ヤンデレの小説を書こう!Part37at EROPARO
ヤンデレの小説を書こう!Part37 - 暇つぶし2ch2:名無しさん@ピンキー
10/09/27 22:20:00 Y4HLcFMA
>>1

3:名無しさん@ピンキー
10/09/27 22:25:25 U4CXk7kO
>>1一乙
もうPart37か・・・

4:名無しさん@ピンキー
10/09/27 23:12:14 IVrIR6M/
>>1
お疲れ様です!!
さぁ、最初に上がる作品はどれかな?

5:名無しさん@ピンキー
10/09/27 23:40:49 Dzlbzgc/
>>1
乙です

6:名無しさん@ピンキー
10/09/28 00:48:25 dAxLcOwu
>>1
乙です

7: ◆Uw02HM2doE
10/09/28 01:59:15 Z38Oz+x4
>>1
乙です!投下ペースが落ちてしまいましたがリバース13話、投下します。
今回はかなり長くなってしまいました。申し訳ありません。

*作中に逆レイプがあるので苦手な方は閲覧をお控えください。

8:リバース ◆Uw02HM2doE
10/09/28 02:00:18 Z38Oz+x4
修学旅行三日目。
天気は今までの二日間と打って変わってどんよりとした雲で覆われている。
厚い雲が今日は雨が降るということを俺達に知らせていた。
「白川君!大丈夫かい?」
廊下で佐藤先生に話し掛けられる。そういえば昨日は先生の前で突然倒れたんだっけ。
「はい。昨日はいきなりすいませんでした」
「いやいや、白川君が無事なら良かったよ!今日も無理そうだったら遠慮せずに言ってね」
「ありがとうございます」
佐藤先生のおかげで俺は記憶を取り戻せるかもしれない。
今はとにかく放課後が待ち遠しかった。だからかもしれない。
もしくは周りが全く見えてなかったのだろう。
「…………」
大和さんが濁った目でこちらをずっと見ていることに、俺は気付かなかった。



昼休み。
いつもは英と亮介と一緒に昼飯を食べるが、今日は誘いを断って一人屋上に来ていた。
二人は何も聞かずに俺を行かせてくれた。持つべきものは友達、といったところだろうか。
屋上はこの天気のせいか人っ子一人いなかった。一人で考え事をするにはちょうど良いのかもしれない。
「はぁ……」
鉛色の空を見つめる。まるで自分の胸中をぶちまけたような色合いだ。
「雨、降らないでくれよ」
もし雨が降ったらきっとライムさんはあの公園には来ない。
そうなると明日は昼前には帰るため、もう彼女とは会えなくなる。それだけは避けたかった。
「……"リバース"」
昨日からずっと考えている。
あの夢で鮎樫らいむが出した問題。果たしてあの時の俺は解けたのか。
「……一体どういう意味なんだ?」
真っ先に思い付いたのは"逆"という意味。でも何を逆にするんだ。
あの夢では名前について話していた。だからてっきり逆から読めばどうにかなると思ったんだが……。
「むいらしかゆあ……。ドラクエの呪文かよ」
全く意味を成さない。やはり考え方自体を変える必要があるようだ。だけどその方向性が分からない。
そもそもただの夢をこんなに真に受ける必要があるのだろうか。
「今日もありがとね」
俺が寄り掛かっている給水塔の反対側から声が聞こえてきた。
「気にすんなって。俺とお前の仲だろ」
「うん……。それじゃあ頂きます」
どうやら給水塔の陰に俺以外の生徒がいたようだ。
こんな天気の日に屋上で昼飯とは、俺と同じく変わり者なのだろう。給水塔に寄り掛かりながら話に耳を傾ける。
「……美味しい!相変わらず料理上手だね」
「まあな。元々ウチは海外事業で両親いなかったしさ」
よくいるカップルの会話に聞こえるが、何故か違和感を覚える。
話からしてどうやら男子が女子に弁当を作ってきているらしい。
「気のせいか……」
確かにそれも珍しいのだが、もっと根本的な何かが狂っているような……。
「……残念だったね、生徒会長さん。助からなかったんでしょ?」
「……あ、ああ。通り魔とか……信じられないよ」
落胆を隠しきれない男子の声とは対照的に女子の声は嬉しそうだった。
……いや、嬉しそうなわけないだろ。今の脈絡からしてどうやら西桜の生徒会長さんが亡くなったようだ。
誰か、それも身近な人が亡くなって喜ぶ奴が何処にいるっていうんだ。
「……会長さんがいなくなって、寂しい?」
「……灯(アカリ)がいてくれたら、俺はそれでいいよ」
「ありがとう。大好きだよ、蛍(ケイ)」
男子の抑揚のない声。それでも女子は嬉しそうだった。
寒気がする。天気のせいじゃない。ただこの給水塔を挟んだ反対側で起こっていることがあまりにも恐ろしい、本能的にそう感じた。
「……そろそろ戻るか。もうすぐ予鈴だしな」
自分に言い聞かせてその場を去る。
すぐ身近にある非日常。それを認めたくはなかった。
認めてしまえばこれから俺に起こることも認めてしまいそうだったから。

9:リバース ◆Uw02HM2doE
10/09/28 02:05:36 Z38Oz+x4
放課後。やはりと言うべきか雨が降り出していた。それでも僅かな望みにかけて公園へと走る。
途中まで走って教室に傘を忘れたことを思い出したが、時間が惜しいので諦めて走り続けた。
「はぁはぁ…!」
20分程走り続けてようやく公園に辿り着く。公園に着いた時には、既に雨が本格的に降っていた。
こんな雨の中ライムさんがいるとは思えない。それでもほんの僅かな望みに賭けて青いベンチを目指す。
「……いない、か」
青いベンチには誰もいず、地面には水溜まりが出来始めていた。
分かってはいたが、やはりいないと落ち込む。せっかく何かが分かりそうなのに。
「あら、こんにちは」
「あ……」
いきなり木陰から出て来たライムさんに思わず呆然とする。水玉柄の傘を差す彼女はヨーロッパの貴族のような雰囲気を醸し出していた。
「えっと、白川…君だっけ?ずぶ濡れだけど大丈夫?」
「え、あ、はい。……会えた」
ライムさんに言われた通り俺は全身ずぶ濡れだ。だけど今はそんな些細なことは関係ない。
会えたんだ、彼女に。本当に良かった。後は彼女に聞けば良い。そうすれば何か分かるはずなんだ。
「あの、ライムさん!実は聞きたいことが」
「あっ!来た!」
「ある……えっ?」
いきなりライムさんが走り出す。その先にはスーツを来た一人の男がいた。
「お帰り、亙(ワタル)!」
「ただいま、ライム」
亙と呼ばれたその男はライムさんを抱き寄せて―
「んっ……」
そのままキスをした。あまりの超展開に俺はただ二人を見つめるしかない。
雨の中抱き合う二人は何故かとても幻想的で、彼らとその周りだけが別世界のように感じた。
やがてライムさんが惜しむように離れると男がこちらに近付いて来る。歳は20代前半で佐藤先生とあまり変わらない感じだ。
少し長めの黒髪に端正な顔立ちだが、表情は強張っており俺を警戒していることが分かった。
「え、えっと俺!」
とりあえず誤解されているならば何とかしなくてはならない。そう思い口を開いたが先に男が俺に話し掛けた。
「…鍋、好き?」
「……はい?」
男の右手にはスーパーの袋があり、その袋からねぎの先っぽが出ていた。



公園から5分程歩いた所にライムさんと先程の男、遠野亙(トオノワタル)さんの住んでいる家があった。
「はい、タオル。拭かないと風邪引くよ?」
「あ、ありがとう……ございます」
そして何故か俺は彼らの家にお邪魔していた。というか亙さんに鍋に誘われたといったところだろうか。
「亙、後ちょっとで出来るからね!」
「はいよ」
台所ではライムさんが晩御飯の支度をしている。鼻歌交じりに料理する彼女は、まさに新妻といった感じだ。
リビングでは亙さんと俺が座って身体を拭いていた。
「急に降られちゃってね。やっぱり天気予報は信じなきゃ駄目だな」
「あ、はい……」
こうなったら亙さんでもいい。"鮎樫らいむ"について知っていることを聞き出さないと。
「あ、あの亙さん!実は聞きたいことがあって……」
「俺に聞きたいこと?……初対面だよね、俺達」
「す、すみません。でもどうしても聞きたいんです!鮎樫ら―」
本当は"鮎樫らいむ"まで、言うつもりだった。だけど"鮎樫"という単語を言った瞬間、亙さんが急に立ち上がった。
俺を見つめる冷たい目につい口を閉ざす。何故か分からないが"鮎樫らいむ"はこの空間では発していけない単語のような気がした。
「ライム、白川君が公園に忘れ物をしたらしいから、一緒に取りに行ってくる」
「……本当に?」
台所にいると思っていたライムさんが急に亙さんの背中から顔を覗かせる。
両手は彼を拘束するかのように腰に回されていた。そんなライムさんにも動じることなく亙さんは答える。
「ああ、勿論。俺が愛しているのはライムだけだから」
「……うん。分かったよ。早く帰って来てね?」
「了解。じゃあ行こうか白川君」
「……あ、はい」
亙さんに連れられる形で家を出る。ライムさんの視線はこの際気にしないようにした。

10:リバース ◆Uw02HM2doE
10/09/28 02:07:30 Z38Oz+x4

雨の中を歩くスーツ姿の男性と学生服の少年。端から見れば親子にでも見えるのだろうか。
やがて俺達は公園近くの喫茶店に入った。
店内はこの雨のせいか閑散としているが、こじんまりとした雰囲気はどことなく"向日葵"に似ていた。
亙さんが店員に慣れた口調で注文をする。どうやら彼はこの店の常連のようだ。
「ここ、俺のお気に入りなんだ。昔よく行った喫茶店に似ていてね」
「そうなんですか。俺も好きです、こういう感じ」
ちょうど珈琲が来たので飲んでみる。癖になりそうな苦さも"向日葵"そっくりだった。
まさか向日葵二号店かと思い、ついてきたナプキンに店名が書いていないか探す。
書いてあった名前は"tournesol(トゥールヌソル)"だった。
フランス語かロシア語だろうか。とにかく向日葵ではないようだ。
……まあそんな偶然あるわけないのだが。
「……急に連れ出してすまないね。でも禁句なんだ。ライムの前で"鮎樫らいむ"は」
「そうなんですか。でもライムさんは……」
確か俺の見た夢、そして佐藤先生の発言からもライムさんが"鮎樫らいむ"のはずだ。
「……ああ、ライムは確かに半年前まで"鮎樫らいむ"というアイドルだったよ」
「じゃあ何で……」
やはりライムさんは半年前引退したアイドル、"鮎樫らいむ"だった。じゃあ一体どういうことだ。
「……ライムはね、記憶喪失なんだ。アイドルとしての"鮎樫らいむ"の記憶は、今のライムにはない」
「記憶……喪失…」
記憶喪失。奇しくも俺と同じ症状だ。
……偶然、だよな。いやそうに決まっている。
「だから今のライムには……彼女の記憶を刺激するような単語は聞かせないようにしてる」
「そう…ですか」
窓の外を見つめる亙さんは何処か悲しそうだった。
本当は何故記憶喪失になったのか、それも聞きたかったが止めた。何となく聞いてはいけない気がしたから。
「……白川君はライムのファン?」
「いや、俺は知りたいんです。"鮎樫らいむ"の名前の由来を」
ライムさんは記憶喪失だ。ならばもう亙さんしかいない。
彼ならばどうして"鮎樫らいむ"という名前が生まれたのか、知っているかもしれない。
「名前の由来?何でそんなものを」
「お願いします!知っていること、何でも良いんです!」
思わず店内にも関わらず叫んでしまった。
亙さんは一瞬驚いたようだったがすぐに難しい顔をして、何かを考えている。
「……亙さん、俺!」
「まあ落ち着きなよ、白川君」
亙さんの言葉で始めて自分が身を乗り出していることに気がつく。
何事かと店員が顔を覗かせていたので、慌てて席に着いた。
「す、すいません……」
「俺が知っていることはほんの僅かだよ。殆どの人が"鮎樫らいむ"が偽名ということも知らないわけだし。むしろ白川君がそれを知っていることが俺には不思議だな」
……確かにそうだ。普通ならば"鮎樫らいむ"の由来はおろか、それが偽名だということすら知らないはずだ。
でも「夢で見たから」などと言って信じてもらえるのだろうか。
「それは……」
「……まあお互い細かいことは言いっこ無しだな。俺がライムから聞いた話は一つだけど、それで良いなら話そうか」
「は、はい!お願いします!あ……」
また乗り出しそうになるのを抑える。落ち着け。別に焦る必要はない。
「確か……"逆"にすると、とか言ってたな」
「逆……ですか?」
「つまり"鮎樫らいむ"を逆にするんだよ」
……"リバース"か。要するにライムさんが言ったことは鮎樫らいむの言ったことと同じ意味だったのだ。
全身の力が一気に抜けそうになる。結局、降り出し。自分で答えを考えるしかないってことなのか。

11:リバース ◆Uw02HM2doE
10/09/28 02:10:29 Z38Oz+x4
「それなら試しました。"鮎樫らいむ"をリバースして"むいらしかゆあ"ですよね。でも意味が分からなくて」
「そうなんだよ。……リバース?」
急に亙さんが考え込む。どうしたというのだろうか。
亙さんはそのまま1分程考え込んでいたが、突然「リバースか!」と叫びメモ帳を取り出して何かを書きはじめた。
俺はそれをただ見守るしかない。やがて亙さんは満足げな顔で俺を見てきた。
「な、何か分かったんですか?」
「……ああ。この謎が解けたよ」
何処かの推理小説にでも出て来そうな台詞を言う亙さん。しかし今の俺にはそんな些細なことは気にならなかった。
「ほ、本当ですか!?」
「まあね。まず"鮎樫らいむ"を平仮名で書いてみて」
亙さんにメモ帳とペンを貸してもらい、そこに
『あゆかしらいむ』
と平仮名で書く。
「出来ました」
「そうしたらそれをローマ字にしてみて」
「ローマ字……ですか?」
「ああ、なんたって"リバース"だからね。平仮名ではなく、ローマ字にするべきなんだ」
亙さんに言われた通り、『あゆかしらいむ』を
『ayukashi raimu』
とローマ字にする。一体これで何が分かるんだ?
「あ、"shi"は"h"を抜かして書いて」
「えっと……分かりました」
よく分からないが今は亙さんの指示に従おう。確かここを変えるから……
『ayukasi raimu』
こうなるな。……あれ?
「ま、まさか……」
「気付いたかい?後はこれを"リバース"。逆から読むだけだ」
逆から読む。つまり"リバース"すると
『umiar isakuya』
……これは。そういうことだったのかよ。
「いやぁ、一年越しの謎が解けてすっきりしたよ。ありがとう白川君」
「ま、待ってください!つまり…この名前って」
「ああ。"鮎樫らいむ"の由来はこの人の名前をローマ字にして逆から、つまりリバースしたものだったんだ」
「……この人、えっと…うみあ―」
瞬間頭に激痛が走り目の前が真っ白になる。あまりの痛さに目を閉じる。
「っ!!な、何だ……!?」
少しずつ痛みが引いてきたので目を開けると、そこは一面真っ白だった。

