞭とか玩具とかボンデージとか沢山買って、拘束台も日曜大工でいくつも作ったんですよお。あ、ピアスはご主人様に選んでもらいますから、まだ買ってないですけど……」
この娘の頭の中には、ご主人様に調教されることしかないのでしょうか。
それはともかく、私は2人に言いました。
「心配するな。ご主人様は必ず私が取り戻す。これからすぐにだ」
すると、上の妹が即座に言いました。
「駄目ですわね」


63:触雷! ◆0jC/tVr8LQ
10/10/30 22:23:12 5GZedPN3
「何が駄目なんだ!?」
さすがにこれは聞き捨てなりません。私は気色ばんで上の妹を問い詰めました。
「どうせ今から、雌蟲の巣に強襲をかけて、ご主人様を力ずくで奪還するとか仰るんでしょう?」
「その通りだが?」
「向こうは中一条グループの本家ですわ。銃を持ったガードマンが大勢いますわよ」
「通常兵器でメイドを止めることは不可能だ。そんなことはお前だって知っているだろう?」
「ガードマンを排除する間に、ご主人様をどこかに連れ去られたらどうするんですの?」
「決まっている。どこまでも追いかけて捕捉するまでだ」
「お話になりませんわね。いざとなれば、あちらはジェット戦闘機くらい繰り出して、ご主人様を逃がしにかかりますわよ」
「そのときはだな……」
「もう結構ですわ。暴力と威嚇で人を屈服させるしか能のないお姉様は、大人しくしていてくださいます?」
「何だと!?」
「ご主人様を最初にお見かけしたとき、申し上げましたでしょう? わくし達が確実にご主人様をものにするためには、まずご主人様を社会的に抹殺することが絶対に必要なのですわ」
「一体なんという……」
「ご主人様の自活能力など、メイドにとって百害あって一利なし。メイドなしでは一分一秒も生きていられない廃人になっていただいてこそ、ご主人様はメイドを無条件、無制限に受け入れてくださるのですわ」
「はうっ……」
あまりに歪んだ人格に遭遇すると、不快を通り越してある種の爽快さが感じられることを、私は知りました。
それはそうと、私は上の妹に問いました。
「で、お前には、ご主人様を取り戻す手立てがあるというのか?」
「もちろんですわ」
優雅に微笑む上の妹。私は焦りました。
獲物は、勝利者の手に帰属します。
ご主人様を取り戻すのに、妹が活躍したら、ご奉仕の時間配分を決める際に、私の分が減ってしまうでしょう。
下手をすれば、8割が7割5分に激減してしまうかも知れません。
それは避けるべきです。
「いや。ご主人様の捕獲は、最後まで私が責任をもってやり遂げる。それがメイドというものだ。お前もそう思うだろう?」
そう言って下の妹を見ると、彼女は一心不乱に何か本のようなものを読んでいました。
先程から一言も発しなかったのは、このためのようです。
「ああん……ご主人様の鬼畜う! そんなに責めたら駄目ですう……」
のみならず、右手をメイド服のスカートの中に突っ込み、ガシュガシュと動かし始めました。
いくら何でもこれは捨てておけず、私と上の妹は言いました。
「おい! 何をしている!?」
「一体、どうしたんですの!?」
すると下の妹は、読んでいたものを私に見せました。


64:触雷! ◆0jC/tVr8LQ
10/10/30 22:24:34 5GZedPN3
それは本ではなく、コピー用紙を綴じて作った冊子でした。
「何だこれは?」
「ご主人様と私をモデルにして書いた、猟奇純愛SM官能小説ですう。ご主人様を取り戻したら、この本の通りに虐めてもらうんですう」
下の妹が書いたという官能小説を、私はちらりと読んでみました。
その内容は、とても私の口からは申し上げられません。
「本当にこれを、ご主人様にやっていただくのか?」
「当然じゃないですか。メイドの調教は、ご主人様の義務ですう」
上の妹ほどではありませんが、下の妹も、なかなかに我田引水、傍若無人な性質です。
あのお母様に育てられて、何故ここまで人格が崩壊するのでしょうか。
全く分かりません。
「……で、お前達2人で、ご主人様を雌蟲から取り戻すと言うのか?」
気を取り直して、私は妹2人に問いました。
「そうですわ。お姉様は大船に乗った気持ちで、待っていてくださいまし。ああ、ご主人様あ……」
「うふふ……もうすぐ実物のご主人様が私を……あ、ちょっとオマンコ汁漏れちゃいました」
2人とも、現実からどこかへ飛んでいってしまいました。
ハアハアと荒い息をつき、顔を赤らめ、ご主人様を捕えたら即刻組み敷いて一滴残らず搾り取りそうな雰囲気です。
激しい不安を覚えました。
しかし、こうなった2人を止めるのはそう簡単ではありません。とにかくやらせてみることにします。
「まあ、いいだろう。具体的にはどうするんだ?」
「腹案がありますわ。トラストミー」
「……何だ、その腹案とは?」
「今は申し上げる時期ではありませんわ」
もう仕方ありません。作戦を聞き出すのは諦め、2人が何かやっている間に、強行突入の準備をすることにしました。
作戦は、一発勝負より2段構えの方が、うまく行く確率が高いのです。
「絶対にしくじりませんわよ。このままではご主人様が雌蟲に結婚を迫られかねませんもの」
「……仮定の話でも、言っていいことと悪いことがあるぞ」
私は上の妹を睨み付け、強い口調で言いました。
ご主人様と雌蟲が結婚。
想像しただけで寒気がし、全身の毛が逆立ちます。
本当にそんなことになったら、自分が何をやらかすか、全く想像が付きません。
おそらく地球は原形を留めているでしょうが、保証できるのはそれくらいです。
「とりあえず、当面の活動拠点が必要ですわね。それにわたくし達の服も。秋葉原でもないのにメイドが3人も連れだって歩いていたら、目立ってしまいますわ」
「……まあ、そうだな」
ご主人様のメイド以外との結婚という、世界の終焉を頭から振り払い、私は上の妹の言葉に頷きました。
その後、いくつかの打ち合わせをしてから、私達はホテルを出ました。


65: ◆0jC/tVr8LQ
10/10/30 22:25:11 5GZedPN3
以上です。次回は現物支給の方になるかと思います。

66:名無しさん@ピンキー
10/10/30 22:40:49 AKfERvAj
GJ!
紅麗亜サイド待ってたがようやく来たか!

67:名無しさん@ピンキー
10/10/30 22:49:15 59P69c7r
>>65
GJ!!ヒャッハー!!新鮮な触雷!だぁ!!下の妹は中一条たちと話が合いそう

68:名無しさん@ピンキー
10/10/30 23:22:28 TGRzJVPm
これ確実に『我が幼馴染』の作者忘れてるな

69:名無しさん@ピンキー
10/10/30 23:23:08 alwjGZ09


70:白い翼 ◆efJUPDJBbo
10/10/30 23:27:31 08GtCShr
触雷! ずっと待ってました! 激しくgjです。

白い翼の作者のものです。
少々、違う話を投下させてもらいます。

71:とある幽霊の話 前編 ◆efJUPDJBbo
10/10/30 23:28:52 08GtCShr

――死のう。

そう思って少女は、このドアを開く。
一年前に飛び降り自殺があったこの美杉学園の屋上は、生徒立ち入り禁止の場となっていた。誰も気味悪がって近付きもしないこの屋上、古く腐った……ほぼ壊れかけのカギをハンマーで叩く。ガチャン、と大きな音をたてて、ドアノブが床に落ちた。
 「………………」
覇気のない瞳をした少女は、屋上のドアを開けた。
 「……………ぁ」
気持ち悪い風が流れる。
何一つの曇りもない青い空に、穢されることを知らない純粋無垢な風……そんなものが、少女の気を悪くした。自分と正反対のものに、なにも悩みもないままに自由に生きる世界が、少女にはどうしても憎かったのだ。
 「……………………」
目の前にある、錆びついた柵。
手入れも何もされていない屋上は、荒れた瓦礫の山とさして変わりなかった。
 「うぁ……」
柵を触るともろく崩れ去ったが、少女の手には、黒い墨を塗ったかのようになっていた。
まぁ、でも今から死のうとする少女には、そんなもの関係ないんだけどね。
 「…………………」
際に立つ。高い、下を見ると足がすくみそうになる少女。
しかし、ここでやめるという選択肢はあり得ない。
だって、ここから飛び降りることよりも生きている方が少女には怖かったからだ。
 「…………バイバイ」
十六年間という短い期間であったが、生きてきた腐った世界に、少女は別れを告げる。
足を踏み出す、視界が変わる、体が――落ちる。

