キモ姉&キモウト小説を書こう!part32at EROPARO
キモ姉&キモウト小説を書こう!part32 - 暇つぶし2ch338:狂依存 4
10/10/14 03:25:57 Kuy5pp0N
ピンポーン
「おかえり、大輝。」
「ただいま。麻由お姉ちゃん。」
「今日は早かったんだね。」
「そりゃあね。もう部活も引退しちゃったし。」
最後の大会は、県大会一回戦負けでしたけどね……
「へへ、鞄持ってあげるね。」
何だか新婚さんみたいなやりとりだな。
「ありがとう。あの、何か手伝う事ないかな?」
「ありがと。でも別に何もないよ。家事とかは全部私に任せていいから、大輝はゆっくりしてて。」
「え?でも……」
それは流石に悪い気が……
「いいから、いいから。お母さんに大輝の面倒任されてんだし。さ、ご飯の支度しないと。今日は大輝の好きな物作ってあげるからね。」
「あ、ちょっと……」
やけに機嫌が良いな。どうしたんだろう?

「大輝。ご飯出来たよー。」
「あ、うん。」
って随分豪勢な食事だな。
本当に僕の好きな物ばっかだし……
「えへへ……大輝の為に張り切って作ったんだよ。」
「あ、ありがとう、麻由お姉ちゃん。」
何だろう……この複雑な感情は。
麻由お姉ちゃんが僕の為にこんなに頑張って豪華な食事を作ってくれたんだから、本当なら凄く嬉しい筈なのに、何故か素直に喜べない。
「じゃあ、いただきまーす。はぐ……」
「ど、どう?」
「うん!とっても美味しいよ!」
「そう?良かったああ。」
麻由お姉ちゃん、本当に嬉しそうだな。
つか、いつの間にこんなに料理上手くなったんだろう。
「へへ、あ、これも食べて。良く出来てると思うから。」
「どれどれ……うん!美味しいよ。」
「良かった!まだまだ、たくさんあるからどんどん食べてね。」
「うん。」
こんなに嬉しそうにして……
これは頑張って残さず食べないといかんな。
「……大輝。」
「ん?」
「あーん。」
「な、何?」
「私が食べさてあげる。ほら、あーんして。」
ええええええええええええ?何それ?
「で、でも、何か恥ずかしいし……」
「二人きりなんだから、恥ずかしがる事なんて何もないでしょ。はい、あーん。」
ど、どうする?
とりあえず一回だけ……
「あ、あーん……」
パク
「へへへ、どう?」
「う、うん。美味しいよ。」
「本当?じゃあもう一回。あーん。」
「あ、ありがとう!もう充分だから。ほら、早く食べちゃおう。」
「あん、もう……何回でもやってあげるのに……」
これ以上はちょっと恥ずかしくて無理っす。

339:狂依存 5
10/10/14 03:27:03 Kuy5pp0N
「ごちそうさま。とっても美味しかったよ。」
「ありがとう。あ、何か食べたいものがあったら遠慮なく言ってね。これから毎日大輝のご飯作ってあげるから。」
「え?毎日?流石に悪いよ。頑張って僕も何か作るようにするから。」
「もう、家事とかは全部私に任せて良いって言ってるでしょう。遠慮なんかしないでこき使って良いからね。」
「あ、あの、麻由お姉ちゃん。家事はやっぱりちゃんと分担してろう。麻由お姉ちゃんだって大学とか色々あるんだし……」
「ありがとう。大輝はやっぱり優しいね。でも大丈夫。私が何とか全部やっちゃうから。大学ももうあんまり授業ないし、バイトの数も減らして家事の時間取れるようにしてあるから。」
いや、それでもなあ。
何か気が引けるというか……
「それに、大輝は受験でしょ?家事なんかに時間取られて勉強の時間削るような事があったら絶対にダメだよ。」
「それはそうだけど……」
「だから、私が大輝の面倒全部見てあげるからね。」
「わかった。でも、何かあったらいつでも言ってね。手伝える事があれば何でもするから。」
「うん。ありがとう。」
何故だろう。
この麻由お姉ちゃんの笑顔が何故か少し怖く思えてきた。
こんなに僕の事を思って尽くそうとしてくれてるのに……

「ふぅ……もうこんな時間か。」
少し休憩するかな。
麻由お姉ちゃんが僕の為に、家事を全部やってくれるとまで言ってくれてるんだから、受験勉強も頑張らないと。
「でも、何でだろうなあ……」
あそこまでしようとする何て、やっぱり変だよなあ。
嬉しくない事はないんだけど……
「まあ、大変そうだったら、手伝えばいいか。」
いくらなんでも無理があるだろうから、すぐにそういう時が来るだろう、うん。
「ちょっと喉が渇いたな……」
麦茶でも飲んでくるか。
「あ、大輝。何処行くの?」
部屋を出たらすぐ麻由お姉ちゃんとバッタリ会った。
「ああ、ちょっと喉が渇いてから、麦茶でも飲もうかなって。」
「じゃあ、私が持ってくるよ。部屋で待ってて。」
「え?あ、ちょっと……」
行っちゃった……
別にそんな事までしてくれなくても良いのに。
「はい、どうぞ。」
「ありがとう。」
持ってきてくれた麦茶を一気に飲み干す。
「他に何かして欲しい事ないかな?お腹が空いたって言うなら、何か夜食でも作ってあげるし、欲しい物があるっていうなら、今からでもコンビニ行って買ってきてあげるから。」
「別に無いって。夕飯あれだけ食べたんだから、お腹も空いてないし。」
「そう……あ、何かわからない事とかあるかな?私が教えてあげるよ。」
「あ、うん。今の所大丈夫かな……」
麻由お姉ちゃんがやたらと体を近づけて、そう尋ねてきた。
何だか、凄く嫌な予感がする……
「遠慮なんかしないで……本当に何でもしてあげるから……」
「ちょっ…別に遠慮なんか……」
麻由お姉ちゃんは体を密着させ、さすってくる。
うっ…ちょっと色々ヤバイ状況な気が……
「ど、どうしたの?今日は何か変だよ?」
「別に変じゃないでしょ。大輝の面倒は全部私が見るって言ったじゃない。だから、大輝がして欲しい事は何でもしてあげるわ。」
ぎゅっ
う!後ろから抱きついて、胸を背中に押し当ててきた。
「ねえ……本当に何か私にして欲しい事はない?」
むにむに
「う……本当に無いから!だから、そんなにくっ付かないで……」
「そう……」
そう言うと一旦僕から離れる。
でも、また体を近づけてきた。
どうしよう?
何とか麻由お姉ちゃんを部屋から出さないと。

340:狂依存 6
10/10/14 03:33:41 Kuy5pp0N
「あ、あの今日はもう遅いから、寝ようと思うんだ。だから、もう良いよ。」
「………」
「あっ、これ片付けてくるね。じゃあ……」
ガシっ
「な、何……?」
「大輝……」
「え……?」
がばっ!
麻由お姉ちゃんはいきなり僕を押し倒してきた。
ちょっ……一体何を……
「大輝……好きよ。愛してるわ……」
「ええ?ちょっと、いきなりどうしたの!?」
あ、愛してるって……
まさか……
「どうしたも何も、言葉通りの意味よ。私は大輝の事が好きなの。弟してはもちろんだけど、それ以上に一人の男性として……」
ちゅっ、ちゅっ……
頬にキスして、そう告白してきた。
す、好きって……僕の事を?
麻由お姉ちゃんが?
信じられない……
「えと……本気?」
「もちろんよ。だから私と付き合って。そしたら死ぬまで大輝の傍にいて、あなたに尽くしてあげる。本当よ。何でも言う事聞いてあげるし、どんな事でもするわ。」
そ、そんな事急に言われても……
麻由「これでも、まだ信じられない……?」
そう言うと麻由お姉ちゃんは自ら胸元をはだけて、乳房を露にする。
「(これが、麻由お姉ちゃんのおっぱい……)」
大きくて、適度に張りがあって、乳首の大きさも丁度良くて、均整の取れた本当に美しい形をしている。
今までエッチな本や、DVDで見てきたこれ程の物は見たことがない。
「(って!そうじゃないだろ!)」
実の姉が弟にこんな事してくるなんて……
「大輝……昔はあなたにあんなに酷い事しちゃって本当にごめんね。だから、今更あなたの事が好きだって、言われてもすぐには信じてくれないかもしれない。でも今は本気なの。本当にあなたの事愛してるのよ。」
「麻由お姉ちゃん……」
あんなに酷い事って……
どう考えても、麻由お姉ちゃんは何も悪くない。
僕が無神経に麻由お姉ちゃんにベタベタくっ付いたり、変な事言って怒らせていたのだから、むしろ謝らなければいけないのはこっちの方だ。
第一、麻由お姉ちゃんに怒った事なんて一度もないし、実際に少しも恨んだ事もない。
麻由お姉ちゃんを嫌いになった事なんて一瞬だってないよ。
なのに、何で謝るの?
「あの……子供の頃の事だったら、謝らなければいけないのは僕の方だよ。本当にごめんね……許してくれなんて言わないけど本当に悪かったと思ってるから……」
「大輝……ありがとう。やっぱり優しいのね。」
「う、うん……だから……」
「だから、今度は大輝のして欲しい事何でもしてあげる。あの時のお返しにどんな事だってしてあげるよ。大輝は優しいからそう言ってくれるんだろうけど、私はその優しさに甘えたりしないから……」
えええええええ?何でそうなるの?
「大輝……愛してるわ……だから、私の事抱いて……あなたも私の事愛して……」
「麻由お姉ちゃん……」
どうしよう?
麻由お姉ちゃん本気みたいだぞ……
麻由お姉ちゃんの事は大好きだ。
それは生まれた時から今まですっと変らない。
子供の頃は好き過ぎて色々迷惑をかけてしまったぐらいだ。
だから、もう二度とあんな事して迷惑かけたりしないって固く誓った。
ちゃんと家族として姉弟として接していこうって……
でも形はどうあれ、麻由お姉ちゃんの事が好きな気持ちは昔と変らない。
でも、やっぱり実の姉弟で大切な家族でもあるし……
「(どうする……?)」


341:狂依存 7
10/10/14 03:37:39 Kuy5pp0N
そうだよな……
気持ちは本当に嬉しいけど、やっぱり姉弟で家族でそういう関係になるのはよくないよね。
だから……
「あ、あの……麻由お姉ちゃん……僕も麻由お姉ちゃんの事は大好きだよ……でもそれは、その、姉弟してというか家族としてというか……」
「………」
「だから、麻由お姉ちゃんの事、今では一人の女性としてとかそういう目では見れないんだ。だから……」
「ごめんなさい。」
「………」
言っちゃた……
やっぱり怒ってるかな……?
うう、これからちょっと気まずくなるかも……
「そう……」
麻由お姉ちゃん……
「姉弟だから、何なの?」
「え?」
何を言ってるんだ?
「私達は姉弟とか家族である前に、年頃の男と女よ。だから愛し合うことに何の問題もないはずよ。」
ええ!?
「いや、だから、それは……」
むにゅっ
「ほら、お姉ちゃんのおっぱいどう?柔らかくて気持ちいい?このおっぱい、大輝の好きにしていいのよ。ほらほら……」
むにむに
うっ!
麻由お姉ちゃんが僕の手を胸に押し付け、揉んでくる。
柔らかくて気持ちいい……
「ふふふ……もっと間近で見せてあげるね……」
「ちょっと、麻由お姉ちゃん……」
そう言うと体を倒して、僕の顔に胸をうずませる。
「う……」
麻由「どう?気持ちいい?ふふふ……しゃぶってもいいのよ……私のおっぱい好きなようにしていいから……」
うう……これは、ヤバイ……
このまま本当に、麻由お姉ちゃんと……
いやっ!駄目だ!
このまま、流されて関係を持ったら取り返しのつかない事になる気がする。
早く止めさせないと……
「麻由お姉ちゃん。もう、いいから。本当に止めて……」
「あら。本当は凄く気持ちいいんでしょ?だって……」
ずるっ……
「大輝のおちん○んはこんなに勃ってるじゃない……」
「そ、それは……!」
僕のズボンとパンツを下ろして、肉棒を露にする。
そりゃあ、あんな事されたら誰だって反応しちゃうよ……
「わかったでしょ?私達は男と女なの。姉のおっぱいでもこんなに興奮して欲情してるじゃない。姉弟だろうが何だろうが私達は愛し合えるのよ。」
「そ、それでも……」
はち切れそうな欲情を懸命に抑え、何とか耐える。
麻由お姉ちゃんの事は大好きだけど、今の麻由お姉ちゃんは何か変だ。
このまま流されたら大変な事になる……
「まだ素直になれないの?仕方ないわね……」
麻由お姉ちゃんは、スカートとショーツを脱ぎ、下半身を露にすると股間に肉棒を押し付けてきた。
「何を……」
「これで、気持ちよくしてあげるね。ん……」
「ちょっ……やめっ……!」
麻由お姉ちゃんは、肉棒を性器に押し付け、擦り始めた。
これって素股ってやつだよな……
「ん……んく……ふふ…どう?んっ……」
「どうって言われても……」
正直に言えば凄く気持ちいい。
肉棒が麻由お姉ちゃんの柔らかい肌と肉唇に擦れて、今までに経験したことの無い快楽に襲われる。