「……な、何だここ…」
「間に合ったみたいね」
振り向くとそこには腰ほどもある長い黒髪に真っ赤なワンピースを着た鮎樫らいむ……いや、鮎樫らいむ"だった"奴が立っていた。
「ここは何処だ?俺は確か喫茶店に……」
「安心して。ここは要の意識の中だから。用が済んだらすぐに帰してあげる」
微笑みながら彼女が近付いてくる。いや、こないだのあの夢と同じ意地悪そうな笑みを浮かべていた。
「……一つ良いか?」
「何かな?」
「お前、本当は"鮎樫らいむ"じゃないよな」
「……いきなり直球来たね。要のそういうとこ、嫌いじゃないけど」
彼女が近付くのを止めた。表情もさっきのような笑みを浮かべてはおらず、無表情で俺を見つめていた。

12:リバース ◆Uw02HM2doE
10/09/28 02:12:01 Z38Oz+x4
「ごまかすなよ。お前、本当はうみあ」
「待って!」
急に大声で俺を制止する彼女。思わず口を閉ざす。一体何だって言うんだ。
「……要は今、幸せ?」
「えっ?」
「要が記憶を失ってから3、4ヶ月経ったよ。最初は分からないことだらけでその後もトラブル続きだったね」
「……ああ」
いきなり彼女は語り出す。まるで俺の今までの生活を全て見ていたような口ぶりだ。
「でも要は諦めなかった。それどころか周りを変えちゃうくらい、要は頑張ったよね」
「…………」
何なんだろう。どう考えてもおかしい。彼女の言っていることは確かに正しい。
正しいのだが何故全てを把握することが出来るのだ。
勿論、適当に言っている可能性もなくはない。
しかしどうしても彼女の言葉には何か確信があるように感じる。そしてその言葉を聞き流せない自分がいた。
「妹さんとも仲直りしたし、会長さんや春日井さんのことだって何とかなる。このまま何も思い出さずに暮らせば、要がずっと待ち望んでいた"平穏"が手に入るんだよ」
「お、おい……」
彼女は泣いていた。泣きながらも俺に訴えかける。泣いている彼女を見るのは初めて会う時以来で、何故か胸が締め付けられた。
……いや、待て。何故知っているんだ。彼女には潤や会長、遥のことは話していないはず。
何でそんなこと、彼女が知っているんだ。一気に色々なことが起きたせいで混乱する。
「要は……それでも記憶を取り戻したいの?」
「ち、ちょっと待て。俺が記憶を取り戻したら……何か起きるのか」
「……ううん。元に戻るだけだよ。何もかもね」
意味が分からない。彼女は"鮎樫らいむ"じゃない。彼女の本当の名前を言うだけだ。
なのに、なのにどうしてこんなにも彼女はそれを止めようとするんだ。
「それでも……平穏を犠牲にしても記憶を取り戻したいなら、私の名前を言って」
「……何だよ、それ。意味分かんねぇよ…」
"鮎樫らいむ"の由来が分かれば何かが変わるんじゃなかったのか。
この少女の本当の名前が分かれば何かが好転するんじゃないのか。
確かに変わるらしいが彼女の言い方だとまるで俺が悪いことを、自ら平穏を壊そうとしているように感じられる。
「少し時間をあげる。明後日の午前0時、要の家の近くにある公園で待ってる。その時に答えを聞かせて」
「お、おい!?」
途端にまた視界が真っ白になる。去ろうとする彼女の背中に手を伸ばすが―

「待てよっ!」
「……大丈夫?白川君」
「……えっ!?」
辺りを見回す。真っ白な景色は何処にもなく、先程の喫茶店に俺はいる。
目の前には亙さんがいて、心配そうに俺を見ていた。
「急に大声出して……何かあったの?」
「えっ……あ、あれ?」
何度見回しても真っ白な空間も"鮎樫らいむ"の姿もなく、俺はただ呆然とするしかなかった。

13:リバース ◆Uw02HM2doE
10/09/28 02:14:22 Z38Oz+x4

「色々とありがとうございました」
喫茶店を出て亙さんに向き合う。早くホテルに帰らないと夕飯に間に合わない。
「鍋は……まあライムと食べるか。それより白川君」
「何ですか?」
「俺とライムのこと、秘密にしておいてくれないか」
亙さんが俺をしっかりと見て言う。その言葉には何か決意のようなものが感じられた。
ふと思う。この人もまた、苦労してきたに違いない。そう思うと親近感が沸いて来た。
もし別の場所でこの人と会えたら、俺達はもっと仲良くなれたかもしれない。
「……分かりました」
「ありがとう」
「亙さん、何で初対面の俺なんかにこんなに親切にしてくれたんですか?」
そのまま立ち去ろうとする亙さんに俺は尋ねる。聞かずにはいられなかった。
「……似てたから、かな」
「……似てた?」
亙さんは振り返らずに続ける。
「君が、俺にね。その眼差しとか、すぐ熱くなるとことか。あ、それから右腕を骨折してるとこもかな。まあ原因は同じわけないだろうけどさ」
何故か亙さんは苦笑いをしていた。何か過去にあったのだろう。
「そんな君に先輩から一つアドバイスを」
「アドバイス…ですか」
背中を向けているので亙さんがどんな表情をしているのか分からない。
でも口調から彼が楽しそうなのは感じた。
「信じること。一度信じると決めた奴は最後まで信じる。たとえ事実がそれと違ってもね」
「信じる……こと」
亙さんの言葉はとても力強かった。
重みがあるというか経験者にしか出せない説得力がある。亙さんはライムさんを信じきったのだろうか。
「白川君には皆に認められる幸せを見つけて欲しいな」
「皆に認められる幸せ、ですか」
亙さんはどんな想いで話しているんだろうか。一体、何を想っているのだろうか。
「俺達は無理だったからね。……まあ今幸せだから良いんだけどさ」
「亙さん……」
「……そろそろ帰るわ。ライムが待ってるし。じゃあな白川君」
亙さんの背中がどんどん遠ざかって行く。何故かもう二度と会えない気がして思わず声をかける。
「亙さん!また会えますよね!?……俺、鍋好きです!」
亙さんは手を振りながら雨の中へ消えて行った。



「ただいま」
「お帰り亙!遅かったね。もう晩御飯出来てるよ」
帰ってきた瞬間、ライムに抱き着かれる。どうやらずっと玄関で待っていたようだ。
「白川君の忘れ物が中々見つからなくてさ。あ、彼時間がないからって帰ったよ」
「そう。とにかく早く食べよ?せっかくのお鍋が冷めちゃう」
「そうだな」
ライムに腕を引っ張られながら思い出す。彼、白川君のことを。
果たして彼は幸せを掴むことが出来るのだろうか。
「……信じること、か」
かつて後輩に言われた言葉。まさか誰かに言う日が来るとは。
もう会うことはないけれど、何となく俺に似ているあの少年には頑張って欲しいと思った。
「諦めんなよ、白川君」
届くはずはないけれど、それでも彼にエールを送った。

14:リバース ◆Uw02HM2doE
10/09/28 02:16:32 Z38Oz+x4
ホテルに帰ると既に夕飯が始まっていた。
初日と同じように黒川先生にたっぷりと叱られた後、皆に合流した。
でもあまり覚えていない。今夜で最後のホテルの夕飯も露天風呂も。"彼女"の言葉がひたすら頭の中に響いていた。

『それでも……平穏を犠牲にしても記憶を取り戻したいなら、私の名前を言って』

「……意味分かんねぇ」
思い出す度に同じ言葉を紡ぐ。何で名前を言うと平穏が壊されるんだ。
ベットの上で一人考え込む。英と亮介は修学旅行最終日の疲れからか既に眠っていた。
「……ちょっと散歩でもするか」
少し頭を冷やしたいし気分転換にもなる。せっかくだし修学旅行最後の星空だ。
まあ晴れていればだが。俺はそんな軽い気持ちでロビーに向かう。
部屋の隅にある俺の携帯にある50件以上の着信には気付かずに。
そしてその人物がロビーで待っているとも知らずに。

ロビーは降り続ける雨からか少し肌寒かった。結局散歩に行けたのは初日だけだったな。
そんなことを思いながらふと考える。
「……何か忘れているような」
そう。確か誰かと何かの約束を―
「こんばんは、白川君」
「っ!?」
こんな夜中に、しかもロビーに人がいるなんて思っていなかったため思わず声を出しそうになる。
ゆっくり振り向くとそこには
「……大和さん?」
「よく分かったね」
いつものように瑠璃色のポニーテールを揺らしている大和さんが立っていた。
「……大和さんのポニーテールは目立つから。こんな夜中にどうしたんだ?」
「どうしたんだ……か」
大和さんはゆっくりと一歩ずつ俺に近付いて来た。異様な雰囲気がロビーを支配している。
何だ、この感じ。凄く息苦しい。まるで縫い付けられたようにその場から一歩も動けない。
「や、大和さん……?」
「……罰ゲームだよ、白川君」
「罰ゲーム……?」
大和さんの言っている意味がよく分からない。罰ゲームってどういうことだ。
「あたし、待ってたんだよ。昨日も今日も、さ」
「待ってた……あ」
確か初日に大和さんと星空を見た後、明日もよかったらって言われた気がする。
……まさかずっと俺を待っていたのか。
「大和さんゴメン!俺……」
「もう遅いよ」
頭を下げて謝る俺の首筋に冷たい感触が―
「えっ?」
「おやすみ、白川君」
次の瞬間、バチバチと景気の良い音がロビーに響き俺の意識はそこで途切れた。



「もし生まれ変われるとしたら、何になりたい?」
俺の横で布団の中から顔だけを出して、彼女は言った。
「生まれ変わったら……忘れたい、かな」
「忘れたい?」
彼女はきょとんとした顔でこちらを向く。そんな些細な仕草も愛らしかった。
このまま何も考えずに彼女と……いや、結局それは何の解決にもならない。
「ああ。もし生まれ変われるなら……生まれ変わらなくてもいい。ただ忘れたい。嫌なこと、全部さ」
「……そっか」
彼女は俺をそっと抱きしめてくれた。
こんな小さな身体の何処にあんな力があるのか。間違いなく世界七不思議の一つだろう。
「***は生まれ変わったらどうするんだ?」
「私はね……生まれ変わったら―」

15:リバース ◆Uw02HM2doE
10/09/28 02:17:47 Z38Oz+x4

「…………」
目の前にはホテルの天井。
そっか俺、寝ちゃっていたんだな。また変な夢を見たなと思いながら起き―
「……あれ?」
起きられなかった。よく見るとロープによって手足が固定されている。何だこの状況は。
というかそもそも俺はロビーにいたはずじゃないのか。
「白川君、起きたんだ」
「あ、大和さん。このロープ……」
いや、落ち着け。俺は大和さんに何かされたんじゃなかったか。
そもそも何で目の前にいる彼女は全裸なんだ。
「ど、どうかな?自慢じゃないけど結構スタイル良いと思うんだけど」
「うん。…じゃなくて、な、何でそんな格好してんだよ!?つーか何だよこの状況……」
「静かにしてくれる?皆起きちゃうから。ね?」
突然目の前に出された黒い物体、スタンガンに思わず黙ってしまった。
……さっきのバチバチはこれか。周りをよく見ると他の女子生徒が何人か寝ている。
「皆よく寝てるでしょ。さっき盛った睡眠薬、効いてるみたいなの」
「睡眠薬って……こんなことしてもし誰かに知られたら!」
「レイプされたことにするよ?勿論白川君にね」
笑顔で言う大和さん。しかしその目は冷たく淀んでいた。
「……何、言ってんだよ」
「君に選択肢は無いんだよ?だってこれは罰ゲームなんだから」
「大和さ…んっ!?」
いきなりキスをされる。
大和さんの舌が俺の口に入って来た。抵抗しようとするが手足が動かせないため、どうにもならない。
俺の舌や歯茎を蹂躙した後、大和さんはやっとキスを止めてくれた。
唇からは透明な糸が俺の唇まで繋がっていて、大和さんは満足げな表情を浮かべていた。
「や、大和さん……」
大和さんは裸で俺に抱き着いてくる。豊かな感触が胸板辺り感じられ、彼女からは甘い香りがした。
「……ずっと君を見てたんだよ?」
「えっ?」
俺に抱き着いたまま、大和さんは上目遣いでこちらを見て話を続ける。
「白川君は忘れちゃったと思うけど、あたし達一年生の時も同じクラスだったんだ」
大和さんが俺を今までより強く抱きしめる。まるで自分のものだと主張するかのように。
「一目惚れ…だったのかな。理科実験で同じ班になった時から、君をずっと見てたんだよ?」
寒気がする。今日の昼休みにあの屋上で感じた狂気を、今目の前でも感じている。
「君が悪いんだよ。あたし、頑張ったのに。精一杯我慢したのに……」
そのまま身体を這わせて大和さんは俺のズボンを脱がそうとする。
「や、大和さんっ!?」
「……もう戻れないんだ。全部貰うって、決めたから」
抵抗するがそれも虚しく下半身を露出させられる。大和さんはすぐに俺のペニスをくわえた。
「くっ!?な、何だ……?」
くわえられた瞬間、下半身に異常な程の快感が与えられた。
いくら自慰じゃないからといって、ここまで感じるものなのか。
「……効いてきたみたいだね。さっき君にも注射しておいたんだ。即効性の媚薬をね」
「き、君にも?……うぁ!?」
「ふぃらふぁらふん、ふぁふぁふぃい」
おそらく「白川君、可愛い」と言ったのだろうが、俺のペニスをくわえながらなので上手く喋れないようだ。
というかこれはまずい。媚薬のせいか下半身に暴力にも等しいくらいの快感が与えられ続けている。
「うぁ!?や、大和さっ!?くぅ!」
急に身体が熱くなる。意識が朦朧として下半身の感覚だけがやけに鋭くなっていた。
「ふぃらふぁらふん……」
大和がストロークを速めて俺のペニスを舐め回す。
今までに体験したことのない快感に思わず無意識に腰を浮かせている自分がいた。
「くぅ…!?大和さん!もう……!!」
「っ!?」
止める隙もなくあっという間に精を大和さんの口へ吐き出す。
大和さんは苦しそうにしながらも、吐き出された精子を全部飲み込んでいた。