その日から、少女の世界は一変した。

72:とある幽霊の話 前編 ◆efJUPDJBbo
10/10/30 23:30:33 08GtCShr
 「でねでね、この前気付いたんだけど……人が寝ているときに体を
重ねるとね、憑依することができるんだよ!
そしたら、生きていた当時と変わらないくらい快調に体が動かせ――!」
私こと〈霞 奈央〉(かすみ なお)は、上機嫌に目の前の少年に話す。
その嬉々とした表情は、多分、生まれてから一度もしたことがなかっただろう。
 「コラッ」
しかし、会話の途中で少年は私の頭を叩いた。
 「はひっ!」
私は、情けのない声をあげて頭を押さえる。
少し涙目になりながら、叩いてきた少年に向かって頬を膨らませた。
 「もぅ! いきなり何するんだよぉ」
しかしその声は甘い。甘く脳髄がとろけてしまいそうな声。
そう、この声こそが、私が抱く少年への気持ち。
 「生きている人様に迷惑をかけるな、俺たちはあっちの世界とは関係をもっちゃいけないの!」
 「……ッ!」
隣同士に座っていたからだろう。
身を乗り出して話をしていた私の顔と、少し怒ったような顔をして空からこちらに視線を向けた少年。
二人は寄り添うように、そして互いの息がかかる位置まで接近していた。
後数センチ、もうそれだけの距離で唇同士を重ねられそうだ。
だから私は赤面してしまう。
彼の息がかかるだけで、彼の顔を見るだけで……私の心臓は握りしめられたかのように激しく鼓動する。
あ、ぁ、キス……したいな。
 「この体になって間もないこともあるけど、やっぱりそういうのは駄目だろ」
 「…………ぁあ」
一通り、私を叱った少年は、視線をまたも、空に戻す。
その行動に私は、寂しくなって、声を出してしまう。
もっと私だけを見ていてほしいのに……あなたの視線を一人占めしたいのに。
でも――あなたは……。

――ガチャ

 「お、やっと来たか」
少年は私の隣から立ち、その私が壊した屋上のドアを押して入ってきた少女〈七海 瑠夏〉(ななみ るか)のもとへ、小走りで向かったのであった。

――なんで……あなたはそんな女ばかりッ

73:とある幽霊の話 前編 ◆efJUPDJBbo
10/10/30 23:31:08 08GtCShr
 「どうして、なんで? どうして生きてるの! 私は確かに……」
 「君は死んだんだよ、この屋上から飛び降りて……ね」
屋上であたふたしている少女に俺は話しかける。
初めてだな……人にこんな説明をするのは。死んでから一年で……早いのか遅いのか分からないが、いずれはそんなこともあるだろうと俺は考えていた。しかし皮肉に思う。俺がここの自縛霊だから分かっていたはずなのに、最初に説明するのが、同世代の少女だとはな。
 「え、死んだ? でも、私……ここにい――」
 「幽霊」
 「ッ!」
感触が、匂いが、視覚が、味が、耳が……正常に働く。少女は自分の調子……つまり、五感があるということから、生身の肉体であると錯覚したのだろう。しかしそれは違う。
俺たちはすでに幽霊なんだ。
 「君はこの屋上から、さっき飛び降りてたよ……俺も見ていたからね。ほら、下をのぞいてごらん、君の死体が転がっているんじゃないかな?」
 「えっ」
俺の言葉にとっさに反応した少女は、屋上から下の世界を見る。
 「うぇ……」
恐らくその瞳に己の姿をとらえたのであろう。嗚咽しながら、膝を瓦礫につけた。
 「…………………」
俺はしばらく、その姿を見守った。

しばらくして落ち着いた少女に、俺は三つのことを伝えた。
一つ、幽霊であることを自覚すること
一つ、人に干渉しないこと
一つ、自縛霊(一定の場所から動けない霊)にはならないこと
それを彼女は、呆けた表情のままで、うなずいて聞いていた。
まぁ、当り前であろう。死んだのは自分の意志であったとしても、まだその先に……それこそ本当の意味での「第二の人生」が待っているだなんてな。
 「俺から言えることはそれだけだが……君はこれからどうする? 普通の場合はこの世界に満足したら、生きるという意思を捨てたら消えるはずだよ……それに君は自縛霊にはまだなっていないようだ。ここじゃないどこかに旅をするのも、また一興だと思うよ」
 「う……ぅん」
 「……………」
可哀そうに……この女の子。
俺はそう思う。だってそうだろ――

――一度死んだのに、また死にたいって顔してる。

 「良かったら聞かせてくれないか?」
 「えっ?」
俺は自然と口を開いていた。
しゃがんで俺のことを見上げてきた少女に、俺は続けて言う。
 「どうして死のうと思ったか……。君が嫌じゃなければだけど」
 「…………」
少女は再びに下を向いてしまう。死んだ理由なんて話したくはないんだろう。
でもこのままじゃいけない。このままいけばこの子は……何かこの世界に心残りができた成仏できない。それどころか、自縛霊になってしまう可能性がある。
……俺みたいにな。
 「人に話すってことだけで……楽になれるかもしれないぜ? まあ、俺みたいなやつだけどさ」
 「……………ぅん、分かった」
少々考えた少女は、そのうち頷いて返事を返した。何か心の中で吹っ切れるものがあったのかもしれない。
 「えっと、ですね……私は、その――」
 「ちょっと、待って」
言いづらそうに、でも確実に言おうとしている少女に、俺はストップをかける。
少女は、不思議そうな顔でこちらに顔を向けてきた。
そんな場所に俺は笑ってこう言う。
 「まずは自己紹介からだ、俺は〈辻井 孝史〉(つじい たかし) 君の名前は?」
 「あ、〈霞 奈央〉です」

74:とある幽霊の話 前編 ◆efJUPDJBbo
10/10/30 23:31:51 08GtCShr
 「七海! 待ってたよ」
孝(あだ名)が笑顔で、私のもとへ寄ってくる。
あぁ、今日も格好いいな……。私こと〈七海 瑠夏〉は心底そう思う。
十年来の付き合い、幼馴染、おしどり夫婦……ふふ、そんな言葉が私と孝との関係にふさわしい言葉かしら。そんな彼を見ていると、すぐさま顔がほころびそうになったが、一瞬にして私の顔は凍りつく。
 「………孝、またあの子と一緒にいたの?」
私の視界には、霞奈央が捕らえられる。
消えろよッ! 私は頭の中で、叫ぶ。
 「あぁ、奈央のことか? そりゃそうだろ、彼女だってまだ成仏してないんだから」
 「た、孝」
その言葉に胸が締め付けられるように痛くなる。
孝が、霞奈央のことをかばっている。そんなことを考えるだけで、殺したくなる。
 「………また来たんだね」
後ろから歩いてきた霞奈央は不愉快そうな顔で私を見る。
 「あなたこそまだいたのね」
不愉快なのは私の方だ、シネ、害虫! 私の孝に近づくな!
 「どうしてお前ら二人は、会うたび会うたびそうなんだ?」
孝は呆れた顔をする。
あ、ごめんね。別に孝が悪いわけじゃないんだよ、でもね、この害虫がね、うざいんだよ。
と、私は頭の中で言い訳をする。
 「………そんなことどうでもいいじゃない」
しかし、現実にはその言葉を出さない。孝に嫌われてしまう可能性があるから。
孝と私は相思相愛だからそんなことがないはずだけど、孝には、私がおしとやかな人間であると思わせておきたい。だから、仮面を私は繕う。
 「どうでもいいけど、早く出て行ってくれないかしら? 除霊が始められないわ」
ここで私は勝ち誇ったかのように、霞奈央に言った。
 「くっ」
霞奈央も分かっているのだろう、名残惜しそうな……一人前に恋する乙女の視線を彼に見せた後に、ふらふらとどこかに飛んで行った。
 「さて、始めましょうか、孝」
 「おう、いつもいつも悪いな」
 「うぅん……だって、孝のためだもん」
そう、今から孝への除霊と名をうったお楽しみタイムに私たちは入る。
ふふ、孝……今日もいっぱい愛し合いましょう。

75:とある幽霊の話 前編 ◆efJUPDJBbo
10/10/30 23:32:18 08GtCShr
私が彼にした話、それはよくある作り話そっくりだった。
最初は、無視される程度にいじめを受けていた。
理由は簡単、学年一のイケメンと称される男子を振ったから。
元々、男子と付き合う気なんてなかったし、誰に告白されてもそう答えてきていたんだけど……。その事で、女子全体からねたまれた。
徐々にいじめがエスカレートしていく。
机や教科書に落書き、上履き、体操服が隠され、ボロボロにされて、あまつさえ、殴るけるの始末。もう大変だった。
そしてそんないじめる奴らが怖くて私はだれにも相談できなかった。
親にも……教師にも……。
そんなことが半年ぐらい続いたある日、私は思った。
あれ? 私は何のために生きているんだろうって……。
いじめられて……皆に嫌われて……そして自分自身が、こんなに弱い自分が嫌いで。
だったら私、生きてる意味ないじゃんッて……。
そう思ったら、何だかこの世界全てが醜く見えて、好きだったはずの青空も、透き通っていた風も、全て嫌いになった。