342:狂依存 8 
10/10/14 03:40:23 Kuy5pp0N
「こんなにおちん○んビクビクさせて……気持ちいいんでしょ?お姉ちゃんのおま○こに入れたいんでしょ?」
入れたい。
でも、ダメだ。
それをやったら引き返せなくなる。
「ん……んふ……さあ、入れて下さいって言いなさい。それとも自分で入れる?好きなのを選んでいいわよ……」
「ダメだよ……早くどいて…」
襲い来る快楽をぐっとこらえて、拒否する。
そうしてる間にも麻由お姉ちゃんは太腿に肉棒を擦りつけ、肉棒にさらに刺激を与える。
「そう……ならこのままイキなさい。」
「ふんっ!……ん!んく……んっ……!」
麻由お姉ちゃんは肉棒を擦り付けるスピードを一気に速め、僕をイカせようとする。
姉がもたらす魔の快楽に、肉棒は一気に爆発寸前に陥る。
「んっ!んふ……ん…気持ちいい?入れて欲しい?ん……だったら私を押し倒して自分で入れなさい。私の気持ちはもう決まってる。後はあなたが決めるのよ。」
あくまでも最後の一線を超えるかは、僕自身に決めさせるという事か。
「早く、どいてよ……僕達は姉弟なんだから……」
理性を振り絞って拒否する。
ここで折れる訳にはいかない……
「んっ……んく……うんっ……ふふ……私も気持ちよくなってきたわ……ん…」
僕の言う事をまるで聞こえていないかのように無視し、あくまで素股を続けてくる。
どうしてそこまでして……
「ん……んふっ……んっ…さあ、出して……大輝の精液、お姉ちゃんにいっぱいかけてえ……」
もう肉棒は爆発寸前だ。
このままだとイっちゃう……
「んっ……うんっ……さあ、早く出しなさい……んっ……」
麻由お姉ちゃんはますます擦り付けるスピードを上げてイカせようとする。
クリトリスに肉棒が擦れ合う時の感触がとても気持ち良い……
「……ん、んく……ん、ほら……ほらっ!ん……ふふふ……」
「(う……出る……)」
どぴゅっっっ!どぴゅるるるっっっ!!!
遂に絶頂に達し、麻由お姉ちゃんの体に精液が思いっきりかけられる。
ああ……麻由お姉ちゃんを汚しちゃった……
「ん……ふふふ……これが大輝の精液なのね……ふふ……ん、んちゅっ……」
麻由お姉ちゃんは嬉しそうに体に付着した精液を眺め、指で拭い舐める。
こんな事して、そんなに嬉しいの?
「あの……ゴメンね…その、汚しちゃって……」
「ふふふ……本当に嬉しいわ……私で気持ちよくなってくれて。出来れば私のおま○この中で気持ちよくなてなって欲しかったけど……」
また、僕の言ったことを無視して……
どうして聞こえない振りをするの?
「もう、いいよね?早くどいてくれよ!」
そういうと、ようやく麻由お姉ちゃんは僕から離れた。
「大輝……どうして私があなたのおち○ちんを私の中に入れなかったのかわかる?」
「あの態勢なら入れようと思えばすぐ入れられたわ。でも大輝の意思を無視して入れたら只の強姦と変らない。だから、最後はあなたに決めて欲しかったのよ。」
「麻由お姉ちゃん……」
あくまで僕の意思を尊重するという事だろうか?
「それに……私の処女とファーストキスは大輝の意思で奪って欲しいの。キスは頬にはしたけど口にはしてないでしょ。」
そういえばそうだったな……
「だから、私の初めてのキスと処女を欲しかったら、いつでも奪いに来て。寝こみを襲ってくれても構わないわ。生理中でも遠慮なんかしなくていい。欲望の赴くままに私を犯して。楽しみに待っているから……」
麻由お姉ちゃん……
「それじゃあお休みなさい。ふふふ……」
バタン

……


343:名無しさん@ピンキー
10/10/14 03:41:37 Kuy5pp0N
とりあえず以上です。
続きは、いつになるかわかりませんが

344:名無しさん@ピンキー
10/10/14 09:01:40 S86ALPwT
>>343
GJじゃないか・・・
初めての投下らしいけどしっかり堪能させていただきました

345:名無しさん@ピンキー
10/10/14 16:52:52 lI1MJ+JP


346:名無しさん@ピンキー
10/10/14 16:56:56 zceh2rLp
これはいいキモ姉GJ!

しかしお姉ちゃんの数年間にナニがあったのか…

347:名無しさん@ピンキー
10/10/14 19:46:06 rtkhrODs
GJ
しかしなんという劇的ビフォーアフター
弟を軽く上回るとは

348:名無しさん@ピンキー
10/10/15 00:42:11 py/jgT3f
お姉ちゃん別人じゃねーか
くそっ、家の姉とは大違いだぜ

349:名無しさん@ピンキー
10/10/15 11:04:48 0zEdSTQn
GJ
弟の成長?がこれから姉のキモさを際立ててる

350:名無しさん@ピンキー
10/10/15 18:52:34 W1oVMg0S


351:名無しさん@ピンキー
10/10/15 22:39:22 W1oVMg0S


352:三つの鎖 28 後編 ◆tgTIsAaCTij7
10/10/15 23:49:56 mebDjS4t
三つの鎖 28 後編です
※以下注意
流血あり
エロ無し

投下します

353:三つの鎖 28 後編 ◆tgTIsAaCTij7
10/10/15 23:50:55 mebDjS4t
 膝をつき苦しそうに私を見上げるお兄さん。わき腹を押さえる手から手が流れ床にこぼれる。
 「何でですか。何で私を捨てるのですか」
 私の声は震えていた。
 「私を捨てるのでしたら、何で私と付き合ったのですか」
 視界がにじむ。
 お兄さんと過ごした日々が脳裏に浮かぶ。
 学校でお昼ご飯を食べた。私はお料理が下手で作れるのがカレーしかないけど、お兄さんは私のカレーのお弁当を食べてくれた。おいしいって言ってくれた。
 放課後、二人で帰った。恥ずかしそうに私の手を握るお兄さんが可愛かった。嬉しかった。
 帰り道、よく寄り道した。ソフトクリームを買って、公園で他愛もない事を話した。
 二人でスーパーで買い物した。いつも一人で食材を買っていたから、楽しかった。
 私の部屋で抱いてくれた。優しく、時に激しく抱いてくれた。
 家でお兄さんがお料理してくれた。いつもカレーばかりの私を心配して、栄養のあるご飯を作ってくれた。洗濯してくれた。お掃除してくれた。
 お兄さんは時々意地悪だった。困る私を楽しそうに見つめた。でも、それも嬉しかった。
 幸せだった。お父さんもお母さんも滅多に帰って来ない家でも、お兄さんがいてくれるだけで温かかった。
 お兄さんが帰っても、寂しくなかった。例え傍にいなくても、お兄さんは私の事を想ってくれていると知っていたから。
 そんな日々は、もう帰って来ない。
 「私、お兄さんの事を好きです。愛しています。お兄さんが望むなら何でもします。お兄さんの好みの女の子になります。それなのに、私を捨てるんですね」
 お兄さんはきっと髪の長い女の子が好きだから、伸ばした。まだ肩に届くぐらいだけど、お兄さんがほめてくれるのが嬉しかった。
 分かっていた。お兄さん好みの女の子になるのは無理だって。
 ハル先輩や、梓みたいな女の子になるのは無理だって。
 涙がとめどなく溢れ頬を伝い足元に落ちる。
 荒い息をつきながらお兄さんは立ち上がった。
 こんな状況なのに、信じられないぐらい落ち着いた眼差しで私を見つめる。
 その眼差しに、胸が痛くなる。
 やっぱり、私はお兄さんに恋している。
 だからこそ我慢できない。
 私とお兄さんが、他人になるのが。
 お兄さんの傍に、私以外の女の人がいるのが。
 「お兄さん。好きです。愛しています」
 私は包丁を持ったままお兄さんに向って走った。
 包丁がお兄さんに突き刺さる寸前、お兄さんの右手が包丁の刃を握り締める。その手は血まみれだった。
 お兄さんは傷口を押さえていた手で包丁を押さえていた。
 「夏美ちゃん」
 お兄さんの声はこんな状況でも落ち着いていた。さっきみたいに苦しそうな息遣いはもう聞こえてこない。
 私はお兄さんの手を振りほどこうとしたけど、万力のようにお兄さんの手は動かない。包丁の刃を掴むお兄さんの手から、血が滴り落ちる。
 「これを受け取って欲しい」
 お兄さんはあいている手をポケットに入れ、何かを取り出し私に差し出した。
 小さな白い箱。お兄さんは器用に片手で箱を開けた。
 蓋が開き、箱の中が露わになる。
 そこには二つの指輪が入っていた。
 シンプルな銀の指輪。小さいサイズと大きいサイズが一つずつ。
 私は呆然とお兄さんを見上げた。
 お兄さんは真剣な表情で私を見下ろした。
 「夏美ちゃん。僕と結婚してほしい」
 お兄さんの言っていることが分からなかった。
 言葉は聞こえるのに、意味が理解できない。
 「僕なりに考えた。夏美ちゃんがどうすれば僕を信じてくれるか。僕は馬鹿だから、これ以外の方法を思いつかなかった」
 お兄さんは淡々と言葉を紡ぐ。
 でも、その裏で必死になっているのが分かる。
 「残りの僕の人生を、全て夏美ちゃんに捧げる。一生傍にいる」
 私の目の前に箱が差し出される。
 白い箱の中で、銀色の指輪が鈍い光を放っている。
 包丁から血が床に落ちる。お兄さんは包丁の刃を握っているから手が切れているはずなのに、その痛みを感じさせない真剣な表情で私を見つめる。
 「好きだ。愛している。誰よりも夏美ちゃんを愛している。今は頼りない僕だけど、必ず夏美ちゃんを幸せにできる男になる」
 お兄さんは息を吸い込んで口を開いた。
 「だから、僕の傍にいて」
 私、馬鹿だ。
 本当に馬鹿だ。
 何でだろう。何でお兄さんを疑ったりしたのだろう。
 お兄さんはそんな人じゃないのに。

354:三つの鎖 28 後編 ◆tgTIsAaCTij7
10/10/15 23:51:50 mebDjS4t
 誠実で、優しい人なのに。
 包丁を握り締める手が震える。
 「受け取って欲しい」
 包丁を柄を握り締める両手を離して、指輪の入った白い箱を受け取ろうとした。
 手が箱に触れる直前で私は固まった。
 私の手は、血で真っ赤だった。
 お兄さんの血でべとべとだった。
 白い箱を私に差し出すお兄さんの手に血はついていないのに。
 お兄さんの手から包丁が落ちる。血だまりの中に落ちて、乾いた音を立てる。
 「あ、ああ、わ、わたし」
 私、なんて事を。
 涙でにじむ視界でもはっきり分かる。
 両手が、お兄さんの血で真っ赤なのが。
 この手じゃ、指輪を受け取れない。
 「左手を出して」
 お兄さんはそう言って箱を私の机の上に置いた。
 そのまま箱を持っていた手で小さいサイズの指輪を取り出す。
 私は言われるままに震える左手を差し出した。
 お兄さんは、私の左手の薬指に指輪をはめた。
 血に濡れた私の手で、銀の指輪が鈍い光を放つ。
 「これで夏美ちゃんは僕のものだ」
 お兄さんはもう一つの指輪を取り出し、私の手に握らせた。
 「僕に指輪をはめて欲しい」
 私は震える手でお兄さんの左手の薬指に指輪をはめる。
 血についていなかったお兄さんの左手が、指輪とともに血で濡れる。
 それでも、指輪は鈍い光を放っていた。
 「これで僕は夏美ちゃんのものだ」
 そう言って、お兄さんは私の両手を握りしめた。
 私の手はお兄さんの血で濡れているのに、握ってくれた。
 血まみれの私の手を握るお兄さん。
 「愛している」
 真剣な表情。綺麗な瞳が私を見つめる。
 その眼差しに、醜い感情が全て融けていく。
 私はお兄さんに抱きついた。
 「ごめんなさい。私、どうかしていました」
 「よかった」
 お兄さんは安心したように微笑んだ。真っ青な顔色。
 今、この瞬間も血が流れて床に落ちる。
 「お、お兄さん、その、救急車を」
 「慌てなくても大丈夫。出血はひどいけど、たいした怪我じゃない」
 お兄さんがそう言った時、外で何かを叩く音が聞こえた。
 『幸一君!!いるのか!?』
 聞き覚えのある男の人の声。
 続いてドアが開く音と共に複数の足音が近づいてくる。
 部屋の扉が開きスーツの男女が入ってきた。
 見覚えのある二人。学校でお世話になった刑事さん。
 二人は部屋を見て表情を変える。淀みない動きで素早く銃を抜き、私につきつける。
 「幸一くんから離れろ」
 抑揚のない声で男の人が告げる。
 お兄さんは立ち上がり、拳銃から庇うように私の前に立った。
 「やめてください。夏美ちゃんは関係ありません」
 視線を交わす刑事さん。素早く拳銃を懐にしまう。
 「すまない。幸一君。怪我は大丈夫かい」
 男の人がお兄さんの傷口を確認する。
 「出血は派手ですが、たいした事ありません」
 男の人はお兄さんの言葉には答えずに部屋を見回した。次に私の手を見つめる。血に濡れた私の手を。
 女の人も私を見つめる。犯人を見つめる刑事の目。
 「西原。中村さんを署にお連れしろ。私は幸一君を病院に連れていく」
 「分かりました。中村さん。申し訳ないけど、署まで来てくれる。何があったか聞かせてちょうだい」
 お兄さんは西原さんに向き合った。

355:三つの鎖 28 後編 ◆tgTIsAaCTij7
10/10/15 23:52:50 mebDjS4t
 「岡田さん。夏美ちゃんを署に連れていく必要はありません」
 お兄さんが私に視線を向ける。その瞳が伝える。何も言わないでと。
 男の人、岡田さんは無表情にお兄さんを見つめた。
 「詳しい話は治療の後に聞く」
 「僕が誤って怪我をしただけです。彼女は関係ありません」
 女の人、西原さんがお兄さんの手を掴んだ。
 「幸一君。何があったかを聞くだけよ。任意同行じゃないし、尋問するわけでもないわ」
 お兄さんは首を横に振った。
 岡田さんは無表情にお兄さんを睨んだ。
 「幸一君。もしやましい点が無いなら、中村さんからお話を伺うのに不都合は無いはずだ。それなのにそこまで拒否するのは、何かあったのかと勘繰ってしまう。不幸な勘違いをなくすためにも、中村さんを落ち着ける場所にお連れして話を伺うのは必要だ」
 お兄さんは落ち着いた態度で岡田さんの方を振り向いた。
 「夏美ちゃんは僕の不注意で怪我をした僕を必死に応急処置してくれただけです」
 「幸一君」
 西原さんが困ったようにお兄さんに声をかける。
 「僕は今日、夏美ちゃんに求婚しました」
 思わず顔を合わせる刑事さん二人。
 「夏美ちゃんは承諾してくれました。僕の婚約者は、誤って包丁で怪我した僕を応急処置してくれた。それだけです。ですから夏美ちゃんを署に連れていく必要はありません」
 「あー、幸一君」
 岡田さんが困ったようにお兄さんを見る。
 「出血が多すぎるようだ。早く病院に行こう」
 「…別に幻覚を見た訳じゃないです」
 西原さんは私を見つめた。
 「村田さん。幸一くんの話した事は本当なの」
 私が答える前にお兄さんが口を開いた。
 「本当です。証拠に、僕も夏美ちゃんも婚約指輪をつけました」
 刑事さん二人の視線が私とお兄さんの左手に集まる。
 「僕の怪我は、僕の不注意です。夏美ちゃんは関係ありません」
 傷口を押さえ、額に汗を浮かべても、お兄さんの声は微塵も震えていなかった。
 刑事さん二人は顔を合わせ、やあって岡田さんは口を開いた。
 「…分かった。怪我をしたなら婚約者の付き添いがあった方が安心するだろう。中村さん。幸一君に付き添ってもらえますか」
 「は、はい」
 ふらつくお兄さんを私は支えた。