16:リバース ◆Uw02HM2doE
10/09/28 02:22:14 Z38Oz+x4
「はぁはぁ…!く、そ……!」
一回出せば収まると思っていたがペニスはますますいきり立ち、自分の考えが甘いことを思い知らされる。
「んっ…。ご馳走様でした。あんまり美味しくなかったけど、白川君のだもんね」
大和さんは舌で唇を舐めながら俺の上に跨がる。腹部に湿った何かが当たった。
「ふぁっ!?…い、言ったよね?"君にも"って。あたしもね、注射したんだ……」
大和さんがゆっくりと立ち上がる。陰部からは透明な糸が垂れており、瞳は潤んでいた。
「や、大和…さん……」
上手く頭が回らない。何も考えられない。意識は下半身に集中していて、ただ目の前の光景を見ている。
とにかく猛っている自分のペニスを何とかしたい。もうそれしか考えられなくなっていた。
「白川君……行くよ?」
大和さんが腰を浮かせて俺のペニスをあてがう。陰部に触れただけで強烈な快感が俺を襲った。
それは大和さんもだったようで小刻みに震えながらも、ゆっくりとそのまま腰を落としてゆく。
「んぁ……くっ…」
「ぐっ……!」
途中で何かを突き破るような感覚があった。どうやら大和さんの処女膜を破ったらしい。
大和さんは一瞬痛みからか顔を歪めたが、そのまま腰を落として俺と彼女はぴったりとくっついた。
「くぁ……あぁ……し、白川く…ん?ぜ、全部…入っ…たよ?」
「うっ…うぁ……」
あまりの快感に思考が停止する。ただ目の前の快楽を貪りたいが、手足が縛られているせいで自分では動けない。まさに性行為という名の拷問であった。
「動きたいん…だね?良いよ、ロープ…解いてあげる」
大和さんは繋がったまま俺に近付いて耳元で囁いた。
「あたしのこと……好き?」
「……えっ?」
大和さんはいつの間にかポニーテールを解いていた。意外と長い彼女の瑠璃色に染まった髪が俺の顔にかかる。
女性特有の甘い香りが俺の理性を溶かしてゆく。
「好きって…言って?言ってくれたらこのロープ、解いてあげる」
「……そ、それは」
僅かに残る俺の理性が警鐘を鳴らしている。このまま大和さんに従っていたら、取り返しがつかなくなるような気がして。
「うぁぁあ!?」
「……どうする?」
急に大和さんが腰を動かす。しかもギリギリ俺が射精出来ない程度の絶妙な加減だった。
為す術もなくただ大和さんに犯されてゆく。身体、そして精神までも。
「く、くぁぁあ!?」
「良いんだよ?我慢しなくて。だって媚薬のせいなんだから。白川君は、何も悪くないんだよ」
「…お、俺は…悪く……ない?」
溶けきった理性に大和さんの言葉が流れ込んで来る。……そうだ、これは俺の意志じゃない。仕方ないことなんだ。俺は悪くない。
「そう。……だから言って?あたしのことが好きだって」
「………好き…だ」
自分の中の何かが壊れたような気がした。大和さんは心底嬉しそうな表情をしている。
「誰が?ちゃんと言って」
「……好きです。俺は…大和さんの……ことが好き…です」
言ってしまった。でも仕方ない。これは仕方ないことなんだ。既に理性は無く、意識は下半身に集中していた。
「ふ、ふふふっ!あははははははは!!あたしも大好きだよ、白川……ううん、要君っ!!」
「あ……」
大和さんが俺の両手の拘束を解く。
それが合図だった。思考よりも身体が先に動く。自分の意志とは関係なく勝手に腰を動かしている自分がいた。

17:リバース ◆Uw02HM2doE
10/09/28 02:23:18 Z38Oz+x4
「ふぁ!?んああっ!!い、いいよ要くぅん!!」
「あぁぁぁあ!?大和さ」
「ま、待って!」
急に腰を浮かせて止まる大和さん。まだ焦らせるというのだろうか。もう彼女の言うことなら何でも聞いてしまいそうだ。
「"大和さん"じゃ駄目。ちゃんと"撫子"って……呼んで?」
「な、撫子……」
「よく出来ました」
そう言うと大和さん……いや、撫子は俺の両足の拘束を解く。俺には既に精を放つことしか考えられなくなっていた。
繋がったまま起き上がり、逆に撫子を押し出す。彼女の艶やかな瑠璃色の髪がベットに広がった。
「んぁ!?ひあぁぁあ!!もっとぉ!!」
ただ突く。目の前の肉に向かって何度も熱の塊を突き続ける。それ以外はもう何も考えられない。
早く、一刻でも早く精を放ちたい。段々と目の前が霞んでくる。
「あぁぁぁぁぁあ!!」
「っ!?ふあぁぁぁあ!!」
思いっ切り撫子を引き寄せて射精する。今までに経験したことのない快感に意識が薄れていく。急激な眠気が俺を襲っていた。
「んっ……要…君……これで……あたし達……」
意識を手放す直前に見えた撫子の顔は恍惚としていたが、それは黒い喜びから来ているように俺には思えた。



「…て、要君。起きて、要君」
「……ん?…撫子?」
目を開けるとそこには撫子の顔があった。そうか、俺あのまま―
「な、撫子だって!」
「おめでとう撫子!まさか両想いだったなんてね!」
「アタシも早く彼氏作んないとなぁ」
「……えっ?」
目の前の状況に頭がついていかない。
彼女達は何を言っているんだ。両想いって一体どういうことなんだ。
撫子は満足げな表情を浮かべていた。
「少し散歩しようか、要君」
「あ、ああ……」
「いきなり見せ付けるねぇ!アタシらはもう一眠りしますか」
状況が未だに理解出来ないまま、とりあえず撫子について行くことにした。

18:リバース ◆Uw02HM2doE
10/09/28 02:24:16 Z38Oz+x4

「やっぱり早朝の空気は美味しいね」
「………」
早朝の東雲町を俺達は歩く。新鮮な空気を吸っている内に段々と記憶が蘇ってきた。
昨日のあの、非日常を。
「……でも上手くいって良かった」
「……上手くいって?」
「ふふっ、これで状況証拠も証人もバッチリ。本当は行為中に見られたかったけどね。とりあえず添い寝にしておいたよ。それに……」
撫子は立ち止まって携帯の画面を俺に見せる。
「……どういうことだよ、これ」
「見ての通り。あたしと要君の愛の証拠だよ?」
そこには裸で絡み合う俺と撫子の映像が流れていた。
一体いつの間にこんな物が撮られていたのか。
……いや、最初から目的はこれだったのかもしれない。
「クラスメイトが寝ている目の前で性行為なんて……あたし達、バカップルだよね」
「カ、カップル?」
撫子は微笑みながらこちらに近付いて来る。思わず後ずさるが彼女は俺の耳元で昨日の様に囁いた。
「……それとも君が、あたしをレイプしたように見える?」
「なっ!?」
慌てて距離を取ると撫子は歪んだ笑みを浮かべていた。自然と冷や汗が出る。
もしかしたら俺は引き返せない所まで来てしまったのかもしれない。
そう考えた途端に、目の前の少女が怖くなる。一体彼女は俺をどうする気なのだろうか。
「別にそれでもあたしは良いよ?要君が自分の手で決めて。恋人か、それとも犯罪者か」
冷たい視線が俺を射抜く。俺が選ぶべきなのは―



こうして俺達の修学旅行は幕を閉じた。
最後に西桜高校の佐藤先生にお礼を言う。勿論"鮎樫らいむ"の話をしてくれたからだ。
当の本人はよく分かっていなかったようだが「また遊びにおいで」と言ってくれた。

「しっかしつまらなかったなぁ……」
亮介が車窓を眺めながら溜め息をつく。窓の外には行きと同じように田んぼが一面に広がっていた。
「そんなことないぞ、亮介。結構有意義だったしさ」
そう。この町は俺にとって大きな意味があった。
ライムさんや亙さんとの出会い。"鮎樫らいむ"の本当の意味。
「それは要に彼女が出来たからじゃないのかい?」
苦笑しながら俺を見る英。
俺がそれに答えるよりも早く、横に座って俺の左手ををずっと握り締めている撫子が口を開く。
「や、やめてよ藤川君!は、恥ずかしいじゃない……」
「……要、一日で良い!俺と代わってくれ!」
「亮介には耐えられないんじゃないかな……」
撫子は顔を真っ赤にして俯き、亮介と英はいつものように掛け合いをする。
そんないつもと同じ風景を見ながら俺は思う。
俺が望んでいた"平穏"はとっくに手の届かない所へ行ってしまったのではないのだろうか、と。

修学旅行を経て出来た"恋人"、大和撫子。
彼女がこれから起こる悲劇の引き金になるとは、今の俺には知る由もなかった。

19:リバース ◆Uw02HM2doE
10/09/28 02:27:45 Z38Oz+x4

今回はここまでです。長くなってしまい申し訳ありませんでした。
修学旅行(後編)、終了です。
次回はヤンデレ撫子と鮎樫らいむの正体です。投下終了します。

20:名無しさん@ピンキー
10/09/28 06:25:39 3QMU2ff/
GJ!

21:名無しさん@ピンキー
10/09/28 11:20:43 irEZZrS5
good job!! nice!!!

22:名無しさん@ピンキー
10/09/28 11:22:34 vmz/f3rm
GJ!
鮎樫らいむってそういう意味だったのか!
もっかい読んでくる!

23:名無しさん@ピンキー
10/09/28 12:30:33 6CE3SB9J
旧主人公来たな…クローン里奈と会ったらどうなるかな?

24:名無しさん@ピンキー
10/09/28 14:01:25 fE4zOvAI


25:名無しさん@ピンキー
10/09/28 14:01:25 tsgNY5r8
修学旅行先で細々と隠遁生活送ってるみたいだし遭遇予定無いんでねーの
とりあえずライムが何らかの拍子でいつか記憶が戻る事を願う

26:sage
10/09/28 17:56:24 +nUm+MA+
GJ!
リバース待ってました!要が大変過ぎる…。
鮎樫らいむの謎はまだ残ってるのか?


27:AAA
10/09/28 20:16:43 rNnIRLGW

次回も期待。

28:名無しさん@ピンキー
10/09/28 20:35:59 d4YHp9MW
うん、感想はいいんだけど出来るだけsage進行でお願いね

29:名無しさん@ピンキー
10/09/28 22:20:03 8uXodSgk

何気に『見えないものと視えるもの』の二人がでてるな
生徒会長さん死んだのかw

30:名無しさん@ピンキー
10/09/28 22:22:47 qMIQ6jM0
生徒会長・・・お気の毒に

31:名無しさん@ピンキー
10/09/28 22:59:31 1wqlTp5S
GJ
向日葵ってフランス語でtournesolって言うんだぜ…

32:名無しさん@ピンキー
10/09/28 23:19:14 PGv/uLbC
まぁ…ただの通り魔だろうな
まさかとは思うが盲目の人間に殺せるとは思えん

33:名無しさん@ピンキー
10/09/28 23:28:01 58SLL0sC
GJです!

キミトワタルの時に鮎樫って可愛くない
と言ってすみませんでした。
撫子は怖い娘

34:名無しさん@ピンキー
10/09/28 23:50:06 6cnleUol
リバース来たか。次回も楽しみだ。

35:名無しさん@ピンキー
10/09/29 00:24:23 vKOy7esv
リバース乙です。毎週楽しみにしてます。

亙もライムも里奈も桃花も出て来て、
後はいつ回文さんが出てくるか楽しみです。

36:名無しさん@ピンキー
10/09/29 00:32:47 cI8zvtig
リバースの主役はことごとくヤンデレに好かれてうらやましぃ

37:名無しさん@ピンキー
10/09/29 15:38:47 a+r/Q5ZS
そろそろハロウィンかトリックオアトリートで菓子を渡さないなら
子供が欲しいと言ってるヤンデレ娘を妄想してしまった
病院行ってくる

38:名無しさん@ピンキー
10/09/29 18:05:46 pby+Ffjy
たまには小ネタも見たいのう

39:名無しさん@ピンキー
10/09/29 19:36:31 s2pWAOXn
テスト

40:名無しさん@ピンキー
10/09/29 21:25:23 DHXvlYpy
迷い蛾、予告では今日だが投下くるだろうか?