――私から、好きなもの全てがなくなった。

あ、死のう。
生きていたってこんな世界、なにもいいことなんてない。
だから死のう。
…………多分私はこんなことを、彼に話した。
終始彼は、黙ったままだった。
私の方を向いて、ただひたすら私の話に、耳を傾けるだけだった。
話も終わり、屋上に静寂が流れた。お互いに何も話すことはできず、下を向く。
重すぎる話で……この場も重くなる。
 「……………」
でも、そんな静寂を、彼はいとも簡単に破って見せた。
 「―――頑張ったんだな、霞は」
 「ぇ?」
彼の呟きが聞こえなかったわけではない。理解できなかったのだ。
頑張った? 何を? 私はただ何もできずに逃げてただけじゃない。
 「だってそうだろ、霞は誰にも相談せず……一人で世界と戦ったんだから」
そう、彼はそんなことを言い出し始めた。
 「すげぇよ、霞は。こんな広い世界の中で、仲間も作らず、一人で戦ったんだから。俺だったらそんな芸当できないね」
 「な、何……言ってるの? だって私、何もしてないんだよ! ただいじめられるだけで、それが怖くて……何もできなかった! 何にも立ち向かうことができなかった!」
私は声を荒げる。この時の私の心には、怒りの感情が芽生える。
何も知らないこんな男が、知った風な口を利くのが気に食わなかったのだ。
 「戦ったじゃねえか、自分自身と」
 「!」
 「怖くて逃げだしたくて、誰かに頼りたくても、それをせずに、自分一人で……そして何より、自分を嫌いになりながらも、生きてたんだろ? だったらそれはすごいことだって。
別に霞がそう思わなくても……たとえ世界中のだれもがそう思わなかったとしてもな、俺だけは霞が一生懸命戦って生きったってことを思い続けてやるよ」
 「…………ッ」
そんなきれいごと言わないで!
 「お、おい、霞……どうした?」
そう言おうとしてたのにな……どうしてだろう。涙が止まんないや。

――そう、この日から、私は彼に、恋し始めた。

76:とある幽霊の話 前編 ◆efJUPDJBbo
10/10/30 23:32:57 08GtCShr
 「はぁ、んぁ………んぁああぁ」
快感だけが、私の精神を貪(むさぼ)っていく。
孝と私は一つに繋がっていた。そう、これはいつものことだ。
いつも夜の十時きっかりに私は屋上を訪れる。
元々霊力が強い神社の巫女の末裔だったために、死んだ後の孝に除霊をしてあげると言い出した。周りに結界を張って、彼を眠らせて、そして……重なり合う。
 「んぁ、気持ち……いぃ……………ぁあ、孝!」
学校に通っている間一日中、彼のことを考えているのだ。
授業中でも、興奮はさめることなく、なんど授業中にトイレでしたことだろうか。
これも全部、全部……孝のせいだ。
孝の匂い、孝の瞳、孝の優しさ、孝の頬笑み、孝の血肉、孝の臓器、孝の髪の毛一本に渡るまで、すべて私のものだ。
この時間は、私と孝だけが現実と離れて唯一過ごせる、至福の時なのだ。
誰にも邪魔などさせるものか!
 「孝、孝、孝、好きぃ、好きなのぉ! 孝ぁ!」
そしてさらに動きを加速していく。
あぁ、どうして彼といると、こんなに気持ち良く、幸せになれるのだろうか……。
そう、七海瑠夏は思いながら、今日もまた……快楽に溺れていく。

――孝は、ワタシダケノモノ。

――この世界は、孝と私だけのッ!

 「そんなわけないでしょッ!」
 「へっ?」

――ガンッ

と、頭部に大きな音が響く。
何? なに? ナニ?
私は突然の出来事に理解できない。どんどん体が前のめりに倒れていく。
彼に繋がったまま、前に、前に……。

 「あんたと、孝史君とのハッピーエンド? そんなのありえないから!」

ヒャハハハハアハハハアハアハハハハハハハハハ
そんな声がだけが、薄れゆく意識の中で……ただ渦巻いていた。

77:とある幽霊の話 前編 ◆efJUPDJBbo
10/10/30 23:33:51 08GtCShr
投下終了です。
他の作者のみなさん、めっちゃgjです
ありがとうございました。

78:名無しさん@ピンキー
10/10/30 23:39:07 CMfKJgOl
gjです
後編も楽しみにしてます

79:名無しさん@ピンキー
10/10/31 00:10:47 FSGOCG56
GJ

80:名無しさん@ピンキー
10/10/31 01:37:25 ZdbH0ihR
ヤンデレはハーレムとか無いよね・・・。

81:名無しさん@ピンキー
10/10/31 01:50:24 w8ZZB+kI
リバースはまだか……

82:名無しさん@ピンキー
10/10/31 03:34:58 ybvQ4r6H
視点変更が多過ぎて何がなんだか…
もうちょっと読み手に配慮してくれよ

83:名無しさん@ピンキー
10/10/31 10:48:54 m77Q3f60
>>80
あるにはあるんじゃない?
ハーレムと書いて修羅場と読みたいなら。

84:80
10/10/31 10:51:57 m77Q3f60
 あげてしまった。すまない。
 …ちょっとヤンデレたちに殺されてくる。

85:84
10/10/31 11:14:36 m77Q3f60
名前欄、80でなく83のミスです。
本当にすみません。

86:名無しさん@ピンキー
10/10/31 17:40:30 oasQokrz
で、ハロウィンネタはまだなのか

87:名無しさん@ピンキー
10/10/31 19:36:04 gA3yrxTL
>>82
お約束に「アドバイスは敬語で」を付け加えた方が良いかな?

88:名無しさん@ピンキー
10/10/31 20:03:44 ex+urYwS
我が幼馴染はまだか!
パンツが履けないぞ!

89:名無しさん@ピンキー
10/10/31 20:21:22 soQqIs8i


90: ◆AW8HpW0FVA
10/10/31 20:29:30 DPPMAttU
test

91: ◆AW8HpW0FVA
10/10/31 20:37:58 DPPMAttU
少し遅れました。投稿します。

92:ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第十七話 ◆AW8HpW0FVA
10/10/31 20:38:46 DPPMAttU
第十七話『夏祭りと明暗』

凱旋したブリュンヒルドは、都中からの万雷の拍手と歓声で迎えられた。
満面の笑みを民達に振りまきながら、ブリュンヒルドは入廷した。
しかしどういう訳か、その笑顔はすぐに消えてしまった。
王より直々の褒詞を受けたというのに、ブリュンヒルドはまったく喜ぶ様を見せず、
ただ静かに受け答えをするだけだった。退廷してからもブリュンヒルドは、
文武百官達からの祝辞に耳を傾けず、憮然とした表情を浮かべながら歩き去ってしまった。
百官達は皆、ブリュンヒルドの機嫌の悪さの原因がなんなのか分からなかった。
ブリュンヒルドが向かった先は、シグナムの執務室である。
ノックする事なく扉を開けたブリュンヒルドは、書類に目を通しているシグナムの目の前に立ち、
「シグナム様、なぜ朝廷にいなかったのですか!」
と、今にも掴み掛からんばかりの勢いで聞いてきた。
シグナムはブリュンヒルドの戦勝報告の場にいなかったのである。
それがブリュンヒルドには気に入らなかったらしい。
「私がなんのために戦ってきたと思っているのですか!
全ては天下のために、強いてはあなた様のために戦ったのです!
だというのに、肝心のあなた様がいなかったら、なんの意味もないではありませんか!」
ブリュンヒルドの視線と言圧が、一斉にシグナムに襲い掛かった。
これほどの圧力を受けているというのに、シグナムは自若として書類に目を通していた。
バンッ、と凄まじい音が部屋中に響いた。ブリュンヒルドが机に拳を叩き付けたのである。
書類が宙に舞い上がり、床に散らばった。
ようやくシグナムは目を上げた。感情のない瞳がブリュンヒルドを刺した。
「お前は王より褒詞を賜ったのだろ。これ以上の名誉はないではないか。
たかだか私がいなかったぐらいで、この様に政務を邪魔するのはどうかと思うが」
「そういう問題ではありません!宰相とは、朝政の席では常に王に侍り、
王が褒詞を述べたならば、続けて宰相も褒詞を述べて然るべきなのです!」
「……要は、私の褒詞が欲しいという訳か……」
「それが宰相としての役目ではありませんか!」
「……………………」
シグナムは黙っていたが、内心では煮え立つ怒りを抑えるので必死だった。
こんな下らない事のために、仕事の邪魔をされた挙句、余計な仕事を増やされたのだ。
それに、ブリュンヒルドを褒めなければならない事も気に食わない。
だが、それをしないとブリュンヒルドはここから出て行きそうにない。
舌打ちをしたい気持ちを押さえ、シグナムは搾り出す様に、
「……大儀……」
と、一言だけ述べた。褒詞としてはあまりにも短いこの言葉を聞いたブリュンヒルドは、
「もっ……申し訳ありませんでした!
私とした事が、気が動転してしまって……。今すぐ片付けます!」
と、先ほどまでの怒気が嘘の様に消え、悄悄とした物言いになっていた。
しゃがんで書類を集め始めたブリュンヒルドだったが、
正直、さっさと出て行って欲しいというのがシグナムの本音だった。


93:ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第十七話 ◆AW8HpW0FVA
10/10/31 20:39:48 DPPMAttU
シグナムは夏が嫌いである。降り注ぐ太陽の光が肌を焼き、汗を止めどなく迸らせるからだ。
執務室や朝廷で政務を行なう際は、常に左右に団扇持ちを侍らせた。
団扇持ちは、大抵の場合は女性や少年である事が多い。
この王朝では古来より女性を使っていたらしいので、シグナムもそれを踏襲した。
所がシグナムの執務室で団扇持ちは、女性ではなく少年である。
理由は簡単だ。ブリュンヒルドが女性関係にうるさいからである。
シグナムが女官と話していたり、偶然横を歩いていたりしただけで、
なんの話をしていたのですか、なぜ一緒に歩いていたのですか、と詰め寄ってくるのだ。
以前にもこういう事があったな、とシグナムは思い出した。
シグナムがイリスを従者にしていた時、それに最も反対したのがブリュンヒルドだった。
よっぽどブリュンヒルドは、自分に女を近付けさせたくないらしい。
それがなぜなのか、シグナムにはブリュンヒルドの意図が分からない。
分からないが、これがどうせブリュンヒルドの嫌がらせなのだろうという事はよく分かる。
十四年前からの関係は、相変らず続いているという訳である。
糞女め、とその事を思うたびにシグナムは地が出そうになる。
その不機嫌を押し隠しながら、シグナムは政務に励んでいるが、
完全には隠しきれないらしく、朝廷内の雰囲気は、常に張り詰めたものになっていた。
王や百官達は、今までのシグナムの陽気さに慣れていただけに、
現在シグナムから放たれる凄まじい陰気に戸惑い、心配していた。
そんな周りの心配を、シグナムは全く察する事もせず、
時折団扇持ちを外に出し、なにかを書いているなどしていた。
この陰気な王朝に、危機感を抱いた者達がいた。バトゥ、トゥルイ、フレグの三人である。
彼等は会合を開き、シグナムが陰気になった原因を話し合った。
明晰な頭脳を持っている三人である。シグナムの陰気の原因がブリュンヒルドにあると察した。
しかし、誰一人としてシグナムとブリュンヒルドの関係が険悪であるという事に気付かなかった。
三人共、シグナムこそ真の英雄だと信じて疑わない。
その英雄が差別などという下らない感情に振り回される訳がない。
その狂信にも似た決め付けが、三人の慧眼を曇らせた。皆が思うほど、シグナムは完璧ではない。
そういう間違った認識から導き出された答えは、
「シグナム様は、ブリュンヒルド将軍に好意を持っているのではないか」
と、いうものだった。間違った認識と言ったが、この答えには彼等なりの典拠がある。
バトゥは、自分とシグナムが話していた時に、ブリュンヒルドが怒鳴り込んできた事を思い出し、
トゥルイとフレグは、シグナムがブリュンヒルドに冷たく接していたのを思い出した。
以上の事から察するに、おそらくシグナムはブリュンヒルドの事が好きなのであるが、
自分が貴顕の位におり、自らの一言で朝廷内に余計な波風を立ててしまう事を嫌い、
あえて冷たく接し、告白しないでいるのだろう。
そのストレスが、陰気となって発散されているのだ、というのが彼等の結論であった。
当然、その答えも、典拠の是非も、推論も全て外れている。
だが、彼等にそんな事など分かろうはずもない。誤った考えのまま、話は進んでいく。
「主が悩んでいるのなら、それを取り除くのが部下の務めだ」
「でも、どうすればいいのかな?ブリュンヒルド将軍は別にいいとして、
シグナム様をその気にさせるなんて、すっごく難しいと思うけど」
「さて、どうしたものかな……」
と、二人が悩んでいると、しばらく会話に参加していなかったトゥルイが満面の笑みを浮かべ、
「その点は私にお任せください。身分の事など関係なく告白させる策ならあります。
今がそのちょうどいい時期です。今すぐその事をシグナム様に申し上げてみましょう」
と、自信満々に言った。
「兄上、その策とはなんなのですか?僕達にも教えてください」
フレグが目を輝かせた。バトゥもそれを聞きたそうである。
二人を近くに呼び寄せたトゥルイは、微かな声で秘策を打ち明けた。


94:ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第十七話 ◆AW8HpW0FVA
10/10/31 20:40:22 DPPMAttU
「夏祭りをやりましょう」
トゥルイが執務室に入ってきて開口一番、そんな事を言った。
書類から目を離したシグナムは、トゥルイの方に目を向けた。酷くやつれた目だった。
「トゥルイ、その夏祭りとやらに、なんのメリットがあるというのだ。却下だ」
にべもなくそう言って、シグナムは書類に目を戻した。が、トゥルイは食い下がってきた。
「メリットならばあります。シグナム様もご存知の通り、民衆の心は戦いにより荒んでおります。
このまま政治を進めていくと、必ず民衆の怒りを買い、最悪、反乱に繋がります。
それを防ぐために夏祭りを開催し、民衆を楽しませ、彼等の心を宥めるのです。
そうすれば、滞りなく政治を行う事が出来るのです」
真剣にトゥルイは語っているが、シグナムはそれを傍耳で聞き流していた。
確かにトゥルイの言う通り、今の政情は不安定極まりなく、多少のミスも許されない状況である。
そういう時だからこそ、厳しく民を取り締まるべきである、とシグナムは思っている。
夏祭りなど、以ての外だった。それぐらいの事、トゥルイなら分かりそうなものである。
「祭りなど、金の掛かる事ではなく、法律を厳しくし、民を治めるべきだと思うが」
「それはお止めになった方がよろしいかと思います。ただでさえ戦乱に苦しんできたというのに、
ここに来てさらに厳しく取り締まったら、民衆の反発は必死です。
その様な力政は、向こう三年は抑え、寛治を行うのが適切でございます」
「寛治……?」
聞きなれない単語に、シグナムは再び書類から目を離した。
「なんだそれは、お前の造語か?」
「造語ではありません。寛治とは、文字通り緩やかな政治の事です。
税の徴収を軽くし、兵役を緩和し、戦没者遺族に十分な施しを与える。
そういう慈しみの政治こそが、寛治なのです」
トゥルイの舌は止まらない。彼は上唇を舐めた。
「古より、戦いに勝ち、勇名を得た者は幾千とおりました。
しかし、その者達の多くは、なんらかの理由で悪名を被り、忘れ去られています。
それはなぜか……、理由は簡単です。彼等は怠ったのです、民衆を慰撫するという事を。
知っての通り、民衆など、青史に名を残す事のない、そこらに生えている雑草の様な存在です。
……ですが、雑草ゆえに、彼等は多い。それこそ刈っても刈り切れないほどに……。
それ等が一度爆発したら、我々貴族では対処しきれない。今回の戦乱が好例です。
私個人としては、シグナム様には英雄であっていて欲しい。歴史に埋没して欲しくない。
たった少しの親切で、シグナム様が英雄になれるなら、私は喜んで進言します。
……シグナム様、どうか寛治を行なってください。
その寛治の始まりを告げるのに、この夏祭りほど適当なものはありません」
長広舌を振るった後、トゥルイは深々と傾首した。
「抜かしたな、トゥルイ」
と、シグナムは言ったが、悪い気はしていない。むしろ、久し振りに気分が高揚していた。
それだけトゥルイの話は、しっかりとシグナムの心に沁みこんだという訳である。
トゥルイの話術に嵌ってしまったな、とシグナムは微笑しながら思った。
「いいだろう。お前の進言を聞き入れよう。しかし、やるからには盛大にやるぞ。
祭りの準備及び実行はお前に任せる。その祭りには私も参加するからしっかりやれよ。
開催日は今日よりきっちり七日後。遅延はなしだ。分かったな」
と、言ったシグナムの目には、活気が蘇っていた。
それを見たトゥルイは、満面の笑みを浮かべて部屋から出て行った。


95:ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第十七話 ◆AW8HpW0FVA
10/10/31 20:41:53 DPPMAttU
夏祭りの開催が決まった翌日、バトゥはブリュンヒルドの部屋に来ていた。
中に入った瞬間、刺す様な殺気を感じ、バトゥは足を止めた。
ちゃんとノックをして、入る前に一声掛けたはずである。
バトゥは殺気の出所であるブリュンヒルドに目を向けた。
窓際に座っているブリュンヒルドの手には手帳が握られていた。
「……なにか、……用……」
表情も口調も、全てが不機嫌そのもののブリュンヒルドは、
バトゥに目を向ける事なく、手帳を懐にしまった。
その些細な動作でさえ、バトゥには恐ろしくて堪らなかったのと同時に、
シグナム様は、こんな恐ろしい人と一緒にいたのか、とバトゥは改めてシグナムを尊敬した。
ブリュンヒルドの殺気に当てられ、既に冷や汗で背中が湿ったバトゥは、
自らに喝を入れ、からからになった口を開いた。
「将軍、夏祭りが開催される事が決定しましたが、あなた様はそれに参加しますか?」
「……だから、……なに……」
「いや、せっかくのお祭りなのですから、お誘いしようと思いまして……」
「……で……」
「あっ……あのですね……」
バトゥはしどろもどろだった。どれだけ自分に喝を入れても、
ブリュンヒルドの殺気が、それを全て吹き飛ばしてしまう。
将軍は、シグナム様の事が好きなのです、などと死んでも聞けない。
言った瞬間、首を引き千切られそうである。
遠回しに言おう、と頭に浮かんだ時、自分はヘタレだな、とバトゥは苦笑いしたくなった。
バトゥは、小さく深呼吸をした。
「当日は、シグナム様も夏祭りに参加されます。
その際、案内役として私が傍に付く事になっています。
シグナム様は、私が案内する場所になんの反対もなく付いてくるでしょう」
「……………………」
「その夏祭りは、シグナム様の肝煎りで、大々的に行なわれます。
そのため、大混雑が予想されます。おそらくは、迷う人も続出するでしょう。
もしかしたら、案内をする私も迷ってしまうかもしれません」
「……あんた……」
ブリュンヒルドの表情が変わった。殺気が薄らぎ、どことなく華やいだ様である。
やはり聡いお方だ、とバトゥは感心した。そして、その反応から脈ありと判断できた。
「それでは、出来れば早く場所を指定して置いてください。
私が言いたかったのはそれだけです」
バトゥはそれだけ言って、退室した。しばらく歩いたバトゥは、
「疲れた……」
と、ぐったりした様に言った。今まで幾つもの戦場を踏んできたバトゥであるが、
話だけで命の危険を感じたのはこれが始めてであった。
極力、ブリュンヒルドには近付かない方がいい、とバトゥが心に決めていると、気配を感じた。
顔を上げると、そこにはヘカテが立っていた。
「……………………」
ヘカテは無口で無表情である。だが、結婚してまだ数日しか立っていないとはいえ、
バトゥはヘカテの表情や雰囲気だけで、彼女がなにを言いたいのか理解できる様になっていた。
ヘカテの瞳が訴え掛けていたものは、嫉妬だった。
どうやら、自分が別の女の部屋に入った事を見咎められたらしい。
「ヘカテ、これはだな……」
慌ててバトゥは弁解しようとしたが、それよりも先に、ヘカテに手を掴まれ、引っ張られた。
引っ張られた先は、誰も使っていない、人目に付きにくい部屋だった。


96:ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第十七話 ◆AW8HpW0FVA
10/10/31 20:43:00 DPPMAttU
少し無茶を言い過ぎたか、とシグナムは思っていた。
だが、夏祭りというからには、夏の内にやらなければ意味がない。
もう後三日ほどでその夏を過ぎてしまう。急ぐ必要があったのだ。
とはいえ、流石に七日でというのは無理がありすぎた。
準備期間を少し延長しよう、とシグナムが決めた時、
それを告げるべき相手であるトゥルイが、夏祭りの準備が完了した事を報告すべく執務室に来た。
夏祭り開催を決定して、まだ五日しか経っていない。
シグナムは、トゥルイの顔を凝視した。
有能だ、有能だ、と思っていたが、この様に急な出来事であっても、
それを大過なく、それでいて素早く処理するトゥルイの手腕には、目を見張らざるを得ない。
自分の後の事は、こいつに任せれば大丈夫か、とシグナムは確信した。
「トゥルイ、お前が女だったら、私はお前に告白していたかも知れんな」
「それを肯定したら、私はソフィアに殺されます」
シグナムの戯言に、トゥルイも戯言で返した。執務室に笑声が響いた。

夏の太陽が秋の太陽と交代しようとする中、遂に夏祭り当日となった。
会場はまだ朝だというのに多くの人でごった返していた。
シグナムの予想では、戦争が終わってそれほど経っていないから、
あまり動員数は期待できないだろうと思っていただけに、大いに驚いた。
「皆どの顔にも、活気が溢れています。これならば、反乱を起こす気などなくなるでしょう」
と、言ったのは、シグナムの先導役のバトゥである。
そう言うバトゥも、やけに楽しそうである。シグナムはからかうつもりで、
「せっかくの祭りだというのに、愛妻と屋台を回れないのは残念だな」
と、笑いながら言った。バトゥは微苦笑した。
「まぁ、これも仕事ですから……。ヘカテも、その辺りは分かってくれていますし……」
「実はお前の後ろを付けていたりして……」
「嫌ですよ、そんな冗だ……」
バトゥは言い掛けた言葉を呑み込んだ。
「どうしたんだ?」
「いえ、なんでも……」
シグナムの問いに、バトゥはおざなりに答えた。シグナムはそれ以上問い詰めなかった。
それはさておき、せっかくの夏祭りである。
笛や太鼓、それにトランペットの音楽に合わせ、人々は踊りに身を投じ、
それをやらない者達も、即席で作られた屋台に屯し、酒や食べ物を喰らっている。
しっちゃかめっちゃかの音楽、辺りに漂う酒や肉などの焼ける匂い、
それらは全て、シグナムの五感を刺激した。
「下品……だが、なかなか面白いものだな、夏祭りというのも……」
シグナムの感想は、そういうものだった。


97:ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第十七話 ◆AW8HpW0FVA
10/10/31 20:43:30 DPPMAttU
この夏祭りにおいて、シグナムは多少なりとも貴族としての箍を外した。
かき鳴らされた音楽に合わせて踊ってみたり、行儀の悪い立ち食いなどもした。
酒や料理などは、安物で作られたのは間違いないはずなのに、なぜだか美味しく感じられた。
これが夏祭りマジックという奴であろうか、とシグナムは思った。
バトゥも案内に先導に熱が入った。
夏祭りに始めて参加するシグナムを退屈させない様に、様々な所を案内してくれた。
このたびの夏祭りでは、多くの出店者は奇を衒ったのか、くじ引きや射的など、
食べ物以外のものを売りにしているかなり凝った出店もあった。
ここでシグナムは、くじを引いてみた。
くじとは、言わば神託であり、紙に書かれている事は未来で必ず起こる、というものらしい。
その神託という言葉に、シグナムは惹かれた。
シグナムが引き当てた紙に書かれていたのは、
怨讐と決別する時は近く、運命の人と再会す、運命の人と再会す、というものだった。
よく分からなかったが、シグナムはその紙を木の枝に結んだ。
こうすると、悪い預言は浄化され、良い預言は叶う、らしい。
その訳の分からない預言は、ややもすると、綺麗サッパリ忘れてしまった。
神託といっても、所詮は一般庶民が書いたものである。
当る筈などなく、覚えるだけ容量の無駄である。シグナムはそう思った。
それよりもシグナムは他の事に興味が移っていた。
次はあそこに、やれその次はあれだ、と年甲斐もなくはしゃいだ。
出店はごまんとあり、それらを丹念に回っていくと、日は暮れ始めていた。
シグナムは串に刺さった肉に喰らい付きながら、未だ喧騒の衰えない人混みの只中にいた。
ふとシグナムは、先ほどまで自分を先導していたバトゥがいなくなっている事に気付いた。
迷ったのだろうか、と思い辺りを見回してみると、背後から声を掛けられた。背筋が凍った。
「あれ、シグナム様もこの夏祭りに参加していたのですか?」
それは、今最もシグナムが聞きたくない、ブリュンヒルドの声だった。
着ているものは黒い鎧ではなく、ブリュンヒルドの髪の色と同じ、白いローブである。
胸元が大きく開き、そこから深い谷間が覗いている。
巨乳フェチであれば生唾ものであるはずなのに、
シグナムはそれを見ても、なんの感慨も抱かなかった。
「お前も来ていたのか」
「えぇ、せっかくのお祭りなので。ところでシグナム様、お一人でどうしたのですか?」
「別に……、バトゥとはぐれただけだ」
「でしたら、私と一緒に回りませんか?」
ブリュンヒルドの提案に、シグナムは目を見張った。
とんでもない、そんな事は死んでも嫌だ。頭の中でそういう言葉がぐるぐると回った。
「悪いが、バトゥを捜さなければならないのだ」
と、シグナムは体のいい言い訳を告げて、その場から立ち去ろうとした。
しかし、ブリュンヒルドに腕を掴まれ、
「バトゥもいい年をした大人なのですから、それほど心配する必要などありませんよ。
仮に捜すにしても、この何十万という群衆の中から見付けるなど不可能です。
それよりも、せっかくこうして会えたのですから、私と一緒に会場を回りましょう」
と、言われた。シグナムは歯噛みしたくなった。
こう言われると、断り様がない。シグナムは無言で首を縦に振った。
「それでは、行きましょう」
ブリュンヒルドが嬉しそうな声を上げて、シグナムの腕に抱き着いた。
腕がブリュンヒルドの谷間に埋まり、その張りのある胸に圧迫された。
それだというのに、シグナムの表情は暗いままだった。


98:ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第十七話 ◆AW8HpW0FVA
10/10/31 20:43:58 DPPMAttU
先ほどまでの興奮が、嘘の様に鎮まった。
耳に入る統一感のない音楽は、シグナムの神経を逆撫で、
鼻腔を刺激した無数の食べ物の匂いは、煩わしいものとしか感じられなくなった。
これほどまでシグナムの余裕がなくなったのは、全てブリュンヒルドのせいである。
当の本人は、シグナムの鬱屈など関係なしに、嬉しそうな表情で、ずんずんと前へ進んでいく。
シグナムは心底帰りたくなった。
「あっ、シグナム様、射的がありますよ。やってみましょうよ」
ブリュンヒルドが声を上げ、シグナムを引っ張って行った。
射的は鏃のない弓矢で、遠くに置いてある人形を打ち落とすというものだ。
しかし、弓はどう見ても子供が遊ぶ様な玩具であり、距離もかなりあるので、
人形に当てるのはかなり難しいと思われた。
ブリュンヒルドは玩具の弓に矢をつがえ、きりきりと弦を張り、刹那、放った。
矢は誤たず、標的である人形の頭を射抜き落した。
「あぁ、いつもの癖で頭を狙っちゃいました」
と、言ったブリュンヒルドは、続けざまに矢を放ち、
その全てを(人間であれば)急所に当てて、射抜き落した。
宛がわれた矢は、全て人形に変わった。
「大量ですね」
両手いっぱいに、どこかしら穴の開いた人形を抱えたブリュンヒルドは微笑んでみせた。
シグナムは笑えなかった。玩具をも凶器に変えるその技量に恐怖を感じただけだった。
その後も、シグナムはブリュンヒルドに引っ張られ、様々な屋台を巡った。
シグナムは、回った屋台も、なにを食べたのかも、全く記憶に残らなかった。
そうこうしている内に気付いてみると、
シグナムは祭りの喧騒から離れた所に連れて来られていた。
周りに人影は見当たらず、人を殺すには格好の場所だった。
「こんな所に連れて来て、……いったい……、なんのつもりだ」
シグナムの声は震えていた。
以前、ニプルヘイムでブリュンヒルドに毒を盛られそうになった事をシグナムは忘れてはいない。
遂に来たか、とシグナムは身構えた。しかし、飛んできたのは凶刃ではなく言葉だった。
「シグナム様は、好きな人はいますか?」
「……はぁ……?」
シグナムにとって、それはまさに不意打ちだった。呆気に取られているシグナムを他所に、
「私にはですね、……いますよ。強く、気高く、美しくて、皆を導いてくれるんですけど、
いつも無茶ばかりして、心配もさせてくれないんです。それを見てると、守ってあげたくなる。
愛おしくて、抱き締めてあげたくなる。私があなたの居場所になりますって言ってあげたくなる。
そういう人がいるんです」
と、言ったブリュンヒルドは、じっとこちらの方を見つめた。
シグナムは呆れた。呆れた後に、これ以上もないほどの殺意をブリュンヒルドに抱いた。
なぜいきなりその様な事を告げたのか、シグナムには理解できない。
というか、そもそも理解したくもなかった。するだけ無駄であると思ったからである。
この狡猾な殺人兵器に人間の感情などあるはずがない。
人間らしさがあるとすれば、殺した敵の首を数えて喜ぶぐらいしかないであろう。
この様な戯言に付き合うのも阿呆らしかった。
「その人の名前は……」
「私は」
まだなにか言おうとしていたブリュンヒルドをシグナムは遮り、
「誰かと付き合うとか、結婚するとかいう気は一切ない。これからも、一生な」
と、その場の雰囲気をぶち壊す様な事を言った。刹那、二人の間に冷たい風が通り抜けた。
それはまるで、夏の終わりを告げるだけでなく、二人の決裂を表している様でもあった。
シグナムはブリュンヒルドの表情の変化を確認する事なく、足早にその場から立ち去った。
祭囃子は嘘の様に静まり返っていた。


99:ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第十七話 ◆AW8HpW0FVA
10/10/31 20:44:56 DPPMAttU
夏祭りが終わってから、シグナムは五日間も執務室に篭り、朝廷にも出仕しなくなった。
その間シグナムは、王に提出する書類の作成に心血を注いでいた。
それは今後のオゴタイ王国が行なうべき政策を記した、言わば計画書であり、
シグナムはそれが書き終わり次第、この西方大陸を出て行くつもりである。
このままこの大陸の宰相に収まってもいいのだが、シグナムには、まだやる事があった。
時折やって来るブリュンヒルドを無視し、
遂に書き終えた書類を王に献上し、シグナムは暇乞いを願い出た。
王の顔から血の気が引いた。唇をわなわなと震わせ、目には涙が溜まりだした。
「なっ……なにを言い出すのだ!私は汝を疎ましいと思った事は一度もないぞ。
それに、宰相殿がいたからこそ、私はこの椅子に座る事が出来たのだ。
その恩をまだ返せてもいないというのに、宰相殿は致仕するというのか!」
「いえ、王が知っての通り、私は他国者にございます。
その様な者がいつまでも宰相の席を汚す訳にはいきません。
後継者は、その書類に記されております。ご安心してください」
「この国が復興できたのも、全ては宰相殿のお陰だ!
他国者だからという理由で、汝を執政の席から降ろす訳にはいかぬだろう!」
ここまで王に信頼され、愛されていると分かったシグナムは、嬉しさのあまり泣きそうになった。
しかし、それでも王の言葉を受け入れる訳にはいかなかった。
「私の様な愚か者をそこまで信頼していただき、実にありがとうございます。
ですが、これが常道なのです。常道に逆らえば、天譴を受けます」
シグナムはそう言うと、恭しく傾首し、退廷した。
シグナムが致仕したという話は、すぐさま都中に広まった。
それからすぐに、シグナムの許にはバトゥ達がやって来た。
目的は王の時と同様に、シグナムの致仕の再考を願うものだった。
その事を予期していたシグナムは、三人にそれぞれ紙を渡した。
紙には今までの事を感謝する言葉と、自分の不徳を詫びる言葉で埋め尽くされていた。
そして最後には、バトゥを軍務大臣、トゥルイを宰相、フレグを副宰相にする、と書かれていた。
所謂除官であった。これを見た三人は、シグナムを説得する事を諦めた。
皆、目に涙を溜め、部屋から出て行った。執務室は静寂に包まれた。
夕方になると、シグナムは明日出発できる様に荷造りを始めた。
背後には、ブリュンヒルドが悲痛な面持ちでシグナムを見つめている。
「ブリュンヒルド、お前はここに残ってもいいんだぞ」
と、シグナムは振り向く事なく、ブリュンヒルドにそう声を掛けた。ブリュンヒルドは声を荒げ、
「シグナム様は私の主です。従が主の許を離れる訳にはいきません!」
と、言った。荷造りの手を休めないシグナムは、苦いものでも食べた様に気分が悪くなった。
なにが主だ、とシグナムは吐き捨てたかった。この女が人に頭を下げるはずがない。
それが例え、王太子であろうと、その考えは変わらないだろう。
ブリュンヒルドの顔を見るのも嫌になったシグナムは、
「ブリュンヒルド、お前は明日朝一番の船に乗り、ファーヴニルに向かえ。
私は東方大陸に向かう」
と唐突に命令した。ブリュンヒルドは驚いた様に、
「シグナム様、私と一緒に旅をするのではなかったのですか!?」
と、言った。シグナムは相変らず振り返らない。
「東方大陸は国内で内戦が続いている。宗主国として、私にはその戦いを鎮める義務がある。
お前はそれを王室に伝えてくるのだ。分かったな」
それだけ言うと、シグナムはそれ以降しゃべらなくなった。


100: ◆AW8HpW0FVA
10/10/31 20:46:53 DPPMAttU
投稿終了です。西方篇はこれで終了です。
次からはあまり、投稿日を予告しない方がいいと感じました。
申し訳ありません。

101:名無しさん@ピンキー
10/10/31 21:20:17 xShsVOq3
gjです。
いつも楽しみにしてます。
がんばってください

102:名無しさん@ピンキー
10/10/31 21:49:51 kRehpXqS
gj!
最初の方はブリュン死ね!とか思ってたけど回を重ねるごとに可愛く思えてきた件

103:兎里 ◆j1vYueMMw6
10/10/31 23:56:48 aQ7IdvET
俺はどちらかというと、触雷!よりTomorrow Never Comesの方が好みだな。
何と言ってもストーリーに厚みがあるし、キャラ個々の魅力が格段に違うよ。
触雷!って地の文が説明臭い上に、主人公の愚痴ばっかりで面白くないだろ。
兎里氏は台詞回しも上手くてプロレベルだよ。マジで商業誌でもいけるんじゃないか。
むしろ紙媒体で読んでみたい。つかアニメ化希望だな。

104:名無しさん@ピンキー
10/10/31 23:59:15 aQ7IdvET
な~んて誰か褒めてくれないかな。
誰も褒めてくれないから自分で言ってみましたw
実力が違いすぎるから無理そうだけどww

105:名無しさん@ピンキー
10/11/01 00:01:39 thLZfm+Z
あきらめんなよ……あきらめんなお前! どうしてそこでやめるんだそこで!