 病院の待合室で、私はお兄さんの治療が終わるのを待っていた。
 私は、なんて事をしてしまったのだろう。
 お兄さんを、刺した。
 この手で、刺した。
 私の手に、お兄さんを刺した時の感触が今でも残っている。
 「中村さん」
 顔をあげると、岡田さんと西原さんがいた。
 「幸一君の怪我は大した事ないです。数針縫う程度だから安心してください」
 私はほっとした。
 「いくつかおたずねしたい事があります。あ、いえ、包丁が刺さった状況じゃないです。あれは幸一君の言うとおり、幸一君の不注意が原因です。伺いたいのは、幸一君がプロポーズしたのは本当かどうかです」
 「本当です」
 私は正直に答えた。
 「では中村さんが承諾したのも本当ですか」
 今更になって何があったかを理解した。
 お兄さんは、私にプロポーズしてくれたんだ。
 結婚してって言ってくれたんだ。
 私は、それを受けたんだ。
 嬉しさと恥ずかしさに頬が熱くなる。
 「…はい。受け入れました」
 顔を合わせる刑事さん二人。
 困ったような表情を浮かべる岡田さんに、西原さんは軽く咳払いした。そして西原さんはにっこりと笑った。
 「婚約、おめでとうございます」
 「…ありがとうございます」
 何だか不思議な感覚。他の人からの祝福が、何だかくすぐったい。
 複雑そうな表情をしている岡田さん。西原さんが岡田さんのわき腹を肘でつつくと、慌てたように口を開いた。
 「あ、いえ、婚約おめでとうございます」
 「ありがとうございます」

356:三つの鎖 28 後編 ◆tgTIsAaCTij7
10/10/15 23:53:33 mebDjS4t
 そんな事を話していると、見覚えのある男の人が近づいてきた。
 お兄さんのお父さん。片手に紙袋を持っている。
 「岡田君。息子はどうだ?」
 あくまでも冷静な声で尋ねるおじさん。
 「大した事ありません。数針縫う程度です」
 「そうか。息子が迷惑をかけた」
 そう言って頭を下げるおじさん。
 「中村さんも、息子が迷惑をおかけしました」
 「え、あ、その」
 何て言えばいいのだろう。その、私が刺したわけだし。
 「お父さん。夏美ちゃんが困っているよ」
 聞き覚えのある声。
 「お兄さん!!」
 兄さんがゆっくりとした足取りで近づいてきた。
 私はお兄さんにそっと抱きついた。
 「その、大丈夫ですか」
 「大丈夫」
 そう言ってお兄さんは微笑んだ。力強い笑顔。
 「幸一。怪我はどうだ」
 「大丈夫」
 会話する親子。
 「迷惑をかけた人にちゃんと挨拶をしなさい」
 お兄さんは岡田さんと西原さんにも頭を下げた。
 「ご迷惑をおかけしてすいませんでした」
 顔を見合わせる二人。やあって西原さんは口を開いた。
 「幸一君。それよりもお父上にご報告することがあるんじゃないかしら」
 微かに眉をひそめるおじさん。
 「お父さん。紹介するよ」
 「中村さんとは既に知り合いだ」
 「改めて紹介するよ。僕の婚約者の中村夏美さん」
 沈黙するおじさん。黙ってお兄さんを睨みつけるように見ている。
 お兄さんはその視線を平然と受け止めている。
 「え、えっと、その、ご紹介にあずかりました中村夏美です」
 「今日、結婚を申し込んだ。事後報告でごめん」
 お兄さんの言葉におじさんは天井を仰いだ。
 「幸一。本気か」
 「本気だ」
 「まだ高校生というのを理解しているか」
 「正式な結婚は就職してからにする」
 おじさんはお兄さんの顔をまっすぐに見た。
 「事件の被害者だから、同情で結婚するのか」
 慌てたように顔を合わせる岡田さんと西原さん。
 「もしそうなら、婚約を許すわけにはいけない」
 「違う」
 お兄さんは否定した。力強い言葉。
 「夏美ちゃんとずっと一緒にいたいと思ったから、プロポーズした。同情とかは一切無い」
 にらみ合う親子。
 しばらくして、おじさんは私の方を向いた。
 「中村さん」
 「は、はい」
 私はすごく緊張していた。
 おじさんの表情は無表情だけど、痛いぐらいに真剣な気持ちが伝わってくる。
 「ご存知の通り、息子は単純で世間知らずで考えの浅い男です。この年で結婚を申し込む時点でそれを証明しています。こんな馬鹿息子ですが、よろしくお願いします」
 「いえ。それは違います」
 自然と言葉が出た。
 「幸一さんは優しくて思慮深い人です。結婚を申し込んでくれたのも、私の事を考えての事です」
 私を無表情に見下ろすおじさん。
 「私は、幸一さんがプロポーズしてくれたのを嬉しく、誇りに思います」
 おじさんは微かにほほ笑んだ。お兄さんの面影が、確かにあった。
 「息子をよろしくお願いします」

357:三つの鎖 28 後編 ◆tgTIsAaCTij7
10/10/15 23:54:50 mebDjS4t
 おじさんはそう言ってお兄さんの方を向いた。
 「幸一にはもったいない女性だ」
 お兄さんは頬を染めてそっぽを向いた。そして視線だけを私に向ける。
 「夏美ちゃん」
 「はい」
 「もう一回言って欲しい」
 「えっと、何をですか」
 恥ずかしそうにうつむくお兄さん。その姿が、何だか妙に可愛い。
 「その、もう一回、名前を呼んで欲しい」
 「名前、ですか?」
 「初めてだ」
 「?」
 「初めて、夏美ちゃんが僕の名前を言ってくれた」
 そう言えば、お兄さんの下の名前を口にしたのは初めてかもしれない。
 顔が熱くなる。
 「い、言いますね」
 「うん」
 「こ、ここ、幸一、さん」
 「うん」
 嬉しそうに頷くお兄さん。
 うわっ。すごく恥ずかしい。ただ単に名前を口にしただけなのに。
 「こ、幸一さん」
 「うん」
 「幸一さん」
 「うん」
 西原さんは咳払いした。
 「とりあえず出ませんか。中村さんも着替えないといけませんし」
 そう言えば、私の上着は血が結構ついている。
 お兄さんの上着も血がついている。
 西原さんが落ち着いた様子で口を開いた。
 「加原さん。とりあえず、中村さんを家に送ってから幸一君を家に送ります。二人ともこの格好だと表を歩けませんし」
 おじさんは手にある紙袋をお兄さんに渡した。
 「着替えが入っている。中村さんの家の掃除を手伝ってから帰る様に。西原。手間をかけてすまないが、二人を中村さんのお住まいまで頼む」
 「分かりました」
 「岡田君はどうする?私は今から署に戻るが」
 「僕も加原さんと一緒に帰ります」
 挨拶もそこそこに岡田さんとおじさんは去っていった。
 「行くわよ」
 歩く西原さんに私とお兄さんはついて行った。

 西原さんは車でマンションまで送ってくれた。
 「ありがとうございます」
 「どういたしまして」
 お礼を言う私とお兄さんに、西原さんは微笑んだ。
 「夏美ちゃん。しっかりと旦那の手綱を握っていないと駄目よ。男って単純だからね。すぐに落ち込むし、弱気になるから」
 そう言って西原さんは左手を掲げた。その薬指には指輪が鈍い光を放っている。
 「お互い頑張ろうね」
 西原さんは笑いながら去っていった。
 二人きり。何だか気恥ずかしい。
 「行こう」
 そう言ってお兄さんは私の手を握ってくれた。
 大きくて温かい手。二人で並んでマンションの階段を上る。
 私の部屋は凄惨な状況だった。
 床に赤黒い汚れ。お兄さんの血。
 私が、お兄さんを刺したから。
 心臓の動悸が激しくなる。寒くないのに体が震える。
 私、なんて事を。
 「夏美ちゃん」
 お兄さんは私の手をしっかりと握ってくれた。
 「気にしないで。夏美ちゃんは悪くない」

358:三つの鎖 28 後編 ◆tgTIsAaCTij7
10/10/15 23:55:21 mebDjS4t
 「で、でも」
 お兄さんは私を抱きしめた。
 温かくて逞しいお兄さんの腕の中。お兄さんの心臓の鼓動を微かに感じる。
 「夏美ちゃんは疲れていただけだ。悪い夢を見ていただけ」
 お兄さんの落ち着いた声が、私の心にしみこむ。
 「リビングに行こう」
 そう言ってお兄さんは私の手を引いて部屋を出た。

 ふと眼を覚ますと、私はリビングのソファーで寝ていた。
 電気の消えたリビング。体を起こすと、タオルケットをかけられていることに気がついた。
 病院から帰ってきて、リビングでお兄さんにもたれかかっていて。
 そこから記憶が無い。いつの間にか寝てしまったようだ。お兄さんはどこにいったのだろう。
 外はもう暗い。何時だろう。
 リビングの電気をつける。既に遅い時間。
 「夏美ちゃん?起きた?」
 お兄さんがリビングに入ってきた。
 「ごめんなさい。寝てしまったみたいで」
 「気にしないで。夏美ちゃんの寝顔、可愛かった」
 そう言ってほほ笑むお兄さん。
 お兄さんに寝顔を見られたんだ。恥ずかしさに頬が熱くなる。
 「ご飯作ったけど、お腹すいてる?」
 正直、あまりすいていない。お兄さんを刺した後で、食事をとる気にはなれなかった。
 「気が向いたら食べて」
 私の表情から察したのか、お兄さんはそう言ってくれた。
 「いえ、いただきます」
 「いいの?」
 「少しでも食べないと、体が持たないです」
 考えたら、今日は何も食べていない。
 「分かった。ちょっと待ってね」
 そう言ってお兄さんはキッチンに消えた。
 私は顔を洗おうとお風呂場に入った。鏡を見ると、服に血がついていない。気がつけばお兄さんを刺した時とは別の服になっている。
 お兄さん、着替えさせてくれたんだ。
 私は顔を洗って自分の部屋の前に立った。深呼吸して部屋に入り明かりをつける。
 明るくなった部屋に、赤黒い染みは無かった。
 私は呆然と立ち尽くした。どうなっているのだろう。
 寝ている間にお兄さんがお掃除してくれたのだろうか。
 リビングに戻ると、おいしそうなカレーの匂いが漂ってくる。
 「夏美ちゃん。できたよ」
 「ありがとうございます。あの、もしかして私を着替えさせてくれましたか?」
 お兄さんは申し訳なさそうな顔をした。
 「うん。勝手に着替えさせてごめん」
 「いえ、ありがとうございます。あと、私の部屋をお掃除してくれましたか?」
 お兄さんは黙って頷いた。
 恥ずかしさと申し訳なさにお兄さんを直視できない。
 怪我をしているお兄さんにお掃除までさせて。私、何をしているのだろう。
 「その、本当にすいません」
 頭に温かい感触。
 お兄さんが私の頭をそっとなでる。
 「気にしないで」
 そう言ってお兄さんは微笑んだ。
 「さ。冷める前にどうぞ」
 おいしそうなカレー。お兄さんがカレーを作ってくれたのは、お父さんのお葬式以来だ。
 私は椅子に座り手を合わせた。
 「いただきます」
 私はスプーンを手に一口食べた。おいしい。
 「どう?」
 「おいしいです」
 私の一言に嬉しそうに微笑むお兄さん。その笑顔に頬が熱くなる。
 誤魔化すようにカレーをもう一口食べようとして、背筋が寒くなった。
 スプーンを通して伝わる感触。多分、牛肉の角切り。

359:三つの鎖 28 後編 ◆tgTIsAaCTij7
10/10/15 23:56:26 mebDjS4t
 その感触が、お兄さんを刺した時の感触と同じだった。
 かちかちと音がする。握ったスプーンが震え、お皿とぶつかっている。
 「夏美ちゃん?」
 心配そうに私を見るお兄さん。
 私、お兄さんを。
 この手で、刺して。
 たくさん血が流れて。
 鋭い頭痛。歪む視界。込み上げる吐き気。
 「夏美ちゃん!!」
 お兄さんの声が、遠い。
 気がつけば私は椅子から転げ落ちて床にうずくまっていた。
 耐えがたい頭痛と吐き気。食べたばかりのカレーと胃液が込み上げてくる。耐えきれずに私はもどした。
 せっかくお兄さんが作ってくれたのに。
 乱れる思考の中で、明確な言葉になったのはそれだけ。
 気がつけば私はお兄さんに抱きかかえられていた。
 「夏美ちゃん!?しっかりして!!」
 吐しゃ物に汚れるのにも関わらず、お兄さんは私を抱きかかえてくれた。
 「あ、だめ、です」
 私はお兄さんの両肩を押そうとした。手に力が入らない。
 「だめ、です。よごれ、ます」
 悪いのは私なのに、お兄さんが汚れるなんて耐えられない。
 それなのにお兄さんは私を抱きしめる。
 お兄さんの温かい腕に抱かれ、徐々に意識がはっきりしてくる。それと共に、微かに嗚咽が聞こえてくる。
 「おにい、さん?」
 お兄さんの顔が見えないからよく分からないけど、お兄さんは泣いていた。
 「…ごめん」
 何でお兄さんが謝るのか、分からない。
 悪いのは私なのに。
 お兄さんを刺したのは、私なのに。
 私はお兄さんの背中に腕をまわして抱きしめた。お兄さんはびくりと震えた。
 「お兄さんは、悪くないです」
 私の言葉に、お兄さんは何も答えない。
 ただ、静かに泣きながら私を抱きしめるだけ。


投下終わりです。
読んでくださった方に感謝いたします。
ありがとうございました。
HPで登場人物の人気投票を行っていますので、よろしければご協力お願いいたします。
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360:名無しさん@ピンキー
10/10/16 00:24:01 LX0Ts3XF
( *`ω´)

361:名無しさん@ピンキー
10/10/16 00:32:51 QXdvwR3w
GJ!
幸一に死亡フラグが立ちました

362:名無しさん@ピンキー
10/10/16 00:40:29 y4ck0maH
GJ
幸一死にますね、これは

363:名無しさん@ピンキー
10/10/16 01:42:35 hURGnWym
乙…幸一 good luck………

364:名無しさん@ピンキー
10/10/16 02:31:21 zNcPoRYb
乙~
なんか一気に追悼ムードでわろた


365:名無しさん@ピンキー
10/10/16 03:50:12 IAyZqOPt


366:名無しさん@ピンキー
10/10/16 04:00:30 HTFUNDEC
もう幸一死なないと事態は沈静化しないような気がする

367:名無しさん@ピンキー
10/10/16 07:38:10 UyfqDr8k
なんであのタイミングで警察が介入したのか気づかないくらい
二人がいまだに冷静になってないのね

GJ

368:名無しさん@ピンキー
10/10/16 09:24:57 avL1uu+U
これからまた嵐がくるぞ~

GJ!