41:名無しさん@ピンキー
10/09/29 23:13:49 2vLn1ejW


42: ◆AJg91T1vXs
10/09/29 23:25:23 Z8K/4nxH
 また、こんな時間になってしまった……。

 予告したからには、最後まで約束は守りたいと思います。
 今回も、文章量は少し少なめですが……。

 前回に続き、監禁・逆レイプの描写あり。
 苦手な人は避けて下さい。

43:迷い蛾の詩 【第八部・繭破り】  ◆AJg91T1vXs
10/09/29 23:29:14 Z8K/4nxH

 あれから、どれだけの時間が経ったのだろうか。
 気がつけば、この暗闇での生活に慣れつつある自分がいた。

 あの日、繭香に監禁されてからも、亮太は必死に平静を保とうと試みた。
 今は機会がなくとも、いつかはこの拘束から逃れる術が見つかるはずだ。
 そう、信じて心を強く保とうとした。

 人間は、誰もいない暗闇に三日ほど閉じ込められると、恐怖と孤独から精神を病んで発狂すると言われている。
 少なくとも、亮太は三日よりもはるかに長くこの生活に耐えていたが、それには列記とした理由があった。

 監禁しているとはいえ、繭香は亮太のことを放置しているわけではなかった。
 むしろ、暇を見つけては足しげく亮太のいる場所に通い、彼の身の回りの世話をした。
 それこそ、食事を与えることから身体を拭くこと、果ては下の世話まで、動けない亮太のためであれば何でもやった。

 自分の理性を保ってくれている存在こそが、この暗闇に自分を閉じ込めた張本人。
 奇妙な関係であると思ったが、それでも亮太は繭香の行為を拒むことはしなかった。

 今、この状況で繭香のことを拒絶すれば、それこそ自分は永遠に暗闇の中に閉じ込められかねない。
 闇に閉ざされたこの世界で生き残るには、繭香のことを頼るしかないのだ。

 自分は決して、脱出の望みを諦めたわけではない。
 全てを放棄し、人であることを止めたわけではない。
 これは、自分が自分であるために、仕方なく身を任せているだけのこと。

 幾度となく襲い来る狂気の呼び声に打ち勝つため、亮太は心の中で唱えながら自分を律し続けた。

 ここで自分まで狂ってしまえば、繭香の凶行を止める者は誰もいなくなる。
 破壊された日常から自分自身を、そして繭香のことも救い出すには、なんとか隙を見つけ、この部屋から脱出する他にない。

 湿った空気が、今日も亮太の鼻をくすぐった。
 肌にへばりつくような湿気を感じるが、そんなものに心を惑わされている場合ではない。

 繭香の話によれば、ここは彼女の家の地下室ということらしかった。
 なんでも、今は使われていない部屋の一つで、物置小屋同然に扱われている部屋だそうだ。
 扉を閉めれば中からの音は殆ど聞こえなくなるため、人を監禁するのには好都合だった。

 階段を下る足音が、今日も亮太のところへ近づいて来る。
 きっと、繭香が食事を運んできたのだろう。

「気分はどう、亮太君?」

 燭台を手に、繭香が亮太の前に立つ。
 相変わらず、こんな場所で見なければ、それだけで魅了されてしまうような笑顔を振りまいて。


44:迷い蛾の詩 【第八部・繭破り】  ◆AJg91T1vXs
10/09/29 23:30:50 Z8K/4nxH

「ねえ、亮太君。
 今日は、亮太君のために、私がご飯を作ったんだよ。
 いつもはお手伝いさんが作った残りものを持ってきているけど……やっぱり、私の作ったものを食べてもらいたから」

 言葉を返さぬ亮太に対し、繭香は一方的に自分の重いだけを告げる。
 そして、その更に盛られた料理を口にし、そのまま亮太に口移しで食べさせた。

 咀嚼された料理と共に、繭香の舌が亮太の中に入り込んで来る。
 初めは異質にしか感じられなかった繭間の行為だが、亮太はあえて、それを受け入れることにしていた。

 このまま何も食べなければ、それこそ自分は死んでしまう。
 例え、どれほど人としての尊厳を奪われようとも、ここで息絶えてしまってはどうにもならない。

 食事を与えている内に、繭香の息が徐々に荒くなってきた。
 皿に盛られた料理は既に眼中になく、その瞳はひたすらに、亮太だけを求めている。

 食事を与えている際に、気持ちが高ぶってそのまま情事に及ぶ。
 最近の繭香は、特にその傾向が強くなっていた。
 空腹も満足に満たされないまま、亮太はただ、繭香の行為に身を任せる他にない。

 この異様な空気の漂う状況下で、なぜか自分の下半身だけは素直に反応するのが不思議だった。
 繭香と身体を重ねながら、亮太はふと、何かの本で読んだ一説を思い出す。

 人は、生死に関わるような極限の状況に陥ると、性欲が異常に高まることがあるらしい。
 大きな災害に見舞われずとも、場合によっては単に貧しい暮らしをしているだけで、いつも以上に欲情することがあるようだ。

 自分が死ぬ前に、せめて少しでも多くの遺伝子を後世に伝えようという本能。
 それが、極限状況下での性欲を高めることに、一役かっているとの話だった。

 暗闇の中に監禁され、繭香の咀嚼した僅かな食事を与えられるのみの生活。
 肉体に負担がないと言えば、それは嘘になる。
 自分の身体が繭香の行為によって熱くなるのも、単に本能の成せる業に過ぎない。

(俺は、自分が死なないために、こうしているだけなんだ……。
 俺は狂っていない……。
 狂っているのは、この暗闇に閉ざされた世界の方だ……)

 繭香の指が、亮太の全身を舐めまわすようにして愛撫してくる。
 その刺激に耐えるようにして、亮太はひたすらに自分の心を律しようと努めていた。

 だが、そんな亮太の意思に反し、身体の方は否応なしに反応してしまう。
 そして、亮太のことを愛でる繭香の身体も、徐々に赤味を帯びてくる。

「今日は、ちょっと冷えるね、亮太君。
 こんな場所にいたら、寒いでしょう?
 可哀想だとは思うけど……でも、もう少しだけ我慢してね」

「可哀想って思うんなら……せめて、この縄を解いてくれよ……」

「それは、駄目だって言ったよね。
 だって、亮太君、縄を解いたら逃げ出すに決まってるもの」


45:迷い蛾の詩 【第八部・繭破り】  ◆AJg91T1vXs
10/09/29 23:32:54 Z8K/4nxH

 繭香の目が、下から覗きこむようにして亮太を見る。
 蝋燭の灯りに照らされているにも関わらず、その瞳はどんよりと淀んで光がない。
 そして、そんな灰色に濁った瞳の中に、亮太は自分の姿が閉じ込められているのを目の当たりにした。
 繭香の瞳が、まるで牢獄の役割を果たすかのように、自分のことをしっかりと捕えている光景を。

「ねえ、亮太君。
 縄を解くことはできないけど……その代わり、今日は私が温めてあげるね。
 私の身体で、亮太君のことを……たくさん、たくさん、たくさん、温めてあげる……」

 今まで亮太の下半身を撫でていた繭香の手が、すっと引いていった。
 しかし、亮太が安心したのも束の間、今度は一糸まとわぬ姿のまま、繭香が亮太の頭を彼女の胸で抱え込んできた。

「聞こえる、亮太君……。
 私の心臓の音……亮太君のことを想っていたら、今もこんなにドキドキしているんだよ……」

 胸の谷間で挟み込むようにして、繭香は亮太の頭をしっかりと抱きしめた。
 柔らかく、それでいて温かい胸の感触に、思わず亮太の理性も吹き飛びそうになる。

 繭香はあんなことを言っているが、正直な話、亮太には心臓の音など聞いている余裕などない。
 このままでは、ここから抜け出す前に、本当にこちらの方がおかしくなってしまう。

(くそっ……。
 こうなったら……)

 既に、手段を選んでいる場合ではなかった。

 亮太は自身の舌に歯を当てると、それを力いっぱい噛み締めた。
 同時に、自由に動かせる指の先を使い、掌におもいきり爪を立てる。

 口内と、それから両手にも、痺れるような痛みが走った。
 繭香の行為によって突き動かされる本能に打ち勝つには、もう自分の身体を傷つける他にない。
 自分自身に痛みを与えることで、狂いそうになる理性をなんとか繋ぎ止めるのだ。

 ここで繭香に屈してはならない。
 彼女に毒されたら、全ては終わる。
 痛みと快感のせめぎ合いの中、亮太はなんとかして繭香の行為が終わるのを待とうとした。

 だが、そんな亮太の変化に、繭香が気づかないはずもなかった。
 亮太の頭からそっと胸を離すと、その顔を撫でるようにして指を這わせる。

「亮太君……耐えてるの?
 でも、そんなことしなくていいんだよ。
 自分を傷つけてまで我慢するなんて……まだ、元の亮太君に戻ってないのかな……?」


46:迷い蛾の詩 【第八部・繭破り】  ◆AJg91T1vXs
10/09/29 23:35:04 Z8K/4nxH

 燭台の上で輝く蝋燭の火が、風もないのに揺れて見えた。

 椅子に縛られたままの亮太の膝に、繭香がそっと腰を下ろす。
 そのまま亮太のものを自分の敏感な部分に宛がうと、一気に腰を落として一つになる。

「今度は、我慢する必要はないからね。
 そんなこと……私ができないようにしてあげる……」

 そう言うと、繭香は亮太の頭を抑え、いきなり唇を重ねてきた。
 そして、口で口を塞いだまま、今度は両手を下に回す。
 後ろ手に縛られた亮太の手に、自分の指を絡ませるようにして重ね合わせた。

「んっ……んんっ……ちゅっ……」

 亮太の指を自分の指で、亮太の口を自分の口で抑え、繭香は自分の欲望を全身でぶつけてきた。
 こうなると、もう舌を噛むことも爪を立てることもできない。

 身体全身を犯されているような錯覚に陥り、亮太は自分の理性が物凄い速度で麻痺してゆくのを感じていた。
 繭香の中が自分を激しく締めつける度に、凄まじい快感が亮太の全身を襲う。
 身体の奥から溶かしつくしてしまうように、深く、温かく繋がって。

 いつしか、二人は同時に達していたが、繭香は亮太の身体から離れる様子はなかった。
 既に、自分も絶頂に達しているにも関わらず、なおも激しく身体を動かして亮太を求める。

 その、あまりに貪欲な欲求に、亮太も幾度となく繭香の胎内に精を吐き出させられた。
 それこそ、自分の生気を全て搾り取られてしまうのではないかと思う程に、半ば一方的に搾取され尽くした。

 いつも以上の激しい交わりを終え、繭香はゆっくりと亮太の膝から離れる。
 その目は未だ宙を見据え、どこか虚ろに視線を漂わせている。

「今日は……いっぱい愛してくれたね……。
 このままずっと……ずっと一緒にいようね、亮太君……」

 去り際に、椅子に縛られたままの亮太に向かい、繭香がそっと呟いた。
 亮太はそれに答えることなく、ただ暗闇の中で目を閉じている。

 階段を昇る足音が遠ざかり、繭香が部屋を出てゆくのがわかった。
 燭台の明かりは失われ、再び闇が辺りを包む。

 暗い、誰もいない、静寂だけが支配する空間。
 永遠の孤独を連想させる闇の牢獄は、その全てで亮太を飲み込まんと迫りくる。

 だが、しばらくすると、亮太の意識は徐々に鮮明なものへと戻っていった。
 繭香との行為を終え、中に溜まっていた欲望が急激に冷めたということもあったのだろう。
 それこそ、全身の煩悩という煩悩を全て吸い出される程に交わったのだから、今の自分の身体には、欲望の欠片さえ残っていないに違いない。


47:迷い蛾の詩 【第八部・繭破り】  ◆AJg91T1vXs
10/09/29 23:36:12 Z8K/4nxH

 身体の節々が痛み、思うように力が入らなかったが、心まで完全に折れたわけではなかった。

 ぎし、ぎし、と縄の軋む音がして、後ろ手に縛られた亮太の腕が激しく動く。
 連日、繭香との行為によって精を吸われていたにも関わらず、なぜこれほどまでに力が残っているのか、自分でも不思議でならなかった。

 縄目が手首に食い込み、椅子が悲鳴を上げた。
 亮太が動けば動くほど、その拘束は少しずつであるが効力を失ってゆく。

 縛り付けた時は強かった縛めも、日が経てばそれだけ弱くなる。
 その上、連日に渡る繭香との激しい結合も、縄目を緩くするのに役立った。
 生き人形のようにして繭香の行為に身を任せていたのも、全ては一度しかない脱出の機会を失わないための演技だ。

 手首を縛る縄が肉に食い込み、肌が擦り切れて強い痛みを感じた。
 それでも亮太は諦めず、ひたすらに腕を動かし続ける。

 ここで焦ってはいけない。
 焦って縄抜けに失敗すれば、脱出の機会は永遠に失われてしまう。
 そう、頭では理解していても、やはりどこかで焦りを覚えている自分がいる。

(落ち着け、陽神亮太……。
 繭香に知られたら、それで全ては終わりだ……)

 縄が擦れる音だけが、暗闇の中に響き渡る。
 その単調なリズムだけが、亮太の感覚を徐々に痺れさせ、奪ってゆく。

 痛みなど、既に気にしている場合ではなかった。
 程なくして、亮太は自分の右腕を、緩んだ縄から引き抜く事に成功した。
 手首には縄と擦れた時についた赤い痕が残り、皮が剥けて血が流れていた。

「はぁ……はぁ……。
 や、やった……」

 自由になった右手を使い、亮太はまず、自分の左手を縛る縄を解きにかかった。
 きつく結ばれているだけに、一筋縄では解けそうにない。
 が、それでもなんとか縄を解くと、最後に両脚の拘束も解き放つ。

 完全に自由になった身体を伸ばし、亮太は椅子から立ち上がった。
 時間にして、実に一週間以上は椅子に座っていたからだろうか。
 立ち上がった瞬間、身体のあちこちが悲鳴を上げて、骨が軋む音がしたような気がした。

 二歩、三歩と前に出ただけで、膝が笑って倒れそうになる。
 しかし、ここで行き倒れてしまっては、元の牢獄に逆戻りだ。

 壁に手をつき、亮太は手探りで階段を探した。
 物置代わりの地下室は、そこまで広い部屋ではない。
 脱出のための道はすぐに見つかり、亮太は足を踏み外さないよう、それを一歩ずつ昇って行く。

 扉を開けると、そこは繭香の家の廊下だった。
 今までずっと暗闇にいたため、外の明かりが妙に眩しくて敵わない。
 思わず片手で目の前を隠したが、やがて少しずつ、その明るさにも慣れていった。


48:迷い蛾の詩 【第八部・繭破り】  ◆AJg91T1vXs
10/09/29 23:37:13 Z8K/4nxH

「繭香は……いないのか?」

 足音を立てないよう注意しながら、亮太はそっと繭香の家の廊下を歩く。
 着ている制服は既に汚れきっていたが、そんなことは関係なかった。
 今は繭香に見つからないよう、この家を抜け出す事が先決なのだから。

 ふと、廊下にかけてあるカレンダーを見ると、日付は既に七月の半ばとなっていた。
 それまでの日にちには、黒いペンで大きく斜線が引いてある。
 やはり自分は、一週間以上の長きに渡り繭香に監禁されていたようだ。

 廊下を抜け、辺りに人がいないことを確かめながら、亮太は家の玄関まで出た。
 ここまでの過程で、人に出会わなかったのは奇跡に値すると言ってもよいだろう。

 もっとも、学校は既に夏休みに入っていたが、今日は平日である。
 今が日中であることを考えると、繭香の両親は仕事で出かけているのかもしれない。

 そうこうしている間に、亮太はついに家の玄関まで辿り着いた。
 ここを抜ければ、その先には外の世界。
 いつも通りの日常が待っている、壊れていない普通の世界だ。

 玄関のドアノブに手をかけ、亮太はそれをゆっくりと回した。
 靴を探して履いている暇などない。
 汚れた靴下も、既に地下室で脱ぎ捨ててしまった。

 裸足のまま、亮太は繭香の家を出るための一歩を踏み出した。
 が、次の瞬間、唐突に後ろから自分の名を呼ばれて愕然とする。

「亮太君……」

 そこにいたのは、繭香だった。
 例の、沼の底のように淀んだ瞳を携えて、亮太の方をじっと見つめている。
 その手には握られているのは、先の鋭く尖った刺身包丁。
 あの、天崎理緒を手にかけた時に使ったものと同じものだった。


49: ◆AJg91T1vXs
10/09/29 23:40:33 Z8K/4nxH
 本日は、これで投下終了です。
 以前に比べて文章量が減りましたが、話の区切れ目を考えると、仕方ありませんでした。

 次回でラスト。
 事の顛末+エピローグ的な話になる予定です。

50:名無しさん@ピンキー
10/09/29 23:43:34 Olw+A3jL
乙です
光の速さでGJ!!
ラストに期待

51:名無しさん@ピンキー
10/09/29 23:48:20 23qdzGhD


52:名無しさん@ピンキー
10/09/29 23:52:05 hTldsz/d
先を越されたがGJ!
だけど最後はただ殺されて終わりは勘弁だな俺的には
だからといってハッピーエンドすぎるのも‥
まぁ話はもうまとまってるだろうし、来週をまつか‥‥

53:名無しさん@ピンキー
10/09/30 00:44:50 qmNoR6YH
GJ
バッドエンドにしかならないのかな…?