106:名無しさん@ピンキー
10/11/01 00:04:32 0kzgKzWM
自分の作品は自分でしか書けません
他の人の作品は他の人にしか書けません

つまりはそういうことです

107:名無しさん@ピンキー
10/11/01 00:12:21 ycbM/wSE
トリの消し忘れかw
やっちまったな

108:名無しさん@ピンキー
10/11/01 00:31:32 vJAdEP03
日頃の自演癖が出ちまったようだ
上手くリカバリーしたつもりのようだけど

109:名無しさん@ピンキー
10/11/01 00:39:12 NE84nYwA
そもそも誰だよ

110:名無しさん@ピンキー
10/11/01 00:55:10 G5vb823/
自虐ネタなら他作品貶す必要ないよね。
寝る前にいい笑いをありがとう

111:名無しさん@ピンキー
10/11/01 00:56:57 Mh3gdPYx
>>109
思ったわ

誰だよ

112:名無しさん@ピンキー
10/11/01 01:00:46 MkN2jHe7
かわいいな

113:ヤンデレの娘さん 脅迫の巻  ◆DSlAqf.vqc
10/11/01 01:04:20 wJ+H+9ca
 こんばんは、ヤンデレの娘さんのモノです。
 今回はちょっと短め。ちょっとヤンデレ成分少なめかもです。
 っていうか、今回コイツらいちゃついてるだけです。(いつもか?)

114:ヤンデレの娘さん 脅迫の巻  ◆DSlAqf.vqc
10/11/01 01:04:52 wJ+H+9ca
 「…千里くんの弱みって何ですか?」
 ある日の下校中、俺こと御神千里(ミカミセンリ)は恋人であるところの緋月三日(ヒヅキミカ)に脈絡無くそんなことを聞かれた。
 「や、割と弱みというか欠点は多いほうだと思うけど、何でいきなりンなことを?」
 「…例えばですよ、ある日、まかり間違って千里くんがどこかの女狐に誘惑されて篭絡されるかもしれないじゃないですか」
 「いきなりヘヴィな例え話だね」
 「…それで、私に向かって『別れよう』とか言い出すかもしれないですよね?」
 「……それで?」
 「…だけどそれはある種の気の迷いで間違いで正さなきゃいけないことなんですよ!」
 くわ、と身を乗り出して三日は言った。
 「それと俺の弱みがどうつながるん?」
 「弱みを握っていれば別れられないじゃないですか!」
 「ってソレ脅迫じゃないの!?」
 断言する三日に反射的にツッコミを入れる。
 つーか、たとえ話の中の俺が最低すぎる。
 浮気男かよ、誠死ね状態だよ。
 そーゆーことしたら最後、「女の子に似合わないカオ作ってんじゃねぇ!」と親にブン殴られる。
 見た目女なのにパンチ力がハンパ無いからな、あの人。
 「…それで、今までの観察記録(せいかつ)から千里くんの弱みを洗い出そうとしているんですけど、中々うまくいかなくて…」
 「それで直接本人に聞いたと」
 俺の言葉にこくん、と頷く三日。
 ……正直なのは良いことである。
 「とりあえず三日。さしあたり、俺に浮気と別れる予定は無いよ?」
 「…昔の人は言いました、予定は未定と」
 あれ、もしかして俺、恋人からの信頼度とてつもなく低い?
 「…それに、男の人が別れたい理由なんてたくさんあります。『君にはもっと魅力的な相手がいる』とか『占いで相性が悪かったし』とか『実は巨乳(貧乳)フェチなんだ』とか『ぶっちゃけ愛が重い』とか」
 「無駄に具体的だね…」
 「…実体験です。というか全部月日(ツキヒ)お父さんが零日(レイカ)お母さんや二日(ニカ)お姉様に言った言葉です」
 「娘の前で何別れ話切り出してんのおとーさん!?」
 まだ知らぬ三日の家族の名前が明かされたと思ったら、その上ヘヴィな話を明かされた。
 ……つーか、『お姉様に』って何さ。
 まさかとは思うけど、実の娘さんが美人過ぎるからって手ぇ出したんじゃあるまいか…。
 一日(カズヒ)おにーさんといいこの月日さんといい、どうにも緋月家の男共は油断ならんというか何というか。
 「三日、もし親父さんからいやらしいことをされたら相談してくれ。絶対力になるから」
 「…ありがとうございます、千里くん。でも、お母さんやお姉様がいますから、お父さんもこれ以上泥沼にしようとは思わない……と思います」
 ああ、泥沼なのがデフォなのね。
 もしかして、緋月家の家庭環境って割と殺伐としてんじゃなかろうか?
 「…あ、我が家は割と仲良いですよ?日曜朝に子供向けヒーロー番組を家族4人そろって観る位には」
 俺の心配を見て取ったのか、三日が言った。

115:名無しさん@ピンキー
10/11/01 01:06:41 XyRvJ41q
ここの書き手なんか大なり小なり似たようなもんだろ
自演GJは日常茶飯事だ

116:ヤンデレの娘さん 脅迫の巻  ◆DSlAqf.vqc
10/11/01 01:06:56 wJ+H+9ca
 「ああ、それなら…」
 「…観ながら、お母さんとお姉様が正々堂々真正面からお父さんを奪い合うくらいには」
 「随分オープンな三角関係なんだな…」
 「…この前なんて、テレビのヒーローが必殺技を放つのと同じタイミングでお母さんがお姉様を吹き飛ばしました」
 「随分バイオレンスな三角関係なんだな!?」
 「…お兄ちゃんが家を出ているので、最近は飛んでくるお姉様を避けるのが大変です」
 「三日その内殺されるんでない?凶器は二日さん、犯人は零日さんで」
 「…それで、千里くんの弱みって何ですか?」
 「どうしてそこで話をそらすかな!?って言うか戻るかな!?」
 「…ウチの家族は何だかんだで幸せみたいですから」
 幸せらしい。
 当事者がそう言うからにはそうなんだろう。
 将来的には、色々な意味で三日を引き離したくなる家庭ではあるが。
 「…次は、私たちの幸せを考えましょう」
 「俺の弱みが俺らの幸せに関係するとも思えないけどなー」
 そうは言いながらも、自分の弱みとやらちょっと考えてみる。
 が、いきなり聞かれても分からん。
 弱みってぇとアレだろ?
 世間に暴露されたらピンチになるような情報のことだろ?
 一介の高校生がそういくつも持っているモンでも無いような気がしてきた。
 「自分の欠点なら数え切れないほど思いつくんだけどなー」
 「…え、御神くんに欠点なんて無いじゃないですか?」
 俺の言葉に、まるで当然のように言う三日。
 「参考までに聞くけど、三日的に俺ってどんななん?」
 「…御神千里。二年四組出席番号十九番、窓側の列の前から四番目、血液型はA型、身長195cm、体重59kg。
 所属クラブは無し、ただし料理部助っ人、夜照学園生徒会助っ人、他多数助っ人。得意科目は国語、苦手科目は数学。
 趣味は私と料理と昼寝と読書、好きな物は私と料理、本(漫画含む)、特撮番組、特技は私と家事全般、住所は都内夜照市病天零4丁目13-13。
 得意料理は和食。特に肉じゃがは絶品。ただし朝のホットケーキも捨てがたい。
 家族構成はメイクアップアーティストのお義父様、御神万里(ミカミバンリ)さん。お母様の御神千幸(ミカミチサチ)さんは故人。
 性格は温厚。意識して他人に気を配れて、頼まれると嫌とは言わないタイプ。
 けれど、できないことはできないと言うし、なおかつ頼まれたことは一通り達成する、達成できるミスター・パーフェクト。
 1日のスケジュールは…」
 「オーケー、分かった。それくらいでいい。あと、明日の弁当は肉じゃがにしよう」
 際限なく話そうとする三日を、俺は押しとどめた。
 このままでは何時間でも俺の話をしてそうだ。
 そうか、三日は肉じゃが好きなのか。
 じゃ無くて。
 「さすがに、ミスター・パーフェクトはほめすぎっしょ。俺はそんな大層な人間じゃ無いよ」
 「…そうですか?」
 お前は何を言ってるんだという顔で首をかしげる三日。
 「…千里くんは腹立たしいまでに優しい人じゃないですか。優しさで世界を狙える人じゃないですか。むしろ神」
 「何の世界を狙うのさ…」
 「…それに、私のことも助けてくれましたし」
 つぶやく様に付け加える三日。
 彼女が1年の時、1人迷って途方にくれていた所を、俺が助けたことが俺らの関係の発端である。
 いやまぁ、俺も最近忘れかけてた設定だけど。
 「でも、言っちゃあれだがよくある話だろ?たまたま、俺がそのとき声かけただけで」
 「…そこです」
 ググ、と手を握り、三日は語りだす
 「…当時、お兄ちゃんもいなくなり、人見知りで校内の知り合いも碌にいなかった私にとって、御神くんの存在がどれほど救いになったか…」
 舞台役者もかくや、という大げさな身振りで語る三日。
 「三日、みんな見てるみんな見てる」
 「…良いじゃないですか、千里くんが完璧なのは事実なんですから」
 陶酔さえ感じさせる様子で語る三日。
 うわぁ、目がマジだ。
 1人の人間に対してよくもまぁここまでカッとんだことを言えるもんである。