369: ◆wBXWEIFqSA
10/10/16 15:06:46 w73DEH/4
>>342の続き投下します。
一応トリップ付けときます。
前回より短いですが、今回もエロ有りです。



370:狂依存 9
10/10/16 15:07:45 w73DEH/4
「はあぁ~……」
まだ現実感が無い……
麻由お姉ちゃんがあんな事するなんて……
どうしてこんな事になったんだろう?
昔はあんなんじゃなかったのに。
これから、あの麻由お姉ちゃんと二人でずっと一緒に過ごさなきゃいけないなんて……
「本当にどうしよう……」
お父さん達は数年は海外に滞在する予定だ。
もちろんお盆や正月には一時的に帰ってくると言ってるが、いても一週間ぐらいだという。
「何とか説得して諦めさせるしかないか。」
麻由お姉ちゃんならきっとわかってくれるだろう。
それに初めては僕に奪ってくれという事は、僕の方が自重すれば一線を超えることはないという事か。
なら、僕が我慢すればいずれ諦めてくれるよね。
「大丈夫、大丈夫だよな……」
必死にそう言い聞かせながら、眠りについた。

「大輝、起きなさい!大輝!」
「う……ん…」
「起きろっつてんだろ!」
ドスっ!
うおっ!
鞄か何かで思いっきり叩かれて、目を覚ます。
「うーん……なーに?」
時間は……ってまだ6時半じゃん…
「うー、こんな早くにどうしたの……」
「どうしたの?じゃないわよ。今日はお母さん達いないのよ。」
だからって何でこんな早くに。
「私はこれから朝練に行かないといけないからもう出るけど、あんたも時間になったら朝御飯用意してあるから、それ食ってちゃんと玄関の鍵閉めて出るのよ。」
「うん……」
「お母さん達は夕方頃には帰ってくるって言うから、学校から帰ったらそれまでちゃんと留守番してること。いいわね?」
「じゃあ、もう行くから。鍵ちゃんと閉めときなさいよ。」
「う、うん……」
もう麻由お姉ちゃんったら、相変わらず乱暴なんだから……
これも照れ隠しか愛の裏返しなんだろうけど、夫を起こすときはやっぱりお早うのキスぐらいはして欲しいよね。
「もう一眠りっと……ん?」
そういえば麻由お姉ちゃん、朝御飯用意してあるって言ってたな。
「私はこれから朝練に行かないといけないから、もう出るけどあんたも時間になったら朝御飯用意してあるから、それ食ってちゃんと玄関の鍵閉めて出るのよ。」
うん、確かに言った。
朝御飯用意してあるから。朝御飯用意してあるから……
「こうしちゃおれん!!」
ああ……麻由お姉ちゃんったら、朝練があるっていうのに、僕の為にこんなに朝早くから起きて朝御飯作って用意してくれたんだね!
僕の為に、ここまでしてくれるなんて……
昨日は作るの面倒くさいとか何とか言ってたけど、やっぱり僕達は愛し合ってるんだね。
「さっさと着替えて食べなければ!」
何作ってくれたのかな~。
麻由お姉ちゃんの手作りなら何だって美味しく頂いちゃうよ。
「ではいただきまーす!」

……
………
えーと……朝御飯って……
「………」
コーンフレークと牛乳。


371:狂依存 10
10/10/16 15:08:46 w73DEH/4
「大輝、起きて。大輝。」
「う……」
「大輝……」
ちゅ……
「!?」
な、何だ?今の?
「ふふふ……起きた?おはよう、大輝。」
「ま、麻由お姉ちゃん。今何を?」
ほっぺに何か柔らかい感触が……
まさか?
「決まってるじゃない。おはようのキスよ。愛する人を起こすにはこれが一番の目覚ましでしょ。」
いや、目覚ましって言われても……
「もしかして、嫌だった?」
「え!い、いや、そんな事はないけど……」
嫌って事はないんだけど、何か違うというか……
「あの……起こしてくれたのはありがたいんだけど、まだちょっと早いというか……」
まだいつも起きる時間より20分ぐらい早い。
もうちょっと寝ていたかったんだけど……
「あっ。もしかして、何か手伝って欲しい事か何かあった?だったら……」
「あ、ううん、違うの。ちょっとやりたい事があって。ごめんね、大輝はまだ寝てていいから。」
??何を言ってるんだ?
「やりたい事って?」
「大輝のおち○ちんを大人しくしてあげようと思って……ね。」
「へ?」

ずるっ
「ちょっ!何を?」
「ふふふ……朝からこんなに勃起しちゃって……昨日の事を思い出して勃起しちゃったのかしら。待っててね。お姉ちゃんが今、気持ちよくして、落ち着かせてあげるから……」
「えええ?ちょっと止めて……」
麻由お姉ちゃんはズボンを引き摺り下ろして、僕の肉棒を露にすると、指で擦り始めた。
「大丈夫よ……大輝は何もしなくていいわ……お姉ちゃんに全部任せて。」
「麻由お姉ちゃん、あの、これは……」
これは単なる生理現象なんだけど……
いや、知っててやってるのか。
「じゃあ、いくわよ……」
「う……」
麻由お姉ちゃんは胸元をはだけて、おっぱいを露出すると肉棒に挟みこんだ。
「うん……ん、ん……どう?気持ちいい?」
麻由お姉ちゃんの豊満な乳房に挟まれた肉棒が優しく擦れ合い、未知の快楽を引き起こす。
本当に気持ちいい……
「麻由お姉ちゃん、お願いだから止めて……」
「そう、気持ち良いのね。じゃあもっとやってあげる。んっ、うん……」
ちょっ、無視しないで。ん……
「ふふ……こんなにビクビクさせて感じちゃって……本当に可愛い……」
麻由お姉ちゃんはうっとりした表情をしながら、おっぱいに挟まった肉棒を優しく乳肉に優しく押し付け、擦れさす。
その姿が妙に色っぽくて、ますます興奮してしまう。


372:狂依存 11
10/10/16 15:09:44 w73DEH/4
「ん……んく…ふん……どう?気持ち良い?ふふふ……我慢できなくなったらいつでも私を押し倒して、犯していいわよ……」
「んっ……そんな事……」
それが狙いだったか……
「……ん、うん……さあ、早く犯して。自分のおっぱいに弟のち○ぽ挟んで喜んでいるような、この淫乱な姉のおま○こをあなたのち○ぽで思いっきり犯してえ……」
僕を淫猥な言葉で挑発しながら、おっぱいを動かすスピードを速め肉棒を更に刺激する。
この異常な快楽に、もう絶頂寸前にまで追い詰められた。
「(ここまできたら、早いとこ出して終わらせた方がいいな……)」
「もう……まだ意地を張るのね……ん、んちゅっ……」
「んっ……!」
「ん、んちゅっ、ちゅっ、むちゅっ……ちゅるっ……ぢゅるっ……」
うう、今度は肉棒を舐め始めてきた。
「むちゅっ……はん…うちゅ、ちゅっ…んちゅっ、ぢゅる……ほら……早くぅ……んちゅっ、ちゅるっ……」
大きくて柔らかい乳房が挟まれる感触と、舌と唇で優しく舐められる感触とで今まで体験した事のない強烈な快楽が襲い掛かる。
「(うう……これは、本当に辛い……)」
あまりの強烈な快楽の前に理性は今すぐにでも吹き飛びそうになる。
でもこらえないと……
「むふ……ん、んちゅ……ん……ちゅっ……ぢゅる……」
明らかに誘うような色っぽい目線で僕を見つめながら、パイズリの速度を緩め、焦らしてくる。
その挑発的な目線に誘われないよう、目を瞑って何とかやりすごそうとする。
「(早く……イカせて)」
「ん、んちゅ……ほら、早くこのち○ぽを私のおま○こにぶち込んでえ……ん、むちゅ……ちゅっ……」
「麻由お姉ちゃん、早く支度して家を出ないと遅刻しちゃうから。だから……ね?もう……」

ここまできたら早く出してすっきりさせないと、授業にも集中できなくなる。
だから、早く……!
「ん、んちゅ、ちゅる……しょうがないわね……ちゅる、んちゅっ、ちゅるっ……ぢゅる……ぶちゅっ…ぢゅるっ、んちゅ…」
そう懇願するとかなり不満そうな声を漏らしながらも、麻由お姉ちゃんはフェラと乳房を動かす勢いを加速させる。
ああ、やっとイカせてくれるのか……
「ん、んく、んちゅっ、ぢゅるっ、むちゅっ……ぢゅる…ちゅる、んちゅ、はむ……ん、んちゅ、ぢゅるっ……」
先端を口に咥え、口の中で舌を絶妙に動かしながら、刺激する。
麻由お姉ちゃんの舌の柔らかくて、ヌルっとした感触がチロチロと先端に触れ合い、途方も無い快感をもたらす。
更に麻由お姉ちゃんの乳房が陰茎を全て包み込み、あらゆる方面から押し込んで凄まじい快感を肉棒に与えている。

「ん……んちゅっ、ちゅる、ぢゅるっ、ん……んちゅ、ちゅるっ、むちゅっ……はむっ、んっ、んちゅっ、ちゅるっ……」
「(うう、気持ちよすぎるよ……)」
既に先走り液がかなり出ており、麻由お姉ちゃんはそれを丁寧に舐め取っている。
というか、麻由お姉ちゃん上手すぎないか?
「ん、んちゅっ、ちゅる、ぶちゅっ、ほら、早く飲ませなさい、はむ…んちゅ、ちゅる、ぢゅるっ……んちゅっ……」
「(もう出る……)」
「ん、んちゅっ、ん……むちゅっ、ちゅるっ、んちゅ、ちゅっ……ちゅるっ、ぢゅるっ、んちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、むちゅ、ぢゅるっ、ちゅる……」
びゅくっっ!!びゅくるるるるっっっっ!!!
「はむ……ん、んく……ん……んん………」
びゅくっっ!びゅくびゅくるっっっ!!!
麻由お姉ちゃんの口の中で、思いっきり射精する。
そして、口の中にぶちまけられたザーメンを麻由お姉ちゃんはしっかりと棹を咥えながら、飲み干している。
「ん……んく……んん……ちゅるっ、ぢゅるっ、んちゅっ……ぷはぁ……ふふふ……ご馳走様……」
麻由お姉ちゃんは満面の笑みで、そう答えた。
その顔がまた無性に色っぽくて、更なる興奮を誘う。


373:狂依存 12
10/10/16 15:10:54 w73DEH/4
「ありがとう、大輝。本当に美味しかったわよ。」
そうなのか?そんなに美味しいものでもないって聞いたけど……
「気持ちよかった?」
「う、うん……」
これは正直に答えるしかないか……
「またして欲しくなったらいつでも言ってね。と言っても、大輝が私を犯してくれるまで、私の方からどんどんやっちゃうけど……」
「麻由お姉ちゃんの方からって……もうこんな事は止めてよ。こんな事しても何にもならないよ。」
「何言ってるの?あなただって絶頂したじゃない。お姉ちゃんにパイズリされて、気持ちよかったんでしょ?私とセックスしたいって少しは思ったんでしょ?」
「そ、それは……」
「姉弟だからって何も遠慮する事はないわ。欲望の赴くままに、私を思いっきり犯していいのよ。私にエッチな事されて射精したって事は、私達は愛し合えるって事の証なのよ。」
「………」
でも、それでも……

「そう……なら大輝が素直になれるまで、これから毎日こういう事をやるわ。覚悟しておいてね。」
「毎日って……!冗談は止めてくれよ!」
こんな事毎日やられたら頭がおかしくなるよ!
「ふふふ……お姉ちゃんの誘惑に何処まで耐えられるかしら?あの様子だとそう長くはもたないだろうから、早く素直になった方が良いと思うけどね。」
「お姉ちゃんが、あなたの中にある下らない理性を全部ぶっ壊してあげる。そして、私を見たらすぐに犯しちゃう様な飢えた狼にしてあげるわ。うふふ……想像しただけでゾクゾクしてきちゃう……」
「………」
悪魔の様な宣告を受け、ただ呆然とするしかなかった。
「さあ、そろそろ朝食にしましょう。もう用意してあるわ。着替えたらすぐ下に降りてきなさい。」
「……うん。」
生返事をしたが、まだ動くことが出来ない。
本当にどうすれば……
「何をボーっとしてるの?ああ、お姉ちゃんに着替えさせて欲しいのね。今やってあげるから……」
「い、いいよ!」
そう言って手を伸ばし始めた、麻由お姉ちゃんの手を慌てて払いのけ着替え始める。
「もう、遠慮しなくていいのに……」
麻由お姉ちゃんは残念そうな顔をして呟いた。
幼稚園児じゃないんだから、そんな事させられないよ!



374: ◆wBXWEIFqSA
10/10/16 15:12:35 w73DEH/4
以上です。
ちなみにこの姉弟の年齢は、姉21、弟18ぐらいです

375:名無しさん@ピンキー
10/10/16 17:00:19 oQxCUu55
>>374
実用的でございましたGJ
二人とも3歳ほど下で再生してた

>>362
今回のが幸一が死ねる最後のチャンスだった気もする
多分あいつ死に損なうごとに雁字搦めになっていくんだぜ…

376:名無しさん@ピンキー
10/10/16 19:12:17 IAyZqOPt


377:名無しさん@ピンキー
10/10/16 20:42:33 X7US1Dr8
年齢=彼女いない歴の俺がキモ姉に耳掃除を頼んだらどうなるのっと

378:魔法少女すーぱーシルフ(上)
10/10/16 21:10:40 5h3AEk/k
こんばんは。
表題について、投下いたします。

379:魔法少女すーぱーシルフ(上)
10/10/16 21:11:05 5h3AEk/k
※この話は「幸せな二人の話」の番外編です。
 なお、番外編中の出来事・事実は全て本編には影響のない事、申し添えます。

380:魔法少女すーぱーシルフ(上)
10/10/16 21:11:31 5h3AEk/k

魔法。

空を飛ぶ魔法、恋を叶える魔法、悪い人をやっつける魔法。
魔法が使えたら、それは誰もが一度は夢見る事。
けれどもいつかは分かる、そんな都合の良い魔法なんて存在しない事を。
空を飛びたいのならパイロットに、恋を叶えたければ告白を、悪い人をやっつけたければ自衛官になろう。
そうやって、みんな自分の力で夢を実現しようとする。
魔法っていうのはその切欠に過ぎない、本当の魔法は自分の力、だから。



だから、今更魔法少女になんて誘われてもすごく迷惑だ。





381:魔法少女すーぱーシルフ(上)
10/10/16 21:11:51 5h3AEk/k
”要は、私のお母さんは魔法少女で、私にも素質があるから後を継げっていう事?”
《はい、人間の黒い心、誰かを×したい、誰かが居なくなれば良いのに。
 そういう気持ちに形を与える悪の勢力と戦う、お母様は立派な魔法少女でした》
”そして、あなたはお母さんのマスコットっていう事?”
《はい、HALと書いて、アルと呼んでください。
 フランス語ですので先頭のHは読みません》
”かなり身の程知らずの事を言っているような気がするんだけど。
 大体、マスコットって普通動物じゃないの?
 猫とか、フェレットとか……”
目の前にあるそれは、動物どころかただの黒い直方体にしか見えない。
《それはもう昔の話です。
 今時は生体マスコットなんて、非常食位にしかなりませんね。
 現在の魔法戦は戦略、戦術、戦闘の直結を要求されるシビアな戦いです。
 だから、多数の情報を瞬時に処理できる人工知能でなければバックアップは不可能です。
 私もこのボディは端末でして、本体は木星にあるんですよ》
”じゃあ、これは魔法で木星から会話しているの?”
《いえ、ワームホールを利用した量子通信です。
 あと、シルフさんとは脳波の読み込みですね》
”……魔法じゃないんだ。
 それに、マスコットだったら何で魔法を使わずに郵送で来たの?”
《空軍のレーダーよりは税関を誤魔化す方が安上がりで簡単だったからです》
”……”
《言いたい事は分かりますが、その方が正確で効率が良いんです》
”もう、どうでも良い”
はぁ、どうして私はこんな話を真に受けているんだろう?
《それは真実を伝える魔法を使わせて頂いておりまして》
ばつが悪そうに、自称マスコットが答える。
そんな都合の悪い所を埋めるような魔法の使い方ってどうなのだろう?
”いくら何でも手抜き過ぎだと思わないの?”
《そうなのですが、その、あまり本筋に外れた所に時間を裂けませんので……》
”分かったわ、もうそういう事にして良いから”
私は投げ遣りになりながら答えた。
《すいません、本当にすいません》
アルがその黒い表面にorzをする光のモーションを浮かび上がらせる。
むしろ馬鹿にされているような気がする。