54:名無しさん@ピンキー
10/09/30 02:14:01 BLEZOyDv
妄想は腐るほどできるけど、ssという形にできない。

55:名無しさん@ピンキー
10/09/30 02:24:39 KTxjDpS4
GJ!!
ノゾミガタタレター

56:名無しさん@ピンキー
10/09/30 10:49:49 lXEr6xb1
GJ
今さらハッピーエンドを希望してみる。
 ……どう考えても積んでるけどな!

57:名無しさん@ピンキー
10/09/30 10:51:41 lXEr6xb1
 ぐあ、上げてしまった。
 申し訳ねぇ…ヤンデレな娘さんに刺されてくる…

58:玲子
10/09/30 18:47:02 BLEZOyDv
昔から玲子は不気味な奴だった。
幼稚園の頃、廊下の隅で玲子はよく泣いていた。大声を上げるような泣き方ではなく、
音を立てずに体を振るわせて泣いていた。なぜ泣いているのかというと、まあ簡単に言えば玲子はみんな
に虐められていた。
無視され、叩かれ、そしていつも一人だった。
ある日、俺はそんな玲子が年長の餓鬼3人に虐められている現場に行き会った。
玲子は教室の隅に追いやられ、うずくまっていた。
その餓鬼3人は、ヘラヘラ小汚い笑い声を上げながら玲子のわき腹に蹴りを入れていた。
自分以外に人はいたが皆見て見ぬふりをしていた。
その時自分がなにを思ったのかは知らないが、急に目の前が赤くなり。
気がつけば、その餓鬼3人に突進していた、突然の奇襲に会いよろけている餓鬼3人に、
無我夢中に拳を叩きつけていたのを覚えている。


59:名無しさん@ピンキー
10/09/30 19:19:39 ZhTOnR6R
>>49
GJです
亮太の一介の高校生とは思えぬ意志の強さよ
俺なら2日目あたりでギブアップだろうぜ

60:名無しさん@ピンキー
10/09/30 19:50:19 JoKLU4U7
>>58
頼む
やるなら最後まで・・・

61:名無しさん@ピンキー
10/09/30 20:09:38 7BSZxQjN
規制でもくらったのかな?

62:名無しさん@ピンキー
10/09/30 23:36:41 MWNzv2MP


63:名無しさん@ピンキー
10/10/01 00:08:45 dmBHKuLZ
>>59
2日目の時点で学校は大パニックになってるんじゃないか?
被害者と親しかった生徒が行方知れずだし…

64:名無しさん@ピンキー
10/10/01 00:29:48 aehfcxnx
どうして往々にしてヤンデレには日本語が通じないんだろうな。

まぁ、そっちのほうが八方塞がり感が出てて非常によろしいんだが

65:名無しさん@ピンキー
10/10/01 00:43:10 Q8cxdI9v
最近、髪の毛は消化されないから、食べると悲惨な事になるという話を聞いたんだが

ヤンデレはそこら辺は考えてくれてるんだろうか

そもそも、ヤンデレが自分の体の一部を食事に混ぜるみたいなネタはもうないのか


66:名無しさん@ピンキー
10/10/01 02:30:37 dXS2ALnw
>>65
消化はされないが、梅干しの種みたいにそのまま出てくるだけだから、あんまり心配しなくていいよ。

67:名無しさん@ピンキー
10/10/01 18:51:37 UMVn0QYL
ID:Clg0NTnt
NG

68:名無しさん@ピンキー
10/10/01 19:30:15 YBs/7gAI
天使が人間を好きになったけど、彼に近づいてくる泥棒猫たち
ヤンデレ化した天使は堕天使と呼んでいいんだろうか?

69:玲子 ◇あばばばばば
10/10/01 20:12:06 wdstd6t7
投下します、この前のは事故です。

70:玲子 (1)◇あばばばばば
10/10/01 20:14:52 wdstd6t7
昔から玲子は不気味な奴だった。
幼稚園の頃、廊下の隅で玲子はよく泣いていた。大声を上げるような泣き方ではなく、
音を立てずに体を振るわせて泣いていた。なぜ泣いているのかというと、まあ簡単に言えば玲子はみんな
に虐められていた。
無視され、叩かれ、そしていつも一人だった。
ある日、俺はそんな玲子が年長の餓鬼3人に虐められている現場に行き会った。
玲子は教室の隅に追いやられ、うずくまっていた。
その餓鬼3人は、ヘラヘラ小汚い笑い声を上げながら玲子のわき腹に蹴りを入れていた。
自分以外に人はいたが皆見て見ぬふりをしていた。
その時自分がなにを思ったのかは知らないが、急に目の前が赤くなり。
気がつけば、その餓鬼3人に突進していた、突然の奇襲に会いよろけている餓鬼3人に、
無我夢中に拳を叩きつけていたのを覚えている。
餓鬼3人の叫び声を聞きつけたのか、どこからか先生がすっ飛んで来て
暴れる俺を押さえつけるや、つまらない説教を言い始めた。「人を叩いちゃダメでしょ」とか「なんで
こういことしたの?」とか。どうやら先生は俺に落ち度があると思っているようだ、たしかに
俺が先に餓鬼三人に手を上げた、しかしこいつらは玲子を虐めていたではないか?
なぜ自分は責められなくてはいけないのか?至極理不尽だと、子供心にそう思ったのを覚えている。
普段は大人しい性格だったが、この時は相当頭に血が上っていたらしく、珍しく先生に反論した。
「せんせい!ぼく、玲子ちゃんが虐められてるの見たんだ!!だ、だからぼく・・助けようと思って・・・!!」
やはり大人に刃向かうのは怖かったのか、後の方は声がふるえていた。餓鬼3人は弱みを握られたような
表情をしていた。
「・・・本当?あなた達玲子ちゃんを虐めてたの?」
先生は怖い顔で餓鬼3人を睨み聞いた。当人の餓鬼3人は「し、しらねーよ、やってねーよ・・・」と
嘘をつきた。その傲慢な態度にイラついて、また手が出そうになったが我慢していた。
このままでは収集がつかないので先生は玲子本人に聞いた。

「玲子ちゃん、あなた蹴られたり、叩かれたりした?」


71:玲子 (1)◇あばばばばば
10/10/01 20:15:43 wdstd6t7
しかし、玲子はなにもしゃべらず、ただただ頭を垂れていた。気味の悪い沈黙が場に流れ始めた・・・・
時計の針の音が妙に大きく聞こえ、いつの間にわいたのか外野の野次馬も黙っていた。

「・・・・ゎ・たし・・は・・s・・」

玲子が、か細い声で喋りはじめた。

「いじめられて・・・いません・・・」

一瞬、玲子がなにを言ったか分からなかった。
「いじめられていません」そんな分けない、じゃあなんでそんなに震えている?
なんでスカートがそんなに汚れている?なんで洋服くっきり足跡がついている?
こんなときどうしたらいいのか分からず、ただオロオロするしかなかった。

「ホラッ!玲子もされてないって、言ってるジャンかよー!!!」
(ち、違う・・・!)


「早川君・・・嘘はダメだよ・・・」
(先生・・・!!)


「・・・・・・・・・」
(なんか言ってよ!玲子ちゃん!!)

みんなは、よってたかって俺を責め始めた。
心の中が悲しみなのか、悔しさなのか、怒りなのかよく分からないモヤモヤしたものが
詰まっていくのを感じた。

(僕は悪くない・・)

(僕は悪くない・・)

(僕は悪くない・・)

(僕は悪くない・・)

(僕は悪くない・・)



僕は悪くない・・・・・・・・・・・・!



その時、玲子と目が合った、ほんの一瞬だけど確実に。
その瞬間僕の中の、なにかが弾けた、頭が真っ白になり、
気がつけば俺は玲子の手をとって駆け出していた。
教室を飛び出し、靴も履かず、そのまま門を出た。
後ろから先生の声が聞こえたけど、無視した。
いやだった。なにもかもから逃げ出したかった。








72:玲子 (1)◇あばばばばば
10/10/01 20:18:08 wdstd6t7
また今度投下してみたいとおもいます。
ちなみにss書くのは初めてです、生暖かい目で見守ってくれるとうれしいです

73:名無しさん@ピンキー
10/10/01 20:49:18 XYUwgDsE
GJ!玲子に殴り掛かるのかと思ったぜ

74:名無しさん@ピンキー
10/10/01 21:22:45 g4WZ9uhO
ところでコテつけれてないんじゃないのかな

75:名無しさん@ピンキー
10/10/01 21:50:03 Fn7oqwP8
トリップ成功してないね
トリップは半角の#に好きな文字列だよ

76:玲子 (1)◇あばばばばば
10/10/01 22:49:17 wdstd6t7
ありがとう、無知な自分が恥ずかしい。

77:名無しさん@ピンキー
10/10/01 23:33:24 aehfcxnx
>>73
俺も思った

78:名無しさん@ピンキー
10/10/02 07:47:48 qEEsHnjd
>>76
だが話はおもしろかった
続き、楽しみに待ってるぜ

79:俺 ◆w9U6Ms6d42
10/10/02 17:17:28 s6WUu45c
投下します、あいかわらず下手です。

80:玲子(2) ◆w9U6Ms6d42
10/10/02 17:19:48 s6WUu45c


気がつけば俺は公園にいた。
無我夢中で我武者羅に走っていたら、近くの公園についたのだ。
昼間の公園には誰も居らず閑散としていた。俺は公園のベンチを見つけると
そこへ玲子を引っ張っていき一緒に座った。
俺には幼稚園から公園までの距離はどうってことなかったが、玲子には
きつかったらしく、「ハァ・・ハァ・・」と辛そうに息をしていた。
玲子はしばらくすると息を整え黙りこんでしまった。
公園にはそよ風が吹いていた、走ってすこし汗ばんだ体に涼しい風を当てる
のはとても心地よかった。
どれくらいそうしていただろうか?俺と玲子はまだ一言も口をきていいない。
逆にあまりにも静か過ぎて、その沈黙を壊すことが怖かったのだ。
俺は遠くの高層ビルや雲を見るフリをしながら、玲子を尻目に観察していた。
玲子はベンチに弱弱しくベンチにちょこんと座っていて、
腰まで届く長くて艶のある髪は顔をすっぽり隠してしまっている。
服には餓鬼3人による、痛々しいイジメの傷跡が残っていた。
ハサミか何かで切られたのか、ところどころ服が無造作に破けていて
背中にはくっきりと上履きの跡がついている、それも何個も・・・・
それだけでなく、あちらこちらにサインペンで「死ね」だの「消えろ」
だの「貞子」だの悪口のオンパレードだった。
気がつくと無意識に自分の手が動き、玲子の背中を撫でていた。
ゆっくり子猫を撫でるように、やさしく・・
玲子は怯えているのか、体が小刻みに震えていた。
俺なんと声をかけたらいいのかわからず、ただただ玲子の背中を撫でていた。
俺はなけなしの勇気をふりしぼって玲子に話しかけた。


81:玲子(2) ◆w9U6Ms6d42
10/10/02 17:20:31 s6WUu45c
「あ、あのさ!れ、れいこちゃん・・」

「・・・・・・」


「あ、あの・・ごめんね?・・変なとこ勝手につれてきちゃて・・・は、はは!
なんかあの時暴走しちゃって・・なんか・・その・・ごめん・・」

「・・・・・・」

玲子はなにも言わない。

「あの・・その・・」

「・・・・・・」

「な、なんでさっ!そ、その・・・いじめられてない・・って言ったの?」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「あ!無理して言わないでいいよ!!ごめん・・」

玲子は最後までしゃべらなかった、なんだか自分が余計な事して玲子を傷つけてしまったの
でわないかと思いとても心配になった。
気がつくと、空に赤みが差してきて夕陽が俺と玲子の長い影を作っていた。カラスの鳴く声や、遠くで子供が騒ぐ声
豆腐屋の独特なラッパの音・・・
俺は寂寥感と重い沈黙に耐えられず、ベンチから立ち上がろうとした。
そのとき服の袖になにかが引っかかった。驚いて振り向くと玲子が俺の袖をつかんでいたのだ


82:玲子(2) ◆w9U6Ms6d42
10/10/02 17:21:16 s6WUu45c
れいこちゃん?・・」

突然のことに慌てながらも、恐る恐る聞いてみた。しかし玲子は無言で袖をつかんだままだった、心なしか掴んでいた
指の力が強くなった気がした。

「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

長い沈黙が流れる。

「・・あの・・れいこちゃん・・・」

「・・・・・・・」

「ずっとこうしてるのも暇だからさ・・・お、お砂場で・・遊ぼうよ」

今思えばなんでこのとき砂場で遊ぼうだなんて言ったか検討もつかない。

「・・・・・・」

「ほら・・行こう・」

俺はなかなか動こうとしない玲子を半分引きずるようにして砂場に連れて行った。
砂場には誰もいなかった。誰かが忘れていったのだろうか?プラスチックのおもちゃのスコップが寂しく転がっていた。
俺は玲子を座らせ、もくもくと砂でお城を作り始めた。

「ほら、れいこちゃんもてつだってよ」

「・・・・・」
玲子は最初はためらっていたが、か細い手で砂をいじり始めた。
始めに砂で山を作り、トンネルを掘り、木の枝などで扉や窓を表現する。
山を作るところは俺がやって、トンネルは玲子がやり、木の枝で扉や窓をつくるのは難しいので、二人で協力
してやった。完成したお城はなかなかの出来栄えだった。

「できたね・・・」

「・・・・・うん・」

物凄く小さな声だったけど玲子は初めて返事をしてくれた。俺は驚いて玲子を見て息を呑んだ
玲子は微笑んでいた、楽しそうに。俺もつられて笑ってしまった。
俺と玲子はまだなんにも会話らしい会話をしていなかったが、どこか心が通じ合った気がした。



83:玲子(2) ◆w9U6Ms6d42
10/10/02 17:22:55 s6WUu45c
ここまでです。
一度に長く書けない・・・

84:名無しさん@ピンキー
10/10/02 20:33:23 K3+IxEo8
玲子 (1)◇あばばばばば

85:名無しさん@ピンキー
10/10/02 21:49:16 OSnCpMDV
GJ!!
ストーリー展開が独特で面白い!!
次回も楽しみにしてます。

86:名無しさん@ピンキー
10/10/02 23:02:23 rciE5WLn
おもしろかった!乙です!