117:ヤンデレの娘さん 脅迫の巻  ◆DSlAqf.vqc
10/11/01 01:07:31 wJ+H+9ca
 「なんつーか…、三日がその内近いうちに悪い男に引っかかって、ボロボロにされてポイされそうで怖くなってくるわ…」
 「…え、そんな日は来ないですよ?」
 俺の言葉にキョトンとした目をする三日。
 いや、そういうところが怖いんだけど。
 「…千里くんは私をアクセサリのように扱ったうえ、好きなだけエッチした上に都合が悪くなったら捨てて高跳びしたりしないでしょう?」
 「だからなんで無駄に具体的かな!?」
 「…大丈夫ですよ、そんな日は来ませんから。……千里くんが私の隣にいる限り」
 「確かにそうなんだけれども!」
 うわぁ、愛が重い。
 多分、本来の意味でなく愛が重い!
 愛が負担という意味でなく、妙な責任感が生まれる重さだ!
 いや、これは愛が重いというか、むしろ…
 「あ、分かった」
 妙に納得して、俺は言う。
 まじまじと三日の顔を見つめながら。
 「…そ、そんなに見ないで下さい。…濡れます」
 「そこは大人しく照れときなよ」
 そういうキャラでもなかろうに。
 「そうじゃなくて、俺が思いつく限り最大の弱みがあったのに気が付いてね」
 「おお!」
 期待に満ち溢れた目でこちらを見る三日。
 「…やっぱり、出生の秘密!?失われた記憶!?それとも世界が滅びるような極秘情報とかですか!」
 「いや、どこのライトノベルの主人公だよ。それにこの弱み、できたの割と最近だし」
 「…最近の弱み?もしかして、私も知っていることですか?」
 「そう」
 不思議そうな顔をする三日を指差し、俺は言った。
 俺の唯一最大の弱みを、その原因に向かって。
 「惚れた弱み」
 その言葉を聞いた三日が顔をトマトのように赤くして……それを見た俺も自分の言ったことの恥ずかしさに悶絶したのはまた別の話。















118:ヤンデレの娘さん 脅迫の巻  ◆DSlAqf.vqc
10/11/01 01:08:11 wJ+H+9ca
 おまけ
 とある過去の一幕
 「好きな人に見つめられたら…濡れます」
 今から数年前、ある日の緋月家の居間で緋月二日が堂々とそんなことを言った。
 「…濡れる、ですか?」
 「ええ、そうですよ…。主に下半身が…」
 きょとんとした顔の、髪を童女のようにおかっぱに切りそろえた妹の三日に対して、二日がまるで当然のことのように語る。
 「いや、それは貴様だけだからな、無知蒙昧にして愚かなる上の妹よ」
 読んでいた本から顔を上げ、まるで舞台役者のような口調で突っ込みを入れるのは、彼女らの兄である緋月一日。
 一挙一動が独特というか非日常的というかナルシストっぽいというかはっきり言って胡散臭い。
 妹たちが和服姿なのに対して、一日は1人だけ洋服なので更に無駄に浮いていた。
 「…え、濡れないのですか、お兄ちゃん?」
 「そこは心がときめくところだ、下の妹よ」
 妹に対して、詩集を片手にやれやれ、と大仰な動作で言う一日。
 舞台の上なら息をのむ動作であったが、生憎ここは一般家庭のリビングである。
 「そんな台詞がでるのは、貴方がまだ恋をしたことが無いからでしょう…?不感性の愚兄さん…?」
 「…貴様にさん付けで呼ばれると、下半身でなく頭に血が昇るのは何でだろうな…?」
 二日の言葉に、形の良い眉をひくつかせる一日。
 一触即発の空気にオロオロとする三日。
 「ああ、大丈夫だ、かわいい下の妹。これは単なる日常会話。僕がこんな愚物相手に本気で怒るはず無いだろう?」
 「ええ、大丈夫ですよ三日…。これは単なる日常会話…。私がこの愚兄に対して刀を抜く筈も無いでしょう…?」
 ほぼ同時に言う一日と二日。
 仲が良いのか悪いのか。
 「とにかく…、意中の殿方に見つめられると濡れる…。これは、大宇宙の真理なのです…」
 「真理とは大きく出たな、この変態が」
 「黙りなさい、この汚物…」
 茶々を入れる一日に対して、射殺さんばかりの勢いで睨みつける二日。
 「とにかく…」
 と、改めて三日のほうに目を向けて二日は言う。
 「三日も、恋をすれば分かることでしょう…。というか分かりなさい…」
 「…わ、分かりましたです、お姉様」
 無表情にも関わらず威圧的な視線を向けられた三日が敬礼とともに答える。
 「…こうして、日々洗脳が行われていくわけだね…」
 「何か言いましたか、愚兄…?」
 「Nothing,my Lord(何も?)」
 二日に目を向けることなく、一日はすっとぼけるのであった。
 これが、緋月家の日常会話。
 その頃の緋月家の姿。

119:ヤンデレの娘さん 脅迫の巻  ◆DSlAqf.vqc
10/11/01 01:12:12 wJ+H+9ca
 以上になります。
 二日さんを書くのが無駄に楽しかったり。
 今回のおまけは、物理的にこの三人がまた集まるのはいつになるかわかんねえなぁと思いつつ書いてみたり。(ボンクラ兄貴が働き?に出ているので)
 それでは、また彼女達の物語でお会いできれば…。

120:名無しさん@ピンキー
10/11/01 01:13:22 1vqiaM9v
>>104
無理だね、面白くないもん


説明だらけで読みづらいしキャラ全然濃くない

なによりも書き方が自分に酔いしれてて面白くない自作漫画を友達に見せびらかしてる厨房みたいで痛い

121:名無しさん@ピンキー
10/11/01 01:19:46 66BmT/lS
URLリンク(www42.atwiki.jp)
Tomorrow Never Comes

保管庫で見つけたわ
こいつだろ

122:名無しさん@ピンキー
10/11/01 01:27:56 G/85GOzk
俺はとねかむ面白いよ

くるみ可愛いよくるみ

123:名無しさん@ピンキー
10/11/01 01:36:49 1vqiaM9v
>>122
自演にしか見えんwW

124:名無しさん@ピンキー
10/11/01 01:41:08 0kzgKzWM
作品の好みは人それぞれ
自分の意見を押し付けるのは良くない

125:名無しさん@ピンキー
10/11/01 01:43:03 aPzq19ko
なんだか訳の分からない展開になっているな

126:名無しさん@ピンキー
10/11/01 01:45:04 0kzgKzWM
いつものことです

127:名無しさん@ピンキー
10/11/01 02:19:02 3ZoMAI+g
>>104
完走したら褒めてやるからさっさと続き書けよ

128:名無しさん@ピンキー
10/11/01 02:26:40 K2MdbDRw
ドラファジーって最初はスライム倒したりしてたよな?
何時の間にか軍記みたいになっててワロ

129:名無しさん@ピンキー
10/11/01 02:50:32 2rT/OAT3
103 名前:兎里 ◆j1vYueMMw6 [sage] :2010/10/31(日) 23:56:48 ID:aQ7IdvET
俺はどちらかというと、触雷!よりTomorrow Never Comesの方が好みだな。
何と言ってもストーリーに厚みがあるし、キャラ個々の魅力が格段に違うよ。
触雷!って地の文が説明臭い上に、主人公の愚痴ばっかりで面白くないだろ。
兎里氏は台詞回しも上手くてプロレベルだよ。マジで商業誌でもいけるんじゃないか。
むしろ紙媒体で読んでみたい。つかアニメ化希望だな。



マジもんの作者の自演かよ
こいつ最悪だな

>兎里氏は台詞回しも上手くてプロレベルだよ。マジで商業誌でもいけるんじゃないか。
>むしろ紙媒体で読んでみたい。つかアニメ化希望だな。

こことか自意識過剰過ぎて気持ち悪過ぎ


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