382:魔法少女すーぱーシルフ(上)
10/10/16 21:12:15 5h3AEk/k
今日は朝からそんな調子でずっと騒がしかった。
お兄ちゃんとのデートに胸を弾ませていた私の元に一つの小包が届いたのが発端。
送り出し人は私のお母さんの名前。
不審に思いながらも開けてみると、突然こう言われた。
魔法少女になりませんか? って。
もちろん、すぐに断った。
何度も、何度も断った。
そんなごたごたが一段落してからやっと私達は出発できた。
今、私とお兄ちゃんは動物園のライオンのスペースに来ている。
でも、全然ライオンさんの事を楽しめていられない。
《あ、見てください、シルフさん!!
 ほら、あくびしてますよ、やっぱりかわいいですねー》
それというのも全部これの所為だ。
「シルフ、退屈だったか……?」
お兄ちゃんが不安そうに私に聞いてくる。
「そ、そんな事全然無いの、すごく嬉しい!!
 あ、ほら、あの子なんか家で飼いたいなって思う」
するとお兄ちゃんは笑いながら、近くにあった露店に向かって歩く。
「そうだな、ライオンは飼えないとしてもこれはどうだ?
 って、あれ、シルフ?
 シルフ、どこ行った!?」

383:魔法少女すーぱーシルフ(上)
10/10/16 21:13:10 5h3AEk/k
**************************************

最悪の気分。
せっかくお兄ちゃんとのデートだというのに、私はお兄ちゃんを不愉快にさせてばっかりいる。
もし、これでお兄ちゃんに嫌われてしまったら……。
そんなの、絶対に嫌だ。
本当に最悪。
もっと悪い事にその胡散臭い自称マスコットの言う敵が今この場に出現してしまったようだ。
出来る事ならば、お兄ちゃんの手を引っ張ってすぐに動物園から出て行きたかった。
でも、敵はお兄ちゃんのすぐ近くで今のままならお兄ちゃんも危険だとアルは言う。
だから、お兄ちゃんを守る為に、私は渋々、とても不本意だけど、嫌々、魔法少女として、
今回だけは仕方なく、二度とやる気はないけど、必要最低限度だけ、戦う事にした。
《では、確認します。
 魔法少女の基本任務は偵察です。
 出来るだけ多くの情報を収集し、敵の危険度が低ければそのまま排除。
 敵の危険度が少しでも高ければ我々の本隊から応援を要請後、撤退します。
 基本的には帰還する事が絶対条件の安全なお仕事です》
”あれが、危険度の高い敵……?”
私の目線の先には等身大のぬいぐるみが暴れていた。
その周りで、観光客が楽しそうに写真を撮っている。
どう見ても動物園のアトラクションにしか見えない。
《はい》
”分かったら、早くして”
本当に馬鹿らしくなってきた。
もう何でもいいから早く終わらせてお兄ちゃんの所に戻ろう。
それから、いっぱい甘えたい。
《では、変身しましょう、コールサインは「すーぱーシルフ」です》
もう、いちいち指摘するのも面倒臭い。
はぁ、と私は一度溜息を吐きだした。

384:魔法少女すーぱーシルフ(上)
10/10/16 21:14:23 5h3AEk/k
「すーぱーシルフ、インゲージ!!」
一瞬で私の体が光に包まれ、魔法少女としての服装が体を包む。
長々と変身のシーンを入れられるのかと思っていたので、それは良かったんだけど。
だけど、その変身後が……。
”アル!! どういう事なの!?”
《はい、スーツの種類はいくつかあるのですが、
 今回は緊急だったのでお母様が愛用されていた物を用意しました。
 まずかったでしょうか?》
魔法少女の格好は私からみればまずい所だらけだ。
青と白で塗り分けられた、スクール水着のような形のボディースーツにニーソックス、グローブ。
むしろ、どこにまずくない要素があるのか教えて欲しい。
そして、何よりもまずいのは……
”これじゃあ、顔が丸見えじゃない!?”
こんな魔法痴女としか言えない物を着ているのをお兄ちゃんに見られたらと思うと泣きたくなる。
《大丈夫です、魔法的なジャミングが掛けられいますので、今のシルフさんはシルフさんとは認識されません。
 だれが見ても魔法少女すーぱーシルフとしか認識できないんです。
 あ、それから、カメラに写ってもジャミングでぼやけますから安心ですよ》 
そんな事を言われても、はっきり言って気休めにしかならない。
私が気にしているのはお兄ちゃんにこんな恥ずかしい恰好を見られたくないっていう事なのに。
”それに、お母さんが本当にこれを着ていたの?”
《ええ、最初から最後まで》
”私を産んでからもしていたって事は、お母さんって30過ぎまで魔法少女をしてたんだよね?”
《でもお母様は綺麗な人でしたからね、10代と言っても全然違和感がありませんでしたよ》
”そういう問題じゃないんだけど?”
《因みに、お父様の方はそのパートナーとしてフルフェイスのマスクに黒マントで、》
無言でアルを地面に叩き付けた。
私の中で何か大切なものが壊れた音がする。


385:魔法少女すーぱーシルフ(上)
10/10/16 21:16:20 5h3AEk/k
《何をするんですか!? 
 私は精密機械なんですよ!?》
アルは抗議をしながら私の肩辺りにまた戻ってくる、傷一つ付かずに。
いっそ壊れてくれれば良かったのにって本気で思う。
”はぁ、それで私はあのぬいぐるみを倒せばいいの?”
私はその抗議を無視して、構える。
色々と言いたい事はあるけど、もうどうでもいいから戦って早くお兄ちゃんの所に戻りたい。
《止めてください、まだアクティベーションが済んでいません!!》
”アクティベーション?”
《はい、変身はあくまでスーツを着るまでなんです。
 ですから、防御力は上がっても、肉体強化付加や攻撃魔法はまだ使えません。
 アクティベーションを行うことでこれらの機能は解禁されます。
 つまり車で言うなら鍵を回すようなものです》
”何でもいいから早くして”
《了解です、いまから読み上げる呪文を復唱してください》
”いいから早く”
アルの背面に光り輝く文字が浮かぶ。
《解除コード:Petite et accipietis,pulsate et aperietur vobis》
”え、今、何を言ったの?”
黒い表面には気まずそうな汗の模様が浮かんでいる。
《ラテン語です……》
”日本語の呪文はないの?”
《私はお母様のマスコットだったように本来は欧州向けでして、申し訳ありません》
汗の模様が更に増えた。
《だ、大丈夫ですよ。
 ほ、ほら、私の後についてきて下さい。
 レッツ・リピート!!》
そう言って、Petite et~、と流暢すぎる発音でアルが呪文を繰り返す。
「ペティ、てぇ、え……、えっとその後に何?」
《……》
”……”
なんだか、小学校で居残り学習をさせられているような気まずさが漂う。
「わ、私は無理だけど、お兄ちゃんはちゃんと読めるんだよ!?」
気まずさに耐えかねて、私は良く分からない言い訳を口走ってしまった。
ぬいぐるみ達も呪文が唱えられないのは想定外だったようで、先に手を出して良いものなのかと悩んでいる。
空気が重い。

386:魔法少女すーぱーシルフ(上)
10/10/16 21:17:57 5h3AEk/k
「……」
私は一番近くでまごついている猫のぬいぐるみにつかつかと歩み寄った。
足を開いてしっかりと腰を落とす。
左腕を弓を引くように真っ直ぐ後ろへ引く。
そして、そのまま一気に首を手刀で打ち抜いた。
ぶち、という鈍い音とともにその首が千切れ、傷口からどす黒い何かをばら撒きながら床に落ち、ごろごろと転がる。
うん、大丈夫。
《あの、シルフさん、ふつう彼らって攻撃魔法じゃないと打ち抜けないのですが……》
”出来るのだから問題ないでしょ?”
《問題無いといえば無いのですが、魔法少女としてのイメージの問題はあるわけでして……》
”大丈夫、お兄ちゃんはそういう事気にしないからっ!!”
私の隣に近づいた熊のぬいぐるみの首をハイキックで飛ばす、首無しの体がぐにゃりと崩れる。
のこり8体の影も首を締め折ったり、胴体を蹴りで貫通したりして順次片づけた。
「後は、あなたで終わりね」
残りの一体を睨み付ける。
けれど、その最後のもふもふとした犬のぬいぐるみは何か様子がおかしかった。
膝をついて、まるで嘔吐をするように体を震わせる。
そして、背中が裂けて、どす黒い何かが這い出す。

《コード99999 甲種支援・要請》
機械らしい、全く抑揚のない声をアルが発した。

その先には刀を持った少女の形をした影が立っていた。


387:魔法少女すーぱーシルフ(上)
10/10/16 21:18:48 5h3AEk/k
**************************************

上下左右、死角となりうるあらゆる方向から刀が飛び交う。
まるで同時に何本もの刀で切りつけられているかのように感じるほど速い。
それを直観と反射神経で避け、弾く、考えてから動く余裕なんて無い。
《シルフさん、危険すぎます!!
 本隊の出撃を要請しました、撤退してください!!》
”その本隊はいつ来るの?”
《10分後です》
”10分もこんな奴を放置したら、
 そうしたら、ここにいるお兄ちゃんが危ない”
《けれど、このままでは!!》
”大丈夫!!”
何とか少女の影の腹を蹴飛ばして間合いを取り直す。
周りを見る余裕ができた。
お兄ちゃんは? 駄目、見つからない。
《お兄さんは先に避難したのかもしれませんよ?》
”煩い、黙って!!
 お兄ちゃんは絶対にそんな事しない!!”
私は必死に探すのにお兄ちゃんが見つからない。
そのかわり、とても嫌なものはたくさん視界に入った。
私を見る周りの目。
珍しい見世物を見るような好奇の目。
なぜ、早く倒さないのかという蔑みと不満の籠った目。
それから、好色な目。
どれも昔、お兄ちゃんと出会う前から慣れ親しんでいた、吐き気のするような視線。
だから、みんな嫌いだ。
私はなんでこんな事をしているんだろう?
今日はお兄ちゃんとデートをする日だったのに、あんなにずっと楽しみにしていたのに。
早く、お兄ちゃんを見つけてもうこんな所帰りたい。

388:魔法少女すーぱーシルフ(上)
10/10/16 21:20:58 5h3AEk/k
「もう良いでしょ?
 そろそろ決めよう、私も帰りたいから」
影はそれに応えるように刀を納め居合の形をとる。
そして、私と影は一気に間合いを詰める。
私は焦りすぎていた。
間合いに僅かに入らない位置で勝負を賭けてしまった。
腕が伸びきってしまったまま、目の前に刀が迫る。
無理やり体勢を崩して避ける。
熱い痛みが走る、傷は無い、代わりに切られた右足に黒い線が浮かぶ。
そのままバランスを失って倒れてしまった。
足が動かない。
負けた、と私には分かった。
一方勝利を確信した影はゆっくりと刀を大上段に振りかぶる。
嫌だ、こんな所で死にたくなんてない。
死ぬのが怖かった。
死んだら、お兄ちゃんと会えなくなるから。
どうして、私はお兄ちゃんとやっとデートができるんだよ。
なのに、なんで私は死ななきゃいけないの?
まだ、お兄ちゃんとしたい事がいっぱいあるのに……。

389:魔法少女すーぱーシルフ(上)
10/10/16 21:22:05 5h3AEk/k
影が刀を振り下ろす。
刀が振り下ろされ左腕がぽろりと落ちた、影の左腕が。
「すごいな、この刀、本当に化け物でも切れるのか。
 いつも雌豚なら神でも切れるとは沙紀が自慢してたけど」
「お、お兄ちゃん、どうして!?」
「ん、いや、俺は君のお兄ちゃんではないよ?
 御空寺 陽、普通の学生だ。
 ただ、ちょっと怖~い幼馴染みから親友を守る為に、剣の腕に覚えがあるがな」
お兄ちゃんが庇う様にして、私に背を向ける。
赤い、禍々しい刀を両手で持ち、刃先を影に向ける。
片腕の影は刀を担ぐようにして、構える。
「君はよく頑張ったんだ。
 だから胸を張って、逃げてくれ」
そう言い残して、お兄ちゃんが影と切り合う。
そして、お兄ちゃんが袈裟に切られて、地面に倒れた。

390:魔法少女すーぱーシルフ(上)
10/10/16 21:24:54 5h3AEk/k
以上です。
ありがとうございました。
一応、シルフの初デートの時に馬鹿なパラレル展開の分岐があったらというつもりです。
ただ、自分でもこれを書いてどうするつもりだったのか良く分かりません、申し訳ありません。
次回もよろしくお願いいたします。

391:名無しさん@ピンキー
10/10/16 21:56:22 bYSLXPdc
悪い人をやっつけるのは警察だと思います。
自衛官の場合は、大切な人を守りたいなら……が適切かと。

とはいえGJです。
本編の執筆も頑張って下さい。

392:名無しさん@ピンキー
10/10/16 23:32:37 IAyZqOPt


393:名無しさん@ピンキー
10/10/17 18:53:27 4JqgRL8e


394:名無しさん@ピンキー
10/10/18 12:36:47 yp3v6RP1


395:名無しさん@ピンキー
10/10/18 20:58:00 3S6Xtq74
5体バラバラにされても弟の元に戻ってくる不死者な姉っていたっけ?

396:名無しさん@ピンキー
10/10/18 21:45:09 FQCfapun
ストームブリンガー擬姉(妹)化と申したか

397:名無しさん@ピンキー
10/10/19 08:27:20 rNyreTJa
キモウト派だったのに「カンキン●ュウ」ていうキモ姉同人を読んだらすっかりキモ姉の魅力に・・・
やっぱキモ姉といえばおっぱい枕ですよね!