しかしポケ黒がこないな
ヤンデレポケに監禁でもされてるのだろうか


87:名無しさん@ピンキー
10/10/02 23:20:56 EvB7s8X2
ヤンデレボールの中に監禁されたのかもな

>>83
続き期待してます

88:名無しさん@ピンキー
10/10/02 23:38:11 NsQqifC8
>>83GJ
これは期待の新作だな

89:名無しさん@ピンキー
10/10/02 23:59:10 MVv56A6a
そろそろリバースとかがくるかな


90:名無しさん@ピンキー
10/10/03 00:05:24 pmi3BJc6
いじめられてるというのを否定されてブチ切れるどころか相手を気遣うとはな……そら惚れるで

91:AAA
10/10/03 02:33:36 KBbG6ge7
園児でこんなに優しい奴は初めて見た。

92:名無しさん@ピンキー
10/10/03 04:55:15 LPRU/MHX
投下します。

93:名無しさん@ピンキー
10/10/03 05:01:28 jpATXtFV
支援

94:キモオタと彼女 4、75話
10/10/03 05:05:48 LPRU/MHX
ウチがあの人に出会ったのは、2年ちょっと前の話です。
ウチは、まだ大学入りたてで満員電車に慣れていなかった頃、痴漢に遭ったです。
それはもう、驚きましたですよ。
田舎じゃ、そんな事はなかったですし、男の人には免疫がなくて、誰の手かもしれない人に体を触られているのは、恐怖しかなかったです。
怖かったです。
怖くても、声もあげられなかったです。
周りには、男性の乗客しかいなくて、ジェスチャーで訴えればもしかして助けてくれるかもしれない。
そして、たまたま目が合った真面目そうなサラリーマン風な男の人に、後ろの痴漢に気付かれないように、手で「痴漢されている。」というニュアンスを含んだジェスチャーを送ったです。
それが、伝わってないのか。
何故か、相手はニヤニヤしながら、こちらを見始めたです。
…あぁ、ウチの困る姿を見て楽しむつもりですか…。
もう、どうでもいいです。
勝手にしやがれです。
ウチがそう思ったのと同時に、下着の中に手を突っ込まれてきたです。
「っん!」
ッツ、ふざけんなです。
そこまで、許したつもりはねぇです。
と、大声で怒鳴り散らしたい所ですが…。
案の定、ただただ黙っていることしか出来なかったです。
それを、良いことに奥に入れられて…。
その時は、死にたくて仕方なかったです。
痴漢には会い、見知らぬ男には見捨てられ、自暴自棄になっていた所に…。
彼に会ったです。

「オッフ、や止めなされ。 ち、痴漢行為は犯罪でござる。」
後ろを振り返ると、顔が整った男と、お世辞にも普通とは言えない容姿の男がいたです
「はぁ? 俺が痴漢したっての? っていうか、お前がしたんじゃねぇの?」
「オゥフ、何を言ってなさるのか。 拙者は見ましたぞ。 貴方が痴漢しているのを。」
…正直言いますと、どう見てもオタクっぽい人が、痴漢行為を働いたように見えましたです。
でも、私は…
「…そう…です。 その人が…痴漢です…。」
私が、震えながら指を指したのは…。

整った顔の方の男に指を指しましたです。
「ふっざけんなよ!? 糞女ァ!! 言いがかりもいい加減にしろよ!!」
「っひ…!」
整った顔が一気に崩れ、恐ろしい顔でこちらに迫って来た時は、失神しそうになったです。


95:キモオタと彼女 4、75話
10/10/03 05:11:17 LPRU/MHX
「やややや止めなされぼぼぼぼうひょくはいけないでござんす!」
震えながらも、ウチをかばってくれるオタクの人…。
背中は、汗びっしょりだし、何か酸っぱい臭いもするし、正直頼りない人だけど…。
そんな人だけど、勇気を振り絞ってウチを助けてくれるのは、凄く嬉しかったです……。
「ってめぇ! きめぇんだよ!」
ッガ!
「おぶぷ!」
私を助けてくれた彼は、奇妙なうめき声をあげながら、派手に後ろに飛び、人混みの中に倒れ込んでしまったです。
その瞬間、今まで道場以外で使いたくなかった合気道で、後ろを振り向いていた相手の腕をとり背中にまで捻り、関節を外した。
ポキン
「ッギャアアアア!!」
気持ちのいい音ともに、相手の悲鳴が満員電車の中に響きわたる。
車内の到着のアナウンスがなっている気がするが、男の悲鳴が大きすぎて、何も聞こえはしなかったです。



着いた後、男は駅員に引っ張られていきましたです。
引っ張られながらも、私に罵声を投げつつ、駅員室の方に連れていかれたです。
あっ…。
今まで張り詰めていたものが一気に萎み、座り込んでしまいました。
こ、怖かったぁ……。
安心したら、どんどん涙が出てきて、とてもじゃないですが、平静を保てなかったです。
ウチは、その場にうずくまり、泣いていました。
その時、泣いているウチに声をかけてくれる人はいなかったです。
やっぱり、先程の男の関節を外した時、男が絶叫した瞬間を、乗客が一斉にうちと男を見て驚いたのでしょう。
小柄な女が男の腕を捻っているのを見たら、うちに近づきたくなくなるのも、当然ですね…。
そんな事を思うと、更に涙が出て来て大変でした。

「だ、だ大丈夫ですか…?」
顔を上げると、ウチをかばってくれた男の人でした。
「ここここれをよよよ良かったら、使って下さい!」
と言われて、渡されたのがポケットティッシュとお水でした。
それをウチが受け取った瞬間、男の人は走ってどこかにいっちゃいました…。
彼のそんな姿を見て、さっきまでの感情が嘘のように吹き飛んだ。
見ず知らずのウチの為に、殴られて痛い思いをしているはずなのに、ウチの事を気遣ってくれた彼の優しさに心惹かれましたです…。
今度、彼に会ったらお礼を言おう…。
そう心に決めた私は、先程までの辛い気分は吹っ飛び、代わりに胸のどこかで心地よい優しい痛みを感じていた。


96:名無しさん@ピンキー
10/10/03 05:15:19 LPRU/MHX
投下終わります。

見て下さった方は、お疲れ様です。

藍那編の番外は、もう一話あります。

本編を進めた後に投下したいと思っていますので、よろしくお願いします。

97:名無しさん@ピンキー
10/10/03 06:41:28 4fCpON3z
おおGJ

98:名無しさん@ピンキー
10/10/03 09:23:31 SWorB41i
>>96
キモオタと彼女キタ━(゚∀゚)━!!!このお話好きだ。


99:AAA
10/10/03 12:03:25 KBbG6ge7
本編期待。番外編続きも期待

100:名無しさん@ピンキー
10/10/03 16:18:49 pSZyjW1f
>>98 >>99
次から気をつけてくれ。
アドレスのところに「sage」と入れるだけだからさ

101:名無しさん@ピンキー
10/10/03 18:04:50 GzIB7NyO
キモオタと彼女GJ!!

最近ポケ黒が来ないのが心配だな。

102:名無しさん@ピンキー
10/10/03 18:30:41 RY56buk1
それより桜の幹とヤンデレ家族、触雷の続きをだな・・・

103: ◆AW8HpW0FVA
10/10/03 18:31:26 TDSsLryv
test


104: ◆AW8HpW0FVA
10/10/03 18:32:19 TDSsLryv
期待に添えないでしょうが投稿します。
変歴ではないほうです。

105:ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第十五話 ◆AW8HpW0FVA
10/10/03 18:33:13 TDSsLryv
第十五話『エロスの弓矢』

ピドナに帰還してから、数日が経った。
ブリュンヒルドは未だに各地を転戦しており、ここにはいない。
そんな中、シグナムはバトゥとハイドゥを自分の執務室に呼び寄せた。
だというのに、その中にハイドゥはいない。呼びに行ったが、不在だったのだ。
まぁ、いいか、とシグナムは思い、やって来たバトゥに向かって、
「バトゥ、お前は妻帯をしていたり、思い人がいたりするか?」
と、切り出した。あんぐりと口を開けているバトゥを尻目に、シグナムは、
「いないのなら、お前には結婚をしてもらいたい」
と、言った。
そんな大した事を言ったつもりはないのに、バトゥは顔を赤くし、激しく動揺していた。
「シッ……シグナム様、いきなりなんて事を言うのですか!
こういう事は、お互いがもっと信頼し合える様な関係……、
……いや、確かに私はあなたの事を信頼していますが……」
「あぁ……、いきなりこんな事を切り出してすまなかったな。
だが、これは重要な事だからな、避ける訳にはいかないのだ」
そう言うと、バトゥは黙り込んでしまった。随分とシャイな奴なんだな、とシグナムは思った。
しばらくすると、バトゥも落ち着いてきたらしく、
「それでシグナム様、重要な事とはなんですか?」
と、冷静な言葉をいえるくらいまで回復していた。シグナムは咳払いを一つして、
「お前はこの度の功績で、高い位を与えられる。つまり、貴族となり政治に参加できるのだ。
そこで聞きたいのだが、お前は儀礼についてどこまで知っている?」
と、尋ねた。バトゥは首を傾げてしまった。
「そういう事だ。軍事ならばまだしも、政治となると、そこは儀礼の世界、
小さなミスで、全てを失ってしまう紙一重の世界だ。
貴族でも豪族でもないお前に、その様な事が分かる筈もない」
そこまで言って、シグナムは人差し指を立てた。バトゥがその指を注視した。
「故に、結婚が重要になってくるのだ。お前が貴族の息女と婚姻関係を結べれば、
その力を借りる事ができる。なに、身分の事は心配するな。
お前は私と共に大陸統一に尽力した英雄の一人だ。誰もお前を見て嫌な顔はするまいよ」
「なんだ、……そっちの方か……」
「そっちの方?」
奇妙な単語が聞こえてきたので、シグナムは思わず聞き返した。
独り言が聞こえたと分かったのか、バトゥは顔を真っ赤にして、
「あっ、いや、なんでも……ありません……」
と、的を得ない答えを返してきた。シグナムはそれ以上追求はしなかった。
「まぁ、とりあえずはお見合いからだな。日時は決まったら知らせるから、
お前は今日中にでも新しい服を買っておけよ」
シグナムがそう言って、この話は終わりである。バトゥは頭を下げて退出した。
バトゥと入れ違いに、大量の書類をトゥルイとフレグが運んできた。
今日中に目を通しておいてくれ、との事らしい。
シグナムは、それ等の書類に目を通す事に必死になり、ハイドゥの事を忘れてしまった。
ハイドゥが執務室にやってきた時には、シグナムは顔を見る事なく追い出してしまった。


106:ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第十五話 ◆AW8HpW0FVA
10/10/03 18:33:45 TDSsLryv
翌日、シグナムは王に内謁した。
内謁の理由は、バトゥ、ハイドゥのお見合いの許可を取る事である。
幾ら、軍権と政権を掌握しているとはいえ、シグナムは王臣である。筋を通す必要があったのだ。
王はシグナムがお見合いをすると言い出したので、多少驚きながら、
「臣下の結婚を斡旋する宰相など、初めて見ましたよ」
と、多少皮肉混じりに言った。シグナムはクスリと笑いながら、
「今回のお見合いには、それなりの理由があります」
と、言った。それなりという割には、その表情には真剣味は感じられない。
「第一に、バトゥ、ハイドゥ両将は、平民にございます。
平民である彼等に、政治が行えるはずがございません。
それゆえ、貴族の息女と結婚させ、彼等を助けさせるのです」
シグナムの言ったそれは、バトゥに言った事と殆ど同じであった。
だが、その次の事を言おうとした時のシグナムの表情には感情の色が消えていた。
「第二に……、彼等が平民だからです」
それは、無表情で言った割りにはあまりにもお粗末なものだった。
「宰相殿、理由が重複していますよ」
思わず王もクスリと笑ってしまった。
しかし、相変らずシグナムの表情は無表情で、放たれる威圧感は凄まじかった。
「では、正直に申しましょう。……私は、彼等に政治を任せる気はありません」
このシグナムの発言には、流石の王も驚いた様だった。
なにせ、今まで自らの手足の如く使ってきた忠臣に、
政治を任せたくないというのだから当然である。
そんな王を見ても、シグナムはかまわず続けた。
「彼等平民は、政治を知らない。……これは表向きの理由に他なりません。
本当の理由は、彼等が実権を握り、他の平民が政治に参入してくる事です」
いつも以上にシグナムは饒舌になっていた。王が口を挟む暇もない。
「もしも平民が政治に介入するようになれば、王族、さらには貴族の力が急落します。
これは、断じて認める訳にはいきません。
平民とは、貴族が与えるものをなにも考えずに享受していればいいだけの存在です。
それを、平民が貴族の上に立ち、命令を出すなど、絶対にあってはならない事なのです。
なので、彼等を貴族の息女と結婚させて、監視を付ける事によって、
彼等の自立の芽を事前に摘もうという訳です」
そこまで言って、シグナムは口を閉じた。
その凄まじい口舌に、王は押されるばかりであった。
「……なるほど、それほどこの結婚は重要という訳か……。
宰相殿、先ほどは失礼な事を言って、すまなかった」
「畏れ多い事です」
シグナムはそう言って、頭を下げ、そのまま何事もなかったかの様に部屋から出て行った。