398:名無しさん@ピンキー
10/10/19 12:32:12 RWV4Holb
>>397
キモいけど何かほのぼのしてるんだよなあれw
犯人達もいい味出してるし

399:名無しさん@ピンキー
10/10/19 22:15:17 6riWNUmW


400:名無しさん@ピンキー
10/10/19 23:21:51 XbJIl+pZ


401:名無しさん@ピンキー
10/10/20 00:02:54 hlgV7MA/
あれ? wikiって作品ごとの閲覧者数とか、わからんのか

402:名無しさん@ピンキー
10/10/20 00:13:37 fgSrBt6x
そういうのあればいいのにな
人気のないやつにスレを荒れさせずわからせることができるし、人気の作品にはやる気を出してもらえる

403:名無しさん@ピンキー
10/10/20 00:14:41 ihQWKf3c
>>402みたいなのがいるから閲覧数とか無くて正解だよね

404:名無しさん@ピンキー
10/10/20 00:23:51 Td1dPmsc
キモウト&キモ姉がいるのにプロポーズとか、死亡フラグ過ぎでワロタ

兄or弟「俺、この戦争が終わったらプロポーズするんだ」
姉&妹「……」

405:名無しさん@ピンキー
10/10/20 05:27:46 EFyhAbfz
妹→兄→姉→弟→妹→……

というドロドロなキモ家族

406:名無しさん@ピンキー
10/10/20 12:57:44 KUZJ59AL
URLリンク(komachi.yomiuri.co.jp)

社会人 兄

学生  キモウト

恋人未満 泥棒猫


で、美味しいネタが出来上がるよね?

407:名無しさん@ピンキー
10/10/20 18:16:46 my0Lw1zi
>>406
なんていうか泥棒猫のお題に妹が自演で答えまくってるように見えるわ
「あなたはさっさと別れるべき」って回答が複数あるのも納得できる

408:名無しさん@ピンキー
10/10/20 18:43:57 cmpjF6Or


409:名無しさん@ピンキー
10/10/20 19:01:31 rtot+sWb
お兄ちゃんコントロールの作者、このスレ見てんじゃねーか?と読む度に思ってしまう

410:魔法少女すーぱーシルフ(中)
10/10/20 21:02:54 BRhPIVxv
今晩は。
表題について投下いたします。

411:魔法少女すーぱーシルフ(中)
10/10/20 21:04:09 BRhPIVxv
倒れたお兄ちゃんは、体勢を直して片膝を付いた。
切られた部分のシャツが裂かれ、太く黒い線が肩から腰まで延びる。
「ったく、格好付けるもんじゃないな、死ぬほど痛い」
私の方へ首だけ向けながら、苦々しげにお兄ちゃんが呟く。
「逃げて、お兄ちゃん!!
 どうして、なんでこんな事してるの!?」
《シルフさん、落ち着いてください。
 お兄さんにはシルフさんだって分かりません。
 それよりも我々の本隊が来ます、今のうちに逃げて下さい!!》
”うるさい!!”
「本当は俺の大事な子を探してたんだ。
 だけど、君を見ていたらその子にそっくりでさ」
お兄ちゃんはまた影を見据える、だからお兄ちゃんの顔はもう見えない。
「見た目の話じゃない。
 そうやって、無理をしてでも誰かの為に戦おうとするところとか。
 なのに、皆に理解されないでいるところとか。
 寂しそうなところ、健気なところ」
しっかりと刃先を地面に立てる。
「あと、自分を大切にしてくれないところとかが、悲しくって。
 それで、君が危ないのを見たら体が自然に動いちまったよ」
刀を杖の様にして立ち上がる。
「君は、シルフと同じで幸せにならなきゃ駄目だ。
 だから、こんな所で死ぬ必要なんて無い、逃げろ」
「お兄ちゃん、もう止めて!!」
影が刀の切先をすうっとお兄ちゃんへ向ける。
「さてと、じゃあもう一回行ってみようかぁ~?」
お兄ちゃんも刀を影に向けて構えなおす。
けれど、体がぐらりと揺れてその場に崩れ落ちる。


412:魔法少女すーぱーシルフ(中)
10/10/20 21:04:37 BRhPIVxv
「毒……か…?……まず…体……が…」
「嘘、お兄ちゃん!?」
倒れたお兄ちゃんを必死で抱き留める、体が冷たい。
「君は……逃げ…ろ」
「嫌だ、お兄ちゃんを置いてなんて、絶対に嫌!!」
けれど、お兄ちゃんの目は虚ろになり、その間にも体はどんどん冷たくなって行く。
「お願いだから、お兄ちゃんと最後まで居させて!!」
「逃…げ……」
お兄ちゃんの声が途切れた。
静かに影が刀を振り上げる。
どうやら、私たちの会話が終わるのを待っていてくれたようだ。
「……結構、優しいのね」
当然、影は答えない。
私はお兄ちゃんの体を強く抱き締める。
「いいわ、早くして。
 私はもう戦う気なんてないもの」
「何を…言って…る……良いから……逃げ……て」
お兄ちゃんが最後の力を振り絞って必死に私へ語りかける。
でも、嫌だ。
《シルフさん!!
 せめて、あなただけでも逃げてください。
 お兄さんの思いを無駄にする気ですか!?》
「ば……か…、逃げ…」
影が振り上げた刀を正中に戻し、突きの体制になる。
二人の胸を同時に貫く、そういう影なりの気遣いなんだと思う。
もう一度、力を入れてお兄ちゃんを抱き締める。
間違っても離したりしないように。
うん、大丈夫。
私かお兄ちゃんのどちらかが犠牲になれば、片方は逃げられるかも知れない。
でも、私はお兄ちゃんの居ない世界で生きたくないし、お兄ちゃんの居ない世界にも行きたくない。
大丈夫、怖くなんてない。
大丈夫、お兄ちゃんが一緒だから。

……これで最後なんだからちゃんと言わないと。



413:魔法少女すーぱーシルフ(中)
10/10/20 21:05:09 BRhPIVxv
「お兄ちゃん、ずっと言えなかったけど、わた《あの~、すいません、お兄さん》
私のずっと言えなかった言葉は場違いに暢気な通信で台無しにされた。
《忘れてましたけど、お兄さんはラテン語少し読めるんでしたよね。
 お忙しいところ申し訳ありませんが、ちょっとこれを読んでいただけませんか?
 あ、頭の中で読んでいただければ結構ですよ、読み取りますから》
そう言いながら、虚ろなお兄ちゃんの目の前に文字を投影する。
”いや、あのさ、俺達これから死ぬんだけど?
 ていうか、今、その子が何か大切な事を言おうとしてなかったっけ!?”
《まま、良いから、良いから、冥途の土産だとでも思ってください》
もし、右足が動いたら、
もし、お兄ちゃんを抱き締めていなかったら、
この空気の読めないポンコツを壊れるまで踏み躙ってやりたかった。
”まあ、そこまで言うなら……。
 Petite et accipietis,pulsate et aperietur vobis
 (求めよ、さらば与えられん、叩け、さらば扉は開かれる)”
《はい、ありがとうございました、ゆっくり休んでくださいねー》
”お、おう、じゃ、気を取り直してもう一度逝くぞ。
 よしっ、……ごめんな…シルフ……雪風…もう……無理…だ”
そんな気の抜けた会話の後、お兄ちゃんの体からゆっくりと力の抜けた。
きっと私の腕の中でお兄ちゃんは最期を迎えた。

414:魔法少女すーぱーシルフ(中)
10/10/20 21:10:08 BRhPIVxv
《コード認証、すーぱーシルフ、FCSオールグリーン》
アルの黒く艶の無いボディから機械音声が響く。
その途端、私の体は強い光に包まれた。
体の中に力が流れ込む。
その膨大な力が背中から発散され、光が巨大な翼の形を作り出す。
《認証成功、これが本当の魔法少女すーぱーシルフの性能です。
 最大出力140,000kg、最高速度マッハ3の超高機動型魔法少女です。
 超高速追尾弾頭・グリーン、電磁連装砲・グリーン、etc……、オール・グリーン
 さー、行きますよー、ここからが高機動型の……》
アルが言い切るよりも早く、私は翼の莫大な推力で飛翔し影を鷲掴みにして、そのまま壁に打ち付けた。
《あの、シルフさん、高機動格闘戦用兵器が……》
誰かがが何かを言っているけど、聞く必要なんて無い。
「……あなたの事はそんなに嫌いじゃないと思う。
 お兄ちゃんと一緒に終わらせようとしてくれて。
 それに、私とお兄ちゃんの話を待っていてくれた事も……」
ごめんね、すぐ行くから。
でも、もうちょっとだけ、待ってて。
《シルフさん?》
壁に埋まった影に拳を突き立てる。
ゴン、と鈍い音がする、まるで金属の様にそれは堅かった。
手に血が滲む、まるで腕が根元から砕けたみたいに痛い。
けれど、今の私にはその痛みがとても嬉しかった。
お兄ちゃんが受けた痛みを少しでも感じたかったから。
「……だから、先に言っておくわ、さようならって。
 私…もう……考える事……できない…から」

415:魔法少女すーぱーシルフ(中)
10/10/20 21:10:55 BRhPIVxv
*****************************************

初めは金属を叩くような鈍い音だった。
けれど、何回か殴っている内にぐちゅりという音がした。
それからは殴ると、ぐちゃ、ぐちゃという水気のある音がするようになった
すぐに、外皮に相当するだろう部分が破けた。
そして、破けた影の腹の中から、丸い何かや、細長い何かをずる、ずる、と何度も引きずり出す。
もう影はとっくに機能を停止しており、生き物であれば絶命と言える状態である。
それでも、魔法少女は淡々と影の残骸をただひたすら解体する。
周囲には本国から来た援軍が展開していたが、彼女を遮ろうとは試みもしない。
無言でそれを眺めるだけだった。


「あ、あのさ、魔法少女さん。
 その、いくら憎いからって、あの。
 もうそろそろ、そいつを許してやってくれないかな?」


やや引き気味なその言葉で彼女は正気に戻り、ぼろ布の様になった影の残骸を捨てる。
そして、声を出すよりも、涙を流すよりも早く、声の主に抱きついてた。
「お兄ちゃん!! お兄ちゃん!!」
少女が青年を抱き締める、嘘じゃない事を確かめるように。
「ちょ…、息が……でき…ん」
ただ、ちょっと、かなり力が強すぎる。
《シルフさん、落ち着いてください!!
 せっかくさっきの魔法発動で回復したのにお兄さん死んじゃいますよ!?》
「ご、ごめんなさい!!」
魔法少女が慌てて手を離す。
ごほごほ、と青年が首を抑えて咳き込む。
《それから申し訳ありませんが、撤退です》
”え、でももう少し……”
《ですが、お兄さんと接触のし過ぎです。
 このままではお兄さんのジャミングが解けて、
 魔法少女の正体がシルフさんだと……》
「アル、今すぐ帰ろう!!」
「あ、待ってくれ、魔法少女さん!!」
その言葉に魔法少女が振り向く。
「君の名前、教えてくれ」
「私は……、魔法少女すーぱーシルフ。
 さ、さようなら!!」
咄嗟にそう答えて、少女は光の翼で空へ飛翔した。
「すーぱー、シルフ」
一人の、青年の呟きだけが広場には残された。

416:魔法少女すーぱーシルフ(中)
10/10/20 21:12:16 BRhPIVxv
「おい、陽、無事だったか!?」
「よう、圭。
 沙紀は大丈夫か?」
「うーん、大丈夫」
疲れた様子の少女が答える。
「しかし、お前らもデートとはね。
 まさかここで会うとは思わなかったよ。
 あ、そうだ、さっきは勝手に桜花を借りて悪かったな」
そう言って少女に赤く禍々しい刀を渡す。
「しかし、貧血か?
 いつもあれだけ鍛えてるのに、珍しいな」
「うーん、何だか、体からどろっとしたものが出たような気がして、立眩みしちゃった。
 でも、今は妙にすっきりしているんだよねー。
 確か、けー君が売店の雌豚と仲良く手を握っているのを見てたら、急に……」
晴れ晴れとしていた沙紀の目がまた、急にどろりとどす黒く濁った。
「……ところで、けーくん、さっきは売店の雌豚と何をしていたのかなー?」
ソフトクリームを受け取った以外に何があるんだ、と二人の青年は思った。
”Nマチ、セーフハウス・ハリー、2300、ゴウリュウ”
陽と呼ばれた青年が視線を送る。
”コピー・ザット、バディ”
そして、けー君と呼ばれた青年は直後、脱兎の如く駆け出した。
「うふふふ、かくれんぼだネー。
 イイヨー、100秒待ッテカラオ仕置キシテアゲルカラネー」

417:魔法少女すーぱーシルフ(中)
10/10/20 21:13:05 BRhPIVxv
***************************************

夕ご飯が終わった後、いつもと同じように私たちはお茶を飲んでいた。
珍しく、テレビが点けられている。
画面には荒れる魔法少女、動物園で大暴走とテロップが出ている。
そして、ぼやけた人型がぬいぐるみの首を蹴り千切る姿が写っていた。
《プロパガンダ戦です》
忌々しそうに、アルが言う。
《奴らが憑代に可愛らしいぬいぐるみを使うのはこういう為です。
 こうやって、世論を反魔法少女に持っていって、排斥運動を行うのが奴らの手口です。
 そのせいで魔法少女側は妙にファンシーな攻撃や光線の使用等、
映像の残虐性を薄める為の対抗策を取る事を強いられます。
 お蔭で強力な魔法兵器の殆どは、使用される事もなく備品倉庫にお蔵入りです。
 他にも、魔法少女が輪姦される、触手に襲われる等の事実無根のコンテンツをねつ造して、
 魔法少女の志願者数にダメージを与えるような事もしばしばです》
私は今日何度目か分からない頭痛に悩まされた。
そんな嫌がらせの様なプロパガンダ戦の何処に魔法を使う必要があるのだろう?
もう飽きるまで勝手にやっていて欲しい、私と関係のない所で。
「ふうん、じゃあ兄さんはこんなの嘘で本当は妖精さんみたいな子だって言うの?」
姉さんが不機嫌そうに指差す。
今日のお茶の時間はもう一つ、いつもと違う事がある。
お兄ちゃんが今日あった出来事を話し続けている事だ。
主にすーぱーシルフについて。
「さっきから言ってるだろ。
 妖精なんてそんな程度の物じゃないんだ。
 神々しく美しくて、純真無垢で、あれは間違いなく天使だ。
 まるで神様の作った芸術品だよ」
その喋りようは、いつも冷静なお兄ちゃんには有り得ないぐらいに饒舌。
これって、どういう事なの?
《すーぱーシルフはお兄さんの目からは全くの他人として映るんですよ。
 ですから、あれは客観的に見たシルフさんへのお兄さんの感想ですね》
アルが私の頭の中に割り込んでくる。
”客観的?”
《ええ、家族としての関係を抜いてシルフさんを見た場合です。
 つまり、お兄さんにとってのシルフさんは、この世の物とは思えない位美しくて、
 神々しくて、純真無垢で健気で、お兄さんにとっての天使そのもの。
 いえ、神様の芸術品、シルフさんマジ天使、とさっきから何回もうんざりするほど言っている訳です。
 恐らく、吊り橋効果もあるとは思いますが》