107: ◆AJg91T1vXs
10/10/03 18:34:14 5Pit/50Q
 予告通り、迷い蛾・最終部の投下行きます。

 とりあえず、今まで色んなところに投げておいた伏線だけは回収しました。
 その分、酷い鬱展開ですが……。


 最後になりますが、流血シーンがあります。
 そこまでグロテスクではありませんが、血の苦手な人は避けて下さい。

108:ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第十五話 ◆AW8HpW0FVA
10/10/03 18:34:25 TDSsLryv
ブリュンヒルドはまだ帰ってこない。鬼の居ぬ間の洗濯は続く。
お見合いの手続きも全て完了し、あとは開催日を待つのみである。
だというのに、未だにハイドゥには結婚の話を持ち掛けられずにいる。
どういう訳か、忙しくない時に限って、ハイドゥは不在のため、話を切り出せないのだ。
ならば、口伝に誰かに言ってもらえばいいではないか、という者もいるかもしれないが、
この様な重要な事柄を、他人の口から言わせるのはどこか味気ない。
なので、シグナムは自分の口から伝える事にこだわった。
だが、相変らずハイドゥは不在の時が多く、部屋にいると分かって呼びに行こうとすると、
高確率でトゥルイかフレグが書類の山を運んでくるか、
それでなくても、王直々の諮問を受けたり、陳情の処理などで、それ所ではなくなってしまう。
こうなると、ハイドゥは自分の事を避けているのではないか、とさえ思えてしまう。
この様な事が五回連続で続いた時には、ハイドゥに対して怒りが湧いた。
今度こそ、ハイドゥにこの事を話さなければならない。
シグナムは万全を期すために、今回の事にまったく関係がないトゥルイ達に頼み事をした。
それは、トゥルイには書類の整理を、フレグには陳情の処理を、
一日だけ一人で裁いてもらいたい、というものだった。
「そういう事でしたら、お任せください」
「シグナム様のお手は煩わせません」
と、二人は言って、快諾してくれた。
ふと、シグナムはこの二人から浮いた話は聞いた事がないな、と思い、
「二人は、結婚はしているのか?」
と、まるで独身男性が聞く様な質問をした。
「子供の頃は、幼心に結婚の約束した相手がいましたが、
今となってはトンと縁がなくて。……私には、魅力がないのでしょうかね……」
「私も兄上と同じです。今頃は、その人達も結婚しているのでしょうね」
と、二人は答えた。
「なんだったら、お前達もお見合いに参加するか?」
なんとなしに、シグナムは誘ったが、二人は遠慮しておきますと断った。
余計な事を言ってしまったか、とシグナムは思ったが、取り合えずこれで準備は万端である。
シグナムはハイドゥの部屋に向かった。ハイドゥがいる事は、既に分かっている。
シグナムが戸をノックしようとした時、
「宰相閣下」
背後から兵士に声を掛けられた。
こんな時に、とシグナムは思ったが、声を掛けられたのだから答えなけばならない。
「どうしたんだ?書類の整理はトゥルイが、陳情はフレグが、
王からの諮問は昨日答申したから、今日はないはずだが……」
「宰相閣下、両将軍のお見合いの事ですが、
皆様の都合上、今日の夜でなければ出来ない事になりました。
ですが、現場監督殿は風邪で倒れられ、後任の方々もなぜか身体を壊してしまったので、
最早、指揮が出来るのは宰相閣下しかおられません。お手数をお掛けしますが、お願いします」
またか、とシグナムは思った。ここまで来ると嫌がらせの域を超えている。
それでもシグナムは、跪いている兵士に微笑みかけ、
「ハイドゥ将軍に用があるので、少し待っていてもらおう」
と、言って、戸を叩こうとしたが、それよりも先に兵士が、
「将軍でしたらおりませんよ。先ほどどこかに出掛けて行くのを見掛けましたから」
と、言って引き止めた。
シグナムは眩暈を覚えた。まさかのニアミスを食らったからだ。
倒れそうになるのを耐えて、シグナムは兵士を連れて会場に向かった。


109:迷い蛾の詩 【最終部・待宵草】  ◆AJg91T1vXs
10/10/03 18:35:11 5Pit/50Q
 
「ま、繭香……」

「どこへ行くの、亮太君。
 私と亮太君は、ずっと一緒だって言ったよね?
 ずっと……離れないって言ったよね……」

「ごめん、繭香……。
 だけど……俺は行かなくちゃならないんだよ。
 こんな生活を繰り返していたら、それこそ取り返しがつかないことになる。
 俺も……繭香も……二人ともだ」

「どうして!?
 どうして亮太君は、私から逃げようとするの!?
 私は……私はこんなに亮太君のことが好きなのに!!
 私には……本当の私を見てくれる人は、亮太君しかいないのに!!」

「繭香……」

 色のない繭香の目から、大粒の涙が零れ落ちた。
 それを見た亮太の脳裏に、あの神社での出来事が蘇る。

 純粋すぎる程に一途な想い。
 そして、その想い故に、心の均衡を崩してしまった繭香。
 こんな状況でなければ、彼女の気持ちに素直に応えられただろう。
 が、しかし、今はそれ以上に、繭香の歪んだ心を元に戻すことを考えねばならない。

「亮太君……どうしても、行くんだね……」

 一歩ずつ、足元を踏みしめるようにして、繭香が亮太に近づいて来る。
 その手に握った包丁の切っ先を、しっかりと亮太の胸元に向けて。

「もし、亮太君が出て行くって言うなら……亮太君を殺して、私も死ぬよ……」

 じりじりと、繭香が亮太との距離を詰める。
 逃げ出そうと思えば逃げられたが、亮太はあえて、繭香がこちらに近づくのを待った。

「逃げないの、亮太君……?
 本当に……本当に殺しちゃうよ?」

 繭香の手にした包丁の先が、ついに亮太の胸まで数センチ程の距離に迫る。
 銀色の刃が亮太のシャツに触れ、胸に軽い痛みが走った。

 このまま刺せば、亮太は確実に死ぬ。
 今ここでやらねば、亮太は永遠に自分の側から消えてしまう。
 だが、そう思って刃を突き出したはずの繭香の腕は、亮太の手によってしっかりと止められていた。

「もう、止めるんだ、繭香……。
 これ以上……君は罪を重ねちゃいけない……」

「あ……」

 亮太の手が、震える繭香の手を静かに下ろす。
 力なく垂れたその手から、包丁だけをそっと奪った。


110:ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第十五話 ◆AW8HpW0FVA
10/10/03 18:35:26 TDSsLryv
お見合い会場は騒然としていた。
大体の準備は終わっているというのに、そこら中でトラブルが続発していたからだ。
なぜこの様な事になっているのか、シグナムには理解できなかった。
そもそも、給仕達は一週間ぐらい前から少しずつ準備をしていたにもかかわらず、
その動きは恐ろしいほどぎこちない。
まるでわざとやっているようにしか思えない。
しかし、彼等の目は本気そのものであり、わざとらしさは微塵も見えない。
シグナムは、不穏な考えを捨て、気分を切り替えた。
とりあえず、殆どの作業は終わっているのだ。後はちょちょいと終わらせて、
ハイドゥを探しに行けばいい。まだ昼前、夜までには時間がある。
探し出して、結婚の事を話し、参加させればいい。
シグナムはそんな事を思いながら、給仕達に指示を出した。
だが、シグナムの思惑通りには行かなかった。
シグナムが指揮をとっても、給仕達は思いの外スムーズに動かなかったのだ。
どこかで誰かが転び、なにかをぶちまけ、絨毯やテーブルクロスを汚す。
それを替えようとした給仕がまた転ぶ。遠くではガラスの割れる音が聞こえた。
厨房では怒鳴り声が響き、何人かの見習いが紙を片手に外に出て行った。
まるで戦争だった。それも大が付くほどの。
シグナムは、頭の中から雑念を捨てた。その中には、バトゥやハイドゥの事も入っていた。
すると、急激に給仕達の動きがよくなった。
シグナムはそんな事にも気付かず、的確な指示を飛ばし、給仕達を動かした。
日が傾くにつれ、給仕達はさらに動きがよくなり、
大地が赤く染まる頃、会場の準備は全て整った。
「宰相閣下、ご骨折り、ありがとうございました」
椅子に座ってぐったりしているシグナムに、給仕の一人がそう言って水を差し出した。
シグナムはそれを一口に飲み込むと、その給仕に、
「お前は今すぐ、バトゥ将軍にお見合いの準備が出来た、と伝えてきてくれ。
私は、……もうしばらくここで休んでいる」
と、言って、テーブルに突っ伏した。
あぁ、そういえば、とシグナムはハイドゥの事を思い出した。
結局、ハイドゥには話しそびれてしまった。
これでは、ハイドゥを貴族として朝廷に上げる事が出来ない。
しばしの思考の後、
「もういいや……、面倒臭い」
と、完全に投げやりな結論に到った。

お見合い開始の時間が近付き、疎らだった会場は貴族達で埋め尽くされた。
ちょうど時間にもなったので、シグナムは、一段高い所から貴族たちを見下ろすように、
「会場の皆様!」
と、大きな声を出した。片手にはグラスが握られていた。貴族達がシグナムに注目した。
「今宵はお忙しい中、このお見合いの席に来て頂き、実にありがとうございました。
本来ならば、この場にはもう一人、ハイドゥ将軍がいるのですが、
こちらの不手際で呼ぶ事が叶いませんでした。その事をこの場でお詫びいたします。
ですが、今宵はバトゥ将軍にとっても、皆様にとっても、
素晴らしい出会いの日である事には変わりありません。どうか楽しんでいってください。
さあ、長い挨拶はこの程度にして、不肖、このシグナムが乾杯の音頭を取らせてもらいます」
と、シグナムが言うと、貴族達もグラスを取り始めた。
「乾杯!」
「乾杯!!!」
貴族達の歓声と共に、空前のお見合いが始まった。


111:迷い蛾の詩 【最終部・待宵草】  ◆AJg91T1vXs
10/10/03 18:36:21 5Pit/50Q

「どうして……」

 亮太の胸元で、繭香の声が微かに震える。

「どうして亮太君は……こんなに私に優しいの……?
 私は……本当の私は……こんなに汚くて、ちっぽけなのに……」

「どうして、か……。
 それは……俺も繭香のことが、好きだからだよ」

「嘘!!
 だったら、私を拒まないで!!
 私から逃げないでよ!!
 私だけの……私だけを見てくれる亮太君でいてよ!!」

「ごめん、繭香……。
 悪いけど、それはできないよ。
 俺は繭香のことが好きだけど……だからこそ、繭香と一緒に、この世界で生きて行きたいんだ。
 あんな暗闇に閉じこもっているんじゃなくて、ちゃんと日の光の当たる場所を、二人で一緒に歩きたいんだ」

「そんなの、私は嫌だよ。
 私と本当に向き合ってくれたのは、亮太君しかいないの!!
 私には、亮太君だけがいれくれればいいの!!
 他の人の目なんて……世界なんて……私には要らないもの!!」

 一度、思いの丈を口にすると、もう止まらなかった。
 今まで抑圧してきた全てのものが、身体の奥から止め処なく溢れ出て来る。

「亮太君が私を見てくれなくなるんなら、こんな世界、壊れちゃえばいいんだ!!
 本当の私を見てくれない人しかいない世界なんて……全部無くなっちゃえばいいのに!!」

「それは違うよ、繭香……。
 確かに……今まではそうだったかもしれない。
 でも、これから先も、未来永劫そうだなんて、誰にも分からないはずだよ。
 それこそ、俺にも、繭香にもね……」

「で、でも……私は……!!」

「それに、繭香は前に言ったよな。
 俺のことを助けたい。
 俺のことを元に戻してやりたいって……」

「…………」

「だから、今度は俺が繭香の力になりたい。
 繭香が胸を張って外の世界を歩けるように、俺も精一杯協力する。
 理緒の事で、しばらくは会えなくなるかもしれないけど……俺は、いつまでも繭香を待つよ」


112:ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第十五話 ◆AW8HpW0FVA
10/10/03 18:36:26 TDSsLryv
シグナムは何ヶ所かテーブルを廻って、挨拶を済ませると、会場から出て行った。
今回の主役はバトゥであり、それを配慮したというのもあるが、
実際の理由は貴族達と会談を開く事だった。
シグナムと貴族達は、会場から離れた会議室に集った。
内容は、バトゥがどの貴族の息女を見初めるのかは分からないが、
そうなった場合、バトゥには極力自立した考えを持たせないように、と懇願する事だった。
この会談自体はすぐに終了し、そのまま小宴会的なものになった。
その席で、シグナムは縁談を持ち掛けられた。
いきなり振られた縁談話に、シグナムは少し驚いた様な表情をした。
シグナムには自覚はないが、この大陸でシグナムの評判は頗る良い。
超大国ファーヴニルの王太子という血筋も然る事ながら、
女と見間違うほどの容姿と、オゴタイ王国を復興させたという実績は、
貴族だけでなく庶民の女達の心をも射止めた。
そして以上に、貴族の当主達もシグナムの事を欲した。
当然といえば当然である。
シグナムはオゴタイ王国の宰相である。それを自分の一族に取り込む事が出来れば、
一朝にして朝廷の重職を自分の親族で埋める事も夢ではない。
それに、例えシグナムがファーヴニルに帰って即位したとしても、
自分達は外戚として権勢を振るう事が出来る。
どっちに転んでも絶対に損はしないという訳である。
そういう打算もあって、貴族達はシグナムに縁談を持ち掛けたのである。
シグナムは、貴族達の思惑を知ってか知らずか、笑いながら、
「私には、女を愛するとか、そういう崇高な事が出来るほど立派な人間ではありませんよ」
と、言って断った。
貴族達は首を傾げたが、それでも穏やかな表情で、
心の底では必死になりながらシグナムを説得した。
だが、結局はシグナムの首を縦に振らせる事は出来なかった。
こうして様々な思いが錯綜したお見合いは、朝近くまで続き、お開きとなった。

翌日、政務が一段落したシグナムは、早速バトゥに相手は見付かったか、と聞きに行った。
バトゥは多少顔を赤くして頷いた。それを見たシグナムは微笑みながら、
「そうか、それはよかった。では早速、お前の選んだ相手を見に行こうか。
その当主にも会っておかねばならんからな」
と、言うと、バトゥを連れて、馬車を走らせた。
ちょうどその時、シグナム達は馬車の行列と入れ違った。
その馬車は、政庁の門前で止まり、一人の貴婦人が降りてきた。
空色の短髪と、釣り目が印象的なその貴婦人は、門衛に向かって、
「私はソフィア・ローレライ。
トゥルイ・ダマスクス将軍に目通りしたいのだが、よろしいかな?」
と、凛とした声で言った。
門衛達は驚いた。ローレライ家は、古の史書にも名を残すほどの名族で、
魔王軍襲来の際は、その比類ない忠誠心でよく旧主を助け、
旧主が敗死した後も、軍をまとめて人民を災厄から守り続けた忠臣である。
しかしその忠臣も、シグナムにとっては降伏勧告を拒否し、郡県制の進行を滞らせ、
それを討伐しようにも手を出しにくいという目の上のたんこぶの様な存在だった。
そのため門衛達は、この西方で知らぬ者のいない貴族の息女に恐縮の体を見せながら、
将軍になんのご用件なのですか、と聞いてみた。
するとソフィアは、涼しい表情のまま、
「子供の頃に交わした結婚の約束を果たしに来ただけだ」
と、とんでもない事をぶちまけた。門衛達は開いた口が塞がらなかった。


113:ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第十五話 ◆AW8HpW0FVA
10/10/03 18:36:53 TDSsLryv
トゥルイが大変な事に巻き込まれそうになっている一方で、
シグナム達は件の相手の屋敷に着いて唖然としていた。
「バトゥ、……お前の選んだ相手とは、聖人君主かなにかか?」
と、シグナムが言うほど、その屋敷はオンボロだったからである。
そう言ってみてシグナムは、聖人君主は言いすぎか、強いて言うならば貧乏……いや清貧か、
などと、どうでもいい事を考え始めた。
そんな言葉遊びをしているシグナムをさらに驚かせたのは、
出迎えに来たのが、なんと当主本人だった事だ。
当主曰く、家臣どころか、使用人を雇う金がないとの事らしい。
屋敷の中に入ると、当主の言う通り、その清貧さはますます明らかになった。
所々で穴が開いていたり、壊れていたりして、本当に人が住めるのかと思うほど酷かったからだ。
応接室に案内されたシグナムとバトゥは、綿の飛び出たソファーに座って待たされた。
清貧なので、菓子どころかお茶も出ない。しばらくすると、当主が入ってきた。
「申し訳ございません。娘の着付けに時間が掛かってしまいまして。
……ほらヘカテ、入ってきなさい」
当主の声と共に、一人の女性が入ってきた。
やはり父親同様、継ぎ接ぎだらけのドレスを着ていたが、
萌黄色の長髪といい、くりっとした緑眼といい、その容姿はかなりのものだった。
「ご挨拶を」
「………………」
当主が促すが、ヘカテは一言もしゃべらず、ただ手に持っている紙になにかを書いていた。
書き上がったのか、その紙には、
「ヘカテ・ハルクラテスと申します。お初にお目に掛かります、宰相閣下」
と、書かれていた。シグナムは不快に思いながらも、
「彼女は恥かしがりなのですか?」
と、聞いた。シグナムの機嫌を損ねたと分かった当主は慌てて、
「娘は極度の無口でして、滅多に口を開かないのです。娘の無礼、お許しください」
と、宥める様に言った。ヘカテも紙に、申し訳ありません、と書いていた。
不快な気分の抜けないシグナムは、後は二人だけに、と言って退席した。その後を当主も追った。
外に出たシグナムは、追ってきた当主に対し、
「昨晩の誓い、忘れてはいないでしょうな」
と、感情を消した声で言った。当主も慌てて跪き、
「もちろんでございます、宰相閣下の命令に背くはずがございません」
と、言った。
しばらく、当主に背を向けていたシグナムは、不意に振り返り、
「バトゥとヘカテの縁組が成れば、散り散りになったあなたの家臣達も戻ってくるでしょう。
……どうか、バトゥを支えてやってもらいたい」
と、先ほどとは違い、血の通った声で言った。
当主は、目に涙を浮かばせ、頷いた。
シグナムと当主が応接室に戻ってくると、バトゥの胸に顔を埋めるヘカテの図が目に入ってきた。
バトゥはあっと驚いた様だが、ヘカテはシグナムを一瞥すると、再び胸に顔を埋めた。
「なるほど、無口ではあるが、恥かしがりではないというのはそういう訳か……」
多少呆れた様にシグナムは言った。


114: ◆AW8HpW0FVA
10/10/03 18:38:01 TDSsLryv
投稿終了です。
なんだか割り込んでしまった様なのですいません。

115: ◆AJg91T1vXs
10/10/03 18:39:08 5Pit/50Q
>>104

申し訳ない、ニアミスで投下被った……。

小一時間程自重してから、また来ますわ……。
その時は、最初から投下し直した方が良いですかね?

116:名無しさん@ピンキー
10/10/03 18:54:53 JaTOFKC8
>>115
ドンマイ
出来れば、最初からお願いします

117:名無しさん@ピンキー
10/10/03 19:08:05 Z2ehQNJT
GJ
早く次が読みたくなる
まよい蛾の作者ニアミスやけど投下楽しみにしてま

118: ◆AJg91T1vXs
10/10/03 19:36:40 5Pit/50Q
>>116
>>117

ホント、最後の最後になにやってんだか、自分。
これじゃあ、締まるところも締まらないままですな……orz


気を取り直して再投下。
今度こそ、正真正銘のラストです。



119:迷い蛾の詩 【最終部・待宵草】  ◆AJg91T1vXs
10/10/03 19:37:28 5Pit/50Q

「ま、繭香……」

「どこへ行くの、亮太君。
 私と亮太君は、ずっと一緒だって言ったよね?
 ずっと……離れないって言ったよね……」

「ごめん、繭香……。
 だけど……俺は行かなくちゃならないんだよ。
 こんな生活を繰り返していたら、それこそ取り返しがつかないことになる。
 俺も……繭香も……二人ともだ」

「どうして!?
 どうして亮太君は、私から逃げようとするの!?
 私は……私はこんなに亮太君のことが好きなのに!!
 私には……本当の私を見てくれる人は、亮太君しかいないのに!!」

「繭香……」

 色のない繭香の目から、大粒の涙が零れ落ちた。
 それを見た亮太の脳裏に、あの神社での出来事が蘇る。

 純粋すぎる程に一途な想い。
 そして、その想い故に、心の均衡を崩してしまった繭香。
 こんな状況でなければ、彼女の気持ちに素直に応えられただろう。
 が、しかし、今はそれ以上に、繭香の歪んだ心を元に戻すことを考えねばならない。

「亮太君……どうしても、行くんだね……」

 一歩ずつ、足元を踏みしめるようにして、繭香が亮太に近づいて来る。
 その手に握った包丁の切っ先を、しっかりと亮太の胸元に向けて。

「もし、亮太君が出て行くって言うなら……亮太君を殺して、私も死ぬよ……」

 じりじりと、繭香が亮太との距離を詰める。
 逃げ出そうと思えば逃げられたが、亮太はあえて、繭香がこちらに近づくのを待った。

「逃げないの、亮太君……?
 本当に……本当に殺しちゃうよ?」

 繭香の手にした包丁の先が、ついに亮太の胸まで数センチ程の距離に迫る。
 銀色の刃が亮太のシャツに触れ、胸に軽い痛みが走った。

 このまま刺せば、亮太は確実に死ぬ。
 今ここでやらねば、亮太は永遠に自分の側から消えてしまう。
 だが、そう思って刃を突き出したはずの繭香の腕は、亮太の手によってしっかりと止められていた。

「もう、止めるんだ、繭香……。
 これ以上……君は罪を重ねちゃいけない……」

「あ……」

 亮太の手が、震える繭香の手を静かに下ろす。
 力なく垂れたその手から、包丁だけをそっと奪った。


120:迷い蛾の詩 【最終部・待宵草】  ◆AJg91T1vXs
10/10/03 19:37:53 5Pit/50Q

「どうして……」

 亮太の胸元で、繭香の声が微かに震える。

「どうして亮太君は……こんなに私に優しいの……?
 私は……本当の私は……こんなに汚くて、ちっぽけなのに……」

「どうして、か……。
 それは……俺も繭香のことが、好きだからだよ」

「嘘!!
 だったら、私を拒まないで!!
 私から逃げないでよ!!
 私だけの……私だけを見てくれる亮太君でいてよ!!」

「ごめん、繭香……。
 悪いけど、それはできないよ。
 俺は繭香のことが好きだけど……だからこそ、繭香と一緒に、この世界で生きて行きたいんだ。
 あんな暗闇に閉じこもっているんじゃなくて、ちゃんと日の光の当たる場所を、二人で一緒に歩きたいんだ」

「そんなの、私は嫌だよ。
 私と本当に向き合ってくれたのは、亮太君しかいないの!!
 私には、亮太君だけがいれくれればいいの!!
 他の人の目なんて……世界なんて……私には要らないもの!!」

 一度、思いの丈を口にすると、もう止まらなかった。
 今まで抑圧してきた全てのものが、身体の奥から止め処なく溢れ出て来る。

「亮太君が私を見てくれなくなるんなら、こんな世界、壊れちゃえばいいんだ!!
 本当の私を見てくれない人しかいない世界なんて……全部無くなっちゃえばいいのに!!」

「それは違うよ、繭香……。
 確かに……今まではそうだったかもしれない。
 でも、これから先も、未来永劫そうだなんて、誰にも分からないはずだよ。
 それこそ、俺にも、繭香にもね……」

「で、でも……私は……!!」

「それに、繭香は前に言ったよな。
 俺のことを助けたい。
 俺のことを元に戻してやりたいって……」

「…………」

「だから、今度は俺が繭香の力になりたい。
 繭香が胸を張って外の世界を歩けるように、俺も精一杯協力する。
 理緒の事で、しばらくは会えなくなるかもしれないけど……俺は、いつまでも繭香を待つよ」


121:迷い蛾の詩 【最終部・待宵草】  ◆AJg91T1vXs
10/10/03 19:38:56 5Pit/50Q

「亮太君……」

「もう、こんなことは止めよう、繭香。
 俺と一緒に、外の世界に目を向けるんだ」

 亮太の手が、繭香の瞳から零れ落ちる涙を拭いた。
 その瞳は、真っ直ぐに繭香のことを見つめている。
 あの日、初めて繭香と出会った時の、一点の迷いも穢れもない真摯な眼差しで。

「そっか……。
 亮太君も、私のことを、そこまで考えてくれていたんだね……」

 ゆっくりと、肺の中の空気を吐き出すようにして、繭香が力なく呟いた。

「でも、それは無理だよ……。
 だって、私は……もう、繭の中の蛹には戻れないから……。
 それに、私には……外の光は眩しすぎるから……」

 そう言って、繭香は亮太の腕をしっかりと握り締める。
 未だ包丁を握ったままの腕を、そっと持ち上げて自分に向けた。

 陽神亮太は、自分と同じように迷っているのだと思っていた。
 だからこそ、彼を迷わせる存在を排除し、正しく自分を見てくれない亮太を癒そうと考えた。

 しかし、今日のことではっきりと分かった。
 亮太は最初から、何も迷ってなどいなかった。
 ひたすらに真っ直ぐに、自分と真摯なつき合いをしようとしていただけだ。
 ただ、その瞳に映っていたのが、繭の中に閉じ籠っていた方の繭香ではなかったというだけで。

 自分が宵の迷い蛾ならば、亮太は宵の闇を照らす灯火だ。
 赤々と燃え、闇の中で卑屈に丸くなっている蛹を、外の世界へと誘う存在。
 光に憧れる夜の虫たちを、常に魅了してやまない者。

 だが、そんな光を手に入れることは、迷い蛾である自分には決して敵わない夢だ。
 手を伸ばせば、自分の方がその身を炎に焼かれてしまう。
 永遠に届くことのない、切なく儚い虫の夢。

 恋敵を殺害し、暗闇に監禁し、最後は刃を突き付けて脅しても、亮太の心が折れることはなかった。
 自分には、最初から光を手にすることなど不可能だったのだ。
 ならば、せめて最後はその光に、身を焦がすことを承知で飛び込むしかない。

「もう……こうするしかないよね……。
 私と亮太君が、永遠に一緒になるには……こうするしか……」

 何かにとり憑かれたように、繭香はその言葉を繰り返す。
 そして、そのまま亮太の腕を押さえ、彼の手に握られたままの包丁を、自分の胸に突き立てた。


122:迷い蛾の詩 【最終部・待宵草】  ◆AJg91T1vXs
10/10/03 19:39:30 5Pit/50Q

 一瞬、何が起きたのか、亮太には分からなかった。
 包丁を持った亮太の腕を繭香が握り、それを繭香自身の胸に突き立てている。

 柔らかく、それでいて生温かい感覚が、包丁の柄を通して亮太の手に伝わった。
 それは、肉に刃がめり込む感触。
 刃の先端が突き刺さったその先から、赤い雫がゆっくりと滴り落ちてくる。

 鮮血が自分の指先を濡らした時、亮太はようやく目の前で起きたことを理解した。
 慌てて繭香の胸に刺さった包丁を引き抜こうと手をかけるが、刃は深々と彼女の胸に突き刺さったままだ。
 まるで、獲物に食らいついた鮫のように、その身体にしっかりと食い込んでいる。

「ま、繭香!!
 なにやってるんだよ!!
 いきなり……なんてことするんだよ!!」

「あはは……。
 ごめんね、亮太君……。
 でも、私にはもう……こうするしかなかったんだ……。
 こうやって、亮太君の手で殺してもらうことでしか……ずっと、一緒にいるための方法が……見つからなかったから……」

 胸元に深々と突き刺さった包丁と、止め処なく溢れだす真紅の液体。
 喉の奥からも血が昇り、繭香は思わず咳き込みながら、赤い飛沫を吐き出した。

「繭香……どうして……なんで……」

「私ね……本当は……醜い蛾なんだよ、亮太君……。
 醜い蛾が……光を求めるなんて……そんなことは……許され……ないの……」

「なに言ってるんだよ、繭香!!
 なんなんだよ、それ!!」

「だから……光と一つになるには……自分から炎に……飛び込むしかないの……。
 その身を……焼いてもらうことでしか……一つになる方法なんて……ないんだ……よ……」

「でも……だからって……こんな!!」

「亮太君……。
 私は……亮太君の心の中で……ずっと……一緒だよ……」

 だんだんと、繭香の視界がぼやけてきた。
 胸を刺した時に感じた激しい痛みも、今は殆ど感じられない。

 今ならば、迷い蛾が炎にその身を捧げる気持ちがはっきりと分かる。
 彼らは別に、無知から炎に飛び込んだわけではない。
 ましてや、衝動に駆られて自分を見失ったわけでもない。

 ずっと前から、彼らはきっと知っていたのだ。
 自分が光と一つになるには、その身を炎で焼く他にないことを。
 己の醜い姿を焼いてもらい、灰になることでしか、光を手にすることができないことを。
 焔に焼かれ、その一部になることでしか、ずっと一緒にいるための術がないことを。



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