418:魔法少女すーぱーシルフ(中)
10/10/20 21:14:16 BRhPIVxv
「ん? どうしたんだシルフ?
 顔が真っ赤だぞ、風邪か?」
「何、でも、ないの……」
「ふ~ん、そんなに可愛かったんだその子?」
姉さんが笑いながら、兄さんに尋ねる。
ただ、その笑顔を見ると、私の本能的な部分が震えた。
そんな姉さんの様子も気にならない位にお兄ちゃんは夢中で話していた。
「違うんだ、可愛いなんてレベルじゃない。
 あれを表す言葉なんてそもそも無謀、いや愚かだ、な、シルフ?」
「わ、私は見れなかったから、分からないよ」
「そうか、それは残念だったな。
 あの子を見れないなんて人生の損失だったよ。
 本当に天使が居るっていうのを……」
そう言って、お兄ちゃんがまたすーぱーシルフの事を褒め続ける。
その言葉を聞く度に、私の体が熱くなり続ける。
ついでに、姉さんの笑顔がその度に黒くなっていく。
「私、お風呂に入ってくるね!!!」
とうとう私は耐えられなくなって、居間から逃げ出した。

419:魔法少女すーぱーシルフ(中)
10/10/20 21:15:16 BRhPIVxv
以上です、ありがとうございました。
一つ訂正があります。
「最大出力 → 最大推力」
失礼しました。

420:名無しさん@ピンキー
10/10/20 23:05:42 cmpjF6Or


421:名無しさん@ピンキー
10/10/21 07:37:42 5TJk0J5h
ソーナイスだね

GJです

422:名無しさん@ピンキー
10/10/21 12:23:37 i4FrkAfq
本編も楽しみにしてます

423:名無しさん@ピンキー
10/10/21 20:07:05 f7FAzKYR


424:『きっと、壊れてる』第9話
10/10/21 21:40:45 v8AocJEJ
こんばんは。
『きっと、壊れてる』第9話、投下します。
注意:申し訳ありませんが今回もエロなしです

425:『きっと、壊れてる』第9話(1/9)
10/10/21 21:41:12 v8AocJEJ
「あ~しらきたくま君だ~!!」

東京、夜の繁華街。
巧は特に用事もないクセに、ふらふらと出歩いていた自分を精一杯呪った。
よりにもよって、今現在一番遭遇したくない人物にバッタリ会ってしまったからだ。

「名前、違います」
巧は玉置美佐にそう言うと、そのまま通り過ぎてしまえばよかった、と思った。
何がそんなにおもしろいのか、美佐は満面の笑顔を見せながら巧に近付いてくる。
蜘蛛の糸に絡まった蝶の気持ちが今なら理解できる。

「そうだっけ? まぁなんでもいいじゃない。それよりも今ヒマ?」
「いえ、忙しいです」
無表情でそう答えると、巧は足早にその場所から去ろうとした。
雨が上がったばかりで、そこら中に汚い水たまりができていたが、
履いてきた新品のスニーカーが汚れようと、知った事ではない。

「よかったぁ~ヒマなのね? ついてきなさい。お姉さんがお酒奢ってあげるから」

美佐は巧の歩こうとした方角に先回りすると、どこか小生意気な顔をして道を塞いだ。
今まで人を殴った事などないが、この女は殴っても許されるのではないか。
巧は道行く人に一人ずつアンケートを取りたい気分になった。

「いえ、今ちょっと待ち合わせしてるんで」
冗談ではない。
ただでさえ関わりたくない相手なのに、近い内に、また得体の知れない物を届ける予定がある巧は、
できるだけ接点など持ちたくなかった。

「じゃあ、その待ち合わせ相手も連れてきなさい。どうせ男の子でしょ? こんな美人と飲めるんだから万々歳じゃない」
「……すいません、嘘です」
「うん、知ってる。大丈夫だって~。すぐ解放してあげるから! さっ行こう行こう」
これ以上抵抗しても無駄だと判断した巧は、「すぐに開放する」という美佐の言葉を信じて、ついて行く事にした。
何か悪い霊でも取り憑いているのか、首を傾げながら巧は歩いた。

5分程歩くと、美佐と巧は料理全品均一料金が売りのチェーン居酒屋に入った。

「あ~気持ち良い~」
美佐は店員から受け取ったおしぼりで首の周りを拭くと、「とりあえず生2つ」と注文した。

「……おしぼりで手以外を拭く女性、初めて見ました。」
「は~? 別にいいじゃん、汗でベタついてるし。ギャップ萌えってやつ? あのカワユイ美佐たんがこんなオヤジ臭い事を! みたいな」
「とりあえず、あなたがお酒を飲みたいだけって事は理解しました」
「そーゆー事。で~? 君は? 一人でフラフラと何してたわけ? あっ好きな物頼んでいいよ?」
「腹減ってないんで、けっこうです。……さっきは散歩してただけです」
箸でお通しの芋の煮付けを一つ掴み、口の中に放り込んだ。
素朴な味という表現が一番適切だろうか、下手に弄られていない芋の甘みが巧の好みだった。

店員の声が店内に響き渡る回数が増えてきた。
居酒屋の中は、美佐と巧が席に着いた直後から急に混み合い始め、入場待ちをしている人もそれなりに出始めたようだ。

入る前にもう少しだけ粘れば、帰る言い訳ができたのに。
巧は目の前にいる美佐を一瞥すると、深いため息を吐き、二つ目の芋を取った。

「一人で散歩? 私も嫌いじゃないけど、客観的に見ると少し寂しいね。君は彼女とかいないの?」

ありきたりな質問。
恋人がいるなら、あんなお使いをするわけがないだろう、と巧は言いたくなった。

426:『きっと、壊れてる』第9話(2/9)
10/10/21 21:41:45 v8AocJEJ
「いないですよ」
「なんで~? おっ!! もうビール来た!! ハイ乾杯、お疲れ~!」
ジョッキを店員から受け取った美佐は、それを巧の前に置かれたもう一つのジョッキに強く押し当てた。

「そんなに強く当てるとこぼれますよ。……なんで? と言われても。モテないからだと思いますけど」
「ノンノンノン」
「ん? 何ですか?」
美佐はビールで喉を潤しながら、左手の人差し指を左右に振った。

「ぷはぁ~! 私はね、『なんでモテないのか』と聞いているのさ。つまり自己分析は出来ているのかって事」
「オレは……あまり社交的ではないですが、顔はブサイクだとは思ってないし……正直よくわかりません」
美佐に言われ、自分に恋人がいない理由を考えて見ると、特にこれといった理由はないように思えた。
自分のような人間は他にはいるはずだ、オレだけが特別ではない。
巧は頭の中で整理すると、美佐にそう伝えた。

「ほほ~」
ニヤリと口元を緩めると、美佐は通りがかった店員にいくつか料理を注文した。
「居酒屋の刺身ってボッタクリよね~、こんなんで600円とか取るんだもん」
左手の親指と人差し指で輪っかを作り、刺身の量を表現している美佐を見て、巧はある事に気付いた。

おそらく、この人のリアクションがいちいち大きいのはワザと……いや、無意識だろうけど、天然の物じゃない。
オレにも経験があるから理解できる。
自分の話や仕草で、相手の性格や接し方、心理状態を図っているんだ。

なぜか、人間が怖いから。
怖くて恐ろしくて。
でも、一人で生きて行くのは寂しいから、境界線を乗り越えないように調査する。
相手の、キャパシティから自分が溢れないように。

自分と玉置美佐は違う人種。
今まで、そう弁別していた巧はなぜだか、少しだけ微笑ましい気持ちになった。

「そんでね、さっきの話だけど、確かに君はモテなさそうなオーラが出てる。シュワシュワ~って」
湯気を表現しているつもりなのか、美佐は人を小馬鹿にしたような顔で、ジェスチャーをした。

「そんなにモテないわけでもないですよ。ただ『付き合いたい』と思える人と出会っていないだけです」
美佐が自分と同人種、巧はそう考えるとなぜか今までより強気に、ハッキリと喋る事ができた。
おそらく、自分と目の前にいる人間が同価値だと思えたからだった。
よくニュースで見る、小さい子供や老人ばかりを狙った犯罪は、おそらく自分より弱いと確信しているからこそ、
ああいった凶行に走る事ができるのだろう、と巧は思った。
はっきり言ってテレビ越しに聞いていても、虫唾が走る。
ただ、そういった犯罪者達と自分は、さほど変わりない精神を持っているのかもしれなかった。

「ほう? どうでもいい女は寄ってくるけど、目当ての人には振り向いてもらえない感じ?」
「そんなところです」
「あ~あるねぇ! でもね、それって世の中が正常に回っているって事なんだよ?
男と女なんて、結局同レベルの人間同士がくっつくんだから」

「あなたは、オレにケンカ売ってるんですか?」
「うん! この前のお返し」
「そんなに明るく言われても」
「でもね、けっこうスッキリしたから。もういいや。これで水に流してあげる」

美佐は心底スッキリした顔を見せた。

427:『きっと、壊れてる』第9話(3/9)
10/10/21 21:42:17 v8AocJEJ
「そうですか。じゃあ用も済んだ事ですし、オレはこれで」
美佐を覆う霧が、少しだけ晴れたからと言って、敵と慣れ合うほど巧はお人好しではなかった。
黒髪の美女から預かっている、封筒。
十中八九、あの中には美佐の気分を揺さぶる何かが入っているはずだった。
自分が美佐に、また悪意を届ける事になる事を思うと、巧は少しだけ心が痛んだ。

「ちょっとちょっと! まだこれからが本番なのに!」
席を立ち上がった巧の服を、テーブルを挟んだ向かい側から掴んだ美佐は、焦った様な顔をしていた。

「ちょっと! 引っ張らないでくださいよ!! 服が伸びる! わっ、わかりました!! 帰りませんから離してください!!」
どうやら、美佐は巧に報復をする事が目的で誘ってわけではなさそうだ。
しかし、赤の他人である自分に他に何の用があるのか、巧は不思議だった。

「なんです? 仕事の愚痴とか言われてもオレにはわかりませんよ?」

「そんなもん、同僚にすればいいだけの話じゃん。今日はね、恋愛の愚痴」

やはりこの女は異常だ。
恋愛の邪魔をしている男に恋愛の愚痴をこぼしてどうする。

「……やっぱり帰ります」
「なんでよっ! せっかくだから聞きなさいよ! ビール飲んだでしょ!」
「あっ! ちょ、本当に! 伸びる! 服が伸びる!! わかりましたよ!!」
「……ったく、最近の若い子は礼儀を知らないわね」

強引に巧を席に戻すと、美佐はいつの間にか取り出していた煙草に火を付け、気だるそうに煙を吐いた。
お前だけには言われたくない、と言いたかったが、話が進まないので巧は流す事にした。

「……煙草、吸うんですね。医療系の人ってみんな吸わないのかと思ってました」

「たまにね。嫌な事あった時だけ。……あぁ、別に君は関係ないから気にしないでも大丈夫」
「そうですか。で、その恋の愚痴とやらは友達にでも話した方がいいんじゃないですか?」

「それがさぁ! こういう時、女は面倒でね~。女の友達って、急な誘いだと断る奴多いのよ。
自分がヒマ人だと思われるのが嫌みたい。くだらないプライドよね~」
美佐はヤレヤレといった表情で、右手に持った煙草を灰皿に置き、枝豆の実を取り出して口の中に入れた。

「あなたの人望がないだけじゃないですか?」
「おっ!? 言う様になったね~青年。……そうかもね、私少し変わってるらしいし」
「……すいません」

美佐をからかう目的で軽口を叩いたつもりだったが、予想しなかった寂しそうな微笑みに、巧は戸惑いを隠せなかった。
まだ2回しか会っていない人物だが、こういう負の感情を露わにする事はないと思っていた。
「いいよ……でね! 仕方ないから一人で立ち飲み屋でも行くかな~っと思ってたら、丁度いい生贄を見つけたってわけさぁ!」

「生贄……ですか、まぁいいですよ。どうせヒマですし、聞きます」
人の心は不思議な物だ、と巧は思った。
ついさっきまで、帰りたくて仕方なかったのにも拘わらず、今は玉置美佐の話を聞いてみてもいいか、という気分になっていた。
玉置美佐が少しだけ見せた弱さに共感したからだろうか。よくわからなかった。
ただ、恋の話なら『村上浩介』についての情報も得られる事が出来るはず。
『村上浩介』と黒髪の美女との関係、彼女が自分を使って嫌がらせをしている理由。
真実に近付ける絶好のチャンスだった。

「おっ!! 良い子だね~!? デザート食べる? 私は今一つ食べて、最後の方にもう一回食べるけど」
「いえ、それよりも腹が減っていて。肉系の物頼んでいいですか?」
巧がそう言うと、美佐は少しだけ驚いた表情をして、母親のような笑顔で頷いた。

428:『きっと、壊れてる』第9話(4/9)
10/10/21 21:42:51 v8AocJEJ
「おい少年!! 聞いてるの!! クソッ! 寝てんじゃねーよ!!」
「少年って歳でもないし……寝てませんよぉ……あんまり頭揺らさないで……」

2時間後、酒に弱い巧はテーブルに頭を突っ伏し、うな垂れていた。
自分を揺すり、お構いなしに喋り続ける美佐に、情けない声で返事をする事が仕事になっていた。

「普通さぁ!! 復縁してまもない彼女を置いて、女と旅行とか行く!? 私には日程決めた後の事後報告で!!」
思考が半分停止しているので、情報はツギハギだが、要するに『村上浩介』が今現在、女性と旅行に行っているらしい。

「はははっそりゃアレっすね、浮気性ってやつっすね」
5分前後の休憩で、少しだけ気分が良くなった巧は顔を上げ、美佐を顔を見た。
酒に強いのか、美佐は顔つきもしっかりしており、あまり酔ってもいなさそうだ。

「はぁん!? 浮気とは限らないじゃない! 私の男、馬鹿にしてんの!?」
同調してほしいのかと思い賛同した巧だったが、もう何も言わずに聞き役だけに徹しようと思った。

「でも、女と旅行なら十中八九浮気なのでは?」
「……事情が少し複雑でね。そうね一番近い表現だと……もう関係は切れている『元彼女』と旅行に行ってる感じ」

「全然わかんないですよ。今の彼女置いて、なんでモトカノと旅行に行くんですか」
黒髪の美女は、『村上浩介』の元彼女という事だろうか。
もしそうならば、玉置美佐に嫌がらせをしている事について、納得まではいかないが理解はできる。
だが、それだと『村上浩介』の行動がよくわからない。
黒髪の美女と旅行に行きたいならば、行けば良い。ただ、なぜ現彼女である玉置美佐に、馬鹿正直に報告する必要があるのか。

考えても、答えは出なかった。
ただ、巧が一つだけ確信した事は、村上浩介は包容力のある男性、という事だった。
巧が突っ伏している間、美佐は延々と一人で喋り続けた。
お酒が入っているからか、それも一般人と少しだけずれた感覚の話。
『個性的』よりも、『変人』という表現の方が適切なその演説は、巧が途中疲れて反応を示さなかった間も続けられていた。

オレにはこんな女無理だ……。
巧は心から『村上浩介』に敬意を表した。

「うるさいわねぇ、それで納得しなさいな。とにかく!! 帰ってきたらたっぷりと説教してやる。慰謝料付きでね!!」
「それでフラれたりしたら、おもしろいですね、ハハハッ」
「何がおもしれーんだよ? おらぁ!!!」
「ちょっと! 頭振らないで! 本当にマズい! アーーーー!! 本当に……ウプッ」

トイレに駆け込む巧を見た美佐は、少しだけ落ち着きを取り戻し、
先程注文した抹茶パフェを口に入れ、これからの事を考えていた。

ていうか……まったく興味はないけど、異性と二人で飲みに来るのはマズかったかな。
ボカしてあるとはいえ、浩介達の事喋っちゃたし……。
後で、もう一回頭振っておくか。

でも浩介も浩介だ。
妹でも茜ちゃんはモトカノみたいなもんでしょうが。
それに加えて、楓とかいう小娘……じゃなかった、新しい妹……って言い方もおかしいか。
とりあえず、得体が知れないからUMAでいいや。

もし、茜ちゃんが浩介を取り戻そうとして、UMAを自在に使える立場にあったとしたら。
あぁ、考えてみれば……今トイレでマーライオンになってる子の雇い主もいるのか。
さらに、可能性は極小だけど『4年前の怪文書の犯人』すら別人で、
私と浩介が復縁した事を知っていたとしたら……最悪の場合、4対1。
さすがに、うっとおしいなぁ。
これは先手を打っておいたほうがいいかも。
こんな所で油売ってる場合じゃなかったわ~。

美佐は自分に気合を入れる様に力強く頷くと、店員の呼び出しボタンを押し、会計を済ました。

429:『きっと、壊れてる』第9話(5/9)
10/10/21 21:43:25 v8AocJEJ
コンッコンッ

「う……スイマセン、もうちょっと待って下さい」
男子トイレの便器にしがみつき、胃の中から逆流してくる物を必死に吐き出そうとしていた巧は、
擦れるような声を出した。

「マーライオン君、私。大丈夫?」
「!? ちょっとここ男子トイ……げほぉ!」
「お~盛大だねぇ、きっと綺麗な虹が掛かるよ。悪いけど、急用が出来たから私帰るね。話、聞いてくれてありがとう」
「別に……不本意ですけどオレも良い気分転換に……ゴホッ! ゴホッ!」
「ハハハッ、会計はしておいたから、気を付けて帰るのよ? じゃね~」

軽やかな口調で別れを告げ、美佐は出て行った。
バタンとトイレの入口ドアが閉まる音がして、遠くから聞こえる喧騒と巧の息遣いしか聞こえない状況に戻った。
こんな状態でどうやって、気を付けて帰るんだよ、と巧は思ったが、なぜか怒りの感情は湧き上がってこなかった。

玉置美佐は掴み所がない。
ただ、黒髪の美女とは違い、対等な対場で巧と接してくれているような気がした。
自分と同じ位置に立ち、同じ目線でぶつかってきてくれる、それが例えノーガードの毒舌だったとしても。
それが巧にとっては嬉しかった。

居酒屋を出て、駅で言うと3つ離れた自宅のある街まで、夜道を歩く。
頬に当たって酒で溜まった熱を冷ましてくれる風が、心地良い。

『村上浩介』という男。

年齢は玉置美佐と同じ25歳。
玉置美佐とは4年前も交際していた。
現在、旅行に行っている。

ハッキリ言って、何の役にも立たない情報だった。
おそらく玉置美佐が、情報統制していたのだろう。

本当に可笑しな女だ。

巧は、居酒屋での美佐との会話を思い出していると、自然に笑みがこぼれた。
久しぶりに『会話』をして、体の中にある溜まっていた物を吐きだしたからなのか、
巧は自分の身体が、少し透明になった気がした。


…………北海道富良野、午後1時。

浩介達は青空のもと、紫色に輝く大地を目の前にしていた。
日本一のラベンダー畑は、言葉を失うほど美しく、デジタルカメラを構えるのも忘れ、3人は美景を瞼に焼きつけていた。

空は快晴。
遠方には山が連なっていて、青く光っているように見える。
視線を下ろすと、サッカーコートが3つ入るぐらいの敷地に、縦20メートル程の列が横に50列程。
柵で囲まれているそれを1ブロックとし、全体では10ブロックの花畑がその色彩を披露していた。

「すごい……本当に綺麗……」
口元を両手で押さえた楓は、まさに感無量といった目を花畑に向けている。

「兄さん、ラベンダーではないけど、あっちも綺麗よ」
茜に言われ、顔の向きを90度右へ向けると、赤、黄、白、オレンジなどの色とりどりの、画が浩介の前に広がった。

「綺麗だな」
その言葉以外に適した言葉はなかった。
「本当に自分が住んでいる場所と同じ国なのか」と疑いたくなるほど、浩介は花が放つ甘美な香りに酔いしれていた。

430:『きっと、壊れてる』第9話(6/9)
10/10/21 21:43:51 v8AocJEJ
「そうね、でもね花畑は勝手に出来上がるわけじゃないわ。除草したり、刈り取りをしたり、
管理者たちの努力があってこそ、この美しさがあるのよね」
「そうだな。すごいよ。俺も定年したらやろうかな」
「フフッ、ぶきっちょな兄さんじゃ、花ごと刈ってしまいそうね」

茜はラベンダーに負けないくらいの可憐な微笑みを見せると、ゆっくりと歩き始めた。

浩介は昨夜の事を思い出した。
茜の目。一人の女としての瞳。
本人に聞くべきなのか、浩介は迷っていた。
仮に聞くとしても、なんと言えばよいのか。

「まだ俺の事を愛し続けるつもりか?」とでも言うのか。

浩介は、自分の対応力のなさにほとほと呆れ果て、『とりあえず茜の様子見』という結論を出さざるを得なかった。

いつの間にか、花畑を挟んで向かい側まで歩いていた茜の姿を目で追いかけていた。

柵に囲まれた花畑を、眩しそうに見つめる茜の横顔が印象的で、周りにいる他の観光客など浩介の目には入らなかった。
ラベンダー畑と茜。
その情景は、どんな名画よりも浩介の心に世界の美しさを印象付けた。

…………。
……。

「きゃ~! 超かわい~!!」
花畑を満喫した浩介達は、ファームの入口近くにある土産屋に立ち寄っていた。
材木で立てた小屋のような建物から、素朴さが滲み出ていて雰囲気の良い店舗だ。

楓は、ラベンダーで作られたらしい透明石けんを手に取ると、甘えるような顔で浩介を見た。
言葉を発さなくても楓の言いたい事はわかる。
こういう時、喜怒哀楽がはっきりしていると便利なものだ、と浩介は思った。

「いいよ、買ってやる」

「やった! でもね、ボディソープも欲しいから、やっぱり入浴セット一式が良い! お願い! おにいちゃ~ん!」

最初からそれが目的だったのか、楓は上の棚に陳列されていた石鹸、ボディソープ、ハンドソープなどがセットになった商品を指差した。
安い物で許可を取り、後付けで本来の目的を果たそうとする行動は、倫理上あまり好ましくないと浩介は思ったが、
腕を取り、さらに甘える声で纏わりつく楓に、頷く事しかできなかった。
ただでさえ、美人の女性二人を連れて歩く浩介は目立っていたからだ。
おそらく浩介が恥ずかしがり、ヤケになるのを計算した上でのオネダリだった。

「兄さん、私はこれ」

振り返ると、それまで一人黙って何かを熱心に見ていた茜が後ろに立っていた。
手に持ったぬいぐるみのような物を浩介の胸の前に突き出すと、茜は「よろしくね」と言わんばかりに頷いた。

受け取った物を見る。
『ラベンダー色』とでも言うのか、薄い紫の体色をした小さい熊のぬいぐるみだった。
雌なのだろうか、頭に付けられた一房のラベンダーの装飾が、間抜けな顔をより一層引き立てる。

「……これ? ……これが欲しいのか?」
「うわぁ……お姉ちゃんの趣味、相変わらず」

そんな浩介達の文句にも顔色一つ変えず、茜は黙ったまま目で浩介の答えを待った。

431:『きっと、壊れてる』第9話(7/9)
10/10/21 21:44:27 v8AocJEJ
『熊嵐』読んだ後でよく熊のぬいぐるみ買う気になるな。
俺が楓のワガママを断れないと察して、便乗しただろう?

言いたい事は山ほどあったが、茜の真剣な表情に押され、結局浩介は妹達の甘えを受け入れた。

後になって気付いた事だが、茜がせがんだ熊のぬいぐるみは、値段が比較的手頃だった。
おそらく浩介のお財布状況を知っていたのだろう。

浩介は、人に気付かれない、偽善的ではない優しさを持った茜が、とても誇らしかった。

それでも。茜が物を強請るなんて、いつ以来か。
浩介は温かい気持ちが胸から溢れそうだった。

札幌のホテルの一室。
街から少しだけ離れたこの宿の外は、散歩するのにも注意が必要なほど完全なる闇だった。
時計の針は深夜の2時を指し、大勢の人間が一つ屋根の下に宿泊しているのにも拘わらず、
辺りは何の音もしない。

近頃、真夜中に急に目が覚める事が多い。
先日受けた健康診断では、特に異常は見当たらなかったので、体の問題ではなさそうだ。
浩介はベランダ側のベッドの中で「フゥ」と溜め息をつくと、何の変哲もない天井を見つめていた。

明日には東京へ帰る。
そして1週間もしない内に、また日々の生活に戻るかと思うと、
このまま瞼を閉じて、すぐに二度寝してしまうのはもったいないような気がした。

少しだけ顔を横に向けると、入口に一番近いベッドに茜の後ろ姿が見えた。
こちらに背を向け、規則正しく肩が上下している。
思えば、ついこの間まで一緒に寝ていた相手だ。
浩介は恥ずかしくり、そして罪悪感が湧いた。
すぐに目線を自分と茜の間で眠っている楓に向けると、浩介は思わず仰け反りそうになった。

妖しい目。

普段とは何かが違う楓の瞳がこちらを凝視していた。
シーツに包まり、浩介の方を向いて寝そべっている。
いつから起きていたのか、浩介と目が合うと楓はクスリと笑い、小声で声を掛けてきた。

「こんな時間にどうしたの? 眠れないの?」

「驚かすなよ。心臓止まるかと思った」
昼間とは違い、全て下している楓の黒く長い髪は、
日本人形を思わせ、暗闇の中では美しくも不気味な何かのように思えた。

「俺はさっき急に目が覚めたんだ」
「ん? 聞こえないよ」
「さっき、目が覚めたんだ」
「あぁ、『さっき目が覚めた』ね。……ねぇお兄ちゃん、そっち行ってもいい?」
楓は浩介の返事を待たず、自分にかかっていたシーツを剥がすと、
小動物のように素早く浩介のベッドの中に潜り込んできた。

「おっ、おい! 何やってんだ!」
「ヘヘヘッ久しぶりだね、お兄ちゃんとこうやって話すの。温いなぁ」
楓の顔が目の前にある。
こうしてマジマジと見ると、普段は細か過ぎて気付かない茜の顔との違いを発見する事が出来る。

「いいから、戻れ。もう子供じゃないんだから」

432:『きっと、壊れてる』第9話(8/9)
10/10/21 21:44:56 v8AocJEJ
浩介はそう言いながらも、多分素直には従わないだろう、と思った。
楓の行動には振り回されてばかりだからか、ある種あきらめのような気持ちもある事は事実だ。

「少しだけ。眠くなったら、戻るから」

その内飽きて、自分のベッドへと帰るだろう。
浩介はそう思い、もう肯定も否定もしなかった。
吐息がかかるほど楓の顔が近くにあった。
それに、子供時代とは決定的に違う場所、白い胸元が少しだけはだけた浴衣から、垣間見えた。
目のやり場に困った浩介は、顔を再び先ほど眺めていた天井に向けた。

「久しぶりだね、お兄ちゃんとこうやってお話しするの」
浩介の方を向いたまま、楓は身を擦り寄せた。

昔、楓が夜に怖い夢を見ると、浩介の部屋まで駆けて来て、ベッドに潜り込む事があったのを思い出した。
同じ部屋に茜が居るじゃないか、と浩介が聞くと、「おねーちゃんは女の子だからオバケを退治できない」と真剣な表情で、
言い張っていたのを憶えている。
そうやって、浩介は半泣きになりながらも部屋まで駆けてくる楓を、自分のベッドへと迎え入れ一緒に寝ていたのだ。

当時の事を思い出し、浩介は苦笑いを浮かべた。
そしてチラリと目を配り、茜の定期的に上下している肩を確認した後、胸をなでおろした。

「ありがとね、お兄ちゃん」

先程から浩介がまったく返事をしていないのにも拘わらず、楓は一人ボソリと呟いた。
そして楓はシーツの上位置を上げると、浩介と楓の頭を覆うように被せ、密閉した空間を作った。
浩介の視界には真っ白なシーツが広がり、横を見ればシーツの白以外は、楓の顔しかない状態になった。

秘密基地のように、境界を張った空間。
おそらく、多少声のボリュームを上げても外に漏れないからだろう。
茜への配慮だ。

「満足したなら、自分のベッドへ帰ろうな」
「あははっ、違うよ。この旅行の事」
「楽しかったか?いや、まだ後1日あるけどな」
「うん、もちろん楽しかったよ。お姉ちゃんもすごくハシャいでいたみたい。本当に来れて良かった」

確かに茜は近年稀に見る上機嫌だったように思う。
昨夜の事だけは気がかりだが、全体として見ればやはりこの旅行は正解だった。

「また、その内連れて行ってやるよ。今度は函館行こうな」

優しい目をして、そう語りかける浩介の声に楓はゆっくりと頷いた。
しかし、次に楓の口から出た言葉は、浩介の予想に反したものだった。

「ありがとうお兄ちゃん……でもね、もう終わりなんだ」

「終わり? 何が?」
「こうして兄妹3人、昔のままの関係で、昔のように仲良くするのが」
楓の瞳は真実を語るものだった。

「え? なんでだ? まさか結婚でもするのか!?」
「相手は誰だ!」と、続けて言おうとした浩介は楓の様子がおかしい事に気付き、軽口を叩くのをやめた。
浩介は冗談で言ったつもりだったが、楓は少しだけ微笑んだだけで、すぐに真剣な表情に戻っていたからだ。

「ううん、違う。でも……もう実家へ帰れなくなるって所は同じかな」
「はぁ? 意味がわからない。楓、ちゃんと説明してくれよ」
話をぼやかす楓に少しだけ焦れた浩介は、問い詰める様に楓の目を見た。


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